新規な(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物及びその利用
【課題】ポリイミドの原料として重合性の高い1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を提供する。
【解決手段】1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、選択的に異性化し、無水物化することにより新規な(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。該無水物は各種ジアミンと反応させてポリイミド前駆体の高分子量体を容易に得ることが可能になり、さらにイミド化して得られるポリイミドは極めて高い透明性、高い耐熱性、十分な膜靱性、きわめて低い誘電率を達成できる。
【解決手段】1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、選択的に異性化し、無水物化することにより新規な(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。該無水物は各種ジアミンと反応させてポリイミド前駆体の高分子量体を容易に得ることが可能になり、さらにイミド化して得られるポリイミドは極めて高い透明性、高い耐熱性、十分な膜靱性、きわめて低い誘電率を達成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持つ、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドとその前駆体のモノマーとなる新規の(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、そのテトラカルボン酸、それらの製造方法、そのポリイミド前駆体、そのポリイミド及びそれらポリマーの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸及びその二無水物は高耐熱、高透明性、低誘電率、高靭性ポリイミドの原料として有用な化合物である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法としては、ピロメリット酸エステルのベンゼン環を水素化還元する方法(例えば特許文献2、非特許文献1参照)、ピロメリット酸のベンゼン環を直接水素化還元する方法(例えば特許文献3、非特許文献2参照)等が報告されている。
【0004】
しかしながらこれらの方法で合成された1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の二無水物はジアミンとの重合反応性に劣り、十分な重合度に達しないため十分な膜靭性を示すほど高分子量体がしばしば得られない。これは1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が下記式(6)及び(7)
【0005】
【化1】
(式(6)中、Bは4価の船型シクロヘキサン基を表し、その立体配置は下記式(7)で表される。)
【0006】
【化2】
で表されるシス−シス−シス体(1,2位のカルボニル基が同方向のシス体であり、4,5位も同じくシス体であり、且つ1,2位と4,5位が同方向を向くシス体であることを意味する)であり、熱力学的に最も安定な立体構造をとっているためであると考えられている(例えば非特許文献3参照)。また1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物では、官能基である酸無水物基が空間的に近接していることに起因して、重合反応時に立体障害が生ずる恐れがあり、これも重合反応性の低さの一因であると考えられている。
【0007】
このように1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を使用して透明で靭性のあるポリイミドフィルムを得ることは容易ではなく、フレキシブルディスプレー用プラスチック基板としての要求特性を満足する材料もまた知られていない。
【特許文献1】特開2003−168800号公報(2003年6月13日公開)
【特許文献2】特開平8−325196号公報(1996年12月10日公開)
【特許文献3】特開2003−286222号公報(2003年10月10日公開)
【非特許文献1】Dnaiel T. Longone, Derivatives of Pyromellitic Acid. 1,2,4,5-Tetrasubstituted Cyclohexanes, J. Org. Chem., 1963, vol.28, pp1770-1773
【非特許文献2】Morris Freifelder, Daniel A. Dunnigan, and Evelyn J. Baker, Low-Pressure Hydrogenation of Some Benzenepolycarboxylic Acids with Rhodium Catalyst, J. Org. Chem., 1966, vol.31, pp3438-3439
【非特許文献3】Higher Performace Polymers. 2007, vol. 19, p175
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術により得られる1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水物化しても、ピロメリット酸二無水物等の芳香族化合物と比べ、ジアミンとの反応性が低いため、重合度の高いポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を製造することが困難であった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ブロックをもつポリイミドが高透明性、低誘電率等の優れた特性を有することは明らかになっているが、上述のように重合性が低いという問題が主因となり開発が難航していた。
【0009】
本発明は、このような問題を克服するためになされたものであり、その目的は、高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持ち、各種電子デバイスにおける各電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドの原料として有用である、新規の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸及びそれを利用した技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の問題に鑑み、発明者らが鋭意研究を積み重ねた結果、従来の重合反応性に乏しい1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の立体構造を精密に制御するべく、このテトラカルボン酸を選択的に異性化し、無水物化することにより下記一般式(8)
【0011】
【化3】
(式(8)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、その立体配置は下記式(2)で表される。)
【0012】
【化4】
で表される新規な(1S,2S,4R,5R)−テトラカルボン酸二無水物(以下tt−CHTCAと称する)即ち、上記式(7)で表されるシス−シス−シス体の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の異性体を製造できる方法を見いだした。
【0013】
また、このtt−CHTCAを用いることで、各種ジアミンと反応させてポリイミド前駆体の高分子量体を容易に得ることが可能になり、さらにこれをイミド化して得られるポリイミドは極めて高い透明性、高い耐熱性、十分な膜靭性、及び極めて低い誘電率を達成することから、フレキシブル液晶ディスプレー用プラスチック基板、集積回路の層間絶縁膜及び液晶配向膜等としてこれまでにない有益な材料を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)tt−CHTCA。
(2)tt−CHTCAを50%以上含有することを特徴とする1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物。
(3)(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸(以下、「tt−CHTC」と称する)。
(4)1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のシス−シス−シス体(以下、「cis−CHTC」と称する。また、cis−CHTCの無水化物を「cis−CHTCA」と称する)及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラ塩を、加熱することで異性化反応させることを特徴とするtt−CHTCの製造方法。
(5)cis−CHTC及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラエステルを加熱することで異性化反応させることを特徴とするtt−CHTCの製造方法。
【0015】
該製造方法によれば、熱に対して比較的不安定なcis−CHTCテトラエステルから、比較的低温でも反応が実施できることができる。触媒によりこの異性化反応を触媒により促進させてもよい。
(6)異性化反応の際、塩基性触媒を用いることを特徴とする(4)のtt−CHTCの製造方法。
(7)上記塩基性触媒として、アルカリ金属アルコキサイドを用いることを特徴とする(6)のtt−CHTCの製造方法。
(8)tt−CHTCを脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含むことを特徴とするtt−CHTCAテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
(9)tt−CHTCを脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含むことを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
(10)(9)記載の製造方法で製造されたテトラカルボン酸二無水物。
(11)一般式(1)
【0016】
【化5】
(上記一般式(1)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Rは水素原子、トリアルキルシリル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシル基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は、以下の式(2)で表され、
【0017】
【化6】
上記Xと、上記Xと結合している2つのアミド基及び2つのカルボキシル基と、の結合位置は下記式(3)又は(4)のいずれかで表される。
【0018】
【化7】
【0019】
【化8】
(式(3)及び(4)において、Yは上記Xに結合する2つのアミド基を示し、Zは上記Xに結合する2つのカルボキシル基を表す))
で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
(12)下記一般式(5)
【0020】
【化9】
(式(5)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は下記式(2)で表される)
【0021】
【化10】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
(13)1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミド前駆体であって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が(10)に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド前駆体。
(14)1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミドであって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が(10)に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド。
(15)(11)又は(13)に記載のポリイミド前駆体及び感光剤を含有する感光性樹脂組成物。
(16)(15)に記載の感光性樹脂組成物を、基材上にパターン露光して、パターン露光後に現像して、現像後に加熱硬化することにより得られるものであるパターンが形成されていることを特徴とする構造体。
(17)(12)又は(14)に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とするディスプレー用基板。
(18)(12)又は(14)に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とする集積回路の層間絶縁膜。
(19)(12)又は(14)に記載のポリイミドを含有する液晶配向膜。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持ち、各種電子デバイスにおける各電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドの原料として有用な、新規の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を提供することができる。
【0023】
即ち、本発明に係るtt−CHTCAの製造方法に従って合成された極めて高純度のtt−CHTCAをモノマーとして使用することで、従来のcis−CHTCAを用いて得ることのできなかった高分子量のポリイミド前駆体及び高分子量ポリイミドを容易に製造することが可能であり、結果としてポリイミド膜の脆弱性が大きく改善され、上述の電子デバイス等に関連する様々な産業において極めて有益な材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0025】
<1.tt−CHTC及びtt−CHTCA>
本発明に係るtt−CHTCは下記式(8)で示される化合物である。
【0026】
【化11】
(式(8)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、その立体配置は下記式(2)で表される。つまり4価の椅子型シクロヘキサン基といってもよい。)
【0027】
【化12】
また、本発明に係るtt−CHTCAは下記式(9)で示される化合物であり、例えば、tt−CHTCを無水物化することで得ることができる。
【0028】
【化13】
(式(9)中、Xは式(8)のものと同一である。)
本発明に係るtt−CHTCAは、重合性が極めて高く、ポリイミドのモノマーとして極めて有用である。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で種々のジアミンと反応させ、得られたポリアミド酸溶液の固有粘度を測定し、重合性を評価すると、本発明に係るtt−CHTCAを用いた場合では、ポリアミド酸の固有粘度は0.65〜2.4dL/gである。これは従来使用されてきたCHTCAの重合性が通常、0.1〜0.5dL/gであることと比較すると極めて高い値であり、重合度の高いポリイミドが容易に製造できる。
【0029】
また、本発明に係る1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、tt−CHTCAを50%以上含有するものである。上述のようにポリイミドのモノマーとして有用なtt−CHTCAを50%以上含有することにより、優れたポリイミド材料を提供することができる。
【0030】
<2.tt−CHTCの製造方法>
本発明に係るtt−CHTCは、cis−CHTC、そのテトラ塩、又はそのテトラエステルを異性化反応させることにより製造すればよい。異性化反応については、例えば加熱することにより行なえばよく、加熱温度については原料等に応じて適宜制御すればよい。詳しくは後述する。
【0031】
上記異性化反応に供する原料として、上述のcis−CHTC、及びcis−CHTCのテトラ塩の他に、cis−CHTCのテトラエステルでもよく、その場合使用するcis−CHTCのテトラエステルは異性体混合物であってもよい。
【0032】
cis−CHTCを制御された温度条件で加熱して異性化反応させることにより、cis−CHTCの近接する2つの置換基同士が、立体障害の小さいトランス体構造へと次第に変換される。なお、本明細書において「異性体混合物」とはシス−シス−シス体と部分的にトランス構造を含むものとの立体異性体の混合物を意味する。
【0033】
異性化反応に供するcis−CHTC等としては、市販のもの、その塩、又はそのエステル化物を用いることができ、従来公知の方法で合成したものを用いてもよい。cis−CHTCの合成方法としては、例えば、ピロメリット酸をロジウム触媒により水素化還元してもよいし、ピロメリット酸テトラエステルを水素化還元して、加水分解してもよい。いずれの原料を用いた場合でも、制御された温度条件で加熱することで同様な異性化反応挙動を示す。したがって、得られるtt−CHTCは後述の脱水環化(無水化)反応等において同様に扱うことができる。
【0034】
異性化反応では、溶剤にcis−CHTC等を溶解させて加熱する。この溶剤としては、特に限定されないが、水、触媒及び原料に対して不活性な有機溶剤等を用いればよい。原料としてcis−CHTC又はそのテトラ塩を用いるときは、溶剤として水を用いることが好ましい。これは、cis−CHTC又はそのテトラ塩が、有機溶剤に対する溶解度に比べて、熱水に対して高い溶解度を有するためである。また、原料としてcis−CHTCのテトラエステルを用いる場合、有機溶剤を使用することが好ましい。これは該テトラエステルが、水に対する溶解度に比べて、有機溶剤に対して高い溶解度を有するためである。
【0035】
以下に、tt−CHTCの製造方法の具体例として、原料としてcis−CHTCを用いる場合、cis−CHTCのテトラ塩を用いる場合、cis−CHTCのテトラエステルを用いる場合についてそれぞれ説明する。
【0036】
〔2−A.cis−CHTCの異性化反応〕
まず、原料としてcis−CHTCを用いる場合の異性化反応について説明する。該異性化反応については、水、中でも熱水に対する溶解性が高いため、水中で反応を行なうことが好ましいが、これに限定されない。
【0037】
また、異性化反応の際には加熱するとよい。加熱の温度としては特に限定されないが、高温であることが好ましく、具体的には180〜300℃が好ましく、200〜260℃がより好ましい。180〜300℃の範囲であれば、良好な反応速度を得ることができ、容易に近接する2つの置換基同士をトランス体構造へ変換できる。また、この温度範囲であれば、特別な耐圧性能を要することがなく、従来公知の様々な加熱装置等を反応装置として用いることができるので、より容易に異性化反応させることができる。
【0038】
原料としてcis−CHTCを用いる異性化反応では、cis−CHTC自身が酸触媒として機能する。そのため、原料としてcis−CHTCを用いる形態は、無触媒でも実施可能である点で有利である。
【0039】
なお、別途、触媒を用いてもよい。別途、触媒を用いる場合、該触媒をcis−CHTCが溶解された溶剤に添加して用いればよい。また、cis−CHTC及び触媒が共に溶剤に溶解した状態で異性化反応を行なうことがより好ましい。
【0040】
反応の際に使用する水の量は特に限定されず、触媒の有無、触媒の種類に応じて設定してもよい。例えば、cis−CHTCに対して100〜800重量部の水を加えて実施してもよい。
【0041】
また、異性化反応の反応時間は特に限定されず、触媒の有無、触媒の種類、反応温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、3〜10時間であれば異性化反応を十分に行なうことができる。
【0042】
なお、上述した別途触媒を用いる場合、該触媒の具体例としては特に限定されるものではないが、cis−CHTCよりも強い酸であることが好ましく、好適に使用される酸触媒として塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸等の無機酸;シュウ酸、d−酒石酸等、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸の有機酸;等を挙げることができる。このうち除去しやすい水溶性のものが好ましく、酸強度が強く、酸痕が残りにくい硝酸等が特に好ましい。なお、酸触媒は使用する装置の性能(酸耐性等)に応じて選定する必要がある。また、いずれの酸触媒を用いる場合でも、その使用量は限定されるものではなく、cis−CHTCに対して好ましくは0.01〜50重量部、より好ましくは0.1〜20重量部の範囲で使用される。なお、触媒の使用量は多い方が、反応が速やかに進行するという利点がある。一方、触媒の使用量が過剰になると、cis−CHTCの処理量が減る恐れがある。
【0043】
また、異性化反応後の反応液を冷却するとよい。冷却の温度は特に限定されないが、0〜40℃が好ましく、さらに好ましくは0〜20℃である。また、冷却により析出したものをろ過等により回収して、乾燥してもよい。なお、必要に応じて上記反応液を濃縮してから冷却してもよい。
【0044】
〔2−B.cis−CHTCのテトラ塩の異性化反応〕
次に、原料としてcis−CHTCのテトラ塩を用いる場合の異性化反応について説明する。この場合、cis−CHTC及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラ塩を、加熱することで異性化反応させるとよい。
【0045】
また、後述するアルカリ、及びCHTCのテトラ塩に対する良溶剤中、特に水中で異性化反応させることが好ましい。反応の際に使用する水の量としては特に限定されないが、後述する中和後の塩を溶解するための最小量は少なくとも必要である。具体的には水酸化ナトリウムを用いる場合、cis−CHTCに対して200〜800重量部の水を加える。
【0046】
cis−CHTCのテトラ塩は、アルカリ(例えばアルカリ溶液)にcis−CHTCを加えて調製してもよい。このとき、30分程度撹拌することが好ましい。使用可能なアルカリの例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属類;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属類;等が挙げられる。この中でも、安価で入手しやすさ、及び形成される塩の安定性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。また、いずれのアルカリを用いる場合でも、その使用量としてはcis−CHTCに対し4〜6当量が好ましく、4〜5当量が特に好ましい。4当量以上添加すれば速やかに反応が進行するだけでなく、アルカリ塩の形成によりcis−CHTCの溶解度が増大するうえ、金属製反応容器の腐食の恐れが低減するため、効率よく異性化反応させることができる。一方アルカリの使用量が過剰になると、cis−CHTCの処理量が減る恐れがあるが、6当量以下であれば、このような恐れは無く生産効率が向上する。また、上記のアルカリとピロメリット酸を反応させて得られた塩を、公知の方法にしたがい水素化還元することでcis−CHTCのテトラ塩を合成し、そのまま異性化反応に供することもできる。
【0047】
ここに記載する事項以外の異性化反応の条件としては、上記のcis−CHTCの異性化反応と同様に実施できるが、アルカリの影響により反応が促進されるため、より低温でも行なうことができる。具体的な温度としては、130〜250℃の範囲であれば、より良好な反応速度を得ることができ、容易にcis−CHTC塩をtt−CHTC塩に変換することができるため好ましい。
【0048】
異性化反応の後に強酸を添加することでテトラカルボン酸のテトラ塩を中和してtt−CHTCを得てもよい。中和に用いる強酸の種類は特に限定されるものではないが、酸強度が強いものが好ましく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸又はフッ酸等の無機酸が、効率よく中和が進行するため、より好ましい。中でも安価で酸痕が残りにくい塩酸が特に好ましい。また、アルカリを中和するための強酸の使用量は特に限定されないが、当該アルカリに対して、1〜1.2当量使用すればよい。この量であれば、tt−CHTCの塩の残留を十分に防ぐことができる。
【0049】
中和により、tt−CHTCの水に対する溶解度が低下し、tt−CHTCを効率よく析出させ、ろ過等により回収することができ、これを乾燥することで純度の高いtt−CHTCを得ることができる。このとき、中和で生じた塩は水に溶け込んでおり、容易に除去することができる。また、必要に応じてtt−CHTCを含む水溶液を濃縮してもよい。また、ナトリウム等の金属分を下げるために再度水で晶析させてもよい。
【0050】
〔2−C.cis−CHTCのテトラエステルの異性化反応〕
次に、原料としてcis−CHTCのテトラエステルを用いる異性化反応について説明する。この場合、cis−CHTC及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラエステルを加熱することで異性化反応させるとよい。該エステルは一般に水に難溶であるため、溶媒としては有機溶剤が好ましい。
【0051】
cis−CHTCのテトラエステルとしては、例えば、テトラメチルエステル、テトラエチルエステル等の、合成又は入手しやすいものを用いてもよい。例えば、市販のcis−CHTCのテトラエステル化物を用いてもよいし、公知の方法で合成したものを用いてもよい。cis−CHTCのテトラエステルの合成方法としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸テトラエチルエステルをニッケル触媒で水素化還元してもよいし、cis−CHTCとアルコールとを反応させてエステル化してもよい。
【0052】
また、上記有機溶剤の具体例としては、アルカリと反応しない溶剤であることが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール等のアルコール類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;等が好ましく使用できる。上記有機溶剤の量としては特に限定されるものではないが、cis−CHTCのテトラエステル100重量部に対して、200〜1000重量部加えて行なうことができる。
【0053】
また、原料としてcis−CHTCのテトラエステルを用いる場合には、熱安定性を考慮し、触媒を添加して、比較的低温で実施することが好ましい。該触媒としては、塩基性触媒が、反応促進効果が大きいため好ましく、その中でも、有機溶剤に可溶なものであることが好ましい。例えば、リチウムメトキサイド、ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイド、リチウムエトキサイド、ナトリウムエトキサイド等のアルカリ金属アルコキサイド、又はジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等の有機塩基が好適に用いられる。いずれの塩基性触媒を用いる場合でも、触媒が溶剤に溶解し、互いに不活性である組み合わせであれば、特に限定されず、複数の種類を組み合わせて用いることができる。
【0054】
また、異性化反応の際に加熱する温度としては40〜120℃が好ましく、50〜800℃がより好ましい。40〜120℃の範囲であれば、良好な反応速度を得ることができ、容易にシス体をトランス体に変換することができる。
【0055】
cis−CHTCのテトラエステルの異性化反応は、上述のように、比較的低温での実施が好ましい。例えば、cis−CHTCのテトラメチルエステルをメタノール中で、1〜20重量%のナトリウムメトキサイドを加えて還流させることによりトランス体への変換が進行する。このとき、異性化されたcis−CHTCのエステル化物はアルコールに対する溶解度が低下し、析出するので、ろ過等により回収することもできる。
【0056】
異性化反応の後、cis−CHTCのテトラエステルは、公知の方法により加水分解できる。例えば、酸触媒又は塩基性触媒の存在下で加水分解することによりtt−CHTCとして得ることができる。
【0057】
<3.tt−CHTCAの製造方法>
本発明に係るtt−CHTCAの製造方法は、脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含めばよい。これにより、高い反応性(重合性)を有する本発明に係るtt−CHTCAを得ることができる。
【0058】
無水化反応に供するtt−CHTCとしては、上述の異性化反応にて得られたtt−CHTCを用いればよい。なお、上述のように異性化反応及び/又は加水分解において触媒を用いると、得られたtt−CHTCに、当該触媒を由来とする不純物が混入することがある。そのため、得られたtt−CHTCを、再結晶等の公知の方法で精製した上で、無水化反応に供することが好ましい。
【0059】
脱水剤については、tt−CHTCに脱水剤が接触すれば特に限定されないが、例えば、tt−CHTC及び脱水剤を溶剤中で混合するとよい。脱水剤としては無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の低級有機カルボン酸無水物類が好ましく、中でも無水化後の除去や経済的に有利な無水酢酸が特に好ましい。脱水剤の使用量は特に限定されないが、tt−CHTCに対して、2〜50当量が好ましく、特に好ましくは4〜20当量である。2〜50当量であれば、十分に無水化が行なわれ、かつ得られるtt−CHTCAの溶解量が増加し過ぎることなく、高い収率でtt−CHTCAを析出させることができる。なお、必ずしもtt−CHTCを完全に溶解させて無水化反応させる必要はなく、不均一系で無水化反応を実施してもよい。
【0060】
加熱の温度については、40〜160℃の範囲で行なうとよい。反応温度が高いほど反応速度が向上するが、tt−CHTCAは歪みが大きく、不安定な構造であるため、温度が高すぎるとその立体構造がトランス体からシス体へと変換される恐れがあるため好ましくない。そのため、無水化反応の温度範囲としては、50〜120℃がより好ましい。また、無水化反応時間は、使用する脱水剤の種類、反応温度等の条件等に応じて適宜設定すればよいが、0.5〜20時間であることが好ましい。この時間で十分に無水化反応させることができる。
【0061】
以上の無水化反応によって、tt−CHTCAが使用した脱水剤に懸濁した懸濁液を得ることができる。無水化反応の後は、得られた懸濁液をろ過することでtt−CHTCAの粉末を回収できる。また、必要に応じて上記懸濁液を濃縮してもよい。さらに、減圧乾燥等により脱水剤を除去することで、後述のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の重合工程に好適に用いることができる。
【0062】
なお、(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を、脱水剤存在下で加熱することにより無水化反応させる工程を含むことを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法及びこれにより得られたテトラカルボン酸二無水物も本発明の範疇に含まれる。
【0063】
<4.本発明に係るポリイミド前駆体>
本発明に係るポリイミド前駆体は、一般式(1)
【0064】
【化14】
(上記一般式(1)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Rは水素原子、トリアルキルシリル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシル基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は、以下の式(2)で表され、
【0065】
【化15】
上記Xと、上記Xと結合している2つのアミド基及び2つのカルボキシル基と、の結合位置は下記式(3)又は(4)のいずれかで表される。
【0066】
【化16】
【0067】
【化17】
(式(3)及び(4)において、Yは上記Xに結合する2つのアミド基を示し、Zは上記Xに結合する2つのカルボキシル基を表す))で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体である。
【0068】
本発明に係るポリイミド前駆体を閉環(イミド化)させることで高透明性、低誘電率のポリイミドを得ることができる。つまり、本発明に係るポリイミド前駆体は、ポリイミドの原料として優れている。
【0069】
ポリイミド前駆体の製造方法の一例について、以下に説明するが、これに限定されない。
【0070】
本発明に係るポリイミド前駆体は、本発明に係るtt−CHTCAとジアミンとを重合反応させて製造するとよい。以下、tt−CHTCAとジアミンとを重合させる工程を、単に「重合工程」と表記することもある。なお、上述のように、本発明に係るtt−CHTCAの製造方法において使用した脱水剤を、完全に除去した後にジアミンと反応させることが好ましい。
【0071】
より具体的には、重合工程ではジアミン溶液にtt−CHTCA粉末を添加して、室温で撹拌するとよい。攪拌の時間は特に限定されず、該tt−CHTCA粉末が十分に溶解するまで行なえばよい。このように、本発明に係るポリイミド前駆体は、本発明に係るtt−CHTCA、及びジアミンを原料として容易に製造することができる。ジアミンの使用量としては特に限定されないが、tt−CHTCAに対して実質的に等モル量であることが、重合度を高めるという観点から好ましい。
【0072】
上記ジアミン溶液を調製するために、ジアミンを溶解させる溶剤としては、モノマー(本発明に係るtt−CHTCA、及びジアミン)と、生成するポリアミド酸(本発明に係るポリイミド前駆体)とを溶解することが可能であり、且つこれらのモノマーと反応しない溶剤であれば特に限定されない。例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶剤が特に好適に利用できる。
【0073】
重合工程では、ピリジン等の脱酸剤の存在下、tt−CHTCAの代わりに、tt−CHTCのジアルキルエステルジクロリドを使用することで、ポリアミド酸のアルキルエステル(上記一般式(1)中、Rが炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルコキシル基)が得られる。
【0074】
また、重合工程では、ジアミンを予めジトリアルキルシリル化体に変換しておき、これにtt−CHTCAを添加することで、ポリアミド酸のトリアルキルシリルエステル(上記一般式(1)中、Rがトリアルキルシリル基であるもの)を得ることができる。ジアミンのトリアルキルシリル化の際に使用可能なトリアルキルシリル化剤として特に限定されないが、トリメチルシリルクロリド等のハロゲン化アルキルシランの他、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド等が例として挙げられる。
【0075】
また、本発明に係るポリイミド前駆体を製造するために用いるジアミンとしては特に限定されるものではなく、製造するポリイミド前駆体の用途等に応じて適宜選択すればよい。例えば、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン等が挙げられる。又はそれらを併用することもできる。
【0076】
芳香族ジアミンの具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、p−ターフェニレンジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
脂肪族ジアミンの具体例としては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン、シス−1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
また、本発明に係るtt−CHTCAに併せて、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分、脂肪族テトラカルボン酸二無水物等のtt−CHTCA以外のテトラカルボン酸二無水物を用いてもよい。このようなテトラカルボン酸二無水物としては、ポリアミド前駆体の重合反応性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で選択すればよく、上記ジアミンと重合可能なものである限り限定されない。共重合可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分としてこれらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0079】
本発明に係るポリイミド前駆体を製造する際の重合反応性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、部分的に使用可能な脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、シス、シス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0080】
従来、CHTCAブロック(CHTCA構造)を持つポリイミドが高透明性、低誘電率等の優れた特性を有することは明らかであったが、従来の技術により得られるシス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、ジアミンとの反応性が低いため、重合度の高いポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を製造することが困難であった。しかし、ポリイミド前駆体の合成原料を用いる際に、本発明の製造方法により製造されたテトラカルボン酸二無水物をCHTCA中20重量%、好ましくは50重量%以上含有することで、高重合度のポリイミド前駆体を製造することができ、従来から知られている、優れた特性を維持したCHTCAブロックを有するポリイミドを、高い重合度にて容易に得ることができる。
【0081】
重合反応の際に使用される溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解し、且つモノマーと反応しなければ問題はなく特に限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒等も添加して使用できる。
【0082】
本発明に係るポリイミド前駆体はその重合溶液を、水、メタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。溶媒の量は、滴下等が十分に行なえる量であれば限定されない。
【0083】
本発明に係るポリイミド前駆体の固有粘度は高いほどよいが、少なくとも0.5dL/g以上であることが好ましく、1.0dL/g以上であることがより好ましい。0.5dL/gを下回ると、製膜性が著しく悪くなり、キャスト膜がひび割れる等の深刻な問題が生じる恐れがある。
【0084】
ポリアミド等の重合の際しばしば添加される高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイド、リチウムクロライド等の金属塩類は、本発明におけるポリイミド前駆体重合反応には一切使用しなくてもよい。これらの金属塩類はポリイミド膜中に金属イオンが痕跡量でも残留すると、電子デバイスとしての信頼性を著しく低下させる。本発明に係るポリイミド前駆体は、このような金属塩類を使用しなくてよいので、極めて有益である。
【0085】
<5.本発明に係るポリイミド>
本発明に係るポリイミドは、一般式(5)
【0086】
【化18】
(式(5)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は下記式(2)で表される。)
【0087】
【化19】
で表される繰り返し単位を有するポリイミドである。
【0088】
本発明に係るポリイミドは、例えば、上記の方法で得られたポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際、ポリイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属基板/ポリイミドフィルム積層体、粉末、成型体及び溶液等が挙げられる。
【0089】
一例として、本発明に係るポリイミドのフィルムを製造する方法について述べる。ポリイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン等を用いて乾燥する。乾燥の温度は40〜180℃が好ましく、より好ましくは50〜150℃である。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で、真空中、窒素等の不活性ガス中、又は空気中において、加熱することで本発明に係るポリイミドのフィルムを製造することができる。加熱温度はイミド化の閉環反応を十分に行なうという観点から200℃以上、生成したポリイミドフィルムの熱安定性の観点から400℃以下が好ましい。より好ましくは250〜350℃である。またイミド化は、真空中又は不活性ガス中で行なうことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行なってもよい。
【0090】
また、イミド化反応は、熱処理に代えて、ポリイミド前駆体フィルムをピリジン、トリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行なうことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめポリイミド前駆体ワニス中に投入・攪拌し、それを上記基板上に流延・乾燥することで、部分的あるいは完全にイミド化したポリイミド前駆体フィルムを作製することもできる。これを更に上記のような温度範囲で熱処理しても差し支えない。
【0091】
なお、製造されるポリイミド自体がイミド化反応に用いた溶媒に溶解する場合、ポリイミド前駆体の重合溶液をそのまま又は同一の溶媒で希釈した後150〜200℃に加熱することで、本発明に係るポリイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することができる。溶媒に不溶な場合は、結晶性のポリイミド粉末を沈殿物として得てもよい。この際、イミド化反応の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエン、キシレン等の有機溶媒を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。イミド化後この反応溶液を大量の水、メタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することもできる。またポリイミド粉末を上記重合溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることもできる。
【0092】
本発明に係るポリイミドは、ジアミンと本発明に係るtt−CHTCAを溶媒中高温で反応させることにより、ポリイミド前駆体を単離することなく、一段階で重合することもできる。この際、反応溶液は反応促進の観点から、例えば130〜250℃、好ましくは150〜200℃の範囲に保持するとよい。またポリイミドが、イミド化反応に用いた溶媒に不溶な場合、ポリイミドは沈殿として得られ、可溶な場合はポリイミドのワニスとして得られる。重合溶媒は特に限定さないが、使用可能な溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が例として挙げられが、より好ましくはm−クレゾール等のフェノール系溶媒、又はNMP等のアミド系溶媒が用いられる。これらの溶媒にイミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエン、キシレン等の有機溶媒を添加することができる。またイミド化触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。反応後、溶液を大量の水、メタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することができる。またポリイミドが溶媒に可溶である場合はその粉末を上記溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることができる。
【0093】
上記ポリイミドワニスを基板上に塗布して乾燥させることで脂環式ポリイミドフィルムを形成してもよい。乾燥の温度は特に限定されないが、例えば40〜400℃、好ましくは100〜350℃である。
【0094】
また、得られたポリイミド粉末を加熱圧縮することでポリイミドの成型体を作製してもよい。加熱圧縮時の温度としては特に限定されないが、例えば200〜450℃、好ましくは250〜430℃である。
【0095】
ポリイミド前駆体溶液中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、トリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリイミド前駆体フィルムを浸漬することによっても可能である。ポリイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリイミドへ容易に変換することができる。
【0096】
本発明に係るポリイミド前駆体、本発明に係るポリイミドには、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤等の添加物を加えてもよい。
【0097】
<6.本発明に係るポリイミド前駆体、ポリイミドの利用>
〔本発明に係る感光性樹脂組成物〕
本発明に係る感光性樹脂組成物(以下、「感光性ポリイミド前駆体」と称することもある)は、本発明に係るポリイミド前駆体及び感光剤を含有してなるものである。即ち、本発明に係るポリイミド前駆体から感光性ポリイミド前駆体を得ることもできる。
【0098】
感光剤としては特に限定されないが、後述するジアゾナフトキノン系感光剤が好ましい。なお、感光剤の量としては特に限定されないが、ポリイミド前駆体に対して、10〜40重量%が好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。
【0099】
また、本発明に係る感光性樹脂組成物において、本発明に係るポリイミド前駆体及び感光剤は、溶媒に溶解されていてもよい。この溶媒としては、当該ポリイミド前駆体及び感光剤を溶解可能であれば限定されず、種々の有機溶媒を使用してもよい。
【0100】
次に、本発明に係る感光性樹脂組成物を得る方法の一例を説明する。まず、本発明に係るポリイミド前駆体が溶解された有機溶媒溶液にジアゾナフトキノン系感光剤を添加・溶解する。これにより感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0101】
次に、本発明に係る感光性樹脂組成物を用いて得られるパターンを備える構造体について説明する。即ち、本発明に係る感光性樹脂組成物を、基材上にパターン露光して、パターン露光後に現像して、現像後に加熱硬化することにより得られるものであるパターンが形成されている構造体も本発明の範疇である。なお、半導体素子において、ポリイミドをバッファーコート膜として使用した際に、外部回路との接続するための穴あけ加工する必要があるが、半導体素子の用途に応じて約3〜20μmのスルーホール又はビアホールをあける加工を行なう。本発明に係る感光性樹脂組成物に由来するポリイミドは、このようなバッファーコート膜を形成する材料として適している。
【0102】
まず、本発明に係る感光性樹脂組成物をパターン露光する。パターン露光では、感光性樹脂組成物を基材上に塗布して、目的のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線を露光するとよい。
【0103】
例えば、スピンコーター又はバーコーターを用いて、銅、シリコン又はガラス等の基材上に塗布する。次に、遮光下40〜120℃で0.1〜3時間温風乾燥することで、例えば膜厚1〜10μmの感光性ポリイミド前駆体の膜を得ることができる。温風乾燥の際の温度及び時間は適宜変更できる。
【0104】
本発明に係るポリイミド前駆体は、上記一般式(1)におけるRが水素原子である場合、元来アルカリに可溶であるが、ジアゾナフトキノン系感光剤が分散された状態で製膜されたものは、ジアゾナフトキノン(DNQ)系感光剤が溶解抑制剤として作用するので、得られた膜自体はアルカリ不溶性となる。一方、この膜にフォトマスクを介して紫外線を照射すると露光部におけるジアゾナフトキノン系感光剤が光反応によりアルカリ可溶なインデンカルボン酸に変化するので、露光部のみがアルカリ水溶液に可溶となる。よって、ポジ型パターン形成が可能となる。また、DNQを添加しても、アルカリ溶解性が高すぎてパターン形成が困難な場合は、部分的にアルキルエステル化、アルコキシエステル化、又はトリメチルシリル化してアルカリ溶解性を制御することでより鮮明なポジ型パターン形成が可能となる。
【0105】
ジアゾナフトキノン系感光剤の具体例としては、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸の低分子ヒドロキシ化合物、例えば2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2−及び4−メチル−フェノール、4,4’−ヒドロキシープロパンのエステル等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0106】
このポジ型の感光性樹脂組成物におけるジアゾナフトキノン系感光剤の配合割合は、少なすぎる場合には、露光部と未露光部の溶解度差が小さすぎて、現像によりパターン形成不能となり、多すぎる場合にはポリイミドの膜物性(靭性、ガラス転移温度等)に悪影響を及ぼす恐れがある他、イミド化後の膜減が大きいといった問題が生じる虞があるので、ポリイミド前駆体に対し重量基準で好ましくは10〜40%、より好ましくは15〜30%である。
【0107】
上述の感光性ポリイミド前駆体の膜を得る工程は120℃以下で行なわれることが好ましい。この温度以上ではジアゾナフトキノン系感光剤が熱分解し始める虞がある。また、60℃で製膜した場合、塗膜は多量の溶媒が残留している。その場合露光操作に先立ち80〜120℃で1〜30分間プリベイクしてもよいが、塗膜を1〜5分間水中に浸漬することも効果的である。残留溶媒は現像時の膜の膨潤及び/又はパターンの崩れを招く恐れがあり、鮮明なパターンを得るためには残留溶媒を十分除去しておくことが好ましい。
【0108】
上記感光性樹脂組成物膜にフォトマスクを介して高圧水銀灯のi線を室温で10秒〜1時間照射し、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて室温で10秒〜10分間現像し、さらに純水でリンスすることにより鮮明なポジ型パターンを得ることができる。
【0109】
現像については、従来公知の方法で行なえばよく、例えばアルカリ水溶液を用いてもよいがこれに限定されない。アルカリ水溶液を用いて現像を行なう際、露光部と未露光部の溶解度差が不十分な場合、鮮明なレリーフパターンが得られにくいことがある。この場合、適当なモノマーを用いて本発明に係るポリイミド前駆体を主成分とする共重合体を合成することで、アルカリ水溶液に対する溶解度を制御することが可能である。この際使用可能な共重合成分として特に限定されないが、フッ素基を含有するモノマーが好適に用いられる。
【0110】
基材上に形成されたポリイミド前駆体の微細パターンを空気中、窒素等の不活性ガス雰囲気中あるいは真空中、200℃〜430℃、好ましくは250℃〜400℃の温度で加熱硬化することで鮮明なポリイミド膜のパターンが得られる。この際、イミド化は脱水環化試薬を用いて化学的に行なうこともできる。即ち、ピリジン、トリエチルアミン等の塩基性触媒を含む無水酢酸中に、基材上に形成されたポリイミド前駆体膜を室温で1分〜数時間浸漬する方法によってもポリイミド膜のパターンを得ることができる。本発明に係る感光性樹脂組成物であって、感光剤としてDNQ系剤を含有するものは、特に微細パターン形成能、高いi線透過率、耐熱性、電気絶縁性を併せ持つため、バッファーコートの材料として好適に使用することができる。
【0111】
〔本発明に係るディスプレー用基板〕
本発明に係るディスプレー用基板は本発明に係るポリイミドを含有するものであればよい。本発明に係るディスプレー用基板は、透明性、柔軟性に優れているので、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー等の種々のディスプレーに適用できる。これらはフレキシブルなディスプレーであってもよい。つまり、本発明に係るディスプレー用基板は、例えば、液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー用基板、これらがフレキシブルに構成されたフレキシブルディスプレー用基板を包含し得る。
【0112】
本発明に係るポリイミドをフレキシブル液晶ディスプレー用プラスチック基板に適用するために要求される特性として、ポリイミドのガラス転移温度は、230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。また透明性の指標である波長400nmにおける光透過率は好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%である。またポリイミド膜は膜靭性の指標として180°折曲試験により破断しなければ上記産業分野に適用可能であるが、引張試験において破断伸びが好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。複屈折は0.01以下であれば上記ディスプレー等の光学材料に適用するのに重大な問題はないが、0.005以下であることがより好ましい。
【0113】
〔本発明に係る集積回路の層間絶縁膜〕
本発明に係る集積回路の層間絶縁膜は、本発明に係るポリイミドを含有するものであればよい。
【0114】
本発明に係るポリイミドを集積回路の層間絶縁膜に適用するために要求される特性として、ポリイミドのガラス転移温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。またポリイミド膜は膜靭性の指標として180°折曲試験により破断しなければ、集積回路を使用する種々の産業分野に十分適用可能である。また誘電率は2.8以下であることが好ましく、2.7以下であることが更に好ましい。本発明に係るポリイミドは、集積回路のバッファーコートとしても利用可能である。
【0115】
〔本発明に係る液晶配向膜〕
本発明に係る液晶配向膜はポリイミドを含有するものであればよい。つまり、本発明に係るポリイミド前駆体又は本発明に係るポリイミドは、液晶配向膜材料に適用することが可能である。本発明に係るポリイミドは、ジアミン成分にフッ素基、スルホン基等を含むものを使用することで有機溶媒に対する溶解性を高めることができ、ポリイミドワニスを塗布・乾燥・ラビング処理することで、液晶配向膜とすることができる。
【0116】
本発明に係るポリイミドは脂環構造を有するため、ガラス転移温度は250℃以上であり、TFT型液晶ディスプレー、半導体チップの作製時に要求される短期耐熱性は充分高く、ディスプレー、半導体等に関連する産業分野への応用には全く問題がない。
【0117】
また、本発明に係るtt−CHTCAは、様々な産業分野において使用される各種ポリイミドの物性を大きく犠牲にすることなく分子量を高める目的で、共重合成分として使用することができる。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における物性値は、次の方法により測定した。
【0119】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製FTIR−8400S、日本分光社製FT−IR5300又はFT−IR350)を用い、透過法にて本発明に係るtt−CHTCA、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。また、本発明に係るtt−CHTC及びtt−CHTCAの分子構造を確認するためにKBr法により赤外吸収スペクトルを測定した。
【0120】
<示差走査熱量分析(融点及び融解曲線)>
本発明に係るtt−CHTC及びtt−CHTCAの融点及び融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。
【0121】
<単結晶X線構造解析>
単結晶X線構造解析については、ブルカー・ジャパン社製、単結晶X線構造解析装置(SMART APEXII)を用い、測定温度294K、X線源CuKα線、管電圧50kV、管電流30mAで測定した。
【0122】
<粉末X線回折パターン>
粉末X線回折パターンについてはブルカーエイエックスエス社製、粉末X線回折装置(M03XHF22)を用い、測定温度294K、X線源CuKα線、管電圧45kV、管電流40mA、サンプリングステップ0.02°、スキャン速度4°/分、測定範囲2θ=5〜60°で測定した。
【0123】
<固有粘度>
0.5重量%のポリイミド前駆体溶液(溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド又はNMP)について、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0124】
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリイミド膜のガラス転移温度を求めた。
【0125】
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリイミド膜の線熱膨張係数を求めた。
【0126】
<5%重量減少温度:Td5>
ブルカーエイエックスエス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中又は空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミド膜の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0127】
<カットオフ波長(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短い程、ポリイミド膜の透明性が良好であることを意味する。
【0128】
<光透過率(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、400nmにおける光透過率を測定した。透過率が高い程、ポリイミド膜の透明性が良好であることを意味する。
【0129】
<複屈折>
アタゴ社製アッベ屈折計(4T)を用いて、ポリイミド膜に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
【0130】
<誘電率及び誘電損失>
アタゴ社製アッベ屈折計(4T)を用いて、ポリイミド膜の平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×nav2により1MHzにおけるポリイミド膜の誘電率(εcal)を算出した。
【0131】
<弾性率、破断強度、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリイミド膜の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、膜が破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほど膜の靭性が高いことを意味する。
【0132】
〔実施例1〕
本実施例1及び次の実施例2では、以下の合成経路(10)
【0133】
【化20】
により本発明に係るtt−CHTCAを合成した。具体的には次の通りである。
【0134】
まず、非特許文献2の記載にしたがい(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を合成した。ピロメリット酸二無水物 465g、5%ロジウム/カーボン触媒 175gと蒸留水 2940gを容積5Lの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに入れ、反応温度60℃、水素圧5MPaで水素化を行なった。1.5時間後、反応液を抜き出し、ろ過により触媒を除去した後、エバポレーターにより乾固し、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸(式10(a))449gを得た。
【0135】
次に、上記の(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸 38g(0.146モル)、水酸化ナトリウム 24g(0.600モル)及び蒸留水 108gを容積200mLの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに入れ、窒素雰囲気下、230℃で5時間異性化反応を行なった。
【0136】
次に、異性化反応後の反応液を30℃まで冷却した後、当該反応液を容積500mLの三つ口フラスコに移して、撹拌しながら35%塩酸 63g(0.605モル)をゆっくりと滴下したところ、白色の析出物が生じた。さらにそのまま1時間撹拌を続けた。
【0137】
次に、攪拌後の反応液を吸引ろ過して、白色の析出物を回収した後、80℃で5時間減圧乾燥した。その結果、32.3gの白色粉末を得た。得られた白色粉末を0.5Nメタノール性塩酸中で加熱して、テトラメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチルに相当するピークが完全に消失し、異なる位置に単一のピークが検出された。さらに、この白色粉末を水から再結晶し、単結晶X線構造解析を行った結果、tt−CHTCであることが確認された。その立体構造を図1に示す。また、図2及び3にNMRスペクトルを示す。図1は本実施例で得られたtt−CHTCの立体構造を示す図である。図2は本実施例で得られたtt−CHTCの1H−NMRスペクトルを示す図、図3は本実施例で得られたtt−CHTCの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【0138】
また、上記異性化反応のモル収率は85%であった。
【0139】
〔実施例2〕
実施例1で得られたtt−CHTC 25g(0.096モル)と無水酢酸 75g(0.735モル)とを容積200mLのフラスコに入れて混合することで懸濁液を得た。当該懸濁液を80℃のオイルバスで7時間加熱、撹拌した。
【0140】
次に、攪拌後の懸濁液を30℃まで冷却した後、ろ過して、ろ別した白色粉末を80℃で5時間減圧乾燥させた。その結果、18.1gの白色粉末が得られた。
【0141】
得られた白色粉末の赤外吸収スペクトル測定の結果、カルボキシル基由来の3000cm−1付近のO−H伸縮振動が消え、1869cm−1と1790cm−1に吸収帯が見られた。これらは五員環構造の酸無水物C=O伸縮振動に特徴的な吸収帯であり、上記反応により、五員環構造の酸無水物が合成されたことを示している。また、当該白色粉末は有機溶剤への溶解度、熱安定性が低く、結晶性が悪いため、単結晶X線構造解析に好適な結晶を得ることができなかった。そこで、当該白色粉末5g、蒸留水55gと4−ジメチルアミノピリジン0.05gを100mLナス型フラスコに入れ、80℃で24時間加熱し、加水分解物(テトラカルボン酸)を合成した。こうして得られた均一水溶液を30℃まで冷却した後、析出した結晶を分取し、粉末X線解析を行った結果、実施例1で得られた白色粉末と同じ回折パターンを示し、この加水分解生成物(テトラカルボン酸)と実施例1に記載のテトラカルボン酸の立体構造は同一であることが確認された。即ち、実施例1の立体構造は無水化反応後も保持されていることを示している。つまり、無水化反応により得られた白色粉末はtt−CHTCAである。上記の無水化反応のモル収率は84%であった。次に、tt−CHTCAの赤外吸収スペクトル及びNMRスペクトルを測定した。結果を図4〜6に示す。図4は本実施例で得られたtt−CHTCAの赤外吸収スペクトルを示す図であり、図5は1H−NMRスペクトルを示す図であり、図6は13C−NMRスペクトルを示す図である。また、実施例1で得たtt−CHTCと、これを無水化後加水分解して得られたテトラカルボン酸の粉末X線回折パターンをそれぞれ測定した。結果を図7、図8に示す。図7は無水化前のtt−CHTCの粉末X線回折パターンを示す図であり、図8はtt−CHTCAの加水分解物のX線回折パターンを示す図である。
【0142】
〔実施例3〕
容積5Lの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに、水酸化ナトリウム 530g(13.25モル)と蒸留水 2500gを入れ、撹拌した。得られた水酸化ナトリウム水溶液に、ピロメリット酸二無水物 715g(3.28モル)、5%ルテニウム/カーボン触媒 28.6gを入れ、反応温度160℃、水素圧8MPaで水素化を行った。水素吸収は3時間で停止した。次に、水素化反応液を220℃まで昇温し、さらに4時間反応を続け、30℃まで冷却した後、反応液を抜き出した。
【0143】
ろ過により触媒を除去した後、得られた反応液を容積10Lの三つ口フラスコに移して、撹拌しながら35%塩酸 1400g(13.44モル)をゆっくりと滴下したところ、白色の析出物が生じた。さらにそのまま1時間撹拌を続けた。
【0144】
次に、攪拌後の反応液を吸引ろ過して、白色の析出物を回収した後、80℃で5時間減圧乾燥した。その結果、676gの白色粉末を得た。得られた白色粉末を0.5Nメタノール性塩酸中で加熱して、テトラメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、得られた白色粉末はtt−CHTCであることが確認された。上記異性化反応のモル収率は81%であった。また、得られた白色粉末はナトリウムを1991ppm含んでいた。
【0145】
次に、得られたtt−CHTC 300gと蒸留水 1500gとを容積2Lのフラスコに入れ、100℃で2時間撹拌した。得られた均一溶液を撹拌しながら、ゆっくりと30℃まで冷却した後、析出した結晶をろ過した。得られた結晶を80℃で5時間減圧乾燥した結果、227.7gの白色結晶が得られた。上記の再結晶の収率は76%、ナトリウム含有量は5ppmであった。
【0146】
得られた二無水物の結晶 200g(0.77モル)と無水酢酸 800g(7.84モル)とを容積2Lのフラスコに入れ、80℃のオイルバスで7時間加熱、撹拌した。得られた懸濁液を30℃まで冷却した後、ろ過して、ろ別した白色粉末を80℃で5時間減圧乾燥させた。その結果、148.2gのtt−CHTCAが得られた。上記の無水化反応のモル収率は87%であった。また、ICP質量分析により金属含有量を測定した結果、鉄:810ppb、ニッケル:検出せず、クロム:560ppb、ルテニウム:検出せず、ナトリウム:320ppbであった。
【0147】
〔実施例4〕
実施例1で合成した(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸 2.0gと蒸留水 8.0gを容積50mLの撹拌機つきハステロイ製オートクレーブに入れ、窒素雰囲気下、230℃で7時間異性化反応を行なった。
【0148】
さらに、20℃まで冷却した後、析出した結晶をろ過した。回収したろ物を100℃で5時間減圧乾燥した結果、1.4gの淡褐色粉末が得られた。得られた淡褐色粉末をメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、当該粉末はtt−CHTCであり、純度は87%であることがわかった。このときのモル収率は67%であった。
【0149】
〔実施例5〕
まず、特許文献2(実施例4)を参考に(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチルを次のように合成した。ピロメリット酸二無水物 15gとメタノール 50gを容積200mLの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに入れ、220℃で1時間エステル化を行なった。この溶液に5%ルテニウム/カーボン 0.3gを入れ、温度130℃、水素圧10MPaで3時間水素化を行った。次に、ろ過により触媒を除去し、得られた溶液をエバポレーターで乾固し、白色固体を得た。得られた固体を冷メタノールで洗い、減圧乾燥することで、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチル 15.8gを得た。
【0150】
次に、得られた(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチル 10g(0.032モル)、ナトリウムメトキサイド 1g(0.019モル)、及び脱水メタノール 50gを容積200mLのフラスコに入れ、当該懸濁液を80℃のオイルバスで4時間還流させた。
【0151】
さらに、20℃まで冷却した後、当該懸濁液をろ過し、白色粉末を回収した後、50℃で5時間減圧乾燥した結果、2.5gの白色結晶が得られた。ガスクロマトグラフィにより分析した結果、当該粉末はtt−CHTCテトラメチルであり、純度は98%であることがわかった。このときのモル収率は25%であった。
【0152】
〔実施例6〕
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にp−フェニレンジアミン(以下「PDA」と称する)5mmolをNMPに溶解し、この溶液に実施例2で得たtt−CHTCAの粉末5mmolを徐々に加え、室温で72時間攪拌することで均一・透明で粘稠なポリイミド前駆体溶液が得られた。この際の溶質濃度は12.2重量%である。このポリイミド前駆体溶液は室温及び−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃で測定したポリイミド前駆体の固有粘度は1.60/gであり、高重合体であった。
【0153】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、80℃、2時間で温風乾燥して得たポリイミド前駆体膜を真空中200℃で20分、250℃で30分、続いて320℃又は350℃で1時間熱処理することでイミド化した。これにより膜厚約20μmの透明で強靭なポリイミド膜を得た。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。180°折り曲げ試験によりこのポリイミド膜は破断せず、可撓性を示した。表1にポリイミドフィルムの物性値を示す。ガラス転移温度407℃、カットオフ波長292nm、400nmでの透過率64.6%、破断伸び30.8%、複屈折Δn=0.0056、誘電率は2.82であり優れた特性を示した。その他の物性も表1に示す。
【0154】
【表1】
また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図9及び図10に示す。図9は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図10は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0155】
〔実施例7〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、4,4’−オキシジアニリン(以下、「ODA」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い高い固有粘度値(1.52dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg、高い透明性、十分な膜靭性、低い複屈折を示した。
【0156】
また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図11及び図12に示す。図11は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図12は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0157】
〔実施例8〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、「TFMB」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い、極めて高い固有粘度値(2.43dL/g)のポリイミド前駆体を得た。このポリイミド前駆体溶液に化学イミド化試薬(無水酢酸/ピリジン混合溶液、体積比7/3)を滴下し、室温で24時間攪拌してイミド化を行った。このポリイミド溶液を大量の水中に滴下して沈殿させ、洗浄・濾過・乾燥してポリイミドを粉末として単離した。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。このポリイミド粉末をシクロペンタノンに溶解してワニスとし、実施例6に記載した方法と同様な条件でキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。非常に高いTg,極めて高い透明性、非常に高い膜靭性、極めて低い誘電率を示した。このポリイミドはトリフルオロメチル基を有しているため、有機溶媒性即ち溶液加工性が高く、NMP、DMAc、DMF、DMSO、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等に室温で高い溶解性を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図13及び図14に示す。図13は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図14は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0158】
〔実施例9〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン (以下BAPBと称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い、非常に高い固有粘度値(1.84dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg,高い透明性、十分な膜靭性、極めて低い複屈折を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図15及び図16に示す。図15は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図16は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0159】
〔実施例10〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(以下、「BAPP」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い、非常に高い固有粘度値(1.84dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg、高い透明性、極めて高い膜靭性(破断伸び:114%)、極めて低い複屈折を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図17及び図18に示す。図17は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図18は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0160】
〔実施例11〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン(以下、「BAPS」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行ない、高い固有粘度値(1.44dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg,非常に高い透明性、高い膜靭性、極めて低い複屈折を示した。このポリイミドは極性の高いスルホン基を有しているため、有機溶媒性即ち溶液加工性が高く、NMP等に室温で高い溶解性を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図19及び図20に示す。図19は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図20は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0161】
〔実施例12〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(以下、「MBCHA」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行なった。重合初期に塩形成が見られたが、室温で攪拌することで徐々に塩が溶解して固有粘度値(0.669dL/g)の均一なポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。非常に高いTg,非常に高い透明性、十分な膜靭性、極めて低い複屈折を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図21及び図22に示す。図21は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図22は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0162】
〔実施例13〕
十分に乾燥させた攪拌機付密閉反応容器中に4,4’−オキシジアニリン(以下、「ODA」と称する)5mmolをDMAcに溶解し、反応溶液を調製した。この反応溶液に実施例2で得たtt‐CHTCAの粉末2.5mmolと、非特許文献2に従い製造した(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水化して得られたcc−CHTCA2.5mmolとの混合物を徐々に加え、室温で72時間攪拌することによって、均一かつ透明であり、粘稠なポリイミド前駆体溶液が得られた。DMAc中、30℃で測定したポリイミド前駆体の固有粘度は0.512dL/gであった。
【0163】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で温風乾燥して得たポリイミド前駆体膜を真空中200℃で30分、続いて250℃で30分、さらに320℃で1時間熱処理することによってイミド化した。これにより透明で強靭なポリイミドフィルムを得た。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。各物性としては、ガラス転移温度336℃、線熱膨張係数CTE=53ppm/K、5%重量減少温度454℃(窒素中)及び434℃(空気中)、カットオフ波長294nm、400nmでの透過率80.8%、複屈折Δn=0.0005、誘電率は2.87calであった。
【0164】
このように、種々の異性体を有するCHTCA中にtt−CHTCAを含有していれば、従来知られていたCHTCAを用いたポリイミドの優れた物性を損なうことなく、高分子量のポリイミドを得ることができることが示された。
【0165】
〔比較例1〕
実施例1で得られた(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水酢酸中130℃で無水化し、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を得た。
【0166】
tt−CHTCAの代わりに、上記の(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン成分としてTFMBを用いて、実施例8に記載した方法と同様にポリイミド前駆体の重合を行った。しかしながら得られたポリイミド前駆体の固有粘度値は0.101dL/gと非常に低く、このワニスを用いてガラス基板上に製膜を試みたが、フィルムに無数の亀裂が入り、製膜不能であった。これはtt−CHTCAを使用しなかったため、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらなかったためである。また実施例6に記載した方法と同様にキャストして、イミド化を行い、ポリイミド粉末をシクロペンタノンに溶解してワニスとし、製膜を試みたがやはり無数の亀裂が入り、製膜不能であった。
【0167】
〔比較例2〕
ジアミン成分としてTFMBの代わりにPDAを使用した以外は比較例1に記載した方法に従ってポリイミド前駆体を重合した。しかしながら固有粘度値は0.33dL/gと非常に低く、製膜を試みたが比較例1と同様製膜不能であった。これはtt−CHTCAを使用しなかったため、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらなかったためである。
【0168】
〔比較例3〕
ジアミン成分としてTFMBの代わりにODAを使用した以外は比較例1に記載した方法に従ってポリイミド前駆体を重合した。しかしながら固有粘度値は0.41dL/gと低い値であった。これはtt−CHTCAを使用しなかったため、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらなかったためである。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明に係るtt−CHTCAは、ポリイミドの原料として優れているので、化学品、繊維、試薬等に関する化学分野に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】実施例1で得たtt−CHTCの立体構造を示す図である。
【図2】実施例1で得たtt−CHTCの1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で得たtt−CHTCの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で得たtt−CHTCAの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2で得たtt−CHTCAの1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】実施例2で得たtt−CHTCAの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】実施例2で得た無水化前のtt−CHTCの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】実施例2で得たtt−CHTCAの加水分解物のX線回折パターンを示す図である。
【図9】実施例6で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図10】実施例6で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図11】実施例7で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図12】実施例7で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図13】実施例8で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図14】実施例8で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図15】実施例9で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図16】実施例9で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図17】実施例10で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図18】実施例10で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図19】実施例11で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図20】実施例11で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図21】実施例12で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図22】実施例12で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持つ、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドとその前駆体のモノマーとなる新規の(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、そのテトラカルボン酸、それらの製造方法、そのポリイミド前駆体、そのポリイミド及びそれらポリマーの用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸及びその二無水物は高耐熱、高透明性、低誘電率、高靭性ポリイミドの原料として有用な化合物である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法としては、ピロメリット酸エステルのベンゼン環を水素化還元する方法(例えば特許文献2、非特許文献1参照)、ピロメリット酸のベンゼン環を直接水素化還元する方法(例えば特許文献3、非特許文献2参照)等が報告されている。
【0004】
しかしながらこれらの方法で合成された1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸の二無水物はジアミンとの重合反応性に劣り、十分な重合度に達しないため十分な膜靭性を示すほど高分子量体がしばしば得られない。これは1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が下記式(6)及び(7)
【0005】
【化1】
(式(6)中、Bは4価の船型シクロヘキサン基を表し、その立体配置は下記式(7)で表される。)
【0006】
【化2】
で表されるシス−シス−シス体(1,2位のカルボニル基が同方向のシス体であり、4,5位も同じくシス体であり、且つ1,2位と4,5位が同方向を向くシス体であることを意味する)であり、熱力学的に最も安定な立体構造をとっているためであると考えられている(例えば非特許文献3参照)。また1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物では、官能基である酸無水物基が空間的に近接していることに起因して、重合反応時に立体障害が生ずる恐れがあり、これも重合反応性の低さの一因であると考えられている。
【0007】
このように1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を使用して透明で靭性のあるポリイミドフィルムを得ることは容易ではなく、フレキシブルディスプレー用プラスチック基板としての要求特性を満足する材料もまた知られていない。
【特許文献1】特開2003−168800号公報(2003年6月13日公開)
【特許文献2】特開平8−325196号公報(1996年12月10日公開)
【特許文献3】特開2003−286222号公報(2003年10月10日公開)
【非特許文献1】Dnaiel T. Longone, Derivatives of Pyromellitic Acid. 1,2,4,5-Tetrasubstituted Cyclohexanes, J. Org. Chem., 1963, vol.28, pp1770-1773
【非特許文献2】Morris Freifelder, Daniel A. Dunnigan, and Evelyn J. Baker, Low-Pressure Hydrogenation of Some Benzenepolycarboxylic Acids with Rhodium Catalyst, J. Org. Chem., 1966, vol.31, pp3438-3439
【非特許文献3】Higher Performace Polymers. 2007, vol. 19, p175
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の技術により得られる1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水物化しても、ピロメリット酸二無水物等の芳香族化合物と比べ、ジアミンとの反応性が低いため、重合度の高いポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を製造することが困難であった。1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸ブロックをもつポリイミドが高透明性、低誘電率等の優れた特性を有することは明らかになっているが、上述のように重合性が低いという問題が主因となり開発が難航していた。
【0009】
本発明は、このような問題を克服するためになされたものであり、その目的は、高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持ち、各種電子デバイスにおける各電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドの原料として有用である、新規の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸及びそれを利用した技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の問題に鑑み、発明者らが鋭意研究を積み重ねた結果、従来の重合反応性に乏しい1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸無水物の立体構造を精密に制御するべく、このテトラカルボン酸を選択的に異性化し、無水物化することにより下記一般式(8)
【0011】
【化3】
(式(8)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、その立体配置は下記式(2)で表される。)
【0012】
【化4】
で表される新規な(1S,2S,4R,5R)−テトラカルボン酸二無水物(以下tt−CHTCAと称する)即ち、上記式(7)で表されるシス−シス−シス体の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の異性体を製造できる方法を見いだした。
【0013】
また、このtt−CHTCAを用いることで、各種ジアミンと反応させてポリイミド前駆体の高分子量体を容易に得ることが可能になり、さらにこれをイミド化して得られるポリイミドは極めて高い透明性、高い耐熱性、十分な膜靭性、及び極めて低い誘電率を達成することから、フレキシブル液晶ディスプレー用プラスチック基板、集積回路の層間絶縁膜及び液晶配向膜等としてこれまでにない有益な材料を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)tt−CHTCA。
(2)tt−CHTCAを50%以上含有することを特徴とする1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物。
(3)(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸(以下、「tt−CHTC」と称する)。
(4)1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のシス−シス−シス体(以下、「cis−CHTC」と称する。また、cis−CHTCの無水化物を「cis−CHTCA」と称する)及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラ塩を、加熱することで異性化反応させることを特徴とするtt−CHTCの製造方法。
(5)cis−CHTC及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラエステルを加熱することで異性化反応させることを特徴とするtt−CHTCの製造方法。
【0015】
該製造方法によれば、熱に対して比較的不安定なcis−CHTCテトラエステルから、比較的低温でも反応が実施できることができる。触媒によりこの異性化反応を触媒により促進させてもよい。
(6)異性化反応の際、塩基性触媒を用いることを特徴とする(4)のtt−CHTCの製造方法。
(7)上記塩基性触媒として、アルカリ金属アルコキサイドを用いることを特徴とする(6)のtt−CHTCの製造方法。
(8)tt−CHTCを脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含むことを特徴とするtt−CHTCAテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
(9)tt−CHTCを脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含むことを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
(10)(9)記載の製造方法で製造されたテトラカルボン酸二無水物。
(11)一般式(1)
【0016】
【化5】
(上記一般式(1)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Rは水素原子、トリアルキルシリル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシル基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は、以下の式(2)で表され、
【0017】
【化6】
上記Xと、上記Xと結合している2つのアミド基及び2つのカルボキシル基と、の結合位置は下記式(3)又は(4)のいずれかで表される。
【0018】
【化7】
【0019】
【化8】
(式(3)及び(4)において、Yは上記Xに結合する2つのアミド基を示し、Zは上記Xに結合する2つのカルボキシル基を表す))
で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
(12)下記一般式(5)
【0020】
【化9】
(式(5)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は下記式(2)で表される)
【0021】
【化10】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
(13)1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミド前駆体であって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が(10)に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド前駆体。
(14)1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミドであって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が(10)に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド。
(15)(11)又は(13)に記載のポリイミド前駆体及び感光剤を含有する感光性樹脂組成物。
(16)(15)に記載の感光性樹脂組成物を、基材上にパターン露光して、パターン露光後に現像して、現像後に加熱硬化することにより得られるものであるパターンが形成されていることを特徴とする構造体。
(17)(12)又は(14)に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とするディスプレー用基板。
(18)(12)又は(14)に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とする集積回路の層間絶縁膜。
(19)(12)又は(14)に記載のポリイミドを含有する液晶配向膜。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高透明性、十分な膜靭性、低誘電率及び高ガラス転移温度を併せ持ち、各種電子デバイスにおける各電気絶縁膜及び液晶ディスプレー(LCD)用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜、光導波路材料、特にディスプレー用基板、半導体素子の層間絶縁膜及び保護膜、液晶配向膜として有益なポリイミドの原料として有用な、新規の1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を提供することができる。
【0023】
即ち、本発明に係るtt−CHTCAの製造方法に従って合成された極めて高純度のtt−CHTCAをモノマーとして使用することで、従来のcis−CHTCAを用いて得ることのできなかった高分子量のポリイミド前駆体及び高分子量ポリイミドを容易に製造することが可能であり、結果としてポリイミド膜の脆弱性が大きく改善され、上述の電子デバイス等に関連する様々な産業において極めて有益な材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0025】
<1.tt−CHTC及びtt−CHTCA>
本発明に係るtt−CHTCは下記式(8)で示される化合物である。
【0026】
【化11】
(式(8)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、その立体配置は下記式(2)で表される。つまり4価の椅子型シクロヘキサン基といってもよい。)
【0027】
【化12】
また、本発明に係るtt−CHTCAは下記式(9)で示される化合物であり、例えば、tt−CHTCを無水物化することで得ることができる。
【0028】
【化13】
(式(9)中、Xは式(8)のものと同一である。)
本発明に係るtt−CHTCAは、重合性が極めて高く、ポリイミドのモノマーとして極めて有用である。N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)又はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で種々のジアミンと反応させ、得られたポリアミド酸溶液の固有粘度を測定し、重合性を評価すると、本発明に係るtt−CHTCAを用いた場合では、ポリアミド酸の固有粘度は0.65〜2.4dL/gである。これは従来使用されてきたCHTCAの重合性が通常、0.1〜0.5dL/gであることと比較すると極めて高い値であり、重合度の高いポリイミドが容易に製造できる。
【0029】
また、本発明に係る1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、tt−CHTCAを50%以上含有するものである。上述のようにポリイミドのモノマーとして有用なtt−CHTCAを50%以上含有することにより、優れたポリイミド材料を提供することができる。
【0030】
<2.tt−CHTCの製造方法>
本発明に係るtt−CHTCは、cis−CHTC、そのテトラ塩、又はそのテトラエステルを異性化反応させることにより製造すればよい。異性化反応については、例えば加熱することにより行なえばよく、加熱温度については原料等に応じて適宜制御すればよい。詳しくは後述する。
【0031】
上記異性化反応に供する原料として、上述のcis−CHTC、及びcis−CHTCのテトラ塩の他に、cis−CHTCのテトラエステルでもよく、その場合使用するcis−CHTCのテトラエステルは異性体混合物であってもよい。
【0032】
cis−CHTCを制御された温度条件で加熱して異性化反応させることにより、cis−CHTCの近接する2つの置換基同士が、立体障害の小さいトランス体構造へと次第に変換される。なお、本明細書において「異性体混合物」とはシス−シス−シス体と部分的にトランス構造を含むものとの立体異性体の混合物を意味する。
【0033】
異性化反応に供するcis−CHTC等としては、市販のもの、その塩、又はそのエステル化物を用いることができ、従来公知の方法で合成したものを用いてもよい。cis−CHTCの合成方法としては、例えば、ピロメリット酸をロジウム触媒により水素化還元してもよいし、ピロメリット酸テトラエステルを水素化還元して、加水分解してもよい。いずれの原料を用いた場合でも、制御された温度条件で加熱することで同様な異性化反応挙動を示す。したがって、得られるtt−CHTCは後述の脱水環化(無水化)反応等において同様に扱うことができる。
【0034】
異性化反応では、溶剤にcis−CHTC等を溶解させて加熱する。この溶剤としては、特に限定されないが、水、触媒及び原料に対して不活性な有機溶剤等を用いればよい。原料としてcis−CHTC又はそのテトラ塩を用いるときは、溶剤として水を用いることが好ましい。これは、cis−CHTC又はそのテトラ塩が、有機溶剤に対する溶解度に比べて、熱水に対して高い溶解度を有するためである。また、原料としてcis−CHTCのテトラエステルを用いる場合、有機溶剤を使用することが好ましい。これは該テトラエステルが、水に対する溶解度に比べて、有機溶剤に対して高い溶解度を有するためである。
【0035】
以下に、tt−CHTCの製造方法の具体例として、原料としてcis−CHTCを用いる場合、cis−CHTCのテトラ塩を用いる場合、cis−CHTCのテトラエステルを用いる場合についてそれぞれ説明する。
【0036】
〔2−A.cis−CHTCの異性化反応〕
まず、原料としてcis−CHTCを用いる場合の異性化反応について説明する。該異性化反応については、水、中でも熱水に対する溶解性が高いため、水中で反応を行なうことが好ましいが、これに限定されない。
【0037】
また、異性化反応の際には加熱するとよい。加熱の温度としては特に限定されないが、高温であることが好ましく、具体的には180〜300℃が好ましく、200〜260℃がより好ましい。180〜300℃の範囲であれば、良好な反応速度を得ることができ、容易に近接する2つの置換基同士をトランス体構造へ変換できる。また、この温度範囲であれば、特別な耐圧性能を要することがなく、従来公知の様々な加熱装置等を反応装置として用いることができるので、より容易に異性化反応させることができる。
【0038】
原料としてcis−CHTCを用いる異性化反応では、cis−CHTC自身が酸触媒として機能する。そのため、原料としてcis−CHTCを用いる形態は、無触媒でも実施可能である点で有利である。
【0039】
なお、別途、触媒を用いてもよい。別途、触媒を用いる場合、該触媒をcis−CHTCが溶解された溶剤に添加して用いればよい。また、cis−CHTC及び触媒が共に溶剤に溶解した状態で異性化反応を行なうことがより好ましい。
【0040】
反応の際に使用する水の量は特に限定されず、触媒の有無、触媒の種類に応じて設定してもよい。例えば、cis−CHTCに対して100〜800重量部の水を加えて実施してもよい。
【0041】
また、異性化反応の反応時間は特に限定されず、触媒の有無、触媒の種類、反応温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、3〜10時間であれば異性化反応を十分に行なうことができる。
【0042】
なお、上述した別途触媒を用いる場合、該触媒の具体例としては特に限定されるものではないが、cis−CHTCよりも強い酸であることが好ましく、好適に使用される酸触媒として塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸等の無機酸;シュウ酸、d−酒石酸等、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸の有機酸;等を挙げることができる。このうち除去しやすい水溶性のものが好ましく、酸強度が強く、酸痕が残りにくい硝酸等が特に好ましい。なお、酸触媒は使用する装置の性能(酸耐性等)に応じて選定する必要がある。また、いずれの酸触媒を用いる場合でも、その使用量は限定されるものではなく、cis−CHTCに対して好ましくは0.01〜50重量部、より好ましくは0.1〜20重量部の範囲で使用される。なお、触媒の使用量は多い方が、反応が速やかに進行するという利点がある。一方、触媒の使用量が過剰になると、cis−CHTCの処理量が減る恐れがある。
【0043】
また、異性化反応後の反応液を冷却するとよい。冷却の温度は特に限定されないが、0〜40℃が好ましく、さらに好ましくは0〜20℃である。また、冷却により析出したものをろ過等により回収して、乾燥してもよい。なお、必要に応じて上記反応液を濃縮してから冷却してもよい。
【0044】
〔2−B.cis−CHTCのテトラ塩の異性化反応〕
次に、原料としてcis−CHTCのテトラ塩を用いる場合の異性化反応について説明する。この場合、cis−CHTC及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラ塩を、加熱することで異性化反応させるとよい。
【0045】
また、後述するアルカリ、及びCHTCのテトラ塩に対する良溶剤中、特に水中で異性化反応させることが好ましい。反応の際に使用する水の量としては特に限定されないが、後述する中和後の塩を溶解するための最小量は少なくとも必要である。具体的には水酸化ナトリウムを用いる場合、cis−CHTCに対して200〜800重量部の水を加える。
【0046】
cis−CHTCのテトラ塩は、アルカリ(例えばアルカリ溶液)にcis−CHTCを加えて調製してもよい。このとき、30分程度撹拌することが好ましい。使用可能なアルカリの例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属類;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属類;等が挙げられる。この中でも、安価で入手しやすさ、及び形成される塩の安定性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。また、いずれのアルカリを用いる場合でも、その使用量としてはcis−CHTCに対し4〜6当量が好ましく、4〜5当量が特に好ましい。4当量以上添加すれば速やかに反応が進行するだけでなく、アルカリ塩の形成によりcis−CHTCの溶解度が増大するうえ、金属製反応容器の腐食の恐れが低減するため、効率よく異性化反応させることができる。一方アルカリの使用量が過剰になると、cis−CHTCの処理量が減る恐れがあるが、6当量以下であれば、このような恐れは無く生産効率が向上する。また、上記のアルカリとピロメリット酸を反応させて得られた塩を、公知の方法にしたがい水素化還元することでcis−CHTCのテトラ塩を合成し、そのまま異性化反応に供することもできる。
【0047】
ここに記載する事項以外の異性化反応の条件としては、上記のcis−CHTCの異性化反応と同様に実施できるが、アルカリの影響により反応が促進されるため、より低温でも行なうことができる。具体的な温度としては、130〜250℃の範囲であれば、より良好な反応速度を得ることができ、容易にcis−CHTC塩をtt−CHTC塩に変換することができるため好ましい。
【0048】
異性化反応の後に強酸を添加することでテトラカルボン酸のテトラ塩を中和してtt−CHTCを得てもよい。中和に用いる強酸の種類は特に限定されるものではないが、酸強度が強いものが好ましく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸又はフッ酸等の無機酸が、効率よく中和が進行するため、より好ましい。中でも安価で酸痕が残りにくい塩酸が特に好ましい。また、アルカリを中和するための強酸の使用量は特に限定されないが、当該アルカリに対して、1〜1.2当量使用すればよい。この量であれば、tt−CHTCの塩の残留を十分に防ぐことができる。
【0049】
中和により、tt−CHTCの水に対する溶解度が低下し、tt−CHTCを効率よく析出させ、ろ過等により回収することができ、これを乾燥することで純度の高いtt−CHTCを得ることができる。このとき、中和で生じた塩は水に溶け込んでおり、容易に除去することができる。また、必要に応じてtt−CHTCを含む水溶液を濃縮してもよい。また、ナトリウム等の金属分を下げるために再度水で晶析させてもよい。
【0050】
〔2−C.cis−CHTCのテトラエステルの異性化反応〕
次に、原料としてcis−CHTCのテトラエステルを用いる異性化反応について説明する。この場合、cis−CHTC及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラエステルを加熱することで異性化反応させるとよい。該エステルは一般に水に難溶であるため、溶媒としては有機溶剤が好ましい。
【0051】
cis−CHTCのテトラエステルとしては、例えば、テトラメチルエステル、テトラエチルエステル等の、合成又は入手しやすいものを用いてもよい。例えば、市販のcis−CHTCのテトラエステル化物を用いてもよいし、公知の方法で合成したものを用いてもよい。cis−CHTCのテトラエステルの合成方法としては、特に限定されないが、例えば、ピロメリット酸テトラエチルエステルをニッケル触媒で水素化還元してもよいし、cis−CHTCとアルコールとを反応させてエステル化してもよい。
【0052】
また、上記有機溶剤の具体例としては、アルカリと反応しない溶剤であることが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール等のアルコール類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;等が好ましく使用できる。上記有機溶剤の量としては特に限定されるものではないが、cis−CHTCのテトラエステル100重量部に対して、200〜1000重量部加えて行なうことができる。
【0053】
また、原料としてcis−CHTCのテトラエステルを用いる場合には、熱安定性を考慮し、触媒を添加して、比較的低温で実施することが好ましい。該触媒としては、塩基性触媒が、反応促進効果が大きいため好ましく、その中でも、有機溶剤に可溶なものであることが好ましい。例えば、リチウムメトキサイド、ナトリウムメトキサイド、カリウムメトキサイド、リチウムエトキサイド、ナトリウムエトキサイド等のアルカリ金属アルコキサイド、又はジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等の有機塩基が好適に用いられる。いずれの塩基性触媒を用いる場合でも、触媒が溶剤に溶解し、互いに不活性である組み合わせであれば、特に限定されず、複数の種類を組み合わせて用いることができる。
【0054】
また、異性化反応の際に加熱する温度としては40〜120℃が好ましく、50〜800℃がより好ましい。40〜120℃の範囲であれば、良好な反応速度を得ることができ、容易にシス体をトランス体に変換することができる。
【0055】
cis−CHTCのテトラエステルの異性化反応は、上述のように、比較的低温での実施が好ましい。例えば、cis−CHTCのテトラメチルエステルをメタノール中で、1〜20重量%のナトリウムメトキサイドを加えて還流させることによりトランス体への変換が進行する。このとき、異性化されたcis−CHTCのエステル化物はアルコールに対する溶解度が低下し、析出するので、ろ過等により回収することもできる。
【0056】
異性化反応の後、cis−CHTCのテトラエステルは、公知の方法により加水分解できる。例えば、酸触媒又は塩基性触媒の存在下で加水分解することによりtt−CHTCとして得ることができる。
【0057】
<3.tt−CHTCAの製造方法>
本発明に係るtt−CHTCAの製造方法は、脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含めばよい。これにより、高い反応性(重合性)を有する本発明に係るtt−CHTCAを得ることができる。
【0058】
無水化反応に供するtt−CHTCとしては、上述の異性化反応にて得られたtt−CHTCを用いればよい。なお、上述のように異性化反応及び/又は加水分解において触媒を用いると、得られたtt−CHTCに、当該触媒を由来とする不純物が混入することがある。そのため、得られたtt−CHTCを、再結晶等の公知の方法で精製した上で、無水化反応に供することが好ましい。
【0059】
脱水剤については、tt−CHTCに脱水剤が接触すれば特に限定されないが、例えば、tt−CHTC及び脱水剤を溶剤中で混合するとよい。脱水剤としては無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の低級有機カルボン酸無水物類が好ましく、中でも無水化後の除去や経済的に有利な無水酢酸が特に好ましい。脱水剤の使用量は特に限定されないが、tt−CHTCに対して、2〜50当量が好ましく、特に好ましくは4〜20当量である。2〜50当量であれば、十分に無水化が行なわれ、かつ得られるtt−CHTCAの溶解量が増加し過ぎることなく、高い収率でtt−CHTCAを析出させることができる。なお、必ずしもtt−CHTCを完全に溶解させて無水化反応させる必要はなく、不均一系で無水化反応を実施してもよい。
【0060】
加熱の温度については、40〜160℃の範囲で行なうとよい。反応温度が高いほど反応速度が向上するが、tt−CHTCAは歪みが大きく、不安定な構造であるため、温度が高すぎるとその立体構造がトランス体からシス体へと変換される恐れがあるため好ましくない。そのため、無水化反応の温度範囲としては、50〜120℃がより好ましい。また、無水化反応時間は、使用する脱水剤の種類、反応温度等の条件等に応じて適宜設定すればよいが、0.5〜20時間であることが好ましい。この時間で十分に無水化反応させることができる。
【0061】
以上の無水化反応によって、tt−CHTCAが使用した脱水剤に懸濁した懸濁液を得ることができる。無水化反応の後は、得られた懸濁液をろ過することでtt−CHTCAの粉末を回収できる。また、必要に応じて上記懸濁液を濃縮してもよい。さらに、減圧乾燥等により脱水剤を除去することで、後述のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の重合工程に好適に用いることができる。
【0062】
なお、(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を、脱水剤存在下で加熱することにより無水化反応させる工程を含むことを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法及びこれにより得られたテトラカルボン酸二無水物も本発明の範疇に含まれる。
【0063】
<4.本発明に係るポリイミド前駆体>
本発明に係るポリイミド前駆体は、一般式(1)
【0064】
【化14】
(上記一般式(1)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Rは水素原子、トリアルキルシリル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシル基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は、以下の式(2)で表され、
【0065】
【化15】
上記Xと、上記Xと結合している2つのアミド基及び2つのカルボキシル基と、の結合位置は下記式(3)又は(4)のいずれかで表される。
【0066】
【化16】
【0067】
【化17】
(式(3)及び(4)において、Yは上記Xに結合する2つのアミド基を示し、Zは上記Xに結合する2つのカルボキシル基を表す))で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体である。
【0068】
本発明に係るポリイミド前駆体を閉環(イミド化)させることで高透明性、低誘電率のポリイミドを得ることができる。つまり、本発明に係るポリイミド前駆体は、ポリイミドの原料として優れている。
【0069】
ポリイミド前駆体の製造方法の一例について、以下に説明するが、これに限定されない。
【0070】
本発明に係るポリイミド前駆体は、本発明に係るtt−CHTCAとジアミンとを重合反応させて製造するとよい。以下、tt−CHTCAとジアミンとを重合させる工程を、単に「重合工程」と表記することもある。なお、上述のように、本発明に係るtt−CHTCAの製造方法において使用した脱水剤を、完全に除去した後にジアミンと反応させることが好ましい。
【0071】
より具体的には、重合工程ではジアミン溶液にtt−CHTCA粉末を添加して、室温で撹拌するとよい。攪拌の時間は特に限定されず、該tt−CHTCA粉末が十分に溶解するまで行なえばよい。このように、本発明に係るポリイミド前駆体は、本発明に係るtt−CHTCA、及びジアミンを原料として容易に製造することができる。ジアミンの使用量としては特に限定されないが、tt−CHTCAに対して実質的に等モル量であることが、重合度を高めるという観点から好ましい。
【0072】
上記ジアミン溶液を調製するために、ジアミンを溶解させる溶剤としては、モノマー(本発明に係るtt−CHTCA、及びジアミン)と、生成するポリアミド酸(本発明に係るポリイミド前駆体)とを溶解することが可能であり、且つこれらのモノマーと反応しない溶剤であれば特に限定されない。例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶剤が特に好適に利用できる。
【0073】
重合工程では、ピリジン等の脱酸剤の存在下、tt−CHTCAの代わりに、tt−CHTCのジアルキルエステルジクロリドを使用することで、ポリアミド酸のアルキルエステル(上記一般式(1)中、Rが炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルコキシル基)が得られる。
【0074】
また、重合工程では、ジアミンを予めジトリアルキルシリル化体に変換しておき、これにtt−CHTCAを添加することで、ポリアミド酸のトリアルキルシリルエステル(上記一般式(1)中、Rがトリアルキルシリル基であるもの)を得ることができる。ジアミンのトリアルキルシリル化の際に使用可能なトリアルキルシリル化剤として特に限定されないが、トリメチルシリルクロリド等のハロゲン化アルキルシランの他、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド等が例として挙げられる。
【0075】
また、本発明に係るポリイミド前駆体を製造するために用いるジアミンとしては特に限定されるものではなく、製造するポリイミド前駆体の用途等に応じて適宜選択すればよい。例えば、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン等が挙げられる。又はそれらを併用することもできる。
【0076】
芳香族ジアミンの具体例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、p−ターフェニレンジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
脂肪族ジアミンの具体例としては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン、シス−1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0078】
また、本発明に係るtt−CHTCAに併せて、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分、脂肪族テトラカルボン酸二無水物等のtt−CHTCA以外のテトラカルボン酸二無水物を用いてもよい。このようなテトラカルボン酸二無水物としては、ポリアミド前駆体の重合反応性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で選択すればよく、上記ジアミンと重合可能なものである限り限定されない。共重合可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分としてこれらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0079】
本発明に係るポリイミド前駆体を製造する際の重合反応性、ポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で、部分的に使用可能な脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、シス、シス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。
【0080】
従来、CHTCAブロック(CHTCA構造)を持つポリイミドが高透明性、低誘電率等の優れた特性を有することは明らかであったが、従来の技術により得られるシス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物は、ジアミンとの反応性が低いため、重合度の高いポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を製造することが困難であった。しかし、ポリイミド前駆体の合成原料を用いる際に、本発明の製造方法により製造されたテトラカルボン酸二無水物をCHTCA中20重量%、好ましくは50重量%以上含有することで、高重合度のポリイミド前駆体を製造することができ、従来から知られている、優れた特性を維持したCHTCAブロックを有するポリイミドを、高い重合度にて容易に得ることができる。
【0081】
重合反応の際に使用される溶媒としてはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解し、且つモノマーと反応しなければ問題はなく特に限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒等も添加して使用できる。
【0082】
本発明に係るポリイミド前駆体はその重合溶液を、水、メタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過・乾燥し、粉末として単離することもできる。溶媒の量は、滴下等が十分に行なえる量であれば限定されない。
【0083】
本発明に係るポリイミド前駆体の固有粘度は高いほどよいが、少なくとも0.5dL/g以上であることが好ましく、1.0dL/g以上であることがより好ましい。0.5dL/gを下回ると、製膜性が著しく悪くなり、キャスト膜がひび割れる等の深刻な問題が生じる恐れがある。
【0084】
ポリアミド等の重合の際しばしば添加される高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイド、リチウムクロライド等の金属塩類は、本発明におけるポリイミド前駆体重合反応には一切使用しなくてもよい。これらの金属塩類はポリイミド膜中に金属イオンが痕跡量でも残留すると、電子デバイスとしての信頼性を著しく低下させる。本発明に係るポリイミド前駆体は、このような金属塩類を使用しなくてよいので、極めて有益である。
【0085】
<5.本発明に係るポリイミド>
本発明に係るポリイミドは、一般式(5)
【0086】
【化18】
(式(5)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は下記式(2)で表される。)
【0087】
【化19】
で表される繰り返し単位を有するポリイミドである。
【0088】
本発明に係るポリイミドは、例えば、上記の方法で得られたポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際、ポリイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属基板/ポリイミドフィルム積層体、粉末、成型体及び溶液等が挙げられる。
【0089】
一例として、本発明に係るポリイミドのフィルムを製造する方法について述べる。ポリイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン等を用いて乾燥する。乾燥の温度は40〜180℃が好ましく、より好ましくは50〜150℃である。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で、真空中、窒素等の不活性ガス中、又は空気中において、加熱することで本発明に係るポリイミドのフィルムを製造することができる。加熱温度はイミド化の閉環反応を十分に行なうという観点から200℃以上、生成したポリイミドフィルムの熱安定性の観点から400℃以下が好ましい。より好ましくは250〜350℃である。またイミド化は、真空中又は不活性ガス中で行なうことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行なってもよい。
【0090】
また、イミド化反応は、熱処理に代えて、ポリイミド前駆体フィルムをピリジン、トリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行なうことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめポリイミド前駆体ワニス中に投入・攪拌し、それを上記基板上に流延・乾燥することで、部分的あるいは完全にイミド化したポリイミド前駆体フィルムを作製することもできる。これを更に上記のような温度範囲で熱処理しても差し支えない。
【0091】
なお、製造されるポリイミド自体がイミド化反応に用いた溶媒に溶解する場合、ポリイミド前駆体の重合溶液をそのまま又は同一の溶媒で希釈した後150〜200℃に加熱することで、本発明に係るポリイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することができる。溶媒に不溶な場合は、結晶性のポリイミド粉末を沈殿物として得てもよい。この際、イミド化反応の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエン、キシレン等の有機溶媒を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。イミド化後この反応溶液を大量の水、メタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することもできる。またポリイミド粉末を上記重合溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることもできる。
【0092】
本発明に係るポリイミドは、ジアミンと本発明に係るtt−CHTCAを溶媒中高温で反応させることにより、ポリイミド前駆体を単離することなく、一段階で重合することもできる。この際、反応溶液は反応促進の観点から、例えば130〜250℃、好ましくは150〜200℃の範囲に保持するとよい。またポリイミドが、イミド化反応に用いた溶媒に不溶な場合、ポリイミドは沈殿として得られ、可溶な場合はポリイミドのワニスとして得られる。重合溶媒は特に限定さないが、使用可能な溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が例として挙げられが、より好ましくはm−クレゾール等のフェノール系溶媒、又はNMP等のアミド系溶媒が用いられる。これらの溶媒にイミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエン、キシレン等の有機溶媒を添加することができる。またイミド化触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。反応後、溶液を大量の水、メタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することができる。またポリイミドが溶媒に可溶である場合はその粉末を上記溶媒に再溶解してポリイミドワニスとすることができる。
【0093】
上記ポリイミドワニスを基板上に塗布して乾燥させることで脂環式ポリイミドフィルムを形成してもよい。乾燥の温度は特に限定されないが、例えば40〜400℃、好ましくは100〜350℃である。
【0094】
また、得られたポリイミド粉末を加熱圧縮することでポリイミドの成型体を作製してもよい。加熱圧縮時の温度としては特に限定されないが、例えば200〜450℃、好ましくは250〜430℃である。
【0095】
ポリイミド前駆体溶液中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、トリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリイミド前駆体フィルムを浸漬することによっても可能である。ポリイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリイミドへ容易に変換することができる。
【0096】
本発明に係るポリイミド前駆体、本発明に係るポリイミドには、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤等の添加物を加えてもよい。
【0097】
<6.本発明に係るポリイミド前駆体、ポリイミドの利用>
〔本発明に係る感光性樹脂組成物〕
本発明に係る感光性樹脂組成物(以下、「感光性ポリイミド前駆体」と称することもある)は、本発明に係るポリイミド前駆体及び感光剤を含有してなるものである。即ち、本発明に係るポリイミド前駆体から感光性ポリイミド前駆体を得ることもできる。
【0098】
感光剤としては特に限定されないが、後述するジアゾナフトキノン系感光剤が好ましい。なお、感光剤の量としては特に限定されないが、ポリイミド前駆体に対して、10〜40重量%が好ましく、15〜30重量%であることがより好ましい。
【0099】
また、本発明に係る感光性樹脂組成物において、本発明に係るポリイミド前駆体及び感光剤は、溶媒に溶解されていてもよい。この溶媒としては、当該ポリイミド前駆体及び感光剤を溶解可能であれば限定されず、種々の有機溶媒を使用してもよい。
【0100】
次に、本発明に係る感光性樹脂組成物を得る方法の一例を説明する。まず、本発明に係るポリイミド前駆体が溶解された有機溶媒溶液にジアゾナフトキノン系感光剤を添加・溶解する。これにより感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0101】
次に、本発明に係る感光性樹脂組成物を用いて得られるパターンを備える構造体について説明する。即ち、本発明に係る感光性樹脂組成物を、基材上にパターン露光して、パターン露光後に現像して、現像後に加熱硬化することにより得られるものであるパターンが形成されている構造体も本発明の範疇である。なお、半導体素子において、ポリイミドをバッファーコート膜として使用した際に、外部回路との接続するための穴あけ加工する必要があるが、半導体素子の用途に応じて約3〜20μmのスルーホール又はビアホールをあける加工を行なう。本発明に係る感光性樹脂組成物に由来するポリイミドは、このようなバッファーコート膜を形成する材料として適している。
【0102】
まず、本発明に係る感光性樹脂組成物をパターン露光する。パターン露光では、感光性樹脂組成物を基材上に塗布して、目的のパターンを有するフォトマスクを介して紫外線を露光するとよい。
【0103】
例えば、スピンコーター又はバーコーターを用いて、銅、シリコン又はガラス等の基材上に塗布する。次に、遮光下40〜120℃で0.1〜3時間温風乾燥することで、例えば膜厚1〜10μmの感光性ポリイミド前駆体の膜を得ることができる。温風乾燥の際の温度及び時間は適宜変更できる。
【0104】
本発明に係るポリイミド前駆体は、上記一般式(1)におけるRが水素原子である場合、元来アルカリに可溶であるが、ジアゾナフトキノン系感光剤が分散された状態で製膜されたものは、ジアゾナフトキノン(DNQ)系感光剤が溶解抑制剤として作用するので、得られた膜自体はアルカリ不溶性となる。一方、この膜にフォトマスクを介して紫外線を照射すると露光部におけるジアゾナフトキノン系感光剤が光反応によりアルカリ可溶なインデンカルボン酸に変化するので、露光部のみがアルカリ水溶液に可溶となる。よって、ポジ型パターン形成が可能となる。また、DNQを添加しても、アルカリ溶解性が高すぎてパターン形成が困難な場合は、部分的にアルキルエステル化、アルコキシエステル化、又はトリメチルシリル化してアルカリ溶解性を制御することでより鮮明なポジ型パターン形成が可能となる。
【0105】
ジアゾナフトキノン系感光剤の具体例としては、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸の低分子ヒドロキシ化合物、例えば2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、2−及び4−メチル−フェノール、4,4’−ヒドロキシープロパンのエステル等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0106】
このポジ型の感光性樹脂組成物におけるジアゾナフトキノン系感光剤の配合割合は、少なすぎる場合には、露光部と未露光部の溶解度差が小さすぎて、現像によりパターン形成不能となり、多すぎる場合にはポリイミドの膜物性(靭性、ガラス転移温度等)に悪影響を及ぼす恐れがある他、イミド化後の膜減が大きいといった問題が生じる虞があるので、ポリイミド前駆体に対し重量基準で好ましくは10〜40%、より好ましくは15〜30%である。
【0107】
上述の感光性ポリイミド前駆体の膜を得る工程は120℃以下で行なわれることが好ましい。この温度以上ではジアゾナフトキノン系感光剤が熱分解し始める虞がある。また、60℃で製膜した場合、塗膜は多量の溶媒が残留している。その場合露光操作に先立ち80〜120℃で1〜30分間プリベイクしてもよいが、塗膜を1〜5分間水中に浸漬することも効果的である。残留溶媒は現像時の膜の膨潤及び/又はパターンの崩れを招く恐れがあり、鮮明なパターンを得るためには残留溶媒を十分除去しておくことが好ましい。
【0108】
上記感光性樹脂組成物膜にフォトマスクを介して高圧水銀灯のi線を室温で10秒〜1時間照射し、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて室温で10秒〜10分間現像し、さらに純水でリンスすることにより鮮明なポジ型パターンを得ることができる。
【0109】
現像については、従来公知の方法で行なえばよく、例えばアルカリ水溶液を用いてもよいがこれに限定されない。アルカリ水溶液を用いて現像を行なう際、露光部と未露光部の溶解度差が不十分な場合、鮮明なレリーフパターンが得られにくいことがある。この場合、適当なモノマーを用いて本発明に係るポリイミド前駆体を主成分とする共重合体を合成することで、アルカリ水溶液に対する溶解度を制御することが可能である。この際使用可能な共重合成分として特に限定されないが、フッ素基を含有するモノマーが好適に用いられる。
【0110】
基材上に形成されたポリイミド前駆体の微細パターンを空気中、窒素等の不活性ガス雰囲気中あるいは真空中、200℃〜430℃、好ましくは250℃〜400℃の温度で加熱硬化することで鮮明なポリイミド膜のパターンが得られる。この際、イミド化は脱水環化試薬を用いて化学的に行なうこともできる。即ち、ピリジン、トリエチルアミン等の塩基性触媒を含む無水酢酸中に、基材上に形成されたポリイミド前駆体膜を室温で1分〜数時間浸漬する方法によってもポリイミド膜のパターンを得ることができる。本発明に係る感光性樹脂組成物であって、感光剤としてDNQ系剤を含有するものは、特に微細パターン形成能、高いi線透過率、耐熱性、電気絶縁性を併せ持つため、バッファーコートの材料として好適に使用することができる。
【0111】
〔本発明に係るディスプレー用基板〕
本発明に係るディスプレー用基板は本発明に係るポリイミドを含有するものであればよい。本発明に係るディスプレー用基板は、透明性、柔軟性に優れているので、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー等の種々のディスプレーに適用できる。これらはフレキシブルなディスプレーであってもよい。つまり、本発明に係るディスプレー用基板は、例えば、液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンスディスプレー用基板、これらがフレキシブルに構成されたフレキシブルディスプレー用基板を包含し得る。
【0112】
本発明に係るポリイミドをフレキシブル液晶ディスプレー用プラスチック基板に適用するために要求される特性として、ポリイミドのガラス転移温度は、230℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。また透明性の指標である波長400nmにおける光透過率は好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%である。またポリイミド膜は膜靭性の指標として180°折曲試験により破断しなければ上記産業分野に適用可能であるが、引張試験において破断伸びが好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。複屈折は0.01以下であれば上記ディスプレー等の光学材料に適用するのに重大な問題はないが、0.005以下であることがより好ましい。
【0113】
〔本発明に係る集積回路の層間絶縁膜〕
本発明に係る集積回路の層間絶縁膜は、本発明に係るポリイミドを含有するものであればよい。
【0114】
本発明に係るポリイミドを集積回路の層間絶縁膜に適用するために要求される特性として、ポリイミドのガラス転移温度は、250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。またポリイミド膜は膜靭性の指標として180°折曲試験により破断しなければ、集積回路を使用する種々の産業分野に十分適用可能である。また誘電率は2.8以下であることが好ましく、2.7以下であることが更に好ましい。本発明に係るポリイミドは、集積回路のバッファーコートとしても利用可能である。
【0115】
〔本発明に係る液晶配向膜〕
本発明に係る液晶配向膜はポリイミドを含有するものであればよい。つまり、本発明に係るポリイミド前駆体又は本発明に係るポリイミドは、液晶配向膜材料に適用することが可能である。本発明に係るポリイミドは、ジアミン成分にフッ素基、スルホン基等を含むものを使用することで有機溶媒に対する溶解性を高めることができ、ポリイミドワニスを塗布・乾燥・ラビング処理することで、液晶配向膜とすることができる。
【0116】
本発明に係るポリイミドは脂環構造を有するため、ガラス転移温度は250℃以上であり、TFT型液晶ディスプレー、半導体チップの作製時に要求される短期耐熱性は充分高く、ディスプレー、半導体等に関連する産業分野への応用には全く問題がない。
【0117】
また、本発明に係るtt−CHTCAは、様々な産業分野において使用される各種ポリイミドの物性を大きく犠牲にすることなく分子量を高める目的で、共重合成分として使用することができる。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における物性値は、次の方法により測定した。
【0119】
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(島津製作所製FTIR−8400S、日本分光社製FT−IR5300又はFT−IR350)を用い、透過法にて本発明に係るtt−CHTCA、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。また、本発明に係るtt−CHTC及びtt−CHTCAの分子構造を確認するためにKBr法により赤外吸収スペクトルを測定した。
【0120】
<示差走査熱量分析(融点及び融解曲線)>
本発明に係るtt−CHTC及びtt−CHTCAの融点及び融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。
【0121】
<単結晶X線構造解析>
単結晶X線構造解析については、ブルカー・ジャパン社製、単結晶X線構造解析装置(SMART APEXII)を用い、測定温度294K、X線源CuKα線、管電圧50kV、管電流30mAで測定した。
【0122】
<粉末X線回折パターン>
粉末X線回折パターンについてはブルカーエイエックスエス社製、粉末X線回折装置(M03XHF22)を用い、測定温度294K、X線源CuKα線、管電圧45kV、管電流40mA、サンプリングステップ0.02°、スキャン速度4°/分、測定範囲2θ=5〜60°で測定した。
【0123】
<固有粘度>
0.5重量%のポリイミド前駆体溶液(溶媒:N,N−ジメチルアセトアミド又はNMP)について、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0124】
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリイミド膜のガラス転移温度を求めた。
【0125】
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値としてポリイミド膜の線熱膨張係数を求めた。
【0126】
<5%重量減少温度:Td5>
ブルカーエイエックスエス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中又は空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミド膜の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0127】
<カットオフ波長(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短い程、ポリイミド膜の透明性が良好であることを意味する。
【0128】
<光透過率(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−530)を用いて、400nmにおける光透過率を測定した。透過率が高い程、ポリイミド膜の透明性が良好であることを意味する。
【0129】
<複屈折>
アタゴ社製アッベ屈折計(4T)を用いて、ポリイミド膜に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
【0130】
<誘電率及び誘電損失>
アタゴ社製アッベ屈折計(4T)を用いて、ポリイミド膜の平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×nav2により1MHzにおけるポリイミド膜の誘電率(εcal)を算出した。
【0131】
<弾性率、破断強度、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリイミド膜の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、膜が破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほど膜の靭性が高いことを意味する。
【0132】
〔実施例1〕
本実施例1及び次の実施例2では、以下の合成経路(10)
【0133】
【化20】
により本発明に係るtt−CHTCAを合成した。具体的には次の通りである。
【0134】
まず、非特許文献2の記載にしたがい(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を合成した。ピロメリット酸二無水物 465g、5%ロジウム/カーボン触媒 175gと蒸留水 2940gを容積5Lの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに入れ、反応温度60℃、水素圧5MPaで水素化を行なった。1.5時間後、反応液を抜き出し、ろ過により触媒を除去した後、エバポレーターにより乾固し、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸(式10(a))449gを得た。
【0135】
次に、上記の(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸 38g(0.146モル)、水酸化ナトリウム 24g(0.600モル)及び蒸留水 108gを容積200mLの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに入れ、窒素雰囲気下、230℃で5時間異性化反応を行なった。
【0136】
次に、異性化反応後の反応液を30℃まで冷却した後、当該反応液を容積500mLの三つ口フラスコに移して、撹拌しながら35%塩酸 63g(0.605モル)をゆっくりと滴下したところ、白色の析出物が生じた。さらにそのまま1時間撹拌を続けた。
【0137】
次に、攪拌後の反応液を吸引ろ過して、白色の析出物を回収した後、80℃で5時間減圧乾燥した。その結果、32.3gの白色粉末を得た。得られた白色粉末を0.5Nメタノール性塩酸中で加熱して、テトラメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチルに相当するピークが完全に消失し、異なる位置に単一のピークが検出された。さらに、この白色粉末を水から再結晶し、単結晶X線構造解析を行った結果、tt−CHTCであることが確認された。その立体構造を図1に示す。また、図2及び3にNMRスペクトルを示す。図1は本実施例で得られたtt−CHTCの立体構造を示す図である。図2は本実施例で得られたtt−CHTCの1H−NMRスペクトルを示す図、図3は本実施例で得られたtt−CHTCの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【0138】
また、上記異性化反応のモル収率は85%であった。
【0139】
〔実施例2〕
実施例1で得られたtt−CHTC 25g(0.096モル)と無水酢酸 75g(0.735モル)とを容積200mLのフラスコに入れて混合することで懸濁液を得た。当該懸濁液を80℃のオイルバスで7時間加熱、撹拌した。
【0140】
次に、攪拌後の懸濁液を30℃まで冷却した後、ろ過して、ろ別した白色粉末を80℃で5時間減圧乾燥させた。その結果、18.1gの白色粉末が得られた。
【0141】
得られた白色粉末の赤外吸収スペクトル測定の結果、カルボキシル基由来の3000cm−1付近のO−H伸縮振動が消え、1869cm−1と1790cm−1に吸収帯が見られた。これらは五員環構造の酸無水物C=O伸縮振動に特徴的な吸収帯であり、上記反応により、五員環構造の酸無水物が合成されたことを示している。また、当該白色粉末は有機溶剤への溶解度、熱安定性が低く、結晶性が悪いため、単結晶X線構造解析に好適な結晶を得ることができなかった。そこで、当該白色粉末5g、蒸留水55gと4−ジメチルアミノピリジン0.05gを100mLナス型フラスコに入れ、80℃で24時間加熱し、加水分解物(テトラカルボン酸)を合成した。こうして得られた均一水溶液を30℃まで冷却した後、析出した結晶を分取し、粉末X線解析を行った結果、実施例1で得られた白色粉末と同じ回折パターンを示し、この加水分解生成物(テトラカルボン酸)と実施例1に記載のテトラカルボン酸の立体構造は同一であることが確認された。即ち、実施例1の立体構造は無水化反応後も保持されていることを示している。つまり、無水化反応により得られた白色粉末はtt−CHTCAである。上記の無水化反応のモル収率は84%であった。次に、tt−CHTCAの赤外吸収スペクトル及びNMRスペクトルを測定した。結果を図4〜6に示す。図4は本実施例で得られたtt−CHTCAの赤外吸収スペクトルを示す図であり、図5は1H−NMRスペクトルを示す図であり、図6は13C−NMRスペクトルを示す図である。また、実施例1で得たtt−CHTCと、これを無水化後加水分解して得られたテトラカルボン酸の粉末X線回折パターンをそれぞれ測定した。結果を図7、図8に示す。図7は無水化前のtt−CHTCの粉末X線回折パターンを示す図であり、図8はtt−CHTCAの加水分解物のX線回折パターンを示す図である。
【0142】
〔実施例3〕
容積5Lの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに、水酸化ナトリウム 530g(13.25モル)と蒸留水 2500gを入れ、撹拌した。得られた水酸化ナトリウム水溶液に、ピロメリット酸二無水物 715g(3.28モル)、5%ルテニウム/カーボン触媒 28.6gを入れ、反応温度160℃、水素圧8MPaで水素化を行った。水素吸収は3時間で停止した。次に、水素化反応液を220℃まで昇温し、さらに4時間反応を続け、30℃まで冷却した後、反応液を抜き出した。
【0143】
ろ過により触媒を除去した後、得られた反応液を容積10Lの三つ口フラスコに移して、撹拌しながら35%塩酸 1400g(13.44モル)をゆっくりと滴下したところ、白色の析出物が生じた。さらにそのまま1時間撹拌を続けた。
【0144】
次に、攪拌後の反応液を吸引ろ過して、白色の析出物を回収した後、80℃で5時間減圧乾燥した。その結果、676gの白色粉末を得た。得られた白色粉末を0.5Nメタノール性塩酸中で加熱して、テトラメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、得られた白色粉末はtt−CHTCであることが確認された。上記異性化反応のモル収率は81%であった。また、得られた白色粉末はナトリウムを1991ppm含んでいた。
【0145】
次に、得られたtt−CHTC 300gと蒸留水 1500gとを容積2Lのフラスコに入れ、100℃で2時間撹拌した。得られた均一溶液を撹拌しながら、ゆっくりと30℃まで冷却した後、析出した結晶をろ過した。得られた結晶を80℃で5時間減圧乾燥した結果、227.7gの白色結晶が得られた。上記の再結晶の収率は76%、ナトリウム含有量は5ppmであった。
【0146】
得られた二無水物の結晶 200g(0.77モル)と無水酢酸 800g(7.84モル)とを容積2Lのフラスコに入れ、80℃のオイルバスで7時間加熱、撹拌した。得られた懸濁液を30℃まで冷却した後、ろ過して、ろ別した白色粉末を80℃で5時間減圧乾燥させた。その結果、148.2gのtt−CHTCAが得られた。上記の無水化反応のモル収率は87%であった。また、ICP質量分析により金属含有量を測定した結果、鉄:810ppb、ニッケル:検出せず、クロム:560ppb、ルテニウム:検出せず、ナトリウム:320ppbであった。
【0147】
〔実施例4〕
実施例1で合成した(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸 2.0gと蒸留水 8.0gを容積50mLの撹拌機つきハステロイ製オートクレーブに入れ、窒素雰囲気下、230℃で7時間異性化反応を行なった。
【0148】
さらに、20℃まで冷却した後、析出した結晶をろ過した。回収したろ物を100℃で5時間減圧乾燥した結果、1.4gの淡褐色粉末が得られた。得られた淡褐色粉末をメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィにより分析した結果、当該粉末はtt−CHTCであり、純度は87%であることがわかった。このときのモル収率は67%であった。
【0149】
〔実施例5〕
まず、特許文献2(実施例4)を参考に(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチルを次のように合成した。ピロメリット酸二無水物 15gとメタノール 50gを容積200mLの撹拌機つきSUS316製オートクレーブに入れ、220℃で1時間エステル化を行なった。この溶液に5%ルテニウム/カーボン 0.3gを入れ、温度130℃、水素圧10MPaで3時間水素化を行った。次に、ろ過により触媒を除去し、得られた溶液をエバポレーターで乾固し、白色固体を得た。得られた固体を冷メタノールで洗い、減圧乾燥することで、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチル 15.8gを得た。
【0150】
次に、得られた(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラメチル 10g(0.032モル)、ナトリウムメトキサイド 1g(0.019モル)、及び脱水メタノール 50gを容積200mLのフラスコに入れ、当該懸濁液を80℃のオイルバスで4時間還流させた。
【0151】
さらに、20℃まで冷却した後、当該懸濁液をろ過し、白色粉末を回収した後、50℃で5時間減圧乾燥した結果、2.5gの白色結晶が得られた。ガスクロマトグラフィにより分析した結果、当該粉末はtt−CHTCテトラメチルであり、純度は98%であることがわかった。このときのモル収率は25%であった。
【0152】
〔実施例6〕
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にp−フェニレンジアミン(以下「PDA」と称する)5mmolをNMPに溶解し、この溶液に実施例2で得たtt−CHTCAの粉末5mmolを徐々に加え、室温で72時間攪拌することで均一・透明で粘稠なポリイミド前駆体溶液が得られた。この際の溶質濃度は12.2重量%である。このポリイミド前駆体溶液は室温及び−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃で測定したポリイミド前駆体の固有粘度は1.60/gであり、高重合体であった。
【0153】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、80℃、2時間で温風乾燥して得たポリイミド前駆体膜を真空中200℃で20分、250℃で30分、続いて320℃又は350℃で1時間熱処理することでイミド化した。これにより膜厚約20μmの透明で強靭なポリイミド膜を得た。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。180°折り曲げ試験によりこのポリイミド膜は破断せず、可撓性を示した。表1にポリイミドフィルムの物性値を示す。ガラス転移温度407℃、カットオフ波長292nm、400nmでの透過率64.6%、破断伸び30.8%、複屈折Δn=0.0056、誘電率は2.82であり優れた特性を示した。その他の物性も表1に示す。
【0154】
【表1】
また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図9及び図10に示す。図9は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図10は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0155】
〔実施例7〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、4,4’−オキシジアニリン(以下、「ODA」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い高い固有粘度値(1.52dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg、高い透明性、十分な膜靭性、低い複屈折を示した。
【0156】
また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図11及び図12に示す。図11は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図12は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0157】
〔実施例8〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、「TFMB」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い、極めて高い固有粘度値(2.43dL/g)のポリイミド前駆体を得た。このポリイミド前駆体溶液に化学イミド化試薬(無水酢酸/ピリジン混合溶液、体積比7/3)を滴下し、室温で24時間攪拌してイミド化を行った。このポリイミド溶液を大量の水中に滴下して沈殿させ、洗浄・濾過・乾燥してポリイミドを粉末として単離した。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。このポリイミド粉末をシクロペンタノンに溶解してワニスとし、実施例6に記載した方法と同様な条件でキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。非常に高いTg,極めて高い透明性、非常に高い膜靭性、極めて低い誘電率を示した。このポリイミドはトリフルオロメチル基を有しているため、有機溶媒性即ち溶液加工性が高く、NMP、DMAc、DMF、DMSO、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等に室温で高い溶解性を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図13及び図14に示す。図13は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図14は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0158】
〔実施例9〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン (以下BAPBと称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い、非常に高い固有粘度値(1.84dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg,高い透明性、十分な膜靭性、極めて低い複屈折を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図15及び図16に示す。図15は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図16は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0159】
〔実施例10〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン(以下、「BAPP」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行い、非常に高い固有粘度値(1.84dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg、高い透明性、極めて高い膜靭性(破断伸び:114%)、極めて低い複屈折を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図17及び図18に示す。図17は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図18は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0160】
〔実施例11〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン(以下、「BAPS」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行ない、高い固有粘度値(1.44dL/g)のポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。高いTg,非常に高い透明性、高い膜靭性、極めて低い複屈折を示した。このポリイミドは極性の高いスルホン基を有しているため、有機溶媒性即ち溶液加工性が高く、NMP等に室温で高い溶解性を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図19及び図20に示す。図19は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図20は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0161】
〔実施例12〕
ジアミンとしてPDAの代わりに、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(以下、「MBCHA」と称する)を用いた以外は、実施例6に記載した方法に準じて重合を行なった。重合初期に塩形成が見られたが、室温で攪拌することで徐々に塩が溶解して固有粘度値(0.669dL/g)の均一なポリイミド前駆体を得た。これを実施例6に記載した方法と同様にキャスト・イミド化してポリイミド膜を作製し、物性を評価した。物性値を表1に示す。非常に高いTg,非常に高い透明性、十分な膜靭性、極めて低い複屈折を示した。また、ポリイミド前駆体及びポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図21及び図22に示す。図21は本実施例で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図であり、図22は本実施例で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【0162】
〔実施例13〕
十分に乾燥させた攪拌機付密閉反応容器中に4,4’−オキシジアニリン(以下、「ODA」と称する)5mmolをDMAcに溶解し、反応溶液を調製した。この反応溶液に実施例2で得たtt‐CHTCAの粉末2.5mmolと、非特許文献2に従い製造した(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水化して得られたcc−CHTCA2.5mmolとの混合物を徐々に加え、室温で72時間攪拌することによって、均一かつ透明であり、粘稠なポリイミド前駆体溶液が得られた。DMAc中、30℃で測定したポリイミド前駆体の固有粘度は0.512dL/gであった。
【0163】
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で温風乾燥して得たポリイミド前駆体膜を真空中200℃で30分、続いて250℃で30分、さらに320℃で1時間熱処理することによってイミド化した。これにより透明で強靭なポリイミドフィルムを得た。イミド化の完結は赤外吸収スペクトルから確認した。各物性としては、ガラス転移温度336℃、線熱膨張係数CTE=53ppm/K、5%重量減少温度454℃(窒素中)及び434℃(空気中)、カットオフ波長294nm、400nmでの透過率80.8%、複屈折Δn=0.0005、誘電率は2.87calであった。
【0164】
このように、種々の異性体を有するCHTCA中にtt−CHTCAを含有していれば、従来知られていたCHTCAを用いたポリイミドの優れた物性を損なうことなく、高分子量のポリイミドを得ることができることが示された。
【0165】
〔比較例1〕
実施例1で得られた(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水酢酸中130℃で無水化し、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を得た。
【0166】
tt−CHTCAの代わりに、上記の(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミン成分としてTFMBを用いて、実施例8に記載した方法と同様にポリイミド前駆体の重合を行った。しかしながら得られたポリイミド前駆体の固有粘度値は0.101dL/gと非常に低く、このワニスを用いてガラス基板上に製膜を試みたが、フィルムに無数の亀裂が入り、製膜不能であった。これはtt−CHTCAを使用しなかったため、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらなかったためである。また実施例6に記載した方法と同様にキャストして、イミド化を行い、ポリイミド粉末をシクロペンタノンに溶解してワニスとし、製膜を試みたがやはり無数の亀裂が入り、製膜不能であった。
【0167】
〔比較例2〕
ジアミン成分としてTFMBの代わりにPDAを使用した以外は比較例1に記載した方法に従ってポリイミド前駆体を重合した。しかしながら固有粘度値は0.33dL/gと非常に低く、製膜を試みたが比較例1と同様製膜不能であった。これはtt−CHTCAを使用しなかったため、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらなかったためである。
【0168】
〔比較例3〕
ジアミン成分としてTFMBの代わりにODAを使用した以外は比較例1に記載した方法に従ってポリイミド前駆体を重合した。しかしながら固有粘度値は0.41dL/gと低い値であった。これはtt−CHTCAを使用しなかったため、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらなかったためである。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明に係るtt−CHTCAは、ポリイミドの原料として優れているので、化学品、繊維、試薬等に関する化学分野に広く応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】実施例1で得たtt−CHTCの立体構造を示す図である。
【図2】実施例1で得たtt−CHTCの1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で得たtt−CHTCの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で得たtt−CHTCAの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2で得たtt−CHTCAの1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】実施例2で得たtt−CHTCAの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】実施例2で得た無水化前のtt−CHTCの粉末X線回折パターンを示す図である。
【図8】実施例2で得たtt−CHTCAの加水分解物のX線回折パターンを示す図である。
【図9】実施例6で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図10】実施例6で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+PDA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図11】実施例7で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図12】実施例7で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+ODA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図13】実施例8で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図14】実施例8で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+TFMB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図15】実施例9で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図16】実施例9で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPB)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図17】実施例10で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図18】実施例10で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPP)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図19】実施例11で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図20】実施例11で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+BAPS)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図21】実施例12で得たポリイミド前駆体(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図22】実施例12で得たポリイミド薄膜(tt−CHTCA+MBCHA)の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とする1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物。
【請求項3】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸。
【請求項4】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のシス−シス−シス体及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラ塩を、加熱することで異性化反応させることを特徴とする(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のシス−シス−シス体及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラエステルを加熱することで異性化反応させることを特徴とする(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
異性化反応の際、塩基性触媒を用いることを特徴とする請求項4に記載の(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
上記塩基性触媒として、アルカリ金属アルコキサイドを用いることを特徴とする請求項6に記載の(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を、脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含むことを特徴とする(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項9】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を、脱水剤存在下で加熱することにより無水化反応させる工程を含むことを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で製造されたテトラカルボン酸二無水物。
【請求項11】
一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Rは水素原子、トリアルキルシリル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシル基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は、以下の式(2)で表され、
【化2】
上記Xと、上記Xと結合している2つのアミド基及び2つのカルボキシル基と、の結合位置は下記式(3)又は(4)のいずれかで表される
【化3】
【化4】
(式(3)及び(4)において、Yは上記Xに結合する2つのアミド基を示し、Zは上記Xに結合する2つのカルボキシル基を表す))
で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
【請求項12】
一般式(5)
【化5】
(式(5)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は下記式(2)で表される。)
【化6】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【請求項13】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミド前駆体であって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が請求項10に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド前駆体。
【請求項14】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミドであって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が請求項10に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド。
【請求項15】
請求項11又は13に記載のポリイミド前駆体及び感光剤を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の感光性樹脂組成物を、基材上にパターン露光して、パターン露光後に現像して、現像後に加熱硬化することにより得られるものであるパターンが形成されていることを特徴とする構造体。
【請求項17】
請求項12又は14に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とするディスプレー用基板。
【請求項18】
請求項12又は14に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とする集積回路の層間絶縁膜。
【請求項19】
請求項12又は14に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とする液晶配向膜。
【請求項1】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物。
【請求項2】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とする1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物。
【請求項3】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸。
【請求項4】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のシス−シス−シス体及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラ塩を、加熱することで異性化反応させることを特徴とする(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸のシス−シス−シス体及びこれを含む異性体混合物のうち、少なくとも一方のテトラエステルを加熱することで異性化反応させることを特徴とする(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
異性化反応の際、塩基性触媒を用いることを特徴とする請求項4に記載の(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
上記塩基性触媒として、アルカリ金属アルコキサイドを用いることを特徴とする請求項6に記載の(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を、脱水剤存在下で加熱することで無水化反応させる工程を含むことを特徴とする(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項9】
(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸を、脱水剤存在下で加熱することにより無水化反応させる工程を含むことを特徴とするテトラカルボン酸二無水物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法で製造されたテトラカルボン酸二無水物。
【請求項11】
一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Rは水素原子、トリアルキルシリル基、又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシル基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は、以下の式(2)で表され、
【化2】
上記Xと、上記Xと結合している2つのアミド基及び2つのカルボキシル基と、の結合位置は下記式(3)又は(4)のいずれかで表される
【化3】
【化4】
(式(3)及び(4)において、Yは上記Xに結合する2つのアミド基を示し、Zは上記Xに結合する2つのカルボキシル基を表す))
で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
【請求項12】
一般式(5)
【化5】
(式(5)中、Xは4価のシクロヘキサン基を表し、Aは2価の芳香族基又は脂肪族基を表し、上記Xの立体配置は下記式(2)で表される。)
【化6】
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【請求項13】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミド前駆体であって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が請求項10に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド前駆体。
【請求項14】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を合成原料として得られるポリイミドであって、上記1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が請求項10に記載のテトラカルボン酸二無水物を50%以上含有することを特徴とするポリイミド。
【請求項15】
請求項11又は13に記載のポリイミド前駆体及び感光剤を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項15に記載の感光性樹脂組成物を、基材上にパターン露光して、パターン露光後に現像して、現像後に加熱硬化することにより得られるものであるパターンが形成されていることを特徴とする構造体。
【請求項17】
請求項12又は14に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とするディスプレー用基板。
【請求項18】
請求項12又は14に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とする集積回路の層間絶縁膜。
【請求項19】
請求項12又は14に記載のポリイミドを含有するものであることを特徴とする液晶配向膜。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1】
【公開番号】特開2009−191253(P2009−191253A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328334(P2008−328334)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】
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