説明

有機機能層及び有機機能性素子の製造方法並びに有機機能性素子製造装置

【課題】有機機能層を印刷法で作製した場合において、高沸点溶を除去乾燥する際に有機機能性素子の特性の低下が起きず、高性能な有機EL素子、有機太陽電池および有機薄膜トランジスタのような有機機能性素子の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素系溶媒等の化学的に不活性でかつ揮発性の高い溶媒を乾燥溶媒として、有機機能層を塗工した基板を、乾燥溶媒を満たしたリンス層に浸漬する、又は蒸気若しくは霧状の乾燥溶媒を噴霧することにより有機層塗工液の溶媒を除去する有機機能層の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に塗布された有機膜の製造する装置に関するものである。また乾燥工程を含む有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とする)、有機太陽電池および有機機能層トランジスタ等、有機機能性素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材の薄層軽量化やフレキシブル化を目標とした、有機機能性材料を用いた有機EL素子、有機太陽電池、有機機能層トランジスタなどの有機機能性素子の開発が盛んに行われている。これらの有機機能性素子は一般に数十から数千nm程度の膜厚を有する有機機能層を基板上にパターン形成する必要がある。
【0003】
有機機能性材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。また、蒸着法では蒸着源が通常ボートのピンホールや坩堝のような点形状であるため、大型化した基板に対し膜厚が均一になるように層を形成するのが困難である。また、蒸着法は高真空下で行われることが多く、そのために大掛かりな真空装置が必要となる。
【0004】
一方、有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散させた塗工液(インキ)にし、これをウェットプロセスにて薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法等がある。特に高精細にパターニングするには、塗り分け、パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる(例えば、特許文献1、2、3、非特許文献1)。
【0005】
印刷法により有機機能性素子を製造する方法は非常に有効である。特に高分子材料を用いた場合には、容易に平坦で均一な有機機能層を基板上にパターン形成することが可能である。しかしながら、基板上に印刷された有機機能層は溶媒を含むために、その溶媒を除去するための乾燥工程が必要となる。その方法としては、減圧乾燥法(例えば特許文献4)、加熱乾燥法(例えば特許文献5)、加圧加熱乾燥法(特許文献6)、を用いた方式が提案されている。
【特許文献1】特開2003−17261号公報
【特許文献2】特表2003−527955号公報
【特許文献3】特表2005−531134号公報
【特許文献4】特開平9−97679号公報
【特許文献5】特開2002−313567号公報
【特許文献6】特開2005−26000号公報
【非特許文献1】情報科学用有機材料第142委員会C部会(有機光エレクトロニクス)第5回研究会資料 印刷プロセスによる有機機能層太陽電池(20〜27ページ)
【0006】
しかしながら、通常、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により基板上に有機機能層を形成し、有機機能性素子を製造する場合には印刷工程中の塗工液の乾燥を防ぐために、大気圧での沸点が150度以上と非常に高い沸点を有する溶媒を用いることが多く、大気圧若しくは減圧・加圧条件下における加熱乾燥では有機機能層から溶媒を十分に除去することが出来ない。そして、有機機能層にこのような高沸点溶媒が残留することによって、有機機能素子の特性が高沸点溶媒を用いない場合と比較して低下若しくは劣化するという問題があった。
【0007】
また、有機機能層に残留する高沸点溶媒(以下、残留溶媒)の除去を目的として乾燥を十分に行うために高い温度をかけると有機機能性素子を構成する材料の劣化を招く恐れがあり、更には軽量化・フレキシブル化を目指す際に基板にプラスチック製フィルムを用いる場合には、高熱により基板そのものが形状変化や劣化を起こすという問題があった。加えて、加熱時に酸素や水が共存すると、それらが有機機能層と化学反応を起こし素子特性を劣化させるという問題もあった。特に酸素は、機能性材料として多く用いられるπ電子系分子の二重結合部位と反応を起こしやすいため、有機機能層を高温で乾燥させる場合には窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下で行う必要がある場合が多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、有機機能層を印刷法で作製した場合においても、残留溶媒の除去に伴う有機機能性素子の特性の低下が起きず、高性能な有機機能性素子を製造可能とする有機膜の製造方法を提供し、さらに当該製造方法を用いた有機機能性素子である有機EL素子、有機太陽電池および有機機能層トランジスタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、溶媒乾燥の際に有機機能層内の残留溶媒(第一の溶媒)を揮発性の高い化学的に不活性で、揮発性の高い溶媒(第二の溶媒)に置換する事で、上記課題が解決できることを見いだした。
【0010】
請求項1に係る発明は、第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解もしくは分散した塗工液を、印刷法を用いて基板上の塗工膜とする、該塗工膜からなる有機機能層の製造方法であって、前記塗工膜を、化学的に不活性であり、有機機能性材料に溶解しないが有機能層塗工液の溶媒(第一の溶媒)には浸透し、相対的に施工温度での蒸気圧が高い乾燥溶媒(第二の溶媒)を用いて、有機機能層が形成された基板をその乾燥溶媒に浸漬若しくは乾燥溶媒の蒸気に接触させる、つまり溶媒雰囲気中に有機機能層を晒す工程により乾燥させる有機機能層の製造方法である。
【0011】
また、請求項2に係る発明は前記有機機能層の製造方法であって、液体の前記第二の溶媒を満たしたリンス槽に前記基板を浸漬する工程と、次に第二の溶媒の蒸気にその基板を接触させる工程と、を有することを特徴とする有機機能層の製造方法である。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、前記有機機能層の製造方法であって、前記基板を10℃以上25℃以下の温度に冷却するとともに、加熱し気体化した前記第二の溶媒の雰囲気にその基板上の塗工膜を接触させる工程を有することを特徴とする有機機能層の製造方法である。
【0013】
また、請求項4に係る発明は前記有機機能層の製造方法であって、霧状の前記第二の溶媒を前記基板に噴霧することを特徴とする有機機能層の製造方法である。
また、請求項5に係る発明は、前記有機機能層の製造方法であって、前記塗工膜を前記第二の溶媒に接触させる工程と、次に前記基板を加熱する工程と、を有し、かつ上記工程が不活性ガス雰囲気で満たされた同一空間内で行われることを特徴とする有機機能層の製造方法である。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、前記第二の溶媒の液体に有機機能層を浸漬させたとき、浸漬直後の前記有機機能層の表面粗さRaに対する浸漬させてから24時間後の前記有機機能層の表面粗さRaの変化率が1%未満であり、24時間後の前記第二の溶媒へ溶解した前記有機機能層の重量が、乾燥工程後の前記有機機能層の重量の0.1%未満であることを満たす溶媒を前記第二の有機溶媒として用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機機能層の製造方法である。
【0015】
また、請求項7に係る発明は、前記第二の溶媒の表面張力が25mN/m以下であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の有機機能層の製造方法である。
また、請求項8に係る発明は、前記第二の溶媒が、一分子中フッ素原子を5個以上含む溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の有機機能層の製造方法である。
【0016】
また、請求項9に係る発明は、有機機能層を含む有機機能性素子の製造工程において、
そのうち少なくとも一層の有機機能層を、請求項1乃至8に記載の有機機能層の製造方法を用いることを特徴とする、有機機能性素子の製造方法である。
【0017】
さらに、上記有機機能層及び有機機能性素子の製造方法を実現する製造装置として、請求項10に係る発明は、装置内において基板を移動させる手段を有する基板ホルダーと、超音波発振装置を備え、乾燥溶媒の液体を保持することが可能な超音波槽と、乾燥溶媒の液体を保持することが可能なリンス槽と、乾燥溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽と、を具備する有機機能性素子製造装置である。
【0018】
また、請求項11に係る発明は、乾燥溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽と、蒸気槽の直上部に設置された基板設置部と、基板設置部に接続された基板冷却器と、を具備する有機機能性素子製造装置である。
【0019】
また、請求項12に係る発明は、基板設置部を備えた、移動可能な手段を有する移動台と、噴霧位置が前記移動台上に一致する、乾燥溶媒の液体を霧状にして噴霧する手段と、吹き付け位置が前記移動台上に一致する、気体吹きつけ装置と、を具備し、かつ前記噴霧する手段及び前記気体吹き付け装置が、前記移動台の移動方向に対して前記噴霧する手段の噴霧位置、前記気体吹き付け装置の吹き付け位置、の順となるように設置されている有機機能性素子製造装置である。
【0020】
また、請求項13に係る発明は、密閉可能なチャンバーと、前記チャンバー内の雰囲気を不活性ガスで置換する手段と、乾燥溶媒の液体を霧状にして噴霧する手段と、を具備する有機機能性素子製造装置である。
【0021】
また、請求項14に係る発明は、請求項13に記載の有機機能性素子製造装置であって、基板を加熱する手段を有することを特徴とする有機機能性素子製造装置である。
【0022】
また、請求項15に係る発明は、請求項14に記載の有機機能性素子製造装置であって、基板設置部を備えた、移動可能な手段を有する移動台と、噴霧位置が前記移動台上に一致する、前記噴霧する手段と、加熱位置が前記移動台上に一致する、前記基板を加熱する手段と、を具備し、かつ前記噴霧する手段及び前記加熱する手段が、前記移動台の移動方向に対して、前記噴霧する手段の噴霧位置、前記加熱する手段の加熱位置、の順となるように設置されていることを特徴とする有機機能性素子製造装置である。
【0023】
また、請求項16に係る発明は、前記基板を加熱する手段が、赤外線ヒーターによる加熱であることを特徴とする請求項14又は15に記載の有機機能性素子製造装置である。
【発明の効果】
【0024】
印刷法によってパターニングされた有機機能層に含まれている第一の溶媒(以下、残留溶媒という)が、請求項1に記載される方法を用いることにより、第二の溶媒(以下、乾燥溶媒という)の置換が起こり、加熱等による有機機能層の劣化を起こすことなく、乾燥させる事が可能となった。また乾燥溶媒としてフッ素系溶媒、とくに5個以上のフッ素原子を有する分子からなるフッ素系溶媒を用いることにより、濡れ性がよく、有機機能性材料に対して劣化を起こすことなく乾燥させることができた。とくに、乾燥溶媒の表面張力が25mN/m以下とすることにより、有機機能層への乾燥溶媒の浸透が高まり、高い乾燥能力を得ることができた。これにより、有機機能層を損傷することなく、容易に残留溶媒を除去することが可能となった。さらに、請求項6の条件を満たすような乾燥溶媒を用いることにより、より有機機能層への影響を低減した製造が可能となる。以上のような製造方法により、請求項10乃至16に記載するような製造装置を用いることによって、結果として高品質な有機機能性素子が製造できる。
【0025】
また、請求項3に記載されるように、10℃以上25℃以下の温度に冷却するとともに、加熱し気体化した前記第二の溶媒の雰囲気にその基板上の塗工膜を接触させることによって、基板上に乾燥溶媒を結露させ、有機機能層中に浸透させることが可能となり、効率的に残留溶媒の除去ができる。また、請求項11に記載の有機機能性素子製造装置を用いることによって、上記製造方法が実現可能となった。
【0026】
また、請求項4に記載されるように、霧状の乾燥溶媒を噴霧して残留溶媒を溶媒置換することにより、乾燥溶媒を加熱したり、あるいは乾燥溶媒の液体に有機機能層を浸漬させたりする必要がなくなり、より有機機能層への影響の少ない洗浄乾燥工程及び製造方法が実現できた。
【0027】
また、請求項5に記載の発明によって、乾燥溶媒による残留溶媒の除去の後、とくに基板の加熱処理を行う場合、不活性ガス雰囲気で満たされた密閉空間内で処理することにより、酸素等による有機機能層の損傷を回避することができた。当該発明は、とくに複数の有機機能層を形成する場合に有効である。
【0028】
また、請求項9に記載の発明によって、本発明の有機機能層の製造方法を用いて有機機能性素子を製造することにより、乾燥工程による損傷や、また残留溶媒による輝度や発光寿命の低下等を低減した、高品質な有機機能性素子を製造することができた。
【0029】
さらに、本発明の有機機能層の製造方法を可能とする装置の発明として、請求項10に記載の有機機能性素子製造装置では、乾燥溶媒を保持した塗工した基板を洗浄置換するための超音波槽と、置換された残留溶媒を基板上から除去するリンス層、基板を乾燥させるための蒸気槽をそれぞれ備えた製造装置であることによって、効率的に残留溶媒を置換し、有機機能層基板を乾燥させることができる。
【0030】
また、請求項11に記載の発明では、乾燥溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽と、基板冷却装置を備えることによって、請求項3に記載するような製造方法を可能となった。この発明によって、一箇所で残留溶媒と乾燥溶媒の置換から乾燥までを行えるために、効率的に残留溶媒と乾燥溶媒を置換でき、さらには浸漬させることがないので不純物の付着も避けることが出来る。
【0031】
また、請求項12に記載の発明では、移動台を備えることにより、連続的に有機機能層の製造を行うことが可能となり、有機機能性素子の生産性を向上させることができる。
【0032】
また、請求項13及び14に記載の発明では、チェンバー内に霧状の乾燥溶媒を噴霧する手段を備えた製造装置とすることで、外気の影響を回避でき、さらには加熱時における酸素等による損傷を避けることができた。不活性ガス内で加熱する手段を備えることにより、迅速に乾燥工程を処理することが可能となり、さらには有機機能層表面の熱処理することが可能となる。
【0033】
また、請求項15に記載の発明では、前項の製造装置がさらに移動台上に、製造工程に沿った順序で配置されていることによって、連続的に有機機能性素子を製造することが可能となった。さらに、請求項16の発明によって、基板を加熱する手段として赤外線ヒーターを用いることにより、基板に直接接触させることなく加熱を行うことが可能となり、移動台とは独立させて備えることができるために、各工程に掛かる時間が短縮され、効率的な有機機能性素子の製造ができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0035】
図1の電荷輸送層若しくは電荷移動層103a、有機発光層若しくは活性層103b、図2の有機半導体層205が本発明での有機機能層に当たる。「背景技術」で述べたように、有機機能層の微細パターニングには印刷法が優れている。そして有機機能性素子製造の上で加熱および酸素・水に弱い有機機能層から如何に溶媒を除去し乾燥させるかが本発明にとって重要な点であるから、各機能性素子の製造で共通する印刷法を用いた有機機能層の成膜から乾燥までをまず説明する。
【0036】
(有機機能層の成膜方法)
本発明による有機機能層の成膜方法について、図3に基づき説明する。
図3に有機機能性材料からなる塗工液(インキ)を、基板上に凸版印刷法によりパターン印刷する際の凸版印刷装置の概略図に示した。本製造装置はインクタンク301とインキチャンバー302とアニロックスロール303と凸部が設けられた凸版306がマウントされた版胴305を有している。インクタンク301には、溶剤に溶解若しくは分散した有機機能性材料のインキが収容されており、インキチャンバー302にはインクタンク301よりインキが送り込まれるようになっている。アニックスロール303はインキチャンバー302のインキ供給部に接して回転可能に支持されている。
【0037】
アニックスロール303の回転に伴い、アニックスロール表面に供給されたインキ層304は均一な膜厚に形成される。その際、図示していないがドクターナイフで余分なインキを除去してもよい。このインキ層はアニックスロールに近接して回転駆動される版胴305にマウントされた凸版306の凸部に転移する。平台308には、被印刷基板307が版306の凸部による印刷位置にまで図示していない搬送手段によって搬送されるようになっている。そして、凸版306の凸部にあるインキは被印刷基板307に対して印刷される。
【0038】
凸版には感光性樹脂版を用いる。感光性樹脂版には、露光した樹脂版を現像する際に用いる現像液が有機溶剤である溶剤現像タイプのものと現像液が水である水現像タイプのものがある。溶剤現像タイプのものは水系のインキに対し耐性を示し、水現像タイプのものは有機溶剤系のインキに耐性を示すため、印刷するインキの物性に合わせて適宜選択する必要がある。
【0039】
有機機能性材料を溶媒に溶解若しくは分散した塗工液(インキ)を用いて凸版印刷法により基板上に有機機能層を形成する際には、有機機能性材料を塗工液化するために用いられる溶媒としては高沸点溶媒が用いられる。これは、低沸点溶媒を用いた場合には、塗工液であるインキが、インキ供給体であるインキチャンバーからアニロックスロールに供給され、アニロックスロールから凸版へと転写される工程において徐々に乾燥し、凸版の凸部にあるインキを基板へと転写する際に、塗工液の乾燥により塗工液が基板に転写されないという問題が発生する。すなわち、印刷工程で、塗工液が乾燥することによる転写不良を防ぐために塗工液の溶媒としては高沸点溶媒が用いられる。
【0040】
また、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法を用いて、基板上に有機機能層を形成する場合においても、有機機能性材料を塗工液化するために用いられる溶媒としては高沸点溶媒が用いられる。凹版オフセット印刷法は、インキ供給体から凹版にインキが供給する工程と、凹版から弾性を有するシリコーンブランケットにインキを転写する工程と、ブランケット上にあるインキパターンを基板上に転写する工程からなるものであるが、低沸点溶媒を用いた場合には印刷工程中に塗工液が乾燥してしまうことにより、ブランケットから基板上にインキが転写されないという問題が発生する。
【0041】
凸版反転オフセット印刷法は、インキ供給体からブランケット一面にインキを供給する工程と、凸部パターンを有する除去版を用いてブランケット上のインキを除去版の凸部に転写させることによりブランケット上にインキパターンを形成する工程と、ブランケット上にあるインキパターンを基板上に転写する工程からなるものであるが、低沸点溶媒を用いた場合には印刷工程中に塗工液が乾燥してしまうことにより、ブランケットから基板上にインキが転写されないという問題が発生する。
【0042】
このように、印刷法を用いて有機機能性材料を含む塗工液を基板上にパターン形成し、有機機能層を形成する場合には、印刷工程中の塗工液の乾燥を防ぐために高沸点溶媒を用いることが必要不可欠である。
【0043】
また、インクジェット印刷法によって基板上に有機機能層を形成する場合にあっても、印刷工程中の塗工液の乾燥を考慮する必要はないが、高沸点溶媒が用いられる。インクジェット印刷法は、インクジェットヘッドにあるインクジェットノズルからバンク(隔壁)によって仕切られた領域に塗工液を滴下することにより、インキパターンを形成するものである。インクジェット法においては、低沸点溶媒を用いて有機機能層を形成した場合、基板上に滴下された塗工液の急激な乾燥により、バンク内において有機機能層の膜厚が大きく変化してしまい、均一な膜厚を有する有機機能層を得ることができなくなってしまうという問題が発生する。したがって、印刷法としてインクジェット法においても高沸点溶媒を用いる必要がある。
【0044】
(有機機能層の洗浄・乾燥方法)
本発明による有機機能層の有機機能層の洗浄・乾燥方法について、説明する。
【0045】
上述のように、有機機能層を印刷法により形成する場合には高沸点溶媒を用いる必要があり、このために加熱乾燥では溶媒を有機機能層の塗工膜から除去するために長時間掛かり、また必ずしも十分に除去することは出来ない。さらには、有機機能層を高温下に長時間晒すことによって、有機機能素子の損傷・劣化、ひいては有機機能性素子の特性の低下につながってしまう。
【0046】
そこで本発明においては、有機機能層を劣化させず、かつ塗工液溶媒を十分に除去するために、乾燥溶媒による残留溶媒の置換する工程と、この乾燥溶媒を有機機能層から除去する工程によって塗工膜を乾燥させ、有機機能層を形成することとした。具体的には、乾燥溶媒に基板を浸漬させ、洗浄・リンスを行い、引き上げて乾燥溶媒を除去する手法、乾燥溶媒蒸気を冷却した基板に吸着させて残留溶媒を置換する手法、乾燥溶媒を基板に噴霧する手法等がある。詳細は後述の本発明の製造装置とともに説明する。
【0047】
本発明に用いられる乾燥溶媒としては、溶媒置換させるために、残留溶媒と混合可能な溶媒である必要があり、かつ有機機能層には溶解しない不活性な溶媒である必要がある。
【0048】
ところで、有機機能性材料として使用されている材料の多くは芳香環の構造を有するπ電子系の材料である。その様な化合物はトルエンやキシレンなどの芳香族系の溶媒に溶け易い。また、π電子系の材料にイオン性の置換基やドーパントを混合して用いる場合もあるが、その場合はアルコールなどの極性が高い溶媒に溶け易い。フッ素原子を多く含む溶媒は上述の有機機能性材料からなる膜に対しては非常に低い溶解性を示すが、前述の芳香族系溶媒やアルコールなどの溶媒とは混合可能であるという特徴を有する。従って、フッ素系溶媒は乾燥溶媒として上述のような条件を満たすものであり、そのため有機機能層を溶解させること無く、その中に含まれる有機機能性材料の塗工液(インキ)の残留溶媒を乾燥溶媒に置換することが可能となる。更にフッ素原子を多く含む溶媒は、同等の分子量の炭化水素溶媒に比べ揮発性が高く、濡れ性も良好である。
【0049】
また、乾燥溶媒と有機機能層内の残留溶媒を効率的に置換させるためには、有機機能層内に乾燥溶媒を浸透させるために表面張力は低いほうが好ましく、具体的には乾燥溶媒の表面張力は25mN/m以下とすることが好ましい。
【0050】
また、有機機能層内溶媒を置換した後、基板上の乾燥溶媒の除去を迅速におこなうために、乾燥溶媒の蒸気圧が、常温で塗工液の蒸気圧よりも高い必要があり、さらに蒸気圧がより高いほど好ましい。具体的には、乾燥溶媒の乾燥工程における蒸気圧が、少なくとも5000Pa以上であることが好ましい。乾燥溶媒の揮発性が十分に高ければ真空乾燥機のような特殊な乾燥装置や、不活性ガス雰囲気を作る必要がなくなり、製造装置のコストを抑えることや、製造時間を短縮することが可能となる。
【0051】
また、有機機能層内の残留溶媒を置換する性質と有機機能性材料の乾燥薄膜を溶解または剥離させない性質を有する必要がある。具体的には、乾燥溶媒に有機機能層の基板を浸漬させたとき、有機機能層膜が溶解および剥離を起こすことは好ましくないので、溶解および剥離が起こらない基準として、浸漬直後の有機機能層の表面粗さRa(JIS B0601−1994)に対する浸漬後24時間後の有機機能層の表面粗さRaの変化率が1%未満であり、同様に24時間後の前記第二の溶媒へ溶解した前記有機機能層の重量が、乾燥工程後の有機機能層の重量の0.1%未満であることが好ましい。
【0052】
このような乾燥溶媒としては、特に一分子中にフッ素原子を5個以上含む化合物を好適に用いることができる。具体的には、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、トリデカフルオロヘキシルメチルエーテルなどのフルオロエーテル類、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、オクタフルオロ−2−ブテンなどのフルオロアルカン類並びにフルオロアルケン類、ヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどのフルオロアリール類、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールなどのフルオロアルコール類などを好適に用いることができる。即ち、本発明にあっては乾燥溶媒として、一分子中にフルオロ基(フッ素基)を置換基として5つ以上含むエーテル類、アルカン類、アルケン類、アリール類、アルコール類等を好適に使用することができる。
【0053】
(有機機能層の製造装置)
次に、本発明の上述の有機機能層の製造方法を用いた製造装置の具体例を図面に基づいて説明する。図示する各装置は本発明の製造装置の形態の例であって、これに限らない。
【0054】
まず図4に示すような形態の製造装置について説明する。図4の製造装置は、基板を固定する基板ホルダー401、乾燥溶媒が満たされた超音波層402、乾燥溶媒で満たされたリンス層404、冷却装置407、乾燥溶媒の蒸気を発生させる手段をもつ蒸気槽408を有している。この図4の装置を用いた乾燥工程は以下に示す通りである。
【0055】
まず、有機機能層が塗布された基板を基板ホルダー401に設置し、乾燥溶媒で満たされた超音波槽402にて洗浄する。基板は予め、加熱などの予備乾燥を行っても良い。また、均一な洗浄・乾燥効果を得るために、超音波槽402内で基板ホルダー401を揺動させても良い。超音波発信器403による超音波の出力や周波数、超音波槽402内の乾燥溶媒の温度は任意である。また、超音波槽の数は図4では1つであるが、その数は限定されない。基板上に塗布された有機機能層が剥離しやすい場合には超音波槽は不要である。
【0056】
次に、乾燥溶媒で満たされたリンス槽404に基板ホルダー401を浸漬させる。リンス槽404内の乾燥溶媒は攪拌しても良いし、リンス槽404内で基板ホルダー401を揺動させても良い。リンス槽404内の乾燥溶媒の温度は低い事が好ましい。但し、余りに低すぎるとリンス槽404より基板ホルダー401を引き上げた際に基板表面にて水などの乾燥溶媒以外の液体の結露が起こる恐れがあるので、10℃から25℃程度とする事が好ましい。リンス槽404内の乾燥溶媒の温度を下げる事により、次の蒸気槽での基板温度上昇が抑えられ、洗浄乾燥の効率が良くなる。リンス槽404内に基板ホルダーを浸漬させる時間は任意である。また、このとき、超音波の周波数としては高周波であるほうが好ましく、具体的には500kHz〜3MHzが好ましい。高周波の超音波を用いることにより、基板上に設けられた有機機能層にダメージを与えにくくなる。
【0057】
次に、蒸気槽405に基板ホルダー401を設置する。蒸気槽405は下部にヒーター406が設置されており、そのヒーターが乾燥溶媒408に浸漬されている。乾燥溶媒はヒーターにより加熱され、蒸気槽405上部がその蒸気409で充満している。この蒸気は蒸気槽405上部に設置された冷却部407により冷却され、下部に流れ落ちる。乾燥溶媒の蒸気は、基板ホルダー401内の基板表面に吸着し、基板により冷却されて結露し、蒸気槽405下部に流れ落ちる。その際、有機機能層内の残留溶媒も乾燥溶媒と共に流れ落ちる。基板温度が乾燥溶媒の沸点と同じになった時点で、基板表面での結露が起こらなくなるため、基板ホルダー401を蒸気槽405より引き上げる。引き上げられた基板ホルダーをリンス槽404に浸漬又は冷風に当てる事で冷却させ、再び蒸気槽405内に移して洗浄・乾燥を行っても良い。
【0058】
上記の方法で乾燥された基板上に次の層を更に積層させる場合、密封された空間を移動させて次の工程に移すことで、基板上の塵などの付着物が無い状態で積層を行える。例えば、有機EL素子の有機発光層を乾燥させた後に、その基板を密封空間内を移動させて蒸着装置へ移して陰極層を形成させれば、付着物による短絡やダークスポットの形成などを防ぐことが出来る。
【0059】
図5に示す形態の製造装置は、図4の装置と同様に、乾燥溶媒の蒸気槽405を有し、これを用いて有機機能層から溶媒置換して残留溶媒を除去する。図5の装置は基板冷却器502を有している。ヒーター406に熱せられて蒸気槽405から生じた乾燥溶媒の蒸気が、有機機能層の塗布膜を形成した基板に接触すると、基板表面の温度は基板冷却器によって乾燥溶媒の露点以下に冷却されているために、乾燥溶媒が基板表面に結露し吸着するために、極めて効率的に有機機能層内の在留溶媒との溶媒置換をすることが可能となる。基板を垂直に固定して置くことで、結露した溶媒が蒸気槽内に滴下することとなり、乾燥溶媒として再利用することができる。また、基板冷却器502は図示されていない器具により支持されており、任意のタイミングで蒸気槽405に出し入れを行うことも可能である。
【0060】
基板冷却器502としては基板501を適度に冷却できるものであれば良く、水や空気などの流体を内部に流すことの出来る熱交換器や、ペルチェ素子、熱容量の大きな金属塊などを用いる事が出来る。基板501の冷却温度は乾燥溶媒の沸点より低くなるような温度で有れば良いが、あまりに低すぎると基板冷却器410および基板501を蒸気槽405より取り出した際に基板表面にて水などの乾燥溶媒以外の液体の結露が起こる恐れがある。そのため、基板冷却器410の温度は、乾燥溶媒の露点以下で、さらに10℃以上25℃以上とする事が好ましい。但し、装置内を窒素置換し、乾燥した窒素などが充満した環境下では水の露点が低いため、さらに低温にしてもよい。
【0061】
また乾燥溶媒の蒸気408を発生させる蒸気槽405の温度としては、少なくとも乾燥溶媒の蒸気を生じさせる程度には加熱する必要があるが、有機機能層塗工膜から除去した残留溶媒が、基板に再吸着してしまうことを防ぐために、残留溶媒の沸点以下であることが好ましい。
【0062】
このように図5のような形態の装置を用いれば、蒸気槽405内で基板冷却器502による基板の冷却を行うことにより、基板温度上昇により乾燥溶媒の結露が起こらない現象を避けられ、蒸気に曝す時間が任意となる。また、リンス槽に入れなくても良いので、リンス槽内の乾燥溶媒に含まれる高沸点溶媒やゴミや塵の再付着が避けられる。さらにリンス槽での急冷を行わないので、急激な温度変化により有機機能層の膜質が変化する可能性も避けられる。
【0063】
本発明の方法は、図6〜9に示すように、乾燥溶媒を霧状にして基板に接触させる事も可能である。この方法によれば、溶液内に基板を移動させ浸漬させたり、冷却等によって乾燥溶媒蒸気を再度液体化したりする必要はなく、常温での処理が可能である。
【0064】
図6に示すような形態の装置では、霧発生槽605で超音波霧化装置606により霧状となった乾燥溶媒609が、有機機能層が塗布された基板501上に噴霧され、その液滴が滴り落ちる際に残存溶媒を除去する。霧状の乾燥溶媒が効率よく基板表面にあたるように送風機604を用いても良く、また、吸気口602や排気口603を設けても良い。また、基板より滴り落ちた乾燥溶媒を回収槽607にて回収しても良い。霧吹き洗浄を行えば、乾燥溶媒に熱を加える必要が無くなり装置を断熱材で覆う必要も無くなる。また、基板にも熱がかからないため、熱劣化の心配がない。
【0065】
図7に示すような形態の装置においては、移動台703上に有機機能層が塗布された基板501が置かれ、移動台の上部に設置された乾燥溶媒スプレー装置701によって霧状の乾燥溶媒609を吹きかけることで溶媒置換が施される。図7の装置によれば、基板の乾燥をバッチ毎ではなく、例えば無端ベルト状の移動台703上に基板501を載置してこれを移動させることにより連続的に乾燥工程を行うことが可能となる。また、図7では基板は水平に配置されているが、傾けるかあるいは垂直に配置することで乾燥溶媒が速やかに流れ落ちる様にしても良い。基板より滴り落ちた乾燥溶媒は適宜図示されていない溶媒再生装置より回収、再生利用することも可能である。
【0066】
スプレー701としては、例えば二流体型のノズルを挙げることが出来るが、有機機能層が塗布された基板501に適切な量の洗浄乾燥溶媒を適切な圧力で掛けることで、乾燥溶媒を塗工膜に浸透させ、残留溶媒を置換出来れば特に制限はない。従って、有機機能層の種類および下地との密着性、洗浄乾燥溶媒の性質に合わせて適宜、スプレーの種類や吐出条件を選定すればよい。
【0067】
さらに乾燥溶媒噴霧後に、エアブロアー702を設置することにより、エアブロワーから吹き出した気体により洗浄乾燥溶媒609と共に残存溶媒を除去することができる。なお、スプレー装置のノズルから乾燥溶媒を吐出する際に、乾燥溶媒に超音波を与えてもよい。洗浄乾燥溶媒に超音波を与えることにより、より高い洗浄・乾燥効果を得ることができる。
【0068】
図8に示すような形態の装置においては、窒素等の不活性ガス置換された雰囲気中で有機機能層が塗布された基板501の洗浄乾燥を行うことが可能である。不活性ガス雰囲気中で洗浄乾燥を行うことにより、大気中に含まれる酸素や水が有機機能層に吸着したり有機機能層と反応したりすることで起こる劣化を回避できる。また、基板ホルダー802にホットプレート等の加熱装置を設置しておく事で乾燥溶媒による残留溶媒除去後に、加熱処理を行うことが可能である。
【0069】
後述するように、有機EL素子、有機太陽電池等の有機機能層の製造工程においては、有機機能層を多層構造となるように積層して形成することが多い。この場合、各層の積層工程においては、形成する面にあたる既存の層との界面での混合が問題となる。既存の層を完全に乾燥させた場合においても、各層の材料の関係で、溶解性がある場合には、通常の乾燥のみでは不十分である。そこで最表面の層の材料が架橋反応を起こして不溶化したり、最表面の層とその下にある層との界面で反応が起こし密着性を向上させたりする事で、次に新たに上乗せする層のインキによる溶解を防ぎ、層界面での混合を回避する方法が取られている。このため有機機能層に加熱処理を行うことが一般的に行われている。
【0070】
しかしながら、解決しようとする課題において述べたように、有機機能性材料は酸素などと反応しやすく、特に加熱した場合にはその反応性が上がるため、有機機能層を加熱する際には真空下若しくは窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。そこで図8、あるいは後述の図9に示すように装置内を密閉空間とし、さらに溶媒の除去から加熱処理までを連続して同一の真空内あるいは不活性雰囲気内で行うということで上記の問題が解決できる。
【0071】
また、加熱処理後に冷却するための装置を有していても良く、その場合には図5の装置の説明で記載した基板冷却装置のようなものが使用できる。この場合には、加熱装置が障害とならないように、加熱装置として赤外線を用い、これを基板の正面に備え付けて加熱処理することも可能である。
【0072】
図9に示すような形態の装置では、連続的に基板の処理を行うために、装置に基板を設置してから、処理工程の順に各装置が設置されている。処理前基板ボックス902にて基板ホルダー802に設置された有機機能層が塗工された基板501は、基板搬送レール901に沿って進み、まずスプレー装置701から吐出される霧状の乾燥溶媒によって残留溶媒が置換され、洗浄乾燥する。次に加熱装置903によって加熱処理が為される。
【0073】
加熱処理に用いる加熱装置903としては、公知のものが使用できるが、遠隔から過熱することが出来る赤外線装置によって加熱処理することが好ましい。搬送レールから離れた場所に設置することが可能であるため、単純な構成で連続的に基板処理を行うことが可能になるためである。使用する赤外線としては近赤外線と遠赤外線のいずれを用いても良いが、薄く有機機能層が塗布された基板を効率よく加熱するためには遠赤外線を基板501の表側から照射する方が好ましい。また、基板ホルダー表面の素材としてアルミニウムのような遠赤外線を反射しやすいものを用いると、基板を透過した赤外線が基板裏面からも照射されるため基板への加熱を効率的に行うことが出来る。
【0074】
(有機EL素子、有機太陽電池の素子構成)
次に前記乾燥方法を用いた有機EL素子、有機太陽電池について、図1に基づき説明する。
【0075】
本発明に用いられる基板101としては、透光性があり、ある程度の強度がある基板な
ら制限はないが、具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用い
ることができる。0.2〜1mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄
型の有機EL素子または有機太陽電池を作製することができる。
【0076】
透明導電層102としては、透明または半透明の電極を形成することのできる導電性材料なら特に制限はない。具体的には酸化物としてインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)、インジウムと亜鉛の複合酸化物(以下IZOという)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、亜鉛アルミニウム複合酸化物等があるが、低抵抗であること、対溶剤性があること、透明性があること等からITOを好ましく用いることができ、前記透光性基板101上に蒸着またはスパッタリング法により製膜することもできる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、金属としてアルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0077】
上記、透明導電層102は、必要に応じてエッチングによりパターニングを行う、またはUV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0078】
本発明における有機機能層103は、単層若しくは複数の機能性層を積層させてもよい。有機EL素子の場合では、陽極および陰極の電極間に少なくとも有機発光層を設ける必要があるが、その他にも機能性層として正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等の電荷輸送層を設けることができ、その構成は任意である。
【0079】
また、有機太陽電池の場合には活性層と呼ばれる複数の材料がマルチへテロジャンクションと呼ばれる界面が複雑に絡み合った状態で共存する層を陽極および陰極の電極間に有する必要があるが、この他に、そこで発生した電荷を外に取り出す電荷移動層を有機機能層として設けることができる。有機機能層の厚みは任意であるが、薄すぎると短絡が起き易くなり、厚すぎると素子全体の抵抗が高くなるため、総膜厚としては50〜1000nmであることが好ましい。
【0080】
主に透明導電層102に隣接して設けられる電荷輸送層103aに用いる材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものであれば良く、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル―N,N’−ビス(3−メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン、N,N’―ジ(1―ナフチル)―N,N’―ジフェニル−1,1’―ビフェニル−4,4’―ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子も用いることができるが、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子材料が成膜性の点から好ましい。また、ポリパラフェニレン(PPP)等のポリアリーレン系、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン(PS)等の高分子に、アリールアミン類、カルバゾール誘導体、アリールスルフィド類、チオフェン誘導体、フタロシアニン誘導等の低分子の電荷輸送性を示す材料を混合した物を用いても良い。
【0081】
有機EL素子における有機発光層103bに用いる発光体としては、クマリン系、ペリレン系、ピレン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解若しくは高分子に共重合させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0082】
また、有機EL素子における有機発光層103bと電荷輸送層103aの間に、インターレイヤーと呼ばれる、加熱により電荷輸送層103aとの密着性を増す材料を挟んでも良い。このインターレイヤーにより、有機発光層103bの発光効率が増し、駆動寿命も長く成る事が知られている。この様な材料としては、ポリ(2,7−(9,9−ジ−オクチルフルオロレン))−alt−(1,4−フェニレン−((4−sec−ブチルフェニル)イミノ)−1,4−フェニレン))(TFB)が挙げられる。
【0083】
有機太陽電池における活性層103bに用いる材料としては、光を照射する事により電荷分離を起こすp型・n型半導体材料であればよく、具体的にはp型半導体としてポリチオフェン誘導体やポリフェニレンビニレン誘導体が、n型半導体としてはフラーレン誘導体が挙げられる。
【0084】
これらの材料は低分子の場合は蒸着法を用いて成膜しても良いが、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等の単独または混合溶媒に溶解または分散させて塗布液として用い、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法といったコーティング法や、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により成膜することが可能である。
【0085】
ただし、有機EL素子をフルカラー表示させるには、有機発光層をR(赤)G(緑)B(青)三色にパターニングする必要がある。このように、有機発光層をパターニングする際には、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法を好適に用いることができ、発光色の異なる有機発光層を画素ごとにパターン形成することができる。また、有機EL素子において、正孔輸送層や電子輸送層といった電荷輸送層は、隣接する画素への電流のリークを防止するために、画素ごとにパターニングすることが好ましい。この場合においても、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法を好適に用いることができる。
【0086】
有機太陽電池においては、高い効率や起電力を得るためには、活性層、電荷移動層をパターニング形成する必要があり、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法を好適に用いることができる。従って、本発明の製造方法が有効である。
【0087】
前述した有機機能層の成膜方法および乾燥方法を用いて、有機機能層の形成を行う。すべての有機機能層について上記の方法で形成する以外にも、他のウェットプロセスおよびドライプロセスでの形成と組み合わせて各層を形成することも考えられる。
【0088】
次に、有機機能層103の上から陰極からなる電極層104を形成する。電極層としてはMg、Al、Yb、Ba、Ca等の金属単体を用いたり、発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いることが可能である。または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。陰極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。電極層の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。
【0089】
各層間の密着性を向上させるために、電極層104を形成する前、後、若しくは前後共に基板を加熱処理しても良い。
【0090】
最後にこれらの有機機能性積層体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL素子を得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止をおこなう。
【0091】
(有機薄膜トランジスタの素子構成)
本発明による有機薄膜トランジスタについて、図2に基づき説明する。
【0092】
図2のトップゲート型の薄膜トランジスタにおいては、基板201上に無機絶縁層202が形成され、さらに、無機絶縁層202上にソース電極203、ドレイン電極204が形成され、さらに、有機半導体層205が形成され、有機半導体層205上にゲート絶縁層206が形成され、ゲート絶縁層206上にゲート電極207が形成されている。
【0093】
トップゲート型の薄膜トランジスタおいて、基板201はガラス、金属、プラスチック等の公知の材料を用いることができる。特に、プラスチック材料を好適に用いることができ、プラスチック材料としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ナイロン、アラミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース等のフィルムやシートを用いることができる。中でも、耐熱性のポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミドなどが好適に使用することができる。また、無機フィラーを上記樹脂に添加して耐熱性を向上させたものも好適に使用することができる。
【0094】
基板201上には必要に応じて無機絶縁層202が形成される。無機絶縁層202としては、SiO2、Al2O3、SiON、Ta2O5など、各種の酸化物、酸窒化物などを用いることができる。形成方法としては、真空蒸着層、スパッタ法、CVD法等を用いることができる。
【0095】
次に、無機絶縁層202上にソース電極203、ドレイン電極204が形成される。ソース電極、ドレイン電極材料としては、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム等の金属が挙げられる。これらの材料は抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法にて成膜することもできるが、これらの金属のナノ粒子を溶媒として水またはアルコールに溶解若しくは分散させることで、印刷法にて成膜ことができる。ここで、金属ナノ粒子としては平均粒径が1μm未満の金属粒子を意味する。
【0096】
次に、無機絶縁層202、ソース電極203、ドレイン電極204上に有機半導体層205が設けられる。有機半導体層形成材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリアリルアミン誘導体、ポリアセチレン誘導体、アセン誘導体、オリゴチオフェン誘導体等を用いることができ、これらを溶媒に溶解または分散させたインキ(塗工液)を用い、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法といったコーティング法や、凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により成膜することが可能である。
【0097】
有機トランジスタにおいては、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、有機半導体層の少なくとも1層は凸版印刷法(フレキソ印刷法)、凹版オフセット印刷法、凸版反転オフセット印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法といった印刷法により好適に成膜されるが、すべての構成要素を印刷法により形成する必要はない。
【0098】
次に、有機半導体層205上にゲート絶縁層206が設けられる。ゲート絶縁層206としては、成膜が容易な有機絶縁膜を好適に用いることができ、例えば、ポリビニルフェノールを使用することができる。ポリビニルフェノールにあっては、例えば、イソプロピルアルコールに溶解させスピンコート法により有機半導体層上に形成される。
【0099】
次に、ゲート絶縁層206上にゲート電極27が設けられる。ゲート電極207としては、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法等の印刷法を用いる他、マスク蒸着を用いてもよい。印刷法でゲート電極を形成するのであれば金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウムなどの導電性材料を含むインクを使用することができる。また、真空蒸着法によりゲート電極207を形成するのであれば、Al、金、白金、パラジウム、ロジウムなどを使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
<有機EL素子の実施例>
ITO付きガラス基板を用意し、そのITOを所定のパターンにエッチングした。次いで、エッチングした透明導電層上に、電子輸送層の塗工液としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水に分散させた液を、凸版印刷法によりITO基板上にパターン状に塗布した。この基板を200℃にて3min、大気下にて乾燥させた。乾燥後の厚さは50nmであった。
【0102】
また、発光層の塗工液としてポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)(ガラス転移温度196℃)をトルエン50%とジエチルベンゼン50%の混合溶媒に溶解し、基板上に、凸版印刷法により基板上にパターン状に塗布した。
【0103】
さらに、この有機機能層基板に対し実施例1〜4、および比較例1に記載した乾燥工程を施した後、リチウムおよびアルミニウムを真空蒸着によりそれぞれ0.5nm、200nm設けて、有機EL素子を得た。以下、各実施例について乾燥工程の内容および作製結果を主に説明する。
【0104】
(実施例1)
乾燥工程において、有機機能層基板を基板ホルダーに設置し、図4に示された装置を用いて有機EL素子の作製を行った。乾燥溶媒としてエチルノナフルオロブチルエーテルを使用した。超音波処理は25℃の乾燥溶媒にて26kHz、45kHz、100kHzの3周波にて5min行い、リンス槽では15℃の乾燥溶媒に10min浸漬させ、蒸気槽では3min蒸気に曝した。更に、リンス槽・蒸気槽の工程を3回繰り返した。
【0105】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は3000hrであった。
【0106】
同様な工程で有機機能層基板を形成し、乾燥工程を終えた後、有機機能層中の各溶媒の濃度をGC−MSにて測定することで乾燥させた有機機能素子中の各溶媒の濃度を測定したところ、トルエン、ジエチルベンゼン、エチルノナフルオロブチルエーテル共に濃度が<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0107】
(実施例2)
次に、乾燥工程において乾燥溶媒をトリデカフルオロヘキシルメチルエーテルに変更し、超音波処理を行わず、15℃のリンス槽への浸漬10minと蒸気槽での蒸気洗浄乾燥3minとを4回繰り返したこと以外は実施例1と同様な工程で有機EL素子を作製した。
【0108】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は3000hrであった。乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度を測定したところ、トルエン、ジエチルベンゼン、トリデカフルオロヘキシルメチルエーテル共に濃度が<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0109】
(実施例3)
乾燥工程において、図5に示された装置を有機機能層の乾燥に用いて、有機EL素子の作製を行った。本実施例の基板冷却器はSUS316製の箱に20℃の冷却水を循環させたものを使用し、板バネで基板を密着させた。浄乾燥溶媒としてメチルノナフルオロブチルエーテルを使用した。蒸気槽で30min蒸気に曝し乾燥を行った後に基板を取り出し、その基板を窒素雰囲気下にて150℃のホットプレート上で30min加熱した。
【0110】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は6000hrであった。窒素雰囲気下での加熱を行う前の状態で、乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度はトルエン、ジエチルベンゼン、メチルノナフルオロブチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0111】
(実施例4)
次に、乾燥工程において乾燥溶媒にヘプタフルオロプロピルメチルエーテルを用いたこと以外は実施例3と同様な工程で有機EL素子を作製した。
【0112】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は6000hrであった。乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度は、トルエン、ジエチルベンゼン、ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0113】
(実施例5)
乾燥工程において、図7に示された洗浄乾燥装置を有機機能層の乾燥に用いて、有機EL素子の作製を行った。浄乾燥溶媒としてメチルノナフルオロブチルエーテルを使用した。30min乾燥溶媒を噴霧し乾燥を行った後に基板を取り出し、その基板を窒素雰囲気下にて150℃のホットプレート上で30min加熱した。
【0114】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は7000hrであった。窒素雰囲気下での加熱を行う前の状態で、乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度は、トルエン、ジエチルベンゼン、メチルノナフルオロブチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0115】
(実施例6)
次に、乾燥溶媒としてヘプタフルオロプロピルメチルエーテルを用いた点と、乾燥工程に図9に示すような形態の装置を用いたこと以外は同様の工程で有機EL素子を作成した。乾燥工程においては、装置内を窒素雰囲気とし、使用したスプレーの圧力を0.1MPaとして15min乾燥溶媒を噴霧した。次に、装置に備え付けられた赤外線ヒーターにより180℃に基板を加熱し、その状態で1hr維持した。
【0116】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は6000hrであった。乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度は、トルエン、ジエチルベンゼン、ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0117】
(実施例7)
透明導電膜上に電子輸送層であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物からなる有機機能層を形成・乾燥した後、インターレイヤーであるTFBをトルエン50%とジエチルベンゼン50%の混合溶媒に溶解したインキを凸版印刷法により基板上にパターン状に塗布した。この基板を実施例9と同様に図9に示すような形態の装置を用いて洗浄乾燥及び加熱処理を行った。乾燥溶媒としてはエチルノナフルオロブチルエーテルを使用した。加熱処理工程での基板表面温度は180℃とし、その状態で1hr加熱した。その後、加熱後の基板に再びエチルノナフルオロブチルエーテルを掛け流し基板を室温まで冷却した。
【0118】
前記基板を装置より取り出し、キシレンで余分なTFBを洗い流した後に、実施例5と同様な工程で発光層であるポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)の膜を形成・乾燥させ、陰極を蒸着して素子を作製した。
【0119】
得られた有機EL素子に9Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は15000hrであった。乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度は、トルエン、ジエチルベンゼン、ヘプタフルオロプロピルメチルエーテル共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0120】
(比較例1)
ポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)塗布後の基板を、130℃、30Paの減圧オーブンに3時間入れる事で乾燥し、図4に示された装置を用いなかったこと以外は、実施例1と同様な方法で、有機EL素子を作製した。
【0121】
得られた有機EL素子に10Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は1500hrであった。また、乾燥させた有機機能層中のトルエンの濃度は0.1ppm(検出限界以下)であったが、ジエチルベンゼンの濃度は20ppmであった。
【0122】
<有機太陽電池の実施例>
(実施例8)
有機機能性材料のインキとして、ポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)トルエン50%とジエチルベンゼン50%の混合溶媒の代わりに、ポリ(2−メトキシ−5−(3,7−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO−PPV)と[6,6]−フェニルC61−酪酸メチルエステル(PCBM)を1:4に混合したものをパラジクロロベンゼン(沸点180−183℃)に溶解させたものとした点と、乾燥溶媒を1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンに変更した点、超音波槽・リンス槽の温度をそれぞれ30℃・25℃とした点以外は、実施例1と同様な工程を用いて有機太陽電池を作製した。
【0123】
得られた有機太陽電池はAM1.5にて効率2.0%を得た。また、乾燥させた有機機能層中の各溶媒の濃度はパラジクロロベンゼンおよび1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン共に0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0124】
(比較例2)
MDMO−PPV、PCBM混合インキ塗布後の基板を、130℃、30Paの減圧オーブンに3時間入れる事で乾燥し、図4に示された洗浄乾燥装置を用いなかったこと以外は、実施例6と同様な方法で、有機太陽電池を作製した。
【0125】
得られた素子はAM1.5にて効率1.5%を得た。また、乾燥させた有機機能層中のパラジクロロベンゼンの濃度は50ppmであった。
【0126】
<有機薄膜トランジスタの実施例>
(実施例9)
基板としてポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用い、無機絶縁層としてSiO2を30nm成膜した。そして、凸版印刷によってAgナノインクのインキを基板上に塗布し、ソース電極、ドレイン電極を形成し、形成後、180℃1分の乾燥を行った。さらに有機半導体層としてポリチオフェンのジエチルベンゼン溶液を凸版印刷にてソース電極、ドレイン電極間に塗布した。
【0127】
この基板を基板ホルダーに設置し、図4に示された洗浄乾燥装置にて乾燥を行った。乾燥溶媒として1,1,1,3,3,−ペンタフルオロブタンを使用した。超音波洗浄は25℃の乾燥溶媒にて26kHz、45kHz、100kHzの3周波にて5min行い、リンス槽では15℃の乾燥溶媒に10min浸漬させ、蒸気槽では3min蒸気に曝した。更に、リンス槽・蒸気槽の工程を3回繰り返した。
【0128】
乾燥後の基板にゲート絶縁層としてポリビニルフェノールのイソプロピルアルコール溶液をスピンコートし、100℃30分の乾燥をおこなった。最後に、マスク蒸着によってAlを30nm蒸着し、トップゲート型の薄膜トランジスタとした。
【0129】
作製した有機薄膜トランジスタは、良好なVd−Id特性やVg−Id特性を示した。移動度は5×10−4cm2/Vs程度であった。有機機能層中のジエチルベンゼンおよび1,1,1,3,3,−ペンタフルオロブタンの濃度は<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0130】
(比較例3)
ポリチオフェンのジエチルベンゼン溶液塗布後の乾燥工程に、100℃のオーブンに30min入れる加熱乾燥法を用いたこと以外は、実施例7と同様の工程で薄膜トランジスタを作製した。
【0131】
得られた有機薄膜トランジスタの移動度は3×10−4cm2/Vs程度であった。有機機能層中のジエチルベンゼンの濃度は50ppmであった。
【0132】
上記実施例で使用した乾燥溶媒と、その他に使用され得る乾燥溶媒の物性値を下記表1に示す。条件は気圧が1atm、温度が20度である。表1に示すとおり、実施例の乾燥溶媒は特許請求の範囲の請求項1に記載の乾燥溶媒の条件を満たしている。
【0133】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、有機機能層を印刷法で作製した場合においても、溶媒の除去に伴う有機機能性素子の特性の低下が起きず、高性能な有機機能性素子を製造可能とする製造方法及び製造装置が提供される。また本発明によれば、該製造方法により製造された有機機能性素子、該方法を利用した有機EL素子、有機太陽電池および有機薄膜トランジスタの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明における有機EL素子または有機太陽電池の一例の断面図である。
【図2】本発明における有機薄膜トランジスタの一例の断面図である。
【図3】本発明における印刷装置の模式図である。
【図4】本発明における乾燥装置の模式図である。
【図5】本発明における乾燥装置の模式図である。
【図6】本発明における乾燥装置の模式図である。
【図7】本発明における乾燥装置の模式図である。
【図8】本発明における乾燥装置の模式図である。
【図9】本発明における乾燥装置の模式図である。
【符号の説明】
【0136】
101……透光性基板、102……透明導電層、103……有機機能層、103a電荷輸送層若しくは電荷移動層、103b有機発光層若しくは活性層、104……電極層、201……基板、202……無機絶縁層、203……ソース電極、204……ドレイン電極、205……有機半導体層、206……ゲート絶縁層、207……ゲート電極、301……インクタンク、302……インキチャンバー、303……アニロックスロール、304……インキ層、305……版胴、306……凸版、307……被印刷基板、308……平台、401……基板ホルダー、402……超音波槽、403……超音波発振器、404……リンス槽、405……蒸気槽、406……ヒーター、407……冷却機、408……乾燥溶媒(液体)、409……乾燥溶媒(蒸気)、501……有機機能層が塗布された基板、502……基板冷却器、601……洗浄装置本体、602……吸気口、603……排気口、604……送風機、605……霧発生槽、606……超音波霧化装置、607……乾燥溶媒回収槽、608……回収された乾燥溶媒、609……乾燥溶媒(霧状)、701……乾燥溶媒スプレー装置、702……エアブロアー、703……移動台、801……チャンバー、802……基板ホルダー、803……ドレン抜き口、804……圧力測定器、805……逆止弁、806……洗浄乾燥溶媒タンク、901……基板搬送レール、902……処理前基板ボックス、903……赤外線ヒーター、904……赤外線、905……処理後基板ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の有機溶媒に有機機能性材料を溶解もしくは分散した塗工液を、印刷法を用いて基板上の塗工膜とする、該塗工膜からなる有機機能層の製造方法であって、
前記塗工膜を第二の有機溶媒の蒸気もしくは液体に接触させる工程を有し、
前記第二の溶媒が、
(イ)化学的に不活性であり、
(ロ)かつ前記第一の有機溶媒に混合し、
(ハ)かつ前記有機機層塗工膜の有機機能層材料部分を溶解しない
(ニ)かつ前記第一の有機溶媒よりも常温において高い蒸気圧を持つ
ことを特徴とする有機機能層の製造方法。
【請求項2】
前記有機機能層の製造方法であって、
液体の前記第二の溶媒を満たしたリンス槽に前記基板を浸漬する工程と、
次に第二の溶媒の蒸気にその基板を接触させる工程と、
を有することを特徴とする有機機能層の製造方法。
【請求項3】
前記有機機能層の製造方法であって、
前記基板を10℃以上25℃以下の温度に冷却するとともに、加熱し気体化した前記第二の溶媒の雰囲気にその基板上の塗工膜を接触させる工程を有することを特徴とする有機機能層の製造方法。
【請求項4】
前記有機機能層の製造方法であって、
霧状の前記第二の溶媒を前記基板に噴霧することを特徴とする有機機能層の製造方法。
【請求項5】
前記有機機能層の製造方法であって、
前記塗工膜を前記第二の溶媒に接触させる工程と、
次に前記基板を加熱する工程と、
を有し、かつ上記工程が不活性ガス雰囲気で満たされた同一空間内で行われることを特徴とする有機機能層の製造方法。
【請求項6】
前記第二の溶媒の液体に有機機能層を浸漬させたとき、浸漬直後の前記有機機能層の表面粗さRaに対する浸漬させてから24時間後の前記有機機能層の表面粗さRaの変化率が1%未満であり、24時間後の前記第二の溶媒へ溶解した前記有機機能層の重量が、乾燥工程後の前記有機機能層の重量の0.1%未満であることを満たす溶媒を前記第二の有機溶媒として用いることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の有機機能層の製造方法。
【請求項7】
前記第二の溶媒の表面張力が25mN/m以下であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の有機機能層の製造方法。
【請求項8】
前記第二の溶媒が、一分子中フッ素原子を5個以上含む溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の有機機能層の製造方法。
【請求項9】
有機機能層を含む有機機能性素子の製造工程において、
そのうち少なくとも一層の有機機能層を、請求項1乃至8に記載の有機機能層の製造方法を用いることを特徴とする、有機機能性素子の製造方法。
【請求項10】
装置内において基板を移動させる手段を有する基板ホルダーと、
超音波発振装置を備え、乾燥溶媒の液体を保持することが可能な超音波槽と、
乾燥溶媒の液体を保持することが可能なリンス槽と、
乾燥溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽と、
を具備する有機機能性素子製造装置。
【請求項11】
乾燥溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽と、
蒸気槽の直上部に設置された基板設置部と、
基板設置部に接続された基板冷却器と、
を具備する有機機能性素子製造装置。
【請求項12】
基板設置部を備えた、移動可能な手段を有する移動台と、
噴霧位置が前記移動台上に一致する、乾燥溶媒の液体を霧状にして噴霧する手段と、
吹き付け位置が前記移動台上に一致する、気体吹きつけ装置と、
を具備し、かつ前記噴霧する手段及び前記気体吹き付け装置が、前記移動台の移動方向に対して前記噴霧する手段の噴霧位置、前記気体吹き付け装置の吹き付け位置、の順となるように設置されている有機機能性素子製造装置。
【請求項13】
密閉可能なチャンバーと、
前記チャンバー内の雰囲気を不活性ガスで置換する手段と、
乾燥溶媒の液体を霧状にして噴霧する手段と、
を具備する有機機能性素子製造装置。
【請求項14】
請求項13に記載の有機機能性素子製造装置であって、
基板を加熱する手段を有することを特徴とする有機機能性素子製造装置。
【請求項15】
請求項14に記載の有機機能性素子製造装置であって、
基板設置部を備えた、移動可能な手段を有する移動台と、
噴霧位置が前記移動台上に一致する、前記噴霧する手段と、
加熱位置が前記移動台上に一致する、前記基板を加熱する手段と、
を具備し、かつ前記噴霧する手段及び前記加熱する手段が、前記移動台の移動方向に対して、前記噴霧する手段の噴霧位置、前記加熱する手段の加熱位置、の順となるように設置されていることを特徴とする有機機能性素子製造装置。
【請求項16】
前記基板を加熱する手段が、赤外線ヒーターによる加熱であることを特徴とする請求項14又は15に記載の有機機能性素子製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−91316(P2008−91316A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6820(P2007−6820)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】