有機EL素子、表示装置、及び有機EL素子の製造方法
【課題】 製造プロセスの工程数を増やすことなく、滅点抑制が図られた有機EL素子を製造する。
【解決手段】 基板上に、第1電極12と、少なくとも有機発光材料からなる有機層14と、第2電極15とを積層形成するにあたり、第1電極12を、少なくとも、基板側の第1層12aを形成する第1工程と、この第1層12a上に少なくとも有機層14からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層12bを形成する第2工程と、この第2層12b上に前記第1層12aに比して高抵抗の第3層12cを形成する第3工程とによって形成する。
【解決手段】 基板上に、第1電極12と、少なくとも有機発光材料からなる有機層14と、第2電極15とを積層形成するにあたり、第1電極12を、少なくとも、基板側の第1層12aを形成する第1工程と、この第1層12a上に少なくとも有機層14からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層12bを形成する第2工程と、この第2層12b上に前記第1層12aに比して高抵抗の第3層12cを形成する第3工程とによって形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子と、有機EL素子を用いた表示装置、及び有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence;電界発光)素子による表示装置は、色再現性や応答速度などの特性に優れていることから、注目されている。
表示装置を構成する有機EL素子は、基板上に、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、この有機層を挟んで対向する第1電極(例えば下部電極)及び第2電極(例えば上部電極)とが積層形成された構造を有し、第1電極と第2電極との間に電圧がかけられることによって、有機層から所定の発光がなされる。
【0003】
この表示装置の製造においては、まず、ガラスなどによる支持基板上に、有機EL素子の例えば陽極となる第1電極を、最終的に得る表示装置の赤・緑・青(RGB)の各色に対応させて、各画素ごとに形成する。次に、分離形成された第1電極上に、少なくとも有機発光材料からなる、RGBの各色に対応する有機層を形成し、この有機層の上に、例えば複数の画素に共通の陰極となる第2電極を形成して、有機EL素子の主要部となる積層構造を形成する。
その後、必要に応じて、補助電極、保護膜ならびに封止部材等を形成して、所定の表示装置を得る。
【0004】
ところで、この表示装置を構成する多数の画素の中に、発光しない画素いわゆる滅点が生じることがある。滅点は、表示品質を大きく低下させるため、その発生を抑えることが必要とされている。滅点が生じる原因としては、第1電極上に、有機層の形成に先立って異物が付着することが指摘されている。
【0005】
第1電極上に異物が付着している場合、第1電極と第2電極が接してしまうことで、両電極間が短絡し、動作時にリーク電流が発生することがある。その画素では、発光輝度が低下したり、発光しなくなったりするなどの問題が生じ、滅点の発生につながる。
【0006】
このような第1電極上の異物の付着に伴うリーク電流は、その発生を回避することが求められているが、異物の付着そのものを完全に回避することは困難であることから、付着した異物による電極間の短絡や、この短絡によるリーク電流の発生を低減ないし抑制することが望まれている。
これに対し、ボトムエミッション構造においては、前述したリーク電流を抑制するために、第1電極表面に高抵抗の緩衝層を設けた構造が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
一方、トップエミッション構造においては、第1電極で光を反射させる(例えば特許文献2参照)。トップエミッション構造の第1電極は、反射率が高い金属膜などであり、一般にボトムエミッション構造の第1電極と比較すると、抵抗率が100分の1以下である。また、第1電極に十分な反射性をもたせるためには、金属膜の厚みを数百nmにする必要があるが、厚く形成された金属膜は抵抗率が低い。
【特許文献1】特開2001-35667号公報
【特許文献2】特開2004-31324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、トップエミッション構造においては、第1電極の抵抗値が低いため、短絡によるリーク電流が非常に流れやすく、ボトムエミッション構造よりも短絡が深刻な問題であるといえる。よって、トップエミッション構造において短絡が抑制できる、より信頼性の高い構造による有機EL素子が求められている。
【0009】
すなわち例えば、前述の特許文献2に記載の発明による構造では、金属薄膜の上に比較的低効率の高い正孔注入層が形成されているが、基板側の反射率の低下回避、及びエッチングプロセスの簡略化のために、正孔注入層をなるべく薄くすることが求められることから、第1電極とその表面に付着する異物との間の導電性低減に寄与するだけの厚さとすることが難しく、リーク電流の発生を十分に抑制できるとは言えない。
【0010】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、滅点の実質的な低減が図られた有機EL素子ならびに表示装置と、この有機EL素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機EL素子は、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、この第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、この第2層上に設けられる第3層とを有し、
前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る表示装置は、有機EL素子による表示装置であって、前記有機EL素子は、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、この第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、この第2層上に設けられる第3層とを有し、前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされてなることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る有機EL素子の製造方法は、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成された有機EL素子の製造方法であって、前記第1電極を、少なくとも、前記基板側の第1層を形成する第1工程と、この第1層上に少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層を形成する第2工程と、この第2層上に前記第1層に比して高抵抗の第3層を形成する第3工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る有機EL素子によれば、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、第1電極が、少なくとも、基板側の第1層と、この第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、この第2層上に設けられる第3層とを有し、
第1層の抵抗率と第2層の抵抗率との差に比して、第2層の抵抗率と第3層の抵抗率との差が大とされたことから、例えば異物の付着によって第1電極上の有機層の形成が阻害され、第1電極と第2電極が短絡した場合にも、リーク電流及び滅点の発生を、抑制ないし低減することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る表示装置によれば、これを構成する有機EL素子によって、表示品質の向上を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る有機EL素子の製造方法によれば、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とを積層形成するにあたり、第1電極を、少なくとも、基板側の第1層を形成する第1工程と、この第1層上に少なくとも有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層を形成する第2工程と、この第2層上に前記第1層に比して高抵抗の第3層を形成する第3工程とを有することから、製造プロセスの工程数を増やすことなく、滅点抑制が図られた有機EL素子を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、前述の諸問題に鑑み、トップエミッション構造においてリーク電流及び滅点の発生を十分に抑制することが可能な有機EL素子について鋭意検討を重ねた結果、素子の構造及び製法に関し、素子特性を安定的に向上させる構成を特定したことから、有機EL(Electro Luminescence)素子ならびにその製造方法を提供するものである。
以下、図面を参照して、本発明の一例としての実施の形態を説明する。
【0018】
<有機EL素子及び表示装置の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の実施の形態を、本発明に係る表示装置の実施の形態とともに説明する。
図1A及び図1Bは、それぞれ、本発明に係る表示装置の要部となる、本発明に係る有機EL素子の一例の斜視図、及び、一部を断面とする斜視図である。
【0019】
図1Aに示すように、本実施形態に係る表示装置1は、有機EL素子2による表示装置である。
本実施形態に係る有機EL素子2は、図1Bに示すように、例えばガラスによる基板3上に、配線4とゲート絶縁膜5及び半導体薄膜6とによるTFT(Thin Film Transistor)素子7が画素ごとに設けられ、このTFT素子7上に、チャネル保護膜8及び絶縁膜9を介して形成される配線10が設けられ、各配線10の間を埋めてTFT素子7の直上部を平坦化する平坦化絶縁膜11上に、基板側から順に第1層12a、第2層12b、第3層12cの3層が積層形成されてなる第1電極12が陽極として形成され、この第1電極12が、対応する配線10によってTFT素子7に電気的に連結された構成を有する。
すなわち、本実施形態に係る有機EL素子2は、TFT素子7によって第1電極12の駆動がなされるアクティブマトリクス型の構成とされる。
【0020】
第1電極12は層間絶縁膜13によって画素ごとに分離され、層間絶縁膜13の開口に露出する第3層12c上に、少なくとも赤・緑・青(RGB)の各色に対応する有機発光材料からなる有機層14が画素ごとに形成され、この各有機層14上に、複数の画素に共通の陰極となる第2電極15と、この第2電極15の補助電極16と、保護膜17とが、この順に例えば全面に渡って積層され、複数の画素18による表示装置1が形成される。第2電極15は、図示しない内部配線によって、画素ごとに複数形成された配線10のうち第1電極12に連結されていないものに連結されている。
すなわち、本実施形態に係る有機EL素子2は、有機層14からの発光が、基板3側(第1電極12側)でなく第2電極15側から取り出されるトップエミッション型の構成とされる。
【0021】
第1電極12を構成する第1層12a及び第3層12cは、少なくとも有機層14からの発光の中心波長における反射率が60%未満の透明(半透明)導電材料からなり、例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)、インジウム酸化物(InOx)、スズ酸化物(SnOx)、亜鉛酸化物(ZnOx)などによることができる。
また、第1電極12を構成する第2層12bは、少なくとも有機層14からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料からなり、例えば銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)などの単体、またはこれらの少なくとも1つを含む合金や多層膜などによることができる。
【0022】
本実施形態に係る有機EL素子2は、第1層12aの抵抗率と第2層12bの抵抗率との差に比して、第2層12bの抵抗率と第3層12cの抵抗率との差が大とされた構成とされ、かつ、第3層12cの抵抗率が第1層12aの抵抗率に比して大とされ、第2層の抵抗率が、前記第1層及び前記第3層の抵抗率に比して小とされた構成を有する。
【0023】
したがって、本実施形態に係る有機EL素子2によれば、第1電極12が、金属などの高反射率ながらも低抵抗率の第2層12bによる構造を有するトップエミッション構造においても、前述した異物の介在ならびに第1電極12と第2電極15の短絡によるリーク電流の発生を抑制ないし低減することが可能となり、本実施形態に係る表示装置1においては、滅点の抑制によって表示品質の向上が図られるものである。
【0024】
なお、第3層12cと第2層12bとの抵抗率の差は、より確実にリーク電流を抑制する上で、例えば表面抵抗率において1000Ω/□以上に選定することが好ましく、後述するように、第1層12a及び第3層12cの成膜における条件を選定することによって、第2層が直接有機層14に隣接する構造に比して、素子特性を安定的に向上させることができる。
【0025】
<有機EL素子の製造方法の第1の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第1の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述した有機EL素子の実施形態と重複する構成要素には同一の符号を付して、重複説明を省略する。
【0026】
本実施形態に係る有機EL素子の製造方法においては、まず、例えばガラスによる基板3上に、配線4とゲート絶縁膜5及び半導体薄膜6を、最終的に得るTFT素子7の構成に対応させて画素18ごとに形成した後、半導体薄膜6上のゲート配線4に対応する中央部上にチャネル保護膜8を形成し、半導体薄膜6のチャネル保護膜8が形成されていない両端部にのみ選択的に不純物をドープすることによって、ソース及びドレインを有するTFT素子7を得る。
その後、TFT素子7及びチャネル保護膜8を覆う絶縁膜9を形成した後、この絶縁膜9上に、内部配線(図示せず)によってTFT素子7のドレインに連結された例えばアルミニウムによる配線10を、本実施形態では、最終的に形成する第1電極及び第2電極に対応して画素ごとに2つずつ、図2Aの概略断面図に示すように形成する。
【0027】
続いて、図2Bに示すように、絶縁膜9上に、配線10の間を埋めるように平坦化絶縁膜11を形成し、この平坦化絶縁膜11の配線10に対応する位置に開口を形成して、配線10の上面を露出させる。
なお、図示しないが、後述する第2電極と、この第2電極に対応して形成した配線10とのコンタクトを可能とするため、第2電極に対応する配線10上にも平坦化絶縁膜11の開口を形成し、後に形成する第1電極または他の導電性部材によって埋め込むことが好ましい。
【0028】
続いて、例えばITOによる第1層12aを形成する第1工程を行う。具体的には、例えばスパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用い、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1パーセント、DC出力を1000Wとして、例えば50nmの厚さで成膜することができる。
なお、本実施形態においては、第1工程及び第3工程のDCスパッタリングで用いるターゲットとして540mm×730mm(面積0.3942m2)のサイズのものを用いた。このターゲットを用いた場合の、単位面積あたりにかかる成膜パワーを[表1]に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
続いて、第1層の上に、例えばAgによる第2層12bを形成する第2工程を行う。具体的には、例えばスパッタガスとしてArを用い、圧力を0.5Pa、DC出力を5000Wとして、例えば100nm成膜することができる。
続いて、例えばITOによる第3層12cを形成する第3工程を行う。具体的には、スパッタガスとしてArのみを用い、スパッタ圧力を0.5Pa、DC出力を1000Wとして、例えば50nm成膜することができる。
【0031】
この様にして、図2Cに示すように、第1層12a〜第3層12cの3層からなる多層構造による第1電極12を形成する。
なお、第1層12aは、例えばAgによる第2層12bと基板との密着力を確保するための層である。この層は反射層となる第2層12bの下にあり、かつTFT素子7と第1電極12とを接続することを主たる目的として設けられる層であるため、後述するように、シート抵抗すなわち抵抗率が小さくなる条件で成膜する。第3層12cは仕事関数を調整して設けられ、この第3層12cが第2層12bと後に形成する有機層との間に介在することによって、最終的に有機層を挟んで対向する両電極が短絡した場合にも、リーク電流の発生が抑制される。
【0032】
本実施形態においては、後述するように、第3層を形成する第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定することから、第2層12bと、最終的に得る有機層14との間に、第1層12aに比して高抵抗の第3層12cを介在させることができ、前述した、第1電極12と後述する第2電極との短絡によるリーク電流の抑制が図られる構造を、より高い信頼性をもって安定的に形成することが可能となる。
【0033】
続いて、図3Aに示すように、第1電極12を、通常のリソグラフィー技術によって少なくとも画素を構成する部分を残してエッチング除去し、エッチングによって生じた開口と第1電極12の上面とに渡って、例えばSiO2による層間絶縁膜13を600nmの厚さで形成し、更に第1電極12の画素構成部分に対応する層間絶縁膜13をエッチング除去して第1電極12を露出させる。
【0034】
続いて、図3Bに示すように、マスク21の開口を通じて、各画素を構成する第1電極12上、つまり第3層12c上に蒸着させ、RGBの各色に対応する有機層14を形成する。
具体的には、蒸着源となる有機物として、例えば、正孔注入層には4,4´,4´´−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、正孔輸送層にはビス(N−ナフチル)−N−フェニル ベンジジン(α−NPD)、発光層には8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)を用いることができる。有機層14を構成するこれらの各層の材料は、それぞれ0.2gを抵抗加熱用のボートに充填し、真空蒸着装置の所定の電極に取り付け、真空槽を1.0×10−4Paまで減圧した後、各ボートに電圧を印加し、順次加熱して蒸着させる。
このようにして、第1電極12の第3層12cの表面に、正孔注入層のMTDATAを20nm蒸着後、正孔輸送層のα−NPDを30nm、発光層のAlq3を50nm蒸着する。
【0035】
マスク21は、例えば図4に示すように、金属材料による部材に所定の開口22を設けた構成によるものを用いることができ、開口22の配置及び形状は、目的とする画素構成に応じて適宜選定することができる。
【0036】
続いて、図5Aに示すように、例えば蒸着によって、複数の画素を構成する有機層14上の例えば全面に渡り、第2電極15を形成して、最終的に得る有機EL素子の主要部となる積層構造を形成する。
具体的には、マグネシウムと銀の合金(Mh:Ag)を用いた。マグネシウムは0.1g、銀は0.4gをボートに充填して、真空蒸着装置の所定の電極に取り付ける。真空層を、1.0×10−4まで減圧した後、ボートに電圧を印加し、加熱して蒸着させる。マグネシウムおよび銀を共蒸着により成膜速度の比を9:1として、膜厚を10nmとして形成した。
【0037】
続いて、第2電極15の上に補助電極16形成する。
具体的には、有機層14を形成した真空槽とは別の真空槽に移した後、有機層14の形成に用いたものと同じマスクを通して、補助電極16を構成する透明導電膜を成膜する。成膜にはDCスパッタリングを用いる。本実施例では、透明導電膜として室温成膜で良好な導電性を示すIn−Zn−O系の透明導電膜を用いる。成膜条件は、スパッタガスとしてアルゴンと酸素の混合ガス(体積比Ar:O2=1000:5)、圧力0.3Pa、DC出力200Wとして、膜厚100nmを成膜した。なお、透明導電膜による補助電極16は、陰極となる第2電極15の抵抗を下げるために設置するものであり、必ずしも設けなくとも良い。
【0038】
続いて、透明または半透明の樹脂などによる保護膜17を形成し、図5Bに示すような、本実施形態に係る有機EL素子を得る。
【0039】
本実施形態に係る有機EL素子の製造方法によれば、第3層12cを、第1層12aと抵抗値が異なる同一材料で構成することから、エッチング作業についても極端にプロセスを変更する必要がなく、更に減圧雰囲気中ないし真空中で連続的な一貫プロセスとして製造を行うことができることから、パーティクルすなわち異物の付着そのものも抑制することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法によれば、図6Aに示すように、第1層12aを構成する材料と組成のみが異なる材料によって第3層12cの透明導電材料を構成することから、滅点の抑制が図られる第1電極12を構成する上で、特段の手間のかかる工程を必要とすることなく、エッチングプロセスも通常のものを用いることができ、有機EL発光素子の初期特性及び信頼性に悪影響を与えるおそれのある加工や構成を回避することが可能となる。
【0041】
<有機EL素子の製造方法の第2の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第2の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0042】
本実施形態においては、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1.5パーセント、DC出力を500Wとし、50nm成膜して、第1電極12を得る。
【0043】
<有機EL素子の製造方法の第3の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第3の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0044】
本実施形態においては、第3工程に先立って、第2層上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを30nmの厚さで形成し、その上に、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてArのみを用い、スパッタ圧力を0.5Pa、DC出力を1000Wとして、例えば50nm成膜して行い、図6Bに示すように第1電極12を得る。
【0045】
<有機EL素子の製造方法の第4の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第4の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0046】
本実施形態においては、第3工程に先立って、第2層上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを30nmの厚さで形成し、その上に、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1.5パーセント、DC出力を500Wで行い、第3層を50nmの厚さで成膜して、図6Bに示すように第1電極12を得る。
【0047】
<有機EL素子の製造方法の第5の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第5の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0048】
本実施形態においては、第3工程に続いて、第3層上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを30nmの厚さで形成し、その上に、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてArのみを用い、スパッタ圧力を0.5Pa、DC出力を1000Wとして、例えば50nm成膜して行い、図6Cに示すように第1電極12を得る。
【0049】
<有機EL素子の製造方法の第6の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第6の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0050】
本実施形態においては、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1.5パーセント、DC出力を500Wで行い、第3層を50nmの厚さで成膜して、この第3層12c上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを形成して、図6Cに示すように第1電極12を得る。
【0051】
なお、以上の説明では、第1層〜第3層ないし第4層が連続して形成された例を説明したが、第1層と第2層、第2層と第3層の間に他の材料による層を介在させても良いし、また、このような層を有して、第2層と第1層及び第3層一方のみが隣接した構成とすることもできる。
【0052】
<実施例>
本発明の実施例について説明する。
本実施例に係る有機EL素子の製造方法によって構成する有機EL素子の、第1電極の第1層及び第3層は、透明導電膜として例えばITOにより構成される。
このITOに代表される透明導電膜は、その形成手法であるスパッタにおける酸素濃度や成膜パワーを変化させることによって、膜中の格子欠陥数や薄膜の結晶性などの組成が変化し、その結果比抵抗(シート抵抗)すなわち抵抗率が変化する。
透明導電膜の抵抗率を変化させることは、成膜時のチャンバー内圧力や基板温度など他のパラメータを制御することによっても可能ではあるが、本発明者らは、第3層を形成する第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定し、第2層と有機層との間に、第1層に比して高抵抗の第3層を介在させることにより、第1電極と第2電極との短絡によるリーク電流の抑制が図られる構造を特に安定的に形成できることを見出したものである。
【0053】
図7A及び図7Bは、それぞれ、本実施例に係る有機EL素子の製造方法における、マグネトロンスパッタリング法による、第3工程の酸素濃度と第3層の表面抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図と、その拡大図である。
従来の有機EL素子の製造においては、抵抗率すなわちシート抵抗が最小値となる条件(例えば図中a)で成膜を行ってきたのに対し、本実施例に係る有機EL素子の製造においては、第2層と有機層との間に設けられる第3層を異なる条件(例えば図中b)で形成することにより、例えば図中aの条件で成膜された第1層に比して高抵抗の第3層を介在させることができる。
【0054】
また、従来は、抵抗率を上昇させるためには酸素濃度を高くすることが必要と考えられてきたが、本実施例においては、図7Aに示すように、例えば400W程度の成膜パワーによる場合には酸素濃度を高くした条件(例えば図中c)で透明導電膜の抵抗率を向上させることができるのに対し、前述した850W程度の成膜パワーによる場合(例えば図中b)や1300W程度の成膜パワーによる場合(例えば図中d)には、逆に酸素濃度を高くすることで抵抗が低くなってしまい、本発明に係る有機EL素子の第3層を構成する条件としては、成膜時の酸素濃度がより低い条件が適切となることが確認できた。
【0055】
本実施例においては、図7Bに示すように、例えば第1電極の第3層を形成する第3工程を、酸素濃度0.9%以上かつ第1工程に比して同等以下の低い成膜パワー、または酸素濃度0.7%以下かつ第1工程に比して同等以上の高い成膜パワーで行うことにより、有機EL素子の製造を、第3層の抵抗率が第1層の抵抗率に比して高くなるように行うことができることが確認できた。
成膜パワー及び酸素濃度等の値は、後述するように、圧力などの他のパラメータや製造を行う装置構成等に依存している可能性はあるものの、従来の有機EL素子の製造におけるような、第1層のシート抵抗抑制及びプロセス安定性の優先のために、酸素濃度の変化に対するシート抵抗の変化が小さいパワーを選択し、その中でもシート抵抗が最小値をとる条件(例えば図中a)での成膜を行うことに比べ、本実施例に係る製造方法によれば、高い信頼性をもって安定的にリーク電流を抑制できると考えられる。
【0056】
また、シート抵抗の変化幅はパワーに依存しているが、例えば400W程度の成膜パワーにおいては、特定の酸素濃度で最小値を取り、その後再び増加に転じるのに対し、1300W程度の成膜パワーにおいては、逆に酸素濃度を高くしても抵抗率の上昇はみられず、酸素濃度の低い条件で抵抗率が最大となる。
本実施例によれば、本発明に係る有機EL素子の製造において、例えば第1工程及び第3工程を、最終的に得る第1層及び第3層の抵抗率の変化が酸素濃度の変化に対して最大となる共通の成膜パワーで、酸素濃度を変化させて行うことにより、例えば第1層と第3層とを抵抗値が異なる同一材料によって構成でき、簡便かつ安定的に、リーク電流抑制に関して信頼性の高い有機EL素子を製造できると考えられる。
【0057】
続いて、有機EL素子による表示装置の特性について、有機EL素子の製造を、第1電極の第3層を前述の条件b及び条件cで行った場合の、条件aによる場合との比較測定を行った結果について説明する。
この測定では、(発光しない画素数/全ての画素数)で表される、滅点の出現率を評価した。従来の成膜条件(条件a)で作製したパネルが約7×10-5であるのに対し、前述の第1実施形態の成膜条件(条件b)で作製したパネルは約1×10-5、第2実施形態の成膜条件(条件c)で作製したパネルは約3×10-6となり、本発明に係る有機EL素子の製造方法による滅点抑制効果を確認することができた。
なお、前述の第3実施形態及び第5実施形態の成膜条件で製造した有機EL素子については第1実施形態と同等の、第4実施形態及び第6実施形態の成膜条件で製造した有機EL素子については第2実施形態と同等の滅点抑制効果が得られることが確認された。
【0058】
続いて、本発明に係る有機EL素子の製造における、圧力変化に対する酸素濃度及び抵抗率の変化の検討結果について説明する。
図8は、本実施例に係る有機EL素子における、第3工程の酸素濃度と第3層の表面抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
この測定においては、成膜パワー400Wで、成膜時の圧力をパラメータとして製造における第3工程の条件検討を行い、製造した第3層の抵抗率を測定した。
抵抗率の上昇の程度に相違はあるものの、この成膜パワーで、酸素濃度を高くするほど抵抗率が上昇する傾向は、圧力が異なる場合にも共通していることがわかる。
【0059】
また、図9は、本実施例に係る有機EL素子における、第3工程の酸素濃度と第3層の表面抵抗率との関係の測定結果の他の例を示す模式図である。
この測定においては、成膜パワー850Wで、成膜時の圧力をパラメータとして製造における第3工程の条件検討を行い、製造した第3層の抵抗率を測定した。
成膜パワー850Wにおいても、酸素濃度を高くするほど抵抗率が低下する傾向は、圧力が異なる場合にも共通していることがわかる。
【0060】
図8及び図9の結果からも、本発明に係る有機EL素子の製造によれば、前述の第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定することにより、所望の抵抗率を有する第3層を形成することができると考えられる。
【0061】
以上、本発明に係る有機EL素子、表示装置、ならびに有機EL素子の製造方法の実施形態及び実施例を説明したが、以上の説明で挙げた使用材料及びその量、処理時間及び寸法などの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法形状及び配置関係も概略的なものである。すなわち、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0062】
例えば、有機EL素子の製造における酸素濃度を変化させるには、マスフローコントローラー(MFC)により、酸素ガスとAr等の不活性気体ガスの流量を調整する方法が一般的であり、酸素濃度を0にする時は、不活性気体ガスのみをチャンバーに流入させて成膜を行うが、これに限られないなど、本発明は、種々の変形及び変更をなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】A、B それぞれ、本発明に係る表示装置を構成する、本発明に係る有機EL素子の一例の斜視図と、一部を断面とする斜視図である。
【図2】A〜C それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する工程図である。
【図3】A、B それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する工程図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する、マスクの形状を示す上面図である。
【図5】A、B それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する工程図である。
【図6】A〜C それぞれ、本発明に係る有機EL素子を構成する第1電極の、他の例を示す概略断面図である。
【図7】A、B それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法における、第3工程の酸素濃度と第3層の抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
【図8】本発明に係る有機EL素子の製造方法における、第3工程の酸素濃度と第3層の抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
【図9】本発明に係る有機EL素子の製造方法における、第3工程の酸素濃度と第3層の抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1・・・表示装置、2・・・有機EL素子、3・・・基板、4・・・TFT配線、5・・・ゲート絶縁膜、6・・・半導体薄膜、7・・・TFT素子、8・・・チャネル保護膜、9・・・絶縁膜、10・・・配線、11・・・平坦化薄膜、12・・・第1電極、12a・・・第1層、12b・・・第2層、12c・・・第3層、12d・・・第4層、13・・・層間絶縁膜、14・・・有機層、15・・・第2電極、16・・・補助電極、17・・・保護膜、18・・・画素、21・・・マスク、22・・・開口
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子と、有機EL素子を用いた表示装置、及び有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence;電界発光)素子による表示装置は、色再現性や応答速度などの特性に優れていることから、注目されている。
表示装置を構成する有機EL素子は、基板上に、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、この有機層を挟んで対向する第1電極(例えば下部電極)及び第2電極(例えば上部電極)とが積層形成された構造を有し、第1電極と第2電極との間に電圧がかけられることによって、有機層から所定の発光がなされる。
【0003】
この表示装置の製造においては、まず、ガラスなどによる支持基板上に、有機EL素子の例えば陽極となる第1電極を、最終的に得る表示装置の赤・緑・青(RGB)の各色に対応させて、各画素ごとに形成する。次に、分離形成された第1電極上に、少なくとも有機発光材料からなる、RGBの各色に対応する有機層を形成し、この有機層の上に、例えば複数の画素に共通の陰極となる第2電極を形成して、有機EL素子の主要部となる積層構造を形成する。
その後、必要に応じて、補助電極、保護膜ならびに封止部材等を形成して、所定の表示装置を得る。
【0004】
ところで、この表示装置を構成する多数の画素の中に、発光しない画素いわゆる滅点が生じることがある。滅点は、表示品質を大きく低下させるため、その発生を抑えることが必要とされている。滅点が生じる原因としては、第1電極上に、有機層の形成に先立って異物が付着することが指摘されている。
【0005】
第1電極上に異物が付着している場合、第1電極と第2電極が接してしまうことで、両電極間が短絡し、動作時にリーク電流が発生することがある。その画素では、発光輝度が低下したり、発光しなくなったりするなどの問題が生じ、滅点の発生につながる。
【0006】
このような第1電極上の異物の付着に伴うリーク電流は、その発生を回避することが求められているが、異物の付着そのものを完全に回避することは困難であることから、付着した異物による電極間の短絡や、この短絡によるリーク電流の発生を低減ないし抑制することが望まれている。
これに対し、ボトムエミッション構造においては、前述したリーク電流を抑制するために、第1電極表面に高抵抗の緩衝層を設けた構造が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
一方、トップエミッション構造においては、第1電極で光を反射させる(例えば特許文献2参照)。トップエミッション構造の第1電極は、反射率が高い金属膜などであり、一般にボトムエミッション構造の第1電極と比較すると、抵抗率が100分の1以下である。また、第1電極に十分な反射性をもたせるためには、金属膜の厚みを数百nmにする必要があるが、厚く形成された金属膜は抵抗率が低い。
【特許文献1】特開2001-35667号公報
【特許文献2】特開2004-31324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、トップエミッション構造においては、第1電極の抵抗値が低いため、短絡によるリーク電流が非常に流れやすく、ボトムエミッション構造よりも短絡が深刻な問題であるといえる。よって、トップエミッション構造において短絡が抑制できる、より信頼性の高い構造による有機EL素子が求められている。
【0009】
すなわち例えば、前述の特許文献2に記載の発明による構造では、金属薄膜の上に比較的低効率の高い正孔注入層が形成されているが、基板側の反射率の低下回避、及びエッチングプロセスの簡略化のために、正孔注入層をなるべく薄くすることが求められることから、第1電極とその表面に付着する異物との間の導電性低減に寄与するだけの厚さとすることが難しく、リーク電流の発生を十分に抑制できるとは言えない。
【0010】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、滅点の実質的な低減が図られた有機EL素子ならびに表示装置と、この有機EL素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る有機EL素子は、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、この第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、この第2層上に設けられる第3層とを有し、
前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る表示装置は、有機EL素子による表示装置であって、前記有機EL素子は、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、この第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、この第2層上に設けられる第3層とを有し、前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされてなることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る有機EL素子の製造方法は、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成された有機EL素子の製造方法であって、前記第1電極を、少なくとも、前記基板側の第1層を形成する第1工程と、この第1層上に少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層を形成する第2工程と、この第2層上に前記第1層に比して高抵抗の第3層を形成する第3工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る有機EL素子によれば、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、第1電極が、少なくとも、基板側の第1層と、この第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、この第2層上に設けられる第3層とを有し、
第1層の抵抗率と第2層の抵抗率との差に比して、第2層の抵抗率と第3層の抵抗率との差が大とされたことから、例えば異物の付着によって第1電極上の有機層の形成が阻害され、第1電極と第2電極が短絡した場合にも、リーク電流及び滅点の発生を、抑制ないし低減することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る表示装置によれば、これを構成する有機EL素子によって、表示品質の向上を図ることが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る有機EL素子の製造方法によれば、基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とを積層形成するにあたり、第1電極を、少なくとも、基板側の第1層を形成する第1工程と、この第1層上に少なくとも有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層を形成する第2工程と、この第2層上に前記第1層に比して高抵抗の第3層を形成する第3工程とを有することから、製造プロセスの工程数を増やすことなく、滅点抑制が図られた有機EL素子を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、前述の諸問題に鑑み、トップエミッション構造においてリーク電流及び滅点の発生を十分に抑制することが可能な有機EL素子について鋭意検討を重ねた結果、素子の構造及び製法に関し、素子特性を安定的に向上させる構成を特定したことから、有機EL(Electro Luminescence)素子ならびにその製造方法を提供するものである。
以下、図面を参照して、本発明の一例としての実施の形態を説明する。
【0018】
<有機EL素子及び表示装置の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の実施の形態を、本発明に係る表示装置の実施の形態とともに説明する。
図1A及び図1Bは、それぞれ、本発明に係る表示装置の要部となる、本発明に係る有機EL素子の一例の斜視図、及び、一部を断面とする斜視図である。
【0019】
図1Aに示すように、本実施形態に係る表示装置1は、有機EL素子2による表示装置である。
本実施形態に係る有機EL素子2は、図1Bに示すように、例えばガラスによる基板3上に、配線4とゲート絶縁膜5及び半導体薄膜6とによるTFT(Thin Film Transistor)素子7が画素ごとに設けられ、このTFT素子7上に、チャネル保護膜8及び絶縁膜9を介して形成される配線10が設けられ、各配線10の間を埋めてTFT素子7の直上部を平坦化する平坦化絶縁膜11上に、基板側から順に第1層12a、第2層12b、第3層12cの3層が積層形成されてなる第1電極12が陽極として形成され、この第1電極12が、対応する配線10によってTFT素子7に電気的に連結された構成を有する。
すなわち、本実施形態に係る有機EL素子2は、TFT素子7によって第1電極12の駆動がなされるアクティブマトリクス型の構成とされる。
【0020】
第1電極12は層間絶縁膜13によって画素ごとに分離され、層間絶縁膜13の開口に露出する第3層12c上に、少なくとも赤・緑・青(RGB)の各色に対応する有機発光材料からなる有機層14が画素ごとに形成され、この各有機層14上に、複数の画素に共通の陰極となる第2電極15と、この第2電極15の補助電極16と、保護膜17とが、この順に例えば全面に渡って積層され、複数の画素18による表示装置1が形成される。第2電極15は、図示しない内部配線によって、画素ごとに複数形成された配線10のうち第1電極12に連結されていないものに連結されている。
すなわち、本実施形態に係る有機EL素子2は、有機層14からの発光が、基板3側(第1電極12側)でなく第2電極15側から取り出されるトップエミッション型の構成とされる。
【0021】
第1電極12を構成する第1層12a及び第3層12cは、少なくとも有機層14からの発光の中心波長における反射率が60%未満の透明(半透明)導電材料からなり、例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)、インジウム酸化物(InOx)、スズ酸化物(SnOx)、亜鉛酸化物(ZnOx)などによることができる。
また、第1電極12を構成する第2層12bは、少なくとも有機層14からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料からなり、例えば銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)などの単体、またはこれらの少なくとも1つを含む合金や多層膜などによることができる。
【0022】
本実施形態に係る有機EL素子2は、第1層12aの抵抗率と第2層12bの抵抗率との差に比して、第2層12bの抵抗率と第3層12cの抵抗率との差が大とされた構成とされ、かつ、第3層12cの抵抗率が第1層12aの抵抗率に比して大とされ、第2層の抵抗率が、前記第1層及び前記第3層の抵抗率に比して小とされた構成を有する。
【0023】
したがって、本実施形態に係る有機EL素子2によれば、第1電極12が、金属などの高反射率ながらも低抵抗率の第2層12bによる構造を有するトップエミッション構造においても、前述した異物の介在ならびに第1電極12と第2電極15の短絡によるリーク電流の発生を抑制ないし低減することが可能となり、本実施形態に係る表示装置1においては、滅点の抑制によって表示品質の向上が図られるものである。
【0024】
なお、第3層12cと第2層12bとの抵抗率の差は、より確実にリーク電流を抑制する上で、例えば表面抵抗率において1000Ω/□以上に選定することが好ましく、後述するように、第1層12a及び第3層12cの成膜における条件を選定することによって、第2層が直接有機層14に隣接する構造に比して、素子特性を安定的に向上させることができる。
【0025】
<有機EL素子の製造方法の第1の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第1の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述した有機EL素子の実施形態と重複する構成要素には同一の符号を付して、重複説明を省略する。
【0026】
本実施形態に係る有機EL素子の製造方法においては、まず、例えばガラスによる基板3上に、配線4とゲート絶縁膜5及び半導体薄膜6を、最終的に得るTFT素子7の構成に対応させて画素18ごとに形成した後、半導体薄膜6上のゲート配線4に対応する中央部上にチャネル保護膜8を形成し、半導体薄膜6のチャネル保護膜8が形成されていない両端部にのみ選択的に不純物をドープすることによって、ソース及びドレインを有するTFT素子7を得る。
その後、TFT素子7及びチャネル保護膜8を覆う絶縁膜9を形成した後、この絶縁膜9上に、内部配線(図示せず)によってTFT素子7のドレインに連結された例えばアルミニウムによる配線10を、本実施形態では、最終的に形成する第1電極及び第2電極に対応して画素ごとに2つずつ、図2Aの概略断面図に示すように形成する。
【0027】
続いて、図2Bに示すように、絶縁膜9上に、配線10の間を埋めるように平坦化絶縁膜11を形成し、この平坦化絶縁膜11の配線10に対応する位置に開口を形成して、配線10の上面を露出させる。
なお、図示しないが、後述する第2電極と、この第2電極に対応して形成した配線10とのコンタクトを可能とするため、第2電極に対応する配線10上にも平坦化絶縁膜11の開口を形成し、後に形成する第1電極または他の導電性部材によって埋め込むことが好ましい。
【0028】
続いて、例えばITOによる第1層12aを形成する第1工程を行う。具体的には、例えばスパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用い、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1パーセント、DC出力を1000Wとして、例えば50nmの厚さで成膜することができる。
なお、本実施形態においては、第1工程及び第3工程のDCスパッタリングで用いるターゲットとして540mm×730mm(面積0.3942m2)のサイズのものを用いた。このターゲットを用いた場合の、単位面積あたりにかかる成膜パワーを[表1]に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
続いて、第1層の上に、例えばAgによる第2層12bを形成する第2工程を行う。具体的には、例えばスパッタガスとしてArを用い、圧力を0.5Pa、DC出力を5000Wとして、例えば100nm成膜することができる。
続いて、例えばITOによる第3層12cを形成する第3工程を行う。具体的には、スパッタガスとしてArのみを用い、スパッタ圧力を0.5Pa、DC出力を1000Wとして、例えば50nm成膜することができる。
【0031】
この様にして、図2Cに示すように、第1層12a〜第3層12cの3層からなる多層構造による第1電極12を形成する。
なお、第1層12aは、例えばAgによる第2層12bと基板との密着力を確保するための層である。この層は反射層となる第2層12bの下にあり、かつTFT素子7と第1電極12とを接続することを主たる目的として設けられる層であるため、後述するように、シート抵抗すなわち抵抗率が小さくなる条件で成膜する。第3層12cは仕事関数を調整して設けられ、この第3層12cが第2層12bと後に形成する有機層との間に介在することによって、最終的に有機層を挟んで対向する両電極が短絡した場合にも、リーク電流の発生が抑制される。
【0032】
本実施形態においては、後述するように、第3層を形成する第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定することから、第2層12bと、最終的に得る有機層14との間に、第1層12aに比して高抵抗の第3層12cを介在させることができ、前述した、第1電極12と後述する第2電極との短絡によるリーク電流の抑制が図られる構造を、より高い信頼性をもって安定的に形成することが可能となる。
【0033】
続いて、図3Aに示すように、第1電極12を、通常のリソグラフィー技術によって少なくとも画素を構成する部分を残してエッチング除去し、エッチングによって生じた開口と第1電極12の上面とに渡って、例えばSiO2による層間絶縁膜13を600nmの厚さで形成し、更に第1電極12の画素構成部分に対応する層間絶縁膜13をエッチング除去して第1電極12を露出させる。
【0034】
続いて、図3Bに示すように、マスク21の開口を通じて、各画素を構成する第1電極12上、つまり第3層12c上に蒸着させ、RGBの各色に対応する有機層14を形成する。
具体的には、蒸着源となる有機物として、例えば、正孔注入層には4,4´,4´´−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、正孔輸送層にはビス(N−ナフチル)−N−フェニル ベンジジン(α−NPD)、発光層には8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3)を用いることができる。有機層14を構成するこれらの各層の材料は、それぞれ0.2gを抵抗加熱用のボートに充填し、真空蒸着装置の所定の電極に取り付け、真空槽を1.0×10−4Paまで減圧した後、各ボートに電圧を印加し、順次加熱して蒸着させる。
このようにして、第1電極12の第3層12cの表面に、正孔注入層のMTDATAを20nm蒸着後、正孔輸送層のα−NPDを30nm、発光層のAlq3を50nm蒸着する。
【0035】
マスク21は、例えば図4に示すように、金属材料による部材に所定の開口22を設けた構成によるものを用いることができ、開口22の配置及び形状は、目的とする画素構成に応じて適宜選定することができる。
【0036】
続いて、図5Aに示すように、例えば蒸着によって、複数の画素を構成する有機層14上の例えば全面に渡り、第2電極15を形成して、最終的に得る有機EL素子の主要部となる積層構造を形成する。
具体的には、マグネシウムと銀の合金(Mh:Ag)を用いた。マグネシウムは0.1g、銀は0.4gをボートに充填して、真空蒸着装置の所定の電極に取り付ける。真空層を、1.0×10−4まで減圧した後、ボートに電圧を印加し、加熱して蒸着させる。マグネシウムおよび銀を共蒸着により成膜速度の比を9:1として、膜厚を10nmとして形成した。
【0037】
続いて、第2電極15の上に補助電極16形成する。
具体的には、有機層14を形成した真空槽とは別の真空槽に移した後、有機層14の形成に用いたものと同じマスクを通して、補助電極16を構成する透明導電膜を成膜する。成膜にはDCスパッタリングを用いる。本実施例では、透明導電膜として室温成膜で良好な導電性を示すIn−Zn−O系の透明導電膜を用いる。成膜条件は、スパッタガスとしてアルゴンと酸素の混合ガス(体積比Ar:O2=1000:5)、圧力0.3Pa、DC出力200Wとして、膜厚100nmを成膜した。なお、透明導電膜による補助電極16は、陰極となる第2電極15の抵抗を下げるために設置するものであり、必ずしも設けなくとも良い。
【0038】
続いて、透明または半透明の樹脂などによる保護膜17を形成し、図5Bに示すような、本実施形態に係る有機EL素子を得る。
【0039】
本実施形態に係る有機EL素子の製造方法によれば、第3層12cを、第1層12aと抵抗値が異なる同一材料で構成することから、エッチング作業についても極端にプロセスを変更する必要がなく、更に減圧雰囲気中ないし真空中で連続的な一貫プロセスとして製造を行うことができることから、パーティクルすなわち異物の付着そのものも抑制することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法によれば、図6Aに示すように、第1層12aを構成する材料と組成のみが異なる材料によって第3層12cの透明導電材料を構成することから、滅点の抑制が図られる第1電極12を構成する上で、特段の手間のかかる工程を必要とすることなく、エッチングプロセスも通常のものを用いることができ、有機EL発光素子の初期特性及び信頼性に悪影響を与えるおそれのある加工や構成を回避することが可能となる。
【0041】
<有機EL素子の製造方法の第2の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第2の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0042】
本実施形態においては、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1.5パーセント、DC出力を500Wとし、50nm成膜して、第1電極12を得る。
【0043】
<有機EL素子の製造方法の第3の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第3の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0044】
本実施形態においては、第3工程に先立って、第2層上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを30nmの厚さで形成し、その上に、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてArのみを用い、スパッタ圧力を0.5Pa、DC出力を1000Wとして、例えば50nm成膜して行い、図6Bに示すように第1電極12を得る。
【0045】
<有機EL素子の製造方法の第4の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第4の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0046】
本実施形態においては、第3工程に先立って、第2層上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを30nmの厚さで形成し、その上に、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1.5パーセント、DC出力を500Wで行い、第3層を50nmの厚さで成膜して、図6Bに示すように第1電極12を得る。
【0047】
<有機EL素子の製造方法の第5の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第5の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0048】
本実施形態においては、第3工程に続いて、第3層上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを30nmの厚さで形成し、その上に、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてArのみを用い、スパッタ圧力を0.5Pa、DC出力を1000Wとして、例えば50nm成膜して行い、図6Cに示すように第1電極12を得る。
【0049】
<有機EL素子の製造方法の第6の実施の形態>
本発明に係る有機EL素子の製造方法の第6の実施の形態を説明する。なお、本実施形態では、前述の第1実施形態と同様の点については、重複説明を省略する。
【0050】
本実施形態においては、第1電極12を構成する第3層12cを形成する第3工程を、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)と酸素(O2)を用いて、スパッタ圧力を0.5Pa、酸素濃度を1.5パーセント、DC出力を500Wで行い、第3層を50nmの厚さで成膜して、この第3層12c上に、第1工程と同様の条件で、つまり第3層に比して低抵抗の第4層12dを形成して、図6Cに示すように第1電極12を得る。
【0051】
なお、以上の説明では、第1層〜第3層ないし第4層が連続して形成された例を説明したが、第1層と第2層、第2層と第3層の間に他の材料による層を介在させても良いし、また、このような層を有して、第2層と第1層及び第3層一方のみが隣接した構成とすることもできる。
【0052】
<実施例>
本発明の実施例について説明する。
本実施例に係る有機EL素子の製造方法によって構成する有機EL素子の、第1電極の第1層及び第3層は、透明導電膜として例えばITOにより構成される。
このITOに代表される透明導電膜は、その形成手法であるスパッタにおける酸素濃度や成膜パワーを変化させることによって、膜中の格子欠陥数や薄膜の結晶性などの組成が変化し、その結果比抵抗(シート抵抗)すなわち抵抗率が変化する。
透明導電膜の抵抗率を変化させることは、成膜時のチャンバー内圧力や基板温度など他のパラメータを制御することによっても可能ではあるが、本発明者らは、第3層を形成する第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定し、第2層と有機層との間に、第1層に比して高抵抗の第3層を介在させることにより、第1電極と第2電極との短絡によるリーク電流の抑制が図られる構造を特に安定的に形成できることを見出したものである。
【0053】
図7A及び図7Bは、それぞれ、本実施例に係る有機EL素子の製造方法における、マグネトロンスパッタリング法による、第3工程の酸素濃度と第3層の表面抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図と、その拡大図である。
従来の有機EL素子の製造においては、抵抗率すなわちシート抵抗が最小値となる条件(例えば図中a)で成膜を行ってきたのに対し、本実施例に係る有機EL素子の製造においては、第2層と有機層との間に設けられる第3層を異なる条件(例えば図中b)で形成することにより、例えば図中aの条件で成膜された第1層に比して高抵抗の第3層を介在させることができる。
【0054】
また、従来は、抵抗率を上昇させるためには酸素濃度を高くすることが必要と考えられてきたが、本実施例においては、図7Aに示すように、例えば400W程度の成膜パワーによる場合には酸素濃度を高くした条件(例えば図中c)で透明導電膜の抵抗率を向上させることができるのに対し、前述した850W程度の成膜パワーによる場合(例えば図中b)や1300W程度の成膜パワーによる場合(例えば図中d)には、逆に酸素濃度を高くすることで抵抗が低くなってしまい、本発明に係る有機EL素子の第3層を構成する条件としては、成膜時の酸素濃度がより低い条件が適切となることが確認できた。
【0055】
本実施例においては、図7Bに示すように、例えば第1電極の第3層を形成する第3工程を、酸素濃度0.9%以上かつ第1工程に比して同等以下の低い成膜パワー、または酸素濃度0.7%以下かつ第1工程に比して同等以上の高い成膜パワーで行うことにより、有機EL素子の製造を、第3層の抵抗率が第1層の抵抗率に比して高くなるように行うことができることが確認できた。
成膜パワー及び酸素濃度等の値は、後述するように、圧力などの他のパラメータや製造を行う装置構成等に依存している可能性はあるものの、従来の有機EL素子の製造におけるような、第1層のシート抵抗抑制及びプロセス安定性の優先のために、酸素濃度の変化に対するシート抵抗の変化が小さいパワーを選択し、その中でもシート抵抗が最小値をとる条件(例えば図中a)での成膜を行うことに比べ、本実施例に係る製造方法によれば、高い信頼性をもって安定的にリーク電流を抑制できると考えられる。
【0056】
また、シート抵抗の変化幅はパワーに依存しているが、例えば400W程度の成膜パワーにおいては、特定の酸素濃度で最小値を取り、その後再び増加に転じるのに対し、1300W程度の成膜パワーにおいては、逆に酸素濃度を高くしても抵抗率の上昇はみられず、酸素濃度の低い条件で抵抗率が最大となる。
本実施例によれば、本発明に係る有機EL素子の製造において、例えば第1工程及び第3工程を、最終的に得る第1層及び第3層の抵抗率の変化が酸素濃度の変化に対して最大となる共通の成膜パワーで、酸素濃度を変化させて行うことにより、例えば第1層と第3層とを抵抗値が異なる同一材料によって構成でき、簡便かつ安定的に、リーク電流抑制に関して信頼性の高い有機EL素子を製造できると考えられる。
【0057】
続いて、有機EL素子による表示装置の特性について、有機EL素子の製造を、第1電極の第3層を前述の条件b及び条件cで行った場合の、条件aによる場合との比較測定を行った結果について説明する。
この測定では、(発光しない画素数/全ての画素数)で表される、滅点の出現率を評価した。従来の成膜条件(条件a)で作製したパネルが約7×10-5であるのに対し、前述の第1実施形態の成膜条件(条件b)で作製したパネルは約1×10-5、第2実施形態の成膜条件(条件c)で作製したパネルは約3×10-6となり、本発明に係る有機EL素子の製造方法による滅点抑制効果を確認することができた。
なお、前述の第3実施形態及び第5実施形態の成膜条件で製造した有機EL素子については第1実施形態と同等の、第4実施形態及び第6実施形態の成膜条件で製造した有機EL素子については第2実施形態と同等の滅点抑制効果が得られることが確認された。
【0058】
続いて、本発明に係る有機EL素子の製造における、圧力変化に対する酸素濃度及び抵抗率の変化の検討結果について説明する。
図8は、本実施例に係る有機EL素子における、第3工程の酸素濃度と第3層の表面抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
この測定においては、成膜パワー400Wで、成膜時の圧力をパラメータとして製造における第3工程の条件検討を行い、製造した第3層の抵抗率を測定した。
抵抗率の上昇の程度に相違はあるものの、この成膜パワーで、酸素濃度を高くするほど抵抗率が上昇する傾向は、圧力が異なる場合にも共通していることがわかる。
【0059】
また、図9は、本実施例に係る有機EL素子における、第3工程の酸素濃度と第3層の表面抵抗率との関係の測定結果の他の例を示す模式図である。
この測定においては、成膜パワー850Wで、成膜時の圧力をパラメータとして製造における第3工程の条件検討を行い、製造した第3層の抵抗率を測定した。
成膜パワー850Wにおいても、酸素濃度を高くするほど抵抗率が低下する傾向は、圧力が異なる場合にも共通していることがわかる。
【0060】
図8及び図9の結果からも、本発明に係る有機EL素子の製造によれば、前述の第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定することにより、所望の抵抗率を有する第3層を形成することができると考えられる。
【0061】
以上、本発明に係る有機EL素子、表示装置、ならびに有機EL素子の製造方法の実施形態及び実施例を説明したが、以上の説明で挙げた使用材料及びその量、処理時間及び寸法などの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法形状及び配置関係も概略的なものである。すなわち、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0062】
例えば、有機EL素子の製造における酸素濃度を変化させるには、マスフローコントローラー(MFC)により、酸素ガスとAr等の不活性気体ガスの流量を調整する方法が一般的であり、酸素濃度を0にする時は、不活性気体ガスのみをチャンバーに流入させて成膜を行うが、これに限られないなど、本発明は、種々の変形及び変更をなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】A、B それぞれ、本発明に係る表示装置を構成する、本発明に係る有機EL素子の一例の斜視図と、一部を断面とする斜視図である。
【図2】A〜C それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する工程図である。
【図3】A、B それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する工程図である。
【図4】本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する、マスクの形状を示す上面図である。
【図5】A、B それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法の一例の説明に供する工程図である。
【図6】A〜C それぞれ、本発明に係る有機EL素子を構成する第1電極の、他の例を示す概略断面図である。
【図7】A、B それぞれ、本発明に係る有機EL素子の製造方法における、第3工程の酸素濃度と第3層の抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
【図8】本発明に係る有機EL素子の製造方法における、第3工程の酸素濃度と第3層の抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
【図9】本発明に係る有機EL素子の製造方法における、第3工程の酸素濃度と第3層の抵抗率との関係の測定結果の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1・・・表示装置、2・・・有機EL素子、3・・・基板、4・・・TFT配線、5・・・ゲート絶縁膜、6・・・半導体薄膜、7・・・TFT素子、8・・・チャネル保護膜、9・・・絶縁膜、10・・・配線、11・・・平坦化薄膜、12・・・第1電極、12a・・・第1層、12b・・・第2層、12c・・・第3層、12d・・・第4層、13・・・層間絶縁膜、14・・・有機層、15・・・第2電極、16・・・補助電極、17・・・保護膜、18・・・画素、21・・・マスク、22・・・開口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、
前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、該第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、該第2層上に設けられる第3層とを有し、
前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされた
ことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記第3層の抵抗率が、前記第1層の抵抗率に比して大とされた
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記第2層の抵抗率が、前記第1層及び前記第3層の抵抗率に比して小とされた
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記第1層と前記第3層とが同一の材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項5】
有機EL素子による表示装置であって、
前記有機EL素子は、
基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層
形成され、
前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、該第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、該第2層上に設けられる第3層とを有し、
前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされてなる
ことを特徴とする表示装置。
【請求項6】
基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成された有機EL素子の製造方法であって、
前記第1電極を、少なくとも、前記基板側の第1層を形成する第1工程と、該第1層上に少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層を形成する第2工程と、該第2層上に前記第1層に比して高抵抗の第3層を形成する第3工程とを有する
ことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定する
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程を、酸素濃度0.9%以上かつ前記第1工程に比して低い成膜パワー、または酸素濃度0.7%以下かつ前記第1工程に比して高い成膜パワーで行う
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程及び前記第3工程を、最終的に得る第1層及び第3層の抵抗率の変化が、酸素濃度の変化に対して最大となる共通の成膜パワーで、酸素濃度を変化させて行う
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1層及び前記第3層を構成する材料の、抵抗値を互いに異ならせる
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項1】
基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成され、
前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、該第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、該第2層上に設けられる第3層とを有し、
前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされた
ことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記第3層の抵抗率が、前記第1層の抵抗率に比して大とされた
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記第2層の抵抗率が、前記第1層及び前記第3層の抵抗率に比して小とされた
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記第1層と前記第3層とが同一の材料からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項5】
有機EL素子による表示装置であって、
前記有機EL素子は、
基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層
形成され、
前記第1電極が、少なくとも、前記基板側の第1層と、該第1層上に設けられる、少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層と、該第2層上に設けられる第3層とを有し、
前記第1層の抵抗率と前記第2層の抵抗率との差に比して、前記第2層の抵抗率と前記第3層の抵抗率との差が大とされてなる
ことを特徴とする表示装置。
【請求項6】
基板上に、第1電極と、少なくとも有機発光材料からなる有機層と、第2電極とが積層形成された有機EL素子の製造方法であって、
前記第1電極を、少なくとも、前記基板側の第1層を形成する第1工程と、該第1層上に少なくとも前記有機層からの発光の中心波長における反射率が60%以上の材料による第2層を形成する第2工程と、該第2層上に前記第1層に比して高抵抗の第3層を形成する第3工程とを有する
ことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程において、酸素濃度及び成膜パワーのうち一方の値を選定し、続いて第3層の抵抗値が第1層の抵抗値よりも高くなるように他方の値を選定する
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項8】
前記第3工程を、酸素濃度0.9%以上かつ前記第1工程に比して低い成膜パワー、または酸素濃度0.7%以下かつ前記第1工程に比して高い成膜パワーで行う
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程及び前記第3工程を、最終的に得る第1層及び第3層の抵抗率の変化が、酸素濃度の変化に対して最大となる共通の成膜パワーで、酸素濃度を変化させて行う
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1層及び前記第3層を構成する材料の、抵抗値を互いに異ならせる
ことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−338916(P2006−338916A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159551(P2005−159551)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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