説明

有機半導体組成物、有機薄膜及びこれを備える有機薄膜トランジスタ

【課題】高いキャリア輸送性を発揮し得るとともに、均一な特性が得られる有機半導体組成物を提供すること。
【解決手段】キャリア輸送性を有する高分子化合物と、低分子化合物と、を含み、低分子化合物が、式(1)で表される構造を有するものであり、且つ、高分子化合物と低分子化合物との合計100質量部に対する、低分子化合物の含有割合が、5〜95質量部である、ことを特徴とする有機半導体組成物。


[式中、Eは硫黄原子又はセレン原子を表し、3つのEはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。式中の芳香環は、置換基を有していてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体組成物、有機薄膜及びこれを備える有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜を備える半導体素子として、有機半導体材料からなる有機薄膜を備える有機薄膜素子が注目されている。有機薄膜素子の製造においては、有機半導体材料の塗布により有機薄膜を容易に形成することが可能であるため、大面積のデバイスを安価に生産できるという利点がある。
【0003】
有機薄膜素子の特性は、有機薄膜のキャリア輸送性に大きく依存する。このキャリア輸送性が高いほど、有機薄膜素子として優れた特性を発揮することができる。例えば、有機薄膜からなるキャリア輸送層を備える有機電界効果型トランジスタの場合、有機薄膜のキャリア輸送性が高いほど多くの電流を流すことができ、調節可能な電流量の幅を広くとることができる。その結果、トランジスタとして優れた特性が得られる。
【0004】
このような観点から、近年、高いキャリア輸送性を有する有機半導体材料が盛んに検討されている。高いキャリア輸送性を有する、塗布可能な有機半導体材料としては、ペンタセン誘導体、ポリアルキルチオフェン等が挙げられる。しかし、それらの有機半導体材料が有しているキャリア輸送性の指標である電界効果移動度(移動度)は、従来のアモルファスシリコンで通常得られる移動度のレベルには至っていなかった。
【0005】
そこで、特許文献1には、含カルコゲン多環縮環化合物が提案されている。この化合物は、種々の溶媒に可溶であり、また高い電界効果移動度を有する有機半導体材料であると示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/087780号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、大面積のデバイス(例えば、有機ELバックプレーン)に多数の有機薄膜トランジスタを適用した場合においては、素子間で特性のばらつきがあると、個々のトランジスタの特性が高くても、発光むらが生じてバックプレーンとして使用できなくなる等の不都合が生じる可能性がある。そのため、有機薄膜には、高い電界効果移動度(高いキャリア輸送性)に加えて、同一基板内に素子を複数形成した場合に均一な特性が得られることも要求されている。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高いキャリア輸送性を発揮し得るとともに、均一な特性が得られる有機半導体組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような有機半導体組成物からなる有機薄膜、及びこの有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の有機半導体組成物は、キャリア輸送性を有する高分子化合物と、低分子化合物とを含み、低分子化合物が、式(1)で表される構造を有するものであり、且つ、高分子化合物と低分子化合物との合計100質量部に対する、低分子化合物の含有割合が5〜95質量部であることを特徴とする。
【化1】


[式中、Eは硫黄原子又はセレン原子を表し、3つのEはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。式中の芳香環は、置換基を有していてもよい。]
【0010】
本発明の有機半導体組成物は、含カルコゲン多環縮環化合物である式(1)で表される構造を有する低分子化合物を単独で用いるのではなく、所定の割合でキャリア輸送性を有する高分子化合物と組み合わせて用いることで、低分子化合物に由来する高いキャリア輸送性が得られることに加え、高分子化合物によって低分子化合物が均質に分散されるようになり、その結果、均一な特性を有する有機薄膜を形成することが可能となる。
【0011】
上記本発明の有機半導体組成物において、高分子化合物は、アリールアミン構造、フルオレン構造、及びチオフェン構造のうちの少なくとも一種の構造を含む繰り返し単位を有するものであると好ましい。このような高分子化合物を、式(1)で表される低分子化合物と組み合わせて用いることにより、更に均一な特性を有する有機薄膜を形成することが可能となる。
【0012】
また、有機半導体組成物においては、高分子化合物と低分子化合物との合計100質量部に対する、高分子化合物の含有割合が、5質量部以上30質量部未満であるか、又は、70質量部を超え95質量部以下であると好ましく、特に、前者の条件を満たすことがより好ましい。このような割合を満たすように高分子化合物と低分子化合物とを組み合わせて含有することで、優れたキャリア輸送性が得られるとともに、さらに優れた均一性を有する有機薄膜が得られるようになる。
【0013】
本発明はまた、上記本発明の有機半導体組成物から構成される有機薄膜を提供する。このような有機薄膜は、本発明の有機半導体組成物からなることから、高いキャリア輸送性を発揮し得るとともに、大面積とした場合や複数形成された場合に、特性のばらつきが極めて小さいものとなる。
【0014】
さらに、本発明は、かかる本発明の有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタを提供する。すなわち、本発明の有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極と、これらの電極間の電流経路となる有機半導体層と、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極とを備え、有機半導体層が、上記本発明の有機薄膜からなることを特徴とする。このような構成を有する有機薄膜トランジスタは、本発明の有機薄膜を備えることから、優れたトランジスタ特性を発揮し得るとともに、大面積の有機薄膜を適用しても均一で安定した特性が得られ、また多数形成した場合であっても素子間の特性のばらつきが小さいものとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いキャリア輸送性を発揮し得るとともに、均一な特性が得られる有機半導体組成物を提供することが可能となる。また、本発明によれば、このような有機半導体組成物からなり、高いキャリア輸送性を有し且つ均一な特性を有する有機薄膜、及びこの有機薄膜を備えており高いトランジスタ特性を有する有機薄膜トランジスタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図2】第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図3】第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図4】第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図5】第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図6】第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図7】第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図8】実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。
【図9】第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図10】第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図11】第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図12】実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の模式断面図である。
【図13】実施例で作製した有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明においては、同一の要素には同一の符号を付すこととし、重複する説明については省略する。
【0018】
[有機半導体組成物]
本実施形態の有機半導体組成物は、キャリア輸送性を有する高分子化合物と、低分子化合物とを含み、低分子化合物が、式(1)で表される構造を有する。
【化2】


[式中、Eは硫黄原子又はセレン原子を表し、3つのEはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。式中の芳香環は、置換基を有していてもよい。]
【0019】
まず、低分子化合物について説明する。式(1)で表される構造を有する低分子化合物としては、以下の式(1a)〜(1t)で表される化合物が好適である。
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
次に、キャリア輸送性を有する高分子化合物について説明する。ここで、キャリア輸送性とは、膜等の構造体を形成した場合に電子やホール等のキャリアを当該構造体内で移動させることができる特性であり、一般にキャリア移動度をその指標とする。キャリア移動度は、ここでは電界効果移動度によって示され、その値だけでは一義的にキャリア輸送性の有無を定義することはできないが、本発明においては、薄膜としたときに1×10−6cm/Vs以上の電界効果移動度が得られる場合に、その材料はキャリア輸送性を有するものとする。この電解効果移動度の値は、30nmの厚さの薄膜としたときの値とすることができる。
【0024】
高分子化合物は、そのポリスチレン換算の重量平均分子量が8,000以上であると好ましく、10,000〜1,000,000であるとより好ましく、30,000〜500,000であると更に好ましい。また、そのポリスチレン換算の数平均分子量は、18,000〜500,000であると好ましく、20,000〜450,000であるとより好ましい。
【0025】
キャリア輸送性を有する高分子化合物としては、共役不飽和構造を有する高分子化合物が好ましい。共役不飽和構造を有する高分子化合物とは、例えば、不飽和構造として、二重結合を含む構造、三重結合を含む構造、芳香族構造及びアリールアミン構造(3級アリールアミン構造)から選ばれる構造を、単独で又は複数種組み合わせて含む構造単位の少なくとも1種を繰り返し単位として複数有しており、且つ、不飽和構造による共役が全体として延びた状態となっている単独重合体や共重合体である。なお、共重合体の場合は、ランダム体でもブロック体でもよい。不飽和構造による共役が全体として延びた状態とは、完全共役であることが好ましい。
【0026】
ここで、二重結合を含む構造としては、エチレン構造が挙げられる。この「エチレン構造」とは、他の構造単位との結合に供される結合手を水素原子に置き換えた場合にエチレンとなる構造をいう。なお、本明細書において、化合物を表記する名称の後に続けて「構造」を付す表記は、いずれも同様の定義である。
【0027】
また、三重結合を含む構造とは、アセチレン構造である。さらに、芳香族構造としては、単核又は多核の芳香族炭化水素構造、或いは、単核又は多核の複素環構造が挙げられる。単核又は多核の芳香族炭化水素構造としては、フェニレン構造(即ち、ベンゼン構造)、ナフチレン構造(即ち、ナフタレン構造)、フルオレン構造、アセナフテン構造、フェナントレン構造、アントラセン構造、フルオランテン構造、ピレン構造、ペリレン構造、ルブレン構造、クリセン構造や、これらの構造を構成している環が縮環した多核縮環化合物構造が挙げられる。
【0028】
このような単核又は多核の芳香族炭化水素構造としては、具体的には、式(2a)〜(2f)で表される構造が挙げられる。なかでも、式(2a)、(2b)で表される構造のようなフルオレン構造を有するものが特に好ましい。なお、下記の式において、置換基が付されていない結合は、他の構造単位との結合を形成している結合手であることを意味している。
【化7】

【0029】
式(2a)〜(2f)中、R11、R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基であり、R13は、ハロゲン原子又は1価の基である。また、uは、0以上の整数である。1価の基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アミノ基、カルボニル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルシリル基等が挙げられる。これらの1価の基は、更に置換基によって置換されていてもよく、置換基としては、当該R13で表される基が挙げられる。
【0030】
上記の飽和炭化水素基の炭素数は、通常、1〜20であり、好ましくは1〜16である。この飽和炭化水素基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。この飽和炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコサニル基が挙げられる。
【0031】
上記の不飽和炭化水素基の炭素数は、通常、1〜20であり、好ましくは1〜16である。この不飽和炭化水素基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。この不飽和炭化水素基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点からは、不飽和炭化水素基中の2重結合又は3重結合の個数が1つである基が好ましい。
【0032】
上記のアルコキシ基の炭素数は、通常、1〜20であり、好ましくは1〜16である。このアルコキシ基は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。このアルコキシ基としては、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、n−トリデシルオキシ基、n−テトラデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基、n−エイコサニルオキシ基が挙げられる。
【0033】
上記のアリール基の炭素数は、通常、6〜60であり、好ましくは6〜20である。この芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
【0034】
上記のヘテロアリール基の炭素数は、通常、4〜60であり、好ましくは4〜20である。ここで、ヘテロアリール基は、芳香族複素環式化合物から水素原子を1個取り除いた残りの原子団である。芳香族複素環式化合物は、複素環式化合物における環が芳香族性を有するものである。複素環式化合物が有するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子が挙げられる。複素環式化合物としては、例えば、チオフェン、セレノフェン、フランが挙げられる。
【0035】
上記のアリールアルキル基又はアリールオキシ基は、「アリール」部分の炭素数が、通常、6〜60であり、好ましくは6〜20である。また、アリールアルキル基は、「アルキル部分」の炭素数が、通常、1〜20であり、好ましくは1〜10である。
【0036】
上記のヘテロアリールアルキル基又はヘテロアリールオキシ基は、「ヘテロアリール」部分の炭素数が、通常、4〜60であり、好ましくは4〜20である。また、ヘテロアリールアルキル基は、「アルキル部分」の炭素数が、通常、1〜20であり、好ましくは1〜10である。
【0037】
上記のアルキルシリル基は、シリル基における水素原子の一部又は全部が上述の飽和炭化水素基で置換されたものが挙げられる。
【0038】
上記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0039】
11やR13が複数含まれる場合、複数のR11及びR13は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、R11、R12、R13及びR14のうちの2種、或いは、R11同士又はR13同士が、同じ炭素原子又は隣接する炭素原子に結合している場合は、この関係にある基同士が一部で結合して環を形成していてもよい。この場合に形成される環は、単環でも縮合環でもよく、炭素環でも複素環でもよい。また、これらの環は置換基を有していてもよい。なかでも、単環の炭素環、或いは、ヘテロ原子として酸素原子又は硫黄原子を含む単環の複素環が好ましい。
【0040】
さらに、単核又は多核の複素環構造のうち、単核の複素環構造としては、例えば、5員の複素環構造として、フラン構造、チオフェン構造、ピロール構造、シロール構造、オキサゾール構造、イソオキサゾール構造、チアゾール構造、イソチアゾール構造、イミダゾール構造、オキサジアゾール構造、チアジアゾール構造、ピラゾール構造等が挙げられる。また、6員の複素環構造として、ピリジン構造、ピリダジン構造、ピリミジン構造、ピラジン構造、トリアジン構造、テトラゼン構造等が挙げられる。
【0041】
一方、多核の複素環構造としては、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンズイミダゾール構造、キノリン構造、イソキノリン構造、シンノリン構造、キナゾリン構造、フタラジン構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアジン構造等のベンゾ縮環系の構造が挙げられる。また、フェナジン構造、フェナントリジン構造、アクリジン構造、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、ジベンゾチオフェン構造、ジベンゾシロール構造、ジフェニレンオキシド構造、チエノチオフェン構造、チアゾロチアゾール構造、ジチエノチオフェン構造、ベンゾビスチオフェン構造、ベンゾビスチアゾール構造等の多核縮環系の構造も挙げられる。さらに、上述した単核や多核の複素環構造が複数結合してなる縮合構造も挙げられる。
【0042】
このような単核又は多核の複素環構造としては、式(3a)〜(3o)で表される構造や、これらが複数結合した縮合構造が挙げられる。なかでも、式(3a)で表される構造、又はかかる構造が複数結合した縮合構造や、チオフェン構造や縮合チオフェン構造(下記式中のZが硫黄原子である構造)が特に好ましい。なお、下記の式において、置換基が付されていない結合は、他の構造単位との結合を形成している結合手であることを意味している。
【化8】

【0043】
式(3a)〜(3o)中、R11、R12、R13、R14及びuは、上記した式(2a)〜(2f)の場合と同義である。また、Zは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子等のヘテロ原子である。さらに、R11、R13及びR14がそれぞれ複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0044】
さらに、アリールアミン構造としては、3級アリールアミン構造が好ましく、例えば、トリフェニルアミン構造、N,N’−ジフェニルベンジジン構造、N,N’−1,4−フェニレンジアミン構造、ジフェニルナフチルアミン構造が挙げられる。特に、架橋された3級アリールアミン構造であるN−フェニルフェノキサジン構造やN−フェニルフェノチアジン構造が好適である。
【0045】
キャリア輸送性を有する高分子化合物は、上述した構造を含む繰り返し単位を、単独で又は複数種組み合わせて有する重合体であると好適である。なかでも、上述した構造のうち、アリールアミン構造、フルオレン構造、及びチオフェン構造のうちの少なくとも一種の構造を含む繰り返し単位を有するものであると、均一な特性を有する有機薄膜を形成し得る有機半導体組成物が得られ易くなる。なお、高分子化合物が、複数種の繰り返し単位を組み合わせて有する場合は、分子中に1つの繰り返し単位が連続した構造が含まれていてもよい。
【0046】
高分子化合物に含まれる繰り返し単位が、単核又は多核の芳香族炭化水素構造、単核又は多核の複素環構造、或いは、3級アリールアミン構造のみからなるものであって、且つ、これらの繰り返し単位に結合しているのがエチレン構造やアセチレン構造ではない場合は、これらの繰り返し単位において、隣接している構造単位との結合手が形成されている炭素原子の隣に位置している炭素原子は、無置換である(すなわち置換可能な部位に水素原子のみが結合されている)か、或いはハロゲン原子によって置換されていることが好ましい。なかでも、単核又は多核の芳香族炭化水素構造からなる繰り返し単位であって、隣接する構造がエチレン構造やアセチレン構造でない場合に、このような条件を満たしていることが好ましい。
【0047】
さらに、各繰り返し単位は、隣接する構造単位と結合している部分が、5員環構造となっていると特に好ましい。例えば、繰り返し単位が、単核の芳香族炭化水素構造又は単核の複素環構造のみによって形成される場合、その繰り返し単位そのものが5員環構造であることが好ましい。繰り返し単位が、これらのうちのいずれか又は複数の条件を満たすことで、高分子化合物は、共役不飽和構造が良好に形成されたものであり、更に良好なキャリア輸送性を有するものとなる。
【0048】
キャリア輸送性を有する高分子化合物としては、繰り返し単位を、下記の表1又は表2に示す(4a)〜(4l)の組み合わせで有するものが特に好適である。表1及び表2においては、同じ行に並んでいる構造をそれぞれ繰り返し単位として組み合わせることを意味しており、「−」と示された欄は、組み合わせる繰り返し単位がないことを意味している。なお、表中の一般式における符号は、全て上述したものと同義である。また、表中の構造において、分子中にR11、R12、R13及びR14がそれぞれ複数ある場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
これらの(4a)〜(4l)の組み合わせを有する高分子化合物としては、より具体的には、下記の表3又は4に示される構造を有する重合体が好適である。なかでも、高分子化合物としては、表1中の(4a)、(4b)、(4c)及び(4d)の組み合わせを有する重合体が好ましく、それらは、それぞれ下記表3中の(5a)、(5b)、(5c)及び(5d)で表される重合体に対応する。
【0051】
なお、表3中のmは、それぞれ1以上の整数であるが、mの範囲は、重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算値)が8,000以上となる範囲であると好ましく、10,000〜1,000,000となる範囲であるとより好ましく、30,000〜500,000となる範囲であるとさらに好ましい。また、数平均分子量(ポリスチレン換算値)は18,000〜500,000が好ましく、20,000〜450,000がさらに好ましい。
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
なお、高分子化合物の末端構造(末端基)については、これまで特に説明していないが、有機半導体組成物からなる有機薄膜を用いた有機薄膜素子としたときの特性や耐久性を十分に得る観点からは、高分子化合物の末端構造は安定な構造であることが好ましい。したがって、例えば上述したような重合体としては、その合成時に不安定な末端基を有していた場合、この不安定な末端基をより安定な末端基で置き換えたり、保護したりして得られたものがより好適である。
【0054】
安定な末端基としては、例えば、水素原子やフッ素原子のほか、飽和又は不飽和炭化水素基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アミノ基、カルボニル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルシリル基が挙げられる。これらの基は、更に任意の置換基を更に有していてもよく、置換基としては、これらの末端基として例示したもの等が挙げられる。
【0055】
また、末端基としては、高分子化合物の有機溶媒等への溶解性を高めて有機半導体組成物の塗布等をより簡便化する観点からは、飽和又は不飽和炭化水素基、アルコキシ基又はフッ素原子により一部又は全部の水素原子が置換された飽和又は不飽和炭化水素基や、アルコキシ基が好ましい。さらに、末端基は、例えば、高分子化合物の共役構造を形成している主鎖と連続して共役構造を形成し得るものも好ましい。このような末端基としては、例えば、主鎖と炭素−炭素結合を介して結合したアリール基やヘテロアリール基(複素環基)を含むものが挙げられる。なお、高分子化合物に複数の末端基が存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0056】
有機半導体組成物は、上述した低分子化合物、及び、キャリア輸送性を有する高分子化合物を少なくとも含むものであるが、これらに加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の含有量は、キャリア輸送性や均一性を極端に阻害しない程度とすることが好ましく、例えば、組成物の総量中、30質量%以下とすることができる。
【0057】
その他の成分としては、例えば、キャリア輸送性を有しない高分子化合物が挙げられる。キャリア輸送性を有しない高分子化合物としては、非共役高分子化合物が例示でき、有機薄膜とした場合のキャリア輸送性を極度に阻害しないものが好ましく、また、可視光の吸収が強くないものも好ましい。
【0058】
このような非共役高分子化合物としては、例えば、ポリスチレン類(ポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)等)、ポリエチレン類(HDポリエチレン等)、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。また、非共役高分子化合物は、これらの化合物の繰り返し単位を複数種類組み合わせて有するコポリマー(ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)であってもよい。
【0059】
また、有機半導体組成物は、その他の成分として、種々の機能を発現させるための材料を更に含んでいてもよい。例えば、吸収した光によって電荷を発生させる機能を増感する増感剤、組成物や有機薄膜の安定性を向上させる安定化剤、UV(紫外)光を吸収するためのUV吸収剤等が挙げられる。
【0060】
本発明の有機半導体組成物は、キャリア輸送性を有する高分子化合物、式(1)で表される低分子化合物や必要に応じてその他の成分を組み合わせて含むものであるが、これらの各成分を、それぞれ1種ずつのみ含まれる組成であってもよく、また一部又は全部の成分が複数種類ずつ含まれる組成であってもよい。
【0061】
有機半導体組成物において、キャリア輸送性を有する高分子化合物の含有割合は、この高分子化合物と式(1)で表される低分子化合物との合計100質量部に対して、5〜95質量部であると好ましく、5質量部以上30質量部未満及び70質量部を超え95質量部以下のいずれかであるとより好ましく、5質量部以上30質量部未満であると更に好ましい。高分子化合物の割合が、これらの範囲内であると、キャリア輸送性の向上効果がより高くなる傾向や、より均一な特性を得ることができる傾向にある。
【0062】
[有機半導体インク]
上述した実施形態の有機半導体組成物は、塗布等の作業を容易化する観点から、有機半導体インクとすることができる。有機半導体インクは、例えば、有機半導体組成物と溶媒を含んでなり、その他の添加物を更に含有していてもよい。有機半導体組成物は、溶媒に0.1重量%以上溶解させることができる。
【0063】
有機半導体インクは、後述するような塗布方法に対して好適な粘度を有することが好ましい。好適な実施形態の有機半導体組成物は、式(1)で表される低分子化合物に加えてキャリア輸送性を有する高分子化合物を組み合わせて含有していることから、例えばこれらを組み合わせる組成を調整することで、有機半導体インクの粘度を広範に調節することが可能である。
【0064】
このように、本実施形態の有機半導体インクは、溶媒の種類や量によらずに粘度を調節することが可能であるため、溶媒選択の自由度が高くなる。また、高い自由度でインクの調整をすることができるため、例えば、表面自由エネルギーが大きく、通常では塗布液に対する接触角が大き過ぎて(例えば、90度以上)塗布が困難であるような基板に対しても、適切な調整を行うことによって有機薄膜を形成することが可能となる。その結果、本実施形態の有機半導体インクによれば、有機薄膜素子の製造において、ほぼ均質であり、しかも高いキャリア輸送性を有する有機薄膜を良好に形成することが可能となる。
【0065】
[有機薄膜]
次に、上述した実施形態の有機半導体組成物から構成される有機薄膜として、上述した有機半導体インクを用いて得られる有機薄膜を例に挙げて説明する。
【0066】
有機薄膜は、有機半導体組成物によって構成される薄膜である。有機薄膜の厚さは、好ましくは1nm〜100μmであり、より好ましくは2nm〜1000nmであり、さらに好ましくは5nm〜500nmであり、特に好ましくは20nm〜200nmである。このような厚さの有機薄膜によれば、良好なキャリア輸送性を有し、強度等も十分な有機薄膜素子を形成し易くなる。
【0067】
有機薄膜は、有機半導体インク(塗布液)を所定の基板上に塗布する等して形成することができる。有機半導体インクの塗布方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ノズルコート法、キャピラリーコート法等の塗布法が挙げられる。なかでも、スピンコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、マイクロコンタクト印刷法、ノズルコート法又はキャピラリーコート法が好ましい。
【0068】
なお、塗布は、加熱した状態で行ってもよい。これにより、高濃度のインクを塗布することが可能となり、より均質な薄膜を形成できるほか、室温での塗布が困難であった材料等を選択して用いることも可能となる。加熱した状態での塗布は、例えば、予め加熱した塗布液を用いるか、又は、基板を加熱しながら塗布することによって行うことができる。
【0069】
上記の塗布方法に対して好適な有機半導体インクの粘度は、例えば、グラビアコート法では、0.01〜1Pa・sが好ましく、0.05〜0.2Pa・sがより好ましく、スクリーン印刷法では、0.1〜100Pa・sが好ましく、0.5〜50Pa・sがより好ましく、フレキソ印刷法では、0.01〜1Pa・sが好ましく、0.05〜0.5Pa・sがより好ましく、オフセット印刷法では、1〜500Pa・sが好ましく、20〜100Pa・sがより好ましく、インクジェット印刷法では、0.1Pa・s以下が好ましく、0.02Pa・s以下がより好ましい。有機半導体インクの粘度は、キャリア輸送性を有する高分子化合物と式(1)で表される低分子化合物との割合を適宜設定したり、用いる高分子化合物や溶媒等の種類を選択したりすることによって調節することができる。
【0070】
上述したような有機薄膜の形成工程は、有機薄膜素子の製造における一工程として行うこともできる。この場合、例えば、有機薄膜を形成させる基板が、有機薄膜素子の製造過程で生じた構造体となる。そして、有機薄膜素子において、有機薄膜のキャリア輸送性を更に高める観点からは、このようにして形成された有機薄膜に対し、所定の配向を付与する工程を更に実施してもよい。配向された有機薄膜においては、これを構成している有機半導体組成物中の分子が一方向に並ぶため、キャリア輸送性が一層高められる傾向にある。
【0071】
配向方法としては、例えば、液晶の配向手法として知られている方法を用いることができる。なかでも、ラビング法、光配向法、シェアリング法(ずり応力印加法)、引き上げ塗布法等が配向方法として簡便であるため利用し易く、特に、ラビング法又はシェアリング法が好ましい。
【0072】
[有機薄膜素子]
好適な実施形態の有機半導体組成物からなる有機薄膜は、高いキャリア(電子又はホール)輸送性を発揮し得ることから、これらの有機薄膜に設けられた電極から注入された電子やホール、或いは、光吸収によって発生した電荷を輸送することができる。また、製造時において有機半導体インクの粘度等を制御しやすく、しかも結晶化もしにくいため、大面積のものとした場合であっても均一な特性が得られる。したがって、これらの特性を活かして、有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池、光センサ等の種々の有機薄膜素子に適用することができる。以下、これらの有機薄膜素子について個々に説明する。
【0073】
(有機薄膜トランジスタ)
上述した有機薄膜を用いた有機薄膜トランジスタとしては、ソース電極及びドレイン電極と、これらの電極間の電流経路となる有機半導体層(活性層)と、この電流経路を通る電流量を制御するゲート電極とを備えた構成を有するものが挙げられ、有機半導体層が、上述した有機半導体組成物からなる有機薄膜によって構成されるものである。このような有機薄膜トランジスタとしては、電界効果型、静電誘導型等が挙げられる。
【0074】
電界効果型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となる有機半導体層(活性層)、この電流経路を通る電流量を制御するゲート電極、並びに、有機半導体層とゲート電極との間に配置される絶縁層を備えることが好ましい。
特に、ソース電極及びドレイン電極が、有機半導体層(活性層)に接して設けられており、さらに有機半導体層に接した絶縁層を挟んでゲート電極が設けられていることが好ましい。電界効果型有機薄膜トランジスタにおいては、有機半導体層が、好適な実施形態の有機半導体組成物からなる有機薄膜によって構成される。
【0075】
静電誘導型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となる有機半導体層(活性層)、並びに電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を有し、このゲート電極が有機半導体層中に設けられていることが好ましい。特に、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層中に設けられたゲート電極が、有機半導体層に接して設けられていることが好ましい。ここで、ゲート電極の構造としては、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流経路が形成され、且つゲート電極に印加した電圧で電流経路を流れる電流量が制御できる構造であればよく、例えば、くし形電極が挙げられる。静電誘導型有機薄膜トランジスタにおいても、有機半導体層が、好適な実施形態の有機半導体組成物からなる有機薄膜によって構成される。
【0076】
図1は第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図1に示す有機薄膜トランジスタ100は、基板1と、基板1上に所定の間隔をもって形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして基板1上に形成された有機半導体層2と、有機半導体層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0077】
図2は第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図2に示す有機薄膜トランジスタ110は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を覆うようにして基板1上に形成された有機半導体層2と、ソース電極5と所定の間隔を持って有機半導体層2上に形成されたドレイン電極6と、有機半導体層2及びドレイン電極6上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0078】
図3は第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図3に示す有機薄膜トランジスタ120は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように、絶縁層3上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うように絶縁層3上に形成された有機半導体層2と、を備えるものである。
【0079】
図4は第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図4に示す有機薄膜トランジスタ130は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を一部覆うようにして絶縁層3上に形成された有機半導体層2と、ゲート電極4が下部に形成されている有機半導体層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0080】
図5は第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(静電誘導型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図5に示す有機薄膜トランジスタ140は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5上に形成された有機半導体層2と、有機半導体層2上に所定の間隔をもって複数形成されたゲート電極4と、ゲート電極4の全てを覆うようにして有機半導体層2上に形成された有機半導体層2a(有機半導体層2aを構成する材料は、有機半導体層2と同一でも異なっていてもよい)と、有機半導体層2a上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0081】
図6は第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図6に示す有機薄膜トランジスタ150は、基板1と、基板1上に形成された有機半導体層2と、有機半導体層2上に所定の間隔をもって形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うようにして有機半導体層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5が下部に形成されている絶縁層3の領域とドレイン電極6が下部に形成されている絶縁層3の領域とをそれぞれ一部覆うように、絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0082】
図7は第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図7に示す有機薄膜トランジスタ160は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を覆うように形成された有機半導体層2と、ゲート電極4が下部に形成されている有機半導体層2の領域を一部覆うように有機半導体層2上に形成されたソース電極5と、ゲート電極4が下部に形成されている有機半導体層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔をもって有機半導体層2上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0083】
第1〜第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層2及び/又は有機半導体層2aは、上述した好適な実施形態の有機半導体組成物からなる有機薄膜によって構成され、ソース電極5とドレイン電極6の間の電流通路(チャネル)となる。また、ゲート電極4は、電圧を印加することにより有機半導体層2及び/又は有機半導体層2aにおける電流通路(チャネル)を通る電流量を制御する。
【0084】
上述した各有機薄膜トランジスタのうち、電界効果型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開平5−110069号公報記載の方法により製造することができる。また、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開2004−006476号公報記載の方法により製造することができる。
【0085】
基板1は、有機薄膜トランジスタとしての特性を阻害しなければ特に制限されないが、ガラス基板やフレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板も用いることができる。
【0086】
有機半導体層2を形成する際には、キャリア輸送性を有する高分子化合物及び式(1)で表される低分子化合物として、有機溶媒に可溶な化合物を用いることが、製造を容易化する観点から好ましい。それにより、例えば、上述した実施形態で述べたような有機薄膜の製造方法を用いて、有機半導体層2となる有機薄膜を形成することが好適である。
【0087】
有機半導体層2に接した絶縁層3としては、電気の絶縁性が高い材料として公知のものを用いることができる。例えばSiOx、SiNx、Ta、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス、フォトレジスト等が挙げられる。低電圧化の観点からは、誘電率の高い材料の方が好ましい。
【0088】
絶縁層3の上に有機半導体層2を形成する場合は、絶縁層3と有機半導体層2の界面特性を改善するため、シランカップリング剤等の表面処理剤で絶縁層3表面を処理して表面改質した後に有機半導体層2を形成することも可能である。
【0089】
電界効果型有機薄膜トランジスタの場合、電子やホール等のキャリアは、一般に絶縁層と有機半導体層との界面付近を通過する。したがって、この界面の状態がトランジスタの移動度に大きな影響を与える。そこで、この界面状態を改良して特性を向上させる方法として、シランカップリング剤による界面の制御が知られている(例えば、表面科学Vol.28.No.5,pp242−248,2007)。
【0090】
シランカップリング剤としては、アルキルクロロシラン類(オクチルトリクロロシラン(OTS)、オクタデシルトリクロロシラン(ODTS)、フェニルエチルトリクロロシラン等)、アルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のシリルアミン化合物等が挙げられる。また、表面処理剤で処理する前には、絶縁層表面をオゾンUV、O2プラズマで処理をしておくことも可能である。
【0091】
このような処理によって、絶縁層として用いられるシリコン酸化膜等の表面エネルギーを制御することができる。また、表面処理によって、有機半導体層を構成している有機半導体組成物の絶縁層上での配向性が向上し、これによって高いキャリア輸送性(移動度)が得られることもある。例えば、従来、蒸着法によって成膜したペンタセンでは、表面処理した基板上で、ほぼ直立して分子間がヘリンボーン構造でスタックした配向をとることが知られている。
【0092】
しかしながら、従来、塗布によって有機薄膜を形成させる有機半導体化合物では、シランカップリング剤の処理によって薄膜を形成させる面(被塗布面)の撥水性が増し、その結果薄膜を均一に作製できない場合があった。これは、表面エネルギーの増大によって有機半導体組成物と被塗布面との接触角が大きくなり、塗れ性が悪くなるためであると考えられる。
【0093】
そのため、上述したような表面処理を行った絶縁層に対して薄膜の形成を行う場合、インクジェット法等では、形成させる膜の外周部から中心部に向かって膜厚が薄くなる、いわゆるコーヒーの染み現象が顕著となり、また、スピンコート法による薄膜形成では、材料が飛ばされて全く薄膜にならない場合もあった。
【0094】
これに対し、本実施形態で用いる有機半導体組成物は、キャリア輸送性を有する高分子化合物と式(1)で表される低分子化合物とを組み合わせて含有していることにより、上述した有機薄膜の形成において説明したように、塗布液の濡れ性や粘性を制御することが容易である。そのため、シランカップリング剤等による表面処理を行った被塗布面であっても、質の高い有機半導体層を形成することが容易である。そして、これによって、有機半導体層による移動度等の特性も大幅に向上する傾向にある。
【0095】
ゲート電極4としては、金、白金、銀、銅、クロム、パラジウム、アルミニウム、インジウム、モリブデン、低抵抗ポリシリコン、低抵抗アモルファスシリコン等の金属や錫酸化物、酸化インジウム、インジウム・錫酸化物(ITO)等の材料を用いることができる。これらの材料は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、ゲート電極4としては、高濃度にドープされたシリコン基板を用いることも可能である。高濃度にドープされたシリコン基板は、ゲート電極としての性質とともに、基板としての性質も併せて有する。このような基板としての性質をも有するゲート電極4を用いる場合には、基板1とゲート電極4とが接している有機薄膜トランジスタにおいて、基板1を省略してもよい。例えば、上述した第3実施形態の有機薄膜トランジスタにおいて、ゲート電極4が基板1を兼ねる構成とした場合、そのような有機薄膜トランジスタは、例えば図13に表される構造を有する。
【0096】
ソース電極5及びドレイン電極6は、低抵抗の材料から構成されることが好ましく、例えば、金、白金、銀、銅、クロム、パラジウム、アルミニウム、インジウム及びモリブデン等から構成されることが特に好ましい。これらの材料は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0097】
以上、好適な実施形態の有機薄膜トランジスタとして幾つかの例を説明したが、有機薄膜トランジスタは上記の実施形態に限定されない。例えば、ソース電極5及びドレイン電極6と、有機半導体層2との間には、有機半導体化合物とは異なる化合物、金属(好ましくは、有機半導体化合物とは異なる化合物)からなる層が介在していてもよい。これにより、ソース電極5及びドレイン電極6と、有機半導体層2との間の接触抵抗が低減され、有機薄膜トランジスタのキャリア移動度を更に高めることができる場合がある。
【0098】
このような層としては、電子又はホール輸送性を有する低分子化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属やこれらの金属と有機化合物との錯体等、典型金属、金属の酸化物やカルコゲン化合物、アルキルチオール化合物、芳香族チオール類、フッ素化アルキル芳香族チオール類等の芳香族チオール化合物等からなる層が挙げられる。
【0099】
また、上述したような有機薄膜トランジスタを作製した後には、素子を保護するため、有機薄膜トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機薄膜トランジスタが大気から遮断され、有機薄膜トランジスタの特性の低下を抑制することができる。また、保護膜によって、有機薄膜トランジスタの上に駆動する表示デバイスを形成する場合、その形成工程における有機薄膜トランジスタへの影響も低減することができる。
【0100】
保護膜を形成する方法としては、有機薄膜トランジスタを、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂や無機のSiONx膜等でカバーする方法等があげられる。大気との遮断を効果的に行うため、有機薄膜トランジスタを、作製後保護膜を形成するまでの工程は、大気に曝すことなく(例えば、乾燥した窒素雰囲気中、真空中等で)行うことが好ましい。
【0101】
このように構成された有機薄膜トランジスタの一種である有機電界効果型トランジスタは、アクティブマトリックス駆動方式の液晶ディスプレイや有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの画素駆動スイッチング素子等として適用できる。そして、上述した実施形態の有機電界効果型トランジスタは、有機半導体層として、上述した好適な実施形態の有機半導体組成物からなり、キャリア輸送性に優れ、しかも均一な特性を有する有機薄膜を備えているため、その電界効果移動度が高いものとなる。したがって、十分な応答速度を持つディスプレイの製造等に有用である。
【0102】
(太陽電池)
次に、本発明の好適な実施形態に係る有機薄膜の太陽電池への応用を説明する。
【0103】
図8は、好適な実施形態に係る太陽電池の模式断面図である。図8に示す太陽電池200は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された有機薄膜からなる有機半導体層2と、有機半導体層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。この有機半導体層2を構成する有機薄膜が、好適な実施形態の有機半導体組成物によって構成されている。
【0104】
本実施形態に係る太陽電池においては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属又はそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。高い開放電圧を得るためには、それぞれの電極として、仕事関数の差が大きくなるように選ぶことが好ましい。有機半導体層2(有機薄膜)中には光感度を高めるために電荷発生剤、増感剤等を添加することができる。基板1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0105】
上記構成を有する太陽電池は、好適な実施形態の有機半導体組成物からなる有機薄膜を用いた有機半導体層2が、高いキャリア輸送性を発揮することができるため、効率よく発電を行うことが可能となる。
【0106】
(光センサ)
次に、本発明の好適な実施形態に係る有機薄膜の光センサへの応用を説明する。
【0107】
図9は、第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。図9に示す光センサ300は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された有機薄膜からなる有機半導体層2と、有機半導体層2上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。この有機半導体層2を構成する有機薄膜が、好適な実施形態の有機半導体組成物によって構成されている。
【0108】
図10は、第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。図10に示す光センサ310は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された有機薄膜からなる有機半導体層2と、有機半導体層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。この有機半導体層2を構成する有機薄膜が、好適な実施形態の有機半導体組成物によって構成されている。
【0109】
図11は、第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。図11に示す光センサ320は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された有機薄膜からなる有機半導体層2と、有機半導体層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。この有機半導体層2を構成する有機薄膜が、好適な実施形態の有機半導体組成物によって構成されている。
【0110】
上記の第1〜第3実施形態に係る光センサにおいては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電荷発生層8は光を吸収して電荷を発生する層である。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属又はそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。有機半導体層2(有機薄膜)中には光感度を高めるために電荷発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。また基板1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0111】
上記構成を有する光センサは、好適な実施形態の有機半導体組成物を用いてなる有機薄膜を用いた有機半導体層2が、高いキャリア輸送性を発揮することができるため、高い感度が得られるものとなる。
【0112】
(有機エレクトロルミネッセンス素子)
次に、上述した有機薄膜トランジスタを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子について説明する。
【0113】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、駆動トランジスタ及びスイッチングトランジスタの少なくとも2つの有機薄膜トランジスタを備えるものである。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、このうちの少なくとも1つの有機薄膜トランジスタとして、上述したような好適な実施形態に係る有機薄膜トランジスタを用いたものである。
【0114】
図12は、好適な実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子である。図12に示す有機エレクトロルミネッセンス素子400においては、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように、絶縁層3上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うように絶縁層3上に形成された有機半導体層2と、有機半導体層2全体を覆うように有機半導体層2上に形成された保護膜11とにより、有機薄膜トランジスタTが構成されている。
【0115】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子400においては、有機薄膜トランジスタT上に、層間絶縁膜12を介して、下部電極(陽極)13、発光素子14及び上部電極(陰極)15が順次積層されており、層間絶縁膜12に設けられたビアホールを通じて下部電極13とドレイン電極6とが電気的に接続されている。また、下部電極13及び発光素子14の周囲にはバンク部16が設けられている。さらに、上部電極15の上方には基板18が配置され、上部電極15と基板18との間は封止部材17によって封止されている。
【0116】
図12に示した有機エレクトロルミネッセンス素子400において、有機薄膜トランジスタTは、駆動トランジスタとして機能する。また、図12に示した有機エレクトロルミネッセンス素子400においては、スイッチングトランジスタは省略されている。
【0117】
本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子400においては、有機薄膜トランジスタTに上述したような好適な実施形態の有機薄膜トランジスタが用いられる。それ以外の構成部材については、公知の有機エレクトロルミネッセンス素子における構成部材を用いることができる。なお、上部電極15、封止部材17及び基板18としては、透明なものが用いられる。
【0118】
また、図12に示した有機エレクトロルミネッセンス素子400は、発光素子14に白色発光材料を用いることで面状光源として機能するが、発光素子14に赤色発光材料、青色発光材料及び緑色発光材料を用い、それぞれの発光素子の駆動を制御することで、カラー表示装置とすることもできる。
【0119】
このような有機エレクトロルミネッセンス素子において、パターン状の発光を得るためには、面状の発光素子の表面にパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、発光素子を構成する発光層の非発光とすべき部分を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極若しくは陰極、又は両方の電極をパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にON/OFFできるように配置することによって、数字や文字、簡単な記号等を表示できるセグメントタイプの表示素子が得られる。
【0120】
さらに、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置すればよい。複数の種類の発光色の異なる高分子蛍光体を塗り分ける方法や、カラーフィルター又は蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示やマルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックス素子は、パッシブ駆動も可能であるし、TFT等と組み合わせてアクティブ駆動してもよい。これらの表示素子は、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダー等の表示装置として用いることができる。
【0121】
なお、好適な実施形態の有機薄膜トランジスタを適用した電気素子としては、このような有機エレクトロルミネッセンス素子以外にも、例えば、電子タグや液晶表示素子等が挙げられる。そして、これらの電気素子は、好適な実施形態の有機薄膜トランジスタを用いたものであるから、高く且つ均質なトランジスタ特性を発揮し得る有機薄膜トランジスタにより、安定で且つ優れた動作特性を有するものとなる。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0123】
[実施例1]
まず、キャリア輸送性を有する高分子化合物として式(8)で表される化合物(高分子化合物(8))を、低分子化合物として上述した式(1d)で表される化合物(低分子化合物(1d))を、それぞれ準備した。
【0124】
高分子化合物(8)は、モノマーである9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ビス(ジメチルボレート)とN,N−ビス(4−ブロモフェニル)−N−(4−sec−ブチルフェニル)とを、50:50の割合で混合し、特許第4375820号に記載されている方法によって合成した。高分子化合物(8)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、351,000であり、数平均分子量は、85,000であった。なお、式(8)におけるnは、括弧内の構造の繰り返し数を示し、当該化合物の重量平均分子量及び数平均分子量が上記の値となるのに対応する数であり、以下に示した式中のnについても同様である。
【化9】

【0125】
また、低分子化合物(1d)は、国際公開第2005/087780号パンフレットに示された方法に準じて合成した。なお、以下の実施例で用いた式(1b)で表される化合物(低分子化合物(1b))及び式(1c)で表される化合物(低分子化合物(1c))も、同様の方法によって合成した。
【0126】
次いで、高分子化合物(8)及び低分子化合物(1d)を含む有機半導体組成物を用いて、図13に示す構造を有する有機薄膜トランジスタを作製した。
【0127】
有機薄膜トランジスタの製造においては、まず、ゲート電極となる高濃度にドーピングされたn−型シリコン基板31の表面を熱酸化し、200nmのシリコン酸化膜32を形成した。次に、フォトリソ工程によりシリコン酸化膜32上にチャネル長100μm、チャネル幅1mmのソース電極33、ドレイン電極34(シリコン酸化膜側から、クロム、金の順で積層されたもの)を作製した。得られた基板をアセトンで10分間超音波洗浄した後、オゾンUVを30分間照射した。その後、フェニルエチルトリクロロシランのトルエン希釈液に、この基板を2分間浸漬することによって、基板表面をシラン処理した。さらに、パーフルオロベンゼンチオールのイソプロピルアルコール希釈液に、基板を2分間浸漬することによって、基板上に形成した電極(金)の表面を修飾した。
【0128】
また、高分子化合物(8)と低分子化合物(1d)を、溶媒であるテトラリンに溶解して、両化合物の混合物(有機半導体組成物)の濃度が0.4重量%である溶液を調製し、これをメンブランフィルターでろ過して塗布液(有機半導体インク)を調製した。なお、高分子化合物(8)と低分子化合物(1d)との重量比は、1:1となるようにした。
【0129】
その後、得られた塗布液を、上記の表面処理した基板上にスピンコート法により塗布し、110℃のホットプレートで3分間乾燥させることにより、基板上にソース電極33及びドレイン電極34を覆うようにして、約30nmの厚さを有する高分子化合物(8)及び低分子化合物(1d)を含む有機薄膜(有機半導体層35)を形成した。
【0130】
上述のようにして得られた有機薄膜トランジスタを複数作製し、それらのうちの5つの素子について、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定した。かかる測定により得られた伝達特性から、5つの素子の有機薄膜トランジスタによる電界効果移動度(移動度)のメジアン値を算出したところ0.37cm/Vsであった。また5つの素子の電界効果移動度(移動度)の変異係数(標準偏差÷平均値×100)は、12.3%であった。この変異係数が小さいほど、素子間の移動度のばらつきが小さい、すなわち、有機薄膜が均一な特性を有していることを意味している。
【0131】
[比較例1]
有機薄膜の構成材料として、高分子化合物(8)のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。5つの有機薄膜トランジスタについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定した。かかる測定結果から算出した、電界効果移動度(移動度)のメジアン値は0.0032cm/Vsであり、変異係数は14.7%であった。このように、比較例1では、実施例1と比較して、変異係数は同程度であったが、移動度が著しく低くなった。
【0132】
[実施例2]
低分子化合物(1d)に代えて、低分子化合物(1b)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。5つの有機薄膜トランジスタについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定した。かかる測定結果から算出した、電界効果移動度(移動度)のメジアン値は0.13cm/Vsであり、変異係数は38.6%であった。
【0133】
[実施例3]
キャリア輸送性を有する高分子化合物として、式(9)で表される化合物(高分子化合物(9))を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。なお、高分子化合物(9)は、当該化合物のみからなる有機薄膜(有機半導体層)を備える図13に示す構造の有機薄膜トランジスタを形成した場合、電界効果移動度が0.0035cm/Vsとなる化合物である。
【0134】
高分子化合物(9)の合成においては、まず、モノマーである9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ビス(ジメチルボレート)と5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェンとを、50:50の割合で混合し、これを用いて特開2009−108228号公報に記載されている方法を行うことにより、高分子化合物(9)を得た。この高分子化合物(9)のポリスチレン換算の重量平均分子量は61,000であり、数平均分子量は32,000であった。
【化10】

【0135】
そして、5つの有機薄膜トランジスタについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、そのトランジスタ特性を測定した。かかる測定結果から算出した、電界効果移動度(移動度)のメジアン値は0.46cm/Vsであり、変異係数は3.7%であった。
【0136】
[実施例4]
高分子化合物(8)と低分子化合物(1d)との重量比を、高分子化合物(8):低分子化合物(1d)=25:75としたこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。5つの有機薄膜トランジスタについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定した。かかる測定結果から算出した、電界効果移動度(移動度)のメジアン値は0.84cm/Vsであり、変異係数は9.0%であった。
【0137】
[実施例5]
高分子化合物(8)と低分子化合物(1d)との重量比を、高分子化合物(8):低分子化合物(1d)=40:60としたこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。5つの有機薄膜トランジスタについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、そのトランジスタ特性を測定した。かかる測定結果から算出した、電界効果移動度(移動度)のメジアン値は0.016cm/Vsであり、変異係数は11.9%であった。
【0138】
[比較例2]
高分子化合物(8)に代えて、キャリア輸送性を有しない高分子化合物である式(10)で表される高分子化合物(絶縁性高分子化合物(10)、ポリスチレン換算の重量平均分子量:18,100、数平均分子量:18,000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜トランジスタを作製した。
【化11】

【0139】
5つの有機薄膜トランジスタについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定した。かかる測定結果から算出した、電界効果移動度(移動度)のメジアン値は0.049cm/Vsであり、変異係数51.0%であった。このように、比較例2では、移動度が低く、且つ変異係数も大きくなった。
【0140】
[実施例6]
ソース電極及びドレイン電極のチャネル長を20μmとし、チャネル幅を2mmとしたこと、及び、有機薄膜を形成するための塗布液として、高分子化合物(8)と低分子化合物(1c)とを組み合わせたものを用い、且つそれらの割合を変えた各種の塗布液をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして、有機薄膜の組成が異なる各種の有機薄膜トランジスタを作製した。塗布液としては、高分子化合物(8)と低分子化合物(1c)との重量比(高分子化合物(8):低分子化合物(1c))が、それぞれ100:0、70:30、50:50、28:72及び10:90であるものをそれぞれ用いた。
【0141】
各塗布液を用いて得られた有機薄膜トランジスタのそれぞれ5つずつについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定し、それに基づいて電界効果移動度(移動度)のメジアン値及び変異係数を算出した。得られた結果を、塗布液における高分子化合物(8)と低分子化合物(1c)との重量比とあわせて表5に示す。
【表5】

【0142】
表5に示されるように、高分子化合物(8)の割合が、高分子化合物(8)及び低分子化合物(1c)の合計100質量部中、5質量部以上30質量部未満である場合、高い電界効果移動度が得られるのに加え、変異係数が極めて低くなることが判明した。
【0143】
[実施例7]
高分子化合物(8)及び低分子化合物(1b)を含む有機半導体組成物を用いて、図1に示す構造を有する有機薄膜トランジスタを作製した。
【0144】
この有機薄膜トランジスタの製造においては、まず、ガラス基板(基板1)に対し、アセトンで10分間超音波洗浄した後、オゾンUVを30分間照射した。次に、基板1上に、蒸着法によりソース電極5及びドレイン電極6(基板側から、クロム、金の順で積層されたもの)を形成した。このときのソース電極5及びドレイン電極6のチャネル長は20μm、チャンネル幅は2mmとした。その後、フェニルエチルトリクロロシランのトルエン希釈液に、基板を2分間浸漬することにより、基板表面をシラン処理した。さらに、パーフルオロベンゼンチオールのイソプロピルアルコール希釈液に、基板を2分間浸漬することにより、基板上に形成した電極(特に金)の表面を修飾した。
【0145】
また、高分子化合物(8)と低分子化合物(1b)を、これらの化合物の重量比が所定の比となるように溶媒であるキシレンに溶解して、両化合物の混合物(有機半導体組成物)の濃度が0.4重量%である溶液を作製し、これをメンブランフィルターでろ過して塗布液を調製した。なお、塗布液としては、高分子化合物(8)と低分子化合物(1b)との重量比(高分子化合物(8):低分子化合物(1b))が、25:75、50:50及び75:25となるものをそれぞれ調製した。
【0146】
その後、得られた塗布液を、上記の表面処理した基板上にスピンコート法により塗布し、110℃のホットプレートで3分間乾燥させることにより、基板上にソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして約30nmの厚さを有する高分子化合物(8)及び低分子化合物(1b)を含む有機薄膜(有機半導体層2)を形成した。
【0147】
この有機薄膜上に、テフロン(登録商標)製の絶縁膜をスピンコート法により約300nmの厚さになるよう成膜し、80℃で10分間熱処理して、絶縁層3を形成した。さらに、この絶縁膜3上に、蒸着法によりアルミニウムを成膜して、ゲート電極4を形成した。
【0148】
各塗布液を用いて得られた有機薄膜トランジスタのそれぞれ5つずつについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定した。それに基づいて電界効果移動度(移動度)のメジアン値及び変異係数を算出した。得られた結果を、塗布液における高分子化合物(8)と低分子化合物(1b)との重量比とあわせて表6に示す。
【表6】

【0149】
表6に示されるように、高分子化合物(8)の割合が、高分子化合物(8)及び低分子化合物(1b)の合計100質量部に対して25重量部又は75重量部である場合は、50重量部である場合に比べて、電界効果移動度が高く、且つ変異係数が小さい結果となった。
【0150】
[実施例8]
高分子化合物(8)及び低分子化合物(1b)を含む有機半導体組成物を用いて、実施例7と同様にして、図1に示す構造を有する有機薄膜トランジスタを作製した。
【0151】
高分子化合物(8)と低分子化合物(1b)の重量比(高分子化合物(8):低分子化合物(1b))としては、実施例7の比に加えて、0:100、5:95、20:80、27:73、29:71、30:70、70:30、71:29、80:20及び100:0となるものをそれぞれ調製した。
【0152】
各塗布液を用いて得られた有機薄膜トランジスタのそれぞれ5つずつについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定し、それに基づいて電界効果移動度(移動度)のメジアン値及び変異係数を算出した。得られた結果を、塗布液における高分子化合物(8)と低分子化合物(1b)との重量比とあわせて表7に示す。
【0153】
【表7】

【0154】
[実施例9]
キャリア輸送性を有する高分子化合物として式(11)で表される化合物(高分子化合物(11))を、低分子化合物として上述した式(1b)で表される化合物(低分子化合物(1b))を、それぞれ準備した。
【0155】
高分子化合物(11)は、以下のようにして合成した。まず、モノマーである2,6−ジブロモ−4,4−ジヘキサデシルシクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]ジチオフェン3.8g(4.9mmol)と4,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゾ−2,1,3−チアジアゾール1.9g(4.9mmol)とを、50:50の割合で混合し、テトラヒドロフランを170mL、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムを89mg、トリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフルオロボレートを0.11g入れて撹拌した。この溶液に、2mol/Lの炭酸カリウム水溶液を24mL滴下し、3時間還流させた。反応液に、フェニルボロン酸を0.11g加えて、1時間還流させた。次に、反応液にN,N−ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物を0.1g加えて、3時間還流させた。その後、反応液を水に注ぎ、トルエンを加え、トルエン層を抽出した。トルエン溶液を酢酸水溶液及び水で洗浄した後、トルエン溶液をアセトンに滴下し、析出物を得た。析出物をクロロホルムに溶解させ、クロロホルムを展開溶媒として用いたシリカゲルカラムで精製を行った。精製後のクロロホルム溶液をメタノールに滴下し、析出物をろ過し、高分子化合物(11)を得た。高分子化合物(11)のポリスチレン換算の重量平均分子量は、46,000であり、数平均分子量は、22,000であった。
【化12】

【0156】
次いで、高分子化合物(11)及び低分子化合物(1b)を含む有機半導体組成物を用いて、実施例7と同様にして、図1に示す構造を有する有機薄膜トランジスタを作製した。
【0157】
高分子化合物(11)と低分子化合物(1b)の重量比(高分子化合物(11):低分子化合物(1b))としては、0:100、25:75、30:70、50:50、70:30、75:25及び100:0となるものをそれぞれ調製した。
【0158】
各塗布液を用いて得られた有機薄膜トランジスタのそれぞれ5つずつについて、ソース・ドレイン間電圧Vsdを−40Vに設定し、ゲート電圧Vgを20〜−40Vに変化させた条件で、トランジスタ特性を測定し、それに基づいて電界効果移動度(移動度)のメジアン値及び変異係数を算出した。得られた結果を、塗布液における高分子化合物(11)と低分子化合物(1b)との重量比とあわせて表8に示す。
【表8】

【符号の説明】
【0159】
1…基板、2…有機半導体層、2a…有機半導体層、3…絶縁層、4…ゲート電極、5…ソース電極、6…ドレイン電極、7a…第1の電極、7b…第2の電極、8…電荷発生層、11…保護膜、12…層間絶縁膜、13…下部電極(陽極)、14…発光素子、15…上部電極(陰極)、16…バンク部、17…封止部材、18…基板、100…第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、110…第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、120…第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、130…第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、140…第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、150…第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、160…第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、200…実施形態に係る太陽電池、300…第1実施形態に係る光センサ、310…第2実施形態に係る光センサ、320…第3実施形態に係る光センサ、400…実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア輸送性を有する高分子化合物と、低分子化合物と、を含み、
前記低分子化合物が、式(1)で表される構造を有するものであり、且つ、
前記高分子化合物と前記低分子化合物との合計100質量部に対する、前記低分子化合物の含有割合が、5〜95質量部である、ことを特徴とする有機半導体組成物。
【化1】


[式中、Eは硫黄原子又はセレン原子を表し、3つのEはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。式中の芳香環は、置換基を有していてもよい。]
【請求項2】
前記高分子化合物が、アリールアミン構造、フルオレン構造、及びチオフェン構造のうちの少なくとも一種の構造を含む繰り返し単位を有する、ことを特徴とする請求項1記載の有機半導体組成物。
【請求項3】
前記高分子化合物と前記低分子化合物との合計100質量部に対する、前記高分子化合物の含有割合が、5質量部以上30質量部未満であるか、又は、70質量部を超え95質量部以下である、ことを特徴とする請求項1又は2記載の有機半導体組成物。
【請求項4】
前記高分子化合物と前記低分子化合物との合計100質量部に対する、前記高分子化合物の含有割合が、5質量部以上30質量部未満である、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機半導体組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機半導体組成物から構成される、ことを特徴とする有機薄膜。
【請求項6】
ソース電極及びドレイン電極と、これらの電極間の電流経路となる有機半導体層と、前記電流経路を通る電流量を制御するゲート電極と、を備え、
前記有機半導体層が、請求項5記載の有機薄膜からなる、ことを特徴とする有機薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−39103(P2012−39103A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154843(P2011−154843)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】