説明

有機ホウ素高分子化合物

【課題】フィルム状に成形しやすく、n型もしくはバイポーラな半導体特性を有するπ電子系共役高分子化合物を提供する。
【解決手段】 本発明の有機ホウ素高分子化合物は、下記一般構造式(1)で表される。(式中、Rは、炭素と水素から構成される置換基を表し、式中の2つのR1はそれぞれ同じ置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。Rは、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基からなる群から選ばれる1種類を表し、式中の3つのRはそれぞれ同じであってもよいし、異なってもよい。nは1以上の整数を表す。)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖の一部がホウ素で置換されたπ電子系共役高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
π電子が主鎖方向に共役した高分子化合物は、一般に、ドーピングにより導電性を発現する(非特許文献1参照)ほか、電荷注入によりエレクトロルミネッセンスを示したり(非特許文献2〜3参照)、大きな3次の光学非線形性を示したり(非特許文献4〜6参照)するなど、産業上有用な物性を示すものが多い。特に、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)は1990年の報告以降、LEDに関する研究が数多くなされている。そして、直線状分子のポリパラフェニレンエチニレン(PPE)は、分子エレクトロニクスデバイスとしての展開が期待されている(非特許文献7参照)。しかしながら、炭素−炭素多重結合のみからなる共役系では機能的な限界が懸念されており、炭素以外のヘテロ元素を含む新しい共役系の開発が並行して進められている。
【非特許文献1】ジー・ハジオアノウ,ピー・エフ・ファン・フッテン(G.Hadziioannou,P.F.van Hutten)、「セミコンダクティングポリマーズ(Semiconducting Polymers)」、ドイツ、ワイリー−ブイ・シー・エイチ(Wiley-VCH)発行、2000年
【非特許文献2】ジー・ブラッセ,ビー・シー・グラブマイヤー(G.Blasse,B.C.Grabmaier)、「ルミネッセントマテリアルズ(Luminescent Materials)」、ドイツ、スプリンゲル−ヴェラーグ(Springer-Verlag)発行,1994年
【非特許文献3】エス・ミヤタ,エイチ・エス・ナルワ(S.Miyata,H.S.Nalwa)「オーガニックエレクトロルミネッセンスマテリアルズ アンド デバイス(Organic Electroluminescence Materials and Devices)」、オランダ、ゴードン アンド ブリーチパブリッシャーズ(Gordon and Breach Publishers)発行、1997年
【非特許文献4】ジェイ・メサイア,エフ・カジャール,ピー・エヌ・プラサード,ディー・アール・ウルリッヒ(J.Messier,F.Kajzar ,P.N.Prasad ,D.R.Ulrich)、「ノンリニア オプティカル エフェクツ イン オーガニック ポリマーズ(Nonlinear Optical Effects in Organic Polymers)」、ドイツ、クルワーアカデミックパブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)発行、1989年
【非特許文献5】ピー・エヌ・プラサード,ディ・ジェイ・ウィリアムズ(P.N.Prasad ,D.J.Williams)「イントロダクション トゥ ノンリニア オプティカル エフェクツ イン モレキュールズ アンド ポリマーズ(lntroduction to Nonlinear Optical Effects in Molecules and Polymers)」、米国、ワイリー(Wiley)発行、1990年
【非特許文献6】「オプティカル ノンリニアリティズ イン ケミストリ(Optical Nonlinearities in Chemistry)、スペシャル イシュー オブ ケミカル レビュ(special issue of Chem.Rev)」、第94巻、米国、1994年、p.1−278
【非特許文献7】ユー・エイチ・エフ・ブンズ(U.H,Ebunz)、「ケミカル レビュ(Chem.Rev)」、第100巻、米国、2000年、p1605
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなπ電子系共役高分子化合物の特徴は、その多くが電子供与性であって、ヨウ素等のアクセプターをドーピングすることにより正孔キャリアを生成してp型半導体になることである。一方、ドナーのドーピングによりn型半導体となる電子受容性のπ電子系共役高分子化合物としては、芳香環の一部の炭素が窒素に置換された構造の化合物等が知られているものの、電子供与性の化合物に比べてその種類は少ない。
さらに、電子と正孔の両方を輸送することができるバイポーラな特性をもったπ電子系共役高分子化合物については、アントラセンやペンタセン等の有機分子性結晶において例が見られるが、成形加工性に優れる高分子化合物においてはあまり例が見られない。このように、π電子系共役高分子化合物は、シリコン等の無機半導体にはないフレキシブル性を有する有機半導体として期待されているものの、電子物性的には無機半導体ほどの多様性を示さないことからデバイス設計上の制約が多かった。
このような観点から、本発明では、フィルム状に成形しやすく、n型もしくはバイポーラな半導体特性を有するπ電子系共役高分子化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、π共役系の一部をヘテロ元素であるホウ素に置換することにより上記課題を解決した。
すなわち、本発明の有機ホウ素高分子化合物は、下記一般構造式(1)で表されることを特徴とする。
(式中、Rは、炭素と水素から構成される置換基を表し、式中の2つのRはそれぞれ同じ置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。Rは、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基からなる群から選ばれる1種類を表し、式中の3つのRはそれぞれ同じであってもよいし、異なってもよい。nは1以上の整数を表す。)
【0005】
【化1】

【0006】
本発明の有機ホウ素高分子化合物においては、Rが分岐型置換基であってもよい。
また、本発明の有機ホウ素高分子化合物においては、R1が直鎖型置換基であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機ホウ素高分子化合物は、側鎖の種類に応じてn型もしくはバイポーラな半導体的特性を示す上に、青緑色から黄緑色にかけた可視光域でのフォトルミネッセンスを示す。また、200〜600nmの範囲で光電導性を示し、しかもフィルム状に形成しやすい。このようなことから、本発明の有機ホウ素高分子化合物は、有機トランジスタ、エレクトロルミネッセンス素子、電子写真感光体等の有機エレクトロニクスデバイス材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明を詳細に説明する。
本発明の有機ホウ素高分子化合物は、上記一般構造式(1)で表されるものである。
【0009】
一般構造式(1)中、Rは、炭素と水素から構成される置換基を表し、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基、ドデシル基、2−メチルブチル基などの、炭素数が12以下の飽和アルキル基である。式中の2つのRはそれぞれ同じ置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。
【0010】
この有機ホウ素高分子化合物において、Rが直鎖型置換基、例えば、n−へキシル基、n−ドデシル基の場合には、酸素を介してRが結合したフェニル基同士のインターラクション(相互作用)が起こる。ここで、フェニル基同士のインターラクションは、フェニル基同士がフェイス−フェイス(面−面)で向き合う結果、起こるものと推測される。Rが直鎖型置換基である場合には、フェニル基同士がフェイス−フェイスで向き合うため、正孔をトラップでき、正孔のホッピングを阻害する。したがって、有機ホウ素高分子化合物はn型の性質を示す。
これに対し、Rが分岐型置換基、例えば、2−メチルブチル基などのバルキーな置換基の場合には、酸素を介してRが結合したフェニル基同士が面−面で向き合おうとすることを阻害するため、フェニル基同士のインターラクション(相互作用)が起こらない。そのため、正孔は自由に移動でき、バイポーラ型の性質を示すようになる。なお、2−メチルブチル基は不斉炭素を有する置換基でもある。
【0011】
また、Rは、高分子量化の観点からは、炭素数12のドデシル基が好ましく、電子物性の観点からは、キャリアの主鎖間のホッピングを阻害しにくい炭素数6前後のアルコキシ基が好ましい。
【0012】
は、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基からなる群から選ばれる1種類を表し、式中の3つのRは同じであってもよいし、異なってもよい。
また、nは1以上の整数である。
【0013】
一般構造式(1)の化合物の一例を下記一般構造式(2)に示す。この一般構造式(2)の化合物は、2,5位がアルコキシ基(−OR、Rは2−メチルブチル基)で置換されたジエチニルベンゼン誘導体と、2,4,6位がイソプロピル基で置換された2,4,6−トリイソプロピルフェニル基(以下、トリピル基という)を持つボランとが付加したものである。
【0014】
【化2】

【0015】
図1に、一般構造式(2)の化合物の合成方法の一例におけるスキームを示す。この合成方法は、2,5位がアルコキシ基(−OR、Rは2−メチルブチル基)で置換されたジエチニルベンゼン誘導体と、トリピル基を持つボランとをヒドロボレーション重合により重付加する方法である。
図1中、AcOHは酢酸、RBrはアルキルブロミド、DMFはジメチルホルムアミド、Prはイソプロピル基を表す。
【0016】
図1に示すスキームの合成方法の概要としては、まず、ヒドロキノンを出発原料として、(1)臭素化による2,5−ジブロモヒドロキノンの合成、(2)アルキルブロミドとの反応による1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼンの合成、(3)トリメチルシリルアセチレンとの反応による1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジアルコキシベンゼンの合成、(4)保護基であるトリメチルシリル基の脱離による1,4−ジエチニル−2,5−ジアルコキシベンゼンの合成、(5)トリピルボランとのヒドロボレーション重合、の5段階反応で目的とする有機ホウ素高分子化合物を得る。以下、各合成工程について順に説明する。
【0017】
(1)2,5−ジブロモヒドロキノンの合成
非特許文献8に基づき合成する。すなわち、出発原料であるヒドロキノンに、室温にて、酢酸中、12時間、臭素(Br)を反応させて2,5−ジブロモヒドロキノンを得る。
[非特許文献8] ティー・ファーレンカンプ、ジー・ウェグナー(T. Vahlenkamp, G. Wegner)、「マクロモレキュラー ケミストリ アンド フィジックス(Macromolecular Chemistry and Physics)、第195巻、1994年、p.1993
【0018】
(2)1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼンの合成
窒素雰囲気下、上記(1)の操作によって得られた2,5−ジブロモヒドロキノン(1当量)と炭酸カリウム(4当量)および臭素化2−メチルブタン(2当量)をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、加熱攪拌する。DMFの量は、2,5−ジブロモヒドロキノン仕込み重量の30倍程度とする。そして、攪拌しながら、室温以上、還流温度以下の加熱温度で、数時間〜数日間反応させることが好ましい。副反応を抑制して効率よく反応を行う観点からは70℃で12時間程度反応させることがより好ましい。
反応終了後、溶液を室温まで冷却し、生成した沈殿物をろ過により取り除いた後、減圧下でDMFを留去する。そして、残渣を少量のヘキサンで洗浄後、真空乾燥することによって、1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼンを得る。
【0019】
(3)1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジアルコキシベンゼンの合成
窒素雰囲気下、上記(2)の操作によって得られた1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼン(1当量)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.025当量)、ヨウ化銅(I)(0.025当量)を、アミン化合物であるジイソプロピルアミンに溶解する。ジイソプロピルアミンの量は、1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼン仕込み重量の40倍程度とする。1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼンがジイソピルアミンに溶解し難い場合は、ジイソプロピルアミンとテトラヒドロフラン(THF)の混合溶媒を用いることが好ましい。ジイソプロピルアミンとTHFとの混合比は、1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼンが溶解する程度とし、合計量は1,4−ジブロモ−2,5−ジアルコキシベンゼン仕込み重量の40倍程度とする。
なお、上記では、アミン化合物としてジイソプロピルアミンを用いたが、反応の際に生じるHBrを効率よく捕捉するものであれば特に制限されず、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等を使用してもよい。
【0020】
次いで、攪拌しながら、室温にて、トリメチルシリルアセチレン(2当量)のジイソプロピルアミン溶液(濃度50重量%程度)を滴下する。滴下終了後、攪拌しながら加熱して反応させる。その際、加熱温度は室温以上、還流温度以下であることが好ましく、反応時間は数時間〜数日間が好ましい。副反応を抑制して効率よく反応を行う観点からは還流温度で12時間程度反応させることが好ましい。
反応終了後、溶液を室温まで冷却し、生成した沈殿物をろ過により取り除いた後、減圧下でアミン化合物を留去する。そして、残渣を少量の溶解用有機溶剤に溶解し、その中に沈殿用有機溶剤をゆっくりと加えて再沈殿精製する。この再沈殿精製における溶解用の有機溶剤としては、反応生成物と反応しないものであれば特に制限されず、例えば、クロロホルム、トルエン、THF等を用いることができる。また、沈殿用の有機溶剤としては、前記の溶解用有機溶剤と任意の割合で混合可能であって、反応生成物を溶解しない溶剤であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類や、ヘキサン等の低沸点パラフィン系溶剤を用いることができる。沈殿用有機溶剤は溶解用有機溶剤の数倍から10倍程度の容量を用いる。
再沈殿精製により生成した沈殿を濾過し、少量の沈殿用有機溶剤で洗浄後、真空乾燥することにより、1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジアルコキシベンゼンを得る。
【0021】
(4)1,4−ジエチニル−2,5−ジアルコキシベンゼンの合成
窒素雰囲気下、上記(3)の操作によって得られた1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジアルコキシベンゼン(1当量)とテトラブチルアンモニウムフルオリド(0.5当量)とをTHFと混合し、室温にて好ましくは10分〜数時間攪拌して反応させる。THFの量は、1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジアルコキシベンゼン仕込み重量の80倍程度とする。副反応を抑制して効率よく反応を行う観点からは15分程度が好ましい。
加熱攪拌終了後、生成した沈殿物をろ過により取り除いた後、減圧下で溶媒を留去する。残渣を真空乾燥後、クロマトグラフィーにより分離精製する。クロマトグラフィーとしては、本反応生成物を分離できるものであればどのような方式のものでもよいが、シリカゲルを充填剤とするカラムクロマトグラフィーにより分離精製することが好ましい。この場合、溶離液としては、ヘキサンとクロロホルムの混合液(体積比1:1)を用いる。目的物が含まれた溶離液成分を分取し、減圧下で溶媒留去後、残渣を真空乾燥することにより、1,4−ジエチニル−2,5−ジアルコキシベンゼンを得る。
なお、カラムクロマトグラフィーのほかに、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて目的物を分離精製することもできる。
【0022】
(5)ヒドロボレーション重合
窒素雰囲気下、上記(4)の操作によって得られた1,4−ジエチニル−2,5−ジアルコキシベンゼン(1当量)をTHFに溶解して、濃度10〜20重量%の溶液を調製する。室温攪拌下、その中に1当量のトリピルボラン(非特許文献9に基づき合成)のTHF溶液(濃度10〜20重量%)をゆっくりと滴下する。滴下終了後、数時間〜数日間、好ましくは12時間程度攪拌する。また、遮光することが好ましい。
なお、重合溶媒としてはTHFを使用したが、重合原料のモノマーと反応生成物である高分子化合物が溶解するエーテル系、芳香族系の溶媒であってもよく、例えば、ジメトキシエタン、ジグリム等も使用できる。
[非特許文献9] アンドリュー・ペルター、キース・スミス、ディーター・バス、ツァオ・チン(Andrew Pelter,Keith Smith,Dieter Buss,Zhao Jin)、「ヘテロアトム ケミストリ(Heteroatom Chemistry)」、第3巻、1992年、p275−277
【0023】
攪拌終了後、減圧下でTHFを留去して減量し、その中に10〜50倍量の沈殿用有機溶剤をゆっくりと加えて再沈殿精製する。沈殿用の有機溶剤としては、THFと任意の割合で混合可能であって、反応生成物を溶解しない溶剤であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類や、ヘキサン等の低沸点パラフィン系溶剤を用いることができる。また、再沈殿操作は溶液の混合順序を逆にすることもできる。すなわち、目的物を含んだ溶液を多量の沈殿用有機溶剤中に、攪拌下でゆっくりと滴下してもよい。純度をより高くするためには、この方法が好ましい。
沈殿物を濾過し、少量の沈殿用有機溶剤で洗浄後、真空乾燥することにより、最終目的物の有機ホウ素高分子化合物を得ることができる。
目的物の純度をさらに向上する必要がある場合には、上述の再沈殿操作を複数回繰り返すか、あるいは、HPLCまたはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等のクロマトグラフィーにより分離精製すればよい。
【0024】
上述の例では、2,5位がアルコキシ基(−OR、Rは2−メチルブチル基)で置換されたジエチニルベンゼン誘導体と、トリピル基を持つボランとを重合したが、トリピル基を持つボランの代わりに、メシチル基を有するボラン(非特許文献10に基づき合成)を用いてもよい。
[非特許文献10] ノリヨシ・マツミ、ヨシキ・チュウジョウ(Noriyoshi Matsumi,Yoshiki Chujo)、「ポリマー ブルテン(Polymer Bulletin)、第38巻、1997年、p531−536
【0025】
本発明の半導体装置は、上述した有機ホウ素高分子化合物を含む薄膜を有機半導体層として有するものである。半導体装置の例としては、基板と、基板上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に間隔を隔てて設けられたソース電極およびドレイン電極と、絶縁膜およびソース電極およびドレイン電極を覆う有機半導体層とを有するものが挙げられる。このような半導体装置は、フィルム状に成形しやすいという利点を有する。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明について、合成方法と物性評価の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(合成例1)一般構造式(1)で表される有機ホウ素高分子化合物であって、式中のRが2−メチルブチル基で、Rがイソプロピル基である場合の例
<第1ステップ:2,5−ジブロモヒドロキノンの合成>
出発原料であるヒドロキノンに、室温にて、酢酸中、12時間、臭素(Br)を反応させて2,5−ジブロモヒドロキノンを得た。
【0028】
<第2ステップ:1,4−ジブロモ−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼンの合成>
窒素雰囲気下、還流冷却管およびマグネット攪拌子を備えた200mLの2口ナス型フラスコに、第1ステップで得られた2,5−ジブロモヒドロキノン(2.551g、9.524mmol)、炭酸カリウム(5.265g、38.09mmol)、臭素化2−メチルブタン(3.021g、20.00mmol)、DMF(70mL)を仕込み、70℃で12時間加熱攪拌した。得られた溶液を室温まで冷却し、生成した沈殿物をろ別後、DMFを減圧下で留去した。残渣を少量のヘキサンで洗浄後、真空乾燥して白色粉末状の目的物(1.031g、2.540mmol)を得た。目的物の収率は27%であった。
目的物をH−NMRで分析したところ、δ(H, ppm)=7.08 (2H), 3.85 (4H), 1.86 (2H), 1.56 (2H), 1.30 (2H), 1.06 (d, J= 6.6 Hz, 6H), 0.95 (t, J=7.3 Hz, 6H) ppmにピークが観測された。よって、目的物が、1,4−ジブロモ−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼンであることが確認された。ここで、Jは結合定数を表し、dは吸収ピークが二重線、tは三重線であることを表す。基準物質にはテトラメチルシラン、溶媒には重水素化クロロホルムを用いた。
【0029】
<第3ステップ:1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼンの合成>
窒素雰囲気下、還流冷却管およびマグネット攪拌子を備えた100mLの2口ナス型フラスコに、第2ステップで得られた1,4−ジブロモ−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼン(666mg、1.640mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(29mg、0.041mmol)、ヨウ化銅(I)(7.8mg、0.041mmol)、ジイソプロピルアミン(30mL)を仕込んだ。室温攪拌下、トリメチルシリルアセチレン(334mg、3.607mmol)のジイソプロピルアミン溶液(濃度50重量%)を滴下した。滴下終了後、12時間、加熱還流した。得られた溶液を室温まで冷却し、生成した沈殿物をろ別後、溶媒を減圧下で留去した。残渣を10mLのクロロホルムに溶解し、その中にメタノール20mLをゆっくりと加えて再沈殿精製した。沈殿物を濾過し、メタノール洗浄後、真空乾燥して白色粉末状の目的物(551mg、1.244mol)を得た。目的物の収率は76%であった。
目的物をH−NMRで分析したところ、δ(H, ppm) = 6.86 (2H), 3.77 (4H), 1.86 (2H), 1.57 (2H), 1.29 (2H), 0.96 (6H), 0.89 (6H), 0.21 (18H) ppmにピークが観測された(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)。よって、1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼンであることが確認された。
【0030】
<第4ステップ:1,4−ジエチニル−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼンの合成>
窒素雰囲気下、還流冷却管およびマグネット攪拌子を備えた100mLの2口ナス型フラスコに、第3ステップで得られた1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼン(284mg、0.641mmol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド(83.9mg、0.321mmol)、THF(25mL)を仕込み、室温で15分間攪拌した。生成した沈殿物をろ別後、溶媒を減圧下で留去した。残渣を真空乾燥後、ヘキサンとクロロホルムの混合液(体積比1:1)を溶離液として用いて、シリカゲルを充填剤とするカラムクロマトグラフィーにより青紫色蛍光成分を分取した。減圧下で溶媒を留去し、残渣を真空乾燥して白色固体状の目的物(169mg、0.565mmol)を得た。目的物の収率は88%であった。
目的物をH−NMRで分析したところ、δ(H, ppm)=6.92 (2H)、3.80 (4H)、3.30 (2H)、1.26 (2H)、1.53 (2H)、1.26 (2H)、1.02 (6H)、0.89 (6H) ppmにピークが観測された(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)。よって、1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼンであることが確認された。
【0031】
<第5ステップ:ヒドロボレーション重合>
窒素雰囲気下、マグネット攪拌子をセットした50mLの2口ナス型フラスコに、第4ステップで得られた1,4−ジエチニル−2,5−ジ(2−メチルブトキシ)ベンゼン(169mg、0.565mmol)とTHF(1.0mL)を仕込んだ。室温攪拌下、トリピルボラン(128mg、0.593mmol、非特許文献9に基づき合成)のTHF溶液(1.0mL)をマイクロフィーダーによりゆっくりと滴下した。滴下終了後、12時間攪拌した。攪拌終了後、減圧下でTHFを0.5mLまで減量し、その中に20mLのメタノールをゆっくりと加えて再沈殿精製した。沈殿物を濾過し、メタノール洗浄後、真空乾燥した。得られた黄色粉末状の目的物をさらに精製するため、HPLCにより高分子量成分を分取後、真空乾燥して黄色固体状の最終目的物(214mg、0.415mmol)を得た。目的物の収率は73%であった。
最終目的物は、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量Mnが5,600(重合度n=11)、多分散性Mw/Mnが2.04であった。
また、H−NMRを測定したところ(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)、図2(a)に示すように、δ(H, ppm) = 7.84 (2H, -CH=CH-), 6.96 (4H, Ar), 3.78-3.64 (4H, -OCH2-), 2.89 and 2.47 (3H, iPr-CH(トリピル基)), 1.95-0.82 (36H, -CH(CH3)C2H5, -CCH3(トリピル基)) ppmにピークが観測された。
13C−NMRを測定したところ(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)、図2(b)に示すように、δ(C, ppm) = 151.82, 121.81 and 109.96 (Ar), 148.92, 147.14 and 119.36 (Ar(トリピル基)), 134.27 (-CH=CH-), 73.36 (-OCH2-), 35.00-34.17 (-CH-), 25.96 (-CH2-), 24.66 (-CH3 (トリピル基)), 16.66 and 11.32 (-CH3) ppmにピークが観測された。
赤外吸収スペクトル分析では、1576cm−1にビニル結合に基づく吸収ピークが観測された。
元素分析の結果は、炭素79.28(理論値81.69)、水素9.96(同9.99)であり、理論値とよく一致した。
これらのことから、目的の有機ホウ素高分子化合物であることを確認した。
【0032】
(合成例2)一般構造式(1)で表される有機ホウ素高分子化合物であって、式中のRがヘキシル基(−C13)で、Rがイソプロピル基である場合の例
<第1ステップ:2,5−ジブロモヒドロキノンの合成>
実施例1と同様の方法により合成した。
<第2ステップ:1,4−ジブロモ−2,5−ジヘキシロキシベンゼンの合成>
非特許文献11に基づき合成した。
すなわち、窒素雰囲気下、還流冷却管およびマグネット攪拌子を備えた100mLの2口ナス型フラスコに、第1ステップで得られた2,5−ジブロモヒドロキノン(2.551g、9.524mmol)、炭酸カリウム(5.265g、38.09mmol)、ヘキシルブロミド(3.02g、20.00mmol)、DMF(70mL)を仕込み、70℃で12時間加熱攪拌した。以降、前記合成例1の第2ステップと同様の操作により白色粉末状の目的物(3.747g、8.592mmol)を得た。目的物の収率は90.2%であった。
目的物をH−NMRで分析したところ(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)、δ(H, ppm)=0.91(t,J=7.0 Hz, 6H,CH3),1.32-1.52(m,12H,CH2),1.76
-1.83(m,4H,CH2),3.94(t,J=6.5 Hz,4H,ArOCH2),7.08(2H,Ar)ppmにピークが観測された。よって、目的物が、1,4−ジブロモ−2,5−ジヘキシロキシベンゼンであることが確認された。
[非特許文献11] スミオ・マルヤマ、ユージ・カワニシ(Sumio Maruyama,Yuji Kawanishi)、「ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリ(Journal of Materials Chemistry)」、第8巻、2002年、p2245−2249
【0033】
<第3ステップ:1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジヘキシロキシベンゼンの合成>
非特許文献12に基づき合成した。
すなわち、窒素雰囲気下、還流冷却管およびマグネット攪拌子を備えた100mLの2口ナス型フラスコに、第2ステップで得られた1,4−ジブロモ−2,5−ジヘキシロキシベンゼン(654mg、1.50mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(53mg、0.075mmol)、ヨウ化銅(I)(14mg、0.075mmol)、ジイソプロピルアミン(50mL)を仕込んだ。室温攪拌下、トリメチルシリルアセチレン(294mg、3.00mmol)のジイソプロピルアミン溶液(濃度50重量%)を滴下した。以降、合成例1の第3ステップと同様の操作により白色粉末状の目的物(629mg、1.335mol)を得た。目的物の収率は89%であった。
目的物をH−NMRで分析したところ、δ(H, ppm) = 6.88 (2H), 3.93 (t,J=6.6Hz,4H), 1.81-1.76(m,4H), 1.53-1.33(m,12H),0.88(t,J=6.6Hz,6H),0.25(18H)ppmにピークが観測された(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)。よって、1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジヘキシロキシベンゼンであることが確認された。
[非特許文献12] チュアンツウェン・ツォウ、ティアンシ・リュウ、チンメイ・シュ、ツィークワン・チェン(Chuan-Zhen Zhou,Tianxi Liu,Jing-Mei Xu,Zhi-Kuan Chen)、「マクロモレキュールズ(Macromolecules)」、第36巻、2003年、p1457−1464
【0034】
<第4ステップ:1,4−ジエチニル−2,5−ジヘキシロキシベンゼンの合成>
前出の非特許文献12に基づき合成した。
窒素雰囲気下、還流冷却管およびマグネット攪拌子を備えた50mLの2口ナス型フラスコに、第3ステップで得られた1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジヘキシロキシベンゼン(629mg、1.335mmol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド(174mg、0.667mmol)、THF(50mL)を仕込み、室温で15分間攪拌した。以降、前記合成例1の第4ステップと同様の操作により白色粉末状の目的物(405mg、1.242mmol)を得た。目的物の収率は93%であった。
目的物をH−NMRで分析したところ、δ(H, ppm)=6.95 (2H)、3.97 (t,J=6.6Hz,4H)、3.33 (2H)、1.84-1.75 (m,4H)、1.50-1.26 (m,12H)、0.90(t,J=6.6Hz,6H)ppmにピークが観測された(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)。よって、1,4−ビス(トリメチルシリルエチニル)−2,5−ジヘキシロキシベンゼンであることが確認された。
【0035】
<第5ステップ:ヒドロボレーション重合>
窒素雰囲気下、マグネット攪拌子を備えた50mLの2口ナス型フラスコに、第4ステップで得られた1,4−ジエチニル−2,5−ジヘキシロキシベンゼン(163mg、0.50mmol)、THF(1.6mL)を仕込んだ。室温攪拌下、トリピルボラン(114mg、0.525mmol、非特許文献9に基づき合成)のTHF溶液(1.0mL)をマイクロフィーダーによりゆっくりと滴下した。以降、前記合成例1の第5ステップと同様の操作で黄褐色固体状の最終目的物(192mg、0.354mmol)を得た。最終目的物の収率は71%であった。
最終目的物は、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量Mnが3,900(重合度n=7)、多分散性Mw/Mnが2.33であった。
また、H−NMRを測定したところ(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)、図3(a)に示すように、δ(H, ppm) = 7.81 (2H, -CH=CH-), 6.97 (4H, Ar), 4.00-3.75 (4H, -OCH2-), 2.89 and 2.49 (3H, iPr-CH(トリピル基)), 1.82-0.86 (31H, -C5H11, -CCH3(トリピル基)) にピークが観測された。
また、13C−NMRを測定したところ(溶媒:重水素化クロロホルム、基準物質:テトラメチルシラン)、図3(b)に示すように、δ(C, ppm) = 151.72, 121.81 and 110.63 (Ar), 148.96, 147.23 and 119.30 (Ar(トリピル基)), 129.05 (-CH=CH-), 69.02 (-OCH2-), 35.00, 34.31 (-CH-), 29.24, 28.81, 25.59, 22.51 (-CH2-), 24.56 (-CH3 (トリピル基)), 14.01 (-CH3) にピークが観測された。
赤外吸収スペクトル分析では、1556cm−1にビニル結合に基づく吸収ピークが観測された。
元素分析の結果は、炭素81.22(理論値81.89)、水素10.29(同10.22)であり、理論値とよく一致した。
これらのことから、目的の有機ホウ素高分子化合物であることを確認した。
【0036】
上記合成例1および合成例2の有機ホウ素高分子化合物を以下のように評価した。
[成膜性]
上記合成例1および合成例2で得られた有機ホウ素高分子化合物について、THF、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、DMF、N−メチルピロリドン等の汎用有機溶媒に対する溶解性を調べた。その結果、合成例1および合成例2の有機ホウ素高分子化合物は、上記溶媒に可溶であり、溶媒キャスト法やスピンコート法、さらにはバーコート法により均一な透明フィルムを容易に得ることができた。
【0037】
[紫外可視吸収スペクトル]
図4に、上記合成例1で得られた有機ホウ素高分子化合物のクロロホルム溶液と固体フィルムの紫外可視吸収スペクトルを示す。図の縦軸は吸光度(無単位)、横軸は波長(nm)を表している。クロロホルム溶液における吸収極大波長は457nmであり、高分子の繰り返し単位あたりのモル吸光係数はlogε=4.24であった。固体フィルムにおいてもほぼ同様なスペクトルが観測された。
【0038】
[発光スペクトル]
図5に、上記合成例1で得られた有機ホウ素高分子化合物のクロロホルム溶液と固体フィルムで観測した発光スペクトルを示す。図の縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)を表している。励起光には400nmの光を用いた。クロロホルム溶液の発光ピークは515nmに観測された。9−アントラセンカルボン酸を標準物質とする相対量子収量は0.13であった。また、スピンコート法により成膜した固体フィルムの発光ピークは524nmに観測され、クロロホルム溶液に比べて9nm長波長側へシフトしていた。
このように、合成例1の有機ホウ素高分子化合物は、溶液状であっても、フィルム状であっても可視光を吸収し、かつ、フォトルミネッセンスを示すことがわかった。
【0039】
[光電流スペクトル]
図6と図7の各々に、上記合成例1および合成例2で得られた有機ホウ素高分子化合物の固体フィルムで測定した光電流の波長依存性を示す。各図の縦軸は光電流(A)、横軸は波長(nm)を表している。
測定には、ITO基板の上にキャスト法で10〜20ミクロン厚(合成例1の場合16ミクロン、合成例2の場合17ミクロン)のフィルムをコーティングし、その上に真空蒸着法により半透明の金電極(厚み:約30nm)を設けたサンドイッチ型セルを用いた。
そして、金電極とITO基板の間に電圧(合成例1の場合150V、合成例2の場合100V)を印加し、モノクロメーターでバンド幅20nmに分光されたキセノンランプ光を金電極面に照射した。光照射時の電流値から光を照射していない状態での暗電流値を差し引いたものを光電流として測定した。この測定方法の場合、金電極を正電位に設定することにより正孔キャリアの移動に基づく正孔電流を観測することができ、この有機ホウ素高分子化合物がp型半導体であることを判別できる。また、金電極を負電位に設定することにより電子キャリアに由来する電子電流を観測することができ、n型半導体であることを判別できる。
【0040】
図6から明らかなように、上記合成例1で得られた有機ホウ素高分子化合物では、金電極に正、負のいずれの電位を印加した場合にも、200nmから600nmの広い波長範囲にわたって光電流を観測することができた。この測定結果から、側鎖に2−メチルブトキシ基を有する合成例1の有機ホウ素高分子化合物が電子キャリアと正孔キャリアの双方を輸送することができるバイポーラな半導体であることがわかった。
また、上記合成例2で得られた有機ホウ素高分子化合物の場合は、図7に示すように、金電極に負の電位を印加した場合には200nmから600nmの広い波長範囲にわたって光電流を観測することができたが、金電極に正の電位を印加した場合には光電流がほとんど観測されなかった。この測定結果から、側鎖にヘキシロキシ基を有する合成例2の有機ホウ素高分子化合物が電子キャリア輸送能をもったn型半導体であることがわかった。
【0041】
(実施例1)
図8に、本発明の半導体装置の一例であるトランジスタを示す。このトランジスタ10は、基板(ゲート電極)11と、基板11上に形成された絶縁膜12、絶縁膜12の上に間隔を隔てて設けられたソース電極13およびドレイン電極14と、絶縁膜12およびソース電極13およびドレイン電極14を覆う薄膜状の有機半導体層15とを有するものである。
このトランジスタ10における基板11はNシリコン基板であり、電界効果型トランジスタ(FET)のゲート電極として機能する。
絶縁膜12は酸化シリコンからなる絶縁膜である。
ソース電極13およびドレイン電極14は、金(Au)またはマグネシウム−金合金(MgAu)などからなり、ソース電極13とドレイン電極14との間隔は5μmである。ソース電極13とドレイン電極14とは、蒸着法により形成した。
有機半導体層15は、一般構造式(1)で表される有機ホウ素高分子化合物を含むものであり、塗布法(スピン塗布、キャストなど)によって形成されたものである。
【0042】
トランジスタ10のソース電極13・ドレイン電極14間に流れる電流は、ゲート電極11・ソース電極13・ドレイン電極14に印加する電圧によって決定される。
ゲート電極11に電圧(ゲート電圧)を印加して、ソース電極13・ドレイン電極14間の、絶縁膜12上の有機半導体層15に、キャリア(正孔・電子の少なくともいずれか一方)を蓄積することができる。この状態でソース電極13・ドレイン電極14間に電位差を与えることによって、ソース電極13・ドレイン電極14間に電流が流れる。また、ゲート電圧を変化させることにより、ソース電極13・ドレイン電極14間を流れる電流を変化(変調)させることができ、トランジスタ10はFETとして機能する。
なお、本実施例では、有機ホウ素高分子化合物を含んだ半導体装置の一例として、FETの場合のトランジスタ10について説明したが、単なる例示であり、本発明はこの構成に限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の有機ホウ素高分子化合物の一例における合成スキームを示す図である。
【図2】合成例1のNMR分析結果を示す図であって、(a)はH−NMRの分析結果を示す図であり、(b)は13C−NMRの分析結果を示す図である。
【図3】合成例2のNMR分析結果を示す図であって、(a)はH−NMRの分析結果を示す図であり、(b)は13C−NMRの分析結果を示す図である。
【図4】合成例1の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図5】合成例1の発光スペクトルを示す図である。
【図6】合成例1の光電流の波長依存性を示す図である。
【図7】合成例2の光電流の波長依存性を示す図である。
【図8】実施例1の半導体装置の概略を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般構造式(1)で表されることを特徴とする有機ホウ素高分子化合物。
【化1】

(式中、Rは、炭素と水素から構成される置換基を表し、式中の2つのRはそれぞれ同じ置換基であってもよいし、異なる置換基であってもよい。Rは、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基からなる群から選ばれる1種類を表し、式中の3つのRはそれぞれ同じであってもよいし、異なってもよい。nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
が分岐型置換基である請求項1に記載の有機ホウ素高分子化合物。
【請求項3】
1が直鎖型置換基である請求項1に記載の有機ホウ素高分子化合物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の有機ホウ素高分子化合物を含む薄膜を有機半導体層として有する半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−131835(P2006−131835A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325276(P2004−325276)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻1号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月1日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 53巻2号」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】