説明

放射線画像検出器

【課題】 硬X線やγ線等の放射線を高感度で検出することができ、位置分解能及び計数率特性に優れた、新規な放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【解決手段】 入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、紫外線を電子に変換し、かかる電子をガス電子雪崩現象を利用して増幅し、検出するガス増幅型紫外線画像検出器とを組み合わせた放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLiLuF結晶であり、ガス増幅型紫外線画像検出器が、ヨウ化セシウムやテルル化セシウムなどの紫外線を電子に変換する光電変換物質、電子をガス電子雪崩現象を利用して増幅するガス電子増幅器、及び増幅機能と検出機能を有するピクセル型電極より構成されることを特徴とする放射線画像検出器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な放射線画像検出器に関する。該放射線画像検出器は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
放射線利用技術は、陽電子断層撮影、X線CT等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び放射線モニターや所持品検査等の保安分野など多岐にわたり、現在も目覚しい発展を続けている。
放射線画像検出器は、放射線利用技術の重要な位置を占める要素技術であって、放射線利用技術の発展に伴い、検出感度、放射線の入射位置に対する位置分解能、或いは計数率特性について、より高度な性能が求められている。また、放射線利用技術の普及に伴い、放射線画像検出器の低コスト化、及び有感領域の大面積化も求められている。
【0003】
上記放射線画像検出器に対する要求に応えるべく、ピクセル型電極によるガス増幅を用いた粒子線画像検出器が開発された(特許文献1参照)。当該粒子線画像検出器は、入射粒子線がガス分子を電離して生成した電子をピクセル型電極で検出するものであり、位置分解能及び計数率特性に優れ、有感領域を容易に大型化でき、かつ安価に製作できるという利点を有する。しかしながら、使用されるガスは原子量が小さいため、硬X線やガンマ線のような高いエネルギーをもった光子に対する阻止能に乏しく、従って、これらの光子に対しては検出感度が低いという問題があった。
【0004】
かかる問題に鑑みて、本発明者らは既に、原子量の大きい化学物質からなるシンチレーターを用いて入射した放射線を紫外線に変換し、該紫外線を位置分解能を有するガス増幅型検出器によって検出する方法を提案した(特許文献2参照)。また、同様の方法によって放射線を検出する試みは、他者においてもなされている(非特許文献1参照)。しかしながら、これらの方法においては、シンチレーターより生じる紫外線がガス分子を電離して生成した電子を検出するため、紫外線の飛程がガス層の厚さ分に相当する拡がりを有する。その結果、放射線画像検出器として用いた際に、位置分解能及び計数率特性が低下するという問題があった。また、化学的に不安定なガス分子を用いる必要があるため、ガス分子そのものが劣化したり、ガス分子が検出器の電極に付着したりする問題があり、長期にわたって安定に動作させることが困難であった(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、放射線によってシンチレーターから生じる紫外線を検出する際に、光電変換物質を用いて紫外線を電子に変換し、該電子をガス増幅型検出器によって検出する方法が試みられている(非特許文献3参照)。かかる方法によれば、前記位置分解能及び計数率特性の低下や動作の安定性にかかる問題は回避できると考えられるものの、シンチレーターから生じる紫外線がきわめて微弱であり、また、電子をガス増幅型検出器によって増幅する際の増幅率を充分に高めることができていなかった。その結果、シンチレーターより生じるきわめて微弱な紫外線を感度良く検出することができず、かかる光電変換物質を用いる方法によって、放射線画像を検出できる装置を作製しようとする試みは為されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3354551号公報
【特許文献2】特開2008−202977号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P. Schotanus, et al., “Detection of LaF3:Nd3+ Scintillation Light in a Photosensitive Multiwire Chamber” Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A272, 913−916(1988).
【非特許文献2】J. Va’vra, “Wire Aging of Hydrocarbon Gases with TMAE Additions” IEEE Transactions on Nuclear Science, NS−34, 486−490(1987).
【非特許文献3】J. van der Marel, et al., “A LaF3:Nd(10%) Scintillation Detector with Microgap Gas Chamber Read−out for the Detection of γ−rays” Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, A392, 310−314(1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硬X線やγ線等の放射線を高感度で検出することができ、位置分解能及び計数率特性に優れた、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、紫外線を電子に変換し、かかる電子を増幅して検出する新規なガス増幅型紫外線画像検出器とを組み合わせて構成される放射線画像検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターについて種々検討を重ねた。その結果、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLiLuF結晶をシンチレーターとして用いることによって、高い発光量が得られることを見出した。
また、本発明者等は、放射線画像検出器を構成するガス増幅型紫外線画像検出器に着目し、シンチレーターより生じる紫外線を感度良く検出する方法について種々検討を重ねた。
その結果、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されるガス増幅型紫外線画像検出器を用いて、シンチレーターより生じた紫外線を光電変換物質で電子に変換し、次いで当該電子をガス電子増幅器によって増幅した後、ピクセル型電極を用いて検出することにより、放射線を感度良く検出できることを見出した。また、当該シンチレーターとガス増幅型紫外線画像検出器を組み合わせてなる放射線画像検出器によって、放射線画像を取得することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明によれば、
入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、及びガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLiLuF結晶であり、ガス増幅型紫外線画像検出器が、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されることを特徴とする放射線画像検出器が提供される。
上記放射線画像検出器の発明において、
(1)光電変換物質が、ヨウ化セシウムまたはテルル化セシウムであること
(2)ガス電子増幅器が、2枚又は3枚存在すること
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターの発光量が向上し、且つ、シンチレーターより生じる紫外線をガス増幅型紫外線画像検出器によって感度よく検出することができるので、位置分解能及び計数率特性に優れた放射線画像検出器を提供できる。また、本発明の放射線画像検出器は、有感領域を容易に大型化でき、かつ安価に製作できるため、医療、工業、及び保安等の分野において極めて価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図2】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図3】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図4】本図は、本発明の放射線画像検出器の模式図である。
【図5】本図は、本発明で用いるガス電子増幅器の模式図である。
【図6】本図は、実施例1で60Coを用いて得られた放射線画像である。
【図7】本図は、実施例1で57Coを用いて得られた放射線画像である。
【図8】本図は、実施例1で241Amを用いて得られた放射線画像である。
【図9】本図は、実施例1で241Amを用いて得られた放射線画像である。
【図10】本図は、実施例2で得られた放射線画像である。
【図11】本図は、実施例2で得られた放射線画像である。
【図12】本図は、実施例2で得られた放射線画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔動作原理〕
本発明の放射線画像検出器の動作原理について、図1を用いて説明する。まず、入射した放射線をシンチレーター1によって紫外線に変換する。次いで、生じた紫外線を光電変換物質2によって一次電子3に変換する。当該一次電子3を、高電場下におけるガス電子雪崩現象による増幅作用を利用したガス電子増幅器4で増幅し、二次電子5を得た後、二次電子5をピクセル型電極6でさらに増幅しながら検出する。このピクセル型電極で検出された電子に基づく信号を外部回路で処理することにより、放射線の入射位置を特定することができ、放射線画像を得ることが可能となる。以下、本発明の放射線画像検出器についてより詳細に説明する。
【0013】
〔シンチレーター〕
本発明の放射線画像検出器の構成要素であるシンチレーターは、Nd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLiLuF結晶(以下、LLFともいう)である。当該シンチレーターは、高い発光量で紫外線を生じ、且つ、その発光波長が200nm以下の真空紫外領域であるという特徴を有する。かかる真空紫外領域の紫外線を生じるシンチレーターを用いることによって、後述する光電変換物質において、紫外線から電子への光電変換効率を高めることができる。
【0014】
本発明において、シンチレーターに含まれるNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素(以下、発光中心元素という)は、5d−4f遷移発光によって、真空紫外線を生じるため、本発明において好適に使用される。前記発光中心元素の中でも、Ndは発光寿命が短く、高速応答性を有するため特に好ましい。
【0015】
上記発光中心元素の含有量は、発光中心元素の種類によって異なるが、0.01〜10wt%の範囲とすることが好ましい。添加量を0.01wt%以上とすることによって、シンチレーターの発光の強度を高めることができ、一方、10wt%以下とすることによって、濃度消光に由来するシンチレーターの発光の減衰を抑制することができる。
なお、LLFは、単結晶及び多結晶のいずれの形態でも良いが、放射線から紫外線への変換効率の観点から、単結晶を使用することが好ましい。
本発明において、検出対象となる放射線は特に限定されず、X線、α線、β線、γ線、或いは中性子線等の何れの放射線も検出可能であるが、本発明のシンチレーターは有効原子番号及び密度が高いため、放射線の中でも、硬X線やγ線等の高エネルギーの光子を特に効率よく検出できる。
【0016】
なお、本発明において、有効原子番号とは、下式〔1〕で定義される指標であって、硬X線やγ線に対する阻止能に影響する。該有効原子番号が大きいほど、硬X線やγ線に対する阻止能が増大し、その結果、シンチレーターの硬X線やγ線に対する感度が向上する。本発明で使用するLLFの有効原子番号は、発光中心元素の種類及び含有量によって異なるが、約63〜64であって、従来公知のシンチレーターに比較して充分に大きい。
有効原子番号=(ΣW1/4 〔1〕
(式中、W及びZは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちの
i番目の元素の質量分率及び原子番号を表す。)
【0017】
シンチレーターの形状は、特に限定されないが、後出のガス増幅型紫外線画像検出器に対向する紫外線出射面(以下、単に紫外線出射面ともいう)を有し、当該紫外線出射面は光学研磨が施されていることが好ましい。かかる紫外線出射面を有することによって、シンチレーターで生じた紫外線を効率よくガス増幅型紫外線画像検出器に入射できる。
紫外線出射面の形状は限定されず、一辺の長さが数mm〜数百mm角の四角形、直径が数mm〜数百mmの円形など、用途に応じた形状を適宜選択することができる。シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さは、検出対象とする放射線の種類及びエネルギーによって異なるが、一般に数百μm〜数百mmである。
また、ガス増幅型紫外線画像検出器に対向しない面に、アルミニウム或いはテフロン(登録商標)等からなる紫外線反射膜を施すことは、シンチレーターで生じた紫外線の散逸を防止することができる点で好ましい。更にかかる紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列して用いることにより、放射線画像検出器の位置分解能を顕著に高めることができる。
【0018】
シンチレーターの製造方法は特に限定されないが、チョクラルスキー法、或いはブリッジマン法等の融液成長法によって製造することが好ましい。融液成長法で製造することにより、透明性等の品質に優れたLLFを製造することができ、また、直径が数インチの大型結晶を安価に製造することが可能となる。当該LLFの製造に際して、熱歪等に起因する結晶欠陥を除去する目的で、結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。得られたLLFは良好な加工性を有しており、所望の形状に加工してシンチレーターとして用いる。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いる事ができる。
【0019】
本発明の放射線画像検出器が具備するガス増幅型紫外線画像検出器は、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より基本構成される。以下、当該ガス増幅型紫外線画像検出器について、具体的に説明する。
【0020】
〔光電変換物質〕
光電変換物質は、シンチレーターより生じた紫外線を一次電子に変換する働きをなす。この機能を有するものであれば、その種類は特に制限されない。具体的には、ヨウ化セシウム(CsI)、テルル化セシウム(CsTe)などを例示することができる。これらの中でも、紫外線を電子に変換する際の光電変換効率、及び化学的安定性の観点から、ヨウ化セシウムが好ましい。
光電変換物質は、紫外線から変換された一次電子を効率よく取り出すため、薄膜とすることが好ましい。また、後述するように紫外線入射窓の内面に形成するか、或いは、ガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成することが好ましい。
【0021】
〔ガス電子増幅器〕
次いで、上記光電変換物質より生じた一次電子をガス電子増幅器によって増幅する。当該ガス電子増幅器は、1997年にSauliによって開発され、Gas Electron Multiplier(GEM)として知られている。本発明において、当該ガス電子増幅器としては、例えば、特開2006−302844号公報、或いは特開2007−234485号公報に記載の技術が好適に使用できる。以下、本発明で使用するガス電子増幅器について、図5を用いて詳細に説明する。
ガス電子増幅器は、樹脂製の板状絶縁層12とこの板状絶縁層の両面に被覆された平面状の金属層13とにより構成された板状多層体と、この板状多層体に設けられた、金属層の平面に垂直な内壁を有する貫通孔14により構成される。当該ガス電子増幅器においては、金属層に所定の印加電圧を印加し、貫通孔の内部に電界を発生させることにより、貫通孔構造の内部に侵入した一次電子が加速され、電子雪崩現象を生じて、位置情報を保持したまま、多数の二次電子へと増幅される。板状絶縁層の材質は、加工性及び機械的強度に鑑みて、ポリイミド或いは液晶高分子等であることが好ましい。
【0022】
板状絶縁層の厚さ(図5中のD)が厚いほど、表面と裏面の金属層の間での放電を抑制することができるため、より高い印加電圧を印加して高い増幅率を得ることができる。しかし、極度に厚い場合には、貫通孔を設ける際の加工が困難となる。したがって、当該板状絶縁層の厚さは、50μm〜300μmとすることが好ましい。金属層の材質及び厚さ(図5中のD)は特に制限されないが、例えば、材質を銅、アルミニウム、或いは金とし、厚さを5μm程度とした金属層が好適である。
貫通孔の直径(図5中のd)は、特に制限されず、貫通孔の内部に生じる電界の強さと加工の容易さ等を考慮して、適宜選択される。かかる直径を具体的に例示すれば、一般に50〜100μmである。なお、貫通孔は、生成される電界の一様性を高めるため、板状多層体の全面に所定のピッチ(図5中のP)で設けることが好ましい。当該ピッチは、板状絶縁層の材質や厚さ、及び貫通孔の直径にもよるが、一般には貫通孔の直径の約2倍程度である。また、貫通孔を設ける際には、図5に示すように、正三角形を配列した配置とすることが好ましい。かかる配置とすることによって、板状多層体の面積に対する貫通孔の開口率を高めることができるため、高い増幅率を得ることができ、更に後述するイオンフィードバックを抑制することができる。
【0023】
ガス電子増幅器の動作において、印加電圧が高いほど高い増幅率が得られるが、印加電圧が極端に高い場合には、ガス電子増幅器の表裏の金属層の間で放電が生じて安定動作が困難となる。当該印加電圧の好適な範囲は、板状絶縁層の厚さによって異なるが、一般には200V〜1000Vであって、かかる印加電圧において得られる増幅率は、一般に数十〜数千である。
【0024】
〔ビクセル型電極〕
ガス電子増幅器によって増幅された二次電子は、ピクセル型電極を用いてさらに増幅されて検出される。ピクセル型電極については、前記特許文献1に詳細に開示されているので、これに開示された技術に準じて作製すればよい。具体的には、ピクセル型電極は、両面基板の裏面に形成される陽極ストリップと、この陽極ストリップに植設されるとともに、その上端面が前記両面基板の表面に露出する円柱状陽極電極と、この円柱状陽極電極の上端面の回りに穴が形成されるストリップ状陰極電極とを具備している。陽極ストリップは200μm〜400μmの幅を有することが好ましく、さらに、陽極ストリップが400μm間隔で配置され、ストリップ状陰極電極には、一定間隔で直径200〜300μmの穴が形成され、円柱状陽極電極は直径40〜60μm、高さ50μm〜150μmの形状であることが特に好ましい。
【0025】
ピクセル型電極の円柱状陽極電極とストリップ状陰極電極の間に所定の印加電圧を印加することにより、円柱状陽極電極の近傍に強い電界が発生する。当該電界によって加速された二次電子は電子雪崩を生じ、増幅された後に円柱状陽極電極より検出される。この過程において陽イオン化したガス分子は、周囲のストリップ状陰極電極へ速やかにドリフトしていく。したがって、円柱状陽極電極とストリップ状陰極電極の両方に、電気回路上で観測可能な電荷が生じることになるので、陽極・陰極のどのストリップでこの増幅現象が起きたかを観測することで、入射粒子線の位置がわかる。信号の読み出し、及び2次元画像を得るための信号処理回路については、従来公知のものを制限なく用いることができる。
【0026】
ピクセル電極の印加電圧の好適な範囲は、検出ガスの種類によって異なるが、一般に400V〜800Vである。ピクセル型電極は、陽極としてピクセルを用いるので、高電界が作り易く増幅率が大きい。したがって、上記印加電圧において得られる増幅率は、数千から数万にも達する。また、ピクセル型電極は、陽イオン化したガス分子がドリフトする距離が極めて短いため、他のガス増幅型検出器に比較して不感時間が短く、約5×10count/(sec・mm)を超える高い計数率特性を有する。さらに、ピクセル型電極は、プリント回路基板の作製技術を用いて製造することができるため、大面積のものを安価に提供できる。
【0027】
〔ガス増幅型紫外線画像検出器〕
以下、前記光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極を用いて、ガス増幅型紫外線画像検出器を構成する際の好適な態様について、図1〜2を用いて詳細に説明する。
シンチレーター1より生じた紫外線を入射するための開口部を有するチャンバー7内に、開口部に近い側から光電変換物質2、ガス電子増幅器4、及びピクセル型電極6が設置され、開口部は紫外線入射窓8で封止されている。この紫外線入射窓の材料としては、紫外線に対して高い透過性を有するフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、或いはフッ化カルシウム(CaF)を用いることが好ましい。
チャンバー内には、所定の検出ガスが充填されている。この検出ガスとしては、一般に希ガスとクエンチャーガスの組合せが使用される。希ガスとしては、例えばヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)等がある。また、クエンチャーガスとしては、例えば、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)、四フッ化メタン(CF)等が挙げられる。希ガス中へのクエンチャーガスの混合量は、5〜30%が好適である。
【0028】
光電変換物質は、紫外線から変換された一次電子を効率よく取り出すため、薄膜とすることが好ましい。当該薄膜は、図1に示すように、紫外線入射窓の内面に形成するか、或いは図2に示すように、ガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成することが好ましい。光電変換物質の薄膜を紫外線入射窓の内面に形成する場合には、当該薄膜に電子を効率よく供給するため、且つ当該薄膜とガス電子増幅器との間に一様な電界を与えるため、薄膜の外周部に金属層からなる電極9を設けることが好ましい。光電変換物質の薄膜をガス電子増幅器の紫外線入射窓に対向する面上に形成する場合には、ガス電子増幅器の金属層と光電変換物質との反応を避けるため、当該金属層の材質を金とすることが好ましい。さらに、板状絶縁層へ積層する際の容易さや製作コストに鑑みて、金属層を板状絶縁層に近い側から、銅、ニッケル及び金の順で積層された、多層の金属層とすることが最も好ましい。
【0029】
ガス電子増幅器及びピクセル型電極は、それぞれ紫外線入射窓に平行に設置される。ガス電子増幅器は、増幅率及び動作の安定性の観点から、複数枚使用して、同様に紫外線入射窓に平行に設置することが好ましく、2枚または3枚程度設置することが特に好ましい。複数枚のガス電子増幅器とピクセル型電極の各々で電子を増幅することによって、段階的に電子が増幅され、結果として得られる総合的な増幅率を大幅に高めることができる。また、複数枚のガス電子増幅器を用いることによって、イオンフィードバックを効果的に抑制することができ、動作の安定性を高めることができる。イオンフィードバックとは、電子雪崩現象で副次的に生成した陽イオン性のガス分子が蓄積され、電界を歪める現象であって、かかるイオンフィードバックが生じると、増幅率や計数率特性が不安定となり、動作の安定性に支障をきたす。
【0030】
紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器とのギャップ(図1中のG)の長さ、各ガス電子増幅器間のギャップ(図1中のG)の長さ、及び最後段のガス電子増幅器とピクセル型電極とのギャップ(図1中のG)の長さは、短いほど計数率特性及び位置分解能が向上するが、極端に短い場合には互いが接しないように設置することが困難となる。したがって、当該G、G、及びGの好適な長さは、ともに約1mm〜20mmである。
上記G、G、及びGに生じせしめる電界の大きさは、特に制限されず、所期の増幅率、イオンフィードバックの抑制効果、及び電荷の収集効率に鑑みて適宜選択することができる。当該電界の大きさの好ましい範囲を具体的に例示すれば、一般に0.3〜10kV/cmである。かかる電界の大きさとすることによって、高い増幅率と前記イオンフィードバックの抑制を同時に達成することができる。
【0031】
本発明者らの検討によれば、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極を組み合わせ、ガス電子増幅器及びピクセル型電極に印加する印加電圧を最適化することによって、ガス電子増幅器及びピクセル型電極による総合的な増幅率として1×10を超える増幅率を安定に得ることができ、シンチレーターから生じた微弱な紫外線によって画像を形成することが可能となる。
〔放射線画像検出器〕
【0032】
本発明の放射線画像検出器において、前記光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極には、それぞれ電圧を印加するための高圧電源が接続され、ピクセル型電極には信号の読み出し及び2次元画像を得るための信号処理回路が接続されている。なお、ピクセル型電極より信号を読み出し2次元画像を得る際に、アンガーロジックに基づくアンガー型信号処理回路を用いることによって、位置分解能を特に向上することができる。アンガーロジックとは、放射線の入射によって生じたシンチレーション光が、空間的な拡がりを以って検出された場合に、当該シンチレーション光の重心位置を求めることによって、放射線の入射位置を特定する手法である。
【0033】
当該アンガー型信号処理回路は、ピクセル型電極の各ピクセルでの信号の強度を読み出すための読み出し回路、個々の放射線の入射によって生じたシンチレーション光を弁別するための同時計数回路、及び各ピクセルから読み出された信号の強度からシンチレーション光の重心位置を求めるための重心演算回路より構成される。当該アンガー型信号処理回路においては、読み出し回路より得られた信号の内、単一の放射線の入射によって生じた信号のみを同時計数回路によって弁別する。次いで、かかる弁別された信号を対象とし、当該信号の強度についての荷重平均を、重心演算回路によって求めることにより、放射線の入射位置を特定する。かかるアンガー型信号処理回路によれば、位置分解能を約100μmまで向上することができる。
【0034】
以下、前記シンチレーター及びガス増幅型紫外線画像検出器を用いて、本発明の放射線画像検出器を構成する際の好適な態様について、図1〜4を用いて詳細に説明する。
図1に示すように、シンチレーターの紫外線出射面以外の面に紫外線反射膜10を施し、シンチレーターの紫外線出射面とガス増幅型紫外線画像検出器の紫外線入射窓とを密接して設置し、好ましくは、紫外線出射面と紫外線入射窓の間にグリース11を充填する。グリースを充填することにより、シンチレーター内部より紫外線射出面に到達した紫外線を、紫外線射出面で反射させること無く外部に導出でき、ガス増幅型紫外線画像検出器への入射効率を高めることができる。当該グリースとしては、屈折率が高く、また紫外線に対する透明性が高いフッ素系グリースを用いることが好ましく、例えば、デュポン社製「クライトックス」等が好適に使用できる。
【0035】
シンチレーターの放射線入射方向に対する厚さが厚く、シンチレーター内での紫外線の拡がりによって位置分解能が低下する場合には、図3のように小さな紫外線出射面を有し、紫外線出射面以外の面に紫外線反射膜が施されたシンチレーターを多数配列することによって、紫外線の拡がりを抑えることができる。
【0036】
本発明の放射線画像検出器の別の態様として、図4に示すように、紫外線入射窓に替えて、シンチレーターによってチャンバーの開口部を封止してもよい。かかる態様により、紫外線入射窓における紫外線の拡がりに起因する位置分解能の低下を回避することができ、しかも、構造を簡素化することができるため、好ましい。
なお、かかる態様において、本発明のLLFは特別の効果を発揮する。すなわち、当該態様においてはシンチレーターの表面に光電変換物質の薄膜が形成され、当該薄膜とガス電子増幅器との間に電界が形成される。かかる電界の形成の際に、前記薄膜に負の高電圧が印加される場合がある。本発明者らの検討によれば、シンチレーターとして、例えば非特許文献3に記載されているNdを含有するLaF結晶を用いた場合、当該高電圧の印加によって結晶が破壊するという問題が生じた。一方で、LLFを用いた場合にはかかる問題は生じず長期間安定して動作することができた。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0038】
実施例1
〈シンチレーターの作製〉
本実施例において、シンチレーターは発光中心元素としてNdを含有するLiLuF結晶を用いた。当該Ndを含有するLiLuF結晶は、チョクラルスキー法による結晶製造装置を用いて製造した。原料としては、純度が99.99%以上のLiF、LuF及びNdFを用いた。まず、LiF 300g、LuF 2700g及びNdF 23gをそれぞれ秤量し、よく混合して坩堝に充填した。
次いで、上記原料を充填した坩堝を結晶製造装置のチャンバー内にセットし、真空排気装置を用いてチャンバー内を1.0×10−3Pa以下まで真空排気した後、高純度の四フッ化メタンとアルゴンからなる混合ガスをチャンバー内に導入してガス置換を行った。ガス置換後のチャンバー内の圧力は大気圧とした。 ガス置換操作を行った後、ヒーターで原料を加熱して溶融せしめ、溶融した原料の融液に種結晶を接触せしめた。次いで種結晶を回転させながら引き上げ、結晶の育成を開始した。
【0039】
結晶を引き上げながら、一定の割合で結晶径を拡大し、結晶径を55mmに調整した。結晶径を55mmまで拡大せしめた後、引き上げ速度を3mm/hrに維持して、結晶の長さが約100mmとなるまで連続的に引き上げを続けた。次いでヒーターの出力を上げて結晶を原料融液から切り離し、その後徐冷することによって、Ndを含有するLiLuF結晶を得た。該結晶は直径が60mm、長さが約100mmであり、白濁やクラックの無い良質な結晶であった。Ndの含有量は、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて測定した結果、0.23wt%であった。
【0040】
得られた結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって、15mm角の立方体状に加工した後、全面に光学研磨を施してシンチレーターとした。光学研磨された面の一面を紫外線出射面とし、他の面にはテフロン(登録商標)からなる紫外線反射膜を施した。紫外線出射面の対面に施した紫外線反射膜に、中央部に5mm×5mmの開口部を設け、放射線入射口とした。
このシンチレーターについて、入射した放射線を変換して出射される紫外線の波長を以下の方法によって測定した。
タングステンをターゲットとする封入式X線管球を用いて、X線をシンチレーターに照射した。なお、封入式X線管球よりX線を発生させる際の管電圧及び管電流はそれぞれ60kV及び40mAとした。シンチレーターの紫外線出射面より生じた紫外線を集光ミラーで集光し、分光器にて単色化し、各波長の強度を記録してシンチレーターより生じた紫外線のスペクトルを得た。測定の結果、本製造例のシンチレーターは、入射した放射線を波長が183nmの真空紫外線に変換することが確認された。
【0041】
〈ガス増幅型紫外線画像検出器の作製〉
本発明の放射線画像検出器の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を以下の方法によって作製した。
図1に示すように、開口部を有するチャンバー内に、開口部に近い側から2枚のガス電子増幅器、及びピクセル型電極をそれぞれ平行に設置し、開口部を紫外線入射窓で封止した。紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器との距離は9mm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器との距離は2mm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極との距離は2mmとした。
ガス電子増幅器は、ポリイミド製の板状絶縁層の両側に、金属層として5μmの厚さで銅を蒸着して板状多層体とし、当該板状多層体の全面に、直径が70μmの円柱状の貫通孔を、140μmのピッチで、正三角形を配列した配置にて設けたものを用いた。なお、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器の板状絶縁層の厚さは、それぞれ100μm及び50μmとした。
ピクセル型電極は、厚さが100μmのポリイミド基板を用い、当該基板の裏面に幅が300μmの陽極ストリップを設け、この陽極ストリップに植設され、基板の表面に露出する円柱状陽極電極を400μm間隔で配置し、この円柱状陽極電極の上端面の回りに直径が260μmの穴が形成されたストリップ状陰極電極を設けたものを用いた。円柱状陽極電極の直径は、基板内に埋設された部分を50μmとし、基板の表面に露出した部分を70μmとした。円柱状陽極電極の高さは110μmとし、上端部10μmが表面に露出した構造とした。
【0042】
紫外線入射窓には、直径が54mm、厚さが5mmのMgFを用い、当該紫外線入射窓の内面には光電変換物質としてヨウ化セシウムの薄膜を設け、さらに当該ヨウ化セシウム薄膜の外周部にニッケル層からなる電極を設けた。ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極、初段のガス電子増幅器の両面、後段のガス電子増幅器の両面、及びピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、印加電圧を印加するための高圧電源を接続し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、信号の読み出し及び2次元画像を得るための信号処理回路を接続した。
前記チャンバー内に検出ガスとして、10%のCを混合したArを充填し、本発明の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を得た。
【0043】
当該ガス増幅型紫外線画像検出器において、ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極に−1350Vを印加し、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器のそれぞれについて、両面の金属層間に400V及び300Vを印加し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極との間に400Vを印加した。なお、紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器の間の電界が0.25kV/cm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器の間の電界が1.25kV/cm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極の間の電界が3.00kV/cmとなるように印加電圧を調整した。
上記印加電圧下において、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率は2.3×10に達し、かかる高い増幅率においても、ガス電子増幅器の表裏での放電やピクセル型電極における放電は生じず、長期間安定に動作することが確認された。
【0044】
〈放射線画像検出器の作成と評価〉
上述の方法で作製したシンチレーターの紫外線出射面と、ガス増幅型紫外線画像検出器の紫外線入射窓とを図1に示すように密接して設置し、本発明の放射線画像検出器を得た。なお、前記紫外線出射面と紫外線入射窓の間にはフッ素系グリースとしてデュポン社製「クライトックス」を充填した。
放射線画像検出器の性能を評価するため、0.65MBqの放射能を有する60Co同位体、0.41MBqの放射能を有する57Co同位体及び3.1MBqの放射能を有する241Am同位体を放射線源とし、該放射線源より生じる放射線に対する放射線画像検出器の応答を評価した。なお、前記同位体は、それぞれ1173keV及び1333keVのγ線、122keVのγ線並びに5.5MeVのα線を発する放射線源である。放射線源をシンチレーターに近接して設置し、放射線源より生じる放射線をシンチレーター近接面に照射した。ピクセル型電極に接続された信号処理回路を用いて、ピクセル型電極の各陽極電極から出力される信号を取得し、2次元画像を構成した。60Co、57Co及び241Amを放射線源として得られた画像をそれぞれ図6、7並びに8及び9に示す。なお、各図中の破線部は、シンチレーターを設置した位置を示しており、図9は、同様の構成においてシンチレーターのみを45°回転して取得した画像である。図6〜9に示すように、シンチレーターの形状を画像としてとらえることができ、本発明の放射線画像検出器が充分な感度と優れた位置分解能を有することが確認された。
【0045】
実施例2
〈シンチレーターの作製〉
実施例1で製造した発光中心元素としてNdを含有するLiLuF結晶を、直径54mm、厚さ5mmのディスク状に加工した後、両面に光学研磨を施してシンチレーターとした。なお、当該シンチレーターの光学研磨された一面を紫外線出射面として用いた。
〈ガス増幅型紫外線画像検出器の作製〉
ガス増幅型紫外線画像検出器を以下の方法によって作製した。
本実施例においては、図4に示すように、シンチレーターの紫外線出射面に、光電変換物質としてヨウ化セシウムの薄膜を設け、さらに当該ヨウ化セシウム薄膜の外周部にニッケル層からなる電極を設けた。なお、前記ヨウ化セシウムの薄膜はシンチレーターの紫外線出射面の内、中心部の直径34mmの領域に設けた。
図4に示すように、開口部を有するチャンバー内に、開口部に近い側から2枚のガス電子増幅器、及びピクセル型電極をそれぞれ平行に設置し、開口部を前記シンチレーターで封止した。すなわち、本実施例においては、紫外線入射窓に替えて、シンチレーターによってチャンバーの開口部を封止した。かかる構造とすることによって、紫外線入射窓における紫外線の拡がりに起因する位置分解能の低下を回避すると同時に、放射線画像検出器の構造を簡素化した。
前記ヨウ化セシウムの薄膜を設けたシンチレーターの紫外線出射面と初段のガス電子増幅器との距離は9mm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器との距離は2mm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極との距離は2mmとした。
なお、ガス電子増幅器及びピクセル型電極は、実施例1と同様のものを用いた。
前記ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極、初段のガス電子増幅器の両面、後段のガス電子増幅器の両面、及びピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、印加電圧を印加するための高圧電源を接続し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極には、信号の読み出し、及び2次元画像を得るための信号処理回路を接続した。チャンバー内に検出ガスとして、10%のCを混合したArを充填し、本発明の構成要素であるガス増幅型紫外線画像検出器を得た。
【0046】
当該ガス増幅型紫外線画像検出器において、ヨウ化セシウム薄膜の外周部に設けられたニッケル層からなる電極に−1350Vを印加し、初段のガス電子増幅器及び後段のガス電子増幅器のそれぞれについて、両面の金属層間に400V及び300Vを印加し、ピクセル型電極の陽極電極と陰極電極との間に400Vを印加した。なお、紫外線入射窓と初段のガス電子増幅器の間の電界が0.25kV/cm、初段のガス電子増幅器と後段のガス電子増幅器の間の電界が1.25kV/cm、後段のガス電子増幅器とピクセル型電極の間の電界が3.00kV/cmとなるように印加電圧を調整した。
上記印加電圧下において、2枚のガス電子増幅器とピクセル型電極によって得られる総合的な増幅率は2.3×10に達し、かかる高い増幅率においても、ガス電子増幅器の表裏での放電やピクセル型電極における放電は生じず、長期間安定に動作することが確認された。
【0047】
〈放射線画像検出器の作製と評価〉
放射線画像検出器の性能の評価は、0.65MBqの放射能を有する60Co同位体を放射線源とし、該放射線源より生じる放射線に対する放射線画像検出器の応答を評価した。なお、前記60Co同位体は、1173keV及び1333keVのγ線を発する放射線源である。放射線源より生じる放射線を、鉛製のコリメーターを用いてシンチレーターの特定の箇所に照射した。放射線を照射した箇所は、シンチレーターの中心の箇所、中心より左に5mmずらした箇所及び中心より右に5mmずらした箇所とした。なお、照射した範囲は、直径5mmとした。
ピクセル型電極に接続された信号処理回路を用いて、ピクセル型電極の各陽極電極から出力される信号を取得し、2次元画像を構成した。得られた画像をそれぞれ図10、11及び12に示す。
その結果、図10〜12に示すように、放射線を照射した箇所を画像としてとらえることができ、本発明の放射線画像検出器が充分な感度と優れた位置分解能を有することが確認された。
【符号の説明】
【0048】
1 シンチレーター
2 光電変換物質
3 一次電子
4 ガス電子増幅器
5 二次電子
6 ピクセル型電極
7 チャンバー
8 紫外線入射窓
9 電極
10 紫外線反射膜
11 グリース
12 板状絶縁層
13 金属層
14 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーター、及びガス増幅型紫外線画像検出器を具備してなる放射線画像検出器であって、シンチレーターがNd、Er及びTmから選ばれる少なくとも1種の元素を含有するLiLuF結晶であり、ガス増幅型紫外線画像検出器が、光電変換物質、ガス電子増幅器、及びピクセル型電極より構成されることを特徴とする放射線画像検出器。
【請求項2】
光電変換物質が、ヨウ化セシウムまたはテルル化セシウムであることを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出器。
【請求項3】
ガス電子増幅器が、2枚又は3枚存在することを特徴とする請求項1に記載の放射線画像検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−58154(P2012−58154A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203515(P2010−203515)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】