説明

排ガス浄化用触媒及び該排ガス浄化用触媒を備える排ガス浄化装置

【課題】触媒中の貴金属に対してS被毒再生処理を施した後において酸化性能に優れる排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】基材60と、該基材の表面に形成された触媒コート層62と、を備える排ガス浄化用触媒であって、上記触媒コート層は、上記基材表面に近い方を下層64とし相対的に遠い方を上層66とする上下層を有する積層構造に形成されている。上記上層は、担体と、該担体に担持された貴金属70と、炭化水素吸着材68とを含んでおり、上記下層は、担体と、該担体に担持された貴金属とを含んでいる。ここで上記下層は、上記貴金属として白金72及びパラジウム74を含んでおり、該下層に含まれる白金とパラジウムとの合計量を100質量%としたときの白金の含有率が70質量%以上95質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒及び該触媒を備える排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、典型的には、燃料の未燃焼物質である炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、粒子状物質(Particulate Matter、PM)等が含まれている。これらの排ガス成分を浄化するための排ガス浄化用触媒(以下、単に「触媒」ということもある。)や粒子状物質(PM)を捕集するためのパティキュレートフィルタが、例えば、内燃機関の排気通路内に配置されている。
【0003】
一般に、排ガス浄化用触媒には、HCやCOを酸化(浄化)してHOやCOに変換するために貴金属(例えば白金、パラジウム等)が含まれている。かかる貴金属が排ガス中の硫黄成分(例えば硫黄酸化物)に被覆されると該貴金属の活性点が低下するため、HCやCOの酸化性能(浄化性能)が低下するいわゆる硫黄被毒(S被毒)が発生し得る。通常、内燃機関で使用される燃料は硫黄濃度が低いものであるが、国によっては、硫黄濃度が高い燃料を使用する場合があり、この場合に上記S被毒による影響が大きくなり酸化性能が大幅に低下する虞がある。このS被毒を解消するために、例えば、上記触媒に燃料(例えばHC)を添加して所定の温度まで上昇させることで、貴金属を被覆している硫黄成分を脱離させるS被毒再生成処理を施している。この種の排ガス浄化用触媒に関する従来技術として特許文献1から3が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120008号公報
【特許文献2】特開平09−010594号公報
【特許文献3】特開2004−066013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記排ガス浄化用触媒の性能を向上させるために、HCを吸着又は脱着する炭化水素吸着材を含む上層と、HCやCOを酸化する貴金属を含む下層とからなる2層構造の触媒が提案されている。かかる構造の場合、触媒の酸化性能は向上し得るものの、一旦下層に含まれる貴金属がS被毒されてしまうと、S被毒再生処理のためにHCを供給してもHC自体が上層の炭化水素吸着材に付着して下層には拡散しにくくなる。このため、S被毒再生処理時に、下層に含まれる貴金属から硫黄成分を脱離させるのが困難となり、S被毒再生処理後に触媒(特に下層の貴金属)の酸化性能が低下してしまう虞がある。ここで、触媒に含まれる貴金属としては、白金やパラジウム等が挙げられるが、白金はS被毒再生処理を施した際(即ち高温にさらされた際)にシンタリング(結晶成長)が発生し酸化性能が低下する虞があり、パラジウムは硫黄成分によって被覆されると酸化性能が大きく低下する性質を有している(即ちS被毒による劣化が大きい)。従って、S被毒再生処理後の排ガス浄化用触媒の酸化性能の向上のためには、貴金属のS被毒を低減すると共に貴金属から硫黄成分を効果的に脱離させることが必要である。
そこで、本発明は、上述した従来の課題(要求)を解決すべく創出されたものであり、その目的は、触媒中の貴金属に対してS被毒再生処理を施した後において酸化性能に優れる排ガス浄化用触媒を提供することである。また、ここで開示される排ガス浄化用触媒を備える排ガス浄化装置を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現すべく、本発明により、基材と、該基材の表面に形成された触媒コート層と、を備える排ガス浄化用触媒が提供される。即ちここで開示される排ガス浄化用触媒において、上記触媒コート層は、上記基材表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されている。上記上層は、担体と、該担体に担持された貴金属と、炭化水素吸着材とを含んでいる。上記下層は、担体と、該担体に担持された貴金属とを含んでおり、ここで上記下層は、上記貴金属として白金及びパラジウムを含んでおり、該下層に含まれる白金とパラジウムとの合計量を100質量%としたときの白金の含有率が70質量%以上95質量%以下である。
なお、本明細書において「炭化水素吸着材」とは、多孔質構造を有する材料であって、その多孔質構造内に炭化水素分子を吸着可能な材料をいう。
【0007】
本発明によって提供される排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の上層に貴金属と炭化水素吸着材とを含んでおり、下層に含まれる白金とパラジウムとの合計量を100質量%としたときの白金の含有率が70質量%以上95質量%以下である。
このように、触媒コート層の下層は、S被毒に対する耐性が相対的に高い(即ちS被毒による酸化性能の低下が小さい)白金を上記範囲内の割合で含んでいるため、貴金属全体のS被毒による酸化性能の低下を低減することができる。また、S被毒再生処理の際には、触媒に添加された燃料HCの大部分は上層の炭化水素吸着材に吸着されるため下層中のS被毒された貴金属の再生(回復)は困難となり得るが、下層の貴金属のS被毒状態は低減されているので、S被毒再生処理後には従来の触媒と比較して高い酸化性能(浄化性能)を有する状態にまで再生することができる。さらに、下層には、パラジウムが含まれているため触媒が比較的高温となっても白金のシンタリングが抑制され、酸化性能(浄化性能)の低下が抑制され得る。
従って、本発明によると、貴金属にS被毒再生処理をした後に酸化(浄化)性能に優れる排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【0008】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の好適な一態様では、上記上層は、上記担体に担持された貴金属として白金及びパラジウムを含んでおり、且つ、上記上層に含まれる白金とパラジウムとの合計量を100質量%としたときのパラジウムの含有率は、上記下層におけるパラジウム含有率を上回るように決定されている。
このように、触媒コート層の上層は、HC被毒(貴金属がHCに被覆された状態)に対する耐性が相対的に高いパラジウムを上記下層よりも多く含んでいるため、下層よりも高い酸化性能(浄化性能)が得られ得る。なお、上層はパラジウムを多く含むため下層よりもS被毒により酸化性能が低下しやすいが、S被毒再生処理の際に十分な量のHCが供給されるため、貴金属を被覆する硫黄成分を十分に脱離させることができる。
【0009】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、上記下層が、炭化水素吸着材をさらに含む。
かかる構成によると、エンジン始動時等の低温条件下においても、下層における貴金属のHC被毒を効果的に防止することができる。
【0010】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、上記上層の厚さが、30μm以上100μm以下(好ましくは40μm以上70μm以下、より好ましくは40μm以上60μm以下である)である。
かかる構成によると、CO等の浄化(酸化)するべき排ガスが下層にまで届くと共に、低温条件下においてHCが上層で十分に吸着されるため下層での貴金属のHC被毒を低減することができる。
なお、本明細書において「層の厚さ」は、平均厚さをいい、より好ましくは層全体の80%以上(特には90%以上)の領域における厚さが当該範囲内にあることをいう。例えば、基材を上流側端面及び下流側端面からそれぞれ35mmの位置で切断し、それぞれの端面側の任意の4つのセルについて、角部分及び辺部分の層厚さを測定し(合計16箇所)、測定された値の平均値として得られる値である。
【0011】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、上記上層及び上記下層の合計の厚さが100μm以上300μm以下(より好ましくは150μm以上250μm以下)である。
かかる構成によると、触媒コート層の全体に排ガスを行きわたらせることができるため、効率良く排ガスを浄化することができる。
【0012】
ここで開示される排ガス浄化用触媒の好適な他の一態様では、上記炭化水素吸着材としてゼオライトを備えている。ゼオライトは、HCを吸着する能力に優れているため、排ガス中のHC成分(例えば、炭素原子が6個以下の低級オレフィン、炭素原子が7個以上の高級炭化水素など)を効果的に吸着することができる。
【0013】
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、上述の通り貴金属のS被毒再生処理をした後に酸化(浄化)性能に優れているため、特にディーゼルエンジンの排ガスを浄化するために好適に使用し得る。
【0014】
また、本発明によると、上記目的を実現する他の側面として、排ガス浄化装置が提供される。即ちここで開示される排ガス浄化装置は、排ガスが流通する排気通路と、上記排気通路内に配置されるここで開示されるいずれかの排ガス浄化用触媒と、上記排ガス浄化用触媒に燃料を供給するための燃料供給手段と、を備えている。上記燃料供給手段から供給された燃料が上記排ガス浄化用触媒で酸化された際に発生する酸化熱によって、該排ガス浄化用触媒に付着している硫黄成分を脱離させる。
かかる構成によると、燃料供給手段から供給された燃料(例えばHC)が排ガス浄化用触媒で酸化された際に発生する酸化熱によって、S被毒された貴金属から硫黄成分を脱離させて、触媒中の貴金属を再生(S被毒再生)することができる。本発明の排ガス浄化装置は、ここで開示される排ガス浄化用触媒を備えているため、S被毒再生処理後でも排ガスの酸化性能に優れる装置となり得る。
【0015】
ここで開示される排ガス浄化装置の好適な一態様では、上記排気通気路内には、排ガス中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタが上記排ガス浄化用触媒よりも下流側に配置されており、上記パティキュレートフィルタに捕集された粒子状物質を燃焼するために、上記燃料供給手段から燃料を供給する。
かかる構成によると、パティキュレートフィルタに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼して酸化除去する際に、燃料供給手段から燃料(例えばHC)を供給するため、パティキュレートフィルタからPMを除去するのと同時に排ガス浄化用触媒中の貴金属を再生(S被毒再生)することができる。
また、ここで開示されるいずれかの排ガス浄化装置は、特にディーゼルエンジンの排気系に好適に構築され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置を模式的に示す全体図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置のブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す拡大断面図である。
【図5】試験例における排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能を評価するために用いたNEDC(New European Driving Cycle)モードの概略図である。
【図6】各浄化性能評価試験におけるCO浄化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識に基づいて実施することができる。
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の排ガス浄化用触媒及び該排ガス浄化用触媒を備える排ガス浄化装置の好適な実施形態の一つとして、内燃機関としてディーゼルエンジンを備える場合を例にして詳細に説明するが、本発明の適用対象をかかるディーゼルエンジンに限定することを意図したものではない。例えば、ガソリンエンジン等に適用することができる。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化装置100は、大まかに言って、ディーゼルエンジンを主体とするエンジン部1(エンジン部1にはエンジンを駆動するためのアクセルその他の操作系を含む。)と、該エンジン部1に連通する排気系に設けられる排ガス浄化部40と、該排ガス浄化部40とエンジン部1との間の制御をつかさどるECU(電子制御ユニット)30(図2参照)とにより構成されている
【0020】
エンジン部1は、典型的には複数ある燃焼室2と、各燃焼室2に燃料を噴射する燃料噴射弁3とを備えている。各燃焼室2は、吸気マニホルド4および排気マニホルド5と連通している。吸気マニホルド4は吸気ダクト6を介して、排気ターボチャージャ7のコンプレッサ7aの出口に接続されている。コンプレッサ7aの入口は、吸入空気量検出器8を介してエアクリーナ9に接続されている。吸気ダクト6内にはスロットル弁10が配置されている。吸気ダクト6の周りには、吸気ダクト6内を流れる空気を冷却するための冷却装置(インタークーラー)11が配置されている。排気マニホルド5は、排気ターボチャージャ7の排気タービン7bの入口に接続されている。排気タービン7bの出口は、排ガスが流通する排気通路(排気管)12に接続されている。
【0021】
排気マニホルド5と吸気マニホルド4とは、排気ガス再循環通路18(以下、EGR通路18と称する。)を介して互いに連結されている。EGR通路18内には、電子制御式のEGR制御弁19が配置されている。また、EGR通路18の周りには、EGR通路18内を流れるEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置20が配置されている。
【0022】
各燃料噴射弁3は、燃料供給管21を介してコモンレール22に接続されている。コモンレール22は、燃料ポンプ23を介して燃料タンク24に接続されている。ここでは燃料ポンプ23は、吐出量可変な電子制御式の燃料ポンプである。ただし、燃料ポンプ23の構成は特に限定される訳ではない。
排気通路(排気管)12内には、上流側(図1の左側)から下流側(図1の右側)に向かって順に、排気ガス中に燃料(例えば炭化水素)を供給(噴射)する燃料供給手段としての燃料供給弁15、後述する排ガス浄化部40が配置されている。燃料供給手段としては排気通路12中に燃料を噴射し得る種々の装置(インジェクター等)を採用することができる。
排ガス浄化部40は、図1に示すように、排気ガス中のCOやHCを酸化するための排ガス浄化用触媒が収容された排ガス浄化用触媒部(DOC)50と、排ガス中の粒子状物質(PM)を捕集するパティキュレートフィルタ(DPF)80を備えている。排ガス浄化用触媒部50には、該排ガス浄化用触媒部50の温度を検出するための温度センサ50aが取り付けられており、パティキュレートフィルタ80には、該パティキュレートフィルタ80の温度を検出するための温度センサ80aが取り付けられている。また、フィルタ80には、該フィルタ80の前後差圧を検出するための差圧センサ80bが取り付けられている。なお、燃料供給弁15の設置位置は上述した位置に限定されず、排ガス浄化部40よりも上流側の排気ガス中に燃料を供給し得る位置であればどの位置であってもよい。また、温度センサ50a、80aに関しては、排ガス浄化用触媒部50の温度(触媒温度)を推定する他の手段があれば代用することができ、温度センサの位置は特定されるものではない。
【0023】
図2に示すように、ECU30は、エンジン部1と排ガス浄化部40との間の制御を行うユニットであり、一般的な制御装置と同様にデジタルコンピュータその他の電子機器を構成要素として含んでいる。典型的にはECU30は、双方向性バスによって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、入力ポートおよび出力ポートを有している。
図示しないアクセルペダルには、アクセルペダルの踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサが接続されている。該負荷センサの出力電圧は、対応するAD変換器を介して入力ポートに入力される。更に入力ポートには、クランクシャフトが所定の角度(例えば10°)回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサが接続される。
【0024】
排ガス浄化部40の温度センサ50a,80a及び差圧センサ80bからの出力信号はそれぞれ対応するAD変換器を介してECU30の入力ポートに入力される。一方、ECU30の出力ポートは、対応する駆動回路を介して燃料噴射弁3、スロットル弁10の駆動用ステップモータ、EGR制御弁19、燃料ポンプ23及び燃料供給弁15に接続されている。この様に、燃料噴射弁3、燃料供給弁15等は、ECU30によって制御されている。
なお、上述したような制御系自体の構成は本発明を特徴付けるものではなく、従来この種の内燃機関(自動車用エンジン)で採用されるものでよく、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0025】
次に、本発明を特徴づける排ガス浄化部40に備えられた排ガス浄化用触媒部50について説明する。
ここで開示される排ガス浄化用触媒部50を構成する基材としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成されたハニカム構造を備えるハニカム基材などを好適に採用することができる。一例として外形が円筒形状であるハニカム基材であって、その筒軸方向に排ガス流通路としてのセル(貫通孔)が設けられ、各セルを仕切るリブ壁(隔壁)に排ガスが接触可能となっているものが挙げられる。基材の形状はハニカム形状の他にフォーム形状、ペレット形状などとすることができる。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0026】
図3は、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒部50を模式的に示す斜視図である。図3に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒部50は、複数の規則的に配列されたセル56と、該セル56を構成するリブ壁54を有するハニカム基材52を備える。
図4は、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒部50を模式的に示す拡大断面図である。図4に示すように、排ガス浄化用触媒部50のリブ壁54は、基材60と、該基材60の表面に形成された触媒コート層62とを備えている。触媒コート層62は、基材60表面に近い方の層を下層64とし、基材60表面から相対的に遠い方の層を上層66とする上下層を有する積層構造に形成されている。
【0027】
ここで開示される排ガス浄化用触媒部50の上層66は、担体と、該担体に担持された貴金属70と、炭化水素吸着材68とを含んでいる。
上記担体としては、耐熱性を有しており、貴金属を担持することができるものであれば特に制限されないが、貴金属を高分散させる目的から、比表面積がある程度大きい多孔質材料が好適に用いられる。多孔質材料としては、例えば、アルミナ(Al)、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、及びチタニア(TiO)等が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。また、担体は複合酸化物や固溶体であってもよい。例えば、担体は、CeO−ZrOを主成分とする複合酸化物から構成されていてもよく、Alを主成分とする複合酸化物から構成されていてもよい。
【0028】
上記貴金属(貴金属触媒)70としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及び銀(Ag)等の貴金属元素が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。また、二種以上の貴金属が合金化したものを用いてもよい。特に、白金及びパラジウムを含んでおり、白金とパラジウムの合計量を100質量%(wt%)としたときのパラジウムの含有率は、後述する下層におけるパラジウムの含有率を上回るように決定することが好ましい。上層66は、例えば、貴金属70として白金72とパラジウム74を含んでおり、パラジウム74の含有率は凡そ33質量%である(下層64中のパラジウム74の含有率は凡そ16質量%である。)。
かかる貴金属(例えばPt,Pd)は、排ガスとの接触面積を高める観点から十分に小さい粒径を有することが好ましい。典型的には、貴金属の平均粒径は1〜20nm程度が好ましいが、触媒の低温活性向上の観点から10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
上記炭化水素吸着材68としては、ゼオライト(粒子)、例えばA型ゼオライト、フェリライト型ゼオライト、ZSM‐5型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、βゼオライト、X型ゼオライト、及びY型ゼオライト等が挙げられる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。
【0030】
上層66の厚さは、通常は20μm以上、30μm以上、又は40μm以上であって、120μm以下、100μm以下、又は60μm以下である(例えば、20μm〜120μm、好ましくは40μm〜70μm、より好ましくは40μm〜60μmである。)。上層66の厚さが20μmよりも薄すぎる場合には、エンジン始動時のような低温条件下において貴金属の酸化性能(触媒活)が低いときに、排ガス中の炭化水素が上層を通りぬけて下層中の貴金属に付着することによって下層中の貴金属の酸化性能が低下する虞がある。一方、上層66の厚さが120μmよりも厚すぎる場合には、排ガス中のCO等が下層に十分に拡散されず酸化されないCO等が増加する虞がある。
【0031】
ここで開示される排ガス浄化用触媒部50の下層64は、担体と、該担体に担持された貴金属70とを含んでいる。なお、下層64は、さらに炭化水素吸着材を含んでいてもよい。下層70に含まれる担体、貴金属及び炭化水素吸着材に関しては上記上層のものと同様のものを適宜採用することができる。
下層64は、上記貴金属70として白金72及びパラジウム74を含んでおり、該下層64に含まれる白金72とパラジウム74との合計量を100質量%としたときの白金の含有率が70質量%以上95質量%以下(好ましくは75質量%以上85質量%以下)である。白金はS被毒に対する耐性が高いため、白金の含有率が上記範囲内にあると、S被毒再生処理後に排ガス浄化用触媒部50は優れた酸化性能(浄化性能)を示す。なお、下層64は白金72及びパラジウム74以外の貴金属を含むような形態であってもよい。
【0032】
上層触媒コート層62の厚さ(即ち、上層66及び下層64の合計の厚さ)は、通常は100μm以上、又は150μm以上であって、300μm以下、又は250μm以下である(例えば、100μm〜300μm、好ましくは100μm〜250μm、より好ましくは150μm〜250μmである。)。上記触媒コート層62の厚さが100μmよりも薄すぎる場合には、排ガス浄化用触媒部50における貴金属70量が不足し、排ガスの浄化を十分に達成できない虞がある。一方、触媒コート層62の厚さが300μmよりも厚すぎる場合には、下層64の基材60近傍まで排ガスが達せず、下層64に含まれる貴金属70を効率的に利用できない虞がある。
また、触媒コート層62に含まれる貴金属70の総担持量は、例えば、基材1L当たり0.1g以上、0.3g以上、又は0.5g以上であって、基材1L当たり4g以下、3g以下、2以下にすることができる。
【0033】
本実施形態に係る排ガス浄化用触媒は、例えば以下のようにして製造することができる。ただし、以下の製造方法は一例に過ぎず、本発明に係る排ガス浄化用触媒は、他の方法によって製造されてもよい。
まず、下層形成用のペースト状組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物及びインク状組成物が包含される。)を調製する。具体的には、上述の担体と、白金を含む溶液と、パラジウムを含む溶液とを白金の含有率が上記範囲となるように混合させた後、乾燥及び焼成(焼成温度は凡そ300℃〜700℃。)を行い、貴金属担持粉末を作製する。この貴金属担持粉末と、バインダ(例えば硝酸アルミニウム)とを溶媒(例えば水)中に分散させて下層形成用のペースト状組成物(下層用組成物)を調製する。
次に、上層形成用のペースト状組成物を調製する。具体的には、上述の担体と、上述した貴金属を含む溶液とを混合させた後、乾燥及び焼成を行い、貴金属担持粉末を作製する。この貴金属担持粉末と、上述の炭化水素吸着材と、バインダ(例えば硝酸アルミニウム)とを溶媒(例えば水)中に分散させて上層形成用のペースト状組成物(上層用組成物)を調製する。
その後、上述の基材(例えばコージェライト)の表面に下層用組成物を塗布して乾燥した後に所定の温度(例えば凡そ400℃〜1000℃)で焼成することにより、下層を作製する。次に、下層の表面に上層用組成物を塗布して乾燥した後に所定の温度で焼成することにより、上層を作製する。これにより、二層構造の排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0034】
ここで開示される排ガス浄化部40に備えられたパティキュレートフィルタ(DPF)80は、排ガス中に含まれる炭素微粒子、サルフェート等のイオン系微粒子等の粒子状物質(PM)を捕集するフィルタである。
パティキュレートフィルタ80は、例えば、ハニカム構造を有し、排ガスの流れ方向に延びる複数の排ガス流通路を有する。複数の排ガス流通路において、下流側の端部(図1の右側)が封止された流通路と、上流側の端部(図1の左側)が封止された流通路とが交互に形成されている。
流通路のリブ壁(隔壁)は、コージェライトのような多孔質材料から形成されており、排ガス流通路に流入した排ガスは、流通路のリブ壁を通過して隣接する流通路内に流入する。このように排ガスがリブ壁を通過する際に、排ガス中に含まれるPMがパティキュレートフィルタ80に捕集されることになる。
【0035】
次に、排ガス浄化用触媒部50及び排ガス浄化装置100の機能(作用、効果)について説明する。
エンジン始動時のようにエンジン部1の暖機が不十分で比較的多量の炭化水素(HC)が排ガスに含有されており、且つ排ガス浄化用触媒部50の暖機が不十分で触媒活性が低い(貴金属の酸化性能が低い)場合には、排気通路12に流入した排ガス中のHCは、排ガス浄化用触媒部50の上層66に含まれている炭化水素吸着材68で吸着されて保持される。このため、触媒コート層62(上層66及び下層64)に含まれる貴金属70のHC被毒が低減されて排ガス浄化用触媒部50の酸化性能の低下が防止され得る。その後、触媒部50の暖機が十分に行われると、炭化水素吸着材68に吸着していたHCが脱離し、貴金属70で酸化されて、水(HO)及び二酸化炭素(CO)となって排出される。
このとき、排ガス中に含まれる硫黄成分(例えばSO)は、触媒コート層62に含まれる貴金属70の表面を被覆し得る(S被毒)。特に貴金属70としてのパラジウム74はS被毒によって酸化性能が低下しやすいため、排ガスが排ガス浄化用触媒部50を継続的に通過することで、排ガス浄化用触媒50全体の酸化性能(浄化性能)が徐々に低下してしまう。従って、S被毒された貴金属70から硫黄成分を脱離させるS被毒再生処理が必要である。貴金属70から硫黄成分を脱離させるには、排ガス浄化用触媒部50を所定の温度(例えば600℃以上)まで昇温する必要がある。
また、排気通路12に流入した排ガス中に含まれる粒子状物質(PM)は、パティキュレートフィルタ80で捕集され、フィルタ80上に堆積する。フィルタ上へのPMの堆積量が増大すると、リブ壁54内の細孔の目詰まりが生じ、フィルタ80に起因する排ガスの圧力損失が大きくなり不具合が生じる虞がある。このため、フィルタ80上に堆積したPMを定期的に酸化除去(PM再生処理)する必要がある。通常、PMの燃焼開始温度は600℃以上であり、フィルタ80の温度を600℃以上に昇温する必要がある。
【0036】
本実施形態に係る排ガス浄化装置100では、上記S被毒再生処理とPM再生処理とを同時に実現するべく、エンジン部1から排出される排ガスの温度が高くなるように、排気通路12内に配置された燃料供給弁15からスポット的(或いは定期的)に燃料(HC)を供給することができる。
具体的には、ECU30は、排ガス浄化用触媒部50に設けられた温度センサ50a及び/又はパティキュレートフィルタ80に設けられた温度センサ80aから入力された温度情報(信号)に基づいて、或いはまた、上記差圧センサ80bから入力された圧力情報(信号)に基づいて、燃料供給弁15から燃料(HC)を排気通路12中に供給(噴射)する。より具体的には、所定の時間サイクルで入力される上記差圧センサ80bからの値(圧力信号)が所定の値かそれよりも大きいこと(即ち所定値以上の差圧)が検出されたことに基づいて、或いはまた、所定の時間サイクルで入力される上記温度センサ50a,80aからの値(温度信号)が所定の値かそれよりも低いこと(即ち所定値以下の温度)が検出されたことに基づいて、ECU30は一定の時間及びタイミングで燃料供給弁15を作動させて燃料を排気通路12中に供給(噴射)する。なお、所定値未満の差圧或いは所定値を上回る温度が検出された場合は、燃料の供給は行わない。
而して、供給された燃料(HC)が排ガス浄化用触媒部50中で酸化される際に発生する酸化熱によって、排ガス浄化用触媒部50をS被毒再生処理に必要な温度まで上昇させることができる。これにより、S被毒された貴金属70から硫黄成分を脱離させることができる。本実施形態に係る排ガス浄化用触媒部50は、下層64に含まれる白金72とパラジウム74との合計量を100質量%としたときの白金の含有率が70質量%以上95質量%以下であり、S被毒による酸化性能の劣化が小さい白金を多く含んでいるため、下層64に含まれる貴金属70全体のS被毒による酸化性能の低下は低減されている。このため、S被毒再生処理後の排ガス浄化用触媒部50は高い酸化性能(浄化性能)を維持することができる。
同時に上述したS被毒再生処理時に発生した酸化熱によって高温となった排ガスは、フィルタ80をPMの燃焼開始温度まで昇温させることができるためS被毒再生処理と同時にPM再生を行うことができる。
【0037】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0038】
[排ガス浄化用触媒の作製]
<例1>
まず、触媒コート層(一層)用の貴金属担持粉末を調製した。即ち、担体であるAl粉末(γ−Al)105gと、Pt含有量が2gである適量の白金溶液と、Pd含有量が1gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、触媒コート層(一層)用の貴金属担持粉末を調製した。
次に、上記調製した貴金属担持粉末を用いて、スラリー状の触媒コート層形成用の組成物を調製した。具体的には、上記貴金属担持粉末108gと、バインダ(結着材)成分として焼成後のAl量が35gとなる硝酸アルミニウム溶液と、適量の純水とを混合することにより触媒コート層形成用の組成物を調製した。
続いて、上記組成物を触媒用基材の表面にコート(付与)した。具体的には、上記組成物を、焼成後のコート量(付与量)で基材1L当たり203gとなるように、触媒用基材の表面にコートし、通風で乾燥させた後、500℃で1時間焼成することにより、層の厚さ(層厚)165μmの触媒コート層を形成した。以上のようにして、例1に係る排ガス浄化用触媒を作製した。ここで触媒用基材としては、コージェライト製のハニカム基材(容量2L)を用いた。
【0039】
<例2>
担体であるAl粉末(γ−Al)80gと、Pt含有量が1.33gである適量の白金溶液と、Pd含有量が0.67gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例2に係る触媒コート層(下層)用の貴金属担持粉末を調製した。そして、上記例2に係る下層用の貴金属担持粉末82gと、バインダ成分として焼成後のAl量が17.5gとなる硝酸アルミニウム溶液と、適量の純水とを混合することにより例2に係る触媒コート層(下層)形成用の組成物を調製した。
次に、担体であるAl粉末(γ−Al)25gと、Pt含有量が0.67gである適量の白金溶液と、Pd含有量が0.33gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例2に係る触媒コート層(上層)用の貴金属担持粉末を調製した。そして、上記例2に係る上層用の貴金属担持粉末26gと、炭化水素吸着材としてSi/Al比が40であるBEA型ゼオライト60gと、バインダ成分として焼成後のAl量が17.5gとなる硝酸アルミニウム溶液と、適量の純水とを混合することにより例2に係る触媒コート層(上層)形成用の組成物を調製した。
次に、上記例2に係る下層形成用の組成物を、焼成後のコート量(付与量)で基材1L当たり99.5gとなるように、触媒用基材の表面にコートし、通風で乾燥させた後、500℃で1時間焼成することにより、層厚132μmの下層を形成した。続いて、上記例2に係る上層形成用の組成物を、焼成後のコート量(付与量)で基材1L当たり103.5gとなるように、下層の表面にコートし、通風で乾燥させた後、500℃で1時間焼成することにより、層厚58μmの上層を形成した。以上のようにして、上層と下層とを有する例2に係る排ガス浄化用触媒を作製した。このとき、下層中の白金の含有率は67質量%(wt%)であり、白金とパラジウムの質量比は凡そ2:1であった。
【0040】
<例3>
担体であるAl粉末(γ−Al)80gと、Pt含有量が1.5gである適量の白金溶液と、Pd含有量が0.5gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例3に係る触媒コート層(下層)用の貴金属担持粉末を調製した。例3に係る下層用の貴金属担持粉末を用いた他は例2と同様にして、例3に係る排ガス浄化用触媒を作製した。このとき、下層中の白金の含有率は75質量%(wt%)であり、白金とパラジウムの質量比は凡そ3:1であった。また、下層の層厚は132μmであり、上層の層厚は60μmであった。
【0041】
<例4>
担体であるAl粉末(γ−Al)80gと、Pt含有量が1.67gである適量の白金溶液と、Pd含有量が0.33gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例4に係る触媒コート層(下層)用の貴金属担持粉末を調製した。例4に係る下層用の貴金属担持粉末を用いた他は例2と同様にして、例4に係る排ガス浄化用触媒を作製した。このとき、下層中の白金の含有率は84質量%(wt%)であり、白金とパラジウムの質量比は凡そ5:1であった。また、下層の層厚は131μmであり、上層の層厚は59μmであった。
【0042】
<例5>
担体であるAl粉末(γ−Al)80gと、Pt含有量が1.83gである適量の白金溶液と、Pd含有量が0.17gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例5に係る触媒コート層(下層)用の貴金属担持粉末を調製した。例5に係る下層用の貴金属担持粉末を用いた他は例2と同様にして、例5に係る排ガス浄化用触媒を作製した。このとき、下層中の白金の含有率は91.5質量%(wt%)であり、白金とパラジウムの質量比は凡そ11:1であった。また、下層の層厚は130μmであり、上層の層厚は60μmであった。
【0043】
<例6>
担体であるAl粉末(γ−Al)80gと、Pt含有量が2gである適量の白金溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例6に係る触媒コート層(下層)用の貴金属担持粉末を調製した。例6に係る下層用の貴金属担持粉末を用いた他は例2と同様にして、例6に係る排ガス浄化用触媒を作製した。このとき、下層中の白金の含有率は100質量%(wt%)であった。また、下層の層厚は131μmであり、上層の層厚は61μmであった。
【0044】
<例7>
担体であるAl粉末(γ−Al)25gと、Pt含有量が0.83gである適量の白金溶液と、Pd含有量が0.17gである適量のパラジウム溶液と、適量の純水とを混合した。得られた混合液を2時間撹拌した後、130℃において乾燥した。その後500℃で1時間焼成することにより、例7に係る触媒コート層(上層)用の貴金属担持粉末を調製した。例7に係る上層用の貴金属担持粉末を用いた他は例2と同様にして、例7に係る排ガス浄化用触媒を作製した。このとき、下層中の白金の含有率は67質量%(wt%)であり、白金とパラジウムの質量比は凡そ2:1であった。また、上層中の白金の含有率は83質量%であり、白金とパラジウムの質量比は凡そ5:1であった。また、下層の層厚は130μmであり、上層の層厚は58μmであった。
上記作製した例1〜例7に係る排ガス浄化用触媒に含まれる貴金属の組成ならびに各層の厚さについて表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
[浄化性能評価試験(熱劣化後)]
上記作製した例1〜例7に係る排ガス浄化用触媒に対して、2.2Lのディーゼルエンジンからの排ガスを用いて、熱劣化後の排ガス浄化性能評価試験を行った。まず、前処理として、各例に係る排ガス浄化用触媒に対して、電気炉を用いて、空気中において750℃で37時間に亘って加熱した。そして、上記ディーゼルエンジンを用いて、NEDC(New European Driving Cycle)モード(図5参照)を再現し、図5中における領域2〜4の入りガス平均温度が150℃になるようにトルクを調整して、領域2〜4における熱劣化後のCO浄化率[%]を測定した。測定結果を図6に示す。
【0047】
[浄化性能評価試験(S被毒後)]
上記熱劣化後の性能評価試験を行った後、例1〜例7に係る排ガス浄化用触媒に対して、前処理として、400℃の温度条件下、S原子換算で10gの二酸化硫黄(SO)を通過させた。そして、上記熱劣化後の性能評価試験と同様にして、S被毒後のCO浄化率[%]を測定した。測定結果を図6に示す。
【0048】
[浄化性能評価試験(S被毒再生後)]
上記S被毒後の性能評価試験を行った後、例1〜例7に係る排ガス浄化用触媒に対して、前処理として、触媒床温度を15分間600℃にすることにより粒子状物質(PM)を燃焼してPM再生処理を行った。そして、上記熱劣化後の性能評価試験と同様にして、S被毒再生後のCO浄化率[%]を測定した。測定結果を図6に示す。
【0049】
図6に示すように、例2〜例5に係る排ガス浄化用触媒はS被毒再生後に高いCO酸化性能(浄化性能)を有していることが確認された。特に例3〜例5に係る排ガス浄化用触媒のように、S被毒に対する耐性の高い白金の含有率が下層において70質量%〜95質量%の範囲内であることによりS被毒再生後に優れたCO酸化性能を有していることが確認できた。好ましくは、白金の含有率が下層において75質量%〜85質量%の範囲内であることが確認できた。これは、下層中の貴金属はS被毒の状態から再生(回復)し難い状態にあるが、下層に含まれる白金の量を上記範囲内とすることにより下層中のS被毒された貴金属の割合を少なくし触媒全体の酸化性能の低下を低減することができるからである。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る排ガス浄化用触媒は、S被毒再生処理を施した後に酸化性能(浄化性能)に優れる触媒であるため、硫黄濃度の高い燃料を使用して触媒中の貴金属がS被毒を受けやすいような場合であっても内燃機関から排出される排ガスを効果的に浄化することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 エンジン部
2 燃焼室
3 燃料噴射弁
4 吸気マニホルド
5 排気マニホルド
6 吸気ダクト
7 排気ターボチャージャ
7a コンプレッサ
7b 排気タービン
8 吸入空気量検出器
9 エアクリーナ
10 スロットル弁
11 冷却装置(インタークーラー)
12 排気通路(排気管)
15 燃料供給弁
18 排気ガス再循環通路(EGR通路)
19 EGR制御弁
20 EGR冷却装置
21 燃料供給管
22 コモンレール
23 燃料ポンプ
24 燃料タンク
30 ECU(電子制御ユニット)
40 排ガス浄化部
50 排ガス浄化用触媒部(DOC)
50a 温度センサ
52 ハニカム基材
54 リブ壁(隔壁)
56 セル(貫通孔)
60 基材
62 触媒コート層
64 下層
66 上層
68 炭化水素吸着材
70 貴金属
72 白金
74 パラジウム
80 パティキュレートフィルタ(DPF)
80a 温度センサ
80b 差圧センサ
100 排ガス浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された触媒コート層と、を備える排ガス浄化用触媒であって、
前記触媒コート層は、前記基材表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されており、
前記上層は、担体と、該担体に担持された貴金属と、炭化水素吸着材とを含んでおり、
前記下層は、担体と、該担体に担持された貴金属とを含んでおり、
ここで前記下層は、前記貴金属として白金及びパラジウムを含んでおり、該下層に含まれる白金とパラジウムとの合計量を100質量%としたときの白金の含有率が70質量%以上95質量%以下である、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記上層は、前記担体に担持された貴金属として白金及びパラジウムを含んでおり、且つ、前記上層に含まれる白金とパラジウムとの合計量を100質量%としたときのパラジウムの含有率は、前記下層におけるパラジウム含有率を上回るように決定されている、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記下層が、炭化水素吸着材をさらに含む、請求項1又は2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記上層の厚さが、30μm以上100μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記上層及び前記下層の合計の厚さが100μm以上300μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記炭化水素吸着材としてゼオライトを備えている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するために用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
排ガス浄化装置であって、
排ガスが流通する排気通路と、
前記排気通路内に配置される請求項1〜6のいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒と、
前記排ガス浄化用触媒に燃料を供給するための燃料供給手段と、を備えており、
前記燃料供給手段から供給された燃料が前記排ガス浄化用触媒で酸化された際に発生する酸化熱によって、該排ガス浄化用触媒に付着している硫黄成分を脱離させる、排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記排気通気路内には、排ガス中の粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタが前記排ガス浄化用触媒よりも下流側に配置されており、
前記パティキュレートフィルタに捕集された粒子状物質を燃焼するために、前記燃料供給弁から燃料を供給する、請求項8に記載の排ガス浄化装置。
【請求項10】
ディーゼルエンジンの排気系に構築される、請求項8又は9に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−217937(P2012−217937A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86628(P2011−86628)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】