説明

有価金属回収方法

【課題】例えばリチウムイオン電池の廃電池等の金属複合体からの有価金属の回収プロセス等、焙焼による金属複合体の酸化処理と、その後の熔融処理を含むプロセスにおいて、酸化処理の処理効率を高め、且つ、プロセス全体に必要となる添加物の総量を節減することにより、従来よりも処理コストの低減が可能な有価金属回収方法を提供すること。
【解決手段】金属複合体を焙焼して酸化処理を行う際に、焙焼用容器の積載面上にフラックスを含有する粒状付着防止剤を積載し、積載された粒状付着防止剤上に金属複合体を載置した状態で、金属複合体を焙焼して酸化する。酸化工程に引き続き行われる熔融工程において、酸化処理された金属複合体と、粒状付着防止剤の一部又は全部とを、同一の熔融炉に投入して熔融する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウムイオン電池等の廃電池等、リサイクル用の金属複合体に含まれる有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の、使用済み或いは工程内の不良品である電池(以下廃電池と言う)をリサイクルし、廃電池に含まれる有価金属を回収しようとする処理方法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。
【0003】
乾式法は、破砕した廃電池を熔融処理し、回収対象である有価金属と、付加価値の低いその他の金属等とを、それらの間の酸素親和力の差を利用して分離回収するものである。即ち、鉄等の付加価値の低い元素を極力酸化してスラグとし、且つコバルト等の有価物は酸化を極力抑制して合金として回収するものである。そして、乾式法により回収した合金は、既存の金属精錬で行なわれているように、例えば酸を添加して溶液化され、溶媒抽出や中和等で分離され、電解採取やガス還元等の湿式法により高純度なメタル或いは金属塩類とされ有価金属が回収される。
【0004】
例えば、特許文献1には、高温の加熱炉を使用し、廃電池にフラックスを添加し、スラグの分離処理を繰り返すことで有価金属であるニッケルやコバルトを80%前後回収できる方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、乾式法の処理工程において、廃電池等を熔融工程内で酸化する場合、酸化されるべき物質が多数あり、処理バッチ毎にばらつきが大きく、毎回同じように各物質について適正な酸化度が得られ難く、安定的に、有価金属が回収できない。
【0006】
そこで、回収率を高めるための手段として、熔融工程に先駆けて廃電池等を焙焼することにより、廃電池等に含有される各種の金属類毎にそれぞれ最適な酸化が進むように、予め酸化処理を行う場合がある。
【0007】
この焙焼による酸化処理には、例えば、トンネルキルンを好適に用いることができる。トンネルキルンでは、廃電池等を、焙焼用容器に入れ、トンネル型の炉の中で焙焼しながら酸化処理を行う。この際、高温での酸化処理によって廃電池等の外装の鉄が、焙焼用容器に付着してしまうことがある。すると、付着した廃電池等を剥離する工程、容器表面に残留した酸化鉄を強酸を用いて洗浄する工程が別途必要となり、又、焙焼用容器の廃棄と交換が必要となる場合も多く、処理コストが増大するという問題が生じていた。
【0008】
焙焼用容器と焙焼による酸化処理の対象である金属複合体との付着を防ぐ方法として、例えば特許文献2には、トンネルキルンの移動床上に、固体炭素を80重量%以上含有する還元剤を積載して、その上に有価金属を含有する金属複合体を載置する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7169206号公報
【特許文献2】特開2011−94206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の方法のように還元剤を移動床上に積載した場合、酸化工程でも還元反応が徐々に進行し、目的とする酸化処理の効率を低下させてしまう。特に廃電池からコバルト等の有価金属を回収しようとする場合には、鉄を酸化して除去し、コバルトを含有する合金と分離する前に余剰となった還元剤を分離しなければならないこと等により、プロセス全体の処理効率は向上せず、還元剤そのもののコストと併せてコストが増大してしまうという問題がある。
【0011】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、有価金属の回収プロセスにおいて、焙焼による金属複合体の酸化処理の処理効率を高め、且つ、プロセス全体に必要となる添加物の総量を節減することにより、従来よりも処理コストの低減が可能な有価金属回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、廃電池等の金属複合体を焙焼して酸化処理を行う際に、金属複合体を載置する焙焼用容器の積載面上に、金属複合体の融点を降下させる効果を備える粒状付着防止剤を積載しておくことにより、焙焼時の金属複合体の容器への付着を防止できること、そして更に、酸化工程に引き続き行われる熔融工程において、付着防止に用いた粒状付着防止剤をフラックスとして利用するプロセスとすることにより、有価金属の回収プロセス全体の処理効率の向上とコスト減少を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 有価金属を含有する金属複合体からの有価金属回収方法であって、前記金属複合体を焙焼して酸化する酸化工程と、前記酸化工程を経た前記金属複合体を熔融して熔融物を得る熔融工程と、前記熔融物から、スラグを分離して、有価金属を含有する合金を回収するスラグ分離工程と、を備え、前記酸化工程は、焙焼用容器の積載面上にフラックスを含有する粒状付着防止剤を積載し、該粒状付着防止剤上に前記金属複合体を載置した状態で、該金属複合体を焙焼して酸化する工程であり、前記熔融工程は、前記酸化工程を経て酸化処理された前記金属複合体と、前記酸化工程においては前記焙焼用容器の積載面上に積載されていた前記粒状付着防止剤の一部又は全部とを、同一の熔融炉に投入して熔融する工程である有価金属回収方法。
【0014】
(2) 前記焙焼用容器がセラミックス製の容器である(1)に記載の有価金属回収方法。
【0015】
(3) 前記粒状付着防止剤が二酸化珪素及び/又は石灰を含有する粒状混合物である(1)又は(2)に記載の有価金属回収方法。
【0016】
(4) 前記粒状付着防止剤が二酸化珪素と石灰の混合物であり、前記粒状付着防止剤中の二酸化珪素(SiO)と石灰(CaO)の重量比(SiO/CaO)が0.5以上1.5以下である(1)から(3)のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【0017】
(5) 前記酸化工程において、1000℃以上1300℃以下の温度で前記金属複合体を焙焼して酸化する酸化処理が行われる(1)から(4)のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【0018】
(6) 前記酸化工程を、トンネルキルンを用いて行なう(1)から(5)のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【0019】
(7) 前記金属複合体がリチウムイオン電池である請求項(1)から(6)のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有価金属回収方法によれば、金属複合体の焙焼による酸化工程と、その後の熔融工程を備える有価金属回収プロセスにおいて、酸化した金属複合体の焙焼用容器への付着を防止することにより、酸化工程の処理効率を高め、更に、有価金属回収プロセス全体のコストを減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の有価金属回収方法の一実施例である、廃電池からの有価金属回収方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の有価金属回収方法における酸化工程に用いるトンネルキルンの使用状態を示す模式図である。
【図3】本発明の有価金属回収方法における酸化工程において焙焼用容器上へ廃電池が積載されている状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の有価金属回収方法の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、有価金属を含有する廃電池等の金属複合体からの有価金属回収方法の一例を示すフローチャートである。廃電池の種類は特に限定されないが、コバルトやリチウムという稀少金属が回収でき、その使用用途も自動車用電池等に拡大されており、大規模な回収工程が必要となるリチウムイオン電池が本発明の処理対象として好ましく例示できる。本実施形態においては、有価金属を含有する金属複合体が、リチウムイオン電池である場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
<全体プロセス>
図1に示すように、この有価金属回収方法は、酸化工程ST20と乾式工程S20と、湿式工程S30とからなる。又、酸化工程ST20に先行して焙焼工程ST10を更に備えるものであってもよい。本実施例における有価金属回収方法は乾式工程S20において合金を得て、その後に湿式工程S30によって有価金属元素を分離回収するトータルプロセスである。尚、本発明における金属複合体とは、処理対象に廃電池等の金属を含んでいればよく、廃電池以外のその他の金属や樹脂等を適宜加えることを排除するものではない。その場合にはその他の金属や樹脂を含めて本発明の金属複合体である。
【0024】
<酸化工程ST20>
まず、図2及び図3を参照しながら、本発明の特徴である酸化工程ST20の詳細について説明する。図2は、酸化工程ST20に用いるトンネルキルン1の使用状態を示す模式図であり、図3は、酸化工程ST20において焙焼用容器20上へ廃電池30が積載されている状態を示す模式図である。本発明における酸化工程ST20は、有価金属を含有する廃電池30を、トンネルキルン1の焙焼炉内で焙焼することによって廃電池30の酸化処理を行う工程である。酸化工程ST20における廃電池30の酸化度については、後の工程であるスラグ分離ST22、合金分離ST23において、有価金属の回収率を高めるために好ましい範囲に調整することが求められる。焙焼炉としては、廃電池を所定範囲の温度で焙焼することが可能な加熱炉を特に限定なく用いることができるが、加熱温度や処理時間の個別且つ厳密な制御によって酸化度の調整が容易であるトンネルキルン1を特に好ましく用いることができる。以下、本発明の一実施形態として、トンネルキルン1を用いて酸化工程ST20を行う場合について説明する。
【0025】
酸化工程ST20においては、廃電池30の材料を構成する主要元素は、酸素との親和力の差により一般的に、アルミニウム>リチウム>炭素>マンガン>リン>鉄>コバルト>ニッケル>銅、の順に酸化されていく。即ちアルミニウムが最も酸化され易く、銅が最も酸化されにくい。酸素との親和力が相対的に低いコバルト、ニッケル、銅の回収率を向上するために、酸化工程ST20においては、酸素との親和力において近接する鉄とコバルトについて、鉄の酸化度を高める一方で、同時にコバルトの酸化を抑制するという厳密な酸化度の調整が求められる。
【0026】
酸化工程ST20においては、廃電池を1000℃以上1300℃以下の温度で焙焼しながら酸素を供給することにより酸化処理を行う。従来の有価金属回収方法においては、乾式工程S20における熔融工程ST21内で酸化処理を行っていたが、熔融工程ST21の前に酸化工程ST20を設け、焙焼による酸化処理を予め行うことにより、酸化時間及び温度の調整等により、酸化度をより厳密に制御できるというメリットがある。酸化処理全体の安定性を阻害することの多いカーボンについても、乾式工程における熔融工程内で酸化処理を行う場合とは異なり、容易に酸化の制御を行うことができる。具体的には、この酸化工程ST20において、カーボンがほぼ全量酸化される程度まで酸化処理を行なう。これにより、次工程の熔融工程ST21におけるカーボンの未酸化によるばらつきを抑えることができ、鉄やコバルトの酸化度をより厳密に調整できる。
【0027】
この酸化工程ST20は、乾式工程S20内で熔融工程ST21を行う前の段階に行うものであり、本実施例においてはトンネルキルン1において行う。リチウムイオン電池の構成材の重量比率では鉄が20%程度、コバルトが20%程度、カーボンが25%、アルミニウムが5%程度を占める。酸化工程ST20ではこのうち、廃電池30中のカーボンを完全に酸化させて焼失させる他、アルミニウムの全量、鉄の70%程度が酸化した状態に相当する酸化状態を最適酸化度として酸化処理を行う。鉄の全量が酸化する点まで酸化が進むと、酸化後の廃電池30を1500℃程度で熔融した際、回収すべきコバルト等のレアメタルがスラグに分配する量が増え、回収率が低下するので好ましくない。一方で鉄の酸化度が小さいと、熔融後に回収される合金中に本来スラグ側に分配されるべき鉄が多く残留してしまうので好ましくない。
【0028】
酸化工程ST20における焙焼温度が1000℃未満であると上記した最適酸化度を得るために必要な時間が長くなり好ましくない。例えば1000℃を少し越えた温度の純酸素雰囲気で酸化処理を行うと、1時間程度で必要な酸化処理が完了するが、900℃において同じ雰囲気で酸化工程ST20を行うと時間は4時間以上必要となる。一方、キルン本体11内の温度が1300℃を超えると、電池構成材である銅箔までが完全に熔融し、円滑な操業の妨げになり、或いは焙焼用容器20やキルン本体11の劣化につながる場合があり好ましくない。このため、酸化工程ST20における焙焼温度は1000℃以上1300℃以下であることが好ましい。
【0029】
尚、酸化工程における酸化処理時間は、定性的には酸素濃度が高く、酸化温度が高いほど、最適酸化度を得るまでに必要となる時間は短くなる。例えば1時間程度に酸化時間を収めるならば、酸素100%雰囲気下では1100℃以上、大気雰囲気下では概ね1200℃が必要となる。許容される設備投資額や要求される処理能力等によって目標の酸化時間は変動するため、これに応じて雰囲気中酸素濃度と酸化温度を制御すればよい。
【0030】
この酸化工程ST20は、廃電池を上記温度範囲で焙焼しながら酸素を供給することによりその内部で酸化処理を行うことが可能な加熱炉を特に限定なく用いることができるが、先に説明した通り、トンネルキルン1を好適に用いることができる。
【0031】
図2に示す通り、トンネルキルン1は、キルン本体11と、搬送手段12と、バーナー13を少なくとも備える加熱炉である。キルン本体11は耐熱性を有する耐火煉瓦等の構造材からなるトンネル形状の管状構造体である。搬送手段12は、例えば金属製のベルトコンベア等であり、高温となるキルン本体11内において廃電池30を搬送可能な機能を備えるものであればよい。バーナー13は、例えばガスバーナー、或いは電熱式のバーナー等であり、酸化処理に必要な所要の温度によって炉内の加熱できるものであればよい。具体的には1000℃〜1300℃程度の加熱が可能であればよい。
【0032】
トンネルキルン1においては、廃電池30を、焙焼用容器20に載置した状態で搬入口14からA方向に向けて搬入する。そして、キルン本体11の内部を搬送手段12によって通過させながら、バーナー13から供給される熱によって廃電池30を焙焼し酸化処理を行う。加熱温度は1000℃〜1300℃であることが好ましい。焙焼による酸化処理を施された廃電池30は排出口15からB方向へ排出され、続く熔融工程ST21が行われる熔融炉へ投入される。
【0033】
図2及び図3に示す通り、本発明の酸化工程ST20おいては、廃電池30を焙焼用容器20の積載面21上に載置した状態で、キルン本体11内に搬入する。その際、図3に示す通り、まず粒状付着防止剤40を焙焼用容器20の積載面21に積載し、積載された粒状付着防止剤40上に廃電池30を載置することにより、廃電池30が積載面21に直接接触しない状態で焙焼を行う。
【0034】
焙焼用容器20は、箱状の容器であるこう鉢、或いはセッターと呼ばれる板状の容器を用いることができるが、いずれも、1300℃程度までの熱負荷に対する耐熱性を備える容器であることが必要であり、ムライトやアルミナ等のセラミックス製の容器を好ましく用いることができる。
【0035】
焙焼用容器20は一連の酸化工程が終わると廃電池30を取り出して、再利用される。この際、酸化された廃電池30の外装の酸化鉄と焙焼用容器20の付着により有価金属回収プロセスの処理効率が低下するという問題があった。特に、焙焼用容器20が二酸化珪素(SiO)を含む酸化物からなる場合に、この問題は顕著であったが、本発明の有価金属回収方法においては、上記の通り、酸化工程ST20における焙焼時に、焙焼用容器20の積載面21に粒状付着防止剤40を積載することにより、上記の付着を防止してこの問題を解決している。そして更に、粒状付着防止剤40を、そのまま、次工程の熔融工程ST21に投入することによりプロセス全体で必要となる添加物の量を節減している。このように、有価金属回収の全プロセスにおける処理効率の向上とコストの低減を実現している点に本発明の特徴がある。
【0036】
粒状付着防止剤40は、次工程である熔融工程ST21における廃電池30の熔融時にその融点を下げる効果を備えるフラックスを含有するものであり、且つ、焙焼温度、即ち具体的には1500℃程度以下の温度で安定なものであればよい。例えば、フラックスとして一般的に用いられることの多い二酸化珪素(SiO)、石灰(CaO)、或いはそれらを含む混合物を粒状付着防止剤40として好ましく用いることができる。
【0037】
粒状付着防止剤40が二酸化珪素と石灰の混合物である場合、粒状付着防止剤中の二酸化珪素(SiO)と石灰(CaO)の重量比(SiO/CaO)は、0.5以上1.5以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.8以上1.4以下である。質量比が0.5未満であると、後の熔融工程ST21におけるスラグの熔融温度を充分に低下させることができないため好ましくない、又、質量比が1.5を超えると熔融スラグの粘性が高くなりすぎて、合金との分離がされにくくなるので好ましくない。
【0038】
尚、熔融工程ST21におけるフラックスの必要量が少なく廃電池30と焙焼用容器20との間の焼き付きを防止するだけの積載量に満たない場合、例えば、砂のように、酸化工程ST20を行なう時点の焙焼温度に対し安定で同時に合金分離ST23において合金に分配されることのない物質を混合したものを粒状付着防止剤40として使用することもできる。
【0039】
焙焼用容器20への粒状付着防止剤40の積載量は、積載時の粒状付着防止剤40からなる層の厚さが、0.2mm以上であることが好ましい。0.2mm以上の厚さがあれば、フラックスは焙焼温度域では安定なので、廃電池30と焙焼用容器20との焼き付きによる付着を十分に防止することができる。又、積載量の上限としては、後の熔融工程ST21で必要となる量を上限として単位容器毎に積載することが好ましい。尚、熔融工程ST21におけるフラックスの必要量が少ない場合、熔融工程ST21に投入する前に、酸化工程ST20を経た粒状付着防止剤40の一部を、酸化工程ST20に繰り返して使用してもよい。
【0040】
上記説明の通り焙焼用容器20上に積載された粒状付着防止剤40の上に載置された廃電池30は、上記の焙焼温度で焙焼されながらキルン本体11内を搬送手段12によって移動してゆく。このとき、廃電池30の酸化度を調整してニッケル、コバルト、銅の回収率を向上するために空気等の酸化剤をキルン本体11内に導入する。例えばリチウムイオン電池の正極材料には、アルミ箔が使用されている。又、負極材料としては、カーボンが用いられている。更に電池の外部シェルは鉄製或いはアルミニウム製である。これらの材質は基本的に還元剤として作用する。このためこれらの材料をガスやスラグ化するトータルの反応は酸化反応になる。そのため、キルン本体11内に酸素導入が必要となる。酸化工程ST20において空気を導入しているのはこのためである。
【0041】
酸化剤は特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体等が好ましく用いられる。これらは酸化工程ST20において直接、キルン本体11内に送り込まれる。尚、酸化剤の導入量については、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度が目安となる。
【0042】
上述の通り、酸化工程ST20を熔融工程ST21に先行して行うことにより、熔融工程ST21内で行う場合に比べて、より厳密な酸化度の調整が可能である。このことにより、廃電池からの有価金属の回収率を安定的に高めることができる。
【0043】
酸化工程ST20の終了後、焙焼用容器20の積載面21に積載されていた粒状付着防止剤40の一部又は全部は、廃電池30とともに熔融工程ST21における熔融処理を行う熔融炉に投入される。例えば、酸化工程ST20により酸化した廃電池30を焙焼用容器20ごと斜めに傾けることにより、廃電池30は焙焼用容器20に付着することなくそのまま落下し、熔融工程ST21における熔融処理を行う熔融炉に簡単に投入することができる。このとき、同時に積載されていたフラックスを含有する粒状付着防止剤40も同様に熔融炉内に落下することとなり、効率よく必要なフラックスの投入を終えることができる。このため、プロセス全体で必要となる添加物の量を節減しつつ、プロセス全体の処理効率を向上させることができる。
【0044】
<焙焼工程ST10>
本発明の有価金属回収方法においては、酸化工程ST20に先行して焙焼工程ST10を設けてもよい。焙焼工程ST10は、有価金属回収方法におけるその他の各工程に先行して行われる前処理工程であり、廃電池30を300℃〜600℃の温度で焙焼することにより、外装のプラスチックケース等由来の有機性炭素を減少させるプロセスである。焙焼時間は特に限定されないが、焙焼工程ST10後の有機物由来の炭素が、焙焼工程ST10前の有機物由来の炭素に対して10質量%以下となるように調整することが好ましい。これにより、後の酸化処理における酸化度のバラツキを抑えることができる。
【0045】
本発明の有価金属回収方法においては、酸化工程ST20に先行してこの焙焼工程ST10を行う場合には、予め粒状付着防止剤40を焙焼用容器20の積載面21に積載し、積載された粒状付着防止剤40上に廃電池30を載置した状態で、焙焼工程ST10を行い、引き続き、粒状付着防止剤40上に廃電池30を載置した状態を保持したまま、酸化工程ST20を行うことができる。そのようにすることによっても、酸化工程ST20における廃電池30の焙焼用容器20への付着を防止し、プロセス全体で必要となる添加物の総量を節減することができる。
【0046】
焙焼工程ST10と酸化工程ST20は、それぞれの工程のために用意した別個の炉内で逐次的に行うことにより、上述の効果を奏するものであるが、両工程は、単一の炉内で連続的に行うことも可能である。例えば単一のトンネルキルン1内に、300℃〜600℃の温度帯と1000℃〜1300℃の温度帯を、それぞれ設けることにより(図示せず)、焙焼工程ST10と酸化工程ST20を単一の加熱炉内において連続的に行うことができる。
【0047】
或いは、トンネルキルン1の炉内を300℃〜600℃に加熱して焙焼工程ST10を行った後、引き続いて炉内を1000℃〜1300℃に昇温加熱して酸化工程ST20を行うことにより単一のトンネルキルン1内におけるバッチ処理として両工程を連続的に行うことも可能である。
【0048】
このように、焙焼工程ST10と酸化工程ST20とを単一の加熱炉内で連続的に行うことにより、別個の炉内で逐次的に行う場合と同様の有価金属の回収率を維持しつつ、設備や工程を削減することによるコストダウンが可能である。
【0049】
尚、先行して行う予備的な処理工程の一例として焙焼工程ST10を挙げたが、焙焼用容器20への粒状付着防止剤40の積載は必ずしも、酸化工程ST20の直前に限られず、上記説明した通り粒状付着防止剤40上に廃電池30を載置した状態で酸化工程ST20を行うことが可能である態様である限り、酸化工程ST20の前に行われるあらゆる予備的工程において予め焙焼用容器20への粒状付着防止剤40の積載を行った場合であっても本発明の範囲である。
<乾式工程S20>
乾式工程S20においては、酸化工程ST20で酸化された廃電池30を1500℃〜1650℃程度の熔融温度で熔融する熔融工程ST21を行う。熔融工程ST21は従来公知の電気炉等で行うことができる。
【0050】
本発明の有価金属回収方法においては、酸化工程ST20において、予め酸化処理を行うため、従来のように乾式工程において熔融した廃電池に酸化処理を行う必要はない。
【0051】
ただし、酸化工程ST20における酸化が不足している場合や、その他、酸化度の調整が必要な場合には、熔融工程ST21において、微小時間の追加酸化処理を行う追加酸化工程を設けることができる。この追加酸化工程により、より微細に適切な酸化度の制御が可能となる。又、追加酸化工程は、従来の熔融時の酸化処理と比較して微少な時間で行うことができるため作業効率への悪影響は少なく、又、ランスの消耗も少なくて済むのでコストアップの問題も生じにくい。
【0052】
熔融工程ST21では、後述するスラグ分離ST22で分離されるスラグの融点低下のためにSiO(二酸化珪素)及びCaO(石灰)等をフラックスとして添加することが望ましい。本発明の有価金属回収方法においては、先に説明した通り、先行する酸化工程ST20において、焙焼用容器20と廃電池30の付着防止のために用いたフラックスを含む粒状付着防止剤40を、そのまま、熔融工程ST21を行う熔融炉に投入することによって、上記スラグの融点を低下させることができる。
【0053】
熔融工程ST21によって、鉄やアルミニウム等の酸化物であるスラグと、有価金属たるニッケル、コバルト、銅の合金とが生成する。両者は比重が異なるために、それぞれスラグ分離ST22、合金分離ST23でそれぞれ回収される。このとき、スラグ中の酸化アルミニウムの含有量が相対的に多いと高融点で高粘度のスラグとなるが、上記のように熔融工程ST21においてスラグの融点低下のためにSiO及びCaOを添加しているために、スラグの融点低下による低粘性化を図ることができる。このためスラグ分離ST22を効率的に行なうことができる。尚、熔融工程ST21における粉塵や排ガス等は、従来公知の排ガス処理ST24において無害化処理される。
【0054】
熔融工程ST21は、複数回の熔融工程を繰り返し行うプロセスとし、それぞれの工程において熔融温度等の処理条件を調整することによって酸化度をコントロールして、段階的に個々の金属の分離を行うようにすることもできる。例えば、第1回目の熔融工程後に有価金属たるニッケル、コバルト、銅と、有価金属ではない鉄を含有する第1の合金を分離し、更に、第2回目の熔融工程で鉄をスラグ側に分離し、有価金属たるニッケル、コバルト、銅を含有する第2の合金とを回収することにより有価金属の回収率を高めることができる。
【0055】
合金分離ST23を経た後、更に得られた合金に脱リン工程ST25を行なう。リチウムイオン電池においては、有機溶剤に炭酸エチレンや炭酸ジエチル等、リチウム塩としてLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)等が電解質として使用される。このLiPF中のリンは比較的酸化され易い性質を有するものの、鉄、コバルト、ニッケル等鉄族元素との親和力も比較的高い性質がある。合金中のリンは、乾式工程S20で得た合金から各元素を金属として回収する後工程の湿式工程S30での除去が難しく、不純物として処理系内に蓄積するために操業の継続ができなくなる。このため、この脱リン工程ST25で除去する。具体的には、反応によりCaOを生じる石灰等を添加し、空気等の酸素含有ガスを吹き込むことで合金中のリンを酸化してCaO中に吸収させることができる。
【0056】
このようにして得られる合金は、廃電池30がリチウムイオン電池の場合、正極材物質由来のコバルト、ニッケル、電解質由来のリチウム、負極材導電物質由来の銅等が成分となる。
【0057】
本実施形態においては乾式工程S20の最後に合金ショット化工程ST26を行う。この工程では、合金を冷却してこれを粒状物(ショット化合金又は単にショットとも言う)として得る。これにより、後の湿式工程S30における溶解工程ST31を短時間で行なうことができる。
【0058】
後述するように、乾式工程S20を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに湿式工程S30に投入する処理量も大幅に減らすことで、乾式工程S20と湿式工程S30とを組み合わせることが可能である。しかしながら、湿式工程S30は基本的に大量処理に向かない複雑なプロセスであるので、乾式工程S20と組み合わせるためには湿式工程S30の処理時間、なかでも溶解工程ST31を短時間で行なう必要がある。その問題については、合金を粒状物化することによって溶解時間を短縮することができる。
【0059】
ここで、粒状物とは、表面積で言えば平均表面積が1mmから300mmであることが好ましく、平均重量で言えば0.4mgから2.2gの範囲であることが好ましい。この範囲の下限未満であると、粒子が細かすぎて取り扱いが困難になること、更に反応が早すぎて過度の発熱により一度に溶解することができ難くなるという問題が生じるので好ましくなく、この範囲の上限を超えると、後の湿式工程での溶解速度が低下するので好ましくない。合金をショット化して粒状化する方法は、従来公知の流水中への熔融金属の流入による急冷という方法を用いることができる。
【0060】
<湿式工程S30>
廃電池からの有価金属回収プロセスは、特許文献1のように合金として回収したままでは意味がなく、有価金属元素として回収する必要がある。廃電池を乾式工程S20で予め処理することによって、上記のような有価金属のみの合金とすることで、後の湿式工程S30を単純化することができる。このとき、この湿式工程S30での処理量は投入廃電池の量にくらべて質量比で1/4から1/3程度まで少なくなっていることも湿式工程S30との組み合わせを有利にする。
【0061】
このように、乾式工程S20を広義の前処理とすることで不純物の少ない合金を得るとともに処理量も大幅に減らすことで、乾式工程S20と湿式工程S30とを組み合わせることが工業的に可能である。
【0062】
湿式工程S30は従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。一例を挙げれば、廃電池がリチウムイオン電池の場合の、コバルト、ニッケル、銅、鉄からなる合金の場合、酸溶解(溶解工程ST31)の後、脱鉄、銅分離回収、ニッケル/コバルト分離、ニッケル回収及び、コバルト回収という手順で元素分離工程ST32を経ることにより有価金属元素を回収することができる。
【0063】
<処理量>
従来、乾式工程と湿式工程を組み合わせたトータルプロセスにおいては、乾式工程において、廃電池を熔融した状態で酸化処理を行っていたため、酸化処理における酸化度を適切に調整するために、乾式工程内の熔融工程は、溶炉内で同時に処理する全ての廃電池の酸化処理を終えてから、改めて次の工程を最初から開始するというバッチ処理とする必要があった。本発明の有機金属回収方法によれば、予め酸化工程ST20によって酸化処理を終えた廃電池を連続的に熔融炉に投入することにより、乾式工程において廃電池を連続的に処理できるため、従来より大量の処理が可能である。少なくとも1日あたり1t以上、好ましくは1日あたり10t以上である場合に本発明を好適に使用できる。
【0064】
廃電池の種類は特に限定されないが、コバルトやリチウムという稀少金属が回収でき、その使用用途も自動車用電池等に拡大されており、大規模な回収工程が必要となるリチウムイオン電池が本発明の処理対象として好ましく例示できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<実施例1>
18φ×65mm長のサイズのリチウムイオン電池の廃電池(18650タイプ:以下「試料」と言う)6本を用意し、予め600℃で30分で焙焼した。そして、内径が150mm角で深さ40mmのサイズのアルミナとシリカからなるムライト製の焙焼用容器であるセッター(以下単にセッターと言う)上に、粒径が1mm以下になるように粉砕したCaO粉を約5g均一に積載し、積載したCaO粉の層上に上記の焙焼後の試料を載置した。次に、空気雰囲気のトンネルキルン内にセッターを搬入し、1200℃で30分保持させて酸化処理を行った。
【0067】
上記酸化処理により得られた試料をセッターごと斜めに傾けると、試料はセッターには付着せずにそのままセッターから落下した。同時に積載されていたCaO粉も落下した。一方、セッター上には反応や試料が焼き付いた跡は見られなかった。
【0068】
<実施例2>
実施例1と同じ条件で焙焼した焙焼後の試料6本を、実施例1と同じ条件で酸化処理を行い、実施例1と同じ条件でセッターに積載し、更に、酸化処理後の試料をセッターごと斜めに傾ける試験を8回繰り返して試行した。尚、CaO粉については、1回毎にセッターに再添加した。
【0069】
上記試験の結果、7回目までの試行まで、試料はセッターには付着せずにそのまま落下した。8回目の試行で1本がセッターに付着したままとなった。
【0070】
<比較例>
実施例1と同じ焙焼後の試料6本を、セッター上にCaOを積載しなかったこと以外は、実施例1と同一条件で酸化処理を行った。
【0071】
酸化処理後の試料をセッターごと斜めに傾けると、試料は6本のうち2本がセッターに付着したままであった。セッター上には反応の跡がはっきりと認められた。
【0072】
実施例1、2及び比較例から、フラックスを焙焼用容器上に積載し、廃電池をその上に置くことで、廃電池の焼き付きによる付着が防止でき、焙焼用容器の再利用によるコストダウンが可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0073】
ST10 焙焼工程
ST20 酸化工程
S20 乾式工程
ST21 熔融工程
ST22 スラグ分離
ST23 合金分離
ST24 排ガス処理
ST25 脱リン工程
ST26 合金ショット化工程
S30 湿式工程
ST31 溶解工程
ST32 元素分離工程
1 トンネルキルン
11 キルン本体
12 搬送手段
13 バーナー
14 搬入口
15 排出口
20 焙焼用容器
30 廃電池
40 粒状付着防止剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属を含有する金属複合体からの有価金属回収方法であって、
前記金属複合体を焙焼して酸化する酸化工程と、
前記酸化工程を経た前記金属複合体を熔融して熔融物を得る熔融工程と、
前記熔融物から、スラグを分離して、有価金属を含有する合金を回収するスラグ分離工程と、を備え、
前記酸化工程は、焙焼用容器の積載面上にフラックスを含有する粒状付着防止剤を積載し、該粒状付着防止剤上に前記金属複合体を載置した状態で、該金属複合体を焙焼して酸化する工程であり、
前記熔融工程は、前記酸化工程を経て酸化処理された前記金属複合体と、前記酸化工程においては前記焙焼用容器の積載面上に積載されていた前記粒状付着防止剤の一部又は全部とを、同一の熔融炉に投入して熔融する工程である有価金属回収方法。
【請求項2】
前記焙焼用容器がセラミックス製の容器である請求項1に記載の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記粒状付着防止剤が二酸化珪素及び/又は石灰を含有する粒状混合物である請求項1又は2に記載の有価金属回収方法。
【請求項4】
前記粒状付着防止剤が二酸化珪素と石灰の混合物であり、前記粒状付着防止剤中の二酸化珪素(SiO)と石灰(CaO)の重量比(SiO/CaO)が0.5以上1.5以下である請求項1から3のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【請求項5】
前記酸化工程において、1000℃以上1300℃以下の温度で前記金属複合体を焙焼して酸化する酸化処理が行われる請求項1から4のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【請求項6】
前記酸化工程を、トンネルキルンを用いて行なう請求項1から5のいずれかに記載の有価金属回収方法。
【請求項7】
前記金属複合体がリチウムイオン電池である請求項1から6のいずれかに記載の有価金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−64177(P2013−64177A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203269(P2011−203269)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】