説明

抗真菌材料

本発明は、抗真菌材料に関し、特に非永続性の無機支持材料、例えばリン酸三カルシウム(TCP)と、ドーパントとしてのCu+/-0、Cu+1および/またはCu+2の形での銅とを含む、またはそれらからなるナノ粒子に関し、かかるナノ粒子を含有する複合材料または液体配合物に関する。さらには、本発明はかかるナノ粒子、複合材、液体配合物の製造に関し、且つ、抗真菌成分としてのかかるナノ粒子、複合材、液体配合物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌材料の分野に関し、特に非永続性支持材料、例えばリン酸三カルシウム(TCP)と、ドーパントとしてのCu+/-0、Cu+1および/またはCu+2の形での銅とを含む、またはそれらからなるナノ粒子に関し、かかるナノ粒子を含有する複合材料または液体配合物に関する。さらには、本発明はかかるナノ粒子、複合材、液体配合物の製造に関し、且つ、抗真菌成分としてのその使用に関する。
【0002】
銅が抗菌/抗真菌特性を有することは公知である。例えば、Kling, Schweizer Maschinenmarkt 2008 (3), 48−49は、例えば抗菌材料としての銅の使用を開示している。該文献は、使用される特定の材料を開示していない。しかしながら、開示された材料は幾分厚い被覆で適用されなければならず、望ましくない青緑色の外観をもたらすことが明らかである。
【0003】
TCPベースの材料およびそれらの製造方法、並びに種々の分野におけるかかる材料の使用も公知である。例えば、KR2004/0008315号は、ハイドロキシアパタイトと銅とのナノ粒子の製造のための沈殿法を開示している。そのように得られたナノ粒子を、抗菌材料として使用できる。開示された方法は、手間がかかり且つ時間がかかるとみなされている; 得られた材料は典型的には高い含水率または高度の凝集のいずれかを示す。さらに、WO2007/137606号は、ハイドロキシアパタイトと銅とのナノ粒子の製造のための沈殿法を開示しており、そこでは、ハイドロキシアパタイトが部分的に炭酸カルシウムによって置換されている。そのように得られたナノ粒子は歯の再石灰化のために適している。また、WO2005/087660号は、リン酸カルシウムの製造のためのフレーム溶射熱分解(FSP)法、およびかかる方法によって得られるナノ粒子を開示している。また、WO2008/122131号は、AgドープされたTCPナノ粒子、その製造のための相応するFSP法、およびその抗菌特性について開示している。
【0004】
従って、本発明の一般的な課題は、先行技術の制限または欠点を克服する抗真菌材料を提供することである。さらには、さらなるナノ粒子、特に改善された特性を有するナノ粒子および相応する製造方法を提供する必要が常に存在する。生物学的な環境において分解されることができ、且つ、長期にわたって非常に抗真菌性である材料を提供することが、本発明のさらなる目標である。さらに、有利な光学特性および同時に抗真菌特性を示す物品の製造のために適した材料を提供する必要がある。
【0005】
それらの課題の1つまたはそれより多くは、請求項1に記載されるナノ粒子、請求項5に記載される複合材、および請求項9に記載される液体配合物を提供することによって解決される。本発明のさらなる態様は、明細書および独立請求項内に開示され、好ましい実施態様は明細書および従属請求項内に開示される。
【0006】
本発明を以下でより詳細に説明する。この明細書内に提供/開示された様々な実施態様、選択および範囲を、随意に組み合わせることができると理解されている。さらに、特定の実施態様によって、選択された定義、実施態様または範囲が適用されるべきではない。
【0007】
今回、これらおよびなおもさらなる本発明の課題(記載が進むにつれてより容易に明らかになる)を実行するために、本発明は第一の態様において、抗真菌ナノ粒子であって、前記ナノ粒子がi) リン酸三カルシウム(TCP)、ii) 酸化状態+0、+1および/または+2の銅、およびiii) 随意にさらなる無機化合物を含有する(即ち、含む、またはそれらからなる)という特徴によって示される抗真菌ナノ粒子に関する。本発明のナノ粒子は、さらに、少なくとも95%(w/w)の前記のナノ粒子が流体力学的径500nm未満を有すること、および前記ナノ粒子の含水率が5%(w/w)未満であることを特徴とする。本発明は第二の実施態様において、かかるナノ粒子を含有する固体複合材(「複合材料」)または液体配合物に関する。
【0008】
本発明はさらに、第三の態様において、1つまたはそれより多くの種類のかかるナノ粒子または複合材または液体配合物を含有する物品に関する。
【0009】
本発明はさらに、第四の態様において、ナノ粒子の製造に関する。本発明はさらに、第五の態様において、複合材または液体配合物の製造に関する。
【0010】
本発明はさらに、第六の態様において、かかるナノ粒子または複合材または液体配合物を含有する物品の製造に関する。本発明はさらに、第七の態様において、かかるナノ粒子の使用に関する。
【0011】
本発明はさらに、第八の態様において、かかる複合材または液体配合物の使用に関する。
【0012】
従って、第一の態様において、本発明は、i)1つまたはそれより多くの非永続性の無機支持材料、特にリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、およびそれらの混合物、ii) 酸化状態+0、+1および/または+2の銅、およびiii) 随意にさらなる無機化合物を含有し(即ち、含み、またはそれらからなり)、少なくとも95%(w/w)の前記ナノ粒子が流体力学的直径<500nmを有し、且つ、前記ナノ粒子の含水率が<5%(w/w)未満である、ナノ粒子に関する。
【0013】
ここに開示されたナノ粒子は、有益な抗真菌特性(殺生特性としても称される)を有する。それらのナノ粒子はさらに、有益な光学特性、特により低い強度の色を有する。ここに開示されるナノ粒子の詳細、並びに該ナノ粒子の有利な実施態様を以下に示す:
流体力学的直径:ここで開示されるナノ粒子は、WO2008/122131内に概説されるX線ディスク遠心分離によって測定される流体力学的粒径が500nm未満、好ましくは200nm未満、例えば20〜50nmであることを特徴とする。先行技術において開示されるCu含有材料(例えばKling参照)は、典型的には緑色がかった色のものである。ここに記載されるナノ粒子含有ポリマーは、そのような不利な特性を示さないことが判明した。
【0014】
含水率:ここに開示されるナノ粒子はさらに、低い含水率を特徴とする。典型的には、該材料は、熱重量分析による検出の際、アルゴンを流しながら500℃へ30分間で加熱される際に5%(w/w)未満の水を失う。湿式化学プロセスによって得られる材料は、大量、典型的には>10%の水を含有することが知られている。ここで開示されるナノ粒子の製造のための、フレーム溶射熱分解法は、乾式化学プロセスとしてみなされ、この高い含水率を回避する。低い含水率は、例えば以下に記載される複合材を製造する場合、本発明のナノ粒子のさらなる処理のために有益である。
【0015】
成分i):本発明によるナノ粒子は、その最も広範な意味において、1つまたはそれより多くの、好ましくは1つの、非永続性の無機支持材料を含有する。本発明によれば、前記の支持材料は銅または銅含有化合物でドープされている。用語「非永続性」は、当該分野において公知であり、且つ、生物環境内で材料の分解および/または再吸収の能力を有する材料の特徴のことを示す。より特定には、本願の文脈における「非永続性」とは、1つまたはそれより多くの以下の基準を満たす材料である:
【0016】
i. 可溶性:該材料は、水中、25℃でpH5〜8.5の間で、少なくとも20ppm(w/w、溶剤の質量に対して)の可溶性を有する一方、必要であれば、非錯化性緩衝剤(例えばビス−トリス緩衝剤、グッドバッファー)のみを使用してpHを固定する。該可溶性は、100mgの材料を1.0リットルの随意に緩衝された水に添加し、且つ、溶解された成分の濃度を、例えば原子吸光分析または質量分析によって測定することによってさらに測定される。
【0017】
ii. 生体内での生分解性:生きている生体(例えば哺乳類)内での材料の生分解速度は、一日あたり、その生物の質量に対して少なくとも10ppmである。生分解は、材料の再吸収および/または分解、およびそれに引き続く、身体からの排泄、または生体組織中へのその非毒性の取り込み(例えば、炭酸カルシウムからのカルシウムの溶解、および引き続く運搬、および骨への取り込み)として定義される。
【0018】
iii. 細胞培養モデルにおける分解:細胞培養モデルにおける材料の分解速度(例えば皮膚細胞、肺細胞、肝細胞)は、一日あたり、その生きている細胞の質量に対して少なくとも50ppmである。熟練した研究者は、材料の所定の用途のために適切な細胞系を選択することができる(例えば、ヒトの皮膚と接触させられる材料の用途のためには、好ましくはヒトの皮膚細胞が適用される)。
【0019】
典型的な非永続性の無機材料は、金属塩、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のリン酸塩、硫酸塩、または炭酸塩である。好ましい支持材料は、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択され、特にリン酸三カルシウム(TCP)、非常に特に、XRDによってアモルファスであると測定されるTCP(XRD−amorphous TCP)である。かかる支持材料は自体公知であり、且つ、例えばWO2005/087660号内に記載され、ここで参照をもって開示されるものとする。
【0020】
永続性(非分解性)材料の典型的な例は、チタン酸化物、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物(silica oxide)、ジルコニウム酸化物およびセリウム酸化物である。この度、意外なことに、非永続性の支持物が銅の作用を著しく改善することが判明した。
【0021】
以下に示される通り(表参照)、永続性の支持物と非永続性の支持物とを比較する場合、菌類を完全に制御するために、著しく低減された量の銅で充分である。非永続性の材料は、該材料が菌類と直接接触した場合、アニオン(例えばリン酸イオン)が、必要に応じた放出(release−on−demand)を可能にするものとしてはたらくことができるので、抗真菌特性を改善すると考えられる。ナノ粒子状材料が、細胞に入り、且つ有害な作用を有し得ることも知られている。永続性の支持材料の場合、損傷が不確実であり、且つ、妥当な時間内で評価できない。従って、非永続性の材料の使用は、毒性学の観点において有利であるともみなされる。
【0022】
成分ii) ここで開示されるナノ粒子はドーパントとして銅を含有する。前記の銅は、酸化状態0、+1および/または+2、即ち、金属の形態および/またはイオンの形態で存在できる(「Cuドープされたナノ粒子」)。とりわけ支持物の種類、製造条件、ナノ粒子の環境に依存して、典型的には、金属の銅とイオン化した銅との間の平衡がある。
【0023】
イオン化した銅は、塩の形態で存在できるか、または支持材料の格子内、特にTCPの格子内に組み込まれることができる。
【0024】
金属の銅は、ナノ粒子またはクラスタの形態で存在する。ナノ粒子は、電子顕微鏡による測定で、典型的には10nm未満、特に好ましくは5nm未満の直径を有する。本発明の文脈において、および電子顕微鏡の分解能において存在する制限のために、<1nmの金属の銅粒子は、(粒子というより)原子クラスタとしてみなされない。従って、<1nmの金属の銅粒子は、金属の銅粒子の大きさの分布に基づく数には含まれない。
【0025】
金属の銅粒子の大きさが、溶解度およびイオン化された銅の放出を制限することは公知である。上記で同定された大きさの銅粒子が、有用且つ強力な抗真菌作用を提供することが見出された。抗真菌作用は、利用可能な銅表面全体に関係すると考えられる。従って、より小さい銅粒子(例えば<5nm)は、より大きな粒子(>5nm)よりも好ましい。さらに、銅ナノ粒子のための支持材料の使用は、それらを別々に保つという利点を有し、且つさらに、後のポリマー配合物中での銅の量を容易に調整できると考えられる。ポリマーまたはプレポリマー中での粉末の分散性も、支持材料を使用する場合に促進される。
【0026】
金属の銅粒子の大きさが、溶解度およびイオン化された銅の放出を制限することは公知である。上記で同定された大きさの銅粒子が、有用且つ強力な抗真菌作用を提供することが見出された。さらに、最も望ましくない、日用品表面上で生じる菌類の成長は、しばしば栄養制限されることが公知である。栄養イオン(例えばリン酸イオン)を供給するがしかし高活性の抗真菌剤(例えばナノ粒子形態の銅)も保有する非永続性の支持物の使用は、「トロイの木馬」として機能することがある。そのような、必要に応じた放出は以下の通りに進行すると考えられる:無機の支持材料が(例えばポリマーコーティングまたはバルク材料の表面近傍で)菌類によってゆっくりと占有される一応で、銅もまた占有されることがある。そのような銅は、今、最も効率の良い、正に最も影響を受けやすい位置で、銅イオン供給源として機能する。
【0027】
有利な実施態様において、非永続性材料はリン酸カルシウム、好ましくはリン酸三カルシウム(「TCP」)および特にXRDで測定してアモルファス形態のリン酸三カルシウムである。XRDで測定してアモルファスのTCPとは、通常のX線粉末回折によって測定した場合に、材料の明確な回折ピークが存在しないことによって特徴付けられる。それらの材料が、特に良好な抗菌特性および/または抗真菌特性を有するナノ粒子を生じることが判明した。
【0028】
さらに有利な実施態様において、非永続性の材料は、カチオンがストロンチウム、バリウムおよびマグネシウムからなる群から選択される塩を含有する(即ち、含むまたはそれらからなる)。この実施態様において、支持材料は、2つまたはそれより多くの異なるカチオンを有する1つの塩、または同一のナノ粒子内に存在する異なる塩のいずれかで構成される。従って、適しているのは、Mg、Baおよび/またはSrでドープされたTCP、およびMg、Baおよび/またはSrでドープされたアモルファスのTCPである。それらの材料が、特に良好な抗菌特性および/または抗真菌特性を有するナノ粒子を生じることが判明した。
【0029】
成分iii) 上記で議論された通り、本発明によるナノ粒子は、少なくとも成分i)およびii)を含有する。下記で議論する通り、さらなる成分を添加することができる:
a) 金属の銀粒子:1つの実施態様において、ここで開示されるナノ粒子は、ナノ微粒子の中に、金属または部分的にイオン化された形態で銅と銀との両方を非永続性の支持体上に含有する(「Ag/Cuドープされたナノ粒子」)。金属のナノ粒子数に対して少なくとも95%(「95%(n/n)」)が、電子顕微鏡によって測定して10nm未満、より好ましくは5nm未満の直径を有する金属の銀ナノ粒子として存在する。より特定には、その大きさは走査型透過電子顕微鏡または高分解能透過型電子顕微鏡のいずれかによって、例えばCM30 (Philips、LaB6カソード、300 kVで稼働、点分解能>2Å)において測定される。電子顕微鏡の分解能の限界のために、<1nmの金属の銅粒子は、本発明の文脈において粒子とみなされず、むしろ原子クラスタまたは分子とすら称される。従って、<1nmの金属の銀粒子は、金属の銀粒子の大きさの分布に基づく数には含まれない。銀が上述の通り、トロイの木馬方式に従って作用することも考えられる。さらに、銀および銅が相乗的に互いに補完することも判明した。従って、本発明は、銀および銅が相乗的に有効な量で存在する、ここで開示されるナノ粒子にも関する。典型的には、Ag/Cuの比は10/1〜1/10の範囲、例えば1/1である。
【0030】
ここで開示されるナノ粒子は、銅または銀/銅を有効量で、即ち、適用された際に微生物/菌類の制御を可能にする量で含有する。適切な量を、適用の方式、および慣例的な実験によって制御されるべき微生物/菌類によって決定することができる。有利な実施態様において、本発明のナノ粒子の金属含有率(成分ii))は、0.1〜10%(w/w)、好ましくは0.5〜5%(w/w)、特に好ましくは1〜2.5%(w/w)である。支持材料上に堆積される金属は、元素の金属、即ち、酸化状態±0、または部分的にイオン化された形態で存在する。支持材料または周囲とのレドックス反応のために、金属の一部が酸化されてM+(酸化状態+1、例えばAg+、Cu+)が生じ得ると考えられる。従って、ここで記載されるナノ粒子は、金属の銅および/または銀粒子、および随意に追加的に、銅および/または銀をイオン化された形態で含有する。この状態を「金属および部分的にイオン化された形態」という表現によって表す。さらに、銅は主としてイオン化された形態で存在する一方で、銀は主として金属の形態で存在すると考えられる。
【0031】
第二の実施態様において、本発明は、ここで記載されるナノ粒子を含有する(即ち、含むまたはそれらからなる)固体の複合材(「複合材料」)および液体の配合物に関する。
【0032】
従って、本発明は、ポリマーと、ここに記載されるナノ粒子とを含有する複合材料であって、前記ナノ粒子が前記ポリマー中に分散されている、および/または前記ポリマー上に被覆されているものにも関する。上記で記載されるような複合材料(「複合材」)は、低コストであり、非常に活性な殺生剤複合材であり、且つ、多くの用途、例えばポリマーの日用品における、表面用のポリマーコーティングとして使用することができる。一般に、該複合材は菌類での汚染が望ましくない場所で有用であるとみなされる。金属の銅からの銅イオンの放出は、緩慢なプロセスであるが、特定の環境において殺生活性を発現するためには充分であると考えられる。金属または部分的にイオン化された銅の使用は、事実上、際限のない銅イオンの供給を可能にする。その溶解度によって制限される場合、細胞毒性のバーストは、その後の使用に関連する環境においては起こりそうにない。さらに、金属の銅からの銅イオンの放出は、金属の表面、従って粒子の大きさに非常に依存すると考えられる。本発明の発明者らは、ここに記載された複合材が高効率および長く持続する抗真菌効果を提供することを見出した。該複合材料が、i) Cuドープされたナノ粒子、またはii) Ag/Cuドープされたナノ粒子、およびそれらの混合物を含有できると理解される。複合材中に含まれるナノ粒子の量は、好ましくは殺生効果が観察できるような量(「有効量」)である。AgおよびCuの両方が複合材中に含まれる場合、その量は好ましくは相乗作用効果が観察できるような量(「相乗作用量」)である。従って、本発明は、ここで開示されるナノ粒子を有効量および/または相乗作用量で含有する、ここで開示される複合材料にも関する。
【0033】
ポリマー: ここで記載される通り、複合材料は、さらにポリマーを含む。該ポリマーは、ナノ粒子が好ましくは0.02〜50%(w/w)、より好ましくは5〜30%(w/w)、最も好ましくは10〜20%(w/w)の量で分散されるかまたは埋め込まれるマトリックスとしてはたらく。一般に、公知の全てのポリマー、または公知の方法によって得られる全てのポリマーは、かかる複合材の製造のために適している。用語「ポリマー」とは、コポリマー、ポリマーブレンド、および強化ポリマーも包含するものとする。
【0034】
本発明の有利な実施態様においては、ポリマーはシリコーン、ポリエチレン(PE、例えばLDPEまたはHDPE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィン−コポリマー(COC)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(塩化ビニル)(PVC)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリアミド、ポリ−テトラフルオロエチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリエステル、ポリウレタン(PU)、スチレンのブロックコポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリレート、アクリル−ブタジエン−スチレンコポリマー(ABS)、天然および合成ゴム、アクリロニトリルゴム、およびそれらの混合物またはコポリマーからなる群から選択される。好ましいポリマーはPVCである。
【0035】
本発明のさらに有利な実施態様において、ポリマーは生分解性ポリマーである。有機物の生分解は、第一に、酵素によるかまたは酵素によらないかのいずれかでの、非毒性の生成物(即ちモノマーまたはオリゴマー)への分解工程(加水分解)を介して進行し、且つさらに、身体から排出されるか、またはそこで代謝される [Hayashi, T.,"Biodegradable Polymers for Biomedical Uses", Progress in Polymer Science, 1994, 19, 633]。かかる生分解性ポリマーを、熟練した当業者は同定でき、好ましくは、生分解性ポリマーは、生体中(分解性のインプラント中で使用される生分解性ポリマー)または環境中(パッケージ用の生分解性ポリマー)での滞在時間が制限されていることを特徴とする。典型的な例は、ポリエステル、例えばポリラクチドまたはポリ(乳酸 co グリコール酸)、ポリウレタン、デンプンベースのポリマーおよびその他のものを含む。
【0036】
本発明のさらに有利な実施態様において、ポリマーマトリックスは、シート状の材料、例えばフィルム、織物材料、不織材料である。
【0037】
本発明のさらに有利な実施態様において、ナノ粒子は主に(即ち>50%、好ましくは>90%)、コーティングの形態で、ポリマーマトリックスの表面上に分散されている。正に表面近傍での金属が最も大きな影響を有するので、一般には、抗真菌特性を有するべき材料にコーティングを適用するだけで充分である。
【0038】
本発明のさらに有利な実施態様において、ナノ粒子はポリマーマトリックス内で均質に分散される。バルク材料中の金属含有ナノ粒子は、なおも金属イオンを周囲に放出し、殺生複合材と接触する微生物/菌類へ2倍の攻撃をもたらす。
【0039】
本発明は、分散液およびここに記載されるナノ粒子を含有する液体配合物にも関する。かかる液体配合物は、低コスト、高活性の抗真菌性複合材であり、且つ、大面積のコーティング(例えばペンキ)および表面用の他のポリマーコーティングなどの多くの用途において使用され得る。一般に、該複合材は菌類での汚染が望ましくない場所で有用であるとみなされる。銅イオンの放出は、上述の通りであると考えられる。ここに記載される液体配合物が、高効率および長く持続する抗真菌効果を提供することが見出された。該液体配合物が、i) Cuドープされたナノ粒子、またはii) Ag/Cuドープされたナノ粒子、およびそれらの混合物を含有できると理解される。該液体配合物中に含まれるナノ粒子の量は、好ましくは殺生効果が観察できるような量(「有効量」)である。AgおよびCuの両方が該配合物中に含まれる場合、その量は相乗作用効果が観察できるような量(「相乗作用量」)である。従って、本発明は、有効量および/または相乗作用量のここで開示されるナノ粒子を含有する、ここで開示される液体配合物にも関する。
【0040】
分散液:本発明の文脈において、任意の適した分散液、即ち、ここに記載されたナノ粒子と反応しない、または著しく反応しない液体を使用できる。
【0041】
本発明の1つの実施態様において、分散液は、親水性の、特に水性の液体である。
【0042】
本発明のさらなる実施態様において、分散液は極性液体である。かかる極性の分散液を、当業者は同定することができ、好ましい極性分散液は生分解性の、低分子量アルコール(イソプロパノール、エタノール)として特徴付けられる。
【0043】
本発明のさらなる実施態様において、分散液は、生分解性であり、ここで、生分解性の用語は、上述の通りに使用される。当業者は、かかる生分解性分散液を同定できる。典型的な例はポリラクチド酸(polylactidacid)を含む。
【0044】
本発明のさらなる実施態様において、分散液は、特に、ポリウレタンベースの分散物およびポリアクリレートベースの分散物からなる群から選択される、ポリマーベースの液体である。
【0045】
本発明のさらなる実施態様において、分散液は低粘性である、即ち、100ポアズ未満、好ましくは10ポアズ未満の粘度を(25℃で)有する。粘度は、標準的なレオメータを使用して測定される。
【0046】
本発明の有利な実施態様において、分散液は淡青色、白色、またはわずかに混濁した液体である。
【0047】
本発明はさらに、第三の態様において、i) 1つまたはそれより多くの種類のここで開示されるナノ粒子を単独または組み合わせのいずれかで; またはii) ここで開示される複合材、またはiii) ここで開示される液体配合物を含有する物品に関する。特に、本発明は、ここで記載される複合材を含有する(即ち、含む、またはそれらからなる)、またはここで開示される液体配合物で被覆された、箔、コーティング、繊維、織物または不織材料に関する。
【0048】
それに応じて、本発明はここで記載される箔で包装された物品、および、ここで記載されたコーティングで被覆された装置に関する。さらに、本発明は、銅をドープされたナノ粒子を、または銅をドープされたナノ粒子と銀をドープされたナノ粒子とを、または銅/銀をドープされたナノ粒子を含有する物品に関する。
【0049】
本発明はさらに、第四の態様において、かかるナノ粒子の製造に関する。ここで、好ましい方法は、例えば適した前駆体材料のフレーム溶射合成による、かかる粒子の直接的な製造を含む。従って、本発明は、ここで記載されるナノ粒子の製造方法であって、a) i)支持材料のカチオンの可溶性の前駆体、特にカルシウム前駆体、ii) 可溶性の金属前駆体(即ち、銅、および随意に銀前駆体)、iii) 支持材料のアニオンの可溶性の前駆体(即ちホスフェート、スルフェート、カーボネート前駆体)、iv) 随意に溶剤、特に2−エチルヘキサン酸を含有する可燃性の溶液を製造する段階、およびb) 前記の溶液をフレーム溶射熱分解法に供する段階を含む方法に関する。
【0050】
フレーム溶射熱分解("FSP"):FSPはナノ粒子製造の分野において公知である。一般に、ナノ粒子の製造に適した方法は、WO2005/087660号内に記載されており、リン酸カルシウムの製造についての例に関して特に、ここで参照を持って開示される。FSPを行うために、炎への供給物は可燃性の溶液でなければならず、即ち、供給物はi) 可燃性組成物であり且つii) 溶けていない粒子を実質的に含まない溶液でなければならない。適した供給物の詳細は当該技術分野において公知であり、通常の実験によって決定することができる。さらなる詳細は以下に記載される。
【0051】
支持材料のカチオンの可溶性の前駆体(「カチオン前駆体」):原則的に、所望のカチオンを含有する任意の可溶性且つ可燃性の化合物が、ここで開示される方法のために適している。好ましくは、金属のカルボン酸の塩、例えば酢酸塩または2−エチルヘキサノエートが使用される。それらの化合物は、適切な塩基化合物、例えばCa(OH)2、Bi(OH)3、Bi23を適切な酸、例えば2−エチルヘキサン酸の中で溶解することによってインサイチューで形成され得る。
【0052】
支持材料のアニオンの可溶性の前駆体(「アニオン前駆体」):原則的に、硫黄、リンおよび/または炭素を含有する任意の可溶性且つ可燃性の化合物が、ここで開示される方法のために適している。典型的には、ジメチルスルホキシドが硫酸イオンを得るために使用され、トリブチルホスフェートがリン酸イオンを得るために使用される。炭酸イオンの製造のためには、溶剤またはカチオン前駆体のアニオンが、適した供給源である。
【0053】
可溶性の銅前駆体:原則的に、任意の可溶性且つ可燃性の銅化合物が、ここで開示される方法のために適している。適した銅塩は、銅2−エチルヘキサノエート、または2−エチルヘキサノエート中の酢酸銅を含む。
【0054】
可溶性の銀前駆体:原則的に、任意の可溶性且つ可燃性の銀化合物が、ここで開示される方法のために適している。適した銀塩は、銀2−エチルヘキサノエート、または2−エチルヘキサノエート中の酢酸銀を含む。
【0055】
溶剤:溶剤の添加は、必須ではないが、しかし好ましい。該溶剤を、供給物の粘度を低下させるために、燃焼特性を改善するために、安定な溶液を得るために、またはカーボネートの形成のための炭素源を供給するために、添加することができる。高沸点を有する溶剤を使用することが有利である。典型的な例は、2−エチルヘキサン酸、トルエンおよびキシレンを含む。
【0056】
選択的な実施態様において、本発明は、ここに記載されるナノ粒子の製造方法であって、カチオン前駆体、アニオン前駆体、および/または銀/銅前駆体を、上記の通りに別々の供給によってフレーム溶射熱分解に供する段階を含む方法に関する。これは、該前駆体がFSP工程より前に反応し得る場合に有利であるとみなされる。
【0057】
製造におけるさらなる詳細を、実施例内に見出すことができる。
【0058】
本発明はさらに、ここに記載される方法によって得られるナノ粒子に関する。
【0059】
本発明はさらに、第五の態様において、ここに開示される複合材または液体配合物の製造、特にここに記載される殺生複合材の製造方法に関する。
【0060】
一般に、複合材の製造は、ここに記載されるナノ粒子をポリマー、ポリマー溶液またはポリマー前駆体中に混合することによって行われる。無機材料上に支持された銅の使用(即ち、ここで記載されるナノ粒子の使用)により、粒状材料がポリマー基材またはポリマー前駆体中で容易に分散することが可能になる。上述の粒子の低い含水率は、それらを疎水性ポリマーまたはプレポリマー中で分散する場合に分散性の点で可能な最高の結果を得るために有利である。低い含水率は、使用されたポリマー材料における水蒸気の放出または泡の形成をみちびくことがある、ポリマーの熱による後処理の点でも有利である。
【0061】
1つの実施態様において、本発明は、ここに記載される複合材の製造方法であって、i) 1つまたはそれより多くの種類の、ここで記載されるナノ粒子を希釈剤、特にアルコール中で懸濁させる段階; ii) そのように得られた懸濁液と、随意に希釈剤中で溶解または懸濁されたポリマー前駆体と混ぜ合わせる段階; iii) 重合を行う段階、およびiv) 随意に溶剤/希釈剤を除去する段階を含み、その際、段階iv)およびiii)を同時に行うこともできる方法に関する。
【0062】
さらなる実施態様において、本発明はここで記載される複合材の製造方法であって、i) 1つまたはそれより多くの種類の、ここで記載されるナノ粒子を希釈剤、特にアルコール中で懸濁させる段階; ii) そのように得られた懸濁液と、ポリマー溶液とを混ぜ合わせる段階、および、iii) 随意に希釈剤/溶剤を除去する段階を含む方法に関する。
【0063】
さらなる実施態様において、本発明はここで記載される複合材の製造方法であって、i) 1つまたはそれより多くの種類の、ここで記載されるナノ粒子を希釈剤、特にアルコール中で懸濁させる段階; ii) そのように得られた懸濁液と、ポリマー溶液とを混ぜ合わせる段階、および、iii) 随意に希釈剤/溶剤を除去する段階を含み、その際、前記希釈剤は前記ポリマーを溶解することができる前記方法に関する。
【0064】
さらなる実施態様において、本発明は、ここで記載される複合材の製造方法であって、i) 1つまたはそれより多くの種類の、ここで記載されるナノ粒子をポリマーメルト中に懸濁させる段階、およびii) 該分散物を成形する段階を含む前記方法に関する。この方法は有利には、押出機内で実施される。
【0065】
上述の個々の段階のそれぞれ(ナノ粒子、ポリマー、ポリマー前駆体の製造;懸濁液/溶液の製造; 溶剤/希釈剤の除去)は、当該技術分野において公知であり、且つ、標準的な装置を使用して実施することができる。さらに、ナノ粒子を、ポリマーに添加、またはその逆をしてもよく、そのことを「混ぜ合わせ」という用語によって示す。従って、ここで記載される複合材は、大規模であっても、容易に製造され、且つ都合良く利用可能である。
【0066】
ポリマー中へ混合する場合、ナノ粒子の分散を、押出機または当該技術分野で公知の他の配合機によって達成でき、次に、特定の形状、例えば管またはフィルム等の所望の物品に形成する。
【0067】
一般に、液体配合物の製造は、ここで記載されるナノ粒子を希釈剤中に混合することによって行われる。無機材料上に支持された銅の使用(即ち、ここで記載されるナノ粒子の使用)は、粒状材料が希釈剤中で容易に分散することを可能にする。低い含水率は、そうでなければ最終製品の表面における水蒸気の放出または泡の形成をみちびくことがある、液体配合物の熱による後処理の点でも有利である。
【0068】
1つの実施態様において、本発明はここに記載される液体配合物の製造方法であって、i) ここに記載されるナノ粒子を希釈剤中に懸濁させる段階; ii) そのように得られた懸濁液と、随意に希釈剤で希釈された分散液とを混ぜ合わせる段階、およびiii) 随意に希釈剤/溶剤を除去する段階を含む方法に関する。
【0069】
本発明の文脈において、希釈剤/溶剤の用語は、希釈剤/溶剤の混合物にも適用されると理解される。
【0070】
本発明はさらに、第六の態様において、ナノ粒子を含有する物品、またはここで記載される複合材または液体配合物の製造に関する。
【0071】
1つの実施態様において、本発明はここに記載されるコーティングまたは箔の製造方法であって、i) ここに記載される複合材料を押出またはコーティングする段階、またはii)ここに記載される液体配合物で支持材料をコーティングする段階、またはここに記載される複合材料を、カレンダー処理、ブロー溶融またはキャスティングする段階を含む方法に関する。
【0072】
有利な実施態様において、殺生金属/支持材料を含有するポリマー溶液またはポリマー前駆体からのフィルムまたはコーティングの形成は、以下の段階を含む: i) ここに記載されるナノ粒子を、溶剤、ポリマー溶液またはポリマー前駆体中に、例えば超音波処理または高剪断混合によって分散させる段階; ii) 随意にポリマーを分散物中に添加し且つ溶解させる段階; iii) ポリマーの固体のフィルム材料を形成する、または従来のコーティング方法、例えばロールコーティング、噴霧コーティング、ギャップコーティング、エアナイフコーティング、浸漬(ディップ)コーティング、カーテンコーティングまたはスロットダイコーティングを用いて混合物をコーティングする段階; iv) そのフィルムまたはコーティングを、熱的に、またはUV照射によって硬化させる段階。
【0073】
有利な実施態様において、コーティング工程からのフィルムまたはコーティングの形成は、ディップコーティング、ナイフコーティング、プレートコーティング、ロールコーティング、噴霧コーティング、カーテンコーティング、グラビア、リバースグラビアコーティング、特にディップコーティング、ナイフコーティング、グラビア/リバースグラビアコーティングの段階を含む。
【0074】
本発明はさらに、第七の態様において、ここに開示されるナノ粒子の使用に関する。
【0075】
一般に、ここに記載されるナノ粒子を、多数の用途において、特に菌類での汚染、またはその存在が、i)望ましくない、および/またはii)防がれるべきである、および/またはiii)減少されるべきである(菌類の制御)用途において、使用できる。従って、ここに開示されるナノ粒子は、特に菌類の制御のために有用である。
【0076】
本発明のナノ粒子は、サッカロミセスアルビカンスのカンジダ群の属の菌類および黴のアスペルギルス属に分類される菌類の制御のために特に有用である。
【0077】
ここに記載されるナノ粒子を、塗料添加剤として使用することができる。従って、本発明はここに記載されるナノ粒子を含有する塗料添加剤に関し、且つ、ここに記載されるナノ粒子の塗料中での使用に関する。
【0078】
さらには、本発明はここに記載されたナノ粒子の消毒剤としての使用に関する。相応して、本発明は、ここに記載されるナノ粒子を含有する洗浄剤(例えば粉末または液体配合物中)に関し、且つ、洗浄剤用添加剤としてのナノ粒子の使用に関する(液体中に分散)。従って、ナノ粒子を、粉末配合物または液体配合物中で、表面の消毒のために、特に衛生環境および病院、食品製造設備および公共交通機関における表面の消毒のために使用できる。
【0079】
さらに、本発明は、ここに記載されたナノ粒子の、ガス流の消毒のための使用に関する。これは、有効量のナノ粒子を粉末配合物として前記ガス流に注入することによって実現できる。
【0080】
さらに、本発明は、ここに記載されたナノ粒子の、食品または医薬品の消毒のための使用に関する。これは、ナノ粒子を、食品または医薬品表面に添加することによって、またはそれを食品または医薬品表面に適用することによって実現できる。該適用を、粉末または液体配合物の形態で行うことができる。
【0081】
さらには、本発明はここに記載されるナノ粒子を、例えば小売りまたは保管の間の物品の菌類による汚染を制御するための布地処理として用いる使用に関する。これは、粉末配合物中または液体配合物中のいずれかの有効量のナノ粒子を前記物品に適用することによって実現できる。
【0082】
本発明はさらに、第八の態様において、ここで開示される複合材または液体配合物の使用に関する。ここに記載される複合材料は、多数の用途において、特に菌類での汚染、またはその存在が、i)望ましくない、および/またはii)防がれるべきである、および/またはiii)減少されるべきである(菌類の制御)用途において、使用できる。
【0083】
従って、本発明は、大面積のコーティング(例えば塗料)および表面/器具用の他のポリマーコーティングのための、ポリマーの日用品における複合材の使用に関する。
【0084】
さらには、本発明はここに記載される複合材またはここに記載される箔を、特に食品梱包、医薬品の梱包、医療器具の梱包、台所および家庭用器具における梱包材料として用いる使用に関する。
【0085】
さらには、本発明は、ここに記載される複合材またはここに記載されるコーティングを、建築物または器具の表面を被覆するために、特に衛生設備、病院設備および空調システムのためのコーティングに用いる使用に関する。
【0086】
さらに本発明は、ここに記載される複合材を、塗料として、または塗料組成物の一部として用いる使用に関する。
【0087】
さらに本発明は、記載された複合材を繊維の製造のために用いる使用に関し、且つ、かかる繊維を、織物または不織材料、例えば布またはフィルターの製造のために用いる使用に関する。
【0088】
さらに、本発明は、ここに記載される複合材料または布または繊維を、浄水システムにおいて用いる使用に関する。
【0089】
本発明の現在好ましい実施態様が示され且つ記載されるが、本発明はそれに限定されるのではなく、他に様々に具体化され且つ実用化され得ることが明確に理解されるべきである。
【0090】
以下の実施例は、本発明を説明するために含まれており、そこに限定するという意図はない。以下の節において、下記の省略形を使用する:
TCP ドーパントのないTCPナノ粒子
2Cu−TCP 2%のCuを含有する、本発明によるナノ粒子。
【0091】
1. 複合材の特性
種々のCu−TCPフィルムのUV−Visスペクトルを記録した。2Cu−TCPおよび2Ag−TCPフィルムは、350nmより上の波長で>50%の高い透過を示した。一般に、透過は、銀および銅の含有率の増加に対して減少する。次第に、茶色または緑/青の着色が、光学的に、眼によって且つUV−Vis測定によっても観察される。透過性は一般に梱包材料またはコーティングについての市場を決定するような要素であるので、本発明のフィルムはかかる用途に適しているとみなされる。
【0092】
2. 抗菌ナノ粒子の抗菌試験
第一の抗菌試験において、純粋な粒子(TCPおよび2Cu−TCP)の活性をASTM E2149−01によって、大腸菌C43との接触時間24時間(作用するバクテリアの濃度 1×105CFU/ml)を使用して調査した(表1)。粉末5mgを、作用するバクテリアの緩衝液8ml中に浸漬させた。銅を含有するサンプルの2Cu−TCPは、材料への曝露のほんの24時間後に、強い、ほぼ1logの低下を示した。純粋なTCPは、大腸菌の成長にほんのわずかな影響しか及ぼさず、参照品と比較して半分のCFU/mlを産出した。
【0093】
【表1】

【0094】
3. 複合材の抗真菌試験
粉末について同一の試験を、20%(w/w)の粉末を含有する一組のフィルムを用い、24時間の接触時間を適用して行った(表2)。6cm2の面積のフィルム(20%(w/w)の粉末の装填について≒15mgの粉末に相応)を8mlの作用するバクテリアの溶液8ml中に浸漬させた(1×106 CFU/ml)。2Cu−TCP粉末含有フィルムは、1−logの低下を示し、それはフィルム材料について並はずれて高い。
【0095】
【表2】

【0096】
実験の第三の組において、種々のコーティングを、大腸菌 アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC) No.8739に対するその効率について、ASTM E2149−01(動的接触試験)とE2180−01(親水性材料についての静的試験、表3)との両方の試験法を用いて試験した。ASTM E2149−01のために、2時間および24時間の2つの接触時点を選択して短期効果および長期効果を評価した。TCP粉末のみを含有するフィルムは、両方の時点でのバクテリア濃度において変化を示さなかった。しかしながら、2Cu−TCPを含有するフィルムは、24時間後にほぼ4−logの低下を示した一方で、2時間の時点では低下は著しく変化しなかった。理論に束縛されることはないが、参照用フィルムについては24時間の実験において3−log CFU/mlの増加が観察されることに留意して、該メカニズムは瞬時ではなく、むしろ緩慢且つ安定したバクテリア破壊を介して進行すると考えられる。それゆえ、抗菌性フィルムは、初めのバクテリアと闘うだけではなく、バクテリアの成長にも打ち勝つべきである。静的接触試験ASTM E2180−01のために、TCPを含有するフィルムサンプルについてのバクテリア濃度が参照品と比較して10倍だけ高められた。ここでもまた、フィルムへの2Cu−TCPの添加は、最も効率的な5−logの低下を引き起こした。
【0097】
4. 他の微生物に対する複合材の試験
一般に発生する種々の微生物についての材料の効率をさらにASTM E2180−01に準拠して24時間、調査した。5Ag−TCPを含有するフィルムは、緑膿菌(P.aeruginosa)およびカンジダアルビカンス(C.albicans)に、それぞれ、並はずれた6〜7logの低下および4−logの低下を伴う強い影響を示した。両方の微生物はTCPフィルムとの接触において影響されなかった(緑膿菌については4%の増加、およびカンジダアルビカンスについては18%の低下)。ここでもまた、活性剤、致命的な薬剤としての銀の役割が確認される。これまでのところ、高い(3〜7−logの低下)抗菌活性は、5Ag−TCPを含有するフィルムについて、特にグラム陰性菌(大腸菌、緑膿菌)に対して、および酵母様菌類(カンジダアルビカンス)に対して観察された。より強固な防衛機構を有する微生物、例えばグラム陽性の黄色ブドウ球菌およびA.ニゲル(A.niger)の胞子形は遙かに少なくしか影響されなかった。
【0098】
【表3】

【0099】
* この試験に使用されたフィルムは、2種類のナノ粒子を含有した:2Ag TCPナノ粒子、および2Cu TCPナノ粒子。データが示す通り、2種類のナノ粒子の組み合わせを含有するフィルムは、相乗作用効果を示す。
【0100】
** この試験に使用されたフィルムは、1種類のナノ粒子を含有した:銀および銅でドープされたTCPナノ粒子(請求項5に定義された通り)。データが示す通り、2種類のナノ粒子の組み合わせを含有するフィルムも、相乗作用効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) 特に、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される、非永続性の無機支持材料、
ii) 酸化状態±0、+1および/または+2の銅、および
iii) 随意にさらなる無機化合物
を含有するナノ粒子であって、前記ナノ粒子の少なくとも95%(w/w)が流体力学的直径<500nmを有し、且つ、前記ナノ粒子の含水率が<5%(w/w)未満である前記ナノ粒子。
【請求項2】
銅の含有率が0.1〜20%(w/w)、好ましくは0.5〜10%である、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
成分i)がリン酸三カルシウム、特にアモルファスのリン酸三カルシウムである、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
成分i)が、マグネシウムをドープされたTCP、ストロンチウムをドープされたTCP、およびバリウムをドープされたTCP、特にアモルファスの、マグネシウムをドープされたTCPからなる群から選択される、請求項1から3までのいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
成分iii)が、酸化状態±0の銀である、請求項1から4までのいずれか1項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
ポリマーと、請求項1から5までのいずれか1項に記載のナノ粒子とを含有する複合材料であって、前記ナノ粒子が前記ポリマー中に分散されている、および/または前記ポリマー上に被覆されており、特に前記ナノ粒子が有効量または相乗作用量で存在する、前記複合材料。
【請求項7】
前記ポリマーが、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリエステル、ポリウレタン、スチレンブロックコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリラクチド酸、アクリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、天然および合成ゴム、アクリロニトリルゴム、およびそれらの組み合わせ(ブレンド)またはコポリマーからなる群から選択される、請求項6に記載の複合材料。
【請求項8】
前記ポリマーが生分解性である、請求項6または7に記載の複合材料。
【請求項9】
分散液と、請求項1から5までのいずれか1項に記載のナノ粒子とを含有する液体配合物であって、特に、前記ナノ粒子が有効量または相乗作用量で存在する前記液体配合物。
【請求項10】
分散液が、25℃で100ポアズ未満の粘度を有する、請求項9に記載の液体配合物。
【請求項11】
分散液が、ポリウレタンベースの分散物およびポリアクリレートベースの分散物からなる群から選択される、請求項9または10に記載の液体配合物。
【請求項12】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のナノ粒子、または請求項6から8までのいずれか1項に記載の複合材料、または請求項9から11までのいずれか1項に記載の液体配合物を含有する物品、特に箔、コーティング、繊維、織物材料または不織材料。
【請求項13】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のナノ粒子の製造方法であって、
a. 下記を含む可燃性溶液を調製する段階
i. 可溶性のカチオン前駆体、特にカルシウム前駆体
ii. 可溶性の銅前駆体
iii. 可溶性のアニオン前駆体、特にホスフェート、スルフェート、カーボネート前駆体、
iv. 随意の溶剤
b. 前記の溶液をフレーム溶射熱分解工程に供する段階
を含む方法。
【請求項14】
請求項6から8までのいずれか1項に記載の複合材料の製造方法において、
a. 請求項1から5までのいずれか1項に定義されたナノ粒子を希釈剤中で懸濁させる段階、
b. そのように得られた懸濁液を、随意に希釈剤中で溶解または懸濁されたポリマー前駆体と混ぜ合わせる段階、
c. 重合を実施する段階、および
d. 随意に希釈剤を除去する段階
を含む、または
a. 請求項1から5までのいずれか1項に定義されたナノ粒子を希釈剤中で懸濁させる段階、
b. そのように得られた懸濁液を、希釈剤中で溶解されたポリマーと混ぜ合わせる段階、および
c. 随意に希釈剤/溶剤を除去する段階
を含む、または
a. 請求項1から5までのいずれか1項に定義されたナノ粒子を希釈剤中で懸濁させる段階、
b. そのように得られた懸濁液を、ポリマーと混ぜ合わせる段階、および
c. 随意に前記希釈剤を除去する段階
を含み、前記希釈剤が前記ポリマーを溶解できる、; または、
a. 請求項1から5までのいずれか1項に定義されたナノ粒子を、好ましくは押出により、ポリマー溶融物中で懸濁させる段階、および
b. 前記分散物を成形する段階
を含む、前記製造方法。
【請求項15】
請求項1から11までのいずれか1項に記載の液体配合物の製造方法であって、
a. 請求項1から5までのいずれか1項に定義されたナノ粒子を、希釈剤中で、随意に懸濁させる段階、
b. 請求項1から5までのいずれか1項に定義されたナノ粒子を希釈剤中で、または段階a)で得られた懸濁液中で、随意に希釈剤で希釈された分散液と混ぜ合わせる段階、および
c. 随意に前記希釈剤を除去する段階
を含む、前記製造方法。
【請求項16】
a. 請求項6から8までのいずれか1項に記載の複合材料を押出またはコーティングする段階、または
b. 支持材料を、請求項9から11までのいずれか1項に記載の液体配合物でコーティングする段階、または
c. 請求項6から8までのいずれか1項に記載の複合材料を、カレンダー処理、ブロー溶融またはキャスティングする段階
を含む、請求項12に記載のコーティングまたは箔の製造方法。
【請求項17】
請求項1から5までのいずれか1項に記載のナノ粒子を、
a. 抗真菌成分として、
b. 塗料添加剤として、
c. 洗浄剤添加剤として、特に、衛生環境および病院、食品製造設備および公共交通機関における表面を洗浄するための洗浄剤添加剤として、
d. ガス流の消毒、特に前記ナノ粒子をダストとして前記ガス流に注入することによる消毒のために、
e. 食品および医薬品の消毒、特に前記ナノ粒子の添加による、または前記食品または医薬品の表面に前記ナノ粒子を適用することによる消毒のために、
f. 布の仕上げまたは布の処理のために、
用いる使用。
【請求項18】
a. 請求項5から8までのいずれか1項に記載の複合材料または請求項12に記載の箔を、包装材料として、特に食品の包装、医薬品の包装、医療器具、台所および家庭用器具の包装において、
b. 請求項5から8までのいずれか1項に記載の複合材料または請求項12に記載のコーティングを、衛生設備、病院設備および空調システムにおけるコーティングのために、
c. 請求項5から8までのいずれか1項に記載の複合材料、または請求項12に記載の布または繊維を、浄水システムにおいて、
用いる使用。

【公表番号】特表2013−515679(P2013−515679A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545037(P2012−545037)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際出願番号】PCT/CH2009/000410
【国際公開番号】WO2011/075855
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(509277132)パーレン コンヴァーティング アクチェンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】Perlen Converting AG
【住所又は居所原語表記】CH−6035 Perlen, Switzerland
【出願人】(500466913)
【氏名又は名称原語表記】Eidgenoessische Technische Hochschule Zuerich
【住所又は居所原語表記】Raemistrasse 101, CH−8092 Zuerich, Switzerland
【Fターム(参考)】