説明

成形機

【課題】安価かつ簡便な構成にして、高い射出速度と増圧(保圧)圧力を得ることができる成形機を提供する。
【解決手段】射出用電動サーボモータ11として、複数巻3相モータを備える。低速射出工程においては射出用電動サーボモータ11をその定格トルクで駆動し、高速射出工程においては射出用電動サーボモータ11をその最大トルクで駆動し、増圧工程においては射出用電動サーボモータ11を定格トルクの200%以下で駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンや射出成形機などの成形機に係り、特に、射出充填工程及び圧力制御工程における射出用電動サーボモータの駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧式成形機のように工場内を作動油で汚さず、また、油圧式成形機に比べて高精度の動作制御も容易であることから、可動部である射出装置、型開閉装置及び押出装置等の駆動源として電動サーボモータを用いた電動式成形機が普及しつつある。
【0003】
本願出願人は、先に、この種の電動式成形機として、3つの射出用電動サーボモータを備えた射出成形機を提案した(例えば、特許文献1参照。)。この射出成形機は、3つの射出用電動サーボモータの出力を足し合わせた力で射出装置を駆動できるので、高い射出速度が得られると共に、各射出用電動サーボモータを小型化できて、モータ回転子の軽量化によるイナーシャの低下を図ることができることから、高速の射出速度に達するまでの立ち上げ時間を短縮することができる。
【特許文献1】特開2007−83600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の射出成形機は、3つの射出用電動サーボモータを備えるので、高コストになるばかりでなく、各射出用電動サーボモータの駆動力を射出スクリューに伝達するためのタイミングベルトやプーリ等の構成が複雑となるので、射出装置の設置スペースも大きくなるという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価かつ簡便な構成にして、高い射出速度と増圧(保圧)圧力を得ることができる成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、この目的を達成するため、第1に、射出用部材と、該射出用部材を駆動する射出用電動サーボモータと、前記射出用電動サーボモータの回転運動を前記射出用部材の直進運動に変換する運動変換機構と、前記射出用電動サーボモータの駆動を制御し、射出充填工程及びこれに続く圧力制御工程を実行する制御装置とを備えた成形機において、前記射出用電動サーボモータとして、複数巻3相モータを用いると共に、前記制御装置は、前記射出充填工程の実行時に前記射出用電動サーボモータを出力可能な最高トルクで駆動し、前記圧力制御工程の実行時に前記射出用電動サーボモータを定格トルクの200%以下の出力トルクで駆動するという構成にした。
【0007】
複数巻3相モータは、互いに120度の位相角をもつU相、V相及びW相の各巻線を複数重ね巻きしたもので、重ね巻きされた各巻線ごとに備えられたモータドライバ回路により駆動できるので、小型にして大きな出力トルクが得られる。この複数巻3相モータの出力トルクは、モータドライバ回路から供給されるモータ駆動電流によって変化し、複数巻3相モータに定格電流以上のモータ駆動電流を供給した場合には定格トルク以上のトルクを出力させることができ、複数巻3相モータに定格電流以下のモータ駆動電流を供給した場合には定格トルク以下のトルクを出力させることができる。但し、複数巻3相モータを定格トルク以上の出力トルクで駆動する場合には、発熱による悪影響が発生するため、駆動時間が短時間に制限される。一般に、複数巻3相モータは、最大トルクで0.3秒間〜0.5秒間の駆動が可能であるので、比較的定格トルクが低い複数巻3相モータを1つ用いるだけで、高速かつ短時間の射出充填工程を実行することができる。また、定格トルクの200%以下の出力トルクでは、最大トルクで駆動する場合よりも駆動時間を延ばすことができるので、比較的定格トルクが低い複数巻3相モータを1つ用いるだけで、高圧かつ長時間の増圧(保圧)工程を実行することができる。よって、モータ数及びそれに付随するメカニズム数の減少による成形機の小型化及び低コスト化と、モータ特性の有効利用による成形機の高性能化とを図ることができる。
【0008】
本発明は第2に、前記第1の成形機において、前記電動サーボモータとして、最大トルクが定格トルクの400%以上500%以下の複数巻3相モータを用いるという構成にした。
【0009】
最大トルクが定格トルクの400%以上500%以下の複数巻3相モータを用いると、比較的定格トルクが低い小型の複数巻3相モータを用いて、よりランクの高い成形機並みの射出工程と増圧(保圧)工程とを実行することができる。
【0010】
本発明は第3に、前記第1の成形機において、前記射出用部材がダイカストマシンの射出プランジャであり、前記圧力制御工程がダイカストマシンの増圧工程であるという構成にした。
【0011】
本構成によると、ダイカストマシンについて、成形材料である金属溶湯の射出速度と増圧圧力を高められると共に、マシン全体の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0012】
本発明は第4に、前記第1の成形機において、前記射出用部材が射出成形機の射出スクリューであり、前記圧力制御工程が射出成形機の保圧工程であるという構成にした。
【0013】
本構成によると、射出成形機について、成形材料である可塑化樹脂の射出速度と保圧圧力を高められると共に、マシン全体の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の成形機は、射出充填工程の実行時に射出用の複数巻3相モータを出力可能な最高トルクで駆動し、圧力制御工程の実行時に射出用の複数巻3相モータを定格トルクの200%以下の出力トルクで駆動するので、比較的低出力の複数巻3相モータを1つ用いるだけで高い射出速度と増圧(保圧)圧力を得ることができ、成形機の小型化、低コスト化及び高性能化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る成形機の実施形態を、ダイカストマシンを例にとり、図1乃至図5を参照して説明する。図1は実施形態に係るダイカストマシンの射出充填工程前の状態を示す断面図、図2は実施形態に係るダイカストマシンの射出充填工程中の状態を示す断面図、図3は実施形態に係るダイカストマシンの増圧工程中の状態を示す断面図、図4は実施形態に係る射出用電動サーボモータの出力特性を示すグラフ図、図5はダイカストマシンで実行される成型工程の流れと射出用電動サーボモータの出力変化との関係を示すグラフ図である。
【0016】
図1乃至図3に示すように、本例のダイカストマシンは、射出装置10と、該射出装置10によって加圧されたアルミニウム合金やマグネシウム合金などの金属溶湯を充填し、所定形状の成形品を成形する金型装置20と、射出装置10及び金型装置20の駆動を制御する制御装置30と、制御装置30から出力される制御信号に応じた射出装置10及び金型装置20の駆動信号を出力するモータドライバ回路31とを備えている。
【0017】
射出装置10は、射出用電動サーボモータ11と、該射出用電動サーボモータ11の回転位置を検出するロータリエンコーダ12と、射出用電動サーボモータ11によって回転駆動されるネジ軸13及び該ネジ軸13に螺合されたナット体14からなるボールネジ機構15と、ナット体14に固定された直動体16と、該直導体16に取り付けられた射出プランジャ17とから主に構成されている。
【0018】
本例の射出用電動サーボモータ11は、いわゆるビルトインモータであって、ケーシング11aと、ケーシング11aの内面に固定された円筒形のモータ固定子11bと、モータ固定子11bの外周に巻回されたモータコイル11cと、モータ固定子11b内に配置された円筒形のモータ回転子11dと、モータ回転子11dの外面に取り付けられたモータ磁石11eとから構成されており、モータ回転子11dの内周にネジ軸13が連結されている。したがって、制御装置30の指令信号に基づいてモータドライバ回路31から出力されるモータ駆動電流を射出用電動サーボモータ11に通電すると、モータ回転子11dを介してネジ軸13が回転駆動され、これに螺合されたナット体14及び直導体16を介して、射出プランジャ17がネジ軸13の軸方向に移動される。
【0019】
なお、本例の射出用電動サーボモータ11としては、図4に示すように、出力可能な最大トルクが定格トルクの500%で、最大トルクで駆動可能な駆動時間が0.3〜0.5秒間である複数巻3相モータが用いられる。なお、複数巻3相モータとは、互いに120度の位相角をもつU相、V相及びW相の各巻線を複数重ね巻きしたもので、重ね巻きされた各巻線ごとに備えられたモータドライバ回路により駆動できるので、小型にして大きな出力トルクが得られる。
【0020】
金型装置20は、図示しないベース盤上に固定された固定ダイプレート21と、この固定ダイプレート21と対向に配置され、ベース盤上に移動可能に設けられた可動ダイプレート22と、固定ダイプレート21の可動ダイプレート22と対向する面に取り付けられた固定側金型23と、可動ダイプレート22の固定ダイプレート21と対向する面に取り付けられた可動側金型24と、固定ダイプレート21に設けられたスリーブ25とから構成されている。スリーブ25は、固定側金型23に形成されたランナー26を介して、固定側金型23と可動側金型24の突き合わせ面に形成された金型キャビティ27に連通している。また、固定ダイプレート21及びスリーブ25には、スリーブ25内に連通する溶湯注入孔28が開設されている。
【0021】
なお、固定側金型23と可動側金型24とは、可動ダイプレート22に連結された図示しない型開閉機構によって開閉可能に構成されており、これら固定側金型23と可動側金型24とを一体に型閉(型締め)した状態で、射出装置10による射出充填工程及び増圧工程が行われ、固定側金型23と可動側金型24とを型開きした状態で、成形物の取り出しとが行われる。ダイカストマシンは、型閉、低速射出充填工程、高速射出充填工程、増圧工程、型開工程及び製品押出工程をもって成形サイクルが構成される。
【0022】
射出プランジャ17の先端部は、スリーブ25内に摺動可能に収納されている。したがって、この射出プランジャ17を後退させた状態で、溶湯注入孔28からスリーブ25内に溶湯を注入した後、射出プランジャ17を前進させると、スリーブ25内に注入された溶湯が、固定側金型23に開設されたランナー26を通って金型キャビティ27内に射出され、所望形状の成形品のダイカストが行われる。
【0023】
制御装置30は、図5に示すように、各工程毎に射出用電動サーボモータ11の出力トルクを切り替えて、成形サイクルを実行する。即ち、低速射出工程においては射出用電動サーボモータ11をその定格トルクで駆動し、高速射出工程においては射出用電動サーボモータ11をその最大トルクで駆動し、増圧工程においては射出用電動サーボモータ11を定格トルクの200%以下で駆動する。前述のように、本例のダイカストマシンにおいては、射出用電動サーボモータ11として、最大トルクが定格トルクの500%で、最大トルクで駆動可能な駆動時間が0.5秒間である複数巻3相モータを用いるので、高速射出充填工程を実行することができる。また、定格トルクの200%以下の出力トルクでは、最大トルクで駆動する場合よりも駆動時間を延ばすことができるので、高圧の増圧工程を実行することができる。
【0024】
なお、射出用電動サーボモータ11の出力切替は、ロータリエンコーダ12の出力信号に応じて行われる。即ち、制御装置30に備えられた図示しない記憶部には、ロータリエンコーダ12の出力信号と射出用電動サーボモータ11の出力との関係が予め記憶されており、制御装置30は、ロータリエンコーダ12の出力信号が予め記憶された所定の値に達する毎に、射出用電動サーボモータ11の出力を予め記憶された値に変更する。
【0025】
本例のダイカストマシンは、高速射出充填工程で、射出用電動サーボモータ11を出力可能な最高トルクで駆動し、増圧工程で、射出用電動サーボモータ11を定格トルクの200%以下の出力トルクで駆動するので、比較的低出力の射出用電動サーボモータを1つ用いるだけで、所望の射出速度と増圧圧力を得ることができる。よって、モータ数及びそれに付随するメカニズム数の減少によるダイカストマシンの小型化及び低コスト化と、モータ特性の有効利用によるダイカストマシンの高性能化とを図ることができる。
【0026】
なお、前記実施形態においては、ダイカストマシンを例にとって説明したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、射出成形機にも応用することができ、ダイカストマシンの場合と同等の効果を得ることができる。
【0027】
また、前記実施形態においては、射出用電動サーボモータ11として、最大トルクが定格トルクの500%で、最大トルクで駆動可能な駆動時間が0.5秒間である複数巻3相モータを用いたが、最大トルクが定格トルクの400%で、最大トルクで駆動可能な駆動時間が0.5秒間である複数巻3相モータを用いることもできる。
【0028】
さらに、前記実施形態においては、増圧工程において射出用電動サーボモータ11を定格トルクの200%以下の出力トルクで駆動したが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、射出用電動サーボモータ11の定格トルク以上最大トルク以下の適宜のトルクで、増圧工程を実行することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態に係るダイカストマシンの射出充填工程前の状態を示す断面図である。
【図2】実施形態に係るダイカストマシンの射出充填工程中の状態を示す断面図である。
【図3】実施形態に係るダイカストマシンの増圧工程中の状態を示す断面図である。
【図4】実施形態に係る射出用電動サーボモータの出力特性を示すグラフ図である。
【図5】ダイカストマシンで実行される成型工程の流れと射出用電動サーボモータの出力変化との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0030】
10 射出装置
11 射出用電動サーボモータ
12 ロータリエンコーダ
13 ネジ軸
14 ナット体
15 ボールネジ機構
16 直動体
17 射出プランジャ
20 金型装置
21 固定ダイプレート
22 可動ダイプレート
23 固定側金型
24 可動側金型
25 スリーブ
26 ランナー
27 金型キャビティ
28 溶湯注入孔
30 制御装置
31 モータドライバ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出用部材と、該射出用部材を駆動する射出用電動サーボモータと、該射出用電動サーボモータの回転運動を前記射出用部材の直進運動に変換する運動変換機構と、前記射出用電動サーボモータの駆動を制御し、射出充填工程及びこれに続く圧力制御工程を実行する制御装置とを備えた成形機において、
前記射出用電動サーボモータとして、複数巻3相モータを用いると共に、
前記制御装置は、前記射出充填工程の実行時に前記射出用電動サーボモータを出力可能な最高トルクで駆動し、前記圧力制御工程の実行時に前記射出用電動サーボモータを定格トルクの200%以下の出力トルクで駆動することを特徴とする成形機。
【請求項2】
前記電動サーボモータとして、最大トルクが定格トルクの400%以上500%以下の複数巻3相モータを用いたことを特徴とする請求項1に記載の成形機。
【請求項3】
前記射出用部材がダイカストマシンの射出プランジャであり、前記圧力制御工程がダイカストマシンの増圧工程であることを特徴とする請求項1に記載の成形機。
【請求項4】
前記射出用部材が射出成形機の射出スクリューであり、前記圧力制御工程が射出成形機の保圧工程であることを特徴とする請求項1に記載の成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−75956(P2010−75956A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246312(P2008−246312)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】