説明

操舵制御装置

【課題】 自動操舵モード中に発生した諸事情に対して、運転者がスムーズにハンドル操作を行って対応することが可能な操舵制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明の操舵制御装置41によれば、自動操舵モード中のアシスト制御用電流指令値I1が判別基準値K1を超えたか否かにより、運転者がハンドル操作を行ったか否かを判別することができる。そして、自動操舵モードの維持より運転者のハンドル操作を優先して自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えるので、自動操舵モード中に発生した諸事情に対し、運転者は、転舵モータ19による補助力を受けた状態で、スムーズにハンドル操作を行って対応することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動操舵モードと自動操舵モードとに切り替え可能な車両に搭載される操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、手動操舵モードと自動操舵モードとに切り替え可能な車両が開発され、市販されている。このような車両では、自動操舵モードを利用して、例えば車庫入れ操作を容易に行うことができる。具体的には、車庫の近傍に車両を停止して自動操舵モードにし、移動目標位置を車庫内に設定する。すると、運転者がアクセル及びブレーキの操作を行うだけで、車両の進行に伴って自動的に転舵輪が適宜転舵され(即ち、自動的にハンドルが切られ)、運転未熟者であっても、容易に車両を車庫内に収めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記した車両は、一般に手動操舵モードにおいてパワーステアリング用に使用される転舵モータが、自動操舵モード中には、転舵輪の舵角を位置制御するための駆動源として用いられる。上記車両に備えた従来の操舵制御装置には、図11に示すように、転舵モータ6による補助力(アシストトルク)を制御するためのアシスト制御部2と、転舵輪の舵角を位置制御するための位置制御部4とが備えられている。
【0004】
そして、トルクセンサ1によってハンドルの回転軸にかかる負荷トルクT1を検出し、その負荷トルクT1に応じてアシスト制御部2がアシスト制御用電流指令値I1を演算すると共に、舵角センサ3によってハンドルの舵角θ2を検出し、その舵角θ2と移動目標位置に基づく目標舵角θ1との位置偏差に応じて位置制御部4が位置制御用電流指令値I2を演算する。
【0005】
また、従来の操舵制御装置は、手動操舵モード中は、アシスト制御用電流指令値I1をモータ電流指令値I3(=I1)としてモータ駆動回路5に付与する一方、自動操舵モード中は、アシスト制御用電流指令値I1と位置制御用電流指令値I2との和をモータ電流指令値I3(=I1+I2)としてモータ駆動回路5に付与するようになっている。そして、モータ駆動回路5は、モータ電流指令値I3に応じた電流を転舵モータ6に流して転舵輪を転舵する。
【特許文献1】特開2004−42769号公報(段落[0013]〜[0016]、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動操舵モード中に運転者によってハンドル操作が行われ、目標舵角θ1と実際の舵角θ2とが異なると、アシスト制御用電流指令値I1と位置制御用電流指令値I2とが正負逆になる。具体的には、目標舵角θ1に対して実際の舵角θ2が例えば時計回り方向(以下、この方向を「正方向」といい、その反対方向を「負方向」という)にずれていた場合には、位置制御部4は、目標舵角θ1に実際の舵角θ2を一致させるために、転舵モータ6によりハンドルを負方向に転舵させるための位置制御用電流指令値I2を演算する。その結果、運転者のハンドル操作に反してハンドルが負方向に転舵し、運転者がこれに抗してハンドル操作を行うと負荷トルクT1が増加する。すると、その負荷トルクT1を抑えるために、アシスト制御部2が、転舵モータ6によりハンドルを正方向に転舵させるためのアシスト制御用電流指令値I1を演算する。このように、自動操舵モード中に運転者によってハンドル操作が行われると、アシスト制御用電流指令値I1と位置制御用電流指令値I2との間で正負が逆になり、アシスト制御用電流指令値I1と位置制御用電流指令値I2との和であるモータ電流指令値I3の値が低下する。このため、自動操舵モード中の諸事情によりハンドル操作を行う必要が生じた際に、運転者は転舵モータ6による補助(アシストトルク)を十分に得られない状態で、ハンドル操作を行わなければならない事態が生じ得た。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、自動操舵モード中に発生した諸事情に対して、運転者がスムーズにハンドル操作を行って対応することが可能な操舵制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る操舵制御装置は、ハンドル操作を転舵モータで補助して転舵輪を転舵する手動操舵モードと、予め設定された移動目標位置に車両を移動するまでの間、ハンドル操作なしで転舵モータにより転舵輪の舵角を位置制御する自動操舵モードとに切り替え可能な車両に搭載され、転舵モータを駆動するためのモータ電流指令値を演算する操舵制御装置であって、ハンドルの回転軸にかかる負荷トルクに応じてアシスト用電流指令値を演算するアシスト制御部と、移動目標位置に基づいて特定される目標舵角と転舵輪の実際の舵角との位置偏差に応じて位置制御用電流指令値を演算する位置制御部と、手動操舵モード中は、アシスト用電流指令値をモータ電流指令値とする一方、自動操舵モード中は、アシスト用電流指令値と位置制御用電流指令値との和をモータ電流指令値とするモータ電流指令値切替部と、自動操舵モード中に、アシスト用電流指令値が、予め設定された判別基準値を超えたか否かを判別する指令値判別手段とを備え、モータ電流指令値切替部は、自動操舵モード中にアシスト用電流指令値が判別基準値を超えた場合に、自動操舵モードから手動操舵モードに切り替える一方、自動操舵モード中にアシスト用電流指令値が判別基準値を超えなかった場合に、自動操舵モードを維持するように構成されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の操舵制御装置において、モータ電流指令値切替部は、位置制御部からの位置制御用電流指令値の出力を停止することによって自動操舵モードから手動操舵モードに切り替え、位置制御部からの位置制御用電流指令値の出力を許可することによって自動操舵モードを維持するように構成されたところに特徴を有する。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の操舵制御装置において、位置制御部は、位置偏差の時間積分値に応じて位置制御用電流指令値を増減するための積分演算部を有し、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられる前までに時間積分値をリセットする積分値リセット手段を備えたところに特徴を有する。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の操舵制御装置において、モータ電流指令値切替部は、自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えた旨を報知するための報知信号を出力するように構成されたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
[請求項1及び2の発明]
請求項1及び2の操舵制御装置では、自動操舵モード中に運転者がハンドル操作を行ったことによってハンドルの回転軸に負荷トルクがかかると、その負荷トルクに応じたアシスト制御用電流指令値が判別基準値を超え、自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えられる。また、自動操舵モード中に運転者がハンドルに軽く触れた程度や、ハンドルの慣性力や操舵系の摩擦等によってハンドルの回転軸に負荷トルクがかかっても、その負荷トルクに応じたアシスト制御用電流指令値は判別基準値を超えず、自動操舵モードが維持される。このように本発明によれば、自動操舵モード中のアシスト制御用電流指令値が判別基準値を超えたか否かにより、運転者がハンドル操作を行ったか否かを判別することができる。そして、自動操舵モードの維持より運転者のハンドル操作を優先して自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えるので、自動操舵モード中に発生した諸事情に対し、運転者は、転舵モータによる補助力を受けた状態で、スムーズにハンドル操作を行って対応することが可能になる。
【0013】
なお、本発明に係る「転舵輪の舵角」には、転舵輪の転舵の変化に連動して回転又は直動する部品(例えば、ハンドル、ステアリングシャフト、モータのロータ、転舵輪間シャフト等)の舵角、回転角又は直動位置も含まれる。これと同様に、本発明に係る「目標舵角」には、転舵輪の転舵の変化に連動して回転又は直動する部品の目標舵角、目標回転角又は目標直動位置も含まれる。
【0014】
[請求項3の発明]
位置制御部が有する積分演算部の時間積分値として過去のデータが残った状態で、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられると、自動操舵モードの開始時における位置制御用電流指令値が時間積分値により大きな値になり、転舵輪が急峻に転舵されるような事態が生じ得る。しかしながら、請求項3の操舵制御装置によれば、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられる前までに、時間積分値がリセットされるので、上記した事態を回避することができる。
【0015】
[請求項4の発明]
請求項4の操舵制御装置では、報知信号により自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えられたことを確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。図1に示された車両10は、所謂、電動パワーステアリング装置としての操舵装置11を備え、運転者によるハンドル操作を転舵モータ19で補助して転舵輪50,50を転舵することができる。具体的には、1対の転舵輪50,50の間には、転舵輪間シャフト16が差し渡され、その転舵輪間シャフト16は、筒形ハウジング18の内部に挿通されている。転舵輪間シャフト16の両端は、タイロッド17,17を介して各転舵輪50,50に連結され、筒形ハウジング18は、車両10の本体に固定されている。また、筒形ハウジング18の軸方向の中間部分には大径部18Dが備えられ、その大径部18Dに転舵モータ19が内蔵されている。転舵モータ19は、筒形ハウジング18の内面に嵌合固定されたステータ20と、ステータ20の内側に遊嵌された筒状のロータ21とを備えてなる。そして、転舵輪間シャフト16がロータ21の内側を貫通している。また、筒形ハウジング18のうち大径部18Dの一端には、ロータ21の回転位置を検出するための回転位置センサ25(例えば、エンコーダ)が設けられている。
【0017】
ロータ21の内面には、ボールナット22が組み付けられている。また、転舵輪間シャフト16の軸方向の中間部分にはボールネジ部23が形成されている。これらボールナット22とボールネジ部23とからボールネジ機構24が構成され、ロータ21と共にボールナット22が回転すると、筒形ハウジング18に対してボールネジ部23が直動し、これにより転舵輪50,50が転舵する。
【0018】
転舵輪間シャフト16の一端部側には、ラック30が形成され、ステアリングシャフト32(本発明に係る「ハンドルの回転軸」に相当する)の下端部に備えたピニオン31がこのラック30に噛合している。ステアリングシャフト32の上端部には、ハンドル33が取り付けられている。
【0019】
ステアリングシャフト32のうち上端寄り位置には、舵角センサ34が取り付けられている。この舵角センサ34により、ステアリングシャフト32の回転角(即ち、ハンドルの舵角)を、本発明に係る「転舵輪の実際の舵角」として検出している。以下、舵角センサ34によって検出された舵角θ2を「実舵角θ2」という。
【0020】
ステアリングシャフト32のうち舵角センサ34より下側部分には、トルクセンサ35が取り付けられている。トルクセンサ35は、ステアリングシャフト32に係る負荷トルクT1によって捩れ変形する図示しないトーションバネと、そのトーションバネの両端部の回転角を検出するための図示しない1対のレゾルバとを備えてなり、それら両レゾルバが検出した回転角の差分に応じてステアリングシャフト32にかかる負荷トルクT1を検出することができる。また、転舵輪50の近傍には、転舵輪50の回転に基づいて車速Vを検出するための車速センサ36が設けられている。
【0021】
さて、本実施形態の車両10には、自動操舵システムが搭載されている。この自動操舵システムは、図示しない操作パネルの操作によって起動し、これにより車両10が自動操舵モードに切り替わる。そして、自動操舵モードで走行する前に、車両の移動目標位置を予め設定すると、自動操舵システムに備えた目標舵角生成装置40が、現在位置と移動目標位置との間の移動経路を演算し、その移動経路上の各位置におけるハンドル33の目標舵角θ1を演算して出力する。すると、本発明に係る操舵制御装置41が、目標舵角生成装置40からの目標舵角θ1に基づいてモータ電流指令値I3を演算し、そのモータ電流指令値I3に応じた電流をモータ駆動回路42が転舵モータ19に流すことで、転舵モータ19によってハンドル33の舵角が目標舵角θ1に位置決めされる。これにより、目標舵角生成装置40が演算した移動経路を、アクセル及びブレーキ操作のみで車両10を走行させ、車両を予め設定した移動目標位置に移動させることができる。これにより、例えば、運転が未熟な者が移動目標位置を車庫に設定することで、車庫入れ操作を容易に行うことができるようになり、或いは、路線バスのハンドル操作を一部自動化することができるようになる。
【0022】
また、自動操舵モードが解除されると車両10が手動操舵モードになり、運転者によるハンドル33の手動操舵が必要になる。このとき、転舵モータ19は、運転者によるハンドル操作を補助するための補助力(アシストトルク)を出力する。
【0023】
操舵制御装置41は、所定周期で、例えば図2に示したモータ電流指令値演算プログラムPG1を実行することで、上記した手動操舵モード及び自動操舵モードの両方に対応することができる。具体的には、モータ電流指令値演算プログラムPG1が実行されると、操舵制御装置41は、舵角センサ34,トルクセンサ35及び車速センサ36から各検出結果(実舵角θ2、負荷トルクT1及び車速V)を取得すると共に、目標舵角生成装置40が演算した目標舵角θ1を取得する(S1)。
【0024】
次いで、アシスト制御処理(S2)を実行して、本発明に係るアシスト制御用電流指令値I1を演算する。このアシスト制御処理(S2)の具体的な構成に関しては後に詳説する。
【0025】
次いで、アシスト制御処理(S2)の実行後に、自動操舵モードがオンか否かを判別する(S3)。ここで、自動操舵モードがオンでない場合(S3:NO)、即ち手動操舵モード中の場合には、アシスト制御用電流指令値I1をモータ電流指令値I3としてモータ駆動回路42に出力する(S4,S9)。
【0026】
また、自動操舵モードがオンの場合(S3:YES)には、アシスト制御用電流指令値I1が、予め設定された判別基準値K1以下であるか否かを判別する(S5)。そして、アシスト制御用電流指令値I1が判別基準値K1以下でなかった場合には(S5:NO)、自動操舵モードをオフしてから(S6)、即ち、自動操舵モードを手動操舵モードに切り替えてから、アシスト制御用電流指令値I1をモータ電流指令値I3としてモータ駆動回路42に出力する(S4,S9)。
【0027】
一方、アシスト制御用電流指令値I1が判別基準値K1以下であった場合には(S5:YES)、位置制御処理(S7)を実行し、本発明に係る位置制御用電流指令値I2を演算する。そして、その位置制御用電流指令値I2とアシスト制御用電流指令値I1との和をモータ電流指令値I3として、モータ駆動回路42に出力する(S8,S9)。この位置制御処理(S7)の具体的な構成に関しては後に詳説する。
【0028】
モータ電流指令値I3がモータ駆動回路42に出力されると(S9)、モータ電流指令値演算プログラムPG1は終了し、所定周期後に再実行される。そして、モータ電流指令値演算プログラムPG1を実行することで、図5のブロック図に示した制御系が構成される。ここで、同図に示したアシスト制御部41Aは、前記アシスト制御処理(S2)により構成され、位置制御部41Bは、前記位置制御処理(S7)によって構成され、指令値判別部41C及びアシスト電流指令値切替部41Dは、前記ステップS5によって構成されている。モータ電流指令値演算プログラムPG1の全体の構成に関する説明は以上である。
【0029】
次に、モータ電流指令値演算プログラムPG1のうち前記アシスト制御処理(S2)の具体的な構成を、図3を参照しつつ説明する。アシスト制御処理(S2)が実行されると、操舵制御装置41は、トルク−電流指令値マップ(図示せず)に基づき、負荷トルクT1に応じた第1の電流指令値I11を決定する(S21)。次いで、実舵角θ2を時間で微分して舵角速度θ5を求め(S22)、転舵角速度−電流指令値マップ(図示せず)に基づき、舵角速度θ5に応じた第2の電流指令値I12を決定する(S23)。次いで、車速−ゲインマップに基づいて車速Vに応じたゲインG1を決定する(S24)。そして、第1の電流指令値I11から第2の電流指令値I12を減算した値にゲインG1を乗じて、本発明に係るアシスト制御用電流指令値I1(=G1・(I11−I12))を演算し(S25)、このアシスト制御処理(S2)が終了する。
【0030】
ここで、上記したトルク−電流指令値マップは、例えば、負荷トルクT1が大きくなるに従って第1の電流指令値I11が大きくなるように設定されている。これにより、負荷トルクT1の増加分を、第1の電流指令値I11に応じた転舵モータ19のアシストトルクで低減させることができ、路面の摩擦係数に拘わらず、安定した操舵反力を感じながら運転者はハンドル操作を行うことができる。
【0031】
また、転舵角速度−電流指令値マップは、舵角速度θ5が大きくなるに従って第2の電流指令値I12が大きくなるように設定されている。そして、この第2の電流指令値I12が第1の電流指令値I11から減算されるので、ハンドル操作を急峻に行った場合に、操舵抵抗が大きくなり、ダンパ効果を奏する。
【0032】
また、車速−ゲインマップは、車速Vが大きくなるに従ってゲインG1が小さくなるように設定されている。これにより、車速Vが大きくなるに従って転舵モータ19のアシストトルクが低減し、高速時の急ハンドルが規制される一方、低速時には軽いハンドル操舵で車両10を大きく旋回させることができる。
【0033】
さらに、アシスト制御処理(S2)を実行することで、図5におけるアシスト制御部41Aが、図6のブロック線図で示した構成になる。ここで、同図に示した第1の電流指令値演算部41Eは、前記ステップS21により構成され、第2の電流指令値演算部41Fは、前記ステップS23により構成され、ゲイン変更乗算部41Hは、前記ステップS24,S25により構成されている。前記アシスト制御処理(S2)に関する説明は以上である。
【0034】
次に、モータ電流指令値演算プログラムPG1のうち前記位置制御処理(S7)の具体的な構成を、図4を参照しつつ説明する。位置制御処理(S7)が実行されると、操舵制御装置41は、目標舵角θ1と実舵角θ2との偏差θ3(=θ1−θ2)を求め(S71)、その偏差θ3に比例定数Kpを乗じた第3の電流指令値I21を演算する(S72)。次いで、偏差θ3の時間積分値θ4を求め(S73)、その時間積分値θ4に積分定数Kiを乗じた第4の電流指令値I22を演算する(S74)。次いで、前記アシスト制御処理(S2)で求めた舵角速度θ5に微分定数Kdを乗じた第5の電流指令値I23を演算する(S75)。そして、第3及び第4の電流指令値I21,I22の和から第5の電流指令値I23を減算して、本発明に係る位置制御用電流指令値I2を演算し(S76)、この位置制御処理(S7)を終了する。
【0035】
また、位置制御処理(S7)を実行することで、図5における位置制御部41Bが、図7のブロック線図で示した構成になる。ここで、同図に示した比例定数乗算部41Jは、前記ステップS72により構成され、積分演算部41Kは、前記ステップS73により構成され、積分定数乗算部41Lは、前記ステップS74で構成され、微分定数乗算部41Nは、前記ステップS75で構成されている。なお、微分演算部41Mは、前記アシスト制御処理(S2)のステップS22を流用して構成されている。前記位置制御処理(S7)に関する説明は以上である。
【0036】
次に、上記構成からなる本実施形態の動作を説明する。車両10が手動操舵モードになると、操舵制御装置41のうち図5に示したアシスト制御部41Aと位置制御部41Bのうちアシスト制御部41Aが出力したアシスト制御用電流指令値I1のみがモータ電流指令値I3として使用され、ステアリングシャフト32に係る負荷トルクT1に応じた補助力(アシストトルク)が転舵モータ19から出力される。そして、上述の如く、路面の摩擦係数に拘わらず安定した操舵反力を得ることができると共に、高速時にはハンドル操作が重くなる一方、低速時にはハンドル操作が軽くなり、安全な走行が可能になる。
【0037】
さて、図示しない操作パネルを操作して自動操舵モードに切り替え、車両10を所定の移動目標位置に設定すると、操舵制御装置41のうち図5に示したアシスト制御部41Aが出力したアシスト制御用電流指令値I1と位置制御部41Bが出力した位置制御用電流指令値I2との和がモータ電流指令値I3として使用される。そして、運転者は、ハンドル33を操作せずに、アクセルとブレーキのみで車両10を進行させることで、モータ電流指令値I3に基づいて転舵モータ19が転舵輪50を転舵し、上記に設定した所定の移動目標位置に車両10を移動することできる。この自動操舵モード中に運転者がハンドル33に軽く触れた程度や、ハンドル33の慣性力や操舵系の摩擦等によってステアリングシャフト32に負荷トルクT1がかかっても、その程度の負荷トルクT1に対するアシスト制御用電流指令値I1は判別基準値K1を超えず、自動操舵モードが維持される。
【0038】
これに対し、自動操舵モード中に運転者がハンドル操作を行ったことによってステアリングシャフト32に負荷トルクT1がかかると、その負荷トルクT1に応じたアシスト制御用電流指令値I1は判別基準値K1を超え、自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えられる。
【0039】
このように本実施形態の構成によれば、自動操舵モード中のアシスト制御用電流指令値I1が判別基準値K1を超えたか否かにより、運転者がハンドル操作を行ったか否かを判別することができる。そして、自動操舵モードの維持より運転者のハンドル操作を優先して自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えるので、自動操舵モード中に発生した諸事情に対し、運転者は、転舵モータ19による補助力を受けた状態で、スムーズにハンドル操作を行って対応することが可能になる。
【0040】
[第2実施形態]
前記第1実施形態の位置制御部41Bが有する積分演算部41Kの時間積分値θ4として過去のデータが残った状態で、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられると、自動操舵モードの開始時における位置制御用電流指令値I2が時間積分値により大きな値になり、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられた直後に、転舵輪50が急峻に転舵されるような事態が生じ得る。しかしながら、本実施形態では、下記構成を備えたことにより、上記した事態を回避することができる。
【0041】
即ち、本実施形態の目標舵角生成装置40は、前記第1実施形態に対して、図8及び図9に示すように、モータ電流指令値演算プログラムPG1におけるステップS6及び位置制御処理(S7)を変更した構成になっている。また、本実施形態では、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えが開始されたか否かを判別するための自動操舵モード開始フラグFが設けられている。
【0042】
この自動操舵モード開始フラグFは、自動車のイグニッションキーをオンした直後は、手動操舵モードになっているので「0」に初期設定されている。そして、前記した操舵パネルの操作により、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えが開始されると、自動操舵モード開始フラグFは「1」にセットされる。さらには、図8に示すように、アシスト制御用電流指令値I1が、予め設定された判別基準値K1を超えた場合には(S5:NO)、本実施形態のモータ電流指令値演算プログラムPG1におけるステップS6’において、自動操舵モードをオフにすると共に、自動操舵モード開始フラグFを「0」にリセットするようになっている。
【0043】
また、本実施形態の位置制御処理(S700)では、図9に示すように、前記第1実施形態で説明したステップS72の次に、自動操舵モード開始フラグが「1」であるか否かが判別される(S77)。ここで、自動操舵モード開始フラグが「1」であったときには(S77:YES)、自動操舵モードによる自動操舵走行が開始された、又は自動操舵モードがオフされてから、再度、自動操舵モードがオンされた(即ち、自動操舵走行を中止後に、再び自動操舵走行が再開された)ものと判断し、自動操舵モード開始フラグFを「0」にリセットして(S78)、時間積分値θ4を「0」に初期設定する(S79)。そして、前記第1実施形態で説明したステップS74以降を実行する。
【0044】
所定周期後にモータ電流指令値演算プログラムPG1が実行されかつ、自動操舵モードが維持されて位置制御処理(S700)が実行された際には、自動操舵モード開始フラグが「1」になっているので(S77:NO)、時間積分値θ4を演算してから(S73)、その時間積分値θ4を用いてステップS74以降を実行する。
【0045】
上記した構成によれば、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられる前までに、時間積分値θ4がリセットされるので、手動操舵モードから自動操舵モードに切り替えられた直後に、転舵輪50が急峻に転舵されるような事態を回避することができる。
【0046】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0047】
(1)前記実施形態の操舵装置11は、ボールネジ機構24を介して、転舵モータ19が転舵輪間シャフト16に連結された構成であったが、図10に示すように、ステアリングシャフト32の途中にウォームホイール70を取り付け、転舵モータ72の回転軸に取り付けたウォームギヤ71をウォームホイール70に噛合した構成にしてもよい。
【0048】
(2)前記実施形態では、ステアリングシャフト32の上端部に設けた舵角センサ34により、本発明に係る「転舵輪の実際の舵角」を検出する構成であったが、図1の転舵モータ19に備えた回転位置センサ25の検出結果、又は、図10の転舵モータ72に備えた回転センサ73の検出結果を、本発明に係る「転舵輪の実際の舵角」として利用する構成にしてもよい。
【0049】
(3)前記第1及び第2の実施形態において、操舵制御装置41が自動操舵モードから手動操舵モードに切り替えた旨の報知信号を出力する構成としてもよい。これにより、この報知信号をトリガーとしてサインランプを点灯させたり、ブザーを鳴らしたりすることで、運転者の操作によらず、自動操舵モードが解除されたことを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両の概念図
【図2】モータ電流指令値演算プログラムのフローチャート
【図3】アシスト制御処理のフローチャート
【図4】位置制御処理のフローチャート
【図5】操舵制御装置のブロック線図
【図6】アシスト制御部のブロック線図
【図7】位置制御部のブロック線図
【図8】第2実施形態のモータ電流指令値演算プログラムのフローチャート
【図9】位置制御処理のフローチャート
【図10】操舵制御装置の概念図
【図11】従来の操舵制御装置を示したブロック図
【符号の説明】
【0051】
10 車両
11 操舵装置
19,72 転舵モータ
32 ステアリングシャフト
33 ハンドル
34 舵角センサ
35 トルクセンサ
40 目標舵角生成装置
41 操舵制御装置
41A アシスト制御部
41B 位置制御部
41K 積分演算部
42 モータ駆動回路
50 転舵輪
I1 アシスト制御用電流指令値
I2 位置制御用電流指令値
I3 モータ電流指令値
K1 判別基準値
T1 負荷トルク
θ1 目標舵角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル操作を転舵モータで補助して転舵輪を転舵する手動操舵モードと、予め設定された移動目標位置に車両を移動するまでの間、前記ハンドル操作なしで前記転舵モータにより前記転舵輪の舵角を位置制御する自動操舵モードとに切り替え可能な車両に搭載され、前記転舵モータを駆動するためのモータ電流指令値を演算する操舵制御装置であって、
前記ハンドルの回転軸にかかる負荷トルクに応じてアシスト用電流指令値を演算するアシスト制御部と、
前記移動目標位置に基づいて特定される目標舵角と前記転舵輪の実際の舵角との位置偏差に応じて位置制御用電流指令値を演算する位置制御部と、
前記手動操舵モード中は、前記アシスト用電流指令値を前記モータ電流指令値とする一方、前記自動操舵モード中は、前記アシスト用電流指令値と前記位置制御用電流指令値との和を前記モータ電流指令値とするモータ電流指令値切替部と、
前記自動操舵モード中に、前記アシスト用電流指令値が、予め設定された判別基準値を超えたか否かを判別する指令値判別手段とを備え、
前記モータ電流指令値切替部は、前記自動操舵モード中に前記アシスト用電流指令値が前記判別基準値を超えた場合に、前記自動操舵モードから前記手動操舵モードに切り替える一方、前記自動操舵モード中に前記アシスト用電流指令値が前記判別基準値を超えなかった場合に、前記自動操舵モードを維持するように構成されたことを特徴とする操舵制御装置。
【請求項2】
前記モータ電流指令値切替部は、前記位置制御部からの前記位置制御用電流指令値の出力を停止することによって前記自動操舵モードから前記手動操舵モードに切り替え、前記位置制御部からの前記位置制御用電流指令値の出力を許可することによって前記自動操舵モードを維持するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記位置制御部は、前記位置偏差の時間積分値に応じて前記位置制御用電流指令値を増減するための積分演算部を有し、
前記手動操舵モードから前記自動操舵モードに切り替えられる前までに前記時間積分値をリセットする積分値リセット手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記モータ電流指令値切替部は、前記自動操舵モードから前記手動操舵モードに切り替えた旨を報知するための報知信号を出力するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の操舵制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−117181(P2006−117181A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309285(P2004−309285)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(302066630)株式会社ファーベス (138)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】