説明

撥水撥油剤

【課題】生体蓄積性の低いパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートの共重合体を有効成分とする撥水撥油剤であって、合成繊維のみならず、天然繊維に対しても十分なる撥水撥油性を示し、しかも洗濯耐久性を改善せしめた撥水撥油剤を提供する。
【解決手段】(a)一般式 CnF2n+1CmH2mOCOCR=CH2(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは4、5または6であり、mは1、2、3または4である)で表わされるパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート、(b)ベンジル(メタ)アクリレート、(c)ベンジル(メタ)アクリレート以外の非フッ素系重合性単量体および(d)架橋性基含有重合性単量体を共重合単位として含有する含フッ素共重合体の水性分散液に、該水性分散液中の固形分重量に対して重量比で0.05〜3.0となる量のブロックドイソシアネートが添加された撥水撥油剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油剤に関する。さらに詳しくは、洗濯耐久性を改善せしめた撥水撥油剤に関する。
【背景技術】
【0002】
撥水撥油性の発現はフッ素の低い表面エネルギーに起因しており、一般的には撥水撥油剤の有効成分として含フッ素アクリレート系重合体が多く使用されている。これ迄の様々な検討では、実用的には撥水撥油性の発現には含フッ素重合体の結晶性の存在が必要とされてきており、特に含フッ素重合体の疎水性は側鎖フルオロアルキル基の炭素数に依存し、炭素数8以上では結晶性の発現がみられることが認められている。
【非特許文献1】接着 第50巻 第5号 第16〜22頁 (2006)
【0003】
したがって、側鎖フルオロアルキル基の炭素数が7以下、特に6以下という短いフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体は結晶性が低くあるいは存在しないため、実用に耐え得る撥水性能が得られないと考えられてきた。また、撥水撥油剤は、洗濯耐久性や摩擦耐久性などが要求されるため、長い側鎖を有する含フッ素アクリレート系重合体が用いられている。
【0004】
しかるに、炭素数8以上の側鎖フルオロアルキル基を有する重合体は、高い結晶性を有するため非常に硬く、また繊維製品の柔軟性が損なわれるという問題がみられる。さらに、撥水加工の際に高温キュアが必要なため、繊維が変色するなどの問題もみられる。その上、炭素数が8以上の長い側鎖では過度の疎水性のため、撥水撥油剤製造の際に多量の乳化剤が必要となる。
【0005】
本出願人は先に、フルオロアルキル基含有重合性単量体と塩化ビニリデンまたはベンジル(メタ)アクリレートとの共重合体およびカルボキシル基含有水溶性重合体をノニオン系界面活性剤で水中に分散させた水性エマルジョンよりなる撥水撥油剤を提案している。塩化ビニリデンまたはベンジル(メタ)アクリレートと共重合されるフルオロアルキル基含有重合性単量体のフルオロアルキル基は炭素数4〜20のパーフルオロアルキル基であるとされているが、その重合例で用いられているパーフルアルキル基の炭素数は6〜14の混合物で、平均9.0であるとされている。
【特許文献1】特開平11−80710号公報
【0006】
また、撥水撥油性のくり返し洗濯耐久性と耐水圧の耐久性の両立を図った水分散型撥水撥油剤組成物として、(A)水酸基を有する含フッ素共重合体、(B)エポキシ基を有する含フッ素共重合体、(C)ブロックされたイソシアネート基を有し、炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物および(D)アミノ樹脂を有効成分とする水分散型撥水撥油剤組成物も提案されており、水酸基またはエポキシ基をそれぞれ有する含フッ素共重合体は、ポリフルオロアルキル基を有する重合性単量体の共重合体であって、ここでポリフルオロアルキル基を形成するパーフルオロアルキルアルキル基のパーフルオロアルキル基の炭素数は2〜20、好ましくは6〜16とされていて、パーフルオロペンチル機、パーフルオロヘキシル基の例示などもみられるが、その実施例では、F(CF2)m基のmが6〜16の混合物であって、その平均値が9のものが用いられている。
【特許文献2】WO 00/58416
【0007】
そのため、炭素数6以下の短いフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体で撥水撥油性が発現できれば、柔軟性にすぐれ、しかも洗濯耐久性にもすぐれた撥水撥油剤を得ることができると考えられる。
【0008】
さらに、パーフルオロアルキルアルコールのアクリル酸誘導体、例えばCF3(CF2)7CH2CH2OCOCH=CH2は、繊維用撥水撥油剤を形成する含フッ素共重合体用合成モノマーとして多量に使用されているが、近年この種の化合物の内、炭素数8前後のパーフルオロアルキル基を有する化合物は生体蓄積性高く、環境に問題がみられるという報告がなされており、今後はその製造や使用が困難となることが懸念されている。ただし、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下の化合物にあっては、生体蓄積性が低いといわれている。
【0009】
側鎖が炭素数1〜6と短いフルオロアルキル基を有する重合体を用い、すぐれた撥水性、撥油性、防汚性を示す表面処理剤も提案されているが、ここで用いられているフルオロアルキル基含量単量体は、一般式
Rf-Y-O-CO-CX=CH2
X:F,Cl,Br,I,CFX1X2,CN,炭素数1〜20のフルオロアルキル基、ベンジル 基、フェニル基
Y:炭素数1〜10の脂肪族基,炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、
CH2CH2NR1SO2基,CH2CH(OY1)CH2
Rf:炭素数1〜6のフルオロアルキル基
で表わされる含フッ素単量体化合物であって、X=Hであるアクリル酸誘導体は比較製造例とされ、X=CH3であるメタクリル酸誘導体も意識的に除外されている。
【特許文献3】特開2004−352976号公報
【0010】
また、(a)ホモポリマーのRf基に由来する微結晶の融点が存在しないかまたは55℃以下であり、かつホモポリマーのガラス転移点が20℃以上であるRf基含有単量体および(b)架橋し得る官能性基を有するRf基不含有単量体を重合単位として含む共重合体を必須成分とする撥水撥油剤組成物であって、低温で処理を行っても物品にすぐれた撥水撥油性を付与することができ、また風合いが柔らかい撥水撥油加工することができ、しかも耐久性にすぐれたものも提案されている。
【特許文献4】WO 2004/035708
【0011】
ここでは、(a)成分単量体としてパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートが用いられてはいるものの、(b)成分単量体としてはω-イソシアネートアルキル(メタ)アクリレートの2-ブタノンオキシム付加体、ピラゾール付加体、ε-カプロラクタム付加体等の特殊の単量体が共重合反応に用いられている。
【0012】
さらに、撥水撥油加工処理の用途が、スポーツウェア等アウトドア分野に用いられ、くり返し洗濯に対する撥水撥油性の耐久性が求められるが、前記特許文献2記載の水分散型撥水撥油剤組成物は、撥水撥油性のくり返し洗濯耐久性と耐水性の両立を図ったものとされてはいるものの、実質的に単独で炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素共重合体が用いられていないばかりではなく、被加工処理される繊維も、合成繊維のみならず、天然繊維に対しても十分な撥水撥油性を示すものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、生体蓄積性の低いパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートの共重合体を有効成分とする撥水撥油剤であって、合成繊維のみならず、天然繊維に対しても十分なる撥水撥油性を示し、しかも洗濯耐久性を改善せしめた撥水撥油剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる本発明の目的は、(a)一般式
CnF2n+1CmH2mOCOCR=CH2
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは4、5または6であり、mは1、2、3または4である)で表わされるパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート、(b)ベンジル(メタ)アクリレート、(c)ベンジル(メタ)アクリレート以外の非フッ素系重合性単量体および(d)架橋性基含有重合性単量体を共重合単位として含有する含フッ素共重合体の水性分散液に、該水性分散液中の固形分重量に対して重量比で0.05〜3.0となる量のブロックドイソシアネートが添加された撥水撥油剤によって達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る撥水撥油剤は、生体蓄積性の低いパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートの共重合体を有効成分とする撥水撥油剤であって、該共重合体は特殊な単量体を共重合させたものではなく、しかもこの共重合体を有効成分とする撥水撥油処理時のキュア温度が低く、また撥水撥油処理された布地の風合いを良好ならしめるという効果を奏する。特に、合成繊維のみならず天然繊維に対しても十分な撥水撥油性を示し、その上洗濯耐久性にもすぐれた撥水撥油剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般式
CnF2n+1CmH2mOCOCR=CH2
R:水素原子,メチル基
n:4、5または6
m:1、2、3または4
で表わされるパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートとしては、好ましくは次のような化合物が挙げられる。
C4F9CH2CH2OCOCH=CH2
C4F9CH2CH2OCOC(CH3)=CH2
C6F13CH2CH2OCOCH=CH2
C6F13CH2CH2OCOC(CH3)=CH2
【0017】
これらの(a)成分パーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートは、得られる共重合体中約10〜80重量%、好ましくは約25〜80重量%、さらに好ましくは約40〜80重量%を占めるような割合で共重合反応に供せられ、かかる(a)成分単量体の共重合によって、乳化安定性にすぐれた水性分散液を形成させることができ、撥水撥油性を発現させるようになる。
【0018】
(b)成分のベンジルアクリレートまたはベンジルメタクリレートは、共重合体中約5〜80重量%、好ましくは約5〜50重量%、さらに好ましくは約5〜35重量%を占めるような割合で共重合反応に供せられる。ベンジル(メタ)アクリレートの共重合によって、共重合体は造膜性と配向性とを示すようになる。
【0019】
(c)成分の非フッ素系重合性単量体としては、炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、炭素数1〜8のアルキル基を有するマレイン酸またはフマル酸のモノアルキルエステルまたはジアルキルエステル、酢酸ビニル、カプリル酸ビニル等のビニルエステルの少くとも一種などが、撥水撥油性のバランス上好んで用いられるが、他にも共重合可能なビニル化合物、例えばスチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、(メタ)アクリロニトリル、アセトンアクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロエチルビニルエーテル、炭素数1〜4のアルキル基を有するヒドロキシアルキルビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、この他イソプレン、ペンタジエン、ブタジエン等のジエン化合物を共重合させることもできる。
【0020】
これらのベンジル(メタ)アクリレート以外の非フッ素系重合性単量体は、共重合体中約5〜80重量%、好ましくは約5〜60重量%、さらに好ましくは約5〜40重量%を占めるような割合で共重合反応に供せられる。
【0021】
また(d)成分の架橋性基含有重合性単量体としては、例えばアリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有単量体、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等のN-メチロール基含有単量体、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基含有単量体、(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、一般式
CH2=C(CH3)CON--N+(CH3)2CH2CH(OH)CH3
CH2=C(CH3)CON--N+(CH3)3
で表わされる化合物等のアミド基含有単量体、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート等のアジリジニル基含有単量体、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピルグリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、好ましくは親水性単量体が用いられる。
【0022】
これらの架橋性基含有重合性単量体をさらに共重合させると、有効な撥水撥油性成分として用いられている含フッ素共重合体は、繊維等の基材に対する付着性が強固となり、撥水撥油剤の耐久性、耐洗濯性、耐ドライクリーニング性などが向上する効果がみられ、また一般的に乳化重合時の重合安定性も向上するという副次的な効果をも奏する。このため、(d)成分は共重合体中約0.5〜40重量%、好ましくは約1〜15重量%を占めるような割合で用いられる。
【0023】
これらの各重合性単量体を用いての共重合反応は、ポリエチレンオキサイド付加型カチオン性界面活性剤または該カチオン性界面活性剤とポリエチレンオキサイド付加型ノニオン性界面活性剤との両者が用いられる界面活性乳化剤およびグリコール系化合物乳化助剤の存在下で、乳化重合法によって行われる。共単量体合計量に対して、界面活性乳化剤は約1〜20重量%、好ましくは約1〜10重量%の割合で、また乳化助剤は約10〜100重量%、好ましくは約15〜70重量%の割合で用いられる。
【0024】
かかるカチオン性界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイドを付加させた第4級アンモニウム塩系界面活性剤、例えば1〜3個のポリオキシエチレン基を有するアルキルアンモニウムクロライドやアルキルピリジニウム塩等が用いられる。この際、ポリエチレンオキサイドを付加させないカチオン性界面活性剤、例えば第4級アンモニウム塩系界面活性剤を併用することもでき、この場合にはポリエチレンオキサイド付加型に対して、好ましくは約0.1〜2の重量比で用いられる。
【0025】
また、これらのカチオン性界面活性剤と併用されるポリエチレンオキサイド付加型ノニオン性界面活性剤としては、例えばポリエチレンオキサイドと脂肪族アルコール、芳香族アルコール等のアルコール類、アルキルエーテル、オレイン酸、C12〜C18アルキルアミン、ソルビタンモノ脂肪酸等との反応生成物が、ポリエチレンオキサイド付加型カチオン性界面活性剤との合計量中約80重量%以下、好ましくは約30〜80重量%の割合で用いられる。
【0026】
ここで、該カチオン性界面活性剤の代わりに、ポリエチレンオキサイド鎖を有するアミン化合物、例えばポリオキシエチレンオクタデシルアミン(花王製品アミート320等)、一般式
H(OCH2CH2)xNRCH2CH2CH2N〔(CH2CH2O)yH〕(CH2CH2O)zH
で表わされるポリオキシエチレンアルキルジアミン(ライオン製品エソデュオミンT/25等)、ポリオキシエチレンドデシルアミン(日本油脂製品ナイミーンL-207等)を酢酸等の有機酸で中和処理したものを用いることもできる。
【0027】
これらの乳化剤と組合せて用いられる乳化助剤としてのグリコール系化合物としては、例えばエチレングリコール、ポリエチレン(n=2〜4またはそれ以上)グリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレン(n=2〜4またはそれ以上)グリコールまたはこれらの末端モノメチルエーテル、ヘキシレングリコール、グリセリンのプロピレングリコール付加物等が挙げられ、好ましくは分子量が約300〜3000のポリプロピレングリコール系化合物またはヘキシレングリコールが用いられる。
【0028】
共重合反応に際しては、それに先立って界面活性乳化剤および乳化助剤の存在下でのパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレートおよび他の重合性単量体を含む重合性単量体混合物の乳化処理が行われる。乳化処理は、高圧ホモジナイザ等を用いて十分に行われる。
【0029】
乳化処理された重合性単量体混合物の共重合反応は、そこに添加されたラジカル重合開始剤の存在下で行われる。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等のいずれをも用いることができるが、好ましくは水溶性有機過酸化物、例えば2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)・2塩酸塩等が、重合性単量体混合物の合計重量に対して約0.1〜10重量%、好ましくは約0.5〜7重量%の割合で用いられる。
【0030】
共重合反応は、水性媒体中約40〜80℃で約1〜10時間程度行われ、そこに固形分濃度約15〜35重量%の原液となる水性分散液(水性エマルジョン)を形成させる。水性媒体としては、水単独で用いられる以外に、好ましくは水性媒体中約1〜30重量%を占める量の水溶性有機溶媒、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールまたはそのモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール等のグリコール類などが用いられる。反応に際しては、分子量調節剤を用いることもでき、例えばn-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、第3ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類が好んで用いられる。
【0031】
得られた水性分散液(水性エマルジョン)には、架橋剤としてブロックドイソシアネートが、水性分散液の固形分重量に対して、0.05〜3.0、好ましくは0.2〜2.0の重量比割合で添加される。ブロックドイソシアネートは、綿等の天然繊維に対してもすぐれた撥水性と高い洗濯耐久性を付与することができる。ブロックドイソシアネートが、これより少ない割合で用いられると、洗濯耐久性が低下するようになり、一方これ以上の割合で用いられると布の風合いを損なうようになる。
【特許文献5】WO 2005/118737
【0032】
ここでブロックドイソシアネートとは、ブロックされたイソシアネート基を1個以上有し、かつ重合性炭素-炭素不飽和結合を有しない化合物であり、イソシアネート基がブロック化剤でブロックされた構造の化合物である。このようなブロックドイソシアネートとしては、ポリイソシアネートと分子内に活性水素原子を2個以上有する化合物とを反応させた化合物のイソシアネート基をブロック化剤でブロックした構造が好ましい。
【0033】
ポリイソシアネートとしては、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロパンジイソシアネート、1,2-ブタンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4´-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート類およびこれらのイソシアヌレート変性体、プレポリマー変性体、ビュレット変性体、アロファネート変性体等が挙げられる。
【0034】
また分子内に活性水素原子を2個以上有する化合物としては、多価アルコールまたは多価アミンが好ましく、多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール類、ペンタンジオール類、ヘキサンジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、キシリレングリコール等またはこれらアルコール類の変性体の少なくとも一種が、また多価アミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、3,3´-イミノビスプロピルアミン等が挙げられる。ここで、多価アルコールはポリエステルポリオールでも良く、ポリエステルポリオールとしては多価アルコールとフタル酸、アジピン酸、フマル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、脂肪族ジカルボン酸等の多価カルボン酸またはこれらの誘導体との反応により得られるエステル結合を有するものが用いられる。
【0035】
イソシアネートのブロック化剤としては、アルキルケトンオキシム類、フェノール類、アルコール類、β-ジケトン類、ラクタム類が、好ましくはメチルエチルケトンオキシム、ε-カプロラクタム、フェノール、クレゾール、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、イソプロピルアルコール、第3ブチルアルコール、マレイン酸イミド等が、さらに好ましくはメチルエチルケトンオキシム等のジアルキルケトンオキシム類、ε-カプロラクタム等のラクタム類等によって代表される解離温度が120〜180℃の化合物が用いられる。
【0036】
ブロックドイソシアネートは、上述した如くイソシアネート化合物に多価アルコールを反応させた後、ブロック化剤を反応させて得られるが、反応はケトン類、エーテル類、炭化水素類等の非水系溶媒中で行うのが好ましい。また、イソシアネート化合物、活性水素原子を2個以上有する化合物およびブロック化剤の当量数は、全反応が完了した時点では等しくなることが好ましい。
【0037】
ブロックドイソシアネートは、上記のブロック化反応を行った後、水およびノニオン系、ノニオン/カチオン系またはノニオン/アニオン系、特にノニオン/カチオン系乳化剤を加えて乳化するのが好ましい。この溶媒は、必要に応じて乳化した後、除去される。
【0038】
このようなブロックドイソシアネートとしては、市販品、例えばRudolf社製品RucoGuard XTS、同社製品RucoGuard WEB、日華化学製品NKアシスト-NY、同社製品NKアシスト-V、同社製品NKアシスト-FU、ガンツ化成製品プロミネート XC−830、同社製品プロミネート XC−915、同社製品プロミネート XC−950、第一工業製薬製品エラストロンBN−69等をそのまま用いることができる。
【0039】
水性分散液中には、さらに他の添加剤としてメラミン樹脂、尿素樹脂等のブロックドイソシアネート以外の架橋剤、重合体エクステンダー、シリコーン樹脂またはオイル、ワックス等の他の撥水剤、防虫剤、帯電防止剤、染料安定剤、防皺剤、ステインブロッカー等の撥水撥油剤用途にとって必要な添加剤を添加することができる。
【0040】
このようにして得られるブロックドイソシアネートを添加した水性分散液は、その固形分濃度を水、好ましくはイオン交換水で約0.1〜10重量%程度に希釈した後、繊維、布、織布、紙、フィルム、カーペットあるいはフィラメント、糸、繊維等から作られた布帛製品等に撥水撥油剤として有効に適用される。適用方法としては、塗布、浸漬、吹き付け、パッディング、ロールコーティングあるいはこれらの組合せ方法が用いられ、例えば浴の固形分濃度を約0.1〜10重量%とすることにより、パッド浴として使用される。このパッド浴に被処理材料をパッドし、次いで絞りロールで過剰の液を取り除いて乾燥し、被処理材料に対する付着含フッ素共重合体量が約0.01〜10重量%の割合になるように付着せしめる。その後、被処理材料の種類にもよるが、一般には約100〜200℃の温度で約1分間乃至約2時間程度の乾燥が行われ、撥水撥油処理が終了する。
【実施例】
【0041】
次に、実施例について本発明を説明する。なお、カッコ内の百分率は重量%である。
【0042】
参考例1
2-(n-パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート 58.3g (45.6%)
ベンジルメタクリレート 29.2g (22.8%)
2-ヒドロキシエチルメタクリレート 5.6g ( 4.4%)
ポリエチレングリコール(n=4)モノメタクリレート 11.7g ( 9.1%)
(日本油脂製品PE-200)
ラウリルメルカプタン 0.5g
ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル 7.0g
(日本乳化剤製品ニューコール-740)
ヘキシレングリコール 35.0g
イオン交換水 267.1g
【0043】
以上の各成分を内容量1Lのガラス製反応器に入れて混合し、さらに高圧ホモジナイザを用いて乳化混合し、得られた乳化液を窒素ガスで30分間置換した。その後、反応器内温度を徐々に上げ、40℃になったら、
塩化ビニリデン 17.5g (13.7%)
N-メチロールアクリルイミド(イオン交換水29.3gに溶解) 5.6g ( 4.4%)
2,2′-アゾビス(2-アミジノプロパン)・2塩酸塩 2.8g
(イオン交換水30.4gに溶解)
を投入し(イオン交換水全体量326.8gを含む合計量500.0g)、さらに内温を徐々に70℃迄上げ、その温度で4時間反応させた。反応終了後冷却し、固形分濃度25.0重量%の水性分散液Aを得た。なお、水性分散液から分離して得られた共重合体の融点(DSC法)は45℃であった。
【0044】
参考例2〜4
参考例1において、共単量体(a)〜(d)の種類および使用量、ならびにイオン交換水全体量が次の表1に示されるように変更され、固形分濃度25.0重量%(ただし、参考例2は25.3重量%)の水性分散液B〜Dを得た。なお、表1中には、水性分散液から分離して得られた共重合体の融点(DSC法)も併記されている。
表1
参考例2 参考例3 参考例4
共単量体
(a)成分
FAMAC-6 78.5 61.5 100.6 79.1 62.8 49.2
FAAC-6 15.7 12.3
(b)成分
BzMA 22.4 17.6 7.4 5.8 22.4 17.6
(c)成分
PEGM 4.2 3.3 4.2 3.3 4.2 3.3
VDC 11.2 8.8 3.8 3.0 11.2 8.8
(d)成分
HEA 5.6 4.4 5.6 4.4 5.6 4.4
NMAM 5.6 4.4 5.6 4.4
NMMA 5.6 4.4
水全体量 (g) 323.5 327.5 327.2
水性分散液 B C D
共重合体融点(℃) 44 46 44
注) FAMAC-6:2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート
FAAC-6:2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
PEGM:ポリエチレングリコール(n=4)モノメタクリレート(PE-200)
VDC:塩化ビニリデン
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
NMAM:N-メチロールアクリルアミド
NMMA:N-メチロールメタクリルアミド
【0045】
実施例1
参考例1で得られた水性分散液A 2.0重量部(固形分として0.5重量部に相当)に、ブロックドイソシアネートとして2-ブタノン-o,o′〔メチレンビス(4,1-フェニレンアミノカルボキシ)〕ジオキシム〔MDI-BTO〕の水性エマルジョン0.375重量部(固形分として0.15重量部に相当)を加えた後、イオン交換水97.625重量部で希釈して、撥水撥油剤Aを得た。
【0046】
実施例2〜4
実施例1において、それぞれ参考例2〜4で得られた水性分散液B〜Dの同量を用い、撥水撥油剤B〜Dを得た。
【0047】
実施例5
実施例1において、ブロックドイソシアネートとしてのMDI-BTO水性エマルジョンの使用量が1.25重量部に、またイオン交換水量が96.75重量部にそれぞれ変更され、撥水撥油剤Eを得た。
【0048】
実施例6
実施例1において、ブロックドイソシアネートとしてのMDI-BTO水性エマルジョンの使用量が0.125重量部に、またイオン交換水量が97.875重量部にそれぞれ変更され、撥水撥油剤Fを得た。
【0049】
比較例1
参考例1で得られた水性分散液A 2.0重量部をイオン交換水98.0重量部で希釈して、撥水撥油剤Gを得た。
【0050】
比較例2〜4
比較例1において、それぞれ参考例2〜4で得られた水性分散液B〜Dの同量を用い、撥水撥油剤H〜Jを得た。
【0051】
このようにして得られた水性分散液A〜Jに、綿布、綿-ポリエステル混紡布、ポリエステル布またはナイロン布を浸漬し、撥水性(JIS L1092準拠)および撥水性(AATCC-TM118-1966準拠)を測定した。その際の絞り後のウエットピックアップは、綿布は80%、混紡布は100%、ポリエステル布は40%、ナイロン布は60%であり、乾燥条件はいずれも80℃、10分間、キュア条件はいずれも150℃、3分間で行われた。
【0052】
なお、撥水性の評価基準は、前記JISの規定に従って行われた。
撥水度 状態
100 表面に湿潤や水滴の付着のないもの
90 表面にわずかに水滴付着を示すもの
80 表面に個々の部分的湿潤を示すもの
70 表面の半分に湿潤を示すもの
50 表面全体に湿潤を示すもの
0 表裏両面が完全に湿潤を示すもの
【0053】
なお、撥水性の評価基準は、前記JISの規定に従って行われた。
【0054】
また、撥油性の評価基準は、撥油処理された布上に1滴の試験液を滴下し、30秒間経過後の状態を観察し、滴下された試験液が布上に保持されている場合には、さらに数字の大きい試験液で試験し、そして布上に保持されるのに限界の試験液をもって、次表の撥油性評価に基づいて評価する(なお、100%ヌジョールを保持しない場合を0とする)
表面張力
撥油性No. 試験溶液 (mN/m,25℃)
8 n-ヘプタン 20.0
7 n-オクタン 21.8
6 n-デカン 23.5
5 n-ドデカン 25.0
4 n-テトラデカン 26.7
3 n-ヘキサデカン 27.3
2 ヌジョール-n-ヘキサデカン 29.6
(容積比65%:35%)
1 ヌジョール 31.2
【0055】
〔洗濯耐久試験〕
それぞれ撥水撥油剤A〜Jを用いて、綿布、綿-ポリエステル混紡布、ポリエステル布またはナイロン布を前記の如くにして撥水撥油処理した後、JIS L0217別表103の水洗い法に準拠し、洗濯を5回または10回くり返した後、風乾したものについて、撥水性および撥油性の評価を行った。得られた評価結果は、撥水性評価/撥油性評価という形で次の表2に示される。
表2
撥水 撥水性評価/撥油性評価
撥油剤 綿布 混紡布 ポリエステル布 ナイロン布
〔洗濯回数:0回〕
実施例1 A 100/1 100/4 100/4 100/5
〃 2 B 100/4 100/5 100/5 100/6
〃 3 C 100/5 100/5 100/6 100/6
〃 4 D 100/5 100/5 100/6 100/6
〃 5 E 100/4 100/5 100/5 100/6
〃 6 F 100/4 100/5 100/5 100/6
比較例1 G 100/1 100/4 100/4 100/5
〃 2 H 100/3 100/5 100/5 100/6
〃 3 I 100/5 100/5 100/6 100/6
〃 4 J 100/5 100/5 100/6 100/6
〔洗濯回数:5回〕
実施例1 A 100/1 100/4 100/4 100/6
〃 2 B 100/4 100/5 100/5 100/6
〃 3 C 100/5 100/5 100/6 100/6
〃 4 D 100/4 100/5 100/6 100/6
〃 5 E 100/4 100/4 100/4 100/6
〃 6 F 100/3 100/5 100/5 100/6
比較例1 G 70/0 80/1 100/4 100/5
〃 2 H 70/2 100/4 100/5 100/6
〃 3 I 70/3 100/4 100/6 100/6
〃 4 J 70/3 100/4 100/6 100/6
〔洗濯回数:10回〕
実施例1 A 70/1 100/3 100/4 100/5
〃 2 B 90/3 100/4 100/5 100/5
〃 3 C 90/3 100/4 100/6 100/6
〃 4 D 90/4 100/5 100/5 100/6
〃 5 E 90/3 100/4 100/5 100/5
〃 6 F 90/3 100/4 100/5 100/5
比較例1 G 50/0 70/0 100/4 100/4
〃 2 H 70/1 80/4 100/5 100/5
〃 3 I 70/1 80/4 100/5 100/5
〃 4 J 70/1 80/4 100/5 100/5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式
CnF2n+1CmH2mOCOCR=CH2
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは4、5または6であり、mは1、2、3または4である)で表わされるパーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート、(b)ベンジル(メタ)アクリレート、(c)ベンジル(メタ)アクリレート以外の非フッ素系重合性単量体および(d)架橋性基含有重合性単量体を共重合単位として含有する含フッ素共重合体の水性分散液に、該水性分散液中の固形分重量に対して重量比で0.05〜3.0となる量のブロックドイソシアネートが添加された撥水撥油剤。
【請求項2】
(c)成分非フッ素系重合性単量体が塩化ビニリデンである含フッ素共重合体が用いられた請求項1記載の撥水撥油剤。。
【請求項3】
(d)成分架橋性基含有重合性単量体が親水性単量体である含フッ素共重合体が用いられた請求項1記載の撥水撥油剤。
【請求項4】
(a)成分が10〜80重量%、(b)成分が5〜80重量%、(c)成分が5〜80重量%、(d)成分が0.5〜40重量%の共重合組成を有する含フッ素共重合体が用いられた請求項1記載の撥水撥油剤。

【公開番号】特開2009−102463(P2009−102463A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273280(P2007−273280)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】