説明

新規微生物コハク酸生産菌及びコハク酸の精製

本発明は、内在性ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素活性の脱制御を備えるように遺伝子改変された、コハク酸の発酵生産のための炭素源としてグリセロールを利用することができる細菌株、及びそのような微生物を使用して有機酸、特にコハク酸を生産する方法に関する。本発明はまた、陽イオン交換クロマトグラフィーによる、生産された有機酸の下流処理に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内在性ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素活性の脱制御(deregulation)を備えるように遺伝子改変された、コハク酸の発酵生産のための炭素源としてグリセロールを利用することができる細菌株、及びそのような微生物を使用して有機酸、特にコハク酸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスからのコハク酸(SA)の発酵生産は、該酸が、合成樹脂の重要成分を代表するものであり、又はさらに高価な低分子化合物、特にテトラヒドロフラン(THF)、1,4-ブタンジオール(BDO)、γ-ブチロラクトン(GBL)及びピロリドン類(WO-A-2006/066839)の原料であるため、既に大きな注目を集めている。
【0003】
ウシの第一胃から単離されたSA生産細菌は、Leeら(2002a)に記載された。この細菌は、非運動性、非芽胞形成性、中温性かつ好二酸化炭素性(capnophilic)のグラム陰性桿菌又は球桿菌である。16S rRNA配列に基づく系統発生解析及び生理学的解析により、この株はマンヘミア属(genus Mannheimia)に新種として属することが示され、マンヘミア・サクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciproducens)MBEL55Eと命名されている。100%CO2条件下では、この株は、pH範囲6.0〜7.5でよく増殖し、SA、酢酸及びギ酸を一定比率2:1:1で生産する。M.サクシニシプロデュセンスMBEL55Eは、グルコースを炭素源として用いてCO2飽和条件下で嫌気的に培養すると、7.5時間のインキュベーション中に19.8g/Lのグルコースを消費し、13.3g/LのSAを生産した。さらに、この微生物では、代謝遺伝子の突然変異/欠失によってSAの生産が改善された。乳酸脱水素酵素ldhA、ピルビン酸ギ酸リアーゼpflB、ホスホトランスアセチラーゼpta、及び酢酸キナーゼackA遺伝子の突然変異/欠失の組み合わせによって、添加した炭素源1gあたり0.6gのSAの収率(YP/S)で炭素をSAへ変換する株が生成された。SA生産の空時収率は、1.8g/リットル/hであることが見出された(Lee 2006)。
【0004】
Linら 2005には、SB202と記載される、ldh及びpfl遺伝子に突然変異を持つ大腸菌(E. coli)の突然変異株が記載されている。しかし、この株は、嫌気的条件下でゆっくり増殖すること及び糖類を完全に発酵できないことを特徴としていた。不活性なldh及びpflは、ピルビン酸分岐点(pyruvate node)で炭素フラックスを停滞させ、ピルビン酸を主要生成物として蓄積させる。この点において、炭素源に対するコハク酸塩の炭素収率(YP/S)は0.15g/g SA/炭素 未満であることが見出された。
【0005】
Sanchezら 2005には、ldh、adhE、ack-pta及びiclR遺伝子に突然変異を持つ大腸菌株が記載されている。これらの実験では、細胞を複合培地上で好気的に増殖させ、回収、濃縮し、嫌気的条件下で炭素源とともにインキュベートした。炭水化物からSAへの直接変換用のこれらの特定の条件下で、炭素源1gあたり0.98〜1.13g SAの炭素収率YP/Sが見出され、空時収率は0.79g/l h SAであった。嫌気的変換段階前のバイマス生成のための炭素利用は、この計算には明らかに含まれておらず、それ以上記載されていない。
【0006】
Hong and Lee(2001)には、ldh及びpfl遺伝子に突然変異を持つ大腸菌株が記載されている。これらの株は炭水化物の発酵からSAを生産するが、炭水化物利用は遅く、炭水化物炭素源グルコースからのSAの空時収率及び炭素収率(YP/S)は低い。さらに、コハク酸、酢酸及び乳酸が、1:0.034:1.6の比率で生産された。この解析では、ldh及びpfl遺伝子に突然変異を持つ株の増殖は、突然変異のない親株に比べると、遅延していた。
【0007】
Zhuら 2005には、コハク酸を生産しないが、乳酸塩を生産し、唯一の基質としてグルコース上で増殖する場合、低増殖性を示す、pfl遺伝子に突然変異を有する大腸菌株が記載されている。
【0008】
しかし、生物マンヘミア・サクシニシプロデュセンスの重大な欠点は、トリアシルグリセロール(TAG)の構成要素として、例えばバイオディーゼル生産のエステル交換反応における副産物として、容易に利用可能となるグリセロールを代謝できないことである(Dharmadiら, 2006)。
【0009】
グリセロールからのSAの発酵生産は、科学論文(Leeら, 2001; Dharmadiら, 2006)に記載され、グリセロールを用いると、グルコースなどの一般的な糖類より高い収率[生産されたSAの質量/消費された原料の質量]が達成された(Leeら, 2001)。しかし、グリセロールで得られた空時収率は、グルコースの場合よりかなり低かった(0.14対1.0g SA/[L h])。
【0010】
少数例でのみ、グリセロールから発酵生成物への嫌気的代謝が記載されている。大腸菌は、非常に特殊な条件下で、例えば発酵気体水素の蓄積を回避する酸性pH、及び適切な培地組成下で、グリセロールを発酵することができる(Dharmadiら 2006、Yazdani and Gonzalez 2007)。多くの微生物は、外部電子受容体の存在下でグリセロールを代謝することができ(呼吸代謝)、発酵により(すなわち電子受容体の非存在下で)それができるものはほとんどいない。グリセロールの発酵代謝は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae family)のいくつかの種において、例えばシトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)及び肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)において非常に詳細に研究されている。これらの生物におけるグリセロールの異化は、高度に還元された生成物1,3-プロパンジオール(1,3-PDO)を合成する能力と密接に関連している(Dharmadiら 2006)。アネロビオスピリルム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)を用いたグリセロールのSAへの変換が報告されている(Leeら 2001)。この研究は、炭素源としてグリセロールを用いることによって、副産物である酢酸をほとんど形成せずにSAを生産でき、それによりSAの精製が促進されることを示した。グリセロール及び酵母抽出物を断続的に供給することによって最も高い収率が得られ、この方法は約19g/LのSAの生産をもたらした。しかし、グリセロール発酵が起こるためには酵母抽出物中に存在する未同定の栄養成分が必要であることが記載されていた。しかしながら、多価アルコールであるグリセロールと比べて糖類の還元状態が低いために、糖類は、グリセロールより有意に低い収率で、SAに理論上は変換され得る。糖類とグリセロールの組み合わせが、SAを生産する嫌気的生物中で機能することが見出されている(Leeら 2001)が、29g/lを超えるSA力価には達していない。さらに、炭素収率YP/Sはわずか92%であることが見出され、SA/AAの関係は4.9:1であることが見出された。最大で4g/lのグリセロールのみがコハク酸に変換された。
【0011】
酵素ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)及びピルビン酸カルボキシラーゼ(PycA)に触媒されるオキサロ酢酸のカルボキシル化反応は、CO2源としてHCO3-を利用している(Peters-Wendisch, PGら 1996, 1998)。従って、炭酸水素塩の供給源、例えばNaHCO3、KHCO3、NH4HCO3などを、発酵及び培養培地に適用し、基質のSAへの代謝におけるHCO3-の利用可能性を改善することができる。これまでの先行技術において、グルコースからのSAの生産がHCO3-の添加に依存することは見出されていない。
【0012】
嫌気的生物によるバイオマス生産は、発酵経路から生産されるATPの量によって制限される。嫌気的生物におけるグリセロールのバイオマス収率は、六炭糖、例えばグルコース、フルクトース、五炭糖、例えばキシロース、アラビノース又は二糖類、例えばショ糖若しくはマルトースなどの糖類のものより低い(Leeら 2001、Dharmadi 2007)。
【0013】
先行する特許出願第PCT/EP2008/006714号(その内容は参照により本明細書に援用される)は、元々は第一胃から単離され、炭素源としてグリセロールを利用できるパスツレラ科(family of Pasteurellaceae)のメンバーである細菌株、及びこの能力を保持するそれに由来する変異株及び突然変異株、特に受託番号DSM 18541(ID 06-614)を有しDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germany)に寄託され、DD1と命名され、コハク酸を生産する能力を有する細菌株、及び少なくともコハク酸を生産する能力を保持するそれに由来する変異株若しくは突然変異株を開示している。DD1株は、Kuhnertら, 2010によって分類されたようにバスフィア・サクシニシプロデュセンス(Basfia succiniciproducens)種及びパスツレラ科に属する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO 2005/052135 A1
【特許文献2】US 2003/017559 A1
【特許文献3】WO 2008/013405 A1
【特許文献4】WO 2009/024294 A1
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Scholten Eら, Biotechnology Letters, vol. 30, no. 12, p. 2143-2146 (2008)
【非特許文献2】Lee S Jら, Applied and Environmental Microbiology, vol. 72, no. 3, p. 1939-1948 (2006)
【非特許文献3】Zhang Xら, Applied and Environmental Microbiology, vol. 76, no. 8, p. 2397-2401 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、グリセロールから有機酸、特にSAを生産する能力を有する新規細菌株に対するニーズがある。特に、そのような株は、とりわけ例えばバイオディーゼル生産からの粗グリセロールを事前の精製なく使用できる場合に、グリセロールから高い生産性で該酸を生産すべきである。そのような新規株及び生産方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、DD1と命名された細菌株を単離し、驚くべきことに、この株が所望の代謝特性を有するようにPFLタンパク質の活性を低下させるように、この株を突然変異させることによって、上記目的を解決した。従って、本発明者らは、内在性PFL酵素活性の脱制御を備えるように遺伝子改変された、コハク酸の発酵生産のための炭素源としてグリセロールを利用することができる新種の細菌株をもたらした。
【発明の効果】
【0018】
本発明者らは、驚くべきことに、所望の代謝特性を有する、そのような突然変異させた細菌株が、SAの発酵において大幅に改善された技術的作用を示すことを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、プラスミドpSacB(配列番号3)の略図を表す。
【図2】図2は、プラスミドpSacB (Δpfl)(配列番号4)の略図を表す。
【図3】図3は、プラスミドpSacB (Δldh)(配列番号5)の略図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
a)特定の用語の一般的定義:
本明細書で用いる「細菌細胞」という用語は、原核生物、すなわち細菌を意味する。細菌は、その生化学的性質及び微生物学的性質、並びにその形態に基づいて分類することができる。これらの分類基準は当技術分野で周知である。
【0021】
(本明細書に記載する有機モノカルボン酸又は有機ジカルボン酸、例えば酢酸、乳酸及びSAとの関連における)「酸」という用語は、最も広義に理解されなければならず、また、その塩、例えばNa及びK塩などのアルカリ金属塩、又はMg及びCa塩などのアルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩、あるいは該酸の無水物も包含する。
【0022】
2つのヌクレオチド配列間の「同一性」又は「相同性」とは、アライメントした配列の全長にわたる残基の同一性、例えば、以下:
−ギャップオープン(ギャップを空けるペナルティー):10.0
−ギャップエクステンド(ギャップを伸張させるペナルティー):0.5
−データファイル(パッケージに含まれるマトリックスファイルを採点する):EDNAFUL
のデフォルトパラメータを用いるバイオインフォマティクスソフトウェアパッケージEMBOSS(バージョン5.0.0, http://emboss.sourceforgenet/what/)からのプログラム、ニードル(needle)を用いて、(かなり類似した配列について)計算される同一性を意味する。
【0023】
「低下した活性を有するピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素をコードする突然変異した遺伝子を含有する細菌株」という用語は、低下した活性を有する、又は検出可能なPFL活性すら有さない改変された細菌細胞を包含する。PFL活性の検出及び測定方法は、Knappeら 1990及びKnappe 1993並びにその中の引用文献に見出すことができる。さらに、その用語は、生理的ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性レベルを示す細菌細胞と比べて有意に低下したPFL活性を有する細菌細胞を包含する。低下が有意であるかどうかは、当業者に周知な統計学的方法によって決定することができる。PFL活性を欠損した細菌細胞は、天然に、すなわち自然突然変異によって生じ得る。細菌細胞を、様々な技術によって、PFL活性を欠損するように、又は有意に低下したPFL活性を有するように改変することができる。好ましくは、そのような細菌細胞は、化学的処理又は放射線によって得ることができる。このために、細菌細胞を、例えば変異原性化学剤、X線、又はUV光によって処理する。続くステップにおいて、PFLを欠損するか、又は少なくとも低下したPFL活性を有する細菌細胞を選択する。細菌細胞はまた、細菌細胞のゲノム中のPFLを突然変異させ、破壊し、又は切り出すための、あるいは低下した活性を有するタンパク質をコードする突然変異遺伝子をもたらす突然変異を導入するための、相同組換え技術によって得ることができる。組換えのための、特に突然変異を導入する、又は配列を欠失させるための好ましい技術は、以下に記載されている。
【0024】
上記定義はまた、モジュレートされる、特にその活性が低下、減弱、又はスイッチオフされる、本明細書に記載の別の酵素をコードする他の遺伝子にも適用される。
【0025】
「低下した活性」という用語は、例えば、微生物の操作前に発現していたレベルより低いレベルでの、遺伝子操作した(例えば遺伝子工学によって作製した)微生物による遺伝子産物(例えばピルビン酸ギ酸リアーゼ(pfl)、乳酸脱水素酵素(ldh)又はその他)の発現を含む。遺伝子操作は、以下に限定されるものではないが、特定の遺伝子の発現と関連する調節配列若しくは部位を変更若しくは改変すること(例えば強力なプロモーター、誘導性プロモーター若しくは多重プロモーターを除去することによって)、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、特定の遺伝子に隣接する核酸配列、例えばプロモーター活性に重要な調節配列を含むプロモーター領域中の配列、リボソーム結合部位若しくは転写ターミネーターを変更すること、特定の遺伝子のコピー数を減少させること、特定の遺伝子の転写及び/若しくは特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写アクチベーターなど)を修飾すること、あるいは当技術分野において通常行われる特定の遺伝子の発現を低下させる任意の他の慣用手段(以下に限定されるものではないが、アンチセンス核酸分子の使用、又は標的タンパク質の発現をノックアウト若しくは阻害するための他の方法を含む)を含み得る。
【0026】
特に、1つ以上のヌクレオチドを宿主生物の染色体から欠失させるように、遺伝子を操作することができる。遺伝子産物、例えばピルビン酸ギ酸リアーゼ分子の低下した活性はまた、遺伝子産物の活性の低下をもたらす1つ以上の遺伝子突然変異を導入することによって得ることができる。低下した活性は、突然変異していない若しくは変化していない酵素活性の50%以上の酵素活性の低下、又は90%以上の酵素活性の低下、又はより好ましくは95%以上の酵素活性の低下、又はより好ましくは98%以上の酵素活性の低下、又はさらにより好ましくは99%以上の酵素活性の低下、又はさらにより好ましくは99.9%以上の酵素活性の低下であり得る。
【0027】
「組換え」微生物という用語は、由来する天然型微生物と比べて、変化した、改変された又は異なる遺伝子型及び/又は表現型を示すように(例えば遺伝子改変が微生物のコード核酸配列に影響を及ぼす場合)、遺伝子変化、改変又は操作されている(例えば遺伝子工学によって作製されている)微生物(例えば細菌、酵母細胞、真菌細胞など)を含む。「プロモーター」という用語は、mRNAを生産する構造遺伝子の転写を指令するDNA配列を意味する。典型的には、プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの近位にある、遺伝子の5'領域に位置する。プロモーターが誘導性プロモーターである場合、転写の速度は誘導剤に応答して上昇する。一方、転写の速度は、プロモーターが構成的プロモーターである場合、誘導剤によって調節されない。
【0028】
「エンハンサー」という用語は、プロモーター要素を意味する。エンハンサーは、転写の開始部位に対するエンハンサーの距離又は配向に関係なく、特定の遺伝子がmRNAに転写される効率を増加させることができる。
【0029】
「クローニングベクター」という用語は、宿主細胞中で自己複製する能力を有し、かつ遺伝子操作のために細胞の形質転換に使用されるDNA分子、例えばプラスミド、コスミド、ファージミド、又はバクテリオファージを意味する。クローニングベクターは、典型的には、ベクターの本質的生物学的機能を失うことなく特定できる様式で外来DNA配列を挿入し得る1つ又は少数の制限酵素認識部位、並びにクローニングベクターによって形質転換された細胞の同定及び選択での使用に適したマーカー遺伝子を含有する。マーカー遺伝子は、典型的には、テトラサイクリン耐性又はアンピシリン耐性をもたらす遺伝子を含む。
【0030】
「ベクター」という用語は、外来タンパク質をコードするクローン化された構造遺伝子を含むDNA分子を意味し、組換え宿主中に遺伝子をもたらす。典型的には、宿主ゲノム中に組み込むためのベクターの場合には、クローン化された遺伝子は、宿主遺伝子配列と相同な又は同一の特定の上流及び下流配列に配置されるか、又は動作可能に連結される。
【0031】
「組換え宿主」という用語は、クローニングベクター又は発現ベクターのいずれかを含有する原核細胞又は真核細胞のいずれであってもよい宿主を意味する。この用語はまた、宿主細胞の染色体又はゲノム中にクローン化された遺伝子(複数可)を含有するように遺伝子工学によって作製されている原核細胞又は真核細胞を含むことを意味する。好適な宿主の例について、Sambrookら, 1989を参照のこと。
【0032】
「発現する」「発現している」「発現された」及び「発現」という用語は、コードされるこのタンパク質の得られた酵素活性又はそれが指す経路若しくは反応が、この遺伝子/経路が発現されている生物中で、この経路又は反応を介した代謝フラックスを可能にするレベルでの、遺伝子産物(例えば本明細書に定義及び記載される経路又は反応の遺伝子の生合成酵素)の発現を意味する。発現は、開始生物として用いる微生物の遺伝子変化によって、行うことができる。一部の実施形態において、微生物は、開始微生物によって生産されるものと比べて、又は変化していない同等の微生物中で生産されるものと比べて、増加したレベルで遺伝子産物を発現するように遺伝子改変(例えば遺伝子工学によって作製)され得る。遺伝子変化には、以下に限定されるものではないが、特定の遺伝子の発現と関連する調節配列若しくは部位を変更若しくは改変すること(例えば強力なプロモーター、誘導性プロモーター若しくは多重プロモーターを付加することによって、又は発現が構成的であるように調節配列を除去することによって)、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、特定の遺伝子に隣接する核酸配列、例えばリボソーム結合部位若しくは転写ターミネーターを変更すること、特定の遺伝子のコピー数を増加させること、特定の遺伝子の転写及び/若しくは特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写アクチベーターなど)を修飾すること、あるいは当技術分野において通常行われる特定の遺伝子の発現を脱制御させる任意の他の慣用手段(以下に限定されるものではないが、例えばリプレッサータンパク質の発現を阻害するためのアンチセンス核酸分子の使用を含む)を含む。
【0033】
微生物は、開始微生物による遺伝子産物の発現のレベルと比べて、増加又は低下したレベルで遺伝子産物を発現するように、物理的に又は環境的に「変更」又は「改変」され得る。例えば、微生物を、転写及び/又は翻訳を増加又は低下させるように、特定の遺伝子の転写及び/若しくは翻訳並びに/又は特定の遺伝子産物の翻訳を増加又は低下させることが知られているか、又はそう考えられている薬剤(化学的又は遺伝的)の存在下で、処理又は培養することができる。あるいは、微生物を、転写及び/又は翻訳を増加又は低下させるように、特定の遺伝子の転写及び/若しくは翻訳並びに/又は特定の遺伝子産物の翻訳を増加又は低下させるために選択された温度で培養することができる。「遺伝子改変された」とは、当技術分野で利用可能な遺伝子工学技術、例えば形質転換、突然変異、相同組換えによって、上記意味において変化させた微生物を意味する。
【0034】
「脱制御する」、「脱制御された」及び「脱制御」という用語は、微生物における少なくとも1つの遺伝子の変更又は改変を意味し、ここで変更又は改変は、変更又は改変していないSA生産に比べて、微生物においてSAの効率の増加をもたらす。一部の実施形態において、微生物における生合成酵素のレベル又は活性が変更又は改変され、あるいは輸送特異性若しくは効率が変更又は改変されるように、変更又は改変される遺伝子は、生合成経路における酵素又は輸送タンパク質をコードする。一部の実施形態において、変更していない又は野生型遺伝子の存在下のレベルと比べて、酵素のレベル又は活性が増進又は増加するように、生合成経路における酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子が変更又は改変される。脱制御はまた、例えば、フィードバック抵抗性であるか、又はより高い若しくはより低い比活性を有する酵素をもたらすように、1つ以上の遺伝子のコード領域を変更することを含む。また、脱制御は、酵素又は輸送タンパク質をコードする遺伝子の発現を調節する転写因子(例えばアクチベーター、リプレッサー)をコードする遺伝子の遺伝子変化をさらに包含する。より具体的には、脱制御は、「低下した」酵素活性をもたらしてよく、ここで得られた酵素活性は、非脱制御状態で観察される酵素活性の100%未満であり、「スイッチオフ」されており、すなわち可逆的又は非可逆的に、もはや存在しないか、又は酵素活性アッセイなどの慣用分析手段によっては少なくとももはや検出できない。
【0035】
「利用することができる」という用語は、基質、例えばグリセロールを少なくとも1つの構造的及び/又は立体的に異なる化学生成物に変換する本発明の微生物の能力を意味する。
【0036】
「グリセロールのコハク酸塩への発酵変換に関与する又は関連する酵素活性」とは、本明細書中下記に定義される一連のパラメータのいずれかによって測定し得るように、グリセロールのコハク酸塩及び/又は副産物への変換に影響を及ぼす酵素の触媒活性又は調節活性を意味する。
【0037】
本明細書に記載される様々な収率パラメータ(「収率」若しくはYP/S;「比生産収率」;又は空時収率(STY))は、当技術分野で周知であり、例えばSong and Lee, 2006に記載されるように決定される。
【0038】
「収率」及び「YP/S」(それぞれ、生産された生成物の質量/消費された材料の質量で表される)は、本明細書では同義的に使用される。
【0039】
比生産収率は、乾燥バイオマス1gあたり、1時間及び発酵ブロス1Lあたりに生産される生成物、例えばSAの量を記載する。DCWと記載される乾燥細胞重量の量は、生化学的反応において生物学的に活性な微生物の量を記載する。その値は、1時間あたりDCW1gあたりの生成物のgとして与えられる(すなわち、g/gDCW-1 h-1)。
【0040】
「発酵生産」又は「発酵」という用語は、インキュベーションに添加される少なくとも1種の炭素源を利用する細胞培養物中で化合物を生産する微生物の能力(該微生物に含まれる又は該微生物によって生成される酵素活性によって補助される)を意味する。
【0041】
「発酵ブロス」という用語は、発酵プロセスに基づき、かつ例えば本明細書に記載されるように作り上げられていない又は作り上げられた水溶液を意味するものと理解される。
【0042】
b)様々な微生物の一般的定義
本発明において記載される「細菌細胞」又は「細菌株」は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、パスツレラ科(Pasteurellaceae)、バチルス綱(Bacilli)又は放線菌門(Actinobacteria)の科から選択される。
【0043】
「腸内細菌科」は、サルモネラ菌及び大腸菌などの、多くのよりなじみのある細菌を含む、細菌の大きな科を表す。それらはプロテオバクテリア門(Proteobacteria)に属し、独自の目(腸内細菌目(Enterobacteriales))が与えられている。腸内細菌科のメンバーは棒状である。他のプロテオバクテリアのように、それらはグラム陰性を有し、かつ通性嫌気性菌であり、糖を発酵して乳酸及び様々な他の最終産物、例えばコハク酸を生産する。大部分はまた、硝酸塩を亜硝酸塩に還元する。大部分の似た細菌とは異なり、腸内細菌科には一般にシトクロームC酸化酵素がない。大部分は、動き回るために使用する多くの鞭毛を有するが、少数の属は非運動性である。それらは、非胞子形成性であり、かつ大抵、カタラーゼ陽性である。この科の多くのメンバーは、ヒト及び他の動物の腸に見られる腸管内菌叢の正常な一部であり、一方で、水又は土の中に見られるもの、あるいは多種多様な動物及び植物に寄生するものもある。エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(大腸菌(E. coli)としてよりよく知られている)は、最も重要なモデル生物の1つであり、その遺伝学及び生化学が詳細に研究されている。腸内細菌科の大部分のメンバーは、細菌細胞の宿主への接着に関与する周毛性のI型線毛を有する。腸内細菌科の例としては、大腸菌、プロテウス菌、サルモネラ菌、クレブシエラ菌がある。
【0044】
「パスツレラ科」は、ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)などの細菌から動物及びヒトの粘膜の共生生物まで及ぶメンバーを有するグラム陰性プロテオバクテリアの巨大かつ多様な科を含む。大部分のメンバーは、鳥類及び哺乳動物の粘膜表面上、特に上気道中に共生生物として生息する。パスツレラ科は、典型的には、棒状であり、通性嫌気性菌の有名な群である。それらは、酸化酵素の存在によって関連する腸内細菌科から区別することができ、鞭毛の非存在によって大部分の他の似た細菌から区別することができる。パスツレラ科の細菌は、代謝特性並びに16S及び23SRNAの配列に基づいて多くの属に分類されている。パスツレラ科のより正確な定義は、Dousseら 2008及びKuhnert, P. 2008並びにその中の引用文献に見出すことができる。パスツレラ科の多くは、ピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子を含有し、炭素源を有機酸に嫌気的に発酵する能力を有する。
【0045】
「バチルス綱」という用語は、細菌の分類学上の綱を意味する。それは2つの目、バチルス目(Bacillales)及びラクトバチルス目(Lactobacillales)を含む。バチルス種は、37℃で好気的条件下で増殖することができる、大きな(約4〜8 x 1.5μm)円筒状の細菌を表す。それらは典型的には非病原性である。バチルス目には、アリシクロバチルス科(Alicyclobacillaceae)、バチルス科(Bacillaceae)、カリオファノン科(Caryophanaceae)、リステリア科(Listeriaceae)、パニバチルス科(Paenibacillaceae)、プラノコッカス科(Planococcaceae)、スポロラクトバチルス科(Sporolactobacillaceae)、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、サーモアクチノミセス科(Thermoactinomycetaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)が含まれる。バチルス綱の多くは、ピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子を含有し、炭素源を有機酸に嫌気的に発酵する能力を有する。
【0046】
「放線菌門(Actinobacteria)」又は「放線菌類(Actinomycetes)」という用語は、高G+C比を有するグラム陽性細菌の群を意味する。それらには、有機物の分解に重要な役割を果たす、最も一般的な土壌生物の一部が含まれる。他の放線菌門は、植物及び動物に生息し、例としてはマイコバクテリウム(Mycobacterium)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ノカルジア(Nocardia)、ロドコッカス(Rhodococcus)及びストレプトミセス(Streptomyces)がある。放線菌門の一部は、分岐するフィラメントを形成し、それは関連のない真菌の菌糸とやや似ており、そのため当初は古い名前Actinomycetesとして分類されていた。大部分のメンバーは好気性であるが、少数のものは嫌気的条件下で増殖することができる。グラム陽性細菌のもう1つの主要群であるフィルミクテス門(Firmicutes)とは異なり、それらは高GC含量を有するDNAを有する。
【0047】
好ましい細菌株は、「パスツレラ属(Pasteurella)」の株である。パスツレラ属の細菌は、グラム陰性かつ通性嫌気性である。パスツレラ属の種は、非運動性、多形性(pleimorphic)であり、ほとんどの場合カタラーゼ陽性かつ酸化酵素陽性である(Kuhnert and Christensen, 2008, ISBN 978-1-904455-34-9)。細菌細胞は、好ましくはパスツレラ属の細菌細胞であり、より好ましくはパスツレラ属の株DD1細胞である。
【0048】
最も好ましくは、パスツレラ属のDD1株は、ブダペスト条約のもとで、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen, GmbH, Germany)に受託番号DSM 18541で寄託された細菌株である。この株は、当初、ドイツ起源のウシの第一胃から単離された。
【0049】
パスツレラ属の細菌は動物、好ましくは哺乳動物の消化管から単離することができる。細菌株DD1は、特に、ウシの第一胃から単離することができ、炭素源としてグリセロール(粗グリセロールを含む)を利用する能力を有する。好ましくは、該株は、特に嫌気的条件下で、グリセロール(粗グリセロールを含む)からSAを生産する能力を有する。さらに、パスツレラ属のDD1株は、以下のさらなる代謝特性:
a)特に嫌気的条件下で、ショ糖からSAを生産する;
b)特に嫌気的条件下で、マルトースからコハク酸を生産する;
c)特に嫌気的条件下で、D-フルクトースからSAを生産する;
d)特に嫌気的条件下で、D-ガラクトースからSAを生産する;
e)特に嫌気的条件下で、D-マンノースからSAを生産する;
f)特に嫌気的条件下で、D-グルコースからSAを生産する;
g)特に嫌気的条件下で、D-キシロースからSAを生産する;
h)特に嫌気的条件下で、L-アラビノースからSAを生産する;
i)キシリトール、イノシトール及びソルビトールを利用しない;
j)好気的条件下及び嫌気的条件下の両方で増殖する;
k)75g/L以上の初期グルコース濃度で増殖する;
l)アンモニア耐性
のうち少なくとも1つを示す。
【0050】
特に、該株は、該代謝特性のうち少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は全てを示す。
【0051】
DD1株は、糖類及び多価アルコールであるグリセロールを共代謝する能力について解析された(PCT/EP2008/006714)。DD1はマルトース及びグリセロールを共代謝する能力を有し、その結果、バイオマス形成、SA形成及びマルトースとグリセロールを同時利用することが見出された。
【0052】
c)好ましい実施形態
本発明の第一の実施形態は、SAの発酵生産のための炭素源としてグリセロールを利用できる細菌株であって、内在性ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素活性の脱制御を備えるように遺伝子改変されている前記細菌株に関する。特に、該ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素活性は低下しているか、又はスイッチオフされている。
【0053】
低下した活性を有するピルビン酸ギ酸リアーゼを含有するこの突然変異細菌は、遺伝学的手法によって、並びに先行技術文献中で周知の突然変異法(細菌ゲノムの改変についての実施例及び説明は、Saier, Milton H Jr 2008、Foster, Patricia L, 2007、Witkin, E M 1969、Eisenstark, A 1971、Walker, G C ら. 1983及び1984、Botstein, D, and Shortle, D 1985並びにそれらに含まれる引用文献に見出すことができる)を適用して突然変異を導入することによって構築することができ、このように突然変異した細菌は、様々な炭素源、例えば糖類及びグリセロールの混合物を利用することができ、又はグリセロールのみを利用することができる。pfl遺伝子に突然変異を有する株を単離する方法は、Varenne Sら 1975及びPascal, Mら 1981に見出すことができる。
【0054】
好ましくは、該株は、特に嫌気的条件下で、様々な炭素源(グリセロールを含む)からSAを生産する能力を有する。
【0055】
該株の別の実施形態において、グリセロールのコハク酸塩への発酵変換に関与する又は関連する少なくとも1つのさらなる酵素活性が脱制御される。
【0056】
特に、該株は、腸内細菌科、パスツレラ科、バチルス綱又は放線菌門の科の微生物から選択される微生物に由来する。
【0057】
特に、該株は、配列番号1の16S rDNA又は少なくとも96、97、98、99若しくは99.9%の配列相同性を示す配列を有する、並びに/あるいは配列番号2の23S rDNA又は少なくとも95、96、97、98、99若しくは99.9%の配列相同性を示す配列を有する、パスツレラ科の微生物に由来する。本発明の一実施形態において、細菌株は、パスツレラ科の微生物に由来し、バスフィア・サクシニシプロデュセンス種に属する。バスフィア・サクシニシプロデュセンス種は、参照により本明細書に援用されるKuhnertら, 2010に定義される。
【0058】
本発明の細菌株は、以下のさらなる代謝特性:
a)ショ糖からコハク酸を生産する;
b)マルトースからコハク酸を生産する;
c)マルトデキストリンからコハク酸を生産する;
d)D-フルクトースからコハク酸を生産する;
e)D-ガラクトースからコハク酸を生産する;
f)D-マンノースからコハク酸を生産する;
g)D-グルコースからコハク酸を生産する;
h)D-キシロースからコハク酸を生産する;
i)L-アラビノースからコハク酸を生産する;
j)ラクトースからコハク酸を生産する;
k)ラフィノースからコハク酸を生産する;
l)グリセロールからコハク酸を生産する;
m)75g/l以上の初期グルコース濃度で増殖する;
n)70g/l以上の初期グリセロール濃度で増殖する
のうち少なくとも1つを、例えば前記特性の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13個又は全ての組み合わせとして、特徴l)(グリセロールからSA)を各組み合わせの必須要素として備え、さらに示す。
【0059】
さらなる実施形態において、本発明の株は、ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース及び/又はグリセロールをコハク酸に、少なくとも0.5g/g、好ましくは最大約1.28g/gの収率係数YP/Sで、例えば少なくとも0.6g/g、少なくとも0.7g/g、少なくとも0.75g/g、少なくとも0.8g/g、少なくとも0.85g/g、少なくとも0.9g/g、少なくとも0.95g/g、少なくとも1.0g/g、少なくとも1.05g/g、少なくとも1.07g/g、少なくとも1.09g/g、少なくとも1.10g/g、少なくとも1.11g/g、少なくとも1.22g/g、又は少なくとも1.24g/gの収率係数YP/Sで変換する。
【0060】
さらなる実施形態において、本発明の株は、以下の特徴:
a)少なくとも25g/Lのグリセロールを少なくとも25.1g/Lのコハク酸に、少なくとも1.01g/gの収率係数YP/Sで変換する;
b)ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.58 g g DCW-1 h-1コハク酸の比生産収率で変換する;
c)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h)コハク酸のコハク酸に対する空時収率で変換する;
d)少なくとも25g/Lのショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する;
e)ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.58 g g DCW-1 h-1コハク酸の比生産収率で、かつ少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する
のうち少なくとも1つを示す。
【0061】
さらなる別の実施形態によると、本発明の細菌株は、少なくとも28g/Lのグリセロールを少なくとも28.1g/LのSAに、少なくとも1.0g/g、又は>1.0g/g、又は>1.05g/g、又は>1.1g/g、又は>1.15g/g、又は>1.20g/g、又は>1.22g/g、又は>1.24g/g、最大約1.28g/gの収率係数YP/Sで変換する。例えば、28g/Lのグリセロールは、最大約40又は最大約35g/LのSAに変換され得る。
【0062】
さらなる別の実施形態によると、本発明の細菌株は、ショ糖、マルトース、ラフィノース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をSAに、少なくとも0.6g g DCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.65、少なくとも0.7g gDCW-1 h-1、少なくとも0.75g gDCW-1 h-1、又は少なくとも0.77g gDCW-1 h-1 SAの比生産収率で変換する。
【0063】
さらなる別の実施形態によると、本発明の細菌株は、ショ糖、マルトース、ラフィノース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をSAに、少なくとも2.2g/(L h)、又は少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも3、少なくとも3.25、少なくとも3.5又は少なくとも3.7g/(L*h) SAのSAに対する空時収率で変換する。
【0064】
別の実施形態によると、本発明の細菌株は、少なくとも28g/Lのショ糖、マルトース、ラフィノース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をSAに、少なくとも2.2g/(L h)、又は少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも3、少なくとも3.25、少なくとも3.5又は少なくとも3.7g/(L*h)のSAに対する空時収率で変換する。
【0065】
別の実施形態によると、本発明の細菌株は、ショ糖、マルトース、ラフィノース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をSAに、少なくとも0.6g gDCW-1 h-1、又は少なくとも0.65、又は少なくとも0.7g gDCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.77g gDCW-1 h-1 SAの比生産収率で、かつ少なくとも2.2g/(L h)、又は少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも3、少なくとも3.25、少なくとも3.5又は少なくとも3.7g/(L*h)のSAに対する空時収率で変換する。
【0066】
好ましくは、本発明の株は、受託番号DSM 18541を有するDSMZに寄託されたDD1株に由来してよく、又はコハク酸を生産する能力を有するDD1の変異株若しくは突然変異株に由来してもよい。
【0067】
本発明の特定の株は、コハク酸(SA)及び副産物(SSP)を、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>33:1のSA/SSP比で生産し、ここでSSPは、副産物である乳酸(LA)、ギ酸(FA)、酢酸(AA)、及びリンゴ酸(MA)の各量をg/Lで表した場合の合計を表す。
【0068】
さらなる特定の株は、コハク酸(SA)及び副産物である酢酸(AA)を、各量をg/Lで表した場合、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>40:1、又は>50:1、又は>75:1、又は>90:1のSA/AA比で生産する。
【0069】
さらなる特定の株は、コハク酸(SA)及び副産物であるギ酸(FA)を、各量をg/Lで表した場合、>90:1、又は>100:1のSA/FA比で生産する。
【0070】
本発明の別の実施形態は、有機酸又はその塩若しくは誘導体の発酵生産方法であって、以下のステップ:
a)同化性炭素源を含有する培地中で上に記載の細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;並びに
b)該有機酸、特にSA、又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ
を含む、前記方法に関する。
【0071】
特定の方法によると、発酵は、約10〜60℃、例えば20〜50℃、30〜45℃、又は25〜35℃の範囲の温度で、かつ5.0〜9.0、例えば5.5〜8、又は6〜7のpHで、かつ二酸化炭素の存在下で行う。pHは、NH4HCO3、(NH4)2CO3、NaOH、Na2CO3、NaHCO3、KOH、K2CO3、KHCO3、Mg(OH)2、MgCO3、MgH(CO3)2、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(HCO3)2、CaO、CH6N2O2、C2H7N及び/又はそれらの混合物の添加によって調整してもよい。
【0072】
特に、該同化性炭素源は、グリセロール、ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、ラクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、ラフィノース、デンプンの分解産物、セルロース、ヘミセルロース及びリグノセルロース、並びにそれらの混合物から選択される。
【0073】
特に、該炭素源は、グリセロール、又はグリセロールと、ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、D-グルコース、D-キシロース、ラフィノース及びL-アラビノースから選択される少なくとも1種のさらなる炭素源との混合物である。
【0074】
前記方法の特定の実施形態によると、同化性炭素源の濃度は、5〜80g/l、例えば10〜60の範囲の値に調整される。
【0075】
本発明は、コハク酸又はその塩若しくは誘導体の発酵生産方法であって、以下のステップ:
a)少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b)該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、以下の特徴:
c)少なくとも25g/Lのグリセロールを少なくとも25.1g/Lのコハク酸に、少なくとも1.0g/gの収率係数YP/Sで変換する;
d)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.58g gDCW-1 h-1 コハク酸の比生産収率で変換する;
e)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h) コハク酸のコハク酸に対する空時収率で変換する;
f)少なくとも25g/Lのショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する;
g)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.6g gDCW-1 h-1 コハク酸の比生産収率で、かつ少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する;
h)コハク酸(SA)及び副産物(SSP)を、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>33:1のSA/SSP比で生産し、ここでSSPは、副産物である乳酸(LA)、ギ酸(FA)、酢酸(AA)、及びリンゴ酸(MA)の各量をg/Lで表した場合の合計を表す;
i)コハク酸(SA)及び副産物である酢酸(AA)を、各量をg/Lで表した場合、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>50:1、又は>75:1、又は>90:1のSA/AA比で生産する
のうち少なくとも1つをさらに特徴とする、前記方法をさらに提供する。
【0076】
前記方法の特定の実施形態によると、該細菌株は上に定義されるように遺伝子改変された株である。
【0077】
本発明の方法は、不連続的に又は連続的に行ってよい。酸生産の経過は、従来の手段によって、例えばHPLC又はGC分析によってモニターしてよい。
【0078】
好ましくは、SAは嫌気的条件下で生産される。嫌気的条件は、従来技術によって、例えば、反応培地の成分を脱気し、二酸化炭素又は窒素又はそれらの混合物、並びに場合により水素を、例えば0.1〜1、又は0.2〜0.5vvmの流速で導入することにより嫌気的条件を維持することによって、確立してもよい。
【0079】
好気的条件は、従来技術によって、例えば空気又は酸素を、例えば0.1〜1、又は0.2〜0.5vvmの流速で導入することによって確立してよい。
【0080】
適切な場合、本発明に従って、0.1〜1.5barのわずかな過度の圧力をかけてもよい。
【0081】
別の実施形態において、本発明は、コハク酸及び/又はコハク酸アンモニウム塩の生産方法であって、上に定義されるコハク酸の発酵生産、及び塩基性アンモニア若しくはその水溶液での、又はNH4HCO3、(NH4)2CO3、NaOH、Na2CO3、NaHCO3、KOH、K2CO3、KHCO3、Mg(OH)2、MgCO3、MgH(CO3)2、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(HCO3)2、CaO、CH6N2O2、C2H7N及びそれらの混合物でのpHのさらなる調整を含む、前記方法を提供する。一般に、塩基の物理的状態は、水溶液、水性懸濁液、気体又は固体のいずれかであり得る。
【0082】
一実施形態において、有機酸、特にコハク酸、及び/又はその塩は、上記又は下記の方法のうち1つによって生産され、以下のステップ:
ろ過及び/若しくは遠心、
陽イオン交換クロマトグラフィー並びに/又は
結晶化
によってさらに単離及び/又は精製される。
【0083】
好ましくは、有機酸及び/又はその塩は、以下のステップ:
ろ過、その後の
陽イオン交換クロマトグラフィー、その後の
結晶化
によってさらに単離及び/又は精製される。
【0084】
ろ過を用いて、細菌細胞を、コハク酸を含有する液体から分離し得る。ろ過は、透析ろ過、クロスフローろ過及び/又は限外ろ過であってよい。
【0085】
陽イオン交換クロマトグラフィーに使用する材料は、強酸性陽イオン交換樹脂であってよい。強酸性陽イオン交換樹脂は、例えばスルホン酸基を有する。特に、陽イオン交換クロマトグラフィーに使用する材料は、H+形態でスルホン酸基を有するスチロール−ジビニルベンゾール−共重合体であってよい。H+形態とは、スルホン酸基が酸の形態で存在することを意味する。好ましくは、陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂の平均粒径は0.3〜1.5、より好ましくは0.55〜0.75mmであり、及び/又はかさ密度は700〜800g/lである。陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂はマクロ多孔性であってよい。マクロ多孔性とは、好ましくは陽イオン交換樹脂の平均孔径が20〜120nm、好ましくは20〜100nm、より好ましくは20〜40nmであることを意味する。粒子分布は、好ましくは単分散している。好ましくは、陽イオン交換クロマトグラフィー材料の総キャパシティは、0.5〜2.0、より好ましくは0.8〜1.7、より好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.4〜1.9 分 eq./lである。x eq./lとは、1lの陽イオン交換樹脂がxモルのスルホン酸基を有することを意味する。従って、eq./lは、単一荷電分子に関して計算される。精製されるコハク酸塩は、Na、K、Ca、Mg及び/又はアンモニウム塩であってよい。例えば、強酸性陽イオン交換樹脂は、LanxessからのType Lewatit Monoplus SP 112であってよい。
【0086】
好ましくは、陽イオン交換クロマトグラフィーは、20〜60℃、より好ましくは45〜60℃の温度で行う。
【0087】
SAを生産するさらに好ましい方法は、以下に記載される。
【0088】
方法1:
別の実施形態において、本発明は、SA又はその塩若しくは誘導体を発酵生産する方法であって、以下のステップ:
a. 少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b. 該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、かつ
少なくとも50g/Lのグリセロールを少なくとも50g/LのSAに、少なくとも1.0g/g、又は>1.0g/g、又は>1.05g/g、又は>1.1g/g、又は>1.15g/g、又は>1.20g/g、又は>1.22g/g、又は>1.24g/g、最大約1.28g/gの収率係数YP/Sで、例えば少なくとも0.6g/g、少なくとも0.7g/g、少なくとも0.75g/g、少なくとも0.8g/g、少なくとも0.85g/g、少なくとも0.9g/g、少なくとも0.95g/g、少なくとも1.0g/g、少なくとも1.05g/g、少なくとも1.1g/g、少なくとも1.15g/g、少なくとも1.20g/g、少なくとも1.22g/g、又は少なくとも1.24g/gの収率係数YP/Sで変換すること
をさらに特徴とする、前記方法を提供する。例えば、50g/Lのグリセロールは、最大約65、又は最大62.5g/LのSA、又は最大60g/LのSAに変換され得る。
【0089】
方法2:
別の実施形態において、本発明は、SA又はその塩若しくは誘導体を発酵生産する方法であって、以下のステップ:
a. 少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で、低下した活性を有するピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素を有する細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b. 該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、かつ
ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、ラフィノース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される炭素源をSAに、少なくとも0.42g gDCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.45、又は少なくとも0.47g g DCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.49g gDCW-1 h-1 SAの比生産収率で変換すること
をさらに特徴とする、前記方法を提供する。
【0090】
方法3:
別の実施形態において、本発明は、SA又はその塩若しくは誘導体を発酵生産する方法であって、以下のステップ:
a. 少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で、低下した活性を有するピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素を有する細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b. 該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、かつ
ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、ラフィノース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される炭素源をSAに、少なくとも2.22g/(L h)、又は少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも2.9g/(L*h) SAのSAに対する空時収率で変換すること
をさらに特徴とする、前記方法を提供する。
【0091】
方法4:
別の実施形態において、本発明は、SA又はその塩若しくは誘導体を発酵生産する方法であって、以下のステップ:
a. 少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b. 該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、かつ
少なくとも50g/Lのショ糖、マルトース、マルトデキストリン、ラフィノース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される炭素源をSAに、少なくとも2.2g/(L h)、又は少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも3、少なくとも3.25、少なくとも3.5又は少なくとも3.7g/(L*h)のSAに対する空時収率で変換すること
をさらに特徴とする、前記方法を提供する。
【0092】
方法5:
別の実施形態において、本発明は、SA又はその塩若しくは誘導体を発酵生産する方法であって、以下のステップ:
a. 少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で細菌株をインキュベートし、所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b. 該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、かつ
ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、ラフィノース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される炭素源をSAに、少なくとも0.6g gDCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.65、又は少なくとも0.7g gDCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.75g gDCW-1 h-1 SA、又は少なくとも0.77g gDCW-1 h-1 SAの比生産収率で、かつ少なくとも2.2g/(L h)、又は少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも3、少なくとも3.25、少なくとも3.5又は少なくとも3.7g/(L*h)のSAに対する空時収率で変換すること
をさらに特徴とする、前記方法を提供する。
【0093】
SAを生産する上記方法1〜5の別の実施形態において、炭素源はグリセロール、又はグリセロールと、ショ糖、マルトース、ラフィノース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、D-グルコース、D-キシロース、及びL-アラビノースから選択される少なくとも1種のさらなる炭素源との混合物である。
【0094】
SAの生産に特に適した条件は以下の通りである:
炭素源:グルコース、キシロース、マルトース若しくはマルトデキストリン、ラフィノース及び/又はグリセロール(粗グリセロールを含む)
温度:30〜45℃
pH:5.5〜7.0、上記の塩基、好ましくはHCO3-源、例えばNa2CO3、NaHCO3、Mg(HCO3)2、Ca(HCO3)2、又はMg(OH)2、MgCO3、Ca(OH)2、CaCO3によって調整される
供給気体:CO2
【0095】
生産されるSA及び/又はSA塩は、当技術分野で公知の方法によって、例えば結晶化、ろ過、電気透析、クロマトグラフィーによって、従来の様式で単離してよい。例えば、それらは、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、又は沈殿物の中和及びろ過のための炭酸水素塩を用いて、発酵中に、発酵槽中のコハク酸カルシウム生成物として沈殿させることによって単離してよい。所望のSA生成物は、硫酸によるコハク酸塩の酸性化、その後のろ過による硫酸カルシウム(石膏)又は沈殿物の除去によって、沈殿したコハク酸カルシウムから回収される。得られた溶液は、不要な残存イオンを除去するために、イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製してよい。
【0096】
別の実施形態において、本発明は、テトラヒドロフラン(THF)及び/又は1,4-ブタンジオール(BDO)及び/又はγ-ブチロラクトン(GBL)の生産方法であって、以下:
a)上に定義されるコハク酸及び/又はコハク酸塩の発酵生産、並びに
b1)得られた遊離酸のTHF及び/又はBDO及び/又はGBLへの直接接触水素化、あるいは
b2)得られた遊離コハク酸及び/又はコハク酸塩の対応するジ-低級アルキルエステルへの化学的エステル化、及び続く該エステルのTHF及び/又はBDO及び/又はGBLへの接触水素化
を含む、前記方法を提供する。
【0097】
別の実施形態において、本発明は、ピロリドン類の生産方法であって、以下:
a)上に定義されるコハク酸アンモニウム塩の発酵生産、及び
b)それ自体公知の方法での、コハク酸アンモニウム塩のピロリドン類への化学的変換
を含む、前記方法を提供する。
【0098】
本方法の特定の実施形態において、同化性炭素源として使用される該グリセロールは、粗グリセロール、特にトリアシルグリセリドのエステル開裂によって得られる粗グリセロールである。例えば、グリセロールはバイオディーゼルの製造から得られる廃棄物である。
【0099】
本発明はまた、有機ファインケミカル、例えばコハク酸又はその塩若しくは誘導体の発酵生産のための、上に定義される細菌株の使用に関する。
【0100】
d)さらなる特定の実施形態
d1)遺伝子操作
さらなる別の実施形態によると、本発明の細菌株は、酵素活性がEC番号EC 2.3.1.54によって定義されるピルビン酸ギ酸リアーゼ(pfl)酵素の突然変異型酵素をコードする遺伝子を含有する。例えば、pfl酵素活性は、pflA遺伝子における突然変異によって、又はpflA遺伝子の発現調節に影響を及ぼすことによって、負の影響を受ける。pflA遺伝子及びpflA遺伝子産物の配列は、以下のアクセッション番号、GeneID:6268899、YP_001880903に見出すことができる。この遺伝子のホモログは、アクセッション番号:NCBI-GeneID 945514、945444、947623、948454、3075405で知られ、各タンパク質はアクセッション番号:UniProt: P09373、P75793、P42632、P32674、Q65VK2で知られる。
【0101】
また、本発明の範囲内には、EC番号EC 1.97.1.4によって定義され、Knappeら 1990及び1993に低下した又は脱制御された活性を有するものが記載されている、ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性化酵素をコードする遺伝子がある。これは、本発明に記載される方法による、突然変異又は遺伝子欠失の導入によって行うことができる。活性が低下され得る、又はコードしている遺伝子が突然変異され得る、若しくは脱制御され得るこの酵素の例は、pfl活性化酵素遺伝子pflA及びyfiD遺伝子(アクセッションGeneID: 947068で知られる大腸菌K12遺伝子)、アクセッション番号NCBI-GeneID: 945445及び各タンパク質NP_415345を有する遺伝子ybiY、アクセッションGeneID: AAU37008で知られるマンヘミア・サクシニシプロデュセンス遺伝子、アクセッションYP_087593、NP_417074及びYP_087564で知られる各タンパク質、並びにこの遺伝子のホモログによってコードされる。本発明に記載される突然変異又は欠失を受ける非突然変異型遺伝子配列のアクセッション番号が記載される。
【0102】
また、本発明の範囲には、タンパク質arcA、例えばアクセッション: ECK4393(以下の記載:cpxC、fexA、sfrA、mspとしても知られる)又はfnrの活性の低下を、各遺伝子(arcAについてアクセッションNCBI-GeneID: 948874又はfnrについてNCBI-GeneID: 945908で知られる)に対する遺伝的突然変異を有することによって示す株がある。各タンパク質配列は、アクセッションP0A9E5で見出すことができる。類似した遺伝子は、他の生物、例えばマンヘミア・サクシニシプロデュセンスについて知られており、すなわちarcAについてNCBI-GeneID: 3076294及び各タンパク質YP_088696、並びにfnrについてNCBI-GeneID:3075449及びUniProt: Q65TM6がある。
【0103】
また、本発明の範囲には、D-乳酸又はL-乳酸又は両者を生産する特異性を有する酵素をコードする、EC番号EC 1.1.1.27及びEC 1.1.1.28によって定義される乳酸脱水素酵素の活性の低下を示す株がある。例としては、大腸菌遺伝子NCBI-GeneID: 946315及び各タンパク質NP_415898、又はM.サクシニシプロデュセンス遺伝子NCBI-GeneID: 3075603及び各タンパク質YP_089271がある。
【0104】
さらなる別の実施形態によると、本発明の細菌株は以下を含有する:(1)低下した活性を有するEC命名法によってEC 2.3.1.54と定義されるピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素をコードする突然変異型遺伝子;及び/又は(2)低下した活性を有するEC命名法によってEC 1.97.1.4と定義されるピルビン酸ギ酸リアーゼ活性化酵素をコードする突然変異型遺伝子;及び/又は(3)arcAタンパク質をコードする突然変異型遺伝子、及び/又は(4)低下した活性を有するEC命名法によってEC 1.1.1.27若しくはEC 1.1.1.28と定義される乳酸脱水素酵素をコードする突然変異型遺伝子。
【0105】
本発明の遺伝子改変された細菌株を調製する特定の方法は、本明細書で「キャンベル組換え(Campbell recombination)」と称されることもある技術である(Leenhoutsら, 1989, Appl Env Microbiol 55, 394-400)。本明細書で用いる「キャンベルイン(Campbell in)」とは、環状二本鎖DNA分子(例えばプラスミド)の全体が、単一の相同組換え事象(クロスイン事象)によって染色体に組み込まれ、それにより、該環状DNA分子の線状型が、該環状DNA分子の第一DNA配列に相同な染色体の第一DNA配列に効率的に挿入される、元の宿主細胞の形質転換体の調製を意味する。「キャンベルドイン(Campbelled in)」とは、「キャンベルイン」形質転換体の染色体に組み込まれている線状化DNA配列を意味する。「キャンベルイン」は、第一相同DNA配列の重複を含有し、その各コピーは、相同組換えクロスオーバーポイントのコピーを含み、それを取り囲む。
【0106】
本明細書で用いる「キャンベルアウト(Campbell out)」とは、第二相同組換え事象(クロスアウト事象)が、「キャンベルドイン」DNAの線状化挿入DNA上に含まれる第二DNA配列と、該線状化挿入の第二DNA配列に相同な染色体由来の第二DNA配列との間で起きている、「キャンベルイン」形質転換体の子孫である細胞を意味する。第二組換え事象は、組み込まれたDNA配列の一部の欠失(放出)をもたらすが、重要なことに、組み込まれた「キャンベルドイン」DNAの一部(これはわずか単一塩基であり得る)の染色体中への残存ももたらし、元の宿主細胞と比べて「キャンベルアウト」細胞は、染色体における1つ以上の意図的な変化を含有する(例えば、DNA配列の欠失、単一塩基置換、複数塩基置換、異種遺伝子若しくはDNA配列の挿入、相同遺伝子若しくは改変相同遺伝子のさらなる1つ又は複数コピーの挿入、あるいは上に挙げたこれらの例の2つ以上を含むDNA配列の挿入)。
【0107】
「キャンベルアウト」細胞は、好ましくは、「キャンベルドイン」DNA配列の一部(放出されることが望ましい一部)に含まれる遺伝子、例えば、約5%〜10%ショ糖の存在下で増殖する細胞中で発現されると致死である、枯草菌(Bacillus subtilis)sacB遺伝子に対する対抗選択によって得られる。対抗選択を行っても、又は行わなくても、所望の「キャンベルアウト」細胞は、任意のスクリーニング可能な表現型、例えば以下に限定されるものではないが、コロニーの形態、コロニーの色、抗生物質耐性の存在又は不在、ポリメラーゼ連鎖反応による一定のDNA配列の存在又は不在、栄養要求性の存在又は不在、酵素の存在又は不在、酵素活性、例えばピルビン酸ギ酸リアーゼ活性若しくは乳酸脱水素酵素活性の存在又は不在、コロニー核酸ハイブリダイゼーション、抗体スクリーニングなどを用いて、所望の細胞をスクリーニングすることによって得る又は同定することができる。「キャンベルイン」及び「キャンベルアウト」という用語はまた、上記方法又は過程を参照するために、様々な時制の動詞として使用することができる。
【0108】
「キャンベルイン」又は「キャンベルアウト」をもたらす相同組換え事象が、相同なDNA配列内のDNA塩基の範囲にわたって起こり得ることは理解され、相同な配列は少なくともこの範囲の部分では互いに同一であるため、クロスオーバー事象が起きた正確な場所を特定することは通常可能ではない。言い換えると、どの配列が挿入されたDNAに由来するか、そしてどの配列が染色体DNAに由来するかを正確に特定することはできない。さらに、第一相同DNA配列及び第二相同DNA配列は、通常、部分的に非相同な領域によって分離され、「キャンベルアウト」細胞の染色体に残ったままであるのはこの非相同領域である。
【0109】
好ましくは、第一及び第二相同DNA配列は、少なくとも約200塩基対長であり、最大数千塩基対長であり得る。しかし、本方法は、より短い又はより長い配列で機能するようにすることができる。例えば、第一及び第二相同配列の長さは約500〜2000塩基であることができ、「キャンベルイン」から「キャンベルアウト」を得ることは、第一及び第二相同配列をおよそ同じ長さにすることによって、好ましくは200塩基対未満異なる、最も好ましくは2つのうち短い方を塩基対が長い方の長さの少なくとも70%であるようにすることによって、促進される。
【0110】
遺伝子改変の上記方法を適用することによって、特定のSA生産株(すなわちDD1)の突然変異株を、以下の実施例により詳細に記載されるように、内在性ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素及び/又は乳酸脱水素酵素の遺伝子を欠失させることによって調製した。
【0111】
d2)発酵ステップ:
本発明において用いる発酵は、例えば、撹拌発酵槽、気泡塔及びループ反応器中で行うことができる。撹拌機の種類及び幾何学的設計を含む可能な方法の種類の包括的概観は、「Chmiel: Bioprozesstechnik: Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik, Band 1」に見出すことができる。本発明の方法において、利用できる典型的な変形は、当業者に公知の、又は例えば「Chmiel, Hammes and Bailey: Biochemical Engineering」中に説明されている以下の変形、例えば、バイオマスの再循環を伴う又は伴わない、バッチ発酵、フェドバッチ(fed-batch)発酵、反復フェドバッチ発酵、又は他の連続的発酵である。生産株に応じて、空気、酸素、二酸化炭素、水素、窒素又は適切な気体混合物の注入を、優れた収率(YP/S)を達成するために行ってよい。
【0112】
本発明の方法において発酵ブロス中で目的の化学変換が行われる前に、発酵ブロスを前処理することができる;例えば、ブロスのバイオマスを除去することができる。バイオマスを除去する方法は、当業者に公知であり、例えばろ過、沈降及び浮選がある。その結果、バイオマスを例えば遠心機、分離機、デカンター、フィルターを用いて、又は浮選装置中で除去することができる。価値ある生成物を最大限回収するために、例えば透析ろ過の形式での、バイオマスの洗浄が望ましい場合が多い。方法の選択は、発酵ブロス中のバイオマス含量、及びバイオマスの特性に依存し、並びにバイオマスと価値ある生成物との相互作用にも依存する。一実施形態において、発酵ブロスを滅菌又は殺菌することができる。
【0113】
さらなる実施形態において、発酵ブロスは濃縮される。必要に応じて、この濃縮はバッチ方式で又は連続的に行うことができる。圧力及び温度範囲は、第一に生成物の損傷が起こらないように、第二に必要な装置及びエネルギーの使用が最小限になるように、選択するべきである。多段蒸発法についての圧力及び温度レベルをうまく選択すると、特に、エネルギーの節約が可能となる。
【0114】
撹拌槽、流下薄膜型蒸発器、薄膜蒸発器、強制フラッシュ循環型蒸発器、及び他の蒸発器の種類を、自然又は強制循環モードで使用することができる。
【0115】
d3)SAのエステル化及び水素化:
化学的エステル化、その後の直接接触水素化を行うのに適した実験条件は、周知であり、例えば欧州特許出願第06007118.0号に記載され、これは参照により本明細書に援用される。
【0116】
a)エステル化法:
反応蒸留を含み得るエステル化法は、様々な設計でそれ自体公知の装置を用いて行うことができる。
【0117】
例えば、トレー又はパッキングの設置によって達成される適切な理論段数の精留カラムを備える、連続モードで稼動するエステル化プラントを使用することができる。カラムの排水部に付随した蒸発器ループ中で蒸発するアルカノール供給の結果として、カラム中に定常温度プロファイルが形成され次第、SAのアンモニウム塩を含むチャージ水溶液を貯留容器からカラムの上部に供給する。反応は、降下するアンモニウム塩含有液体及び凝縮液、並びに上昇するアルカノール含有蒸気相の向流を形成する。エステル化反応を触媒するために、均質な触媒をアンモニウム塩初期チャージに添加し得る。あるいは、異種触媒をカラム内部に提供し得る。形成されるカルボン酸エステルは、本方法の条件下で液体であり、カラムの下端から蒸留カラムの排水部へ流れ、排水部から連続的に回収される。気体成分、例えばアルカノール水及び/又はアンモニアを含む共沸性混合物は、カラムの上端において反応カラムから、及び従って反応平衡から除去される。
【0118】
上記特定の実施形態のさらなる改変は、許容できない努力なしに、当業者によって実施され得る。
【0119】
本発明のエステル化法に適したプロセスパラメータ範囲は、用いる装置の構成、例えば用いるカラム内部の種類、反応物の種類と量、適切な場合、用いる触媒の種類と量に応じて、当業者によって容易に決定され得る。例えば、制限するものではないが、個々のパラメータは、以下のパラメータ範囲内に設定し得る:
カラム温度:0〜300℃、特に40〜250℃、又は70〜200℃
圧力:0.1〜6bar、特に標準圧力
滞留時間:数秒(例えば1〜60)から数日(例えば1〜5)、特に数分(例えば1〜60)から数時間(例えば1〜15)、より好ましくは数分(例えば5〜20)から2時間。
【0120】
b)水素化法
本発明に従って調製されるSAエステル又はSA自体は、当業者に周知な方法、装置及び補助剤、例えば触媒を用いるそれ自体公知の方法で、水素化される。
【0121】
特に、連続又はバッチ式気体相水素化を、エステル水素化に適した異種触媒の存在下で行う。最適なプロセスパラメータは、許容できない努力なしに、特定のエステルについて、当業者によって確立され得る。例えば、反応温度は、約100〜約300℃の範囲であり、好ましくは約200〜280℃の範囲であり、圧力は約5〜100bar、例えば10〜50barである。反応物の水素に対するモル比は、約1:100〜約1:2000、例えば1:800〜1:1500の範囲内に設定される。
【0122】
水素化反応に使用できる触媒は、当業者に公知である。例えば、様々な銅触媒を使用してよい。先行技術には、例えばDavy Process Technology Ltd., Englandから85/1という名称で入手可能な還元銅クロマイト触媒の使用が記載されている。しかし、本発明に特に好適な触媒は、担持酸化銅触媒、アルミナ又はシリカ担体材料に適用される酸化銅である。銅触媒を用いた、コハク酸エステルのBDO(1,4-ブタンジオール)/GBL(γ-ブチロラクトン)/THFへの水素化の例は、以下の文献にも記載されている:Schlander, Jan., Feb. 2000, University of Karlsruhe, "Gasphasenhydrierung von Maleinsauredimethylester zu 1,4-Butandiol, gamma-Butyrolacton und Tetrahydrofuran an Kupfer-Katalysatoren"。
【実施例1】
【0123】
本発明は以下の実施例によってより詳細に記載される。以下の実施例は例示目的であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0124】
実施例−遺伝子改変及び培養
DD1の形質転換の一般的方法
【表1】

【0125】
パスツレラLU13843株(野生型DD1)に、以下のプロトコールを用いたエレクトロポレーションによってDNAを形質転換した。
【0126】
前培養を調製するために、LU13843を、新たに増殖させたBHI寒天プレートから、100ml振とうフラスコ中の40mlのBHI(brain heart infusion, Difco)に接種した。インキュベーションを30℃、200rpmで一晩行った。
【0127】
主培養を調製するために、50mlのBHIを100ml振とうフラスコ中に入れ、最終OD(610nm)0.4まで前培養物を接種した。インキュベーションを30℃、200rpmで約1.5時間行った。細胞をOD約1.3で回収し、ペレットを4℃で10%冷グリセロールで一度洗浄し、1.7mlの10%グリセロール(4℃)中に再懸濁した。
【0128】
100μlのコンピテント細胞を5〜10μgのDNA(10〜20μl)と混合し、0.2cmの幅を持つエレクトロポレーションキュベット中で2分間氷上に保持した。エレクトロポレーションは以下の条件であった:800Ω;25μF;2kV(Gene Pulser, Bio-Rad)。1mlのBHIをエレクトロポレーション直後に添加し、インキュベーションを30℃で2時間行った。
【0129】
細胞を5mg/Lのクロラムフェニコールを有するBHI上にプレーティングし、形質転換体のコロニーが見えるまで30℃で2〜5日間インキュベートした。クローンを単離し、純粋なクローンが得られるまで5mg/lのクロラムフェニコールを有するBHI上に再ストリークした。
【実施例2】
【0130】
欠失コンストラクトの作製
突然変異/欠失プラスミドを、ベクターpSacB(配列番号3)を基に構築した。図1は、プラスミドpSacBの略図を示す。欠失されるべき染色体断片の5'−及び3'−隣接領域を、LU13843の染色体DNAからPCRによって増幅し、標準的技術を用いて該ベクターに導入した。通常、ORFの少なくとも80%を欠失のために標的化した。この方法で、ピルビン酸ギ酸リアーゼpflについての欠失プラスミド、pSacB(Δpfl)(配列番号4)及び乳酸脱水素酵素ldhAについての欠失プラスミド、pSacB(ΔldhA)(配列番号5)を構築した。図2及び3は、プラスミドpSacB(Δpfl)及びpSacB(ΔldhA)の略図を示す。
【0131】
pSacB(配列番号3)のプラスミド配列中に、sacB遺伝子は塩基5169〜6590に含まれる。クロラムフェニコール遺伝子は塩基526〜984に含まれる。sacBプロモーターは塩基3802〜4264に含まれる。クロラムフェニコール遺伝子は塩基526〜984に含まれる。大腸菌の複製起点(ori EC)は塩基1477〜2337に含まれる。
【0132】
pSacBΔpfl(配列番号4)のプラスミド配列において、DD1のゲノムに相同なpfl遺伝子の3'隣接領域は塩基65〜1533に含まれ、DD1のゲノムに相同なpfl遺伝子の5'隣接領域は塩基1534〜2956に含まれる。sacB遺伝子は塩基5256〜6677に含まれる。sacBプロモーターは塩基6678〜7140に含まれる。クロラムフェニコール遺伝子は塩基3402〜3860に含まれる。大腸菌の複製起点(ori EC)は塩基4353〜5213に含まれる。
【0133】
プラスミドpSacBΔldh(配列番号5)において、DD1のゲノムに相同なldh遺伝子の5'隣接領域は塩基2850〜1519に含まれ、DD1のゲノムに相同なldh遺伝子の3'隣接領域は塩基1518〜63に含まれる。sacB遺伝子は塩基5169〜6590に含まれる。sacBプロモーターは塩基6591〜7053に含まれる。クロラムフェニコール遺伝子は塩基3315〜3773に含まれる。大腸菌の複製起点(ori EC)は塩基4266〜5126に含まれる。
【実施例3】
【0134】
改善したコハク酸塩生産株の作製
a)LU13843に、上記のようにpSacB(Δpfl)を形質転換し、「キャンベルドイン」させて「キャンベルイン」株を得た。形質転換及びLU13843ゲノム内への組み込みを、LU13843のゲノム内へのプラスミドの組み込み事象に対するバンドをもたらすPCRによって確認した。
【0135】
その後「キャンベルイン」株を、sacB遺伝子の(機能の)喪失を選択するための、対抗選択培地としてショ糖を含有する寒天プレートを用いて「キャンベルドアウト」させた。すなわち、「キャンベルイン」株を25〜35mlの非選択培地(抗生物質を含有しないBHI)中で37℃、220rpmで一晩インキュベートした。その後、一晩の培養物を、新たに調製したショ糖含有BHIプレート(10%、抗生物質無し)上にストリークし、37℃で一晩インキュベートした(「1回目のショ糖移動」)。1回目の移動から得た単一コロニーを新たに調製したショ糖含有BHIプレート(10%)上に再ストリークし、37℃で一晩インキュベートした(「2回目のショ糖移動」)。この手順を、最低5回のショ糖の移動(「3、4、5回目のショ糖移動」)を終えるまで反復した。「1回目〜5回目のショ糖移動」という用語は、sacBレバンスクラーゼ遺伝子を含有するベクターの染色体組み込み後の株を、sacB遺伝子及び周囲のプラスミド配列が喪失した株を選択するために、ショ糖及び増殖培地を含有する寒天プレート上に移すことを意味する。5回目の移動プレートからの単一コロニーを、25〜35mlの非選択培地(抗生物質を含有しないBHI)に接種し、37℃、220rpmで一晩培養した。一晩の培養物を連続希釈し、BHIプレート上にプレーティングし、分離した単一コロニーを得た。
【0136】
pfl遺伝子の突然変異/欠失を含有する「キャンベルドアウト」株を、クロラムフェニコール感受性によって確認した。これらの株のうち突然変異/欠失変異体を、PCR解析によって同定及び確認した。これにより、pfl突然変異/欠失変異体DD1Δpfl LU15348を得た。
【0137】
b)LU15348に、上記のようにpSacB(ΔldhA)を形質転換し、「キャンベルドイン」させて「キャンベルイン」株を得た。形質転換及び組み込みをPCRによって確認した。その後「キャンベルイン」株を、以前記載したように「キャンベルドアウト」させた。これらの株のうち欠失変異体を、PCR解析によって同定及び確認した。これにより、pfl ldhA二重欠失変異体LU15224を得た。
【0138】
c)LU13843に、上記のようにpSacB(ΔldhA)を形質転換し、「キャンベルドイン」させて「キャンベルイン」株を得た。形質転換及び組み込みをPCRによって確認した。その後「キャンベルイン」株を、以前記載したように「キャンベルドアウト」させた。これらの株のうち欠失変異体を、PCR解析によって同定及び確認した。これにより、ldhA欠失変異体LU15050を得た。
【実施例4】
【0139】
細胞バンク調製
1. 培地調製
培養培地の組成を表2に記載する。
【表2】

【0140】
5gの酵母抽出物、5gのペプトン、MgCO3及び(固体培地のための)12gのバクト寒天を900mlの蒸留水中で混合し、オートクレーブした(20分)。約65℃まで冷却した後、その他の成分を滅菌ストック溶液として添加した。グルコース、硫酸アンモニウム及びK2HPO4は全て個別にオートクレーブした。塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化ナトリウムは共にオートクレーブした。
【0141】
2. MCB調製
個々の実験の接種のためのマスター細胞バンク(MCB)を以下のように行った。2枚の寒天プレートに所望の株を新たに接種し、嫌気的容器(Anaerocult A, Merck)中で37℃で一晩インキュベートした。バイオマスをプレートから掻き取り、20g/lグルコースを含有するMgCO3非含有液体培地中にOD600約1.0に調整するように再懸濁した。0.5mlのこの細胞懸濁液を用いて接種を行った。20g/lのグルコース及び30g/lのMgCO3を有する50mlの液体培地を含有する100mlの血清ボトル(気密性ブチルゴム栓付き)(Ochs GmbH, Bovenden/Lenglern, Germany)中で、0.8bar過圧のCO2環境中で、培養を行った。血清ボトル(計10個)を37℃、160rpmの回転速度、及び振とう直径2.5cmでインキュベートした。
【0142】
グルコース消費をモニターするために、1本のボトルの培養を停止し、0、3、4、5、7、8及び8.5時間後にサンプリング及びHPLC解析を行った。8.5時間後(グルコース濃度は3.4g/lであった)、培養を停止した。0.5mlの細胞懸濁液及び0.5mlの滅菌グリセロールのアリコートをクライオバイアル(cryovial)に入れ、混合し、−20℃で13時間及びその後−80℃でMCBとして保存した。汚染対照用に寒天プレート上に最後のクライオバイアルからストリークし、液体培地(表8に記載される培地)中で生成物のスペクトル及び汚染について(顕微鏡によって)確認することによって、MCBを純度について試験した。
【0143】
グルコースの消費、及びSAと副産物の形成を、RI検出を用いた培養ブロスの未希釈細胞非含有上清のHPLC解析によって定量した。ブロスサンプルを、ブチルゴムプラグを介して滅菌シリンジで採取し、細胞分離をろ過(0.22μm)によって行った。300 x 7.8 mm I. D. Column Aminex HPX-87 H (Biorad)及び5 mm H2SO4を、それぞれ固定相及び移動相として使用した。カラム温度は30℃であり、流速は0.5ml/分であった。
【0144】
一本のバイアルのMCBを用いて、50g/lのグルコースを有する50mlの液体培地を含有する100mlの血清ボトル(気密性ブチルゴム栓付き)(上を参照)に接種した。振とうインキュベーター(回転速度:180rpm、振とう直径:2.5cm)中、37℃で10時間インキュベーションを行った。培養終了時に、グルコース濃度は20g/lであり、pHは約6.5であった。0.5mlの細胞懸濁液及び0.5mlの滅菌グリセロールのアリコートをクライオバイアルに入れ、混合し、−80℃でWCBとして保存した。純度確認をMCBについて行ったのと同様に行った。HPLC条件は上記と同様であった。
【実施例5】
【0145】
グリセロール又はグリセロール及びマルトース上の様々なDD1株の培養
炭素源としてグリセロール又はグリセロール及びマルトースの存在下における突然変異株DD1Δpfl(LU15348)及びDD1Δpfl Δldh(LU15224)の生産性を、以下の培地及びインキュベーション条件を用いてさらに解析した。
【0146】
1. 培地調製
培養培地の組成及び調製は以下の表3に記載する通りである。
【表3】

【0147】
別の合成増殖培地
下流処理を改善し、費用効率の高い発酵のための合成増殖培地を設計するために、複雑な成分の無い発酵用合成増殖培地を使用することは好ましい。
【0148】
培地調製
合成増殖培地を、第一胃細菌用の他の合成増殖培地(Nili and Brooker, 1995, McKinlayら, 2005)、他の細菌を用いた以前の社内の経験に関連して、及び単一省略実験を行うことによって開発した。最終的に、培地は、50g/L グルコース、1g/L (NH4)2SO4、0.2g/L CaCl2*2H2O、0.2g/L MgCl2*6H2O、1g/L NaCl、3g/L K2HPO4、1mg/L ニコチン酸、1.5mg/L パントテン酸、5mg/L ピリドキシン、5mg/L リボフラビン、5mg/L ビオチン、1.5mg/L チアミンHCl、0.26g/L リジン、0.15g/L トレオニン、0.05g/L メチオニン、0.71g/L グルタミン酸、0.06g/L ヒスチジン、0.07g/L トリプトファン、0.13g/L フェニルアラニン、0.06g/L チロシン、0.5g/L セリン、0.5g/L グリシン、0.5g/L システイン、0.1g/L β-アラニン、0.27g/L アラニン、0.19g/L バリン、0.23g/L ロイシン、0.16g/L イソロイシン、0.33g/L アスパラギン酸、0.1g/L アスパラギン、0.13g/L プロリン、0.15g/L アルギニン及び/又は0.1g/L グルタミンを含有していた。
【0149】
50mlの合成増殖培地を含有する血清ボトルを、水及び30g/L MgCO3を緩衝系として用いてオートクレーブした。グルコース、硫酸アンモニウム及びリン酸カリウムは個別に滅菌した。塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び塩化ナトリウムは共に滅菌した。ビタミン類及びアミノ酸類は様々なストック溶液にまとめ、ろ過滅菌した。血清ボトルの冷却後、成分を滅菌ストック溶液として添加した。
【0150】
2. 培養及び解析
種培養を増殖させるために、1本のバイアルのWCBを用いて、20g/lのグルコースを有する表2に記載される50mlの液体培地を含有する100mlの血清ボトル(気密性ブチルゴム栓付き)(上を参照)に、0.8bar過圧のCO2環境中で、接種した。37℃及び160rpm(振とう直径:2.5cm)で、変異体特異的な時間(表4)、インキュベーションを行った。細胞懸濁液を5000gで5分間遠心し(Biofuge primo R, Heraeus)、細胞ペレットを洗浄し、その後、炭素源を有さず、かつMgCO3を有さない50ml培地中に再懸濁し、グルコース非含有接種材料を生成した(全てのステップは室温かつ嫌気的チャンバー中で行った)。
【表4】

【0151】
主培養を、50g/lのグリセロール、又は50g/lのグリセロール及び10g/lのD-マルトースのいずれかを有する10mlの液体培地を含有する100mlの血清ボトル中で、いずれの場合も0.8bar過圧のCO2環境中で、増殖させた。質「グリセロール99%、puriss」(Sigma-Aldrich Laborchemikalien GmbH, Seelze, GermanyからのRiedel-de Haen, 製品番号: 15523-1L-R)を全ての実験に用いた。1.5mlのグルコース非含有接種材料で接種を行った。ボトルを37℃及び160rpm(振とう直径:2.5cm)でインキュベートした。
【0152】
炭素源の消費及びカルボン酸の生成を、24時間後に実施例4で記載したようにHPLCによって定量した。グリセロールを測定する際、カラム温度を50℃に調整し、同様の保持時間を有するSA、乳酸及びグリセロールの十分な分離を達成した。
【0153】
分光光度計(Ultrospec3000, Amersham Biosciences, Uppsala Sweden)を用いて、660nmでの吸光度(OD600)を測定することによって細胞増殖を測定した。1リットルあたりのg 乾燥細胞重量(DCW)として定義される細胞濃度を、OD600をDCWに関連付ける予め決められた標準曲線から計算した(1 OD600 = 0.27g DCW l-1)。
【0154】
3. 結果
4つの異なるDD1株を用いた培養実験の結果を、基質グリセロールについて表5に、グリセロール及びマルトースの基質混合物について表6に示す。
【表5】

【0155】
グリセロール培養実験では、SA生産生物、例えばDD1におけるピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子pflのノックアウトは、基質としてグリセロール上で増殖すると、野生型より有意に高い炭素収率(YP/S)及びSAについてのSTYをもたらすことが示される。炭素収率(YP/S)は、DD1株について1.12g/gからΔpfl突然変異株LU15348について1.15g/gに増加する。
【0156】
Leeら, 2006又はLinら 2005によってグルコース上でのSA生産細菌について報告された以外に、DD1において乳酸脱水素酵素遺伝子ldhAのみをノックアウトすると(LU15050)、この発酵の技術的に関連する特徴、例えばSAのSTYの改善は示されず、炭素収率(YP/S)におけるわずかな増加のみが示される。しかし、乳酸脱水素酵素活性が低下する場合、酢酸の量は増加する。驚くべきことに、かつ予想外に、単一突然変異を有する株の挙動の解析から、pfl及びldh遺伝子における遺伝子突然変異の組み合わせを有する突然変異株では、グリセロールのSAへの発酵は、LU15050及びLU15348の単一突然変異から予想されるより、達成される炭素収率(YP/S)についてのはるかに大きな非相加的改善を示すことが見出された。観察される1.26g/gの炭素収率(YP/S)は、1モルのグリセロールと1モルのCO2の1モルのSAへの変換について、1.28g/gの可能な理論上の炭素収率(YP/S)に近い。
【0157】
また、LU15348で生成される副産物の合計(SSP)は、グリセロール上で増殖させると、ギ酸は生成されず、酢酸の生成は低下するため、有意に低下する。上述のように、SA濃度は、野生型又はLU15050に比べて有意に増加する。この観察は、副産物の算術的合計(SSP)に対するSAの割合、SA:SSP g/gで表され、LU13843及びLU15050での10という値に比べ、LU15348では40を超え、LU15224では100を超える。
【0158】
上述の実験において、グリセロールのSAへの発酵のSTYは、pfl及びldh遺伝子に突然変異を有する株では、1.5g/(l*h)を超えないことが見出された。従って、嫌気的発酵におけるSAの生産についての改善されたSTY値を示す改良法が開発された。この方法は、出願PCT/EP2008/006714の第44〜46頁に記載される。この方法は、該遺伝子に突然変異を有する株を利用するコハク酸塩の生産に適している。
【表6】

【0159】
グリセロールと同時に別の糖マルトース上でDD1を増殖させることにより、グリセロールを唯一の基質として用いる場合と比べ、より高いSA STY及び収率(YP/S)、並びに副産物の濃度の増加が可能となることが示されている(PCT/EP2008/006714、第44〜46頁)。
【0160】
LU15348をDD1野生型と比べることにより、Pfl酵素の活性が低下する場合、SA量、STY及び炭素収率(YP/S)の増加が示される。驚くべきことに、先行技術(Leeら 2006, Linら 2005)に記載される他の例に反して、突然変異株では非突然変異株DD1に対して増殖異常が観察されなかった。株の優れた増殖は技術的生産過程にとって重要であるため、この観察は優れた技術的関連である。細胞増殖は、野生型に比べて全ての突然変異体で増進される。pfl又はldhのいずれかをノックアウトすることにより、突然変異型細菌株の増殖に良い影響がある。
【0161】
検出可能なギ酸がなく、酢酸の量が低下し、SA濃度が増加することから、SA/SSP比は、遺伝的突然変異によって与えられる酵素活性が低下したPflを有する突然変異株では増加する。しかし、副産物乳酸は野生型に比べて増加している。二重ノックアウトLU15224は、さらに増加した収率(YP/S)及びSTYを有するが、LU15050は観察される炭素収率(YP/S)、STY又はSSPの改善を示さなかった。
【0162】
pfl突然変異は、グリセロールの代謝に基づくSA生産において、野生型株の能力に対して、第二の糖基質の有無に関わらずグリセロールの発酵を改善させるのに必要かつ十分であることを述べる。この発見に反して、野生型由来株における先行技術のpfl突然変異は、SAの発酵を誘導することが示されていない(Zhu 2005)。pfl及びldhを含むいくつかの突然変異の組み合わせのみが、低下した増殖及び乏しいSTY能力ではあるが、測定可能なコハク酸生産をもたらした(Lin 2005, Lee 2006)。本研究の発見は、先行技術に対して優れた能力を有する方法をもたらす突然変異株と特定の方法からなるSAの発酵生産のための改良法の構築を教示する。
【0163】
驚くべきことに、SAに対する比生産性は、pfl突然変異株LU15348では、ldh遺伝子並びにldh及びpfl両遺伝子に突然変異を有するLU15050及びLU15224に対して優れている。方法に応じて、生成物形成の高い比活性が技術的過程の望ましい特徴であることは、当分野の専門家に公知である。明らかに、乳酸脱水素酵素をノックアウトすることの悪影響は、野生型の値未満に、LU15348の比生産性を低下させる。
【実施例6】
【0164】
グリセロールと様々な炭水化物の混合物上でのLU15348の培養
炭素源としてのグリセロール及び様々な炭水化物の存在下における突然変異株LU15348の生産性を、以下の培地及びインキュベーション条件を用いて解析した。
【0165】
1. 培地調製、培養及び解析
培養培地の組成及び調製は、実施例5の表3に記載される通りである。培養及び解析は実施例5に記載される通りである。
【0166】
この実験では、質「マルトデキストリン」(Boom, 7942 JE Meppel, The NetherlandsからのMaldex150, カタログ番号: 50499)を用いた。様々な長さを有する糖鎖の不確定混合物のため、マルトデキストリンの濃度はHPLC分析によって完全には分析されなかった。従って、マルトデキストリン含量を、培養培地に添加する前に、重量測定法で正確に決定した。達成される理論上の収率(YP/S)の下限を計算するために、発酵に添加される全てのマルトデキストリンが消費されたと仮定したが、これはSA発酵後の炭素収率(YP/S)の下限を計算することだけを可能にすることは承知している。それどころか、炭素収率(YP/S)のより正確な値は、検出されない基質マルトデキストリンの潜在的に不完全な消費のため、記載された値より高いであろう。
【0167】
2. 結果
LU15348についての培養実験の結果は、様々な炭水化物、例えばマルトース、マルトデキストリン又はラフィノースを用いた共発酵における基質グリセロールについて表7に示される。
【表7】

【0168】
多様な糖類、例えばマルトース、高分子糖の混合物、例えばマルトデキストリン、又はさらに別の糖ラフィノースを用いた共発酵におけるグリセロール上のLU15348株の培養は、グリセロールを1つの炭素源として含む多様な炭素源の同時発酵が、以前記載された先行技術に対して、SA生産の多数の技術的に関連する改善をもたらすことを示す同様の結果を導く。例としては、本方法により消費されるグリセロールの速度の増加及び総量の改善があり、先行技術に比べて高いSA力価をもたらす。さらに、STYは、糖類を含有しない対照に対して増加する。副産物濃度は、一般に低下するが、単独のグリセロール培養に比べて乳酸が増加する副産物である、共基質としてのマルトースの場合を除く。SA収率(YP/S)は、唯一の基質としてのグリセロールと比べて、同程度又はわずかにのみ低下する。
【0169】
実験の概要
−低下したpfl活性を有する微生物は、先行技術に対して、グリセロール上での改善した発酵を示す。
【0170】
−様々な炭素源の組み合わせは、コハク酸に効率的に変換される。
【0171】
−低下したpfl活性を有する微生物は、先行技術に対して、グリセロール及び糖類の混合物上での改善した発酵を示す。
【0172】
結論:コハク酸(SA)の生産のための新しい方法は、高炭素収率(YP/S)及び空時収率並びに非常に低い副産物を伴う、SA及び/又はSA塩の生産の優れた潜在力を有する。
【0173】
本発明において、細菌株DD1(ID 06-614)は、受託番号DSM 18541で2006年8月11日にDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germany)に寄託された。これに関連して、本発明において、初めて寄託について述べた優先権の基礎となる欧州特許出願EP 09152959.4及びEP 09171250.5について言及する。さらに、2006年8月11日におけるDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstr. 7B, D-38124 Braunschweig, Germany)での寄託を含み、DD1株が初めて記載されているWO 2009/024294について言及する。
【0174】
本明細書で引用される文献の内容は参照により援用される。
【実施例7】
【0175】
実施例−下流処理
陽イオン交換樹脂による発酵ブロスからのコハク酸の単離方法
発酵過程中にNH4OH(25重量%、NH4OH溶液の総重量について計算)により中和された発酵ブロスをろ過した。15%(w/w)コハク酸(塩として中和された)を含有する、水性、細胞非含有発酵ブロスを下流処理に使用した。
【0176】
陽イオン交換樹脂(Lanxessからのtype Lewatit Monoplus SP 112; 471 ml)を、固定相として温度調整した(50℃)ガラスカラム(総高:24cm)中に充填し、水で洗浄した。この洗浄ステップ後、樹脂をコハク酸水溶液を用いて上から下にオーバーフローさせた(156ml、25gのコハク酸を含有、密度:1.069kg/l)。
【0177】
溶液の流速は平均33ml/分であり、1時間あたり4.2総容量(BV)の速度に相当した。
【0178】
こうして、約24.9gの遊離コハク酸を含有する透明で無色の溶液を、第一画分中に得た(453ml)。この画分のコハク酸濃度は平均5.38重量%であった。
【0179】
屈折率に加え、カラムから流出する溶液のpH値及び吸着(350nm)を測定した。
【0180】
用いた強酸性陽イオン交換樹脂の得られた結合キャパシティは、樹脂1リットルあたり平均約0.89等量(eq)であった。
【0181】
結合過程の後、樹脂を水(546ml)で洗浄し、最終的に5%塩酸(919ml;速度:66ml/分)を用いて樹脂を下から上へオーバーフローさせ陽イオン型に再生させた。最終ステップとして、樹脂を水(889ml)で再洗浄した。
【0182】
樹脂がコハク酸を放出したという事実に加え、樹脂はブロスを脱色し、非常に純粋で無色のコハク酸溶液を得た。
【実施例8】
【0183】
強酸性イオン交換樹脂を用いた破過曲線の測定方法
15%(w/w)コハク酸(塩として中和された)を含有する、水性、細胞非含有発酵ブロスを、ろ過後、下流処理に使用した。
【0184】
強酸性イオン交換樹脂(Lanxessからのtype Lewatit MonoPlus SP 112; 689 ml)を、温度調整した(50℃)ガラスカラム(総高:97.5cm)中に充填し、水で洗浄した。この洗浄ステップ後、樹脂をコハク酸水溶液を用いて上から下にオーバーフローさせた(468ml、75gのコハク酸を含有、密度:1.069kg/l)。
【0185】
溶液の流速は平均24ml/分であり、1時間あたり2.1総容量(BV)の速度に相当した。
【0186】
実施例7のように、約53.8gの遊離コハク酸を含有する透明な溶液(457ml)を、第一画分中に得た。この画分のコハク酸濃度は平均11.53重量%であった。
【0187】
実施例7のアッセイとは異なり、この場合、第一画分のサンプリングを、陽イオンが破過した(break through)時点で停止した。この時点は、コハク酸塩を破過することにより(約1.4から)急に増加したpH測定値によって検出した。
【0188】
この透明な溶液の後にサンプリングした画分はコハク酸塩を含有し、元の発酵ブロスに似た茶色を有する。
【0189】
このアッセイでは、用いた強酸性陽イオン交換樹脂の得られた結合キャパシティは、樹脂1リットルあたり平均約1.32等量(eq)であった。
【0190】
結合過程の後、樹脂を水(678ml)で洗浄し、5%塩酸(2034ml;速度:92ml/分)を用いて陽イオン型に再生させた。最後に、樹脂を水(824ml)で再洗浄した。
【0191】
樹脂がコハク酸を放出したという事実に加え、樹脂はブロスを脱色し、非常に純粋で無色のコハク酸溶液を得た。
【実施例9】
【0192】
発酵ブロスからのコハク酸の精製、その後の得られた脱塩溶液の濃縮及び結晶化方法
2つのサンプルを結晶化ステップに使用し、実施例7に記載されるのと同様に得た。
【0193】
それぞれの場合に、15%(w/w)コハク酸(塩として中和された)を含有する、水性、細胞非含有発酵ブロスを、下流処理に使用した。陽イオン交換樹脂(Lanxessからのtype Lewatit MonoPlus SP 112)を用いて精製し脱塩した2つのサンプルを結晶化ステップに使用した。
【0194】
以下の表は、発酵ブロス、樹脂及び化学物質の容積に加えて、これらの試験において得られた量及びキャパシティを示す。
【表8】

【0195】
こうして、2つの透明で無色の溶液を、第一画分として得、混合して1つのコハク酸溶液とした(約76gの遊離コハク酸を有する;サンプリングのために異なる)。
【0196】
この溶液を、蒸留して水を除去することによって濃縮し、20重量%のコハク酸濃度を有する380.2gの溶液を得た。濃縮ステップ後、溶液を撹拌し、冷却した。溶液が温度50℃になると、種結晶を導入した。直後に、結晶化が始まり、コハク酸結晶が沈殿した。
【0197】
コハク酸懸濁液を常温で一晩撹拌し、氷/水槽中で1時間冷却した。
【0198】
結晶を冷却中にろ過して取り出し、塊を各20mlの氷水で2回洗浄した。洗浄ステップ後、結晶を窒素ガスフロー中で乾燥させた。こうして、純度99.8%を有する65.2gの無色コハク酸結晶を得た。
【0199】
続いて、コハク酸結晶を流動層乾燥機中で乾燥させた。
【0200】
引用文献
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【受託番号】
【0201】
DSM 18541



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内在性ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素活性の脱制御を備えるように遺伝子改変された、コハク酸の発酵生産のための炭素源としてグリセロールを利用することができる細菌株。
【請求項2】
前記ピルビン酸ギ酸リアーゼ酵素活性が低下しているか、又はスイッチオフされている、請求項1に記載の株。
【請求項3】
グリセロールのコハク酸塩への発酵変換に関与する又は関連する少なくとも1つのさらなる酵素活性が脱制御されている、請求項1又は2に記載の株。
【請求項4】
腸内細菌科、パスツレラ科、バチルス綱又は放線菌門の科の微生物から選択される微生物に由来する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の株。
【請求項5】
配列番号1の16S rDNA又は少なくとも96、97、98、99若しくは99.9%の配列相同性を示す配列を有する、パスツレラ科の微生物に由来する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の株。
【請求項6】
配列番号2の23S rDNA又は少なくとも95、96、97、98、99若しくは99.9%の配列相同性を示す配列を有する、請求項5に記載の株。
【請求項7】
腸内細菌科の微生物に由来する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の株。
【請求項8】
パスツレラ科の微生物に由来する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の株。
【請求項9】
バチルス綱の科の微生物に由来する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の株。
【請求項10】
放線菌門の科の微生物に由来する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の株。
【請求項11】
以下のさらなる代謝特性:
a)ショ糖からコハク酸を生産する;
b)マルトースからコハク酸を生産する;
c)マルトデキストリンからコハク酸を生産する;
d)D-フルクトースからコハク酸を生産する;
e)D-ガラクトースからコハク酸を生産する;
f)D-マンノースからコハク酸を生産する;
g)D-グルコースからコハク酸を生産する;
h)D-キシロースからコハク酸を生産する;
i)L-アラビノースからコハク酸を生産する;
j)ラクトースからコハク酸を生産する;
k)ラフィノースからコハク酸を生産する;
l)グリセロールからコハク酸を生産する;
m)75g/l以上の初期グルコース濃度で増殖する;
n)70g/l以上の初期グリセロール濃度で増殖する
のうち少なくとも1つを示す、請求項1〜10のいずれか1項に記載の株。
【請求項12】
ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース及び/又はグリセロールをコハク酸に、少なくとも0.5g/gの収率係数YP/Sで変換する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の株。
【請求項13】
以下の特徴:
a)少なくとも25g/Lのグリセロールを少なくとも25.1g/Lのコハク酸に、少なくとも1.01g/gの収率係数YP/Sで変換する;
b)ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.58g g DCW-1 h-1コハク酸の比生産収率で変換する;
c)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h)コハク酸のコハク酸に対する空時収率で変換する;
d)少なくとも25g/Lのショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する;
e)ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.58g g DCW-1 h-1コハク酸の比生産収率で、かつ少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する
のうち少なくとも1つを有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の株。
【請求項14】
受託番号DSM 18541を有するDSMZに寄託されたDD1株に由来するか、又はコハク酸を生産する能力を有するDD1の変異株若しくは突然変異株に由来する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の株。
【請求項15】
コハク酸(SA)及び副産物(SSP)を、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>33:1のSA/SSP比で生産し、ここでSSPは、副産物である乳酸(LA)、ギ酸(FA)、酢酸(AA)、及びリンゴ酸(MA)の各量をg/Lで表した場合の合計を表す、請求項1〜14のいずれか1項に記載の株。
【請求項16】
コハク酸(SA)及び副産物である酢酸(AA)を、各量をg/Lで表した場合、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>40:1、又は>50:1、又は>75:1、又は>90:1のSA/AA比で生産する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の株。
【請求項17】
コハク酸(SA)及び副産物であるギ酸(FA)を、各量をg/Lで表した場合、>90:1、又は>100:1のSA/FA比で生産する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の株。
【請求項18】
有機酸又はその塩若しくは誘導体の発酵生産方法であって、以下のステップ:
a)同化性炭素源を含有する培地中で請求項1〜17のいずれか1項に記載の細菌株をインキュベートするステップ、及び所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;並びに
b)該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ
を含む、前記方法。
【請求項19】
発酵を、二酸化炭素の存在下で、約10〜60℃の範囲の温度、pH5.0〜9.0で行う、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記有機酸がコハク酸である、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
同化性炭素源が、グリセロール、ショ糖、マルトース、マルトデキストリン、D-フルクトース、D-ガラクトース、D-マンノース、ラクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、ラフィノース、デンプンの分解産物、セルロース、ヘミセルロース及びリグノセルロース、並びにそれらの混合物から選択される、請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
炭素源が、グリセロール若しくはグリセロールの混合物、並びにショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、D-グルコース、D-キシロース、ラフィノース及びL-アラビノースから選択される少なくとも1種のさらなる炭素源である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
同化性炭素源の濃度が、5〜80g/lの範囲の値に調整される、請求項18〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
コハク酸又はその塩若しくは誘導体の発酵生産方法であって、以下のステップ:
a)少なくとも1種の同化性炭素源を含有する培地中で細菌株をインキュベートするステップ、及び所望の有機酸の形成に有利な条件下で該株を培養するステップ;
b)該有機酸又はその塩若しくは誘導体を培地から得るステップ;
を含み、以下の特徴:
c)少なくとも25g/Lのグリセロールを少なくとも25.1g/Lのコハク酸に、少なくとも1.0g/gの収率係数YP/Sで変換する;
d)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.58g gDCW-1 h-1 コハク酸の比生産収率で変換する;
e)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h) コハク酸のコハク酸に対する空時収率で変換する;
f)少なくとも25g/Lのショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する;
g)ショ糖、マルトース、D-フルクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、ラクトース、D-マンノース、ラフィノース、及び/又はグリセロールから選択される少なくとも1種の炭素源をコハク酸に、少なくとも0.6g gDCW-1 h-1 コハク酸の比生産収率で、かつ少なくとも2.2g/(L h)のコハク酸に対する空時収率で変換する;
h)コハク酸(SA)及び副産物(SSP)を、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>33:1のSA/SSP比で生産し、ここでSSPは、副産物である乳酸(LA)、ギ酸(FA)、酢酸(AA)、及びリンゴ酸(MA)の各量をg/Lで表した場合の合計を表す;
i)コハク酸(SA)及び副産物である酢酸(AA)を、各量をg/Lで表した場合、>10:1、又は>12.5:1、又は>15:1、又は>17.5:1、又は>20:1、又は>25:1、又は>30:1、又は>50:1、又は>75:1、又は>90:1のSA/AA比で生産する
のうち少なくとも1つをさらに特徴とする、前記方法。
【請求項25】
前記細菌株が請求項1〜17のいずれか1項に記載の株である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
不連続的又は連続的に行う、請求項18〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
コハク酸及び/又はコハク酸アンモニウム塩の生産方法であって、該方法は、、請求項18〜26のいずれか1項に記載のコハク酸の発酵生産、及びアンモニア若しくはその水溶液、又はNH4HCO3、(NH4)2CO3、NaOH、Na2CO3、NaHCO3、KOH、K2CO3、KHCO3、Mg(OH)2、MgCO3、MgH(CO3)2、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(HCO3)2、CaO、CH6N2O2、C2H7N及びそれらの混合物でのpHの調整を含む、前記方法。
【請求項28】
有機酸及び/又はその塩が、ろ過、結晶化、電気透析及び/又は陽イオン交換クロマトグラフィーによってさらに単離及び/又は精製される、請求項18〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
有機酸及び/又はその塩が、以下のステップ:
ろ過、その後の
陽イオン交換クロマトグラフィー、その後の
結晶化
によってさらに単離及び/又は精製される、請求項18〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
陽イオン交換クロマトグラフィーに使用する材料が、0.5〜2.0等量/l 陽イオン交換樹脂の総キャパシティを有するスルホン酸基を有するH+形態の陽イオン交換樹脂である、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
陽イオン交換クロマトグラフィーを45〜60℃の温度で行う、請求項28〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
テトラヒドロフラン(THF)及び/又は1,4-ブタンジオール(BDO)及び/又はγ-ブチロラクトン(GBL)の生産方法であって、以下:
a)請求項27に記載のコハク酸及び/又はコハク酸塩の発酵生産、並びに
b1)得られた遊離酸のTHF及び/又はBDO及び/又はGBLへの直接接触水素化、あるいは
b2)得られた遊離コハク酸及び/又はコハク酸塩の対応するジ-低級アルキルエステルへの化学的エステル化、及び続く該エステルのTHF及び/又はBDO及び/又はGBLへの接触水素化
を含む、前記方法。
【請求項33】
ピロリドン類の生産方法であって、以下:
a)請求項27に記載のコハク酸アンモニウム塩の発酵生産、及び
b)それ自体公知の方法での、コハク酸アンモニウム塩のピロリドン類への化学的変換
を含む、前記方法。
【請求項34】
同化性炭素源として使用される前記グリセロールをトリアシルグリセリドのエステル開裂によって得る、請求項21〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
グリセロールがバイオディーゼルの製造から得られる廃棄物である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
有機ファインケミカルの発酵生産のための、請求項1〜17のいずれか1項に記載の細菌株の使用。
【請求項37】
有機ファインケミカルがコハク酸又はその塩若しくは誘導体である、請求項36に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−521190(P2012−521190A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549580(P2011−549580)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051798
【国際公開番号】WO2010/092155
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】