説明

押出方法及びこれを適用した発泡絶縁体押出方法

【課題】内部導体がクロスヘッド心金の中心に対して偏芯することを防止する押出方法を提供する。
【解決手段】内部導体の外周に内部層が形成された被覆電線を、クロスヘッド心金を有するクロスヘッドに送り、クロスヘッドで被覆電線の外周に外部層用材料を押出被覆して外部層を形成する押出方法において、被覆電線の外周に外部層用材料を押出被覆する際、被覆電線の径とクロスヘッド心金の径を同じくなるように押し出し、クロスヘッド心金の内周部に内部層の材料である内部層用材料を滞留させ、内部導体をクロスヘッド心金の中心に固定する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部層が形成された内部導体の外周に外部層を形成する押出方法及びこれを適用した発泡絶縁体押出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内部導体の外周に内部層が形成された被覆電線を、クロスヘッド心金を有するクロスヘッドに送り、クロスヘッドで被覆電線の外周に外部層用材料を押出被覆して外部層を形成する押出方法が用いられている。
【0003】
ここでは、図7に示すように、内部導体71の外周に内部層としての内部充実層72が形成されてなる被覆電線73と、被覆電線73の外周に形成された外部層としての発泡層74と、発泡層74の外周に形成された外部充実層75と、外部充実層75の外周に設けられた外部導体76と、外部導体76の外周に形成された外皮77とから構成された同軸ケーブル70を例に説明する。
【0004】
図8に示すように、この同軸ケーブル70を製造する際には、先ず、被覆電線73と発泡層74と外部充実層75とからなる発泡絶縁電線80を製造する。
【0005】
図9に示すように、この発泡絶縁電線80における発泡層74は、被覆電線73を、発泡層クロスヘッド心金91を有する発泡層クロスヘッド90に送り、発泡層クロスヘッド90で被覆電線73の外周に発泡絶縁体(発泡層用材料)92を押出被覆して発泡層74を形成する発泡絶縁体押出方法により形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−188419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、被覆電線73の径Aと発泡層クロスヘッド心金91の径Bにはギャップが存在しており、内部導体71は発泡層クロスヘッド心金91の中心に対して常に微少変動(偏芯)する。
【0008】
この偏芯が、同軸ケーブル70のケーブル長手方向の均一性の指標である電圧定在波比(VSWR)を増大(悪化)させてしまう問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、内部導体がクロスヘッド心金の中心に対して偏芯することを防止する押出方法及びこれを適用した発泡絶縁体押出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために創案された本発明は、内部導体の外周に内部層が形成された被覆電線を、クロスヘッド心金を有するクロスヘッドに送り、前記クロスヘッドで前記被覆電線の外周に外部層用材料を押出被覆して外部層を形成する押出方法において、前記被覆電線の外周に前記外部層用材料を押出被覆する際、前記被覆電線の径と前記クロスヘッド心金の径を同じくなるように押し出し、前記クロスヘッド心金の内周部に前記内部層の材料である内部層用材料を滞留させ、前記内部導体を前記クロスヘッド心金の中心に固定する押出方法である。
【0011】
また、本発明は、内部導体の外周に内部充実層が形成された被覆電線を、発泡層クロスヘッド心金を有する発泡層クロスヘッドに送り、前記発泡層クロスヘッドで前記被覆電線の外周に発泡絶縁体を押出被覆して発泡層を形成する発泡絶縁体押出方法において、前記被覆電線の外周に前記発泡絶縁体を押出被覆する際、前記被覆電線の径と前記発泡層クロスヘッド心金の径を同じくなるように押し出し、前記発泡層クロスヘッド心金の内周部に前記内部充実層の材料である内部充実層用材料を滞留させ、前記内部導体を前記発泡層クロスヘッド心金の中心に固定する発泡絶縁体押出方法である。
【0012】
前記発泡層クロスヘッド心金を内部充実層用材料の融点以上に加熱しておき、前記被覆電線が前記発泡層クロスヘッド心金を通過する際に前記内部充実層の表面を融かし、融けた内部充実層用材料を滞留させると良い。
【0013】
滞留させる内部充実層用材料を別途供給しても良い。
【0014】
前記発泡層クロスヘッドの前段に前記内部導体の外周に内部充実層用材料を押出被覆して前記内部充実層を形成するための内部充実層クロスヘッドを設け、前記発泡層クロスヘッド心金における内部充実層用材料の滞留量の増減を、前記内部充実層クロスヘッドに内部充実層用材料を押し出すための内部充実層押出機のスクリュー回転数にフィードバックさせると良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内部導体がクロスヘッド心金の中心に対して偏芯することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用する押出被覆装置を示す概略図である。
【図2】(a),(b)は本発明に係る発泡層クロスヘッドを示す断面図である。
【図3】本発明適用前の偏芯量を示す図である。
【図4】本発明適用後の偏芯量を示す図である。
【図5】本発明適用前のVSWRを示す図である。
【図6】本発明適用後のVSWRを示す図である。
【図7】同軸ケーブルを示す側面図である。
【図8】発泡絶縁電線を示す断面図である。
【図9】従来の発泡層クロスヘッドを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
ここでは、内部導体の外周に内部充実層が形成された被覆電線を、発泡層クロスヘッド心金を有する発泡層クロスヘッドに送り、発泡層クロスヘッドで被覆電線の外周に発泡絶縁体を押出被覆して発泡層を形成する発泡絶縁体押出方法について説明する。
【0019】
先ず、本発明を適用する押出被覆装置を説明する。
【0020】
この押出被覆装置は、図8に示した発泡絶縁電線80を、図9に示した発泡層クロスヘッド90を用いて製造するものである。
【0021】
図1に示すように、本発明を適用する押出被覆装置10は、内部導体71の外周に内部充実層72を形成するための内部充実層形成機構11と、内部充実層72の外周に発泡層74を形成するための発泡層形成機構12と、発泡層74の外周に外部充実層75を形成するための外部充実層形成機構13とを備える。
【0022】
内部充実層形成機構11は、内部導体71の外周に内部充実層用材料を押出被覆して内部充実層72を形成するための内部充実層クロスヘッド14と、内部充実層クロスヘッド14に内部充実層用材料を押し出すための内部充実層押出機15と、内部充実層押出機15に材料を投入するための材料投入口16とを有する。
【0023】
内部充実層押出機15は、その内部にスクリューが設けられており、このスクリューを回転させることにより、材料投入口16から投入された材料を混練・溶融させると共に内部充実層クロスヘッド14に内部充実層用材料を押し出すようになっている。
【0024】
発泡層形成機構12は、内部充実層72の外周に発泡絶縁体を押出被覆して発泡層74を形成するための発泡層クロスヘッド90と、発泡層クロスヘッド90に発泡絶縁体92を押し出すための発泡層押出機17と、発泡層押出機17に材料を投入するための材料投入口18と、発泡層押出機17に投入された材料に発泡のためのガスを注入するガス注入装置19とを有する。
【0025】
発泡層クロスヘッド90は、図2(a)に示したように、被覆電線73を通過させる発泡層クロスヘッド心金91と、発泡層クロスヘッド心金91の周囲を覆うように設けられると共に発泡層クロスヘッド心金91との間に発泡絶縁体92を流すための流路93を形成する発泡層クロスヘッド口金94とを有する。
【0026】
発泡層押出機17も内部充実層押出機15と同様に、その内部にスクリューが設けられており、このスクリューを回転させることにより、材料投入口18及びガス注入装置19から投入された材料及び注入されたガスを混練・溶融させると共に発泡層クロスヘッド90に発泡絶縁体92を押し出すようになっている。
【0027】
外部充実層形成機構13は、発泡層クロスヘッド90に外部充実層用材料を押し出すための外部充実層押出機20と、外部充実層押出機20に材料を投入するための材料投入口21とを有する。
【0028】
外部充実層押出機20は、発泡層形成機構12の発泡層クロスヘッド90に接続されており、発泡層クロスヘッド90によって発泡層74の外周に外部充実層用材料を押出被覆して外部充実層75を形成するようになっている。つまり、図示していないが発泡層クロスヘッド90は、外部充実層用材料を流すための流路を有しており、外部充実層クロスヘッドも兼ねている。
【0029】
外部充実層押出機20も内部充実層押出機15と同様に、その内部にスクリューが設けられており、このスクリューを回転させることにより、材料投入口21から投入された材料を混練・溶融させると共に発泡層クロスヘッド90に外部充実層用材料を押し出すようになっている。
【0030】
さて、本発明は、内部導体71の外周に内部充実層72が形成された被覆電線73を、発泡層クロスヘッド心金91を有する発泡層クロスヘッド90に送り、発泡層クロスヘッド90で被覆電線73の外周に発泡絶縁体92を押出被覆して発泡層74を形成する発泡絶縁体押出方法において、被覆電線73の外周に発泡絶縁体92を押出被覆する際、図2(a)に示すように、被覆電線73の径Aと発泡層クロスヘッド心金91の径Bを同じくなるように押し出し、発泡層クロスヘッド心金91の内周部に内部充実層72の材料である内部充実層用材料95を滞留させ、内部導体71を発泡層クロスヘッド心金91の中心に固定することを特徴とする。
【0031】
このために、押出被覆装置10では、発泡層クロスヘッド心金91を内部充実層用材料95の融点以上に加熱しておき、被覆電線73が発泡層クロスヘッド心金91を通過する際に内部充実層72の表面を融かし、融けた内部充実層用材料95を滞留させるようにしている。
【0032】
更に、発泡層クロスヘッド心金91における内部充実層用材料95の滞留量の増減を、内部充実層クロスヘッド14に内部充実層用材料95を押し出すための内部充実層押出機15のスクリュー回転数にフィードバックさせるようにしている。この発泡層クロスヘッド心金91における内部充実層用材料95の滞留量の増減は、発泡層クロスヘッド90に設けた非接触の変位センサ22でモニタする。
【0033】
このように構成した押出被覆装置10を用いて発泡絶縁体押出方法を実施するには、先ず、材料投入口16から内部充実層押出機15に材料を投入し、内部充実層押出機15にて材料を混練・溶融させて内部充実層用材料95を形成する。そして、内部導体71を内部充実層クロスヘッド14に送り、内部充実層クロスヘッド14で内部導体71の外周に内部充実層用材料95を押出被覆して内部充実層72を形成し、内部導体71の外周に内部充実層72が形成された被覆電線73を得る。
【0034】
続いて、材料投入口18から発泡層押出機17に材料を投入すると共にガス注入装置19から発泡のためのガスを注入し、発泡層押出機17にて材料とガスを混練・溶融させて発泡絶縁体92を形成する。他方、材料投入口21から外部充実層押出機20に材料を投入し、外部充実層押出機20にて材料を混練・溶融させて外部充実層用材料を形成する。そして、被覆電線73を内部充実層クロスヘッド14から発泡層クロスヘッド90に送り、発泡層クロスヘッド90で被覆電線73の外周に発泡絶縁体92を押出被覆して発泡層74を形成し、更に、発泡層74の外周に外部充実層用材料を押出被覆して外部充実層75を形成して、発泡絶縁電線80を得る。
【0035】
このとき、従来は被覆電線73の径Aと発泡層クロスヘッド心金91の径Bにはギャップが存在し、内部導体71が発泡層クロスヘッド心金91の中心に対して偏芯していたが、本発明を適用した押出被覆装置10では、被覆電線73の径Aと発泡層クロスヘッド心金91の径Bの径を同じくなるように押し出し、発泡層クロスヘッド心金91の熱によって内部充実層72の表面を融かし易くして、発泡層クロスヘッド心金91の内周部に、この融けた内部充実層用材料95を滞留させ、内部導体71を発泡層クロスヘッド心金91の中心に対して固定し、偏芯量を抑えることができる。
【0036】
また、押出被覆装置10では、変位センサ22で内部充実層用材料95の滞留量の増減をモニタし、内部充実層押出機15のスクリュー回転数にフィードバックさせて、内部充実層用材料95の滞留量を一定にし、内部充実層72の厚みを調整して、融けてできる内部充実層用材料95の量(滞留量)を調整している。これによって、ケーブル長手方向での内部導体71の偏芯量のバラツキを小さくすることができ、VSWRの増大を抑制することが可能になる。
【0037】
なお、本実施の形態においては、発泡層クロスヘッド心金91を内部充実層用材料95の融点以上に加熱しておき、被覆電線73が発泡層クロスヘッド心金91を通過する際に内部充実層72の表面を融かし、融けた内部充実層用材料95を滞留させるようにしたが、内部充実層用材料95を滞留させるための手段は特に限定されない。
【0038】
例えば、図2(b)に示すように、発泡層クロスヘッド90の発泡層クロスヘッド心金91に内部充実層用材料95を供給するための流路23を形成し、滞留させる内部充実層用材料95を別途供給するようにしても良い。
【0039】
また、本発明は、発泡絶縁体押出方法への適用に限られず、内部導体の外周に内部層が形成された被覆電線を、クロスヘッド心金を有するクロスヘッドに送り、クロスヘッドで被覆電線の外周に外部層用材料を押出被覆して外部層を形成する押出方法の全般に適用することが可能である。
【実施例】
【0040】
本発明の効果を実証すべく、内部導体径9.0mmΦ、発泡層径23.0mmΦの同軸ケーブルを作製し、本発明の適用前後で内部導体の偏芯量とVSWRを調査した。その結果を図3〜6に示す。
【0041】
図3,4において、横軸は時間変化(1目盛りおよそ230s)を示し、縦軸は偏芯量(mm)を示す。また、図5,6において、横軸は周波数(測定周波数領域800〜2200MHz)を示し、縦軸はVSWR(原点1、1目盛り0.1)を示す。
【0042】
図3,4から分かるように、発泡層クロスヘッド心金91の内周部における内部充実層用材料の滞留量を常に一定にすることにより、偏芯の変動を従来比で約20%抑えることができた。
【0043】
また、図5,6から分かるように、内部導体の偏芯を抑制することで、ケーブル長手方向の均一性の指標であるVSWRの値を従来比で約50%抑えることができた。
【0044】
以上のことから、本発明を適用することで、内部導体が発泡層クロスヘッド心金の中心に対して偏芯することを防止することが可能となり、VSWRを向上できることが実証された。
【符号の説明】
【0045】
10 押出被覆装置
11 内部充実層形成機構
12 発泡層形成機構
13 外部充実層形成機構
14 内部充実層クロスヘッド
15 内部充実層押出機
16 材料投入口
17 発泡層押出機
18 材料投入口
19 ガス注入装置
20 外部充実層押出機
21 材料投入口
22 変位センサ
23 流路
70 同軸ケーブル
71 内部導体
72 内部充実層
73 被覆電線
74 発泡層
75 外部充実層
76 外部導体
77 外皮
78 発泡絶縁電線
90 発泡層クロスヘッド
91 発泡層クロスヘッド心金
92 発泡絶縁体
93 流路
94 発泡層クロスヘッド口金
95 内部充実層用材料
A 被覆電線の径
B 発泡層クロスヘッド心金の径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体の外周に内部層が形成された被覆電線を、クロスヘッド心金を有するクロスヘッドに送り、前記クロスヘッドで前記被覆電線の外周に外部層用材料を押出被覆して外部層を形成する押出方法において、
前記被覆電線の外周に前記外部層用材料を押出被覆する際、前記被覆電線の径と前記クロスヘッド心金の径を同じくなるように押し出し、前記クロスヘッド心金の内周部に前記内部層の材料である内部層用材料を滞留させ、前記内部導体を前記クロスヘッド心金の中心に固定することを特徴とする押出方法。
【請求項2】
内部導体の外周に内部充実層が形成された被覆電線を、発泡層クロスヘッド心金を有する発泡層クロスヘッドに送り、前記発泡層クロスヘッドで前記被覆電線の外周に発泡絶縁体を押出被覆して発泡層を形成する発泡絶縁体押出方法において、
前記被覆電線の外周に前記発泡絶縁体を押出被覆する際、前記被覆電線の径と前記発泡層クロスヘッド心金の径を同じくなるように押し出し、前記発泡層クロスヘッド心金の内周部に前記内部充実層の材料である内部充実層用材料を滞留させ、前記内部導体を前記発泡層クロスヘッド心金の中心に固定することを特徴とする発泡絶縁体押出方法。
【請求項3】
前記発泡層クロスヘッド心金を内部充実層用材料の融点以上に加熱しておき、前記被覆電線が前記発泡層クロスヘッド心金を通過する際に前記内部充実層の表面を融かし、融けた内部充実層用材料を滞留させる請求項2に記載の発泡絶縁体押出方法。
【請求項4】
滞留させる内部充実層用材料を別途供給する請求項2に記載の発泡絶縁体押出方法。
【請求項5】
前記発泡層クロスヘッドの前段に前記内部導体の外周に内部充実層用材料を押出被覆して前記内部充実層を形成するための内部充実層クロスヘッドを設け、前記発泡層クロスヘッド心金における内部充実層用材料の滞留量の増減を、前記内部充実層クロスヘッドに内部充実層用材料を押し出すための内部充実層押出機のスクリュー回転数にフィードバックさせる請求項2又は3に記載の発泡絶縁体押出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−190606(P2012−190606A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51679(P2011−51679)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】