説明

成膜方法及び成膜装置

【課題】樹脂表面と反射膜用の金属薄膜の密着性を向上させることができる反射膜形成技術を提供する。
【解決手段】本発明は、成膜対象物の樹脂からなる成膜面上に真空中で緩衝用重合体膜を形成する緩衝用重合体膜形成工程(P2)と、緩衝用重合体膜上に真空中でプラズマによる処理を施すプラズマ処理工程(P4)と、当該プラズマ処理された緩衝用重合体膜上に、真空蒸着によって光反射性の金属薄膜を形成する反射膜形成工程(P6)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中で蒸着によって成膜を行う技術に関し、特に、自動車ヘッドライト用反射鏡に用いる反射膜の成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の反射鏡の成型樹脂上にアルミニウム等の金属薄膜を形成する場合には、表面の平滑性や金属薄膜との間の密着性を向上させるため、樹脂上に、湿式前処理で有機溶剤を用いたアンダーコート層を形成するようにしている。
ところで、近年では、環境負荷物質となる有機溶剤の使用を避ける風潮があり、このための代替手段として、アンダーコート層を形成しないポリカーボネート樹脂表面にプラズマ処理(ボンバード処理)を行い、樹脂表面に直接アルミニウム薄膜を形成することも提案されている。
【0003】
しかし、このような処理を行ったポリカーボネート樹脂の表面に金属薄膜を形成した場合、ポリカーボネート樹脂と金属薄膜との間の密着性が低いという問題があり、これを解決する手段が要望されている。
なお、樹脂上に形成された金属薄膜の密着性を向上させるための先行技術としては、例えば、特許文献1に示されたものが知られている。
【特許文献1】特開2004−299372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、樹脂表面と反射膜用の金属薄膜の密着性を向上させることができる反射膜形成技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意努力を重ねた結果、湿式前処理用のアンダーコート層を形成することなく樹脂表面に対して高密着性の金属薄膜を形成しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0006】
かかる知見に基づいてなされた本発明は、成膜対象物の樹脂からなる成膜面上に真空中で緩衝用重合体膜を形成する緩衝用重合体膜形成工程と、前記緩衝用重合体膜上に真空中でプラズマによる処理を施すプラズマ処理工程と、当該プラズマ処理された前記緩衝用重合体膜上に、真空蒸着によって光反射性の金属薄膜を形成する反射膜形成工程とを有する成膜方法である。
本発明では、前記成膜対象物の成膜面が、ポリカーボネート樹脂からなる場合にも効果的である。
本発明では、前記光反射性の金属薄膜がアルミニウムからなる場合にも効果的である。
本発明では、前記成膜対象物が、反射鏡を構成する立体的な部材である場合にも効果的である。
また、本発明は、成膜対象物を収容可能な真空処理槽と、前記真空処理槽に接続され、処理ガスを導入する処理ガス導入部と、前記真空処理槽に接続され、緩衝用重合体膜形成用のモノマーを導入するモノマー導入部と、前記真空処理槽内に設けられた蒸発源と、前記真空処理槽内に設けられたプラズマ発生源と、前記真空処理槽内において、前記成膜対象物の成膜面上に緩衝用重合体膜を形成し、当該緩衝用重合体膜上にプラズマによる処理を施し、当該プラズマ処理された緩衝用重合体膜上に、真空蒸着によって光反射性の金属薄膜を形成するように制御する制御手段とを有する成膜装置である。
【0007】
本発明の場合、成膜対象物の樹脂からなる成膜面上に真空中で緩衝用重合体膜を形成し、この緩衝用重合体膜上に真空中でプラズマ処理を施した後に真空蒸着によって光反射性の金属薄膜を形成することにより、プラズマ処理によって緩衝用重合体膜の表面が荒れ、金属薄膜へのアンカー効果を呈するため、樹脂(特にポリカーボネート樹脂)と金属薄膜(特にアルミニウム薄膜)との密着性を向上させることができる。
【0008】
その結果、本発明によれば、環境負荷物質となる有機溶剤を使用することなく、樹脂表面に金属薄膜を容易に形成することができる。
また、本発明によれば、構成の簡素化及びコストダウンが可能な反射膜用成膜装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、湿式前処理用のアンダーコート層を形成することなく樹脂表面に対して高密着性の金属薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の成膜装置の内部構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施の形態の成膜装置1は、図示しない真空排気系に接続された真空処理槽2を有している。
この真空処理槽2は、それぞれ真空処理槽2の外部に設けられた処理ガス導入部3とモノマー導入部4が接続されている。
【0011】
処理ガス導入部3は、例えばアルゴン等の処理ガスを供給する処理ガス供給源30を有している。この処理ガス供給源30は、流量調整弁31を介して導入管32が真空処理槽2に接続され、この導入管32を介して所定量の処理ガスを真空処理槽2内に導入するように構成されている。
【0012】
モノマー導入部4は、撥水性重合体膜形成用のモノマーを供給するモノマー供給源40を有している。このモノマー供給源40は、流量調整弁41を介して導入管42が接続され、この導入管42を介して所定量のモノマーを真空処理槽2内に導入するように構成されている。
【0013】
真空処理槽2内には保持機構5が設けられ、この保持機構5によって、例えばポリカーボネート(PC)樹脂からなる立体形状の成膜対象物20を保持するようになっている。
本実施の形態の保持機構5は、真空処理槽2の中央領域において、例えば鉛直方向に向けて設けられた直線状の保持部6を有している。
【0014】
この保持部6は、真空処理槽2の外部に設けられた駆動モータ7の回転軸7aに連結され、複数の成膜対象物20における凹部状の成膜面20aを回転外方側に向けて保持した状態で回転させるように構成されている。
【0015】
真空処理槽2内の側壁部分には、蒸発源8が設けられている。この蒸発源8は、その蒸気放出面8aが各成膜対象物20の成膜面20aと対向するように配置されている。なお、蒸発源8は、例えば加熱部分としてタングステン(W)からなるフィラメントを有し、蒸発材料としてアルミニウム(Al)を用いるものを有している。
【0016】
また、真空処理槽2内の側壁部分には、図示しない交流電源を有するプラズマ発生源9が設けられている。このプラズマ発生源9は、そのプラズマ放出面9aが各成膜対象物20の成膜面20aと対向するように配置されている。
【0017】
さらに、上述した処理ガス供給源30、モノマー供給源40、駆動モータ7、蒸発源8、プラズマ発生源9は、それぞれコンピュータ等を有する制御手段10に接続されており、例えば後述するシーケンスに従って制御されるように構成されている。
【0018】
図2は、本発明に係る成膜方法の一例を示す流れ図、図3(a)〜(e)は、同成膜方法によって形成された膜の構成を示す断面図である。
本例においては、図1に示す成膜装置1を用い、ポリカーボネート(PC)樹脂からなる成膜対象物20上に成膜を行う場合を例にとって説明する。
【0019】
本例では、まず、図2に示すプロセスP1において、真空処理槽2内を真空排気して所定の圧力にする(例えば、1×10-2Pa)。
次に、モノマー供給源40から重合体膜形成用の原料モノマーを供給し、成膜対象物20を回転移動させながらプラズマ発生源9を動作させ、成膜対象物20の成膜面20a上に緩衝用重合体膜21を形成する(プロセスP2、図3(a))。
この緩衝用重合体膜21の原料モノマーとしては、例えばヘキサメチルジシロキサン(HMDS)等のシリコン系材料を含むモノマーを好適に用いることができる。
【0020】
本発明の場合、特に限定されることはないが、後述する反射膜23の機能を確保し且つ反射膜23を剥離しにくくする観点からは、緩衝用重合体膜21の厚さを30nm〜150nmに調整することが好ましい。
なお、本発明の場合、緩衝用重合体膜21を形成する前には、成膜対象物20の表面のプラズマ処理(ボンバード処理)は行わない。
【0021】
その後、真空処理槽2内を真空排気する(プロセスP3)。
さらに、流量調整弁31を制御して真空処理槽2内に処理ガスを導入して所定の圧力にする(プロセスP4)。
本発明の場合、特に限定されることはないが、安定したプラズマを維持する観点からは、真空処理槽2内の圧力を0.1Pa〜10Paに調整することが好ましい。
【0022】
そして、プラズマ発生源9を動作させ(例えば13.56MHz)、真空処理槽2内に例えばアルゴンプラズマを発生させて、成膜対象物20の緩衝用重合体膜21の表面をこのプラズマにさらすことにより、図3(b)に示すように、緩衝用重合体膜21の表面にボンバード処理を施して活性化させ、活性化重合体膜22を形成する(プロセスP4)。このプラズマ処理中は、処理ガスを導入しつつ排気を行いながら、真空処理槽2内の圧力を維持する。
【0023】
次に、真空処理槽2内の真空排気を行う(プロセスP5)。
その後、保持機構5を動作させて成膜対象物20を回転移動させながら真空蒸着を行う(プロセスP6)。
これにより、図3(c)に示すように、成膜対象物20上の活性化重合体膜22上に例えばアルミニウムからなる反射膜(金属薄膜)23が形成される。
本発明の場合、特に限定されることはないが、反射膜23の機能を確保し且つ反射膜23を剥離しにくくする観点からは、反射膜23の厚さを50nm〜100nmに調整することが好ましい。
【0024】
次に、モノマー供給源40から重合体膜形成用の原料モノマーを供給し、成膜対象物20を回転移動させながらプラズマ発生源9を動作させ、反射膜23上に撥水性重合体膜24を形成する(プロセスP7、図3(d))。
この撥水性重合体膜24は、反射膜23の酸化及び腐食を防止するための耐アルカリ性の保護膜として機能するもので、その原料モノマーとしては、例えばヘキサメチルジシロキサン(HMDS)等のシリコン系材料を含むモノマーを好適に用いることができる。
【0025】
その後、真空処理槽2内を真空排気する(プロセスP8)。
さらに、流量調整弁31を制御して真空処理槽2内に処理ガスとして例えばアルゴンガスを導入して所定の圧力にする(プロセスP9)。
本発明の場合、特に限定されることはないが、安定したプラズマを維持する観点からは、真空処理槽2内の圧力を0.1Pa〜10Paに調整することが好ましい。
【0026】
そして、プラズマ発生源9を動作させ(例えば40kHz〜13.56MHz)、真空処理槽2内にアルゴンプラズマを発生させて、成膜対象物20の撥水性重合体膜24の表面をアルゴンプラズマにさらすことにより(ボンバード処理)、図3(e)に示すように、撥水性重合体膜24の表面に親水化重合体膜25を形成する(プロセスP9)。プラズマ処理中は、処理ガスを導入しつつ排気を行いながら、真空処理槽2内の圧力を維持する。
これにより、目的とする保護膜付反射膜26が得られる。
【0027】
以上述べた本実施の形態では、例えばポリカーボネートからなる成膜対象物20の成膜面20a上に真空中で緩衝用重合体膜21を形成し、この緩衝用重合体膜21上に真空中でプラズマによる処理を施した後に真空蒸着によって例えばアルミニウムからなる金属薄膜23を形成することにより、プラズマ処理によって緩衝用重合体膜21の表面が荒れ、金属薄膜23へのアンカー効果を呈するため、樹脂(特にポリカーボネート樹脂)と金属薄膜23(特にアルミニウム薄膜)との密着性を向上させることができる。
【0028】
その結果、本実施の形態によれば、環境負荷物質となる有機溶剤を使用することなく、樹脂表面に金属薄膜を容易に形成することができる。
また、本実施の形態によれば、構成の簡素化及びコストダウンが可能な反射膜用成膜装置を提供することができる。
【0029】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態においては、同一の真空処理槽において緩衝用重合体膜形成、活性化処理、反射膜形成、撥水性重合体膜形成及び親水化処理を行うようにしたが、本発明は、これら各工程を異なる真空処理槽において行う場合をも含むものである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例について、比較例とともに詳細に説明する。
<実施例>
図1に示す装置を使用し、ポリカーボネート(PC)からなる成膜対象物上に、原料モノマーとしてヘキサメチルジシロキサンを用い、厚さ50nmの緩衝用重合体膜をプラズマ重合により直接形成した。
【0031】
この場合、真空処理槽内の圧力は、10Paとし、プラズマの周波数は、40kHzとした。
そして、真空排気後、真空処理槽内にアルゴンガスを導入してプラズマ化し、緩衝用重合体膜の表面に対してボンバード処理を行った。
【0032】
この場合、真空処理槽内の圧力は、10Paとし、プラズマの周波数は40kHzとした。また、ボンバード処理の時間は、30秒とした。
さらに、真空排気後、蒸発材料としてアルミニウム(Al)を用い、厚さ100nmの反射膜を抵抗加熱蒸着により形成した。
【0033】
そして、真空排気後、原料モノマーとしてヘキサメチルジシロキサンを用い、厚さ30nmの撥水性重合体膜をプラズマ重合により形成した。
この場合、真空処理槽内の圧力は、10Paとし、プラズマの周波数は、40kHzとした。
【0034】
さらに、真空排気後、真空処理槽内にアルゴンガスを導入してプラズマ化し、撥水性重合体膜の表面に対してボンバード処理を行った。
この場合、真空処理槽内の圧力は、10Paとし、プラズマの周波数は40kHzとした。また、ボンバード処理の時間は、30秒とした。
以上のプロセスにより実施例のサンプルを作成した。
【0035】
<比較例1>
PC成膜対象物上に実施例と同一の条件で直接反射膜を形成した。さらに、この反射膜上に実施例と同一の条件で撥水性重合体膜を形成してボンバード処理を行い比較例1のサンプルを作成した。
【0036】
<比較例2>
PC成膜対象物上に緩衝用重合体膜を形成し、この膜に対してボンバード処理を行うことなく反射膜を形成した以外は、実施例と同一の条件で他の成膜を行い比較例2のサンプルを作成した。
【0037】
<比較例3>
PC成膜対象物上に緩衝用重合体膜を形成せずその表面に対してボンバード処理を行った以外は、実施例と同一の条件で他の成膜を行い比較例3のサンプルを作成した。
【0038】
〔密着性の評価〕
接着テープ(住友3M社製:スコッチメンディングテープ810)を実施例及び比較例1〜3のサンプルに貼付し、それぞれの被膜に対して接着テープを直角に保ちながら接着テープを急速に引き剥がした。そして、各サンプルの被膜表面を目視で観察した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
ここでは、PC成膜対象物上にAl反射膜が残ったものを○、PC成膜対象物上にAl反射膜が残らなかったものを×とした。
表1から理解されるように、PC成膜対象物上に緩衝用重合体膜を形成してボンバード処理を行った後にAl反射膜を形成した実施例にあっては、Al反射膜がPC成膜対象物上に残っており、樹脂と金属薄膜との密着性を向上させることができた。
【0041】
一方、上述した比較例1〜3の場合は、いずれもAl反射膜がPC成膜対象物から剥離してしまった。
以上より、本発明による効果を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施の形態の成膜装置の内部構成を示す断面図
【図2】本発明に係る成膜方法の一例を示す流れ図
【図3】(a)〜(e):同成膜方法によって形成された膜の構成を示す断面図
【符号の説明】
【0043】
1…成膜装置、2…真空処理槽、3…処理ガス導入部、4…モノマー導入部、20…成膜対象物、20a…成膜面、21…緩衝用重合体膜、22…活性化重合体膜、23…反射膜(金属薄膜)、24…撥水性重合体膜、25…親水化重合体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜対象物の樹脂からなる成膜面上に真空中で緩衝用重合体膜を形成する緩衝用重合体膜形成工程と、
前記緩衝用重合体膜上に真空中でプラズマによる処理を施すプラズマ処理工程と、
当該プラズマ処理された前記緩衝用重合体膜上に、真空蒸着によって光反射性の金属薄膜を形成する反射膜形成工程とを有する成膜方法。
【請求項2】
前記成膜対象物の成膜面が、ポリカーボネート樹脂からなる請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記光反射性の金属薄膜がアルミニウムからなる請求項1又は2のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項4】
前記成膜対象物が、反射鏡を構成する立体的な部材である請求項1乃至3のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項5】
成膜対象物を収容可能な真空処理槽と、
前記真空処理槽に接続され、処理ガスを導入する処理ガス導入部と、
前記真空処理槽に接続され、緩衝用重合体膜形成用のモノマーを導入するモノマー導入部と、
前記真空処理槽内に設けられた蒸発源と、
前記真空処理槽内に設けられたプラズマ発生源と、
前記真空処理槽内において、前記成膜対象物の成膜面上に緩衝用重合体膜を形成し、当該緩衝用重合体膜上にプラズマによる処理を施し、当該プラズマ処理された緩衝用重合体膜上に、真空蒸着によって光反射性の金属薄膜を形成するように制御する制御手段とを有する成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−1542(P2010−1542A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162373(P2008−162373)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】