説明

排ガスセンサの温度推定装置

【課題】内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサについて、その温度を推定する際の初期値を精度良く算出することのできる排ガスセンサの温度推定装置を提供する。
【解決手段】内燃機関2の排気通路10には、酸素センサ18が設けられている。この酸素センサ18の温度は、内燃機関2の稼動時においては、内燃機関2の回転速度と負荷とに基づき算出される。一方、内燃機関2が停止した後、再度始動されるときには、内燃機関2の停止時間に基づき、酸素センサ18の温度が外気の温度へと変化する際の進行状況が把握されることで酸素センサ18の温度の初期値が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサについて、その温度を推定する排ガスセンサの温度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の排ガスセンサの温度推定装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、酸素濃度が所定の濃度よりもリーンであるかリッチであるかに応じて略2値的な値を出力する酸素センサについて、その温度を推定するものも提案されている。この温度推定装置では、内燃機関の運転状態に基づき、排ガスとの間の熱伝導に伴う酸素センサの温度変化を算出するようにしている。更に、内燃機関の始動時においては、大気の温度や内燃機関の温度に基づき、酸素センサの温度の初期値を設定している。
【0003】
ただし、内燃機関の停止から再始動までの時間が短いときには、酸素センサの温度が大気の温度や内燃機関の温度と大きく異なるため、これらによっては酸素センサの初期値を精度良く設定することができない。このため、初期値の設定後においても、酸素センサの温度を精度良く推定することができない。
【0004】
なお、上記酸素センサに限らず、内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサにあっては、その温度の推定に際して初期値の設定を精度良く行なうことができないこうした実情も概ね共通したものとなっている。
【特許文献1】特開2003−315305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサについて、その温度を推定する際の初期値を精度良く算出することのできる排ガスセンサの温度推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサについて、その温度を推定する排ガスセンサの温度推定装置において、前記内燃機関の稼動時において、該内燃機関の運転状態に応じて前記排ガスセンサの温度を推定する温度推定手段と、外気の温度及びその相当値のいずれかを検出する検出手段の検出結果を取り込む手段と、前記内燃機関の停止時間を計時する計時手段と、前記内燃機関が停止してから前記排ガスセンサの温度が外気の温度へと変化する際の進行状況に基づき、前記内燃機関の停止後の前記排ガスセンサの温度を算出するための算出情報を記憶するための記憶手段と、前記計時手段によって計時される停止時間と、前記温度推定手段によって推定される温度と、前記検出手段によって検出される温度とを前記算出情報に反映させることで、前記温度推定手段によって用いられる前記排ガスセンサの温度の初期値を設定する初期値設定手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成において、排ガスセンサは、内燃機関の停止後、その周囲の温度と熱的な平衡状態へと移行していく(外気の温度へと変化していく)。ただし、内燃機関の停止から次の始動までの時間が短いときには、排ガスセンサが未だその周囲との間で熱的に平衡な状態を確立していない。そして、このときには、排ガスセンサの温度は、外気の温度と異なるものとなっている。この点、上記構成によれば、排ガスセンサが未だ熱的な平衡状態となっていないときであれ、内燃機関の停止時間から外気の温度へと変化する際の進行状況が把握できるために、内燃機関の停止後の排ガスセンサの温度を算出することができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記算出情報は、前記進行状況を定量化したパラメータであって且つ前記停止時間に応じて設定される補正係数を、前記温度推定手段によって推定される前記排ガスセンサの温度から前記検出手段によって検出される温度を減算したものに乗算することで、前記排ガスセンサの温度と前記周囲の温度とについての前記内燃機関の停止後の差を算出する情報と、前記差と前記周囲の温度とに基づき、前記内燃機関の停止後の前記排ガスセンサの温度を算出する情報とを含むものであることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、排ガスセンサの温度と周囲の温度との差が停止時間が長いほど小さくなることに鑑み、この差を算出することができる。そして、この差と、周囲の温度の検出値とに基づき、内燃機関の停止後の排ガスセンサの温度を算出することができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2において、前記内燃機関の出力軸の回転の停止時に前記内燃機関の排気系と吸気系とが連通状態にあるか否かを判断する連通状態判断手段を更に備え、前記算出情報は、前記連通状態判断手段により前記連通状態にあると判断されるときには、該連通状態にないと判断されるときよりも前記外気の温度へと変化する速度が上昇するとの条件で前記内燃機関の停止後の前記排ガスセンサの温度を算出する情報であることを特徴とする。
【0012】
上記構成において、内燃機関の吸気系と排気系とが連通しているときには、排気系の通気性が向上することに起因して、外気の温度へと変化する速度が上昇することを、換言すれば、排ガスセンサの温度低下が促進されることを、前記排ガスセンサの温度の算出に反映させることができる。
【0013】
なお、この請求項3が請求項2の構成を有する場合には、排ガスセンサの温度の算出に際し、連通状態にあるときの方がないときよりも小さな補正係数を設定することで、連通状態にあるときの方が連通状態にないと判断されるときよりも外気の温度へと変化する速度が上昇するとの条件を設定することが望ましい。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、前記内燃機関の吸入空気量を検出する検出手段の検出結果を取り込む手段と、前記内燃機関のイグニッションスイッチのオン・オフ状態を判断するイグニッション判断手段と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止したか否かを判断する停止状態判断手段とを更に備え、前記算出情報は、前記イグニッションスイッチがオフ状態であって且つ前記内燃機関の出力軸が回転している間、前記内燃機関の吸入空気量が多いほど前記外気の温度へと変化する速度が上昇するとの条件で前記排ガスセンサの温度を算出するための情報を含むことを特徴とする。
【0015】
上記構成において、イグニッション判断手段によりイグニッションスイッチがオフであると判断されるときには、内燃機関においては燃料噴射とこれに伴う燃焼とが生じず、その出力軸の回転は、慣性によりもたらされる。このため、出力軸の回転速度は、イグニッションスイッチがオフとなった後、減衰しつつもしばらくは継続される。そして慣性により出力軸が回転を継続する間は、吸気系から吸入された空気が排気系へと流入し、この排気系に流入する空気により排ガスセンサの温度が低下する。この温度の低下速度は、排気系に流入する空気量が多いほど大きくなる。この点、上記構成によれば、吸入空気量が多いほど温度の低下が大きいことを、排ガスセンサの温度の算出に反映させることができる。
【0016】
なお、この請求項4が請求項2の構成を有する場合には、排ガスセンサの温度の算出に際し、吸入空気量が多いほど小さな補正係数を設定することで、内燃機関の吸入空気量が多いほど前記外気の温度へと変化する速度が上昇するとの条件を設定することが望ましい。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記排ガスセンサは、酸素濃度が所定の濃度よりもリーンであるかリッチであるかに応じて略2値的な値を出力する酸素センサであることを特徴とする。
【0018】
上記酸素センサは、通常、同センサへの電圧印加に対する応答等によってその温度を検出することができない。このため、酸素センサの温度を直接検出する手段を設けない場合には、その温度を推定することが望まれる。特に空燃比フィードバック制御を精度良く行うためには、酸素センサが活性状態となってから同制御を行うことが望まれるため、酸素センサが活性状態となる温度になっているか否かを精度良く推定することが望まれる。このため、この請求項5によれば、請求項1〜4の作用効果を特に好適に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる排ガスセンサの温度推定装置を酸素センサの温度推定装置に適用した第1の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1に、本実施形態におけるエンジンシステムの構成を示す。
【0021】
図示されるように、内燃機関2の吸気通路4の上流には、エアフローメータ6が設けられている。そして、エアフローメータ6の下流には、スロットルバルブ8が設けられている。吸気通路4は、スロットルバルブ8の下流において分岐し、内燃機関2の各気筒(ここでは、5気筒)のそれぞれに吸入空気を供給する。
【0022】
一方、内燃機関2の各気筒において燃焼に供された空気は、排気通路10に排出される。排気通路10には、排ガスを浄化すべく、上流側触媒12及び下流側触媒14が備えられている。そして、排気通路10のうち上流側触媒12の上流に空燃比センサ16が設けられている。また、上流側触媒12と下流側触媒14との間には、酸素センサ18が設けられている。
【0023】
ここで、空燃比センサ16は、酸素濃度に比例して限界電流を出力する限界電流式のセンサである。一方、酸素センサ18は、酸素濃度に応じて起電力が変化するジルコニアを備えて構成されており、酸素濃度が所定の濃度(理論空燃比の酸素濃度)よりもリーンかリッチかに応じて略2値的な値を出力するものである。これら空燃比センサ16及び酸素センサ18の近傍には、これらを暖機すべくヒータ20,22が備えられている。
【0024】
また、エンジンシステムは、内燃機関2の出力軸であるクランク軸の回転角度を検出するホール式のクランク角センサ24や、外気温を検出する外気温センサ26等を備えている。
【0025】
電子制御装置(ECU30)は、中央処理装置(CPU32)、揮発性のメモリ(RAM34)、ECU30への給電の有無にかかわらず常時給電がなされるメモリであるバックアップRAM36、読み出し専用メモリ(ROM38)を備えて構成されている。ECU30には、イグニッションスイッチ40、メインリレー42、給電ラインL1を介してバッテリBの電力が給電されている。
【0026】
ここで、メインリレー42は、イグニッションスイッチ40がオンされるか、信号ラインL2から駆動信号が入力されることで、バッテリBと給電ラインL1とを短絡させる。このため、イグニッションスイッチ40がオンとされると、メインリレー42によってバッテリBと給電ラインL1とが導通状態とされるため、ECU30にバッテリBの電力が供給される。
【0027】
一方、ECU30では、バッテリBにより電力が供給されているときに、信号ラインL3を介してイグニッションスイッチ40のオン・オフ状態を監視する。そして、イグニッションスイッチ40がオフとされると、ECU30の停止の前に行なう後処理を完了するまでECU30への給電を継続するために、信号ラインL2を介してメインリレー42に駆動信号を出力する。これにより、イグニッションスイッチ40がオフとされた後であっても、ECU30において上記後処理が完了するまではバッテリBの電力がメインリレー42を介してECU30に供給される。
【0028】
イグニッションスイッチ40がオンとされると、ECU30では、ROM38に記憶された様々なプログラムを実行することで、内燃機関2の出力を制御する。特にECU30では、内燃機関2の排気通路10に排出される排ガスを上流側触媒12及び下流側触媒14によって適切に浄化するために、空燃比フィードバック制御を行っている。この空燃比フィードバック制御は、空燃比センサ16や酸素センサ18の検出結果に基づき、実際の空燃比を理論空燃比にフィードバック制御するものである。ここで、空燃比センサ16と酸素センサ18とを併せ用いるのは、酸素センサ18によって検出される空燃比の基準出力(理論空燃比に対応する出力)を正確に理論空燃比に対応する出力とするためである。
【0029】
これら空燃比センサ16や酸素センサ18は、上記態様にて酸素濃度に応じた出力をするための活性温度を有している。このため、これら空燃比センサ16や酸素センサ18が活性温度に達していないときには、空燃比を検出することができず、空燃比フィードバック制御を行うことができない。一方、下流側触媒14の下流に排出される排ガス特性を良好に保つ観点からは、空燃比フィードバック制御を極力早期に開始することが望まれている。特に、内燃機関2の様々な箇所の経時変化等によっても排気通路10に排出される排ガスの特性が悪化することがあることに鑑みれば、空燃比フィードバック制御を早期に実行することが排ガス特性を良好に保つ上で有効である。
【0030】
ここで、上記空燃比センサ16は、その素子抵抗の測定等によってその温度を測定することができるため、活性状態となるタイミングを正確に把握することができる。これに対し、酸素センサ18は、こうした態様での温度測定をすることができない。このため、専用の温度センサ等を設けることによる部品点数の増加を回避するためには、温度を推定することが望まれる。この酸素センサ18の温度の推定は、ヒータ22からの受熱量と排気通路10に排出される排ガスからの受熱量、更には、酸素センサ18の放熱量等によって算出可能である。このため、内燃機関2の稼動時には、内燃機関2の運転状態に基づき酸素センサ18の温度上昇量を推定することができる。そして、内燃機関2の始動時、酸素センサ18が周囲との間で熱的な平衡状態となっているなら、酸素センサ18の温度はその周囲の温度(外気温)と等しくなっている。このため、酸素センサ18の温度を推定する際の初期値を、外気温センサ26の検出値とすることが考えられる。
【0031】
ただし、内燃機関2が一旦停止してから再度始動するまでの期間が短いときには、酸素センサ18は、未だその周囲との熱的な平衡状態を形成していない。このため、酸素センサ18の温度は、外気温よりも高いと考えられる。そしてこうした状況下、外気温によって初期値を設定した後、内燃機関2の運転状態に応じて温度上昇量を推定する場合には、酸素センサ18の温度を精度良く推定することができない。特にこの場合には、実際には活性状態となっているにもかかわらず、未だ活性状態にないとの判断により空燃比フィードバック制御が開始されないという事態が生じ、排ガス特性を良好に保つ上で好ましくない事態を招く。更に、酸素センサ18の初期値を実際の温度よりも低い値とする場合には、ヒータ22に無駄な通電がなされることともなる。
【0032】
そこで本実施形態では、内燃機関2が停止してから酸素センサ18の温度が外気温へと変化する際の進行状況に基づき、内燃機関2の停止後の酸素センサ18の温度を算出する。以下、これについて図2に基づき説明する。
【0033】
図2は、上記温度の算出にかかる処理の手順を示す。この処理は、ROM38内に記憶されているプログラムが、CPU32により、例えば所定周期で繰り返し実行されることで行なわれる。
【0034】
この一連の処理では、まずステップS10において、クランク角センサ24の検出値に基づき、クランク軸が回転しているか否かを判断する。そして、クランク軸が回転していると判断されると、ステップS12に移行する。ステップS12では、内燃機関2の回転速度及び負荷とヒータ22の制御量とに基づき酸素センサ18の温度を推定する。ここで、回転速度と負荷とは、クランク角センサ24とエアフローメータ6とを用いて検出される。これら回転速度NE及び負荷Qの2つのパラメータは、排気通路10に排出される排ガスの温度と相関を有する。このため、これら回転速度NE及び負荷Qから排ガスの温度Tgを下式(c1)にてマップ演算する。
【0035】
Tg=map(NE,Q) …(c1)
一方、ヒータ22の制御量であるDutyにより、テーブルデータにてヒータ22の温度Thが定まる(下式(c2))。
【0036】
Th=table(Duty) …(c2)
酸素センサ18の温度は、排ガスからの受熱量とヒータ22からの受熱量等によって定まり、これら受熱量は、排ガスの温度やヒータ22の温度、酸素センサ18の温度に応じて定まる。このため、本実施形態では、今回の算出タイミングにおける酸素センサ18の温度T(n)を、前回の算出タイミングにおける酸素センサ18の温度T(n−1)と、排ガスの温度Tgと、ヒータ22の温度Thとの加重平均によって推定する(下式(c3))。
【0037】
T(n)=a×Tg+b×Th+c×T(n−1) …(c3)
ここで、係数a,b,cは、それぞれ排ガスの温度Tg、ヒータ22の温度Th、前回の酸素センサ18の温度T(n−1)に対する重みである。
【0038】
ステップS12にて算出された酸素センサ18の温度T(n)は、ステップS14において、バックアップRAM34に格納される。続くステップS16においては、バックアップRAM36に格納されている酸素センサ18の温度T(n)が所定値αより大きいか否かを判断する。ここで所定値αは、酸素センサ18が活性状態となったか否かを判断するためのものである。ステップS16において酸素センサ18の温度が所定値αより大きいと判断されると、酸素センサ18が活性状態となったとの判断から、ステップS18において空燃比フィードバック制御を開始する。
【0039】
これに対し、ステップS10においてクランク軸が停止していると判断されると、ステップS20において内燃機関2の停止後の酸素センサ18の温度を算出する。詳しくは、停止後の酸素センサ18の温度Tsは、バックアップRAM36に記憶されている酸素センサ18の温度Tと、外気温センサ26によって検出される外気温Toと、補正係数Kとを用いて下式(c4)にて算出される。
【0040】
Ts=(T−To)×K+To …(c4)
ここで、補正係数Kは、「0〜1」の範囲の値をとり、停止時間が長いほど小さな値に設定される。補正係数Kは、酸素センサ18が外気の温度へと変化する際の進行状況を示すパラメータであり、停止時間が「0」のときに「1」をとり、停止時間がある程度長くなると「0」となる。これは、停止時間がある程度長くなると、酸素センサ18が周囲との間で熱的な平衡状態を形成し、その温度が外気の温度と一致することに基づくものである。図2に示す停止時間と補正係数Kとの関係を示すテーブルデータは、実験等に基づき定められている。このテーブルデータは、酸素センサ18の比熱のみならず、ヒータ22の比熱や、内燃機関2の停止後の排気通路10や上流側触媒12、下流側触媒14の温度の低下態様を反映して生成されることが望ましい。このステップS20において算出される酸素センサ18の温度Tsは、RAM34に記憶される。
【0041】
なお、ステップS16において酸素センサ18の温度が所定値α以下であると判断されるときや、ステップS18,S20の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
【0042】
上記処理によれば、イグニッションスイッチ40がオフとされた後、オンとされることでECU30が起動されると、内燃機関2のクランキングの開始以前に、ステップS20により酸素センサ18の温度が算出され、RAM34に格納される。そして内燃機関2の始動に伴いステップS12の処理による酸素センサ18の温度の推定が開始されるときには、酸素センサ18の初期値として、換言すれば、上式(c3)の前回の酸素センサ18の温度T(n−1)として、RAM34に格納された値が用いられることとなる。
【0043】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0044】
(1)内燃機関2の停止前の酸素センサ18の温度の推定値から外気温を減算したものに補正係数Kを乗算し、更にこれに外気温を加算することで、内燃機関2の停止後の酸素センサ18の温度を算出した。これにより、内燃機関2の始動に際し、酸素センサ18の温度として精度の良い値を取得することができ、ひいては、内燃機関2の運転状態に基づき酸素センサ18の温度を高精度にて都度推定することができる。
【0045】
(2)空燃比を検出するセンサとして、酸素濃度が所定の濃度よりもリーンであるかリッチであるかに応じて略2値的な値を出力する酸素センサ18を用いた。この酸素センサ18は、通常、同センサへの電圧の印加に対する応答等によってその温度を検出することができない。このため、本実施形態は、酸素センサ18の温度を高精度で推定することが特に有効な実施形態となっている。
【0046】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0047】
本実施形態においても、先の図1に示すエンジンシステムを採用する。このため、内燃機関2は、5つの気筒を有するものとなっている。ここで、本実施形態では、先の図2のステップS20における補正係数Kを、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあるか否かによって切り替える。これは、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあるときには、排気通路10の通気性が向上することに起因して、酸素センサ18の温度が低下しやすいためである。
【0048】
図3に、上記切り替えにかかる処理の手順を示す。この処理は、ROM38内に記憶されているプログラムが、CPU32により、例えば先の図2のステップS20の処理の実行時に行なわれる。
【0049】
この一連の処理では、まずステップS30においてクランク軸の停止時の角度が所定の範囲(図中β〜γの範囲)にあるか否かを判断する。ここで、所定の範囲は、いずれの気筒のピストンも排気行程と吸気行程との間の上死点近傍にない範囲である。例えば、第1気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるクランク角度が「0°CA」であって且つ1燃焼サイクルの間に等間隔で任意の1つのピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となる場合には、この範囲は、「0±Δ+144×n(n=0,1,2,3,4)°CA」を除いた範囲となる。ここで、「0±Δ+144×n(n=0,1,2,3,4)°CA」は、吸気バルブ及び排気バルブの双方が開弁するオーバーラップした状態となるクランク角度領域である。
【0050】
ステップS30において上記所定の範囲内にあると判断されるときには、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にないことから、ステップS32において、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にないときの補正係数K1を選択する。これに対し、ステップS30において上記所定の範囲にないと判断されるときには、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあることから、ステップS34において、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあるときの補正係数K2を選択する。
【0051】
ここで、同一の停止時間における補正係数K2は、補正係数K1よりも小さな値となっている。これは、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあるときには、連通状態にないときよりも酸素センサ18の温度が外気温へと変化する速度が大きいことに対応している。
【0052】
なお、上記ステップS32、S34の処理が完了すると、この一連の処理を終了する。
【0053】
このように、本実施形態によれば、吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあるか否かに応じて補正係数K1,K2の選択を行なうことで、状況に応じて適切な補正係数を用いることが可能となる。
【0054】
特に本実施形態では、5気筒を有する内燃機関2を採用した。このように、内燃機関が5気筒を有するときには、クランク軸の停止時に、吸気バルブ及び排気バルブの双方が開弁状態となる確率が比較的高い。これは、以下の理由による。
【0055】
例えば1燃焼サイクルの間に任意の1つのピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるタイミングが等間隔で生じて且つ4気筒を有する場合には、「720÷4=180°CA」毎にいずれか1つのピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となる。ここで、1番気筒、4番気筒、3番気筒、2番気筒の順に、ピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となって且つ、1番気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるクランク角度が「0°CA」であると仮定する。このとき、「0°CA」においては、3番気筒のピストンは、圧縮行程と燃焼行程との間の上死点となっている。同様に、「180°CA」では4番気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となっており、このとき2番気筒のピストンは圧縮行程と燃焼行程との間の上死点となっている。このように、4気筒の内燃機関では、任意の気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるときに、残りの気筒のいずれかのピストンが必ず圧縮行程と燃焼行程との間の上死点となる。そして、ピストンが圧縮行程と燃焼行程との間の上死点となるに際しては、内燃機関の燃焼室内の空気が圧縮されるため、同上死点への移行には大きな抵抗が生じることとなる。このため、特に内燃機関の稼動が停止され慣性によりクランク軸が回転しているときには、圧縮行程と燃焼行程との間の上死点となるときに慣性力が消費されることとなるため、任意のピストンが圧縮行程と燃焼行程との間の上死点となってクランク軸が静止する確率は極めて低い。換言すれば、いずれかの気筒においてピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となって停止する確率は極めて低い。
【0056】
これに対し、本実施形態にかかる内燃機関2の場合には、5気筒を有するため、「720÷5=144°CA」毎にいずれか1つのピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となる。このため、任意の気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるときに、残りの気筒のいずれのピストンも決して圧縮行程と燃焼行程との間の上死点とならない。このため、内燃機関2にあっては、任意の気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となってクランク軸が静止する確率が比較的高い。
【0057】
このように、本実施形態にかかる内燃機関2は、任意の気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となってクランク軸が静止する確率が比較的高いために、先の図3に示した処理を実行することが特に有効なものとなっている。
【0058】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0059】
(3)内燃機関2のクランク軸の回転の停止時に吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあると判断されるときの補正係数K2を、連通状態にないと判断されるときの補正係数K1よりも値の小さな値とした。これにより、内燃機関2の吸気通路4と排気通路10とが連通しているときには、排気通路10の通気性が向上することに起因して酸素センサ18の温度が外気温へと変化する速度が上昇することを、酸素センサ18の温度の算出に反映させることができる。
【0060】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0061】
図4に、本実施形態における酸素センサ18の温度の推定にかかる処理の手順を示す。この処理は、ROM38内に記憶されているプログラムが、CPU32により、例えば所定のクランク角周期で繰り返し実行されることで行なわれる。
【0062】
この一連の処理では、まずステップS40において、先の図2のステップS10と同様、クランク軸が回転中であるか否かを判断する。そしてクランク軸が回転中でないと判断されると、ステップS42において先の図2のステップS20と同様の処理を行なう。
【0063】
一方、ステップS40においてクランク軸が回転中であると判断されると、ステップS44においてイグニッションスイッチ40がオンとされているか否かを判断する。この判断は、イグニッションスイッチ40がオフとされているにもかかわらず慣性によってクランク軸が回転しているのか、イグニッションスイッチ40がオンとされており内燃機関2の稼動時であるのかを判断するためのものである。
【0064】
ステップS44においてイグニッションスイッチ40がオンとされていると判断されると、ステップS46において、先の図2のステップS12と同様の処理を行なう。これに対し、ステップS44においてイグニッションスイッチ40がオフとされていると判断されると、ステップS48に移行する。
【0065】
このステップS48では、酸素センサ18の温度T(n)を、前回のクランク周期における温度T(n−1)から空気量補正値を減算することで算出する。ここで、空気量補正値は、吸入空気量と空気量補正値との関係を示すテーブルデータに基づき設定される。図4のステップS48に示されるように、このテーブルデータでは、空気量が大きいほど空気補正値が単調に増加するとしている。このテーブルデータは、酸素センサ18の温度についての所定のクランク角度領域(ここでは、図4の処理を行なうクランク各周期)における低下量と空気量との関係についての実験値等に基づき作成されている。ちなみに、ステップS44においてイグニッションスイッチ40がオフされていると判断されるときには、ステップS44〜ステップS50の処理は、ECU30を停止する前の後処理の一部として行なわれる。
【0066】
そして、ステップS46やステップS48の処理が完了すると、ステップS50において、これらの処理で生成された酸素センサ18の温度をバックアップRAM36に格納する。
【0067】
なお、ステップS42やステップS50の処理が完了すると、この一連の処理を一旦終了する。
【0068】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0069】
(4)イグニッションスイッチ40がオフ状態であって且つ内燃機関2のクランク軸が回転している間、内燃機関2の吸入空気量に応じて酸素センサ18の温度を算出した。これにより、イグニッションスイッチ40がオフ状態であっても、クランク軸が回転している間は、吸気通路4から排気通路10へ空気が取り込まれることで酸素センサ18の温度が外気の温度へと変化する速度が上昇することを、酸素センサ18の温度の算出に反映させることができる。
【0070】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0071】
・上記第3の実施形態においては、エアフローメータ6によって検出される吸入空気量に応じて酸素センサ18の温度を所定のクランク角周期で推定したが、これに限らない。例えば内燃機関2の吸入空気量とクランク軸の回転速度とに応じて酸素センサ18の温度を推定するなら、この推定を所定時間周期で行なうこともできる。
【0072】
・内燃機関2としては、5気筒を有するものに限らない。例えば4気筒の内燃機関であっても、任意のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるときにクランク軸が静止する確率はゼロではない。このため、4気筒の内燃機関等にあっても、先の図3に示した処理を行なうことは有効である。ただし、内燃機関として、任意の気筒のピストンが排気行程と吸気行程との間の上死点となるときに残りの気筒のいずれのピストンも決して圧縮行程と燃焼行程との間の上死点とならない多気筒内燃機関や、単気筒の内燃機関を採用する場合には、先の第2の実施形態の上記(3)の効果を好適に奏することができる。
【0073】
・内燃機関のクランク軸の回転の停止時に吸気通路4と排気通路10とが連通状態にあるか否かを判断する連通状態判断手段としては、先の図3のステップS30の処理を行なうものに限らない。例えば吸気バルブや排気バルブのリフト量や開弁タイミング等のバルブ特性を可変とするバルブ特性可変機構を備えるものにあっては、バルブ特性可変機構によって可変設定されているバルブ特性によって上記オーバーラップの期間が変化することに鑑み、同バルブ特性を加味して連通状態を判断するようにしてもよい。
【0074】
・先の図2のステップS10において、クランク軸の回転状態を判断する代わりに、イグニッションスイッチ40がオン状態であるか否かを判断してもよい。この場合であっても、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)に準じた効果を得ることができる。また、この場合、クランク軸が停止したことを判断する必要がないために、クランク軸の回転角度を検出するセンサとして、上記ホール式のセンサに代えて、電磁ピックアップ式のセンサを用いてもよい。
【0075】
・内燃機関が停止してから酸素センサの温度が外気の温度へと変化する際の進行状況に基づき、内燃機関2の停止後の酸素センサの温度を算出するための算出情報としては、先の図2〜図4に例示したものに限らない。例えば、先の図2のステップS20において、上式(c4)の演算を行なう代わりに、バックアップRAM36に格納されている酸素センサ18の温度T、外気温To及び停止時間と、停止後の酸素センサ18の温度Tsとの関係を示すマップを上式(c4)の演算等に基づき作成して予めROM38に備えておき、これを用いて温度Tsを算出してもよい。更に、上記算出情報としては、記憶手段(ROM38)に記憶されるプログラムに限らず、先の図2〜図4に示す処理を行なう専用の回路であってもよい。この場合、専用の回路が、算出情報とこれを記憶する記憶手段とを構成する。
【0076】
・内燃機関2の稼動時において、内燃機関2の運転状態に応じて酸素センサ18の温度を推定する温度推定手段としては、先の第1の実施形態にて例示したものに限らない。また、この温度推定手段や先の図4のステップS48の処理によって算出された酸素センサ18の温度を格納する不揮発性メモリとしては、上記バックアップRAM36に限らず、EEPROM等、給電の有無にかかわらず記憶内容を保持するメモリであってもよい。
【0077】
・外気温センサ26に限らず、例えば吸気通路4内の吸気の温度を検出する吸気温センサ等を備えてもよい。要は、内燃機関2を取り囲む雰囲気(より詳しくは、酸素センサ18を取り囲む雰囲気)の温度と相関を有する温度であればよい。
【0078】
・エンジンシステムとしては、先の図1に例示したように、酸素センサ18と空燃比センサ16とを備えて空燃比フィードバック制御を行うものに限らない。例えば酸素センサ18のみを備えてこれを用いて空燃比フィードバック制御を行うものであってもよい。
【0079】
・内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサとしては、酸素センサ18に限らない。酸素センサ以外のセンサであっても、その温度を推定算出するに際してその初期値を高精度で取得するためには、本発明の適用は有効である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明にかかる排ガスセンサの温度推定装置の第1の実施形態におけるエンジンシステムの構成を示す図。
【図2】同実施形態における酸素センサの温度を推定する処理の手順を示すフローチャート。
【図3】第2の実施形態における酸素センサの温度を推定する際の補正係数を選択する処理の手順を示すフローチャート。
【図4】第3の実施形態における酸素センサの温度を推定する処理の手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0081】
2…内燃機関、10…排気通路、18…酸素センサ、40…イグニッションスイッチ、30…電子制御装置(ECU)、38…ROM(記憶手段の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に排出される排ガス中の成分の物理量を検出する排ガスセンサについて、その温度を推定する排ガスセンサの温度推定装置において、
前記内燃機関の稼動時において、該内燃機関の運転状態に応じて前記排ガスセンサの温度を推定する温度推定手段と、
外気の温度及びその相当値のいずれかを検出する検出手段の検出結果を取り込む手段と、
前記内燃機関の停止時間を計時する計時手段と、
前記内燃機関が停止してから前記排ガスセンサの温度が外気の温度へと変化する際の進行状況に基づき、前記内燃機関の停止後の前記排ガスセンサの温度を算出するための算出情報を記憶するための記憶手段と、
前記計時手段によって計時される停止時間と、前記温度推定手段によって推定される温度と、前記検出手段によって検出される温度とを前記算出情報に反映させることで、前記温度推定手段によって用いられる前記排ガスセンサの温度の初期値を設定する初期値設定手段とを備えることを特徴とする排ガスセンサの温度推定装置。
【請求項2】
前記算出情報は、前記進行状況を定量化したパラメータであって且つ前記停止時間に応じて設定される補正係数を、前記温度推定手段によって推定される前記排ガスセンサの温度から前記検出手段によって検出される温度を減算したものに乗算することで、前記排ガスセンサの温度と前記周囲の温度とについての前記内燃機関の停止後の差を算出する情報と、前記差と前記周囲の温度とに基づき、前記内燃機関の停止後の前記排ガスセンサの温度を算出する情報とを含むものであることを特徴とする請求項1記載の排ガスセンサの温度推定装置。
【請求項3】
前記内燃機関の出力軸の回転の停止時に前記内燃機関の排気系と吸気系とが連通状態にあるか否かを判断する連通状態判断手段を更に備え、
前記算出情報は、前記連通状態判断手段により前記連通状態にあると判断されるときには、該連通状態にないと判断されるときよりも前記外気の温度へと変化する速度が上昇するとの条件で前記内燃機関の停止後の前記排ガスセンサの温度を算出する情報であることを特徴とする請求項1又は2記載の排ガスセンサの温度推定装置。
【請求項4】
前記内燃機関の吸入空気量を検出する検出手段の検出結果を取り込む手段と、
前記内燃機関のイグニッションスイッチのオン・オフ状態を判断するイグニッション判断手段と、
前記内燃機関の出力軸の回転が停止したか否かを判断する停止状態判断手段とを更に備え、
前記算出情報は、前記イグニッションスイッチがオフ状態であって且つ前記内燃機関の出力軸が回転している間、前記内燃機関の吸入空気量が多いほど前記外気の温度へと変化する速度が上昇するとの条件で前記排ガスセンサの温度を算出するための情報を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排ガスセンサの温度推定装置。
【請求項5】
前記排ガスセンサは、酸素濃度が所定の濃度よりもリーンであるかリッチであるかに応じて略2値的な値を出力する酸素センサであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の排ガスセンサの温度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−348806(P2006−348806A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174494(P2005−174494)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】