説明

成膜方法及び成膜装置

【課題】アークをプラズマ源とし、成膜面に付着するマクロパーティクル数を低減しつつ、高い成膜レートで良質な薄膜を形成できる成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】プラズマ発生部10で発生しプラズマ分離部20に進入したプラズマは、斜め磁場発生コイル23の磁場により進行方向が曲げられ、プラズマ輸送部40を介して成膜チャンバ50内に入る。一方、アーク放電にともなって発生したマクロパーティクルは、磁場の影響を殆ど受けないためプラズマ分離部20を直進してパーティクルトラップ部30で捕捉される。プラズマ輸送部40は、プラズマの流路に沿って相互に電気的に絶縁された2つの電場フィルタ部40a,40bに分割されている。プラズマ分離部20側の電場フィルタ部40aには例えば−20Vの電圧が印加され、成膜チャンバ50側の電場フィルタ部40bには例えば−5Vの電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置に使用される磁気記録媒体の表面や磁気ヘッドの先端を保護する保護膜の形成に好適な成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)は、コンピュータだけでなく、ハードディスクビデオレコーダ等の映像記録機器や携帯型音楽再生装置等にも使用されるようになった。それにともない、磁気記録装置のより一層の小型化及び大容量化が要求されている。
【0003】
磁気記録装置では、高速で回転する円盤状の磁気記録媒体(磁気ディスク)の記録層を磁気ヘッドで磁化することによりデータを記録する。記録層の上には、記録層を物理的及び化学的な損傷から保護するために保護膜が設けられている。通常、磁気記録媒体の保護膜としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成したダイヤモンドライクカーボン膜(Diamond-Like-Carbon;以下、「DLC膜」という)が用いられている。
【0004】
近年、磁気記録媒体の記録密度のより一層の向上が望まれている。そのためには、磁気記録媒体の記録層と磁気ヘッドとの距離(磁気スペーシング)を縮めることが必須であり、保護膜のより一層の薄膜化が要求されている。
【0005】
現状、磁気記録媒体の表面の保護膜として形成されるDLC膜の厚さは4nm程度であり、前述したようにCVD法により形成されている。しかしながら、CVD法では、膜厚が4nm以下のDLC膜を形成しようとすると、膜厚のばらつきが大きくなって保護膜の信頼性が低下する。そこで、近年、アークをプラズマ源としたFCA(Filtered Cathodic Arc)法を用いて磁気記録媒体の表面にDLC膜を形成することが提案されている。FCA法により形成されたDLC膜では、sp2結合成分に対するsp3結合成分の比率が高いため、CVD法により形成されたDLC膜に比べて硬度が高くなる。また、FCA法では、CVD法に比べてDLC膜の被覆性が優れており、DLC膜の厚さを3.5nm又はそれ以下にしても保護膜としての信頼性を損なうことはない。以下、FCA法により成膜する装置をFCA成膜装置という。
【0006】
ところで、FCA法では、アークをプラズマ源としているため、マクロパーティクル(直径が0.01〜数百μmの微粒子)の発生を抑えることが困難である。このため、保護膜形成時にマクロパーティクルが磁気記録媒体の表面に付着してしまう。このようにしてマクロパーティクルが付着した磁気記録媒体を磁気記録装置に使用すると、データの記録時又は再生時に磁気ヘッドがマクロパーティクルに接触し、磁気ヘッドが破損するおそれがある。
【0007】
そこで、保護膜(DLC膜)を形成した後、研磨等によりマクロパーティクルを除去することも考えられる。しかし、保護膜に付着したマクロパーティクルを研磨により除去すると、研磨中に保護膜から離脱したマクロパーティクルが保護膜をこすって疵を付けたり、マクロパーティクルが離脱した跡にくぼみが発生するため、保護膜としての信頼性が著しく低下する。
【0008】
上記の問題を解消すべく、例えば斜め磁場発生用コイルで発生した斜め方向の磁場(磁場フィルタ)によりプラズマの進行方向を曲げてプラズマとマクロパーティクルとを分離するFCA成膜装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−25794号公報
【特許文献2】特開2005−72175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した磁場フィルタを用いたFCA成膜装置は、成膜面に付着するマクロパーティクル数を低減することはできるものの、成膜レートが減少してしまう。このため、保護膜の形成に時間がかかり、製品コストが上昇する原因となる。
【0011】
以上から、アークをプラズマ源とし、成膜面に付着するマクロパーティクル数を低減しつつ、高い成膜レートで良質な薄膜を形成することができる成膜方法及び成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一観点によれば、アーク放電によりプラズマを発生するプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部に接続するプラズマ分離部と、前記プラズマ分離部に接続するパーティクルトラップ部と、基体が載置される成膜チャンバと、プラズマの流路に沿って配置された複数の電場フィルタ部を備え、前記プラズマ分離部と前記成膜チャンバとの間を接続するプラズマ輸送部とを有する成膜装置を用いた成膜方法であって、前記プラズマ発生部でプラズマを発生する工程と、前記プラズマ発生部で発生したプラズマを前記プラズマ分離部に流入させ、該プラズマ分離部において前記プラズマの流路に磁場を印加してプラズマの進行方向を曲げ、前記パーティクルトラップ部に向かうマクロパーティクルと前記成膜チャンバに向かうプラズマとに分離する工程と、前記プラズマ輸送部において、前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ分離部に最も近い電場フィルタ部に負の電圧であって他の電場フィルタ部に印加する電圧よりも低い電圧を印加しつつ前記プラズマを前記成膜チャンバまで輸送する工程と、前記成膜チャンバ内において前記プラズマ中に含まれるイオンを前記基体上に付着させて膜を形成する工程とを有する成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
上記一観点によれば、プラズマの流路に沿って配置された複数の電場フィルタ部を備えたプラズマ輸送部を通って、成膜チャンバにプラズマが輸送される。プラズマ分離部に最も近い電場フィルタ部には負の電圧であって他の電場フィルタ部に印加される電圧よりも低い電圧が印加される。これにより、プラズマ輸送部に進入した正に帯電したマクロパーティクルが電場フィルタ部に引き付けられて、プラズマ中からマクロパーティクルが除去される。
【0014】
また、プラズマ分離部に最も近い電場フィルタ部には負の電圧であって他の電場フィルタ部に印加される電圧よりも低い電圧が印加されるため、後述するようにプラズマ中のイオンが加速される。これにより、基体上にイオンが堆積する速度、すなわち成膜レートが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施の形態に係る成膜装置を示す模式図である。
【図2】図2は、同じくその成膜装置の輸送部を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例2の成膜方法におけるプラズマ輸送部の模式図である。
【図4】図4は、第1及び第2電場フィルタ部の電位差と成膜レートとの関係を示す図である。
【図5】図5は、比較例2〜4の成膜方法におけるプラズマ輸送部の模式図である。
【図6】図6は、実施例1,2及び比較例1〜4の成膜レート及びマクロパーティクル数をまとめて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0017】
(成膜装置)
図1は、実施形態に係る成膜装置(FCA成膜装置)を示す模式図である。この図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置は、プラズマ発生部10と、プラズマ分離部20と、パーティクルトラップ部30と、プラズマ輸送部40と、成膜チャンバ50とを有している。プラズマ発生部10、プラズマ分離部20及びパーティクルトラップ部30はいずれも筒状に形成され、プラズマ発生部10、プラズマ分離部20及びパーティクルトラップ部30の順で直線上に配置されて連結されている。
【0018】
プラズマ輸送部40も筒状に形成されており、その一端側がプラズマ分離部20にほぼ垂直に接続され、他端側が成膜チャンバ50に接続されている。成膜チャンバ50内には、成膜すべき基板(基体)51が載置されるステージ(図示せず)が設けられている。
【0019】
以下、成膜装置の各部についてより詳細に説明する。プラズマ発生部10の筐体下端部には絶縁板11が配置されており、この絶縁板11の上にはターゲット(カソード)12が配置されている。また、プラズマ発生部10の筐体下端部の外側にはカソードコイル14が設けられており、筐体の内壁面にはアノード13が設けられている。成膜時には、電源(図示せず)からターゲット(カソード)12とアノード13との間に所定の電圧が印加されてアーク放電が発生し、ターゲット12の表面上方にプラズマが生成される。また、電源からカソードコイル14に所定の電流が供給され、カソードコイル14からアーク放電を安定化させる磁場が発生する。
【0020】
ターゲット12は、その構成分子が蒸発してプラズマ中に成膜材料を供給するので、成膜材料を含むもので形成されていることが必要である。本実施形態では、基板51上にDLC膜を形成するので、ターゲット12としてカーボングラファイトを使用する。なお、プラズマ発生部10には、アーク放電のトリガとなる電圧を印加するためのトリガ電極等が存在するが、図1ではそれらの図示を省略している。また、プラズマ発生部10には、必要に応じてプラズマ発生部10内に反応性ガス又は不活性ガスを供給するガス供給口(図示せず)が設けられている。
【0021】
プラズマ分離部20は、図1に示すようにプラズマ発生部10よりも細径に形成されている。また、プラズマ発生部10とプラズマ分離部20との境界部分には、絶縁部材21が設けられている。この絶縁部材21により、プラズマ発生部10とプラズマ分離部20との間が電気的に分離されている。
【0022】
プラズマ分離部20の筐体の外周には、プラズマ発生部10で発生したプラズマを筐体中心部に収束させつつ所定の方向に移動させるための磁場を発生するガイドコイル22a,22bが設けられている。また、パーティクルトラップ部30とプラズマ輸送部40との分岐部には、プラズマの進行方向をほぼ90°曲げる磁場(以下、「斜め磁場」という)を発生する斜め磁場発生コイル23が設けられている。
【0023】
パーティクルトラップ部30には、プラズマ発生部10で発生したマクロパーティクルがプラズマ分離部20の斜め磁場の影響を殆ど受けることなく直進して進入する。パーティクルトラップ部30の上端部には、マクロパーティクルを捕捉する複数の傾斜板からなるパーティクル捕捉部材31が配置されている。
【0024】
プラズマ輸送部40は、プラズマ分離部20側の第1電場フィルタ部40aと、成膜チャンバ50側の第2電場フィルタ部40bとを有している。プラズマ分離部20と第1電場フィルタ40aとの間、第1電場フィルタ40aと第2電場フィルタ40bとの間、及び第2電場フィルタ40bと成膜チャンバ50との間は、それぞれ絶縁部材43により電気的に分離されている。また、第1電場フィルタ40a及び第2電場フィルタ40bの内壁面には、プラズマ輸送部40内に進入したマクロパーティクルを捕捉するための複数の傾斜板からなるパーティクル捕捉部材42が設けられている。
【0025】
プラズマ輸送部40の外周には、プラズマ分離部20で分離されたプラズマを筐体中心部に収束させつつ成膜チャンバ50側に移動させる磁場を発生するガイドコイル41が設けられている。なお、図1では第2電場フィルタ部40bの周囲にガイドコイル41が設けられているが、第1電場フィルタ40a側にガイドコイル41が設けられていてもよい。また、第1電場フィルタ部40a及び第2電場フィルタ部40bの両方にガイドコイル41が設けられていてもよい。
【0026】
図2に示すように、第1電場フィルタ部40aには電源44aから負の第1の電圧が印加され、第2電場フィルタ部44bには電源44bから第1の電圧よりも電位が高い第2の電圧が印加される。第1の電圧は負であることが必要であるが、第2の電圧は負でもよく、正でもよい。但し、第1の電圧と第2の電圧との電位差は10V以上あることが好ましい。また、第2の電圧は+5V以下であることが好ましい。ここでは、第1の電圧を−20V、第2の電圧を−5Vとする。
【0027】
成膜チャンバ50には、前述したように基板51が載置されるステージ(図示せず)が設けられている。基板51は、その表面(成膜面)をプラズマが流入する方向に向けて配置される。なお、ステージには基板51をプラズマ流入方向に対し傾斜させる機構や基板51を回転させる機構が設けられていてもよい。また、成膜チャンバ50には真空装置(図示せず)が接続されており、この真空装置により成膜装置の内部空間を所定の圧力に維持することができる。基板51としては、予め記録層(磁性層)が形成された磁気記録媒体用基板や、記録素子及び再生素子(MR素子等)が形成された磁気ヘッド用基板等を用いることができる。
【0028】
(成膜方法)
以下、上述の構造を有する本実施形態に係る成膜装置を使用したDLC膜の成膜方法について説明する。
【0029】
基板51上にDLC膜を形成する場合、カソードとしてカーボングラファイトターゲットを使用する。そして、真空装置を稼働させて成膜装置内の圧力を10-5Pa〜10-3Paに維持する。また、例えばアーク電流が60A、アーク電圧が30V、カソードコイル電流が10Aの条件でプラズマを発生させる。
【0030】
プラズマ発生部10で発生したプラズマは、プラズマ分離部20に進入し、ガイドコイル22a,22bが発生する磁場により分岐部に移動する。そして、斜め磁場発生コイル23が発生する斜め磁場により急激に進行方向が曲げられ、プラズマ輸送部40に進入する。図1中の矢印Aは、斜め磁場発生コイル23が発生する斜め磁場により成膜チャンバ50側に進行方向が曲げられたプラズマの移動方向を示している。
【0031】
一方、プラズマ発生部10においてアーク放電により発生したマクロパーティクルは、電荷をもたない又は重量に対して極めて小さい電荷しかもたないため、ガイドコイル22a,22b及び斜め磁場発生コイル23が発生する磁場の影響を殆ど受けずに直進する。そして、パーティクルトラップ部30において、パーティクル捕捉部材31に捕捉される。図1中の矢印Bは、マクロパーティクルの移動方向を示している。
【0032】
マクロパーティクルのうち電荷を有するものの一部は、斜め磁場発生コイル23で発生する斜め磁場により進行方向が曲げられてプラズマ輸送部40に進入する。また、プラズマ発生部10やプラズマ分離部20の筺体壁面で反射したマクロパーティクルの一部も、プラズマ輸送部40に進入する。
【0033】
プラズマ輸送部40に進入したプラズマは、ガイドコイル41により成膜チャンバ50に輸送される。このプラズマ輸送部40では、負電圧が印加された第1電場フィルタ部40a及び第2電場フィルタ部40bにより、正に帯電したマクロパーティクルが引きつけられてパーティクル捕捉部材42に捕捉される。また、筺体壁面を反射しながら成膜チャンバ50方向に移動するマクロパーティクルも、パーティクル捕捉部材42により捕捉される。
【0034】
このようにして、プラズマ輸送部40に進入したマクロパーティクルの大部分は、プラズマ輸送部40の内面に設けられたパーティクル捕捉部材42に捕捉される。
【0035】
一方、プラズマ輸送部40に進入したプラズマは、第1電場フィルタ40a及び第2電場フィルタ40bに印加される電圧により加速され、ガイドコイル41が発生する磁場により案内されて、成膜チャンバ50内に移動する。そして、基板51の表面上にプラズマ中に含まれるカーボンが堆積して、DLC膜が形成される。
【0036】
このようにして、基板51の表面上にマクロパーティクルをほとんど含まない高品質のDLC膜を形成することができる。磁気記録媒体又は磁気ヘッドの保護膜としてDLC膜を形成する場合は、磁気スペーシングを小さくするために、DLC膜の膜厚を3.5nm以下とすることが好ましい。
【0037】
(実験)
以下に、第1電場フィルタ部40a及び第2電場フィルタ部40bに印加する電圧とDLC膜の成膜レートとの関係を調べた結果について説明する。
【0038】
まず、直径が2.5インチ(約65mm)のアルミニウム合金からなる複数の基板を用意した。そして、これらの基板の上に、スパッタリング法によりCr合金からなる厚さが20nmの下地膜と、厚さが3nmのCoCrPtTa合金(Co:67%、Cr:20%、Pt:10%、Ta:3%)と厚さが10nmのCoCrPtB合金膜(Co:60%、Cr:25%、Pt:14%、B:6%)を含む多層膜とを順次形成した。
【0039】
次に、ターゲットとしてカーボングラファイトを用いて、基板上(Co金属膜上)にDLC膜を約3.0nmの厚さに形成した。このとき、プラズマ輸送部40の第1電場フィルタ部40aには−20Vの電圧を印加し、第2電場フィルタ部40bに印加する電圧は、−20V、−15V、−12V、−10V、−5V、0V(接地電位)及び+5Vと変化させた。なお、アーク電流は60A、アーク電圧は30V、カソードコイル電流は10Aである。
【0040】
図4は、横軸に第1電場フィルタ部40aに印加する電圧と第2電場フィルタ部40bに印加する電圧との電位差をとり、縦軸に成膜レートをとって、両者の関係を示す図である。この図4から、第1電場フィルタ部40aと第2電場フィルタ部40bとの電位差を10V以上とすることにより、成膜レートを0.19nm/sec以上と高くすることができることがわかる。また、図4から、第1電場フィルタ部40aと第2電場フィルタ部40bとの電位差を20V以上としても、成膜レートはほとんど変化しないことがわかる。
【0041】
第1電場フィルタ40aに印加する電圧は、正に帯電したマクロパーティクルを除去するという観点から、負であることが必要である。第1電場フィルタ40aと第2電場フィルタ40bとの間に10V以上の電位差を与えることにより成膜レートが向上する原因は明らかではないものの、以下のように考えることができる。
【0042】
すなわち、プラズマ輸送路40中に進入したプラズマ中には、電子とカーボンイオンとが含まれている。第2電場フィルタ部40bに第1電場フィルタ部40aよりも高い電圧を印加すると、プラズマ中の電子は第1電場フィルタ部40aと第2電場フィルタ部40bとの電位差により加速される。この電子の移動に追従してカーボンイオンも加速され、単位時間当たりに成膜チャンバ50に到達するカーボンイオンの量が多くなる。その結果、DLC膜の成膜レートが高くなると考えられる。
【0043】
(実施例)
以下、実施形態の成膜方法により実際にDLC膜を形成して成膜レートとマクロパーティクル数とを調べた結果について、比較例と比較して説明する。なお、以下の実施例1,2及び比較例1〜4において、成膜時のアーク電流、アーク電圧及び圧力等の条件は、前述の実験時の条件と同じである。
【0044】
基板として、直径が2.5インチ(約65mm)のアルミニウム合金板の上に下地層(Cr)及びCo合金層を形成した円板を用意した。そして、実施例1として、図1に示す成膜装置を使用し、図2に示すように第1電場フィルタ部40a及び第2電場フィルタ部40bにいずれも負の電圧を印加してDLC膜を形成した。すなわち、第1電場フィルタ40aに印加する電圧(電源44aの電圧)を−20V、第2電場フィルタ40bに印加する電圧(電源44bの電圧)を−5Vとして、基板上にDLC膜を約3nmの厚さに形成した。
【0045】
また、実施例2として、図1に示す成膜装置を使用し、図3に示すように第1電場フィルタ部40aに負の電圧を印加し、第2電場フィルタ部40bに正の電圧を印加してDLC膜を形成した。すなわち、第1電場フィルタ40aに印加する電圧(電源44aの電圧)を−20V、第2電場フィルタ40bに印加する電圧(電源44bの電圧)を+5Vとして、基板上にDLC膜を約3nmの厚さに形成した。
【0046】
一方、比較例1として、図1に示す成膜装置を使用し、第1電場フィルタ40aに印加する電圧を+5V、第2電場フィルタ40bに印加する電圧を+20Vとして、基板上にDLC膜を約3nmの厚さに形成した。
【0047】
また、比較例2として、図5に示すようにプラズマ輸送部50が一体的に形成されていること以外は図1に示す成膜装置と同じ構造の成膜装置を使用し、プラズマ輸送部50(電場フィルタ部40c)に電源44cから+15Vの電圧を印加して、基板上にDLC膜を約3nmの厚さに形成した。
【0048】
更に、比較例3として、比較例2と同様の成膜装置を使用し、プラズマ輸送部50(電場フィルタ部40c)に電源44cから+40Vの電圧を印加して、基板上にDLC膜を約3nmの厚さに形成した。
【0049】
更にまた、比較例4として、比較例2と同様の成膜装置を使用し、プラズマ輸送部50(電場フィルタ部40c)に電源44cから−15Vの電圧を印加して、基板上にDLC膜を約3nmの厚さに形成した。
【0050】
これらの実施例1,2及び比較例1〜4の基板に対し、成膜時間と平均膜厚との関係を調べ、成膜レートを計算した。なお、平均膜厚の測定は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による断面観察による。また、DLC膜の厚さを3.0nmとした場合のマクロパーティクル数を光学表面分析装置(Optical Surface Analyzer;OSA)を用いて計測した。これらの結果を、図6にまとめて示す。
【0051】
図6から、実施例1ではマクロパーティクルの数が70であり、実施例2ではマクロパーティクルの数が76であり、いずれもパーティクルの数が少ないことがわかる。また、実施例1の成膜レートは0.2nm/sec、実施例2の成膜レートは0.22nm/secであり、高い成膜レートが得られていることもわかる。なお、2.5インチディスクの場合、成膜面のマクロパーティクルの数は100個/面以下であればよいとされている。
【0052】
一方、第1及び第2の電場フィルタ部にいずれも正の電圧を印加した比較例1では、成膜レートは0.2nm/secと高いものの、マクロパーティクルの数は200個と多いものであった。
【0053】
また、一体的に形成されたプラズマ輸送部に+15Vの電圧を印加した比較例2、及び+40Vの電圧を印加した比較例3は、いずれも成膜レートは高いものの、パーティクル数も多い。更に、一体的に形成されたプラズマ輸送部に−15Vの電圧を印加した比較例4は、パーティクル数は70と少ないものの、成膜レートが0.05nm/secと極めて遅くなった。
【0054】
なお、上述した実施形態では基板51上にDLC膜を形成する場合について説明したが、これにより本発明に係る成膜装置の用途がDLC膜の形成に限定されるものではなく、本発明に係る成膜装置は種々の材料からなる膜の形成に使用できることは勿論である。
【0055】
また、上述した実施形態ではプラズマ輸送部40に2つの電場フィルタ部(電場フィルタ40a,40b)が設けられている場合について説明したが、プラズマ輸送部40に3以上の電場フィルタ部が設けられていてもよい。その場合、プラズマ発生部に最も近い側の電場フィルタ部に最も低い電圧を印加すればよい。
【符号の説明】
【0056】
10…プラズマ発生部、11…絶縁板、12…ターゲット(カソード)、13…アノード、14…カソードコイル、20…プラズマ分離部、21…絶縁部材、 22a,22b,41…ガイドコイル、23…斜め磁場発生コイル、30…パーティクルトラップ部、31,42…パーティクル捕捉部材、40…プラズマ輸送部、40a〜44c…電場フィルタ部、43…絶縁部材、44a〜44c…電源、50…成膜チャンバ、51…基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク放電によりプラズマを発生するプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部に接続するプラズマ分離部と、前記プラズマ分離部に接続するパーティクルトラップ部と、基体が載置される成膜チャンバと、プラズマの流路に沿って配置された複数の電場フィルタ部を備え、前記プラズマ分離部と前記成膜チャンバとの間を接続するプラズマ輸送部とを有する成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記プラズマ発生部でプラズマを発生する工程と、
前記プラズマ発生部で発生したプラズマを前記プラズマ分離部に流入させ、該プラズマ分離部において前記プラズマの流路に磁場を印加してプラズマの進行方向を曲げ、前記パーティクルトラップ部に向かうマクロパーティクルと前記成膜チャンバに向かうプラズマとに分離する工程と、
前記プラズマ輸送部において、前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ分離部に最も近い電場フィルタ部に負の電圧であって他の電場フィルタ部に印加する電圧よりも低い電圧を印加しつつ前記プラズマを前記成膜チャンバまで輸送する工程と、
前記成膜チャンバ内において前記プラズマ中に含まれるイオンを前記基体上に付着させて膜を形成する工程と
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ分離部に最も近い電場フィルタ部に印加する電圧が−15V以下であることを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ分離部から最も遠い電場フィルタ部に印加する電圧を、前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ分離部に最も近い電場フィルタ部に印加する電圧よりも10V以上高い電圧とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記基体上にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ分離部から最も遠い電場フィルタ部に印加する電圧を+5V以下とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項6】
ターゲットとアノードとの間にアーク放電を発生させてプラズマを生成するプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部から進入したプラズマの流路を磁場により曲げてプラズマとマクロパーティクルとを分離するプラズマ分離部と、
前記プラズマ分離部で分離された前記マクロパーティクルを捕捉するパーティクルトラップ部と、
基体が配置され、前記プラズマ分離部で分離されたプラズマ中に含まれるイオンを前記基体上に付着させて膜を形成する成膜チャンバと、
前記プラズマ分離部で分離されたプラズマを前記成膜チャンバに輸送するプラズマ輸送部と、
前記プラズマ輸送部に電圧を印加する電源とを備え、
前記プラズマ輸送部は前記プラズマの流路に沿って配置された複数の電場フィルタ部を備え、前記電源は前記複数の電場フィルタ部のうち前記プラズマ発生部に最も近い電場フィルタ部に負の電圧であって他の電場フィルタ部に印加する電圧よりも低い電圧を印加することを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−261059(P2010−261059A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110763(P2009−110763)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】