説明

排気管継手

【課題】管継手部の構造工夫により、フランジ面と環状シール体との摺動面に付加される潤滑材が早期に減ってしまわないようにして、異常摩耗音等が生ぜず耐久性が改善される排気管継手構造を提供する。
【解決手段】第1排気管1とこれに対向配備される第2排気管2とが、第1排気管1に形成される第1フランジ1Fと、第2排気管2に形成される第2フランジ2Fと、第1フランジ1Fと第2フランジ2Fとをこれら両フランジ1F,2F間に環状シール体Aが介装される状態で圧接させる圧接機構3とを有して成る管継手部Tにより、相対角度変位可能に気密接合されている排気管継手構造において、環状シール体Aの内周面12が摺動面に形成され、かつ、第2フランジ2Fの外周面10が摺動面12に相対角度変位可能に当接する凸球面状外周面に形成されるとともに、摺動面12に耐熱性潤滑材の保持が可能となる凹部が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気系における排気管どうしの接続に適用される排気管継手構造に係り、詳しくは、第1排気管とこれに対向配備される第2排気管とが、第1排気管に形成される第1フランジと、第2排気管に形成される第2フランジと、第1フランジと第2フランジとをこれら両フランジ間に環状シール体が介装される状態で圧接させる圧接機構とを有して成る管継手部により、相対角度変位可能に気密接合されている排気管継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の排気管継手構造は、特許文献1(図2〜図5を参照)において開示されるように、集合管と排気管との接続部や排気管どうしの接続部において採用されている。例えば、特許文献1の図2のものでは、第1排気管である集合管の一体フランジ(22)と第2排気管である排気管(3)浮動フランジ(9)との間に環状シール体である環状シールリング(4)を介装させるとともに、両フランジに亘って架設されるコイルスプリング(11)を伴うセットボルト(10)により、排気管(3)において凸球面状に形成されている先端部分の外周シール座(3a)と環状シールリング(4)の内周シール面(4b)とが圧接される構造とされている。
【0003】
このような排気管継手部においては、気密性を良好に維持させるために、外周シール座(3a)と内周シール面(4b)とを二硫化モリブデンや四窒化フッ素等の潤滑材を伴って圧接させる工夫が為されている(特許文献1の段落番号「0017」を参照)。
【0004】
ところが、外周シール座(3a)と内周シール面(4b)との球面接触による排気管(3)の揺動(相対角度変位)が繰返し行われることにより、摺動部に形成されている前述の潤滑材による皮膜が早期に摩耗したり脱落したりし易いことが分ってきた。このような不都合が生じると、排気管継手部での異常摩耗音(騒音)が発生するようになるため、良好な耐久性を発揮できるようにするには改善の余地がある。
【特許文献1】特開2000−291862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、管継手部の構造工夫により、フランジ面と環状シール体との摺動面に付加される潤滑材が早期に減ってしまわないようにして、異常摩耗音等が生ぜず耐久性が改善される排気管継手構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、第1排気管1とこれに対向配備される第2排気管2とが、前記第1排気管1に形成される第1フランジ1Fと、前記第2排気管2に形成される第2フランジ2Fと、前記第1フランジ1Fと前記第2フランジ2Fとをこれら両フランジ1F,2F間に環状シール体Aが介装される状態で圧接させる圧接機構3とを有して成る管継手部Tにより、相対角度変位可能に気密接合されている排気管継手構造において、
前記環状シール体Aの内周面12が摺動面に形成され、かつ、前記第1フランジ1Fと前記第2フランジ2Fとの何れか一方の外周面10が前記摺動面12に相対角度変位可能に当接する凸球面状外周面に形成されるとともに、前記摺動面12に耐熱性潤滑材の保持が可能となる凹部24が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の排気管継手構造において、前記凹部24が、管軸心Pに沿う方向での断面形状が階段状を呈するように前記環状シール体Aに形成される複数の周溝25で構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の排気管継手構造において、前記環状シール体Aが、膨張黒鉛テープの回りにステンレス線材のニット編みが施された複合テープ21を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の排気管継手構造において、前記何れか一方のフランジ2Fが板金材で形成されて鋼管製の前記排気管2に溶着されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、環状シール体における一方の外周面に当接する摺動面には潤滑材の保持が可能となる凹部が形成されているから、一方のフランジ外周面と圧接される状態での揺動移動による摩耗が繰返し行われても、凹部に保持されている潤滑材が外周面と摺動面との間に浸透する状態が長期に亘って維持されるようになる。しかも、潤滑材が耐熱性のものであるから、自動車の排気系等の比較的高温の流体を扱う場合にも好適なものとなる利点がある。その結果、管継手部の構造工夫により、フランジ面と環状シール体との摺動面に付加される潤滑材が早期に減ってしまわないようにして、異常摩耗音等が生ぜず耐久性が改善される排気管継手構造を提供することができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、摺動面に形成される凹部が複数の周溝で成る階段状のものに構成されているので、摺動面としての必要強度を備えながらも潤滑材が三次元的な状態で長期に亘って保持できるものとなり、請求項1の発明による前記効果を強化することが可能となる利点がある。
【0012】
請求項3の発明によれば、環状シール体を構成する複合テープがステンレス線材のニット編みを含んでいるので、元々線材間に空隙部が存在していてそこにも潤滑材が浸透可能であり、その点でも潤滑材の保持に有利である。また、膨張黒鉛による優れた摩擦低減作用も期待できる利点もあり、耐久性改善効果が一層促進可能となる利点がある。
【0013】
請求項4の発明によれば、管継手部としての主要部が、鋼管製の排気管と鋼板プレス製(板金材)のフランジとによって構成されており、必要な機能を得ながら廉価となる合理的な、排気管継手構造が実現できている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明による排気管継手構造の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は管継手部の断面図、図2,3は環状シール体部分の拡大断面図、図4,5は環状シール体の製造方法を示す工程図、図6は比較例1による環状シール体の製造方法を示す工程図、図7は耐久テスト結果を示す表である。
【0015】
〔実施例1〕
実施例1による排気管継手構造は、図1〜図3に示すように、自動車の排気系における管継手部Tに適用されている。即ち、鋼管製の第1排気管1に形成される第1フランジ1Fと、鋼管製の第2排気管2に形成される第2フランジ2Fと、第1フランジ1Fと第2フランジ2Fとをこれら両フランジ1F,2F間に管継手用シール体である環状シール体(以下、単に「シール体」と略称する)Aが介装される状態で圧接させる圧接機構3とを有して成る管継手部Tにより、第1排気管1とこれに対向配備される第2排気管2とが相対角度変位可能に気密接合されている。
【0016】
板金材製の第1フランジ部1Fは、第1排気管1の先端部に溶着等によって気密状に外嵌固定される基端筒部4と、基端筒部4に続く拡径湾曲部5、拡径湾曲部5から径外側に屈曲されて形成されるフランジ部6とを有して形成されている。第2排気管2は、拡径された先端管部2bと、この先端管部2bと管本体部2aとを繋ぐテーパ管部2cとを有して成り、板金材製の第2フランジ2Fは、先端管部2bの先端部に溶着等によって気密状の外嵌固定される胴部7と、胴部7から径外側に屈曲されて形成されるフランジ部8と、胴部7から先端側に湾曲縮径されながら延長される先窄まり部9とを有して形成されている。
【0017】
拡径湾曲部5は、第1排気管1の管軸心Pと平行な筒管部5Aと、テーパ管部5Bとから成り、シール体Aは、筒管部5Aに内嵌する外周面10と、テーパ管部5Bに内嵌合する傾斜面11とを有して拡径湾曲部5に内嵌収容されている。先窄まり部9の外周面9aは第2排気管2の管軸心Z上に中心Xを有する半径rの凸球面状外周面に形成されており、その凸球面状外周面9aに相対角度変位可能に当接する凹球面状内周面を呈する摺動面12がシール体Aに形成されている。つまり、シール体Aの内周面12がが摺動面に形成され、かつ、第2フランジ(「第1フランジ1Fと第2フランジ2Fとの何れか一方」の一例)2Fの外周面9aが、摺動面12に相対角度変位可能に当接する凸球面状外周面に形成されている。
【0018】
圧接機構3は、図1に示すように、第1及び第2フランジ1F,2Fに形成されている孔1k、2kに挿通される鍔付ボルト13と、ナット14と、鍔付ボルト13に嵌装されるコイルバネ15とを図示のように組付けることにより構成されており、コイルバネ15の弾性力によって第1及び第2フランジ1F,2Fを互いに接近する方向に常時押圧付勢することで管継手部Tを形成及び維持している。鍔付ボルト13とナット14との締付操作により、コイルバネ15のセット長を変えて第1及び第2フランジ1F,2Fの押圧付勢力を調節設定可能である。この圧接機構3は、管軸心P,Zを中心とする円周上の均等角度毎の複数箇所(2〜4箇所等)に設けられている。
【0019】
図1〜図3に示すように、シール体Aの摺動面12と第2フランジ2Fの外周面9aとが球面接触していること、及び上記構成の圧接機構3とによる摺動面12と外周面9aとの相対球面移動により、管継手部Tにおいて第1排気管1と第2排気管2とは、図1に仮想線で示す第2フランジ2Fのように相対角度変位可能に気密接合される構成となっている。尚、図3は、図2に示す組付け初期状態からシール体Aの摺動面12が摩耗して所定厚み(例:1mm)dだけ減った状態を示している。その図3に示すように、摺動面12がかなり摩耗した状態でも、周溝25即ち凹部24はまだ残っており、そこに保持される潤滑材23が依然として蓄えられている。
【0020】
シール体Aの製造方法について説明する。先ず、図4(a)に示すように、膨張黒鉛とステンレス糸からなる複合テープ21を作成する複合テープ作成工程を行う。即ち、膨張黒鉛テープの外周でステンレス糸(ステンレス線材)によるニット編みを行い、それからローラー間で圧縮成形することにより、図4(a)に示す幅W(例:20mm)で長さL(例:580mm)の複合テープ21が得られる。耐熱材である膨張黒鉛は、厚さt=0.38mmで耐熱グレードを有するものを例として用い、補強材としてのステンレス糸の例としては、材質がSUS316で直径0.25mmのものを用いて12針のニット編みを行う。複合テープ21における耐熱材と補強材との割合は、膨張黒鉛が35重量%でステンレス糸が65重量%に設定されている。
【0021】
次に、テープ作成工程で得られた複合テープ21を円周状に三周巻きし、それからプレス成形で圧縮する成形工程を行うことにより、図4(b)に示す環状元体22を作成する。プレス成形の際は、摺動面12に潤滑材23の保持が可能となる凹部24、より詳しくは、耐熱性潤滑材23の保持が可能となる複数の周溝25による階段状の凹部24が形成される。
【0022】
そして、図5(a)に示す断面形状のように、階段状の凹部24に耐熱性潤滑材(固体潤滑材)23を塗布及び乾燥させる潤滑材塗布工程を行う。耐熱性潤滑材としては、フッ素樹脂と窒化ホウ素との混合物が挙げられるが、その他のものでも良い。また、その他の潤滑材としては、窒化ホウ素83%で水酸化アルミニウム17%で成る窒化ホウ素系のものも考えられる。潤滑材23が乾燥したら、図5(b)に示す断面形状のように、摺動面12を削り又は押え加工によって凸球面状外周面9aに沿う形状、即ち凹球面状内周面に成形(又は成型)する仕上げ工程を行い、完了となる。
【0023】
〔比較例1〕
比較例1による管継手構造は、上述の管継手部Tにおいて使用されるシール体Aを変更したものである。その変更された比較例1のシール体Aは、図4,図6に示す製造方法によって作成される。先ず、膨張黒鉛とステンレス糸からなる複合テープ21を作成するテープ作成工程を行う点〔図4(a)参照〕は実施例1の場合と同じである。そして、図6(a)に示すように、複合テープ21の端から長さの1/3までの部分における片面に潤滑材33を塗布し、乾燥させる潤滑材塗布工程を行う。
【0024】
次に、図6(b)に示すように、部分的に潤滑材33が塗布された複合テープ21を円周状に三周巻きし、金型に挿入しての圧縮成形(成形仕上げ工程)を行い、図6(c)に示すように程凹球面状内周面の摺動面12を有する比較例1のシール体Aが作成される。潤滑材33は、上述の窒化ホウ素系のものを用いた。比較例1によるシール体Aの摺動面は凹球面状を呈しており、その表面は潤滑材23の層を有する状態となっている。
【0025】
〔性能評価〕
シール体Aを排気管継手部Tに装着した状態で、その排気流れ方向で上流側(第1排気管1)を固定し、かつ、下流側(第2排気管2)を上下揺動させるべく駆動装置に取付けることにより、下流側排気管(第2排気管2)を角度±3度、周波数12Hzにて150万回上下揺動させる耐久テストを行った。耐久テスト中は、上流側排気管(第1排気管1)の開管部からガスバーナーにて加熱し、管継手部Tの温度を550℃に保った。耐久テスト中は、所定の上下揺動回数時に周波数を一時的に4Hzに下げ、そのときの摩擦音を確認した。摩擦音の大きさは、摩擦異音が聞こえ得る範囲で最も管継手部Tから離れた箇所の距離として表わすこととした。また、25万回毎にシール性能、揺動トルクを測定した。耐久テストの結果を図7に示す。
【0026】
図7より、本発明品である実施例1の管継手構造に用いられるシール体Aでは、125万回までは異音発生が皆無であったに対して、比較例1のものでは50万回という早期回数から既に異音が出始めており、圧倒的に実施例1のものの方が優れていることが理解できる。つまり、階段状の凹部24を有する摺動部12に潤滑材23が保持されているので、揺動による摩耗が進んで行くことによって新たな潤滑面が形成される作用が生じるようになり、良好な潤滑状態が維持されることとなって異常摩耗音(異音)が発生し難い利点が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】排気管継手構造を示す断面図(実施例1)
【図2】図1の摺動部構造を示す要部の拡大断面図
【図3】シール体が図2の状態から1mm摩耗したときの断面図
【図4】管継手用シール体の製造方法を示し、(a)は複合テープ作成工程、(b)は成形工程
【図5】管継手用シール体の製造方法を示し、(a)は潤滑材塗布工程、(b)は仕上げ工程
【図6】比較例1による環状シール体の製造方法を示し、(a)は潤滑材塗布工程、(b)は成形仕上げ工程、(c)は完成品
【図7】環状シール体の耐久テスト結果を示す図
【符号の説明】
【0028】
1 第1排気管
1F 第1フランジ
2 第2排気管
2F 第2フランジ
3 圧接機構
10 第1フランジと第2フランジとの何れか一方の外周面
12 内周面
21 複合テープ
24 凹部
25 周溝
A 環状シール体
P 管軸心
T 管継手部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1排気管とこれに対向配備される第2排気管とが、前記第1排気管に形成される第1フランジと、前記第2排気管に形成される第2フランジと、前記第1フランジと前記第2フランジとをこれら両フランジ間に環状シール体が介装される状態で圧接させる圧接機構とを有して成る管継手部により、相対角度変位可能に気密接合されている排気管継手構造であって、
前記環状シール体の内周面が摺動面に形成され、かつ、前記第1フランジと前記第2フランジとの何れか一方の外周面が前記摺動面に相対角度変位可能に当接する凸球面状外周面に形成されるとともに、前記摺動面に耐熱性潤滑材の保持が可能となる凹部が形成されている排気管継手構造。
【請求項2】
前記凹部が、管軸心に沿う方向での断面形状が階段状を呈するように前記環状シール体に形成される複数の周溝で構成されている請求項1に記載の排気管継手構造。
【請求項3】
前記環状シール体が、膨張黒鉛テープの回りにステンレス線材のニット編みが施された複合テープを用いて形成されている請求項1又は2に記載の排気管継手構造。
【請求項4】
前記何れか一方のフランジが板金材で形成されて鋼管製の前記排気管に溶着されている請求項1〜3の何れか一項に記載の排気管継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−144885(P2009−144885A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325463(P2007−325463)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】