説明

有機積層体を含む発光トランジスタ

【課題】有機半導体材料を含む発光効率が向上された発光トランジスタ及びそれを含む発光デバイスを提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体を含み、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は平板状結晶である発光トランジスタを提供し、本発明に係るトランジスタは、発光効率が向上する。p型有機半導体材料とn型有機半導体材料を積層して得られる積層体を用いると、発光効率がより向上する。また、積層体に含まれる有機半導体材料として、二種類の平板状結晶の組み合わせを用いると、発光効率の点で好ましい。積層体に含まれる有機半導体材料として、少なくとも一種類の薄膜状アモルファス固体を用いると、好ましい箇所に容易に膜形成できるので好ましい。そのような発光トランジスタを含む発光デバイスも有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料を含む新規な発光トランジスタ及びそれを含む発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料を用いる素子として、有機電界効果トランジスタ(Organic Field-Effect Transistor:OFET)が知られている。OFETに含まれる有機半導体材料が、キャリアとしての正孔と電子を輸送可能であり、この正孔と電子の再結合により、多少の発光を生ずることも知られている。
【0003】
有機電界効果トランジスタとしての性能を改良するために、種々の検討がなされている。
例えば、特許文献1は、キャリアの移動性能が高い特定のチオフェン誘導体を電荷移動層として用いること、及びこの特定のチオフェン誘導体を用いたOFETが多少の発光を生ずることを開示する。
また、非特許文献1は、特定の方法で製造された有機半導体材料の厚さの薄い結晶は、電界効果移動度を向上させることを開示する。しかし、発光効率に関しては、何ら報告されていない。
【0004】
非特許文献2は、クインケチオフェンとN,N’−ジペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸ジイミドの共蒸着膜を用いてソース電極とドレイン電極間に印加する電圧に応じて発光特性が変化することを開示する。しかし、その他の発光効率の向上の方法については、何ら開示していない。
非特許文献3は、p型有機半導体としてポリ(3−ヘキシルチオフェン)を用い、またn型有機半導体として[6,6]−フェニル−C61−ブチリックメチルエステル(PCBM)を用いて、これらからなるスピンキャスト膜をゲート絶縁膜上に順次積層したトランジスタを例示する。ポリ(3−ヘキシルチオフェン)のキャリア移動度は、約0.0001cm/V・sであり、PCBMのキャリア移動度は、それよりも1桁小さいことも開示する。しかし、このトランジスタの発光の有無については、何ら開示していない。
【0005】
OFETの発光効率を向上させる方法は、学術的にも実用的にも興味深いが、ほとんど報告されておらず、また、従来のOFETの発光効率は、必ずしも十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−182730号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Yamao, S. Ota, T. Miki, S. Hotta and R. Azumi, Thin Solid Films, 516 (2008) 2527-2531.
【非特許文献2】M. A. Loi, M. Murgia and M. Muccini, Appl. Phys. Lett., 85 (2004) 1613-1615.
【非特許文献3】K. Kaneto, M. Yano, M. Shibao, T. Morita and W. Takashima, Jpn. J. Appl. Phys., 46 (2007) 1736−1738.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる背景により行われたものであり、その課題は、有機半導体材料を含む発光効率が向上された発光トランジスタ及びそれを含む発光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を克服するために鋭意検討を行った結果、少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体であって、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は平板状結晶である積層体を、電荷移動層としてトランジスタに使用すると、驚くべきことに発光効率が向上することを見出して本発明を完成するに到ったものである。
即ち、本発明は一の要旨において、新たな発光トランジスタを提供し、それは、少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体を含む発光トランジスタであって、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、平板状結晶である発光トランジスタである。
【0010】
更に、本発明は一の態様において、積層体は、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料を積層して得られる上記トランジスタを提供する。
また、本発明は他の態様において、積層体に含まれる有機半導体材料の二種類は、平板状結晶である上記トランジスタを提供する。
更にまた、本発明は更なる態様において、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、薄膜状アモルファス固体である上記トランジスタを提供する。
本発明は、他の要旨において、上記トランジスタを含む発光デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発光トランジスタは、少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体を含み、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、平板状結晶であるので、発光効率が向上される。
積層体は、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料を積層して得られる場合、更に、発光効率が向上される。
積層体に含まれる有機半導体材料の二種類が、平板状結晶である場合、更に、発光効率が向上される。
積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種が、薄膜状アモルファス固体である場合、好ましい箇所に容易に膜を形成することができるので、更に好ましい。
本発明の発光デバイスは、上記トランジスタを含むので、発光効率が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る一の要旨のトランジスタの断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る好ましい態様のトランジスタの断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る一の態様のトランジスタの断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る一の態様のトランジスタの顕微鏡写真である。
【図5】図5は、本発明に係る一の態様のトランジスタからの発光スペクトルを示す。
【図6】図6は、本発明に係る他の態様のトランジスタの断面図である。
【図7】図7は、本発明に係る他の態様のトランジスタの顕微鏡写真である。
【図8】図8は、本発明に係る他の態様のトランジスタからの発光スペクトルを示す。
【図9】図9は、比較例のトランジスタの断面図である。
【図10】図10は、比較例1のトランジスタの顕微鏡写真である。
【図11】図11は、比較例1のトランジスタからの発光スペクトルを示す。
【図12】図12は、本発明に係る更なる態様のトランジスタの断面図である。
【図13A】図13Aは、平板状結晶11p−cを有さないトランジスタの電流電圧特性を示す。
【図13B】図13Bは、平板状結晶11p−cを有さないトランジスタの電流電圧特性を示す。
【図14】図14は、本発明に係る更なる態様のトランジスタからの発光スペクトルを示す。
【図15】図15は、本発明に係る更に別の態様のトランジスタの断面図である。
【図16】図16は、本発明に係る更に別の態様のトランジスタの電流電圧特性を示す。
【図17】図17は、本発明に係る更に別の態様のトランジスタからの発光の写真である。
【図18】図18は、本発明に係る更に別の態様のトランジスタからの発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明を説明する。
本発明に係る発光トランジスタとして、例えば、図1に記載したような、二種類の層状の有機半導体材料11A及び11Bが積層された積層体を含むトランジスタ10の断面図を模式的に示すことができる。この発光トランジスタ10は、電界効果トランジスタ(FET)の基本的な構造を有する。尚、有機半導体材料は、必要に応じて、三種類以上積層してよいが、二種類であることが、製造し易さ、積層体の層厚が厚くなり過ぎない等から好ましい。
【0014】
本発明に係る発光トランジスタにおいては、積層体に含まれる有機半導体の少なくとも一種は、平板状結晶である。従って、例えば、図1においては、有機半導体材料11A又は11Bが平板状結晶であるか、有機半導体材料11A及び11Bの両方とも平板状結晶である。
【0015】
本発明に係るこの発光トランジスタ10は、積層体の両側に電極12及び電極13が配置されている。電極12に直流で正電圧を印加すると、正孔を注入する正孔注入電極になり、電極13に直流で負電圧を印加すると、電子を注入する電子注入電極になると考えられる。注入された正孔と電子が積層体内で再結合して発光すると考えられる。電極12と電極13の間に間隔が設けられている(電極間隔16)。更に、電極12と電極13に対向し、ゲート絶縁膜14で絶縁されたゲート電極15を有する。ゲート電極15に電界を印加することで、適宜、積層体内のキャリアの分布を制御することができる。
【0016】
具体的には、図1に示すように、ゲート電極15の上に酸化シリコン等からなるゲート絶縁膜14が設けられ、11A及び11Bが積層された積層体が配置され、その両側に電極12及び電極13が間隔16を開けて設けられる。ゲート絶縁膜14上に積層体と各電極を設ける順番は、逆であってもよいし、交互に設けてもよい。
【0017】
また、図2の本発明の発光トランジスタ10の断面図に示すように、積層体の二種類の有機半導体材料11Aと11Bの間に電極12−2及び/又は電極13−2が、一部に挿入されていてもよい。このように電極が挿入されると、電極と有機半導体材料との接触がより良好となるので、確実なトランジスタの動作を確保することができ、また、有機半導体材料への電荷注入を容易にするので好ましい。
【0018】
本発明に係る積層体に含まれる有機半導体材料には、例えば、平板状結晶、薄膜状アモルファス固体、薄膜状結晶、平板状アモルファス固体、及び自己組織化単分子膜等の層状の形態の材料が含まれる。上述したように、本発明に係る積層体に含まれる少なくとも一種の有機半導体材料は、平板状結晶である。尚、一般的に、「平板状」とは、自立性を有することを意味し、「薄膜状」とは、自立性を有さず、その形成に基板を必要とすることを意味する。更に、「結晶」とは、X線回折測定や偏光顕微鏡観察、熱的特性測定により材料が結晶であることを確認できる層状の形態を有することを意味し、「アモルファス固体」とは、結晶ではない層状の形態を有することを意味し、「平板状アモルファス固体」とは、自立性を有する結晶ではない形態を有することを意味する。更に「自己組織化単分子膜」とは、基板表面に吸着した単分子の厚さの層を形成してできる分子の膜のことを意味する。
【0019】
積層体を得るための上述の有機半導体材料は、半導体としての性質を有する有機材料であって、通常有機半導体材料とされるものを、公知の方法で、例えば、上述の平板状結晶、薄膜状アモルファス固体、薄膜状結晶、平板状アモルファス固体、及び自己組織化単分子膜等の層状の有機半導体材料に形成して使用することができ、本発明が目的とするトランジスタを得ることができる限り、原料となる有機半導体材料及び有機半導体材料を得るための製造方法は、特に制限されるものではない。
【0020】
例えば、有機半導体材料の平板状結晶は、非特許文献1に開示されるような方法を用いて製造することができ、厚さの薄い結晶を得ることができる。有機半導体材料の平板状結晶は、良好なキャリア移動度を有するので、好ましい。
例えば、有機半導体材料の薄膜状アモルファス固体は、有機半導体材料を、蒸着(複数種あるときは、共蒸着)することにより得ることができる。更に、塗布法によって、製膜してもよい。
【0021】
層状の形態の各有機半導体材料の厚さは、11Aについては、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましく、1〜3μmであることが特に好ましい。11Bについては、0.05〜10μmであることが好ましく、0.05〜1μmであることがより好ましく、0.1〜0.2μmであることが特に好ましい。後述するように、11Aは、p型有機半導体材料であり、11Bは、n型有機半導体材料であることが好ましいが、逆であってもよい。
有機半導体材料が積層されて得られる積層体の厚さは、0.15〜20μmであることが好ましく、0.55〜6μmであることがより好ましく、1.1〜3.2μmであることが特に好ましい。
【0022】
有機半導体材料のキャリア移動度は、大きいほど半導体性が高まり、発光強度が高まり、好ましい。有機半導体材料のキャリア移動度は、p型であってもn型であっても、具体的には、0.0001cm/V・s以上であることが好ましく、0.01cm/V・s以上であることがより好ましく、1cm/V・s以上であることが特に好ましい。なお、キャリア移動度の上限は、特に限定されず、一般的には、100cm/V・s程度であり得る。キャリア移動度は、更に後述する。
【0023】
本発明に係る発光トランジスタの製造方法は、目的とするトランジスタを得ることができる限り、特に制限されるものではないが、有機半導体材料を積層する工程を含むことが好ましい。有機半導体材料を積層する工程は、一の有機半導体材料の上に他の有機半導体材料を配置することで行うことができる。一の有機半導体材料の上に他の有機半導体材料を配置する前に、一の有機半導体材料の一部を覆うように、正孔注入電極と電子注入電極を離間させて設けることが好ましい。例えば、有機半導体材料の平板状結晶の積層は、ピンセットやスタンプ等を用いて、物理的に容易に配置することができる。例えば、有機半導体材料の薄膜状アモルファス固体の積層は、蒸着や塗布等を用いて行うことができる。
【0024】
積層体を得るための有機半導体材料には、低分子化合物、オリゴマー及びポリマーが含まれるが、例えば、より具体的には下記の化1〜化6に示す有機半導体材料(a)〜(z)が含まれる。例えば、複数のベンゼン環が直線状に結合したフェニレン類(例えば、(c))、複数のベンゼン環が直線状に縮環したアセン類(例えば、(d)〜(e)及び(g))、ルブレン類(例えば、(f))、複数のチオフェンが直線状に結合したチオフェン類(例えば、(a)、(b)、(j))、ペリレン類(例えば、(h))、複数のチアゾールが直線状に結合したチアゾール類(例えば、(i))、チオフェンとフェニレンのオリゴマーである(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類(例えば(k)〜(z))を、好ましく例示することができる。
【0025】
有機半導体材料は、通常、p型かn型に分類される。例えば、化1及び化3〜化5の(a)〜(f)及び(k)〜(v)は、p型有機半導体材料に分類される。例えば、化2及び化6の(g)〜(j)及び(w)〜(z)は、n型有機半導体材料に分類される。
【0026】
有機半導体材料として、(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類(置換基を有しても、有さなくてもよい(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、例えば(k)〜(z))がより好ましく、p型有機半導体材料として、p型(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類(置換基を有さない、又はアルキル基及びアルコキシ基等の電子供与性置換基を有する(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、より具体的には、(k)〜(v))がより好ましく、n型有機半導体として、n型(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類(フッ素、トリフルオロメチル基及びシアノ基等の電子吸引性置換基を有する(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー、より具体的には、(w)〜(z))がより好ましい。p型有機半導体材料として(m)、(n)、(p)及び(v)が特に好ましく、n型有機半導体として、(x)が特に好ましい。
【0027】
積層体を得るための、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料は、p型(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類とn型(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類であることが好ましく、p型(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー類と(x)であることがより好ましく、(m)、(n)、(p)及び(v)から選択される一種と、(x)であることが特に好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
各有機半導体材料は、必要に応じて適宜、いわゆるドーパント等の副構成成分を含むことができる。その添加によって、有機半導体材料の各機能をより向上させることができる。
【0035】
ところで積層体に含まれる有機半導体材料の二種類には、例えば平板状結晶と薄膜状アモルファス固体の組み合わせ、平板状結晶と平板状結晶の組み合わせ等がある。積層体に含まれる有機半導体材料の二種類の大きさは、本発明が目的とするトランジスタを得られる限り特に制限されるものではない。例えば、平板状結晶同士の組み合わせの場合、それらの大きさは、例えば、同程度の大きさであっても、異なる大きさであってもよく、一方の平板状結晶が他方の平板状結晶の一つの平面と全ての側面を覆うことができるほど大きくてもよい。一方の平板状結晶が他方の平板状結晶の一つの平面と全ての側面を覆っている場合、電極12及び13は、覆っている方のより大きな平板状結晶のみと接触していてもよい。
【0036】
上記電極12及び電極13は、有機半導体材料に電圧を印加する電極であって、正孔又は電子を上記積層体に注入するための電極であり、例えば、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、マグネシウム−金合金(MgAu)、マグネシウム−銀合金(MgAg)、アルミ−リチウム合金(AlLi)、カルシウム(Ca)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等で形成される。
電極12及び電極13は、所定の間隔16を開けて対向するように配置される。間隔16は、本発明に係るトランジスタが得られる限り特に制限されるものではないが、例えば、1〜500μmであることが好ましく、5〜100μmであることがより好ましく、20〜50μmであることが特に好ましい。
電極12及び電極13は、同種の金属を用いても良いし、よりキャリア注入が容易なように、キャリア注入に有利な異なる金属をそれぞれ用いても良い。
【0037】
上記トランジスタ10は、上記電極12及び電極13に電圧を印加することにより、その内部で正孔及び電子の両方を移動させ、積層体内で、両者を再結合させる。このとき、積層体を通って両電極間を移動する正孔及び電子の量は、ゲート電極15に印加される電圧に依存する。このため、ゲート電極15にかける電圧及びその変化を制御することにより、上記電極12及び電極13の間の導通状態を制御することが可能となる。
【0038】
具体的には、電極12に直流で+の電位を印加して、積層体に正孔を注入し、電極13に直流で−電位を印加して、積層体に電子を注入する。ゲート電極15の電位を、必要に応じて適宜制御することで積層体内において、正孔及び電子の移動および再結合が生じて、発光する。
【0039】
ゲート電極15の幅は、本発明が目的とするトランジスタを得られる限り特に制限されるものではないが、一般的にゲート絶縁膜14と同程度の幅であって、有機半導体材料よりも広くてよい。ゲート電極15としての効果が得られる限り、その幅は、電極間隔(チャンネル)16の幅と同程度であってよい。ゲート電極15の幅は、電極間隔16の幅からゲート絶縁膜14の幅の間で適宜選択することができるが、電極間隔16の幅からその30倍の幅であってよく、電極間隔16の幅からその20倍の幅であってよく、電極間隔16の幅からその10倍の幅であってよい。
【0040】
本発明の発光トランジスタは、種々の発光デバイスに利用することができる。本発明の発光トランジスタを含む発光デバイスとして、例えば、ディスプレイパネル、ライト、各種照明等を例示することができる。
【0041】
本発明は、上述のような優れた効果を奏するものであるが、それは、以下のような理由によるものと考えられる。
OFETでは、有機半導体材料内で、キャリアである正孔と電子が再結合して発光する。しかし、有機半導体材料が単一の層でできている場合、有機層内にキャリアを閉じ込める機構が存在しないので、再結合に寄与しないキャリアが多く発生し、効率的な発光を得ることができないと考えられる。
【0042】
そこで、キャリアを閉じ込めるために、有機層に積層構造を設けて、有機層内部に接合面を有する積層体とすることが有効であると考えられる。
更に、キャリアである正孔と電子の各々を閉じ込めて、各々を効率的に運び、かつ、再結合させることが重要であると考えられる。
【0043】
積層体を形成する有機半導体材料の少なくとも一種が、平板状結晶である場合、蒸着膜やキャスト膜等のアモルファス固体と比べてキャリア移動度がより高く、正孔と電子の衝突確率が高まり、より発光強度が向上すると考えられる。
更に、積層体が、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料を積層して得られた積層体である場合、その接合面に、pn接合を生じ、キャリアである正孔と電子の各々を閉じ込めて、各々を効率的に運び、かつ、再結合させることが可能となり(即ち、半導体材料への正孔と電子の注入および半導体材料内での正孔と電子の結合が効果的となり)、より発光強度が向上すると考えられる。
【0044】
本発明は、このような理由により、優れた効果を奏すると考えられるが、このような理由は、何ら本発明を制限するものではない。
【0045】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
実施例1の発光トランジスタ
本発明に係る発光トランジスタの一の態様の断面図である図3を参照しながら、実施例1に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
ゲート絶縁膜14として酸化膜を設けたシリコン基板を準備した。このシリコン基板はゲート電極15として機能する。昇華再結晶法(非特許文献1参照)で成長させたn型有機半導体材料であるAC5−CF(上述の化6(x))の平板状結晶11n−cを、上述の酸化膜14の上に配置した。この結晶材料AC5−CFのキャリア移動度は、1.5cm/V・sであった。尚、AC5−CFのキャリア移動度の測定は、T. Yamao, Y. Shimizu, H. Kuriki, T. Katagiri, and S. Hotta, Jpn. J. Appl. Phys. 49 (2010) 01AB01.に記載の方法により行った。
【0047】
この結晶11n−cの上に、タングステンワイヤー(幅約50μm)を、図3の紙面と垂直方向に配置した。そのワイヤーの両側から、AC5−CFの結晶11n−cと酸化シリコン14の上に、マグネシウムと銀を質量比1:10となるように、マグネシウム銀の電極12b及び13bを真空蒸着して形成した。このタングステンワイヤーの幅が、トランジスタの電極間隔(チャンネル長)を形成する。タングステンワイヤーを除去した後、n型有機半導体材料11n−cと11n−cを覆う電極12b及び13bの上に、昇華再結晶法(非特許文献1参照)で成長させたp型有機半導体材料であるAC5(上述の化4(m))の平板状結晶11p−cを配置した。この結晶材料AC5のキャリア移動度は、0.040cm/V・sであった。尚、AC5のキャリア移動度の測定は、T. Yamao, K. Juri, A. Kamoi, and S. Hotta, Organic Electronics, 10 (2009) 1241-1247.に記載の方法により行った。
【0048】
結晶11p−cの上に再びタングステンワイヤー(幅約50μm)を、図3の紙面と垂直方向に配置した。タングステンワイヤーの上から片側に金を電極12aとして蒸着し、もう片側にマグネシウム銀(質量比1:10)を電極13aとして蒸着した。タングステンワイヤーを除去して、チャンネル16が形成された、実施例1に係るトランジスタ10を得ることができた。尚、電極12a及び12bが一体となって正孔注入電極、電極13a及び13bが一体となって電子注入電極となる。
【0049】
このようにして得られたトランジスタを、結晶11p−c及び11n−cの結晶表面と垂直方向から撮影した顕微鏡写真を図4に示す。真ん中に上下に延びるチャンネル16がAC5結晶11p−c上の電極12aと電極13aの間の間隔と対応し、その間隔は28μmである。チャンネル16の長さ(電極12aと13aの間隔の形成する長さ)は211μmである。チャンネル16の横方向に延びる結晶は、AC5の結晶11p−cであり、チャンネル16と平行に延びる結晶は、AC5−CFの結晶11n−cである。チャンネル16の左に薄く電極12aが認められ、チャンネル16の右に薄く電極13aが認められる。
【0050】
このようにして得られたトランジスタの発光を測定した(発光測定法は、T. Yamao, Y. Shimizu, K. Terasaki and S. Hotta, Adv. Mater. 20 (2008) 4109−4112. 参照)。尚、発光は、トランジスタの結晶11p−c及び11n−c内から結晶面と平行方向(即ち、図4では、紙面と平行方向)に主に生じており、結晶面と垂直方向(即ち、図4では、紙面と垂直方向)は弱いので、発光測定も、結晶11p−c及び11n−cの結晶面と平行方向で図4で薄く認められる電極12a、13aとも平行に行った。上述のトランジスタからの発光スペクトルを、図5に示す。接地電位に対し電極12aに直流電圧+70V、電極13aに直流電圧−70V、ゲート電極15に振幅90V、周波数100kHzの矩形波の交流電圧を、各々印加した。波長に対して発光強度をプロットした。縦軸の発光強度は1秒当たりの強度を示しており、約512nmの波長で発光は最大となり、その強度は、約478カウントであった。
尚、ゲート電極に矩形波の交流電圧を印加する方法は、WO2009/099205A1に開示されている。
【0051】
実施例2
実施例2の発光トランジスタ
本発明に係る発光トランジスタの他の態様の断面図である図6を参照しながら、実施例2に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
実施例2のトランジスタは、p型有機半導体材料11p−cとして、AC’7(化5(v))の平板状結晶を使用したことと、n型有機半導体材料11n−cを酸化シリコン14の上に配置する前に、クロム及び金の順番で酸化シリコン14の上に真空蒸着して、クロムの電極12d及び13dと、金の電極12c及び13cを形成したことを除いて、上述した実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて製造した。p型有機半導体材料AC’7のキャリア移動度は、0.098cm/V・sであった。AC’7のキャリア移動度の測定は、2009 International Conference on Solid State Devices and MaterialsのExtended Abstracts集、2009年発行、第1166-1167頁に記載の方法を用いて行った。尚、電極12a、12b、12c及び12dが一体となって正孔注入電極になり、電極13a、13b、13c、13dが一体となって電子注入電極になる。
【0052】
このようにして得られたトランジスタ10を、結晶11p−cおよび11n−cの結晶表面と垂直方向から撮影した顕微鏡写真を図7に示す。真ん中に上下に延びるチャンネル16がAC’7結晶11p−c上の電極12aと電極13aの間の間隔と対応し、その間隔は23μmである。チャンネル16の長さ(電極12aと13aの間隔の形成する長さ)は90μmである。チャンネル16に対して斜め方向に延びる結晶は、AC’7の結晶11p−cであり、チャンネル16と重なる丸い結晶は、AC5−CFの結晶11n−cである。チャンネル16の右に薄く電極12aが認められ、チャンネル16の左に薄く電極13aが認められる。
【0053】
このようにして得られたトランジスタの発光を、実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて測定した。実施例2のトランジスタからの発光スペクトルを、図8に示す。接地電位に対し電極12aに直流電圧+170Vを印加し、電極13aに直流電圧−170Vを印加し、ゲート電極15を開放してスペクトルを測定した。波長に対して発光強度をプロットした。縦軸の発光強度は1秒当たりの強度を示しており、約524nmの波長で発光は最大となり、その強度は、約3035カウントであった。
【0054】
比較例1
比較例1の発光トランジスタ
比較例1のトランジスタの断面図である図9を参照しながら、比較例1のトランジスタ及びその製造方法を説明する。
比較例1のトランジスタは、p型有機半導体材料11p−cとして、AC’7を使用したことと、電極12b及び13bとn型有機半導体材料11n−cを配置しなかったことを除いて、上述した実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて製造した。尚、電極12aが正孔注入電極、電極13aが電子注入電極になる。
【0055】
このようにして得られたトランジスタを、平板状結晶11p−cの結晶表面と垂直方向から撮影した顕微鏡写真を図10に示す。真ん中に上下に延びるチャンネル16がAC’7結晶11p−c上の電極12aと電極13aの間の間隔と対応し、その間隔は46μmである。チャンネル16の長さ(電極12aと13aの間隔の形成する長さ)は242μmである。チャンネル16に対して横方向に延びる結晶は、AC’7の結晶11p−cである。チャンネル16の左に薄く電極12aが認められ、チャンネル16の右に薄く電極13aが認められる。
【0056】
このようにして得られたトランジスタの発光を、実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて測定した。比較例1のトランジスタからの発光スペクトルを、図11に示す。接地電位に対し電極12aに直流電圧+80Vを印加し、電極13aに直流電圧−80Vを印加し、ゲート電極15に振幅100V、周波数20kHzの矩形波の交流電圧を印加した。波長に対して発光強度をプロットした。縦軸の発光強度は1秒当たりの強度を示しており、約559nmの波長で発光は最大となり、その強度は、約108カウントであった。
【0057】
尚、上記実施例ではn型半導体の上にp型半導体を積層した例を示したが、この順序を逆にしてp型半導体の上にn型半導体を積層した積層体も有効に使用できる。
【0058】
実施例3
実施例3の発光トランジスタ
本発明に係る更なる態様の断面図である図12を参照しながら、実施例3に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
ゲート絶縁膜14として酸化膜を設けたシリコン基板を準備した。このシリコン基板はゲート電極15として機能する。酸化シリコン14の上に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のトルエン溶液をスピンコートしてPMMA膜18を形成した。PMMA膜18の上に、タングステンワイヤー(幅約50μm)を、図12の紙面と垂直方向に配置した。そのワイヤーの両側から、PMMA膜18の上に、マグネシウムと銀を質量比1:10となるように、マグネシウム銀の電極12b及び13bを真空蒸着して形成した。これに引き続きマグネシウム銀電極の上に、ワイヤーの両側から、銀電極12e及び13eを真空蒸着して形成した。このタングステンワイヤーの幅が、トランジスタの電極間隔(チャンネル長)を形成する。タングステンワイヤーを除去した後、n型有機半導体材料であるAC5−CFの薄膜11n−a、AC5−CFとp型有機半導体材料であるAC5が質量比1:1となるようにした混合薄膜11c−a、AC5の薄膜11p−aを、電極12e及び13eの上および電極12e及び13eの間(トランジスタの電極の間)に、順番に真空蒸着した。尚、薄膜11n−a、混合薄膜11c−a及び薄膜11p−aは、真空蒸着によって作製しているので、いずれも結晶ではなく、アモルファス固体であると考えられる。
【0059】
薄膜11p−aの上に再びタングステンワイヤー(幅約50μm)を、図12の紙面と垂直方向に配置した。タングステンワイヤーの両側から、p型有機半導体薄膜11p−aの上に、金を電極12c及び13cとして蒸着した。タングステンワイヤーを除去して、チャンネル16が形成されたトランジスタを得ることができた。尚、電極12b、12c及び12eが一体となって正孔注入電極、電極13b、13c及び13eが一体となって電子注入電極となる。
【0060】
このようにして得られたトランジスタを、薄膜11p−a、11c−a及び11n−aの表面と垂直方向から、顕微鏡で写真撮影をした。チャンネル16の幅(電極12cと電極13cの間の間隔)は、50μmであった。チャンネル16の長さ(電極12cと13cの間隔の形成する長さ)は1.5mmであった。
【0061】
このトランジスタの電流電圧特性を測定した。電流電圧特性を図13に示す。図13Aは、接地した電極12cに対し、電極13cに0から−45Vまでの直流電圧(ドレイン−ソース間電圧:横軸)を印加したときの電極13cと電極12cの間を流れる電流(ドレイン電流:縦軸)を、ゲート電極15の電圧を接地電位に対し0から−45Vまで−5V毎に変化させながら測定したものである。この特性から求められる正孔移動度は、5.15×10−4cm/Vsである。図13Bは、接地した電極13cに対し、電極12cに0から+45Vまでの直流電圧(ドレイン−ソース間電圧:横軸)を印加したときの電極12cと電極13cの間を流れる電流(ドレイン電流:縦軸)を、ゲート電極15の電圧を接地電位に対し0から+45Vまで+5V毎に変化させながら測定したものである。この特性から求められる電子移動度は、6.06×10−4cm/Vsである。
【0062】
尚、このトランジスタの電極12cに正の直流電圧を印加し、電極13cに負の直流電圧を印加し、ゲート電極15に矩形波の交流電圧を印加したところ、発光は観測されなかった。
【0063】
このトランジスタのp型有機半導体薄膜11p−aの上に、金電極12c及び13cの上の一部も覆うように、p型有機半導体材料として、昇華再結晶法で成長させたAC5の平板状結晶11p−cを配置して、図12に示す実施例3に係る発光トランジスタを得た。
【0064】
このようにして得られた実施例3のトランジスタの発光を、実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて測定した。実施例3のトランジスタからの発光スペクトルを、図14に示す。接地電位に対し電極12cに直流電圧70Vを印加し、電極13cに直流電圧−70Vを印加し、ゲート電極15に振幅80V、周波数20kHzの正弦波および矩形波の交流電圧を、それぞれ印加した。波長に対して発光強度をプロットした。縦軸の発光強度は1秒当たりの強度を示しており、約542nmの波長と610nmの波長に鋭いピークが観測された。
【0065】
実施例4
実施例4の発光トランジスタ
本発明に係る発光トランジスタの更に別の態様の断面図である図15を参照しながら、実施例4に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
実施例3のトランジスタの製造方法と同様の方法を用いて、酸化シリコン上にPMMA膜18を形成した。PMMA膜18の上に、昇華再結晶法で成長させたp型有機半導体材料のAC5平板状結晶11p−cを配置した。AC5結晶11p−cの上に、タングステンワイヤー(幅約50μm)を、図15の紙面と垂直方向に配置した。そのワイヤーの片側のAC5結晶11p−c上に、PMMA膜18の一部も覆うように、n型有機半導体材料であるAC5−CF薄膜11n−aを30nmの厚さとなるように真空蒸着した。続けてワイヤーの片側からAC5−CF薄膜11n−a上に、銀電極13eを真空蒸着して形成した。またワイヤーの反対側のAC5結晶11p−c上に、PMMA膜18の一部も覆うように、金電極12aを真空蒸着して形成した。このタングステンワイヤーの幅が、トランジスタのチャンネル長を形成する。タングステンワイヤーを除去して、チャンネル16が形成された、実施例4に係るトランジスタ10を得ることができた。尚、電極13e及びAC5−CF薄膜11n−aが一体となって電子注入電極となる。電極12aは正孔注入電極となる。
【0066】
このようにして得られたトランジスタ10を、結晶11p−cの結晶表面と垂直方向から、顕微鏡で写真撮影をした。チャンネル16の幅(電極12aと電極13eの間の間隔)は、50μmであった。チャンネル16の長さ(電極12aと13eの間隔の形成する長さ)は230μmであった。
【0067】
このようにして得られた実施例4のトランジスタの電流電圧特性を測定した。電流電圧特性を図16に示す。図16は、接地した電極12aに対し、電極13eに0から−60Vまでの直流電圧(ドレイン−ソース間電圧:横軸)を印加したときの電極13eと電極12aの間を流れる電流(ドレイン電流:縦軸)を、ゲート電極15の電圧を0から−50Vまで−5V毎に変化させながら測定したものである。この特性から求められる正孔移動度は、1.3×10−2cm/Vsである。
【0068】
このようにして得られた実施例4のトランジスタの発光を、実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて測定した。実施例4のトランジスタからの発光を示す写真を図17に示す。接地電位に対し電極12aに直流電圧60Vを印加し、電極13eに直流電圧−60Vを印加し、ゲート電極15に振幅70V、周波数20kHzの矩形波の交流電圧を印加した。白丸で囲まれた中に、デバイスからの発光が見て取れる。
実施例4のトランジスタからの発光スペクトルを図18に示す。接地電位に対し電極12aに直流電圧80Vを印加し、電極13eに直流電圧−80Vを印加し、ゲート電極15に振幅100V、周波数20kHz、50kHz及び100kHzの矩形波の交流電圧を印加した。波長に対して発光強度をプロットした。縦軸の発光強度は1秒当たりの強度を示しており、周波数が20kHzから100kHzへと増加するに伴い、発光強度が増加している。
【0069】
実施例5
実施例5の発光トランジスタ
実施例5に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
実施例5のトランジスタは、基板にガラス板を用いたこと、ゲート電極15としてクロム及び金の順番でガラス基板の上に真空蒸着して、クロム及び金の電極を形成したが、このゲート電極15の幅は約0.5mmであり、チャンネル16の幅の約10倍の幅となるように、実施例1のゲート電極と比較して狭くしたこと、ゲート絶縁膜14としてPMMAのトルエン溶液をスピンコートしてPMMA膜を形成したこと、p型有機半導体材料11p−cとして、BP1T(化4(n))の平板状結晶(昇華再結晶法を用いて得た)を使用したこと、p型有機半導体材料11p−cがn型有機半導体材料11n−cを上面に加えて側面まで完全に覆い、p型有機半導体材料11p−cは一部、直接ゲート絶縁膜14と接すること、n型有機半導体材料11n−cはp型有機半導体材料11p−cに覆われているので、マグネシウム銀電極12b及び13bを、n型有機半導体材料11n−cの上に形成せず、p型有機半導体材料11p−cの上に、チャンネル16がゲート電極15と対向するように形成したこと、金の電極12aとマグネシウム銀の電極13aを形成しなかったことを除いて、上述した実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて製造した。
【0070】
従って、実施例5の発光トランジスタの主な特徴は、図3に記載した実施例1発光トランジスタと比較すると、下記の通りである:ゲート電極15の幅が、チャンネル16の約10倍の幅に狭められていること(図3では、チャンネル16の幅は強調されており、実際より幅が広く記載されている);n型有機半導体材料11n−cは、その幅が狭められて、p型有機半導体材料11p−cに、上面と側面(ゲート絶縁膜14と接する面以外の面)が覆われていること;電極12a及び13aは形成されず、一方、電極12b及び13bは、p型有機半導体材料11p−cとn型有機半導体材料11n−cの間に形成されず、p型有機半導体材料11p−cとゲート絶縁膜14の上に形成され、n型有機半導体材料11n−cと接触していない。
p型有機半導体材料BP1Tの飽和領域におけるキャリア移動度は、1.2×10−3cm/V・sであった。BP1Tのキャリア移動度の測定は、T. Katagiri, S. Ota, T. Ohira, T. Yamao, and S. Hotta, J. Heterocyclic Chem., 44 (2007) 853-862.に記載の方法により行った。尚、電極12bが正孔注入電極になり、電極13bが電子注入電極になる。
【0071】
このようにして得られたトランジスタの発光スペクトルを、ゲート電極に印加する交流電圧の波形に矩形波ではなく正弦波を用いたことを除いて、実施例1のトランジスタと同様の方法を用いて測定した。接地電位に対し電極12bに直流電圧+115Vを印加し、電極13bに直流電圧−115V、ゲート電極15に振幅125V、周波数300kHzの正弦波の交流電圧を、各々印加した。約494nmの波長で発光スペクトルは最大となり、その強度は、約171カウントであった。
【0072】
トランジスタの電流電圧特性を、実施例3のトランジスタと同様の方法を用いて測定した。電流電圧特性の結果及び上述の発光スペクトルの結果から算出したトランジスタの外部量子効率は最大で2%であった。尚、外部量子効率はトランジスタに注入されたキャリアの個数Nに対する、トランジスタから発せられる光子の数Nの比N/Nで定義される。トランジスタに注入されたキャリア数(単位時間当たり)は、電流電圧特性で観測された電流値から算出でき、トランジスタから発せられる光子の数(単位時間当たり)は、トランジスタの発光スペクトルの強度から算出できる。
【0073】
比較例2
比較例2の発光トランジスタ
比較例2に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
比較例2のトランジスタは、ゲート絶縁膜14の上にn型有機半導体材料11n−cを形成しなかったことを除いて、上述した実施例5のトランジスタと同様の方法を用いて製造した。
【0074】
このようにして得られたトランジスタの外部量子効率を、実施例5のトランジスタと同様の方法を用いて算出した。比較例2に係るトランジスタの外部量子効率は最大で0.41%であった。
【0075】
比較例3
比較例3の発光トランジスタ
比較例3に係るトランジスタ及びその製造方法を説明する。
比較例3のトランジスタは、p型有機半導体材料11p−cの代わりにn型有機半導体材料11n−cを用いたことを除いて、上述した比較例2のトランジスタと同様の方法を用いて製造した。
【0076】
このようにして得られたトランジスタの外部量子効率を、実施例5のトランジスタと同様の方法を用いて算出した。比較例3に係るトランジスタの外部量子効率は最大で0.016%であった。
【0077】
このように、少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体を含み、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、平板状結晶である発光トランジスタには、発光強度の増大が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体を含み、積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、平板状結晶である発光トランジスタは、発光強度の増加が認められ、発光素子として有用であり、その発光トランジスタを含む発光デバイスも有用である。
【符号の説明】
【0079】
10 本発明に係る発光トランジスタ
11 有機半導体材料
11A 有機半導体材料
11B 有機半導体材料
11p−c p型有機半導体材料の平板状結晶
11n−c n型有機半導体材料の平板状結晶
11p−a p型有機半導体材料の薄膜状アモルファス固体
11n−a n型有機半導体材料の薄膜状アモルファス固体
11c−a p型およびn型の有機半導体材料の薄膜状混合アモルファス固体
12 正孔注入電極
12−1 正孔注入電極
12−2 正孔注入電極
12a 金電極
12b マグネシウム銀電極
12c 金電極
12d クロム電極
12e 銀電極
13 電子注入電極
13−1 電子注入電極
13−2 電子注入電極
13a マグネシウム銀電極
13b マグネシウム銀電極
13c 金電極
13d クロム電極
13e 銀電極
14 ゲート絶縁膜
15 ゲート電極
16 チャンネル(電極間隔)
18 ポリメチルメタクリレート膜
20 比較例の発光トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二種類の有機半導体材料が積層された積層体を含む発光トランジスタであって、
積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、平板状結晶である発光トランジスタ。
【請求項2】
積層体は、p型有機半導体材料とn型有機半導体材料を積層して得られる請求項1記載の発光トランジスタ。
【請求項3】
積層体に含まれる有機半導体材料の二種類が、平板状結晶である請求項1又は2に記載の発光トランジスタ。
【請求項4】
積層体に含まれる有機半導体材料の少なくとも一種は、薄膜状アモルファス固体である請求項1又は2に記載の発光トランジスタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の発光トランジスタを含む発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−187924(P2011−187924A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248628(P2010−248628)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 主催者名 :社団法人 応用物理学会 研究集会名:2010年秋季<第71回>応用物理学会学術講演会 公開日 :平成22年9月17日
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】