説明

排気ガス浄化システムと排気ガス浄化方法

【課題】排気管内直接燃料噴射装置の燃料噴射弁の目詰まり等による劣化に対して、排気管内直接燃料噴射における実際の噴射推定量を目標噴射量に合せることができ、燃料噴射弁を交換するまでの期間を延長することができる排気ガス浄化方法と排気ガス浄化システムを提供する。
【解決手段】排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率λの算出値λcと計測値λmの差である空気過剰率誤差Δλが、予め設定された閾値Δλcを超えたときに、又は、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差ΔTの算出値ΔTcと計測値ΔTmの差である温度誤差ΔTdが、予め設定された閾値ΔTcを超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量Frと目標噴射量Ftとのずれ量ΔFを算出して、この算出されたずれ量ΔFに基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量Fcを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、排気管内直接燃料噴射装置の燃料噴射弁の目詰まり等による劣化に対して、排気管内直接燃料噴射における実際の噴射推定量を目標噴射量に合せることができる排気ガス浄化システムと排気ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両搭載等の内燃機関の排気ガスの浄化に際しては、内燃機関の排気通路に酸化触媒やNOx吸蔵還元型触媒や触媒付きフィルタ等で構成される排気ガス浄化装置を設けて、この排気ガス浄化装置を通過する排気ガスを浄化している。このような排気ガス浄化装置を備えた排気ガス浄化システムにおいては、触媒付きフィルタの再生の昇温のためやNOx吸蔵還元型触媒のリッチ還元のために、排気通路に直接燃料を噴射する排気管内直接燃料噴射が用いられている。この排気管内直接燃料噴射では、シリンダ内に燃料噴射するポスト噴射に比べてオイル希釈の問題が生じないので、このオイル希釈に起因するエンジンの耐久性上のトラブルが発生せず、また、ポスト噴射のように噴射の一部がシリンダ内壁に付着をする事により、触媒の昇温効率が低下するようなことも無いので、この排気管内直接燃料噴射は、排気ガスの昇温に対する燃費効率も良い方法となっている。
【0003】
しかしながら、この排気管内への直接燃料噴射では燃料噴射弁が目詰まり(コーキング)するという問題がある。この目詰まりは、無噴射時に燃料噴射弁と噴口の隙間から微小の軽油等の燃料が漏れて炭化し、燃料噴射弁を目詰まりさせてしまう症状であり、目詰まりの程度が酷くなると、特に小流量噴射時に大幅に噴射量が減少することがある。この排気管内への直接燃料噴射において燃料の噴射量が制御目標量にならないと目標温度に到達しなかったり、NOx吸蔵還元型触媒に対する直接燃料噴射の場合には、還元剤としての燃料が不足してNOx浄化率が低下したりする。
【0004】
これに関連して、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)の上流側に燃料添加弁を備え、DPF再生時に排気通路内に燃料添加する排気浄化装置において、燃料添加弁とDPFとの間に排気圧センサを設け、燃料添加弁から添加された燃料がDPFに到達する推定時期におけるこの排気圧センサの検出圧力に基づいて、燃料添加弁を診断する内燃機関の排気浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、排気浄化触媒の上流側に還元剤添加ノズルを設け、還元剤添加ノズルに還元剤を供給する還元剤供給通路の通路開閉弁の下流側に設けられた圧力検出手段で、通路開閉弁の開弁期間中と開弁期間の前後において検出した圧力に基づいて、通路開閉弁の開弁中は開弁前の第1の圧力より高い第2の圧力となり、閉弁後は、第1の圧力未満まで低下している場合に還元剤ノズルの閉弁不良が生じているとし、開弁期間中及び開弁期間の前後に検出された圧力が、同一である場合は通路開閉弁が異常であるとし、第1の圧力より高い場合は、通路開閉弁が開弁状態で動作不良に陥っているとし、第2の圧力より低い場合は、通路開閉弁が閉弁状態で動作不良に陥っていると判定する内燃機関の排気浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、これらの内燃機関の排気浄化装置では、燃料添加弁(燃料噴射弁)の目詰まり等の故障を診断するが、目詰まりの程度に対応して、燃料の実際の噴射推定量を目標噴射量に一致させることについては触れられていない。
【0007】
なお、これらの排気管内直接燃料噴射において、燃料噴射量が変化すると目標温度に到達しないので、排気ガス浄化装置の下流側の排気ガス温度センサの検出値を用いて、目標温度になるように燃料噴射指示量を変化させるフードバック制御をしたり、また、燃料噴射量が変化すると還元剤が不足してNOx浄化率が低下するので、排気ガス浄化装置の下流側の空気過剰率センサ(λセンサ)の検出値を用いて、目標空気過剰率になるように燃料噴射指示量を変化させるフードバック制御をしたりすることも考えられている。
【0008】
しかしながら、これのフィードバック制御の補正だけでは限界があるという問題がある。例えば、補正量には通常上下限値が設定されており、それ以上の補正はしないように構成されている。また、実際の燃料噴射量と噴射指示量とが合っていることが、フィードバック制御における補正の前提であるので、ずれが大きいときは、予想より多め又は少なめの補正をすることになり、狙い通りのフィードバックに収斂しない場合が生じる。そのため、フィードバック制御の前提として、実際の燃料噴射量と噴射指示量とを整合させることが重要となる。
【特許文献1】特開2008−2309公報
【特許文献2】特開2002−129945公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、排気管内直接燃料噴射装置の燃料噴射弁の目詰まり等による劣化に対して、排気管内直接燃料噴射における実際の噴射推定量を目標噴射量に合せることができて、燃料噴射弁を交換するまでの期間を延長することができる排気ガス浄化方法と排気ガス浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するための排気ガス浄化システムは、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設けると共に、前記制御装置が、排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときに、又は、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量を補正するように構成される。
【0011】
あるいは、上記のような目的を達成するための排気ガス浄化システムは、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設けると共に、前記制御装置が、排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときで、且つ、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量を補正するように構成される。
【0012】
この空気過剰率誤差Δλは、吸入空気量センサ(MAFセンサ)で計測した吸入空気量Amと筒内(シリンダ内)燃料噴射量Fiと排気管内直接燃料噴射の目標噴射量Ftの和である総燃料噴射量(Fa=Fi+Ft)から算出した空気過剰率λcと、触媒後の空気過剰率センサ(λセンサ)の計測値λmとの差Δλ(=λc−λm)として算出される。
【0013】
また、温度差の算出値ΔTcは、触媒入口温度センサの検出値T1と、排気管内への燃料噴射指示値Fcと吸入空気量センサで検出した空気量Amとから求めた排気ガス量と発熱量から算出された触媒出口算出温度Toとの差(T1−To)によって求めることができる。また、温度差の計測値ΔTmは、触媒入口温度センサによる検出値T1と触媒出口温度センサによる検出値T2との差(T1−T2)によって求めることができる。
【0014】
また、排気ガス浄化装置の上流側における空気過剰率の算出値λcと下流側の空気過剰率センサの計測値λmとの差Δλから、排気管内への燃料直接噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量Frと目標噴射量Ftの差ΔF(=Fr−Ft)をずれ量として算出する。このずれ量ΔFを目標噴射量Ftの補正量として、この補正量ΔFで目標噴射量Ftを補正してこの補正し目標噴射量Ftに対応させて噴射指示量Fcを設定する。実際には、ずれ量ΔFによって、BPWマップ(目標噴射量と開弁時間のマップデータ)を補正し、補正後の噴射指示量Fcを算出する。これにより、燃料噴射弁の開弁時間が同じでも、燃料噴射弁の噴口の目詰まり程度により実際の噴射量とされる噴射推定量Frが変化するので、補正して、補正後の噴射指示量Fcを算出する。
【0015】
なお、目標噴射量Ftを算出するためのマップデータ等のデータ自体を補正した場合には、ずれ量ΔFが小さくなる補正となる。一方、目標噴射量Ftから噴射指示量Fcを算出するBPWマップを補正した場合には、ずれ量ΔFは補正されないままとなる。
【0016】
上記の排気ガス浄化システムにおいて、前記制御装置が、前記目標噴射量のずれ量又は補正量が、予め設定された下限値と上限値の間から外れたときには、警告を発生するように構成する。
【0017】
つまり、補正量ΔFが過大となった場合にはエラー判定して故障診断(OBD)システム等にその旨を表示して、ドライバー等の使用者に警告をして、この警告により故障の修理又は交換を促す。なお、排気管内直接燃料噴射装置の噴射弁を修理又は交換した後では、補正量ΔFもリセットする。
【0018】
そして、上記のような目的を達成するための排気ガス浄化方法は、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムの排気ガス浄化方法において、排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設け、排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときに、又は、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量を補正することを特徴とする方法である。
【0019】
あるいは、上記のような目的を達成するための排気ガス浄化方法は、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムの排気ガス浄化方法において、排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設け、排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときで、且つ、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量を補正することを特徴とする方法である。
【0020】
また、上記の排気ガス浄化方法において、前記目標噴射量のずれ量又は補正量が、予め設定された下限値と上限値の間から外れたときには、警告を発生する。
【0021】
これらの排気ガス浄化方法によれば、それぞれ上記の排気ガス浄化システムによる作用効果と同様な作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムによれば、内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内直接燃料噴射装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、排気管内直接燃料噴射装置の燃料噴射弁の目詰まり等による劣化に対して、排気管内直接燃料噴射における実際の噴射推定量を目標噴射量に合せることができて、燃料噴射弁を交換するまでの期間を延長することができる。また、常時、噴射指示量と実際の噴射推定量との間の相関関係が得られるので、目標制御量に対する噴射指示量のフィードバック制御も正常に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態の排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムについて、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の排気ガス浄化システム1の構成を示す。この排気ガス浄化システム1は、エンジン(内燃機関)10の排気通路16に排気ガス浄化装置18を備えて構成される。
【0024】
この排気ガス浄化システム1のエンジン10は、吸気マニホールド10aに接続される吸気通路11に吸入吸気量センサ12(MAFセンサ)とターボチャージャ13のコンプレッサ13bとインタークーラ14と吸気弁(インテークスロットル)15を備えている。さらに、排気マニホールド10bに接続される排気通路16に、ターボチャージャ13のタービン13bと、燃料等を噴射するための燃料噴射装置17と排気ガス浄化装置18を備えている。更に、排気マニホールド10bと吸気マニホールド10aを接続するEGR通路19には、EGRクーラー20とEGR弁21を備えている。
【0025】
排気ガス浄化装置18では、排気ガスGの浄化性能を維持するために、担持している触媒の温度を触媒活性化温度以上のある程度の温度まで上昇させる必要がある。この排気ガス浄化装置18は、図1の構成では、酸化触媒装置(DOC)18a、NOx吸蔵還元型触媒装置(LNT)18b、触媒付きフィルタ装置(CSF)18cで構成されている。
【0026】
酸化触媒装置18aは、多孔質のセラミックのハニカム構造の担持体に、白金等の酸化触媒を担持させて形成される。この酸化触媒は、排気ガス中のHCやCOを酸化して排気ガスを浄化する役割と、NOx吸蔵還元型触媒3のNOx吸蔵能力を回復するためのNOx再生の際にNOxの還元剤として供給されるHCの一部を酸化して排気ガスの温度を昇温する役割とを持っている。
【0027】
NOx吸蔵還元型触媒装置18bは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を貴金属と共に担持して形成され、酸素過剰な排気ガス中のNOを酸化して硝酸塩として触媒上に吸着させて、NOxを浄化する。このNOx吸蔵還元型触媒は、排気ガスがリーン空燃比では、NOxを吸蔵し、リッチ空燃比では、吸蔵したNOxを放出すると共に、この放出されたNOxを還元雰囲気中で還元して、NOxを低減する。
【0028】
触媒付フィルタ装置18cは、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を備えた触媒付きDPFで構成される。この触媒付DPFは、多孔質のセラミックのハニカムのチャンネルの入口と出口を交互に目封じしたモノリスハニカム型ウォールフロータイプのフィルタ等で形成される。このフィルタの部分に白金や酸化セリウム等の触媒を担持する。
【0029】
この触媒付きDPFにより、排気ガス中のPMは、多孔質のセラミックの壁で捕集される。このPMの捕集量が増加した場合には、排気ガス中に燃料を噴射して、この燃料を酸化触媒により酸化して排気ガスの温度を高めて、この高温の排気ガスにより触媒付きDPFをPMの燃焼開始温度まで上昇させて、捕集されたPMを強制的に燃焼除去して、触媒付きDPFのPM再生を行う。
【0030】
更に、排気ガスGの温度を測定するために、排気ガス浄化装置18の入口に第1温度センサ22が、排気ガス浄化装置18の出口に第2温度センサ23とλ(空気過剰率)センサ24が配設される。
【0031】
これらのセンサ22、23、24等の測定値とエンジン10の運転制御に必要なデータを入力してエンジンの運転状態と排気ガス浄化システム1の排気ガス浄化制御や再生制御を行う制御装置(図示しない)が設けられている。この制御装置はECU(エンジンコントロールユニット)と呼ばれる制御装置であり、本発明の排気ガス浄化方法に関する制御では、エンジン10からのデータと吸入空気量センサ12等の検出値に基づいて、吸気弁15、排気管内直接燃料噴射装置17、EGR弁22等を制御する。
【0032】
次に、本発明の第1の実施の形態の排気ガス浄化方法について、図2の排気管内直接燃料噴射の噴射量の劣化に対する補正制御のための制御フローを参照しながら説明する。この図2の制御フローは、エンジン10の運転が開始され、制御装置(ECU)が、排気管内直接燃料噴射を行っている状態になると、上級のエンジンの制御フローにより繰り返し呼ばれる。
【0033】
この図2の制御フローがスタートすると、ステップS11で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値λcと計測値λmの差である空気過剰率誤差Δλ(=λc−λm)を算出する。この空気過剰率誤差Δλは、吸入空気量センサ(MAFセンサ)で計測した吸入空気量Amと筒内(シリンダ内)燃料噴射量Fiと排気管内直接燃料噴射の燃料噴射量Fの目標噴射量Ftの和である総燃料噴射量(Fa=Fi+Ft)から算出した空気過剰率λcと、λセンサ(空気過剰率センサ)24で検出された計測値λmとの差(Δλ=λc−λm)として算出される。
【0034】
次のステップS12では、空気過剰率誤差Δλのチェックを行い、この空気過剰率誤差λの絶対値│Δλ│が補正用空気過剰率閾値Δλc以上か否かを判定する。このステップS12の判定で、空気過剰率誤差Δλの絶対値│Δλ│が補正用空気過剰率閾値Δλcよりも小さい場合(NO)は、ステップS13に行く。また、ステップS12の判定で、空気過剰率誤差Δλの絶対値│Δλ│が予め設定される補正用空気過剰率閾値Δλc以上の場合(YES)は、ステップS15に行く。なお、必ずしも絶対値の評価でなく、下限閾値と上限閾値を設けて、空気過剰率誤差Δλがこの下限閾値と上限閾値の間にないか(YES)あるか(NO)で判定してもよい。
【0035】
ステップS13では、排気ガス浄化装置18の入口側と出口側の温度差ΔTの算出値ΔTcと計測値の差ΔTmである温度誤差ΔTdを算出する。この温度差ΔTの算出値の差ΔTcは、排気管内直接燃料噴射による昇温後の出口側の温度Toを吸入空気量Amと排気管内直接燃料噴射の総燃料噴射量Fの目標噴射量Ftから発熱量を算出でき、吸入空気量Amと筒内燃料噴射量Fiと排気管内直接燃料噴射の燃料噴射量Fの目標噴射量Ftとから出口側の排気ガス量を算出できる。この発熱量と排気ガス量とから、出口側での排気ガスの温度の上昇分、即ち、入口側と出口側の温度差ΔTの算出値ΔTcを算出することができる。なお、必要に応じて、この温度の上昇分である算出値ΔTcを、排気ガス浄化装置18の熱容量や排気ガス浄化装置への熱伝達量を考慮して補正する。
【0036】
一方、この温度差ΔTの計測値の差ΔTmは第1温度センサ22の計測値T1と第2温度センサ2計測値T2との差(T1−T2)で算出することができる。従って、温度誤差ΔTdは、ΔTd=ΔTc−ΔTmで算出できる。
【0037】
言い換えれば、この温度差ΔTの算出値ΔTcは、排気ガス浄化装置18の入口の第1温度センサ22の検出値T1と、噴射指示量Fcと吸入空気量センサ12で検出した吸入空気量Amとから求めた排気ガス量と発熱量から算出された、排気ガス浄化装置18の出口側の排気ガス温度Toとの差ΔTc=T1−Toによって求めることができる。また、温度差ΔTの計測値ΔTmは、排気ガス浄化装置18の入口の第1温度センサ22の検出値T1と、触排気ガス浄化装置18の出口の第2温度センサ23の検出値T2の差ΔTm=T1−T2によって求めることができる。
【0038】
次のステップS14では、温度誤差ΔTdのチェックを行い、この温度誤差ΔTdの絶対値│ΔTd│が補正用温度誤差閾値ΔTd1以上か否かを判定する。このステップS14の判定で、温度誤差ΔTdの絶対値│ΔTd│が補正用温度誤差閾値ΔTd1よりも小さい場合(NO)は、ステップS11に戻る。また、ステップS14の判定で、温度誤差ΔTdの絶対値│ΔTd│が予め設定される補正用温度誤差閾値ΔTd1以上の場合(YES)は、ステップS15に行く。なお、必ずしも絶対値の評価でなく、下限閾値と上限閾値を設けて、温度誤差ΔTdがこの下限閾値と上限閾値の間にないか(YES)あるか(NO)で判定してもよい。
【0039】
ステップS15では、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量Frと目標噴射量Ftとのずれ量ΔFを算出する。この実際の噴射推定量Frの算出には、筒内燃料噴射量Fiと排気管内直接燃料噴射の燃料噴射量Fの和である総燃料噴射量(Fa=Fi+Fr)と空気過剰率λの関係を用いる。
【0040】
総燃料噴射量Faに理論空気量Aaが比例(Aa=Ka×Fa)するので、総燃料噴射量Faに対する理論空気量Aaを算出することができ、また、空気過剰率λは、総燃料噴射量Faと供給空気量Aiとの比である空燃比(Ai/Fa)と理論空燃比(Aa/Fa)との比率〔(Ai/Fa)/(Aa/Fa)〕であるので、λ=Ai/Aa=Ai/(Ka×Fa)となる。従って、Fa=Ai/(Ka×λa)となる。この式を基に、排気管内直接燃料噴射における実際の噴射推定量Frは、吸入空気量センサ12で検出した吸入空気量Amとλセンサ24で検出した空気過剰率λの測定値λmと筒内燃料噴射量Fiとから、Fr=Ai/(Ka×λm)−Fiで算出される。なお、筒内燃料噴射量Fiはエンジン10の運転状態(例えば、エンジン回転数、負荷等)と排気ガス浄化方法(例えば、浄化制御、再生制御等)によって決まる。この筒内燃料噴射量Fiの決定には周知又は公知の技術が用いられる。
【0041】
一方、目標噴射量Ftは、排気ガス浄化装置18における排気ガスの浄化や排気ガス浄化装置18の再生のための制御で決められる。この浄化のための制御や再生のための制御における目標噴射量Ftの決定には周知又は公知の技術を用いることができる。上記で算出された排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量Frとこの目標噴射量Ftとからこれらのずれ量ΔFを算出する。
【0042】
次のステップS16では、この算出されたずれ量ΔFに基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量Fcを補正する。つまり、このずれ量ΔFを目標噴射量Ftの補正量ΔFtとして、この補正量ΔFtで目標噴射量Ftを補正して(Ft=Ft+ΔFt)、噴射量指示量Fcとする。この噴射指示量Fcの補正は、目標噴射量Ftを算出するためのマップデータ等のデータ自体を補正する。又は、目標噴射量Ftから噴射指示量Fcを算出するBPWマップ(目標噴射量と開弁時間のマップデータ)を補正する。つまり、目標噴射量Ftは補正せずに、この目標噴射量Ftに対する排気管内直接燃料噴射装置17の開弁時間(駆動時間)を補正する。この補正は、すれ量ΔFの値を補正する必要はなく、例えば、このずれ量ΔFの1/100程度の補正を行う。これらの補正後は、補正された後の目標噴射量のデータやBPWマップデータを使用して、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量Fcを算出することになる。つまり、ずれ量ΔFの1/100程度の補正量を順次積算する積算補正を行う。
【0043】
次のステップS17では、このずれ量ΔFが警告用噴射量ずれ量下限閾値ΔFcdと警告用噴射量ずれ量上限閾値ΔFcuの間にあるか否かを判定する。このずれ量ΔFが警告用噴射量ずれ量下限閾値ΔFcdと警告用噴射量ずれ量上限閾値ΔFcuの間にある場合には(YES)、リターンに行き、このずれ量ΔFが警告用噴射量ずれ量下限閾値ΔFcdと警告用噴射量ずれ量上限閾値ΔFcuの間にない場合には(NO)、ステップS18に行く。
【0044】
ステップS18では、ずれ量ΔFが警告用噴射量ずれ量下限閾値ΔFcdと警告用噴射量ずれ量上限閾値ΔFcuの間にないので、エラー判定出力を故障診断(OBD:On-Board Diagnostics)システムに表示する等してドライバー等の使用者に警告し、排気管内直接燃料噴射装置17の交換を促す。つまり、ずれ量が過大となった場合にはエラー判定して故障診断システムに出力して、ドライバー等の使用者に警告をして排気管内直接燃料噴射装置17の故障の修理や交換を促す。このステップS18の後はリターンする。この排気管内直接燃料噴射装置の噴射弁を修理したり交換したりした後では、目標噴射量Ft又は噴射指示量Fcの補正量もリセットする。
【0045】
なお、ステップS16で目標噴射量Ftを算出するためのマップデータ等のデータ自体を補正した場合には、ずれ量ΔFが小さくなる補正となるので、ステップS17における判定は、このずれ量が前回の補正時と倉寝て警告用噴射量ずれ量閾値ΔFc以上になったときに警告をすることになる。一方、ステップS16で目標噴射量Ftから噴射指示量Fcを算出するBPWマップ(目標噴射量と開弁時間のマップデータ)を補正した場合には、ずれ量ΔFは補正されないままとなるので、ステップS17における判定は、このずれ量が、排気管内直接燃料噴射装置17の修理若しくは交換時又は新品の時と比べて警告用噴射量ずれ量閾値ΔFc以上になったときに警告をすることになる。
【0046】
上記の図2の制御フローはリターンした後、再度、排気管内直接燃料噴射を行っている状態になると、上級のエンジンの制御フローにより呼ばれて、エンジン10の運転が停止されるまで、繰り返し実行される。
【0047】
上記の排気ガス浄化システム1の制御装置(ECU)による第1の実施の形態の排気ガス浄化方法の制御により、次のような制御を行うことができる。
【0048】
排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置18の出口側における空気過剰率λの算出値λcと計測値λmの差である空気過剰率誤差Δλを算出し、この空気過剰率誤差Δλが予め設定された閾値Δλcを超えたときに、又は、排気ガス浄化装置18の入口側と出口側の温度差ΔTの算出値ΔTcと計測値ΔTmの差である温度誤差ΔTdを算出し、この温度誤差ΔTdが予め設定された閾値ΔTcを超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量Frと目標噴射量Ftとのずれ量ΔFを算出して、この算出されたずれ量ΔFに基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量Fcを補正することができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施の形態の排気ガス浄化方法について、図3の排気管内直接燃料噴射の噴射量の劣化に対する補正制御のための制御フローを参照しながら説明する。この図3の制御フローは、ステップS12の判定で、空気過剰率誤差Δλのチェックを行って、この空気過剰率誤差Δλの絶対値│Δλ│が補正用空気過剰率閾値Δλc以上の場合(YES)に、ステップS15ではなく、ステップS13に行く。また、そうでない場合(NO)に、ステップS13ではなく、ステップS11に行く。その他の構成は、図2の制御フローと同じである。
【0050】
上記の排気ガス浄化システム1の制御装置(ECU)による第2の実施の形態の排気ガス浄化方法の制御により、次のような制御を行うことができる。
【0051】
排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置18の出口側における空気過剰率λの算出値λcと計測値λmの差である空気過剰率誤差Δλを算出し、この空気過剰率誤差Δλが予め設定された閾値Δλcを超えたときで、且つ、排気ガス浄化装置18の入口側と出口側の温度差ΔTの算出値ΔTcと計測値ΔTmの差である温度誤差ΔTdを算出し、この温度誤差ΔTdが予め設定された閾値ΔTcを超えたときに、排気管内直接燃料噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量Frと目標噴射量Ftとのずれ量ΔFを算出して、この算出されたずれ量ΔFに基づいて、排気管内直接燃料噴射の噴射指示量Fcを補正することができる。
【0052】
従って、上記の排気ガス浄化システム1及び排気ガス浄化方法によれば、エンジン10の排気通路16に設けた排気ガス浄化装置18の上流側に排気管内直接燃料噴射装置17を備えた排気ガス浄化システム1において、排気管内直接燃料噴射装置17の燃料噴射弁の目詰まり等による劣化に対して、排気管内直接燃料噴射における実際の噴射推定量Frを目標噴射量Ftに合せることができて、排気管内直接燃料噴射装置17の燃料噴射弁を交換するまでの期間を延長することができる。また、常時、噴射指示量Fcと実際の噴射推定量Frとの間の相関関係が得られるので、目標制御量Ftに対する噴射指示量Fcのフィードバック制御も正常に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る実施の形態の排気ガス浄化システムの構成を示す図である。
【図2】排気管内直接燃料噴射の噴射量の劣化に対する補正制御のための第1の実施の形態の制御フローを示す図である。
【図3】排気管内直接燃料噴射の噴射量の劣化に対する補正制御のための第2の実施の形態の制御フローを示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 排気ガス浄化システム
10 エンジン(内燃機関)
11 吸気通路
12 吸入吸気量センサ(MAFセンサ)
16 排気通路
17 排気管内直接燃料噴射装置
18 排気ガス浄化装置
22 第1温度センサ
23 第2温度センサ
24 λ(空気過剰率)センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内燃料直接噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、
排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設けると共に、
前記制御装置が、
排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときに、
又は、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、
排気管内燃料直接噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内燃料直接噴射の噴射指示量を補正することを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内燃料直接噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムにおいて、
排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設けると共に、
前記制御装置が、
排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、
排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときで、
且つ、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、
排気管内燃料直接噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内燃料直接噴射の噴射指示量を補正することを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内燃料直接噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムの排気ガス浄化方法において、
排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設け、
排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、
排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときに、
又は、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、
排気管内燃料直接噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内燃料直接噴射の噴射指示量を補正することを特徴とする排気ガス浄化方法。
【請求項4】
内燃機関の排気通路に設けた排気ガス浄化装置の上流側に排気管内燃料直接噴射装置を備えると共にこの排気ガス浄化装置の浄化又は再生のための制御装置を備えた排気ガス浄化システムの排気ガス浄化方法において、
排気ガス浄化装置の入口側に第1温度センサを、排気ガス浄化装置の出口側に第2温度センサと空気過剰率センサを設け、
排気管内直接燃料噴射を行っている状態で、
排気ガス浄化装置の出口側における空気過剰率の算出値と計測値の差である空気過剰率誤差を算出し、この空気過剰率誤差が予め設定された閾値を超えたときで、
且つ、前記排気ガス浄化装置の入口側と出口側の温度差の算出値と計測値の差である温度誤差を算出し、この温度誤差が予め設定された閾値を超えたときに、
排気管内燃料直接噴射で実際に噴射されたと推定される噴射推定量と目標噴射量とのずれ量を算出して、この算出されたずれ量に基づいて、排気管内燃料直接噴射の噴射指示量を補正することを特徴とする排気ガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−121514(P2010−121514A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295666(P2008−295666)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】