説明

有機EL素子用封止剤

【課題】透明性及び導電性に優れる有機EL素子用封止剤を提供する。
【解決手段】導電性微粒子、環状エーテル化合物、及び、熱硬化剤を含有する有機EL素子用封止剤であって、前記導電性微粒子は、平均一次粒子径が10〜300nmであり、前記環状エーテル化合物は、水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物を含有し、前記環状エーテル化合物と前記熱硬化剤との合計量100重量部に対する前記導電性微粒子の含有量が100〜400重量部であり、前記水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物の含有量が、前記環状エーテル化合物と前記熱硬化剤との合計量に対して5〜30重量%である有機EL素子用封止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及び導電性に優れる有機EL素子用封止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された積層体構造を有し、この有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して発光する。このように有機EL素子は自己発光を行うことから、バックライトを必要とする液晶表示素子等と比較して視認性がよく、薄型化が可能であり、しかも直流低電圧駆動が可能であるという利点を有しており、次世代ディスプレイとして着目されている。
【0003】
しかし、有機EL素子を構成する有機発光材料は、活性が高く化学的に不安定であるため、水分等による酸化により特性が劣化しやすく、大気中で駆動させると、発光特性が急激に劣化するため、寿命が短いという問題があった。そこで、有機EL素子の上に乾燥剤が設置されたガラス又は金属からなる蓋を被せ、その周辺を接着剤(封止剤)で封止することにより水分の浸入を遮断する構造が採られていた。この方式は、有機EL素子から発せられた光が蓋の反対側、即ち、有機EL素子の底部側から取り出されることからボトムエミッション方式とも呼ばれている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、近年、従来のボトムエミッション方式の有機EL素子に代わって、有機EL素子から発せられた光を上面側から取り出すトップエミッション方式の有機EL素子が注目されている。この方式は、開口率が高く、低電圧駆動となることから長寿命化に有利であるという利点がある。このようなトップエミッション方式の有機EL素子では、通常、積層体を、2枚のガラス等の透明材料からなる防湿性基材により挟み込み、該防湿性基材間を充填剤で充填することにより封止している(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、このようなトップエミッション方式の有機EL素子では、光の取り出し方向を遮蔽してしまわないようにするために乾燥剤を配置するスペースがなく、充填剤を用いたとしても充分な防湿効果が得られにくく寿命が短くなるという問題があった。
水分の浸入を防止するため、例えば、特許文献3には、有機EL素子に防湿性の保護膜をコーティングして、有機EL素子を保護し、更にこの有機EL素子を封止剤で封止する方法も開示されている。この方法を用いれば、より高い信頼性を有する素子が得られるとされている。
【0005】
しかしながら、保護膜は欠陥が発生しやすく、欠陥が存在すると生産の歩留まりの低下を招くという問題があった。そこで従来は、透湿度を指標として防湿性の高い封止剤によって封止する方法が選択されてきた。しかしながら、従来の封止剤は熱や紫外線に曝されることで着色しやすく、トップエミッション方式の有機EL素子では封止剤は光の取り出し方向に配置されるため、色の再現性や輝度が低下するという問題があった。
また、封止剤に導電性を付与することにより、防湿効果や基材の接着に加え、電極間を確実に導電接続させる効果を発揮させることができると考えられる。しかしながら、硬化物が充分な導電性と優れた透明性とを両立する封止剤を製造することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−148066号公報
【特許文献2】特開2001−357973号公報
【特許文献3】特開2000−68046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、透明性及び導電性に優れる有機EL素子用封止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、導電性微粒子、環状エーテル化合物、及び、熱硬化剤を含有する有機EL素子用封止剤であって、上記導電性微粒子は、平均一次粒子径が10〜300nmであり、上記環状エーテル化合物は、水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物を含有し、上記環状エーテル化合物と上記熱硬化剤との合計量100重量部に対する上記導電性微粒子の含有量が100〜400重量部であり、上記水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物の含有量が、上記環状エーテル化合物と上記熱硬化剤との合計量に対して5〜30重量%である有機EL素子用封止剤である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、特定の粒子径を有する導電性微粒子と、水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物(以下、「水酸基を有する環状エーテル化合物」ともいう)とを特定比で配合することにより、硬化物が優れた透明性及び充分な導電性を有するものとなるように導電性微粒子が分散した有機EL素子用封止剤を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
なお、上記硬化物が優れた透明性及び充分な導電性を有するものとなるように導電性微粒子が分散したとは、必ずしも全てでないが、ほとんどの導電性微粒子が単独で存在せずに他の導電性微粒子と接して、電気的な接点を有する配置にあることをいう。
【0010】
本発明の有機EL素子用封止剤は、導電性微粒子を含有する。
上記導電性微粒子は特に限定されず、例えば、金属酸化物等が挙げられる。
上記金属酸化物としては、具体的には例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、アンチモンドープ酸化亜鉛、リンドープ酸化亜鉛等が挙げられる。
【0011】
上記導電性微粒子の平均一次粒子径の下限は10nm、上限は300nmである。上記導電性微粒子の平均一次粒子径が10nm未満であると、得られる有機EL素子用封止剤の硬化物が導電性に劣るものとなる。上記導電性微粒子の平均一次粒子径が300nmを超えると、得られる有機EL素子用封止剤の硬化物が透明性に劣るものとなる。上記導電性微粒子の平均一次粒子径の好ましい下限は30nm、好ましい上限は200nm、より好ましい下限は50nm、より好ましい上限は100nmである。
なお、上記導電性微粒子の平均一次粒子径は、レーザー光散乱方式、コールターカウンター等の粒子径測定装置により測定することができる。
【0012】
上記環状エーテル化合物、及び、上記熱硬化剤100重量部に対する上記導電性微粒子の含有量の下限は100重量部、上限は400重量部である。上記導電性微粒子の含有量が100重量部未満であると、得られる有機EL素子用封止剤の導電性が不充分となる。上記導電性微粒子の含有量が400重量部を超えると、得られる有機EL素子用封止剤が固体状となり、塗布することが困難となる。上記導電性微粒子の好ましい下限は150重量部、好ましい上限は300重量部である。
【0013】
本発明の有機EL素子用封止剤は、環状エーテル化合物を含有する。
上記環状エーテル化合物は、水酸基を有する環状エーテル化合物を含有する。
上記水酸基を有する環状エーテル化合物を含有することにより、得られる封止剤の硬化物が優れた透明性及び充分な導電性を有するものとなるように上記導電性微粒子を分散させることができる。
上記水酸基を有する環状エーテル化合物の水酸基当量の下限は50、上限は150である。上記水酸基を有する環状エーテル化合物の水酸基当量が50未満であると、導電性微粒子を充分に分散させることができない。上記水酸基を有する環状エーテル化合物の水酸基当量が150を超えると、親水性が高くなり、得られる有機EL素子用封止剤の硬化物が耐湿性に劣るものとなる。上記水酸基を有する環状エーテル化合物の水酸基当量のより好ましい下限は70、より好ましい上限は120である。
なお、本明細書において上記水酸基当量とは、水酸基1モル当たりの分子量を示し、重量平均分子量/水酸基のモル数として算出される。本明細書において、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定を行い、ポリスチレン換算により求められる値である。GPCによってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定する際のカラムとしては、例えば、Shodex LF−804(昭和電工社製)等が挙げられる。
【0014】
上記水酸基を有する環状エーテル化合物は特に限定されず、水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物としては、例えば、グリシドール(水酸基当量74)等が挙げられる。
水酸基当量が50〜150であるオキセタン化合物としては、例えば、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(水酸基当量102)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(水酸基当量116)等が挙げられる。
【0015】
上記環状エーテル化合物、及び、上記熱硬化剤の合計量に対する上記水酸基を有する環状エーテル化合物の含有量の下限は5重量%、上限は30重量%である。上記水酸基を有する環状エーテル化合物の含有量が5重量%未満であると、導電性微粒子の分散が悪くなり、得られる有機EL素子用封止剤が透明性に劣るものとなる。上記水酸基を有する環状エーテル化合物の含有量が30重量%を超えると、親水性が高くなり、得られる有機EL素子用封止剤の硬化物が耐湿性に劣るものとなる。
【0016】
本発明の有機EL素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において、硬化物の透明性、接着性、防湿性等を向上させること目的として、その他の環状エーテル化合物やその他の重合可能な樹脂を含有していてもよい。
上記その他の環状エーテル化合物は特に限定されず、例えば、水酸基当量が50〜150の範囲外であるその他のエポキシ化合物、水酸基当量が50〜150の範囲外であるその他のオキセタン化合物等が挙げられる。
【0017】
上記その他のエポキシ化合物は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ化合物、脂肪族環状エポキシ化合物、水素化ビスフェノール型エポキシ化合物、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、スルフィド型エポキシ化合物、エーテル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、オルトクレゾールノボラック型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物、ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、アルキルポリオール型エポキシ化合物、ゴム変性型エポキシ化合物、グリシジルエステル化合物、ビスフェノールA型エピスルフィド化合物等が挙げられる。
【0018】
上記ビスフェノールA型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピコート828EL、エピコート1004(いずれもジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
上記ビスフェノールF型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピコート806、エピコート4004(いずれもジャパンエポキシレジン社製)、エピクロン830LVP(DIC社製)等が挙げられる。
上記ビスフェノールS型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンEXA1514(DIC社製)等が挙げられる。
上記2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、RE−810NM(日本化薬社製)等が挙げられる。
上記脂肪族環状エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、セロキサイド2021P(ダイセル化学工業社製)等が挙げられる。
上記水素化ビスフェノール型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピコートYX8000(ジャパンエポキシレジン社製)、エピクロンEXA7015(DIC社製)等が挙げられる。
上記プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、EP−4000S(ADEKA社製)等が挙げられる。
上記ビフェニル型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピコートYX−4000H(ジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
上記スルフィド型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、YSLV−50TE(東都化成社製)等が挙げられる。
上記エーテル型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、YSLV−80DE(東都化成社製)等が挙げられる。
上記ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、EP−4088S(ADEKA社製)等が挙げられる。
上記ナフタレン型エポキシ化合物としては、例えば、エピクロンHP4032、エピクロンEXA−4700(いずれもDIC社製)等が挙げられる。
上記フェノールノボラック型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンN−770(DIC社製)等が挙げられる。
上記オルトクレゾールノボラック型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンN−670−EXP−S(DIC社製)等が挙げられる。
上記ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピクロンHP7200(DIC社製)等が挙げられる。
上記ビフェニルノボラック型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、NC−3000P(日本化薬社製)等が挙げられる。
上記ナフタレンフェノールノボラック型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、ESN−165S(東都化成社製)等が挙げられる。
上記グリシジルアミン型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピコート630(ジャパンエポキシレジン社製)、エピクロン430(DIC社製)、TETRAD−X(三菱ガス化学社製)等が挙げられる。
上記アルキルポリオール型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、ZX−1542(東都化成社製)、エピクロン726(DIC社製)、エポライト80MFA(共栄社化学社製)、デナコールEX−611、(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
上記ゴム変性型エポキシ化合物のうち市販されているものとしては、例えば、YR−450、YR−207(いずれも東都化成社製)、エポリードPB(ダイセル化学工業社製)等が挙げられる。
上記グリシジルエステル化合物のうち市販されているものとしては、例えば、デナコールEX−147(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
上記ビスフェノールA型エピスルフィド化合物のうち市販されているものとしては、例えば、エピコートYL−7000(ジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。
上記エポキシ化合物のうちその他に市販されているものとしては、例えば、YDC−1312、YSLV−80XY、YSLV−90CR(いずれも東都化成社製)、XAC4151(旭化成社製)、エピコート1031、エピコート1032(いずれもジャパンエポキシレジン社製)、EXA−7120(DIC社製)、TEPIC(日産化学社製)等が挙げられる。
【0019】
上記その他のオキセタン化合物は特に限定されず、例えば、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、1,4−ビス[(3−メチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−メチル−3−グリシジルオキセタン、3−エチル−3−グリシジルオキセタン、ジ{1−エチル(3−オキセタニル)}メチルエーテル等が挙げられる。これらのその他のオキセタン化合物の市販品としては、アロンオキセタンOXT−121、0XT−221、OXT−212(以上、東亞合成社製)等が挙げられる。
上記他の環状エーテル化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の有機EL素子用封止剤が上記その他の環状エーテル化合物を含有する場合、上記環状エーテル化合物、及び、上記熱硬化剤の合計量に対する上記その他の環状エーテル化合物の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は30重量%、好ましい上限は60重量%である。上記その他の環状エーテル化合物の含有量が30重量%未満であると、得られる有機EL素子用封止剤の硬化物が耐湿性に劣るものとなることがある。上記その他の環状エーテル化合物の含有量が60重量%を超えると、導電性微粒子の分散性が悪くなり、得られる有機EL素子用封止剤の透明性に劣るものとなることがある。上記その他の環状エーテル化合物の含有量のより好ましい下限は35重量%、より好ましい上限は50重量%である。
【0021】
本発明の有機EL素子用封止剤は熱硬化剤を含有する。
上記熱硬化剤は特に限定されず、例えば、酸無水物、ヒドラジド化合物、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、変性脂肪族ポリアミン、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。
上記酸無水物は特に限定されず、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート等が挙げられる。
上記ヒドラジド化合物は特に限定されず、例えば、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]等が挙げられる。
上記イミダゾール誘導体は特に限定されず、例えば、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−1−イミダゾリル)エチル]尿素、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
これらの熱硬化剤は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0022】
上記熱硬化剤の含有量は特に限定されないが、上記環状エーテル化合物、及び、上記熱硬化剤の合計量に対して、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は60重量%である。上記熱硬化剤の含有量が20重量%未満であると、得られる封止剤の熱硬化が充分に進行しないことがある。上記熱硬化剤の含有量が60重量%を超えると、得られる封止剤が保存安定性や防湿性に劣るものとなることがある。上記熱硬化剤の含有量のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は50重量%である。
【0023】
本発明の有機EL素子用封止剤は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。上記シランカップリング剤は、主に本発明の有機EL素子用封止剤と基材との接着性を向上させる接着助剤としての役割を有する。
上記シランカップリング剤は特に限定されないが、基材との接着性向上効果に優れ、硬化性樹脂と化学結合することができることから、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が好適に用いられる。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明の有機EL素子用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において、分散剤を含有してもよい。
上記分散剤は特に限定されないが、アクリル酸塩やリン酸エステル等の極性基を有する高分子等を用いることが好適である。上記分散剤として市販されているものとしては、例えば、DISPERBYKシリーズ(ビックケミー社製)等が挙げられる。
【0025】
本発明の有機EL素子用封止剤の硬化物の表面抵抗値は特に限定されないが、好ましい下限は1Ω/□、好ましい上限は10Ω/□である。上記硬化物の表面抵抗値を1Ω/□未満とすることは材料の性質上困難である。上記硬化物の表面抵抗値が10Ω/□を超えると、電極間を導電接続させることができないことがある。上記硬化物の表面抵抗値のより好ましい上限は10Ω/□である。
なお、本明細書において、上記表面抵抗値は、公知の抵抗計を用いて測定される値であり、例えば、ユニバーサルエレクトロメーターMMAII−17B(川口電機製作所社製)等を用いて測定することができる。
【0026】
本発明の有機EL素子用封止剤の厚さ10μmの硬化物における可視光領域での全光線透過率は特に限定されないが、好ましい下限は80%である。上記全光線透過率が80%未満であると、得られる有機EL素子が表示品質に劣るものとなることがある。上記全光線透過率のより好ましい下限は85%である。
【0027】
本発明の有機EL素子用封止剤の厚さ10μmの硬化物におけるヘイズ値は特に限定されないが、好ましい上限は5%である。上記ヘイズ値が5%を超えると、得られる有機EL素子が表示品質に劣るものとなることがある。上記ヘイズ値のより好ましい上限は2%である。
なお、本明細書において、上記全光線透過率及び上記ヘイズ値は、封止剤を、硬化物の厚さが10μmとなるように厚さ0.7mmのクリアガラスで挟持し、封止剤を硬化させて得られる試験片を、JIS K 7105に準拠して測定される値であり、例えば、ヘイズメーター(東京電色社製、「TC−1800H」)等を用いて測定することができる。
【0028】
本発明の有機EL素子用封止剤は、厚さ100μmの硬化物をJIS Z 0208に従い、85℃、85%RHの条件で24時間暴露して測定した透湿度の値が100g/m以下であることが好ましい。上記硬化物の透湿度が100g/mを超えると、素子に水分が到達し、発光部でのダークスポット発生の原因となる。
【0029】
更に、本発明の有機EL素子用封止剤は、硬化物を85℃−85%RHの条件で24時間暴露したときの含水率が0.5%未満であることが好ましい。上記硬化物の含水率が0.5%以上であると、硬化物中の水分によって有機EL素子の劣化が起こることがある。上記硬化物の含水率は0.3%以下であることがより好ましい。
上記含水率の測定方法としては、例えば、JIS K 7251に準拠してカールフィッシャー法により求める方法や、JIS K 7209−2に準拠して吸水後の重量増分を求める方法等が挙げられる。
【0030】
本発明の有機EL素子用封止剤の硬化物のガラス転移温度の好ましい下限は85℃である。上記ガラス転移温度が85℃未満であると、高温多湿の状態に曝されたときに硬化物が軟化するため、水蒸気が硬化物を透過しやすくなり、有機EL素子が劣化することがある。上記ガラス転移温度のより好ましい下限は100℃である。
【0031】
本発明の有機EL素子用封止剤の製造方法は特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、三本ロール等を用いて、導電性微粒子、環状エーテル化合物、熱硬化剤、及び、必要に応じて添加するシランカップリング剤等の添加剤を混合する方法等が挙げられる。
【0032】
本発明の有機EL素子用封止剤を用いて有機EL素子を製造する方法としては、例えば、一方の基板上に本発明の有機EL素子用封止剤を塗布し、本発明の有機EL素子用封止剤を介して他方の基板を貼り合わせ、本発明の有機EL素子用封止剤を加熱して硬化させる方法等が挙げられる。
【0033】
上記一方の基板に本発明の有機EL素子用封止剤を塗布する方法は特に限定はされず、例えば、スクリーン印刷、ディスペンサー塗布、フレキソ印刷、グラビア印刷等の方法を用いることができる。また、本発明の有機EL素子用封止剤を上記一方の基板の全面に塗布してもよく、基板の一部に塗布してもよい。
【0034】
塗布により形成される本発明の有機EL素子用封止剤の封止部の形状としては、有機EL素子を外気から保護し、電極間を確実に導電接続することができる形状であれば特に限定されず、有機EL素子を完全に被覆する形状であってもよいし、有機EL素子の周辺部に閉じたパターンを形成してもよい。
【0035】
上記一方の基板としては特に限定されず、例えば、有機EL素子の形成されている基板であってもよく、電極のみを有し、有機EL素子の形成されていない基板であってもよい。上記一方の基板に有機EL素子が形成されていない場合、他方の基板を貼り合わせた際に、上記有機EL素子を外気から保護できるように本発明の有機EL素子用封止剤を塗布すればよい。すなわち、他方の基板を貼り合わせた際に有機EL素子の位置となる場所に全面的に塗布するか、又は、他方の基板を貼り合わせた際に有機EL素子の位置となる場所が完全に収まる形状に、閉じたパターンの封止剤部を形成してもよい。
【0036】
また、上記基板は特に限定されないが、防湿性基材であることが好ましい。具体的には例えば、ソーダガラス、無アルカリガラス等のガラス基材、ステンレス・アルミニウム等の金属基材、三フッ化ポリエチレン、ポリ三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、PVDFとPCTFEとの共重合体、PVDFとポリフッ化塩化エチレンとの共重合体等のポリフッ化エチレン系ポリマー、ポリイミド、ポリカーボネート、ジシクロペンタジエン等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン等の樹脂基材が挙げられる。
【0037】
上記一方の基板と上記他方の基板とを貼り合わせる方法は特に限定はされないが、減圧雰囲気下で貼り合わせることが好ましい。上記減圧雰囲気下の真空度の好ましい下限は0.01kPa、好ましい上限は10kPaである。上記真空度が0.01kPa未満であると、真空装置の気密性や真空ポンプの能力から真空状態を達成するのに時間がかかるため現実的でない。上記真空度が10kPaを超えると、上記他方の基板を貼り合わせる際の封止剤中の気泡の除去が不充分となることがある。
【0038】
本発明の有機EL素子用封止剤は、封止剤としての用途だけでなく、透明電極や帯電防止コート等に用いることもできる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、透明性及び導電性に優れる有機EL素子用封止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0041】
(実施例1)
導電性微粒子として1次粒子径が30nmのATO粒子(石原産業社製、「SN−100」)100重量部と、水酸基を有する環状エーテル化合物として3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(宇部興産社製、「ETERNACOLL EHO」、水酸基当量116)5重量部と、その他の環状エーテル化合物としてビスフェノールF型エポキシ化合物(DIC社製、「エピクロン830LVP」)20重量部、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン社製、「エピコートYX8000」)20重量部、及び、脂肪族環状エポキシ化合物(ダイセル化学工業社製、「セロキサイド2021P」)10重量部と、酸無水物系熱硬化剤(新日本理化社製、「リカシッドMTA−15」、グリセリンビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテートと脂環式ジカルボン酸無水物との混合物)45重量部と、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、「KBM−403」)1.5重量部とを、ホモディスパー型攪拌混合機(プライミクス社製、「ホモディスパーL型」)を用い、攪拌速度3000rpmで均一に攪拌混合して、封止剤を作製した。
【0042】
(実施例2)
ATO粒子の配合量を300重量部、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンの配合量を25重量部、ビスフェノールF型エポキシ化合物の配合量を10重量部、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物の配合量を10重量部、脂肪族環状エポキシ化合物の配合量を5重量部、リカシッドMTA−15の配合量を50重量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。
【0043】
(実施例3)
導電性微粒子としてATO粒子100重量部の代わりに1次粒子径が15nmのアンチモンドープ酸化亜鉛粒子(日産化学社製、「セルナックスCX−Z」)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。
【0044】
(実施例4)
水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物を用いず、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンの配合量を10重量部、ビスフェノールF型エポキシ化合物の配合量を35重量部、脂肪族環状エポキシ化合物の配合量を5重量部にそれぞれ変更し、酸無水物系熱硬化剤として45重量部のリカシッドMTA−15の代わりにリカシッドMH−700G(新日本理化社製、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。
【0045】
(実施例5)
水酸基を有する環状エーテル化合物として3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン5重量部の代わりにグリシドール(ダイセル化学社製、水酸基当量74)5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。
【0046】
(比較例1)
水酸基を有する環状エーテル化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。
【0047】
(比較例2)
ATO粒子の配合量を300重量部、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンの配合量を40重量部、ビスフェノールF型エポキシ化合物の配合量を5重量部、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物の配合量を5重量部、脂肪族環状エポキシ化合物の配合量を5重量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。得られた封止剤は親水性が高すぎ、有機EL素子用封止剤として用いるには不適であった。
【0048】
(比較例3)
ATO粒子の配合量を50重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。
【0049】
(比較例4)
ATO粒子の配合量を500重量部、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンの配合量を25重量部、ビスフェノールF型エポキシ化合物の配合量を10重量部、水素化ビスフェノールA型エポキシ化合物の配合量を10重量部、脂肪族環状エポキシ化合物の配合量を5重量部、リカシッドMTA−15の配合量を50重量部にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして封止剤を作製した。得られた封止剤は固形で流動性がなく、封止剤として用いるには不適であった。
【0050】
<評価>
実施例及び比較例で得られた封止剤について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
なお、比較例4で得られた封止剤は、固形で流動性がなく、塗工することが困難であったため、以下の評価を行うことができなかった。
【0051】
(1)導電性
実施例及び比較例で得られた封止剤をアプリケーターにてPET樹脂フィルム上に塗工し、120℃で1時間加熱することにより、厚さ100μmのシートを作製した。得られたシートの表面抵抗をユニバーサルエレクトロメーターMMAII−17B(川口電機製作所社製)を用いて測定した。
【0052】
(2)透明性
実施例及び比較例で得られた封止剤を厚さが10μmとなるように2枚の無アルカリガラスで挟み、120℃で1時間加熱して封止剤を硬化させ、試験片を作製した。得られた試験片の可視光領域における全光線透過率とヘイズ値とを、JIS K 7105に準拠して、ヘイズメーター(東京電色社製、「TC−1800H」)を用いて測定した。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、透明性及び導電性に優れる有機EL素子用封止剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子、環状エーテル化合物、及び、熱硬化剤を含有する有機EL素子用封止剤であって、
前記導電性微粒子は、平均一次粒子径が10〜300nmであり、
前記環状エーテル化合物は、水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物を含有し、
前記環状エーテル化合物と前記熱硬化剤との合計量100重量部に対する前記導電性微粒子の含有量が100〜400重量部であり、
前記水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるエポキシ化合物又はオキセタン化合物の含有量が、前記環状エーテル化合物と前記熱硬化剤との合計量に対して5〜30重量%である
ことを特徴とする有機EL素子用封止剤。
【請求項2】
環状エーテル化合物は、水酸基を含有し水酸基当量が50〜150であるオキセタン化合物であること特徴とする請求項1記載の有機EL素子用封止剤。
【請求項3】
硬化物の表面抵抗値が1〜10Ω/□であり、かつ、硬化物の厚さ10μmにおけるヘイズ値率が5%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の有機EL素子用封止剤。


【公開番号】特開2011−210681(P2011−210681A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79456(P2010−79456)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】