説明

接合構造体の製造方法

【課題】半田との接合界面が、低温で水素雰囲気では還元されにくい材質で構成されている場合でも、低いボイド率で半田付けを行う。
【解決手段】半田を介して重ね合わせられている第1の接合部材および第2の接合部材が設置されたチャンバー内の空気を排気し、少なくとも水素を含むガスを導入して、大気圧よりも低い第1の圧力の状態に設定するステップA1と、第1の圧力の状態を保持したまま、半田の液相線温度よりも高い第1の温度まで加熱するステップA3と、第1の温度の状態を保持したまま、第1の圧力よりも低い第2の圧力まで減圧するステップA4と、第1の温度の状態を保持したまま、チャンバー内に少なくとも水素または窒素を含むガスを導入して、大気圧まで加圧するステップA5と、大気圧の状態を保持したまま、半田の固相線温度よりも低い第2の温度まで冷却するステップA6とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造体の製造方法に関するものであり、より詳細には、半導体素子などの発熱体を、ヒートスプレッダや基材などに半田を介して接合する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、大電流を制御するため発熱が大きいパワーデバイスやパワーモジュールなどの半導体装置には、半導体素子の裏面をメタライズし、半田を用いて基材と接合する構造が採用されている。このような接合構造では、放熱性を向上するために、半導体素子と基材との間にヒートスプレッダを挿入し、各間を半田で接合する場合がある。この場合、半田との高い密着性を得るために、半田との接合界面に存在する酸化膜を除去することが重要である。
【0003】
また、接合の際、半田溶融時に炉中の雰囲気を巻き込んだり、半田や接合部材から揮発成分が発生することにより、半田中にボイド(空隙)が生じる場合がある。また、半田中のボイドの発生は接合界面の濡れ性とも関連しており、濡れ性が悪いと雰囲気を巻き込みやすく、半田中にボイドが残存しやすい。ボイドは、その大きさによっては放熱の妨げとなり、電気特性および信頼性に悪影響を与えるため、極力低減する必要がある。
【0004】
通常の部品実装では、酸化膜を除去するために、フラックスと半田粒とを混ぜ合わせた半田ペーストを用いてリフローを行う方法がとられている。しかし、リフロー後にフラックス残渣が接合部材の表面に残存することで、実使用にて半導体素子が発熱する際にフラックス成分が活性化し、腐食が進行する可能性がある。また、後工程にて半導体素子と基材とのワイヤボンドを行う際に、接合強度が低下する場合がある。さらには、フラックス残渣を除去するために洗浄を行う場合、工程追加によりコストアップとなり、また洗浄残りに対する検討も必要となる。
【0005】
このような理由から、電流制御用半導体素子の接合には、フラックスを用いずに酸化膜を除去する方法として、水素雰囲気中でリフローを行う方法が多く採用されている。従来では連続式水素炉が用いられ、温度プロファイルの最適化や、半導体素子上に重しを載せることにより、ボイドの低減が図られてきた。
【0006】
また近年では、さらに積極的にボイドを排除するために、半田溶融後に減圧を行うことによりボイドを排除する方法が用いられるようになった。図6を参照しながら、半田溶融後に減圧を行う標準的な半田付け方式(接合方法)について説明する。
【0007】
図6は、上記標準的な半田付け方式のリフロープロファイルを示している。横軸は時間を示し、縦軸は温度および圧力を示している。また、実線のグラフは温度を示し、1点鎖線のグラフは圧力を示している。
【0008】
まず、基材表面に塗布された半田ペースト上にヒートスプレッダを載せ、さらにヒートスプレッダに塗布された半田ペースト上に半導体素子を載せたものを、チャンバー内に設置する。
(ステップB1)チャンバー内の空気を排気し、水素またはフォーミングガスを大気圧まで導入する。このとき、室温を維持する。
(ステップB2)大気圧状態を保持したまま加熱を開始し、半田の固相線温度以下の温度で一定時間予熱を行う。ここで、錫(Sn)を主成分とする鉛(Pb)フリー半田の場合、一般的に融点が210〜235度程度であるので、予熱温度は200度程度とする必要がある。
(ステップB3)大気圧状態を保持したまま、半田の液相線温度以上までさらに加熱し、半田を溶融させる。上記表面処理が貴金属メッキの場合は、半田中にボイドは含むものの、濡れ性は良好である。しかし、NiメッキまたはSnメッキの場合は、予熱で表面が清浄化されていないため、半田が溶融しても十分な濡れが得られず、はじいた状態となる。この場合、半田の液相線温度以上の温度を一定時間保持することにより、還元効果が得られ表面が清浄化される。
(ステップB4)半田溶融状態を保持したまま減圧する。これにより、半田中のボイドの脱泡が行われる。
(ステップB5)半田溶融状態を保持したまま、窒素、水素、またはフォーミングガスをチャンバー内に導入し、大気圧に戻す。
(ステップB6)大気圧状態を保持したまま冷却する。これにより、半田が固化し、半導体素子、ヒートスプレッダ、および基材の接合が完了する。
【0009】
以上の工程により、半田溶融後に減圧を行う標準的な半田付け方式では、脱泡効果によってボイドを除去することが可能となる。特にPb含有半田であれば、連続式水素炉を使用する方法よりも大幅にボイドを低減することが可能となる。
【0010】
ところが、Pbは土壌に長期間にわたり残留し、人体に悪影響を与えるため、高温環境にて使用される一部の部品を除いて使用が制限されている。これにより、現在では、Snを主成分とするPbフリー半田が広く用いられるようになりつつある。
【0011】
一般に、Pbフリー半田は、Pb含有半田よりも表面張力が大きいためボイドが残存しやすく、また濡れ性も低下する傾向がある。このため、脱泡効果のみではボイドの除去が不十分な場合がある。また、ボイドは外部に移動することにより排除されるため、半田内部のボイドと外部がつながった状態の場合はそのまま大気圧に戻されて固化される状況が発生しやすい。
【0012】
そこで、このような問題を解決するために、例えば、特許文献1および特許文献2に、半田溶融前に減圧を行う方法が提案されている。
【0013】
図7は、半田溶融前に減圧を行う半田付け方式のリフロープロファイルを示している。横軸は時間を示し、縦軸は温度および圧力を示している。また、実線のグラフは温度を示し、1点鎖線のグラフは圧力を示している。
【0014】
まず、下から基材、ヒートスプレッダ、半導体素子の順に各間に半田箔を介して載せたものを、チャンバー内に設置する。
(ステップC1)チャンバー内の空気を排気し、水素またはフォーミングガスを大気圧まで導入する。
(ステップC2)大気圧状態を保持したまま加熱を開始し、半田の固相線温度以下の温度で一定時間予熱を行う。
(ステップC3)半田の固相線温度以下の温度の状態を保持したまま、ボイドを排除可能な圧力まで減圧する。Snを主成分としたPbフリー半田の場合、一般的には0.05気圧以下に減圧することが好ましい。
(ステップC4)減圧状態を保持したまま、半田の液相線温度以上まで加熱し、半田を溶融させる。このとき、溶融状態の半田が雰囲気のガスを巻き込みボイドが発生する場合がある。しかし、ボイド内の圧力もチャンバー内同様減圧状態であり、また、図6に示した半田付け方式のようにボイドが半田の外に出て行く状況が起こらないため、外部とつながったボイドは発生しにくい。
(ステップC5)半田溶融状態を保持したまま、窒素、水素、またはフォーミングガスをチャンバー内に導入し、大気圧に戻す。これにより、ボイド内の圧力とチャンバー内の気圧との間で圧力差が生じ、ボイドが収縮する。
(ステップC6)大気圧状態を保持したまま冷却する。これにより、半田が固化し、半導体素子、ヒートスプレッダ、および基材の接合が完了する。
【0015】
以上の工程により、半田溶融前に減圧を行う半田付け方式では、半田溶融時にボイドが発生してもボイド内が減圧状態であるため、溶融状態で大気圧に戻してから冷却することにより、圧力差でボイドを収縮・消滅させることが可能となる。さらに、この半田付け方式では、図6に示した半田付け方式で起こりやすい外部とつながったボイドは発生しにくく、また半田内のボイドは一様に収縮するため、安定的にボイドを低減することが可能である。
【特許文献1】特開2005−271059号公報(平成17年10月6日公開)
【特許文献2】特開2005−205418号公報(平成17年8月4日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記半田溶融前に減圧を行う半田付け方式では、半田溶融前に、ボイドを収縮させるために必要なレベルまで減圧を行っているので、半田の液相線温度以上に加熱した時点では、還元に必要な水素が希薄な状態となり、基材およびヒートスプレッダの表面処理に貴金属メッキが使用されている場合は問題ないが、錫やニッケルなど還元されにくい材質が使用されている場合は半田との接合界面が十分に清浄化されず、ボイドが残存しやすい状態になるという問題点を有している。一方、還元効果を得るため水素量を増やすと、半田溶融時の気圧を上げることとなり、ボイドを収縮させる効果が少なくなってしまうという問題が発生する。
【0017】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、半田との接合界面が、低温で水素雰囲気では還元されにくい材質で構成されている場合でも、低いボイド率で半田付けを行うことができる接合構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の接合構造体の製造方法は、上記課題を解決するために、チャンバー内に設置された、半田を介して重ね合わせられている第1の接合部材および第2の接合部材を、該半田により接合する接合構造体の製造方法において、上記半田を介して重ね合わせられている第1の接合部材および第2の接合部材が設置されたチャンバー内の空気を排気し、少なくとも水素を含むガスを導入して、大気圧よりも低い第1の圧力の状態に設定する第1のステップと、上記第1の圧力の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記半田の液相線温度よりも高い第1の温度まで加熱する第2のステップと、上記第1の温度の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記第1の圧力よりも低い第2の圧力まで減圧する第3のステップと、上記第1の温度の状態を保持したまま、上記チャンバー内に少なくとも水素または窒素を含むガスを導入して、大気圧まで加圧する第4のステップと、上記大気圧の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記半田の固相線温度よりも低い第2の温度まで冷却する第5のステップとを含むことを特徴としている。
【0019】
上記の方法によれば、第1の接合部材および第2の接合部材の接合部分の表面処理に、低温の水素雰囲気中では還元されにくい材質(例えば、錫およびニッケルなど)が用いられている場合であっても、半田溶融前に、半田との接合界面を還元し酸化物を除去するために必要な少なくとも水素を含むガスを導入しているので、半田の液相線温度以上に加熱した際に、酸化物の還元が行われ、接合界面を清浄化することが可能となる。これにより、半田の濡れ性を向上させ、ボイドの残存を低減させることが可能となる。
【0020】
また、接合界面が清浄化された状態でさらに減圧を行うことにより、第1の接合部材、第2の接合部材、および半田に含まれる揮発性成分により発生するボイドを脱泡し、除去することが可能となる。
【0021】
さらには、ガス流入を大気圧まで行わず、減圧状態(第1の圧力の状態)のまま加熱し半田を溶融しているので、半田溶融時にガスを巻き込んでボイドとなった場合でも、そのボイド内は減圧状態となる。これにより、半田溶融状態を保持したまま大気圧に戻す際に、半田中のボイドを収縮させることが可能となる。
【0022】
よって、半田との接合界面が、半田の固相線温度以下の温度状態で水素雰囲気では還元されにくい材質で構成されている場合でも、ボイドの抑制が図られているので、低いボイド率で半田付けを行うことが可能となる。
【0023】
また、本発明の接合構造体の製造方法は、上記第1のステップと上記第2のステップとの間に、上記第1の圧力の状態を保持したまま、上記半田の固相線温度よりも低い第3の温度で所定時間予熱を行うステップをさらに含むことが好ましい。これにより、チャンバー内の温度ばらつきを極力低減し、加熱の際の温度制御を精度良く行うことが可能となる。
【0024】
また、本発明の接合構造体の製造方法は、上記第1の温度は、270度以上であることが好ましい。これにより、水素を十分活性化させて接合界面の還元を効率良く行うことが可能となる。さらに、還元効果を促進し、濡れ性を向上させるためには、上記第2のステップでは、上記第1の温度の状態を所定時間保持することが望ましい。
【0025】
また、本発明の接合構造体の製造方法は、上記第1の圧力は、0.3気圧〜0.5気圧であることが好ましい。これにより、雰囲気ガスによる接合界面の還元効果と、減圧によるボイドの脱泡・除去効果とを同時に得ることが可能となる。さらに、減圧によるボイドの脱泡・除去効果を最大限に奏するためには、上記第2の圧力は、0.05気圧以下であることが望ましい。
【0026】
また、本発明の接合構造体の製造方法は、上記半田として、鉛フリー半田を用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明の接合構造体の製造方法は、上記第1の接合部材および第2の接合部材のうちのいずれか一方として、表面処理がニッケルメッキまたはスズメッキである、ヒートスプレッダまたは基材であっても、低いボイド率での接合が可能である。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明の接合構造体の製造方法は、半田を介して重ね合わせられている第1の接合部材および第2の接合部材が設置されたチャンバー内の空気を排気し、少なくとも水素を含むガスを導入して、大気圧よりも低い第1の圧力の状態に設定する第1のステップと、上記第1の圧力の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記半田の液相線温度よりも高い第1の温度まで加熱する第2のステップと、上記第1の温度の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記第1の圧力よりも低い第2の圧力まで減圧する第3のステップと、上記第1の温度の状態を保持したまま、上記チャンバー内に少なくとも水素または窒素を含むガスを導入して、大気圧まで加圧する第4のステップと、上記大気圧の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記半田の固相線温度よりも低い第2の温度まで冷却する第5のステップとを含む方法である。
【0029】
それゆえ、半田との接合界面が、低温の水素雰囲気中では還元されにくい材質で構成されている場合でも、ボイドの抑制が図られているので、低いボイド率で半田付けを行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0031】
(半導体装置の構成)
図1は、半導体装置100の一構成例を示す断面図である。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態の半導体装置100(接合構造体)は、半導体素子101、ヒートスプレッダ102(第1の接合部材、第2の接合部材)、および基材103(第1の接合部材、第2の接合部材)が、この順に積層された構成を有している。半導体素子101とヒートスプレッダ102との間、および、ヒートスプレッダ102と基材103との間は、半田104を用いて接合されている。
【0033】
半導体素子101としては、主に、MOS−FETや、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、FRD(Fast Recovery Diode)などが用いられる。半導体素子101のヒートスプレッダ102と接合する面は、半田付けを行うために、金(Au)または銀(Ag)などが表層となるようにメタライズされている。
【0034】
ヒートスプレッダ102は、金属の放熱体であり、高導電率、高熱伝導率、および低熱膨張率である材料が好ましく、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、それらの合金、あるいはCu−Inver−Cuのクラッド材を母材としている。また、濡れ性を向上させるために、Au、ニッケル(Ni)、または錫(Sn)などを用いた表面処理が行われている。すなわち、ヒートスプレッダ102の露出面には、Auメッキ、Niメッキ、またはSnメッキが施されている。また、ヒートスプレッダ102には、半田がヒートスプレッダの母材に予め冷間圧接されたクラッド材を使用してもよい。
【0035】
基材103としては、Cuまたはアルミニウム(Al)のベースに、放熱性維持のためにフィラーを含有した樹脂により絶縁層を接着し、その上にCuの配線パターンを形成した金属ベース板、または、AlNなど熱伝導率の高いセラミック上にCuの導体パターンが形成されたセラミック基板、などが用いられる。また、基材103の半田付け部分には、Au、Ni、またはSnなどを用いた表面処理が行われている。
【0036】
半田104は、主にSnを主成分とし、Ag,Cu,Sb,In,Biなどを適宜添加したPbフリー半田が使用される。固体化した半田104には、図1に示すように、接合時の種々の影響により、内部にボイド105が残存することがある。しかし、半導体装置100では、次に説明する接合方法により低いボイド率で半田付けを行うことができるので、ボイドの残存が低減されている。
【0037】
(半導体装置の製造方法)
次に、上記半導体装置100の製造方法について説明する。
【0038】
なお、以下では、半導体装置100の製造工程のうち、半導体素子101、ヒートスプレッダ102、および基材103の接合工程について詳細に説明する。その他の工程については、半導体装置の従来の一般的な工程で実現可能である。
【0039】
図2は、本実施の形態の半導体装置100の接合工程のリフロープロファイルを示している。横軸は時間を示し、縦軸は温度および圧力を示している。また、実線のグラフは温度を示し、1点鎖線のグラフは圧力を示している。
【0040】
まず、半導体素子101、ヒートスプレッダ102、および基材103がこの順に、半田箔を介して重ね合わせられたものを、リフロー装置の真空チャンバー内に設置する。
【0041】
(ステップA1)真空チャンバー内の空気を排気し、水素ガス、あるいは、水素および窒素の混合ガスを導入する。なお、このとき導入するガスは、少なくとも水素を含むガスであればよい。そして、後の工程(ステップA3)で半田を溶融させた際に発生するボイド内の気圧を減圧しておくため、0.3気圧〜0.5気圧程度の気圧になった時点で、上記ガスの導入を停止する。また、この間は室温を維持する。
【0042】
(ステップA2)上記気圧状態を保持したまま加熱を開始し、半田104の固相線温度以下の温度で一定時間予熱を行う。Snを主成分とするPbフリー半田を用いているので、予熱温度は200度程度とする。これにより、チャンバー内の温度ばらつきを極力低減し、加熱の際の温度制御を精度良く行うことが可能となる。
【0043】
しかし、ヒートスプレッダ102などの表面処理がSnメッキまたはNiメッキである場合、一般的に、Snを主成分としたPbフリー半田の固相線温度以下の温度で接合界面の酸化膜を除去することは困難であるので、この工程では十分な還元効果は得られない。十分な還元効果を得るためには、おおよそ270度以上に加熱する必要がある。
【0044】
(ステップA3)上記気圧状態を保持したまま、真空チャンバー内を半田104の液相線温度以上までさらに加熱し、半田を溶融させる。このとき、上述したように十分な還元効果を得るために、おおよそ270度以上に加熱する。これにより、水素を十分活性化させて接合界面の還元を効率良く行うことが可能となる。
【0045】
但し、高温とするほど還元の効果は高くなるが、ヒートスプレッダ102などの接合部分に含まれる揮発成分によって逆にボイドが増加する場合があるため、270度〜300度程度とすることが望ましい。また、還元の効果は雰囲気ガスの露点に依存するので、導入した水素ガス、あるいは、水素および窒素の混合ガスの露点は、−30度以下とすることが望ましい。
【0046】
なお、加熱し半田を溶融させた後は、半田溶融状態を一定時間保持することが望ましい。言い換えれば、真空チャンバー内を、270度〜300度程度の状態で一定時間保持することが望ましい。これにより、接合界面の還元を促進し、不濡れ部分を減少させることが可能となる。なお、この保持時間には最適値があり、短いと不濡れ部分が残り、長いとボイドが増加する傾向がある。また、最適値はチャンバー内の水素量にも依存する。
【0047】
(ステップA4)半田溶融状態を保持したまま、真空チャンバー内を0.05気圧以下まで減圧する。これにより、溶融状態の半田中に存在するボイドの脱泡が行われる。また、0.05気圧以下まで減圧することにより、減圧によるボイドの脱泡・除去効果を最大限に奏することができる。
【0048】
(ステップA5)半田溶融状態を保持したまま、窒素、水素、あるいは、水素および窒素の混合ガスを真空チャンバー内に導入し、大気圧に戻す。これにより、半田内のボイドとチャンバー内の気圧で圧力差が生じ、ボイドが収縮する。
【0049】
(ステップA6)大気圧状態を保持したまま、室温程度まで冷却する。これにより、半田104が固化し、半導体素子101、ヒートスプレッダ102、および基材103の接合が完了する。
【0050】
以上のように、半導体装置100の接合工程では、リフロー装置の真空チャンバー内を、水素ガス、あるいは、水素および窒素の混合ガスを導入して、半田104の液相線温度以上で十分な還元効果を得られる水素濃度でしかも減圧された雰囲気状態とし(ステップA1)、半田104の液相線温度以上であって還元効果が得られる温度まで加熱を行い(ステップA2〜A3)、接合界面が清浄化された状態でさらに減圧し(ステップA4)、窒素、水素、あるいは、水素および窒素の混合ガスを流入して大気圧に戻した後(ステップA5)、半田104の固相線温度以下に冷却している(ステップA6)。
【0051】
これにより、ヒートスプレッダ102および基材103の半田104との接合部分の表面処理に、低温の水素雰囲気中では還元されにくいSnメッキまたはNiメッキが用いられている場合であっても、半田溶融前に、半田104との接合界面を還元し酸化物を除去するために必要な水素ガス、あるいは、水素および窒素の混合ガスを導入しているので、半田104の液相線温度以上に加熱した際に、酸化物の還元が行われ、接合界面を清浄化することが可能となる。それゆえ、半田104の濡れ性を向上させ、ボイドの残存を低減させることが可能となる。
【0052】
また、接合界面が清浄化された状態でさらに減圧を行うことにより、半導体素子101、ヒートスプレッダ102、基材103、および半田104に含まれる揮発性成分により発生するボイドを脱泡し、除去することが可能となる。
【0053】
さらに、ガス流入を大気圧まで行わず、減圧状態のまま加熱し半田を溶融しているので、半田溶融時にガスを巻き込んでボイドとなった場合でも、そのボイド内は減圧状態となる。これにより、半田溶融状態を保持したまま大気圧に戻す際に、半田中のボイドを収縮させることが可能となる。
【0054】
よって、半田104との接合界面が、低温の水素雰囲気では還元されにくい材質で構成されている場合でも、ボイド105の抑制が図られているので、低いボイド率で半田付けを行うことが可能となる。
【実施例】
【0055】
図2に示した本実施例の接合工程により接合された半導体装置100における接合界面のボイドの発生状態を検証した。
【0056】
まず、比較例として、図7に示した従来の半田付け方式により接合された半導体装置100における、接合界面のボイドの発生状態について説明する。この比較例では、ヒートスプレッダ102の表面処理にAuメッキを用いて、半田溶融時の気圧と半田104の液相線温度以上の温度での保持時間とを変化させた各種サンプル、並びに、ヒートスプレッダ102の表面処理にSnメッキを用いて、半田溶融時の気圧と半田104の液相線温度以上の温度での保持時間とを変化させた各種サンプル、を作成した。サンプルに使用した半導体素子101は、裏面(接合面)がメタライズされており、その表層はAuとなっている。また、半田104は、SnにAgが数%添加されたものを使用した。
【0057】
そして、これらのサンプルの、半導体素子101とヒートスプレッダ102間の接合界面(半田層)のボイドの状態を、超音波探傷装置を用いて観察した。図3は、図7に示した従来の半田付け方式により接合された各種サンプルの、半導体素子101とヒートスプレッダ102間の接合界面の様子を示す図である。
【0058】
ヒートスプレッダ102の表面処理にAuメッキが用いられている場合、半田溶融時の気圧が低く、かつ液相線温度以上での(溶融後の)保持時間が短い方が、ボイドの発生状態は良好である。逆に、半田溶融時の気圧が高く、かつ液相線温度以上での保持時間が長いと、大きなボイドが残存している。
【0059】
これは、液相線温度以上での保持時間を長くすると、半田中や接合部のメッキ表面に含まれる揮発成分により、ボイドが増加しているためと考えられる。また、保持時間が長くなるにつれて揮発成分の発生量が増えるため、そのときのチャンバー内の気圧が高いほど大気圧に戻した際の圧力差が小さく、ボイドを縮小させる効果が小さくなり、大きなボイドが残存する状態になっているものと考えられる。
【0060】
よって、Auメッキのように接合界面が還元されやすい材質である場合は、半田溶融時の気圧を低くし、かつ液相線温度以上での保持時間を短くすることにより、非常にボイドが少ない仕上がり状態で半田付けを行うことが可能である。
【0061】
一方、ヒートスプレッダ102の表面処理にSnメッキが用いられている場合は、半田溶融時の気圧が0.05気圧のサンプルが、明らかに不濡れ部分が多い状態となっていることが認められる。なお、気圧を0.3気圧程度まで高めると、不濡れ部分の面積は減少する傾向にある。
【0062】
また、液相線温度以上での保持時間が長くなるにつれて、不濡れ部分の形状が変化していることが認められる。これは、溶融後に不濡れ部分が還元されているためと考えられる。保持時間を長くすると還元の効果は高まっているが、5分まで保持するとAuメッキの場合と同様に、揮発性成分によりボイドが増加する傾向が見られる。
【0063】
仮に、半田溶融後の還元効果を高めるために、減圧時の気圧を高めに設定したとしても、大きめのボイドが残存する場合がある。この場合、図2に示した接合工程のように、半田溶融状態でさらに減圧し、脱泡を行うことが、ボイドの低減に効果的である。十分な脱泡効果を得るためには、0.05気圧以下に減圧することが好ましい。
【0064】
図4は、図2に示した本実施例の接合工程において、半田溶融時の気圧を変化させた場合のボイド率の変化を示すグラフである。図4に示す結果を取得したサンプルには、ヒートスプレッダ102の表面処理にSnメッキを用い、半田104の液相線温度以上のピーク温度領域での保持時間を2分で固定したものを用いた。そして、これらのサンプルを、超音波探傷装置を用いて観察した。
【0065】
図4に示されるように、半田溶融時の気圧が20(kPa)の場合は、ボイド率が比較的高い。これは、水素量が不足しており、還元効果が不十分なため、ボイドが残存しやすい状況となっているためと考えられる。
【0066】
また、半田溶融時の気圧が1気圧のときは、図6に示した従来の半田付け方式と同じ状態である。このときは、ボイド率が比較的大きく、脱泡効果のみではボイドの除去が不十分であることを示している。
【0067】
ボイド率を最も低減することができるのは、半田溶融時の気圧が0.4気圧(水素濃度100%)のときであることがわかる。図5は、本実施例の接合工程において、半田溶融時の気圧が0.4気圧である場合の半導体素子101とヒートスプレッダ102間の接合界面の様子の一例を示している。
【0068】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、半田を用いて2つの部材を接合する接合構造体の製造方法に関する分野に好適に用いることができるだけでなく、接合構造体、例えば、半導体装置に関する分野にも好適に用いることができ、さらには、半導体装置を備える多種の電子機器の分野にも広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明における接合構造体の製造方法にて用いる、接合構造体の一構成例を示す断面図である。
【図2】上記接合構造体の製造方法における接合工程のリフロープロファイルを示す図である。
【図3】図7に示した従来の半田付け方式により接合された各種サンプルの接合界面の様子を示す図である。
【図4】上記接合構造体の製造方法における接合工程において、半田溶融時の気圧を変化させた場合のボイド率の変化を示すグラフである。
【図5】上記接合構造体の製造方法における接合工程において、半田溶融時の気圧が0.4気圧である場合の接合界面の様子の一例を示す図である。
【図6】半田の固相線温度以下で減圧を行わず、半田の液相線温度以上で真空脱泡を行う、従来の半田付け方式のリフロープロファイルを示す図である。
【図7】半田の固相線温度以下で減圧を行い、半田の液相線温度以上で大気圧に戻す、従来の半田付け方式のリフロープロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0071】
100 半導体装置(接合構造体)
101 半導体素子
102 ヒートスプレッダ(第1の接合部材、第2の接合部材)
103 基材(第1の接合部材、第2の接合部材)
104 半田
105 ボイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に設置された、半田を介して重ね合わせられている第1の接合部材および第2の接合部材を、該半田により接合する接合構造体の製造方法において、
上記半田を介して重ね合わせられている第1の接合部材および第2の接合部材が設置されたチャンバー内の空気を排気し、少なくとも水素を含むガスを導入して、大気圧よりも低い第1の圧力の状態に設定する第1のステップと、
上記第1の圧力の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記半田の液相線温度よりも高い第1の温度まで加熱する第2のステップと、
上記第1の温度の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記第1の圧力よりも低い第2の圧力まで減圧する第3のステップと、
上記第1の温度の状態を保持したまま、上記チャンバー内に少なくとも水素または窒素を含むガスを導入して、大気圧まで加圧する第4のステップと、
上記大気圧の状態を保持したまま、上記チャンバー内を上記半田の固相線温度よりも低い第2の温度まで冷却する第5のステップとを含むことを特徴とする接合構造体の製造方法。
【請求項2】
上記第1のステップと上記第2のステップとの間に、上記第1の圧力の状態を保持したまま、上記半田の固相線温度よりも低い第3の温度で所定時間予熱を行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項3】
上記第1の温度は、270度以上であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項4】
上記第2のステップでは、上記第1の温度の状態を所定時間保持することを特徴とする請求項3に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項5】
上記第1の圧力は、0.3気圧〜0.5気圧であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項6】
上記第2の圧力は、0.05気圧以下であることを特徴とする請求項5に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項7】
上記半田として、鉛フリー半田を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項8】
上記第1の接合部材および第2の接合部材のうちのいずれか一方として、表面処理がニッケルメッキまたはスズメッキである、ヒートスプレッダまたは基材を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−513(P2010−513A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159391(P2008−159391)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】