説明

携帯型装置

【課題】ユーザに機器側からの情報を提示するにあたって、ユーザがそれを直感的に理解しうるように構成された携帯型装置を提供する。
【解決手段】ユーザが把持可能な筐体2に設けられてユーザに入力操作を行わせるための入力手段5と、入力手段5からの入力操作情報が入力される制御手段10を備える携帯型装置1であって、筐体2を把持しているユーザに対し、筐体2の正面2aの横方向及び法線方向の少なくとも一の方向への並進力の力覚を付与するよう動作する力覚発生手段20A,20Bをさらに備え、制御手段10は、入力操作情報に基づいて力覚発生手段20A,20Bを駆動し、筐体2を把持しているユーザに対し、上述の少なくとも一の方向のうち一側及び他側への並進力を交互に付与するよう構成される。これにより、筐体2を把持しているユーザには入力操作情報に対する肯定的な応答情報及び否定的な応答情報の少なくとも一方が力覚に訴えて提示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯インクジェットプリンタ、携帯電話固定電話の子機、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ゲーム機、携帯音楽プレイヤー、据置型ゲーム機やテレビの操作器等のように、ユーザが携帯可能な携帯型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような携帯型装置は液晶パネル等の表示装置やスピーカを備え、これらデバイスにより視覚や聴覚に訴えてユーザに各種の情報を提示することができる。また、筐体に並進力が発生しているとの擬似力覚をユーザに付与するよう動作する装置を利用し、力覚に訴えてユーザに情報を提示することも提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2008−28774号公報
【特許文献2】特開2006−65665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように視聴覚のみによらず力覚に訴えてユーザに情報を提示することは、ユーザがより直感的にその情報を理解できるようになるため、特に電子機器の取扱いに不慣れなユーザにとっては有益なものとなる。このようなことから、近年、ユーザに直感的に機器側からの情報を提示する手法や、及びそのような情報を的確に提示するよう構成された携帯型装置の提供が求められている。
【0004】
そこで、本発明は、ユーザに機器側からの情報を提示するにあたって、ユーザがそれを直感的に理解しうるように構成された携帯型装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係る携帯型装置は、ユーザが把持可能な筐体と、前記筐体に設けられてユーザに入力操作を行わせるための入力手段と、前記入力手段からの入力操作情報が入力される制御手段とを備える携帯型装置であって、前記筐体を把持しているユーザに対し、前記筐体の正面の横方向及び法線方向の少なくとも一の方向への並進力の力覚を付与するよう動作する力覚発生手段をさらに備え、前記制御手段は、前記入力操作情報に基づいて前記力覚発生手段を駆動し、前記筐体を把持しているユーザに対し、前記少なくとも一の方向のうち一側及び他側への並進力を交互に付与するよう構成され、前記筐体を把持しているユーザに、前記入力操作情報に対する肯定的な応答情報及び否定的な応答情報の少なくとも一方を力覚に訴えて提示することを特徴としている。
【0006】
このような構成とすることにより、力覚発生手段を利用して、入力操作に対する装置側の応答情報を力覚に訴えて提示することができ、自身が行った入力操作に対する機器側の判断を直感的に理解することができるようになる。なお、前記正面はユーザの使用状態において該ユーザが対面する面であり、前記横方向は前記ユーザからみて左右方向であってもよい。このような構成とすることにより、ユーザは、肯定的な応答情報及び否定的な応答情報と力覚発生手段により付与される力覚の方向との関連付けを間違うことなく、認識することができる。
【0007】
前記筐体の前記正面には、表示装置が設けられていてもよい。このような構成とすることにより、ユーザは筐体の正面と対面するように促されることとなり、肯定的な応答情報及び否定的な応答情報と力覚発生手段により付与される力覚の方向との関連付けを、より一層間違いにくくなる。
【0008】
前記力覚発生手段は、前記少なくとも一の方向に往復移動可能な錘を備え、前記錘に発生する正の加速度の絶対値と負の加速度の絶対値とを異ならせて前記錘を往復運動させることにより前記ユーザに対して、前記少なくとも一の方向のうち一側及び他側への並進力の擬似力覚を選択的に付与する構成であってもよい。このような構成とすることにより、並進力をその向きを交互に変えながら付与する場合において、このような擬似力覚を付与する力覚発生手段を採用することによって錘の質量を小さくすることが可能となり、力覚発生手段を小型化することができる。
【0009】
前記力覚発生手段が前記筐体の正面の横方向及び法線方向の両方への並進力の力覚を個別に付与するよう構成されていてもよい。このような構成とすることにより、これにより、肯定的な応答情報と否定的な応答情報を状況に応じて選択的にユーザに力覚に訴えて提示することができる。
【0010】
前記制御手段は、前記入力操作情報に対して肯定的な応答情報をユーザに提示するときには、前記正面の法線方向の一側及び他側への並進力がユーザに交互に付与されるよう前記力覚発生手段を駆動し、前記入力操作情報に対して否定的な応答情報をユーザに提示するときには、前記正面の横方向の一側及び他側への並進力がユーザに交互に付与されるよう前記力覚発生手段を駆動する構成であってもよい。このような構成とすることにより、肯定的な応答情報を提示するときには、筐体が手間側及び奥側へと傾動するような力覚が付与され、頷くような動きを筐体が行っているとユーザに印象付けることができる。否定的な応答情報を提示するときには、筐体が左右に傾動するような力覚が付与され、首を左右に振らせるかのような動きを筐体が行っているとユーザに印象付けることができる。このように、肯定的な応答情報及び否定的な応答情報の両方がユーザに直感的に提示されることとなる。
【0011】
前記力覚発生手段がユーザの使用状態において該ユーザから見て前記筐体の上部に配置されていてもよい。このような構成とすることにより、使用状態にある肯定的な応答情報又は否定的な応答情報を提示するにあたって、頷いたり首を振っているかのような動きを筐体が行っているとユーザに印象付け易くなる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、ユーザに機器側からの情報を提示するにあたり、ユーザにその情報を直感的に理解させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は本発明に係る携帯型装置の実施形態として例示する携帯電話1の正面図である。図1に示すように、携帯電話1は略直方体状の筐体2を備えており、筐体2の内部空間3には、筐体2を把持しているユーザに力覚を付与するよう動作する2つの力覚発生装置20A,20B(力覚発生手段)が設けられている。
【0015】
以下の説明では、特に断らない限り、ユーザがこの携帯電話1を使用している状態において該ユーザから見た方向を基準にしている。なお、この「使用状態」とは、例えばマニュアルなどで推奨される正規の姿勢で使用している状態のことをいう。
【0016】
筐体2の正面2aの上部には液晶パネル等の表示装置4が設けられ、正面2aの下部には入力操作用の多数のプッシュボタンが設けられている。正面2aの上端部にはスピーカ6が設けられており、正面2aの下端部にはマイクロフォン7が設けられている。携帯電話1の使用状態においてユーザは、視覚に訴えて各種多様な情報を提示するデバイスとして機能する表示装置4と対峙するよう図示している正面2aを自身に向け、さらに、表示装置4が自身の手で隠れることがないよう、また入力操作用のプッシュボタン5を押下しやすくするように、筐体2の下部を把持することが一般的である。
【0017】
図2は図1に示す携帯電話の構成を機能的に示すブロック図である。図2に示すように、筐体2の内部空間3には、携帯電話1の動作を統括的に制御する主制御部10が設けられている。主制御部10は表示装置4と接続されており、表示装置4に適宜画像情報を表示させることができる。主制御部10はプッシュボタン5と接続されており、プッシュボタン5が押下されると操作信号が入力される構成となっている。
【0018】
主制御部10はスピーカ6及びマイクロフォン7と接続されているとともに、送受信部11を介してアンテナ8と接続されている。通話時には、送受信部11はアンテナ8を介して受信した基地局からの受信周波数信号を復調して主制御部10に出力し、主制御部10は送受信部11からの信号を処理してスピーカ6に出力する。他方、主制御部10はマイクロフォン7からの音声信号を処理して送受信部11に出力し、送受信部11は主制御部10からの信号を変調したのち送信高周波信号に変換してアンテナ8に送信する。また、主制御部10には、各種情報を記憶するメモリ12と、電源となるバッテリ13とが接続されている。
【0019】
さらに、主制御部10は力覚発生装置20A,20Bの力覚コントローラ23に接続されており、主制御部10は力覚コントローラ23に指令を与えることによって、ユーザに所定の作用方向への力覚が付与されるよう力覚発生装置20A,20Bの動作を制御する。
【0020】
次に、力覚発生装置20A,20Bの構成について説明する。図3は図1に示す携帯電話1の内部構造の要部を示す模式的断面図、図4は図3に示すIV−IV線に沿って切断して示す携帯電話1の模式的断面図である。図3及び図4に示すように、筐体2の内部空間には2つの力覚発生装置20A,20Bが配設されている。各力覚発生装置20A,20Bは、筐体2の内部空間3に配設された並進運動機構21A,21Bと、並進運動機構21A,21Bを駆動するアクチュエータ22A,22Bと、アクチュエータ22A,22Bの動作を制御する力覚コントローラ23(図2参照)とを備えている。このように力覚コントローラ23(図2参照)は単一であり、2つの力覚発生装置20A,20Bに共通のものとして設けられている。
【0021】
これに対して、並進運動機構21A,21B及びアクチュエータ22A,22Bは、各力覚発生装置20A,20Bに個別対応して設けられている。一方の力覚発生装置20Aを構成する並進運動機構21A及びアクチュエータ22Aは、筐体2の内部空間3を区画する内上面2bに取り付けられており、他方の力覚発生装置20Bを構成する並進運動機構21B及びアクチュエータ22Bは筐体2の内部空間3を区画する内側面2cに取り付けられている。以下、前者に係る構成要素には適宜「第1」を付加し、後者に係る構成要素には適宜「第2」を付加して説明するものとする。
【0022】
図3に示すように、第1並進運動機構21Aには、内上面2bに取り付けられて横方向に延在する第1ガイドレール24Aが設けられている。第1ガイドレール24Aには第1錘25Aが回転不能且つスライド可能に支持されており、第1錘25Aは筐体2の内部空間3のうち上方領域において、横方向に往復移動可能になっている。第1錘25Aには雌ネジ孔26Aが貫通形成されており、第1錘25Aが第1ガイドレール24Aに支持された状態において雌ネジ孔26Aの軸は横方向に向けられる。この雌ネジ孔26Aには外面に雄ネジが切られた第1ボールネジ27Aが螺入されており、第1ボールネジ27Aは筐体2内に取り付けられた軸受28Aによって回転可能に支持され、回転軸方向には直動不能になっている。
【0023】
第1アクチュエータ22Aは、例えばサーボモータやリニアモータなどの電動モータによって構成されている。第1アクチュエータ22Aには正逆回転可能な出力軸29Aが設けられており、出力軸29Aは継手30Aを介して第1ボールネジ27Aの端部に連結されている。この第1アクチュエータ22Aが駆動されると、出力軸29Aが回転して出力軸29Aからの回転駆動力が第1ボールネジ27Aに入力され、第1ボールネジ27Aが所定方向に回転駆動される。直動不能である第1ボールネジ27Aが回転すると、この第1ボールネジ27Aの回転方向と弦巻方向に従って回転不能である第1錘25Aが第1ガイドレール24Aの延在方向のうち何れかの側に向けて直動する。
【0024】
図4に示すように、第2並進運動機構21Bも第1並進運動機構21Aとほぼ同様の構成となっている。て第2ガイドレール24Bは、内上面2cの上部に奥行方向に延在するよう取り付けられており、この第2ガイドレール24Bに支持されている第2錘25Bは、筐体2の内部空間のうち上方領域を奥行方向に往復移動可能になっている。第2錘25Bに形成された雌ネジ孔26Bには第2ボールネジ27Bが螺入されており、第2ボールネジ27Bは軸受28Bによって回転可能に支持され、回転軸方向である奥行方向には直動不能となっている。なお、携帯電話1の筐体2においては奥行方向(すなわち厚さ方向)の寸法が比較的小さくなっているため、横方向に延在する第1力覚発生装置20Aと同じようにして第2アクチュエータ22Bと第2ボールネジ27Bとを同軸上に配置することが比較的困難である。
【0025】
このため、第2アクチュエータ22Bは、第2並進運動機構21Bに対して左側にオフセットしており、第2アクチュエータ22Bの出力軸29Bは第2アクチュエータ22Bの本体部分から奥側に向けて突出している。この出力軸29Bと第2ボールネジ27Bの奥側端部との間には、平行ギヤ列30Bが介在している。この平行ギヤ列30Bは、出力軸29Bに固定されたドライブギヤ31と、第2ボールネジ27Bに固定されたドリブンギヤ32とを備え、これら2つのギヤ31,32は互いに噛合している。第2アクチュエータ22Bが駆動されると出力軸29Bが回転し、出力軸29Bの回転駆動力が平行ギヤ列30Bを介して第2ボールネジ27Bに伝達される。直動不能である第2ボールネジ27Bが回転すると、第2ボールネジ27Bの回転方向及び弦巻方向に従って回転不能である第2錘25Bが奥行方向のいずれか一側に向けて直動する。
【0026】
図2に戻ると、力覚コントローラ23はドライバ39A,39Bを介してアクチュエータ22A,22Bに接続されており、ドライバ39A,39Bに制御指令を出力してアクチュエータ22A,22Bの出力軸29A,29Bの回転方向、回転速度及び回転加速度を制御する。これにより、図3及び図4に示す並進運動機構21A,21Bのボールネジ27A,27Bの回転方向、回転速度及び回転加速度が制御され、さらには錘25A,25Bの位置、移動方向、速度、加速度が制御されることとなる。
【0027】
次に、力覚発生装置20A,20Bの基本動作について、第1力覚発生装置20Aの第1錘25Aの動作に着目して説明する。この説明の便宜上、第1錘25Aが往復移動する方向を図面に従って「横方向」とし、第1錘25Aが右側へ移動するときの速度を正、その逆側を負としており、第1錘25Aに発生する加速度やこの加速度に基づいて作用する力に関しても、左右と正負の関係をこれに準ずるものとしている。
【0028】
図5は図3に示す第1力覚発生装置20Aの基本動作を説明するタイミングチャートである。初期状態では、第1錘25Aが可動範囲の左端に位置して第1錘25Aの速度Vが0であると仮定する。図3に示すように、この初期状態から第1錘25Aが右向きに直動するときには、正の加速度a1が第1錘25Aに発生して第1錘25Aの速度Vが正側に加速する。この第1錘25Aの移動開始から所定時間t1が経過すると第1錘25Aが所定位置x1(図5の例示では可動範囲の中央位置)に達し、その後負の加速度a2が第1錘25Aに発生して第1錘25Aの速度Vが減速していく。加速度aが負に転じてから所定時間t2が経過すると、第1錘25Aの速度Vが0となって第1錘25Aは可動範囲の右端に位置する。引き続き第1錘25Aには負の加速度a2が発生し、第1錘25Aはその速度Vを負側に加速させながら左向きに移動する。第1錘25Aの移動方向が左向きに転じてから所定時間t3が経過すると第1錘25Aが上記の所定位置x1に達し、その後正の加速度a1が第1錘25Aに発生して第1錘25Aの速度Vが減速していく。加速度aが正に転じてから所定時間t4が経過すると、第1錘25Aの速度Vが0となって第1錘25Aは可動範囲の左端に戻る。力覚発生装置20Aはこの一連の第1錘25Aの往復移動が継続して行われるよう構成されている。
【0029】
図6は図3に示す第1力覚発生装置20Aの基本動作の説明図であり、(a)が第1錘25Aに正の加速度a1が発生している状態(図5に示す時間t1,t4参照)、(b)が第1錘25Aに負の加速度a2が発生している状態(図5に示す時間t2,t3参照)を夫々示している。図6(a)に示すように、第1錘25Aに正の加速度a1が発生している状態では、筐体2にはその反作用で負(左向き)の力F1が発生し、筐体2を把持しているユーザの掌にはこの力F1に応じた左向きの並進力が筐体2より作用する。図6(b)に示すように、第1錘25Aに負の加速度a2が発生している状態では筐体2には正(右向き)の力F2が発生し、筐体2を把持しているユーザの掌にはこの力F2に応じた右向きの並進力が筐体2より作用する。図6(a)及び(b)に示す各力F1,F2は、第1錘25Aの質量をMとすると、次の運動方程式:F1=M・(−a1),F2=M・(−a2) より夫々求めることができる。
【0030】
図5に戻ると、正の加速度a1の絶対値は負の加速度a2の絶対値よりも大きくなっており、負の力F1の絶対値が正の力F2の絶対値よりも大きくなる(|a1|>|a2|,|F1|>|F2|)。この第1錘25Aの動作が実現されるように、力覚コントローラ23は出力軸29Aの回転速度及び回転加速度を制御する構成となっている。これにより、ユーザには、大きさが異なる非対称の2つの力が交互に作用し続けることとなる。
【0031】
ここで、人間は緩やかな力に対して鈍感となる知覚特性を有している。このように人間の知覚特性が非線形性を有している点は公知の事象であり(例えば特許文献1,2参照)、本書ではこの点についての詳細な説明を省略する。
【0032】
結果、このような状況下にあるユーザは、自身の知覚特性に由来し、図5の最下段のチャートに示すように強い力である左向きの並進力のみが作用していると錯覚する。言い換えると、第1力覚発生装置20Aは、第1錘25Aを連続的に往復移動させるに際して第1錘25Aに発生する正の加速度の絶対値と負の加速度の絶対値とを異ならせるよう第1アクチュエータ22Aを駆動することにより、筐体2を把持しているユーザに対し、第1錘25Aの移動方向である横方向のうちいずれか一側への並進力が筐体2より作用しているとの擬似力覚を付与することができる。
【0033】
同様にして、第2力覚発生装置20Bにおいても、第2錘25Bに発生させる加速度を正負で異ならせることにより、筐体2を把持しているユーザに対し、第2錘25Bの往復移動方向である奥行方向のうちのいずれか一側への並進力が筐体2より作用しているとの疑似力覚を付与することができる。
【0034】
なお、図5に示す錘の動作パターンは一例に過ぎず、ユーザにこの擬似力覚を付与し得る範囲内で適宜変更可能である。例えば負の加速度の絶対値を正の加速度の絶対値よりも大きくすると、ユーザが擬似的に知覚する並進力の向きは逆側となる。また、説明を単純化するために速度Vが線形に変化するパターンを例示したが、速度Vが非線形に変化して正の加速度の絶対値及び/又は負の加速度の絶対値が時間の経過とともに変化するようにしてもよい。このときには、錘に発生する正の加速度の絶対値の最大値と負の加速度の絶対値の最大値とを異ならせるようにして錘を往復移動させればよい。加速度aの正負が転換する錘の位置x1も可動範囲の中央位置に限らず適宜変更可能であり、錘が往復動作するのに必要な時間(t1+t2+t3+t4)も適宜値に設定可能である。
【0035】
また、図3及び図4に示す力覚発生装置20A,20Bの構成も適宜変更可能である。並進運動機構21A,21Bはネジ機構を利用することでアクチュエータ22A,22Bが発生する回転駆動力を錘25A,25Bの並進運動に変換する構成となっているが、正負の加速度を異ならせて錘25A,25Bを往復移動させることができるのであればどのような機構を利用してもよい。
【0036】
図7はユーザが図1に示す携帯電話を使用している状態において、第1及び第2力覚発生装置20A,20Bの動作によりユーザに付与し得る疑似力覚について説明する概念図である。図7に示すように、ユーザは使用状態において表示装置4やプッシュボタン5が設けられている正面2aを自身に対向させるとともに、表示装置4が設けられておらずプッシュボタン5が設けられている筐体2の下部を把持することが一般的である。
【0037】
他方、第1及び第2力覚発生装置20A,20Bは、筐体2の内部空間3の上方領域に配設されている。このため、第1力覚発生装置20Aが駆動すると、筐体2の下部を把持しているユーザに対し、筐体2の上部が左右に傾動するかのような疑似力覚(矢印Fx参照)が付与されることとなる。また、第2力覚発生装置20Bが駆動すると、筐体2の下部を把持しているユーザに対し、筐体2の上部が奥行方向に傾動するかのような疑似力覚(矢印Fy参照)が付与されることとなる。
【0038】
ここで、矢印Fxに示すように力覚の作用方向を左右で向きを変えるときには、第1錘25Aに発生する加速度に関し、正の加速度の絶対値が負の加速度の絶対値よりも大きくする状況と、その逆とする状況とを所定時間(本書では、この所定時間の説明に便宜的に符号「T」を付記する)おきに交互に変換すればよい。なお、このようにユーザに力覚の作用方向が左右で向きを変えており筐体2の上部が左右に振れているかのような力覚を与えるためには、この所定時間Tをある程度長い時間確保する必要がある。
【0039】
本実施形態では錘の往復移動により筐体に並進力を発生させ、該並進力に応じた力覚をユーザに付与するに際して、錘の加速度を正負で異ならせてユーザには擬似的に並進力が作用していると感じさせるよう構成している。つまり、錘の往復移動の周期をたとえ短くしても、上記所定時間Tを確保する上では全く影響が及ばない。このため、錘に発生させる加速度を大きくすることができるため、所望の大きさの並進力をユーザに付与する上で錘の質量を小さくすることができる。
【0040】
次に、第1及び第2力覚発生装置20A,20Bを動作させることによって、筐体2を把持しているユーザに対し力覚に訴えて機器側からの情報を提示する制御について、携帯電話1のメモリ12にユーザが電話帳情報を登録する場合を例にして説明する。この電話帳情報の登録に際しては、名前等の各種情報を関連付けて記憶させることができるが、ここでは説明の単純化のため電話番号の情報のみを登録するものとして説明する。ユーザは、この電話番号の情報をプッシュボタン5の押下により入力することができる。このとき一般にユーザは、押下動作を行い易くするため、プッシュボタン5の配置されている側である筐体2の下部を把持している。
【0041】
図8は携帯電話1のメモリ12に電話帳情報を登録する際に主制御部10が実行する制御内容を説明するフローチャートである。図8に示すように、電話帳情報を登録するための制御モードとなると、主制御部10は電話番号が入力されるのを待機する状態となり(ステップS1)、入力が完了したか否かを判断する(ステップS2)。入力が完了していない場合には(S2:NO)、ステップS1に戻って入力が完了されるまで待機する状態を継続する。入力が完了した場合には(S2:YES)、主制御部31は入力された電話番号と、メモリ12に既に記憶されている電話帳情報とを照合し(ステップS3)、その照合の結果、入力された電話番号が既に登録されている電話帳情報と重複するものであるか否かが判断される(ステップS4)。
【0042】
電話番号が既に登録済である場合には(S4:YES)、主制御部31は、筐体2の下部を把持しているユーザに対して筐体2の上部が横方向に傾動しているかのような力覚が付与されるよう第1力覚発生装置20Aを駆動する。このとき、主制御部10は、図7において矢印Fxで示す力覚がユーザに付与されるよう、所定時間おきにユーザに付与される力覚の作用方向を変換する。つまり、正の加速度の絶対値が負の加速度の絶対値よりも大きくして第1錘25Aを往復移動させる状況と、その逆として第1錘25Aを往復移動させる状況とを所定時間おきに交互に発生させる。これにより、ユーザは筐体2が首を左右に振っているかのような力覚が付与され、今回入力なされた電話番号を電話帳情報として新規に登録する必要がない、すなわち機器側は自身の行った入力の指令に対して否定的な応答情報を提示しているものとユーザは直感的に理解することとなる。
【0043】
主制御部31は、第1力覚発生装置20Aの動作に基づいてユーザに付与される力覚の作用方向を何度か変換したのち、第1力覚発生装置20Aの動作を停止する。
【0044】
他方、電話番号がメモリに登録されていない新規なものであった場合には(S4:NO)、主制御部32は、筐体2の下部を把持しているユーザに対して筐体2の上部が奥行方向に傾動しているかのような力覚を付与するよう第2力覚発生装置20Bを駆動する。このとき、主制御部10は、図7において矢印Fyに示す力覚がユーザに付与されるよう、所定時間おきにユーザに付与さえる力覚の作用方向を変換する。これにより、ユーザは筐体2が頷いているかのような力覚が付与され、今回入力なされた電話番号を電話帳情報として新規に登録するのを認める、すなわち機器側は自身に行った入力の指令に対して肯定的な応答情報を提示しているものとユーザは直感的に理解することとなる。
【0045】
なお、矢印Fxで示す力覚がユーザにとって否定的な応答情報として認識され、矢印Fyに示す力覚がユーザにとって肯定的な応答情報として認識されるのは、ユーザが筐体2の正面2aと対面する正規の姿勢で使用しているからであり、正規の姿勢で使用していれば、否定的な応答情報を誤って肯定的な応答情報として認識する虞はきわめて少ない。また、筐体2の正面2aに表示装置4を設けることによって、ユーザは筐体2の正面2aと対面するように促されることとなり、正規の姿勢で使用される可能性がより高まることとなるので、否定的な応答情報と肯定的な応答情報を誤って認識することは、より一層少なくなる。
【0046】
主制御部31は、第2力覚発生装置20Bの動作に基づきユーザに付与される力覚の作用方向を何度か変換したのち、第2力覚発生装置20Bの動作を停止する。
【0047】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、上記の構成は本発明の範囲内で適宜変更可能である。特に、2つの力覚発生装置を利用してどのような場面においてユーザに機器側の応答情報を提示するのかについては、上述した例に限られず、多様な場面において適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
このように、本発明によれば、ユーザの入力操作に対する機器側からの応答情報をユーザに力覚に訴えて提示することによって該情報を的確に伝達することができるという作用効果を奏し、上述した携帯電話に限られず、携帯インクジェットプリンタ、固定電話の子機、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ゲーム機、携帯音楽プレイヤー、据置型ゲーム機やテレビの操作器等のような、ユーザが携帯可能な電子機器に好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る携帯型装置の実施形態として例示する携帯電話の正面図である。
【図2】図1に示す携帯電話の構成を機能的に示すブロック図である。
【図3】図1に示す携帯電話の内部構造の要部を示す携帯電話の模式的断面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿って切断して示す携帯電話の模式的断面図である。
【図5】図3に示す携帯電話の力覚発生装置の基本動作を説明するタイミングチャートである。
【図6】図3に示す携帯電話の第1力覚発生装置の基本動作の説明図であり、(a)が該第1力覚発生装置の第1錘に正の加速度が発生している状態、(b)が該第1錘に負の加速度が発生している状態をそれぞれ示している。
【図7】図3及び図4に示す力覚発生装置を利用して筐体を把持しているユーザに付与されうる力覚を説明する図である。
【図8】図2に示す携帯電話の主制御部が実行する制御内容の一例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1 携帯電話(携帯型装置)
2 筐体
2a 正面
4 表示装置
5 プッシュボタン(入力手段)
10 主制御部(制御手段)
20A 第1力覚発生装置(力覚発生手段)
20B 第2力覚発生装置(力覚発生手段)
21A 第1並進運動機構
21B 第2並進運動機構
22A 第1アクチュエータ
22B 第2アクチュエータ
23 力覚コントローラ
25A 第1錘
25B 第2錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが把持可能な筐体と、前記筐体に設けられてユーザに入力操作を行わせるための入力手段と、前記入力手段からの入力操作情報が入力される制御手段とを備える携帯型装置であって、
前記筐体を把持しているユーザに対し、前記筐体の正面の横方向及び法線方向のうちの少なくとも一の方向への並進力の力覚を付与するよう動作する力覚発生手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記入力操作情報に基づいて前記力覚発生手段を駆動し、前記筐体を把持しているユーザに対し、前記少なくとも一の方向の一側及び他側への並進力を交互に付与するよう構成され、前記筐体を把持しているユーザに、前記入力操作情報に対する肯定的な応答情報及び否定的な応答情報の少なくとも一方を力覚を通じて提示し得ることを特徴とする携帯型装置。
【請求項2】
前記正面はユーザの使用状態において該ユーザが対面する面であり、前記横方向は前記ユーザからみて左右方向であることを特徴とする請求項1に記載の携帯型装置。
【請求項3】
前記筐体の前記正面には、表示装置が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の携帯型装置。
【請求項4】
前記力覚発生手段は、前記少なくとも一の方向に往復移動可能な錘を備え、前記錘に発生する正の加速度の絶対値と負の加速度の絶対値とを異ならせて前記錘を往復運動させることにより前記ユーザに対し、前記前記少なくとも一の方向のうち一側及び他側への並進力の擬似力覚を選択的に付与する構成であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の携帯型装置。
【請求項5】
前記力覚発生手段が前記筐体の正面の横方向及び法線方向の両方への並進力の力覚を個別に付与するよう構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の携帯型装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記入力操作情報に対して肯定的な応答情報をユーザに提示するときには、前記正面の法線方向の一側及び他側への並進力がユーザに交互に付与されるよう前記力覚発生手段を駆動し、
前記入力操作情報に対して否定的な応答情報をユーザに提示するときには、前記正面の横方向の一側及び他側への並進力がユーザに交互に付与されるよう前記力覚発生手段を駆動することを特徴とする請求項5に記載の携帯型装置。
【請求項7】
前記力覚発生手段がユーザの使用状態において該ユーザから見て前記筐体の上部に配置されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の携帯型装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−103887(P2010−103887A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275256(P2008−275256)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】