説明

挿入光源装置

【課題】挿入光源の永久磁石列に接触する電子ビームのハロー部の強度を高い応答速度で高感度に検出することができる電子ビーム検出器を備えた挿入光源装置を提供する。
【解決手段】本発明の挿入光源装置は、ギャップ空間を介して対向配置された一対の永久磁石列を備え前記永久磁石列間に挿入された電子ビームに蛇行運動させることによってシンクロトロン光を発生させる挿入光源と、前記電子ビームの強度を検出する電子ビーム検出器を備え、前記電子ビーム検出器は、半導体板と、前記半導体板を挟んで配置され且つ前記電子ビームの入射側から見て互いに重なる重なり部分を有する第1及び第2電極を備え、前記重なり部分は、前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面を含む平面の近傍に配置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿入光源と電子ビーム検出器を備える挿入光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
挿入光源は、ギャップ空間を介して対向配置された一対の永久磁石列を有しており、一対の永久磁石列が発生させる周期的磁場によってギャップ空間に挿入された電子ビームに蛇行運動させ、蛇行運動の各周期にシンクロトロン光を発生させる。各周期において発生するシンクロトロン光が互いに重なり合うために、挿入光源からは輝度の高い光が放出される。
【0003】
一対の永久磁石列は、多くの場合、永久磁石の特別な配列によって構成されている。ギャップ空間に挿入される電子ビームは、ビーム強度の大半が集中するコア部とその周辺に位置するハロー部からなり、有限のビーム広がりを持っている。
このハロー部の広がりは、僅かなビーム条件の変動により増加し、電子ビームのコア部の位置が変動していないのにもかかわらず、電子ビームのハロー部が永久磁石列を照射することがある。永久磁石は、電子線の照射を受けることで磁場強度を失うことが知られており、これを防ぐためには、永久磁石列を照射するハロー部の強度を常に監視し、かつ、その強度が閾値を越えた時に電子ビーム発生器の運転を停止させることが求められる。
【0004】
電子ビームのハロー部の強度を監視する方法としては、例えば熱蛍光線量計(TLD結晶)を検出器として用いる方法、光ファイバーを検出器として用いる方法(例えば、特許文献1を参照)、シンチレータを用いる方法(例えば、特許文献2を参照)、複数のトロイダルコイルを挿入光源のビームパイプに取り付け電子ビームの損失量をその差分から検知する方法(例えば、特許文献3を参照)が考えられる。
【非特許文献1】H. Henschel et al., "Fibre optical radiation sensing system for TESRA", Proc. of DIPAC 2001, p.73
【非特許文献2】H. Schlarb et al., "Expansion of the fast LINAC protection system for high duty cycle operation at the TESLA Test Facility", Proc. of EPAC 2002, Paris, France
【非特許文献3】J. Fusellier, J.M. Joly "Beam intensity monitoring and machine protection by toroidal transformers on the Tesla Test Facility", Proc. of EPAC 96, p.1591
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、熱蛍光線量計を用いる方法や光ファイバーを検出器として用いる方法は、応答速度が十分でない。また、シンチレータを用いる方法やトロイダルコイルを用いる方法は、検出感度が十分でない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、挿入光源の永久磁石列に接触する電子ビームのハロー部の強度を高い応答速度で高感度に検出することができる電子ビーム検出器を備えた挿入光源装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
本発明の挿入光源装置は、ギャップ空間を介して対向配置された一対の永久磁石列を備え前記永久磁石列間に挿入された電子ビームに蛇行運動させることによってシンクロトロン光を発生させる挿入光源と、前記電子ビームの強度を検出する電子ビーム検出器を備え、前記電子ビーム検出器は、半導体板と、前記半導体板を挟んで配置され且つ前記電子ビームの入射側から見て互いに重なる重なり部分を有する第1及び第2電極を備え、前記重なり部分は、前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面を含む平面の近傍に配置されることを特徴とする。
【0008】
第1及び第2電極間にバイアス電圧が印加された状態で第1及び第2電極の重なり部分に電子ビームが照射されるとこの重なり部分の半導体板内で電子−正孔対が発生し、発生した電子−正孔対が上記バイアス電圧によって第1及び第2電極に引き出され、出力信号となる。
【0009】
第1及び第2電極の重なり部分は、前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面を含む平面の近傍に配置されているので、挿入光源の永久磁石列に接触する電子ビームのハロー部の強度が強くなるに従って、第1及び第2電極の重なり部分に照射されるハロー部の強度も大きくなり、上記出力信号も大きくなる。従って、この出力信号の強度を検出することによって挿入光源の永久磁石列に接触する電子ビームのハロー部の強度を検出することができる。そして、この出力信号の強度が所定の閾値を超えているかどうかに基づいて挿入光源への電子ビームの挿入を停止させるかどうかの判断をすることによって、挿入光源の永久磁石列への電子ビームの過剰な照射を防ぐことができる。
【0010】
また、第1及び第2電極の重なり部分に電子ビームが照射されれば即座に上記出力信号が得られるので、高い応答速度で電子ビームのハロー部の強度の検出を行うことが可能である。また、上記出力信号はパルス幅が小さいので、電子−正孔対の量が少なくても出力波高が高くなり微量な電子−正孔対の検出が可能である。従って、本発明によれば、高い応答速度で電子ビームのハロー部の強度を高感度に検出することができる。
【0011】
さらに、従来技術の項に記載した方法は、電子ビームのハロー部の強度を直接観察するのではなく電子ビームが損失されたことによる二次的な現象(例えば、電磁シャワー)を観察しているので電子ビームが永久磁石列に照射される割合の算定には複雑なシミュレーションが必要であるが、本発明の挿入光源装置では、電子ビームのハロー部の強度を直接観察しているので、電子ビームが永久磁石列に照射される割合の算定が容易である。
【0012】
さらに、本発明の挿入光源装置の電子ビーム検出器は、(1)真空度悪化の原因となるガス放出が少ないため、超高真空中の使用に適しており、(2)サイズを小型化にすることが出来るので、スペースが限られた場所に設置するのに適しており、電極のサイズを小型化することで、浮遊電気容量を小さくて時間応答の速い素子を構成し、高周波特性を高めることができるという利点を有している。
【0013】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源よりも上流側に配置され、前記半導体板は、その一辺が前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面と同一平面上に位置するように配置され、前記重なり部分は、前記一辺に沿って帯状に設けられてもよい。
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源よりも下流側に配置され、前記半導体板は、その一辺が前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面よりも前記ギャップ空間側に位置するように配置され、前記重なり部分は、前記一辺に沿って帯状に設けられてもよい。
前記半導体板は、長方形状であり、前記半導体板の前記一辺は、長方形の長辺であってもよい。
前記半導体板は、ダイヤモンドからなってもよい。
前記半導体板の前記一辺の反対側がクランプ装置によって保持され、前記クランプ装置は、前記永久磁石列に取り付けられてもよい。
前記半導体板の前記一辺の反対側がクランプ装置によって保持され、前記クランプ装置は、別途設けられた真空装置内に配置されてもよい。
前記電子ビーム検出器は、前記永久磁石列ごとに設けられてもよい。
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源の上流側に前記電子ビームの進行方向に沿った複数箇所に配置されてもよい。
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源の上流側と下流側のそれぞれに配置されてもよい。
第1及び第2電極間にバイアス電圧を印加するバイアスバイアス電圧印加用電源と、電子ビーム検出器からの出力信号を検出してアラーム信号を出力する信号処理部とをさらに備えてもよい。
【0014】
ここで示した種々の実施形態は、互いに組み合わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下,本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す内容は,例示であって,本発明の範囲は,図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0016】
1.挿入光源装置とこれを用いた挿入光源システム
図1〜図4を用いて本発明の一実施形態の挿入光源装置1と、この挿入光源装置1を用いた挿入光源システムについて説明する。図1は、本実施形態の挿入光源装置を用いた挿入光源システムの構成を示す正面図である。図2(a)は、図1から挿入光源9の永久磁石列5と電子ビーム検出器11を抜き出して拡大した正面図である。図2(b)は、電子ビーム7の入射側から見た図2(a)の側面図である。図3(a)〜(c)は、図1中の電子ビーム検出器11の詳細図であり、図3(a)は、斜視図であり、図3(b)は、電子ビーム7の入射側から見た平面図(図2(b)の側面図に相当する。)であり、図3(c)は、図3(b)の裏面図である。図4は、クランプ装置23を用いて電子ビーム検出器11のクランプを行う方法を示す図2(b)に対応した側面図である。
【0017】
本実施形態の挿入光源装置1は、図1及び図2(a),(b)に示すように、ギャップ空間3を介して対向配置された一対の永久磁石列5を備え永久磁石列5間に挿入された電子ビーム7に蛇行運動させることによってシンクロトロン光を発生させる挿入光源9と、電子ビーム7の強度を検出する電子ビーム検出器11を備える。挿入光源9と電子ビーム検出器11は、同じ真空容器12内に配置されている。
以下、各構成要素について説明する。
【0018】
1−1.挿入光源
挿入光源9の永久磁石列5は、本実施形態では、図1に示すように、ホルダ10に保持されている。永久磁石列5は、本実施形態では、図2(a)に示すように、電子ビーム7の進行方向に周期的に変動する磁場がギャップ空間3に形成されるようにギャップ空間3側がN極の永久磁石5aとギャップ空間3側がS極の永久磁石5bが交互に並んで構成されるが、これ以外の構成であってもよい。永久磁石列5とは、少なくとも一部が永久磁石で構成されている磁石列を意味し、電磁石を含んでいてもよい。
【0019】
1−2.電子ビーム検出器
電子ビーム検出器11は、図2(a),(b)及び図3(a)〜(c)に示すように、半導体板13と、半導体板13を挟んで配置され且つ電子ビーム7の入射側から見て互いに重なる重なり部分17を有する第1電極19及び第2電極21を備え、重なり部分17は、永久磁石列5のギャップ空間3側の面5cを含む平面の近傍に配置される。重なり部分17は、面5cを含む平面上に配置してもよく、永久磁石列5に接触する電子ビーム7のハロー部7bの強度を検出可能な範囲で面5cよりもギャップ空間3に近づく側又はギャップ空間3から離れる側にずれた位置に配置してもよい。
【0020】
1−2−1.電子ビームのハロー部の強度を検出する原理
電子ビーム検出器11は、電子ビーム7のハロー部7bの強度を検出することができる。以下、その原理について説明する。
【0021】
電子ビーム7は、電子ビーム発生器22から出射され、挿入光源9のギャップ空間3に送られる。電子ビーム発生器22は、一例では、電子ビームを出射する電子銃と、出射された電子ビームを加速する加速器とで構成される。電子ビーム発生器22から出射された電子ビーム7は、ビームパイプ41内を通って真空容器12に送られる。電子ビーム7は、真空容器12内でギャップ空間3を通って進み、真空容器12から出射された後は、ビームパイプ43内を通ってビームダンプ45に衝突する。電子ビーム発生器22からビームダンプ45までの空間は、超高真空に保持される。
【0022】
電子ビーム7は、図2(b)に示すように、ビーム強度の大半が集中するコア部7aとその周辺に位置するハロー部7bからなり、有限のビーム広がりを持っている。正常な状態では、電子ビーム7は、図1に示すようにギャップ空間3の中央を通過し、ハロー部7bの広がりが小さいので、電子ビーム7のハロー部7bは永久磁石列5に接触しない(別の表現では、永久磁石列5に接触する電子ビーム7のハロー部7bの強度は、極めて小さい。)。
【0023】
電子ビーム発生器22等になんらかの異常が発生した場合、電子ビーム7の位置がずれたり、ハロー部7bの広がりが大きくなったりする。この場合に、電子ビーム7のハロー部7bが永久磁石列5に接触する(別の表現では、永久磁石列5に接触する電子ビーム7のハロー部7bの強度が大きくなる。)。ハロー部7bが永久磁石列5に触れると永久磁石列5に含まれる磁石5b,5cの磁力が低下するという問題が生じるので、このような状態はできるだけ速く検知して挿入光源9への電子ビーム7の入射を停止させることが必要である。
【0024】
図1及び図2(a),(b)に示すように、本実施形態の挿入光源装置1では、第1電極19と第2電極21の重なり部分17が永久磁石列5のギャップ空間3側の面5cを含む平面の近傍に配置されている。重なり部分17がこのような位置に配置されているので、電子ビーム7のハロー部7bが永久磁石列5に接触するような状態になった場合には、重なり部分17にも電子ビーム7のハロー部7bが接触する。このとき、ハロー部7bに含まれる高エネルギーの電子によって半導体13内で電子−正孔対が生成される。生成された電子−正孔対は、第1電極19と第2電極21の間に印加されたバイアス電圧によって第1電極19と第2電極21に引き出され(つまり、正孔と電子の一方が一方の電極に移動し、正孔と電子の他方が他方の電極に移動し)、出力信号となる。この出力信号の強度は、電子ビーム7のハロー部7bの強度に依存しているので、この出力信号を検出することによって電子ビーム7のハロー部7bの強度を検出することができる。
【0025】
1−2−1.電子ビーム検出器の配置
電子ビーム検出器11は、本実施形態では、図2(a),(b)に示すように、挿入光源9よりも上流側に配置され、半導体板13は、その一辺13aが永久磁石列5のギャップ空間3側の面5cと同一平面上に位置するように配置され、重なり部分17は、前記一辺13aに沿って帯状に設けられる。電子ビーム検出器11は、永久磁石列5ごとに設けられる。
【0026】
半導体板13の一辺13aは、面5cよりもギャップ空間3に近づく側又はギャップ空間3から離れる側にずれていてもよい。但し、前者の場合、半導体板13が電子ビーム7に接触して電子ビーム7の品質を悪化させる場合があり、後者の場合、重なり部分17が電子ビーム7から離れるのでハロー部7bの強度の検出が行いにくくなる。従って、半導体板13の一辺13aは、永久磁石列5のギャップ空間3側の面5cと同一平面上に位置することが好ましい。
【0027】
電子ビーム検出器11は、本実施形態では、図2(a),(b)に示すように、永久磁石列5ごとに1つずつ設けられるが、図5(a)に示すように電子ビーム7の通り道を囲むように4つの電子ビーム検出器11を設けてもよく、図5(b)に示すように、電子ビーム7の通り道に開口を有する電子ビーム検出器11を設けてもよい。図5(a),(b)の何れの場合も、左右方向に広がる電子ビーム7のハロー部7bの強度を検出することができる。
【0028】
電子ビーム検出器11は、別の実施形態では、図6(a),(b)に示すように、挿入光源9よりも下流側に配置され、半導体板13は、その一辺13aが永久磁石列5のギャップ空間13側の面5cよりもギャップ空間3側に位置するように配置され、重なり部分17は、前記一辺13aに沿って帯状に設けられてもよい。図6(a)は、図2(a)に対応した正面図であり、図6(b)は、電子ビーム7の出射側から(図6(a)の第1電極19が見える側から)見た図6(a)の側面図である。この実施形態では、既にシンクロトロン光放射が行われた後の電子ビーム7の観測を行うので、電子ビーム検出器11を電子ビーム7に近づけて電子ビーム7の品質を悪化させても問題ない。従って、この実施形態では、電子ビーム検出器11を電子ビーム7に近接させることが容易であり、電子ビーム7のハロー部7bの強度の検出を行いやすい。また、電子ビーム7のハロー部7bが永久磁石列5に接触する状態になる前に電子ビーム7の異常を検出できるので、永久磁石列5の磁力低下をさらに効果的に抑制することができる。
【0029】
電子ビーム検出器11は、さらに別の実施形態では、図7(a)に示すように、挿入光源9の上流側と下流側のそれぞれに配置してもよく、図7(b)に示すように、挿入光源9の上流側に電子ビーム7の進行方向に沿った複数箇所に配置してもよい。図7(a)又は(b)の構成によれば、複数箇所に設けられた電子ビーム検出器11のうちの少なくとも1つからの出力信号が閾値を超えた場合に挿入光源9への電子ビーム7の入射を停止させることができ、より効果的に挿入光源9を保護することができる。
【0030】
1−2−2.半導体板
半導体板13は、シリコン系半導体、ゲルマニウム系半導体、ガリウム砒素系半導体からなってもよいが、ダイヤモンドからなることが好ましい。ダイヤモンドは、(1)耐久性が高いため長期間の使用に適しており、(2)機械的高度が高いので樹脂や金属などの枠を用いることなくクランプすることが容易であり、(3)印加するバイアス電圧を比較的高くできるという特徴を有している。上記(2)の特徴のため、ダイヤモンドを用いた電子ビーム検出器11は、超高真空中での使用に適しており、また、枠に邪魔されることなく重なり部分17を電子ビーム7のハロー部7bに近づけることができるという利点がある。また、上記(3)の特徴のため、ダイヤモンドを用いた電子ビーム検出器11は、微弱な信号を捉えるのに適している。半導体板13は、本実施形態では、図2(b)に示すように、長方形状であるが、半導体板13の形状は、長方形状以外であってもよい。半導体板13の厚さは、出力信号の取り出しが可能な範囲であれば特に限定されず、例えば、0.1〜5mm程度であり、具体的には、例えば、0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1,2,3,4又は5mmである。半導体板13の厚さは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ダイヤモンド板の製造方法は、特に限定されないが、ダイヤモンド板は、例えば、メタンと水素を用いたプラズマCVD法で形成することができる(例えば、特開2006−156464号公報を参照)。
【0031】
1−2−3.第1電極及び第2電極
第1電極19及び第2電極21の材料や形成方法は特に限定されない。第1電極19及び第2電極21は、例えば、アルミニウム等の金属を蒸着することによって形成することができる。第1電極19及び第2電極21は、ホウ素等のへビードープすることによって電気伝導度を高めた材料で形成してもよい。
【0032】
第1電極19及び第2電極21の重なり部分17は、本実施形態では、図2(b)に示すように、長方形状の半導体板13の長辺に沿って帯状に設けられる。一般に電子ビーム7のハロー部7bは、不規則な形状を有しているので、長方形の長辺に沿って重なり部分17を形成することによって、広い範囲で電子ビーム7のハロー部7bの強度の検出を行うことが容易であり、また、信号線取り付け部を小型化できるので、信号特性が向上することが期待できる。また、第1電極19及び第2電極21の重なり部分17は、長方形状の半導体板13の短辺に沿って帯状に設けてもよい(図9(a),(b)を参照)。また、重なり部分17の形状は、帯状以外であってもよい。
【0033】
1−3.クランプ装置
本実施形態では、図4に示すように、半導体板13の前記一辺13aの反対側がクランプ装置23によって保持される。本実施形態では、図1に示すように、クランプ装置23は、ホルダ10を介して永久磁石列5に取り付けられる。ギャップ空間3の間隔を調節するためにホルダ10には、通常、電子ビーム7の進行方向に垂直な面内で永久磁石列5を移動させる駆動装置(図示せず)が取り付けられているが、クランプ装置23をホルダ10に取り付けることによって、永久磁石列5の移動に合わせてクランプ装置23を移動させるための駆動装置を別途設ける必要がない。
【0034】
また、別の実施形態では、図8に示すように、電子ビーム検出器11とクランプ装置23は、別途設けた真空容器47内に配置してもよい。この場合、挿入光源9と電子ビーム検出器11は、別々の真空容器内に配置される。このような構成では、永久磁石列5の移動に合わせてクランプ装置23を移動させるための駆動装置が別途必要になるが、電子ビーム検出器11のメンテナンスが容易になるという利点がある。
【0035】
1−4.インターロック装置
次に、電子ビーム検出器11からの出力信号を検出し、アラーム信号を出力するインターロック装置について説明する。このインターロック装置は、電子ビーム検出器11と、電子ビーム検出器11の第1電極19と第2電極21の間にバイアス電圧を印加するバイアス電圧印加用電源29と、電子ビーム検出器11からの出力信号を検出してアラーム信号を出力する信号処理部31とで構成される。
バイアス電圧印加用電源29は、本実施形態では第1電極19に電気的に接続され、第1電極19と第2電極21の間にバイアス電圧を印加する。第1電極19と第2電極21の間に印加するバイアス電圧は、特に限定されないが、例えば、50〜300V、具体的には、例えば、50,100,150,200,250,300Vである。バイアス電圧は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。バイアス電圧が小さすぎると出力信号のパルス波高が低くなって検出感度が悪化し、バイアス電圧が大きすぎると、半導体板13が破損する場合があるからである。
信号処理部31は、本実施形態では、図1及び図4に示すように電子ビーム検出器11の第2電極21に電気的に接続されているが、例えば、第1電極19とバイアス電圧印加用電源29の間に配置してもよい。信号処理部31は、電子ビーム検出器11からの出力信号を検出し、出力信号の強度が所定の閾値を超えたときにアラーム信号を出力する。このアラーム信号の出力を利用して挿入光源9への電子ビーム7の入射を停止させることによって永久磁石列5の劣化を防ぐことができる。挿入光源9への電子ビーム7の入射を停止させる方法は、特に限定されず、電子ビーム発生器22からの電子ビーム7の出射を停止させることによって行ってもよく、電子ビーム発生器22と挿入光源9の間に偏向電磁石を配置し、アラーム信号の出力に従ってこの偏向電磁石を作動させて電子ビーム7の進行方向を変化させることによって行ってもよい。
【0036】
バイアス電圧印加用電源29は、本実施形態では、図1及び図4に示すように、高電圧ケーブル27とクランプ装置23を介して第1電極19に電気的に接続される。信号処理部31は、本実施形態では、図1及び図4に示すように、高周波用信号ケーブル30とクリップ24を介して第2電極21に電気的に接続される。真空容器12の内外の高周波用信号ケーブル30は、本実施形態では、図1に示すように、高周波用電流導入端子33を介して互いに接続されている。高周波用信号ケーブル30と高周波用電流導入端子33を介して電子ビーム検出器11からの出力信号を信号処理部31に送ることによって帯域が1GHz程度以上の信号を確実に読み出すことができる。また、この場合、出力信号のパルス毎の出力が時間的に広がることがなく、出力波高の低減が抑制され、検出感度を高く維持したまま、電子ビーム検出器11からの出力信号が信号処理部31に伝送される。
【0037】
信号処理部31は、本実施形態では、波高分析器(ディスクリミネータ)からなる。波高分析器は、入力信号の波高がしきい値を越えているかを判別し、閾値を超えている場合にアラーム信号を出力する。信号処理部31は、別の例では、高速応答でアナログ・デジタルの変換を行うことができるフラッシュADCと、フラッシュADCからのデジタル波形を解析して入力信号の強度が閾値を超えているかどうかを判断して超えている場合にアラーム信号を出力する波形解析ソフトウエアで構成してもよい。
【0038】
本実施形態では、図1に示すように、信号処理部31からのアラーム信号は、信号伝送ケーブル37を介して電子ビーム発生器22に送られ、電子ビーム発生器22の動作を停止させる。
【0039】
2.実証実験
本発明の挿入光源装置の電子ビーム検出器を用いれば、電子ビームの強度を高感度に検出することができることを実証する実験を行った。
この実験は、図9(a)に示すような形状のプラズマCVD法によって作製したダイヤモンド板の両面に物理的蒸着法によりAl電極を形成したものを用いて行った。ダイヤモンド板のサイズは、26mm×10mm×0.3mmである。Al電極の形状は、図9(a)に示すものである。Al電極(信号用)の形状は、図9(b)に示す通りである。ダイヤモンド板の両面のAl電極の重なり部分のサイズは、1mm×5mmとした。また、図10に示すように、Al電極(バイアス電圧用)と電気的に接続されるようにダイヤモンド板の一端をクランプ装置でクランプし、Al電極(信号用)と電気的に接続されるようにクリップを取り付けた。クランプ装置は、高電圧ケーブルを介してバイアス電圧印加用電源(200V)に接続させた。クリップには、高周波用信号ケーブル(特性インピーダンス50Ω)の一端を取り付け、高周波用信号ケーブルの他端をオシロスコープに接続した。
【0040】
このような構成において、ダイヤモンド板の両面のAl電極の重なり部分に8GeVの電子を約6.4×104個照射した。オシロスコープで観察された波形を図11に示す。図11によると、パルス高0.19V、パルス幅FWHM0.6nsのピークが得られたことが分かる。また、このパルスの時間積分は、0.10V・nsであった。この時間積分の値は、
【0041】
(0.10×10-9[V・sec]/50[Ω])/1.6×10-19[C]
=1.25×107(個の電子−正孔対)
により、1.25×107個の電子−正孔対に相当することが分かる。
【0042】
約6.4×104個の電子によって1.25×107個の電子−正孔対が生成されたことから、ダイヤモンド板に入射した電子数の約200倍の電子−正孔対が生成されたことが分かる。この結果は、ダイヤモンド板を用いた電子ビーム検出器の感度が極めて高いことを示している。
【0043】
また、図9及び図10の構成において、印加するバイアス電圧を10V,20V、50V、100V又は200Vとし、それぞれのバイアス電圧を印加した状態で一定量の8GeVの電子を照射したときのパルス波高を測定することによってパルス波高のバイアス電圧依存性を調べた。その結果を図12(a)及び(b)に示す。図12(a)及び(b)を参照すると、バイアス電圧を大きくするほどパルス波高が高くなったことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態の挿入光源装置を用いた挿入光源システムの構成を示す正面図である。
【図2】図2(a)は、図1から挿入光源の永久磁石列と電子ビーム検出器を抜き出して拡大した正面図であり、図2(b)は、電子ビームの入射側から見た図2(a)の側面図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、図1中の電子ビーム検出器の詳細図であり、図3(a)は、斜視図であり、図3(b)は、電子ビームの入射側から見た平面図であり、図3(c)は、図3(b)の裏面図である。
【図4】クランプ装置を用いて電子ビーム検出器のクランプを行う方法を示す図2(b)に対応した側面図である。
【図5】図5(a),(b)は、それぞれ、電子ビーム検出器の別の構成例を示す図2(b)に対応した側面図である。
【図6】図6(a)は、図2(a)に対応した正面図であり、図6(b)は、電子ビームの出射側から見た図6(a)の側面図である。
【図7】図7(a),(b)は、それぞれ、電子ビーム検出器の別の配置例を示す図2(a)に対応した正面図である。
【図8】本発明の別の実施形態の挿入光源装置を用いた挿入光源システムの構成を示す正面図である。
【図9】図9(a)は、本発明の挿入光源装置の電子ビーム検出器による電子ビームの高感度検出の実証実験に用いた電子ビーム検出器の構成を示す斜視図であり、図9(b)は、図9(a)中のAl電極(信号用)の平面図である。
【図10】図9(a)の電子ビーム検出器のクランプ方法を示す写真である。
【図11】図9(a)の構成の電子ビーム検出器を用いた電子ビームの高感度検出の実証実験の結果を示すグラフである。
【図12】図12(a),(b)は、図9(a)の構成の電子ビーム検出器のバイアス電圧依存性試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
1:挿入光源装置 3:ギャップ空間 5:永久磁石列 5a:ギャップ空間側がN極の永久磁石 5b:ギャップ空間側がS極の永久磁石 5c:永久磁石列のギャップ空間側の面 7:電子ビーム 7a:コア部 7b:ハロー部 9:挿入光源 10:ホルダ 11:電子ビーム検出器 12:真空容器 13:半導体板 13a:半導体板の一辺 17:第1電極と第2電極の重なり部分 19:第1電極 21:第2電極 22:電子ビーム発生器 23:クランプ装置 24:クリップ 27:高電圧ケーブル 29:バイアス電圧印加用電源 30:高周波用信号ケーブル 31:信号処理部 33:高周波用電流導入端子 37:信号伝送ケーブル 41:ビームパイプ 43:ビームパイプ 45:ビームダンプ 47:真空容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギャップ空間を介して対向配置された一対の永久磁石列を備え前記永久磁石列間に挿入された電子ビームに蛇行運動させることによってシンクロトロン光を発生させる挿入光源と、前記電子ビームの強度を検出する電子ビーム検出器を備え、
前記電子ビーム検出器は、半導体板と、前記半導体板を挟んで配置され且つ前記電子ビームの入射側から見て互いに重なる重なり部分を有する第1及び第2電極を備え、
前記重なり部分は、前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面を含む平面の近傍に配置されることを特徴とする挿入光源装置。
【請求項2】
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源よりも上流側に配置され、
前記半導体板は、その一辺が前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面と同一平面上に位置するように配置され、
前記重なり部分は、前記一辺に沿って帯状に設けられる請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源よりも下流側に配置され、
前記半導体板は、その一辺が前記永久磁石列の前記ギャップ空間側の面よりも前記ギャップ空間側に位置するように配置され、
前記重なり部分は、前記一辺に沿って帯状に設けられる請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記半導体板は、長方形状であり、前記半導体板の前記一辺は、長方形の長辺である請求項2又は3に記載の装置。
【請求項5】
前記半導体板は、ダイヤモンドからなる請求項1〜4の何れか1つに記載の装置。
【請求項6】
前記半導体板の前記一辺の反対側がクランプ装置によって保持され、
前記クランプ装置は、前記永久磁石列に取り付けられる請求項1〜5の何れか1つに記載の装置。
【請求項7】
前記半導体板の前記一辺の反対側がクランプ装置によって保持され、
前記クランプ装置は、別途設けられた真空装置内に配置される請求項1〜5の何れか1つに記載の装置。
【請求項8】
前記電子ビーム検出器は、前記永久磁石列ごとに設けられる請求項1〜7の何れか1つに記載の装置。
【請求項9】
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源の上流側に前記電子ビームの進行方向に沿った複数箇所に配置される請求項1〜8の何れか1つに記載の装置。
【請求項10】
前記電子ビーム検出器は、前記挿入光源の上流側と下流側のそれぞれに配置される請求項1〜9の何れか1つに記載の装置。
【請求項11】
第1及び第2電極間にバイアス電圧を印加するバイアスバイアス電圧印加用電源と、電子ビーム検出器からの出力信号を検出してアラーム信号を出力する信号処理部とをさらに備える請求項1〜10の何れか1つに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−32623(P2009−32623A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197969(P2007−197969)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(599112582)財団法人高輝度光科学研究センター (35)
【Fターム(参考)】