抗癌化合物
【課題】抗癌化合物の提供。
【解決手段】本発明は、Euphorbia peplus種、Euphorbia hirta種、およびEuphorbia drummondii種の植物に由来する有効成分に存在する化合物または化合物の群に関し、またこれらの化合物を含有する薬学的組成物に関する。これらの植物からの抽出物は、いくつかの異なる癌細胞株に対して選択的細胞傷害性を示すことが見い出されている。これらの化合物は、癌、特に、悪性黒色腫および扁平上皮癌(SCC)の有効処置において有用である。本発明の好ましい実施態様においては、この化合物は、ジャトロファン類、ペプルアン類、パラリアン類およびインゲナン類、ならびにこれらの薬学的に受容可能な塩またはエステルからなる群から選択され、より詳細には、立体配座IIのジャトロファンである。
【解決手段】本発明は、Euphorbia peplus種、Euphorbia hirta種、およびEuphorbia drummondii種の植物に由来する有効成分に存在する化合物または化合物の群に関し、またこれらの化合物を含有する薬学的組成物に関する。これらの植物からの抽出物は、いくつかの異なる癌細胞株に対して選択的細胞傷害性を示すことが見い出されている。これらの化合物は、癌、特に、悪性黒色腫および扁平上皮癌(SCC)の有効処置において有用である。本発明の好ましい実施態様においては、この化合物は、ジャトロファン類、ペプルアン類、パラリアン類およびインゲナン類、ならびにこれらの薬学的に受容可能な塩またはエステルからなる群から選択され、より詳細には、立体配座IIのジャトロファンである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Euphorbiaceaeファミリーに由来する有効成分に存在し、そして特にEuphorbia peplus、Euphorbia hirta、およびEuphorbia drummondii種の植物中に存在する化合物または化合物の群に関する。これらの植物に由来する抽出物は、いくつかの異なる癌細胞株に対する選択的な細胞障害性を示すことが見いだされている。Euphorbia種の樹液に存在する化合物は、癌、特に悪性黒色腫および扁平上皮細胞癌(SCC)の効果的な処置において有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
日光の紫外線成分への皮膚の曝露と皮膚癌(例えば、悪性黒色腫および非黒色腫皮膚癌(おもに、基底細胞癌(BCC)および扁平上皮細胞癌(SCC)))の発症との間には強力な関連がある。これらの癌の発症率は、世界的に迅速に増大してきた。英国では、1994年に、4000の新たに診断された悪性黒色腫の症例が存在し、これは過去10年間で80%の増加であった(Wessex Cancer Trust,1996)。米国では、約34,100の新たな症例が予想され、これは1年あたり4%の増大であった。オーストラリアのクイーンズランドは、世界で最も高い黒色腫の発症率を有するが、初期の検出および広範な公衆衛生キャンペーンならびに日焼け止めの使用および紫外線への曝露を減少することの奨励により、死者の数を減少させることに役立ってきた。BCCは、現在のところ、英国の人口の1,000人に1人が罹患し、そして過去20年でその発症率は2倍以上になっている(Imperial Cancer Research Fund、英国、1997)。1990年の600,000および1980年の400,000に比較して、1997年には米国において、BCCおよびSCCの100万の新たな症例が診断されると予想されている(National Oceanic and Atmospheric Administration U.S.A.,1997)。オーストラリアでは、太陽の放射およびUV放射の危険性(クイーンズランドの集団が最も大きな危険性にある)の広範な宣伝にもかかわらず、同様に増大する症例が同様に当てはまらないと予想する理由はない。
【0003】
全ての皮膚癌の90%を超えるものが、日光または他の紫外線の照射に規則的に曝されている皮膚の領域に生じ、ここで、U.V.B.は、皮膚の日焼けの原因であり、そして悪性の黒色腫に関連し、そしてU.V.A.は、未成熟の皮膚の老化ならびにBCCおよびSCCの発症に関連する(Wessex Cancer Trust,1996)。幼少時の日光への曝露は、若年成人における悪性黒色腫の発症に関連付けられてきた。他の危険因子には、遺伝的素因(色白、多数の皮膚のほくろ)、化学的汚染、X線への過剰な曝露、ならびに何らかの薬物および殺虫剤に対する曝露が含まれる。成層圏のオゾン層の減少は、皮膚癌の長期的増加に貢献すると考えられている。
【0004】
外科的切除が悪性黒色腫(BCCおよびSCC)に対するずばぬけて最も一般的な処置である。これは、電気乾燥療法および掻爬術、凍結外科、単純な広範な切除、顕微鏡的手術、またはレーザー治療の形態をとり得る。癌が発症の後期に検出された場合に使用される他の処置は、外因的放射線治療、化学療法、またはより低い程度に生体免疫治療または光力学的治療である。処置の選択は、疾患の型および段階に依存し、そして患者の年齢および健康に依存する(National Cancer Institute、U.S.A.、1997)。
【0005】
現在の処置の全てが重大な制限に悩んでいる。主要な懸念は、切除部位での癌細胞の認識が貧弱であること、および再発の可能性が高いことであり、そのため追尾手術および処置が必要になり、さらなる美観の損失および傷跡の危険性を伴う。1つの刊行物において、不完全に切り出されたBCCの報告された割合は、30〜67%であった(SussmanおよびLiggins、1996)。手術に伴う免疫抑制は、任意の残余の細胞の増殖を引き起こし得、そして転移の危険性を増大させ得る。黒色腫患者においては、最初の手術の時点で癌がすでに転移しているという高い危険性が存在し、そして死を導くその後の再発は一般的である。現在手術に替わるもの、例えば、放射線治療および化学療法はまた、免疫抑制および特異性の悪さの危険性を有する。免疫治療および遺伝子治療は、最も大きな期待を有しているが、これらの合理的な適用は、未だ何十年先であるようである。
【0006】
腫瘍が手術の影響を受けやすい段階を過ぎた場合、全ての型の黒色腫または転移皮膚癌のための最も一般的な処置は、化学療法であり、これは大部分は成功を収めていない(BeljanskiおよびCrochet、1996)。
【0007】
理論的には、理想的な薬物は、曝露された黒色腫、BCCまたはSCCに局所的に適用された場合に、周囲の健康な皮膚細胞に損傷を引き起こさずに選択的にその腫瘍細胞を壊死させるか、またはそれらがアポトーシスを経ることを誘導する薬物である。実際には、これはまだ達成されていない。現在利用可能な薬物は、選択的でも浸透性でもない。
【0008】
専門家ではない大衆はまた、局所化学治療の概念に魅了される。皮膚癌のための多くの報告された「民間療法」が存在し、これらは悲惨な結果(例えば、靴磨きの使用)を有してきた(Adele Green、Queensland Institute of Medical Research,pers. Comm.)。主要な危険性は瘢痕組織の生成であり、その下に腫瘍細胞が継続して増殖する。Solanum属の植物(カンガルーリンゴまたは悪魔のリンゴ)に由来し、そしてソラソジン(solasodine)グリコシドを含有すると噂される抽出物は、サンスポット(sunspot)および日光性角化症の非処方調製物処置として「Curaderm」の名の下にオーストラリアで入手可能である。しかし、その調製物は、小さな臨床的試行においてBCCに対して効果的でないことが示され、20人の患者のうちの14人が処置された部位由来の組織の組織学的検査において持続的腫瘍を示した。いくつかの症例において、処置の部位の組織学的検査は、瘢痕組織に包埋された悪性組織を明らかにした。執筆者らは、自己診断および処置(特に刺激物質での)に対して警告した(Francisら、1989)。
【0009】
しかし、秘話的報告は、植物樹液抽出物が、サンスポットまたは日光性角化症の処置に一般公衆によって未だに使用され、いくつかの成功例が主張されていることを示唆する。
【0010】
Euphorbiaceaeファミリーの植物、特にEuphorbia属の樹液は、多くの国々の民間療法において使用されてきた。この属は、その意図された医学的特性を考慮して昔のギリシャ人の内科医にちなんで名付けられた(Pearn,1987)。ほんの最近になって、これらの主張のいくつかが科学的に調査されるようになった。この属は、非常に広範であり、小さな丈の低い草木性の植物から低木および木までの範囲にわたる。これらの植物およびその抽出物の活性のほとんど全ての報告が、逸話的であるか、または伝統的な医学に由来し、そして使用されるその調製物の性質は、未知であるかまたは非常に貧弱に記載されているかのいずれかである場合が頻繁である。いぼ、「病的増殖物」、胼胝、「ケロイド腫瘍」、魚の目、ひょう疽(whitlowもしくはfelon)、「余分な肉(superfluous flesh)」などから、種々の癌までにわたる非常に種々の状態に対して活性が主張されている(例えば、Hartwell:Lloydia 1969 32 153を参照のこと)。
【0011】
米国国立ガン研究所によって行われた35,000の陸生植物種からの114,000の抽出物について行われた抗癌活性についてのスクリーニングプログラムの一部として、Euphorbiaの多数の種が試験された。水性の懸濁液、オリーブ油懸濁液、アルコール抽出物、および酸抽出物が移植可能な癌細胞株肉腫37に対する活性についてスクリーニングされた。4つの種が試験された。これらのうち、Euphorbia peplusは、その抽出物のいずれにおいても活性を示さなかった;Euphorbia drummondii、Euphorbia pilulifera、およびEuphorbia resiniferaは、酸抽出物、アルコール抽出物、およびオリーブ油懸濁液のそれぞれの弱い活性を示した(BelkinおよびFitzgerald,1953)。過去5年間の科学的および医学的文献の総説は、広範な強力な有効成分(例えば、この属におけるジ、およびテトラテルペン、フラボノイド、ステロール、およびタンパク質)を明らかにし、そして多くの生物活性効果が、記録された陽性および悪性効果の両方について報告されている。これらの報告は表1に要約される。特に、Euphorbia属は、ホルボールエステルのような腫瘍プロモーターを生成することが周知である(Hecker,E.:「Cocarcinogens from Euphorbiaceae and Thymeleaceae」 「Symposium on Pharmacognosy and Phytochemistry」(Wagnerら、編、Springer
Verlag 1970 147−165)。
【0012】
【表1】
【0013】
【0014】
【0015】
この群のなかで最も重点的に研究されている種は、Euphorbia pilulifera L(同義語E.hirta L.;E.capitata Lam.)であり、その一般的な名称は、ピル保有(pill−bearing)トウダイグサ、ヘビグサ(snake−weed)、ネコの毛、クイーンズランド喘息草(Queensland asthma weed)、および花様頭(flowery−headed)トウダイグサを含む。その植物は、インドを含む熱帯諸国およびクイーンズランドを含む北オーストラリアに広く分布している。「Encyclopedia of Common Natural Ingredients Used in Food, Drugs and Cosmetics」(LeungおよびFoster、1996)によれば、その顕花植物または子実植物(fruiting plant)の全体が、薬草療法(基本的には咳用調製物のため)に、および呼吸器の状態(例えば、喘息、気管支炎、咳、および枯草熱)の処置のための伝統的な薬物において使用される。この参考文献は、Euphorbia piluliferaの活性成分が、コリンおよびシキミ酸であり、そして存在する他の化合物には、トリテルペン、ステロール、フラボノイド、n−アルカン、フェノール酸、L−イノシトール、糖および樹脂が含まれることを報告する。これらの成分のうち、シキミ酸は、芳香族アミノ酸の合成における重要な中間体であり、そしてマウスにおいて発ガン活性を有することが報告されている(EvansおよびOsman、1974;StavricおよびStoltz、1976)。ジャトロファン(jatrophane)、インゲナン(ingenane)、およびペプルアンと名付けられた四環系ジテルペンは、Jakupovicら(1998a)によってEuphorbia peplusの樹液の中に同定された。ジャトロファンは、以前に公知であったジャトロファンのコンホメーションとは異なるコンホメーションを有すると記載された。ジャトロファンはまた、非刺激性のジテルペンの群に属すると記載され、このことはそれらが以前の研究において過誤されたことを説明しうるかもしれない。ジャトロファンまたは新たなペプルアン化合物のいかなる生物学的活性の開示も示唆も少しもない;またこれらの化合物のいずれかが任意の薬学的目的のために有用であり得ることを示唆もされていない。
【0016】
最近の報告は、北ナイジェリアに見つけられる高度に毒性である植物であるEuphorbia poisoniiの乳液由来の多数のチグリアン(tigliane)ジテルペンエステルの選択的な細胞傷害性を記載し、これは園芸用殺虫剤として使用され、そして殺人に使用されると一般に考えられている。これらの化合物の1つは、アドリアマイシンの細胞傷害性よりも10,000倍を超えるヒトの腎臓癌細胞株A−498に対する選択的な細胞傷害性を有する(Fatopeら、1996)。
【0017】
一連の特許出願において、Tamasは、癌治療(EP330094)、AIDS関連複合体およびAIDS(HU−208790)、ならびに免疫を増強することおよび開放創の処置のための抗菌剤として(DE−4102054)、を含む種々の目的のためのEuphorbia hirta植物およびその抽出物の使用を主張している。
【0018】
従って、種々のEuphorbia調製物の抗癌活性の単離された報告が存在する一方(Fatopeら、1996;Oksuzら、1996を参照のこと)、少なくとも1つのEuphorbia種に存在する化合物が発ガン性であると報告されたのみでなく(EvansおよびOsman、1974;StavricおよびStolz、1976;Hecker、1970;1977)、少なくとも1つの種が皮膚刺激性および腫瘍促進効果を有し(Gundidzaら、1993)、そして別の種がバーキットリンパ腫においてEBV−特異的細胞免疫を減少させる(Imai、1994)。
【0019】
本発明らの知る限りでは、悪性黒色腫またはSCCの処置のためのEuphorbia種からの任意の抽出物の使用の信頼性のあるかまたは再現性のある報告はこれまで存在しなかった。BCCのEuphorbia peplus(微量のトウダイグサ(petty spurge)またはミルク草(milk weed))の乳液での在宅治療の逸話的な報告は、「Home treatment of basal cell carcinoma」(1976)と題されたWeedon,D.およびChick,J.の刊行物であった。執筆者らは、医学的な特性がGalenの時点からこの植物の乳状の汁について主張されており、そして魚の目、いぼ、および喘息のための民間療法として広く使用されたことを記載した。その世紀の半ばにおいて、それは蚕食性潰瘍の処置のためにシドニーの何人かの内科医によって使用された。執筆者らの患者は、複数のBCCについて何年もにわたって彼自身を処置してきたと主張した。
【0020】
「その患者(54歳の男性)は、1971年以来、時々Royal Brisbane Hospitalに来診していた。ある来診の時に、彼は、彼の胸の前部に臨床的な基底細胞癌(これは、その端から採取した小さな標本の生検によって確認された)を有することが認められた。数日後、その生検部位が治癒した時、その患者はEuphorbia peplusの樹液を5日間毎日塗布した。その領域は、紅斑性になり、次いで膿疱性になり、その後その病変は脱落した。処置の6週間後に彼が戻ったとき、その患者は、残っている傷跡の小領域を外科的に切り出すことに同意した。複数の切片が数個の慢性炎症性細胞を含んだ皮膚瘢痕組織を示したが、残余の腫瘍の証拠は示さなかった。」
その執筆者らは、「この通信はその治療の形態を推奨するものとして受け取られるべきものでは決してない」と記載した。樹液の腐食性の性質、およびEuphorbia peplusを使用するいぼの在宅治療から生じるわずかな目の損傷に対して警告するいくつかの報告が存在する(Eke,T.、1994)。WeedonおよびChickによって報告された効果は、Euphorbia
peplus樹液の刺激活性から生じ、そしてFrancisら(1989)によって報告されたSolanum抽出物「Curaderm」の場合と同様に、このような処置から生じる瘢痕組織の中にまたはその下に生存する残余の癌組織の高い危険性が存在する。
【0021】
本発明者は現在、驚くべきことに、3つの異なるEuphorbia種である、Euphrbia peplus、Euphorbia hirta、およびEuphorbia drummondiiに由来する植物の樹液が、悪性黒色腫を含む3つの異なるヒト癌細胞株の増殖を特異的に阻害することを見いだした。さらに、非常に低い濃度で、Euphorbia peplusおよびEuphorbia hirtaに由来する樹液が、悪性黒色腫細胞が正常なメラニン細胞の形態学的外観に適合するように、それらの分化を誘導した。類似のまたはさらに低い濃度で、抽出物は、メタロチオネイン遺伝子プロモーターの活性化およびMM96L悪性黒色腫細胞におけるレポーター遺伝子の発現を刺激した。その結果は、特に顕著であった。なぜなら、使用された黒色腫細胞株は、それに対して試験された従来の化学療法剤の全てによる阻害に対して抵抗性であるからである(MaynardおよびParsons、1986)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
第一の局面において、本発明は、Euphorbia属の植物、特にEuphorbia peplus、Euphorbia hirta、および/またはEuphorbia drummondiiの樹液に存在する化合物を提供する。その化合物は:(a)癌細胞を殺傷またはその増殖を阻害し得るが、正常な新生仔の線維芽細胞または自発的に形質転換したケラチノサイトに有意に影響を与えず;(b)95℃で15分間加熱することによって破壊されない活性を有し;(c)アセトンによる処理によって破壊されない活性を有し;(d)95%エタノールで抽出し得る活性を有し;そして(e)メタロチオネイン遺伝子活性化を刺激する。
【0023】
好ましくは、その化合物(単数または複数)は、本明細書中で規定されるMM96L、MM229、MM220、MM237、MM2058、B16、LIM1215,HeLa、A549、MCF7、MCC16、およびColo16からなる群から選択された少なくとも1つの細胞株の増殖を阻害し得る。より好ましくは、その化合物(単数または複数)は、MM96L細胞における増殖を阻害し得るか、または分化を誘導し得る。
【0024】
さらにより好ましくは、その化合物はまた、正常なメラニン細胞の増殖を誘導し得る。
【0025】
好ましくは、その化合物はE.peplusまたはE.hirtaの樹液中に存在する。
【0026】
本発明が樹液または樹液抽出物において検出される化合物を参照して詳細に記載されるが、これらの化合物は、植物全体またはその一部に存在するかまたはそれらから抽出された場合、なお本発明の範囲内にあることが明確に理解される。
【0027】
第二の局面において、本発明は、上記のような活性化合物を薬学的に適切なキャリアまたは希釈剤とともに含む組成物を提供する。
【0028】
より好ましくは、その化合物は、ジャトロファン、ペプルアン、パラリアン、およびインゲナンからなる群から選択される。
【0029】
その化合物がジャトロファンである場合、それは好ましくはJakupovicら(1998a)によって定義される立体配座IIである。天然に生じるジャトロファン、ペプルアン、およびパラリアン骨格において観察される置換体は、本発明の範囲内であることが明確に理解される。これらは、以下の置換体およびアナログを含む。
【0030】
この型の化合物は、Euphobia属の種々の植物において見いだされている(Jakupovicら、1998a、b、c;Marcoら、1998)。
【0031】
【表2】
【0032】
【0033】
さらにより好ましくは、この化合物は、以下から成る群およびそれらの薬学的に受容可能な塩またはエステルから選択される:
5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン(ペプルアン(pepuluane));
15−ペンタアセトキシ−9−ニコチノイルオキシ−14−オキソヤトロファ−6(1),11E−ジエン(ジャトロファン(jatrophane)1);
2,5,7,9,14−ヘキサアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシ−ヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン2);
2,5,14−トリアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシ−9−ニコチノイルオキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン3);
2,5,9,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン4);
2,5,7,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−9−ニコチノイルオキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン5);
2,5,7,9,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン6);20−アセチル−インゲノール(ingenol)−3−アンゲレート(angelate)。
【0034】
本発明の1つの好ましい実施態様において、この組成物は、β−アラニンベタイン塩酸塩またはt−4−ヒドロキシ−N,N−ジメチルプロリンをさらに包含する。
【0035】
第3の局面において、本発明はガンの処置方法を提供し、この方法は、抗ガン有効量の本発明の化合物を、このような処置を必要とする哺乳動物へと投与する工程を包含する。
【0036】
好ましくは、このガンは固形ガンである。より好ましくは、このガンは以下から成る群から選択される:悪性黒色腫、メルケル(Merkel)細胞ガンと扁平上皮細胞ガンと基底細胞ガンとを含む他の皮膚ガン、肺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、頸部ガンおよび乳ガン。
【0037】
第4の局面において、本発明は新形成性細胞の増殖活性を阻害する方法を提供し、この方法は、この細胞を、抗増殖量の本発明の化合物へと曝す工程を包含する。これらの細胞はエキソビボまたはインビボのいずれかで処置され得る。
【0038】
第5の局面において、本発明は、紫外線の照射、電離放射線、マイクロ波照射、オゾンへの曝露などによって生じる、皮膚に対する損傷を予防または軽減する方法を提供し、この方法は有効量の本発明の化合物をこのような処置を必要とする被験体に局所的に投与する工程を包含する。本発明はこの局面において、日光性角化症、放射線治療の間に生じる皮膚損傷などの処置に使用され得る。
【0039】
第6の局面において、本発明は非新形成性細胞の増殖を刺激する方法を提供し、この方法は、この細胞を、増殖を誘導する量の本発明の化合物または組成物へと曝す工程を包含する。これは組織の再生を誘導するに有用であり、そして、T−リンパ球が本発明の組成物に応答して増殖するので、疾患状態に対する免疫応答を促進するに有用である。
【0040】
哺乳動物はヒトであり得るか、または家畜もしくはペット(companion animal)であり得る。本発明の化合物はヒトの医療的処置での使用について適切であることが特に意図されるが、イヌおよびネコのようなペット、およびウマ、ウシおよびヒツジのような家畜、またはネコ科動物、イヌ科動物、ウシ科動物および有蹄動物のような動物園の動物の処置を含む、獣医学的処置にもまた適応可能である。
【0041】
本発明の化合物および組成物は任意の適切な経路によって投与され得、そして当業者は処置される症状に対して最も適切な経路および用量を容易に決定し得る。用量は臨床の医師または獣医師の裁量により、そして処置される症状の性質および状態、処置される被験体の年齢および全体的な健康状態、投与経路ならびに施されたかもしれない以前の処置に依存する。
【0042】
キャリアまたは希釈剤、および他の賦形剤は投与経路に依存し、そして当業者はやはり各々の特定の症例について最も適切な処方を容易に決定し得る。本発明の化合物は、経口的、局所的および/または非経口的注入(静脈内注射を含む)によって投与され得ることが意図される。
【0043】
薬学的組成物の調製のための方法および薬学的キャリアは、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania、USAのような教科書に記載のように、当該分野において周知である。
【0044】
本明細書の目的のために、用語「包含する(comprising)」とは「含むが、限定されない(including but not limited
to)」を意味し、そして用語「包含する(comprises)」が対応する意味を有することは、明らかに理解される。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1) Euphorbia属の植物、特に、Euphorbia peplus、Euphorbia hirtaおよび/またはEuphorbia drummondiiの樹液に存在する化合物であって、
(a)癌細胞を死滅または癌細胞の増殖を阻害し得るが、正常新生仔線維芽細胞または自発的に形質転換したケラチノサイトに有意に影響を与えない;
(b)95℃15分間の加熱によって破壊されない活性を有する;
(c)アセトンでの処理によって破壊されない活性を有する;
(d)95%エタノールを用いて抽出され得る活性を有する;かつ
(e)メタロチオネイン遺伝子活性化を刺激する、
化合物。
(項目2) 本明細書中で定義される、MM96L、MM229、MM220、MM537、MM2058、HeLa、B16、LIM1215、A549、MCF7、MCC16およびColo16からなる群から選択される少なくとも1つの細胞株の増殖を阻害し得る、項目1に記載の化合物。
(項目3) MM96L細胞の増殖を阻害またはMM96L細胞の分化を誘導し得る、項目2に記載の化合物。
(項目4) 正常メラニン細胞および/またはT細胞の増殖もまた誘導し得る、項目1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
(項目5) 薬学的に受容可能なキャリアまたは化粧品的に受容可能なキャリアとともに、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物を含有する組成物。
(項目6) 前記化合物が、ジャトロファン類、ペプルアン類、パラリアン類およびアンゲロイル置換インゲナン類、またはこれらのアセチル化誘導体、ならびにこれらの薬学的に受容可能な塩またはエステルからなる群から選択される、項目5に記載の組成物。
(項目7) 前記化合物が立体配座IIのジャトロファンである、項目6に記載の組成物。
(項目8) 前記化合物が表2で定義されるように置換されている、項目6または項目7に記載の組成物。
(項目9) 前記化合物が以下からなる群から選択される、項目5〜8のいずれか1項に記載の組成物:
5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン(ペプルアン);
15−ペンタアセトキシ−9−ニコチノイルオキシ−14−オキソジャトロファ−6(1),11E−ジエン(ジャトロファン 1);
2,5,7,9,14−ヘキサアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシ−ジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 2);2,5,14−トリアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 3);
2,5,9,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 4);
2,5,7,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 5);
2,5,7,9,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 6);
20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレート;
およびこれらの薬学的に受容可能な塩またはエステル。
(項目10) 前記キャリアが、β−アラニンベタインヒドロクロリドまたはt−4−ヒドロキシ−N,N−ジメチルプロリンを含有する、項目5〜9のいずれか1項に記載の組成物。
(項目11) 癌を処置する方法であって、抗癌に有効な量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物を、このような処置が必要な哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
(項目12) 前記癌が固形腫瘍である、項目11に記載の方法。
(項目13) 前記癌が、悪性黒色腫、メルケル細胞癌、扁平上皮癌および基底細胞癌を含む他の皮膚癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、頸癌、および乳癌からなる群から選択される、項目11または項目12に記載の方法。
(項目14) 放射線治療するためまたはDNA損傷物質を用いて治療するためのアジュバントとして使用される、項目11〜13のいずれか1項に記載の方法。
(項目15) 腫瘍形成細胞の増殖活性を阻害する方法であって、該細胞を、抗増殖量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法。
(項目16) 非腫瘍形成細胞の増殖を刺激する方法であって、該細胞を、増殖誘導量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法。
(項目17) T細胞の活性および/またはT細胞の増殖の誘導を刺激する方法であって、該細胞を、有効量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法。
(項目18) 項目16に記載の方法に従って免疫系の細胞を刺激することによって疾患状態を軽減する方法。
(項目19) 腫瘍形成細胞の分化を誘導する方法であって、該細胞を、有効量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法
(項目20) 前記細胞がインビボで処置される、項目15〜18のいずれか1項に記載の方法。
(項目21) 前記細胞がエキソビボで処置される、項目15〜18のいずれか1項に記載の方法。
(項目22) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または緩和する方法であって、このような処置を必要とする被験体に、有効量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物を局所投与する工程を包含する、方法。
(項目23) 前記損傷が日光性角化症である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記損傷が放射線治療の間に起こる、項目22に記載の方法。
(項目25) 前記哺乳動物がヒトである、項目11〜24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26) 癌の処置における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
(項目27) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または軽減するための、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
(項目28) 癌の処置における、項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目29) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または軽減するための、項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目30) 癌の処置のための医薬の製造における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目31) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または軽減するための医薬の製造における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目32) 非腫瘍形成細胞の増殖を誘導するための医薬の製造における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、E.peplusの樹液のメタロチオネイン遺伝子の活性化に対する効果を示し、これは発色性基質を使用してβ−ガラクトシダーゼの活性を検出することによって測定された。
【図2】図2は、E.peplusの樹液の存在下で7日間マイクロタイタ−ウエル中で増殖したMCF7乳ガン細胞の増殖度を示す(コントロール値に対するパーセントとして表す)。
【図3】図3は、E.peplusの樹液のエタノール可溶性抽出物のRP−HPLC細分画の後の、195nmでの吸光度プロフィールを示す。
【図4】図4は、図3由来のフラクション14を繰り返しRP−HPLCクロマトグラフィーにかけた結果を示す。
【図5】図5は、図4由来のピークの定常ダイオードアレイ(constant diode array)スペクトルを示す。
【図6】図6は、MM96L黒色腫細胞の、実施例7由来のフラクション15での処置の結果を示す。細胞は抗体TRP−1で染色し、この抗体は細胞骨格に対して指向される。A、B(4日目)、C、D(21日目)。
【図7】図7は、展開溶媒としてクロロホルム:酢酸エチル(82:18)を用いる、実施例6由来のエーテル可溶性画分の薄層クロマトグラフィーの結果を示す。
【図8】図8は、一次元ではヘキサン:酢酸エチル(1:1)、および二次元ではトルエン:アセトン(9:1)を用いる、シリカゲルでの二次元TLCによってのさらなる精製の結果を示す。 A:スポット34〜45は、UV光ボックスで可視化された。活性は、500分の1の希釈で、MM96Lに対してスコアした(+++=効果無し、−=完全な細胞の死滅、d=細胞の樹状外観への100%の復帰。 B:スポット14〜20は、UV光ボックスで可視化された。活性は、500分の1の希釈で、MM96Lに対してスコアした(+++=効果無し、−=完全な細胞の死滅、d=細胞の樹状外観への100%の復帰。 C:スポット21〜27は、UV光ボックスで可視化された。活性は、500分の1の希釈で、MM96Lに対してスコアした(+++=効果無し、−=完全な細胞の死滅、d=細胞の樹状外観への100%の復帰。
【図9】図9は、トルエン:アセトン(9:1)溶媒系を用いるHPTLCでの、粗樹液の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。不透明バンド1〜7は、UV光ボックスで可視化された。
【図10】図10は、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)溶媒系を用いるHPTLCでの、図9由来のフラクション1の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。バンドA〜Gは、UV光ボックスで可視化された。(クロロホルム中0.1%ヨウ素で染色した側面のストリップによりフラクションGが明らかにされた−MM96Lに対して不活性)。
【図11】図11は、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)溶媒系を用いるHPTLCでの、図9由来のフラクション1の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。バンドHは、UV光ボックスで可視化された。
【図12】図12は、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)溶媒系を用いる分取薄層クロマトグラフィー(PLC,Merck)での、粗樹液から調製したジエチルエーテル可溶性画分の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。領域HおよびA〜Fは、UV光ボックスで可視化され、抽出され、そしてインビボ実験に使用された。
【図13】図13は、ヌードマウスにおける皮下のヒト黒色腫MM96L異種移植片の、実施例11に記載のように調製された部分的に精製された画分での処置の結果を示す。矢印は腫瘍(右手側)および正常皮膚(背中上部)についての局所処置の位置を示す。処置レジメ開始後32日目、および最初の局所適用の20日目に、残留する腫瘍の増殖または正常皮膚に対する存続する損傷の証拠は存在しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0046】
(発明の詳細な説明)
本発明は、以下の非限定的な実施例および図面のみを参照として、詳細に記載される。
【0047】
(実施例1)
(Euphorbia樹液の腫瘍細胞株に対する阻害活性)
3つのEuphorbia種(Euphorbia peplus、Euphorbia hirtaおよびEuphorbia drummondii)の樹液の、3つの異なる腫瘍細胞株の増殖を阻害する能力を試験した。正常皮膚線維芽細胞に対する活性をコントロールとして試験した。
【0048】
これらの細胞株を、5%ウシ胎仔血清(FCS)を含有するRPMI培地中で維持し、そしてアッセイを同じ培地中で行った。
【0049】
樹液を、South−East Queensland、Sunshine Coast hinterland、Palmwoodsにある農地の耕土で無作為に成長させた植物から回収した。この植物の幹表面を、70%エタノールで簡単に洗浄し、そしてエタノールで洗浄したはさみを使用して幹を切り、そして乳白色乳濁樹液を流出させた。この樹液を10mlの滅菌プラスチック遠心分離チューブに回収し、4℃でBrisbaneに輸送し、そして−20℃で凍結保存した。使用前に、この樹液を、滅菌1.5mlエッペンドルフチューブ中で、滅菌MilliQ水を使用して、3125分の1まで順次5倍づつ希釈した。各希釈の10μLアリコートを、100μlの細胞株を含むマイクロタイタープレートウエルのそれぞれ2つに添加した。アッセイは2連で行った。
【0050】
5日後、細胞をコントロール未処理細胞サンプルと比較しての増殖の阻害について、盲検で(blind)試験した。この結果を表3〜6に要約する。ここで試験した細胞株は、
NFF 正常皮膚線維芽細胞
MM96L 悪性黒色腫、脳転移
HeLa 頸部ガン
HACat 自発性形質転換ヒトケラチノサイト
であり、そして、尺度は、0=効果無し〜5=完全な細胞の死滅、である。
【0051】
表見出しでの希釈は、培養物への添加前のサンプルの希釈を指す。それゆえ、最終培養物中での希釈は、さらに約10倍高い。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
これらの結果から、以下のことが見出され得る:
a)E.peplusは、HeLa細胞に対して活性であり、そしてMM96L細胞に対してはより少ない程度で活性であった。
b)E.hirtaは、MM96L細胞に対して活性であり、そしてHeLa細胞に対して非常に強力に活性であった。
c)E.drummondiiは、MM96Lに対して他の2つのサンプルよりも低い効果を有し、そして試験した最も高い濃度でのみHeLa細胞を阻害した。
d)NFF正常線維芽細胞は1/5の希釈で激しく影響をうけたが、しかし他の希釈度では温和に影響をうけたのみであった。例えば、1/25の希釈では、NFF細胞の阻害は温和(評点2)だったが、MM96L細胞の阻害は激しかった(評点4)。1/125の希釈では、NFF細胞に対する効果は観察されなかった(評点0)が、MM96L細胞の激しい阻害(評点4)が1サンプルについて観察され、そして2連の他のサンプルではより温和な阻害(評点1)が観察された。HACat細胞(これは正常ケラチノサイトの代表としてみなされ得る)は、最も高い濃度でのみ阻害された。
【0057】
高い濃度のE.peplus樹液では、MM96細胞が直接的に殺傷されることは明らかであった。しかし、(1/625の希釈までの)低い濃度では、増殖阻害は観察されなかったが、生存する細胞は樹状であり、そして正常メラニン細胞の外観を呈していた。提案されるいずれのメカニズムにも制限されることは望まないが、E.peplusの樹液は、DNAを損傷する直接的に細胞傷害性の因子よりむしろ、分化を促進する少なくとも1つの因子を含み得ると見られる。
【0058】
(実施例2)
(Euphorbia樹液の活性に対する熱処理またはアセトン処理の影響)
実施例1に記載される実験を、E.peplusおよびE.hirtaについて、異なる細胞株調製物、異なる植物サンプルおよび異なる評点スケールを使用して、異なる人物により反復した。
【0059】
これらのサンプルは、実施例1に記載のように調製したか、または熱もしくはアセトンでの処理に供したかのいずれかである。植物樹液の希釈していない抽出物を95℃で15分間、加熱した。アセトン処理については、40μlの抽出物を400μlのアセトン中に懸濁し、そしてチューブをボルテックスミキサーで振盪した。内容物を10,000gで3分間遠心分離し、そして上清(アセトン可溶性画分)を別のチューブに取り出した。ペレットおよび上清の両方を、開口したチューブ中で室温で排気ファンを作動させたヒュームフード中に一晩放置して残留アセトンをエバポレートした。
【0060】
これらの結果を表7〜9に示す。ここで、+++は効果無しを示し、そして−は100%の細胞の死滅を示す。「C」は、培養物が汚染されたことを示す。この評価スケールを使用すると、これらの結果は実施例1におけるよりもさらに著しく、1:3125の希釈まで強力な阻害活性が観察された。しかし、NFF細胞のいくらかの増殖阻害がこの実験において見出された。
【0061】
熱またはアセトンのいずれも抗腫瘍活性に有意に影響を与えなかった。アセトン処理を行った場合、いくらかの活性は可溶性画分中にも見出されたが、ほとんどの活性はペレット中に見出された(特にE.hirtaの場合)。このことは、原因である化合物はその性質においてタンパク質ではなく、そして少なくとも1つの成分が脂質であり得ることを示唆する。
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
(実施例3)
(E.peplusを使用するさらなる試験)
E.peplusはこれらの実験で試験した3つの植物の最も豊富なものであるので、さらなる実験にはこの種からの抽出物を使用した。このことは、活性が他の2つの種に存在しないことを意味すると考慮されるべきではない。
【0066】
NFFおよびMM96L細胞に加えて、MM229およびMM220ヒト悪性黒色腫細胞ならびにB16マウス悪性黒色腫細胞株を使用して、実施例2を繰り返した。コントロールとして等量の水、ならびにアセトン処理後のペレットおよび上清画分の1/20〜1/12500の希釈物の添加を使用して、アッセイを2連で行った。この結果を表10に要約する。
【0067】
【表10】
【0068】
これらの結果により、実施例2で得られた結果が確認される。1/100〜1/50の希釈では、NFF細胞に対する効果はないが、MM96L細胞の有意な阻害が観察された。これらの希釈で生存する黒色腫細胞は、正常なメラニン細胞の外観を呈した。他の2種のヒト黒色腫細胞株およびマウス黒色腫細胞株の阻害もまた、観察された。
【0069】
同様の結果が、メルケル細胞ガン(MCC16)または扁平上皮細胞ガン(Colo6)細胞を使用して得られた。これらの結果を表11に示す。
【0070】
扁平上皮細胞ガンによって、500,000分の1の希釈でさえ、樹状細胞形態が示された。この粗抽出物の非常に強い力価はまた、メルケル細胞阻害に対しても明らかであり、これは、500,000分の1の希釈でもまた、なお明らかであった。
【0071】
【表11】
【0072】
(実施例4)
(E.peplusのエタノール抽出物)
E.peplusからの樹液の新鮮な調製物を、95%水性エタノールでの抽出に供した。減圧遠心分離によって抽出後の可溶性画分からエタノールを取り除き、そしてこの画分を、5%ウシ胎仔血清および抗生物質を含む組織培養培地(RPMI1640)中に、その最初の容量まで再構成した。エタノール抽出後に残存するペレットを減圧遠心分離により乾燥させ、そして上記のように組織培養培地中に、その最初の容量まで再構成した。粗樹液(C)、可溶性画分(S)およびペレット(P)を上記のようにNFF細胞、黒色腫細胞株MM96L、MM537、MM229およびMM2058ならびにまた、結腸ガン細胞株LIM1215および肺ガン細胞株A549に対して試験した。アッセイを3連で行い、そしてサンプル添加後に4日間培養した後に評価した。この結果を表12に示す。ここで、+は細胞の正常な外観を示し、++は細胞数における可能な増加を示し、そして−は細胞の死滅を示す。
【0073】
【表12】
【0074】
得られた結果は、以前の実験の結果と整合した。やはり低用量でも、MM96L細胞は樹状の外観を呈した。全ての腫瘍細胞株および正常線維芽細胞株NFFは、粗樹液およびエタノール抽出により得られた可溶性画分(1/20の希釈)により死滅した。活性の大部分はエタノール可溶性画分に分配されたと見られた。肺ガン細胞株A459は、1/2500までの希釈で、粗樹液および可溶性画分の両方により影響され、特に感受性であると見られた。
【0075】
(実施例5)
(トランスフェクトMM96L悪性黒色腫細胞株における遺伝子発現についてのレポーターアッセイ)
リン酸緩衝化生理食塩水中のE.peplus樹液希釈物を、構築物でトランスフェクトされたMM96L細胞または乳ガン細胞株MCF7を含むウエルに添加した。この構築物は、メタロチオネイン遺伝子の代わりに置換されたβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子の上流にあるヒツジメタロチオネインプロモーターから構成される。それゆえ、このアッセイは遺伝子発現、特にメタロチオネイン遺伝子の可能性のある転写、翻訳および発現の尺度となる。細胞を4つの抽出物でマイクロタイタープレート中で20時間の間処理し、100μM ZuSO4を添加して、そしてプレートをさらに5時間インキュベートし、そして培地を取り除いた。次いで、β−ガラクトシトシダーゼ活性を、1〜2時間の間の37℃での細胞の発色性基質とのインキュベーションにより測定した。このアッセイは、遺伝子の転写活性についての高感度の試験として使用される。
【0076】
結果を図1に示す。
【0077】
これは、増加したβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子発現によって測定される、メタロチオネイン遺伝子活性化の顕著な刺激があったことを示す。驚くべきことに、このことはサンプルをさらに希釈した場合により明らかとなった。E.peplus樹液がこの効果を媒介するメカニズムは分かっていない。ヒストンデアセチラーゼ活性の阻害に特異的な公知の薬物が、より高い濃度の薬物でレポーター遺伝子の発現の増加を示すのに対して、E.peplusは逆の用量応答を示す。しかし、この結果は、このアッセイを用いて、E.peplus樹液または植物自体の中の活性な因子の精製をモニターし得ることを示す。
【0078】
メタロチオネインタンパク質は抗酸化活性を有し、そして重金属誘導性のガンに対する防御的役割に関連する。メタロチオネインプロモーターの活性化は、非常に感受性の乳ガン細胞株MCF7を除いて、直接的な細胞殺傷をもたらし得ないほど低い濃度のE.peplus樹液で生じた(図2)。これらの希釈でのMM96L黒色腫細胞の正常なメラニン細胞の樹状形態への外観における変化は、これらの効果におけるメタロチオネイン遺伝子の関連を意味し得る。
【0079】
(実施例6)エタノール可溶性抽出物の細分画
実施例4の通りに実施した、95%エタノールを用いた抽出によって得られた可溶性画分を、無勾配(isocratic)逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)に供した。
【0080】
100μlの粗抽出物を1mlの95%エタノールに溶解し、4℃で一晩、定期的に振盪した。この抽出物を10,000×gにて4分間遠心分離し、そしてこの上清を取り出しそして真空遠心分離によって乾燥した。固体を、かるく遠心分離した100μlのランニング緩衝液中で再構成し、そして可溶性物質を、、30×4mmのRP−300ガードカラムを備えた220×4mmのBrownlee Aquapore RP−300(C8)にかけた。
【0081】
このランニング緩衝液はアセトニトリル:水が50:50(V/V)であり、そして流速は0.75ml/分であった。画分を、0.5分の間隔で回収し、そして195nmにおける吸光度プロフィールをモニターした。この吸光度プロフィールを図3に示す。
【0082】
画分を、上記のように、真空遠心分離によって乾燥し、500μlPBS中で再構成し、そしてMM96L細胞に対してそしてメタロチオネインレポーターアッセイ中でアッセイした。画分13〜28全てがMM96L細胞の樹状の外観への完全な転換を誘導したが、細胞死は観察されなかった。この効果は、レポーターアッセイにおいて非常に顕著であり、ここでこの活性は、1/10,000の希釈において(すなわち、1/100,000の培養物中での最終濃度において)でもなお観察された。
【0083】
上記の結果に加えて、本発明者は、超遠心分離の後に、MM96L細胞に対する活性が上清中およびペレット中の両方において見いだされること、および活性は、分子量カットオフ膜を介してサンプルを通過させることによって除去され得ないことを見い出した。上記で試験した細胞株に加えて、MCF7乳ガン、細胞株の細胞の増殖は1/100,000までの最終希釈のE.peplus樹液によって阻害された。細胞数は、バイシンコニン酸(bicinchoninic
acid)試薬(Pierce)を使用して評価した。結果を図2に示す。
【0084】
(実施例7)溶媒分画
E.peplusの粗乳液のさらなる溶媒分画は、極性が増大する一連の溶媒によってもたらされた。1ml粗乳液には、遠心チューブ内で20mlジエチルエーテルを添加した。このチューブを振盪し、そして5000gにて5分間遠心分離し、層を分配した。このジエチルエーテル上層を取り出し、そしてこの手順を2回繰り返した。このエーテル画分を合わせ、ロータリーエバポレーター上で乾燥するまで濃縮し、そしてバイオアッセイのために1ml DME中で再構成した。同様の様式で、この残渣を酢酸エチルで抽出し、続いて塩化メチレンで抽出した。MCF7乳ガン細胞の細胞数の減少および樹状の外観への転換によって測定される場合、この最初のエーテル抽出物はこの活性の大部分を得た。しかし、活性はまた、酢酸エチル層および塩化メチレン層に由来する画分から証明された。最終の水可溶性(水性)画分において活性は見られなかった。この結果を、表13にまとめる。
【0085】
【表13】
【0086】
CMVプロモーター活性を、複製欠損アデノウィルス構築物によって感染されたHeLa細胞内にてアッセイした。この構築物において、E1a遺伝子は、CMVプロモーターによって駆動されるβ−ガラクトシダーゼに置換されていた。この結果は、表14に示されるように、感染された未処理の細胞のコントロール値の百分率として表記される
【0087】
【表14】
【0088】
得られた結果は、他の分化誘導因子(例えば、ヒストンデアセチラーゼインヒビターまたはブチレート)を用いた場合にみられる結果と定性的に同様であるが、これらの因子を用いた場合に見られる活性に比べてより強力な活性を有する。より高濃度にて粗抽出物およびジエチルエーテル抽出物を用いた場合に観察されるより低いプロモーター活性は、おそらくこれらの濃度において見られるHeLa細胞に対する細胞殺傷効果を反映する。
【0089】
さらなる溶媒分画実験において、粗液をメタノール:水(17:3)とn−ヘキサンとの間で分配し、トリテルペン(ヘプタン相)からジテルペン(極性相)を分離するための以前の報告(EvansおよびKinghorn 1977)に基づいて溶媒分配が期待された。しかし、予想外に、両方の相において活性が検出された。このことは、この系において有効成分(active principle)が異常に挙動することを示唆する。
【0090】
別の溶媒分画アプローチでは、HPLC分析の前にサンプルを明澄化する必要が示唆された。この粗乳液を、70−95%までのエタノールと混合し、4℃で一晩振盪した。この混合物を1,000gにて10分間遠心分離し、そして上清を取り出し、そして粗液の元の体積の約3分の1まで濃縮した。この濃縮物に100%アセトニトリルを30−60%添加した。この得られた白色沈殿物を12,000gにて10分間の遠心分離によって除去した。TLCおよび質量分析法によって決定されるように、上清は、大環状ジテルペン(ジャトロファン類およびペプルアン)に富んでいた。この観察結果は、活性素の富化のための適切な大規模プロセスへの方法を示す。
【0091】
(実施例8)エタノール可溶性抽出物のさらなる活性誘導細分画
実施例7および図3に記載したHPLC細分画からの画分14および15を、クロマトグラフィーを繰り返すことによって、一定のダイオードアレイスペクトルを有する主要な対称ピークを選択することにより、さらに精製した(例えば、画分14および15;画分14についての結果を図4および5に示す)。MM96Lの樹状外観への転換を生じる際の精製した画分の活性を、細胞アッセイによって確認した。
【0092】
画分15の添加後のMM96L細胞への変化の特徴を、図6に示す。細胞を、抗体カップリング手順を使用して、顕微鏡写真として可視化した。この第一抗体、すなわちチロシナーゼ関連タンパク質1(TRP−1)に指向されたマウスモノクローナルを、ブロモ−クロロ−インドリルリン酸およびニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)を発色基質として使用して、第二抗体、すなわちヒツジ抗マウスアルカリホスファターゼ結合体を用いて検出した。4日間のインキュベーションの後(図6Aおよび6B)、黒色腫細胞数の著しい減少およびそれらの形態の明白な変化があった。この細胞は、正常な成熟メラニン形成細胞の特徴である長く、紡錘形の(樹状の)外観に戻った。この視野における全ての細胞は、この変化した形態を採るようであった。これは、MM96L細胞集団の不均質な性質を考えると驚くべきことである。21日間のインキュベーション後、この処理した細胞は、図6Cおよび6Dに示されるように、クラスター内で互いに幾分平行に整列することが見られ、これは正常な成熟したメラニン形成細胞の特徴である。粗液を含むE.peplus由来の全ての樹状細胞誘導画分についても、同様の特徴が、観察された。
【0093】
画分14および15についてのエレクトロスプレイ質量分析は、780(計算値779.315)のm/zを有する2,5,7,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン5、Jakupovic
ら、1998a)の存在を示した。1D NMRを使用した場合の、画分14の核磁気共鳴(NMR)分析は、7ppmと9.4ppmとの間にダウンフィールドシグナルを与えた。これらは、環の9位におけるニコチノエート基内に存在するような、ピリジン様部分に一致する。また、トランス二重結合は、5−6ppmにおける大きなカップリング定数によって証明された。これはジャトロファン環式構造内の11、12内部二重結合に一致する。また、画分14において、負イオンモードでのエレクトロスプレイによって、m/z716(計算値716.304)、673(M−ケテン)、656(M−AcOH)を有する、2,5,7,9,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−ジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン6、Jakupovicら、1998a)であると同定した。
【0094】
画分15は、m/z597(M−ケテン−AcOH)を有する2,3,5,7,15−ペンタアセトキシ−9−ニコチノイルオキシ−14−オキソジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン1、Jakupovicら、1998a)を含んでいた。従って、分光学的分析によって、HPLC上での、細胞殺傷活性および樹状活性を有する7−7.5分における初期溶出画分は、ジャトロファン5、6、および1の混合物を含んでいた。展開溶媒としてトルエン:アセトンを9:1で使用してHPTLC上でクロマトグラフにかけた場合、この結果は、HPLC画分14および15の挙動と一致する。UV陽性スポットは、終期溶出画分(例えば、画分20−22、Rfが0.3−0.5)と対照的に、原点、すなわちRfが0.0(約)から移動しなかった。これは、展開溶媒としてトルエン:アセトンを9:1でまたはヘキサン:酢酸エチルを4:1でのいずれかを使用する、HPTLC上でのクロマトグラフィーによって証明されるように、ジャトロファン3、2および4と比較して、ジャトロファン5、6、および1の相対的に極性の挙動を示す。これらの結果は、Jakupovicら、1998aによって、展開溶媒として石油:メチル−tert−ブチルエーテル(1:1)を使用して得られる結果(例えば:ジャトロファン5:Rf0.04、ジャトロファン6:Rf0.10(3X)、およびジャトロファン1:Rf0.11)と同様である。初期HPLC画分からの質量分析データにおいて、E.peplus粗抽出物中にインゲナン誘導体(後述を参照)、または文献で報告され、そして表1に表された他の成分が存在するという証拠はない。
【0095】
(実施例9)薄層クロマトグラフィー(TLC)および高速薄層クロマトグラフィー(HPTLC)上での粗抽出物およびエーテル可溶性抽出物の生物学的活性誘導精製
(a)実施例7で調製されたエーテル可溶性画分を、エチレングリコールジメチルエーテル(DME)中で再構成し、そして展開溶媒としてクロロホルム:酢酸エチル(82:18)を使用して、20×20cmシリカゲルプレート上でクロマトグラフした(図7)。このプレートをUV光箱上で観察し、そしてUV陽性バンドを同定し、ゲルから切り出し、DMEで溶出し、そしてMM96L黒色腫細胞株に対する阻害活性および形態転換について試験した。全体のゲルをUV吸収画分および非UV吸収画分にスライスすることによって、予備実験において、活性がUV吸収バンドと関連することが示された。ゲルの側片をクロロホルム中での0.1%ヨウ素で染色することにより、他の、ヨウ素に対して強い陽性のバンドを明らかにした。しかし、これらは、無視できる活性を有することが見いだされた。Rf0.0(A)、Rf0.16−0.18(B1)、Rf0.22−0.24(B2)、Rf0.73−0.80(C)、Rf0.80−0.96(D)におけるUV吸収バンドは、生物学的に活性であり、1/5,000希釈において、細胞数の減少および樹状細胞の外観への完全な転換が観察され得る。
【0096】
ゾーンB1、CおよびDを、第一次元にヘキサン:酢酸エチル(1:1)を、そして第二次元にトルエン:アセトン(9:1)を用いる二次元溶媒システムを使用して、シリカゲル60プレート上のクロマトグラフィーによってさらに精製した(それぞれ、図8A〜8C)。1/500希釈にて、細胞数の30%より大きなMM96Lに対する阻害活性および樹状細胞の外観への完全な転換を有するUV吸収スポットを、その図に示す。
【0097】
Dゾーン由来の強くUVを吸収するスポット22および23(図8Cを参照のこと)を、ゲルから切り出し、DMEで溶出し、そして真空遠心分離によって乾燥した。画分22および23の質量分析は、5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン、m/z639.5[M−AcOH]+、すなわちペプルアンの存在を明らかにした。
【0098】
(b)図9に示されるように、展開溶媒としてトルエン:アセトン(9:1)を使用して、濃縮ゾーンを有する10×10cmのHPTLCシリカゲル60プレート(Merck カタログ番号013748.1000)上で、全ての粗液をクロマトグラフにかけた。UV陽性ゾーン(1,Rf0.14;2,Rf0.23;3,Rf0.49;4,Rf0.54;5,Rf0.57;6,Rf0.63;および7,Rf0.73)をゲルから切り出し、そしてDME/ジエチルエーテルを用いて溶出した。上記のように、この画分をMM96Lに対して試験し、そして画分1、3、4、5および6は、細胞阻害活性および細胞転換活性を有することが証明された。これらの画分は、展開溶媒として、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)を使用して、HPTLCプレート上で別々にクロマトグラフにかけ、UV陽性バンドA,Rf0.17;B,Rf0.24;C,Rf0.42;D,Rf0.48;E,Rf0.52;F,Rf0.58;G,Rf0.62(図10)およびH,Rf0.02(図11)を得た。G(ヨウ素陽性、図10を参照)を除いた全画分は、1/5000希釈にて、細胞増殖阻害および完全な樹状形態への転換に関して、MM96L細胞に対して活性であった。
【0099】
画分A−F(Bは失われた)およびHの質量分析を、E.peplusの公表された成分の公知の分子質量イオンからの化合物の仮の割り当てと共に、表15に示す。
【0100】
【表15】
【0101】
ペプルアン=5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン
ジャトロファン2=2,5,7,9,14−ヘキサアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシ−ジャトロファ−6(17),11E−ジエン
ジャトロファン3=2,5,14−トリアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン
ジャトロファン4=2,5,9,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン)
従って、質量分析は、20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレート(画分A)、ペプルアン(画分A,CおよびD)、ならびにジャトロファン2(画分D)3(画分CおよびH)、および4(画分EおよびF)の混合物を明らかにした。画分Hについての1H化学シフトデータを表16に示す。
【0102】
【表16】
【0103】
これらの帰属は、DQF−COSY、NOESYおよびTOCSY二次元スペクトルから決定されるように、ジャトロファン環状構造の存在を示した。画分Hのスペクトルは、2つのジアステレオマー配座(最も有望であると考えられる)をとるジャトロファン3、2つ以上の同様に置換したジャトロファンの混合物、または2つのニコチネート、1つのベンゾエート、およびイソ−ブチレート部分を有する新規のジャトロファンの存在と一致した。Jakupovicら(1998a)によるように、約6HzのJ4,5、ならびに5と8との間、および4と7との間に強いNOEを有し;DQF COSYスペクトルにおいて交差したピークの全体としての欠如によって証明されるように、J7,8およびJ8,9が実質的にゼロであり、有望な環状配座はIIであった。任意のインゲノール構造の存在に一致するシグナルは存在しなかった。このサンプルを磁石から回収し、そしてそのアリコートは、MM96Lに対する強力な活性を証明し、これは、20μg/mlにおける完全な細胞死、および20pg/ml未満における樹状外観への完全な転換によって証明された。
【0104】
(実施例10)NMR分析
画分Aを、展開溶媒として、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)を使用して、HPTLC上のクロマトグラフィーによってさらに精製した。UV光箱上での吸収に対する添加剤として、側片を、メタノール中の70%リン酸をゲルに噴霧することによって染色し、そしてヘアードライアーを用いたゲルの加熱による発色は、UV光下にて濃い青色バンドを示し、これは主なUV吸収バンドから分離され得た。このバンドと等価の非染色領域を、切り出し、エーテルを用いて溶出し、そして真空遠心分離によって乾燥した。約1mgのこの物質を4ml乳液から蓄積した。この物質を、NMR分析に供し、続いてバイオアッセイし、そして1ng/ml最終濃度を表す1/5×106希釈において完全な樹状形態への転換に関して活性であることを証明した。この物質は、NMRによって、表17に示されるようにC27H36O7、つまり20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレートとして同定された。この知見は、表15に表される質量分析の証拠に一致する。
【0105】
【表17】
【0106】
しかし、HPLCによる活性誘導精製の質量スペクトルから、および画分Aから離れた他のTLC画分における、20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレートの非存在は、これが唯一の活性画分ではないことを示す。むしろ、ジャトロファン1−6およびペプルアンはまた、NMRおよび質量分析データからの推察によって、関係づけられる。これは、TLCによって調製されるような画分H(ジャトロファン3Na+m/z 830;表16の1D NMRの結果も参照)について、およびHPLCによって調製されるような画分13および14(ジャトロファン5、m/z 779および1D NMR;ジャトロファン6、m/z 716;ジャトロファン1またはジャトロファン6誘導体、m/Z 597)について特に本当である。
【0107】
Jakupovicら(1998a)は、パラリアン(paraliane)クラスの化合物がジャトロファンとペプルアンとの間の経路における中間体であることを提唱した。ジャトロファンおよびペプルアンの両方による抗癌細胞活性および樹状細胞転換が本発明において証明されているため、このパラリアンもまたこれらの特性を示すと結論づけることが合理的であるようである。
【0108】
(実施例11)調製薄層クロマトグラフィーによるマウス実験のための物質の調製
実施例6に記載されるように、70%エタノール中の15ml粗液をジエチルエーテルで抽出した。この抽出物を真空遠心分離によって濃縮し、そして約5ml DME中で再懸濁した。このDME抽出物を、展開溶媒としてヘキサン:酢酸エチル(4:1)を使用して、調製TLCプレート(Merck PLC、シリカゲル60、カタログ番号005745.1000)上でクロマトグラフにかけた。図12に示されるように、領域「H」および「A−F」に対応するゾーンを切り出し、そして合わせ、エーテル/DMEで溶出し、そして真空遠心分離によって乾燥した。抽出物は、ジャトロファン2、3および4、ペプルアン、ならびに酢酸インゲナンに富んでいた。ペレットを、95%エタノール中で懸濁し、そして10,000gにて10分間遠心分離した。上清(6.0ml,10mg/ml)を0.2mlアリコート内に分散し、そして−20℃にて保存した。この抽出物を、MM96L黒色腫細胞株に対してアッセイし、そして高い能力を示し、1/5×106希釈においてもなお樹状細胞形態が明白であった;これは粗液の能力を複製した。このように調製した抽出物は、ジャトロファン2、3および4、ペプルアンならびに酢酸インゲナンに富んでいた。注入の直前に、20μlを、0.1−0.2mlの注入のために、5%ウシ胎仔血清を含むRPMI1640組織培養培地を有する1mlに希釈した。エタノール溶液(10mg/ml)をコットンバッド(0.2−0.4ml)に吸収させ、マウスの局所塗布のために使用した。
【0109】
(実施例12)腫瘍細胞の皮下インプラントの増殖の阻害
(a)5匹の4週齢のヌードマウスに、2×106個のMM96Lヒト黒色腫細胞を含む、0.1mlの組織培養培地を4つの異なる部位にs.c.注射した。3匹の処置したマウスに、5%ウシ胎仔血清および20μgのエタノール抽出物を含む0.1ml RPMI培地を1、2、3、5、6、7、および8日目に注射した。さらに、その処置したマウスに、約5〜10μlの10mg/ml エタノール抽出物または粗製の希釈していない樹液を4回まで局所適用した。処置したそれぞれのマウス上の異なる2つの部位に、エタノール抽出物または粗製の樹液で局所的処置を行った。1匹のマウスに12、13、および14日目に局所的処置を行い、そして他の2匹の処置したマウスは、15、19、20、および22日目に局所的処置を行った。腫瘍容積を32日目に測定した。
【0110】
局所的適用の前では、抽出物の注入は、腫瘍容積に明らかな効果を有さなかった。エタノール抽出物の局所的適用後に、一晩で腫瘍の外見に変化があった。腫瘍は、灰色がかった黒色になり、次いで固く、黒色のごつごつした外見になり、次いで痂皮形成が見られた。粗製の樹液で処置した腫瘍は、1日後に類似の変化を示した。時間がたつにつれて、エタノール抽出物および粗製の樹液の全体的効果は類似したため、局所的に処置した病変についての測定を組み合わせた。注射および局所的処置を与えたマウスにおいて、腫瘍容積は76%減少した(p<0.2)。エタノール抽出物で処置した1つの腫瘍は、図13に示すように、完全に消失し、他の8つは、平らな黒色の痂皮に縮小した。他の3つの処置した腫瘍は、最初に類似の色の変化と腫瘍後退が示されたが、測定を行う10日前の局所的適用の中止後に再増殖した。
【0111】
(b)6匹の4週齢のC57Black(C57Bl)マウスに、105個のB16黒色腫癌細胞を含む、0.1mlの組織培養培地を下腹部の2箇所に注射した。腫瘍を4日間発達させ、次いで、3つの注射レジメ(5%ウシ胎仔血清を含む、0.1mlのRPMI培地中の20μgエタノール抽出物(1、2、および4日目)および1回の局所的処置(4日目における5〜10μlの10mg/ml エタノール抽出物)に供した。最初の注射の8日後、腫瘍領域を定規を使用して測定した。処置によって、3匹の処置したマウスにおけるB16黒色腫腫瘍サイズは、3匹のコントロールマウスの腫瘍サイズと比較して、64%(p<0.05)減少した。
【0112】
結果を表18に要約する。
【0113】
【表18】
【0114】
(実施例13 精製した抽出物によってヒト黒色腫細胞株(MM96L)に誘導された遺伝子発現の変化)
10%ウシ胎仔血清を含むRPMI1640培地中、150cm2プレートにおいて培養されたヒト黒色腫細胞株のMM96L細胞株を、精製抽出物とともに5%CO2/空気中、37℃で4時間インキュベートした。細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS中に掻き取り、ペレット化し、1ml PBS中に再懸濁した。細胞をペレット化して300μl NP−40溶解緩衝液中に入れ、氷上に15分間放置した。細胞をペレット化し、上清をプロテイナーゼKおよびSDSとともに37℃で15分間処理し、フェノールクロロホルムで抽出して、そして全RNAを酢酸アンモニウム/エタノールによって−20℃で一晩沈澱させた。Promega mRNA単離キットを用いて、mRNAを単離し、次いで、33P標識されたdCTPの存在下で逆転写し、cDNAを生成した。cDNAをGenome Systems human Gene Discovery Array 1.2(GDA)において、製造業者の説明書に従ってハイブリダイズさせた。このアレイをMolecular Dynamics PhosphorImagerで定量し、そしてImageQantおよびExcelソフトウェアで分析した。
【0115】
処理および未処理細胞に由来する2連のスポット容積の割合を算出し、そして遺伝子活性化(割合>1)または阻害(<1)のレベルを規定するために使用した。バックグラウンドは、代表的には500〜1000カウントであるが差し引きされず;従って述べられた割合は、実際の変化より小さく見積もられている傾向がある。
【0116】
このアレイは、18,000を超える特有の配列、いわゆる発現された配列タグ(EST)からのcDNAスポットを含んでいた。ESTのうち約3000が同定可能な、ヒト細胞の発現された遺伝子に由来した。試験されたヒト黒色腫細胞における多くのEST配列は、抽出物での処置によってアップレギュレートされたか、またはダウンレギュレートされたかのいずれかであった。割合の<30%の標準偏差を有した2連に基づいた変化のみが、この段階において生物学的に有意であると考慮された。4時間という比較的短い処置時間が、薬剤について最も早くかつ最も重要な標的を同定するために使用されたことにもまた注意すべきである。遺伝子発現におけるさらなる主要な変化は、1次応答に依存して、この時間の後に生じるようである。
【0117】
いくつかの関連する公知の遺伝子(これは、癌細胞の制御に関して直接的または間接的にのいずれかで有利であると思われる)の転写物レベルにおける変化からの結果は、表19に要約される。
【0118】
この実施例において見られた細胞形態における変化は、主要な細胞骨格タンパク質であるアクチンと結合する多くのタンパク質の主要なダウンレギュレーションから生じることが予測され得る。レチノール結合タンパク質の増加はまた、ここで関与し得、そしてレチノイドの細胞内レベルの増加を介して分化された表現型の誘導にもまた関与し得る。
【0119】
太陽のUV照射によって誘導される現在または将来のDNA損傷の修復は、XP修復タンパク質の観察された誘導によって増強され得る。さらに、GADD45の減少およびイオン化照射耐性タンパク質(DAP3)は、放射線治療に対する腫瘍組織の感作において有用であり得る。後者の変化はまた注目すべきである。なぜなら、これは、MM96L細胞において、皮膚癌および黒色腫の原因であるUVBによって強力にアップレギュレートされるからである。
【0120】
免疫応答を増強することに関連性のある多くの分子、特にG−CSFが誘導される。これらのうちのいくつか(例えば、主要組織適合複合体(MHC)のタンパク質)は、免疫治療のため有用な属性であると考えられ、キラーT細胞活性を増強させる。
【0121】
細胞増殖の制御に最も重要な変化は、Gタンパク質およびPKC経路、ならびにプロテオソーム活性の増強の検出された変化に関する。経路の正常な平衡および経路相互作用(例えば、Rasシグナル伝達によって媒介される)における増殖および変化を含む、多くの細胞プロセスに関して重要である細胞内シグナル伝達は、細胞について有害な結果を有するようである。プロテオソーム成分LAMP7−E1の誘導レベルは、実験におけるいずれの遺伝子について見出されたものの中で最も高く、そしてユビキチン経路を介して多くのタンパク質のプロセシングを大きく変化させると予測される。
【0122】
遺伝子発現アレイデータに基づくと、本発明の化合物は、以下の活性を有すると予測される:
1.インビボで抗癌活性を導く様式で、Gタンパク質、PKCおよびRasシグナル伝達経路における遺伝子発現を調節することにおける活性
2.標的またはエフェクタ細胞のいずれかにおいて、DNA修復および免疫応答を増強させることによって、太陽のUVおよび類似の因子からの損傷を寛解させることにおける活性
3.防御タンパク質(GADD45およびDAP3)のダウンレギュレーションに基づく、放射線治療に対するアジュバントまたは他のDNA損傷因子での治療に対するアジュバントとしての活性。
【0123】
【表19】
【0124】
【0125】
(実施例14 ヒトボランティアにおける日光性角化症の処置)
倫理委員会の承認を、Queensland Institute of Medical Researchから、ヒト被験体における顔面日光性角化症の処置のための、臨床医の監督下でのE.peplusの粗製の樹液の使用の治験について得た。
【0126】
オーストラリアで生長した植物から得て、50%グリセロール中で−20℃で2週間保存した粗製抽出物を、綿棒塗布具を用いて、臨床的に診断された(直径約5mmの)日光性角化症の表面(男性ヒトボランティアの顔面の左こめかみ)に適用した。約50μlを表面に送達した。1日後、2回目の適用を同じ部位に行った。1回目の適用の後、4〜5時間にわたって何の反応も見られなかったが、その後、この部位で炎症反応が生じて、直径80〜100mmの領域に広がった。1日後、適用部位および適用領域に対して遠位の局在性の部分において、新たな前悪性の部位がまた標的化されたかのように、局在性の腫脹および水疱形成が見られた。1回目の処置の4日後に、腫脹は鎮静化し、そして痂皮形成が罹患部位で明らかであった。14日後、痂皮は脱落し、その下部に新たな皮膚が出てきた。6週間後、処置した領域は、まだピンクがかっていたが、元々の日光性角化症の兆候はなかった。コントロールとして、同じボランティアの前腕部の正常皮膚の1cm2の部分もまた同様に処置した。局在性の軽度の炎症が見られ、これは、処置後7〜10日で消失した。
【0127】
日光性角化症の処置に関連した強い炎症反応は、実施例13における遺伝子アレイスクリーニングから得られた免疫応答についての結果、および以下の実施例15におけるE.peplusの粗製樹液によってT細胞のインビトロの増殖の観察によって示唆されるように、キラーT細胞の漸増および増殖を反映し得る。キラーT細胞活性の増強は、免疫系による癌細胞の破壊において重要な過程であると考えられ、そして元来の処置部位に対して遠位の前悪性病変の認識および攻撃を説明することを補助し得る。
【0128】
(実施例15 正常メラニン細胞の細胞数に対する粗製樹液およびTLCからの精製画分「A」および「H」の効果)
12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート(TPA)は、インビトロでの正常メラニン細胞の培養のために必須である。なぜなら、これらの細胞は、TPAなしでは非常に不充分にしか増殖しないからである。予備実験において、実験の開始からTPAを添加することなく、E.peplus画分を培地に添加した。E.peplus画分を新鮮な培地に添加し、そしてスコアされた細胞数を、E.peplus画分またはTPAなしの新鮮な培地と比較した。このレジメの下で、TPA欠損培地において増殖させた「コントロール」細胞で得られた細胞数より、より多くのメラニン細胞数が得られた。興味深いことに、E.peplus画分含有培地における細胞は、TPAを含有する、いわゆる「標準」培地において増殖させた細胞より健常に見えた。従って、E.peplus由来の化合物は、細胞培養におけるツールとしてのTPAの使用より優れた代替物を提供し得る。
【0129】
第2の実験において、正常のメラニン細胞を、10%ウシ胎仔血清、コレラ毒素、抗生物質およびTPAを含むRPMI 1640培地中、1ウェルあたり5000細胞でプレートした。24時間後、培地を吸引によって細胞から除去し、そしてTPAを添加することなく(しかし、特定された添加物を含む)、新たな培地で置換した。細胞をさらに10日間インキュベートした後にスコア付けした。結果を表20に示す。先の実験において示された癌細胞株に対するこれらの濃度で観察された細胞阻害効果と対照的に、1/5,000,000希釈においてすら、細胞増殖効果が粗製および精製画分で注目されたことが明らかである。別個の試験において、インビトロでのT細胞増殖はまた、粗製のE.peplus樹液を用いたT細胞の処置後に得られた。
【0130】
【表20】
【0131】
正常メラニン細胞およびT細胞の両方がE.peplus 樹液からの画分によって増殖が誘導されたので、この因子は、正常細胞の再生が有利である任意の医学的状態において、インビボまたはインビトロのいずれかにおいて、正常細胞についての細胞増殖因子として広範な適用を有し得る。その医学的状態としては、以下が含まれるが、これらに限定されない:
a)外傷の症例において、および外科的手術後、および熱傷からの回復における迅速な創傷治癒のための皮膚細胞(ケラチノサイト)の増殖。
b)移植のための膵臓島細胞の増殖。
c)免疫系のT細胞および他の細胞の増殖。日光性角化症の処置に対するヒトボランティア治験における適用時点後の作用の拡大が、適用領域に対するナチュラルキラーT細胞の漸増によって説明され得ることに注目することは興味深い。
d)肝臓、腎臓、結腸、肺、および眼に由来する老化および壊死組織の再生。
e)器官移植に対する代替物としての宿主組織の増殖。
【0132】
(実施例16 悪性黒色腫MM96L細胞数に対するベタインの効果)
異なるタイプのベタインを、最終濃度1mg/mlまで滅菌MilliQTM水中に溶解し、そして5000個のMM96L細胞を含む0.1mlの組織培養培地中に、先に記載したように希釈した。細胞を4日のインキュベートの後にスコア付けした。結果を表21に示す。
【0133】
試験したほとんどのベタインが細胞数に対する影響を有さなかったのに対して、βアラニンベタインヒドロクロリド(ホモベタイン)は、20μg/mlの最終濃度で細胞数を減少させ、そして細胞は、樹状の様相を呈した。t−4ヒドロキシN,N−ジメチルプロリンもまた、20μg/mlの最終濃度で細胞数を阻害した;しかし、細胞形態は、多樹状(polydendritic)形態の細胞形態に変化し、このことの意義は未知である。
【0134】
βアラニンベタインヒドロクロリド(ホモベタイン)は、別個にまたは組み合わせてのいずれかで、E.peplus粗製樹液またはその精製有効成分についての適切な処方物薬剤であり得る(インゲノール、ペプルアン、およびジャトロファン1−6を含む)。これは、低希釈のE.peplus成分で前悪性皮膚病変に対して局所的適用のために使用され得るか、または高濃度のE.peplus成分を有する抗癌剤として処方され得る。ベタイン自体は、抗癌剤として有用であることが示唆されている;例えば、Wiersemaらの米国特許第5,545,667号を参照のこと。
【0135】
それらの界面活性剤特性のために、ベタインは、化粧品における処方物成分として広範に使用される。それらの両性イオン特性に起因して、ベタインはまた、皮膚のより深層に他の成分の輸送を助け得る。E.peplus 樹液またはそれらから得られた精製画分の非常に希釈された抽出物とともに、皮膚用化粧品調製物において使用されるベタイン(例えば、ジャトロファン類、ペプルアン、パラリアン、またはインゲナンを含む)は、別個にまたは組み合わせて、望ましくは、補完的な特性を有するべきである。グリシンベタインを含む、試験された全てのベタインのうち、β−アラニンベタインヒドロクロリド(ホモベタイン)のみが、たとえ中程度であっても、E.peplus 樹液およびその画分と比較して、表現型逆転(reversal)効果を有した。
【0136】
【表21】
【0137】
本発明は、明瞭化および理解の目的でいくらか詳細に記載されているが、本明細書中に記載の実施態様および方法に対して種々の改変および変更が、本明細書に開示された本発明の概念の範囲から逸脱することなくなされ得ることは、当業者に明らかである。
【0138】
本明細書中に引用された参考文献は、以下の頁に列挙され、本明細書に参考として援用される。
【0139】
【表22】
【0140】
【0141】
【0142】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Euphorbiaceaeファミリーに由来する有効成分に存在し、そして特にEuphorbia peplus、Euphorbia hirta、およびEuphorbia drummondii種の植物中に存在する化合物または化合物の群に関する。これらの植物に由来する抽出物は、いくつかの異なる癌細胞株に対する選択的な細胞障害性を示すことが見いだされている。Euphorbia種の樹液に存在する化合物は、癌、特に悪性黒色腫および扁平上皮細胞癌(SCC)の効果的な処置において有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
日光の紫外線成分への皮膚の曝露と皮膚癌(例えば、悪性黒色腫および非黒色腫皮膚癌(おもに、基底細胞癌(BCC)および扁平上皮細胞癌(SCC)))の発症との間には強力な関連がある。これらの癌の発症率は、世界的に迅速に増大してきた。英国では、1994年に、4000の新たに診断された悪性黒色腫の症例が存在し、これは過去10年間で80%の増加であった(Wessex Cancer Trust,1996)。米国では、約34,100の新たな症例が予想され、これは1年あたり4%の増大であった。オーストラリアのクイーンズランドは、世界で最も高い黒色腫の発症率を有するが、初期の検出および広範な公衆衛生キャンペーンならびに日焼け止めの使用および紫外線への曝露を減少することの奨励により、死者の数を減少させることに役立ってきた。BCCは、現在のところ、英国の人口の1,000人に1人が罹患し、そして過去20年でその発症率は2倍以上になっている(Imperial Cancer Research Fund、英国、1997)。1990年の600,000および1980年の400,000に比較して、1997年には米国において、BCCおよびSCCの100万の新たな症例が診断されると予想されている(National Oceanic and Atmospheric Administration U.S.A.,1997)。オーストラリアでは、太陽の放射およびUV放射の危険性(クイーンズランドの集団が最も大きな危険性にある)の広範な宣伝にもかかわらず、同様に増大する症例が同様に当てはまらないと予想する理由はない。
【0003】
全ての皮膚癌の90%を超えるものが、日光または他の紫外線の照射に規則的に曝されている皮膚の領域に生じ、ここで、U.V.B.は、皮膚の日焼けの原因であり、そして悪性の黒色腫に関連し、そしてU.V.A.は、未成熟の皮膚の老化ならびにBCCおよびSCCの発症に関連する(Wessex Cancer Trust,1996)。幼少時の日光への曝露は、若年成人における悪性黒色腫の発症に関連付けられてきた。他の危険因子には、遺伝的素因(色白、多数の皮膚のほくろ)、化学的汚染、X線への過剰な曝露、ならびに何らかの薬物および殺虫剤に対する曝露が含まれる。成層圏のオゾン層の減少は、皮膚癌の長期的増加に貢献すると考えられている。
【0004】
外科的切除が悪性黒色腫(BCCおよびSCC)に対するずばぬけて最も一般的な処置である。これは、電気乾燥療法および掻爬術、凍結外科、単純な広範な切除、顕微鏡的手術、またはレーザー治療の形態をとり得る。癌が発症の後期に検出された場合に使用される他の処置は、外因的放射線治療、化学療法、またはより低い程度に生体免疫治療または光力学的治療である。処置の選択は、疾患の型および段階に依存し、そして患者の年齢および健康に依存する(National Cancer Institute、U.S.A.、1997)。
【0005】
現在の処置の全てが重大な制限に悩んでいる。主要な懸念は、切除部位での癌細胞の認識が貧弱であること、および再発の可能性が高いことであり、そのため追尾手術および処置が必要になり、さらなる美観の損失および傷跡の危険性を伴う。1つの刊行物において、不完全に切り出されたBCCの報告された割合は、30〜67%であった(SussmanおよびLiggins、1996)。手術に伴う免疫抑制は、任意の残余の細胞の増殖を引き起こし得、そして転移の危険性を増大させ得る。黒色腫患者においては、最初の手術の時点で癌がすでに転移しているという高い危険性が存在し、そして死を導くその後の再発は一般的である。現在手術に替わるもの、例えば、放射線治療および化学療法はまた、免疫抑制および特異性の悪さの危険性を有する。免疫治療および遺伝子治療は、最も大きな期待を有しているが、これらの合理的な適用は、未だ何十年先であるようである。
【0006】
腫瘍が手術の影響を受けやすい段階を過ぎた場合、全ての型の黒色腫または転移皮膚癌のための最も一般的な処置は、化学療法であり、これは大部分は成功を収めていない(BeljanskiおよびCrochet、1996)。
【0007】
理論的には、理想的な薬物は、曝露された黒色腫、BCCまたはSCCに局所的に適用された場合に、周囲の健康な皮膚細胞に損傷を引き起こさずに選択的にその腫瘍細胞を壊死させるか、またはそれらがアポトーシスを経ることを誘導する薬物である。実際には、これはまだ達成されていない。現在利用可能な薬物は、選択的でも浸透性でもない。
【0008】
専門家ではない大衆はまた、局所化学治療の概念に魅了される。皮膚癌のための多くの報告された「民間療法」が存在し、これらは悲惨な結果(例えば、靴磨きの使用)を有してきた(Adele Green、Queensland Institute of Medical Research,pers. Comm.)。主要な危険性は瘢痕組織の生成であり、その下に腫瘍細胞が継続して増殖する。Solanum属の植物(カンガルーリンゴまたは悪魔のリンゴ)に由来し、そしてソラソジン(solasodine)グリコシドを含有すると噂される抽出物は、サンスポット(sunspot)および日光性角化症の非処方調製物処置として「Curaderm」の名の下にオーストラリアで入手可能である。しかし、その調製物は、小さな臨床的試行においてBCCに対して効果的でないことが示され、20人の患者のうちの14人が処置された部位由来の組織の組織学的検査において持続的腫瘍を示した。いくつかの症例において、処置の部位の組織学的検査は、瘢痕組織に包埋された悪性組織を明らかにした。執筆者らは、自己診断および処置(特に刺激物質での)に対して警告した(Francisら、1989)。
【0009】
しかし、秘話的報告は、植物樹液抽出物が、サンスポットまたは日光性角化症の処置に一般公衆によって未だに使用され、いくつかの成功例が主張されていることを示唆する。
【0010】
Euphorbiaceaeファミリーの植物、特にEuphorbia属の樹液は、多くの国々の民間療法において使用されてきた。この属は、その意図された医学的特性を考慮して昔のギリシャ人の内科医にちなんで名付けられた(Pearn,1987)。ほんの最近になって、これらの主張のいくつかが科学的に調査されるようになった。この属は、非常に広範であり、小さな丈の低い草木性の植物から低木および木までの範囲にわたる。これらの植物およびその抽出物の活性のほとんど全ての報告が、逸話的であるか、または伝統的な医学に由来し、そして使用されるその調製物の性質は、未知であるかまたは非常に貧弱に記載されているかのいずれかである場合が頻繁である。いぼ、「病的増殖物」、胼胝、「ケロイド腫瘍」、魚の目、ひょう疽(whitlowもしくはfelon)、「余分な肉(superfluous flesh)」などから、種々の癌までにわたる非常に種々の状態に対して活性が主張されている(例えば、Hartwell:Lloydia 1969 32 153を参照のこと)。
【0011】
米国国立ガン研究所によって行われた35,000の陸生植物種からの114,000の抽出物について行われた抗癌活性についてのスクリーニングプログラムの一部として、Euphorbiaの多数の種が試験された。水性の懸濁液、オリーブ油懸濁液、アルコール抽出物、および酸抽出物が移植可能な癌細胞株肉腫37に対する活性についてスクリーニングされた。4つの種が試験された。これらのうち、Euphorbia peplusは、その抽出物のいずれにおいても活性を示さなかった;Euphorbia drummondii、Euphorbia pilulifera、およびEuphorbia resiniferaは、酸抽出物、アルコール抽出物、およびオリーブ油懸濁液のそれぞれの弱い活性を示した(BelkinおよびFitzgerald,1953)。過去5年間の科学的および医学的文献の総説は、広範な強力な有効成分(例えば、この属におけるジ、およびテトラテルペン、フラボノイド、ステロール、およびタンパク質)を明らかにし、そして多くの生物活性効果が、記録された陽性および悪性効果の両方について報告されている。これらの報告は表1に要約される。特に、Euphorbia属は、ホルボールエステルのような腫瘍プロモーターを生成することが周知である(Hecker,E.:「Cocarcinogens from Euphorbiaceae and Thymeleaceae」 「Symposium on Pharmacognosy and Phytochemistry」(Wagnerら、編、Springer
Verlag 1970 147−165)。
【0012】
【表1】
【0013】
【0014】
【0015】
この群のなかで最も重点的に研究されている種は、Euphorbia pilulifera L(同義語E.hirta L.;E.capitata Lam.)であり、その一般的な名称は、ピル保有(pill−bearing)トウダイグサ、ヘビグサ(snake−weed)、ネコの毛、クイーンズランド喘息草(Queensland asthma weed)、および花様頭(flowery−headed)トウダイグサを含む。その植物は、インドを含む熱帯諸国およびクイーンズランドを含む北オーストラリアに広く分布している。「Encyclopedia of Common Natural Ingredients Used in Food, Drugs and Cosmetics」(LeungおよびFoster、1996)によれば、その顕花植物または子実植物(fruiting plant)の全体が、薬草療法(基本的には咳用調製物のため)に、および呼吸器の状態(例えば、喘息、気管支炎、咳、および枯草熱)の処置のための伝統的な薬物において使用される。この参考文献は、Euphorbia piluliferaの活性成分が、コリンおよびシキミ酸であり、そして存在する他の化合物には、トリテルペン、ステロール、フラボノイド、n−アルカン、フェノール酸、L−イノシトール、糖および樹脂が含まれることを報告する。これらの成分のうち、シキミ酸は、芳香族アミノ酸の合成における重要な中間体であり、そしてマウスにおいて発ガン活性を有することが報告されている(EvansおよびOsman、1974;StavricおよびStoltz、1976)。ジャトロファン(jatrophane)、インゲナン(ingenane)、およびペプルアンと名付けられた四環系ジテルペンは、Jakupovicら(1998a)によってEuphorbia peplusの樹液の中に同定された。ジャトロファンは、以前に公知であったジャトロファンのコンホメーションとは異なるコンホメーションを有すると記載された。ジャトロファンはまた、非刺激性のジテルペンの群に属すると記載され、このことはそれらが以前の研究において過誤されたことを説明しうるかもしれない。ジャトロファンまたは新たなペプルアン化合物のいかなる生物学的活性の開示も示唆も少しもない;またこれらの化合物のいずれかが任意の薬学的目的のために有用であり得ることを示唆もされていない。
【0016】
最近の報告は、北ナイジェリアに見つけられる高度に毒性である植物であるEuphorbia poisoniiの乳液由来の多数のチグリアン(tigliane)ジテルペンエステルの選択的な細胞傷害性を記載し、これは園芸用殺虫剤として使用され、そして殺人に使用されると一般に考えられている。これらの化合物の1つは、アドリアマイシンの細胞傷害性よりも10,000倍を超えるヒトの腎臓癌細胞株A−498に対する選択的な細胞傷害性を有する(Fatopeら、1996)。
【0017】
一連の特許出願において、Tamasは、癌治療(EP330094)、AIDS関連複合体およびAIDS(HU−208790)、ならびに免疫を増強することおよび開放創の処置のための抗菌剤として(DE−4102054)、を含む種々の目的のためのEuphorbia hirta植物およびその抽出物の使用を主張している。
【0018】
従って、種々のEuphorbia調製物の抗癌活性の単離された報告が存在する一方(Fatopeら、1996;Oksuzら、1996を参照のこと)、少なくとも1つのEuphorbia種に存在する化合物が発ガン性であると報告されたのみでなく(EvansおよびOsman、1974;StavricおよびStolz、1976;Hecker、1970;1977)、少なくとも1つの種が皮膚刺激性および腫瘍促進効果を有し(Gundidzaら、1993)、そして別の種がバーキットリンパ腫においてEBV−特異的細胞免疫を減少させる(Imai、1994)。
【0019】
本発明らの知る限りでは、悪性黒色腫またはSCCの処置のためのEuphorbia種からの任意の抽出物の使用の信頼性のあるかまたは再現性のある報告はこれまで存在しなかった。BCCのEuphorbia peplus(微量のトウダイグサ(petty spurge)またはミルク草(milk weed))の乳液での在宅治療の逸話的な報告は、「Home treatment of basal cell carcinoma」(1976)と題されたWeedon,D.およびChick,J.の刊行物であった。執筆者らは、医学的な特性がGalenの時点からこの植物の乳状の汁について主張されており、そして魚の目、いぼ、および喘息のための民間療法として広く使用されたことを記載した。その世紀の半ばにおいて、それは蚕食性潰瘍の処置のためにシドニーの何人かの内科医によって使用された。執筆者らの患者は、複数のBCCについて何年もにわたって彼自身を処置してきたと主張した。
【0020】
「その患者(54歳の男性)は、1971年以来、時々Royal Brisbane Hospitalに来診していた。ある来診の時に、彼は、彼の胸の前部に臨床的な基底細胞癌(これは、その端から採取した小さな標本の生検によって確認された)を有することが認められた。数日後、その生検部位が治癒した時、その患者はEuphorbia peplusの樹液を5日間毎日塗布した。その領域は、紅斑性になり、次いで膿疱性になり、その後その病変は脱落した。処置の6週間後に彼が戻ったとき、その患者は、残っている傷跡の小領域を外科的に切り出すことに同意した。複数の切片が数個の慢性炎症性細胞を含んだ皮膚瘢痕組織を示したが、残余の腫瘍の証拠は示さなかった。」
その執筆者らは、「この通信はその治療の形態を推奨するものとして受け取られるべきものでは決してない」と記載した。樹液の腐食性の性質、およびEuphorbia peplusを使用するいぼの在宅治療から生じるわずかな目の損傷に対して警告するいくつかの報告が存在する(Eke,T.、1994)。WeedonおよびChickによって報告された効果は、Euphorbia
peplus樹液の刺激活性から生じ、そしてFrancisら(1989)によって報告されたSolanum抽出物「Curaderm」の場合と同様に、このような処置から生じる瘢痕組織の中にまたはその下に生存する残余の癌組織の高い危険性が存在する。
【0021】
本発明者は現在、驚くべきことに、3つの異なるEuphorbia種である、Euphrbia peplus、Euphorbia hirta、およびEuphorbia drummondiiに由来する植物の樹液が、悪性黒色腫を含む3つの異なるヒト癌細胞株の増殖を特異的に阻害することを見いだした。さらに、非常に低い濃度で、Euphorbia peplusおよびEuphorbia hirtaに由来する樹液が、悪性黒色腫細胞が正常なメラニン細胞の形態学的外観に適合するように、それらの分化を誘導した。類似のまたはさらに低い濃度で、抽出物は、メタロチオネイン遺伝子プロモーターの活性化およびMM96L悪性黒色腫細胞におけるレポーター遺伝子の発現を刺激した。その結果は、特に顕著であった。なぜなら、使用された黒色腫細胞株は、それに対して試験された従来の化学療法剤の全てによる阻害に対して抵抗性であるからである(MaynardおよびParsons、1986)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
第一の局面において、本発明は、Euphorbia属の植物、特にEuphorbia peplus、Euphorbia hirta、および/またはEuphorbia drummondiiの樹液に存在する化合物を提供する。その化合物は:(a)癌細胞を殺傷またはその増殖を阻害し得るが、正常な新生仔の線維芽細胞または自発的に形質転換したケラチノサイトに有意に影響を与えず;(b)95℃で15分間加熱することによって破壊されない活性を有し;(c)アセトンによる処理によって破壊されない活性を有し;(d)95%エタノールで抽出し得る活性を有し;そして(e)メタロチオネイン遺伝子活性化を刺激する。
【0023】
好ましくは、その化合物(単数または複数)は、本明細書中で規定されるMM96L、MM229、MM220、MM237、MM2058、B16、LIM1215,HeLa、A549、MCF7、MCC16、およびColo16からなる群から選択された少なくとも1つの細胞株の増殖を阻害し得る。より好ましくは、その化合物(単数または複数)は、MM96L細胞における増殖を阻害し得るか、または分化を誘導し得る。
【0024】
さらにより好ましくは、その化合物はまた、正常なメラニン細胞の増殖を誘導し得る。
【0025】
好ましくは、その化合物はE.peplusまたはE.hirtaの樹液中に存在する。
【0026】
本発明が樹液または樹液抽出物において検出される化合物を参照して詳細に記載されるが、これらの化合物は、植物全体またはその一部に存在するかまたはそれらから抽出された場合、なお本発明の範囲内にあることが明確に理解される。
【0027】
第二の局面において、本発明は、上記のような活性化合物を薬学的に適切なキャリアまたは希釈剤とともに含む組成物を提供する。
【0028】
より好ましくは、その化合物は、ジャトロファン、ペプルアン、パラリアン、およびインゲナンからなる群から選択される。
【0029】
その化合物がジャトロファンである場合、それは好ましくはJakupovicら(1998a)によって定義される立体配座IIである。天然に生じるジャトロファン、ペプルアン、およびパラリアン骨格において観察される置換体は、本発明の範囲内であることが明確に理解される。これらは、以下の置換体およびアナログを含む。
【0030】
この型の化合物は、Euphobia属の種々の植物において見いだされている(Jakupovicら、1998a、b、c;Marcoら、1998)。
【0031】
【表2】
【0032】
【0033】
さらにより好ましくは、この化合物は、以下から成る群およびそれらの薬学的に受容可能な塩またはエステルから選択される:
5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン(ペプルアン(pepuluane));
15−ペンタアセトキシ−9−ニコチノイルオキシ−14−オキソヤトロファ−6(1),11E−ジエン(ジャトロファン(jatrophane)1);
2,5,7,9,14−ヘキサアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシ−ヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン2);
2,5,14−トリアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシ−9−ニコチノイルオキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン3);
2,5,9,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン4);
2,5,7,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−9−ニコチノイルオキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン5);
2,5,7,9,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシヤトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン6);20−アセチル−インゲノール(ingenol)−3−アンゲレート(angelate)。
【0034】
本発明の1つの好ましい実施態様において、この組成物は、β−アラニンベタイン塩酸塩またはt−4−ヒドロキシ−N,N−ジメチルプロリンをさらに包含する。
【0035】
第3の局面において、本発明はガンの処置方法を提供し、この方法は、抗ガン有効量の本発明の化合物を、このような処置を必要とする哺乳動物へと投与する工程を包含する。
【0036】
好ましくは、このガンは固形ガンである。より好ましくは、このガンは以下から成る群から選択される:悪性黒色腫、メルケル(Merkel)細胞ガンと扁平上皮細胞ガンと基底細胞ガンとを含む他の皮膚ガン、肺ガン、結腸ガン、前立腺ガン、頸部ガンおよび乳ガン。
【0037】
第4の局面において、本発明は新形成性細胞の増殖活性を阻害する方法を提供し、この方法は、この細胞を、抗増殖量の本発明の化合物へと曝す工程を包含する。これらの細胞はエキソビボまたはインビボのいずれかで処置され得る。
【0038】
第5の局面において、本発明は、紫外線の照射、電離放射線、マイクロ波照射、オゾンへの曝露などによって生じる、皮膚に対する損傷を予防または軽減する方法を提供し、この方法は有効量の本発明の化合物をこのような処置を必要とする被験体に局所的に投与する工程を包含する。本発明はこの局面において、日光性角化症、放射線治療の間に生じる皮膚損傷などの処置に使用され得る。
【0039】
第6の局面において、本発明は非新形成性細胞の増殖を刺激する方法を提供し、この方法は、この細胞を、増殖を誘導する量の本発明の化合物または組成物へと曝す工程を包含する。これは組織の再生を誘導するに有用であり、そして、T−リンパ球が本発明の組成物に応答して増殖するので、疾患状態に対する免疫応答を促進するに有用である。
【0040】
哺乳動物はヒトであり得るか、または家畜もしくはペット(companion animal)であり得る。本発明の化合物はヒトの医療的処置での使用について適切であることが特に意図されるが、イヌおよびネコのようなペット、およびウマ、ウシおよびヒツジのような家畜、またはネコ科動物、イヌ科動物、ウシ科動物および有蹄動物のような動物園の動物の処置を含む、獣医学的処置にもまた適応可能である。
【0041】
本発明の化合物および組成物は任意の適切な経路によって投与され得、そして当業者は処置される症状に対して最も適切な経路および用量を容易に決定し得る。用量は臨床の医師または獣医師の裁量により、そして処置される症状の性質および状態、処置される被験体の年齢および全体的な健康状態、投与経路ならびに施されたかもしれない以前の処置に依存する。
【0042】
キャリアまたは希釈剤、および他の賦形剤は投与経路に依存し、そして当業者はやはり各々の特定の症例について最も適切な処方を容易に決定し得る。本発明の化合物は、経口的、局所的および/または非経口的注入(静脈内注射を含む)によって投与され得ることが意図される。
【0043】
薬学的組成物の調製のための方法および薬学的キャリアは、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania、USAのような教科書に記載のように、当該分野において周知である。
【0044】
本明細書の目的のために、用語「包含する(comprising)」とは「含むが、限定されない(including but not limited
to)」を意味し、そして用語「包含する(comprises)」が対応する意味を有することは、明らかに理解される。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1) Euphorbia属の植物、特に、Euphorbia peplus、Euphorbia hirtaおよび/またはEuphorbia drummondiiの樹液に存在する化合物であって、
(a)癌細胞を死滅または癌細胞の増殖を阻害し得るが、正常新生仔線維芽細胞または自発的に形質転換したケラチノサイトに有意に影響を与えない;
(b)95℃15分間の加熱によって破壊されない活性を有する;
(c)アセトンでの処理によって破壊されない活性を有する;
(d)95%エタノールを用いて抽出され得る活性を有する;かつ
(e)メタロチオネイン遺伝子活性化を刺激する、
化合物。
(項目2) 本明細書中で定義される、MM96L、MM229、MM220、MM537、MM2058、HeLa、B16、LIM1215、A549、MCF7、MCC16およびColo16からなる群から選択される少なくとも1つの細胞株の増殖を阻害し得る、項目1に記載の化合物。
(項目3) MM96L細胞の増殖を阻害またはMM96L細胞の分化を誘導し得る、項目2に記載の化合物。
(項目4) 正常メラニン細胞および/またはT細胞の増殖もまた誘導し得る、項目1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
(項目5) 薬学的に受容可能なキャリアまたは化粧品的に受容可能なキャリアとともに、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物を含有する組成物。
(項目6) 前記化合物が、ジャトロファン類、ペプルアン類、パラリアン類およびアンゲロイル置換インゲナン類、またはこれらのアセチル化誘導体、ならびにこれらの薬学的に受容可能な塩またはエステルからなる群から選択される、項目5に記載の組成物。
(項目7) 前記化合物が立体配座IIのジャトロファンである、項目6に記載の組成物。
(項目8) 前記化合物が表2で定義されるように置換されている、項目6または項目7に記載の組成物。
(項目9) 前記化合物が以下からなる群から選択される、項目5〜8のいずれか1項に記載の組成物:
5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン(ペプルアン);
15−ペンタアセトキシ−9−ニコチノイルオキシ−14−オキソジャトロファ−6(1),11E−ジエン(ジャトロファン 1);
2,5,7,9,14−ヘキサアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシ−ジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 2);2,5,14−トリアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 3);
2,5,9,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 4);
2,5,7,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 5);
2,5,7,9,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン 6);
20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレート;
およびこれらの薬学的に受容可能な塩またはエステル。
(項目10) 前記キャリアが、β−アラニンベタインヒドロクロリドまたはt−4−ヒドロキシ−N,N−ジメチルプロリンを含有する、項目5〜9のいずれか1項に記載の組成物。
(項目11) 癌を処置する方法であって、抗癌に有効な量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物を、このような処置が必要な哺乳動物に投与する工程を包含する、方法。
(項目12) 前記癌が固形腫瘍である、項目11に記載の方法。
(項目13) 前記癌が、悪性黒色腫、メルケル細胞癌、扁平上皮癌および基底細胞癌を含む他の皮膚癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、頸癌、および乳癌からなる群から選択される、項目11または項目12に記載の方法。
(項目14) 放射線治療するためまたはDNA損傷物質を用いて治療するためのアジュバントとして使用される、項目11〜13のいずれか1項に記載の方法。
(項目15) 腫瘍形成細胞の増殖活性を阻害する方法であって、該細胞を、抗増殖量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法。
(項目16) 非腫瘍形成細胞の増殖を刺激する方法であって、該細胞を、増殖誘導量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法。
(項目17) T細胞の活性および/またはT細胞の増殖の誘導を刺激する方法であって、該細胞を、有効量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法。
(項目18) 項目16に記載の方法に従って免疫系の細胞を刺激することによって疾患状態を軽減する方法。
(項目19) 腫瘍形成細胞の分化を誘導する方法であって、該細胞を、有効量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物に曝露する工程を包含する、方法
(項目20) 前記細胞がインビボで処置される、項目15〜18のいずれか1項に記載の方法。
(項目21) 前記細胞がエキソビボで処置される、項目15〜18のいずれか1項に記載の方法。
(項目22) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または緩和する方法であって、このような処置を必要とする被験体に、有効量の、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物を局所投与する工程を包含する、方法。
(項目23) 前記損傷が日光性角化症である、項目22に記載の方法。
(項目24) 前記損傷が放射線治療の間に起こる、項目22に記載の方法。
(項目25) 前記哺乳動物がヒトである、項目11〜24のいずれか1項に記載の方法。
(項目26) 癌の処置における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
(項目27) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または軽減するための、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
(項目28) 癌の処置における、項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目29) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または軽減するための、項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目30) 癌の処置のための医薬の製造における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目31) 紫外線照射、電離放射線、マイクロ波照射、またはオゾンへの曝露によって引き起こされる皮膚への損傷を予防または軽減するための医薬の製造における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
(項目32) 非腫瘍形成細胞の増殖を誘導するための医薬の製造における、項目1〜4のいずれか1項に記載の化合物または項目5〜10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、E.peplusの樹液のメタロチオネイン遺伝子の活性化に対する効果を示し、これは発色性基質を使用してβ−ガラクトシダーゼの活性を検出することによって測定された。
【図2】図2は、E.peplusの樹液の存在下で7日間マイクロタイタ−ウエル中で増殖したMCF7乳ガン細胞の増殖度を示す(コントロール値に対するパーセントとして表す)。
【図3】図3は、E.peplusの樹液のエタノール可溶性抽出物のRP−HPLC細分画の後の、195nmでの吸光度プロフィールを示す。
【図4】図4は、図3由来のフラクション14を繰り返しRP−HPLCクロマトグラフィーにかけた結果を示す。
【図5】図5は、図4由来のピークの定常ダイオードアレイ(constant diode array)スペクトルを示す。
【図6】図6は、MM96L黒色腫細胞の、実施例7由来のフラクション15での処置の結果を示す。細胞は抗体TRP−1で染色し、この抗体は細胞骨格に対して指向される。A、B(4日目)、C、D(21日目)。
【図7】図7は、展開溶媒としてクロロホルム:酢酸エチル(82:18)を用いる、実施例6由来のエーテル可溶性画分の薄層クロマトグラフィーの結果を示す。
【図8】図8は、一次元ではヘキサン:酢酸エチル(1:1)、および二次元ではトルエン:アセトン(9:1)を用いる、シリカゲルでの二次元TLCによってのさらなる精製の結果を示す。 A:スポット34〜45は、UV光ボックスで可視化された。活性は、500分の1の希釈で、MM96Lに対してスコアした(+++=効果無し、−=完全な細胞の死滅、d=細胞の樹状外観への100%の復帰。 B:スポット14〜20は、UV光ボックスで可視化された。活性は、500分の1の希釈で、MM96Lに対してスコアした(+++=効果無し、−=完全な細胞の死滅、d=細胞の樹状外観への100%の復帰。 C:スポット21〜27は、UV光ボックスで可視化された。活性は、500分の1の希釈で、MM96Lに対してスコアした(+++=効果無し、−=完全な細胞の死滅、d=細胞の樹状外観への100%の復帰。
【図9】図9は、トルエン:アセトン(9:1)溶媒系を用いるHPTLCでの、粗樹液の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。不透明バンド1〜7は、UV光ボックスで可視化された。
【図10】図10は、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)溶媒系を用いるHPTLCでの、図9由来のフラクション1の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。バンドA〜Gは、UV光ボックスで可視化された。(クロロホルム中0.1%ヨウ素で染色した側面のストリップによりフラクションGが明らかにされた−MM96Lに対して不活性)。
【図11】図11は、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)溶媒系を用いるHPTLCでの、図9由来のフラクション1の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。バンドHは、UV光ボックスで可視化された。
【図12】図12は、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)溶媒系を用いる分取薄層クロマトグラフィー(PLC,Merck)での、粗樹液から調製したジエチルエーテル可溶性画分の上昇クロマトグラフィーの結果を示す。領域HおよびA〜Fは、UV光ボックスで可視化され、抽出され、そしてインビボ実験に使用された。
【図13】図13は、ヌードマウスにおける皮下のヒト黒色腫MM96L異種移植片の、実施例11に記載のように調製された部分的に精製された画分での処置の結果を示す。矢印は腫瘍(右手側)および正常皮膚(背中上部)についての局所処置の位置を示す。処置レジメ開始後32日目、および最初の局所適用の20日目に、残留する腫瘍の増殖または正常皮膚に対する存続する損傷の証拠は存在しなかった。
【発明を実施するための形態】
【0046】
(発明の詳細な説明)
本発明は、以下の非限定的な実施例および図面のみを参照として、詳細に記載される。
【0047】
(実施例1)
(Euphorbia樹液の腫瘍細胞株に対する阻害活性)
3つのEuphorbia種(Euphorbia peplus、Euphorbia hirtaおよびEuphorbia drummondii)の樹液の、3つの異なる腫瘍細胞株の増殖を阻害する能力を試験した。正常皮膚線維芽細胞に対する活性をコントロールとして試験した。
【0048】
これらの細胞株を、5%ウシ胎仔血清(FCS)を含有するRPMI培地中で維持し、そしてアッセイを同じ培地中で行った。
【0049】
樹液を、South−East Queensland、Sunshine Coast hinterland、Palmwoodsにある農地の耕土で無作為に成長させた植物から回収した。この植物の幹表面を、70%エタノールで簡単に洗浄し、そしてエタノールで洗浄したはさみを使用して幹を切り、そして乳白色乳濁樹液を流出させた。この樹液を10mlの滅菌プラスチック遠心分離チューブに回収し、4℃でBrisbaneに輸送し、そして−20℃で凍結保存した。使用前に、この樹液を、滅菌1.5mlエッペンドルフチューブ中で、滅菌MilliQ水を使用して、3125分の1まで順次5倍づつ希釈した。各希釈の10μLアリコートを、100μlの細胞株を含むマイクロタイタープレートウエルのそれぞれ2つに添加した。アッセイは2連で行った。
【0050】
5日後、細胞をコントロール未処理細胞サンプルと比較しての増殖の阻害について、盲検で(blind)試験した。この結果を表3〜6に要約する。ここで試験した細胞株は、
NFF 正常皮膚線維芽細胞
MM96L 悪性黒色腫、脳転移
HeLa 頸部ガン
HACat 自発性形質転換ヒトケラチノサイト
であり、そして、尺度は、0=効果無し〜5=完全な細胞の死滅、である。
【0051】
表見出しでの希釈は、培養物への添加前のサンプルの希釈を指す。それゆえ、最終培養物中での希釈は、さらに約10倍高い。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
これらの結果から、以下のことが見出され得る:
a)E.peplusは、HeLa細胞に対して活性であり、そしてMM96L細胞に対してはより少ない程度で活性であった。
b)E.hirtaは、MM96L細胞に対して活性であり、そしてHeLa細胞に対して非常に強力に活性であった。
c)E.drummondiiは、MM96Lに対して他の2つのサンプルよりも低い効果を有し、そして試験した最も高い濃度でのみHeLa細胞を阻害した。
d)NFF正常線維芽細胞は1/5の希釈で激しく影響をうけたが、しかし他の希釈度では温和に影響をうけたのみであった。例えば、1/25の希釈では、NFF細胞の阻害は温和(評点2)だったが、MM96L細胞の阻害は激しかった(評点4)。1/125の希釈では、NFF細胞に対する効果は観察されなかった(評点0)が、MM96L細胞の激しい阻害(評点4)が1サンプルについて観察され、そして2連の他のサンプルではより温和な阻害(評点1)が観察された。HACat細胞(これは正常ケラチノサイトの代表としてみなされ得る)は、最も高い濃度でのみ阻害された。
【0057】
高い濃度のE.peplus樹液では、MM96細胞が直接的に殺傷されることは明らかであった。しかし、(1/625の希釈までの)低い濃度では、増殖阻害は観察されなかったが、生存する細胞は樹状であり、そして正常メラニン細胞の外観を呈していた。提案されるいずれのメカニズムにも制限されることは望まないが、E.peplusの樹液は、DNAを損傷する直接的に細胞傷害性の因子よりむしろ、分化を促進する少なくとも1つの因子を含み得ると見られる。
【0058】
(実施例2)
(Euphorbia樹液の活性に対する熱処理またはアセトン処理の影響)
実施例1に記載される実験を、E.peplusおよびE.hirtaについて、異なる細胞株調製物、異なる植物サンプルおよび異なる評点スケールを使用して、異なる人物により反復した。
【0059】
これらのサンプルは、実施例1に記載のように調製したか、または熱もしくはアセトンでの処理に供したかのいずれかである。植物樹液の希釈していない抽出物を95℃で15分間、加熱した。アセトン処理については、40μlの抽出物を400μlのアセトン中に懸濁し、そしてチューブをボルテックスミキサーで振盪した。内容物を10,000gで3分間遠心分離し、そして上清(アセトン可溶性画分)を別のチューブに取り出した。ペレットおよび上清の両方を、開口したチューブ中で室温で排気ファンを作動させたヒュームフード中に一晩放置して残留アセトンをエバポレートした。
【0060】
これらの結果を表7〜9に示す。ここで、+++は効果無しを示し、そして−は100%の細胞の死滅を示す。「C」は、培養物が汚染されたことを示す。この評価スケールを使用すると、これらの結果は実施例1におけるよりもさらに著しく、1:3125の希釈まで強力な阻害活性が観察された。しかし、NFF細胞のいくらかの増殖阻害がこの実験において見出された。
【0061】
熱またはアセトンのいずれも抗腫瘍活性に有意に影響を与えなかった。アセトン処理を行った場合、いくらかの活性は可溶性画分中にも見出されたが、ほとんどの活性はペレット中に見出された(特にE.hirtaの場合)。このことは、原因である化合物はその性質においてタンパク質ではなく、そして少なくとも1つの成分が脂質であり得ることを示唆する。
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
(実施例3)
(E.peplusを使用するさらなる試験)
E.peplusはこれらの実験で試験した3つの植物の最も豊富なものであるので、さらなる実験にはこの種からの抽出物を使用した。このことは、活性が他の2つの種に存在しないことを意味すると考慮されるべきではない。
【0066】
NFFおよびMM96L細胞に加えて、MM229およびMM220ヒト悪性黒色腫細胞ならびにB16マウス悪性黒色腫細胞株を使用して、実施例2を繰り返した。コントロールとして等量の水、ならびにアセトン処理後のペレットおよび上清画分の1/20〜1/12500の希釈物の添加を使用して、アッセイを2連で行った。この結果を表10に要約する。
【0067】
【表10】
【0068】
これらの結果により、実施例2で得られた結果が確認される。1/100〜1/50の希釈では、NFF細胞に対する効果はないが、MM96L細胞の有意な阻害が観察された。これらの希釈で生存する黒色腫細胞は、正常なメラニン細胞の外観を呈した。他の2種のヒト黒色腫細胞株およびマウス黒色腫細胞株の阻害もまた、観察された。
【0069】
同様の結果が、メルケル細胞ガン(MCC16)または扁平上皮細胞ガン(Colo6)細胞を使用して得られた。これらの結果を表11に示す。
【0070】
扁平上皮細胞ガンによって、500,000分の1の希釈でさえ、樹状細胞形態が示された。この粗抽出物の非常に強い力価はまた、メルケル細胞阻害に対しても明らかであり、これは、500,000分の1の希釈でもまた、なお明らかであった。
【0071】
【表11】
【0072】
(実施例4)
(E.peplusのエタノール抽出物)
E.peplusからの樹液の新鮮な調製物を、95%水性エタノールでの抽出に供した。減圧遠心分離によって抽出後の可溶性画分からエタノールを取り除き、そしてこの画分を、5%ウシ胎仔血清および抗生物質を含む組織培養培地(RPMI1640)中に、その最初の容量まで再構成した。エタノール抽出後に残存するペレットを減圧遠心分離により乾燥させ、そして上記のように組織培養培地中に、その最初の容量まで再構成した。粗樹液(C)、可溶性画分(S)およびペレット(P)を上記のようにNFF細胞、黒色腫細胞株MM96L、MM537、MM229およびMM2058ならびにまた、結腸ガン細胞株LIM1215および肺ガン細胞株A549に対して試験した。アッセイを3連で行い、そしてサンプル添加後に4日間培養した後に評価した。この結果を表12に示す。ここで、+は細胞の正常な外観を示し、++は細胞数における可能な増加を示し、そして−は細胞の死滅を示す。
【0073】
【表12】
【0074】
得られた結果は、以前の実験の結果と整合した。やはり低用量でも、MM96L細胞は樹状の外観を呈した。全ての腫瘍細胞株および正常線維芽細胞株NFFは、粗樹液およびエタノール抽出により得られた可溶性画分(1/20の希釈)により死滅した。活性の大部分はエタノール可溶性画分に分配されたと見られた。肺ガン細胞株A459は、1/2500までの希釈で、粗樹液および可溶性画分の両方により影響され、特に感受性であると見られた。
【0075】
(実施例5)
(トランスフェクトMM96L悪性黒色腫細胞株における遺伝子発現についてのレポーターアッセイ)
リン酸緩衝化生理食塩水中のE.peplus樹液希釈物を、構築物でトランスフェクトされたMM96L細胞または乳ガン細胞株MCF7を含むウエルに添加した。この構築物は、メタロチオネイン遺伝子の代わりに置換されたβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子の上流にあるヒツジメタロチオネインプロモーターから構成される。それゆえ、このアッセイは遺伝子発現、特にメタロチオネイン遺伝子の可能性のある転写、翻訳および発現の尺度となる。細胞を4つの抽出物でマイクロタイタープレート中で20時間の間処理し、100μM ZuSO4を添加して、そしてプレートをさらに5時間インキュベートし、そして培地を取り除いた。次いで、β−ガラクトシトシダーゼ活性を、1〜2時間の間の37℃での細胞の発色性基質とのインキュベーションにより測定した。このアッセイは、遺伝子の転写活性についての高感度の試験として使用される。
【0076】
結果を図1に示す。
【0077】
これは、増加したβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子発現によって測定される、メタロチオネイン遺伝子活性化の顕著な刺激があったことを示す。驚くべきことに、このことはサンプルをさらに希釈した場合により明らかとなった。E.peplus樹液がこの効果を媒介するメカニズムは分かっていない。ヒストンデアセチラーゼ活性の阻害に特異的な公知の薬物が、より高い濃度の薬物でレポーター遺伝子の発現の増加を示すのに対して、E.peplusは逆の用量応答を示す。しかし、この結果は、このアッセイを用いて、E.peplus樹液または植物自体の中の活性な因子の精製をモニターし得ることを示す。
【0078】
メタロチオネインタンパク質は抗酸化活性を有し、そして重金属誘導性のガンに対する防御的役割に関連する。メタロチオネインプロモーターの活性化は、非常に感受性の乳ガン細胞株MCF7を除いて、直接的な細胞殺傷をもたらし得ないほど低い濃度のE.peplus樹液で生じた(図2)。これらの希釈でのMM96L黒色腫細胞の正常なメラニン細胞の樹状形態への外観における変化は、これらの効果におけるメタロチオネイン遺伝子の関連を意味し得る。
【0079】
(実施例6)エタノール可溶性抽出物の細分画
実施例4の通りに実施した、95%エタノールを用いた抽出によって得られた可溶性画分を、無勾配(isocratic)逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)に供した。
【0080】
100μlの粗抽出物を1mlの95%エタノールに溶解し、4℃で一晩、定期的に振盪した。この抽出物を10,000×gにて4分間遠心分離し、そしてこの上清を取り出しそして真空遠心分離によって乾燥した。固体を、かるく遠心分離した100μlのランニング緩衝液中で再構成し、そして可溶性物質を、、30×4mmのRP−300ガードカラムを備えた220×4mmのBrownlee Aquapore RP−300(C8)にかけた。
【0081】
このランニング緩衝液はアセトニトリル:水が50:50(V/V)であり、そして流速は0.75ml/分であった。画分を、0.5分の間隔で回収し、そして195nmにおける吸光度プロフィールをモニターした。この吸光度プロフィールを図3に示す。
【0082】
画分を、上記のように、真空遠心分離によって乾燥し、500μlPBS中で再構成し、そしてMM96L細胞に対してそしてメタロチオネインレポーターアッセイ中でアッセイした。画分13〜28全てがMM96L細胞の樹状の外観への完全な転換を誘導したが、細胞死は観察されなかった。この効果は、レポーターアッセイにおいて非常に顕著であり、ここでこの活性は、1/10,000の希釈において(すなわち、1/100,000の培養物中での最終濃度において)でもなお観察された。
【0083】
上記の結果に加えて、本発明者は、超遠心分離の後に、MM96L細胞に対する活性が上清中およびペレット中の両方において見いだされること、および活性は、分子量カットオフ膜を介してサンプルを通過させることによって除去され得ないことを見い出した。上記で試験した細胞株に加えて、MCF7乳ガン、細胞株の細胞の増殖は1/100,000までの最終希釈のE.peplus樹液によって阻害された。細胞数は、バイシンコニン酸(bicinchoninic
acid)試薬(Pierce)を使用して評価した。結果を図2に示す。
【0084】
(実施例7)溶媒分画
E.peplusの粗乳液のさらなる溶媒分画は、極性が増大する一連の溶媒によってもたらされた。1ml粗乳液には、遠心チューブ内で20mlジエチルエーテルを添加した。このチューブを振盪し、そして5000gにて5分間遠心分離し、層を分配した。このジエチルエーテル上層を取り出し、そしてこの手順を2回繰り返した。このエーテル画分を合わせ、ロータリーエバポレーター上で乾燥するまで濃縮し、そしてバイオアッセイのために1ml DME中で再構成した。同様の様式で、この残渣を酢酸エチルで抽出し、続いて塩化メチレンで抽出した。MCF7乳ガン細胞の細胞数の減少および樹状の外観への転換によって測定される場合、この最初のエーテル抽出物はこの活性の大部分を得た。しかし、活性はまた、酢酸エチル層および塩化メチレン層に由来する画分から証明された。最終の水可溶性(水性)画分において活性は見られなかった。この結果を、表13にまとめる。
【0085】
【表13】
【0086】
CMVプロモーター活性を、複製欠損アデノウィルス構築物によって感染されたHeLa細胞内にてアッセイした。この構築物において、E1a遺伝子は、CMVプロモーターによって駆動されるβ−ガラクトシダーゼに置換されていた。この結果は、表14に示されるように、感染された未処理の細胞のコントロール値の百分率として表記される
【0087】
【表14】
【0088】
得られた結果は、他の分化誘導因子(例えば、ヒストンデアセチラーゼインヒビターまたはブチレート)を用いた場合にみられる結果と定性的に同様であるが、これらの因子を用いた場合に見られる活性に比べてより強力な活性を有する。より高濃度にて粗抽出物およびジエチルエーテル抽出物を用いた場合に観察されるより低いプロモーター活性は、おそらくこれらの濃度において見られるHeLa細胞に対する細胞殺傷効果を反映する。
【0089】
さらなる溶媒分画実験において、粗液をメタノール:水(17:3)とn−ヘキサンとの間で分配し、トリテルペン(ヘプタン相)からジテルペン(極性相)を分離するための以前の報告(EvansおよびKinghorn 1977)に基づいて溶媒分配が期待された。しかし、予想外に、両方の相において活性が検出された。このことは、この系において有効成分(active principle)が異常に挙動することを示唆する。
【0090】
別の溶媒分画アプローチでは、HPLC分析の前にサンプルを明澄化する必要が示唆された。この粗乳液を、70−95%までのエタノールと混合し、4℃で一晩振盪した。この混合物を1,000gにて10分間遠心分離し、そして上清を取り出し、そして粗液の元の体積の約3分の1まで濃縮した。この濃縮物に100%アセトニトリルを30−60%添加した。この得られた白色沈殿物を12,000gにて10分間の遠心分離によって除去した。TLCおよび質量分析法によって決定されるように、上清は、大環状ジテルペン(ジャトロファン類およびペプルアン)に富んでいた。この観察結果は、活性素の富化のための適切な大規模プロセスへの方法を示す。
【0091】
(実施例8)エタノール可溶性抽出物のさらなる活性誘導細分画
実施例7および図3に記載したHPLC細分画からの画分14および15を、クロマトグラフィーを繰り返すことによって、一定のダイオードアレイスペクトルを有する主要な対称ピークを選択することにより、さらに精製した(例えば、画分14および15;画分14についての結果を図4および5に示す)。MM96Lの樹状外観への転換を生じる際の精製した画分の活性を、細胞アッセイによって確認した。
【0092】
画分15の添加後のMM96L細胞への変化の特徴を、図6に示す。細胞を、抗体カップリング手順を使用して、顕微鏡写真として可視化した。この第一抗体、すなわちチロシナーゼ関連タンパク質1(TRP−1)に指向されたマウスモノクローナルを、ブロモ−クロロ−インドリルリン酸およびニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NBT)を発色基質として使用して、第二抗体、すなわちヒツジ抗マウスアルカリホスファターゼ結合体を用いて検出した。4日間のインキュベーションの後(図6Aおよび6B)、黒色腫細胞数の著しい減少およびそれらの形態の明白な変化があった。この細胞は、正常な成熟メラニン形成細胞の特徴である長く、紡錘形の(樹状の)外観に戻った。この視野における全ての細胞は、この変化した形態を採るようであった。これは、MM96L細胞集団の不均質な性質を考えると驚くべきことである。21日間のインキュベーション後、この処理した細胞は、図6Cおよび6Dに示されるように、クラスター内で互いに幾分平行に整列することが見られ、これは正常な成熟したメラニン形成細胞の特徴である。粗液を含むE.peplus由来の全ての樹状細胞誘導画分についても、同様の特徴が、観察された。
【0093】
画分14および15についてのエレクトロスプレイ質量分析は、780(計算値779.315)のm/zを有する2,5,7,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン5、Jakupovic
ら、1998a)の存在を示した。1D NMRを使用した場合の、画分14の核磁気共鳴(NMR)分析は、7ppmと9.4ppmとの間にダウンフィールドシグナルを与えた。これらは、環の9位におけるニコチノエート基内に存在するような、ピリジン様部分に一致する。また、トランス二重結合は、5−6ppmにおける大きなカップリング定数によって証明された。これはジャトロファン環式構造内の11、12内部二重結合に一致する。また、画分14において、負イオンモードでのエレクトロスプレイによって、m/z716(計算値716.304)、673(M−ケテン)、656(M−AcOH)を有する、2,5,7,9,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−ジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン6、Jakupovicら、1998a)であると同定した。
【0094】
画分15は、m/z597(M−ケテン−AcOH)を有する2,3,5,7,15−ペンタアセトキシ−9−ニコチノイルオキシ−14−オキソジャトロファ−6(17),11E−ジエン(ジャトロファン1、Jakupovicら、1998a)を含んでいた。従って、分光学的分析によって、HPLC上での、細胞殺傷活性および樹状活性を有する7−7.5分における初期溶出画分は、ジャトロファン5、6、および1の混合物を含んでいた。展開溶媒としてトルエン:アセトンを9:1で使用してHPTLC上でクロマトグラフにかけた場合、この結果は、HPLC画分14および15の挙動と一致する。UV陽性スポットは、終期溶出画分(例えば、画分20−22、Rfが0.3−0.5)と対照的に、原点、すなわちRfが0.0(約)から移動しなかった。これは、展開溶媒としてトルエン:アセトンを9:1でまたはヘキサン:酢酸エチルを4:1でのいずれかを使用する、HPTLC上でのクロマトグラフィーによって証明されるように、ジャトロファン3、2および4と比較して、ジャトロファン5、6、および1の相対的に極性の挙動を示す。これらの結果は、Jakupovicら、1998aによって、展開溶媒として石油:メチル−tert−ブチルエーテル(1:1)を使用して得られる結果(例えば:ジャトロファン5:Rf0.04、ジャトロファン6:Rf0.10(3X)、およびジャトロファン1:Rf0.11)と同様である。初期HPLC画分からの質量分析データにおいて、E.peplus粗抽出物中にインゲナン誘導体(後述を参照)、または文献で報告され、そして表1に表された他の成分が存在するという証拠はない。
【0095】
(実施例9)薄層クロマトグラフィー(TLC)および高速薄層クロマトグラフィー(HPTLC)上での粗抽出物およびエーテル可溶性抽出物の生物学的活性誘導精製
(a)実施例7で調製されたエーテル可溶性画分を、エチレングリコールジメチルエーテル(DME)中で再構成し、そして展開溶媒としてクロロホルム:酢酸エチル(82:18)を使用して、20×20cmシリカゲルプレート上でクロマトグラフした(図7)。このプレートをUV光箱上で観察し、そしてUV陽性バンドを同定し、ゲルから切り出し、DMEで溶出し、そしてMM96L黒色腫細胞株に対する阻害活性および形態転換について試験した。全体のゲルをUV吸収画分および非UV吸収画分にスライスすることによって、予備実験において、活性がUV吸収バンドと関連することが示された。ゲルの側片をクロロホルム中での0.1%ヨウ素で染色することにより、他の、ヨウ素に対して強い陽性のバンドを明らかにした。しかし、これらは、無視できる活性を有することが見いだされた。Rf0.0(A)、Rf0.16−0.18(B1)、Rf0.22−0.24(B2)、Rf0.73−0.80(C)、Rf0.80−0.96(D)におけるUV吸収バンドは、生物学的に活性であり、1/5,000希釈において、細胞数の減少および樹状細胞の外観への完全な転換が観察され得る。
【0096】
ゾーンB1、CおよびDを、第一次元にヘキサン:酢酸エチル(1:1)を、そして第二次元にトルエン:アセトン(9:1)を用いる二次元溶媒システムを使用して、シリカゲル60プレート上のクロマトグラフィーによってさらに精製した(それぞれ、図8A〜8C)。1/500希釈にて、細胞数の30%より大きなMM96Lに対する阻害活性および樹状細胞の外観への完全な転換を有するUV吸収スポットを、その図に示す。
【0097】
Dゾーン由来の強くUVを吸収するスポット22および23(図8Cを参照のこと)を、ゲルから切り出し、DMEで溶出し、そして真空遠心分離によって乾燥した。画分22および23の質量分析は、5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン、m/z639.5[M−AcOH]+、すなわちペプルアンの存在を明らかにした。
【0098】
(b)図9に示されるように、展開溶媒としてトルエン:アセトン(9:1)を使用して、濃縮ゾーンを有する10×10cmのHPTLCシリカゲル60プレート(Merck カタログ番号013748.1000)上で、全ての粗液をクロマトグラフにかけた。UV陽性ゾーン(1,Rf0.14;2,Rf0.23;3,Rf0.49;4,Rf0.54;5,Rf0.57;6,Rf0.63;および7,Rf0.73)をゲルから切り出し、そしてDME/ジエチルエーテルを用いて溶出した。上記のように、この画分をMM96Lに対して試験し、そして画分1、3、4、5および6は、細胞阻害活性および細胞転換活性を有することが証明された。これらの画分は、展開溶媒として、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)を使用して、HPTLCプレート上で別々にクロマトグラフにかけ、UV陽性バンドA,Rf0.17;B,Rf0.24;C,Rf0.42;D,Rf0.48;E,Rf0.52;F,Rf0.58;G,Rf0.62(図10)およびH,Rf0.02(図11)を得た。G(ヨウ素陽性、図10を参照)を除いた全画分は、1/5000希釈にて、細胞増殖阻害および完全な樹状形態への転換に関して、MM96L細胞に対して活性であった。
【0099】
画分A−F(Bは失われた)およびHの質量分析を、E.peplusの公表された成分の公知の分子質量イオンからの化合物の仮の割り当てと共に、表15に示す。
【0100】
【表15】
【0101】
ペプルアン=5,8,9,10,14−ペンタアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシペプルアン
ジャトロファン2=2,5,7,9,14−ヘキサアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−15−ヒドロキシ−ジャトロファ−6(17),11E−ジエン
ジャトロファン3=2,5,14−トリアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシ−9−ニコチノイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン
ジャトロファン4=2,5,9,14−テトラアセトキシ−3−ベンゾイルオキシ−8,15−ジヒドロキシ−7−イソブチロイルオキシジャトロファ−6(17),11E−ジエン)
従って、質量分析は、20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレート(画分A)、ペプルアン(画分A,CおよびD)、ならびにジャトロファン2(画分D)3(画分CおよびH)、および4(画分EおよびF)の混合物を明らかにした。画分Hについての1H化学シフトデータを表16に示す。
【0102】
【表16】
【0103】
これらの帰属は、DQF−COSY、NOESYおよびTOCSY二次元スペクトルから決定されるように、ジャトロファン環状構造の存在を示した。画分Hのスペクトルは、2つのジアステレオマー配座(最も有望であると考えられる)をとるジャトロファン3、2つ以上の同様に置換したジャトロファンの混合物、または2つのニコチネート、1つのベンゾエート、およびイソ−ブチレート部分を有する新規のジャトロファンの存在と一致した。Jakupovicら(1998a)によるように、約6HzのJ4,5、ならびに5と8との間、および4と7との間に強いNOEを有し;DQF COSYスペクトルにおいて交差したピークの全体としての欠如によって証明されるように、J7,8およびJ8,9が実質的にゼロであり、有望な環状配座はIIであった。任意のインゲノール構造の存在に一致するシグナルは存在しなかった。このサンプルを磁石から回収し、そしてそのアリコートは、MM96Lに対する強力な活性を証明し、これは、20μg/mlにおける完全な細胞死、および20pg/ml未満における樹状外観への完全な転換によって証明された。
【0104】
(実施例10)NMR分析
画分Aを、展開溶媒として、ヘキサン:酢酸エチル(4:1)を使用して、HPTLC上のクロマトグラフィーによってさらに精製した。UV光箱上での吸収に対する添加剤として、側片を、メタノール中の70%リン酸をゲルに噴霧することによって染色し、そしてヘアードライアーを用いたゲルの加熱による発色は、UV光下にて濃い青色バンドを示し、これは主なUV吸収バンドから分離され得た。このバンドと等価の非染色領域を、切り出し、エーテルを用いて溶出し、そして真空遠心分離によって乾燥した。約1mgのこの物質を4ml乳液から蓄積した。この物質を、NMR分析に供し、続いてバイオアッセイし、そして1ng/ml最終濃度を表す1/5×106希釈において完全な樹状形態への転換に関して活性であることを証明した。この物質は、NMRによって、表17に示されるようにC27H36O7、つまり20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレートとして同定された。この知見は、表15に表される質量分析の証拠に一致する。
【0105】
【表17】
【0106】
しかし、HPLCによる活性誘導精製の質量スペクトルから、および画分Aから離れた他のTLC画分における、20−アセチル−インゲノール−3−アンゲレートの非存在は、これが唯一の活性画分ではないことを示す。むしろ、ジャトロファン1−6およびペプルアンはまた、NMRおよび質量分析データからの推察によって、関係づけられる。これは、TLCによって調製されるような画分H(ジャトロファン3Na+m/z 830;表16の1D NMRの結果も参照)について、およびHPLCによって調製されるような画分13および14(ジャトロファン5、m/z 779および1D NMR;ジャトロファン6、m/z 716;ジャトロファン1またはジャトロファン6誘導体、m/Z 597)について特に本当である。
【0107】
Jakupovicら(1998a)は、パラリアン(paraliane)クラスの化合物がジャトロファンとペプルアンとの間の経路における中間体であることを提唱した。ジャトロファンおよびペプルアンの両方による抗癌細胞活性および樹状細胞転換が本発明において証明されているため、このパラリアンもまたこれらの特性を示すと結論づけることが合理的であるようである。
【0108】
(実施例11)調製薄層クロマトグラフィーによるマウス実験のための物質の調製
実施例6に記載されるように、70%エタノール中の15ml粗液をジエチルエーテルで抽出した。この抽出物を真空遠心分離によって濃縮し、そして約5ml DME中で再懸濁した。このDME抽出物を、展開溶媒としてヘキサン:酢酸エチル(4:1)を使用して、調製TLCプレート(Merck PLC、シリカゲル60、カタログ番号005745.1000)上でクロマトグラフにかけた。図12に示されるように、領域「H」および「A−F」に対応するゾーンを切り出し、そして合わせ、エーテル/DMEで溶出し、そして真空遠心分離によって乾燥した。抽出物は、ジャトロファン2、3および4、ペプルアン、ならびに酢酸インゲナンに富んでいた。ペレットを、95%エタノール中で懸濁し、そして10,000gにて10分間遠心分離した。上清(6.0ml,10mg/ml)を0.2mlアリコート内に分散し、そして−20℃にて保存した。この抽出物を、MM96L黒色腫細胞株に対してアッセイし、そして高い能力を示し、1/5×106希釈においてもなお樹状細胞形態が明白であった;これは粗液の能力を複製した。このように調製した抽出物は、ジャトロファン2、3および4、ペプルアンならびに酢酸インゲナンに富んでいた。注入の直前に、20μlを、0.1−0.2mlの注入のために、5%ウシ胎仔血清を含むRPMI1640組織培養培地を有する1mlに希釈した。エタノール溶液(10mg/ml)をコットンバッド(0.2−0.4ml)に吸収させ、マウスの局所塗布のために使用した。
【0109】
(実施例12)腫瘍細胞の皮下インプラントの増殖の阻害
(a)5匹の4週齢のヌードマウスに、2×106個のMM96Lヒト黒色腫細胞を含む、0.1mlの組織培養培地を4つの異なる部位にs.c.注射した。3匹の処置したマウスに、5%ウシ胎仔血清および20μgのエタノール抽出物を含む0.1ml RPMI培地を1、2、3、5、6、7、および8日目に注射した。さらに、その処置したマウスに、約5〜10μlの10mg/ml エタノール抽出物または粗製の希釈していない樹液を4回まで局所適用した。処置したそれぞれのマウス上の異なる2つの部位に、エタノール抽出物または粗製の樹液で局所的処置を行った。1匹のマウスに12、13、および14日目に局所的処置を行い、そして他の2匹の処置したマウスは、15、19、20、および22日目に局所的処置を行った。腫瘍容積を32日目に測定した。
【0110】
局所的適用の前では、抽出物の注入は、腫瘍容積に明らかな効果を有さなかった。エタノール抽出物の局所的適用後に、一晩で腫瘍の外見に変化があった。腫瘍は、灰色がかった黒色になり、次いで固く、黒色のごつごつした外見になり、次いで痂皮形成が見られた。粗製の樹液で処置した腫瘍は、1日後に類似の変化を示した。時間がたつにつれて、エタノール抽出物および粗製の樹液の全体的効果は類似したため、局所的に処置した病変についての測定を組み合わせた。注射および局所的処置を与えたマウスにおいて、腫瘍容積は76%減少した(p<0.2)。エタノール抽出物で処置した1つの腫瘍は、図13に示すように、完全に消失し、他の8つは、平らな黒色の痂皮に縮小した。他の3つの処置した腫瘍は、最初に類似の色の変化と腫瘍後退が示されたが、測定を行う10日前の局所的適用の中止後に再増殖した。
【0111】
(b)6匹の4週齢のC57Black(C57Bl)マウスに、105個のB16黒色腫癌細胞を含む、0.1mlの組織培養培地を下腹部の2箇所に注射した。腫瘍を4日間発達させ、次いで、3つの注射レジメ(5%ウシ胎仔血清を含む、0.1mlのRPMI培地中の20μgエタノール抽出物(1、2、および4日目)および1回の局所的処置(4日目における5〜10μlの10mg/ml エタノール抽出物)に供した。最初の注射の8日後、腫瘍領域を定規を使用して測定した。処置によって、3匹の処置したマウスにおけるB16黒色腫腫瘍サイズは、3匹のコントロールマウスの腫瘍サイズと比較して、64%(p<0.05)減少した。
【0112】
結果を表18に要約する。
【0113】
【表18】
【0114】
(実施例13 精製した抽出物によってヒト黒色腫細胞株(MM96L)に誘導された遺伝子発現の変化)
10%ウシ胎仔血清を含むRPMI1640培地中、150cm2プレートにおいて培養されたヒト黒色腫細胞株のMM96L細胞株を、精製抽出物とともに5%CO2/空気中、37℃で4時間インキュベートした。細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS中に掻き取り、ペレット化し、1ml PBS中に再懸濁した。細胞をペレット化して300μl NP−40溶解緩衝液中に入れ、氷上に15分間放置した。細胞をペレット化し、上清をプロテイナーゼKおよびSDSとともに37℃で15分間処理し、フェノールクロロホルムで抽出して、そして全RNAを酢酸アンモニウム/エタノールによって−20℃で一晩沈澱させた。Promega mRNA単離キットを用いて、mRNAを単離し、次いで、33P標識されたdCTPの存在下で逆転写し、cDNAを生成した。cDNAをGenome Systems human Gene Discovery Array 1.2(GDA)において、製造業者の説明書に従ってハイブリダイズさせた。このアレイをMolecular Dynamics PhosphorImagerで定量し、そしてImageQantおよびExcelソフトウェアで分析した。
【0115】
処理および未処理細胞に由来する2連のスポット容積の割合を算出し、そして遺伝子活性化(割合>1)または阻害(<1)のレベルを規定するために使用した。バックグラウンドは、代表的には500〜1000カウントであるが差し引きされず;従って述べられた割合は、実際の変化より小さく見積もられている傾向がある。
【0116】
このアレイは、18,000を超える特有の配列、いわゆる発現された配列タグ(EST)からのcDNAスポットを含んでいた。ESTのうち約3000が同定可能な、ヒト細胞の発現された遺伝子に由来した。試験されたヒト黒色腫細胞における多くのEST配列は、抽出物での処置によってアップレギュレートされたか、またはダウンレギュレートされたかのいずれかであった。割合の<30%の標準偏差を有した2連に基づいた変化のみが、この段階において生物学的に有意であると考慮された。4時間という比較的短い処置時間が、薬剤について最も早くかつ最も重要な標的を同定するために使用されたことにもまた注意すべきである。遺伝子発現におけるさらなる主要な変化は、1次応答に依存して、この時間の後に生じるようである。
【0117】
いくつかの関連する公知の遺伝子(これは、癌細胞の制御に関して直接的または間接的にのいずれかで有利であると思われる)の転写物レベルにおける変化からの結果は、表19に要約される。
【0118】
この実施例において見られた細胞形態における変化は、主要な細胞骨格タンパク質であるアクチンと結合する多くのタンパク質の主要なダウンレギュレーションから生じることが予測され得る。レチノール結合タンパク質の増加はまた、ここで関与し得、そしてレチノイドの細胞内レベルの増加を介して分化された表現型の誘導にもまた関与し得る。
【0119】
太陽のUV照射によって誘導される現在または将来のDNA損傷の修復は、XP修復タンパク質の観察された誘導によって増強され得る。さらに、GADD45の減少およびイオン化照射耐性タンパク質(DAP3)は、放射線治療に対する腫瘍組織の感作において有用であり得る。後者の変化はまた注目すべきである。なぜなら、これは、MM96L細胞において、皮膚癌および黒色腫の原因であるUVBによって強力にアップレギュレートされるからである。
【0120】
免疫応答を増強することに関連性のある多くの分子、特にG−CSFが誘導される。これらのうちのいくつか(例えば、主要組織適合複合体(MHC)のタンパク質)は、免疫治療のため有用な属性であると考えられ、キラーT細胞活性を増強させる。
【0121】
細胞増殖の制御に最も重要な変化は、Gタンパク質およびPKC経路、ならびにプロテオソーム活性の増強の検出された変化に関する。経路の正常な平衡および経路相互作用(例えば、Rasシグナル伝達によって媒介される)における増殖および変化を含む、多くの細胞プロセスに関して重要である細胞内シグナル伝達は、細胞について有害な結果を有するようである。プロテオソーム成分LAMP7−E1の誘導レベルは、実験におけるいずれの遺伝子について見出されたものの中で最も高く、そしてユビキチン経路を介して多くのタンパク質のプロセシングを大きく変化させると予測される。
【0122】
遺伝子発現アレイデータに基づくと、本発明の化合物は、以下の活性を有すると予測される:
1.インビボで抗癌活性を導く様式で、Gタンパク質、PKCおよびRasシグナル伝達経路における遺伝子発現を調節することにおける活性
2.標的またはエフェクタ細胞のいずれかにおいて、DNA修復および免疫応答を増強させることによって、太陽のUVおよび類似の因子からの損傷を寛解させることにおける活性
3.防御タンパク質(GADD45およびDAP3)のダウンレギュレーションに基づく、放射線治療に対するアジュバントまたは他のDNA損傷因子での治療に対するアジュバントとしての活性。
【0123】
【表19】
【0124】
【0125】
(実施例14 ヒトボランティアにおける日光性角化症の処置)
倫理委員会の承認を、Queensland Institute of Medical Researchから、ヒト被験体における顔面日光性角化症の処置のための、臨床医の監督下でのE.peplusの粗製の樹液の使用の治験について得た。
【0126】
オーストラリアで生長した植物から得て、50%グリセロール中で−20℃で2週間保存した粗製抽出物を、綿棒塗布具を用いて、臨床的に診断された(直径約5mmの)日光性角化症の表面(男性ヒトボランティアの顔面の左こめかみ)に適用した。約50μlを表面に送達した。1日後、2回目の適用を同じ部位に行った。1回目の適用の後、4〜5時間にわたって何の反応も見られなかったが、その後、この部位で炎症反応が生じて、直径80〜100mmの領域に広がった。1日後、適用部位および適用領域に対して遠位の局在性の部分において、新たな前悪性の部位がまた標的化されたかのように、局在性の腫脹および水疱形成が見られた。1回目の処置の4日後に、腫脹は鎮静化し、そして痂皮形成が罹患部位で明らかであった。14日後、痂皮は脱落し、その下部に新たな皮膚が出てきた。6週間後、処置した領域は、まだピンクがかっていたが、元々の日光性角化症の兆候はなかった。コントロールとして、同じボランティアの前腕部の正常皮膚の1cm2の部分もまた同様に処置した。局在性の軽度の炎症が見られ、これは、処置後7〜10日で消失した。
【0127】
日光性角化症の処置に関連した強い炎症反応は、実施例13における遺伝子アレイスクリーニングから得られた免疫応答についての結果、および以下の実施例15におけるE.peplusの粗製樹液によってT細胞のインビトロの増殖の観察によって示唆されるように、キラーT細胞の漸増および増殖を反映し得る。キラーT細胞活性の増強は、免疫系による癌細胞の破壊において重要な過程であると考えられ、そして元来の処置部位に対して遠位の前悪性病変の認識および攻撃を説明することを補助し得る。
【0128】
(実施例15 正常メラニン細胞の細胞数に対する粗製樹液およびTLCからの精製画分「A」および「H」の効果)
12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート(TPA)は、インビトロでの正常メラニン細胞の培養のために必須である。なぜなら、これらの細胞は、TPAなしでは非常に不充分にしか増殖しないからである。予備実験において、実験の開始からTPAを添加することなく、E.peplus画分を培地に添加した。E.peplus画分を新鮮な培地に添加し、そしてスコアされた細胞数を、E.peplus画分またはTPAなしの新鮮な培地と比較した。このレジメの下で、TPA欠損培地において増殖させた「コントロール」細胞で得られた細胞数より、より多くのメラニン細胞数が得られた。興味深いことに、E.peplus画分含有培地における細胞は、TPAを含有する、いわゆる「標準」培地において増殖させた細胞より健常に見えた。従って、E.peplus由来の化合物は、細胞培養におけるツールとしてのTPAの使用より優れた代替物を提供し得る。
【0129】
第2の実験において、正常のメラニン細胞を、10%ウシ胎仔血清、コレラ毒素、抗生物質およびTPAを含むRPMI 1640培地中、1ウェルあたり5000細胞でプレートした。24時間後、培地を吸引によって細胞から除去し、そしてTPAを添加することなく(しかし、特定された添加物を含む)、新たな培地で置換した。細胞をさらに10日間インキュベートした後にスコア付けした。結果を表20に示す。先の実験において示された癌細胞株に対するこれらの濃度で観察された細胞阻害効果と対照的に、1/5,000,000希釈においてすら、細胞増殖効果が粗製および精製画分で注目されたことが明らかである。別個の試験において、インビトロでのT細胞増殖はまた、粗製のE.peplus樹液を用いたT細胞の処置後に得られた。
【0130】
【表20】
【0131】
正常メラニン細胞およびT細胞の両方がE.peplus 樹液からの画分によって増殖が誘導されたので、この因子は、正常細胞の再生が有利である任意の医学的状態において、インビボまたはインビトロのいずれかにおいて、正常細胞についての細胞増殖因子として広範な適用を有し得る。その医学的状態としては、以下が含まれるが、これらに限定されない:
a)外傷の症例において、および外科的手術後、および熱傷からの回復における迅速な創傷治癒のための皮膚細胞(ケラチノサイト)の増殖。
b)移植のための膵臓島細胞の増殖。
c)免疫系のT細胞および他の細胞の増殖。日光性角化症の処置に対するヒトボランティア治験における適用時点後の作用の拡大が、適用領域に対するナチュラルキラーT細胞の漸増によって説明され得ることに注目することは興味深い。
d)肝臓、腎臓、結腸、肺、および眼に由来する老化および壊死組織の再生。
e)器官移植に対する代替物としての宿主組織の増殖。
【0132】
(実施例16 悪性黒色腫MM96L細胞数に対するベタインの効果)
異なるタイプのベタインを、最終濃度1mg/mlまで滅菌MilliQTM水中に溶解し、そして5000個のMM96L細胞を含む0.1mlの組織培養培地中に、先に記載したように希釈した。細胞を4日のインキュベートの後にスコア付けした。結果を表21に示す。
【0133】
試験したほとんどのベタインが細胞数に対する影響を有さなかったのに対して、βアラニンベタインヒドロクロリド(ホモベタイン)は、20μg/mlの最終濃度で細胞数を減少させ、そして細胞は、樹状の様相を呈した。t−4ヒドロキシN,N−ジメチルプロリンもまた、20μg/mlの最終濃度で細胞数を阻害した;しかし、細胞形態は、多樹状(polydendritic)形態の細胞形態に変化し、このことの意義は未知である。
【0134】
βアラニンベタインヒドロクロリド(ホモベタイン)は、別個にまたは組み合わせてのいずれかで、E.peplus粗製樹液またはその精製有効成分についての適切な処方物薬剤であり得る(インゲノール、ペプルアン、およびジャトロファン1−6を含む)。これは、低希釈のE.peplus成分で前悪性皮膚病変に対して局所的適用のために使用され得るか、または高濃度のE.peplus成分を有する抗癌剤として処方され得る。ベタイン自体は、抗癌剤として有用であることが示唆されている;例えば、Wiersemaらの米国特許第5,545,667号を参照のこと。
【0135】
それらの界面活性剤特性のために、ベタインは、化粧品における処方物成分として広範に使用される。それらの両性イオン特性に起因して、ベタインはまた、皮膚のより深層に他の成分の輸送を助け得る。E.peplus 樹液またはそれらから得られた精製画分の非常に希釈された抽出物とともに、皮膚用化粧品調製物において使用されるベタイン(例えば、ジャトロファン類、ペプルアン、パラリアン、またはインゲナンを含む)は、別個にまたは組み合わせて、望ましくは、補完的な特性を有するべきである。グリシンベタインを含む、試験された全てのベタインのうち、β−アラニンベタインヒドロクロリド(ホモベタイン)のみが、たとえ中程度であっても、E.peplus 樹液およびその画分と比較して、表現型逆転(reversal)効果を有した。
【0136】
【表21】
【0137】
本発明は、明瞭化および理解の目的でいくらか詳細に記載されているが、本明細書中に記載の実施態様および方法に対して種々の改変および変更が、本明細書に開示された本発明の概念の範囲から逸脱することなくなされ得ることは、当業者に明らかである。
【0138】
本明細書中に引用された参考文献は、以下の頁に列挙され、本明細書に参考として援用される。
【0139】
【表22】
【0140】
【0141】
【0142】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【公開番号】特開2012−31212(P2012−31212A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−249091(P2011−249091)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【分割の表示】特願2000−509681(P2000−509681)の分割
【原出願日】平成10年8月19日(1998.8.19)
【出願人】(500075508)ペプリン リサーチ プロプライエタリー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249091(P2011−249091)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【分割の表示】特願2000−509681(P2000−509681)の分割
【原出願日】平成10年8月19日(1998.8.19)
【出願人】(500075508)ペプリン リサーチ プロプライエタリー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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