説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法

【課題】有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する際に、品質基準を満たさないものが発生した場合でも簡便な方法で基材及び基板を再生することができるため製造コストを抑えられた有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材と、基材上に形成された第1の電極と、第1の電極上に形成された有機発光層を含む機能層と、機能層上に形成された第2の電極と、を備え、機能層中に、剥離液に可溶であり、かつ、剥離液に不溶な面上に形成された剥離層を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)素子及びその製造方法に関する。特に、製造コストを抑えた有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の基材には、透過率などの光学特性や、平坦性や平滑性、耐久性などが優れ、熱膨張率も小さい高価な高機能ガラス、例えば無アルカリガラスが用いられている。最近では、光学特性や平滑性などに優れたフィルムも有機EL素子の基材として用いられることがあるが、このフィルム基材もガスバリア性を付加するための加工が施されているため高価となる。
【0003】
また、アクティブマトリクス駆動の有機EL素子では、基材上に薄膜トランジスタ(TFT)回路等の機能層を形成したもの(以下、「基板」という。)を用いる。基材に付加価値が付くため、この基板は更に高価な物となる。
【0004】
一方、有機EL素子の高機能化に伴い、それに求められる品質基準も高くなってきている。例えば、高精細化が進みパネル中の画素サイズが小さくなっているため、異物の影響が大きくなる他、主に低分子系で実施されている蒸着プロセスにおいては、たわみなどによるマスクのずれの許容範囲が狭くなり、また、主に高分子系で実施されている印刷プロセスにおいては、インクジェット法や凸版印刷法などでの塗布位置精度や塗布量の精度の許容範囲が狭く成ってきている。そのため、歩留まりを向上させる様々な工夫が成されているが、どうしても品質基準を満足しない部材が発生してしまう。
【0005】
また、積層化も進んでおり、高分子に代表される塗布型でも正孔輸送層、インターレイヤ層、有機発光層が1対の電極間に積層されることが多い。低分子に代表される蒸着型では、更に各層の役割を細かく分け一層の多層により構成されることが多い。
【0006】
ここで、1対の電極間に挟まれた箇所に形成される有機発光層を含む部位を有機EL層という。また、基材以外の有機EL素子の構成要素を機能層という。
【0007】
これら機能層のどこかに欠陥があった場合、その欠陥がある画素は満足な発光特性を示さない。この事が更に歩留まり向上を阻害している。
【0008】
以上のことから、品質基準を満足しない有機EL素子から、高価な基材、基板を再生し、コストの低減を図るための様々な方法が提案されている。
【0009】
この基材、基板の再生方法としては、例えば、特許文献1及び2には、基板上に形成された機能層を酸やアルカリ溶液にて溶解させる方法が開示されている(特許文献1及び2参照)。また、特許文献3には、ブラシの機械摩擦により剥離する方法が開示されている(特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法では、酸やアルカリの化学液を使用するので、基板表面にて化学反応が起きて変質層を生じさせてしまう可能性や化学液の管理も煩雑である。また、特許文献3の方法では、ブラシの物理的な接触により基板表面に疵を与えてしまう可能性がある。
【0011】
以上の問題を解決するために、特許文献4には、基材上の導電性金属酸化物を電気化学的に溶解させる方法が開示されている(特許文献4参照)。特許文献4に記載の方法では、基材の化学反応や物理的接触による疵発生による劣化を防ぐことはできるが、最表面に導電性金属酸化物が存在しないと適応できない上に、電解液塗布装置や電極などを備えた特殊な装置を準備する必要がある。更には、再利用したい基板上に薄膜トランジスタが形成されている場合には、そのトランジスタまで破壊してしまう恐れがある。
【0012】
上述した基板再生方法の他に、例えば、特許文献5及び6には、欠陥が有る箇所のみを修復若しくは破壊して、品質基準を満たすようにする方法が多数開示されている(特許文献5及び6参照)。特許文献5及び6の方法では、欠陥箇所が少なければ有効であるが、欠陥箇所が多数存在する場合には時間がかかるうえ、修復後の品質も期待できなくなってしまう。
【特許文献1】特許第2538500号
【特許文献2】特開2003−262717号公報
【特許文献3】特開平9−86968号公報
【特許文献4】特開2007−107025号公報
【特許文献5】特開2004−227852号公報
【特許文献6】特開2000−173474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する際に、品質基準を満たさないものが発生した場合でも簡便な方法で基材及び基板を再生することができるため製造コストを抑えられた有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、基板上に剥離液に可溶な剥離層を設置し、適宜その剥離層を溶解させることにより簡便な方法で基材及び基板を再生できることを見いだした。
【0015】
本発明の請求項1に係る発明は、基材と、基材上に形成された第1の電極と、第1の電極上に形成された有機発光層を含む機能層と、機能層上に形成された第2の電極と、を備え、機能層中に、剥離液に可溶であり、かつ、剥離液に不溶な面上に形成された剥離層を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0016】
本発明の請求項2に係る発明は、機能層には、電荷輸送層とインターレイヤ層とを有し、剥離層は電荷輸送層とインターレイヤ層の間に挟まれて存在することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0017】
本発明の請求項3に係る発明は、剥離層はpH6乃至pH8の水溶液で溶解する層であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0018】
本発明の請求項4に係る発明は、剥離液が純水であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0019】
本発明の請求項5に係る発明は、剥離層が金属酸化物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0020】
本発明の請求項6に係る発明は、剥離層が導電性高分子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0021】
本発明の請求項7に係る発明は、有機発光層は複数色の画素から構成され、剥離層は画素を跨って被覆することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0022】
本発明の請求項8に係る発明は、剥離液に不溶な面が、第1の電極面であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子としたものである。
【0023】
本発明の請求項9に係る発明は、基材の上に第1の電極を形成し、第1の電極上に、剥離層及び有機発光層を含む機能層を形成し、機能層に欠陥が見受けられた場合に、剥離層を剥離液に溶かすことにより剥離層以降に形成された層を剥離することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0024】
本発明の請求項10に係る発明は、剥離液がpH6乃至pH8の水溶液であることを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0025】
本発明の請求項11に係る発明は、剥離液が純水であることを特徴とする請求項9または10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0026】
本発明の請求項12に係る発明は、剥離層を剥離液に溶かす際に、剥離液を加熱することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0027】
本発明の請求項13に係る発明は、剥離層を剥離液に溶かす際に、剥離液に超音波をかけることを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【0028】
本発明の請求項14に係る発明は、剥離層を剥離液に溶かすことにより剥離層以降に形成された層を剥離した後、再度機能層を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としたものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する際に、品質基準を満たさないものが発生した場合でも簡便な方法で基材及び基板を再生することができるため製造コストを抑えられた有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態に係る有機EL素子及びその製造方法について、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、以下の実施の形態においては、同一構成要素には同一の符号を付し、実施の形態間において重複する説明は省略する。
【0031】
(有機EL素子の素子構成)
図1及び図2は、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100は、基材101、回路層102、第1の電極層102a、隔壁103、有機EL層104、第2の電極層105、封止部106、機能層107及び剥離層110を備えている。図2に示す有機EL素子100は、剥離層110を有機EL層104の電荷輸送層104a上に形成したことが図1に示す有機EL素子100との違いである。ここで、1対の電極間に挟まれた箇所に形成された、有機発光層を含む部位を有機EL層104といい、基材101以外の有機EL素子100の構成要素を機能層107という。
【0032】
本発明の実施の形態に係る有機EL素子100の基材101としては、平坦性や平滑性、耐久性などが優れ、熱膨張率も小さく、ガスバリア性も高いものが用いられる。また、ボトムエミッション型の有機EL素子を作製する場合、基材101には透過率などの光学特性も高い物が用いられる。基材101の材料としては、例えば無アルカリガラスやPENフィルムにガスバリア性を付加させるためにSiON等の無機化合物膜をスパッタリング法などで成膜したものが用いられる。
【0033】
本発明の実施の形態に係る有機EL素子100の回路層102としては、有機EL素子100の駆動を制御するために、駆動に必要なキャリアを運ぶTFT回路や電気配線や電極が含まれる。すなわち、回路層102には、パッシブマトリクス型の有機EL素子であれば第1の電極層102aが形成され、アクティブマトリクス型の有機EL素子であればさらにTFT回路や電気配線が形成される。回路層102に用いられるキャリアを運ぶための材料としては、剥離液に対し不活性で導電性を示す物であれば特に制限はないが、透明性又は半透明の電極を形成できるインジウムと錫との複合酸化物(以下、ITOという)、インジウムと亜鉛との複合酸化物(以下、IZOという)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等がある。その中でも、低抵抗であること、対溶剤性があること、透明性があること等から特にITOを好ましく用いることができ、基材101上に真空蒸着法またはスパッタリング法により成膜することができる。あるいは、金属としてアルミニウム、金等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0034】
また、回路層102側から発光した光を取り出す必要が無ければ回路層102は透光性である必要は無く、Mg、Al、Yb、Ba、Ca等の金属単体を用いたり、発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いたりすることができる。また、電気注入効率と安定性とを両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。また、回路層102には、回路層102同士または他の層との電気的絶縁を図るためにSiNx等から成る絶縁層や、それらの凹凸を低減するための平坦化層を設けても良い。平坦化層の素材としては、例えばノボラック樹脂やアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等の絶縁性を有する材料を用いることができる。
【0035】
なお、回路層102の中でも特に有機EL層104に隣接、若しくは剥離層110を挟んで有機EL層104に接する箇所には、有機EL層104に電荷を供給する為の第1の電極102aが設置される。
【0036】
また、回路層102の上部に、第1の電極102aの縁を隠したり各画素間を仕切ったりするための隔壁103を設けても良い。隔壁103の素材としては、例えばノボラック樹脂やアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等の絶縁性を有する材料を用いることができる。
【0037】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100では、機能層107中に剥離層110が形成されている。図1に示すように、剥離層110を回路層102上に形成しても良いし、図2に示すように、剥離層110を有機EL層104の一層としても良い。ここで、本発明の実施の形態において、「可溶」、「溶ける」及び「溶解」という表現は、溶媒和やミセル・エマルジョン形成という一般的に言う溶解が起き得る事だけに限定されず、例えば超音波洗浄などのブラシ洗浄に比較して温和な条件での物理洗浄にて剥離することも含めるものとする。例えば、ポリフルオレン誘導体の薄膜をガラス基材101上に塗布により形成した場合、この誘導体は水には溶けないが、超音波洗浄によりガラス基材101から容易に剥離する。本発明の実施の形態においては、このポリフルオレン誘導体も水に可溶と定義し、耐水性は無い物として取り扱う。
【0038】
さらに、剥離層110は、剥離する有機EL素子100の表面全面に形成されていることが好ましい。これは有機EL層104がパターニングされて非連続に形成されている場合にも、剥離層110は連続して形成されているため、剥離を容易にできる。例えばカラーディスプレイ用の有機EL素子100の場合、少なくとも有機発光層は複数色の画素で構成されている。剥離層110が有機発光層よりも下層に形成されている場合、有機発光層に阻害されることなく剥離層110及び上層に位置する層を剥離することができる。なお、有機EL素子100の表面全面に形成されているとは、例えば図1のように隔壁103が形成されている場合には隔壁103上にも剥離層110が形成され、剥離層110が画素を跨って被覆されていることを意味する。
【0039】
また、剥離層110を形成する直下の層は、剥離層110を溶解させる剥離液に対して耐溶剤性を有する必要がある。つまり、剥離層110に接する下層の表面が剥離液に不溶であれば、剥離層110よりも上の層だけが剥離され、下層は剥離しない。図1に示すように、回路層102の上部に剥離層110を設ける場合には、回路層102に用いる素材は、剥離層110を溶解させる剥離液に対して耐溶剤性を有する物を使用しなければならない。
【0040】
ここで、基材101と剥離層110との間に機能層107が有る場合において、基材101及び機能層107が剥離層110を溶解させる剥離液に対して不活性であれば、剥離層110よりも先に形成された層を残したまま再生可能となる。回路層102が薄膜トランジスタを含む場合には、それを損なうことなく再生利用が可能となる。
【0041】
剥離層110を可溶な剥離液としては、剥離層110よりも先に形成された基材101及び機能層110を劣化させる恐れのある液、例えば強酸や強アルカリ溶液でなければ特に限定はされず、剥離層110を効率的に溶解する物であれば良い。例えば、基材101や基材101と剥離層110との間にある機能層107が有機溶媒に不溶な無機物であり、且つ、剥離層110が導電性高分子であり、その導電性高分子が有機溶媒に可溶である場合には剥離液として有機溶媒を用いることができる。
【0042】
回路層102は、必要に応じてエッチングによりパターニングを行う、またはUV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0043】
この回路層102の上部に有機EL層104が積層されるが、図2に示したように回路層102と有機EL層104との間に剥離層110を設置してもよい。この部位に剥離層110を設けることで、基材101と回路層102とを含む基板が再生可能となる。
【0044】
回路層102と有機EL層104との間に剥離層110を設置する場合、剥離層110としては電荷輸送を行えるものであれば適宜選択して用いることが好ましい。ここで言う電荷輸送を行えるものというのは、一般的な導電性材料に限らず、有機EL素子100に組み込んでも有機EL素子100が駆動できるものであればよい。例えば、CMOS等のトランジスタでは、トランジスタで使用される絶縁膜の厚さが極薄くなると、トンネル効果により電子が絶縁膜を通り抜ける現象が確認されているが、本発明の実施の形態においても、この様な絶縁体の極薄膜も電荷輸送を行えるものと定義し、剥離層110に用いて良い。
【0045】
回路層102と有機EL層104との間に設置される剥離層110として用いられる材料としては、例えば導電性有機材料や金属、金属酸化物などが挙げられる。ただし、例えば、次に形成される有機EL層104をウェットプロセスにて形成する場合には、そこで用いる溶媒に対して耐溶剤性のある材料を剥離層110に用いる必要がある。
【0046】
剥離層110を溶解させるための剥離液としては、剥離層110の材質や有機EL素子100の製造プロセスに合わせて適宜選択することができる。従って、有機溶媒でも水でもそれらを溶媒とした溶液でも構わない。ただし、火災や薬傷、中毒の危険性や、剥離液の購入や使用済み剥離液の処理にかかるコスト等を考慮すると、水若しくは水溶液を使用することが好ましい。更には、強い酸性や塩基性を示す剥離液は、背景技術にて述べたように基板表面にて化学反応が起きて基板(基材101と回路層102)の表面に変質層を生じさせてしまう可能性があり、化学液の管理も煩雑であるため、水若しくはpH6乃至pH8のほぼ中性の水溶液、例えば中性洗剤の水溶液を使用することが好ましい。
【0047】
水若しくはpH6乃至pH8のほぼ中性の水溶液にて可溶であり、且つ回路層102と有機EL層104との間に設置される剥離層110として用いられる材料としては、例えば、PEDOT:PSS等の水溶性高分子材料や、ZnO、BaO、MoO、CaO、BaO、Sb、Gd、SnO、V、Eu、RuO、GeO、Bなどの水に可溶な金属酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの水と反応し溶解する金属が挙げられる。
【0048】
回路層102と有機EL層104との間に設置される剥離層110の厚みは、有機EL素子100が駆動できれば特に限定されないが、非常に薄いと回路層102を十分に被覆出来ない恐れがあるため、1nm以上である事が好ましい。
【0049】
本発明の実施の形態に係る有機EL層104には、単層若しくは複数の機能性の層を積層させてもよい。有機EL素子100の場合では、陽極(第1の電極層102a)及び陰極(第2の電極層105)の電極間に少なくとも有機発光層を設ける必要があるが、その他にも機能層107として正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の電荷輸送層104aを設けることができ、その構成は任意である。
【0050】
機能層107の厚みは任意であるが、薄すぎると短絡が起き易くなり、厚すぎると素子全体の抵抗が高くなるため、総膜厚としては50nm〜1000nmであることが好ましい。
【0051】
主に回路層102に隣接、若しくは剥離層110を介して回路層102の上部に設けられる電荷輸送層104aに用いる材料としては、電荷輸送を行えるものであれば良く、例えば銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル―N,N’−ビス(3−メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン、N,N’―ジ(1―ナフチル)―N,N’―ジフェニル−1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子や、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、PEDOT:PSS等の高分子材料、若しくはポリスチレンなどの高分子に電荷輸送性を示す低分子を混合した物、ZnO、TiO、SnO、Al、In、SiO、MgO、BaO、MoO、NiO等の導電可能な金属酸化物や半透明な薄膜状態の金属等を用いることができる。
【0052】
この電荷輸送層104aに溶剤に可溶な物を用いることで、この層を剥離層110として用いることができる。例えば、電荷輸送可能な低分子や一部のポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリスチレンなどの高分子は有機溶媒に可溶であるし、PEDOT:PSSは水に可溶である。また、ZnO、BaO、MoO等の金属酸化物も水に難溶ではあるが可溶であるため剥離層110として用いることができる。ただし、剥離層110を基板全面に形成する場合には、隣接する画素同士での漏れ電流が起こらないようにする必要がある。例えば、画素間に隔壁103を設け、隣接する画素に電流が流れにくくしたり、電荷輸送層104aの厚みや導電率を適宜選択し漏れ電流が起こらないようにしたりするとよい。
【0053】
また、この電荷輸送層104aと有機発光層との間に剥離層110を設けても良い。この剥離層110としては、電荷輸送層104aに用いられる材料を使用できる。ただし、電荷輸送層104a及び基材101までの部材に対し不活性な溶媒に、剥離層110が可溶と成るような組み合わせとする必要がある。例えば、基材101から電荷輸送層104aまでは水に不溶な材質で構成されている場合であれば、剥離層110としては水溶性を示すPEDOT:PSSや、水に可溶なZnO、BaO、MoO等の金属酸化物、水と反応して剥離する金属を用いることができる。または、基材101から電荷輸送層104aまでは例えばトルエンなどの芳香族溶媒に不溶な材質で構成されている場合であれば、剥離層110としては芳香族溶媒に可溶な有機材料を使用できる。
【0054】
有機EL素子100における有機発光層に用いる発光体としては、例えばクマリン系、ペリレン系、ピレン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素や、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の導電可能な高分子中に低分子発光性色素を溶解若しくは高分子に共重合させたものを用いることができる。
【0055】
有機発光層を剥離層110として用いることもできる。ただし、有機発光層に用いる材料は主に有機溶媒にのみ可溶である場合が多く、電荷輸送層104a及び基材101に耐有機溶剤性がある物を選択しておく必要がある。従って、電荷輸送層104aにはPEDOT:PSSや水溶性のポリアニリン誘導体を除く、ほとんどの有機化合物が選択できなくなる。実際には、再生処理及びその後の保管を経た有機膜の物性に全く劣化が起きないようにするのは困難であるため、この場合には電荷輸送層104aには金属及び金属酸化物しか選択できない。また、基材101にフィルムを使用する場合には、そのフィルムの耐溶剤性も考慮に入れる必要がある。
【0056】
有機EL層104を構成する層として、図示しないが、電荷輸送層104aと有機発光層との間に、インターレイヤと呼ばれる層を設けても良い。インターレイヤ層に用いる材料としては、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子材料や、これらの高分子材料に芳香族アミンなどの低分子を混ぜた物を用いることができる。有機発光層を塗布により形成する場合、このインターレイヤ層は有機発光層との混色を避けるため、インターレイヤ層の成膜後、有機発光層の形成前に、加熱処理により不溶化されることが多い。
【0057】
図示しないが、第2の電荷輸送層を、有機発光層の上に積層しても良い。この場合、第2の電荷輸送層には先に成膜した電荷輸送層104aとは正負逆の電荷が流れるような材料を選択する必要がある。
【0058】
この第2の電荷輸送層を剥離層110とすることができるが、それ以前に成膜する層の耐溶剤性に関する制約が厳しくなる。
【0059】
次に、有機発光層若しくは第2の電荷輸送層の上に、第2の電極層105を形成する。第2の電極層105としては、透明性又は半透明の電極を形成可能なインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)、インジウムと亜鉛の複合酸化物(以下IZOという)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等がある。その中でも、低抵抗であること、対溶剤性があること、透明性があること等からITOを好ましく用いることができ、基材101上に真空蒸着法またはスパッタリング法により成膜することもできる。あるいは、金属としてアルミニウム、金等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができるし、また、第2の電極層105から光を取り出さないのであれば透光性である必要は無いため、Mg、Al、Yb、Ba、Ca等の金属単体を用いたり、発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いたりすることができる。または、電気注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。陰極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電気ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。第2の電極層105の厚さは、10nm〜5000nm程度が望ましい。
【0060】
これらの有機EL層104を外部の酸素や水分から保護するために、封止部106として、ガラスキャップと接着剤とを用いて密閉封止し、有機EL素子100を得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止し、有機EL素子100を得ることができる。
【0061】
以上に述べた有機EL素子100の層の他に、図示していない色補正のためのカラーフィルタや、光の取り出し効率を向上させるための屈折率を制御する部位などが有っても構わない。また、これらの部位も有機EL素子100の機能層107であるため、適宜剥離層110を用いて剥離できるようにしても良い。
【0062】
上述した各層の形成方法としては、目的に合わせ適宜自由に選択することができる。例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等のドライプロセスや、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法といったコーティング法や、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法、若しくはそれらとフォトリソグラフィとの組み合わせ等によるウェットプロセスなどが選択肢として挙げられる。
【0063】
以上、上述したように、本発明の実施の形態に係る剥離層110は有機EL素子100のどの箇所に挟んでも良いし、また、有機EL層104などの他の機能層107と兼用としても良い。ただし、基材101から離れ、他の層が多数積層されていけば行くほど、その後に積層される剥離層110の剥離液の選択が難しくなる。また、剥離層110の形成前に形成されたものに欠陥がある場合には、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100の再生の対象外となる。従って、本発明の実施の形態に係る剥離層110を形成する部位は、有機EL素子100の製造工程の中でどこの層までを再生するとコスト的に有益か、どの工程にて欠陥が生じる可能性が高いかということを十分に考慮して選択することが好ましい。例えば、有機EL層104の形成時に欠陥が多く発生するのであれば、図2に示したように回路層102及び隔壁103までを再生可能とする事が好ましい。特に、有機EL層104として有機化合物より成る層を形成する前に剥離層110を形成した場合は、有機化合物を含む基板の保管に比べ、再生後の基板の保管も容易となる。
【0064】
(剥離層110の溶解)
次に、本発明の実施の形態に係る有機EL素子100の製造工程について、図3に示すフロー図を参照して説明する。
【0065】
図3に示すように、有機EL素子100は、まず、工程201において、基材101を準備し、工程202において、基材101上に電極102aを含む回路層102、隔壁103を形成する。ここで、基材101、回路層102及び隔壁103を基板という場合がある。
【0066】
次に、工程203において、形成した基板に欠陥検査を行う。基板の欠陥検査を行った結果、欠陥がある場合には、工程208において、基板を廃棄し、欠陥がない場合には、工程204において、回路層102上に剥離層110を形成する。
【0067】
次に、工程205において、剥離層110上に有機発光層を含む機能層107(ただし、機能層107のうち剥離層110以外の部分をいう。)を形成し、工程206において、形成した機能層107の欠陥検査を行う。機能層107の欠陥検査を行った結果、欠陥がある場合には、工程209において、剥離層110を溶かし、剥離することで再生することが可能となる。例えば、回路層102の上部に隣接して、水溶性の金属酸化物よりなる剥離層110兼電荷輸送層104aが形成され、その上に有機発光層をインクジェット法で形成した場合において、その有機発光層にインクジェットのノズル詰まりに由来する筋欠陥が多数見受けられれば、この基板は本発明の実施の形態に係る基板再生方法に従い再生され、再び電荷輸送層104aの形成工程に回されることとなる。この再生工程は、次の第2の電極層105の形成や封止部106の形成の工程を経ずに行っても良いし、また、剥離層110が基板全面にわたり形成されていれば、第2の電極層105の形成後若しくは封止部106の形成後に実施しても良い。
【0068】
次に、工程210において、欠陥がある基板を剥離液にて洗浄する。洗浄の方法としては、一般的に用いられている基板洗浄法がそのまま利用できる。例えば、剥離液に基板を浸漬し放置したり、スプレーなどの吐出方法を用い基板に剥離液を吹きかけたりしても良い。また、その際に剥離液に超音波をかけたり剥離液を加熱したりして、剥離の効率を高めても良い。
【0069】
また、剥離層110を溶かし、剥離層110上に形成された層を基板より除去した後に、基板を適切な方法で洗浄することが好ましい。その方法としては、剥離層110の形成前に行っている洗浄法と同じ方法を用いることができるし、また、不純物を含まない剥離液にてリンスを行ってもよい。例えば剥離液が中性洗剤の水溶液であった場合には、剥離工程後に基板を純水でリンスすることが好ましい。また、再度剥離層110を形成する前に、UV光照射やプラズマ照射、オゾン接触等により、基板表面を洗浄してもよい。
【0070】
次に、工程211において、洗浄した基板を保管し、工程204に戻り、工程205及び工程206を行う。
【0071】
次に、工程206において、欠陥がない場合には、工程207において、有機EL素子100が完成する。
【実施例1】
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
まず、図1に示すように、基材101である無アルカリガラス上に、回路層102としてシリコン、ITO等の水に不溶の金属及び金属酸化物、金属窒化物よりなるTFT回路と、ポリイミドより成るテーパー状の隔壁103が形成された基板を準備した。
【0074】
次に、この基板上に、正孔輸送層兼剥離層110として、ZnOの薄膜をスパッタリング法にて形成した。この薄膜の厚みは100nmであり、回路層102表面だけでなく隔壁103の上部や側面も覆うように成膜した。
【0075】
次に、正孔輸送層兼剥離層110の上に、加熱処理により不溶層を形成することが知られているポリ(2,7−(9,9−ジ−n−オクチルフルオレン)−alt−(1,4−フェニレン−((4−sec−ブチルフェニル)アミノ)−1,4−フェニレン)(以後、TFBという)のトルエン溶液を凸版印刷法にて塗布し、200℃にて10分の加熱処理を行い、次に、トルエンにてリンスを行うことで、膜厚10nmのインターレイヤ層を得た。
【0076】
次に、青色の発光特性を示すポリフルオレン誘導体のトルエン溶液を凸版印刷法にて塗布し、膜厚100nmの有機発光層を得た。
【0077】
次に、カルシウム及びアルミニウムを真空蒸着法によりそれぞれ0.5nm、200nmの膜厚で設けた。更にガラスにて封止を行い、有機EL素子100を得た。
【0078】
この有機EL素子100を駆動させたところ、均一な発光が確認された。
【0079】
しかし、敢えてこの有機EL素子を中性洗剤の水溶液につけ込み、超音波洗浄を行い、ZnO(正孔輸送層兼剥離層110)の薄膜を剥離させた。
【0080】
更にこの基板を純粋で洗浄し、乾燥後にUV−O洗浄を行った。次に、前述のZnOの薄膜形成工程から同様な手順で有機EL素子を作製し、その発光を確認した。
【0081】
その結果、剥離層110の剥離前と同様な発光を示したため、本発明の方法にて基材101、回路層102及びに隔壁103が再生されたことが確認された。
【実施例2】
【0082】
正孔輸送層兼剥離層110として、ZnOの代わりにPEDOT:PSSを用いたこと以外は実施例1と同様な手順で有機EL素子100を作製した。また、実施例1と同様の手順で基板を再生し、再び有機EL素子を作製した。
【0083】
その結果、剥離層110の剥離前と同様な発光を示したため、本発明の方法にて基材101、回路層102及びに隔壁103が再生されたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る有機EL素子の製造工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0085】
100…有機EL素子、101…基材、102…回路層、102a…第1の電極、103…隔壁、104…有機EL層、104a…電荷輸送層、105…第2の電極層、106…封止部、107…機能層、110…剥離層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された第1の電極と、
前記第1の電極上に形成された有機発光層を含む機能層と、
前記機能層上に形成された第2の電極と、を備え、
前記機能層中に、剥離液に可溶であり、かつ、前記剥離液に不溶な面上に形成された剥離層を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記機能層には、電荷輸送層とインターレイヤ層とを有し、前記剥離層は前記電荷輸送層と前記インターレイヤ層の間に挟まれて存在することを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記剥離層はpH6乃至pH8の水溶液で溶解する層であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記剥離液が純水であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記剥離層が金属酸化物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記剥離層が導電性高分子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記有機発光層は複数色の画素から構成され、前記剥離層は前記画素を跨って被覆することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記剥離液に不溶な面が、前記第1の電極面であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
基材の上に第1の電極を形成し、
前記第1の電極上に、剥離層及び有機発光層を含む機能層を形成し、
前記機能層に欠陥が見受けられた場合に、前記剥離層を剥離液に溶かすことにより前記剥離層以降に形成された層を剥離することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記剥離液がpH6乃至pH8の水溶液であることを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項11】
前記剥離液が純水であることを特徴とする請求項9または10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項12】
前記剥離層を前記剥離液に溶かす際に、前記剥離液を加熱することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項13】
前記剥離層を前記剥離液に溶かす際に、前記剥離液に超音波をかけることを特徴とする請求項9乃至請求項12のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項14】
前記剥離層を前記剥離液に溶かすことにより前記剥離層以降に形成された層を剥離した後、再度機能層を形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−80269(P2010−80269A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247536(P2008−247536)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】