説明

新規カロテノイド化合物

【課 題】新規なカロテノイド化合物、及びその効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】下記の式(1)で表される化合物、又はその配糖体。
【化1】


(式中、R1及びR2は、それぞれ水酸基、又は一緒になってケト基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強い抗酸化活性を有する新規カロテノイド化合物、その製造方法、及び抗酸化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
β-カロテンをはじめとするカロテノイドは、天然に広く分布する色素化合物で、750種以上の化合物が植物、微生物、動物などから単離されている。カロテノイドは、全ての光合成生物及び一部の微生物において生合成され、生理的に重要な役割を果たしている。例えば、植物や光合成微生物では、光合成装置の構成要素として、光捕集や光酸化障害の緩和に関与している。
カロテノイドは、動物および人間の栄養補助剤(サプリメント)、食品着色剤、食品などの酸化防止用添加剤、化粧品成分などとして使用される。カロテノイドは健康維持に重要な作用をするが、動物や人間はそれらを作り出すことができないため、果実や野菜等を通じて摂取されなければならない。
【0003】
カロテノイドの中でも、ケト基を有するケトカロテノイドは、高い抗酸化活性を有し、一重項酸素のような活性酸素の無毒化に寄与することが知られている(非特許文献1)。代表的なケトカロテノイドであるアスタキサンチンは、強力な抗酸化活性とともに幅広い生物活性を有することが知られており、ガン予防作用(非特許文献2)、抗LDL酸化作用(非特許文献3)、免疫応答促進作用(非特許文献4)を有することが知られている。
抗酸化作用を有する機能性カロテノイドは、医薬品産業や食品産業において需要が拡大することが予想され、新規な機能性カロテノイドの単離が望まれている。
【非特許文献1】Stahl, W. & Sies, H. Antioxidant activity of carotenoid. Mol. Asp. Med. 24, 345-351 (2003)
【非特許文献2】Tanaka, T., Morishita, Y., Suzui M., Kojima T., Okumura A. & Mori H. Chemoprevention of mouse urinary bladder carcinogenesis by the naturally occurring carotenoid astaxanthin. Carcinogenesis 15,15-9 (1994)
【非特許文献3】Iwamoto, T., Hosoda, K., Hirano, R., Kurata, H., Matsumoto, A., Miki, W., Kamiyama, M., Itakura, H., Yamamoto, S. & Kondo, K. Inhibition of low-density lipoprotein oxidation by astaxanthin.?J. Atheroscler. Thromb. 7, 216-222 (2000)
【非特許文献4】Jyonouchi, H., Sun, S.I. & Gross, M. Effect of carotenoids on in vitro immunoglobulin production by human peripheral blood mononuclear cells: astaxanthin, a carotenoid without vitamin A activity, enhances in vitro immunoglobulin production in response to a T-dependent stimulant and antigen. Nutr. Cancer 23, 171-183 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規なカロテノイド化合物、及びその効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者は研究を重ね、海洋細菌ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)由来のβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)及びβ-カロテンケトラーゼ遺伝子(crtW)をそれぞれ植物型に変換した遺伝子でタバコ植物を形質転換し、形質転換体の抽出物から下記式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ水酸基、又は一緒になってケト基を示す。)
で表される新規化合物を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のカロテノイド化合物、その製造方法、及び抗酸化剤を提供する。
【0006】
項1. 下記の式(1)で表される化合物、又はその配糖体。
【化2】

(式中、R1及びR2は、それぞれ水酸基、又は一緒になってケト基を示す。)
項2. ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)に属する海洋細菌由来のβ-カロテンケトラーゼ遺伝子(crtW)、又はさらにβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)を植物体に導入する工程と、得られる形質転換植物を溶媒で抽出する工程と、抽出物から上記式(1)で表されるカロテノイド化合物を回収する工程とを含む、上記式(1)で表される化合物、又はその配糖体の製造方法。
項3. 上記式(1)で表される化合物、又はその配糖体を含む抗酸化剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、新規カロテノイド化合物が提供された。このカロテノイド化合物は、一重項酸素のような活性酸素を消去できることから、抗酸化剤として実用できる。また、この化合物は、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子及びβ-カロテンケトラーゼ遺伝子、又はβ-カロテンケトラーゼ遺伝子を導入した植物体により大量に生産させることができる。このように、煩雑な化学合成工程を必要としないため低コストで、かつ多くの化学試薬を必要としないため環境に優しい方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)本発明のカロテノイド化合物
本発明のカロテノイド化合物は、下記の式(1)で表される化合物、又はその配糖体である。
【化3】

(式中、R1及びR2は、それぞれ水酸基、又は一緒になってケト基を示す。)
【0009】
中でも、R1及びR2が一緒になってケト基である化合物(4-ケトアンテラキサンチン)が好ましい。4-ケトアンテラキサンチンは、下記式(2)で表される化合物である。
【化4】

配糖体としては、R1及びR2を除く2つの水酸基の一方又は双方に、グルコース、ガラクトースのような単糖がグリコシド結合したものが挙げられる。
【0010】
(2)本発明のカロテノイド化合物の製造方法
上記式(1)の化合物は、例えば、細胞内でβ-カロテンケトラーゼ、又はさらにβ-カロテンヒドロキシラーゼを過剰発現する形質転換植物の溶媒抽出液から得ることができる。この方法を説明すると、先ず、植物体を、海洋細菌ブレバンディモナス属(好ましくはSD212株)由来のβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)(Mar.Biotechnol.7:515-522)及びβ-カロテンケトラーゼ遺伝子(crtW)(Appl.Microbiol.Biotechnol.72:1238-1246)で形質転換するか、又はβ-カロテンケトラーゼ遺伝子(crtW)で形質転換する。植物は、通常これらの酵素を生産しないが、植物にこれらの遺伝子を導入すれば、植物体中に大量に式(1)の化合物を蓄積させることができる。
【0011】
また、これらの遺伝子において、アミノ酸をコードするトリプレットを植物型に変換した遺伝子を用いることにより、一層効率良く、植物体内に式(1)の化合物を生産させることができる。具体的には、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子及びβ-カロテンケトラーゼ遺伝子の塩基配列において、5’末端から順に、下記表1の左欄のアミノ酸をコードするトリプレットを右欄に記載のトリプレットの何れかに変換する。
【表1】

【0012】
中でも、β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子及びβ-カロテンケトラーゼ遺伝子の塩基配列において、5’末端から順に、下記表2の左欄のアミノ酸をコードするトリプレットを右欄に記載のトリプレットに変換することにより、さらに一層効率よく式(1)の化合物を生産させることができる。
【表2】

【0013】
表2の規則に従って塩基配列を変換した植物型β-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtz)の塩基配列を配列番号1に示し、植物型β-カロテンケトラーゼ遺伝子(crtw)の塩基配列を配列番号2に示す。
さらに、植物細胞で機能するプロモーター(rrnプロモーター、psbAプロモーター、clpPプロモーター、psbDプロモーター、rbcLプロモーター、rpoC1プロモーター、psbEFLJプロモーター、psaABプロモーター、psbEプロモーター、atpIプロモーター、rpl23プロモーター、ndhBプロモーターなど)、その支配下に挿入したcrtZ遺伝子及びcrtW遺伝子、ターミネーター、及び薬剤耐性遺伝子のようなマーカー遺伝子を含む遺伝子発現カセットを、植物ゲノムとの相同組換えのための配列間に挿入したプラスミドを構築すればよい。ゲノムとの相同組換えのための配列は、核ゲノム、葉緑体ゲノム、及びミトコンドリアゲノムの何れと相同組換えできる配列であってもよいが、葉緑体ゲノムと相同組換えできる配列(rbcL遺伝子とaccD遺伝子とのセット、trnV遺伝子とrps12遺伝子とのセット、trnI遺伝子とtrnA遺伝子とのセットなど)であることが好ましい。これにより、葉緑体ゲノムにcrtZ遺伝子及びcrtW遺伝子、又はcrtW遺伝子を導入することができる。これらの配列セットを用いれば、葉緑体ゲノム上の内在性の遺伝子を分断しない位置に遺伝子挿入でき、それにより葉緑体の機能への影響を抑えることができる。
【0014】
次に、このプラスミドを用いて植物体を形質転換するが、形質転換は、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、アグロバクテリウムを使用する方法など公知の方法で行える。また、形質転換により、crtZ遺伝子及びcrtW遺伝子の双方を導入してもよいが、crtW遺伝子だけを導入してもよい。crtZ遺伝子とcrtW遺伝子との双方を宿主に導入する場合は、前述したように、この両遺伝子を一つの遺伝子発現カセット内に含むものを用いればよい。また、crtZ遺伝子を含みcrtW遺伝子を含まないプラスミドと、crtW遺伝子を含みcrtZ遺伝子を含まないプラスミドとの双方を用いて形質転換してもよいが、この場合は、両プラスミドの相同組換えのための配列セットを互いに異なるものとするのが好ましい。これにより、相同組換えによる、一方のcrt遺伝子のゲノムからの脱落を回避できる。
【0015】
宿主植物の種類は、特に限定されないが、本発明のカロテイド化合物を食品添加物などとして使用する場合を考慮すれば、可食植物を使用するのが好ましい。また、目的化合物の製造効率が良い点では、β-カロテンヒドロキシラーゼ及びβ-カロテンケトラーゼの基質であるβ-カロテンを多く含むトマト、にんじん、ほうれん草、ピーマン、かぼちゃ、ケール、レタスのような緑黄色野菜が好ましい。
形質転換した後の植物の生育期間は、植物の種類によって異なるが、十分量の植物体が得られるまで生育させればよい。生育条件も、植物種によって最適な条件とすればよい。
【0016】
次いで、形質転換植物体を溶媒で抽出すればよい。形質転換植物体は全ての部分に4-ケトアンテラキサンチンが蓄積していると考えられるが、葉緑体や色素体を多く含む点で、葉、果実、塊茎、根などを抽出に供するのが好ましい。また、植物体は破砕して抽出に供するのが好ましい。溶媒は有機溶媒が好ましく、有機溶媒の種類は、抽出効率の点からは、アセトン、クロロホルム、ヘキサン、イソプロパノール、アセトニトリル、メタノールなどが好ましいが、得られる化合物を食品添加物などとして利用することを考慮すれば、エタノールなどが好ましい。溶媒は1種を単独で又は2種以上を混合して使用できる。また、炭酸カルシウムなどの塩を溶媒に添加することにより、一層抽出効率が向上する。抽出温度は、溶媒の沸点以下であればよいが、化合物の分解を防止するために、室温以下で行えばよい。また、抽出時間は10分間〜1時間程度とすればよい。
抽出液から、液体クロマトグラフィーなどの公知の手段で、式(1)の化合物を単離すればよい。
さらに、2つの水酸基(R1及びR2以外の水酸基)を、常法に従い、グルコシド、ガラクトシドなどの配糖体に変換することができる。
【0017】
(3)本発明のカロテノイド化合物の使用方法
本発明のカロテノイド化合物は抗酸化剤として機能する。従って、食品、医薬品、又は化粧品などの酸化防止用添加剤として、また栄養補助食品の有効成分などとして使用することができる。
実施例
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
[実施例1]葉緑体遺伝子組換え用プラスミドの作製
プラスミドpLD6(Gen Bank アクセッションno. CS165374)のBstBI-EcoRI部位にマルチクローニングサイト(配列5’-TTC GAA GCT TAA TTA ATC GAT ATC TCT AGA TCT AAA AGG AGA AAT TAA GCA TGC ATC GAT TCT AGA GAA TTC-3’(配列番号3):下線部はBstBI部位とEcoRI部位を示す)を挿入し、プラスミドpLD7を作製した。
鋳型としてプラスミドpLD6を用い、プライマーPrrn1(5’-CCT TAA TTA ATC TAG TTG GAT TTG CTC CCC CG-3’(配列番号4):下線部はPacI部位を示す)ならびにPrrrn2(5’-GAA GAT CTC TCC CTA CAA CTG TAT CCA AGC GC -3’(配列番号5):下線部はBglII部位を示す)を用いたPCR増幅により得られた遺伝子断片を制限酵素PacIとBglIIで処理し、プラスミドpLD7のPacI-BglII部位に挿入し、プラスミドpLD7-rrnPを作製した。
化学合成した遺伝子断片、5’-GAT CTC AGT CTA GAG TGG CTA GCG ACA TCG ATG GCG-3’ (配列番号6)と5’-AAT TCG CCA TCG ATG TCG CTA GCC ACT CTA GAC TGA-3’ (配列番号7)とをアニーリングさせ、BglII/EcoRI処理したプラスミドpLD7-rrnPに挿入し、プラスミドpLD7-rrnP-MCSを作製した。
【0019】
海洋細菌Brevundimonas sp. strain SD212由来のβ-carotene hydoroxylase遺伝子(crtZ)とβ-carotene ketolase遺伝子(crtW)(GenBank accession no. AB181388)を、ナタネ型のコード様式(codon usage)に変換した改変型crtZ遺伝子(配列番号1)ならびに改変型crtW遺伝子(配列番号2)を化学合成した。
プライマーとしてP1(5’-CGG GAT CCA AAG AGG AGA AAT TAC ATA TGG CTT GGC TTA CTT GGA TCG CTC-3’ (配列番号8): 下線部はBamHI部位を示す)とP2(5’-GCT CTA GAT TAA GCT CCG CTA GAA GAA GAT CCC CTC TTT TG-3’ (配列番号9):下線部はXbaI部位を示す)を用い、鋳型として改変型crtZ遺伝子を用いたPCR増幅により得られた遺伝子断片を、制限酵素BamHIとXbaIで処理し、プラスミドpLD7-rrnP-MCSのBglII-XbaI部位に挿入し、プラスミドpLD-rrnP-crtZを作製した。
【0020】
プライマーとしてP7(5’-GCT CTA GAA AAG AGG AGA AAT TAC ATA TGA CTG CTG CTG TTG CTG AGC CTA G-3’(配列番号10):下線部はXbaI部位を示す)とP8(5’-GGA ATT CTC AAG ACT CTC CTC TCC AAA GTC TCC ACC AAG-3’(配列番号11):下線部はEcoRI部位を示す)を用い、鋳型として改変型crtWを用いたPCR増幅により得られた遺伝子断片を、制限酵素XbaIとEcoRIで処理し、プラスミドpLD7-rrnP-crtZのXbaI-EcoRI部位に挿入し、プラスミドpLD7-rrnP-crtZ-crtWとした。
プラスミドpLD7-rrnP-crtZ-crtWを制限酵素NotIとSalIで処理し、プラスミドpLD200(Genbank accession no. CS165378)のNotI-SalI部位に挿入し、pLD200ZWを作製した(図1)。このプラスミドは、形質転換体にスペクチノマイシン耐性を付与するaadA遺伝子の発現カセットと、相同組換えに必要なタバコ由来rbcL遺伝子とタバコ由来accD遺伝子を有する。改変型crtZならびに改変型crtWは、タバコ(Nicotiana tabacum L. cv Xanthi)由来rrnプロモーターとタバコ由来rps16プロモーターの中間に連結されたものである。
【0021】
[実施例2]葉緑体形質転換植物の作出
野性株タバコ(Nicotiana tabacum L. cv Xanthi)は0.2%ゲランガム(和光純薬製)を含むMS培地(Murashige, T., Skoog, F. 1962. A revised medium for rapid growth and bioassays with tobacco tissue culture. Physiol Plant 15: 473-497)上で無菌育種した。葉組織を切り出して無菌培地に並べ、実施例1で作製した葉緑体遺伝子組換え用プラスミドを用いて、Maligaらの方法(Svab, Z., Maliga, P. 1993. High-frequency plasmid transformation in tobacco by selection for a chimeric aadA gene. Proc Natl Acad Sci USA 90; 913-917)にしたがい、パーティクルボンバードメント法による遺伝子導入を行った。0.5 mg ml-1スペクチノマイシンを含むRMOP培地上で生育したシュートは、0.5 mg ml-1スペクチノマイシンを含むMS培地上に移植して発根を促し、植物体を得た。植物体は、Metro-Mix 350(Sun Gro Horticulture社製)を入れた鉢(700 ml plant-1)に植え替えた後、25℃、16時間明期(8時間暗期)、300μmol m-2 s-1の光条件下で育種した。
【0022】
[実施例3] 葉緑体形質転換植物の色素成分分析
実施例2で得た、鉢植え後のタバコ形質転換植物体から採取したリーフディスク(706 mm2)を液体窒素中で凍結し、ミキサーミル(Retsch社製)にて破砕した後、0.75 mLのアセトンと10 mgの炭酸カルシウムを加えて撹拌した。遠心分離(15,000×g、5分間、4℃)後、上清を回収し、沈殿には0.5 mLのアセトンを加えた。沈殿画分を暗所にて5分静置した後、遠心分離(15,000×g、5分間、4℃)し、上清を回収して一回目の回収液と混合した(これを色素成分抽出液とした)。
【0023】
色素成分抽出液は、Acquity UPLC(Ultra Performance Liquid Chromatographyシステム ウォーターズ社製)に供し、MassLynxソフトウェアを用いて定性及び定量データの解析を行った。分離用カラムとしてはACQUITY BEH Shield RP18(2.1×150mm、1.7μm 粒子サイズ、ウォーターズ社製)を用いて、流速0.6 ml/分、温度40℃条件下、溶媒 A (メタノール:水=50:50)と溶媒 B (アセトニトリル)からなる2溶媒系のグラジエント形成により色素成分を分離し、フォトダイオードアレイ検出器による検出を行った。抽出液を注入後のグラジエント条件としては、溶媒 Bの容量比率を70%として3.5分保持した後、4.5分かけて100%とし、そのまま3分間保持した。その後、次の注入に向けて、70%の溶媒 Bを4分間流すことにより、カラム内部を平衡化した。色素成分は、クロマト分離時のリテンションタイムと吸光スペクトルにより同定し、445nmにおける吸収で確認されたピークエリアから換算してサンプル中の濃度を決定した。換算は、和光純薬製カロテノイド標準試料を用いて作製した検量線をもとにして行った。
UPLCで検出した吸収波長445 nmにおけるクロマトグラムを図2に示す。図2の上段が形質転換植物体の結果であり、下段が野生型植物の結果である。後述する実施例5で同定した化合物を同条件でAcquity UPLCに供した場合のリテンションタイム(保持時間)が2.36分であリ、吸光スペクトルも同じであることから、リテンションタイム(保持時間)2.36分のピークが目的の4-ケトアンテラキサンチンであると考えられる。
【0024】
[実施例4] 4-ケトアンテラキサンチンの精製
実施例2で得た形質転換タバコの葉を凍結乾燥したもの(44.48 g)をミキサーで粉末としたのち、1 Lのジクロロメタン(CH2Cl2):メタノール(1:1)溶液で2回抽出した。抽出液はろ過後減圧濃縮乾固し、これをpH無調整で酢酸エチル(EtOAc)/水で分配した。
酢酸エチル層を濃縮乾固後、得られた赤色オイルをシリカゲルカラム (ヘキサン: 酢酸エチル(1:1))で精製した。赤色色素溶出フラクションを集め濃縮乾固、重量測定した結果、150.3 mg(赤色オイル)であった。この赤色オイルをさらに分取ODS HPLC (Senshu Pak PEGASIL ODSカラム、20 x 250 mm、溶媒アセトニトリル(CH3CN):ジクロロメタン(8:2)、流速 8.0 ml/分)にて精製したところ、保持時間 (Rt) 11.0分にアスタキサンチン(15.9 mg)が、Rt 12.1分にフリットシェラキサンチン(fritschiellaxanthin) (6.7mg)が純品として溶出された。同クロマトグラフィーでRt 9.8分に溶出された赤色物質についてはさらにシリカゲル分取HPLC (YMC-Pack SILカラム、20 x 250 mm、溶媒 ヘキサン:アセトン(7:3))にして精製を行い、赤色粉末3.2 mgを得た。これは、目的とする4-ケトアンテラキサンチンの純品であると考えられる。
【0025】
[実施例5] 4-ケトアンテラキサンチンの同定
実施例4で得られた赤色粉末化合物の物性を以下に示す。以下に、4-ケトアンテラキサンチンの理化学的性質を示す。
質量分析
HRESI-MS m/z 621.38817 [(M+Na)+, C40H54O4Na, calcd for 621.39198]
可視部吸収スペクトル
λmax (MeOH) 447.3 nm
NMR
1H-NMR (δ:0.98 (s, 3H, H-17’), 1.15 (s, 3H, H-16’), 1.19 (s, 3H, H-18’), 1.21 (s, 3H, H-17), 1.23 (dd, 1H, J=13.0, 14.0 Hz, H-2’ax), 1.32 (s, 3H, H-16), 1.66 (ddd, 1H, J=1.5, 3.5, 14.0 Hz, H-2’eq), 1.66 (dd, 1H, J=8.5, 14.0 Hz, H-4’ax), 1.83 (dd, 1H, J=12.8, 13.8 Hz, H-2ax), 1.93 (s, 3H, H-19’), 1.95 (s, 3H, H-18), 1.97 (s, 3H, H-20’), 1.98 (s, 3H, H-20), 2.00 (s, 3H, H-19), 2.15 (dd, 1H, J=5.8, 12.8 Hz, H-2eq), 2.37 (ddd, 1H, J=1.5, 4.7, 14.1 Hz, H-4’eq), 3.91 (m, 1H, H-3’), 4.32 (dd, 1H, J=5.8, 13.8 Hz, H-3), 5.89 (d, 1H, J=15.3 Hz, H-7’), 6.21 (d, 1H, J=10.7 Hz, H-10’), 6.21 (d, 1H, J=16.4 Hz, H-7), 6.29 (d, J=15.3 Hz, H-8’), 6.30 (d, 1H, J=11.8 Hz, H-14), 6.30 (d, 1H, J=11.8 Hz, H-10), 6.30 (d, 1H, J=11.8 Hz, H-14’), 6.38 (d, 1H, J=15.3 Hz, H-12’), 6.43 (d, 1H, J=16.4 Hz, H-8), 6.45 (d, 1H, J=14.8 Hz, H-12), 6.62 (dd, 1H, J=10.7, 15.3 Hz, H-11’), 6.65 (dd, 1H, J=11.8, 15.1 Hz, H-15’), 6.66 (dd, 1H, J=11.8, 14.8 Hz, H-11), 6.67 (dd, 1H, J=11.8, 15.1 Hz, H-15)
13C-NMR (δ):12.6 (C-19), 12.8 (C-19’), 12.8 (C-20’), 13.0 (C-20), 14.0 (C-18), 20.0 (C-18’), 24.9 (C-16’), 26.2 (C-16), 29.8 (C-17’), 30.7 (C-17), 35.4 (C-1’), 36.8 (C-1), 41.0 (C-4’), 45.4 (C-2), 47.2 (C-2’), 64.3 (C-3’), 67.0 (C-5’), 69.2 (C-3), 70.3 (C-6’), 123.2 (C-7), 124.0 (C-7’), 124.3 (C-11’), 125.0 (C-11), 126.8 (C-5), 130.0 (C-15’), 130.9 (C-15), 132.2 (C-14’), 132.7 (C-10’), 134.0 (C-14), 134.4 (C-9’), 134.5 (C-9), 135.3 (C-10), 136.2 (C-13’), 136.9 (C-13), 137.3 (C-8’), 138.1 (C-12’), 139.9 (C-12), 142.4 (C-8), 162.3 (C-6), 200.4 (C-4)
【0026】
CD(Circular Dichroism)
CD(λ, (Δε) in Et2O):227 (-5.5), 240 (0), 255 (+7.0), 296 (-18.0), 330 (0), 358 (+2.0)
以上の結果、実施例4で得られた赤色粉末化合物は、前述の式(2)で表される4-ケトアンテラキサンチン(C40H54O4)であると判断された。その分子量は598である。また、この化合物は、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、及び酢酸エチルに易溶性である。
【0027】
[実施例6] 4-ケトアンテラキサンチンの1O2(一重項酸素)消去活性試験
ディスポカルチャーチューブに0.05 mMメチレンブルー溶液40 μl、2.4 Mリノール酸10μl、サンプル40 μl(以上すべてエタノール溶液)、エタノール310μlを加えて(計1 ml)よく撹拌した。エタノールの蒸発を抑えるためにビー玉をチューブに乗せた状態で、蛍光灯の光下3時間光照射を行った。なお光照射量が一定になるように実験は発泡スチロール箱中で行い、蛍光灯スタンドとサンプルの距離は17cm程度となるように設定した(7,000 lux程度)。3時間後、反応液60μlを別のチューブに移し、ここに1,740 mlのエタノールを加え(=30倍希釈)、希釈液のl235nmの吸光度(Abs235)を測定した。実験は4連で行い、その平均吸光度をデータとして用いた。
【0028】
サンプルの一重項酸素消去率は、式(100−(S−B2)/(C−B1))×100を計算することによって求めた。ここで、S(sample)は光照射かつサンプル添加でのAbs235を、C(Control)は光照射かつサンプル無添加でのAbs235を、B1(Blank1)は光無照射かつサンプル無添加でのAbs235を、B2(Blank2)は光無照射かつサンプル添加でのAbs235を示す。なお、コントロールの吸光度(C)は1.4210、Blank1の吸光度(B1)は0.2程度であった。Blank2の吸光度(B2)は0.27であった。
4-ケトアンテラキサンチンについて1μM、10μM、及び100μMの各濃度 (final)で上記試験を行ったところ、吸光度(s)は、それぞれ1.37、0.92、及び0.42であった。得られた回帰直線からIC50を求めた結果、その消去活性はIC50 17.0μMであった。一方、同様の手法で測定したβ-カロテン(シグマ社製、C-458205G)の消去活性は100μM以上であった。4-ケトアンテラキサンチンの抗酸化活性は極めて高いことが分る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1で構築したプラスミドpLD200ZWの構成を示す図である。
【図2】形質転換タバコから抽出した化合物をUPLC(吸収波長445 nm)のクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表される化合物、又はその配糖体。
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ水酸基、又は一緒になってケト基を示す。)
【請求項2】
ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)に属する海洋細菌由来のβ-カロテンケトラーゼ遺伝子(crtW)、又はさらにβ-カロテンヒドロキシラーゼ遺伝子(crtZ)を植物体に導入する工程と、得られる形質転換植物を溶媒で抽出する工程と、抽出物から上記式(1)で表されるカロテノイド化合物を回収する工程とを含む、上記式(1)で表される化合物、又はその配糖体の製造方法。
【請求項3】
上記式(1)で表される化合物、又はその配糖体を含む抗酸化剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−179566(P2009−179566A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17443(P2008−17443)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 植物機能を活用した高度モノづくり基盤技術開発 植物の物質生産プロセス制御基盤技術開発委託研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】