説明

振動系における機械的動力損失を測定する方法

【課題】自動車のエンジンマウントやサスペンション等の振動絶縁装置又は緩衝装置の設計支援するため、振動系における機械的動力損失を測定する方法を提供する。
【解決手段】この系は、線形時不変であり、かつ、定常状態であると仮定する。この方法は、振動系と振動系の外側の部品との間の接続点を識別するステップを含む。窓付き時間領域において各接続点における加速度を測定し、窓付き時間領域に対して各接続点における力も決定する。高速フーリエ変換により時間領域値を周波数領域値に変換し、周波数領域加速度値を速度値に変換する。振動系の動力損失は、振動系へのパワーフローの1/2の合計に等しい。この場合、各パワーフローは、時間窓ごとの周波数領域において接続点における複素共役速度×力の積の実数部の1/2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動系における機械的動力損失を測定/推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車両においてエンジンマウント及びサスペンションのような振動絶縁装置又は緩衝装置の設計のような多くの状況では、車両の振動絶縁装置又は緩衝装置の設計を改善するため、振動絶縁装置又は緩衝装置の動力損失を決定するのが望ましい。
【0003】
車両のこのような振動絶縁装置又は緩衝装置のこれまでの設計の間、典型的に、機械的動力損失は、部品の上部又は下部接続点のどちらかの各点のみで、パワーフローとして推定されている。しかし、この推定されたパワーフローは、部品における動力損失を正確に表さず、又は、動力損失に正確に対応しない。更に、これら不正確さの結果として、車両の振動絶縁装置又は緩衝装置の設計が不正確又は不適切になることがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、振動系における動力損失を正確に推定する方法を提供する。
【0005】
本発明の方法では、振動系と振動系の外側の部品との間の接続点が識別される。その後、各接続点における加速度は、時間領域において振動の定常状態中に測定される。典型的に、このことは、各接続点において加速度計(加速度を測定するセンサ)を振動系に取り付けることにより達成される。
【0006】
その後、各接続点における力も、時間領域において決定される。この力を、振動系と振動系の外側の部品との間の各接続点において力センサを直接取り付けることより決定することができ、又は、この力を、既知の力を用いて振動系を励振することにより推定することができる。この場合、振動系への方向は、力の正の方向として定義される。
【0007】
その後、加速度及び力の両方の時間領域値は、典型的に、加速度及び力を複素数値にする高速フーリエ変換により、時間窓ごとに周波数領域に変換される。
【0008】
その後、振動系の接続点における速度値は、周波数領域における加速度をjωで除算することにより決定される。ここで、jは、−1の平方根であり、ωは、ラジアン/秒単位の角速度である。
【0009】
その後、振動系における動力損失は、振動系へのパワーフローの1/2を合計することにより決定される。パワーフローは、時間窓ごとの周波数領域における速度×力の積の実数部の1/2として定義される(この場合、速度又は力のどちらかは、複素共役値である)。
【0010】
添付図面と併せて解釈される以下の詳細な説明を参照して、本発明は、より良く理解されるであろう。幾つかの図面を通じて、同一の符号は、同様の部分を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】振動系を示す線図である。
【図2】図1に類似するが、振動系の変形例を示す図である。
【図3】本発明の方法を示すフローチャートである。
【図4】図3に類似するが、図3の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、図1を参照すると、自動車車両に用いられるタイプのサスペンション又はマウント(絶縁装置)のような振動系10が、線図的に示されている。図1に示される振動系10は、上部接続点14及び下部接続点16において、振動系10の外側の部品12と機械的に接続されている。一例として、接続点14,16の二つしか示されていないが、本発明の意図又は範囲から逸脱することなく、更なる接続点を用いて振動系10を振動系10の外側の部品12に取り付けることができることを理解されたい。
【0013】
振動系10における時間平均の機械的動力損失は、定常状態条件にある時、周波数領域において部品へのパワーフローの1/2に等しい。この場合、部品へのパワーフローは、各接続点14,16において起こりうるので、系10全体の動力損失を正確に決定するため、すべての接続点14,16に対して部品又は系10へのパワーフローを合計すべきである。
【0014】
【数1】

ここで、Π=位置aにおけるパワーフロー、
ω=角速度(ラジアン/秒)、
Re=実数部、
a=位置、
V=複素数値速度、
F=複素数値力、
H=共役転置。
【0015】
一般的に、速度V及び力Fは、回転自由度を含む6次元ベクトルである。従って、V=(Vx,Vy,Vz,ωx,ωy,ωz )Tであり、F=(Fx,Fy,Fz,Nx,Ny,Nz )Tである。ここで、Nは、トルク(ニュートン×メートル)であり、Tは、転置を示す。
【0016】
各位置aを通過する系10へのパワーフローは、周波数領域において力で乗じられた複素共役速度の実成分の1/2として定義される。図の例では、位置aは、接続点14,16である。
【0017】
上記で定義された周波数領域での動力損失Πは、時間領域における速度×力の時間平均値にも等しく、すなわち、以下の通りである。
【0018】
【数2】

ここで、T=時間窓、
t=時間、
v(t, ω)=tにおける瞬間速度、
f(t, ω) =tにおける瞬間力。
振動系10における時間平均の動力損失は、振動系10への全パワーフローの1/2に等しく、すなわち、
【数3】

ここで、cは、減衰係数(ニュートン×メートル/秒)である。この場合、積分は、振動系10の本体全体に対して実行され、下付き文字tは、時間平均値を示す。
【0019】
図1に示される、二つしか接続点を持たない、すなわち、上部接続点14及び下部接続点16を有する系の場合、結果として、振動系10における動力損失は、パワーフローにより以下の式に従って決定される。
【0020】
【数4】

【0021】
速度データ及び力データの両方を必要とする一つの方法は、各接続点14において加速度計20を振動系10に取り付け、各接続点14,16において力センサ22を振動系10に取り付けることになる。従って、各接続点14,16において振動系10に接続された加速度計20及び力センサ22の両方を用いて、加速度及び力の両方に関する正確な実時間データを各接続点14,16において取得することができる。高速フーリエ変換の後、周波数領域において加速度をjωで除算することにより速度に変換することができる。
【0022】
各接続点14,16において加速度計20を取り付けることは、重要でないが、多くの場合、力センサを挿入することは、重要である。しかし、各接続点14,16における動作力を、点14,16における動作加速度、及び、点14と点16と間の周波数応答関数により推定することができる。周波数応答関数は、図2に示されるように、各接続点14,16において加速度計20を取り付け、その後、接続点14,16の各々において既知の励振力を加えることにより測定される。ハンマ又はシェーカのような任意の従来の手段を用いて、力を加えることができる。外部接続点間の周波数応答関数行列は、
【数5】

である。
ここで、A=(周波数領域における)加速度、
F=(周波数領域における)力、
U=上部接続点14、
L=下部接続点16。
【0023】
加速度Aが、時間領域において測定された後、高速フーリエ変換(FFT)又はウェーブレット変換が、時間領域加速度を周波数領域加速度に変換するために実行される。その後、周波数領域における加速度A(ω)は、周波数領域における速度V(ω)に以下の通りに変換される。
【0024】
【数6】

【0025】
次に、上部接続点14及び下部接続点16における力は、以下の通りに推定される。
【0026】
【数7】

ここで、逆行列は、各周波数において獲得される。
【0027】
次に図3を参照すると、本発明の方法を表すフローチャートが示されている。ステップ50では、振動系10と振動系10の外側の部品12との間のすべての接続点を識別する。その後、ステップ50は、ステップ52へ進む。
【0028】
ステップ52では、各接続点において、又は、図1及び図2に示される例の場合、接続点14,16において、加速度を測定する。任意の従来の手段を用いて加速度を測定することができるが、このような加速度を、単に加速度計20を各接続点14,16において振動系10に取り付けることにより測定することができる。その後、ステップ52は、ステップ54へ進む。
【0029】
ステップ54では、ステップ52で測定された加速度値を周波数領域に変換する。フーリエ変換又はウェーブレット変換のような任意の従来の方法を用いて時間領域から周波数領域へ変換することができるが、好ましくは、高速にもかかわらず簡単な変換を実現する高速フーリエ変換(FFT)を用いる。その後、ステップ54は、ステップ56へ、及び、ステップ55を通ってステップ58へ進む。
【0030】
ステップ56では、周波数領域における加速度値を、この場合も周波数領域における速度値に変換する。このことは、jωで加速度を除算することにより達成される。
【0031】
ステップ57では、すべての外部接続点間の周波数応答関数を測定する。このことを、力センサと共に打撃ハンマ又はシェーカを励振端において用いることにより実施することができる。
【0032】
ステップ58では、上記の式に説明されているように、ステップ54,57の結果を用いて、すべての接続点における界面力を決定する。力が、力センサにより測定される場合、ステップ57,58は不要であり、単に、時間領域における測定済み力を周波数領域に変換する。
【0033】
ステップ60では、接続点ごとの周波数領域における複素共役速度×力の積の1/2により、振動系10へのパワーフローを計算する。
【0034】
ステップ62では、振動系10へのパワーフローの1/2を合計することにより、動力損失を決定する。
【0035】
前述から、本発明は、振動系における動力損失を正確に決定するため、簡単にもかかわらず効果的である方法を提供することが分かる。しかし、本発明が説明されたことから、多くの変形が、特許請求の範囲により定義される本発明の意図から逸脱することなく、当業者に明らかになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動系における機械的動力損失を測定する方法であって、
前記振動系と前記振動系の外側の部品との間の接続点を識別するステップと、
窓付き時間領域において各接続点における加速度を測定し、その後、時間領域における加速度が、周波数領域に変換されるステップと、
力センサにより直接測定することにより、又は、前記すべての外部接続点における前記測定された加速度若しくは測定された周波数応答関数から間接的に推定することにより、各接続点における前記時間窓内の力の周波数領域値を決定するステップと、
前記周波数領域において加速度値を速度値に変換するステップと、
前記すべての外部接続点に対する時間窓ごとの前記周波数領域における複素共役速度×力の積の実数部の1/4を合計するステップと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記加速度を測定する前記ステップは、前記振動系において加速度計を各接続点に取り付けるステップと、各加速度計からの出力を入力するステップとを含む方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記力を決定する前記ステップは、前記振動系において力センサを各接続点に取り付ける(挿入する)ステップと、各力センサからの出力を入力するステップとを含み、又は、加速度計により測定された前記加速度と、各接続点における加速度計及び力センサにより測定された前記周波数応答関数とから前記力を推定するステップを含む方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、加速度及び力の前記時間領域値を前記周波数領域に変換する前記ステップは、フーリエ変換を各時間窓に適用するステップを含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記フーリエ変換は、高速フーリエ変換である方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記加速度値を速度値に変換する前記ステップは、前記加速度値をjωで除算し、ここで、jは、−1の平方根であり、ωは、角速度であるステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−215562(P2012−215562A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49565(P2012−49565)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】