説明

接着フィルムおよびその製造方法、ならびに、この接着フィルムを用いた電気部品、非水電解質電池、リード線、および封入容器

【課題】被接着物同士が接触しないようにすることができ、且つ被接着物との接着性に優れた接着フィルムを提供すること。
【解決手段】被接着物を熱融着によって接着するための接着フィルム4であって、熱融着時の温度で溶融する溶融性樹脂41に、熱融着時の温度で非溶融性を呈する非溶融性樹脂42が分散されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着フィルムに関する。さらに詳しくは、被接着物を被覆するための接着フィルムおよびその製造方法、ならびに、前記接着フィルムが用いられた電気部品、非水電解質電池、リード線、および封入容器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴って、これに収容される非水電解質電池などの部品も小型化、薄肉化することが求められている。このため、金属箔の両面が樹脂でコーティングされたラミネートフィルムを封入容器とする非水電解質電池が実用化されている。この種の非水電解質電池では、リード線と前記封入容器とを熱融着によって接着する方式が多く採用されている。例えば、リード線はリード導体の一部を熱融着時に溶解する溶融性樹脂で被覆した絶縁部を有し、封入容器は熱融着時に溶解する溶融性樹脂からなる熱融着層が内面に形成されており、このリード線の絶縁部に存在する溶融性樹脂と封入容器の熱融着層に存在する溶融性樹脂とを熱融着によって接着させている。しかし、これらの溶融性樹脂の融点が低い場合には、溶融性樹脂がリード導体と金属箔との間から流れすぎて、リード導体と金属箔との間で短絡が起こるおそれがある。そこで、封入容器とリード線との融着部位における密封性を十分に確保するために溶融性樹脂の融点を高くすると、封入容器とリード線との接着力が低下するおそれがある。
【0003】
このような相反する特性を満足させるために、例えば、特許文献1には、リード導体を被覆する絶縁部として多層からなる接着フィルムを用いたリード線が開示されている。より詳細には、前記接着フィルム(リード線用フィルム積層体)は、被接着物であるリード線に接する表面側に、金属との接着性に優れている酸変性ポリオレフィン層を備え、また、もう一つの被接着物である封入容器に接する表面側に、封入容器の表面にある溶融性樹脂との溶融性がよいポリオレフィン層を備え、これらの間に耐熱性樹脂からなる耐熱性フィルム層が介在している。この接着フィルムを介してリード導体と封入容器とを熱融着によって接着させるとことによって被接着物間における接着力を確保すると共に、耐熱性フィルム層が被接着物同士の接触を妨げることによって短絡発生を抑制している。
【特許文献1】特開2002−245985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、異種材料である酸変性ポリオレフィン層と耐熱性フィルム層、およびポリオレフィン層と耐熱性フィルム層はそれぞれ相溶性に劣るため接着力が弱く、たがいに十分に熱融着しがたいので層間剥離が生じるおそれがある。このため、特許文献1においては、耐熱性フィルム層にコロナ処理などの表面処理を施して架橋可能な反応基を導入したり、表面粗化処理およびプライマーコート処理を施したりして、これらの層間の融着性を向上させている。しかし、これらの処理は煩雑であり、しかもこれらの処理を施した場合であっても接着力が確保できず、各層間で界面剥離が生じ、封入容器の密封性を保つことができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、被接着物同士が接触しないようにすることができ、且つ被接着物との接着性に優れた接着フィルムおよびその製造方法、ならびに、該接着フィルムが用いられた電気部品、非水電解質電池、リード線、および封入容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するための本発明の接着フィルムは、被接着物を熱融着によって接着するための接着フィルムであって、熱融着時の温度で溶融する溶融性樹脂に、熱融着時の温度で非溶融性を呈する非溶融性樹脂が分散されていることを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、被接着物間に介在させて両者を熱融着させたとき、溶融性樹脂が溶融することによって被接着物間を接着させるので、両者間の接着力を確保することができる。しかも、このとき、非溶融性樹脂は溶融しないので、非溶融性樹脂が被接着物間の間隙を保つスペーサーとしての役割を担って被接着物同士の接触を妨げる。このため、例えば、被接着物がいずれも金属などの導体を含む場合であっても、これらの間での短絡を防止することができる。
【0008】
上記接着フィルムにおいて、前記非溶融性樹脂が前記溶融性樹脂を架橋させたものであることが好ましい。
【0009】
かかる構成によれば、前記非溶融性樹脂と前記溶融性樹脂とが同種材料であるので、これらの間での接着力が強く、結果として、被接着物との接着力を高くすることができる。
【0010】
また、上記接着フィルムにおいて、前記溶融性樹脂がポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、ポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンは金属との接着性に優れているので、被接着物が金属を含む場合に、被接着物との接着力を高くすることができる。
【0012】
また、上記接着フィルムにおいて、非溶融性樹脂が粒子状で存在することが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、熱融着時における溶融性樹脂中の非溶融性樹脂の流動性が高いので、溶融性樹脂中における非溶融性樹脂の分布にむらが生じにくい。従って、熱融着時に溶融性樹脂が均等に分散し易いので、接着フィルムと被接着物との融着性を高めることができる。
【0014】
また、上記接着フィルムにおいて、非溶融性樹脂が接着フィルムを貫通して存在することが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、被接着物間の間隙は、通常、前記接着フィルムの厚さと同等であるので、これらの間に非溶融性樹脂が存在することによって、これらの間隔を一定に保つことができる。
【0016】
また、この目的を達成するための本発明の接着フィルムの製造方法は、被接着物を熱融着によって接着するための接着フィルムの製造方法であって、熱融着時の温度で溶融する溶融性樹脂フィルムに、所定の放射線の照射パターンを有するマスクを介して放射線を照射し、放射線が照射された部位を架橋させることにより熱融着時の温度で非溶融性を呈する非溶融性樹脂を形成することを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、マスクの放射線の照射パターンを調整することにより、溶融性樹脂と非溶融性樹脂との比率を容易に制御することができる。
【0018】
また、この目的を達成するための本発明の電気部品は、金属層を有する封入容器と、この封入容器の内部から外部に亘って延びるリード導体とを備え、前記封入容器と前記リード導体とが前記封入容器のシール部において熱融着されている電気部品であって、前記金属層と前記リード導体とが少なくとも上記いずれかの接着フィルムを介して熱融着されていることを特徴とする。
【0019】
かかる構成によれば、前記封入容器のシール部と前記リード導体とが強く接着されるだけではなく、熱融着後、前記金属層と前記リード導体との間に非溶融性樹脂が介在するため、前記金属層と前記リード導体との接触を回避し、これらの間での短絡を防止することができる。
【0020】
また、この目的を達成するための本発明の非水電解質電池は、金属層を有する封入容器と、この封入容器の内部から外部に亘って延びるリード導体とを備え、前記リード導体が接続された集電体と非水電解質とが前記封入容器に封入された状態で前記封入容器と前記リード導体とが前記封入容器のシール部において熱融着されている非水電解質電池であって、前記金属層と前記リード導体とが少なくとも上記いずれかの接着フィルムを介して熱融着されていることを特徴とする。
【0021】
かかる構成によれば、前記封入容器のシール部と前記リード導体とが強く接着されるため密封性が高く、封入した非水電解質が漏れにくい。また、熱融着後、前記金属層と前記リード導体との間に非溶融性樹脂が介在するため、前記金属層と前記リード導体との接触を回避し、これらの間での短絡を防止することができる。
【0022】
また、この目的を達成するための本発明のリード線は、上記電気部品又は上記非水電解質電池に用いられるものであって、リード導体と、上記何れかの接着フィルムによって構成される絶縁部とを備え、前記絶縁部が前記リード導体の前記封入容器のシール部と接する部分を被覆していることを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、リード線の絶縁部が上記接着フィルムで構成されているので、封入容器のシール部とリード導体とを熱融着させたときの接着性に優れている。しかも、熱融着後、前記金属層と前記リード導体との間に非溶融性樹脂が介在するため、前記金属層と前記リード導体との接触を回避し、これらの間での短絡を防止することができる。
【0024】
また、この目的を達成するための本発明の封入容器は、上記電気部品又は上記非水電解質電池に用いられ、金属層を有する封入容器であって、少なくともシール部のリード導体と接する部分に、上記いずれかの接着フィルムを有することを特徴とする。
【0025】
かかる構成によれば、少なくとも前記封入容器のシール部の前記リード導体と接する部分が上記接着フィルムで構成されているので、シール部とリード導体とを熱融着させたときの接着性に優れている。しかも、熱融着後、前記金属層と前記リード導体との間に非溶融性樹脂が介在するため、前記金属層と前記リード導体との接触を回避し、これらの間での短絡を防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の接着フィルム、ならびに、この接着フィルムを用いた電気部品、非水電解質電池、リード線、および封入容器は、接着フィルムが被接着物との接着性に優れており、且つ被接着物同士の接触を回避できるので、被接着物が金属などの導体を含む場合にこれらの間における短絡も防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の接着フィルムの一実施形態を図面に基づいて説明する。図1および図2は、それぞれ本発明の接着フィルムの概略を説明する縦断面図である。図1および図2に示されるように、本発明の接着フィルム4は、熱融着時の温度で溶融する溶融性樹脂41に、熱融着時の温度で非溶融性を呈する非溶融性樹脂42が分散されている。
【0028】
本発明の接着フィルム4を、被接着物間に介在させて両者を熱融着させたとき、溶融性樹脂41が溶融することにより、被接着物同士が接着する。しかし、非溶融性樹脂42は、被接着物同士を熱融着させる際に溶融しないので、被接着物間の間隙を保つスペーサーとしての役割を担う。したがって、被接着物が金属を含むなどして導電性を有する場合、非溶融性樹脂42は、これらの被接着物同士の接触を妨げるので、両者間の短絡を防止することができる。
【0029】
また、本発明の接着フィルム4は、従来のような層状構造を有するフィルム積層体ではなく、1枚のシートで形成されているので、層間剥離を生じることがない。このため、接着フィルム4と被接着物との間の接着力が強い。
【0030】
したがって、本発明の接着フィルム4は、例えば、電気部品、非水電解質電池、リード線、および封入容器などに好適に使用することができる。
【0031】
本発明の接着フィルム4に用いられる溶融性樹脂41は、被接着物間に介在させて両者を熱融着によって接着させる際の温度で溶融する性質(以下、溶融性という)を有する。
【0032】
被接着物同士を熱融着させる際の温度は、その溶融性樹脂41の種類によって異なるので一概には決定することができない。したがって、溶融性樹脂41として、熱融着させる際の温度に適した樹脂を適宜選択して用いることが好ましい。
【0033】
本発明の接着フィルム4には絶縁性が要求されるため、溶融性樹脂41として、非導電性を有するものが用いられる。溶融性樹脂41としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、および前記ポリオレフィンを酸変性させた酸変性ポリオレフィン、アイオノマー樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの中では、例えば、リード導体などの被接着物は、通常、金属で構成されており、該被接着物との接着性を高める観点から、酸変性ポリオレフィンが好ましい。酸変性ポリオレフィンは、例えば、ポリオレフィン樹脂にアクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸をグラフト共重合させることによって容易に製造することができる。
【0034】
非溶融性樹脂42は、本発明の接着フィルム4を被接着物間に介在させて両者を熱融着によって接着させる際の温度で溶融しない性質(以下、非溶融性という)を有する。
【0035】
非溶融性樹脂42には、前記熱融着によって接着させる際の温度で溶融しない樹脂を用いることが好ましい。なお、本発明の接着フィルム4には絶縁性が要求されるため、非溶融性樹脂42として、非導電性を有するものが用いられる。
【0036】
非溶融性樹脂42としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリオレフィンを酸変性させた酸変性ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアリレート、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、これらの樹脂を架橋させた架橋樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。非溶融性樹脂42は、溶融性樹脂41を溶融させるときの温度で溶融しない樹脂が選択して用いられる。
【0037】
溶融性樹脂41と非溶融性樹脂42とは、両者のなじみやすさの観点から、同種類の樹脂であることが好ましい。さらに、非溶融性樹脂42として、溶融性樹脂41を架橋させた架橋樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
本発明の接着フィルム4は、溶融性樹脂41に非溶融性樹脂42を分散させたものであるが、その具体例としては、図1に示されるように非溶融性樹脂42が粒子状で存在している接着フィルム4や、図2に示されるように非溶融性樹脂42がフィルムを貫通して存在している接着フィルム4などが挙げられる。なお、いずれの態様においても、接着フィルム4に、非溶融性樹脂42が均一に分散していることが、熱融着後に被接着物間の間隙を一定に保つ観点から好ましい。
【0039】
図1に示されるように、本発明の接着フィルム4が、非溶融性樹脂42が粒子状で存在している接着フィルム4である場合、熱融着時における溶融性樹脂41の流動性が高いので、溶融性樹脂中における非溶融性樹脂の分布にむらが生じにくい。よって、溶融性樹脂がフィルム中に均等に分散し易いので、接着フィルムと被接着物との接着性を高めることができるという利点がある。
【0040】
非溶融性樹脂42の粒子径は、接着フィルム4の厚さなどによって異なるので一概には決定することができないが、通常、接着フィルム4から非溶融性樹脂42を突出させずに接着フィルム4内に存在させる観点から、接着フィルム4の厚さ以下であることが好ましく、また、被接着物間の間隙を保って両者の接触を回避する観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。
【0041】
また、接着フィルム4において粒子状で存在している非溶融性樹脂42の含有量は、接着フィルム4の用途や非溶融性樹脂42の分散状態によって異なるので一概には決定することができないが、被接着物間の間隙を保って両者の接触を回避する観点から、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、接着フィルムの柔軟性を維持する観点から、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0042】
非溶融性樹脂42が粒子状で存在している接着フィルム4は、例えば、加熱溶融させた溶融性樹脂41と所定量の非溶融性樹脂42の粒子とを混合し、得られた混合物を所定の厚さのフィルムとなるように成形することによって製造することができる。
【0043】
図2に示されるように、本発明の接着フィルム4が、非溶融性樹脂42が貫通して存在している接着フィルム4である場合、被接着物間の間隙は、通常、前記接着フィルム4の厚さと同等であるので、これらの間隔を一定に保つことができるという利点がある。
【0044】
接着フィルム4を貫通する非溶融性樹脂42の形状として、例えば、円柱状、三角柱、四角柱などの角柱状、板状、格子状などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、上述した形態の非溶融性樹脂42の接着フィルム4における含有量は、前記樹脂の形状などによって異なるので一概には決定することができないため、通常、被接着物間の間隙を保って両者の接触を回避し、接着フィルム4の柔軟性が維持されるように選択することが好ましい。
【0045】
フィルムを貫通して非溶融性樹脂42が存在している接着フィルム4は、例えば、所定の厚さを有する溶融性樹脂41により構成されるフィルムを成形し、この溶融性樹脂41により構成されるフィルムに、所定の放射線の照射パターンを有するマスクを介して放射線を照射し、放射線が照射された部位を架橋させて非溶融性樹脂42を形成させることによって製造することができる。放射線としては、例えば、γ線、電子線などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、前記マスクは、放射線を透過しない材料で製造されたフィルム、プレートなどであり、放射線の照射によって架橋させておきたい箇所に所定形状を有する貫通孔を形成させればよい。
【0046】
この接着フィルム4では、マスクの放射線の照射パターンを調整することにより、溶融性樹脂41と非溶融性樹脂42との比率や非溶融性樹脂42の分散パターンを容易に制御することができる。
【0047】
この方法によって得られた接着フィルム4は、溶融性樹脂41と架橋構造を有する非溶融性樹脂42とが同一の材料で構成されているので均質な組成を有するという利点がある。しかも、溶融性樹脂41と非溶融性樹脂42との境界には明確な界面がないので、熱融着前は溶融性樹脂41と非溶融性樹脂42とが分離し難い。
【0048】
本発明の接着フィルム4の厚さは、その用途などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、熱融着時に被接着物間の間隙を保って両者の接触を回避する観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、被接着物間の接着性を高める観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0049】
なお、本発明の接着フィルム4には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、各種添加剤、充填剤などが含まれていてもよい。
【0050】
このようにして得られる本発明の接着フィルム4は、従来の層状構造を有するフィルム積層体が抱えている層間剥離が生じることがないので、被接着物との接着性に優れている。しかも、被接着物同士が接触しないので、金属などの導体を含む被接着物間での短絡を防ぐことができる。従って、この接着フィルム4は、例えば、リード線のリード導体を被覆する絶縁部、封入容器、各種電気部品、非水電解質電池などの用途に好適に使用することができる。
【0051】
前記リード線は、リード導体の少なくとも一部に絶縁部を有し、該絶縁部が前記接着フィルム4で形成されたものである。このリード線は、被接着物と熱融着によって接着させたときに接着性に優れ、しかも、リード導体と被接着物との間の間隙を保持してこれらの接触を回避することができるので、被接着物に金属などの導体が含まれる場合、両者間の短絡を防止することができるという利点がある。
【0052】
前記電気部品は、金属層を有する封入容器と、この封入容器の内部から外部に亘って延びるリード導体とを備え、前記封入容器と前記リード導体とが前記封入容器のシール部において熱融着によって接着されているものであって、前記金属層と前記リード導体とが、少なくとも本発明の接着フィルム4を介して熱融着によって接着されている。この電気部品は、リード導体と封入容器のシール部とが前記接着フィルム4を介して熱融着によって接着されている。従って、リード導体と封入容器との接着性に優れているので密封性が高い。しかもリード導体と封入容器の金属層との間隙を保持して接触を回避することができるので、両者間の短絡を防止することができるという利点がある。
【0053】
この電気部品は、本発明の接着フィルム4自身に熱融着性があるので、リード導体と封入容器の金属層とに間に前記接着フィルム4を介した状態で直接熱融着により接着させることによって製造することができる。または、従来から用いられている、リード導体を熱融着性を有する絶縁被膜で被覆したリード線と、金属層の内側に溶融性樹脂からなる熱融着層を設けた封入容器との間に、本発明の接着フィルム4を介した状態で、リード線と封入容器とを熱融着により接着させることによっても製造することができる。あるいは、上述したリード線の絶縁被膜又は封入容器のシール部にある熱融着層の少なくともいずれか一方を本発明の接着フィルム4で構成し、リード線またはリード導体と封入容器のシール部とを熱融着により接着することによっても、本発明の電気部品を製造することができる。
【0054】
前記非水電解質電池は、金属層を有する封入容器とこの封入容器の内部から外部に亘って延びるリード導体とを備え、前記リード導体が接続された集電体と非水電解質とが前記封入容器に封入された状態で前記封入容器と前記リード導体とが前記封入容器のシール部において熱融着によって接着されているものである。この非水電解質電池は、リード導体と封入容器のシール部とが前記接着フィルム4を介して熱融着によって接着されているので、リード導体と封入容器との接着性に優れている。従って、リード導体と封入容器との密封性が高く、非水電解質が漏れにくい。しかもリード導体と封入容器の金属層との間隙を保持し接触を回避することができるので、両者間の短絡を防止することができるという利点がある。
【0055】
この非水電解質電池も、先に説明した電気部品と同様に、リード導体と封入容器の金属層との間に前記接着フィルム4を介した状態で熱融着し、リード導体と封入容器とを接着させることによって製造することができる。または、従来から用いられている、リード導体を熱融着性を有する絶縁被膜で被覆したリード線と、金属層の内側に溶融性樹脂からなる熱融着層を設けた封入容器との間に、本発明の接着フィルム4を介した状態で、熱融着によりリード線と封入容器とを接着させることによっても製造することができる。あるいは、上述したリード線の絶縁被膜又は封入容器のシール部にある熱融着層の少なくともいずれか一方を本発明の接着フィルム4で構成し、リード線またはリード導体と封入容器のシール部とを熱融着により接着することによっても、非水電解質電池を製造することができる。
【0056】
次に、本発明の接着フィルム4が用いられたリード線の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0057】
図3(a)は、本発明の接着フィルム4を絶縁部22として用いたリード線2の正面図、図3(b)は、絶縁部22が形成された部位におけるリード線2の横断面図である。
【0058】
図3(a)に示されているように、リード線2は、リード導体21と、リード導体21の長軸方向の途中部を被覆する絶縁部22を有する。絶縁部22は本発明の接着フィルム4からなる。接着フィルム4は、図3(b)に示されているように、リード導体21の表面上でその短軸方向に周回されている。リード導体21は、例えば、板状体、箔、平角などの形状を有する金属で構成されている。
【0059】
絶縁部22が被接着物と接する状態で、溶融性樹脂41が溶融する温度で加熱圧着すると、絶縁部22の溶融性樹脂41が被接着物と熱融着することによって、リード導体21と被接着物とが接着する。さらに非溶融性樹脂42の存在により、リード導体21と被接着物とが離間した状態で熱融着させることができる。
【0060】
図4は、本発明のリード線2が用いられた、例えば、リチウム電池などの非水電解質電池の一実施形態を模式的に表す正面図であり、図5は、図4のA−A部における部分断面図である。この非水電解質電池1は、4辺の周縁部にあるシール部30を熱融着によって接着した袋状の封入容器3内に、非水電解質(図示せず)とともに、負極活物質52と正極活物質54とをセパレータ51を介して収容することによって構成されている。負極活物質52と正極活物質54の外方には、それぞれ負極集電体53および正極集電体55が隣接して配置されている。封入容器3内において、負極集電体53および正極集電体55の上端には、本発明のリード線2のリード導体21の一端が接続されている。リード導体21の他端は、封入容器3の外部にまで延長されている。
【0061】
本実施形態において、封入容器3は、図5に示されているように、3層構造からなるラミネートフィルム34によって構成されている。ラミネートフィルム34の中間層は、アルミニウム箔などの金属箔の層(金属層)32であり、その外部には、絶縁性を有する熱可塑性樹脂の外層31が形成され、金属層32の内面には、非水電解質に溶解せず、絶縁性を有する熱可塑性樹脂の熱融着層33が形成されている。このラミネートフィルム34の周縁部は、熱融着によって接着される前記シール部30として機能する。
【0062】
外層31を構成する樹脂としては、例えば、6,6−ナイロン、6−ナイロンなどのポリアミド、ポリエステル、ポリイミドなどの樹脂が挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、絞り成形性の観点から、ポリアミド又はポリエステルが好ましい。熱融着層33を構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、酸変成ポリオレフィンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、金属層32を形成する金属との融着性に優れていることから、酸変性ポリオレフィンが好ましい。
【0063】
図6は、図5に表される非水電解質電池の部分に対応する、組立て中における非水電解質電池の部分断面図である。非水電解質電池は、図6に示されているように、リード線2のリード導体21(リチウム電池の場合、正極用にはアルミニウム、負極用には銅)の一端が封入容器3に収容された正極または負極集電体53,55の上端に接続され、リード導体21の他端は封入容器3外に延出している。接着フィルム4により構成されたリード線2の絶縁部22は、封入容器3のシール部30間に挟まれている。この状態で、このシール部30を溶融性樹脂41が溶融する温度で熱融着処理を施したものが、図4および図5に示す非水電解質電池である。
【0064】
他の実施形態として、あらかじめ封入容器3の熱融着していない周縁部のシール部30と、リード線2の絶縁部22とを熱融着させて作製した電気部品(電池袋)を用いて非水電解質電池を作製することができる。この場合、電気部品に、負極および正極活物質52,54、負極および正極集電体53,55、セパレータ51、非水電解質(図示せず)を収容し、負極および正極集電体53,55を夫々リード線2の一端に接続した後、リード線2の絶縁部22を開口部のシール部30間に挟んで熱融着によってリード線2と封入容器3とを接着させる。あるいは、平板状のラミネートフィルム34の対向する辺のシール部30に、それぞれ正極用および負極用のリード線2の絶縁部22を重ねて熱融着によって接着させたシートを作製し、このシート上に負極および正極活物質52,54、負極および正極集電体53,55、セパレータ51、非水電解質(図示せず)を配置し、負極および正極集電体53,55をそれぞれリード線2の一端に接続した後、所望の形状となるように収容物の周囲を熱融着によって接着させることによって、所望の外形を有する非水電解質電池を作製することができる。
【0065】
さらに他の実施形態として、熱融着時にリード導体21と接する封入容器3の熱融着層33を本発明の接着フィルム4によって構成し、リード導体21、または上記絶縁部に代えて従来の絶縁性および熱融着性を有する樹脂で被覆されたリード線を、封入容器3の開口部のシール部30間に挟んで熱融着によって接着させることによっても、非水電解質電池を作製することができる。
【0066】
上記各実施形態においては、リチウム電池を例に説明したが、これらの態様は、他の種類の非水電解質電池にも適用することができる。また、本発明の接着フィルム4は、導体を含む被接着物に限らず、被接着物同士の接触を回避する必要がある他の用途にも適用することができる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
本発明の接着フィルムが用いられたリード線を非水電解質電池に使用することを想定して、リード線と非水電解質電池の封入容器との接着性、およびリード線と封入容器を構成する金属層との間での短絡の発生の有無について検討した。
【0069】
実施例1
溶融性樹脂として酸変性ポリエチレン樹脂〔三井化学(株)製、商品名:アドマーNE060〕を使用し、また非溶融性樹脂として、平均粒径6μmのポリエチレン微粉末〔住友精化(株)製、商品名:フロービースLE−1080〕にγ線を200kGy照射することによって架橋させた架橋樹脂を使用し、酸変性ポリエチレン樹脂100重量部に対して架橋樹脂50重量部の割合で混合した。得られた混合物を、溶融性樹脂が溶融する温度(150℃)で加熱溶融混練し、厚さ100μmのシートに成形することにより、実施例1の接着フィルムが得られた。得られた接着フィルムでは、溶融性樹脂中に非溶融性樹脂の粒子が均一に分散していた。
【0070】
実施例2
酸変性ポリエチレン樹脂〔三井化学(株)製、商品名:アドマーNE060〕からなる厚さ100μmのシートに、線径30μm、目開き72μm、空間率50%のステンレス鋼製メッシュマスクを介在させて加速電子線を照射し、電子線が照射された部位を架橋させて非溶融性樹脂を形成することによって、実施例2の接着フィルムが得られた。
【0071】
比較例1
溶融性樹脂として、酸変性ポリエチレン樹脂〔三井化学(株)製、商品名:アドマーNE060〕を厚さ100μmのシートに成形することにより、比較例1の接着フィルムが得られた。
【0072】
比較例2
実施例2において、酸変性ポリエチレン樹脂〔三井化学(株)製、商品名:アドマーNE060〕に、マスクを介在させないで電子線を照射したこと以外は、実施例2と同様にして厚さ100μmのシートである比較例2の接着フィルムが得られた。
【0073】
<リード線の作製>
正極用リード導体として、厚さ0.1mm、幅5mm、長さ100mmのアルミニウム板を用いた。負極用リード導体として、厚さ0.1mm、幅5mm、長さ100mmの銅板を用いた。夫々のリード導体の一部に各実施例または比較例の接着フィルムを200℃で熱プレスし、正極用および負極用に、それぞれリード導体の一部を接着フィルムからなる絶縁部で被覆した4種類のリード線を得た。
【0074】
<封入容器の作製>
金属層として、厚さ40μmのアルミニウム箔の一方の面に、厚さ25μmの6−ナイロン製シート〔ユニチカ(株)製、商品名:エンブレムON〕をドライラミネーションで貼り合わせた。前記金属層の他方の面には、熱融着層としての厚さ50μmの酸変性ポリエチレン〔三井化学(株)製、商品名:アドマーNE060〕シートを130℃で熱ラミネーションして貼り付けたラミネーションフィルムを作製した。このラミネーションフィルムを、前記熱融着層が内側に位置するように2枚重ねて3辺を200℃で熱融着によって接着し、残りの1辺を開口部とする袋状の封入容器を作製した。
【0075】
実験例
(1)90°剥離試験
前記封入容器の開口部に前記リード線の絶縁部を挟みこんだ状態で、前記封入容器の開口部を230℃で15秒間熱プレスし、前記開口部に位置する熱融着層を構成する熱可塑性樹脂と前記リード線の絶縁部とを熱融着することで、リード導体と封入容器の金属層とを接着させた。
【0076】
なお、この熱融着条件は、極端な熱融着条件にも耐えるように、通常行われている条件(例えば、リチウムイオン電池のリード線であれば、200℃、5秒)と比べて厳しく設定されている。
【0077】
各実施例および比較例の接着フィルムを用いたリード線と封入容器との接着力(接着強度)は、それぞれについて10個ずつ、熱融着によって接着させた封入容器の金属層とリード導体との境界にカッターナイフで切れ目を入れ、その封入容器の端部をチャックで把持し、オートグラフを用いて90°剥離試験を行なうことによって測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
(2)短絡の発生の有無
各実施例および比較例の接着フィルムを用いたリード線と封入容器との間における短絡の発生の有無は、それぞれの実施例および比較例について10個ずつ、封入容器の金属層とリード導体とを検電テスターに接続することによって調べた。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
各実施例で得られた接着フィルムは、いずれも、90°剥離試験において良好な成績が得られた。このことから、各実施例で得られた接着フィルムを用いたリード線と封入容器との接着力が強く、これらのリード線を用いた場合、非水電解質電池のシール性を十分に確保することができることがわかる。また、各実施例で得られた接着フィルムは、接着させたリード導体と封入容器との間で短絡の発生がなく、絶縁性に優れていることがわかる。
【0081】
これに対して、比較例1で得られた接着フィルムは、リード線と封入容器との接着力が良好であったが、一部において軽微な短絡が発生していることがわかる。また、比較例2で得られた接着フィルムを用いたリード線と封入容器との間では接着後に短絡は発生しなかったが、リード線と封入容器との接着力が弱いことがわかる。
【0082】
なお、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態に係る接着フィルムの概略を説明する縦断面図である。
【図2】本発明の別実施形態に係る接着フィルムの概略を説明する縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリード線の(a)正面図および(b)横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る非水電解質電池を模式的に表す正面図である。
【図5】図4のA−A部における部分断面図である。
【図6】組立て中の本発明の一実施形態に係る非水電解質電池を模式的に表す部分断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 非水電解質電池
2 リード線
3 封入容器
4 接着フィルム
21 リード導体
30 シール部
31 外層
32 金属層
33 熱融着層
41 溶融性樹脂
42 非溶融性樹脂
53 負極集電体
55 正極集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接着物を熱融着によって接着するための接着フィルムであって、
熱融着時の温度で溶融する溶融性樹脂に、熱融着時の温度で非溶融性を呈する非溶融性樹脂が分散されていることを特徴とする接着フィルム。
【請求項2】
前記非溶融性樹脂が前記溶融性樹脂を架橋させたものである請求項1に記載の接着フィルム。
【請求項3】
前記溶融性樹脂がポリオレフィン又は酸変性ポリオレフィンである請求項2に記載の接着フィルム。
【請求項4】
前記非溶融性樹脂が粒子状で存在する請求項1〜3のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項5】
前記非溶融性樹脂が接着フィルムを貫通して存在する請求項1〜3のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項6】
被接着物を熱融着によって接着するための接着フィルムの製造方法であって、
熱融着時の温度で溶融する溶融性樹脂フィルムに、所定の放射線の照射パターンを有するマスクを介して放射線を照射し、放射線が照射された部位を架橋させることにより熱融着時の温度で非溶融性を呈する非溶融性樹脂を形成することを特徴とする接着フィルムの製造方法。
【請求項7】
金属層を有する封入容器と、この封入容器の内部から外部に亘って延びるリード導体とを備え、前記封入容器と前記リード導体とが前記封入容器のシール部において熱融着されている電気部品であって、
前記金属層と前記リード導体とが少なくとも請求項1〜5のいずれかに記載の接着フィルムを介して熱融着されていることを特徴とする電気部品。
【請求項8】
金属層を有する封入容器と、この封入容器の内部から外部に亘って延びるリード導体とを備え、前記リード導体が接続された集電体と非水電解質とが前記封入容器に封入された状態で前記封入容器と前記リード導体とが前記封入容器のシール部において熱融着されている非水電解質電池であって、
前記金属層と前記リード導体とが少なくとも請求項1〜5のいずれかに記載の接着フィルムを介して熱融着されていることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項9】
請求項7に記載の電気部品又は請求項8に記載の非水電解質電池に用いられるリード線であって、
リード導体と、請求項1〜5のいずれかに記載の接着フィルムによって構成される絶縁部とを備え、
前記絶縁部が、前記リード導体の前記封入容器のシール部と接する部分を被覆していることを特徴とするリード線。
【請求項10】
請求項7に記載の電気部品又は請求項8に記載の非水電解質電池に用いられ、金属層を有する封入容器であって、
少なくともシール部のリード導体と接する部分に、請求項1〜5のいずれかに記載の接着フィルムを有することを特徴とする封入容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−57400(P2009−57400A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223172(P2007−223172)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】