説明

有機デバイス加工装置及び有機デバイス加工方法

【課題】加工形状を高精度に制御した加工が可能となる極めて実用性に秀れた有機デバイス加工装置の提供。
【解決手段】基板上に第一電極膜層、有機膜層、第二電極膜層及び保護層のうち少なくとも有機膜層を含む2層以上を積層して成る有機デバイスに対してレーザを照射して配線パターン加工若しくは開口加工を行う有機デバイス加工装置において、前記有機デバイスに照射される加工用レーザを出力する加工用レーザ発振機構と、前記有機デバイスの被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出し、前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定する反射率測定機構と、前記有機デバイスの被加工部位の反射率に基づき、前記加工用レーザの出力を調整する出力調整機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機デバイス加工装置及び有機デバイス加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、ガラス基板上に例えば第一電極層(ITO),有機膜層(発光層等)及び第二電極層(Al)を順次形成して成る「Al層/発光層/ITO層/ガラス基板」の構成であり、この有機EL素子を表示素子として利用するためには電極の配線パターン化が必要である。
【0003】
例えば、特許文献1等に開示されるような配線パターンの形成方法を用い、有機EL素子の陰極配線金属であるAlをフェムト秒ファイバーレーザで配線パターン形成する場合、下地にITOが存在する場合とITOが存在しない場合において、Alの加工閾値(Alの加工が可能なレーザ出力の下限値)が変化することがわかった(図1参照)。現状、高機能なレーザ加工装置では、基板の厚みや反り等の高さの変化に対しては、オートフォーカス機能により、レーザビームの加工位置を補正しながら加工を実施することができる。
【0004】
ところが、レーザパワーについては、一定の出力値で加工しており、そのため、以下のような問題点が存在することが分かった。
【0005】
即ち、一連の動作において、下地ITOが存在しない部分のAlを除去した場合には、有機膜が残存しているが、下地ITOが存在する部分のAlを除去した場合には、有機膜が除去されるだけでなく、その下層であるITOにもダメージが入っていることが分かった(図2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−297692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、一定のレーザ出力で最上層Al薄膜をレーザ加工する場合、下地材料の違いにより、加工溝幅及び加工溝深さに違いが生じ、全面均一な加工形状でパターン加工することは、現状では極めて困難である。
【0008】
そのため、現状では下地ITO膜に対するダメージを低減するため極力レーザ出力を低く設定し且つ下地ITO膜が存在しない場所の陰極配線Alに関して100%ショートしないレーザ加工出力値を設定しなければならない。
【0009】
更に、ITO膜へのダメージを全く発生させず且つ配線ショートが発生しないような量産プロセスに適用できるようなパターン加工条件を設定することは極めて困難であり、配線抵抗の増大により点灯表示ムラが発生するという問題点を克服することができなかった。
【0010】
本発明は、上述のような現状に鑑み、下地膜の違いによる最適レーザ出力の変化に対応して出力を制御する手段として、レーザ加工部領域(被加工部)からの反射光を検出し、その反射率から被加工部の素地の状況を把握することを考え、種々の実験の結果、素地の違いによる反射率の変化を検知し、例えばその情報に基づいたレーザ出力の補正信号を演算機構により算出し、その値をレーザ出力制御回路にフィードバックすることで、レーザ出力を適宜被加工部の素地に適した値に制御しながら加工することが可能となることを見出し完成したもので、被加工部の反射率を測定しながらリアルタイムでレーザ出力値を制御することにより、例えば有機ELの下層ITO電極のダメージを抑制しながらAl電極や有機膜層に所望の加工を施すことが可能となり、表示ムラの発生を阻止することができ、また、有機デバイス(例えば有機TFTなどの有機トランジスタ、有機太陽電池等)においては層間絶縁膜加工後の下層電極表面の加工後の表面状態をより平滑に仕上げることができ素子安定化が図れる等、加工形状(幅・深さ)を高精度に制御した加工が可能となる極めて実用性に秀れた有機デバイス加工装置及び有機デバイス加工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0012】
基板上に第一電極膜層、有機膜層、第二電極膜層及び保護層のうち少なくとも有機膜層を含む2層以上を積層して成る有機デバイスに対してレーザを照射して配線パターン加工若しくは開口加工を行う有機デバイス加工装置において、
前記有機デバイスに照射される加工用レーザを出力する加工用レーザ発振機構と、
前記有機デバイスの被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出し、前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定する反射率測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位の反射率に基づき、前記加工用レーザの出力を調整する出力調整機構とを備えたことを特徴とする有機デバイス加工装置に係るものである。
【0013】
また、前記加工用レーザ若しくは前記加工用レーザを分岐した一部を、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項1記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0014】
また、前記加工用レーザ発振機構とは異なるレーザ発振機構から発振されるレーザを、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項1記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0015】
また、基板上に第一電極膜層、有機膜層、第二電極膜層及び保護層のうち少なくとも有機膜層を含む2層以上を積層して成る有機デバイスに対してレーザを照射して配線パターン加工若しくは開口加工を行う有機デバイス加工装置において、
前記有機デバイスに照射される加工用レーザを出力する加工用レーザ発振機構と、
前記加工用レーザの前記有機デバイスの被加工部位への照射出力を測定する照射出力測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出し、前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定する反射率測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位の反射率及び前記加工用レーザの照射出力値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を適正出力とするための出力補正値を決定する出力補正値演算機構と、
この出力補正値演算機構により決定した前記出力補正値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を調整する出力調整機構とを備えたことを特徴とする有機デバイス加工装置に係るものである。
【0016】
また、前記加工用レーザ若しくは前記加工用レーザを分岐した一部を、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項4記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0017】
また、前記加工用レーザ発振機構とは異なるレーザ発振機構から発振されるレーザを、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項4記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0018】
また、前記加工用レーザ発振機構の発振出力を制御することで前記加工用レーザの照射出力を調整するように前記出力調整機構を構成したことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0019】
また、前記加工用レーザ発振機構にλ/2板及び偏光子を設け、このλ/2板と偏光子とにより前記加工用レーザの透過量を制御することで前記加工用レーザの照射出力を調整するように前記出力調整機構を構成したことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0020】
また、前記基板が載置され、前記有機デバイスの被加工部の加工形状に従い基板表面に対して平行なX−Y方向のうち少なくとも一方向に移動可能な基板ステージと、前記加工用レーザを走査する加工用レーザ走査機構とを備えたことを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0021】
また、前記加工用レーザ走査機構は、ガルバノスキャナ若しくはポリゴンミラーであることを特徴とする請求項9記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0022】
また、前記基板ステージ若しくは前記レーザ発振機構は基板表面に対して垂直なZ方向に移動可能に構成し、前記加工用レーザの焦点深度を補正する焦点補正機構を備えたことを特徴とする請求項9,10のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置に係るものである。
【0023】
また、請求項4〜11のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置を用いた有機デバイス加工方法において、
予め求めた対象となる有機デバイスの各積層パターン毎の最表層での反射率のデータを出力補正値演算機構に記憶させる工程と、
レーザ加工の際に、反射率測定機構により測定した反射率と前記積層パターン毎の反射率のデータとを比較することで被加工部位の積層パターンを前記出力補正値演算機構において判定し、この積層パターンに応じたレーザ照射出力となる出力補正値を出力調整機構へフィードバックする工程と、
出力調整機構により前記出力補正値に応じて加工用レーザを最適な出力へ調整する工程と、
前記出力補正値演算機構において判定した被加工部位の積層パターンに基づき、加工用レーザの照射の中断を判定し、加工用レーザ発振機構においてレーザ発振を中断する工程と、
加工パターンにより加工を継続する場合に、所定の位置合わせを、基板が載置される基板ステージを基板表面に対して平行なX−Y方向へ移動させることで行う工程と、
を含み、被加工部位の積層パターンに合わせて最適なレーザ出力となるように略リアルタイムでレーザ出力を調整及び加工の中断を判断することを特徴とする有機デバイス加工方法に係るものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上述のように構成したから、例えば有機ELの下層ITO電極のダメージを抑制しながらAl電極や有機膜層に所望の加工を施すことが可能となり、表示ムラの発生を阻止することができ、また、有機デバイスにおいては層間絶縁膜加工後の下層電極表面の加工後の表面状態をより平滑に仕上げることができ素子安定化が図れる等、加工形状(幅・深さ)を高精度に制御した加工が可能となる極めて実用性に秀れた有機デバイス加工装置及び有機デバイス加工方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0026】
例えば、基板上に第一電極膜層としてのITO電極膜、有機膜層及び第二電極膜層としてのAl電極膜を順次積層して形成された有機EL素子の前記Al電極膜の所定部位に加工用レーザを吸収させ、レーザアブレーション現象を生じさせることでAl電極膜をエッチングして所望の配線パターンに形成する。
【0027】
この際、Al電極膜の被加工部の反射率を測定しながらこの反射率に基づいてレーザ出力値をリアルタイムで補正(制御)しながらレーザ加工を行うことで、下層に金属膜があった場合にもこの金属膜に損傷を与えることなく且つ安定的なパターン形成が可能となる。
【0028】
具体的には、例えば、前記加工用レーザの前記被加工部位への照射出力を測定すると共に、前記被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出して前記被加工部位の反射率を測定し、この被加工部位の反射率及び前記加工用レーザの照射出力値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を適正出力とするための出力補正値を決定して、この出力補正値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を調整する。
【0029】
即ち、加工用レーザの照射部位を移動させながら、被加工部位の反射率をリアルタイムに測定していくことで、これからレーザを照射する被加工部位の積層膜の積層構成を推定して各積層構成に適したレーザ照射出力に制御しながらレーザ加工を行うことが可能となり、例えばITO電極層へのダメージを抑制しつつAl電極層や有機膜層へ所望の加工を施すことが可能となる。
【0030】
特に、有機ELデバイスにおいては、アノード電極のダメージによる配線抵抗のバラツキを抑制することにより、高品質の有機EL表示デバイスの製造が可能になる。また、有機デバイスにおいては、下部配線金属電極膜上の層間絶縁膜のコンタクトホール形成時に、下層電極の加工後の表面状態をより平滑にすることができ、良好なオーミックコンタクトが得られ、高品質の有機デバイスの製造が可能となる。
【0031】
また、加工用レーザを、測定用レーザとして有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように反射率測定機構を構成した場合には、加工用レーザによりレーザ加工を行いながら被加工部位の反射率を測定することができ、リアルタイムでレーザ出力を補正しながらのレーザ加工を一層スムーズに且つ別途レーザ発振機構を必要とすることなく行えることになる。
【実施例】
【0032】
本発明の具体的な実施例について図3〜6に基づいて説明する。
【0033】
本実施例は、基板上に第一電極膜層、有機膜層、第二電極膜層及び保護層のうち少なくとも有機膜層を含む2層以上を積層して成る有機デバイスに対してレーザを照射して配線パターン加工若しくは開口加工を行う有機デバイス加工装置において、
前記有機デバイスに照射される加工用レーザを出力する加工用レーザ発振機構と、
前記加工用レーザの前記有機デバイスの被加工部位への照射出力を測定する照射出力測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出し、前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定する反射率測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位の反射率及び前記加工用レーザの照射出力値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を適正出力とするための出力補正値を決定する出力補正値演算機構と、
この出力補正値演算機構により決定した前記出力補正値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を調整する出力調整機構とを備えたものである。
【0034】
具体的には、図3,4に図示したようにガラス基板1上に第一電極膜2(ITO)を配線パターン形成し、有機膜3、第二電極膜4(Al)を順次積層して成る有機EL素子の配線パターンの形成方法であって、有機膜3上に積層された第二電極膜4にレーザ照射装置5からレーザ6を照射し、レーザアブレーション現象を生じさせて、この第二電極膜4の一部を選択的に飛散させることで配線パターンを形成するものである。
【0035】
先ず、レーザ波長を決定するためのキャリブレーションカーブを作成する。
【0036】
レーザ加工により有機EL素子の第二電極膜をパターン形成する前に、予め、代表的な積層構成として、Al/ITO/Glass、ITO/Glass、OLED/ITO/Glass及びGlassの夫々の表面反射率について、レーザの波長をパラメータとしたキャリブレーションカーブを作成し、使用可能な波長λを確認する(図5参照)。図5の例においては、1300nm以上の波長域において、Al、OLED、ITO、Glassの反射率は全て異なっており、1300nm以上の波長のレーザを被加工部に照射して反射率を測定することで、積層構成を判別可能であることが分かる(具体的には1300nm以上で1350nm付近を除く波長。好ましくは1500nm以上の波長。)。使用する波長の決定は、各層の膜厚の影響等により反射率が影響を受けるため、その領域の変動を考慮して決定する。
【0037】
続いて、初期(加工開始時)の反射率別のレーザ照射出力値を決定する。
【0038】
上記各層構成の夫々に対するレーザ照射出力値の決定は、上記キャリブレーションカーブから求めた波長のレーザを用いてその出力値をパラメータとしたレーザ加工を実施し、加工部の加工性能(加工の状態)により行った。このレーザ照射出力値は、デバイス材料若しくは膜厚との関係により異なるため、プロセス毎に設定する。
【0039】
レーザ照射装置5は、図6に図示したように、レーザ光源としてフェムト秒レーザ発振器を備え、そこから出たビームはパワー制御用の波長板(直線偏光の偏光面を一定方向に回転させるλ/2板)及び偏光子(ポーラライザ:PL)を通過して偏光ビームスプリッタ(PBS:直角プリズムの斜面に偏光膜を蒸着して斜面同士を接着したキューブ状の偏光子。入射した光をP偏光とS偏光に分離し、一方を透過光とし、他方を反射光とすることが可能。)にて直線偏光の入射光の全てを被加工物方向へ反射し、前記PBSと被加工物との間に設置した波長板(直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換するλ/4板)並びに集光光学系レンズを通過して加工対象位置(被加工部位)に達するよう構成している。
【0040】
即ち、本実施例においては、照射出力の制御は、フェムト秒レーザ発振器の発振出力の制御により行っても良いし、λ/2板で一定の直線偏光としPL(透過しない分は吸収する)で出力を減衰することで行っても良い。尚、本実施例で使用したPLに替えてPBSを用いても良い。PBSは、反射を利用して出力を減衰するため、PBS自身の光吸収が抑制され、熱的影響によるレーザ光のビーム変形を抑制でき、PBS自身の劣化を抑制できる。
【0041】
レーザパワー(レーザ照射出力)の測定は、前記PLと前記PBSとの間に設置したビームスプリッタ(BS)にて、レーザ光の一部を検知用の光センサ(1)に反射させて検知させることで行う。
【0042】
被加工部位の反射率測定は、上記構成において円偏光とした被加工物への入射光と反射光とが逆方向の円偏光になり、当該反射光が前記集光光学レンズ、λ/4板及びPBSを順次通過する性質(逆方向の円偏光はλ/4板を通過すると入射時とは偏光方向が90°ずれた直線偏光になる)を利用し、当該反射光を光センサ(2)にて検知することで行う。
【0043】
反射率によるレーザパワー(レーザ照射出力)の調整は、前記光センサ(1)及び光センサ(2)からの反射率の信号を比較器により比較演算することでレーザ発振パワー(レーザ発振出力)の制御値を算出し、そのレーザ発振パワー制御信号(a)をフェムト秒レーザ発振器にフィードバックすることで行う。
【0044】
また、前記レーザパワーの制御値のフィードバックは、レーザ発振器ではなく、λ/2板の回転角度の指示(回転角度制御信号(b))として行っても良く、このλ/2板を所定角度に回転させ投光量を制御することで被加工部位でのレーザパワーを制御することができる。この場合、レーザ発振器のレーザ出力(レーザ発振出力)設定は、一定とする。
【0045】
また、基板ステージは、予め設定した加工パターンに従い基板表面に対して平行なX−Yの二軸に加えて、レーザの焦点を自動補正するための基板表面に対して直交するZ軸への駆動が可能な三軸リニアステージとしている。
【0046】
以下、更に具体的に金属膜への配線パターン形成について説明する。
【0047】
配線パターンに従った三軸リニアステージのX−Y方向への振動プログラム及びレーザ加工開始時のレーザ出力値を予め加工装置の制御プログラムに入力する。続いて、所定の出力値でレーザ加工開始点にレーザを照射し、それと同時にその加工点Aの反射率(A1)を前記光センサ2で検知することで、反射面の状況を知る。この動作を連続的に実施することにより、金属膜層の膜厚方向への除去が進行する。よって、目的のAl金属電極層が除去された場合、例えばレーザ波長を1500nmに設定していた場合には、反射率は図3のa点からb点の位置に低下することになり、加工面の状況の変化が判る。
【0048】
このように「加工点へのレーザ照射」→「反射率の低下を検知した(目的の金属層が除去できた)時点でのその点へのレーザ照射の中止」→「前記三軸リニアステージのX−Y方向への金属配線パターンに従う次の加工点への移動」とを一連の動作とし、この動作を繰り返すことで配線パターン形成を行うことができる。
【0049】
更に、ガルバノスキャナ、ポリゴンミラー若しくはそれらと同様の作用を有する光学器具を用いることによって、必要なパターン上を走査しつつ上記のレーザ照射を行って金属膜層を除去し、反射光の検知及び反射面の判断という一連の動作を行うことで、線状に金属層を除去可能である。除去後は、前記三軸リニアステージのX−Y方向への金属配線パターンに従う次の加工部への移動となる。
【0050】
従って、加工装置は、金属電極膜層の形成に際してパターンマスクを必要とせず、且つ、配線加工時にそれより下層側にある絶縁層や下部電極膜層等へのダメージを排除することで下層配線電極のバルク抵抗の変動を抑制すると共に、高精度な金属電極膜へのパターン形成が可能となる。
【0051】
また、コンタクトホールの形成については、上記の金属電極加工の場合と同様に、最表層及び最表層から接続配線膜層に至るまでの中間層を除去することで、コンタクトホールの加工が可能となる。
【0052】
この場合も、ホール形状及び開口の大きさに従い、ガルバノスキャナ若しくはポリゴンミラー等の光学器具が使用可能である。
【0053】
従って、加工装置は、接続電極配線上部への絶縁膜等の形成に際してパターンマスクを必要とせず、周辺へのダメージを排除することにより、次工程における端子接続時のコンタクト抵抗の変動を抑制すると共に、高い加工精度により当該接続配線上へのコンタクトホールの形成が可能となる。
【0054】
尚、本実施例においては、被加工部位に加工用レーザを照射しその反射光を測定することで被加工部位の反射率を測定している(測定用レーザとして加工用レーザを採用している)が、加工用レーザを分岐した一部若しくは加工用レーザを発振する加工用レーザ発振機構とは異なるレーザ発振機構から発振されるレーザを測定用レーザとして採用しても良い。
【0055】
本実施例は、上述のように構成したから、例えば、基板上に第一電極膜層としてのITO電極膜、有機膜層及び第二電極膜層としてのAl電極膜を順次積層して形成された有機EL素子の前記Al電極膜の所定部位に加工用レーザを吸収させ、レーザアブレーション現象を生じさせることでAl電極膜をエッチングして所望の配線パターンに形成する際、Al電極膜の被加工部の反射率を測定しながらこの反射率に基づいてレーザ出力値をリアルタイムで補正しながらレーザ加工を行うことで、下層に金属膜があった場合にもこの金属膜に損傷を与えることなく且つ安定的なパターン形成が可能となる。
【0056】
具体的には、前記加工用レーザの前記被加工部位への照射出力を測定すると共に、前記被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出して前記被加工部位の反射率を測定し、この被加工部位の反射率及び前記加工用レーザの照射出力値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を適正出力とするための出力補正値を決定して、この出力補正値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を調整する。
【0057】
即ち、加工用レーザの照射部位を移動させながら、被加工部位の反射率をリアルタイムに測定していくことで、これからレーザを照射する被加工部位の積層膜の積層構成を推定して各積層構成に適したレーザ照射出力に制御しながらレーザ加工を行うことが可能となり、例えばITO電極層へのダメージを抑制しつつAl電極層や有機膜層へ所望の加工を施すことが可能となる。
【0058】
特に、有機ELデバイスにおいては、アノード電極のダメージによる配線抵抗のバラツキを抑制することにより、高品質の有機EL表示デバイスの製造が可能になる。また、有機デバイスにおいては、下部配線金属電極膜上の層間絶縁膜のコンタクトホール形成時に、下層電極の加工後の表面状態をより平滑にすることができ、良好なオーミックコンタクトが得られ、高品質の有機デバイスの製造が可能となる。
【0059】
更に、本実施例においては、フェムト秒レーザを用いており、高エネルギーのレーザを極めて短時間(時間幅50fs〜20ps)に照射できるため、有機ELのように熱の影響を受け易い素子に対しても、効率良く金属電極等の除去が可能となる。
【0060】
従って、本実施例は、例えば有機ELの下層ITO電極のダメージを抑制しながらAl電極や有機膜層に所望の加工を施すことが可能となり、表示ムラの発生を阻止することができ、また、有機デバイスにおいては層間絶縁膜加工後の下層電極表面の加工後の表面状態をより平滑に仕上げることができ素子安定化が図れる等、加工形状(幅・深さ)を高精度に制御した加工が可能となる極めて実用性に秀れたものとなる。
【0061】
本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】TEGパネルにおけるITO電極膜の有無によるAl電極膜の加工状態を比較した拡大電子顕微鏡写真である。
【図2】OLEDパネルにおけるITO電極膜の有無によるAl電極膜の加工状態を比較した拡大電子顕微鏡写真である。
【図3】有機EL素子の概略説明断面図である。
【図4】有機EL素子のAl電極膜の配線パターン形成時の概略説明側面図である。
【図5】各積層構成における反射率を示すグラフである。
【図6】本実施例のレーザ照射装置の概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第一電極膜層、有機膜層、第二電極膜層及び保護層のうち少なくとも有機膜層を含む2層以上を積層して成る有機デバイスに対してレーザを照射して配線パターン加工若しくは開口加工を行う有機デバイス加工装置において、
前記有機デバイスに照射される加工用レーザを出力する加工用レーザ発振機構と、
前記有機デバイスの被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出し、前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定する反射率測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位の反射率に基づき、前記加工用レーザの出力を調整する出力調整機構とを備えたことを特徴とする有機デバイス加工装置。
【請求項2】
前記加工用レーザ若しくは前記加工用レーザを分岐した一部を、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項1記載の有機デバイス加工装置。
【請求項3】
前記加工用レーザ発振機構とは異なるレーザ発振機構から発振されるレーザを、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項1記載の有機デバイス加工装置。
【請求項4】
基板上に第一電極膜層、有機膜層、第二電極膜層及び保護層のうち少なくとも有機膜層を含む2層以上を積層して成る有機デバイスに対してレーザを照射して配線パターン加工若しくは開口加工を行う有機デバイス加工装置において、
前記有機デバイスに照射される加工用レーザを出力する加工用レーザ発振機構と、
前記加工用レーザの前記有機デバイスの被加工部位への照射出力を測定する照射出力測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位へ照射した測定用レーザの反射光を検出し、前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定する反射率測定機構と、
前記有機デバイスの被加工部位の反射率及び前記加工用レーザの照射出力値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を適正出力とするための出力補正値を決定する出力補正値演算機構と、
この出力補正値演算機構により決定した前記出力補正値に基づき、前記加工用レーザの照射出力を調整する出力調整機構とを備えたことを特徴とする有機デバイス加工装置。
【請求項5】
前記加工用レーザ若しくは前記加工用レーザを分岐した一部を、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項4記載の有機デバイス加工装置。
【請求項6】
前記加工用レーザ発振機構とは異なるレーザ発振機構から発振されるレーザを、前記測定用レーザとして前記有機デバイスの被加工部位の反射率を測定するように前記反射率測定機構を構成したことを特徴とする請求項4記載の有機デバイス加工装置。
【請求項7】
前記加工用レーザ発振機構の発振出力を制御することで前記加工用レーザの照射出力を調整するように前記出力調整機構を構成したことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置。
【請求項8】
前記加工用レーザ発振機構にλ/2板及び偏光子を設け、このλ/2板と偏光子とにより前記加工用レーザの透過量を制御することで前記加工用レーザの照射出力を調整するように前記出力調整機構を構成したことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置。
【請求項9】
前記基板が載置され、前記有機デバイスの被加工部の加工形状に従い基板表面に対して平行なX−Y方向のうち少なくとも一方向に移動可能な基板ステージと、前記加工用レーザを走査する加工用レーザ走査機構とを備えたことを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置。
【請求項10】
前記加工用レーザ走査機構は、ガルバノスキャナ若しくはポリゴンミラーであることを特徴とする請求項9記載の有機デバイス加工装置。
【請求項11】
前記基板ステージ若しくは前記レーザ発振機構は基板表面に対して垂直なZ方向に移動可能に構成し、前記加工用レーザの焦点深度を補正する焦点補正機構を備えたことを特徴とする請求項9,10のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置。
【請求項12】
請求項4〜11のいずれか1項に記載の有機デバイス加工装置を用いた有機デバイス加工方法において、
予め求めた対象となる有機デバイスの各積層パターン毎の最表層での反射率のデータを出力補正値演算機構に記憶させる工程と、
レーザ加工の際に、反射率測定機構により測定した反射率と前記積層パターン毎の反射率のデータとを比較することで被加工部位の積層パターンを前記出力補正値演算機構において判定し、この積層パターンに応じたレーザ照射出力となる出力補正値を出力調整機構へフィードバックする工程と、
出力調整機構により前記出力補正値に応じて加工用レーザを最適な出力へ調整する工程と、
前記出力補正値演算機構において判定した被加工部位の積層パターンに基づき、加工用レーザの照射の中断を判定し、加工用レーザ発振機構においてレーザ発振を中断する工程と、
加工パターンにより加工を継続する場合に、所定の位置合わせを、基板が載置される基板ステージを基板表面に対して平行なX−Y方向へ移動させることで行う工程と、
を含み、被加工部位の積層パターンに合わせて最適なレーザ出力となるように略リアルタイムでレーザ出力を調整及び加工の中断を判断することを特徴とする有機デバイス加工方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−238195(P2008−238195A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80019(P2007−80019)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(591065413)トッキ株式会社 (57)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【Fターム(参考)】