説明

感光性組成物、光学部材、光電変換素子および光電変換素子の製造方法

【課題】成形が容易で、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた光学部材を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】本発明にかかる光電変換素子は、受発光素子上に、金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、を含む、感光性組成物の硬化膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性組成物、光学部材、光電変換素子および光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子等の封止材料、光学素子の光導波路およびレンズ等の光学部材、および反射防止膜等の光機能膜などの分野において、高い屈折率を有し、かつ、精密な成形を容易に行うことができる材料が求められている。
【0003】
例えば、従来、発光ダイオード等の発光素子を保護する目的や、該発光素子が発する光の色を変更する目的を有する封止材などは、エポキシ樹脂で形成されることが一般的であった(特許文献1および特許文献2参照)。エポキシ樹脂は、他の樹脂に比較して屈折率が高く、例えば、発光素子からの光の取り出し効率が良くなることが知られている。
【0004】
しかし、エポキシ樹脂は、発光素子から発せられる光により黄変することや、発光素子の発熱により熱劣化することがあり化学的な安定性が不足している。また、最近の光学系の部材では、より高い屈折率が要求されるようになってきており、エポキシ樹脂単独では、その要求に応えることが難しくなってきている。
【0005】
エポキシ樹脂に替わる材質としては、シリコーン樹脂が検討されている。例えば、特許文献3および特許文献4には、ケイ素原子に結合したアルケニル基を有するシリコーンレジンとSi−H結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを含有するシリコーン樹脂組成物が開示されている。シリコーン樹脂は、光による黄変が発生しにくく、耐熱性を有するが、未だ屈折率は必ずしも高くない。
【0006】
一方、光学部材の屈折率を高める方法の一つとしては、反射防止膜等の光機能膜において、膜を構成する樹脂に高屈折率の物質を配合することが検討されている。このような高屈折率の物質としては、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物の微粒子がある。例えば、特許文献5には、金属酸化物微粒子とシリコーン化合物の硬化物からなる高屈折率層が開示されている。また、特許文献6には、無機微粒子と、ビニル基含有ポリシロキサンと、熱硬化性樹脂とからなるバインダーを用いた高屈折率層が開示されている。
【0007】
光機能膜に用いられる組成物は、シリコーン系の樹脂を配合しているため、化学的安定性が高まっていると考えられるが、金属微粒子を配合していても未だ屈折率は高々1.6程度と十分に高いとはいえない。しかも、重合において加熱や触媒が必要であり、さらに重合時に精密な型が必要となったり重合後に所望の形状に加工する必要が生じるなどして成形性の点でも不十分であった。近年の光学部材の成形においては、例えば、レジストのようにパターニングできる程度の成形の容易さが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−281868号公報
【特許文献2】特開2004−339319号公報
【特許文献3】特開2004−186168号公報
【特許文献4】特開2004−221308号公報
【特許文献5】特開2004−117704号公報
【特許文献6】特開2003−240906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光学部材の成形性を向上させる方法の一つとしては、光硬化型の樹脂を用いることが考えられる。そして、このような樹脂として化学的安定性の高いものを選び、高屈折率の微粒子を該部材にできるだけ多く配合することで、屈折率が高く、化学的安定性および成形性に優れた光学部材が得られるものと考えられる。
【0010】
ところが、光硬化型の樹脂に微粒子を大量に配合すると、光硬化型の樹脂を硬化させることが困難となる場合があった。例えば、紫外線硬化型の樹脂に、高屈折率の微粒子として二酸化チタンの粒子を大量に配合すると、該粒子は紫外線領域に吸収を持つため、樹脂が紫外線によって十分に硬化されず、成形しようとする光学部材が変形したり、基材から脱落したりすることがあった。
【0011】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、成形が容易で、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた光学部材を有する光電変換素子、およびその製造方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、成形が容易で、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた感光性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0013】
[適用例1]
本発明にかかる光電変換素子の一態様は、
受発光素子上に、
金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、
分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、
を含む、感光性組成物の硬化膜を有する。
【0014】
本適用例の光電変換素子は、アルカリ現像が容易で、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた硬化膜(光学部材)を有する。そのため、本適用例の光電変換素子は、屈折率が高く、化学的安定性および成形性に優れる。
【0015】
[適用例2]
本発明にかかる光電変換素子の製造方法の一態様は、
受発光素子上に、
金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、
分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、
を含む感光性組成物を塗布し、露光処理およびアルカリ現像液で現像処理を行う。
【0016】
本適用例の光電変換素子の製造方法は、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた硬化膜(光学部材)を、露光およびアルカリ現像液による現像によって行う。そのため、本適用例の光電変換素子の製造方法によれば、屈折率が高く、化学的安定性の良好な硬化膜を有する光電変換素子を、容易に製造することができる。
【0017】
[適用例3]
本発明にかかる感光性組成物の一態様は、
アルカリ現像液によって現像されるネガ型の感光性組成物であって、
金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、
分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、
有機溶剤と、
を含む。
【0018】
本適用例の感光性組成物は、重合性化合物、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤およびアルカリ可溶性重合体を含むとともに無機粒子を含む。本適用例の感光性組成物は、少なくともアルカリ可溶性重合体を含むため、アルカリ現像性が良好であり、光によるパターニングが容易で成形性に優れている。また、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤を含むため、無機粒子を含んでいても、光が照射されることによって、十分に硬化することができる。さらに、金属酸化物を主成分とする無機粒子を含むため、硬化後に高い屈折率を有する硬化体となることができる。そして、硬化後の硬化体は、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物が架橋した構造を有するため、化学的に安定であり変形や変質等を起こしにくい。
【0019】
[適用例4]
適用例3において、
前記無機粒子は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、タングステン、セリウム、インジウムおよびスズから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を主成分とすることができる。
【0020】
本適用例の感光性組成物は、適用例3の感光性組成物の特徴に加え、さらに、硬化後の硬化体における屈折率および透明性が高い。
【0021】
[適用例5]
適用例4において、
前記無機粒子は、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンを含み、数平均粒子径が、1nm以上100nm以下であることができる。
【0022】
本適用例の感光性組成物は、適用例4の感光性組成物の特徴に加え、さらに、硬化後の硬化体における屈折率および透明性が高い。
【0023】
[適用例6]
適用例3ないし適用例5のいずれか一例において、
前記無機粒子の配合量は、前記有機溶剤を除いた全成分に対して、50質量%以上90質量%以下であることができる。
【0024】
本適用例の感光性組成物は、上記適用例の感光性組成物の特徴に加え、さらに、硬化後の硬化体における屈折率が高い。
【0025】
[適用例7]
適用例3ないし適用例6のいずれか一例において、
前記アルカリ可溶性重合体の重量平均分子量は、1000以上50000以下であることができる。
【0026】
本適用例の感光性組成物は、上記適用例の感光性組成物の特徴に加え、さらに、パターニングにおけるアルカリ現像性が良好である。
【0027】
[適用例8]
適用例3ないし適用例7のいずれか一例において、
界面活性剤をさらに含むことができる。
【0028】
本適用例の感光性組成物は、上記適用例の感光性組成物の特徴に加え、さらに、パターニングするための感光膜を形成しやすい。
【0029】
[適用例9]
適用例3ないし適用例8のいずれか一例において、
重合禁止剤をさらに含むことができる。
【0030】
本適用例の感光性組成物は、上記適用例の感光性組成物の特徴に加え、さらに、パターニングの際の形状精度が高い。
【0031】
[適用例10]
本発明にかかる光学部材の一態様は、
適用例3ないし適用例9のいずれか一例に記載の感光性組成物を用いて塗膜を成形し、前記塗膜を露光処理およびアルカリ現像処理して形成されたものである。
【0032】
本適用例の光学部材は、上記適用例の感光性組成物を用いて形成されるため、高い屈折率を有し、化学的に安定であり変形や変質等を起こしにくい。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる感光性組成物は、アルカリ現像性が良好であり、光によるパターニングが容易で成形性に優れている。また、本発明にかかる感光性組成物は、光の照射によって十分に硬化することができる。さらに、本発明にかかる感光性組成物は、硬化後に高い屈折率を有する硬化体となることができる。また、本発明にかかる感光性組成物を硬化した光学部材は、化学的に安定であり変形や変質等を起こしにくい。このような光学部材は、光電変換素子に適用することができ、本発明にかかる光電変換素子は、屈折率が高く、化学的安定性および成形性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1のパターニングされた硬化体を光学顕微鏡観察した結果。
【図2】比較例1のパターニングされた硬化体を光学顕微鏡観察した結果。
【図3】比較例2のパターニングされた硬化体を光学顕微鏡観察した結果。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0036】
本実施形態にかかる感光性組成物は、アルカリ現像液によって現像されるネガ型の感光性組成物であって、無機粒子と、重合性化合物と、アルカリ可溶性重合体と、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、有機溶剤と、を含む。
【0037】
1.無機粒子
本実施形態の感光性組成物は、金属酸化物を主成分とする無機粒子を含む。無機粒子の機能の一つとしては、感光性組成物が硬化された場合に、硬化された感光性組成物(以下、これを硬化体ということがある。)の屈折率を高くすることが挙げられる。
【0038】
本実施形態の無機粒子の主成分となる金属酸化物としては、屈折率が2以上である金属酸化物、例えば、酸化チタン(屈折率2.2〜2.7)、酸化ジルコニウム(屈折率2.1)、酸化ハフニウム(屈折率2.0)、酸化ニオブ(屈折率2.1〜2.3)、酸化タンタル(屈折率2.0〜2.3)、酸化タングステン(屈折率2.2)、酸化セリウム(屈折率2.2)、酸化インジウム(屈折率2.0)、および酸化スズ(屈折率2.0)などを挙げることができる。これらの金属酸化物は、二種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
本実施形態の無機粒子の主成分である金属酸化物は、屈折率の高いものが好ましく、また、微粒子化(製造)が比較的容易なものとして、上記例示したもののうち、周期律表第4族の元素の酸化物、すなわち、酸化チタン、酸化ジルコニウム、および酸化ハフニウムが好ましい。さらに、これらのうち本実施形態の無機粒子の主成分である金属酸化物として、特に好ましくは、特に屈折率が大きく、市販品の種類が多いために、入手がしやすいという点で酸化チタンが挙げられる。
【0040】
無機粒子が酸化チタンを主成分として形成される場合は、アナターゼ型の結晶構造有する二酸化チタンを含むことがさらに好ましい。このような無機粒子は、高い屈折率と、感光性組成物中において分散性をより良好にすることができるため、例えば、無機粒子の感光性組成物に対する含有量を低減することができ、また例えば、硬化体の屈折率を効率的に高めることができる。
【0041】
なお、金属酸化物の金属元素の価数は、化学量論の価数であってもよく、また、化学量論の価数からずれていてもよい。例えば、本明細書では、酸化チタンという表現は、二酸化チタン(TiO)を指すだけでなく、TiOx(xは2の近傍の値)のことを包含している。また、本明細書では、酸化チタンという表現は、酸化チタンの水和物も含む。
【0042】
また、本明細書において、屈折率とは、波長633nm、23℃で測定した屈折率のことを指すものとする。なお、本明細書において「高屈折率」とは、1.8以上の屈折率のことを指す。
【0043】
本実施形態の無機粒子は、上記金属酸化物が主成分として構成される範囲で、例えば表面修飾などが施されていてもよい。表面修飾としては、例えば、酸化ケイ素による被覆や、各種の有機化合物による被覆が挙げられる。このような表面修飾は、例えば、感光性組成物中における無機粒子の分散性の向上などを目的として行われることができる。
【0044】
本実施形態の無機粒子の大きさは、数平均粒子径として、1nm以上100nm以下であることが好ましい。無機粒子の数平均粒子径が100nm以下であると、感光性組成物の硬化体における屈折率を高めるとともに、透明性を高めることができる。また、無機粒子の数平均粒子径が1nm未満になると、量子的な効果が発現する場合があるため、硬化体を形成した場合の特性に影響を及ぼす場合がある。また、無機粒子のさらに好ましい大きさは、数平均粒子径において5nm以上50nm以下の範囲である。
【0045】
無機粒子の数平均粒子径は、例えば、粒度分布計による粒径頻度分布から測定することができる。例えば、粒度分布計による方法では、無機粒子が分散されている溶液を、レーザ回折法や散乱法を用いて測定して、粒径頻度分布を求めることができる。そして、「数平均粒子径として1nm以上100nm以下である」とは、粒径頻度分布において、累積頻度が50%となる中心粒径(体積基準のメジアン径:d50)が1nm以上100nm以下の範囲にあることを意味する。
【0046】
また、無機粒子の数平均粒子径は、電子顕微鏡を用いた観察によって求めることもできる。この方法では、無機粒子を、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡によって撮影し、撮影された粒子の粒径を計測する。そして、それらの粒径の単純平均(数平均)、すなわち[計測した粒子径の合計]/[計測した粒子数]の値を、数平均粒子径とする。この際200個程度以上の無機粒子を計測して平均粒径を求めることが好ましい。
【0047】
無機粒子の形状は、特に限定されないが、例えば、球状、回転楕円体状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、不定形状であってよく、好ましくは、球状である。これらいずれの形状であっても上述の方法によって数平均粒子径を測定することができる。
【0048】
無機粒子としては、例えば、酸化チタン粒子(例えば、シーアイ化成株式会社から商品名「Nanotek」として入手可能)を、ボールミル等の装置によって粉砕または分散させて、粉体または分散体として製造することができる。また、無機粒子は、分散体として調達することができる。無機粒子として用いることができる粒子の市販品の例としては、例えば、酸化ケイ素被覆アナターゼ型酸化チタン−メタノール分散ゾル(触媒化成工業株式会社製、オプトレイクシリーズ)、酸化ケイ素被覆−酸化スズ含有ルチル型酸化チタン−メタノール分散ゾル(テイカ株式会社製、TSシリーズ)、酸化ジルコニウム−メチルエチルケトン分散ゾル(住友大阪セメント株式会社製、HXU−120JC)、nSol−101−20PM(米国NanaoGram社製)等が挙げられる。
【0049】
本実施形態の感光性組成物における無機粒子の含有量は、感光性組成物に対して、50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。また、有機溶剤を除く成分の全量に対して50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。無機粒子の含有量が前記範囲を外れると、感光性組成物の光による硬化が不十分となったり、硬化体の屈折率が不足したりする場合がある。
【0050】
本実施形態の感光性組成物は、上述の無機粒子を含む、そのため、感光性組成物が硬化された硬化体は、屈折率が高く、良好な透明性を有することができる。ここで、硬化体の透明性とは、赤外線、近赤外線、可視光線、紫外線等の電磁波を透過する性質のことを指し、例えば、目視により評価され、定量的には、分光光度計などによって測定されることができる。
【0051】
2.重合性化合物
本実施形態の感光性組成物は、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物を含む。重合性化合物の機能の一つとしては、感光性組成物に光が照射された際に、重合して高分子量化することや架橋構造を形成することが挙げられる。これにより、感光性組成物全体を硬化させることができる。なお、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基またはメタアクリロイル基のことを指し、「分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する」とは、該分子内に存在するアクリロイル基およびメタアクリロイル基の合計が2以上である(アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかが存在しなくてもよい)ことを指す。
【0052】
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、以下のものを例示することができる。
【0053】
分子内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フルオレンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエトキシジ(メタ)アクリレート、オリゴプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
分子内に3つの(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ((メタ)アクリロイルオキシプロピル)エーテル、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性ジメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート等が挙げられる。
【0055】
分子内に4つの(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
分子内に5つの(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
分子内に6つの(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、フォスファゼンのアルキレンオキサイド変性ヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
本実施形態の重合性化合物は、さらに7つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であってもよい。また、本実施形態の重合性化合物は、上記重合性化合物のうち、水酸基を有する(メタ)アクリレート類、およびこれらの水酸基へのエチレンオキシドまたはプロピレンオキシド付加物のポリ(メタ)アクリレート類であってもよい。さらに、本実施形態の重合性化合物としては、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば、オリゴエステル(メタ)アクリレート類、オリゴエーテル(メタ)アクリレート類、およびオリゴエポキシ(メタ)アクリレート類等を用いることができる。
【0059】
本実施形態の重合性化合物としては、これらの中では、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、フルオレンジ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート(デンドリマー(メタ)アクリレート)が、重合性に優れる点でより好ましい。
【0060】
以上例示した重合性化合物の市販品としては、例えば、東亞合成株式会社製アロニックスM−400、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、日本化薬株式会社製KAYARAD D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA、共栄社化学株式会社製ライトアクリレート PE−4A、DPE−6A、DTMP−4A、大阪有機化学工業株式会社製ビスコート#802;トリペンタエリスリトールオクタアクリレートおよびトリペンタエリスリトールヘプタアクリレートの混合物等を挙げることができる。
【0061】
本実施形態の感光性組成物における重合性化合物の配合量は、感光性組成物全体に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましい。また、本実施形態の感光性組成物における重合性化合物の配合量は、有機溶剤を除く成分の合計に対して5質量%以上50質量%以下の範囲内であり、10質量%以上40質量%以下の範囲内であることがより好ましい。重合性化合物が上記範囲で配合されることで、高い硬度の硬化膜または硬化体を得ることができる。
【0062】
3.アルカリ可溶性重合体
本実施形態の感光性組成物は、分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体を含む。アルカリ可溶性重合体の機能の一つとしては、感光性組成物に、アルカリ現像性を付与することが挙げられる。これにより、感光性組成物の露光されていない部位をアルカリ現像液によって除去することができる。すなわち、アルカリ可溶性重合体の機能により、感光性組成物にネガ型のパターニング性を付与することができる。すなわち、アルカリ可溶性重合体は、感光性組成物に露光を行った後、該感光性組成物の露光されていない部分を、アルカリ現像液によって除去できるようにする機能を有する。
【0063】
アルカリ可溶性重合体としては、アルカリ現像液に対して可溶性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、通常、カルボキシル基、フェノール性水酸基等の酸性官能基を有する重合体である。なかでも、カルボキシル基を有する重合体が好ましく、特に、1個以上のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体(以下、「カルボキシル基含有不飽和単量体」という。)と他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体(以下、「共重合性不飽和単量体」という。)との共重合体(以下、「カルボキシル基含有共重合体」という。)が好ましい。
【0064】
カルボキシル基含有不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α−クロルアクリル酸、けい皮酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和ジカルボン酸またはその無水物;コハク酸モノ〔2−(メタ)アクリロイロキシエチル〕、フタル酸モノ〔2−(メタ)アクリロイロキシエチル〕のような2価以上の多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイロキシアルキル〕エステル;ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等の両末端にカルボキシ基と水酸基とを有するポリマーのモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0065】
前記カルボキシル基含有不飽和単量体は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
本実施形態において、カルボキシル基含有不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、コハク酸モノ〔2−(メタ)アクリロイロキシエチル〕、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等が好ましく、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0067】
カルボキシル基含有共重合体において、カルボキシル基含有不飽和単量体の共重合割合は、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。この場合、該共重合割合が5重量%未満では、得られる感光性組成物のアルカリ現像液に対する溶解性が低下する傾向があり、一方50重量%を超えると、アルカリ現像液に対する溶解性が過大となり、アルカリ現像液により現像する際に、画素の基板からの脱落や画素表面の膜荒れを来たしやすくなる傾向がある。
【0068】
また、共重合性不飽和単量体としては、例えば、マレイミド;N−フェニルマレイミド、N−o−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−m−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−p−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−位置換マレイミド;スチレン、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、p−クロルスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、p−メトキシスチレン、o−ビニルフェノール、m−ビニルフェノール、p−ビニルフェノール、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、o−ビニルベンジルメチルエーテル、m−ビニルベンジルメチルエーテル、p−ビニルベンジルメチルエーテル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル等の芳香族ビニル化合物;インデン、1−メチルインデン等のインデン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸グリシジルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の他の不飽和エーテル;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等のシアン化ビニル化合物;(メタ)アクリルアミド、α−クロロアクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド;1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の脂肪族共役ジエン;ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ−n−ブチル(メタ)アクリレート、およびポリシロキサン等の重合体分子鎖の末端にモノ(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー等を挙げることができる。
【0069】
これらの共重合性不飽和単量体は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0070】
本実施形態において、共重合性不飽和単量体としては、N−位置換マレイミド、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸エステル、重合体分子鎖の末端にモノ(メタ)アクリロイル基を有するマクロモノマー等が好ましく、特にN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールのエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ポリスチレンマクロモノマー、ポリメチルメタクリレートマクロモノマー等が好ましい。
【0071】
また、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する共重合性不飽和単量体を共重合したアルカリ可溶性樹脂に、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の不飽和イソシアナート化合物を反応させることにより、アルカリ可溶性樹脂の側鎖に重合性不飽和結合を導入することができ、このようなアルカリ可溶性重合体も本実施形態の感光性組成物に好適に使用することができる。
【0072】
本実施形態におけるアルカリ可溶性重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、溶出溶媒:テトラヒドロフラン)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量(以下、「Mw」ということがある。)は、好ましくは1000以上50000以下、特に好ましくは3000以上30000以下である。
【0073】
本実施形態におけるアルカリ可溶性重合体のGPC(溶出溶媒:テトラヒドロフラン)で測定したポリスチレン換算数平均分子量(以下、「Mn」という。)は、好ましくは、1000以上50000以下、好ましくは3000以上30000以下である。
【0074】
また、本実施形態におけるアルカリ可溶性重合体のMwとMnの比(Mw/Mn)は、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1以上4以下である。この場合、Mwが1000未満であると、感光性組成物のアルカリ現像性が低下したり、パターニングにより付与されるパターン形状の再現性が低下したり、硬化した感光性組成物において耐熱性等が損なわれたりするおそれがあり、一方50000を超えると、パターニングにより付与されるパターン形状の解像度が低下したり、形状が損なわれたり、また感光性組成物の流動性が損なわれたりするおそれがある。また、Mwが50000を超えると、感光性組成物をスリットノズル方式などによって目的物に塗布するときに、成分が乾燥した異物などが発生し易くなるおそれがある。
【0075】
本実施形態におけるアルカリ可溶性重合体は、例えば、その構成成分となる不飽和単量体を、適当な溶媒中で、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のラジカル重合開始剤の存在下で重合することにより製造することができる。
【0076】
また、本発明におけるアルカリ可溶性重合体は、その構成成分となる各不飽和単量体を、上記ラジカル重合開始剤の存在下、不活性溶媒中で、反応温度を、通常、0〜150℃、好ましくは50〜120℃として、重合することにより製造することができる。
【0077】
アルカリ可溶性重合体は、例えば、東亜合成化学株式会社から、「ARUFON−UP1000シリーズ、UH2000シリーズ、UC3000シリーズ(商品名)」として入手することもできる。また、アルカリ可溶性重合体は、例えば、大阪有機化学工業株式会社から、「ORGAシリーズ、AGORシリーズ(商品名)」として入手が可能で、例えば、ORGAシリーズは、下記一般式(1)、AGORシリーズは、下記一般式(2)の構造を有している。
【0078】
【化1】

【0079】
【化2】

【0080】
上記一般式(1)および一般式(2)中、Rは、アルキル基を表し、l、m、nは、自然数を表す。
【0081】
なお、アルカリ可溶性重合体は、レベリング剤としての機能も有し、例えば、感光性組成物によって塗膜を形成した場合に、該塗膜の表面の平坦化に寄与することもできる。
【0082】
本実施形態において、アルカリ可溶性重合体は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。本実施形態において、アルカリ可溶性重合体の含有量は、感光性組成物に含有される有機溶剤を除く成分を100質量%としたときに、1質量%以上50質量%以下、好ましくは2質量%以上45質量%以下である。この場合、アルカリ可溶性樹脂の含有量が1質量%未満では、例えば、アルカリ現像性が低下したり、未露光部の基板上あるいは遮光層上に残渣や地汚れが発生するおそれがあり、一方50質量%を超えると、相対的に重合性化合物の含有量が低下するため、薄膜として目的とする強度を達成することが困難となるおそれがある。
【0083】
4.オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤
本実施形態で用いる光ラジカル重合開始剤は、オキシムエステル構造を有する化合物である。オキシムエステル構造を有する化合物は、照射される光に対して活性が高く、例えば、配線やブラックマトリックス等の光を透過しにくい部材の影となって紫外線が直接照射されない部位や、粒子や紫外線吸収剤等が配合された場合であっても、反射光、散乱光、回折光などによって本実施形態の感光性組成物を硬化させることができる。
【0084】
なお、本実施形態にかかる感光性組成物は、光によって硬化する性質を有し、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤によって光重合する性質を有する。ここで、光とは、遠赤外線、赤外線、近赤外線、可視光線、紫外線、真空紫外線、X線、γ線等の電磁波、および電子線、α線、イオン線等の粒子線のことを指す。また、硬化するとは、光を受けることに起因して感光性組成物中の分子が、反応して、高分子化、架橋形成などして、流動性が減少することを指し、感光性組成物の硬化物は、使用した重合性化合物に由来する特定の架橋構造を有している。
【0085】
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤は、下記一般式(3)で示される化合物であることがより好ましい。
【0086】
【化3】

式(3)において、R1は、水素原子、フェニル基、または炭素数1〜10のアルキル基等であることが好ましい。式(3)において、R2は、水素原子、フェニル基、又は炭素数1〜10のアルキル基等であることが好ましい。また式(3)において、R3は、置換又は非置換のカルバゾール基を含む1価の有機基、Ph−S−Ph−CO−基(Phはフェニル基又はフェニレン基を示す)等であることが好ましい。
【0087】
また、本実施形態のとして好ましいオキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤としては、O−アシルオキシム系化合物を挙げることができる。O−アシルオキシム系化合物としては、カルバゾール系のO−アシルオキシム型重合開始剤が好ましい。例えば、1−〔9−エチル−6−ベンゾイルカルバゾール−3−イル〕−ノナン−1,2−ノナン−2−オキシム−O−ベンゾアート、1−〔9−エチル−6−ベンゾイルカルバゾール−3−イル〕−ノナン−1,2−ノナン−2−オキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−ベンゾイルカルバゾール−3−イル〕−ペンタン−1,2−ペンタン−2−オキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−ベンゾイルカルバゾール−3−イル〕−オクタン−1−オンオキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−ベンゾアート、1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−(1,3,5−トリメチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−ベンゾアート、1−〔9−ブチル−6−(2−エチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−ベンゾアート、1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−(2−メチル−4−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−〔2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル〕カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)等を挙げることができる。
【0088】
これらのO−アシルオキシム化合物のうち、特に1−〔9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル〕−エタン−1−オンオキシム−O−アセタート、1−〔9−エチル−6−〔2−メチル−4−(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラニル)メトキシベンゾイル〕カルバゾール−3−イル〕−1−(O−アセチルオキシム)、下記式(2)で示されるエタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、および下記式(3)で示される1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]が感度が高く好ましい。
【0089】
【化4】

【0090】
【化5】

【0091】
オキシムエステル構造を有する化合物の市販品の例としては、例えば、上記式(4)の化合物としては、商品名:Irgacure OXE02(CGI242)、上記式(5)の化合物としては、商品名:Irgacure OXE01(以上、チバ・ジャパン株式会社製)、また、その他の好適な化合物として、商品名:N−1919(株式会社アデカ製)等が挙げられる。
【0092】
また、本実施形態の光ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、適当な増感剤や連鎖移動剤を組み合わせてもよい。さらに、光ラジカル重合開始剤自体に架橋性基を付与したものを使用することもできる。
【0093】
本実施形態の感光性組成物中におけるオキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤の配合量は、感光性組成物全体を100質量%としたときに、0.01質量%以上20質量%以下、好ましくは0.1質量%以上15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤の配合量が上記下限値よりも小さいとアクリル基の架橋性が不十分となり十分な硬度や寸法安定性が得られないおそれがあり、また、上記上限値よりも大きいと、硬化後の硬化体の強度や耐候性を損なう場合がある。
【0094】
5.有機溶剤
本実施形態の感光性組成物は、有機溶剤を含む。有機溶剤の幾つかの機能としては、硬化前の感光性組成物の粘度等を調節して、例えば、基材等への塗布性を向上させたり、操作性、成形性を向上させることが挙げられる。例えば、感光性組成物の硬化体を光機能膜として使用する場合には、硬化前の感光性組成物を成膜する基材等に塗布する場合があるが、このような場合の感光性組成物の粘度としては、例えば、0.1mPa・s以上50000mPa・s以下(25℃)が好ましく、より好ましくは、0.5mPa・s以上10000mPa・s(25℃)である。
【0095】
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0096】
また、本実施形態の感光性組成物には、上記有機溶剤を1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態の感光性組成物において用いられる有機溶剤の配合量は、感光性組成物の粘度等を考慮して適宜決めることができる。なお、無機粒子を分散液として取り扱う場合には、当該分散液中の分散媒を含んで本実施形態の有機溶剤とすることができる。
【0097】
6.その他の化合物
本実施形態の感光性組成物は、感光性組成物の性状を変化させたり、他の機能を付与するために、上記以外の他の物質を含んでもよい。
【0098】
6.1.界面活性剤
本実施形態の感光性組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、例えば、シリコーン系、オルガノポリシロキサン系等のケイ素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウリレート、ポリエチレングリコールジステアレート等のノニオン系界面活性剤、アクリル系またはメタクリル系の重合物からなる界面活性剤などが挙げられる。
【0099】
好ましい界面活性剤としては、ケイ素系界面活性剤を挙げることができる。ケイ素系界面活性剤としては、シロキサン構造を有するケイ素系界面活性剤、例えば、オルガノポリシロキサン系界面活性剤、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体構造を有するケイ素系界面活性剤を挙げることができる。ポリジメチルシロキサンを基本骨格とし、ポリオキシアルキレン基が付加された、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体は、例えば、東レダウコーニング株式会社から、商品名:SH190、SH28PA、ペインタッド19、54、SF8428などとして入手することができる。
【0100】
また、好ましいフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロエチレンオキシド系界面活性剤またはフッ素原子含有エチレン性不飽和単量体を主成分として共重合したパーフルオロアルキル基含有オリゴマー系界面活性剤を挙げることができる。
【0101】
また、フッ素原子含有エチレン性不飽和単量体を主成分として共重合したパーフルオロアルキル基含有オリゴマー系界面活性剤として、特に好ましいのはフッ素原子含有エチレン性不飽和単量体と橋状結合を含有するエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて架橋性エチレン性不飽和単量体とポリオルガノシロキシル基含有エチレン性不飽和単量体と、を共重合したパーフルオロアルキル基含有オリゴマー系界面活性剤も本実施形態の感光性組成物に好適に用いることができる。
【0102】
フッ素系の界面活性剤の例としては、たとえば、メガファックF−114、F410、F411、F450、F493、F494、F443、F444、F445、F446、F470、F471、F472SF、F474、F475、R30、F477、F478、F479、F480SF、F482、F483、F484、F486、F487、F553、F172D、F178K、F178RM、ESM−1、MCF350SF、BL20、R08、R61、R90(大日本インキ化学工業社製)が挙げられる。
【0103】
本実施形態の感光性組成物に界面活性剤を配合ずる場合には、上述した界面活性剤を1種単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
本実施形態の感光性組成物に界面活性剤を配合する場合には、界面活性剤の好ましい含有量は、感光性組成物の全量に対して、0.0005質量%以上2質量%以下、好ましくは0.005質量%以上1質量%以下である。また、界面活性剤の好ましい含有量は、感光性組成物の有機溶剤を除く固形分全量を100質量%としたときには、0.01質量%以上5質量%以下、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。界面活性剤の配合量が上記好ましい配合量未満であると、例えば、感光性組成物に、塗布性や濡れ性といった機能を十分に発現させることができない場合がある。また、界面活性剤の配合量が上記好ましい配合量を超えると、感光性組成物の非架橋成分が増加することにより硬化体の強度が低下するおそれがある。
【0105】
6.2.重合禁止剤
本実施形態の感光性組成物は、重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤は、例えば、感光性組成物の光に対する感度を調節するために用いられることができる。
【0106】
本実施形態の感光性組成物に使用し得る重合禁止剤としては、例えば、フェノール、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ベンゾキノン、メトキシベンゾキノン、1,2-ナフトキノン、クレゾール、p−t−ブチルカテコール等のカテコール類、アルキルフェノール類、アルキルビスフェノール類、フェノチアジン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、2,2’メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)4−メチルフェノール、1,1,3−トリス(2’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、および2-t-ブチル-4-メトキシフェノール等のフェノール類、6-t-ブチル-m-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2-t-ブチルハイドロキノン、メチレンブルー、ジメチルジチオカルバミン酸銅塩、ジエチルジチオカルバミン酸銅塩、ジプロピルジチオカルバミン酸銅塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅、サリチル酸銅、チオジプロピオン酸エステル類、メルカプトベンズイミダゾール、およびホスファイト類、のうち少なくとも1種が挙げられる。また空気など酸素含有ガスを併用してもよい。これら重合禁止剤の使用量は特に制限されないが、例えば、感光性組成物の全量に対して、0.000005質量%以上0.2質量%以下、好ましくは0.00005質量%以上0.1%以下である。また、これら重合禁止剤の使用量は、感光性組成物の有機溶剤を除く成分を100質量%としたときには、0.0001質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.001質量%以上0.2質量%以下である。
【0107】
7.アルカリ現像性および現像の態様
本実施形態の感光性組成物は、アルカリ現像液によって現像されるネガ型の感光性組成物である。本実施形態の感光性組成物は、少なくとも上記重合性化合物と、アルカリ可溶性重合体と、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤とを含む結果、ネガ型のアルカリ現像性を有する。
【0108】
本実施形態の感光性組成物は、光が照射されることにより硬化体を形成する。そのため、アルカリ現像液によって、光が照射されなかった感光性組成物の部位は、アルカリ現像液によって、溶解されることができる。光が照射された部位が現像によって残存することから、本実施形態の感光性組成物は、ネガ型ということができる。
【0109】
本実施形態の感光性組成物は、例えば基板の上に、薄膜状やフィルム状に塗布されることができ、塗布された感光性組成物に、所望のパターンで光を照射することにより、パターニングされた硬化体の薄膜(フィルム)を形成することができる。また、本実施形態の感光性組成物は、硬化前に薄膜状に形成される必要はなく、硬化前の感光性組成物の形状としては、バルク状であってもよい。硬化前の感光性組成物をバルク状に形成する方法としては、例えば任意の成形型内に保持して形成してもよいし、適宜な容器内に保持して形成してもよい。さらに硬化前の感光性組成物の粘度等が適度に大きい場合には、任意の形状に賦型されていてもよい。そして、このような形状の硬化前の感光性組成物の硬化させたい部位に光を照射し、その後、アルカリ現像液によって、硬化されていない(光が照射されていない)部位を溶解することによって、所望の形状の硬化体を得ることができる。したがって、本明細書では、現像するとは、平面的なパターニングおよび立体的なパターニングを含む意味を有している。
【0110】
本実施形態の感光性組成物は、例えば、光を照射した後、光が照射された部位をアルカリ現像液によって溶解することができるため、ネガ型のフォトリソグラフィーに用いることができる。この場合において、光の照射に用いる光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、タングステンランプ、アルゴンレーザー、ヘリウムカドミウムレーザー、各種の半導体レーザーなどが挙げられ、さらに、他の放射線発生装置などを用いてもよい。
【0111】
光が照射された感光性組成物の現像に用いるアルカリ現像液としては、光が照射されていない部位を溶解し得る溶液であれば特に限定されない。このようなアルカリ現像液としては、本実施形態の感光性組成物に含有されるアルカリ可溶性重合体を溶解することができれば十分であり、例えば、アルカリ性を呈する化合物を溶解したアルカリ性の水溶液を挙げることができる。アルカリ現像液中に溶解されるアルカリ性を呈する化合物としては、無機化合物、および有機化合物のいずれであってもよい。
【0112】
このような無機化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、およびアンモニア等が挙げられる。
【0113】
また、有機化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、ジ−n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、ピロール、およびピヘリジン等が挙げられる。
【0114】
アルカリ現像液のアルカリ性(pH、濃度等)および現像時間は、形成するパターンに応じて、適宜調整することができる。さらに、アルカリ現像液には、必要に応じて、メタノール、エタノール、プロパノールおよびエチレングリコール等の水溶性有機溶媒、界面活性剤、保存安定剤、および樹脂の溶解を調整する物質等を適宜添加することができる。アルカリ現像液中のアルカリ性を呈する化合物の濃度は、例えば、0.01質量%以上20質量%以下とすることができる。アルカリ現像液のpHは、例えば、10以上15以下とすることができる。アルカリ現像液による処理時間は、例えば10秒以上600秒以下とすることができる。
【0115】
アルカリ現像液によって現像する方法としては、スプレー現像、浸漬現像、パドル現像などが挙げられる。
【0116】
本明細書では、アルカリ現像性とは、アルカリ現像液によって感光性組成物の光が照射されていない部分を除去する際の性能のことを指す。すなわち、アルカリ現像性が高いとは、感光性組成物に光を照射して現像したときに、光が照射された部位および光が照射されなかった部位の境界が明りょうであること、および、光が照射されなかった部位の感光性組成物が残らず除去されていること、の少なくとも一方が十分であることを指す。また、アルカリ現像性が低いとは、感光性組成物に光を照射して現像したときに、光が照射された部位および光が照射されなかった部位の境界が不明りょうであること、および、光が照射されなかった部位の感光性組成物が除去しきれていないこと(残渣の発生)、の少なくとも一方が十分であることを指す。また、感光性組成物を基板等に塗布して平面的なパターニングを行う態様では、さらに、光が照射された部位の感光性組成物が基板から剥離したり脱落したりする場合もアルカリ現像性が低いというものとする。
【0117】
アルカリ現像液で処理した後には、例えば、リンス工程を行うことができる。リンス工程に用いるリンス液としては、例えば、純水が挙げられ、界面活性剤等を適当量添加して使用することもできる。また、アルカリ現像処理またはリンス処理の後に、形成された硬化体に付着している現像液またはリンス液を超臨界流体により除去する処理を行ってもよい。さらに、リンス処理または超臨界流体による処理の後、硬化体中に残存する水分を除去するために加熱処理を行ってもよい。
【0118】
8.作用効果
本実施形態の感光性組成物は、重合性化合物、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤およびアルカリ可溶性重合体を含むとともに無機粒子を含む。したがって、本実施形態の感光性組成物は、少なくともアルカリ可溶性重合体を含むため、アルカリ現像性が良好であり、光によるパターニングが容易で成形性に優れている。また、本実施形態の感光性組成物は、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤を含むため、無機粒子を含んでいても、光が照射されることによって、十分に硬化することができる。さらに、本実施形態の感光性組成物は、金属酸化物を主成分とする無機粒子を含むため、硬化後に高い屈折率を有する硬化体となることができる。そして、本実施形態の感光性組成物が硬化した後の硬化体は、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物が架橋した構造を有するため、化学的に安定であり変形や変質等を起こしにくい。
【0119】
9.光機能膜、光学部材および光電変換素子
本実施形態の感光性組成物は、高屈折率でありかつ透明性に優れるとともに、アルカリ現像性に優れているため、広範な用途に使用することができる。例えば、ガラス基板等に本実施形態の感光性組成物を塗布、プリベークして感光膜を成膜し、これを任意の形状にパターニングすることにより、光機能膜を容易に形成することができる。このような光機能膜は、例えば、反射防止膜に高屈折率な層を形成する場合などに好適に用いることができる。また、本実施形態の感光性組成物は、高屈折率でありかつ透明性に優れるとともに、アルカリ現像性に優れているため、例えば、バルク状態の感光性組成物を任意の形状にパターニングすることにより、光学部材を容易に形成することができる。このような光学部材は、光電変換素子等の封止材料、光電変換素子の光導波路およびレンズ等の光学部材、および光電変換素子の受発光素子の上に形成される薄膜状の光学部材に好適に用いることができる。そしてこのような光電変換素子は、アルカリ現像が容易で、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた硬化膜(光学部材)を有するため、屈折率が高く、化学的安定性および成形性に優れている。さらに、このような光電変換素子の製造にあっては、硬化後に高い屈折率と化学的安定性を備えた硬化膜(光学部材)を、露光およびアルカリ現像液による現像によって行うため、屈折率が高く、化学的安定性の良好な硬化膜を有する光電変換素子を、容易に製造することができる。
【0120】
10.実施例および比較例
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0121】
10.1.実施例の感光性組成物
表1に示す配合の実施例1〜実施例8の感光性組成物を調製した。
【0122】
【表1】

【0123】
各実施例において、無機粒子として、酸化チタン粒子を用いた。この酸化チタン粒子は以下のように調製したものを用いた。
【0124】
ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体50g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)3950gを容器に入れて十分に混合撹拌した。次いで、これをホモジナイザーで撹拌しながら二酸化チタン粒子(商品名「Nanotek」、シーアイ化成株式会社製)1000gを約10分間にわたって徐々に添加した。二酸化チタン粒子を全て添加した後、さらに約15分間撹拌することでスラリー5kgを得た。得られたスラリー5kg、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.1mm)を体積充填率70%となるように浅田鉄工株式会社製「ピコミル」に充填し、周速15m/秒で12時間処理し、数平均粒子径21nmの二酸化チタン粒子の分散液を得た。二酸化チタン粒子分散液における二酸化チタンの含有量は、20質量%であった。この二酸化チタン粒子のX線回折パターンを測定した結果、アナターゼ構造を有することが分かった。なお、表1に記載した酸化チタン粒子の含有量は、酸化チタン粒子の固形分としての含有量である。
【0125】
各実施例において、重合性化合物としては、フルオレンジアクリレート(A−BPEF:新中村化学工業株式会社製)、デンドリマーアクリレート(ビスコート#802;トリペンタエリスリトールオクタアクリレートおよびトリペンタエリスリトールヘプタアクリレートの混合物:大阪有機化学工業株式会社製)、およびペンタエリスリトールトリアクリレート(PET−30:新中村化学工業株式会社製)をそれぞれ表1の配合で用いた。なお、表1には、感光性組成物が硬化した後に形成される固体の全量を100質量%としたときの各固形分の分率(固体中の質量分率)、および、揮発成分(有機溶剤等)を含んだ状態における当該固形分の配合量を併記している。
【0126】
また、各実施例において、アルカリ可溶性重合体としては、カルボキシル基を有するアクリル系重合体(ARUFON UC−3910:東亞合成株式会社製)、水酸基を有するアクリル系重合体(ARUFON UH−2032:東亞合成株式会社製)、並びに、カルボキシル基およびアクリル基を有する重合体(ORGA−3100:大阪有機化学工業株式会社製)をそれぞれ表1の配合で用いた。
【0127】
さらに、各実施例において、光ラジカル重合開始剤として、オキシムエステル構造を有する化合物、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)](Irgacure OXE01:チバ・ジャパン株式会社製)、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)(Irgacure OXE02(CGI242):チバ・ジャパン株式会社製)、アデカオプトマーNシリーズ(N−1919:株式会社アデカ製)をそれぞれ表1の配合で用いた。
【0128】
また、各実施例において、界面活性剤として、ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体を用い、重合禁止剤として、p−メトキシフェノールを用い、有機溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルをそれぞれ表1の配合で用いた。
【0129】
各実施例の感光性組成物は、上述の二酸化チタン粒子の分散液に、上述の各化合物を表1に示す配合となるように添加し、表1に記載の有機溶媒を加えて、十分に攪拌して調製した。
【0130】
10.2.比較例の感光性組成物
表1に示す配合の比較例1および比較例2の組成物を調製した。
【0131】
各比較例の組成物は、実施例の組成物と同様にして調製したが、比較例1では、オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤に代えて、オキシムエステル構造を有さない光ラジカル重合開始剤(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン:Irgacure 184:チバ・ジャパン株式会社製)を用い、比較例2では、アルカリ可溶性重合体を配合しないものとした。
【0132】
10.3.評価試料
各実施例および各比較例の組成物を用いて、評価試料を作成した。評価試料としては、シリコンウエハー上に各組成物を塗布したものと、ガラスウエハー上に各組成物を塗布したものを作成した。各ウエハーへの組成物の塗布は、ミカサ株式会社製のスピンコーターを用いて行った。そして、各試料のプリベーク(120℃/60秒)を行い、シリコンウエハー上に形成したものはアルカリ現像性および屈折率の評価に用い、ガラスウエハー上に形成したものは透明性(透過率)の評価に用いた。なお、全ての試料において、プリベーク後の感光性組成物の膜厚は、約0.6μmであった。
【0133】
10.4.アルカリ現像性の評価
シリコンウエハー上に成膜した各実施例および各比較例の試料に、光源として高圧水銀灯を有する露光装置(ズース社製マスクアライナー)によって、一辺が50μmの正方形の未露光部が複数形成されるように露光した。このときの露光条件は、照度を20mW/cmとし、露光部の照射光量が1J/cmとなるようにした。
【0134】
露光された各試料の未露光部を除去するためにアルカリ現像液(商品名CD−200CR:JSR株式会社製を純水で20倍に希釈したもの)に、60秒間浸漬(ディップ法)することにより現像し、純水で60秒間洗浄(リンス)した。
【0135】
得られた各試料を光学顕微鏡により観察し、正方形の未露光部内に残渣がなく、露光部の硬化体がシリコンウエハーから剥離していないものを良好と判断し表1に○を付し、正方形の未露光部内に残渣があるか、露光部の硬化体がシリコンウエハーから剥離しているものを不良と判断し表1に×を記載した。
【0136】
10.5.屈折率および透明性の評価
各実施例および各比較例の屈折率は、シリコンウエハー上に成膜した各試料において、硬化後、シリコンウエハーから剥離していない部分について測定した。屈折率測定は、Metricon社製、プリズムカラーModel 2010なる装置を用い、波長633nmの光を用いて行った。各試料の屈折率の測定結果は、表1に併記した。
【0137】
10.6.透明性の評価
各実施例および各比較例の透明性は、各試料の光透過率を測定して行った。光透過率は、ガラスウエハー上に成膜した各試料において、硬化後、シリコンウエハーから剥離していない部分について測定した。透過率測定は、日本分光株式会社製の分光光度計を用いて行った。光透過率の測定は、波長400nmの光によって行い、光透過率が90%以上のものを○とし、90%未満のものを×として、表1に記載した。
【0138】
10.7.評価結果
実施例1〜実施例8の感光性組成物は、いずれも、アルカリ現像性に優れ、硬化後においても透明性に優れ、1.86以上の高い屈折率を有していることが判明した。
【0139】
これに対して、オキシムエステル構造を有さない光ラジカル重合開始剤を用いた比較例1の組成物、およびアルカリ可溶性重合体を含まない比較例2の組成物は、いずれもアルカリ現像性が不良であった。
【0140】
図1は、実施例1の感光性組成物の硬化、現像後の状態を光学顕微鏡で観察した結果である。図2および図3は、比較例1および比較例2の組成物の硬化、現像後の状態を光学顕微鏡で観察した結果である。
【0141】
図1を見ると、実施例1の感光性組成物は、良好なアルカリ現像性を示すことがわかった。他の実施例2〜実施例8の感光性組成物についても光学顕微鏡による観察結果は、実施例1と同様であった。図2を見ると、比較例1の組成物は、アルカリ現像において、露光部の一部が、シリコンウエハーから剥離していることがわかり、アルカリ現像性が不良であることがわかった。図3を見ると、比較例2の組成物は、アルカリ現像において、未露光部の除去が不十分であり(残渣があり)、アルカリ現像性が不良であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の感光性組成物は、例えば、発光素子等の封止材料、光学素子の光導波路およびレンズ等の光学部材、および反射防止膜等の光機能膜などの分野において利用することができる。本発明の感光性組成物は、高い屈折率を有し、かつ、精密な成形を容易に行うことができるため、上記分野に極めて好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受発光素子上に、
金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、
分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、
を含む感光性組成物の硬化膜を有する、光電変換素子。
【請求項2】
受発光素子上に、
金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、
分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、
を含む感光性組成物を塗布し、露光処理およびアルカリ現像液で現像処理を行う、光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
アルカリ現像液によって現像されるネガ型の感光性組成物であって、
金属酸化物を主成分とする波長589nmにおける屈折率2.0以上の無機粒子と、
分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と、
分子内に水酸基およびカルボキシル基の少なくとも一方を有するアルカリ可溶性重合体と、
オキシムエステル構造を有する光ラジカル重合開始剤と、
有機溶剤と、
を含む、感光性組成物。
【請求項4】
請求項3において、
前記無機粒子は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、タングステン、セリウム、インジウムおよびスズから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を主成分とする、感光性組成物。
【請求項5】
請求項4において、
前記無機粒子は、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンを含み、数平均粒子径が、1nm以上100nm以下である、感光性組成物。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれか一項において、
前記無機粒子の配合量は、前記有機溶剤を除いた全成分に対して、50質量%以上90質量%以下である、感光性組成物。
【請求項7】
請求項3ないし請求項6のいずれか一項において、
前記アルカリ可溶性重合体の重量平均分子量は、1000以上50000以下である、感光性組成物。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のいずれか一項において、
界面活性剤をさらに含む、感光性組成物。
【請求項9】
請求項3ないし請求項8のいずれか一項において、
重合禁止剤をさらに含む、感光性組成物。
【請求項10】
請求項3ないし請求項9のいずれか一項に記載の感光性組成物を用いて塗膜を成形し、前記塗膜を露光処理およびアルカリ現像処理して形成された、光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−151164(P2011−151164A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10639(P2010−10639)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】