説明

接着剤組成物、接着用シート、ダイシング・ダイアタッチフィルム及び半導体装置

【課題】ダイアタッチ工程での半導体チップの基板への加熱圧着時にボイドを抜くことができ、したがってダイアタッチ埋め込み性能に優れると共に、ワイヤボンディング工程および樹脂封止工程で特別な熱管理を必要とせず、半導体装置の製造に用いた場合には信頼性の高い半導体装置を与える接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着用シート、該接着剤組成物を用い、特性安定性及びピックアップ安定性に優れるダイシング・ダイアタッチフィルム、ならびに該接着用シートまたは該ダイシング・ダイアタッチフィルムを使用して製造された半導体装置を提供する。
【解決手段】(A)カルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム、(B)重量平均分子量が5000以下である室温で固体状のエポキシ樹脂、および(C)芳香族ポリアミン化合物、を含む接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエチレン−アクリルゴムと特定のエポキシ樹脂と芳香族ポリアミン化合物とを含み、半導体チップを基板に接着するときにボイドの発生を低減することができる接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着用シート及びダイシング・ダイアタッチフィルム、ならびに該接着用シートまたは該ダイシング・ダイアタッチフィルムを用いて得られた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、例えば、(i)IC回路が形成された大径のシリコンウェハーをダイシング(切断)工程で半導体チップに切り分け、(ii)該チップをダイボンド材として硬化性の液状接着剤等でリードフレームに熱圧着し、該接着剤を硬化させて該チップを固定(マウント)し、(iii)電極間のワイヤボンディングの後、(iv)ハンドリング性の向上及び外部環境からの保護のため、封止することにより製造される。封止の形態としては、樹脂によるトランスファーモールド法が、量産性に優れかつ安価なため、最も一般的に用いられている。
【0003】
近年、半導体装置の高機能化に伴い、半導体チップ搭載のための支持基板(基材)にも高密度化、微細化が要求されている。このような状況で、上記ダイボンド材として液状の接着剤を使用すると、半導体チップ搭載時に接着剤がチップ端からはみ出して電極の汚染を生じやすく、また、接着剤層の厚みの不均一によるチップの傾斜によりワイヤボンディングの不具合が生じやすい。そこで、これらの欠点を改善すべく、接着剤のフィルム化が望まれている。
【0004】
一方、基板には配線等の回路要素による凹凸部が存在し、そのような基板に半導体チップを熱圧着するときに、ダイボンド材としての接着フィルム、即ち、ダイアタッチフィルムが凹部を完全には埋めることができないと、その埋められなかった部分がボイドとして残り、これがリフロー炉での加熱において膨張し、接着剤硬化物層を破壊して半導体装置の信頼性を損ねる場合がある。特に、近年、鉛フリーはんだに対応した高温(265℃)において耐リフロー性が要求されるようになっており、ボイドの形成を防止することの重要性が高まっている。
【0005】
上記問題を解決するための第1の方法として、封止樹脂によるモールドが高温高圧で行われることから、残存したボイドを樹脂封止工程で加熱、圧縮して、ボイドの体積を小さくした状態で更にダイアタッチフィルム中に吸収させる、または、ボイドの体積を小さくしたままダイアタッチフィルムを加熱硬化させることによって、ボイドを抜く方法がある。この方法は、特別な工程を必要とせず、製造面で有利である。
【0006】
上記問題を解決するための第2の方法として、半導体チップをダイアタッチフィルムで基材に熱圧着するときに、ボイドを極力形成させないようにする方法がある。この方法によれば、ダイアタッチ工程以後の工程で半導体チップと基材との間にボイドが存在せず、また、ワイヤボンディング工程で加熱履歴を監視する必要がないため、この方法は工程管理および製造面で有利である。
【0007】
ところで、従来、ダイボンドのための上記接着剤として、具体的には、接着性に優れた樹脂であるアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、その硬化剤であるフェノール樹脂及び触媒を含む低弾性率材料が開発されている(例えば、特許文献1〜3)。しかし、これらの材料は、接着性に優れるものの、該材料を用いた接着フィルムはダイアタッチ工程でボイドを完全に抜き去ることができない。また、該材料は樹脂封止工程でボイドを抜き去るために低弾性率材料となっているのもかかわらず、該材料を用いた接着フィルムは、硬化反応の進行が速いため、樹脂封止工程前のワイヤボンディング工程での加熱によりフィルム溶融粘度の上昇速度が大きくなるので、樹脂封止工程でボイドを抜くことも困難である。即ち、溶融粘度が大きくなる結果、ボイドの体積を十分には小さくできず、また、樹脂中にボイドを吸収させることができない。更に、これらは、低弾性率材料であるため、ワイヤボンディング工程での接合信頼性に悪い影響を与えるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−163391号公報
【特許文献2】特開平11−12545号公報
【特許文献3】特開2000−154361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ダイアタッチ工程での半導体チップの基板への加熱圧着時にボイドを抜くことができ、したがってダイアタッチ工程において基板上の凹部を埋める性能(以下「ダイアタッチ埋め込み性能」という)に優れると共に、ワイヤボンディング工程および樹脂封止工程で特別な熱管理を必要とせず、半導体装置の製造に用いた場合には信頼性の高い半導体装置を与える接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着用シート、該接着剤組成物を用い、特性安定性及びピックアップ安定性に優れるダイシング・ダイアタッチフィルム、ならびに該接着用シートまたは該ダイシング・ダイアタッチフィルムを使用して製造された半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、接着剤組成物について種々検討したところ、下記の接着剤組成物、接着用シート、ダイシング・ダイアタッチフィルム及び半導体装置により上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は第一に、
(A)カルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム、
(B)重量平均分子量が5000以下である室温で固体状のエポキシ樹脂、および
(C)芳香族ポリアミン化合物
を含む接着剤組成物を提供する。
【0012】
本発明は第二に、基材と、該基材上に設けられた上記接着剤組成物からなる接着剤層とを備えた接着用シートを提供する。なお、該接着剤組成物からなる接着剤層は、基材から剥離した状態でも室温でフィルム形状を保ち、いわゆる接着フィルムに該当する。
【0013】
本発明は第三に、基材とその上に設けられた粘着剤層とを有するダイシングフィルムと、該ダイシングフィルムの粘着剤層上に設けられた上記接着剤組成物からなる接着剤層とを備えたダイシング・ダイアタッチフィルムを提供する。
【0014】
本発明は第四に、上記接着用シートまたは上記ダイシング・ダイアタッチフィルムを使用して製造された半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の接着剤組成物からなる接着フィルムを用いることにより、ダイアタッチフィルム付きの半導体チップを基板に熱圧着するダイアタッチ工程において、容易にかつ十分にボイドを抜くことができる。即ち、該接着剤組成物は優れたダイアタッチ埋め込み性能を有する。また、該接着剤組成物は、加熱硬化により、各種基材に対して高い接着力を有するとともに耐熱性に優れる接着剤硬化物層を与える。更に、該接着剤組成物は、加熱硬化されて、ワイヤボンディング工程において十分な弾性率を有する硬化物を与える。このため、該接着剤組成物を用いることにより、安定性の高いワイヤボンディングを行うことができる。加えて、本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムは、該ダイシング・ダイアタッチフィルム中の接着フィルムの特性安定化が図られているため、半導体装置の製造プロセスで、長期にわたって安定した特性を維持したままで好適に用いることができる。以上から、本発明の接着剤組成物ならびに該接着剤組成物を用いた接着用シートおよびダイシング・ダイアタッチフィルムは信頼性の高い半導体装置を製造するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】埋め込み性能試験におけるシリコンチップの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳しく説明する。なお、本明細書において、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。また、「軟化温度」はJIS K 7234に規定の環球法で測定される値である。
【0018】
本発明の接着剤組成物は、上記(A)〜(E)成分を含み、室温では形状を保つため、例えば、フィルム状薄膜を形成することができ、一方、加熱により可塑状態となり、さらにその状態でダイアタッチを行うことにより優れたダイアタッチ埋め込み性能を発揮する。該組成物を用いて半導体装置を製造した場合、ダイアタッチ工程以後の工程で半導体チップと基材との間にはボイドが存在しない。該組成物の硬化物は、基材に対して高い接着性を有し、かつ、優れた耐熱性を有する。このように、本発明は、背景技術についての説明中で示した第2の方法でボイド形成の問題を解決するものである。
【0019】
以下に各成分を説明する。
【0020】
[(A)カルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム]
(A)成分は、分子中にカルボキシル基を含有するエチレン−アクリルゴムである。このエチレン−アクリルゴムとしては、高圧ラジカル重合により合成されたもの、乳化重合により合成されたもの等が例示されるが、副生成物の発生が少なく、乳化剤等の添加の必要のない高圧ラジカル重合により合成されたものが好ましい。高圧ラジカル重合の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。(A)成分は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(A)成分としては、例えば、エチレン単量体単位とアクリル酸エステル単量体単位およびメタクリル酸エステル単量体単位のいずれか一方または両方とカルボキシル基含有単量体単位とを含む、高圧ラジカル重合により合成されたエチレン−アクリルゴムを用いることができる。アクリル酸エステル単量体単位としては、例えば、アクリル酸メチル単量体単位、アクリル酸エチル単量体単位、アクリル酸ブチル単量体単位等が挙げられる。メタクリル酸エステル単量体単位としては、例えば、メタクリル酸メチル単量体単位、メタクリル酸エチル単量体単位、メタクリル酸ブチル単量体単位等が挙げられる。カルボキシル基含有単量体単位としては、例えば、アクリル酸単量体単位、メタクリル酸単量体単位、マレイン酸単量体単位等が挙げられる。
【0022】
(A)成分はカルボキシル基を有するため、得られる接着剤組成物はダイアタッチ埋め込み性能に優れる。また、(A)成分は、以下に述べる(B)成分のエポキシ樹脂および(C)成分の芳香族ポリアミン化合物との反応を考慮して、1分子中に2個以上のカルボキシル基を含有することがより望ましい。更に、(A)成分中におけるカルボキシル基の割合(即ち、(A)成分100g当たりのカルボキシル基のモル数)は、特に限定されないが、(A)成分100g当たり好ましくは0.001〜0.5モル、より好ましくは0.005〜0.1モルである。この割合が0.001〜0.5モルの範囲を満たすと、第一に、得られる組成物の流動性をコントロールしやすいため該組成物はより良好なダイアタッチ埋め込み性を発揮し、第二に、(A)成分が室温で徐々に(B)成分及び(C)成分のいずれか一方または両方と反応するのを効果的に抑制することができるため、得られる組成物の保存安定性を良好に維持することが容易である。
(A)成分の重量平均分子量は、特に制限されないが、好ましくは50,000〜1,000,000、より好ましくは80,000〜500,000、特に好ましくは100,000〜400,000である。
【0023】
(A)成分の具体的な例としては、商品名で、ベイマックG、ベイマックGXF、ベイマックGLS、ベイマックHVG(いずれもデュポンエラストマー社製、高圧ラジカル重合により合成されたカルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム)等が挙げられる。
【0024】
[(B)重量平均分子量が5000以下である室温で固体状のエポキシ樹脂]
(B)成分は、重量平均分子量が5000以下、好ましくは150〜3000である室温、即ち、通常5〜40℃、特に15〜30℃で固体状のエポキシ樹脂であり、1分子中にエポキシ基を少なくとも2個有するものが好ましい。上記分子量が5000を超えると、(B)成分の(A)成分への溶解および分散のいずれか一方または両方が不十分となり、両成分が分離するおそれがある。(B)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0025】
(B)成分としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン又はそれらのハロゲン化物のジグリシジルエーテル及びこれらの縮重合物(いわゆるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等);ブタジエンジエポキシド;ビニルシクロヘキセンジオキシド;1,2−ジヒドロキシベンゼンのジグリシジルエーテル、レゾルシノールのジグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ジフェニルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)シクロヘキセン等のジグリシジルエーテル;ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート;多価フェノール又は多価アルコールとエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるポリグリシジルエーテル;フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂又はハロゲン化ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシノボラック(即ち、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂);過酸化法によりエポキシ化したエポキシ化ポリオレフィン又はエポキシ化ポリブタジエン;ナフタレン環含有エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(即ち、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂)などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を少なくとも2個有する化合物である。
【0026】
中でも、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂又はその組み合わせが好ましい。これら好ましいエポキシ樹脂を含む接着剤組成物を適用したダイシング・ダイアタッチフィルムにおいては該接着剤組成物からなる接着剤層からダイシングフィルムへの成分の移行が特に少なく、該接着剤組成物はダイアタッチ工程における熱圧着時のダイアタッチ埋め込み性が良好となりやすい。
【0027】
なお、本明細書において「ジシクロペンタジエン骨格」とは、下記式:
【0028】
【化1】


で表される骨格、および、上記式で表される骨格から一部または全部の水素原子を除いた残りの骨格をいう。後者の骨格において、除かれる水素原子の数および位置に制限はない。中でも、上記式で表される骨格が好ましい。
【0029】
また、本発明の特性を損なわない範囲で、(B)成分以外のエポキシ樹脂を(B)成分と組み合わせて用いてもよい。(B)成分以外のエポキシ樹脂としては、例えば、(B)成分に属さない公知のエポキシ樹脂が挙げられ、(B)成分に属さない市販のエポキシ樹脂を使用することができる。(B)成分と組み合わせて用いることができる(B)成分以外のエポキシ樹脂の配合量は、(B)成分100質量部に対して、好ましくは0〜50質量部であり、より好ましくは0〜20質量部である。該配合量が50質量部を超えると、本発明の接着剤組成物のダイアタッチ埋め込み性を損なう場合があるため好ましくない。
【0030】
更に、本発明の接着剤組成物を接着フィルムとして適用する場合、特に、貼り付けるシリコンウェハーが薄いときに、クラックの発生及び反りを防止すべく、上記接着フィルムをより低温及びより低圧で圧着できるように、(B)成分は、室温で固体状であるが、更に、軟化温度が100℃以下であることが好ましい。接着剤組成物中のエポキシ樹脂が室温で液体状であると(即ち、低分子量体を多く含むと)、該接着剤組成物からなる接着フィルムはタックを発現しやすく、また、ダイシングフィルムと該ダイシングフィルム上に積層された前記接着フィルムとを含むダイシング・ダイアタッチフィルムを用いてダイシングを行った後にチップを取り出す(ピックアップする)ことが困難となりやすい。
【0031】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは5〜500質量部であり、より好ましくは10〜200質量部である。上記配合量が5〜500質量部の範囲内であると、得られる接着剤組成物のダイアタッチ埋め込み性が効果的に向上し、該接着剤組成物からなる接着剤層の柔軟性が十分となりやすく、該接着剤組成物から得られる接着剤硬化物層の接着力が特に優れ、前記接着剤層が裏面に付着したチップをダイシングフィルムから容易にピックアップすることができる。
【0032】
[(C)芳香族ポリアミン化合物]
(C)成分の芳香族ポリアミン化合物は、芳香環を有し、かつ、該芳香環に直結した少なくとも2個のアミノ基を有する化合物であり、エポキシ樹脂用硬化剤及び触媒としての機能を有するものである。芳香族ポリアミン化合物は、ダイアタッチ工程における加熱温度を超える融点を有し、ダイアタッチ工程での加熱下では反応性が小さいため、(C)成分を含む組成物では硬化反応が緩やかに進行する。このため、ダイアタッチ工程において該組成物の溶融粘度が加熱硬化により上昇するのを有効に抑えることができる。また、(C)成分の芳香族ポリアミン化合物を含む組成物を加熱硬化させて得られる硬化物は耐熱性に優れる。よって、(C)成分の芳香族ポリアミン化合物を含む本発明組成物は、従来のものと比較して、ダイアタッチ埋め込み性能が改善され、かつ、硬化後の耐熱性に優れたものとなりやすい。特に(C)成分としてジフェニルスルホン骨格を有する芳香族ポリアミン化合物を使用すると、前記ダイアタッチ埋め込み性能は更に改善され、かつ、前記耐熱性は更に優れたものとなりやすい。加えて、(C)成分を含む組成物からなる接着フィルムの保存安定性は、他の硬化剤を用いた接着フィルムと比較して、非常に長期にわたり良好に維持しやすい。(C)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0033】
(C)成分中に存在する芳香環は芳香族炭化水素環であっても芳香族複素環であってもよい。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。芳香族複素環としては、例えば、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環等が挙げられる。
【0034】
本明細書において「ジフェニルスルホン骨格」とは、ジフェニルスルホンから一部または全部の水素原子を除いた残りの骨格をいい、除かれる水素原子の数および位置に制限はない。中でも、下記構造式:
【0035】
【化2】


で示されるジフェニルスルホン骨格が好ましい。
【0036】
(C)成分の具体例としては、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホンなどが挙げられる。これらの中でも、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホンを工業的に好適に用いることができる。これらの芳香族ポリアミン化合物は、エポキシ樹脂硬化剤として公知であり、市販品を使用することができる。
【0037】
(C)成分の配合量は、本発明組成物中の全エポキシ基に対する(C)成分中のアミノ基のモル比が0.2〜2.0となる量であることが好ましく、0.5〜1.5となる量であることが更に好ましい。上記モル比が0.2〜2.0となる量の(C)成分を本発明組成物に配合すると、該組成物は架橋が十分に行われるため、得られる硬化物は、硬化特性が良好となりやすく、接着性および耐半田リフロー性が効果的に向上する。また、(C)成分が該硬化物中に未反応物として残りにくく無駄となりにくいため、省資源化を図りやすく、経済的である。
【0038】
本発明の組成物には(B)成分のエポキシ樹脂以外にも、エポキシ基含有成分(例えば、(E)成分の接着助剤として配合しうるエポキシ基含有シランカップリング剤)を配合することができるので、本発明組成物中の全エポキシ基とは、(B)成分中のエポキシ基と、(B)成分以外のエポキシ基含有成分中のエポキシ基との合計を意味する。本発明組成物中の全エポキシ基に対する(B)成分中のエポキシ基のモル比は好ましくは0.8〜1.0、より好ましくは0.9〜1.0である。ここで、本発明組成物中に(B)成分以外のエポキシ基含有成分が含まれない場合には、(C)成分の配合量は、(B)成分中のエポキシ基に対する(C)成分中のアミノ基のモル比が0.2〜2.0となる量であることが好ましく、0.5〜1.5となる量であることが更に好ましい。
【0039】
(B)及び(C)成分の合計の割合は、(A)〜(C)成分の合計に対して20質量%以上90質量%未満の範囲であることが好ましく、50質量%以上90質量%未満の範囲であることがより好ましい。該割合が20質量%以上90質量%未満の範囲であると、得られる接着剤組成物は、良好な塗工性および十分なダイアタッチ埋め込み性を示しやすく、得られる硬化物は十分な接着力を発現しやすい。
【0040】
[(D)シリカ系無機充填剤]
(D)成分のシリカ系無機充填剤は本発明の接着剤組成物に添加しうる任意成分である。無機充填剤の中でも、(D)成分のシリカ系無機充填剤は汎用であり、工業的に好ましい。(D)成分は、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層の溶融粘度を適度に増加させて、樹脂封止工程におけるチップ流れを抑制し、得られる接着剤硬化物層の吸湿率及び線膨張率を低下させる。(D)成分には特に制限はなく、公知のものを使用することができる。(D)成分は、得られる組成物の流動性の点から、オルガノアルコキシシラン、オルガノクロロシラン、オルガノシラザン、低分子量シロキサン等の有機ケイ素化合物などで表面処理されたものが好ましい。(D)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0041】
(D)成分の平均粒径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。該平均粒径が10μm以下であると、本発明の接着剤組成物からなる接着フィルムは表面の平滑性を維持しやすい。また、(D)成分の最大粒径は20μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、レーザー光回折法を用いた粒度分布測定装置により求めた累積分布の50%に相当する体積基準の平均粒径をいう。また、「最大粒径」とは、上記で平均粒径を求めたときに測定された累積分布における粒径の最大値である。
【0042】
(D)成分としては、例えば、シリカ微粉末が挙げられ、具体的には、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ等の補強性シリカ;石英等の結晶性シリカが挙げられる。より具体的には、日本アエロジル社製のAerosil R972、R974、R976;(株)アドマテックス社製のSE−2050、SC−2050、SE−1050、SO−E1、SO−C1、SO−E2、SO−C2、SO−E3、SO−C3、SO−E5、SO−C5;信越化学工業社製のMusil120A、Musil130Aなどが例示され、これらの混合物であってもよい。
【0043】
(D)成分を使用する場合、その配合量は、組成物総質量に対して好ましくは5〜80質量%、特に好ましくは10〜60質量%である。上記配合量が5〜80質量%の範囲であると、得られる接着剤硬化物層の吸湿率及び線膨張率を効果的に低下させることができ、また、該接着剤硬化物層の弾性率が上昇しすぎるのを容易に抑制することができる。
【0044】
[(E)接着助剤]
本発明の接着剤組成物には、得られる接着剤硬化物層の接着性を向上させるために、(E)成分の接着助剤を添加してもよい。(E)成分には特に制限はなく、公知の接着助剤を使用することができる。(E)成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。(E)成分としては、例えば、ケイ素を含むカップリング剤(シランカップリング剤)を使用することができる。
【0045】
(E)成分の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤;アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤等のシランカップリング剤が挙げられる。商品名で表すと(E)成分の具体例としては、信越化学工業社製のKBM−403、KBM−402、KBM−803、KBM−802、KBM−903、KBM−902、KBM−503、KBM5103もしくはX−12−414またはこれらの部分加水分解物等が挙げられる。
【0046】
(E)成分を使用する場合、その配合量は、使用する硬化剤の種類等によって異なるが、組成物総質量に対して好ましくは0.2〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%程度である。
【0047】
[その他の成分]
本発明の接着剤組成物には、上記(A)〜(E)成分に加えて、該組成物の特性を損なわない程度にその他の成分を配合してよい。その他の成分としては、例えば、(C)成分以外のエポキシ樹脂用硬化剤及び触媒;(D)成分以外の無機充填剤;有機充填剤;顔料、染料等の着色剤;濡れ向上剤;酸化防止剤;熱安定剤;溶媒等が挙げられる。その他の成分は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0048】
・(C)成分以外のエポキシ樹脂用硬化剤及び触媒
(C)成分以外のエポキシ樹脂用硬化剤及び触媒としては、例えば、エポキシ樹脂用硬化剤または触媒として公知のフェノール系化合物が挙げられる。(C)成分以外のエポキシ樹脂用硬化剤及び触媒の量は、(C)成分の芳香族ポリアミン化合物の効果を妨げない程度である。
【0049】
・(D)成分以外の無機充填剤
(D)成分以外の無機充填剤としては、例えば、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック、導電性粒子等が挙げられる。
【0050】
・溶媒
本発明の組成物には、各成分の混合のしやすさ、得られる組成物の塗布のしやすさ等の観点から、溶媒を添加してもよい。溶媒は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、N-メチルピロリドン(NMP)などの非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0051】
[接着剤組成物の調製]
本発明の接着剤組成物は、上記(A)〜(E)成分および所望によりその他の成分を慣用の混合手段により室温で混合することにより調製することができる。
【0052】
[接着剤組成物の用途]
本発明の接着剤組成物は、例えば、2つの被着体を接着するのに用いることができる。これらの被着体は特に限定されないが、一方の被着体としては、例えば、シリコンチップ、ガラス、セラミック等が挙げられ、他方の被着体としては、例えば、BT基板等の樹脂基板;金、銀、銅、ニッケル等からなるリードフレーム基板;シリコン基板が挙げられる。
【0053】
例えば、本発明の接着剤組成物を溶媒に適当な濃度で溶解して一方の被着体上に塗布し、乾燥させた後、該接着剤組成物が塗布された該被着体表面に他方の被着体を圧着し、該接着剤組成物を加熱硬化させることで、これら2つの被着体を接着することができる。溶媒の例は上記と同様である。乾燥は、室温〜200℃、特に50〜150℃で1分〜1時間、特に1〜10分間行うことが好ましい。圧着は0.01〜5MPa、特に0.01〜1MPaの圧力で70〜150℃、特に90〜140℃の温度にて行うことが好ましい。加熱硬化は、100〜200℃、特に110〜150℃の温度で30分〜8時間、特に1〜3時間行うことが好ましい。
【0054】
・接着用シート
また、本発明の接着剤組成物は、フィルム状に成形された状態で2つの被着体を接着するのに用いることもできる。例えば、基材と、該基材上に設けられた本発明の接着剤組成物からなる接着剤層とを備えた接着用シートを用いて、前記2つの被着体を接着することもできる。より具体的には、例えば、該接着用シートから該接着剤層を剥離し、その接着剤層を2つの被着体間に層状に挟んで圧着し加熱硬化させることで、該2つの被着体を接着することもできる。圧着および加熱硬化の条件は上記と同様である。
【0055】
前記接着用シートは、本発明の接着剤組成物を溶媒に前記と同様に適当な濃度で溶解して基材上に塗布し乾燥させて、接着剤層を形成させることにより得ることができる。溶媒の例および乾燥の条件は上記と同様である。接着剤層の膜厚は、特に制限がなく、目的に応じ選択することができるが、10〜100μmであることが好ましく、特に15〜50μmであることが好ましい。前記基材は、通常、フィルム状であり、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、紙、金属箔等の基材、または表面を離型処理した前記基材を用いることができる。前記基材の厚さは、好ましくは10〜100μm、より好ましくは25〜50μmである。
【0056】
半導体装置製造の分野においては、接着剤組成物からなる接着剤層(接着フィルム)は、シリコンチップを基板に接着するいわゆるダイアタッチフィルムとして使用することができる。該接着フィルムを用いてシリコンチップを基板にダイアタッチした後、ワイヤボンディング工程および封止工程を経て半導体装置を製造する場合、ダイアタッチ工程で埋め込みされなかった部分がその後もボイドとして残存すると、得られる半導体装置は信頼性の低いものになってしまう。したがって、上記のとおりにして製造される半導体装置が信頼性を有するためには、上記ダイアタッチ工程で十分に埋め込みがなされてボイドが残存せず、更に、以後の熱履歴のかかる工程を経ても接着フィルムの内部および該接着フィルムに隣接する領域でボイドが発生も拡大もしないことが必要である。ここで、接着フィルムは、ダイアタッチ後にボイドが発生も拡大もしない条件で半硬化ないし完全硬化がなされ、その後、ワイヤボンディング工程の条件下で加熱がなされることが必要である。十分なダイアタッチ埋め込み性が発現するためのダイアタッチ条件は、例えば、0.01〜5MPa、特に0.01〜1MPaの圧力で100〜150℃、特に110〜140℃の温度にて0.1秒〜10秒、特に0.1〜1秒である。接着フィルムの半硬化ないし完全硬化の条件は特に定められたものではないが、一般に、100〜200℃、特に110〜150℃の温度で30分〜8時間、特に1〜3時間である。ワイヤボンディング工程での加熱条件は種々あるが、一般的に170℃で30分以上である。
【0057】
・ダイシング・ダイアタッチフィルム
本発明の接着剤組成物は、本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムに用いることができる。即ち、本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムは、基材とその上に設けられた粘着剤層とを有するダイシングフィルムと、該ダイシングフィルムの粘着剤層上に設けられた本発明の接着剤組成物からなる接着剤層とを備えたダイシング・ダイアタッチフィルムである。
【0058】
本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムで使用するダイシングフィルムは、ベースとなるフィルム状の基材と粘着剤層の少なくとも2層からなるものであることが好ましい。
【0059】
前記基材は一般にダイシングフィルムにおいて用いられているものであれば特に制限されない。該基材としては、例えば、(I)ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、アイオノマー等のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体、(II)ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等のエンジニアリングプラスチック、(III)ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテン系共重合体、スチレン−エチレン−ペンテン系共重合体等の熱可塑性エラストマー、等の合成樹脂などを用いることができる。
【0060】
前記基材の厚みは、60〜200μmであることが好ましい。該基材の厚みが60〜200μmの範囲内であると、接着剤層からダイシングフィルムへのエポキシ樹脂の移行量が抑制される傾向があるため接着剤層の特性を維持しやすく、また、ダイシングフィルムにウェハーをマウントする作業が容易であり、更に、ダイシング時の切削熱によって該基材がチャックテーブルに融着するのを効果的に防ぐことができる。
【0061】
粘着剤層は、前記基材の少なくとも一方の面に設けられていればよい。前記粘着剤層を形成する粘着剤は、本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムを用いてウェハーをダイシングして個片化したチップを、該チップの裏面に接着フィルムが付着したまま、ダイシングフィルムから良好にピックアップすることができるものであれば特に限定されず、通常のダイシングテープとして使用されている、感圧型の粘着剤、紫外線(UV)硬化型の粘着剤を使用することができる。より具体的には、粘着剤としては、例えば、ゴム系、アクリル系、ウレタン系、またはシリコーン系の感圧型粘着剤等が挙げられる。好ましくは、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤が使用される。粘着剤層の厚さは、1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは5〜10μmである。粘着剤層は、ダイシング工程においてチップ飛びが生じない程度に基材との粘着性が強いことが好ましく、接着剤層との間の180度剥離力が0.01〜0.7N/25mmであることが好ましく、0.1〜0.4N/25mmであることがより好ましい。
【0062】
本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムは、例えば、ダイシングフィルムの粘着剤層上に本発明の接着用シート中の接着剤層を積層することにより製造することができる。また、本発明の接着剤組成物を溶媒に前記と同様の適当な濃度で溶解してダイシングフィルムの粘着剤層上に塗布し乾燥させて、接着剤層を形成させることにより得ることもできる。溶媒の例、乾燥の条件、および接着剤層の膜厚は上記と同様である。
【0063】
・半導体装置
常法に従い、本発明の接着用シートまたは本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムを使用して半導体装置を製造することができる。このようにして得られる半導体装置は、優れた信頼性を有する。
【0064】
また、本発明の接着剤組成物は、半導体装置などの電子部品の製造においてだけでなく、接着工程を含む種々の製品の製造、例えば、LED部品、センサー、液晶部品などの製造においても用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
[接着剤組成物の調製]
下記(A)〜(E)成分およびその他の成分を表1に示す量(各成分の固形分(不揮発分)の量であり、単位は質量部)で自転・公転方式の混合機((株)シンキー社製)に仕込み、更に、これら成分の合計の固形分濃度が20質量%となるようにメチルエチルケトン、トルエンまたはシクロヘキサノンを加え、混合して、接着剤組成物を調製した。
【0067】
(A)成分のエチレン−アクリルゴム
・VAMAC G:高圧ラジカル重合により合成されたカルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム(デュポンエラストマー社製)、0.056モル/100gのカルボキシル基を含有
(A)成分以外のエチレン−アクリルゴム
・VAMAC DP:カルボキシル基を有していないエチレン−アクリルゴム(デュポンエラストマー社製)
エチレン−アクリルゴム以外の(メタ)アクリル系樹脂
・SG−P3:エポキシ基を有する、エチレン−アクリルゴム以外の(メタ)アクリル系樹脂(ナガセケムテックス社製)
【0068】
(B)成分のエポキシ樹脂
・HP7200:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(大日本インキ社製)、重量平均分子量5000以下、室温で固体状、軟化温度=62℃
・EOCN−1020:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製)、重量平均分子量5000以下、室温で固体状、軟化温度=55℃
(B)成分以外のエポキシ樹脂
・RE−310S:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製)、室温で液体状
【0069】
(C)成分の芳香族ポリアミン化合物
・3,3'−DDS:3,3'−ジアミノジフェニルスルホン(小西化学社製)、ジフェニルスルホン骨格を有する芳香族ポリアミン化合物
・4,4'−DDS:4,4'−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化社製)、ジフェニルスルホン骨格を有する芳香族ポリアミン化合物
・DDM:4,4'−ジアミノジフェニルメタン(和歌山精化社製)、ジフェニルスルホン骨格を有していない芳香族ポリアミン化合物
【0070】
(D)成分のシリカ系無機充填剤
・シリカ粒子:SC−2050(アドマテックス社製)、球状シリカ、平均粒径0.5μm
【0071】
(E)成分の接着助剤
・シランカップリング剤:X−12−414(信越化学工業社製)、メルカプト系シランカップリング剤
【0072】
[接着用シートの作製]
次いで、接着剤組成物をフッ素系シリコーン離型剤がコーティングされた厚さ50μmのPETフィルム上に塗布し、110℃で10分間加熱乾燥し、厚さ約25μmの接着剤層を備えた接着用シートを作製した。
【0073】
[試験]
得られた接着用シートについて、下記試験を行なった。結果を表1に示す。
【0074】
(1)初期の接着性
直径8インチ、厚さ725μmのシリコンウェハーを3mm×3mmのチップにダイシングし、こうしてダイシングされたウェハーの裏面に、接着剤層が接触するように接着用シートを100℃で熱圧着した。ついで、接着用シートをチップと同様の形状に切って、接着用シートが付いたシリコンチップを取りだした。このシリコンチップからPETフィルムを剥離させて接着剤層付きシリコンチップを得た。次いで、ソルダーレジストAUS308((株)太陽インキ社製)が塗布硬化された10mm×10mmのBT基板またはシリコン基板上に、得られた接着剤層付きシリコンチップを、接着剤層が付着した面が接触するように載せ、170℃、0.1MPaの条件で2秒間熱圧着して固定させた。このようにしてシリコンチップが固定された基板を175℃で6時間加熱して接着剤層を硬化させて試験片(接着試験片)を作製した。この接着試験片を用いて、ボンドテスター(DAGE社製、4000PXY)により、260℃において接着剤硬化物層と基板との間のせん断接着力を測定した。
【0075】
(2)湿熱後の接着性試験
上記(1)の接着試験片を85℃/60%RHの条件下で168時間保持し、次いで260℃のリフロー炉に3回通した後、上記(1)と同様に260℃においてせん断接着力を測定した。
【0076】
(3)ダイアタッチ埋め込み性能
直径8インチ、厚さ75μmのシリコンウェハーの一方の面に、接着剤層が接触するように接着用シート(接着剤層の膜厚:25μm)を70℃で熱圧着した。熱圧着した接着用シートからPETフィルムを剥がして得た接着剤層付きウェハーの接着剤層面に、感圧ダイシングフィルムを、該感圧ダイシングフィルムの粘着剤層が接触するように貼り付けた。このシリコンウェハーを、下記ダイシング条件にて、9mm角のチップにダイシングした。次いで、こうして得られた9mm角のシリコンチップを裏面に接着剤層が付いたまま前記感圧ダイシングフィルムの粘着剤層から剥離させた。このシリコンチップを、NECマシナリー社製のダイボンダー装置(BESTEM−D02−TypeB)により、5〜15μm幅のストライプ状回路パターンが形成された50mm×50mm×厚さ250μmの樹脂基板(ソルダーレジストAUS308が塗布硬化されたBT基板)上に接着剤層が接触するように配置し、130℃、0.1MPaの条件で1秒間熱圧着した。この点を図1(埋め込み性能試験におけるシリコンチップの配置を示す図である。)に基づいて具体的に説明すると、1辺9mmの正方形のシリコンチップ1を1辺50mmの正方形の樹脂基板2上に3mmの間隔で4行4列に16個配置し、最も外側に配置されたシリコンチップ1と樹脂基板2の外縁との間隔を2.5mmとした。このようにしてシリコンチップが熱圧着された樹脂基板を超音波画像測定装置で観察して、該シリコンチップと該樹脂基板との間の領域におけるボイドの有無を調べた(初期ダイアタッチ埋め込み性能)。
【0077】
接着剤層の加熱硬化中に相分離、発ガス等のいずれによってもボイドが発生していないことを確認するために、以下の観察を行った。即ち、上記のようにしてシリコンチップが熱圧着された樹脂基板を130℃で120分加熱して接着剤層を硬化させ、更に該基板をワイヤボンディング工程での加熱温度に相当する170℃で120分加熱した後、超音波画像測定装置で観察して、該シリコンチップと該樹脂基板との間の領域におけるボイドの有無を調べた(加熱後ダイアタッチ埋め込み性能)。
【0078】
超音波画像測定装置での上記観察によりにボイドが確認されなかった場合、ダイアタッチ埋め込み性能が十分であると評価した。一方、超音波画像測定装置での上記観察によりボイドが確認された場合、ダイアタッチ埋め込み性能が不十分であると評価した。表1で、「○」は埋め込み性能が十分であったことを、「×」は埋め込み性能が不十分であったことを表す。
【0079】
(4)パッケージの信頼性
上記(3)で加熱後ダイアタッチ埋め込み性の試験のために超音波画像測定装置による観察に用いられたのと同様の樹脂基板を該基板表面から600μmの厚さでモールド材KMC2500LM1B(信越化学工業社製)により樹脂封止(175℃、封止圧力6.9MPa、90秒間)し、該モールド材を175℃で4時間加熱硬化させた。このようにして樹脂封止されたシリコンチップを切断して個片化し、得られたパッケージ合計16個を85℃/60%RHの条件下で168時間保持し、次いで最高到達温度260℃の半田リフロー炉に3回通した後、超音波画像測定装置によりシリコンチップと基板との間の剥離の有無を観察した。表1で、「○」は16個のパッケージいずれでも剥離が観察されなかったことを表し、「×」は16個のパッケージ中1個でも剥離が観察されたことを表す。
【0080】
ダイシング条件:
ダイシング装置:DAD−341(ディスコ社製)
切断方式:シングルカット
スピンドル回転数:40000rpm
ダイシングブレード:NBC−ZH 104F 27HEEE(ディスコ社製)
送り速度:50mm/sec
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示すように、高圧ラジカル重合により合成されたカルボキシル基含有エチレン−アクリルゴムを用いた本発明の組成物(実施例1〜4)は、カルボキシル基を有していないエチレン−アクリルゴムを用いた比較例1及び2の組成物ならびにエチレン−アクリルゴム以外の(メタ)アクリル系樹脂を用いた比較例3の組成物に比べて、ダイアタッチ埋め込み性能に優れ、また、液体状のエポキシ樹脂を用いた比較例4の組成物に比べて、加熱後ダイアタッチ埋め込み性能に優れる。更に、本発明の組成物から得られる接着剤硬化物層を含むパッケージは、比較例1〜4の各組成物から得られる接着剤硬化物層を含むパッケージと異なり、ボイドを含まないので、吸湿下でのパッケージ信頼性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の接着剤組成物はダイアタッチ埋め込み性能に優れ、加熱硬化により、各種基材に対して高い接着力を有するとともに耐熱性に優れる接着剤硬化物層を与える。また、該接着剤組成物は、加熱硬化されて、ワイヤボンディング工程において十分な弾性率を有する硬化物を与えるので、該接着剤組成物を用いることにより、安定性の高いワイヤボンディングを行うことができる。さらに、本発明のダイシング・ダイアタッチフィルムは、長期に保管した後であっても、特性安定性に優れる。よって、本発明の接着剤組成物ならびに該接着剤組成物を用いた接着用シートおよびダイシング・ダイアタッチフィルムは信頼性の高い半導体装置を製造するのに有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 シリコンチップ
2 樹脂基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル基含有エチレン−アクリルゴム、
(B)重量平均分子量が5000以下である室温で固体状のエポキシ樹脂、および
(C)芳香族ポリアミン化合物
を含む接着剤組成物。
【請求項2】
(A)成分が、高圧ラジカル重合により合成されたカルボキシル基含有エチレン−アクリルゴムである請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
(C)成分がジフェニルスルホン骨格を有する芳香族ポリアミン化合物である請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
(C)成分が4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、またはこれらの組み合わせである請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
(B)及び(C)成分の合計の割合が(A)〜(C)成分の合計に対して20質量%以上90質量%未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
更に(D)シリカ系無機充填剤を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
更に(E)接着助剤を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
フィルム状に成形された請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
基材と、該基材上に設けられた請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを備えた接着用シート。
【請求項10】
基材とその上に設けられた粘着剤層とを有するダイシングフィルムと、該ダイシングフィルムの粘着剤層上に設けられた請求項1〜7のいずれか1項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを備えたダイシング・ダイアタッチフィルム。
【請求項11】
請求項9に記載の接着用シートまたは請求項10に記載のダイシング・ダイアタッチフィルムを使用して製造された半導体装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105779(P2011−105779A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258820(P2009−258820)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】