説明

接合膜付き基材、接合方法および接合体

【課題】被着体に対して、接合膜を介して基材を強固に接合することができるか否かの接合膜の接着性の程度を精度よく評価することができる接合膜の評価方法を提供する。
【解決手段】接合膜3の評価方法は、Si骨格と、有機基からなる脱離基とを含む接合膜3の評価方法であり、接合膜3は、エネルギーが付与されることにより、脱離基が前記Si骨格から脱離し、その表面に、対向基板(他の被着体)4との接着性が発現するものであり、前記エネルギーを付与する前後の接合膜3をそれぞれ赤外吸収スペクトル法で測定し、Si−O−Si結合に帰属するピーク強度を1としたときのメチル基に帰属するピーク強度を求め、エネルギーを付与する前後のメチル基に帰属するピーク強度を比較し、その比較結果に基づいて、接合膜3の対向基板4に対する接着性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合膜付き基材、接合方法および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)は、樹脂材料、金属材料、シリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより組み立てられている。
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化させることにより、部材同士を接着する。
【0003】
ところが、このような接着剤では、以下のような問題がある。
・接着強度が低い
・寸法精度が低い
・硬化時間が長いため、接着に長時間を要する
また、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程の高コスト化・複雑化を招いている。
【0004】
一方、接着剤を用いない接合方法として、固体接合による方法がある。
固体接合は、接着剤等の中間層が介在することなく、部材同士を直接接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような固体接合によれば、接着剤のような中間層を用いないので、寸法精度の高い接合体を得ることができる。
【0005】
しかしながら、固体接合には、以下のような問題がある。
・接合される部材の材質に制約がある
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
このような問題を受け、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、高い寸法精度で、かつ低温下で効率よく接合する方法として、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成された接合膜を用いて部材同士を接合する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
かかる接合膜は、その表面にエネルギーが付与されることにより、その表面付近に存在する脱離基が脱離し、その結果、その表面が活性化することで接着性が発現するものであり、この表面付近に発現した接着性をもって部材同士を接合するものである。
このような接合膜を介した部材同士の接合では、その接合強度は、接合膜の表面付近から脱離した脱離基の量に依存する、すなわち、接合膜の表面の活性化の程度に依存する。
しかしながら、部材同士を優れた接合強度で接合することができる接着性(活性化)の程度を評価し得る評価方法については十分に検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【特許文献2】特開2009−035719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、被着体に対して、接合膜を介して基材を強固に接合することができるか否かの接合膜の接着性の程度を精度よく評価することができる接合膜の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合膜の評価方法は、基材上に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成された接合膜の評価方法であって、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜の表面の前記領域に、他の被着体との接着性が発現するものであり、
前記エネルギーを付与する前後の前記接合膜をそれぞれ赤外吸収スペクトル法で測定し、Si−O−Si結合に帰属するピーク強度を1としたときのメチル基に帰属するピーク強度を求め、前記エネルギーを付与する前の前記メチル基に帰属するピーク強度と、前記エネルギーを付与した後の前記メチル基に帰属するピーク強度とを比較し、その比較結果に基づいて、前記接合膜の前記他の被着体に対する接着性を評価することを特徴とする。
これにより、被着体に対して、接合膜を介して基材を、低温下において高い寸法精度で効率よく接合することができるとともに、強固に接合することができるか否かの接合膜の接着性の程度を精度よく評価することが可能となる。
【0010】
本発明の接合膜の評価方法では、前記エネルギーを付与する前の前記メチル基に帰属するピーク強度(A)と、前記エネルギーを付与した後の前記メチル基に帰属するピーク強度(B)との差(A−B)の値を指標として前記比較結果を求め、該比較結果に基づいて、前記接合膜の前記他の被着体に対する接着性を評価することが好ましい。
これにより、エネルギー付与により接合膜から脱離した脱離基の量を、Si−O−Si結合の量を1としたときの相対量として、確実に得ることができる。
【0011】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜に対する前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝すことにより行われることが好ましい。
接合膜が他の被着体に対して優れた接着性を備えるものであると評価される差の値(A−B値)は、接合膜にエネルギーを付与する方法によってそれぞれ異なってくる。
本発明の接合膜の評価方法では、前記差の値が0.005以上、0.014以下となるように、前記接合膜をプラズマに曝す条件を設定することが好ましい。
プラズマに曝すことで前記差の値が上記範囲内となっている場合、この接合膜を、他の被着体に対して優れた接着性を備えるものであると評価することができる。
【0012】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
このようなポリオルガノシロキサンで構成された接合膜は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜は、基材に対して特に強固に被着するとともに、他の被着体に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基材と他の被着体とを強固に接合し得るものである。
また、本発明の接合膜の評価方法が、好適に適用される構成を備える接合膜であると言える。
【0013】
本発明の接合膜の評価方法では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0014】
本発明の接合膜の評価方法では、前記プラズマ重合法において、プラズマを発生させる際の高周波電力の出力は、100W以上、400W以下であることが好ましい。
前記出力をかかる範囲内とすることにより、高周波の出力が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、原材料の重合反応を進行させて、適切な範囲内でSi骨格の網目構造が形成された主骨格とすることができ、適度な結晶化度を有する接合膜を形成することができる。
【0015】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜は、このものを構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上、90原子%以下のものであることが好ましい。
Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜は、本発明の接合膜の評価方法で、他の被着体に対して優れた接着性を有しているものであると評価された際に、他の被着体に対して特に高い接合強度を示すものとなる。
【0016】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上、7:3以下であることが好ましい。
Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜の安定性が高くなり、他の被着体に対してより強固に接合し得るものである。
本発明の接合膜の評価方法では、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は、ランダムな原子構造を含むものとなり、接合膜がより非晶質的な特性を示す。このため、Si骨格の特性が顕在化し、接合膜の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0017】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜は、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格を効率よく形成することができる。
【0018】
本発明の接合膜の評価方法では、前記プラズマに曝す前の前記接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001以上、0.2以下であることが好ましい。
Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜中の原子構造は、相対的に最もランダムなもの、すなわち接合膜の結晶化度が最適化されたものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0019】
本発明の接合膜の評価方法では、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基としてアルキル基を含む接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
さらに、脱離基がアルキル基である際に、本発明のように、赤外吸収スペクトル法でエネルギーを付与する前後の接合膜を測定して、メチル基に帰属するピーク強度を比較し、その比較結果に基づいて評価する構成とすることにより、接合膜からの脱離基の脱離をより確実に検知することができる。
【0020】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接合膜の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、接合体の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間での接合が可能となる。
【0021】
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜の屈折率は、1.35〜1.6であることが好ましい。
このような接合膜は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、例えば接合膜を光路が貫通するような構造の光学部品を製造する際に好適に用いることができる。
本発明の接合膜の評価方法では、前記接合膜の平均厚さは、50nm以上、500nm以下であることが好ましい。
接合膜の平均厚さを前記範囲内とすることにより、接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、基材と他の被着体とをより強固に接合し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の接合膜の評価方法により評価される接合膜を備える接合膜付き基材を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合膜の評価方法により評価される接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図3】本発明の接合膜の評価方法により評価される接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図4】接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図9】図8に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図10】図8に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【図11】接合体の接合強度を測定する方法を説明するための斜視図である。
【図12】接合膜をプラズマに曝す前後のメチル基に帰属するピーク強度の差の値と接合体の接合強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の接合膜の評価方法を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<接合膜付き基材>
まず、本発明の接合膜の評価方法を説明するのに先立って、本発明の接合膜の評価方法で評価される接合膜を備える接合膜付き基材について説明する。
【0024】
図1は、本発明の接合膜の評価方法により評価される接合膜を備える接合膜付き基材を説明するための図(縦断面図)、図2は、本発明の接合膜の評価方法により評価される接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図3は、本発明の接合膜の評価方法により評価される接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1ないし図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0025】
図1に示す接合膜付き基材1は、基板(基材)2と、基板2上に設けられた接合膜3とを有するものであり、対向基板(他の被着体)4に対して接合され、基板2と対向基板4とを接合膜3を介して接合して接合体5を得るためのものである。
この接合膜付き基材1のうち、接合膜3は、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成されたものである。
【0026】
かかる構成の接合膜3は、接合膜3の平面視における少なくとも一部の領域、すなわち、平面視における接合膜3の全面または一部の領域にエネルギーを付与することにより、接合膜3の少なくとも表面付近に存在する脱離基303がSi骨格から脱離するものである。そして、この接合膜3は、この脱離基303の脱離によって、その表面のエネルギーを付与した領域に、対向基板4との接着性が発現するものである。
【0027】
本発明の接合膜の評価方法は、かかる構成の接合膜3の評価に適用され、エネルギーを付与する前後の接合膜3をそれぞれ赤外吸収スペクトル法で測定し、Si−O−Si結合に帰属するピーク強度を1としたときのメチル基に帰属するピーク強度を求め、求められたエネルギーを付与する前のメチル基に帰属するピーク強度と、エネルギーを付与した後のメチル基に帰属するピーク強度とを比較し、その比較結果に基づいて、接合膜3の対向基板4に対する接着性を評価することに特徴を有する方法である。
【0028】
この点(評価方法)の詳細については後に説明することとし、以下、接合膜付き基材1の各部の構成について説明する。
基板2は、接合膜3を支持するものであり、接合膜3を支持する程度の剛性を有するものであれば、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
基板2の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、酸化インジウムスズ(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、紙、布、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0029】
この場合、基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。なお、後述する対向基板4の平均厚さも、前述した基板2の平均厚さと同様の範囲内であるのが好ましい。
さらに、基板2の形状は、接合膜3が密着する面を有する形状であれば、特に限定されず、本実施形態のように板状(層状)のものの他、例えば、塊状(ブロック状)、棒状等のものであってもよい。
【0030】
接合膜3は、本実施形態では、以上のような基板2上のほぼ全面に、ほぼ均一な厚さで設けられている。
この接合膜3は、前述したように、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与することにより、その領域の表面付近から脱離基303が脱離することに起因して、かかる領域に接着性が発現するものである。
このような接合膜3は、プラズマ重合により形成されたものであり、図2に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含む原子構造(アモルファス構造)を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合し、有機基からなる脱離基303とを有するものである。
【0031】
かかる構成接合膜3は、シロキサン結合302を含む原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格301の結晶性が低くなる(非晶質化する)ため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、接合膜3自体が耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体5においても、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
【0032】
このような接合膜3にエネルギーを付与すると、有機基で構成される脱離基303がSi骨格301から脱離し、図3に示すように、接合膜3の表面(上面)35および内部に、活性手304が生じる。そして、これにより、接合膜3表面に接着性が発現する。かかる接着性が発現することにより、接合膜3は、対向基板4に対して接合可能なものとなる。
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい。このため、接合膜3は、このものがエネルギーを付与された際に、Si骨格301が破壊されるのを防止しつつ、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
【0033】
また、このような接合膜3は、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、接合体5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間での接合が可能となる。
【0034】
また、製造後の接合膜付き基材1を流通させる場合には、接合膜3が固体状であるため、流通または保管途中で接合膜3が流れ出す等の不具合が防止される。
なお、接合膜3においては、特に接合膜3を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上90原子%以下程度であるのが好ましく、20原子%以上80原子%以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜3はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜3自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜3は、本発明の接合膜の評価方法で、対向基板4に対して優れた接着性を有しているものであると評価された際に、対向基板4に対して特に高い接合強度を示すものとなる。
【0035】
また、接合膜3中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上7:3以下程度であるのが好ましく、4:6以上6:4以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、対向基板4に対してより強固に接合し得るものである。
また、プラズマ重合法により形成された接合膜3中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は、ランダムな原子構造を含むものとなり、接合膜3がより非晶質的な特性を示す。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜3の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0036】
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
このうち、簡便性等の観点からX線法が好ましく用いられる。
【0037】
また、Si骨格301の結晶化度を測定する際には、接合膜3に対して上述の測定方法を適用すればよいが、あらかじめ接合膜3に前処理を施しておくのが好ましい。この前処理としては、接合膜3にエネルギーを付与する処理(例えば、接合膜3をプラズマに曝す処理や、接合膜に紫外線を照射する処理等)が挙げられる。このようなエネルギーの付与により、接合膜3中の脱離基303が脱離し、Si骨格301の結晶化度をより正確に測定することが可能になる。
【0038】
また、接合膜3は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301を効率よく形成することができる。
【0039】
一方、プラズマに曝す前の接合膜3中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、Si−O−Si結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001以上0.2以下程度であるのが好ましく、0.002以上0.05以下程度であるのがより好ましく、0.005以上0.02以下程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜3中の原子構造は、相対的に最もランダムなもの、すなわち接合膜3の結晶化度が最適化されたものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜3は、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0040】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、有機基で構成され、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、接合膜3にエネルギーを付与することによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
【0041】
なお、本発明のように、プラズマ重合法による接合膜3の成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、接合膜3中に、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とが生成するが、例えばこの残基が脱離基303を構成する。
上記のことを満足する脱離基303すなわち有機基は、C原子を必須成分とし、その他、H原子、N原子、O原子、S原子、B原子、P原子およびハロゲン系原子のうちの少なくとも1種の原子を含有する原子団で構成されるものである。
このような有機基で構成される脱離基303は、特に、アルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を含む接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0042】
さらに、脱離基303がアルキル基である際に、本発明のように、赤外吸収スペクトル法でエネルギーを付与する前後の接合膜3を測定して、メチル基に帰属するピーク強度を比較し、その比較結果に基づいて評価する構成とすることにより、接合膜3からの脱離基303の脱離をより確実に検知することができる。なお、このような傾向は、脱離基303がメチル基である場合により顕著に認められる。すなわち、脱離基303がメチル基である場合には、メチル基に帰属するピーク強度を、エネルギーを付与する前後の接合膜3において観察する構成とすることで、接合膜3にエネルギーを付与したことに起因する脱離基303の脱離を、直接的に検知することができる。
上記のような特徴を有する接合膜3としては、例えば、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されるもの、すなわち、シロキサン結合を含む原子構造を有するSi骨格の網目構造を主骨格とし、このSi骨格に結合する有機基で構成される脱離基303を備えるものが挙げられる。
【0043】
このようなポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、基板2に対して特に強固に被着するとともに、対向基板4に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基板2と対向基板4とを強固に接合し得るものである。
【0044】
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、有機基で構成される脱離基303を容易に脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれた有機基(例えばアルキル基)による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、このものにエネルギーが付与されることにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述した有機基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような光学素子や液滴吐出ヘッドの組み立てに際して、有効に用いられるものとなる。
【0045】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。すなわち、接合膜3が、オクタメチルトリシロキサンを原材料とするプラズマ重合法を用いて形成されたものであり、主骨格としてシロキサン結合を含む原子構造を有するSi骨格の網目構造を有し、脱離基303としてメチル基を有するものであるのが好ましい。
【0046】
オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜3は、特に優れた接着性を発揮し得るものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
また、このようなポリオルガノシロキサンを主材料として構成される接合膜3は、エネルギーを付与した後の硬度が、ビッカース硬度で、15MPa以上、130MPa以下程度であるのが好ましく、20MPa以上、80MPa以下程度であるのがより好ましい。かかる硬度を有する接合膜3は、接合膜付き基材1と対向基板4とを重ね合わせた際に、形状追従性を有し、対向基板4に対する密着性が優れたものとなるので、対向基板4に対してより確実に接合し得るものとなる。
【0047】
さらに、接合膜3の平均厚さは、50nm以上500nm以下程度であるのが好ましく、100nm以上300nm以下程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、接合体5の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、基板2と対向基板4とをより強固に接合することができるものとなる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体5の寸法精度が低下するおそれがある。
【0048】
さらに、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜3にある程度の形状追従性が保たれる。このため、例えば、基板2の接合面(接合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜3を被着させることができる。その結果、接合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、接合膜付き基材1と対向基板4とを貼り合わせた際に、両者の密着性を高めることができる。
【0049】
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜3の厚さを上記範囲内においてできるだけ厚くすればよい。
以上、接合膜3について詳述したが、このような接合膜3は、上述したように、プラズマ重合法により基板2上に作製されたものである。プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜3を効率よく作製することができる。これにより、接合膜3は、対向基板4に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製された接合膜3は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、接合体5の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0050】
以上のような接合膜3は、プラズマ重合法を用いて、基板2上に以下のようにして成膜される。
すなわち、接合膜3は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を基板2上に堆積させることにより得ることができる。
【0051】
以下、かかる方法について説明する。
まず、上述した基板2を用意し、次いで、基板2を、プラズマ重合装置が備えるチャンバー内に収納して封止状態とした後、チャンバー内を減圧状態とする。
次に、チャンバー内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給することにより、チャンバー内に混合ガスを充填する。
【0052】
次に、チャンバー内に設けられた一対の電極間に、高周波電圧を印加することにより、プラズマを発生させる。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、この重合物が基板2上に付着・堆積する。これにより、プラズマ重合膜からなる接合膜3が基板2に形成される。
また、プラズマの作用により、基板2の表面が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が基板2の表面に堆積し易くなり、接合膜3の安定した成膜が可能になる。このようにプラズマ重合法によれば、基板2の構成材料によらず、基板2上に接合膜3が確実に成膜される。
【0053】
原料ガス(原材料を含有するガス)としては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられ、これらのうち、特に、オクタメチルトリシロキサンであるのが好ましい。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜3は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
【0054】
さらに、オルガノシロキサンを原材料とするプラズマ重合法を用いて形成された接合膜3では、接合膜3中において、メチル基等の脱離基303の量がより適切な量に設定される。そのため、かかる構成の接合膜3を、本発明のように、赤外吸収スペクトル法でエネルギーを付与する前後の接合膜3を測定して、メチル基に帰属するピーク強度を比較し、その比較結果に基づいて評価する構成とすることにより、接合膜3に付与するエネルギーの量を適切な大きさに設定することができるようになる。その結果、脱離基303が脱離することにより生じる活性手の量が特に適切な量となるので、かかる構成の接合膜3を備える接合膜付き基材1を、対向基板4に対してより優れた接着性を発揮するものとすることができる。
【0055】
なお、プラズマ重合の際、一対の電極間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz以上100MHz以下程度であるのが好ましく、10MHz以上60MHz以下程度であるのがより好ましい。
また、高周波電力の出力は、特に限定されないが、100W以上400W以下程度であるのが好ましく、200W以上300W以下程度であるのがより好ましい。前記出力をかかる範囲内とすることにより、高周波の出力が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、原材料の重合反応を進行させて、適切な範囲内でSi骨格301の網目構造が形成された主骨格とすることができ、適度な結晶化度を有する接合膜3を形成することができる。
【0056】
すなわち、高周波電力の出力が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、基板2上に接合膜3を形成することができないおそれがある。一方、高周波電力の出力が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基303となり得る構造がSi骨格301から分離してしまい、得られる接合膜3において脱離基303の含有率が低くなったり、Si骨格301のランダム性が低下する(規則性が高くなる)おそれがある。
【0057】
また、成膜時のチャンバー内の圧力は、133.3×10−5Pa以上1333Pa以下(1×10−5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましく、133.3×10−4Pa以上133.3Pa以下(1×10−4Torr以上1Torr以下)程度であるのがより好ましい。
原料ガスのチャンバー内への流量は、0.5sccm以上200sccm以下程度であるのが好ましく、1sccm以上100sccm以下程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5sccm以上750sccm以下程度であるのが好ましく、10sccm以上500sccm以下程度であるのがより好ましい。
【0058】
処理時間(成膜時間)は、1分以上10分以下程度であるのが好ましく、2分以上7分以下程度であるのがより好ましい。
また、接合膜3の成膜時における基板2の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25℃以上100℃以下程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、基板2上に接合膜3が形成され、その結果、接合膜付き基材1が製造される。
【0059】
なお、このプラズマ重合により形成された接合膜3は、その厚さにもよるが比較的高い透光性を有したものとなる。そして、接合膜3の形成条件(プラズマ重合の際の条件や原料ガスの組成等)を適宜設定することにより、接合膜3の屈折率を調整することができる。具体的には、プラズマ重合の際の高周波電力の出力を高めることにより、接合膜3の屈折率を高めることができ、反対に、プラズマ重合の際の高周波電力の出力を低くすることにより、接合膜3の屈折率を低くすることができる。
【0060】
具体的には、上述したように、オルガノシロキサンを含有するガスを原料ガスとするプラズマ重合法を用いた場合、屈折率の範囲が1.35以上1.6以下程度の接合膜3が得られる。このような接合膜3は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、例えば接合膜3を光路が貫通するような構造の光学部品を製造する際に好適に用いられる。また、接合膜3の屈折率を調整することができるので、所望の屈折率の接合膜3を作製することができる。
【0061】
また、接合膜3は、水晶や石英ガラスの熱膨張率に近いため、接合膜3と光学部品との熱膨張率差が小さくなり、後述する接合体5の接合後の変形を抑制することができる。
以上のような接合膜付き基材1は、必要に応じて、接合膜3の上面を覆うように設けられたカバーシートを有していてもよい。かかるカバーシートは、接合膜3の上面を保護し、異物の付着や接合膜3の損傷等を防止する。これにより、接合膜付き基材1は、耐久性に優れたものとなり、長期の保存や流通に適したものとなる。
【0062】
このカバーシートは、接合膜付き基材1を使用する前に剥離される。この際、接合膜3とカバーシートとの界面で確実に剥離が生じる必要があることから、この界面の密着強度は、基板2と接合膜3との密着強度より小さいことが好ましい。
このようなカバーシートの構成材料としては、特に限定されないが、例えば、前述した基板2と同様の構成材料が挙げられる。
【0063】
<接合方法>
次いで、上述したような接合膜付き基材1を用いた、接合膜付き基材1と対向基板4との接合方法について説明する。
(第1実施形態)
まず、接合膜付き基材1を用いた、接合膜付き基材1と対向基板4との接合方法の第1実施形態について説明する。
図4および図5は、接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図4および図5中の上側を「上」、下側を「下」という。
【0064】
本実施形態にかかる接合方法は、接合膜付き基材1を用意する工程と、接合膜付き基材1の接合膜3にエネルギーを付与して、接合膜3中から脱離基を脱離させることにより、接合膜を活性化させる工程と、対向基板(他の被着体)4を用意し、接合膜付き基材1が備える接合膜3と対向基板4とが密着するように、これらを貼り合わせ、接合体5を得る工程とを有する。
【0065】
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、上述したような接合膜付き基材1を用意する(図4(a)参照)。
[2]次いで、図4(b)に示すように、接合膜付き基材1の接合膜3の表面35にエネルギーを付与する。
接合膜3の表面35にエネルギーを付与することで、表面35にエネルギーが付与されると、接合膜3では、脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、接合膜3の表面35および内部に活性手が生じる。これにより、接合膜3の表面35が活性化され、表面35に対向基板4との接着性が発現する。
このような状態の接合膜付き基材1は、化学的結合に基づいて対向基板4と接合可能なものとなる。
【0066】
ここで、接合膜3に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよく、例えば、エネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
また、接合膜3にエネルギーを付与する方法として、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法または接合膜3をプラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜3に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
【0067】
このうち、接合膜3にエネルギーを付与する方法を用いた場合、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザー光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギー線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長150〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図1(b)参照)。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜3中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301と脱離基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜3の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜3に接着性を発現させることができる。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
【0068】
エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、接合膜3から脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。したがって、本発明の接合膜の評価方法を用いて、接合膜3から脱離させる脱離基303の脱離量を、適切な量に容易に設定することが可能となる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
【0069】
さらに、接合膜3をプラズマに曝す方法を用いた場合、かかる方法としては、高周波電圧が印加された一対の電極間に処理ガスを供給することでプラズマ化させ、このプラズマ化した処理ガスで表面35を曝す方法が挙げられる。
処理ガスとしては、特に限定されないが、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガスのような希ガス、酸素ガス等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、処理ガスには、希ガスを主成分とするガスを用いるのが好ましく、特にヘリウムガスを主成分とするガスを用いるのが好ましい。
【0070】
すなわち、処理に用いるプラズマは、ヘリウムガスを主成分とするガスをプラズマ化したものであるのが特に好ましい。ヘリウムガスを主成分とする処理ガスは、プラズマ化の際にオゾンを発生させ難く、このため、接合膜3の表面35のオゾンによる変質(酸化)を防止することができる。その結果、接合膜3の活性化の程度が低下するのを抑制すること、すなわち、接合膜3を確実に活性化させることができる。
【0071】
この場合、アルゴンを主成分とする処理ガスの一対の電極間への供給速度は、10以上、20000sccm以下であるのが好ましく、50以上、10000sccm以下であるのがより好ましい。これにより、接合膜3の活性化の程度を制御し易くなる。
また、この処理ガス中のアルゴンの含有量は、85vol%以上が好ましく、90vol%以上(100%も含む)がより好ましい。これにより、前述した効果をさらに顕著に発揮させることができる。
【0072】
このように、表面35をプラズマに曝す方法によれば、簡単に効率よくエネルギーを付与することができため、本発明の接合膜の評価方法を用いて、接合膜3から脱離させる脱離基303の脱離量を、適切な量に容易に設定することが可能となる。
さらに、接合膜3の表面35付近を選択的に活性化させることができるため、接合膜3の収縮がないか極めて少なくすることができる。すなわち、表面35付近に存在する脱離基303を高い選択性をもって脱離させることができるため、接合膜3の膜全体としての収縮率を極めて小さいものとし得る。
【0073】
ここで、エネルギーが付与される前の接合膜3は、図2に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜3にエネルギーが付与されると、脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図3に示すように、接合膜3の表面35に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜3の表面35に接着性が発現する。
【0074】
ここで、接合膜3を「活性化させる」とは、接合膜3の表面35および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
【0075】
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、対向基板4に対して、特に強固な接合が可能となる。
ここで、接合膜3にエネルギーが付与されて、その表面に発現する対向基板4に対する接着性の程度は、接合膜3の活性化の程度、すなわち、接合膜3から脱離する脱離基303の量によって異なってくる。
【0076】
したがって、エネルギー付与により接合膜3から脱離する脱離基303の量を測定することができれば、接合膜3の対向基板4に対する接着性の程度を評価することが可能となる。
そこで、本発明者は、接合膜3中から脱離する脱離基303の量を測定する方法として、赤外吸収スペクトル法を用いることを試みた。
【0077】
赤外吸収スペクトル法によれば、接合膜3中に含まれる各成分を、このものに帰属するピーク強度として測定することができる。よって、Si骨格301に帰属するピーク強度と、脱離基303に帰属するピーク強度とを比較することで、Si骨格301に結合する脱離基303の相対量を求めることができる。
そして、Si骨格301を構成する主たる成分がSi−O−Si結合であること、さらに、脱離基303が有機基からなり、脱離基303としてメチル基が含まれると考えられることから、本発明者は、かかる点に着目し、接合膜3にエネルギーを付与する前後において、Si−O−Si結合に帰属するピーク強度を1としたときのメチル基に帰属するピーク強度を求め、これらを比較して比較結果を求めることで、接合膜3の対向基板4に対する接着性を評価し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0078】
また、求める比較結果としては、特に限定されないが、エネルギーを付与する前のメチル基に帰属するピーク強度をAとし、エネルギーを付与した後のメチル基に帰属するピーク強度をBとしたとき、これらの差の値であるA−B値や、商の値であるA/B値、二乗の差の値であるA−B値等を指標として比較結果を求めることができる。これらの中でも、A−B値を指標として比較結果を求めるのが好ましい。このようにA−B値を比較結果として求めることで、エネルギー付与により接合膜3から脱離した脱離基303の量を、Si−O−Si結合の量を1としたときの相対量として、確実に得ることができる。そのため、接合膜3の対向基板4に対する接着性を確実に評価することができるようになる。
【0079】
また、本発明の接合膜の評価方法が適用される接合膜3は、脱離基303としてアルキル基を含むポリオルガノシロキサンを主材料として構成されるものであるのが好ましく、特に、メチル基を含むポリオルガノシロキサンを主材料として構成されるものであるのが好ましい。本発明のようにメチル基に帰属するピーク強度を観察する評価方法に、このような構成の接合膜3を適用することで、Si骨格301からの脱離基303の脱離をより相対的に観察することができるようになる。
【0080】
なお、接合膜3にエネルギーを付与する方法によって、前述したように、脱離基303が脱離する接合膜3の厚さ方向における領域が異なり、接合膜3をプラズマに曝す方法を選択した場合には、接合膜3の表面35付近から選択的に脱離基303が脱離する。そのため、例えば、接合膜3にエネルギー線を照射する場合と比較して、Si骨格301から脱離する脱離基303の量が少量であっても、接合膜3の表面35に、対向基板4に対する接着性を十分に発現させることが可能である。
【0081】
したがって、接合膜3が対向基板4に対して優れた接着性を備えるものであると評価される差の値(A−B値)は、接合膜3にエネルギーを付与する方法によってそれぞれ異なってくる。
具体的には、接合膜3にエネルギーを付与する方法として、接合膜3をプラズマに曝す方法を用いた場合、差の値(A−B値)は、好ましくは0.005以上、0.014以下程度に、より好ましくは0.005以上、0.009以下程度に設定される。前記差の値が上記範囲内となるように、接合膜3をプラズマに曝す条件を設定することで、接合膜3は、対向基板4に対して優れた接着性を発揮するものとなる。換言すれば、接合膜3が、プラズマに曝すことで前記差の値が上記範囲内となっている場合、この接合膜3を、対向基板4に対して優れた接着性を備えるものであると評価することができる。
【0082】
したがって、上記のように評価された接合膜3を備える接合膜付き基材1を、対向基板4に対して接合することで、接合膜3を介して基板2と対向基板4とが強固にかつ高い寸法精度で接合してなる信頼性の高い接合体5を得ることができる。
なお、接合膜3にエネルギーを付与する際の雰囲気の温度は、25℃以上、80℃未満であるのが好ましく、40℃以上、60℃以下であるのがより好ましい。
接合膜3にエネルギーを付与する際の雰囲気の温度をかかる範囲に設定することにより、接合膜3の表面35に活性化させることにより生じた活性手304が、膜中に存在するもの同士で結合し、失活化してしまうことに起因して、接合膜3の表面に発現した接着性が消失するのを的確に防止または抑制することができる。
【0083】
なお、従来のシリコン直接接合やオプティカルコンタクトのような固体接合では、表面を活性化させても、その活性状態は、大気中では数秒以上数十秒以下程度の極めて短時間しか維持されない。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの部材を貼り合わせる等の作業を行う時間を十分に確保することができないという問題があった。
これに対し、本発明によれば、プラズマ重合膜の作用により、表面35にエネルギーを付与した後でも比較的長時間にわたってその活性状態を維持することができる。このため、作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を図ることができる。
【0084】
[3]次に、対向基板(他の被着体)4を用意し、図4(c)に示すように、活性化させた接合膜3と対向基板4とが接触するように、接合膜付き基材1と対向基板4とを重ね合わせる。これにより、接合膜3の表面35に発現した接着性に基づいて、接合膜3と対向基板4とが接合し、図5(d)に示すような接合体5が得られる。
この際、前記工程[2]において得られた比較結果により、接合膜3が対向基板4に対して優れた接着性を有しているものであると評価された接合膜付き基材1を用意することで、得られた接合体5は優れた接着強度を備えるものとなる。
【0085】
さらに、接合膜3から脱離させる脱離基303の量が適切な範囲内に設定されているため、接合体5は極めて剥離し難いものとなる。
なお、本工程で用意する対向基板4としては、いかなる材料で構成されたものであってもよいが、具体的には、前述した基板2の構成材料と同様の材料が挙げられ、対向基板4の構成材料は、基板2と異なっていても同じでもよい。
【0086】
さらに、対向基板4の形状は、接合膜3が密着する面を有する形状であれば、特に限定されず、本実施形態のように板状(層状)のものの他、例えば、塊状(ブロック状)、棒状等のものが挙げられる。
また、このような対向基板4の接合膜付き基材1との接合に供される領域には、対向基板4の構成材料に応じて、接合を行う前に、あらかじめ、対向基板4と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。これにより、接合膜付き基材1と対向基板4との接合強度をより高めることができる。
【0087】
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、対向基板4の表面を清浄化するとともに、活性化させることができる。その結果、接合膜3の対向基板4に対する密着強度を確実に高めることができる。
【0088】
また、対向基板4の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜付き基材1と対向基板4との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる対向基板4の構成材料には、前述した基板2の構成材料のうち、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を用いることができる。
このようにして得られた接合体5では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、接合膜付き基材1と対向基板4とが接合されている。このため、接合体5は短時間で形成することができ、かつ、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0089】
また、このような接合膜付き基材1を用いて得られた接合体5を得る方法によれば、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された基板2および対向基板4をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して基板2と対向基板4とを接合しているため、基板2や対向基板4の構成材料に制約がないという利点もある。
以上のような接合方法によれば、基板2および対向基板4の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
【0090】
また、固体接合では、接合層を介していないため、基板2と対向基板4との間の熱膨張率に大きな差がある場合、その差に基づく応力が接合界面に集中し易く、剥離等が生じるおそれがあったが、接合体(本発明の接合体)5では、接合膜3によって応力の集中が緩和され、剥離を防止することができる。
また、本実施形態では、接合に供される基板2および対向基板4のうち、一方のみ(本実施形態では、基板2)に接合膜3が設けられている。基板2上に接合膜3を形成する際に、接合膜3の形成方法によっては、基板2が比較的長時間にわたってエネルギーが付与されることになるが、本実施形態では、対向基板4は、エネルギーが付与されることはない。したがって、例えば、対向基板4のプラズマに対する耐久性が著しく低い場合であっても、本実施形態にかかる方法によれば、接合膜付き基材1と対向基板4とを強固に接合することができる。したがって、対向基板4を構成する材料は、プラズマに対する耐久性をあまり考慮することなく、幅広い材料から選択することが可能になるという利点もある。
【0091】
ここで、本工程において、接合膜付き基材1と対向基板4とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、対向基板4の接合膜付き基材1との接合に供される領域に、水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜付き基材1の接合膜3と対向基板4とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜付き基材1の接合膜3の表面35に存在する水酸基と、対向基板4の前記領域に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、接合膜付き基材1と対向基板4とが接合されると推察される。
【0092】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、接合膜付き基材1と対向基板4との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、接合膜付き基材1と対向基板4とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[2]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2]の終了後、できるだけ早く本工程[3]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[2]の終了後、60分以内に本工程[3]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で接合膜付き基材1と対向基板4とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0093】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、Si骨格301を有する接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた基板2を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[2]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、接合体5の製造効率の観点から有効である。
以上のようにして、図5(d)に示す接合体5を得ることができる。
【0094】
なお、図5(d)では、接合膜付き基材1の接合膜3の全面を覆うように対向基板4を重ね合わせているが、これらの相対的な位置は、互いにずれていてもよい。すなわち、接合膜3から対向基板4がはみ出るように、接合膜付き基材1と対向基板4とが重ね合わされていてもよい。
このようにして得られた接合体5は、基板2と対向基板4との間の接合強度が8MPa(80kgf/cm)以上であるのが好ましい。このような接合強度を有する接合体5は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、後述のように、接合体5を用いて、例えば液滴吐出ヘッドを構成した場合、耐久性に優れた液滴吐出ヘッドが得られる。また、本発明の接合膜の評価方法で評価され、対向基板4に対する接着性を充分に備えていると評価された接合膜3を備える接合膜付き基材1によれば、基板2と対向基板4とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体5を効率よく作製することができる。
なお、従来のシリコン直接接合のような固体接合では、接合に供される表面を活性化させても、その活性状態は、大気中で数秒〜数十秒程度の極めて短時間しか維持することができなかった。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの基板を貼り合わせる等の作業に要する時間を、十分に確保することができないという問題があった。
【0095】
これに対し、本発明によれば、Si骨格301を有する接合膜3を用いて接合を行っているため、数分以上の比較的長時間にわたって活性状態を維持することができる。このため、貼り合わせ作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を高めることができる。
なお、接合体5を得た後、この接合体5に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([4A]および[4B])のうちの少なくとも1つの工程(接合体5の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体5の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0096】
[4A]図5(e)に示すように、得られた接合体5を、基板2と対向基板4とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、基板2の表面および対向基板4の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、これにより、未結合の活性手が対向基板4との間において化学結合を形成することから、接合体5における接合強度をより高めることができる。
【0097】
また、接合体5を加圧することにより、接合体5中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体5における接合強度をさらに高めることができる。
このとき、接合体5を加圧する際の圧力は、接合体5が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して接合体5における接合強度を高めることができる。
【0098】
なお、この圧力は、基板2および対向基板4の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基板2および対向基板4の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体5の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基板2および対向基板4の各構成材料によっては、基板2および対向基板4に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体5を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0099】
[4B]図5(e)に示すように、得られた接合体5を加熱する。
これにより、未結合の活性手が対向基板4との間において化学結合を形成することから、接合体5における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体5を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体5の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体5が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
【0100】
なお、前記工程[4A]、[4B]は、本実施形態では、接合体5を得た後、すなわち前記工程[3]の後に行うこととしたが、前記工程[3]とほぼ同時に行うようにしてもよい。換言すれば、前記工程[3]おける接合膜付き基材1の対向基板4に対する貼り合わせを、加圧および加熱のうちの少なくとも一方の処理を施しつつ行うようにしてもよい。
【0101】
さらに、前記工程[4A]、[4B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図5(e)に示すように、接合体5を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体5の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体5における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0102】
(第2実施形態)
次いで、接合膜付き基材1を用いた本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図6および図7は、本発明の接合膜付き基材を用いて、接合膜付き基材と対向基板とを接合する接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6および図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0103】
以下、第2実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる接合方法は、2枚の接合膜付き基材1同士を接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、本発明の接合膜付き基材1を2枚用意する工程と、それぞれの接合膜付き基材1の各接合膜31、32にエネルギーを付与して、各接合膜31、32を活性化させる工程と、各接合膜31、32同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせ、接合体5aを得る工程とを有する。
【0104】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、2枚の接合膜付き基材1を用意する(図6(a)参照)。なお、本実施形態では、この2枚の接合膜付き基材1として、図6(a)に示すように、基板21とこの基板21上に設けられた接合膜31とを有する接合膜付き基材1と、基板22とこの基板22上に設けられた接合膜32とを有する接合膜付き基材1とを用いるものとする。
【0105】
[2]次に、図6(b)に示すように、2枚の接合膜付き基材1の各接合膜31、32にエネルギーを付与する。各接合膜31、32にエネルギーを付与すると、各接合膜31、32では、図2に示す脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には、図3に示すように、各接合膜31、32の表面35および内部に活性手304が生じ、各接合膜31、32が活性化される。これにより、各接合膜31、32にそれぞれ接着性が発現する。
このような状態の2枚の接合膜付き基材1は、それぞれ互いに接着可能なものとなる。
【0106】
なお、各接合膜31、32にエネルギーを付与する方法としては、前記第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
また、本実施形態においても、表面351、352にエネルギーを付与した後の各接合膜31、32を本発明の接合膜3の評価方法を用いて評価する。そして、得られた比較結果により、優れた接着性を有しているものであると評価された接合膜31、32を備える接合膜付き基材1同士を貼り合わせる構成とすることで、前記前記第1実施形態で説明したのと同様の効果が得られる。その結果、各接合膜31、32は、互いの接合膜に対して優れた接着性を発揮することとなる。
【0107】
ここで、接合膜3を「活性化させる」とは、前述したように、各接合膜31、32の表面351、352および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301に終端化されていない結合手(未結合手)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。
【0108】
[3]次に、図6(c)に示すように、接着性が発現した各接合膜31、32同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせ、接合体(本発明の接合体)5aを得る。
この際、前記工程[2]において得られた比較結果により、接合膜31、32が優れた接着性を有しているものであると評価された接合膜付き基材1を用意する構成とすれば、得られた接合体5は優れた接着強度を備えるものとなる。
ここで、本工程において、2枚の接合膜付き基材1同士を接合するが、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
【0109】
(i)例えば、各接合膜31、32の表面351、352に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、各接合膜31、32同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせたとき、各接合膜付き基材1の接合膜31、32の表面351、352に存在する水酸基同士が、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、2枚の接合膜付き基材1同士が接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、2枚の接合膜付き基材1同士の間では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、2枚の接合膜付き基材1同士がより強固に接合されると推察される。
【0110】
(ii)2枚の接合膜付き基材1同士を貼り合わせると、各接合膜31、32の表面351、352や内部に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各接合膜31、32を構成するそれぞれの母材(Si骨格301)同士が直接接合して、各接合膜31、32同士が一体化する。
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、図6(d)に示すような接合体5aが得られる。
【0111】
なお、接合体5aを得た後、この接合体5aに対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[4A]および[4B]のうちの少なくとも一方の工程を行うようにしてもよい。
例えば、図7(e)に示すように、接合体5aを加圧しつつ、加熱することにより、接合体5aの各基板21、22同士がより近接する。これにより、各接合膜31、32の界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。そして、各接合膜31、32同士の一体化がより進行する。その結果、図7(f)に示すように、ほぼ完全に一体化された接合膜30を有する接合体5a’が得られる。
以上のような前記各実施形態にかかる接合方法は、種々の複数の部材同士を接合するのに用いることができる。
【0112】
このような接合に供される部材としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサ、加速度センサのようなセンサ部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子用部品、燃料電池用部品等が挙げられる。
【0113】
<液滴吐出ヘッド>
ここでは、本発明の接合膜の評価方法で評価された接合膜を備える接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図8は、接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図9は、図8に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図10は、図8に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図8は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0114】
図8に示すインクジェット式記録ヘッド10は、図10に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図10に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0115】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0116】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0117】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
【0118】
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
【0119】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0120】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0121】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0122】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0123】
以下、ヘッド10について、図8および図9を参照しつつ詳述する。
ヘッド10は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0124】
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0125】
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0126】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
【0127】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0128】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
【0129】
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
以上のような、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合膜の評価方法が適用された接合膜を備える接合体が用いられている。
【0130】
このようなヘッド10は、接合部の接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
【0131】
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0132】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0133】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0134】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成(いわゆる、「バブルジェット方式」(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0135】
かかる構成のヘッド10において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
以上、本発明の接合膜の評価方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合膜の評価方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
【実施例】
【0136】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合体の製造
(サンプルNo.1)
<1>まず、基材および対向基板として、幅27.5mm×長さ32.5mm×平均厚さ0.6mmの水晶基板を2枚用意した。
【0137】
<2>次に、プラズマ重合法を用いて、基材の一方の面上に、平均厚さ149nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、プラズマ重合法に用いたプラズマ重合装置における成膜条件は以下に示す通りである。
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :30sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:30sccm
・高周波電力の出力 :50W
・チャンバー内圧力 :4.0Pa
・チャンバー内温度 :60℃
・処理時間 :259秒
・電極間距離 :40mm
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含む原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合するアルキル基(メチル基)とで構成される脱離基とを含むものである。
上記のように基材上にプラズマ重合膜を成膜して、基材およびプラズマ重合膜の2層からなる接合膜付き基材を得た。
【0138】
また、成膜されたプラズマ重合膜について、赤外吸収スペクトル法により、赤外線吸収を測定した。なお、赤外吸収スペクトル法による測定条件は、以下の通りである。
・FTIR装置 :Bruker社製、「IFS−120HR」
・光源 :SiC
・検出器 :MCT
・ビームスプリッタ:Ge/KBr
・分解能 :4cm−1
・測定スピード :1.3nm/秒
・プリズム :Ge
・入射角 :60゜
・偏光 :P偏光
【0139】
<3>次に、得られたプラズマ重合膜に対してプラズマ処理を施した。これにより、プラズマ重合膜(接合膜)を活性化させて、その表面に活性手を生成させることにより接着性を発現させた。なお、プラズマ処理は、前記工程<2>で用いたプラズマ重合装置を用いて行い、以下に示す条件とした。
<プラズマ処理条件>
・処理ガス :酸素ガス
・ガス供給速度 :20sccm
・高周波電力の出力 :50W
・チャンバー内圧力 :4Pa(低真空)
・チャンバー内温度 :60℃
・処理時間 :30秒
・電極間距離 :40mm
また、活性化させたプラズマ重合膜について、赤外吸収スペクトル法により、赤外線吸収を測定した。なお、赤外吸収スペクトル法による測定条件は、前記工程<2>で示したのと同様である。
【0140】
<4>次に、プラズマ処理を施してから1分後に、接合膜付き基板が備えるプラズマ重合膜と対向基板とが互いに接触するようにして、接合膜付き基材と対向基板とを重ね合わせて積層体とし、その後、この積層体を3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持することで、接合体を得た。
なお、接合膜付き基板と対向基板とを互いに接触させる方向は、接合膜付き基板の長さ方向と対向基板の長さ方向とが直交する方向とし、図11に示すように、対向基板の中央部に接合膜付き基板の一端部を重ねて、接合膜付き基板と対向基板との接触面積が27.5mm×27.5mmとなるようにした。
(サンプルNo.2〜5)
前記工程<2>において、プラズマ重合膜を成膜する際の成膜条件のうち、高周波電力の出力および処理時間を表1に示すように変更したこと以外は、前記サンプルNo.1と同様にして、表1に示すような膜厚の接合膜を備える接合体を得た。
【0141】
2.評価
2.1 接合体の接合強度(割裂強度)
各サンプルNo.で得られた接合体について、それぞれ接合強度を測定した。
なお、接合強度の測定は、接着剤の割裂接着強さ試験方法(JIS K6853)に準拠して、対向基板から接合膜付き基板を引き剥がしたとき、剥がれる直前の強度を測定することにより行った。
【0142】
すなわち、図11に示すように、各サンプルNo.の接合体を、引張試験機に、対向基板4の両端部を引張試験機が備える固定部501で固定することでセットし、引張試験機が備えるフック502に接合膜付き基材1の他端部を引っかけた状態で、フック502を引き上げて、対向基板4と接合膜付き基材1とを離間させることにより行った。
なお、接合強度の測定は、各サンプルNo.の接合体について2つずつ行い、その平均値を求めた。
この結果を表1に示した。
【0143】
2.2 接合膜の赤外吸収スペクトルからのメチル基に帰属するピーク強度の算出
各サンプルNo.の接合体を得る際に測定した接合膜の赤外吸収スペクトル(プラズマに曝す前および曝した後の赤外吸収スペクトル)から、それぞれ、Si−O−Si結合に帰属するピーク強度を1としたときのメチル基に帰属するピーク強度を、各サンプルNo.の接合体が備える接合膜について求めた。
さらに、各サンプルNo.の接合体について、それぞれ、プラズマに曝す前の接合膜におけるメチル基に帰属するピーク強度(A)と、エネルギーを付与した後の接合膜におけるメチル基に帰属するピーク強度(B)との差の値(A−B)を求めた。
これらの結果を表1に示す。また、ピーク強度の差の値と接合強度との関係を図12に示す。
【0144】
【表1】

【0145】
表1および図12から明らかなように、上記差の値(A−B)が0.005以上、0.014以下となっているエネルギーを付与した後の接合膜は、かかる範囲外となっている接合膜と比較して、対向基板に対して優れた接合強度を発揮し、活性化の程度が最適化されていることが判った。
すなわち、差の値(A−B)が上記範囲内となっている、エネルギーを付与した後の接合膜は、対向基板に対して優れた接着性を有していると評価し得ることが判った。
【符号の説明】
【0146】
1……接合膜付き基材 2、21、22……基板 3、30、31、32……接合膜 35、351、352……表面 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 4……対向基板 5、5a、5a’……接合体 10……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 140……第2の電極 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙 501……固定部 502……フック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合し、有機基からなる脱離基とを含む、プラズマ重合により形成された接合膜の評価方法であって、
前記接合膜は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜の表面の前記領域に、他の被着体との接着性が発現するものであり、
前記エネルギーを付与する前後の前記接合膜をそれぞれ赤外吸収スペクトル法で測定し、Si−O−Si結合に帰属するピーク強度を1としたときのメチル基に帰属するピーク強度を求め、前記エネルギーを付与する前の前記メチル基に帰属するピーク強度と、前記エネルギーを付与した後の前記メチル基に帰属するピーク強度とを比較し、その比較結果に基づいて、前記接合膜の前記他の被着体に対する接着性を評価することを特徴とする接合膜の評価方法。
【請求項2】
前記エネルギーを付与する前の前記メチル基に帰属するピーク強度(A)と、前記エネルギーを付与した後の前記メチル基に帰属するピーク強度(B)との差(A−B)の値を指標として前記比較結果を求め、該比較結果に基づいて、前記接合膜の前記他の被着体に対する接着性を評価する請求項1に記載の接合膜の評価方法。
【請求項3】
前記接合膜に対する前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝すことにより行われる請求項2に記載の接合膜の評価方法。
【請求項4】
前記差の値が0.005以上、0.014以下となるように、前記接合膜をプラズマに曝す条件を設定する請求項3に記載の接合膜の評価方法。
【請求項5】
前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項6】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項5に記載の接合膜の評価方法。
【請求項7】
前記プラズマ重合法において、プラズマを発生させる際の高周波電力の出力は、100W以上、400W以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項8】
前記接合膜は、このものを構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上、90原子%以下のものである請求項1ないし7のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項9】
前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上、7:3以下である請求項1ないし8のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項10】
前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし9のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項11】
前記接合膜は、Si−H結合を含んでいる請求項1ないし10のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項12】
前記プラズマに曝す前の前記接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001以上、0.2以下である請求項11に記載の接合膜の評価方法。
【請求項13】
前記脱離基は、アルキル基である請求項1ないし12のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項14】
前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし13のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項15】
前記接合膜の屈折率は、1.35〜1.6である請求項1ないし14のいずれかに記載の接合膜の評価方法。
【請求項16】
前記接合膜の平均厚さは、50nm以上、500nm以下である請求項1ないし15のいずれかに記載の接合膜の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−1642(P2012−1642A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138490(P2010−138490)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】