振動抑制装置
【課題】ケーブルに付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、構造物の振動中に回転マスの回転慣性効果を適切に得られ、それにより、構造物の振動を抑制することができる振動抑制装置を提供する。
【解決手段】振動抑制装置では、構造物5に連結されたケーブル31,31に、テンションがあらかじめ付与されており、構造物5の振動により発生し、ケーブル31,31を介して伝達された構造物5の変位が、変換機構によって回転体の回転運動に変換される。また、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用するときには、伝達機構によって、回転体から回転マスへの回転力の伝達が許容され、回転マスからの反力がケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用するときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達が遮断される。
【解決手段】振動抑制装置では、構造物5に連結されたケーブル31,31に、テンションがあらかじめ付与されており、構造物5の振動により発生し、ケーブル31,31を介して伝達された構造物5の変位が、変換機構によって回転体の回転運動に変換される。また、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用するときには、伝達機構によって、回転体から回転マスへの回転力の伝達が許容され、回転マスからの反力がケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用するときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達が遮断される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を抑制するための振動抑制装置に関し、特に、構造物の振動の抑制を回転マスを用いて行う振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の振動抑制装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、梁の振動を抑制するためのものであり、マスダンパと、このマスダンパに梁の振動を伝達するための斜材と、この斜材にテンションを付与する付加ばねを備えている。斜材は、鋼線で構成され、梁の長さ方向の全体に延びており、その一端部および他端部が、梁の一端部および他端部にそれぞれ固定されている。また、マスダンパおよび付加ばねの双方は、梁と斜材の間に並列に設けられている。この付加ばねにより、斜材が下方に付勢されることによって、斜材には、テンションがあらかじめ付与(プレテンション)されている。さらに、マスダンパは、ボールねじ、回転マスおよび粘性体を有する一般的なタイプのものである。
【0003】
以上の構成の従来の振動抑制装置では、地震などで梁が振動すると、梁の振動が、斜材を介してマスダンパに伝達されるとともに、回転マスの回転運動に増幅変換される。それに伴い、回転マスの回転慣性効果と粘性体の粘性減衰効果が得られることによって、梁の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−38318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の振動抑制装置では、マスダンパが梁と斜材の間に設けられており、梁の振動をマスダンパに伝達するための斜材は、鋼線で構成されるとともに、付加ばねにより下方に付勢されることで、プレテンションを付与されている。このため、梁が振動により下方に撓んだときには、マスダンパが圧縮され、それに伴って発生したマスダンパによる反力が、斜材のテンションを増大させる方向に作用する。したがって、この場合には、斜材の剛性が発揮される結果、梁の振動をマスダンパに伝達することが可能である。
【0006】
一方、梁が振動により上方に撓んだときには、マスダンパが伸張され、それに伴って発生したマスダンパによる反力が、斜材のテンションを低減する方向に作用する。一般に、マスダンパは、相対変位を回転マスの回転運動に増幅変換するという構成上、その反力が比較的大きいという特性を有する。以上から、梁が上方に撓むのに伴って発生したマスダンパの反力が、付加ばねの付勢力よりも大きい場合には、斜材が、梁に追従するように上方に移動し、緩む。したがって、この場合には、斜材の剛性が発揮されなくなる結果、梁の振動をマスダンパに伝達することができなくなってしまう。
【0007】
また、その後、梁が振動により下方に撓んでも、上記のように斜材がそれまで緩んでいたために、斜材がすぐにはテンション状態に復帰せず、斜材の剛性が発揮されない結果、梁の振動をマスダンパに伝達することができなくなってしまう。以上から、この従来の振動抑制装置では、梁が振動により上下に繰り返し撓んだときに、梁の振動をマスダンパに適切に伝達できないことにより、マスダンパによる制振効果が得られないことによって、梁の振動を抑制することができないおそれがある。
【0008】
また、このような不具合を防止すべく、梁の振動中に斜材をテンション状態に保持するために、付加ばねとして、マスダンパの反力よりも付勢力が大きな、剛性の高いものを用いることが、考えられる。しかし、その場合には、過大なプレテンションが斜材に常に作用する結果、梁の長期軸力(プレストレス)が過大になってしまう。また、この場合、斜材に対して、付加ばねおよびマスダンパが互いに並列に設けられていることと、付加ばねの剛性が高すぎることによって、マスダンパの回転マスの回転慣性効果が抑制される結果、マスダンパによる制振効果を適切に得られなくなってしまう問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ケーブルに付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、構造物の振動中に回転マスの回転慣性効果を適切に得ることができ、それにより、構造物の振動を抑制することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動を抑制するための振動抑制装置であって、テンションがあらかじめ付与されるとともに、構造物に連結されたケーブルと、回転体を有するとともに、ケーブルに接続され、構造物の振動により発生し、ケーブルを介して伝達された構造物の変位を、回転体の回転運動に変換する変換機構と、回転可能な回転マスと、回転体および回転マスに連結され、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブルのテンションを増大させる方向に作用するときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達を許容し、回転マスからの反力がケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達を遮断する伝達機構と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、構造物に連結されたケーブルに、テンションがあらかじめ付与(プレテンション)されており、このケーブルに、変換機構が接続されている。この変換機構には、構造物の振動によって発生した構造物の変位が、ケーブルを介して伝達され、変換機構は、伝達された構造物の変位を、回転体の回転運動に変換する。また、伝達機構が、回転体および回転マスに連結されており、この伝達機構によって、回転体の回転力が回転マスに伝達される。
【0012】
具体的には、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブルのテンションを増大させる方向に作用するとき、すなわち、ケーブルの剛性が確実に発揮されるときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達が、伝達機構によって許容される。これにより、構造物の振動によって発生し、変換機構に伝達された構造物の変位が、回転マスの回転運動に変換され、回転マスが回転する。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量(等価質量)が実際の質量(実質量)に対して増幅されることによって、構造物の振動が抑制される。
【0013】
また、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブルのテンションを低減させる方向に作用する場合において、回転マスからの反力がケーブルのプレテンションよりも大きいときには、前述した従来の場合と同様、ケーブルが緩み、その剛性が発揮されなくなる可能性がある。上述した構成によれば、そのような場合に、回転体から回転マスへの回転力の伝達を伝達機構によって遮断するので、回転マスからの反力がケーブルに作用しないため、ケーブルが上記のように緩むことがない。
【0014】
したがって、ケーブルに付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、構造物の振動中、常に、ケーブルをテンション状態に保持できるので、構造物の変位を、ケーブルを介して変換機構に適切に伝達し、回転マスの回転運動に適切に変換することができる。したがって、上述した回転マスの回転慣性効果を適切に得ることができ、それにより、構造物の振動を抑制することができる。同じ理由により、ケーブルに付与されるプレテンションを比較的小さくすることができるので、構造物のプレストレスを抑えることができる。それに加え、前述した従来のように、付加ばねによりケーブルにテンションを付与するとともに、この付加ばねおよび変換機構をケーブルに並列に設けるという構成を採用した場合に、付加ばねの付勢力を小さくし、その剛性を低くすることができるので、付加ばねの影響により回転マスの回転慣性効果が抑制されるのを防止することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、振動抑制装置は、ケーブル、変換機構、回転マスおよび伝達機構をそれぞれ備える一対の振動抑制装置で構成されており、構造物の振動中、一対の振動抑制装置の一方の回転マスからの反力が一方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、一対の振動抑制装置の他方の回転マスからの反力が他方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するとともに、他方の回転マスからの反力が他方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、一方の回転マスからの反力が一方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、振動抑制装置は、請求項1の説明で述べたケーブル、変換機構、回転マスおよび伝達機構をそれぞれ備える一対の振動抑制装置で構成されている。また、構造物の振動中、一対の振動抑制装置の一方の回転マスからの反力が当該一方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用することによって、当該一方の回転体から当該一方の回転マスへの回転力の伝達が遮断されるときには、一対の振動抑制装置の他方の回転マスからの反力が当該他方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用し、それにより、当該他方の回転体から当該他方の回転マスへの回転力の伝達が許容される。
【0017】
逆に、当該他方の回転マスからの反力が当該他方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用することによって、当該他方の回転体から当該他方の回転マスへの回転力の伝達が遮断されるときには、当該一方の回転マスからの反力が当該一方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用することによって、当該一方の回転体から当該一方の回転マスへの回転力の伝達が許容される。以上により、当該一方の回転マスの回転慣性効果が得られないときに当該他方の回転マスの回転慣性効果を、当該他方の回転マスの回転慣性効果が得られないときに当該一方の回転マスの回転慣性効果を、それぞれ得ることができるので、構造物の振動を迅速かつ十分に抑制することができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の振動抑制装置において、変換機構は、ケーブルに接続されたねじ軸を有し、ねじ軸は、ケーブルを介して構造物の変位が伝達されるのに伴って、ねじ軸の軸線方向に往復移動するように構成されており、回転体は、ねじ軸にボールを介して螺合し、ねじ軸の軸線方向への往復移動を回転運動に変換するナットで構成されており、変換機構は、ねじ軸の軸線方向への往復移動を、ねじ軸が回転しないように案内するガイドをさらに有することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ケーブルに、変換機構のねじ軸が接続されており、このねじ軸は、構造物の振動により発生した変位がケーブルを介して伝達されるのに伴って、その軸線方向に往復移動するように構成されている。また、回転体は、ねじ軸にボールを介して螺合するナットで構成されており、ねじ軸の軸線方向への往復移動を回転運動に変換する。
【0020】
このように、変換機構は、いわゆるボールねじで構成されているため、上記のようにねじ軸の往復移動がナットの回転運動に変換される際、ナットからねじ軸に反力トルクが作用し、それにより、ねじ軸が回転し、ひいては、ねじ軸に接続されたケーブルが捻れる可能性がある。上述した構成によれば、ガイドによって、ねじ軸の軸線方向への往復移動を、ねじ軸が回転しないように案内するので、上記のようなケーブルの捻れを防止でき、したがって、構造物の振動による変位を、回転マスの回転運動に無駄なく変換することができる。
【0021】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の振動抑制装置において、伝達機構がワンウェイクラッチで構成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項3の説明で述べたように、変換機構に伝達された構造物の変位が、ねじ軸の往復移動に変換された後、ナットの回転運動に変換される。このため、この往復移動によりねじ軸がナットに対して進入したとき、および退避したときのナットの回転方向は、互いに反対方向になる。
【0023】
上述した構成によれば、一定方向にだけ動力を伝達するワンウェイクラッチを伝達機構として用いるので、ねじ軸がナットに対して進入(または退避)しているときに、ナットから回転マスへの回転力の伝達を許容し、これとは逆に、退避(または進入)しているときに、回転マスへの回転力の伝達を遮断することができる。これにより、請求項1の説明で述べた作用、すなわち、回転マスからの反力がケーブルのテンションを増大させる方向に作用するときにのみ、回転体から回転マスへの回転力の伝達を許容するという作用を、実現することができる。
【0024】
また、伝達機構として、一般的なワンウェイクラッチを用いるので、特別な機構を用意することなく、振動抑制装置を容易かつ安価に構成することができる。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の振動抑制装置において、回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、回転マスの回転慣性効果に加え、減衰要素の減衰効果が得られる。また、構造物の振動中、構造物の変位の伝達により回転した回転マスを、慣性によって回転させたままにせずに、その回転を減衰要素によって減衰するので、変換機構に繰り返し伝達される構造物の変位に応じて、回転マスの回転慣性効果を適切に得ることができる。以上により、構造物の振動をさらに適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態による振動抑制装置のうちの第1振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図2】図1に示す第1振動抑制装置などの拡大図である。
【図3】本発明の第1実施形態による振動抑制装置のうちの第2振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図4】図3に示す第2振動抑制装置などの拡大図である。
【図5】図1〜図4に示すマスダンパの斜視図である。
【図6】図5に示すマスダンパの特性を説明するための図である。
【図7】図5に示すマスダンパの特性を説明するための別の図である。
【図8】図5に示すマスダンパを構造物に適用した場合における振動数比と変位応答倍率の関係を示す図である。
【図9】図1に示す第1振動抑制装置のモデルを、(a)マスダンパの圧縮中について、(b)マスダンパの伸張中について、それぞれ示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図11】本発明の第3実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。本発明の第1実施形態による振動抑制装置は、図1および図3にそれぞれ示す第1振動抑制装置1および第2振動抑制装置2から成る一対の振動抑制装置で構成されており、地震などにより発生した橋梁5の振動を抑制するためのものである。この橋梁5は、H形鋼で構成され、複数の橋脚6,6,…(2つのみ図示)に支持されており、水平に延びている。また、これらの第1振動抑制装置1は橋梁5の一方の側面に、第2振動抑制装置2は橋梁5の他方の側面に、それぞれ設けられている。
【0029】
図1および図2に示すように、第1振動抑制装置1は、マスダンパ11と、地震などにより発生した橋梁5の変位(振動)をマスダンパ11に伝達するための一対のケーブル31,31を備えている。これらのケーブル31,31は、例えば鋼線で構成され、それぞれの一端部が連結部32に接続されることによって互いに連結されており、橋梁5の長さ方向において、この連結部32を中心として対称に設けられている。また、一方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6の一方に支持される部位の上部に、固定されており、他方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、他方の橋脚6に支持される部位の上部に、固定されている。
【0030】
図5に示すように、マスダンパ11は、外筒12、ボールねじ13、ガイド17、回転マス18、ワンウェイクラッチ19、および粘性体20を有しており、圧縮されたときにのみ、振動抑制効果が得られる片効きのものとして構成されている。
【0031】
このボールねじ13は、ねじ軸14と、ねじ軸14に多数のボール15を介して螺合するナット16で構成されており、上記の外筒12に同心状に設けられている。なお、図5では、便宜上、ボール15などの複数の部品の符号を一部、省略している。このねじ軸14には、ボール15が係合するねじ溝14aと、軸線方向に延びるスプライン溝14bが形成されており、このスプライン溝14bの幅は、ねじ溝14aの幅よりも大きな値に設定されている。また、上記のナット16は、外筒12に収容されるとともに、一対の第1ラジアル軸受けRB1,RB1およびスラスト軸受けTB,TBにより、外筒12に対して回転自在に且つ軸線方向に移動不能に支持されており、外筒12における軸線方向の一端部に位置している。さらに、ねじ軸14は、その一部が外筒12から外方に突出しており、外筒12に対して軸線方向に所定の距離、往復移動可能である。
【0032】
以上の構成のボールねじ13では、外力によりねじ軸14が軸線方向に往復移動すると、それに伴って、ナット16が、その軸線を中心として回転する。すなわち、ねじ軸14の往復移動が、ナット16の回転運動に変換される。
【0033】
また、前記ガイド17は、ガイド孔17aを有する円筒状のものであり、外筒12のねじ軸14側の端部に、同心状に固定されている。このガイド孔17aには、ねじ軸14が挿入されている。さらに、ガイド17の内周面には、複数のボール17bが設けられている。各ボール17bは、その径がねじ軸14のねじ溝14aの幅よりも大きく、かつ、スプライン溝14bの幅よりも若干小さな値に設定されている。また、ボール17bは、その半部がガイド17の内周面に形成された半球状の溝17cに係合するとともに、残りの半部がスプライン溝14bに係合しており、これらの溝17c,14b内で転動自在である。
【0034】
以上の構成のガイド17およびねじ軸14では、ねじ軸14がナット16に対して軸線方向に往復移動すると、ボール17bは、ガイド17に対して周方向に移動することなく、スプライン溝14b上を転動し、それにより、ねじ軸14の往復移動が支障なく行われる。また、ボールねじ13では、その構成上、ナット16に対するねじ軸14の往復移動に伴って、ナット16からねじ軸14に反力トルクが作用する。これに対し、ボール17bが、外筒12に固定されたガイド17の半球状の溝17cと、ねじ軸14の軸線方向に伸びるスプライン溝14bとに係合しているため、そのような反力トルクがねじ軸14に作用しても、外筒12に対するねじ軸14の回転が阻止される。このように、ねじ軸14の往復移動が、ガイド17によって、ねじ軸14を回転させないように案内される。
【0035】
また、前記回転マス18は、比重が大きな材料、例えば鉄で構成されており、円筒状に形成されている。さらに、回転マス18は、外筒12内における、ボールねじ13のナット16とは逆側の部位に収容されており、ナット16と同軸状に配置されている。また、回転マス18には、前記ワンウェイクラッチ19の後述する第2回転体19bが、同軸状に固定されている。回転マス18および第2回転体19bは、一対の第2ラジアル軸受けRB2,RB2により、外筒12に対して回転自在に支持されており、一体に回転自在である。
【0036】
また、ワンウェイクラッチ19は、一般的なラチェットタイプのものであり、第1回転体19aおよび第2回転体19bを有している。この第1回転体19aは、ナット16に同軸状に固定されており、ナット16と一体に回転自在である。また、この第2回転体19bには、爪(図示せず)が設けられている。
【0037】
以上の構成のワンウェイクラッチ19では、回転マス18の停止中、ねじ軸14が外筒12に進入する方向に移動するのに伴い、ナット16および第1回転体19aに、図5に示す矢印の方向に回転させるトルクが作用したときには、爪が第1回転体19aに係合し、それにより、第1回転体19aと第2回転体19bの間が接続される結果、第1および第2回転体19a,19bが一体に回転する。これにより、この場合には、ナット16からワンウェイクラッチ19を介して、回転力が回転マス18に伝達される。
【0038】
一方、ねじ軸14が外筒12から突出する方向に移動するのに伴って、図5に示す矢印と反対方向のトルクがナット16および第1回転体19aに作用したときには、爪が第1回転体19aに係合せず、それにより、第1回転体19aと第2回転体19bの間が遮断される結果、第1回転体19aから第2回転体19bにトルクが伝達されない。これにより、この場合には、ナット16からの回転力が、ワンウェイクラッチ19を介して回転マス18に伝達されず、ナット16および第1回転体19aが空回りする。
【0039】
また、前記粘性体20は、シリコンオイルなどから成り、外筒12と回転マス18の間に充填されている。外筒12には、この粘性体20の漏れを防止するためのパッキン(図示せず)が設けられている。
【0040】
次に、図6および図7を参照しながら、以上の構成のマスダンパ11の特性について説明する。図6(a)は、外筒12およびねじ軸14に作用する粘性体20の減衰力(以下「粘性体減衰力」という)DFが値0であると仮定した場合における、マスダンパ11に入力される節点間変位Disと、外筒12およびねじ軸14に作用する回転マス18の回転慣性力(以下「回転マス慣性力」という)IFの関係を示している。また、図6(b)は、回転マス慣性力IFが値0であると仮定した場合における、節点間変位Disと粘性体減衰力DFの関係を示している。さらに、図6(c)は、節点間変位Disと、マスダンパ11の反力(以下「マスダンパ反力」という)RFの関係を示している。また、図7は、節点間変位Dis、節点間速度Velおよび節点間加速度Accの推移を示している。なお、これらの図6および図7は、節点間変位Disとして定常波を入力した場合における各種のパラメータについて示している。
【0041】
また、図6(a)〜(c)において、点aは、ねじ軸14が外筒12から最も突出した突出位置から、外筒12に向かって移動し始めたとき、すなわちマスダンパ11が伸びきった状態から縮み始めたときの関係を表しており、点cは、ねじ軸14が外筒12に最も進入した進入位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が縮みきったときの関係を表している。また、点bは、ねじ軸14が上記の突出位置から進入位置に移動する際に、これらの突出位置と進入位置の間の中央の中立位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が圧縮中立状態になったときの関係を表しており、点dは、ねじ軸14が進入位置から中立位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が伸張中立状態になったときの関係を表している。さらに、点eは、ねじ軸14が突出位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が伸びきったときの関係を表している。
【0042】
さらに、図7において、時点taは、マスダンパ11が伸びきった状態から縮み始めたタイミングに相当するとともに、時点tbは、マスダンパ11が上記の圧縮中立状態になったタイミングに相当する。また、時点tcは、マスダンパ11が縮みきったタイミングに相当するとともに、時点tdは、マスダンパ11が上記の伸張中立状態になったタイミングに相当する。さらに、時点teは、マスダンパ11が伸びきったタイミングに相当する。以上のように、図7の時点ta、tb、tc、tdおよびteは、図6の点a、点b、点c、点dおよび点eにそれぞれ対応している。また、図6の点aから点bおよび点cまでの軌跡は、マスダンパ11が圧縮されているときの関係を表しており、点cから点dおよび点eまでの軌跡は、マスダンパ11が伸張されているときの関係を表している。同様に、図7の時点taから時点tcまでの間は、マスダンパ11の圧縮中における各種のパラメータの推移を表しており、時点tcから時点teまでの間は、マスダンパ11の伸張中における各種のパラメータの推移を表している。
【0043】
図7に示すように、マスダンパ11に入力される節点間変位Dis、節点間速度Velおよび節点間加速度Accは、正弦波状に変化し、節点間変位Disおよび節点間速度Velは、位相が互いに90度ずれており、節点間変位Disおよび節点間加速度Accは、位相が互いに180度ずれている。また、節点間変位Disは、時点taおよびteにおいて負の最大値−DMになっており、時点tbおよびtdにおいて値0に、時点tcにおいて正の最大値+DMに、それぞれなっている。さらに、節点間速度Velは、時点ta,tcおよびteにおいて値0になっており、時点tbにおいて正の最大値に、時点tdにおいて負の最大値に、それぞれなっている。また、節点間加速度Accは、時点taおよびteにおいて正の最大値になっており、時点tbおよびtdにおいて値0に、時点tcにおいて負の最大値に、それぞれなっている。
【0044】
前述したように、ナット16から回転マス18への回転力の伝達が、ワンウェイクラッチ19を介して行われる。また、基本的には、ねじ軸14が外筒12に向かって移動したとき、すなわちマスダンパ11の圧縮中には、ナット16から回転マス18に回転力が伝達される一方、マスダンパ11の伸張中には、ナット16から回転マス18に回転力が伝達されない。さらに、回転マス慣性力IFは、節点間加速度Accに依存し、節点間加速度Accが高いほど、より大きくなる。
【0045】
以上から、回転マス慣性力IFは、粘性体減衰力DFが値0であると仮定した場合には、節点間変位Disに応じて、図6(a)に示すように変化する。すなわち、節点間変位Disが負の最大値−DMになった状態(マスダンパ11が伸びきった状態)からマスダンパ11が縮み始めたとき(時点ta)には、節点間加速度Accが図7に示すように最大になることによって、回転マス慣性力IFは、図6(a)に点aで示すように最大になる。また、負値である節点間変位Disの絶対値が小さくなるほど、すなわちマスダンパ11が縮むほど、節点間加速度Accが低下することによって、回転マス慣性力IFは小さくなる。
【0046】
そして、節点間変位Disが値0になったとき(時点tb)、すなわちマスダンパ11が圧縮中立状態になったときに、節点間加速度Accが値0になることによって、回転マス慣性力IFは値0になる(点b)。また、その後のマスダンパ11の圧縮中(〜時点tc)には、回転マス18の回転数がナット16の回転数を超えるため、ワンウェイクラッチ19によってナット16と回転マス18の間が遮断される結果、回転マス慣性力IFは値0になる(〜点c)。さらに、マスダンパ11の伸張中(〜時点td〜時点te)には、ワンウェイクラッチ19によるナット16と回転マス18の間の遮断によって、ナット16から回転マス18に回転力が伝達されないので、その後、節点間変位Disが再度、負の最大値−DMになるまでの間、すなわちマスダンパ11が縮み始める直前までの間(〜点d〜点e)は、回転マス慣性力IFは値に0になる。
【0047】
また、粘性体減衰力DFは、節点間速度Velに依存し、節点間速度Velが高いほど、より大きくなる。このことと、ナット16と回転マス18の間の回転力の伝達が前述したように行われることから、粘性体減衰力DFは、回転マス慣性力IFが値0であると仮定した場合には、節点間変位Disに応じて、図6(b)に示すように変化する。すなわち、節点間変位Disが負の最大値−DMになった状態からマスダンパ11が縮み始めたとき(時点ta)には、節点間速度Velが図7に示すように値0になることによって、粘性体減衰力DFは、図6(b)に点aで示すように値0になる。そして、負値である節点間変位Disの絶対値が小さくなるほど、すなわちマスダンパ11が縮むほど、節点間速度Velが上昇することによって、粘性体減衰力DFは、より大きくなり、節点間変位Disが値0になったとき(時点tb)、すなわちマスダンパ11が圧縮中立状態になったときに、最大になる(点b)。
【0048】
また、正値である節点間変位Disがより大きくなるほど、すなわちマスダンパ11がさらに縮むほど、節点間速度Velが低下することによって、粘性体減衰力DFは、より小さくなり、節点間変位Disが正の最大値+DMになったとき(時点tc)、すなわちマスダンパ11が縮みきったときに、値0になる(点c)。さらに、マスダンパ11の伸張中(〜時点td〜時点te)には、ワンウェイクラッチ19によるナット16と回転マス18の間の遮断によって、ナット16から粘性体20にせん断力が作用しないので、その後、節点間変位Disが再度、負の最大値−DMになるまでの間、すなわちマスダンパ11が縮み始める直前までの間(〜点d〜点e)は、粘性体減衰力DFは値0になる。
【0049】
以上から、回転マス慣性力IFおよび粘性体減衰力DFの双方が発生するマスダンパ11によるマスダンパ反力RFは、節点間変位Disに応じて、図6(c)に示すように変化する。すなわち、節点間変位Disが負の最大値−DMになった状態からマスダンパ11が縮み始めたときには、マスダンパ反力RFは、図6(a)に示す回転マス慣性力IFと等しくなる(点a)。また、マスダンパ11の圧縮開始後の初期には、負値である節点間変位Disの絶対値が小さくなるほど(マスダンパ11が縮むほど)、マスダンパ反力RFは、より大きくなる。その後、マスダンパ11がさらに縮むほど、マスダンパ反力RFは、より小さくなり、節点間変位Disが正の最大値+DMになる直前(マスダンパ11が縮みきる直線)で、回転マス18の回転数がナット16の回転数を超えることによって、ナット16と回転マス18の間がワンウェイクラッチ19で遮断される結果、回転マス反力RFは値0になる。その後、節点間変位Disが再度、負の最大値−DMになるまでの間、すなわち、マスダンパ11が伸びきって、再度縮み始める直前までの間(点c〜点d〜点e)は、マスダンパ反力RFは値0になる。
【0050】
以上のように、マスダンパ反力RFは、マスダンパ11の圧縮中にのみ得られ、伸張中には値0になる。すなわち、マスダンパ11は、圧縮中にのみ、振動抑制効果が得られる片効きのものとして構成されている。
【0051】
また、図2に示すように、マスダンパ11の外筒12には、ねじ軸14と反対側の端部に、連結部材21が一体に設けられており、この連結部材21は、取付用のフランジ22に回動自在に連結されている。さらに、ねじ軸14には、ナット16と反対側の端部に、ばね座23が取り付けられている。このばね座23と外筒12の間には、テンションばね24が設けられており、このテンションばね24は、圧縮コイルばねで構成されている。
【0052】
以上の構成のマスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して橋梁5の上端部に取り付けられることによって、橋梁5に固定されるとともに、ばね座23が前述した連結部32に回動自在に取り付けられることによって、ケーブル31,31に接続される。この状態では、マスダンパ11は、伸縮していない中立状態になっており、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6,6の間の中心の部位に位置している。また、ケーブル31,31は、上記のテンションばね24の付勢力がばね座23および連結部32を介して作用することにより、下方に付勢されている。これにより、ケーブル31,31に、テンションがあらかじめ付与(プレテンション)されるとともに、プレストレスが橋梁5に付与されている。
【0053】
以上の構成の第1振動抑制装置1および橋梁5では、図1に二点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により下方に撓むと、橋梁5の撓み、すなわち橋梁5の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。これにより、マスダンパ11が圧縮される結果、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。
【0054】
また、図8(a)は、橋梁5が一次モードの振動により下方に撓んだ場合における第1振動抑制装置1のモデルを示している。同図における符号mi、cd、KT、およびkbは、回転マス18の質量、粘性体20の粘性係数、テンションばね24のばね定数、およびケーブル31,31の剛性をそれぞれ表している。図8(a)から明らかなように、この場合、橋梁5には、回転マス慣性力IFおよび粘性体減衰力DFから成るマスダンパ反力RFおよびテンションばね24による反力から成る合力が、ケーブル31,31による反力と釣り合い、この合力が橋梁5に作用する。したがって、回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31から成る付加振動系の固有振動数を、橋梁5の固有振動数に同調させることによって、振動抑制装置1による振動抑制効果を適切に得ることができる。
【0055】
一方、図1に一点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により上方に撓むと、橋梁5の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、前述したようにマスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により橋梁5に追従して上方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。
【0056】
図8(b)は、橋梁5が一次モードの振動により上方に撓んだ場合における第1振動抑制装置1のモデルを示している。同図から明らかなように、この場合、橋梁5には、回転マス慣性力IFおよび粘性体減衰力DFから成るマスダンパ反力RFは作用せず、テンションばね24およびケーブル31,31による反力のみが作用する。
【0057】
また、第1振動抑制装置1の回転マス18の質量mi、粘性体20の粘性係数cd、テンションばね24のばね定数KT、およびケーブル31,31の剛性kbは、前述した付加振動系(回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31)の固有振動数が橋梁5の一次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0058】
また、図9は、第1振動抑制装置1が適用された橋梁5における振動数比p/ωsと変位応答倍率u/ugの関係を示している。ここで、ωsは橋梁5の固有円振動数であり、pは、橋梁5を支持する地面の加振円振動数である。また、ugは、地面から橋梁5に入力された変位であり、uは、地面からの橋梁5の相対応答変位である。さらに、図9の実線および一点鎖線は、マスダンパ11の圧縮中および伸張中について、それぞれ示している。同図に示すように、マスダンパ11の圧縮中、変位応答倍率u/ugは、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果と、橋梁5に対する付加振動系の固有振動数の同調とによって、比較的小さな値に抑制されており、第1振動抑制装置1による振動抑制効果を適切に得られることが分かる。
【0059】
また、図3および図4に示すように、第2振動抑制装置2は、第1振動抑制装置1と同様、マスダンパ11およびケーブル31,31を備えており、これらのマスダンパ11およびケーブル31,31は、第1振動抑制装置1のマスダンパ11およびケーブル31,31と上下逆向きに橋梁5に取り付けられている点のみが異なっている。具体的には、第2振動抑制装置2のマスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して橋梁5の下端部に取り付けられることによって、橋梁5に固定されている。
【0060】
また、第2振動抑制装置2の一方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6の一方に支持される部位の下部に、固定されており、他方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、他方の橋脚6に支持される部位の下部に、固定されている。さらに、ケーブル31,31は、テンションばね24の付勢力がばね座23および連結部32を介して作用することによって、上方に付勢されている。これにより、ケーブル31,31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが橋梁5に付与されている。
【0061】
以上の構成の第2振動抑制装置2および橋梁5では、図3に一点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により上方に撓むと、それにより、マスダンパ11が圧縮される結果、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第2振動抑制装置2のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0062】
一方、図3に二点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により下方に撓むと、このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第2振動抑制装置2では、第1振動抑制装置1と同様、マスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により橋梁5に追従して下方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。また、この場合における第2振動抑制装置2のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0063】
以上のように、第1および第2振動抑制装置1,2は、一方による振動抑制効果が適切に得られないときには、他方による振動抑制効果を得ることができ、他方による振動抑制効果が適切に得られないときには、一方による振動抑制効果を得ることができる。
【0064】
また、第2振動抑制装置2の回転マス18の質量mi、粘性体20の粘性係数cd、テンションばね24のばね定数KT、およびケーブル31,31の剛性kbは、第1振動抑制装置1と同様、付加振動系(回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31)の固有振動数が橋梁5の一次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0065】
以上のように、第1実施形態によれば、橋梁5の振動によって発生した橋梁5の変位(撓み)が、プレテンションが付与されたケーブル31,31を介して、ボールねじ13に伝達されるとともに、伝達された橋梁5の変位が、ナット16の回転運動に変換される。また、ワンウェイクラッチ19によって、ナット16の回転力が、回転マス18に次のように伝達される。
【0066】
すなわち、橋梁5の振動中、ナット16から回転マス18への回転力の伝達に伴って発生する回転マス慣性力IFを含むマスダンパ反力RFが、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用するときには、ナット16から回転マス18への回転力の伝達が、ワンウェイクラッチ19によって許容される。逆に、ナット16から回転マス18への回転力の伝達に伴って発生するマスダンパ反力RFが、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用するときには、ナット16から回転マス18への回転力の伝達が、ワンウェイクラッチ19によって遮断される。
【0067】
したがって、ケーブル31,31に付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、橋梁5の振動中、常に、ケーブル31,31をテンション状態に保持できるので、橋梁5の変位を、ケーブル31,31を介してボールねじ13に適切に伝達し、回転マス18の回転運動に適切に変換することができる。したがって、回転マス慣性力IF、すなわち回転マス18の回転慣性効果と、粘性体減衰力DF、すなわち粘性体20の粘性減衰効果とを合わせたマスダンパ反力RFによる振動抑制効果を、適切に得ることができ、それに加え、橋梁5に対して付加振動系の固有振動数を同調させることにより、橋梁5の振動を適切に抑制することができる。同じ理由により、ケーブル31,31にプレテンションを付与するテンションばね24の付勢力を比較的小さくすることができるので、橋梁5のプレストレスを抑えることができるとともに、テンションばね24の剛性を低くすることができ、このことによっても、振動抑制装置による振動抑制効果をより適切に得ることができる。
【0068】
また、橋梁5の振動中、第1および第2振動抑制装置1,2の一方のマスダンパ反力RFが、当該一方のケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用することによって、当該一方のナット16から当該一方の回転マス18への回転力の伝達が遮断されるときには、第1および第2振動抑制装置1、2の他方のマスダンパ反力RFが当該他方のケーブル31、31のテンションを増大させる方向に作用し、それにより、当該他方のナット16から当該他方の回転マス18への回転力の伝達が許容される。以上により、第1および第2振動抑制装置1,2のいずれかによる振動抑制効果を常に得ることができるので、橋梁5の振動を迅速かつ十分に抑制することができる。
【0069】
また、ガイド17によって、ねじ軸14の軸線方向への往復移動を、ねじ軸14が回転しないように案内するので、ケーブル31,31の捻れを防止でき、したがって、橋梁5の振動による変位を、回転マス18の回転運動に無駄なく変換することができる。さらに、一般的なワンウェイクラッチ19を用いるので、特別な機構を用意することなく、振動抑制装置を容易かつ安価に構成することができる。
【0070】
また、振動抑制装置では、回転マス18の回転マス慣性力IFに加え、粘性体20の粘性体減衰力DFが得られる。さらに、橋梁5の振動中、橋梁5の変位の伝達により回転した回転マス18を、慣性によって回転させたままにせずに、その回転を粘性体20によって減衰するので、繰り返し伝達される橋梁5の変位に応じて、回転マス慣性力IFを適切に得ることができる。以上により、橋梁5の振動をさらに適切に抑制することができる。
【0071】
また、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6の間の中央の部位に、すなわち、一次モードの振動による橋梁5の変位が最大となる部位(腹)に、マスダンパ11が設けられるとともに、ケーブル31,31が、橋梁5における橋脚6,6に支持される部位、すなわち、一次モードの振動による橋梁5の変位がほぼ値0になる部位(節)に固定されているので、橋梁5の一次モードの振動をさらに適切に抑制することができる。
【0072】
なお、第1実施形態では、振動抑制装置を、橋梁5の一次モードの振動に対応するように構成しているが、二次以上の振動モードの振動に対応するように構成してもよい。この場合、マスダンパ11は、橋梁5における、当該振動モードの振動による変位が最大となる部位(腹)に設けられるとともに、ケーブル31,31は、当該振動モードの振動による変位がほぼ値0となる部位(節)に固定される。あるいは、振動抑制装置を、互いに異なる複数の振動モードの振動に対応させるために、各モードに対応するマスダンパ11およびケーブル31,31を備えるように構成してもよい。また、第1実施形態では、ケーブル31,31にプレテンションを付与するために、テンションばね24を、外筒12とばね座23の間に設けているが、橋梁5と、ばね座23または連結部32との間に設けてもよい。あるいは、このテンションばね24を省略し、各ケーブル31を橋梁5と平行に延びるように設け、ケーブル31を、引張コイルばねを介して橋梁5に取り付けるとともに、これらの引張コイルばねによってプレテンションを付与してもよい。
【0073】
次に、図10を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。同図に示すように、この振動抑制装置は、第1実施形態と異なり、ビルなどの高層の建築物7に適用したものである。図10において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。図10に示す振動抑制装置は、第1振動抑制装置41および第2振動抑制装置42から成る一対の振動抑制装置で構成されており、これらの第1および第2振動抑制装置41,42は、建築物7に左右対称に設けられている。
【0074】
第1振動抑制装置41は、マスダンパ51およびケーブル31を備えている。このマスダンパ51は、第1実施形態のマスダンパ11と同様、外筒51a、ねじ軸51bを有するボールねじ、回転マス、ワンウェイクラッチ、および粘性体などで構成されている。マスダンパ51では、ワンウェイクラッチが機能する回転方向が、第1実施形態のワンウェイクラッチ19と逆方向になっており、それにより、マスダンパ反力RFがその伸張中にのみ得られ、圧縮中には値0になる。それ以外の点については、マスダンパ51の構成は、マスダンパ11と同じであるので、その詳細な説明を省略するものとする。
【0075】
また、上記の外筒51aには、ねじ軸51bと反対側の端部に、連結部材21が一体に設けられており、この連結部材21は、取付用のフランジ22に回動自在に連結されている。マスダンパ51は、フランジ22および取付具33を介して、地面に固定されており、建築物7の左端部に位置している。さらに、ねじ軸51bには、ばね座23が取り付けられており、外筒51aとばね座23の間には、テンションばね25が設けられている。このテンションばね25は、第1実施形態と異なり、圧縮コイルばねではなく、引張コイルばねで構成されている。
【0076】
さらに、ケーブル31の一端部は、建築物7の左端部の上端部に固定されている。ケーブル31の他端部は、取付具34を介してばね座23に回動自在に取り付けられることによって、マスダンパ51に接続されている。ケーブル31は、上記のテンションばね25の付勢力がばね座23および取付具34を介して作用することにより、下方に引っ張られている。これにより、ケーブル31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。また、この状態では、マスダンパ51は中立状態になっている。
【0077】
以上の構成の第1振動抑制装置41および建築物7では、図10に二点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により右方に揺動すると、地面に対する建築物7の変位が、ケーブル31を介してマスダンパ51に伝達される。これにより、マスダンパ51が伸張される結果、前述したように、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第1振動抑制装置41のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0078】
一方、図10に一点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により左方に揺動すると、建築物7の変位が、ケーブル31を介してマスダンパ51に伝達される。このことと、テンションばね25の付勢力が作用していることによって、マスダンパ51が圧縮される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第1振動抑制装置41では、前述したように、マスダンパ51の圧縮中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31は、マスダンパ反力RFの影響により緩むことがなく、テンションばね25によってテンション状態に保持される。この場合における第1振動抑制装置41のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0079】
また、第2振動抑制装置42は、第1振動抑制装置41と同様、マスダンパ51およびケーブル31を備えている。このマスダンパ51は、フランジ22および取付具33を介して、地面に固定されており、建築物7の右端部に位置している。また、ケーブル31の一端部は、建築物7の右端部の上端部に固定されており、ケーブル31の他端部は、取付具34を介してばね座23に回動自在に取り付けられることによって、マスダンパ51に接続されている。ケーブル31は、テンションばね25の付勢力がばね座23および取付具34を介して作用することにより、下方に引っ張られている。これにより、ケーブル31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。また、この状態では、マスダンパ51は中立状態になっている。
【0080】
以上の構成の第2振動抑制装置42および建築物7では、図10に一点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により左方に揺動すると、それにより、マスダンパ51が伸張される結果、第1振動抑制装置41と同様、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第2振動抑制装置42のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0081】
一方、図10に二点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により右方に揺動すると、このことと、テンションばね25の付勢力が作用していることによって、マスダンパ51が圧縮される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第2振動抑制装置42では、第1振動抑制装置41と同様、マスダンパ51の圧縮中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31は、マスダンパ反力RFの影響により緩むことがなく、テンションばね25によってテンション状態に保持される。この場合における第2振動抑制装置42のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0082】
また、第1および第2振動抑制装置41,42の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、テンションばね25のばね定数、およびケーブル31の剛性は、回転マス、粘性体、テンションばね25およびケーブル31から成る付加振動系の固有振動数が建築物7の一次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0083】
以上により、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、ケーブル31に付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、建築物7の振動中、常に、ケーブル31をテンション状態に保持できるので、建築物7の変位を、ケーブル31を介してマスダンパ51のボールねじに適切に伝達し、回転マスの回転運動に適切に変換することができる。したがって、振動抑制装置による振動抑制効果を適切に得ることができ、それに加え、建築物7に対して付加振動系の固有振動数を同調させることにより、建築物7の振動を適切に抑制することができる。また、マスダンパ51が、建築物7を支持する地面に固定されるとともに、ケーブル31の一端部が、建築物7の上端部に、すなわち、一次モードの振動による建築物7の変位が最大となる部位(腹)に固定されているので、建築物7の一次モードの振動をより適切に抑制することができる。その他、建築物7について、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
【0084】
なお、第2実施形態では、マスダンパ51を地面に固定するとともに、建築物にケーブル31を固定しているが、これとは逆に、地面にケーブル31を固定するとともに、マスダンパ51を建築物7に固定してもよい。この場合、ケーブル31は、マスダンパ51を介して建築物7に連結される。また、第2実施形態では、マスダンパ51を、地面に固定しているが、建築物7における、一次モードの振動による変位がほぼ値0となる部位(節)に、すなわち建築物7の下端部に固定してもよい。あるいは、ケーブル31を一対のケーブルで構成し、一対のケーブルの各一端部をマスダンパ51を介して互いに連結するとともに、一対のケーブルの一方の他端部を、建築物7の上端部に固定し、一対のケーブルの他方の他端部を、地面または建築物7の下端部に固定してもよい。
【0085】
さらに、第2実施形態では、振動抑制装置を、建築物7の一次モードの振動に対応するように構成しているが、二次モードの振動に対応するように構成してもよい。図11は、そのように構成された、本発明の第3実施形態による振動抑制装置を示している。同図において、第1および第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1および第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0086】
図11に示すように、振動抑制装置は、第1振動抑制装置61および第2振動抑制装置62から成る一対の振動抑制装置で構成されており、これらの第1および第2振動抑制装置61、62は、建築物7に左右対称に設けられている。第1振動抑制装置61は、第1実施形態と同様、マスダンパ11およびケーブル31,31を備えている。これらのケーブル31,31は、それぞれの一端部が連結部32に接続されることによって互いに連結されており、建築物7の上下方向において、連結部32を中心として対称に設けられている。また、一方のケーブル31の他端部は、建築物7の上端部の左端部に固定されており、他方のケーブル31の他端部は、地面に固定されており、建築物7の左端部に位置している。
【0087】
さらに、マスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して建築物7の左端部に取り付けられることによって、建築物7に固定されるとともに、ばね座23が連結部32に回動自在に取り付けられることによって、ケーブル31,31に接続される。この状態では、マスダンパ11は、中立状態になっており、建築物7における上下方向の中央の部位に位置している。また、ケーブル31,31は、テンションばね24の付勢力によって右方に付勢されており、それにより、ケーブル31,31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。
【0088】
以上の構成の第1振動抑制装置61および建築物7では、図11に二点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により右方に揺動すると、建築物7の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。これにより、マスダンパ11が圧縮される結果、第1実施形態と同様、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第1振動抑制装置61のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0089】
一方、図11に一点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により左方に揺動すると、建築物7の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第1振動抑制装置61では、第1実施形態と同様、マスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により建築物7に追従して左方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。この場合における第1振動抑制装置61のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0090】
また、第2振動抑制装置62は、第1振動抑制装置61と同様、マスダンパ11およびケーブル31,31を備えている。第2振動抑制装置62のケーブル31、31は、第1振動抑制装置61と同様、連結部32を中心として対称に設けられており、一方のケーブル31の他端部は、建築物7の上端部の右端部に固定され、他方のケーブル31の他端部は、地面に固定されてており、建築物7の右端部に位置している。
【0091】
また、マスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して建築物7の右端部に取り付けられることによって、建築物7に固定されるとともに、ばね座23が連結部32に回動自在に取り付けられることによって、ケーブル31,31に接続される。この状態では、マスダンパ11は、中立状態になっており、建築物7における上下方向の中央の部位に位置している。また、ケーブル31,31は、テンションばね24の付勢力によって左方に付勢されており、それにより、ケーブル31,31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。
【0092】
以上の構成の第2振動抑制装置62および建築物7では、図11に一点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により左方に揺動すると、それにより、マスダンパ11が圧縮される結果、第1実施形態と同様、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第2振動抑制装置62のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0093】
一方、図11に二点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により右方に揺動すると、このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第2振動抑制装置62では、第1実施形態と同様、マスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により建築物7に追従して右方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。この場合における第2振動抑制装置62のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0094】
また、第1および第2振動抑制装置61,62の回転マス18の質量、粘性体20の粘性係数、テンションばね24のばね定数、およびケーブル31,31の剛性は、回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31から成る付加振動系の固有振動数が建築物7の二次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0095】
以上により、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様、ケーブル31,31に付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、建築物7の振動中、常に、ケーブル31,31をテンション状態に保持できるので、建築物7の変位を、ケーブル31,31を介してボールねじ13に適切に伝達し、回転マス18の回転運動に適切に変換することができる。したがって、振動抑制装置による振動抑制効果を適切に得ることができ、それに加え、建築物7に対して付加振動系の固有振動数を同調させることにより、建築物7の振動を適切に抑制することができる。また、建築物7における上下方向の中央の部位に、すなわち、二次モードの振動による建築物7の変位が最大となる部位(腹)に、第1および第2振動抑制装置61,62が設けられるとともに、ケーブル31,31が、建築物7の上端部、すなわち、二次モードの振動による建築物7の変位がほぼ値0となる部位(節)と、建築物7を支持する地面とに固定されているので、建築物7の二次モードの振動をさらに適切に抑制することができる。その他、建築物7について、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
【0096】
なお、第3実施形態では、振動抑制装置を、建築物7の二次モードの振動に対応するように構成しているが、三次以上の振動モードの振動に対応するように構成してもよい。この場合、マスダンパ11は、建築物7における、当該振動モードの振動による変位が最大となる部位(腹)に設けられるとともに、ケーブル31,31は、当該振動モードの振動による変位がほぼ値0となる部位(節)に固定される。あるいは、振動抑制装置を、互いに異なる複数の振動モードに対応させるために、各モードに対応するマスダンパ11およびケーブル31,31を備えるように構成してもよい。また、第3実施形態では、ケーブル31,31にプレテンションを付与するために、テンションばね24を、外筒12とばね座23の間に設けているが、建築物7と、ばね座23または連結部32との間に設けてもよい。あるいは、このテンションばね24を省略し、各ケーブル31を建築物7と平行に延びるように設け、ケーブル31および31をそれぞれ、引張コイルばねを介して建築物7および地面に取り付けるとともに、これらの引張コイルばねによってプレテンションを付与してもよい。
【0097】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1〜第3実施形態(以下、総称して「実施形態」という)では、ケーブル31,31は、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。また、実施形態では、本発明における変換機構は、ボールねじ13であるが、ケーブルを介して伝達された構造物の変位を回転運動に変換可能な機構であれば他の適当な機構でもよく、例えば、互いに噛み合うラックおよびピニオンを有するラックアンドピニオン機構でもよい。
【0098】
さらに、実施形態では、本発明における伝達機構は、ラチェットタイプのワンウェイクラッチ19であるが、特許請求の範囲に記載された伝達機構の機能を達成できる機構であれば他の適当な機構でもよく、例えば、スプラグ式や、ローラ式のワンウェイクラッチでもよい。あるいは、伝達機構として、その締結・解放を制御可能なクラッチを用いるとともに、このクラッチの制御により伝達機構の機能を達成するようにしてもよい。また、実施形態では、ねじ軸14にスプライン溝14bを形成するとともに、ガイド17に半球状の溝17cを形成しているが、これとは逆に、ねじ軸14に半球状の溝を形成するとともに、ガイド17にスプライン溝を形成してもよい。
【0099】
さらに、実施形態では、本発明の減衰要素として、粘性体20を用いているが、回転マス18の回転を減衰可能なものであれば他の要素、例えば粘弾性ゴムや、空圧式・磁気式のダンパなどを用いてもよい。また、実施形態では、ねじ軸14をケーブル31に、外筒12を橋梁5、地面または建築物7に、それぞれ固定しているが、これとは逆に、ねじ軸14を橋梁5、地面または建築物7に、外筒12をケーブル31に、それぞれ固定してもよい。この場合、ケーブル31に固定された外筒12に反力トルクが作用することはないので、ガイド17を省略することができる。
【0100】
さらに、実施形態では、振動抑制装置を、一対の第1および第2振動抑制装置1,2、41,42、61,62で構成しているが、両者1,2、41,42、61,62の一方を省略してもよい。また、実施形態では、振動抑制装置を、橋梁5や建築物7に適用した例であるが、他の構造物、例えば建築物の梁や、鉄塔などに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 第1振動抑制装置(振動抑制装置)
2 第2振動抑制装置(振動抑制装置)
5 橋梁(構造物)
7 建築物(構造物)
13 ボールねじ(変換機構)
14 ねじ軸
15 ボール
16 ナット(回転体)
17 ガイド
18 回転マス
19 ワンウェイクラッチ(伝達機構)
20 粘性体(減衰要素)
31 ケーブル
41 第1振動抑制装置(振動抑制装置)
42 第2振動抑制装置(振動抑制装置)
61 第1振動抑制装置(振動抑制装置)
62 第2振動抑制装置(振動抑制装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の振動を抑制するための振動抑制装置に関し、特に、構造物の振動の抑制を回転マスを用いて行う振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の振動抑制装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、梁の振動を抑制するためのものであり、マスダンパと、このマスダンパに梁の振動を伝達するための斜材と、この斜材にテンションを付与する付加ばねを備えている。斜材は、鋼線で構成され、梁の長さ方向の全体に延びており、その一端部および他端部が、梁の一端部および他端部にそれぞれ固定されている。また、マスダンパおよび付加ばねの双方は、梁と斜材の間に並列に設けられている。この付加ばねにより、斜材が下方に付勢されることによって、斜材には、テンションがあらかじめ付与(プレテンション)されている。さらに、マスダンパは、ボールねじ、回転マスおよび粘性体を有する一般的なタイプのものである。
【0003】
以上の構成の従来の振動抑制装置では、地震などで梁が振動すると、梁の振動が、斜材を介してマスダンパに伝達されるとともに、回転マスの回転運動に増幅変換される。それに伴い、回転マスの回転慣性効果と粘性体の粘性減衰効果が得られることによって、梁の振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−38318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、この従来の振動抑制装置では、マスダンパが梁と斜材の間に設けられており、梁の振動をマスダンパに伝達するための斜材は、鋼線で構成されるとともに、付加ばねにより下方に付勢されることで、プレテンションを付与されている。このため、梁が振動により下方に撓んだときには、マスダンパが圧縮され、それに伴って発生したマスダンパによる反力が、斜材のテンションを増大させる方向に作用する。したがって、この場合には、斜材の剛性が発揮される結果、梁の振動をマスダンパに伝達することが可能である。
【0006】
一方、梁が振動により上方に撓んだときには、マスダンパが伸張され、それに伴って発生したマスダンパによる反力が、斜材のテンションを低減する方向に作用する。一般に、マスダンパは、相対変位を回転マスの回転運動に増幅変換するという構成上、その反力が比較的大きいという特性を有する。以上から、梁が上方に撓むのに伴って発生したマスダンパの反力が、付加ばねの付勢力よりも大きい場合には、斜材が、梁に追従するように上方に移動し、緩む。したがって、この場合には、斜材の剛性が発揮されなくなる結果、梁の振動をマスダンパに伝達することができなくなってしまう。
【0007】
また、その後、梁が振動により下方に撓んでも、上記のように斜材がそれまで緩んでいたために、斜材がすぐにはテンション状態に復帰せず、斜材の剛性が発揮されない結果、梁の振動をマスダンパに伝達することができなくなってしまう。以上から、この従来の振動抑制装置では、梁が振動により上下に繰り返し撓んだときに、梁の振動をマスダンパに適切に伝達できないことにより、マスダンパによる制振効果が得られないことによって、梁の振動を抑制することができないおそれがある。
【0008】
また、このような不具合を防止すべく、梁の振動中に斜材をテンション状態に保持するために、付加ばねとして、マスダンパの反力よりも付勢力が大きな、剛性の高いものを用いることが、考えられる。しかし、その場合には、過大なプレテンションが斜材に常に作用する結果、梁の長期軸力(プレストレス)が過大になってしまう。また、この場合、斜材に対して、付加ばねおよびマスダンパが互いに並列に設けられていることと、付加ばねの剛性が高すぎることによって、マスダンパの回転マスの回転慣性効果が抑制される結果、マスダンパによる制振効果を適切に得られなくなってしまう問題がある。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ケーブルに付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、構造物の振動中に回転マスの回転慣性効果を適切に得ることができ、それにより、構造物の振動を抑制することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動を抑制するための振動抑制装置であって、テンションがあらかじめ付与されるとともに、構造物に連結されたケーブルと、回転体を有するとともに、ケーブルに接続され、構造物の振動により発生し、ケーブルを介して伝達された構造物の変位を、回転体の回転運動に変換する変換機構と、回転可能な回転マスと、回転体および回転マスに連結され、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブルのテンションを増大させる方向に作用するときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達を許容し、回転マスからの反力がケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達を遮断する伝達機構と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、構造物に連結されたケーブルに、テンションがあらかじめ付与(プレテンション)されており、このケーブルに、変換機構が接続されている。この変換機構には、構造物の振動によって発生した構造物の変位が、ケーブルを介して伝達され、変換機構は、伝達された構造物の変位を、回転体の回転運動に変換する。また、伝達機構が、回転体および回転マスに連結されており、この伝達機構によって、回転体の回転力が回転マスに伝達される。
【0012】
具体的には、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブルのテンションを増大させる方向に作用するとき、すなわち、ケーブルの剛性が確実に発揮されるときには、回転体から回転マスへの回転力の伝達が、伝達機構によって許容される。これにより、構造物の振動によって発生し、変換機構に伝達された構造物の変位が、回転マスの回転運動に変換され、回転マスが回転する。この回転マスの回転慣性効果により、回転マスの見かけの質量(等価質量)が実際の質量(実質量)に対して増幅されることによって、構造物の振動が抑制される。
【0013】
また、構造物の振動中、回転体から回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する回転マスからの反力が、ケーブルのテンションを低減させる方向に作用する場合において、回転マスからの反力がケーブルのプレテンションよりも大きいときには、前述した従来の場合と同様、ケーブルが緩み、その剛性が発揮されなくなる可能性がある。上述した構成によれば、そのような場合に、回転体から回転マスへの回転力の伝達を伝達機構によって遮断するので、回転マスからの反力がケーブルに作用しないため、ケーブルが上記のように緩むことがない。
【0014】
したがって、ケーブルに付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、構造物の振動中、常に、ケーブルをテンション状態に保持できるので、構造物の変位を、ケーブルを介して変換機構に適切に伝達し、回転マスの回転運動に適切に変換することができる。したがって、上述した回転マスの回転慣性効果を適切に得ることができ、それにより、構造物の振動を抑制することができる。同じ理由により、ケーブルに付与されるプレテンションを比較的小さくすることができるので、構造物のプレストレスを抑えることができる。それに加え、前述した従来のように、付加ばねによりケーブルにテンションを付与するとともに、この付加ばねおよび変換機構をケーブルに並列に設けるという構成を採用した場合に、付加ばねの付勢力を小さくし、その剛性を低くすることができるので、付加ばねの影響により回転マスの回転慣性効果が抑制されるのを防止することができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、振動抑制装置は、ケーブル、変換機構、回転マスおよび伝達機構をそれぞれ備える一対の振動抑制装置で構成されており、構造物の振動中、一対の振動抑制装置の一方の回転マスからの反力が一方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、一対の振動抑制装置の他方の回転マスからの反力が他方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するとともに、他方の回転マスからの反力が他方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、一方の回転マスからの反力が一方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、振動抑制装置は、請求項1の説明で述べたケーブル、変換機構、回転マスおよび伝達機構をそれぞれ備える一対の振動抑制装置で構成されている。また、構造物の振動中、一対の振動抑制装置の一方の回転マスからの反力が当該一方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用することによって、当該一方の回転体から当該一方の回転マスへの回転力の伝達が遮断されるときには、一対の振動抑制装置の他方の回転マスからの反力が当該他方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用し、それにより、当該他方の回転体から当該他方の回転マスへの回転力の伝達が許容される。
【0017】
逆に、当該他方の回転マスからの反力が当該他方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用することによって、当該他方の回転体から当該他方の回転マスへの回転力の伝達が遮断されるときには、当該一方の回転マスからの反力が当該一方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用することによって、当該一方の回転体から当該一方の回転マスへの回転力の伝達が許容される。以上により、当該一方の回転マスの回転慣性効果が得られないときに当該他方の回転マスの回転慣性効果を、当該他方の回転マスの回転慣性効果が得られないときに当該一方の回転マスの回転慣性効果を、それぞれ得ることができるので、構造物の振動を迅速かつ十分に抑制することができる。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の振動抑制装置において、変換機構は、ケーブルに接続されたねじ軸を有し、ねじ軸は、ケーブルを介して構造物の変位が伝達されるのに伴って、ねじ軸の軸線方向に往復移動するように構成されており、回転体は、ねじ軸にボールを介して螺合し、ねじ軸の軸線方向への往復移動を回転運動に変換するナットで構成されており、変換機構は、ねじ軸の軸線方向への往復移動を、ねじ軸が回転しないように案内するガイドをさらに有することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ケーブルに、変換機構のねじ軸が接続されており、このねじ軸は、構造物の振動により発生した変位がケーブルを介して伝達されるのに伴って、その軸線方向に往復移動するように構成されている。また、回転体は、ねじ軸にボールを介して螺合するナットで構成されており、ねじ軸の軸線方向への往復移動を回転運動に変換する。
【0020】
このように、変換機構は、いわゆるボールねじで構成されているため、上記のようにねじ軸の往復移動がナットの回転運動に変換される際、ナットからねじ軸に反力トルクが作用し、それにより、ねじ軸が回転し、ひいては、ねじ軸に接続されたケーブルが捻れる可能性がある。上述した構成によれば、ガイドによって、ねじ軸の軸線方向への往復移動を、ねじ軸が回転しないように案内するので、上記のようなケーブルの捻れを防止でき、したがって、構造物の振動による変位を、回転マスの回転運動に無駄なく変換することができる。
【0021】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の振動抑制装置において、伝達機構がワンウェイクラッチで構成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項3の説明で述べたように、変換機構に伝達された構造物の変位が、ねじ軸の往復移動に変換された後、ナットの回転運動に変換される。このため、この往復移動によりねじ軸がナットに対して進入したとき、および退避したときのナットの回転方向は、互いに反対方向になる。
【0023】
上述した構成によれば、一定方向にだけ動力を伝達するワンウェイクラッチを伝達機構として用いるので、ねじ軸がナットに対して進入(または退避)しているときに、ナットから回転マスへの回転力の伝達を許容し、これとは逆に、退避(または進入)しているときに、回転マスへの回転力の伝達を遮断することができる。これにより、請求項1の説明で述べた作用、すなわち、回転マスからの反力がケーブルのテンションを増大させる方向に作用するときにのみ、回転体から回転マスへの回転力の伝達を許容するという作用を、実現することができる。
【0024】
また、伝達機構として、一般的なワンウェイクラッチを用いるので、特別な機構を用意することなく、振動抑制装置を容易かつ安価に構成することができる。
【0025】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の振動抑制装置において、回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、回転マスの回転慣性効果に加え、減衰要素の減衰効果が得られる。また、構造物の振動中、構造物の変位の伝達により回転した回転マスを、慣性によって回転させたままにせずに、その回転を減衰要素によって減衰するので、変換機構に繰り返し伝達される構造物の変位に応じて、回転マスの回転慣性効果を適切に得ることができる。以上により、構造物の振動をさらに適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態による振動抑制装置のうちの第1振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図2】図1に示す第1振動抑制装置などの拡大図である。
【図3】本発明の第1実施形態による振動抑制装置のうちの第2振動抑制装置を、これを適用した橋梁とともに概略的に示す図である。
【図4】図3に示す第2振動抑制装置などの拡大図である。
【図5】図1〜図4に示すマスダンパの斜視図である。
【図6】図5に示すマスダンパの特性を説明するための図である。
【図7】図5に示すマスダンパの特性を説明するための別の図である。
【図8】図5に示すマスダンパを構造物に適用した場合における振動数比と変位応答倍率の関係を示す図である。
【図9】図1に示す第1振動抑制装置のモデルを、(a)マスダンパの圧縮中について、(b)マスダンパの伸張中について、それぞれ示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【図11】本発明の第3実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建築物とともに概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。本発明の第1実施形態による振動抑制装置は、図1および図3にそれぞれ示す第1振動抑制装置1および第2振動抑制装置2から成る一対の振動抑制装置で構成されており、地震などにより発生した橋梁5の振動を抑制するためのものである。この橋梁5は、H形鋼で構成され、複数の橋脚6,6,…(2つのみ図示)に支持されており、水平に延びている。また、これらの第1振動抑制装置1は橋梁5の一方の側面に、第2振動抑制装置2は橋梁5の他方の側面に、それぞれ設けられている。
【0029】
図1および図2に示すように、第1振動抑制装置1は、マスダンパ11と、地震などにより発生した橋梁5の変位(振動)をマスダンパ11に伝達するための一対のケーブル31,31を備えている。これらのケーブル31,31は、例えば鋼線で構成され、それぞれの一端部が連結部32に接続されることによって互いに連結されており、橋梁5の長さ方向において、この連結部32を中心として対称に設けられている。また、一方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6の一方に支持される部位の上部に、固定されており、他方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、他方の橋脚6に支持される部位の上部に、固定されている。
【0030】
図5に示すように、マスダンパ11は、外筒12、ボールねじ13、ガイド17、回転マス18、ワンウェイクラッチ19、および粘性体20を有しており、圧縮されたときにのみ、振動抑制効果が得られる片効きのものとして構成されている。
【0031】
このボールねじ13は、ねじ軸14と、ねじ軸14に多数のボール15を介して螺合するナット16で構成されており、上記の外筒12に同心状に設けられている。なお、図5では、便宜上、ボール15などの複数の部品の符号を一部、省略している。このねじ軸14には、ボール15が係合するねじ溝14aと、軸線方向に延びるスプライン溝14bが形成されており、このスプライン溝14bの幅は、ねじ溝14aの幅よりも大きな値に設定されている。また、上記のナット16は、外筒12に収容されるとともに、一対の第1ラジアル軸受けRB1,RB1およびスラスト軸受けTB,TBにより、外筒12に対して回転自在に且つ軸線方向に移動不能に支持されており、外筒12における軸線方向の一端部に位置している。さらに、ねじ軸14は、その一部が外筒12から外方に突出しており、外筒12に対して軸線方向に所定の距離、往復移動可能である。
【0032】
以上の構成のボールねじ13では、外力によりねじ軸14が軸線方向に往復移動すると、それに伴って、ナット16が、その軸線を中心として回転する。すなわち、ねじ軸14の往復移動が、ナット16の回転運動に変換される。
【0033】
また、前記ガイド17は、ガイド孔17aを有する円筒状のものであり、外筒12のねじ軸14側の端部に、同心状に固定されている。このガイド孔17aには、ねじ軸14が挿入されている。さらに、ガイド17の内周面には、複数のボール17bが設けられている。各ボール17bは、その径がねじ軸14のねじ溝14aの幅よりも大きく、かつ、スプライン溝14bの幅よりも若干小さな値に設定されている。また、ボール17bは、その半部がガイド17の内周面に形成された半球状の溝17cに係合するとともに、残りの半部がスプライン溝14bに係合しており、これらの溝17c,14b内で転動自在である。
【0034】
以上の構成のガイド17およびねじ軸14では、ねじ軸14がナット16に対して軸線方向に往復移動すると、ボール17bは、ガイド17に対して周方向に移動することなく、スプライン溝14b上を転動し、それにより、ねじ軸14の往復移動が支障なく行われる。また、ボールねじ13では、その構成上、ナット16に対するねじ軸14の往復移動に伴って、ナット16からねじ軸14に反力トルクが作用する。これに対し、ボール17bが、外筒12に固定されたガイド17の半球状の溝17cと、ねじ軸14の軸線方向に伸びるスプライン溝14bとに係合しているため、そのような反力トルクがねじ軸14に作用しても、外筒12に対するねじ軸14の回転が阻止される。このように、ねじ軸14の往復移動が、ガイド17によって、ねじ軸14を回転させないように案内される。
【0035】
また、前記回転マス18は、比重が大きな材料、例えば鉄で構成されており、円筒状に形成されている。さらに、回転マス18は、外筒12内における、ボールねじ13のナット16とは逆側の部位に収容されており、ナット16と同軸状に配置されている。また、回転マス18には、前記ワンウェイクラッチ19の後述する第2回転体19bが、同軸状に固定されている。回転マス18および第2回転体19bは、一対の第2ラジアル軸受けRB2,RB2により、外筒12に対して回転自在に支持されており、一体に回転自在である。
【0036】
また、ワンウェイクラッチ19は、一般的なラチェットタイプのものであり、第1回転体19aおよび第2回転体19bを有している。この第1回転体19aは、ナット16に同軸状に固定されており、ナット16と一体に回転自在である。また、この第2回転体19bには、爪(図示せず)が設けられている。
【0037】
以上の構成のワンウェイクラッチ19では、回転マス18の停止中、ねじ軸14が外筒12に進入する方向に移動するのに伴い、ナット16および第1回転体19aに、図5に示す矢印の方向に回転させるトルクが作用したときには、爪が第1回転体19aに係合し、それにより、第1回転体19aと第2回転体19bの間が接続される結果、第1および第2回転体19a,19bが一体に回転する。これにより、この場合には、ナット16からワンウェイクラッチ19を介して、回転力が回転マス18に伝達される。
【0038】
一方、ねじ軸14が外筒12から突出する方向に移動するのに伴って、図5に示す矢印と反対方向のトルクがナット16および第1回転体19aに作用したときには、爪が第1回転体19aに係合せず、それにより、第1回転体19aと第2回転体19bの間が遮断される結果、第1回転体19aから第2回転体19bにトルクが伝達されない。これにより、この場合には、ナット16からの回転力が、ワンウェイクラッチ19を介して回転マス18に伝達されず、ナット16および第1回転体19aが空回りする。
【0039】
また、前記粘性体20は、シリコンオイルなどから成り、外筒12と回転マス18の間に充填されている。外筒12には、この粘性体20の漏れを防止するためのパッキン(図示せず)が設けられている。
【0040】
次に、図6および図7を参照しながら、以上の構成のマスダンパ11の特性について説明する。図6(a)は、外筒12およびねじ軸14に作用する粘性体20の減衰力(以下「粘性体減衰力」という)DFが値0であると仮定した場合における、マスダンパ11に入力される節点間変位Disと、外筒12およびねじ軸14に作用する回転マス18の回転慣性力(以下「回転マス慣性力」という)IFの関係を示している。また、図6(b)は、回転マス慣性力IFが値0であると仮定した場合における、節点間変位Disと粘性体減衰力DFの関係を示している。さらに、図6(c)は、節点間変位Disと、マスダンパ11の反力(以下「マスダンパ反力」という)RFの関係を示している。また、図7は、節点間変位Dis、節点間速度Velおよび節点間加速度Accの推移を示している。なお、これらの図6および図7は、節点間変位Disとして定常波を入力した場合における各種のパラメータについて示している。
【0041】
また、図6(a)〜(c)において、点aは、ねじ軸14が外筒12から最も突出した突出位置から、外筒12に向かって移動し始めたとき、すなわちマスダンパ11が伸びきった状態から縮み始めたときの関係を表しており、点cは、ねじ軸14が外筒12に最も進入した進入位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が縮みきったときの関係を表している。また、点bは、ねじ軸14が上記の突出位置から進入位置に移動する際に、これらの突出位置と進入位置の間の中央の中立位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が圧縮中立状態になったときの関係を表しており、点dは、ねじ軸14が進入位置から中立位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が伸張中立状態になったときの関係を表している。さらに、点eは、ねじ軸14が突出位置に位置したとき、すなわちマスダンパ11が伸びきったときの関係を表している。
【0042】
さらに、図7において、時点taは、マスダンパ11が伸びきった状態から縮み始めたタイミングに相当するとともに、時点tbは、マスダンパ11が上記の圧縮中立状態になったタイミングに相当する。また、時点tcは、マスダンパ11が縮みきったタイミングに相当するとともに、時点tdは、マスダンパ11が上記の伸張中立状態になったタイミングに相当する。さらに、時点teは、マスダンパ11が伸びきったタイミングに相当する。以上のように、図7の時点ta、tb、tc、tdおよびteは、図6の点a、点b、点c、点dおよび点eにそれぞれ対応している。また、図6の点aから点bおよび点cまでの軌跡は、マスダンパ11が圧縮されているときの関係を表しており、点cから点dおよび点eまでの軌跡は、マスダンパ11が伸張されているときの関係を表している。同様に、図7の時点taから時点tcまでの間は、マスダンパ11の圧縮中における各種のパラメータの推移を表しており、時点tcから時点teまでの間は、マスダンパ11の伸張中における各種のパラメータの推移を表している。
【0043】
図7に示すように、マスダンパ11に入力される節点間変位Dis、節点間速度Velおよび節点間加速度Accは、正弦波状に変化し、節点間変位Disおよび節点間速度Velは、位相が互いに90度ずれており、節点間変位Disおよび節点間加速度Accは、位相が互いに180度ずれている。また、節点間変位Disは、時点taおよびteにおいて負の最大値−DMになっており、時点tbおよびtdにおいて値0に、時点tcにおいて正の最大値+DMに、それぞれなっている。さらに、節点間速度Velは、時点ta,tcおよびteにおいて値0になっており、時点tbにおいて正の最大値に、時点tdにおいて負の最大値に、それぞれなっている。また、節点間加速度Accは、時点taおよびteにおいて正の最大値になっており、時点tbおよびtdにおいて値0に、時点tcにおいて負の最大値に、それぞれなっている。
【0044】
前述したように、ナット16から回転マス18への回転力の伝達が、ワンウェイクラッチ19を介して行われる。また、基本的には、ねじ軸14が外筒12に向かって移動したとき、すなわちマスダンパ11の圧縮中には、ナット16から回転マス18に回転力が伝達される一方、マスダンパ11の伸張中には、ナット16から回転マス18に回転力が伝達されない。さらに、回転マス慣性力IFは、節点間加速度Accに依存し、節点間加速度Accが高いほど、より大きくなる。
【0045】
以上から、回転マス慣性力IFは、粘性体減衰力DFが値0であると仮定した場合には、節点間変位Disに応じて、図6(a)に示すように変化する。すなわち、節点間変位Disが負の最大値−DMになった状態(マスダンパ11が伸びきった状態)からマスダンパ11が縮み始めたとき(時点ta)には、節点間加速度Accが図7に示すように最大になることによって、回転マス慣性力IFは、図6(a)に点aで示すように最大になる。また、負値である節点間変位Disの絶対値が小さくなるほど、すなわちマスダンパ11が縮むほど、節点間加速度Accが低下することによって、回転マス慣性力IFは小さくなる。
【0046】
そして、節点間変位Disが値0になったとき(時点tb)、すなわちマスダンパ11が圧縮中立状態になったときに、節点間加速度Accが値0になることによって、回転マス慣性力IFは値0になる(点b)。また、その後のマスダンパ11の圧縮中(〜時点tc)には、回転マス18の回転数がナット16の回転数を超えるため、ワンウェイクラッチ19によってナット16と回転マス18の間が遮断される結果、回転マス慣性力IFは値0になる(〜点c)。さらに、マスダンパ11の伸張中(〜時点td〜時点te)には、ワンウェイクラッチ19によるナット16と回転マス18の間の遮断によって、ナット16から回転マス18に回転力が伝達されないので、その後、節点間変位Disが再度、負の最大値−DMになるまでの間、すなわちマスダンパ11が縮み始める直前までの間(〜点d〜点e)は、回転マス慣性力IFは値に0になる。
【0047】
また、粘性体減衰力DFは、節点間速度Velに依存し、節点間速度Velが高いほど、より大きくなる。このことと、ナット16と回転マス18の間の回転力の伝達が前述したように行われることから、粘性体減衰力DFは、回転マス慣性力IFが値0であると仮定した場合には、節点間変位Disに応じて、図6(b)に示すように変化する。すなわち、節点間変位Disが負の最大値−DMになった状態からマスダンパ11が縮み始めたとき(時点ta)には、節点間速度Velが図7に示すように値0になることによって、粘性体減衰力DFは、図6(b)に点aで示すように値0になる。そして、負値である節点間変位Disの絶対値が小さくなるほど、すなわちマスダンパ11が縮むほど、節点間速度Velが上昇することによって、粘性体減衰力DFは、より大きくなり、節点間変位Disが値0になったとき(時点tb)、すなわちマスダンパ11が圧縮中立状態になったときに、最大になる(点b)。
【0048】
また、正値である節点間変位Disがより大きくなるほど、すなわちマスダンパ11がさらに縮むほど、節点間速度Velが低下することによって、粘性体減衰力DFは、より小さくなり、節点間変位Disが正の最大値+DMになったとき(時点tc)、すなわちマスダンパ11が縮みきったときに、値0になる(点c)。さらに、マスダンパ11の伸張中(〜時点td〜時点te)には、ワンウェイクラッチ19によるナット16と回転マス18の間の遮断によって、ナット16から粘性体20にせん断力が作用しないので、その後、節点間変位Disが再度、負の最大値−DMになるまでの間、すなわちマスダンパ11が縮み始める直前までの間(〜点d〜点e)は、粘性体減衰力DFは値0になる。
【0049】
以上から、回転マス慣性力IFおよび粘性体減衰力DFの双方が発生するマスダンパ11によるマスダンパ反力RFは、節点間変位Disに応じて、図6(c)に示すように変化する。すなわち、節点間変位Disが負の最大値−DMになった状態からマスダンパ11が縮み始めたときには、マスダンパ反力RFは、図6(a)に示す回転マス慣性力IFと等しくなる(点a)。また、マスダンパ11の圧縮開始後の初期には、負値である節点間変位Disの絶対値が小さくなるほど(マスダンパ11が縮むほど)、マスダンパ反力RFは、より大きくなる。その後、マスダンパ11がさらに縮むほど、マスダンパ反力RFは、より小さくなり、節点間変位Disが正の最大値+DMになる直前(マスダンパ11が縮みきる直線)で、回転マス18の回転数がナット16の回転数を超えることによって、ナット16と回転マス18の間がワンウェイクラッチ19で遮断される結果、回転マス反力RFは値0になる。その後、節点間変位Disが再度、負の最大値−DMになるまでの間、すなわち、マスダンパ11が伸びきって、再度縮み始める直前までの間(点c〜点d〜点e)は、マスダンパ反力RFは値0になる。
【0050】
以上のように、マスダンパ反力RFは、マスダンパ11の圧縮中にのみ得られ、伸張中には値0になる。すなわち、マスダンパ11は、圧縮中にのみ、振動抑制効果が得られる片効きのものとして構成されている。
【0051】
また、図2に示すように、マスダンパ11の外筒12には、ねじ軸14と反対側の端部に、連結部材21が一体に設けられており、この連結部材21は、取付用のフランジ22に回動自在に連結されている。さらに、ねじ軸14には、ナット16と反対側の端部に、ばね座23が取り付けられている。このばね座23と外筒12の間には、テンションばね24が設けられており、このテンションばね24は、圧縮コイルばねで構成されている。
【0052】
以上の構成のマスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して橋梁5の上端部に取り付けられることによって、橋梁5に固定されるとともに、ばね座23が前述した連結部32に回動自在に取り付けられることによって、ケーブル31,31に接続される。この状態では、マスダンパ11は、伸縮していない中立状態になっており、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6,6の間の中心の部位に位置している。また、ケーブル31,31は、上記のテンションばね24の付勢力がばね座23および連結部32を介して作用することにより、下方に付勢されている。これにより、ケーブル31,31に、テンションがあらかじめ付与(プレテンション)されるとともに、プレストレスが橋梁5に付与されている。
【0053】
以上の構成の第1振動抑制装置1および橋梁5では、図1に二点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により下方に撓むと、橋梁5の撓み、すなわち橋梁5の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。これにより、マスダンパ11が圧縮される結果、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。
【0054】
また、図8(a)は、橋梁5が一次モードの振動により下方に撓んだ場合における第1振動抑制装置1のモデルを示している。同図における符号mi、cd、KT、およびkbは、回転マス18の質量、粘性体20の粘性係数、テンションばね24のばね定数、およびケーブル31,31の剛性をそれぞれ表している。図8(a)から明らかなように、この場合、橋梁5には、回転マス慣性力IFおよび粘性体減衰力DFから成るマスダンパ反力RFおよびテンションばね24による反力から成る合力が、ケーブル31,31による反力と釣り合い、この合力が橋梁5に作用する。したがって、回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31から成る付加振動系の固有振動数を、橋梁5の固有振動数に同調させることによって、振動抑制装置1による振動抑制効果を適切に得ることができる。
【0055】
一方、図1に一点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により上方に撓むと、橋梁5の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、前述したようにマスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により橋梁5に追従して上方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。
【0056】
図8(b)は、橋梁5が一次モードの振動により上方に撓んだ場合における第1振動抑制装置1のモデルを示している。同図から明らかなように、この場合、橋梁5には、回転マス慣性力IFおよび粘性体減衰力DFから成るマスダンパ反力RFは作用せず、テンションばね24およびケーブル31,31による反力のみが作用する。
【0057】
また、第1振動抑制装置1の回転マス18の質量mi、粘性体20の粘性係数cd、テンションばね24のばね定数KT、およびケーブル31,31の剛性kbは、前述した付加振動系(回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31)の固有振動数が橋梁5の一次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0058】
また、図9は、第1振動抑制装置1が適用された橋梁5における振動数比p/ωsと変位応答倍率u/ugの関係を示している。ここで、ωsは橋梁5の固有円振動数であり、pは、橋梁5を支持する地面の加振円振動数である。また、ugは、地面から橋梁5に入力された変位であり、uは、地面からの橋梁5の相対応答変位である。さらに、図9の実線および一点鎖線は、マスダンパ11の圧縮中および伸張中について、それぞれ示している。同図に示すように、マスダンパ11の圧縮中、変位応答倍率u/ugは、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果と、橋梁5に対する付加振動系の固有振動数の同調とによって、比較的小さな値に抑制されており、第1振動抑制装置1による振動抑制効果を適切に得られることが分かる。
【0059】
また、図3および図4に示すように、第2振動抑制装置2は、第1振動抑制装置1と同様、マスダンパ11およびケーブル31,31を備えており、これらのマスダンパ11およびケーブル31,31は、第1振動抑制装置1のマスダンパ11およびケーブル31,31と上下逆向きに橋梁5に取り付けられている点のみが異なっている。具体的には、第2振動抑制装置2のマスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して橋梁5の下端部に取り付けられることによって、橋梁5に固定されている。
【0060】
また、第2振動抑制装置2の一方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6の一方に支持される部位の下部に、固定されており、他方のケーブル31の他端部は、橋梁5における、他方の橋脚6に支持される部位の下部に、固定されている。さらに、ケーブル31,31は、テンションばね24の付勢力がばね座23および連結部32を介して作用することによって、上方に付勢されている。これにより、ケーブル31,31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが橋梁5に付与されている。
【0061】
以上の構成の第2振動抑制装置2および橋梁5では、図3に一点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により上方に撓むと、それにより、マスダンパ11が圧縮される結果、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第2振動抑制装置2のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0062】
一方、図3に二点鎖線で示すように、橋梁5が一次モードの振動により下方に撓むと、このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第2振動抑制装置2では、第1振動抑制装置1と同様、マスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により橋梁5に追従して下方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。また、この場合における第2振動抑制装置2のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0063】
以上のように、第1および第2振動抑制装置1,2は、一方による振動抑制効果が適切に得られないときには、他方による振動抑制効果を得ることができ、他方による振動抑制効果が適切に得られないときには、一方による振動抑制効果を得ることができる。
【0064】
また、第2振動抑制装置2の回転マス18の質量mi、粘性体20の粘性係数cd、テンションばね24のばね定数KT、およびケーブル31,31の剛性kbは、第1振動抑制装置1と同様、付加振動系(回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31)の固有振動数が橋梁5の一次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0065】
以上のように、第1実施形態によれば、橋梁5の振動によって発生した橋梁5の変位(撓み)が、プレテンションが付与されたケーブル31,31を介して、ボールねじ13に伝達されるとともに、伝達された橋梁5の変位が、ナット16の回転運動に変換される。また、ワンウェイクラッチ19によって、ナット16の回転力が、回転マス18に次のように伝達される。
【0066】
すなわち、橋梁5の振動中、ナット16から回転マス18への回転力の伝達に伴って発生する回転マス慣性力IFを含むマスダンパ反力RFが、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用するときには、ナット16から回転マス18への回転力の伝達が、ワンウェイクラッチ19によって許容される。逆に、ナット16から回転マス18への回転力の伝達に伴って発生するマスダンパ反力RFが、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用するときには、ナット16から回転マス18への回転力の伝達が、ワンウェイクラッチ19によって遮断される。
【0067】
したがって、ケーブル31,31に付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、橋梁5の振動中、常に、ケーブル31,31をテンション状態に保持できるので、橋梁5の変位を、ケーブル31,31を介してボールねじ13に適切に伝達し、回転マス18の回転運動に適切に変換することができる。したがって、回転マス慣性力IF、すなわち回転マス18の回転慣性効果と、粘性体減衰力DF、すなわち粘性体20の粘性減衰効果とを合わせたマスダンパ反力RFによる振動抑制効果を、適切に得ることができ、それに加え、橋梁5に対して付加振動系の固有振動数を同調させることにより、橋梁5の振動を適切に抑制することができる。同じ理由により、ケーブル31,31にプレテンションを付与するテンションばね24の付勢力を比較的小さくすることができるので、橋梁5のプレストレスを抑えることができるとともに、テンションばね24の剛性を低くすることができ、このことによっても、振動抑制装置による振動抑制効果をより適切に得ることができる。
【0068】
また、橋梁5の振動中、第1および第2振動抑制装置1,2の一方のマスダンパ反力RFが、当該一方のケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用することによって、当該一方のナット16から当該一方の回転マス18への回転力の伝達が遮断されるときには、第1および第2振動抑制装置1、2の他方のマスダンパ反力RFが当該他方のケーブル31、31のテンションを増大させる方向に作用し、それにより、当該他方のナット16から当該他方の回転マス18への回転力の伝達が許容される。以上により、第1および第2振動抑制装置1,2のいずれかによる振動抑制効果を常に得ることができるので、橋梁5の振動を迅速かつ十分に抑制することができる。
【0069】
また、ガイド17によって、ねじ軸14の軸線方向への往復移動を、ねじ軸14が回転しないように案内するので、ケーブル31,31の捻れを防止でき、したがって、橋梁5の振動による変位を、回転マス18の回転運動に無駄なく変換することができる。さらに、一般的なワンウェイクラッチ19を用いるので、特別な機構を用意することなく、振動抑制装置を容易かつ安価に構成することができる。
【0070】
また、振動抑制装置では、回転マス18の回転マス慣性力IFに加え、粘性体20の粘性体減衰力DFが得られる。さらに、橋梁5の振動中、橋梁5の変位の伝達により回転した回転マス18を、慣性によって回転させたままにせずに、その回転を粘性体20によって減衰するので、繰り返し伝達される橋梁5の変位に応じて、回転マス慣性力IFを適切に得ることができる。以上により、橋梁5の振動をさらに適切に抑制することができる。
【0071】
また、橋梁5における、互いに隣り合う2つの橋脚6の間の中央の部位に、すなわち、一次モードの振動による橋梁5の変位が最大となる部位(腹)に、マスダンパ11が設けられるとともに、ケーブル31,31が、橋梁5における橋脚6,6に支持される部位、すなわち、一次モードの振動による橋梁5の変位がほぼ値0になる部位(節)に固定されているので、橋梁5の一次モードの振動をさらに適切に抑制することができる。
【0072】
なお、第1実施形態では、振動抑制装置を、橋梁5の一次モードの振動に対応するように構成しているが、二次以上の振動モードの振動に対応するように構成してもよい。この場合、マスダンパ11は、橋梁5における、当該振動モードの振動による変位が最大となる部位(腹)に設けられるとともに、ケーブル31,31は、当該振動モードの振動による変位がほぼ値0となる部位(節)に固定される。あるいは、振動抑制装置を、互いに異なる複数の振動モードの振動に対応させるために、各モードに対応するマスダンパ11およびケーブル31,31を備えるように構成してもよい。また、第1実施形態では、ケーブル31,31にプレテンションを付与するために、テンションばね24を、外筒12とばね座23の間に設けているが、橋梁5と、ばね座23または連結部32との間に設けてもよい。あるいは、このテンションばね24を省略し、各ケーブル31を橋梁5と平行に延びるように設け、ケーブル31を、引張コイルばねを介して橋梁5に取り付けるとともに、これらの引張コイルばねによってプレテンションを付与してもよい。
【0073】
次に、図10を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。同図に示すように、この振動抑制装置は、第1実施形態と異なり、ビルなどの高層の建築物7に適用したものである。図10において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。図10に示す振動抑制装置は、第1振動抑制装置41および第2振動抑制装置42から成る一対の振動抑制装置で構成されており、これらの第1および第2振動抑制装置41,42は、建築物7に左右対称に設けられている。
【0074】
第1振動抑制装置41は、マスダンパ51およびケーブル31を備えている。このマスダンパ51は、第1実施形態のマスダンパ11と同様、外筒51a、ねじ軸51bを有するボールねじ、回転マス、ワンウェイクラッチ、および粘性体などで構成されている。マスダンパ51では、ワンウェイクラッチが機能する回転方向が、第1実施形態のワンウェイクラッチ19と逆方向になっており、それにより、マスダンパ反力RFがその伸張中にのみ得られ、圧縮中には値0になる。それ以外の点については、マスダンパ51の構成は、マスダンパ11と同じであるので、その詳細な説明を省略するものとする。
【0075】
また、上記の外筒51aには、ねじ軸51bと反対側の端部に、連結部材21が一体に設けられており、この連結部材21は、取付用のフランジ22に回動自在に連結されている。マスダンパ51は、フランジ22および取付具33を介して、地面に固定されており、建築物7の左端部に位置している。さらに、ねじ軸51bには、ばね座23が取り付けられており、外筒51aとばね座23の間には、テンションばね25が設けられている。このテンションばね25は、第1実施形態と異なり、圧縮コイルばねではなく、引張コイルばねで構成されている。
【0076】
さらに、ケーブル31の一端部は、建築物7の左端部の上端部に固定されている。ケーブル31の他端部は、取付具34を介してばね座23に回動自在に取り付けられることによって、マスダンパ51に接続されている。ケーブル31は、上記のテンションばね25の付勢力がばね座23および取付具34を介して作用することにより、下方に引っ張られている。これにより、ケーブル31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。また、この状態では、マスダンパ51は中立状態になっている。
【0077】
以上の構成の第1振動抑制装置41および建築物7では、図10に二点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により右方に揺動すると、地面に対する建築物7の変位が、ケーブル31を介してマスダンパ51に伝達される。これにより、マスダンパ51が伸張される結果、前述したように、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第1振動抑制装置41のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0078】
一方、図10に一点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により左方に揺動すると、建築物7の変位が、ケーブル31を介してマスダンパ51に伝達される。このことと、テンションばね25の付勢力が作用していることによって、マスダンパ51が圧縮される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第1振動抑制装置41では、前述したように、マスダンパ51の圧縮中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31は、マスダンパ反力RFの影響により緩むことがなく、テンションばね25によってテンション状態に保持される。この場合における第1振動抑制装置41のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0079】
また、第2振動抑制装置42は、第1振動抑制装置41と同様、マスダンパ51およびケーブル31を備えている。このマスダンパ51は、フランジ22および取付具33を介して、地面に固定されており、建築物7の右端部に位置している。また、ケーブル31の一端部は、建築物7の右端部の上端部に固定されており、ケーブル31の他端部は、取付具34を介してばね座23に回動自在に取り付けられることによって、マスダンパ51に接続されている。ケーブル31は、テンションばね25の付勢力がばね座23および取付具34を介して作用することにより、下方に引っ張られている。これにより、ケーブル31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。また、この状態では、マスダンパ51は中立状態になっている。
【0080】
以上の構成の第2振動抑制装置42および建築物7では、図10に一点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により左方に揺動すると、それにより、マスダンパ51が伸張される結果、第1振動抑制装置41と同様、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第2振動抑制装置42のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0081】
一方、図10に二点鎖線で示すように、建築物7が一次モードの振動により右方に揺動すると、このことと、テンションばね25の付勢力が作用していることによって、マスダンパ51が圧縮される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第2振動抑制装置42では、第1振動抑制装置41と同様、マスダンパ51の圧縮中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31は、マスダンパ反力RFの影響により緩むことがなく、テンションばね25によってテンション状態に保持される。この場合における第2振動抑制装置42のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0082】
また、第1および第2振動抑制装置41,42の回転マスの質量、粘性体の粘性係数、テンションばね25のばね定数、およびケーブル31の剛性は、回転マス、粘性体、テンションばね25およびケーブル31から成る付加振動系の固有振動数が建築物7の一次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0083】
以上により、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、ケーブル31に付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、建築物7の振動中、常に、ケーブル31をテンション状態に保持できるので、建築物7の変位を、ケーブル31を介してマスダンパ51のボールねじに適切に伝達し、回転マスの回転運動に適切に変換することができる。したがって、振動抑制装置による振動抑制効果を適切に得ることができ、それに加え、建築物7に対して付加振動系の固有振動数を同調させることにより、建築物7の振動を適切に抑制することができる。また、マスダンパ51が、建築物7を支持する地面に固定されるとともに、ケーブル31の一端部が、建築物7の上端部に、すなわち、一次モードの振動による建築物7の変位が最大となる部位(腹)に固定されているので、建築物7の一次モードの振動をより適切に抑制することができる。その他、建築物7について、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
【0084】
なお、第2実施形態では、マスダンパ51を地面に固定するとともに、建築物にケーブル31を固定しているが、これとは逆に、地面にケーブル31を固定するとともに、マスダンパ51を建築物7に固定してもよい。この場合、ケーブル31は、マスダンパ51を介して建築物7に連結される。また、第2実施形態では、マスダンパ51を、地面に固定しているが、建築物7における、一次モードの振動による変位がほぼ値0となる部位(節)に、すなわち建築物7の下端部に固定してもよい。あるいは、ケーブル31を一対のケーブルで構成し、一対のケーブルの各一端部をマスダンパ51を介して互いに連結するとともに、一対のケーブルの一方の他端部を、建築物7の上端部に固定し、一対のケーブルの他方の他端部を、地面または建築物7の下端部に固定してもよい。
【0085】
さらに、第2実施形態では、振動抑制装置を、建築物7の一次モードの振動に対応するように構成しているが、二次モードの振動に対応するように構成してもよい。図11は、そのように構成された、本発明の第3実施形態による振動抑制装置を示している。同図において、第1および第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1および第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0086】
図11に示すように、振動抑制装置は、第1振動抑制装置61および第2振動抑制装置62から成る一対の振動抑制装置で構成されており、これらの第1および第2振動抑制装置61、62は、建築物7に左右対称に設けられている。第1振動抑制装置61は、第1実施形態と同様、マスダンパ11およびケーブル31,31を備えている。これらのケーブル31,31は、それぞれの一端部が連結部32に接続されることによって互いに連結されており、建築物7の上下方向において、連結部32を中心として対称に設けられている。また、一方のケーブル31の他端部は、建築物7の上端部の左端部に固定されており、他方のケーブル31の他端部は、地面に固定されており、建築物7の左端部に位置している。
【0087】
さらに、マスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して建築物7の左端部に取り付けられることによって、建築物7に固定されるとともに、ばね座23が連結部32に回動自在に取り付けられることによって、ケーブル31,31に接続される。この状態では、マスダンパ11は、中立状態になっており、建築物7における上下方向の中央の部位に位置している。また、ケーブル31,31は、テンションばね24の付勢力によって右方に付勢されており、それにより、ケーブル31,31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。
【0088】
以上の構成の第1振動抑制装置61および建築物7では、図11に二点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により右方に揺動すると、建築物7の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。これにより、マスダンパ11が圧縮される結果、第1実施形態と同様、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第1振動抑制装置61のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0089】
一方、図11に一点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により左方に揺動すると、建築物7の変位が、ケーブル31,31を介してマスダンパ11に伝達される。このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第1振動抑制装置61では、第1実施形態と同様、マスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により建築物7に追従して左方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。この場合における第1振動抑制装置61のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0090】
また、第2振動抑制装置62は、第1振動抑制装置61と同様、マスダンパ11およびケーブル31,31を備えている。第2振動抑制装置62のケーブル31、31は、第1振動抑制装置61と同様、連結部32を中心として対称に設けられており、一方のケーブル31の他端部は、建築物7の上端部の右端部に固定され、他方のケーブル31の他端部は、地面に固定されてており、建築物7の右端部に位置している。
【0091】
また、マスダンパ11は、フランジ22が取付具33を介して建築物7の右端部に取り付けられることによって、建築物7に固定されるとともに、ばね座23が連結部32に回動自在に取り付けられることによって、ケーブル31,31に接続される。この状態では、マスダンパ11は、中立状態になっており、建築物7における上下方向の中央の部位に位置している。また、ケーブル31,31は、テンションばね24の付勢力によって左方に付勢されており、それにより、ケーブル31,31に、プレテンションが付与されるとともに、プレストレスが建築物7に付与されている。
【0092】
以上の構成の第2振動抑制装置62および建築物7では、図11に一点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により左方に揺動すると、それにより、マスダンパ11が圧縮される結果、第1実施形態と同様、マスダンパ反力RFによる振動抑制効果が得られる。この場合、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを増大させる方向に作用する。この場合における第2振動抑制装置62のモデルは、図8(a)と同様に示される。
【0093】
一方、図11に二点鎖線で示すように、建築物7が二次モードの振動により右方に揺動すると、このことと、テンションばね24の付勢力が作用していることによって、マスダンパ11が伸張される。この場合、仮にマスダンパ反力RFが発生したとすると、マスダンパ反力RFは、ケーブル31,31のテンションを低減させる方向に作用する。これに対し、第2振動抑制装置62では、第1実施形態と同様、マスダンパ11の伸張中にマスダンパ反力RFが値0になるため、ケーブル31,31は、マスダンパ反力RFの影響により建築物7に追従して右方に移動したり、それにより緩んだりすることがなく、テンションばね24によってテンション状態に保持される。この場合における第2振動抑制装置62のモデルは、図8(b)と同様に示される。
【0094】
また、第1および第2振動抑制装置61,62の回転マス18の質量、粘性体20の粘性係数、テンションばね24のばね定数、およびケーブル31,31の剛性は、回転マス18、粘性体20、テンションばね24およびケーブル31,31から成る付加振動系の固有振動数が建築物7の二次モードの固有振動数に同調するような値に設定される。
【0095】
以上により、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様、ケーブル31,31に付与されるプレテンションが比較的小さい場合でも、建築物7の振動中、常に、ケーブル31,31をテンション状態に保持できるので、建築物7の変位を、ケーブル31,31を介してボールねじ13に適切に伝達し、回転マス18の回転運動に適切に変換することができる。したがって、振動抑制装置による振動抑制効果を適切に得ることができ、それに加え、建築物7に対して付加振動系の固有振動数を同調させることにより、建築物7の振動を適切に抑制することができる。また、建築物7における上下方向の中央の部位に、すなわち、二次モードの振動による建築物7の変位が最大となる部位(腹)に、第1および第2振動抑制装置61,62が設けられるとともに、ケーブル31,31が、建築物7の上端部、すなわち、二次モードの振動による建築物7の変位がほぼ値0となる部位(節)と、建築物7を支持する地面とに固定されているので、建築物7の二次モードの振動をさらに適切に抑制することができる。その他、建築物7について、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
【0096】
なお、第3実施形態では、振動抑制装置を、建築物7の二次モードの振動に対応するように構成しているが、三次以上の振動モードの振動に対応するように構成してもよい。この場合、マスダンパ11は、建築物7における、当該振動モードの振動による変位が最大となる部位(腹)に設けられるとともに、ケーブル31,31は、当該振動モードの振動による変位がほぼ値0となる部位(節)に固定される。あるいは、振動抑制装置を、互いに異なる複数の振動モードに対応させるために、各モードに対応するマスダンパ11およびケーブル31,31を備えるように構成してもよい。また、第3実施形態では、ケーブル31,31にプレテンションを付与するために、テンションばね24を、外筒12とばね座23の間に設けているが、建築物7と、ばね座23または連結部32との間に設けてもよい。あるいは、このテンションばね24を省略し、各ケーブル31を建築物7と平行に延びるように設け、ケーブル31および31をそれぞれ、引張コイルばねを介して建築物7および地面に取り付けるとともに、これらの引張コイルばねによってプレテンションを付与してもよい。
【0097】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1〜第3実施形態(以下、総称して「実施形態」という)では、ケーブル31,31は、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。また、実施形態では、本発明における変換機構は、ボールねじ13であるが、ケーブルを介して伝達された構造物の変位を回転運動に変換可能な機構であれば他の適当な機構でもよく、例えば、互いに噛み合うラックおよびピニオンを有するラックアンドピニオン機構でもよい。
【0098】
さらに、実施形態では、本発明における伝達機構は、ラチェットタイプのワンウェイクラッチ19であるが、特許請求の範囲に記載された伝達機構の機能を達成できる機構であれば他の適当な機構でもよく、例えば、スプラグ式や、ローラ式のワンウェイクラッチでもよい。あるいは、伝達機構として、その締結・解放を制御可能なクラッチを用いるとともに、このクラッチの制御により伝達機構の機能を達成するようにしてもよい。また、実施形態では、ねじ軸14にスプライン溝14bを形成するとともに、ガイド17に半球状の溝17cを形成しているが、これとは逆に、ねじ軸14に半球状の溝を形成するとともに、ガイド17にスプライン溝を形成してもよい。
【0099】
さらに、実施形態では、本発明の減衰要素として、粘性体20を用いているが、回転マス18の回転を減衰可能なものであれば他の要素、例えば粘弾性ゴムや、空圧式・磁気式のダンパなどを用いてもよい。また、実施形態では、ねじ軸14をケーブル31に、外筒12を橋梁5、地面または建築物7に、それぞれ固定しているが、これとは逆に、ねじ軸14を橋梁5、地面または建築物7に、外筒12をケーブル31に、それぞれ固定してもよい。この場合、ケーブル31に固定された外筒12に反力トルクが作用することはないので、ガイド17を省略することができる。
【0100】
さらに、実施形態では、振動抑制装置を、一対の第1および第2振動抑制装置1,2、41,42、61,62で構成しているが、両者1,2、41,42、61,62の一方を省略してもよい。また、実施形態では、振動抑制装置を、橋梁5や建築物7に適用した例であるが、他の構造物、例えば建築物の梁や、鉄塔などに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 第1振動抑制装置(振動抑制装置)
2 第2振動抑制装置(振動抑制装置)
5 橋梁(構造物)
7 建築物(構造物)
13 ボールねじ(変換機構)
14 ねじ軸
15 ボール
16 ナット(回転体)
17 ガイド
18 回転マス
19 ワンウェイクラッチ(伝達機構)
20 粘性体(減衰要素)
31 ケーブル
41 第1振動抑制装置(振動抑制装置)
42 第2振動抑制装置(振動抑制装置)
61 第1振動抑制装置(振動抑制装置)
62 第2振動抑制装置(振動抑制装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の振動を抑制するための振動抑制装置であって、
テンションがあらかじめ付与されるとともに、前記構造物に連結されたケーブルと、
回転体を有するとともに、前記ケーブルに接続され、前記構造物の振動により発生し、前記ケーブルを介して伝達された前記構造物の変位を、前記回転体の回転運動に変換する変換機構と、
回転可能な回転マスと、
前記回転体および前記回転マスに連結され、前記構造物の振動中、前記回転体から前記回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する当該回転マスからの反力が、前記ケーブルのテンションを増大させる方向に作用するときには、前記回転体から前記回転マスへの回転力の伝達を許容し、前記回転マスからの前記反力が前記ケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、前記回転体から前記回転マスへの回転力の伝達を遮断する伝達機構と、
を備えることを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
当該振動抑制装置は、
前記ケーブル、前記変換機構、前記回転マスおよび前記伝達機構をそれぞれ備える一対の振動抑制装置で構成されており、
前記構造物の振動中、前記一対の振動抑制装置の一方の回転マスからの前記反力が当該一方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、前記一対の振動抑制装置の他方の回転マスからの前記反力が当該他方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するとともに、前記他方の回転マスからの前記反力が当該他方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、前記一方の回転マスからの前記反力が当該一方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記変換機構は、前記ケーブルに接続されたねじ軸を有し、当該ねじ軸は、前記ケーブルを介して前記構造物の変位が伝達されるのに伴って、前記ねじ軸の軸線方向に往復移動するように構成されており、
前記回転体は、前記ねじ軸にボールを介して螺合し、前記ねじ軸の軸線方向への往復移動を回転運動に変換するナットで構成されており、
前記変換機構は、前記ねじ軸の軸線方向への往復移動を、当該ねじ軸が回転しないように案内するガイドをさらに有することを特徴とする、請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記伝達機構がワンウェイクラッチで構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに備えることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の振動抑制装置。
【請求項1】
構造物の振動を抑制するための振動抑制装置であって、
テンションがあらかじめ付与されるとともに、前記構造物に連結されたケーブルと、
回転体を有するとともに、前記ケーブルに接続され、前記構造物の振動により発生し、前記ケーブルを介して伝達された前記構造物の変位を、前記回転体の回転運動に変換する変換機構と、
回転可能な回転マスと、
前記回転体および前記回転マスに連結され、前記構造物の振動中、前記回転体から前記回転マスへの回転力の伝達に伴って発生する当該回転マスからの反力が、前記ケーブルのテンションを増大させる方向に作用するときには、前記回転体から前記回転マスへの回転力の伝達を許容し、前記回転マスからの前記反力が前記ケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、前記回転体から前記回転マスへの回転力の伝達を遮断する伝達機構と、
を備えることを特徴とする振動抑制装置。
【請求項2】
当該振動抑制装置は、
前記ケーブル、前記変換機構、前記回転マスおよび前記伝達機構をそれぞれ備える一対の振動抑制装置で構成されており、
前記構造物の振動中、前記一対の振動抑制装置の一方の回転マスからの前記反力が当該一方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、前記一対の振動抑制装置の他方の回転マスからの前記反力が当該他方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するとともに、前記他方の回転マスからの前記反力が当該他方のケーブルのテンションを低減させる方向に作用するときには、前記一方の回転マスからの前記反力が当該一方のケーブルのテンションを増大させる方向に作用するように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記変換機構は、前記ケーブルに接続されたねじ軸を有し、当該ねじ軸は、前記ケーブルを介して前記構造物の変位が伝達されるのに伴って、前記ねじ軸の軸線方向に往復移動するように構成されており、
前記回転体は、前記ねじ軸にボールを介して螺合し、前記ねじ軸の軸線方向への往復移動を回転運動に変換するナットで構成されており、
前記変換機構は、前記ねじ軸の軸線方向への往復移動を、当該ねじ軸が回転しないように案内するガイドをさらに有することを特徴とする、請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記伝達機構がワンウェイクラッチで構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記回転マスの回転を減衰させる減衰要素をさらに備えることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の振動抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−220504(P2011−220504A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92992(P2010−92992)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(504242342)株式会社免制震ディバイス (16)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(504242342)株式会社免制震ディバイス (16)
【Fターム(参考)】
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