説明

探傷試験用磁粉、探傷試験用磁粉混合液及び磁粉探傷試験方法

【課題】異なる大きさの傷を一回の作業で全て把握できる探傷試験用磁粉を提供する。
【解決手段】粒の大きさの異なる磁粉に、蛍光塗料302と、それぞれの大きさに対応する異なる色の着色料を塗布して、溶剤105に混ぜた。この探傷試験用磁粉混合液101を用いることで、従来では傷の大きさに応じて二度以上の手間を必要とした磁粉探傷試験が、一回の手間で済む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探傷試験用磁粉、探傷試験用磁粉混合液及び磁粉探傷試験方法に関する。
より詳細には、従来と同様の簡単な作業で、強磁性材料の表面近傍に生じている、大きさ及び深さの異なる傷を、その大小で区別して発見できると共に、探傷のS/N比を良くする、探傷試験用磁粉に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、鉄鋼等の強磁性体を用いる機械部品を検査するために、非破壊検査の一つであるJIS−Z2320に規定されている磁粉探傷試験が広く適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−101193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁粉探傷試験は微小な傷を発見する方法として極めて便利であるが、検査の対象となる物品の表面に形成されている傷の大きさを区別して傷を見つけようとすると、異なる粒の大きさの磁粉を複数種類用意して、各々の磁粉で探傷試験を行った後、一旦検査の対象となる物品の表面を洗浄して、物品の表面に付着した磁粉を除去してから、別の磁粉を用いた探傷試験を行わなければならず、極めて面倒であった。また、この場合、物品の表面を撮影するCCDカメラから得られる複数の画像データを、後で手作業で合成して傷の位置を判別しなければならず、この作業も極めて面倒であった。
【0005】
本発明は係る課題を解決し、大きさ及び深さの異なる傷を短時間に区別して検出可能であり、傷を区別するための画像処理も極めて容易な、探傷試験用磁粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の探傷試験用磁粉は、粒が第一の大きさを備える第一磁粉と、粒が第一磁粉より小さい第二の大きさを備える第二磁粉と、第一磁粉及び第二磁粉の表面に塗布される蛍光塗料と、第一磁粉の表面に塗布されて第一の色で発色する第一着色料と、第二磁粉の表面に塗布されて第一着色料とは異なる第二の色で発色する第二着色料とを具備する。
【0007】
粒の大きさの異なる磁粉に、蛍光塗料と、それぞれの大きさに対応する異なる色の着色料を塗布する。この探傷試験用磁粉を用いることで、従来では傷の大きさに応じて一旦試験対象物品に付着した磁粉を洗い流して再度試験を行う等の、二度以上の手間を必要とした磁粉探傷試験が、一回の手間で済む。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、大きさ及び深さの異なる傷を短時間に区別して検出可能であり、傷を区別するための画像処理も極めて容易な、探傷試験用磁粉を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態の探傷試験用磁粉と、これを用いた探傷試験の概要を示す概略図である。
【図2】本実施形態の探傷試験用磁粉混合液の作用を示す概略図である。
【図3】探傷試験用磁粉の着色方法を説明する概略図である。
【図4】磁粉探傷試験の時間軸上の推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本実施形態の探傷試験用磁粉と、これを用いた探傷試験の概要を示す概略図である。
探傷試験用磁粉混合液101は、大粒磁粉102と、中粒磁粉103と、小粒磁粉104と、溶剤105が混合されて構成される。
大粒磁粉102は探傷試験用磁粉混合液101に含まれる三種類の大きさの磁粉の中で最も大きい粒で構成され、粒の直径は例えば10μm以上である。
中粒磁粉103は探傷試験用磁粉混合液101に含まれる三種類の大きさの磁粉の中で二番目に大きい粒で構成され、粒の直径は例えば3μm以上10μm以下である。
小粒磁粉104は探傷試験用磁粉混合液101に含まれる三種類の大きさの磁粉の中で最も小さい粒で構成され、粒の直径は例えば3μm以下である。
溶剤105は水のままでもよいし、合成樹脂エマルジョン或は界面活性剤等が混合された水溶液であってもよい。大粒磁粉102、中粒磁粉103及び小粒磁粉104が探傷試験用磁粉混合液101の中で満遍なく混じり合う状態を維持できる液体であればよい。但し、溶剤105は水性であることが望ましい。この理由については後述する。
【0011】
大粒磁粉102、中粒磁粉103及び小粒磁粉104は、それぞれ蛍光塗料と顔料等の着色料が塗布されている。そして本実施形態の最大の特徴として、大粒磁粉102、中粒磁粉103及び小粒磁粉104に塗布されている着色料は、それぞれ異なる色が塗布されている。
例えば、大粒磁粉102は蛍光塗料と緑色の顔料が、中粒磁粉103は蛍光塗料と青色の顔料が、小粒磁粉104は蛍光塗料と赤色の顔料が、それぞれ塗布されている。
したがって、暗室の中で、探傷試験用磁粉混合液101に、周知の蛍光探傷試験で用いるブラックライトとも呼ばれる紫外線灯106で紫外線を照射すると、大粒磁粉102、中粒磁粉103及び小粒磁粉104は、緑、青、赤と、それぞれ異なる色で発色する。
【0012】
このような探傷試験用磁粉混合液101を、探傷試験用鋼材107に噴射する。その際、探傷試験用鋼材107は着磁コイル108にくぐらせ、着磁コイル108には直流電源109から約7〜70Vの直流電圧を印加し、探傷試験用鋼材107を一時的に磁化する。すると、探傷試験用鋼材107の表面に存在する傷110に、探傷試験用磁粉混合液101に含まれている大粒磁粉102、中粒磁粉103及び小粒磁粉104のうち一種類以上が入り込んで吸着する。
【0013】
傷110に入り込んだ磁粉に暗所にて紫外線灯106で紫外線を照射すると、磁粉はその表面に塗布されている蛍光塗料の作用で発光する。そして、その発光は顔料によって特定の色に発色する。この発色の様子を例えばCCDカメラ111で撮影し、得られた画像データを用いて傷110の存在やその大きさを解析する。
【0014】
図2は本実施形態の探傷試験用磁粉混合液101の作用を示す概略図である。
理解を容易にするため、探傷試験用鋼材107には三種類の大きさの傷が形成されているとする。
着磁コイル108に直流電源109を接続し、探傷試験用鋼材107を一時的に着磁すると、傷の周囲に漏洩磁場201が発生する。磁粉はこの漏洩磁場201に吸い寄せられ、傷の内部に吸着する。
傷の開口部分の大きさに応じて、吸着する磁粉の種類が限定される。
【0015】
小傷202は、開口部分が小さく、最も浅い傷である。このため、開口部分に発生する漏洩磁束が小さいので、質量の軽い小粒磁粉104は小傷202内に吸着して入り込んで吸着する。しかし、中粒磁粉103及び大粒磁粉102は質量が重いので、漏洩磁束が探傷試験用磁粉混合液101の流れから中粒磁粉103及び大粒磁粉102を捉えて吸着するだけの吸着力を発揮できない。このため、中粒磁粉103及び大粒磁粉102は小傷202内に入り込めない。したがって、小傷202は探傷試験用磁粉混合液101を塗布した後に紫外線灯106を照射すると、小粒磁粉104の色である赤色に発色する。
【0016】
中傷203は、開口部分が小傷202より大きく且つ大傷204より小さく、また深さも小傷202より深いものの大傷204よりは浅い傷である。
このため、開口部分に発生する漏洩磁束は小傷202より大きく、質量の軽い小粒磁粉104のみならず、中粒磁粉103も中傷203内に入り込んで吸着する。しかし、大粒磁粉102は質量が重いので、漏洩磁束が探傷試験用磁粉混合液101の流れから大粒磁粉102を捉えて吸着するだけの吸着力を発揮できない。このため、大粒磁粉102は中傷203内に入り込めない。したがって、中傷203は探傷試験用磁粉混合液101を塗布した後に紫外線灯106を照射すると、小粒磁粉104の色である赤色と、中粒磁粉103の色である青色に発色する。
【0017】
大傷204は、開口部分が中傷203より大きく、深さも中傷203より深い傷である。
このため、開口部分に発生する漏洩磁束は中傷203より大きく、質量の軽い小粒磁粉104及び中粒磁粉103のみならず、大粒磁粉102も大傷204内に入り込んで吸着する。したがって、大傷204は探傷試験用磁粉混合液101を塗布した後に紫外線灯106を照射すると、小粒磁粉104の色である赤色と、中粒磁粉103の色である青色と、大粒磁粉102の色である緑色に発色する。
【0018】
このように、磁粉によって発色した探傷試験用鋼材107表面の傷を、CCDカメラ111で撮影し、画像データを得る。すると、大傷204は緑、青、赤の三色で発色し、中傷203は青、赤の二色で発色し、小傷202は赤の一色で発色する。この画像データをそれぞれの色でフィルタリングすると、大傷204、中傷203、小傷202に分けて分析することができる。
【0019】
そして、本実施形態の探傷試験用磁粉混合液101の最大の特徴は、CCDカメラ111で撮影する工程が一回で済む、という点である。従来技術では磁粉の大きさに応じてその都度カメラで撮影し、画像データを得て、後から複数の画像データを合成する作業が必要であった。本実施形態の探傷試験用磁粉混合液101を用いると、一回の撮影で得られる画像データには複数種類の粒の磁粉が異なる色で発色するので、画像データを傷の大きさに応じてそれぞれの色で分けるだけでよく、複数の画像データの位置合わせや、そのために探傷試験用鋼材107を固定する等の作業が不要になる。
【0020】
また、本実施形態の探傷試験用磁粉混合液101をバックグランド処理(表面荒らし処理) された試験対象物品に用いると、荒らし加工された箇所には小粒磁粉104が付着し、本来見つけなければならない傷には中粒磁粉103又は大粒磁粉102が付着するので、傷を見つける際のS/Nを向上させることができる。
【0021】
図3(a)及び(b)は、探傷試験用磁粉の着色方法を説明する概略図である。
探傷試験用磁粉混合液101は、周知の湿式の磁粉混合液と同様に、試験実施後の洗浄を容易にするため、水性の溶液である。前述のように、この探傷試験用磁粉混合液101は、粒の大きさの異なる三色の磁粉が水或は所定の薬剤を含んだ水溶液の溶剤105で混じり合う。その際、磁粉の表面に塗布されている着色料が水溶性であると、着色料が溶剤105に溶け出してしまい、正しい探傷試験ができなくなってしまう。
図3(a)は、探傷試験用磁粉の着色の一例である。磁粉粒子301の表面には、乾燥した蛍光塗料302と、乾燥した顔料303と、油性の有機溶剤304が混合されて塗布されている。有機溶剤304が蛍光塗料302と顔料303を磁粉粒子301の表面で保持することで、水溶性の溶剤105へ顔料303が溶け出す現象を防止する。
図3(b)は、探傷試験用磁粉の着色のもう一つの一例である。磁粉粒子301の表面には、先ず乾燥した蛍光塗料302と、乾燥した顔料303とが混合されて塗布されている。そして、その上に更に油性の有機溶剤304が塗布されている。つまり、有機溶剤304は顔料303が溶剤105に溶け出さないための防護膜を形成している。
【0022】
なお、磁粉粒子301の錆び付きを防止するために混合される防錆剤は、蛍光塗料302と顔料303と共に塗布した後、有機溶剤304を塗布することとなる。
【0023】
図4(a)、(b)及び(c)は磁粉探傷試験の時間軸上の推移を示すタイムチャートである。
図4(a)は、探傷試験用磁粉混合液101を探傷試験用鋼材107に噴射するタイミングを示す。
図4(b)は、探傷試験用鋼材107を磁化するタイミングを示す。
図4(c)は、CCDカメラ111で撮影するタイミングを示す。
磁粉探傷試験には、磁化の方法に応じて二種類の方法がある。
連続磁化方法では、探傷試験用鋼材107を磁化しながら(T401〜T402)探傷試験用磁粉混合液101を探傷試験用鋼材107表面に噴射する(T403〜T404)。そして、探傷試験用磁粉混合液101の噴射を止めて(T404)暫く磁化を継続する(T404〜T402)と、傷に磁粉が入り込んで安定する。この状態で、CCDカメラ111で撮影する(T405〜T406)。
これに対し、コイルに瞬間的に大電流を流して、探傷試験用鋼材107に永久的な磁化を施す残留磁化方法では、時点T401〜T402の期間に磁化を行うのではなく、探傷試験用磁粉混合液101を探傷試験用鋼材107に噴射する(T403〜T404)直前に、磁化を行う(T407〜T408)。
【0024】
本実施形態は以下の応用が可能である。
(1)磁粉の粒子の大きさは三種類に限らない。二種類以上であればよい。
【0025】
(2)本実施形態の探傷試験用磁粉は、溶剤105を用いない乾式の検査でも実施可能である。この場合は、顔料303が溶剤105に溶け出すことを防ぐために有機溶剤304を使用する必要がなくなる。
【0026】
(3)大粒磁粉102と、中粒磁粉103と、小粒磁粉104を全て混合せずに別個の磁粉液体として作成し、順番に探傷試験用鋼材107に塗布することも可能である。この場合、順番としては傷に入り込んで吸着する粒の大きさから、最初に大粒磁粉102の液体を塗布し、次に中粒磁粉103の液体を塗布し、最後に小粒磁粉104の液体を塗布することが望ましい。そして、連続磁化方法では最初の大粒磁粉102の液体から最後の小粒磁粉104の液体を塗布し終わるまで磁化を継続させる必要がある。
この場合も、顔料303が溶剤105に溶け出すことを防ぐために有機溶剤304を使用する必要がなくなる。
【0027】
(4)前述の(3)で、顔料303が溶剤105に溶け出す際に時間がかかるのであれば、大粒磁粉102と、中粒磁粉103と、小粒磁粉104を全て混合せずに別個の磁粉液体として作成し、同時に探傷試験用鋼材107に塗布することも可能である。
【0028】
(5)前述の(4)で大粒磁粉102と、中粒磁粉103と、小粒磁粉104を全て混合せずに別個の磁粉液体として作成し、同時に探傷試験用鋼材107に塗布するか、又は探傷試験用磁粉混合液101を探傷試験用鋼材107に塗布する際、磁化の強さを段々と強く行き、その付着磁粉の付着色合いの変化をCCDカメラ111で動画として撮影し、色の変化の移り変わるスピード、配色により欠陥の大きさ・深さを判断することもできる。
【0029】
(6)前述の実施形態ではCCDカメラ111を用いたが、簡易な検査であれば目視でもよい。
【0030】
(7)試験対象物品の性質上、油性の磁粉も存在する。この場合、本発明を実施するためには、水性の塗料を用いることとなる。
【0031】
(8)探傷試験に用いる電源は、交流電源であってもよい。
【0032】
本実施形態では探傷試験用磁粉混合液101を開示した。
粒の大きさの異なる磁粉に、蛍光塗料と、それぞれの大きさに対応する異なる色の着色料を塗布して、溶剤に混ぜた。この探傷試験用磁粉混合液を用いることで、従来では傷の大きさに応じて二度以上の手間を必要とした磁粉探傷試験が、一回の手間で済む。
【符号の説明】
【0033】
101…探傷試験用磁粉混合液、102…大粒磁粉、103…中粒磁粉、104…小粒磁粉、105…溶剤、106…紫外線灯、107…探傷試験用鋼材、108…着磁コイル、109…直流電源、110…傷、111…CCDカメラ、201…漏洩磁場、202…小傷、203…中傷、204…大傷、301…磁粉粒子、302…蛍光塗料、303…顔料、304…有機溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒が第一の大きさを備える第一磁粉と、
粒が前記第一磁粉より小さい第二の大きさを備える第二磁粉と、
前記第一磁粉及び前記第二磁粉の表面に塗布される蛍光塗料と、
前記第一磁粉の表面に塗布されて第一の色で発色する第一着色料と、
前記第二磁粉の表面に塗布されて前記第一着色料とは異なる第二の色で発色する第二着色料と
を具備する探傷試験用磁粉。
【請求項2】
粒が第一の大きさを備える第一磁粉と、
粒が前記第一磁粉より小さい第二の大きさを備える第二磁粉と、
前記第一磁粉及び前記第二磁粉の表面に塗布される蛍光塗料と、
前記第一磁粉の表面に塗布されて第一の色で発色する第一着色料と、
前記第二磁粉の表面に塗布されて前記第一着色料とは異なる第二の色で発色する第二着色料と、
前記第一磁粉及び前記第二磁粉が混合される水溶性の溶剤と、
を具備する探傷試験用磁粉混合液。
【請求項3】
更に、
前記第一磁粉及び前記第二磁粉の表面に塗布されて前記第一着色料及び前記第二着色料が前記溶剤に溶出することを防止する固着剤と
を具備する、請求項2記載の探傷試験用磁粉混合液。
【請求項4】
探傷試験対象物品を磁化する第一の工程と、
蛍光塗料と第一着色料とが塗布され、粒が第一の大きさを備える第一磁粉を含む溶液を、探傷試験対象物品に塗布する第二の工程と、
前記第二の工程の後、前記蛍光塗料と前記第一着色料とは異なる第二の色で発色する第二着色料とが塗布され、粒が前記第一磁粉より小さい第二の大きさを備える第二磁粉を含む溶液を、前記探傷試験対象物品に塗布する第三の工程と、
前記探傷試験対象物品に紫外線を照射して前記探傷試験対象物品の表面に付着した前記第一磁粉及び前記第二磁粉を発光させる第四の工程と
を有する磁粉探傷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−174893(P2011−174893A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41022(P2010−41022)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(591027042)日本電磁測器株式会社 (17)
【Fターム(参考)】