説明

成膜装置および成膜方法

【課題】筒状体の内周面に均一な膜厚で、かつ均一なドープ濃度で共蒸着膜を形成可能な成膜装置および成膜方法。
【解決手段】成膜装置30は、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜装置であって、筒状体1を保持するための筒状体ホルダ2と、第1の蒸着材料11を充填するための内部空間を有する第1の蒸着容器12と、第2の蒸着材料12を充填するための内部空間を有する第2の蒸着容器22とを備えている。筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とは、筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動可能であり、筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線A−Aを中心として互いに相対的に回転可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関するものであり、より特定的には、筒状体の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜装置および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)素子において、発光輝度および発光寿命の向上のために、正孔および電子移動度の高いホスト材料と共に、発光輝度を上昇させるためのドーパント材料を蒸着し、共蒸着膜を形成することは周知の技術である。しかし、共蒸着膜の形成においては、膜厚の均一性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保しなければ、輝度ムラを生じるという問題点がある。
【0003】
平面状の基板に共蒸着膜を形成するための成膜装置および成膜方法は、たとえば特開2000−68055号公報(特許文献1)、特開2000−223269号公報(特許文献2)、および特開2002−348659号公報(特許文献3)に開示されている。
【0004】
また、円筒管の内周面に単一の材料を蒸着するための成膜装置および成膜方法は、たとえば特開2002−173764号公報(特許文献4)および特開2002−142252号公報(特許文献5)に開示されている。しかし、これらの成膜装置および成膜方法においては、共蒸着膜の形成への適用について何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−68055号公報
【特許文献2】特開2000−223269号公報
【特許文献3】特開2002−348659号公報
【特許文献4】特開2002−173764号公報
【特許文献5】特開2002−142252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1〜3に記載の技術は、平面状の基板に共蒸着膜を形成するものであるため、円筒管のような筒状体の内周面に共蒸着膜を均一な膜厚および均一なドープ濃度で形成することができない。
【0007】
上記の特許文献4および5には、共蒸着膜に関する記載はない。このため上記の特許文献4および5に記載の技術によれば、円筒管のような筒状体の内周面に共蒸着膜を均一な膜厚および均一なドープ濃度で形成することができない。
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、筒状体の内周面に均一な膜厚で、かつ均一なドープ濃度で共蒸着膜を形成可能な成膜装置および成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従った成膜装置は、筒状体の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜装置である。この成膜装置は、筒状体を保持するための筒状体ホルダと、第1の蒸着材料を充填するための内部空間を有する第1の蒸着容器と、第2の蒸着材料を充填するための内部空間を有する第2の蒸着容器とを備えている。筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とは、筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動することができるように構成されている。筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とは、筒状体の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転することができるように構成されている。
【0010】
本発明の成膜装置によれば、第1および第2の蒸着容器の各々の内部空間に第1および第2の蒸着材料を充填できるため、第1および第2の蒸着材料を含む共蒸着膜を筒状体の内周面に形成することができる。また筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とを、筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させることができるため、第1および第2の蒸着容器を筒状体の外部から内部へ挿入し、かつ内部から外部へ抜き出すことができる。また筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とを、筒状体の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転させることができるため、その回転をさせながら筒状体の内周面に共蒸着膜を形成することができる。これにより、筒状体の内表面に均一な膜厚で、かつ均一なドープ濃度の共蒸着膜を形成することができる。
【0011】
上記の成膜装置において、成膜装置の第1の蒸着容器には、第1の蒸着材料を第1の蒸着容器の内部空間から外部へ放出するための第1の開口部が形成されている。第2の蒸着容器には、第2の蒸着材料を第2の蒸着容器の内部空間から外部へ放出するための第2の開口部が形成されている。第1の開口部は、第1の蒸着容器に対して第2の蒸着容器が配置された側とは反対側に配置されている。第2の開口部は、第2の蒸着容器に対して第1の蒸着容器が配置された側とは反対側に配置されている。
【0012】
このように第1の開口部が第1の蒸着容器に対して第2の蒸着容器とは反対側に配置されているため、第1の開口部から放出された第1の蒸着材料が第2の蒸着容器に付着しにくくなる。また第2の開口部が第2の蒸着容器に対して第1の蒸着容器とは反対側に配置されているため、第2の開口部から放出された第2の蒸着材料が第1の蒸着容器に付着しにくくなる。
【0013】
上記の成膜装置において、第1および第2の開口部の各々は、筒状体の延在する方向と直交する方向に細長く延びたスリット形状を有している。
【0014】
これにより、第1および第2の蒸着材料を蒸発させた際に、第1および第2の蒸着材料が第1および第2の開口部にて詰まることを抑制することができる。
【0015】
上記の成膜装置は、第1の蒸着材料の蒸着速度を測定するための第1の蒸着レートセンサと、第2の蒸着材料の蒸着速度を測定するための第2の蒸着レートセンサとをさらに備えている。第1の蒸着レートセンサは、第1の開口部と対向する位置に配置されている。第2の蒸着レートセンサは、第2の開口部と対向する位置に配置されている。
【0016】
これにより、第1および第2の蒸着材料の蒸着速度を第1および第2の蒸着レートセンサにより測定することができる。
【0017】
上記の成膜装置は、第1のヒータと、第2のヒータと、制御部とをさらに備えている。第1のヒータは、第1の蒸着材料を加熱するためのものである。第2のヒータは、第2の蒸着材料を加熱するためのものである。制御部は、第1の蒸着レートセンサにより測定された蒸着速度の情報に基づいて第1のヒータの出力を制御し、かつ第2の蒸着レートセンサにより測定された蒸着速度の情報に基づいて第2のヒータの出力を制御するためのものである。
【0018】
これにより、第1および第2の蒸着材料の各々の蒸着速度の情報に基づいて、第1および第2の蒸着材料の各々の加熱温度を制御することができる。
【0019】
上記の成膜装置において、制御部は、第1の蒸着レート調整器と、第1のヒータ出力調整器と、第2の蒸着レート調整器と、第2のヒータ出力調整器とを含んでいる。第1の蒸着レート調整器は、第1の蒸着レートセンサにより測定された蒸着速度を判定するためのものである。第1のヒータ出力調整器は、第1の蒸着レート調整器による判定に基づいて第1のヒータの出力を制御するためのものである。第2の蒸着レート調整器は、第2の蒸着レートセンサにより測定された蒸着速度を判定するためのものである。第2のヒータ出力調整器は、第2の蒸着レート調整器による判定に基づいて第2のヒータの出力を制御するためのものである。。
【0020】
これにより、第1および第2の蒸着材料の加熱を、それぞれ個別に制御することができる。
【0021】
上記の成膜装置は、第1の蒸着容器の温度を測定するための第1の温度測定子と、第2の蒸着容器の温度を測定するための第2の温度測定子とをさらに備えている。制御部は、第1の温度測定子により測定された第1の蒸着容器の温度を判定するための第1の蒸着容器温度調整器と、第2の温度測定子により測定された第2の蒸着容器の温度を判定するための第2の蒸着容器温度調整器とをさらに含んでいる。第1のヒータ出力調整器は、第1の蒸着容器温度調整器による判定に基づいて第1のヒータの出力を制御可能に構成されている。第2のヒータ出力調整器は、第2の蒸着容器温度調整器による判定に基づいて第2のヒータの出力を制御可能に構成されている。
【0022】
これにより、第1および第2の蒸着容器の温度の情報に基づいて、第1および第2の蒸着材料の加熱を制御することができる。
【0023】
本発明に従った成膜方法は、筒状体の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜方法であって以下の工程を備えている。
【0024】
筒状体が筒状体ホルダに保持される。第1の蒸着材料が第1の蒸着容器の内部に充填され、第2の蒸着材料が第2の蒸着容器の内部に充填される。筒状体を保持した筒状体ホルダと第1および第2の蒸着材料のそれぞれが内部に充填された第1および第2の蒸着容器とを筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させることによって、第1および第2の蒸着容器の双方が筒状体の内部に挿入される。第1および第2の蒸着容器の双方を筒状体の内部に挿入した状態で筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とを筒状体の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転させながら、第1および第2の蒸着材料を蒸発させて第1および第2の蒸着材料を含む共蒸着膜が筒状体の内周面に形成される。
【0025】
本発明の成膜方法によれば、第1および第2の蒸着容器の各々の内部空間に第1および第2の蒸着材料を充填できるため、第1および第2の蒸着材料を含む共蒸着膜を筒状体の内周面に形成することができる。また筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とを、筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させることができるため、第1および第2の蒸着容器を筒状体の外部から内部へ挿入し、かつ内部から外部へ抜き出すことができる。また、筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とを、筒状体の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転させることができるため、その回転をさせながら筒状体の内周面に共蒸着膜を形成することができる。これにより、筒状体の内周面に均一な膜厚で、かつ均一なドープ濃度の共蒸着膜を形成することができる。
【0026】
上記の成膜方法において、共蒸着膜を筒状体の内周面に形成する工程は、筒状体ホルダと第1および第2の蒸着容器とを筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させて実施される。
【0027】
これにより、長い筒状体であっても、膜厚の均一性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保しつつ共蒸着膜を形成することができる。
【0028】
上記の成膜方法においては、共蒸着膜を筒状体の内周面に形成する間において、第1の蒸着材料を加熱するための第1のヒータの出力が、第1および第2の蒸着容器の双方が筒状体の内部に挿入される直前の第1のヒータの出力に保持され、かつ第2の蒸着材料を加熱するための第2のヒータの出力が、第1および第2の蒸着容器の双方が筒状体の内部に挿入される直前の第2のヒータの出力に保持される。
【0029】
これにより、蒸着容器の双方が筒状体の内部に挿入され、第1および第2の蒸着材料の各々の蒸着速度を測定できない状態においても、第1および第2のヒータの出力を保持することにより第1および第2の蒸着材料の加熱を制御することができる。
【0030】
上記の成膜方法においては、共蒸着膜を筒状体の内周面に形成する間において、第1の蒸着容器の温度を第1の温度測定子により測定し、第1の温度測定子により測定された第1の蒸着容器の温度に基づいて第1のヒータの出力を制御することで第1の蒸着材料の温度が一定に保持され、かつ第2の蒸着容器の温度を第2の温度測定子により測定し、第2の温度測定子により測定された第2の蒸着容器の温度に基づいて第2のヒータの出力を制御することで第2の蒸着材料の温度が一定に保持される。
【0031】
これにより、蒸着容器の双方が筒状体の内部に挿入され、第1および第2の蒸着材料の各々の蒸着速度を測定できない状態においても、第1および第2の蒸着容器の温度情報に基づいて第1および第2の蒸着材料の加熱を制御することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から明らかなように、本発明の成膜装置および成膜方法によれば、筒状体の内周面への共蒸着膜の形成において、共蒸着膜の膜厚の均一性、再現性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態における成膜装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における成膜装置の蒸着容器に形成される開口部の形状を説明するための蒸着容器の概略断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態における成膜装置の蒸着容器に形成された開口部の形状の一例を説明するための蒸着容器の構成を示す概略正面図(A)と、概略側面図(B)である。
【図5】本発明の一実施の形態における成膜装置の蒸着容器に形成された開口部の形状の他の例を説明するための蒸着容器の構成を示す概略正面図(A)と、概略側面図(B)である。
【図6】本発明の一実施の形態における成膜装置の機能ブロック図である。
【図7】本発明の一実施の形態における成膜装置の制御フローを示すフロー図である。
【図8】本発明の一実施の形態における成膜方法の成膜時の様子を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施の形態における成膜方法を用いて製造された有機EL発光装置の一例を示す概略上面図(A)と、概略側面図(B)である。
【図10】図9(B)のX−X線に沿う有機EL発光装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0035】
最初に、本発明の一実施の形態に係る成膜装置の構成について図1〜図6を用いて説明する。
【0036】
図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る成膜装置30は、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜装置であって、被蒸着側の装置30Aと、蒸着側の装置30Bと、検知・制御装置30Cとを主に有している。
【0037】
被蒸着側の装置30Aは、筒状体ホルダ2と、回転子3とを主に有している。筒状体ホルダ2は、たとえば筒状体1の外周端縁を保持することにより筒状体1を吊り下げて保持することができるよう構成されている。回転子3は、筒状体ホルダ2に接続されており、かつ筒状体1の延在する方向UDの仮想の軸線A−Aを中心にして筒状体ホルダ2を回転できるように構成されている。なお筒状体1は、たとえばガラスよりなっている。また、筒状体1の内周面には透明導電膜などが形成されていてもよい。透明導電膜としては、たとえばITO(Indium Tin Oxide)などを用いることができる。
【0038】
蒸着側の装置30Bは、蒸着源ホルダ4と、第1の蒸着容器12と、第2の蒸着容器22とを主に有している。第1の蒸着容器12は、共蒸着膜を形成する材料である第1の蒸着材料を充填するための内部空間を有している。また第2の蒸着容器22は、共蒸着膜を形成する材料である第2の蒸着材料を充填するための内部空間を有している。第1および第2の蒸着材料は、それぞれ共蒸着膜を形成するためのホスト材料およびドーパント材料に対応する。蒸着源ホルダ4は、第1の蒸着容器12および第2の蒸着容器22のそれぞれを保持している。
【0039】
第1の蒸着容器12には、第1の蒸着材料を第1の蒸着容器12の内部空間から外部へ放出するための第1の開口部13が形成されている。同様に、第2の蒸着容器22には、第2の蒸着材料を第2の蒸着容器22の内部空間から外部へ放出するための第2の開口部23が形成されている。
【0040】
これにより第1の蒸着容器12の内部空間で蒸発した第1の蒸着材料は点線11aで示すように第1の開口部13から第1の蒸着容器12の外部へ放出され得る。また第2の蒸着容器22の内部空間で蒸発した第2の蒸着材料は点線21aで示すように第2の開口部23から第2の蒸着容器22の外部へ放出され得る。
【0041】
検知・制御装置30Cは、たとえば第1および第2の蒸着レートセンサ10、20などを含んでいる。第1の蒸着レートセンサ10は第1の蒸着容器12から放出される第1の蒸着材料の蒸着速度を測定するためのものであり、第2の蒸着レートセンサ20は第2の蒸着容器22から放出される第2の蒸着材料の蒸着速度を測定するためのものである。第1の蒸着レートセンサ10は第1の蒸着容器12と離れて第1の開口部13と対向する位置に配置されており、第2の蒸着レートセンサ20は第2の蒸着容器22と離れて第2の開口部23と対向する位置に配置されている。
【0042】
上記の筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とは、筒状体1の延在する方向UD(筒状体1の仮想の軸線A−A方向)に沿って互いに相対的に移動可能なように構成されている。つまり筒状体ホルダ2に対して第1および第2の蒸着容器12、22が筒状体1の延在する方向に沿って移動可能に、または第1および第2の蒸着容器12、22に対して筒状体ホルダ2が筒状体1の延在する方向に沿って移動可能に、または筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22との双方が筒状体1の延在する方向に沿って移動可能に構成されている。これにより第1および第2の蒸着容器12、22を、筒状体ホルダ2に保持された筒状体1の内部に挿入、抜き出し可能であり、また筒状体1の内部で筒状体1の延在する方向に沿って移動可能である。
【0043】
筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とは、筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線A−Aを中心として互いに相対的に回転可能なように構成されている。つまり筒状体ホルダ2に対して第1および第2の蒸着容器12、22が軸線A−Aを中心として回転可能に、または第1および第2の蒸着容器12、22に対して筒状体ホルダ2が軸線A−Aを中心として回転可能に、または筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22との双方が軸線A−Aを中心として回転可能に構成されている。
【0044】
本実施の形態では上述したように、たとえば回転子3により筒状体ホルダ2が第1および第2の蒸着容器12、22に対して図中時計回りR1または半時計回りR2のいずれかに回転可能である。
【0045】
次に、第1および第2の開口部13、23の位置および形状について図1〜図6を用いて説明する。
【0046】
図1および図2を参照して、第1の開口部13は、第1の蒸着容器12に対して第2の蒸着容器22が配置された側とは反対側に配置されている。同様に、第2の開口部23は、第2の蒸着容器22に対して第1の蒸着容器12が配置された側とは反対側に配置されている。このように、第1および第2の開口部13、23を配置することにより、第1の蒸着材料11が第2の蒸着容器22に付着することを抑制することができる。同様に、第2の蒸着材料21が第1の蒸着容器12に付着することを抑制することができる。
【0047】
第1および第2の開口部13、23の大きさや形状は、共蒸着膜を形成するために用いるホスト材料やドーパント材料の種類により選択することが可能である。たとえば第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度が比較的速い場合には、図3および図4(A)、(B)を参照して、第1および第2の開口部13、23の各々は、筒状体1の延在する方向と直交する方向に細長く延びたスリット形状を有していることが好ましい。具体的には、第1の蒸着容器12が円筒形状を有する場合には、第1の開口部13は、第1の蒸着容器12の円周方向に沿って細長く延びたスリット形状を有していることが好ましい。同様に、第2の蒸着容器22が円筒形状を有する場合には、第2の開口部23は、第2の蒸着容器22の円周方向に沿って細長く延びたスリット形状を有していることが好ましい。
【0048】
また、図2および図3に示すように、第1の開口部13は、第1の蒸着容器12に対して第2の蒸着容器22が配置された側とは正反対側において円周方向に180°の範囲で形成されていることが好ましい。これにより、第1の蒸着材料11を蒸発させた際に、第1の蒸着材料11が第2の蒸着容器22に付着することを防止できるとともに、第1の開口部13を広く確保できるため第1の開口部13が蒸発した第1の蒸着材料11の付着により詰まることが抑制される。
【0049】
また第2の開口部23は、第2の蒸着容器22に対して第1の蒸着容器12が配置された側とは正反対側において円周方向に180°の範囲で形成されていることが好ましい。これにより上記と同様、第2の蒸着材料21を蒸発させた際に、第2の蒸着材料21が第1の蒸着容器12に付着することを防止できるとともに、第2の開口部23において詰まることが抑制される。
【0050】
また、たとえば第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度が比較的遅い場合には、図5(A)、(B)を参照して、第1および第2の開口部13、23の各々は、円周方向に沿って配置された複数個の貫通孔から構成されていてもよい。この複数の貫通孔はたとえば5〜6個の丸形状であってもよい。ただし、円周方向に沿って配置される貫通孔の個数はこれに限定されるものではなく、1個以上であればよい。また複数の貫通孔の形状は丸(円)形状に限定されるものではなく、四角、三角などの多角形状や、それ以外の任意の形状であってもよい。
【0051】
また、たとえば第1および第2の開口部13、23の一方が上記のスリット形状で他方が複数の貫通孔からなる形状であってもよい。これにより蒸着速度が第1および第2の蒸着材料11、21で異なる場合にも対応することができる。
【0052】
次に、本実施の形態に係る成膜装置の検知・制御装置30Cの構成について図6を用いて説明する。本実施の形態に係る成膜装置に用いられる検知・制御装置30Cは、ヒータ出力を制御するためのものであり、第1および第2の蒸着レートセンサ10、20と、第1および第2の蒸着レートモニタ14、24と、制御部15、25と、第1および第2の温度測定子18、28と、第1および第2のヒータ19、29とを有している。
【0053】
第1および第2の蒸着レートセンサ10、20のそれぞれは、上述したように第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度を検出できるように配置されている。第1の蒸着レートモニタ14は第1の蒸着レートセンサ10に接続されており、第1の蒸着レートセンサ10により測定された蒸着レートを信号変換処理した後に表示できるように構成されている。また第2の蒸着レートモニタ24は第2の蒸着レートセンサ20に接続されており、第2の蒸着レートセンサ20により測定された蒸着レートを信号変換処理した後に表示できるように構成されている。これにより、第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度を目視により確認することができる。
【0054】
第1のヒータ19は、第1の蒸着容器12の内部空間12aに充填された第1の蒸着材料11を加熱できるように配置されている。また第2のヒータ29は、第2の蒸着容器22の内部空間22aに充填された第2の蒸着材料21を加熱できるように配置されている。これにより、第1および第2の蒸着材料11、21を個別に加熱することができる。
【0055】
第1の温度測定子18は第1の蒸着容器12の温度を測定できるように配置されており、第2の温度測定子28は第2の蒸着容器22の温度を測定できるように配置されている。これにより、第1および第2の蒸着容器12、22の温度を個別に測定することができる。
【0056】
制御部15、25は、第1の蒸着レートセンサ10により測定された蒸着速度の情報に基づいて第1のヒータ19の出力を制御し、かつ第2の蒸着レートセンサ20により制御された蒸着速度の情報に基づいて第2のヒータ29の出力を制御するよう構成されている。具体的には制御部15、25は、第1の蒸着レートセンサ10により測定された蒸着速度の情報に基づいて第1のヒータ19の出力を制御するための制御部15と、第2の蒸着レートセンサ20により制御された蒸着速度の情報に基づいて第2のヒータ29の出力を制御する制御部25とを有している。
【0057】
制御部15は、第1の蒸着レート調整器15Aと、第1の蒸着容器温度調整器15Bと、第1のヒータ出力調整器15Cとを有している。第1の蒸着レート調整器15Aは、第1の蒸着レートセンサ10により測定された蒸着速度を判定するためのものである。第1の蒸着容器温度調整器15Bは、第1の温度測定子18により測定された第1の蒸着容器12の温度を判定するためのものである。第1のヒータ出力調整器15Cは、第1の蒸着レート調整器15Aによる判定または第1の蒸着容器温度調整器15Bによる判定に基づいて第1のヒータ19の出力を制御するためのものである。
【0058】
制御部25は、第2の蒸着レート調整器25Aと、第2の蒸着容器温度調整器25Bと、第2のヒータ出力調整器25Cとを有している。第2の蒸着レート調整器25Aは、第2の蒸着レートセンサ20により測定された蒸着速度を判定するためのものである。第2の蒸着容器温度調整器25Bは、第2の温度測定子28により測定された第2の蒸着容器22の温度を判定するためのものである。第2のヒータ出力調整器25Cは、第2の蒸着レート調整器25Aによる判定または第2の蒸着容器温度調整器25Bによる判定に基づいて第2のヒータ29の出力を制御するためのものである。
【0059】
上記の検知・制御装置30Cによれば、第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度の情報に基づいて、または第1および第2の蒸着容器12、22の温度に基づいて、第1および第2のヒータ19、29の出力を個別に制御することができる。その結果、第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度を個別に制御することができる。
【0060】
次に、上記の検知・制御装置30Cを用いた制御方法(制御フロー)について図6および図7を用いて説明する。
【0061】
図6および図7を参照して、第1および第2の蒸着材料11、21が加熱されて蒸発を開始する。この状態で蒸着速度の制御が開始される(ステップS1)。この蒸着速度の制御においては、まず制御方法の選択が実施される(ステップS2)。上記の通り、制御方法としては、蒸着速度の情報に基づく制御、温度の情報に基づく制御およびヒータの出力を一定に保持する制御を選択することができる。
【0062】
最初に、蒸着速度の情報に基づく制御方法について説明する。まず、第1および第2の蒸着レートセンサ10、20により蒸着速度が測定され、レート読込みが実施される(ステップS41)。これにより、第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度の情報が得られる。次に、得られた第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度の情報は信号変換され(ステップS42)、第1および第2の蒸着レート調整器15A、25Aに入力される。次に、第1および第2の蒸着レート調整器15A、25Aにて、入力された蒸着速度の信号に基づいて、第1および第2のヒータ19、29の出力の制御が必要であるか否かについての判定が下される(ステップS43)。次に、第1および第2の蒸着レート調整器15A、25Aの判定の情報が、第1および第2のヒータ出力調整器15C、25Cに入力され、第1および第2のヒータ出力調整器15C、25Cの各々でヒータ出力の調整が行われる(ステップS44)。そして、第1および第2の蒸着レート調整器15A、25Aの判定に基づき、第1および第2のヒータ出力調整器15C、25Cにより第1および第2のヒータ19、29の出力が制御される(ステップS45)。最後に、制御を終了するか否かについての選択が実施される(ステップS46)。制御を終了しない場合は、再び制御の選択が実施される(ステップS2)。制御を終了する場合は、その選択をもって制御は終了する(ステップS6)。
【0063】
次に温度の情報に基づく制御方法について説明する。まず、第1および第2の温度測定子18、28により、第1および第2の蒸着容器12、22の温度が測定され、その測定された温度の読込みが実施される(ステップS51)。次に、読込まれた温度の情報が、第1および第2の蒸着容器温度調整器15B、25Bに入力される。次に、入力された温度の情報に基づいて、第1および第2の蒸着容器温度調整器15B、25Bにより、第1および第2のヒータ19、29の出力の制御が必要であるか否かについて判定が下される(ステップS52)。次に、第1および第2の蒸着容器温度調整器15B、25Bの判定の情報が、第1および第2のヒータ出力調整器15C、25Cに入力され、第1および第2のヒータ出力調整器15C、25Cの各々でヒータ出力の調整が行われる(ステップS53)。次に、第1および第2の蒸着容器温度調整器15B、25Bの判定に基づき、第1および第2のヒータ出力調整器15Cおよび25Cにより第1および第2のヒータ19、29の出力が制御される(ステップS54)。最後に、制御を終了するか否かについての選択が実施される(ステップS55)。制御を終了しない場合は、再び制御の選択が実施される(ステップS2)。制御を終了する場合には、その選択をもって制御は終了する(ステップS6)。
【0064】
最後に、ヒータ出力による制御方法について説明する。この制御方法においては、第1および第2のヒータ19、29の出力は、蒸着速度や温度などの外乱因子に影響されることなく、常に一定に保持される。即ち、始めに、第1および第2のヒータ出力調整器15C、25Cにより、第1および第2のヒータ19、29の出力が設定される(ステップS31)。そして、制御の実行中においては、第1および第2のヒータ19、29の出力は常に設定された値に保持される(ステップS32)。最後に、制御を終了するか否かについての選択が実施される(ステップS33)。制御を終了しない場合は、再び制御の選択が実施される(ステップS2)。制御を終了する場合は、その選択をもって制御は終了する(ステップS6)。
【0065】
以下、本実施の形態に係る成膜方法について説明する。
まず図1を参照して、被蒸着物および蒸着物を準備する工程が実施される。具体的には、蒸着物である第1の蒸着材料11が第1の蒸着容器12の内部空間に充填され、第2の蒸着材料21が第2の蒸着容器22の内部空間に充填される。次に、被蒸着物である筒状体1が筒状体ホルダ2に保持される。この状態で第1および第2の蒸着材料11、21の各々が加熱されることで、第1および第2の蒸着材料11、21の各々の蒸着速度が第1および第2の蒸着レートセンサ10、20により測定される。この後、第1および第2の蒸着容器12、22と筒状体ホルダ2とが筒状体1の延在する方向UD(筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線A−A)に互いに相対的に移動される。
【0066】
次に、図8を参照して、上記の移動により、第1および第2の蒸着容器12、22の双方が筒状体1の内部に挿入される。この工程は、筒状体1または第1および第2の蒸着容器12、22の少なくとも一方を、筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動させることにより実施される。この際、第1および第2の蒸着レートセンサ10、20は移動しない。
【0067】
次に、第1および第2の蒸着容器12、22の双方を筒状体1の内部に挿入した状態で筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とを筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線A−Aを中心として互いに相対的に回転させながら、第1および第2の蒸着材料11、21を蒸発させることにより第1および第2の蒸着材料11、21を含む共蒸着膜が筒状体1の内周面に形成される。この工程では、筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22の少なくとも一方を、筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線A−Aを中心として回転させながら、第1および第2のヒータ19、29により第1および第2の蒸着材料11、21が加熱される。その結果、蒸発した第1および第2の蒸着材料11、21が第1および第2の蒸着容器12、22より放出され、筒状体1の内周面に付着することにより共蒸着膜が形成される。
【0068】
また、共蒸着膜を筒状体1の内周面に形成する際に、筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とが筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動されてもよい。これにより、筒状体1の延在する方向においても、形成される共蒸着膜の膜厚の均一性、再現性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保することができる。
【0069】
筒状体1の内周面への共蒸着膜の成膜が完了した後は、筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とが筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動されて、第1および第2の蒸着容器12、22が筒状体1の外部へ取り出される。
【0070】
上記のようにして本実施の形態においては筒状体1の内周面に共蒸着膜が形成される。
本実施の形態によれば、第1および第2の蒸着容器12、22の双方が筒状体1の内部に挿入された状態において、第1および第2の蒸着材料11、21を加熱する工程が実施される。その結果、筒状体1の内周面において、第1および第2の蒸着材料11、21よりなる共蒸着膜を形成することができる。また、共蒸着膜を筒状体1の内周面に形成する工程は、筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とを筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転させながら実施される。そのため、筒状体1の円周方向において、形成される共蒸着膜の膜厚の均一性、再現性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保することができる。
【0071】
また共蒸着膜を筒状体1の内周面に形成する際に、筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とが筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動される。これにより、長い筒状体1においても、筒状体1の延在する方向において共蒸着膜の膜厚の均一性、再現性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保することができる。
【0072】
次に、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成する工程において、第1および第2のヒータ19、29の出力を制御する工程について説明する。上記の通り、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成する工程においては、第1および第2の蒸着容器12、22の双方が筒状体1の延在する方向に移動して筒状体1の内部に挿入された状態において、第1および第2の蒸着材料11、21を加熱する工程が実施される。これに対して、図8に示すように、第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度を測定するための第1および第2の蒸着レートセンサ10、20は、固定された状態で移動することができない。そのため、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成する工程においては、第1および第2の蒸着材料11、21の蒸着速度を測定することができず、蒸着速度の情報に基づいた制御を実施することができない。したがって、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成する工程においては、他の制御方法として、たとえば第1および第2のヒータ19、29の出力を一定に保持する制御、または第1および第2の蒸着容器12、22の温度の情報に基づく制御を選択する必要がある。
【0073】
まず、第1および第2のヒータ19、29の出力を一定に保持する制御方法について説明する。この制御方法では、共蒸着膜を筒状体1の内周面に形成する間において、第1の蒸着材料11を加熱するための第1のヒータ19の出力が、第1および第2の蒸着容器12、22の双方が筒状体1の内部に挿入される直前の第1のヒータ19の出力に保持される。同様に、第2の蒸着材料21を加熱するための第2のヒータ29の出力が、第1および第2の蒸着容器12、22の双方が筒状体1の内部に挿入される直前の第2のヒータ29の出力に保持される。
【0074】
この制御方法によれば、第1および第2のヒータ19、29の出力は、第1および第2の蒸着容器12、22の双方が筒状体1の内部に挿入される直前の出力に保持される。そのため、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成する工程においても、第1および第2のヒータ19、29の出力を制御することができる。
【0075】
次に、第1および第2の蒸着容器12、22の温度の情報に基づいた制御方法について説明する。この制御方法では、共蒸着膜を筒状体1の内周面に形成する間において、第1の蒸着容器12の温度を第1の温度測定子18により測定し、第1の温度測定子18により測定された第1の蒸着容器12の温度に基づいて第1のヒータ19の出力を制御することで第1の蒸着材料11の温度が一定に保持される。同様に、第2の蒸着容器22の温度を第2の温度測定子28により測定し、第2の温度測定子28により測定された第2の蒸着容器22の温度に基づいて第2のヒータ29の出力を制御することで第2の蒸着材料21の温度が一定に保持される。この制御方法によれば、第1および第2の蒸着容器12、22の温度の情報に基づいて、第1および第2のヒータ19、29の出力が制御される。したがって、筒状体1の内周面に共蒸着膜を形成する工程において、蒸着速度を測定することができない状態においても、第1および第2のヒータ19、29の出力を制御することができる。
【0076】
以下、本発明の実施の形態に係る成膜方法を用いて発光層34を形成した有機EL発光装置7について説明する。始めに、有機EL発光装置7の全体の構造について説明する。図9(A)、(B)および図10を参照して、本発明の実施の形態に係る有機EL発光装置7は、筒状体1と、筒状体1の両端に固定された封止部40と、電極50、51と、配線52、53と、乾燥剤45、46とを備えている。封止部40は、封止部材41、42と、Oリング43、44とを有している。
【0077】
筒状体1の筒状体1の延在する方向(図10中のLD方向)の両端側の領域は、陰極層37が形成されていない領域であるショート防止用スペースSPとなっている。ショート防止用スペースSPが設けられていることにより、陰極層37と透明陽極層32とが筒状体1の筒状体1の延在する方向の両端側の領域において短絡することが防止されている。また、封止部40は、筒状体1の内部空間を気密に防止している。これにより、透明陽極層32と有機物層OLと陰極層37とを含む領域が気密に封止されている。気密に封止された筒状体1の内部には、不活性ガスIGとして、たとえば窒素ガスが封入されている。
【0078】
図10を参照して、筒状体1の内周面上には順に、保護層31と、透明陽極層32と、有機物層OLと、陰極層37とが形成されている。有機物層OLは、正孔輸送層33と、発光層34と、電子輸送層36とを含んでいる。保護層31と、透明陽極層32と、有機物層OLと、陰極層37とは、筒状体1の中心線(図10中のLD方向)から同心円状に配置されている。本実施の形態に係る成膜方法は、たとえば有機物層OL中の発光層34の形成に用いられる。発光層34は複数層形成されていてもよい。
【0079】
保護層31は、アルカリ金属イオンの移動を防止する機能を有している。よって、筒状体1の材質にソーダ石灰ガラスなどのアルカリ金属イオンを含む材質が用いられていても、筒状体1から透明陽極層32へアルカリ金属イオンが移動することを防止することができる。透明陽極層32は、透光性を有しており、且つ有機EL発光装置7の陽極としての機能を有している。透明陽極層32は、導電性の酸化物層であり、たとえばITOにより形成されている。有機物層OLの正孔輸送層33は、たとえば下記の式に示す有機材料(α−NPD)が用いられる。
【0080】
【化1】

【0081】
陰極層37は、たとえばアルミニウム(Al)、銀(Ag)よりなっている。電子輸送層36は、たとえば下記の式に示す有機材料(Alq3、BAlq)が用いられる。
【0082】
【化2】

【0083】
【化3】

【0084】
以下、本実施の形態に係る成膜方法による有機物層OLの発光層34の形成する工程について説明する。まず、内周面上に保護層31、透明陽極層32および正孔輸送層33が形成された筒状体1を筒状体ホルダ2により保持する工程が実施される。次に、ホスト材料である第1の蒸着材料11と、ドーパント材料である第2の蒸着材料12とを、第1および第2の蒸着容器12、22の内部に充填する工程が実施される。第1の蒸着材料11にはホスト材料として下記の式に示す、CBP、mCPおよびTCTAのいずれかを、第2の蒸着材料21にはドーパント材料として下記の式に示す、Ir(ppy)3、Ir(piq)2acacおよびFIrpicのいずれかを選択することができる。
【0085】
【化4】

【0086】
【化5】

【0087】
【化6】

【0088】
【化7】

【0089】
【化8】

【0090】
【化9】

【0091】
これらのホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、発光輝度や発光寿命への効果を考慮して、任意に選択することができる。また、ドーパント材料のドープ濃度は、各ドーパント材料により異なっている。たとえば、Ir(ppy)3のドープ濃度は10%以下、Ir(piq)2acacのドープ濃度は2%以下、FIrpicのドープ濃度は15%以下程度である。
【0092】
次に、第1および第2の蒸着容器12、22の双方を筒状体1の内部に挿入した状態で筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とを筒状体1の延在する方向に延びる仮想の軸線A−Aを中心として互いに相対的に回転させながら、また、筒状体ホルダ2と第1および第2の蒸着容器12、22とを筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動させながら、筒状体1の内周面において共蒸着膜を形成する工程が実施される。これにより、筒状体1の円周方向または延在する方向において、上記のホスト材料およびドーパント材料を含む共蒸着膜の膜厚の均一性、再現性および上記のドーパント材料のドープ濃度の均一性を確保することができる。
【0093】
なお正孔輸送層33および電子輸送層36が共蒸着膜で形成される場合には、これらの正孔輸送層33および電子輸送層36が本実施の形態の共蒸着膜の成膜方法に形成されてもよい。
【0094】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の成膜装置および成膜方法は、筒状体の内周面へ膜厚の均一性、再現性およびドーパント材料のドープ濃度の均一性が確保された共蒸着膜を形成する成膜装置および成膜方法において、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0096】
1 筒状体、2 筒状体ホルダ、3 回転子、4 蒸着源ホルダ、7 有機EL発光装置、10 第1の蒸着レートセンサ、11 第1の蒸着材料、11a,21a 点線、12 第1の蒸着容器、12a 内部空間、13 第1の開口部、14 第1の蒸着レートモニタ、15 制御部、15A 第1の蒸着レート調整器、15B 第1の蒸着容器温度調整器、15C 第1のヒータ出力調整器、18 第1の温度測定子、19 第1のヒータ、20 第2の蒸着レートセンサ、21 第2の蒸着材料、22a 内部空間、22 第2の蒸着容器、23 第2の開口部、24 第2の蒸着レートモニタ、25 制御部、25A 第2の蒸着レート調整器、25B 第2の蒸着容器温度調整器、25C 第2のヒータ出力調整器、28 第2の温度測定子、29 第2のヒータ、30 成膜装置、30A 被蒸着側の装置、30B 蒸着側の装置、30C 検知・制御装置、31 保護層、32 透明陽極層、33 正孔輸送層、34 発光層、36 電子輸送層、37 陰極層、40 封止部、41,42 封止部材、43,44 Oリング、45,46 乾燥剤、50,51 電極、52,53 配線、OL 有機物層、SP ショート防止用スペース、IG 不活性ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜装置であって、
前記筒状体を保持するための筒状体ホルダと、
第1の蒸着材料を充填するための内部空間を有する第1の蒸着容器と、
第2の蒸着材料を充填するための内部空間を有する第2の蒸着容器とを備え、
前記筒状体ホルダと前記第1および第2の蒸着容器とは、前記筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動することができるように構成されており、
前記筒状体ホルダと前記第1および第2の蒸着容器とは、前記筒状体の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転することができるように構成されている、成膜装置。
【請求項2】
前記第1の蒸着容器には、前記第1の蒸着材料を前記第1の蒸着容器の前記内部空間から外部へ放出するための第1の開口部が形成されており、
前記第2の蒸着容器には、前記第2の蒸着材料を前記第2の蒸着容器の前記内部空間から外部へ放出するための第2の開口部が形成されており、
前記第1の開口部は、前記第1の蒸着容器に対して前記第2の蒸着容器が配置された側とは反対側に配置されており、
前記第2の開口部は、前記第2の蒸着容器に対して前記第1の蒸着容器が配置された側とは反対側に配置されている、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記第1および第2の開口部の各々は、前記筒状体の延在する方向と直交する方向に細長く延びたスリット形状を有している、請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記第1の蒸着材料の蒸着速度を測定するための第1の蒸着レートセンサと、
前記第2の蒸着材料の蒸着速度を測定するための第2の蒸着レートセンサとをさらに備え、
前記第1の蒸着レートセンサは、前記第1の開口部と対向する位置に配置され、
前記第2の蒸着レートセンサは、前記第2の開口部と対向する位置に配置されている、請求項2または3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第1の蒸着材料を加熱するための第1のヒータと、
前記第2の蒸着材料を加熱するための第2のヒータと、
前記第1の蒸着レートセンサにより測定された前記蒸着速度の情報に基づいて前記第1のヒータの出力を制御し、かつ前記第2の蒸着レートセンサにより測定された前記蒸着速度の情報に基づいて前記第2のヒータの出力を制御するための制御部とをさらに備えた、請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第1の蒸着レートセンサにより測定された前記蒸着速度を判定するための第1の蒸着レート調整器と、
前記第1の蒸着レート調整器による判定に基づいて前記第1のヒータの出力を制御するための第1のヒータ出力調整器と、
前記第2の蒸着レートセンサにより測定された前記蒸着速度を判定するための第2の蒸着レート調整器と、
前記第2の蒸着レート調整器による判定に基づいて前記第2のヒータの出力を制御するための第2のヒータ出力調整器とを含む、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記第1の蒸着容器の温度を測定するための第1の温度測定子と、
前記第2の蒸着容器の温度を測定するための第2の温度測定子とをさらに備え、
前記制御部は、
前記第1の温度測定子により測定された前記第1の蒸着容器の前記温度を判定するための第1の蒸着容器温度調整器と、
前記第2の温度測定子により測定された前記第2の蒸着容器の前記温度を判定するための第2の蒸着容器温度調整器とをさらに含み、
前記第1のヒータ出力調整器は、前記第1の蒸着容器温度調整器による判定に基づいて前記第1のヒータの出力を制御可能に構成されており、かつ前記第2のヒータ出力調整器は、前記第2の蒸着容器温度調整器による判定に基づいて前記第2のヒータの出力を制御可能に構成されている、請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
筒状体の内周面に共蒸着膜を形成するための成膜方法であって、
前記筒状体を筒状体ホルダに保持する工程と、
第1の蒸着材料を第1の蒸着容器の内部に充填し、第2の蒸着材料を第2の蒸着容器の内部に充填する工程と、
前記筒状体を保持した前記筒状体ホルダと前記第1および第2の蒸着材料のそれぞれが内部に充填された前記第1および第2の蒸着容器とを前記筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させることによって、前記第1および第2の蒸着容器の双方を前記筒状体の内部に挿入する工程と、
前記第1および第2の蒸着容器の双方を前記筒状体の内部に挿入した状態で前記筒状体ホルダと前記第1および前記第2の蒸着容器とを前記筒状体の延在する方向に延びる仮想の軸線を中心として互いに相対的に回転させながら、前記第1および第2の蒸着材料を蒸発させて前記第1および第2の蒸着材料を含む前記共蒸着膜を前記筒状体の内周面に形成する工程とを備えた、成膜方法。
【請求項9】
前記共蒸着膜を前記筒状体の内周面に形成する工程は、前記筒状体ホルダと前記第1および第2の蒸着容器とを前記筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させて実施される、請求項8に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記共蒸着膜を前記筒状体の内周面に形成する間において、前記第1の蒸着材料を加熱するための第1のヒータの出力が、前記第1および第2の蒸着容器の双方が前記筒状体の内部に挿入される直前の前記第1のヒータの出力に保持され、かつ前記第2の蒸着材料を加熱するための第2のヒータの出力が、前記第1および第2の蒸着容器の双方が前記筒状体の内部に挿入される直前の前記第2のヒータの出力に保持される、請求項8または9に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記共蒸着膜を前記筒状体の内周面に形成する間において、前記第1の蒸着容器の温度を第1の温度測定子により測定し、前記第1の温度測定子により測定された前記第1の蒸着容器の温度に基づいて第1のヒータの出力を制御することで前記第1の蒸着材料の温度が一定に保持され、かつ前記第2の蒸着容器の温度を第2の温度測定子により測定し、前記第2の温度測定子により測定された前記第2の蒸着容器の温度に基づいて第2のヒータの出力を制御することで前記第2の蒸着材料の温度が一定に保持される、請求項8または9に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−221579(P2012−221579A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82815(P2011−82815)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【特許番号】特許第4813625号(P4813625)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(508016664)フジテック・インターナショナル株式会社 (7)
【出願人】(599048661)有限会社マイクロシステム (9)
【Fターム(参考)】