説明

既存外壁へPC板を取り付ける方法及び取付けファスナー

【課題】既存外壁へPC板を取り付ける方法及び取付けファスナーを提供する。
【解決手段】PC板1を建物の既存外壁2へ取り付ける方法で、上方の左右2箇所の取付けファスナーa、bは、既存外壁2にPC板1を支持可能な受け金具3と支持金具4を設け、PC板1の裏面には受け金具3の上に載る支持ボルト5、および支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を設ける。取付けファスナーcは、既存外壁2に受け金具3’と支持金具4を設け、PC板1の裏面に支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を設ける。取付けファスナーdは、既存外壁2に開口部10aを有する容器10を備えたボックス型ファスナー11を設置し、PC板1の裏面には、容器10の開口部10aへ進入させる下向きのダボピン12を設置した構成とする。容器10の開口部へ取り付けた座金13、又は容器10中へ注入した固定材でダボピン12を固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既存建物の外壁改修工事等の一環として、その既存外壁へ化粧用のプレキャストコンクリート板(以下、PC板と略す。)を取り付けて外壁改修の目的を達成する方法と、前記方法に使用するPC板取付けファスナーの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存建物の外壁改修工事等の一環として、既存外壁へ化粧用プレキャストコンクリート板(PC板)を取り付けて外壁改修の目的を達成する方法は、例えば下記の特許文献1に示すとおり公知に属する。
もっとも、特許文献1に記載された「外壁のリフォーム工法」は、既存建物の外壁に予め用意したアンカーと、PC板外周の四隅位置の厚肉部に用意した接続鉄筋又は鋼片とを目地隙間を利用して接合し取り付ける方法である。しかし、既存建物の外壁にアンカーを正確に位置決めして用意することはできるとしても、PC板を吊り込んで取り付ける現場作業の過程で、同PC板の取り付け位置を微妙に修正ないし調整して取り付ける機構や構造は見当たらず、修正等は至難のことと認められる。
【0003】
また、下記の特許文献2には、PC板を外壁板として用い、ファスナーにより建物躯体へ取り付けて建築を進める「外壁ユニットパネル工法」が開示されている。この工法は、外壁PC板の上部に面内方向調整金具と高さ調整金具を設け、吊り込んだ外壁PC板は、予め建物躯体側に取り付けた定規アングルへ前記面内方向調整金具および高さ調整金具を当接させ、躯体側の軸組へ取り付けることを内容としている。つまり、建物の躯体側を足場に利用してPC板の取り付けを進める内容である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−206557号公報
【特許文献2】特開平8−128137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に、既存外壁へ化粧用のプレキャストコンクリート板(PC板)を取り付けて外壁改修の目的を達する方法が開示されているが、その内容は、既存建物の外壁に予め用意したアンカーと、PC板の外周の四隅位置に用意した接続鉄筋又は鋼片とを接合して取り付ける方法と認められる。PC板を吊り込んで取り付ける現場作業の過程で、同PC板の取り付け位置を微妙に修正ないし調整して取り付ける機構や構造は見当たらない。従って、PC板の取り付け位置を微妙に修正ないし調整して取り付けることはできず、現場作業の困難性は当然であり、工事の品質、精度の確保に大いなる困難があると認められる。しかも、前記アンカーと接続鉄筋又は鋼片とを接合する作業を溶着で行う(2頁右上欄の12行〜13行目)ためには、溶着のための設備を用意して、溶着作業箇所毎に移動させて行うほかないから、工事の困難性は更に増すものと認められる。
一方、上記特許文献2には、PC板を外壁板として用い、ファスナーにより建物躯体へ取り付ける工法が開示されているにすぎず、この工法を既存外壁へPC板を取り付ける方法として転用することはできない。
【0006】
本発明の目的は、吊り込んだPC板の取り付け位置を、現場作業の段階で、軽便な方法で微妙に的確に修正ないし調整することができ、建物の既存外壁へPC板を安全に高い品質、精度で強固に取り付けることができるファスナーを使用し、作業性の良い内容で外壁改修等の目的を達成できる方法を提供することである。
本発明の次の目的は、建物の既存外壁へPC板を取り付けて外壁改修等を行うにあたり、現場で軽便に安全に使用でき、また、PC板の取り付け位置を微妙に的確に修正ないし調整することができ、高い品質、精度でPC板を強固に取り付けられる、PC板取付用ファスナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法は、
PC板1の裏面の上下左右の少なくとも4箇所の位置に取付けファスナーa〜dを用意して、同PC板1を建物の既存外壁2へ取り付ける方法であって、
PC板1の裏面において、上方の少なくとも左右2箇所の取付けファスナーa、bは、既存外壁2の対応位置に、PC板1の重量を支持可能な受け金具3、及び同受け金具3上に設置されてPC板1の面外方向への出入り位置の調整および面内方向(同PC板1の左右方向)の位置の調整を可能にする支持金具4を設け、一方、PC板1の裏面には、前記受け金具3および支持金具4と対応する位置に、同受け金具3の上に載る垂直下向きの支持ボルト5、および前記支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を水平方向に設けた構成とし、
当該PC板1の吊り込み時には、PC板裏面の前記支持ボルト5を既存外壁2の受け金具3の上に載せて同PC板1の自重量を支持させ、当該支持ボルト5の操作によりPC板1の取り付け高さの調整を行い、また、水平方向への突き出しボルト6を支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通して結合した上で、同PC板1の面外方向への出入り位置の調整および面内方向の位置の調整を行うこと、
次に、先行して取り付けた隣接の既設PC板(図1の符号1’を参照)の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅近傍位置の取付けファスナーcとして、既存外壁2の対応位置に、受け金具3’、及び同受け金具3’上に設置されてPC板1の面外方向への出入り位置の調整および面内方向の位置の調整を可能にする支持金具4を設け、一方、PC板1の裏面には、前記支持金具4と対応する位置に、同支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を水平方向に設けた構成とし、
当該PC板1の吊り込み時に、前記水平方向の突き出しボルト6を支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通して結合した上で、面外方向の出入り位置の調整を行うこと、
更に、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとして、既存外壁2の対応位置に、上向きの開口部10aを有する容器10を備えたボックス型ファスナー11を設置し、一方、PC板1の裏面には、前記ボックス型ファスナー11と対応する位置に、前記容器10の開口部10aの中へ進入させる垂直下向きのダボピン12を設置した構成とし、
当該PC板1の吊り込み時に、ダボピン12を前記容器10の開口部10aの中へ進入させ、同容器10の開口部へ取り付けた座金13でダボピン12の位置を固定するか、又は前記容器10の中へ注入した固定材でダボピン12の位置を固定させ、若しくは前記座金13と固定材を併用してダボピン12の位置を固定することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法において、
先行して取り付けた隣接の既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdを除く他の少なくとも3箇所の取付けファスナーa〜cは、PC板1の周辺部寄り位置であって、PC板1の上辺又は縦辺の外から作業員の手が届く範囲の位置に設置され、残る隣接の既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdは、PC板の下辺寄り位置であって同下辺の下側から作業員が目視でき手が届く範囲の位置に設置されていることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、請求項1に記載した発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法において、
先行して取り付けた隣接の既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdにおける、ダボピン12の位置の固定に座金13と固定材を併用する場合には、予めボックス型ファスナー11の容器10の中へ固定材を注入した後にPC板1の吊り込みを行い、長いダボピン12の下部を前記容器10の開口部から固定材中へ進入させて立て、他の少なくとも3箇所の取り付けファスナーa〜cによりPC板1の取付け高さ位置および面外方向への出入り位置の調整並びに面内方向の位置の調整を行い、同PC板の取り付け位置を仮決めした後に、当該PC板1は、前記ダボピン12を吊り上げない寸法だけ一旦上昇させ、その上昇位置を保持して生じた隙間を利用して、ボックス型ファスナー11の容器10の開口部10aへ座金13を取付けてダボピン12の位置を固定し、その後PC板1を再び元の仮決め位置まで下降させ、他の少なくとも3箇所の取り付けファスナーa〜cの本締めを行うことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明に係る、建物の既存外壁へPC板を取り付けるファスナーは、
PC板1の裏面の上下左右の少なくとも4箇所の位置a〜dに相当する位置へ設置してPC板1を建物の既存外壁2へ取り付けるファスナーであって、
PC板1の裏面における上方の少なくとも左右2箇所の取付けファスナーa、bは、既存外壁2の対応位置に、PC板1の重量を支持する受け金具3、及び前記受け金具3上に設置されてPC板1の面外方向への出入り位置の調整および面内方向の位置の調整を可能にする支持金具4が設けられ、一方、PC板1の裏面の前記受け金具3および支持金具4と対応する位置には、同受け金具3の上に載る垂直下向きの支持ボルト5、および前記支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を水平方向に設置した構成とされ、
また、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅近傍位置の取付けファスナーcは、既存外壁2の対応位置に設置された受け金具3’、及び前記受け金具3’上に設置されてPC板1の面外方向への出入り位置の調整および面内方向の位置の調整を可能にする支持金具4が設けられ、一方、PC板1の裏面の前記支持金具4と対応する位置には、前記支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を水平方向に設けた構成とされ、
更に、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdは、既存外壁2の対応位置に、上向きの開口部を有する容器10を備えたボックス型ファスナー11が設置され、一方、当該PC板1の裏面の前記ボックス型ファスナー11と対応する位置に、前記容器10の開口部の中へ進入させる垂直下向きのダボピン12を設置した構成とされていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載した発明は、請求項4に記載した発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付けるファスナーにおいて、
当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdを構成するボックス型ファスナー11の容器10にはダボピン12の位置を固定する固定材が注入され、又は同容器10の開口部10aへダボピン12の位置を固定する座金13が取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜3に記載した発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法は、PC板1の吊り込み時に、上方の左右2箇所の取付けファスナーa、bを構成する裏面の支持ボルト5を、既存外壁2の受け金具3の上に載せて当該PC板1の自重量を支持させ、同支持ボルト5の回転操作によりPC板1の取り付け高さの調整を行う。
そして、前記2箇所の取付けファスナーa、bと、および先行して取り付けた隣接の既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅近傍に位置する取付けファスナーcとは、前記支持ボルト5が受け金具3の上に載りPC板1の自重量を支持した状態で、水平方向の突き出しボルト6を支持金具4の垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通し、同支持金具4と結合した上で、当該PC板1の面外方向への出入り位置の調整を行い、また、面内方向(PC板1の左右方向)の位置の調整も行う。こうして当該PC板1の取り付け位置を仮決めした上で、各ボルトは一旦仮締めする。その後、後述のファスナーdによる取付け作業を経て、前記各ボルトを本締めする手順を実施することにより、当該PC板1は正確に位置決めして安全に高品質、高精度に建物の既存外壁2へ作業性良く取り付けることができる。
一方、当該PC板1において、作業員が手を入れ難い、隣接の既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部の取付けファスナーdは、PC板1に設置したダボピン12を、同PC板1の吊り込み作業の過程で既存外壁2のボックス型ファスナー11の容器10へ開口部10aから進入させ、同ダボピン12の位置を固定することで取付け作業は終了する。このファスナーdに関しては、PC板1の取り付け作業を先行させる他の3箇所の取付けファスナーa〜cの位置が決まれば、必然的にダボピン12とボックス型ファスナー11の容器10との位置関係も定まり、当該PC板1を単純に下降させる操作によりダボピン12はボックス型ファスナー11の容器10の開口部10aの中へ進入させることができ、作業は至極簡単である。
なお、容器10の開口部10a中へ進入させたダボピン12の位置を固定化させる手段としては、前記容器10へ予め注入した固定材の固結作用でその位置を固定することができる。或いは固定材を使用することなく、若しくは固定材と併用する座金13を、同容器10の開口部10aへ取り付けてダボピン12の位置を固定させることができる。
かくしてPC板1は、上下左右の少なくとも4箇所の位置をそれぞれ、取り付けファスナーa〜dにより強固に高精度、高品質に作業性良く安全に既存外壁2へ取り付けることができる。
【0012】
次に、請求項4、5に記載した発明に係る建物の既存外壁2へPC板1を取り付けるファスナーa〜dは、PC板1の裏面の少なくとも4箇所の位置と、および既存外壁2の対応する位置とに用意される。
先ずPC板1の上方の少なくとも左右2箇所に位置する取付けファスナーa、bは、PC板1の吊り込み作業に伴い、裏面の垂直下向きの支持ボルト5を受け金具3上へ載せて当該PC板1の自重量を支持させる。そして、同支持ボルト5を回転操作することにより、当該PC板1の取り付け高さの位置を調整できる。
また、上記2箇所の取付けファスナーa、bのほか、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅部に位置する取り付けファスナーcを含む少なくとも3箇所のファスナーa〜cはそれぞれ、PC板裏面の水平方向への突き出しボルト6を、既存外壁2の支持金具4に垂直に設けたU字形切り欠き部4aへ通し、ナット6aを締結して支持金具4とPC板1とを一体的構造とした上で、同支持金具4を受け金具3又は3’へ止め付けたボルト9とナット9aの締結を緩め、支持金具4をスライドさせる操作により、当該PC板1の面外方向の出入り位置の調整を行い、面内方向への位置の調整も合わせて行うことができる。その後に、支持金具4を受け金具3又は3’とボルト9、ナット9aで強く締結してPC板1の位置を本締め固定するから、PC板1は、高品質、高精度に位置決めして取り付けることができる。
更に、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdは、ダボピン12と容器10の関係位置が、上記3箇所のファスナーa〜cの位置決めにより所定の取り付け位置に定められるので、PC板1の吊り込みと下降作業の過程で、ダボピン12をボックス型ファスナー11の容器10の開口部中へ誘導して容易に進入させることができる。
こうして容器10の中へ進入させたダボピン12の位置の固定は、容器10へ予め注入しておいた固定材の固結に伴う固定化作用により、若しくは前記固定材に代わり前記容器10の開口部10aへ溶接等で固定した座金13による固定作用で、又は前記固定材と座金13を併用する方法により固定できる。かくしてPC板1は、少なくとも上下左右の合計4箇所の位置a〜dを既存外壁2へ強固に正確に取り付け固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法によるPC板の吊り込み要領を概念的に示した立面図である。
【図2】本発明によるPC板の取付けファスナーの位置および構成概要を示した説明用の斜視図である。
【図3】本発明の方法によりPC板を取り付けた場合の取付けファスナーの配置および構成を主要部分について示した立面図である。
【図4】図3中に指示した4−4線矢視の断面図である。
【図5】図3中に指示した5−5線矢視の断面図である。
【図6】図3中に指示した6−6線矢視の断面図である。
【図7】図3中に指示した7−7線矢視の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法は、PC板1の裏面の上下左右の少なくとも4箇所の位置、および既存外壁2のそれぞれ対応する各位置にファスナーa〜dを用意して、同PC板1を建物の既存外壁2へ取り付ける方法として実施される。
PC板1の裏面における、上方の少なくとも左右2箇所の取付けファスナーa、bとして、既存外壁2の対応位置に、PC板1の重量を支持する受け金具3、及び同受け金具3上に設置されてPC板1の面外方向への位置の調整、および面内方向(当該PC板1の左右方向)の位置の調整を可能にする支持金具4を設置する。一方、PC板1の裏面には、前記受け金具3および支持金具4と対応する位置に、前記受け金具3の上に載る垂直下向きの支持ボルト5、および前記支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を水平方向に設置する。
そして、当該PC板1の吊り込み時には、先ずPC板裏面の前記支持ボルト5を既存外壁2の前記受け金具3の上に載せて同PC板1の自重量を支持させ、同支持ボルト5を操作してPC板1の取り付け高さの調整を行う。また、水平方向の突き出しボルト6を、支持金具4の垂直なU字形切り欠き部4aへ通し(落とし込み)、ナット6aを締結してPC板1と支持金具4を一体的構造にする。その上で、支持金具4を受け金具3へ止め付けたボルト9とナット9aの締結を必要なだけ緩め、支持金具4を受け金具3に対し移動させてPC板1の面外方向の出入り位置の調整を行い、面内方向の位置の調整も行う。前記調整後には再び、前記ボルト9、ナット9aの締結を強固に行い、支持金具4を受け金具3へ固定することによりPC板1の位置を固定する。
次に、当該PC板1において、先行して取り付けている隣接の既設PC板(図1中の符号1’を参照)の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅近傍位置の取付けファスナーcとしては、既存外壁2の対応位置に受け金具3’、及び同受け金具3’上に設置されてPC板1の面外方向への出入り位置を調整可能にする支持金具4を設ける。一方、PC板1の裏面には、前記支持金具4と対応する位置に、前記支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6を水平方向に設置する。
そして、当該PC板1の吊り込み時に、前記水平方向の突き出しボルト6を前記水平方向支持金具4の垂直なU字形切り欠き部4aへ通し(落とし込み)、ナット6aを締結して支持金具4とPC板1を一体的構造にする。その上で、支持金具4を受け金具3’へ止め付けたボルト9、ナット9aの締結を一旦緩め、支持金具4を受け金具3’に対し移動させてPC板1の面外方向の出入り位置の調整を行い、合わせて面内方向の位置の調整も行う。前記調整の後に、支持金具4をボルト9、ナット9aの締結により固定してPC板1の位置を固定する。
更に、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとして、既存外壁2の対応位置に、上向きの開口部10aを有する容器10を備えたボックス型ファスナー11を設置する。一方、PC板1の裏面には、前記ボックス型ファスナー11と対応する位置に、前記容器10の開口部10aの中へ進入させる垂直下向きの長いダボピン12を設置する。
上述したように、当該PC板1の取り付け作業を先行させる他の3箇所の取り付けファスナーa〜cによる取付け位置が決まると、必然的にダボピン12とボックス型ファスナー11の容器10との位置関係も定まる。よって、上記吊り込み作業の過程で、ダボピン12をボックス型ファスナー11の容器10の開口部10aへ誘導し進入させることができる。
なお、容器10の中へ進入させたダボピン12の位置を固定する手段としては、
(1)予め容器10へ注入した固定材の固結に伴う固定化作用による方法。
(2)或いはダボピン12を支持する座金13を前記容器10の開口部10aへ溶接等して固定する方法。
(3)又は上記(1)および(2)の手段を併用する方法。
のいずれかを実施することができる。
因みに、前記固定材としては、例えばモルタル、エポキシ樹脂やウレタン樹脂をバインダとしたモルタル混合物である樹脂モルタル、或いはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を好適に使用できる。
【実施例】
【0015】
以下に、本発明のPC板取付け方法、および同方法に使用する取付けファスナーを、図示した実施例に基づいて説明する。
先ず、本発明に係るPC板取付けファスナーの構成を説明する。
図1と図2に構成概要を示したとおり、PC板1の裏面の上下左右の少なくとも4箇所の位置、および既存外壁2において対応する位置に取付けファスナーa〜dを設けて、PC板1を建物の既存外壁2へ取り付ける。
本実施例の取付けファスナーa〜dの構成概要は、図1と図2に示したように、PC板1の上方の左右2箇所に設けるファスナーa、bは、当該PC板1の自重量を支持し、且つ当該PC板1の取り付け高さ、および面外方向への出入り位置の調整、並びに面内方向(PC板1の左右方向)の位置の調整が可能な構成とする。また、図1に示したように、当該PC板1において、先行して建物の既存外壁2へ取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側(図1、図2において左辺側)の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側(右辺側)の下隅近傍の位置へ設ける取付けファスナーcは、PC板1の面外方向への出入り位置の調整が可能な構成とする。最後に、先行して建物の既存外壁2へ取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側(左辺側)の下隅部に位置する取付けファスナーdは、当該PC板1の吊り込み作業の過程で、ダボピン12を容器10へ進入させて固定する構成とされている。
【0016】
そこで先ず、PC板1の上方の左右2箇所に設ける取付けファスナーa、bの構成から説明を進める。
図2に構成概要を示し、図3と図4および図6に具体的構成を詳示したとおり、既存外壁2には、PC板1の取付けファスナーa、bと対応する位置に、当該PC板1の自重量を支持する受け金具3、及び前記受け金具3上に設置されPC板1の面外方向への出入り位置の調整、及び面内方向(PC板1の左右方向)の位置の調整が可能な支持金具4が設置されている。ただし、図3に示す実施例では、PC板1の上方の左右2箇所の位置に設ける取付けファスナーa、bは、高さ位置が共通にすることを前提に、受け金具3は、左右方向に隣接する合計3枚のPC板1、1に跨る長さ(一例として長さが1800mm、厚さ12mm程度)のアングル材が使用され、その垂直辺が、建物の既存外壁2へ予め埋設された複数本のアンカーボルト8、及びこれにねじ込んだナット8aにより強固に締結して取り付け固定されている。
上記受け金具3の水平面上の所定位置に、例えば図6に示したとおり、同じくアングル形状で垂直辺の略中央部位に垂直方向のU字形切り欠き部4aを設けた支持金具4が、その水平面を、図2の場合は2本の取り付けボルト9、9と、これにねじ込んだナット9aとにより受け金具3上へ締結して設置されている。
なお、上記支持金具4の水平面部のボルト孔は、図示していないが、PC板1の面外方向への出入り位置の調整、および面内方向への位置の調整を可能にするため、建物の既存外壁2の壁面に対して平行な方向へ長い長孔とする。また、受け金具3は、既存外壁2の壁面と垂直な方向にも長い長孔が形成され、前記の長孔によって許容される余裕寸法分だけ、支持金具4の取り付け位置を、PC板1の面外方向および面内方向へ調整することが可能に構成されている。取り付けボルト9へねじ込んだナット9aを緩めると、PC板1の取り付け位置の調整が自在に可能であり、強固に締結することで支持金具4およびPC板1の取付け位置を確定(固定)できる。
【0017】
一方、PC板1の裏面には、上記の各受け金具3、4と対応する位置に、前記受け金具3の水平面上に載る垂直下向きの支持ボルト5、および前記支持金具4に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部4aへ通す突き出しボルト6が水平方向に設置されている。
図2と図4に示した通り、受け金具3の上に載せる垂直下向きの支持ボルト5は、基端部へアンカー鉄筋1aを接合して(図2参照)、その基端部をPC板1中へ埋設して水平方向へ突き出た支持板15を設け、同支持板15の外端部へスリーブナット15aを垂直下向きに取り付け、同スリーブナット15aへ支持ボルト5を下向きにねじ込んだ構成で設置されている。前記支持板15とスリーブナット15aは、両者の内隅部へ配置した補強板15bにより補強して、PC板重量の負荷に耐える構成とされている。一方、受け金具3において、前記支持ボルト5が載る位置には、L字形をなす水平辺と垂直辺の間へ補強リブ16が組み入れられて支持強度が高められている。
したがって、取付けファスナーa、bの支持ボルト5は、PC板1の吊り込み時に、受け金具3の上へ支持ボルト5を載せかけることで、同PC板1の重量を受け金具3の方へ盛り替えることができる。よって、以後はPC板1を必要以上に動かさないで取付け作業を安全に安定状態で進めることができる。勿論、各支持ボルト5を回転操作することにより、当該PC板1の取り付け高さの調整を容易に精度良く行うことができる。
なお、受け金具3において、支持ボルト5を載せかける水平面の先端縁部には、短い鉄筋等を溶接したストッパー31が凸状に設けられており、支持ボルト5が不用意に受け金具3から脱落することを未然に防止する構成とされている。
【0018】
PC板1の上記水平方向の突き出しボルト6も、図2と図5、図6に示したように、その基端部へ座金6b(図2参照)を取り付けて、同基端部をPC板1の中へ埋設して水平方向に突き出されている。この突き出しボルト6は、図3に示すように、当該PC板1の吊り込み時に支持金具4が予め位置合わせされ、PC板1を下降させる操作により、上記支持金具4に設けられた垂直なU字形切り欠き部4aへ通される(又は落とし込まれる)。その後、支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通した突き出しボルト6の内端側へナット6aをねじ込み締め付けることにより、支持金具4とPC板1は一体的な構成とされる。その上で、支持金具4を受け金具3へ止め付けたボルト9とナット9aの締結力を必要なだけ緩めることで、当該PC板1の取り付け位置の出入り調整、及び面内方向への位置の調整を行うことができる。位置を調整した後に、再びボルト9とナット9aを強固に締結することで、支持金具4およびPC板1の位置を確定(固定)することができる。
【0019】
上記したように、PC板1の上方の左右2箇所に設けたファスナーa、bの取付け作業は、垂直下向きの支持ボルト5を受け金具3の上に載せることで、PC板1の支持が行われる。また、同支持ボルト5を回転操作することで、当該PC板1の取り付け高さの調整を行なえる。そして、支持金具4の垂直なU字形切り欠き部4aへ水平方向の突き出しボルト6を通し、同ボルト6の内端側へナット6aをねじ込むことで、支持金具4とPC板1との一体的な結合が行なわれる。その上で、支持金具4を受け金具3へ止め付けたボルト9とナット9aの締結力を一旦緩めて、PC板1の取り付け位置の出入り調整を行う。こうした取付け作業を可能にするため、ファスナーa、bは、図1、図2に示したように、PC板1の上辺側あるいは左右の縦辺側から作業員が手を差し入れて上記ボルト9とナット9aを締結したり緩める作業をする手が届く範囲内の位置に設置されている。
【0020】
次に、図1および図2において、吊り込んだPC板1を、先行して取り付けた既設のPC板1’の方へ寄せ付ける辺側(左辺側)の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側(右辺側)の下隅近傍位置の取付けファスナーcの構成について説明する。
図3および図5に示した実施例の取付けファスナーcは、垂直下向きの支持ボルト5を含まない点だけが、上記左右2箇所の取付けファスナーa、bと異なり、その他の構成はほぼ共通する。もっとも、この取付けファスナーcを、上記左右2箇所の取付けファスナーa、bと全く同じ構成で実施することを否定するものではない。
図3および図5に示した取付けファスナーcも、既存外壁2の対応位置に設置された短い受け金具3’の水平面上に、PC板1を、面外方向への出入り位置の調整、及び面内方向への位置調整を可能にする1個の支持金具4が設置されている。前記の受け金具3’は、建物の既存外壁2へ予め埋設した2本のアンカーボルト8、8を利用して設置されている。受け金具3’は、やはりアングル形状であり、1個の取付けファスナーcを構成するに足る程度に短い鋼材が使用されている。この受け金具3’の水平辺面上に、支持金具4の水平面部が、図5に示したようにボルト9とナット9aにより取り付けられている。この支持金具4も、ボルト孔は、建物の既存外壁2の壁面に対して平行な方向に長い長孔とし、また、受け金具3は既存外壁2の壁面と垂直な方向に長い長孔に形成され、もって前記長孔により許容される余裕寸法分だけ、支持金具4の取り付け位置をPC板1の面外方向および面内方向へ変位させることが可能に構成されている。位置を調整したPC板1は、前記ボルト9とナット9aを強く締結することで取り付け位置を確定(固定)することができる。
一方、PC板1の裏面には、前記支持金具4と対応する位置に、上記取付けファスナーa、bと同様、基端部に座金6bを取り付けた突き出しボルト6(図2を参照)が、その基端部をPC板1中に埋め込んで水平方向に突き出されている。
【0021】
したがって、この取付けファスナーcの場合も、突き出しボルト6は、図3と図5に示したように、当該PC板1の吊り込み時に、支持金具4が予め位置合わせされていて、PC板1を下降させることにより、突き出しボルト6が、支持金具4の垂直なU字形切り欠き部4aへ通される。かくして支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通した突き出しボルト6には、その内端側へナット6aをねじ込み締結することにより、支持金具4とPC板1とを一体的な構造とすることができる。その上で支持金具4を受け金具3’へ止め付けた上記ボルト9とナット9aの締結力を必要なだけ緩め、支持金具4を移動させることにより、当該PC板1の取り付け位置を面外方向、および面内方向へ調整することができる。そして、前記位置の調整後に、再びボルト9とナット9aを強固に締結してPC板1の取り付け位置を確定(固定)することができる。
この取付けファスナーcによるPC板1の取付け作業も、支持金具4の垂直なU字形切り欠き部4aへ通した突き出しボルト6の内端へナット6aをねじ込み、支持金具4とPC板1を一体的構造とした上で、支持金具4を受け金具3’へ止め付けた上記ボルト9とナット9aを必要に応じて緩め、支持金具4を受け金具3’上でスライドさせることにより、PC板1の出入り位置等の調整を行う。よって、図1、図2に示しているように、取付けファスナーcは、PC板1の右側辺から作業員が手を差し入れて取付け作業が行えるように、手が届く範囲の位置に設置されている。
【0022】
最後に、当該PC板1において、図1に示したように先行して取り付けている既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側(左辺側)の下隅部に位置する取付けファスナーdの構成について説明する。
この取付けファスナーdは、既存外壁2の対応位置に設置された、上向きに開口する容器10を備えたボックス型ファスナー11と、PC板1の裏面に、前記ボックス型ファスナー11と対応する位置へ設置され、前記容器10の中へ下向きに進入させる垂直下向きの長いダボピン12とで構成されている。
図3と図6、7に示したとおり、既存外壁2の対応位置には、上向きに開口する容器10を備えた取り付け板18が、建物の既存外壁2へ予め埋設した複数本のアンカーボルト17と、その外端へねじ込まれたナット17aとで強固に取り付けてボックス型ファスナー11が設置されている。前記容器10は、前記取り付け板18の前面へ開口部10aを有する水平板18aと共に上向きの垂直姿勢に取り付けられている。容器10、およびその開口部10aは、上記のダボピン12を挿入しやすく、同ダボピン12の位置を固定化する作業が容易な大きさ、深さに形成されている。
前記容器10には、PC板1の吊り込みに際し、後述するダボピンの位置を固定化させる固定材として、例えばモルタル、エポキシ樹脂やウレタン樹脂をバインダとしたモルタル混合物である樹脂モルタル、或いはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を予め注入し充填する。
一方、PC板1の裏面には、前記ボックス型ファスナー11と相対応する位置に、上記の容器10の開口部10a中へ垂直下向きに進入させる垂直下向きのダボピン12が設置されている。ダボピン12は、一例として外径が20mm、長さが200mm程度で、上端に平頭12aを有する形状であり、図1と図6の実施例では、アングル形状の支持材19に平頭の首下を吊り支持された構成で設置されている。前記アングル形状の支持材19は、その垂直面部の背面側に縦リブ19aを設け、同縦リブ19aの縦縁に沿ってアンカー鉄筋1aを取り付け、前記縦リブ19a及びアンカー鉄筋19bをPC板1の内部へ埋め込んで設置されている。そして、支持材19の水平面部へ貫通孔を設けて、同貫通孔へダボピン12の軸部を垂直下向きに緩く通し平頭12aの首部を吊り支持させている。つまり、ダボピン12は、支持材19の水平面部に対して上下方向への移動が自在な構成で支持されている。
【0023】
したがって、この取付けファスナーdによるPC板1の取付けは、ダボピン12の固定手段として上記の固定材を使用する場合には、例えばPC板1の吊り込み直前に、予め容器10へ上記の固定材をダボピン12の固定に必要な量だけ注入充填しておく。その上で、上記ダボピン12の下端を、ボックス型ファスナー11の容器10における開口部10aと位置合わせを行いつつPC板1を下降させ、その過程でダボピン12を容器10の中へと誘導し進入させ、固定材の固化作用よりダボピン12の位置を固定化させる。
この取付けファスナーdによるPC板1の取付け作業は、上記した3箇所の取付けファスナーa〜cによる取付け作業と並行して行われる。上記3箇所の取付けファスナーa〜cによるPC板1の取付け位置が決められると、必然的に、ダボピン12とボックス型ファスナー11の容器10との位置関係も定まるから、単純な吊り込み作業でダボピン12をボックス型ファスナー11の容器10の開口部10aへ容易に進入させることができる。
【0024】
なお、容器10の中へ進入させたダボピン12の位置を固定化させる異なる手段としては、上記の固定材を使用せずに、座金13だけを使用する方法を実施することができる。この場合は、ダボピン12を空の容器10の中へと進入させた段階で、図2に示すとおり、ダボピン12を通すU字形り欠き部13aを一方向へ設けた座金13を、容器10の開口部10aを形成する水平板18aへ溶接する等の手段で固定することにより、U字形切り欠き部13aへ通したダボピン12の位置を固定することができる。
なお、座金13のみを使用してダボピン12の位置を固定する方法を実施する場合には、容器10の設置を省略することができ、図2に示した取り付け板18の水平板18aへ座金13を固定する方法を実施することができる。
その他、前記固定材を容器10へ充填してダボピン12の位置を固定化させる手段と、同容器10の開口部10aへ座金13を取り付ける、いわゆる併用型の方法によりダボピン12の位置を固定することも実施可能である。
【0025】
以上に説明した4箇所の取付けファスナーa〜dの構成と、それが奏する作用を前提に、本発明に係る建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法を纏めて説明する。
PC板1の吊り込み作業において、上方の左右2箇所の取付けファスナーa、bは、PC板1の吊り込みと下降動作に伴い、支持ボルト5を既存外壁2の受け金具3の水平面上に載せて当該PC板1の重量を支持させる。この場合、受け金具3の水平面の先端縁部に取り付けたストッパー31は、支持ボルト5が受け金具3上を滑って不用意に脱落する不具合を防止することに効果的である。前記の段階でPC板1が不用意に揺れ動く不安定さは一応解消する。そこで各支持ボルト5を回転操作してPC板1の取り付け高さの調整を行うことができる。
また、前記PC板1の吊り込み時の位置合わせにしたがい、PC板1を下降させて、水平方向の突き出しボルト6を支持金具4のU字形切り欠き部4aへ通すことができる。そこで、各突き出しボルト6の内端側へナット6aをねじ込み締め付けることで、支持金具4とPC板1とを一体的構造にできる。その上で、支持金具4を受け金具3へ止め付けたボルト9とナット9aの締結力を必要なだけ一旦緩めて、当該PC板1の面外方向の取り付け位置の出入り調整、および面内方向(PC板1の左右方向)の位置の調整も行う。前記の位置調整後には、再びボルト9とナット9aを強固に締結してPC板1の取り付け位置を仮決めする。ここでいう位置仮決めの意味、内容は追って説明する。
【0026】
次に、取り付けファスナーcに関しても、PC板1の吊り込み時点の位置合わせにより、水平方向の突き出しボルト6を、支持金具4の垂直なU字形切り欠き部4aへ通し、この突き出しボルト6の内端側へナット6aを締め付けて支持金具4とPC板1とを一体的構造にする。その上で、支持金具4を受け金具3’へ止め付けたボルト9とナット9aの締結力を必要なだけ一旦緩めて、当該PC板1の面外方向への取り付け位置の出入り調整を行い、面内方向の位置の調整も行うことは、上記の取付けファスナーa、bと共通する。勿論、前記位置の調整後に、再びボルト9へナット9aを強固に締結して、PC板1の取り付け位置を仮決めすることも、上記取付けファスナーa、bと共通する。
【0027】
最後に、当該PC板1において、先行して取り付けた既設PC板1’の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdによるPC板1の取付け作業について説明する。
取付けファスナーdによるPC板1の取付け作業は、PC板1の左辺および下辺の目地間隙から手を入れ難い点が、上記した3箇所の取付けファスナーa〜cによるPC板1の取付け作業と異なる。そこで取付けファスナーdによるPC板1の取付け作業は、他の取付けファスナーa〜cによるPC板1の取付け位置の仮決め工程を経て、最終的に行われる。
つまり、前記3箇所の取付けファスナーa〜cの取付け位置が先行して決められるので、必然的に取付けファスナーdにおけるダボピン12とボックス型ファスナー11の容器10との位置関係もそれによって定まる。そこでPC板1の吊り込みおよび下降の過程で、ダボピン12は、ボックス型ファスナー11の容器10の開口部10aへ誘導して容易に進入させることができる。
このときダボピン12が容器10の中へ進入した取付け位置を上記固定材で固定させる方法は、次のように実施される。
固定材を使用する場合には、当該PC板1の吊り込み作業に先行して、前記容器10の中へ固定材を必要量注入しておき、その後にダボピン12を容器10中へ誘導し進入させてその位置を固定化させる。
ダボピン12が容器10の中へ進入した位置を、座金13で固定する方法を実施する場合、及び固定材と座金13の双方を併用してダボピン12が容器10の中へ進入した位置を固定する場合には、上記3箇所の取り付けファスナーa〜cによるPC板1の取付け高さ位置および面外方向への出入り位置の調整、並びに面内方向の位置の調整を行い、その位置を仮決めした段階で、次にはPC板1が上方向へスライド可能な程度に上記3箇所の取付ファスナーa〜cのボルト6とナット6aの締結を緩め、PC板1を一旦上昇させる。但し、この上昇時に、ダボピン12は容器10の中へ進入した位置を次のようにして維持させる。
即ち、図6に例示したように、ダボピン12は必要十分なせいの高さ(有効長さ=一例として上記の200mm)を有するものとし、PC板1および支持材19がともに上昇しても、その上昇量はダボピン12の上端の平頭12aへ支持材19の水平面部が当たらない範囲内で、且つ座金13を、容器10の開口部10aへ溶接等で固定する作業に必要最少限度の隙間を下辺部に確保できる高さだけPC板1を上昇させる。したがって、ダボピン12は、支持材19の水平面部に設けた貫通孔に緩く嵌っている関係上、ダボピン12の下端部は、容器10の中へ進入したままの位置を維持する。即ち、座金13のみを使用してダボピン12の位置を固定する場合であっても、ダボピン12の下端部は図6に示したとおり容器10の底へ当たって、その上端の平頭12aは、支持材19の水平面部よりも上方へ高く位置し、容器10の開口部10aと前記支持材19の水平面部との間に座金13を入れて溶接作業を行えるだけの隙間が確保される。
そこで上記の上昇工程によりPC板1の下辺部に発生した隙間を通じて、容器10の開口部10aへ位置決め用の座金13を取り付ける。具体的には座金13の水平方向の切り欠き部13aをPC板1の面内方向(PC板1の左右方向)に向けてダボピン12へ通し、位置を決めて、例えば溶接で座金13を開口部10aへ固定してダボピン12の位置を座金13により固定する。
前記座金13によるダボピン12の固定作業が終了した後に、PC板1は再び下降させて、取付けファスナーa、bの支持ボルト5を受け金具3上へ載せ、3箇所の取り付けファスナーa〜cにおける支持金具4とPC板1のボルト6とをナット6aの本締めにより全体を固定して、当該PC板1の取り付け作業が完了する。
なお、上記ファスナーa〜cにおける支持金具4とPC板1のボルト6とをナット6aの本締めにより固定する構成に関しては、風圧力による躯体の変形、及び外気温の変化等により生ずる変形に起因する発音等の金属摩擦音の発生を最小に抑えるため、ボルト6に予め、支持金具4の内外両面を挟む配置で少なくとも一枚ずつ支持金具4の金属接触面に、ステンレスや合成樹脂製の薄板を挟み込んで本締めすること、またはふっ素コーティング等のすべり材を挟み込んで本締めすることが好ましい。
【0028】
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、本発明は、上記実施例の構成に限定されない。本発明の目的と要旨を逸脱しない範囲において、当業者が必要に応じて通常行う設計変更や応用の範囲を含むことを念のため言及する。
【符号の説明】
【0029】
1 PC板
1’ 既設PC板
2 既存外壁
3 受け金具
3’ 受け金具
4 支持金具
5 支持ボルト
6 突き出しボルト
10 モルタル容器
11 ボックス型ファスナー
12 ダボピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC板の裏面の上下左右の少なくとも4箇所の位置に取付けファスナーを用意して同PC板を建物の既存外壁へ取り付ける方法であって、
PC板の裏面において、上方の少なくとも左右2箇所の取付けファスナーa、bとして、既存外壁の対応位置に、PC板の重量を支持する受け金具、及び同受け金具上に設置されPC板の面外方向への出入り位置の調整を可能にする支持金具を設け、一方、PC板の裏面には、前記受け金具および支持金具と対応する位置に、同受け金具の上に載る垂直下向きの支持ボルト、および前記支持金具に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部へ通す突き出しボルトを水平方向に設置した構成とし、
当該PC板の吊り込み時には、PC板裏面の前記支持ボルトを既存外壁の受け金具の上に載せて同PC板の自重量を支持させ、当該支持ボルトの操作によりPC板の取り付け高さの調整を行い、また、水平方向の突き出しボルトは支持金具のU字形切り欠き部へ通し結合した上で同PC板の面外方向の出入り位置の調整および面内方向の位置の調整を行うこと、
次に、当該PC板において、先行して取り付けた隣接の既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅近傍位置の取付けファスナーcとして、既存外壁の対応位置に、受け金具、及び同受け金具上に設置されてPC板の面外方向への出入り位置を調整を可能にする受け金具を設け、一方、PC板の裏面には、前記支持金具と対応する位置に、同支持金具に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部へ通す突き出しボルトを水平方向に設けた構成とし、
当該PC板の吊り込み時に、前記水平方向の突き出しボルトを支持金具の垂直なU字形切り欠き部へ通し結合した上で面外方向の出入り位置の調整を行うこと、
更に、当該PC板において、先行して取り付けた既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとして、既存外壁の対応位置に、上向きの開口部を有する容器を備えたボックス型ファスナーを設置し、一方、PC板の裏面には、前記ボックス型ファスナーと対応する位置に、前記容器の開口部の中へ進入させる垂直下向きのダボピンを設置した構成とし、
当該PC板の吊り込み時に、ダボピンを前記容器の開口部中へ進入させ、同容器の開口部へ取り付けた座金でダボピンの位置を固定するか、又は前記容器の中へ注入した固定材でダボピンの位置を固定化させ、若しくは前記座金と固定材を併用してダボピンの位置を固定することを特徴とする、建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法。
【請求項2】
先行して取り付けた隣接の既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdを除く他の少なくとも3箇所の取付けファスナーa〜cは、PC板の周辺部寄り位置であって、PC板の上辺又は縦辺の外から作業員の手が届く範囲の位置に設置され、残る隣接の既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdは、PC板の下辺寄り位置であって同下辺から作業員が目視でき手が届く範囲の位置に設置されていることを特徴とする、請求項1に記載した建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法。
【請求項3】
先行して取り付けた隣接の既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdにおける、ダボピンの位置の固定に座金と固定材を併用する場合には、予めボックス型ファスナーの容器の中へ固定材を注入した後にPC板の吊り込みを行い、ダボピンを前記容器の開口部中へ進入させて立て、他の少なくとも3箇所の取り付けファスナーa〜cによりPC板の取付け高さ位置および面外方向のへの出入り位置の調整並びに面内方向の位置の調整を行って、PC板の取付け位置を仮決めした後に、同PC板は前記ダボピンを吊り上げない寸法だけ一旦上昇させ、その上昇位置を保持して生じさせた隙間を通じて、ボックス型ファスナーへ座金を取付けてダボピンの位置を固定し、その後PC板を再び元の仮締め位置まで下降させ、他の少なくとも3箇所の取付けファスナーa〜cの本締め固定を行うことを特徴とする、請求項1に記載した建物の既存外壁へPC板を取り付ける方法。
【請求項4】
PC板の裏面の上下左右の少なくとも4箇所の位置a〜dに設置してPC板を建物の既存外壁へ取り付けるファスナーであって、
PC板の裏面における上方の少なくとも左右2箇所の取付けファスナーa、bは、既存外壁の対応位置に、PC板の重量を支持する支持金具、及び前記支持金具上に設置されてPC板の面外方向への出入り位置の調整を可能にする支持金具が設けられ、一方、PC板の裏面の前記受け金具および支持金具と対応する位置には、同受け金具の上に載る垂直下向きの支持ボルト、および前記支持金具に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部へ通す突き出しボルトを水平方向に設置した構成とされ、
また、当該PC板において、先行して取り付けた既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdとは反対側の下隅近傍位置の取付けファスナーcは、既存外壁の対応位置に設置された受け金具、及び前記受け金具上に設置されたPC板の面外方向への出入り位置の調整を可能にする支持金具が設けられ、一方、PC板の裏面には前記支持金具と対応する位置に、前記支持金具に設けられた垂直方向のU字形切り欠き部へ通す水平方向の突き出しボルトを設けて構成され、
更に、当該PC板において、先行して取り付けた既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdは、既存外壁の対応位置に設置された、上向きの開口部を有する容器を備えたボックス型ファスナーが設置され、一方、PC板の裏面の前記ボックス型ファスナーと対応する位置に、前記容器の開口部の中へ進入させる垂直下向きのダボピンを設置した構成とされていることを特徴とする、建物の既存外壁へPC板を取り付けるファスナー。
【請求項5】
先行して取り付けた既設PC板の方へ寄せ付ける辺側の下隅部に位置する取付けファスナーdを構成するボックス型ファスナーの容器には固定材が注入され、又は同容器の開口部へダボピンの位置を固定する座金が取り付けられることを特徴とする、請求項4に記載した建物の既存外壁へPC板を取り付けるファスナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−275838(P2010−275838A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132220(P2009−132220)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(593209747)株式会社ダイワ (3)
【Fターム(参考)】