説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】成膜処理の際に、有機EL素子へのダメージ及びそれに起因する有機EL素子の素子特性の劣化を良好に抑制する有機EL表示装置の製造方法を提供する
【解決手段】有機EL表示装置10の製造方法は、成膜材料源22の表面のビーム照射位置Tにおける垂線TZについて、ビーム照射位置Tからビームの入射方向に延びる直線TBと線対称な直線をTB’とし、成膜材料源22に対向するように設けた基板11の成膜予定領域の中心をSとしたとき、直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板11を配置した状態で成膜材料源22へビーム照射を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の発光素子として注目されている有機EL(Electro Luminescence)素子は、一対の電極間に、少なくとも有機物を備えた発光層が設けられ、さらに必要に応じて該発光層へ電荷を注入する役割の電荷注入層や、該電極から有機層へ電荷を輸送する役割の電荷輸送層を備えている。この有機EL素子は、薄型化及び軽量化が可能であり、高輝度又は自発光等の特性を有することから、現在、盛んに研究・開発が行われている。
【0003】
このような有機EL素子の形態はいくつか知られている。例えば陰極として、有機膜上に、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極や、Al、Mg等の金属電極を形成するものや、素子全面上に封止膜として、ガスバリア性に優れたSiO、SiO、AlO等の無機薄膜を形成したりするもの等がある。それら無機膜の成膜法としては、いくつかの手法があるが、特にスパッタ法やプラズマデポジション法が、膜の密着性、均一性等が優れていることから、広く用いられている。
【0004】
このような有機EL素子を構成する有機膜や電荷注入層は、一般的に熱や高エネルギーの電磁波または粒子に非常に弱く、それらのダメージによりすぐに劣化してしまうという欠点があるが、上記のスパッタ法やプラズマデポジション法は、本質的に高エネルギーの粒子、イオン又は電子が発生しやすい。従って、これらが有機EL素子へダメージを与えてしまう。
【0005】
このような問題に対し、いくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、基板をターゲット法線方向に対して傾けることにより、基板に入射するスパッタ粒子の運動エネルギーを調整したり、また、基板をプラズマに直接曝されることのないようにして、基板へのダメージの低減を図っている。
【0006】
また、特許文献2では、従来の平行平板型スパッタに対し、ビーム源、ターゲット及び基板が独立したイオンビームスパッタ法を用いることにより、基板が直接プラズマに曝されることを抑制して、基板へのダメージ低減を図っている。
【特許文献1】特開平11−8066号公報
【特許文献2】特開2005−126791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、有機EL素子を構成する有機膜や電荷注入層等の成膜処理中に発生する、高エネルギーの粒子、イオン又は電子による有機EL素子へのダメージ及びそれに起因する有機EL素子の素子特性の劣化は、依然として問題となっている。
【0008】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成膜処理の際に、有機EL素子へのダメージ及びそれに起因する有機EL素子の素子特性の劣化を良好に抑制する有機EL表示装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、成膜材料源へビーム照射を行い、成膜材料をはじき出し、又は、昇華させて基板上に成膜処理を行う有機EL表示装置の製造方法であって、成膜材料源表面のビーム照射位置Tにおける垂線TZについて、ビーム照射位置Tからビームの入射方向に延びる直線TBと線対称な直線をTB’とし、成膜材料源に対向するように設けた基板の成膜予定領域の中心をSとしたとき、直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板を配置した状態で成膜材料源へビーム照射を行うことを特徴とする。
【0010】
成膜材料源に入射したビーム粒子の一部は、成膜材料源にて弾性衝突して反跳する。反跳した粒子の方向分布は、ビーム粒子の質量と入射エネルギー、成膜材料源、真空度などにより変化し、正確に求めることは容易ではない。しかしながら、通常の真空成膜で使用する範囲内であるならば、その分布は上記直線TB方向近辺をピークとし、ある程度の広がりを持った分布を形成する。このような状態において、基板を、そのような反跳粒子が多く飛来する位置、つまり直線TB’方向近辺に配置した場合、有機EL素子は、反跳粒子の入射によって大きなダメージを受けることになる。逆に、直線TB’方向周辺を避けて基板を配置すれば、基板への反跳粒子の飛来数は少なくなり、結果的には成膜中における有機EL素子へのダメージを効果的に低減することができる。また、反跳粒子の飛散分布を求め、これをほぼ避けるように基板を配置するのが理想であるが、分布ついては先でも述べたように、正確に求めることが難しい。本発明者らは、検討により、直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板を配置した状態で成膜材料源へビーム照射を行えば、通常の真空成膜条件下においては、成膜中の有機EL素子へのダメージを回避するのに充分であることを見出した。
【0011】
また、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、直線TBと垂線TZとのなす劣角が20°以上となるようにビーム照射方向を規定した状態で成膜材料源へビーム照射を行ってもよい。
【0012】
ビーム照射によって、成膜材料源からはじき出された材料粒子の出射方向分布を厳密に求めるのも、反跳粒子の方向分布と同じく容易ではなく、それは、入射ビームの粒子の質量、エネルギー、方向、成膜材料源の種類など様々な要因で変化する。しかしながら、通常の真空成膜条件下においては、成膜材料源表面の垂線TZ方向が比較的大きな成分を持つ。また、ビーム照射によって成膜材料源が加熱され昇華する場合においては、昇華した材料粒子の飛散方向分布は、通常、成膜材料源表面の垂線TZ近傍をピークとした分布をとる。よって、成膜材料がはじき出されるにせよ昇華するにせよ、基板は成膜材料源の垂線TZ近傍に配置すれば、成膜効率が高くなり、有利である。これに対して、ビーム粒子の反跳粒子の方向分布は先で論じたように、成膜材料源の垂線TZに対して、ビーム入射側の反対方向に多く存在する。このため、成膜時のダメージを避けるためには、基板は直線TB’方向から離して配置するのが望ましい。従って、直線TB’と成膜材料源の垂線TZとの角度を大きくしてやれば、反跳粒子の飛散方向と、材料粒子の飛散方向を充分に離す事となり、結果として、成膜ダメージを抑制しながら、高い成膜効率を保つことが可能となる。そこで、本発明は、直線TBと垂線TZとのなす劣角、すなわち、ビーム入射角を大きくすることで、直線TB’と成膜材料源の垂線TZとの角度が大きくなり、成膜ダメージを抑制しながら、高い成膜効率が得られる。具体的には、ビーム入射角を20°以上にしてやれば、概ね上記の利点を享受できることを、本発明者らは見出した。ただし、ビーム入射角をあまりに大きくすると、成膜材料源からはじき出される材料粒子の分布が成膜材料源の垂線TZ方向から著しく離れたり、成膜材料源のスパッタ効率、および昇華効率が悪くなったりするので、好ましくない。望ましくは、70°以下とすべきである。
【0013】
さらに、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、直線TSと垂線TZとのなす劣角が30°以下となるように基板をさらに配置した状態で成膜材料源へビーム照射を行ってもよい。
【0014】
上述したように、成膜材料源表面の垂線TZ方向に基板を配置することで、成膜効率が高くなる。最適な結果を得るためには、直線TSと垂線TZとのなす劣角が30°以下となるように基板を配置するのが望ましい。
【0015】
また、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、基板の成膜予定領域の中心Sにおける垂線をSZとしたとき、垂線SZと垂線TZとのなす劣角が20°以上且つ50°以下となるように基板をさらに配置した状態で成膜材料源へビーム照射を行ってもよい。
【0016】
このような構成によれば、成膜材料源からの材料粒子が基板方面へ飛散する方向である垂線TZに対し、基板が垂直でなく、やや傾けた状態にして配置されている。このため、飛散する材料粒子が基板へ与えるダメージが軽減されて、材料粒子による有機EL素子のダメージを低減することができる。さらに、この角度としては、あまりにも傾けすぎると、成膜材料の付着率自体が悪くなったり、また、成膜材料の回り込みが阻害されてステップカバレッジ性が著しく悪くなる。このため、垂線SZと垂線TZとのなす劣角を20°以上且つ50°以下にすれば、大きな問題を起こすことなく、ダメージが少ないという利点を享受できる。
【0017】
さらに、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法は、成膜材料源表面のビーム照射位置Tから直線TB’方向へ所定間隔を空けて、成膜材料源へのビーム照射による反跳粒子の飛散を抑制する抑制部材をさらに設けた状態で成膜材料源へビーム照射を行ってもよい。
【0018】
このように抑制部材を配置することで、反跳粒子が成膜領域へ侵入することを抑制することができ、成膜プロセスにおける、有機EL素子へのダメージをより良好に抑制することができる。また、特に、大型の成膜装置の場合においては、ビーム源と基板との位置関係を大々的に調整することなく、抑制部材を用いることによって、反跳粒子の基板への飛散を抑えることができる。このため、装置設計の柔軟性が良好となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、成膜処理の際に、有機EL素子へのダメージ及びそれに起因する有機EL素子の素子特性の劣化を良好に抑制する有機EL表示装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る有機EL表示装置の構成及びその製造方法について、図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
(実施形態1)
(有機EL表示装置10の構成)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る有機EL表示装置10は、基板11、陽極12、有機層13、陰極14、封止膜15、カラーフィルタ層16及び封止基板17がこの順に積層された有機EL素子19、さらに有機EL素子19を駆動する不図示の制御部等で構成されている。
【0022】
基板11は、少なくともその表面が絶縁性であるものが好ましく、例えば、ガラス、石英等の無機材料から形成される基板、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックから形成される基板、アルミナ等のセラミックスから形成される基板、アルミニウムや鉄等の金属基板にSiOや有機絶縁材料等の絶縁物をコートした基板、金属基板の表面に陽極酸化法等の方法により絶縁化処理を施した基板等を広く用いることができる。基板11上には、有機EL素子19を駆動させるために必要なTFT回路等が形成されている。
【0023】
陽極12は、基板11上に形成されており、Au、Pt、Ni等の仕事関数が高い金属や、ITO、IDIXO〔酸化インジウム−インジウム亜鉛酸化物;In(ZnO)n〕、SnO等の透明導電材料等で形成することができる。
【0024】
陰極14は、有機層13上に形成されており、ITO、IZO(Indium Zinc Oxide:酸化インジウム・酸化亜鉛系導電膜、出光興産社登録商標)、AZO(Aluminium Zinc Oxide:アルミニウム亜鉛酸化物)、GZO(Garium Zinc Oxide:ガリウム亜鉛酸化物)等を用いることができる。また、陰極14は、Ca/Al、Ce/Al、Cs/Al、Ba/Al等の仕事関数の低い金属と安定な金属とを積層した金属電極、Ca:Al合金、Mg:Ag合金、Li:Al合金等の仕事関数の低い金属を含有する金属電極、LiF/Al、LiF/Ca/Al、BaF/Ba/Al等の絶縁層(薄膜)及び金属電極を組み合わせた電極等で形成することができる。
【0025】
有機層13は、有機正孔輸送層、有機発光層、及び、電子注入層がこの順で積層されて構成されている。
【0026】
有機正孔輸送層は、例えば、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT:PSS)、ポリアニリン等で形成することができる。
【0027】
有機発光層は、ポリフルオレン誘導体(例えば、ポリ−ジオクチルフルオレン等)、ポリスピロフルオレン誘導体、ポリ−p−フェニレンビニレン誘導体等で形成することができる。
【0028】
電子注入層は、有機材料を用いて形成されているが、これに限らず、Liなどのアルカリ金属の化合物、又は、Ca、Mgといったアルカリ土類金属の化合物等を用いてもよい。これらの材料は、仕事関数が低いために、有機層13への電子注入効率が高く、また、成膜も容易であるため、電子注入層材料としてよく使用される。
【0029】
発光層の発光材料としては、例えば、低分子発光材料、高分子発光材料、高分子発光材料の前駆体等を用いることができる。
【0030】
封止膜15、カラーフィルタ層16及び封止基板17は、この順に陰極14上に形成されており、それぞれ公知の材料を用いて形成されている。
【0031】
封止膜15は、例えば、SiO、SiN、AlO、ZnO、又は、有機物等で形成することができる。
【0032】
(有機EL表示装置10の製造方法)
まず、基板11を準備し、その表面に陽極12を形成する。
【0033】
次に、有機正孔輸送層、続けて有機発光層を真空蒸着法で成膜する。一般的には、それらの有機材料が、低分子系の材料である場合、真空蒸着法で成膜を行い、それら層材料が高分子系の有機材料ならば、成膜手法としては、スピンコート法やインクジェット法といった液相による手法をとる。
【0034】
なお、この有機正孔輸送層の形成から以降の工程においては、通常、水分および酸素のない雰囲気で行う必要がある。これは、水分や酸素により、有機EL素子の劣化が起こるためである。一般的には、例えば、真空チャンバー内で一貫して素子を形成し、または、厳密に露点を管理された窒素雰囲気化のグローブボックス内で素子を形成する。
【0035】
次に、電子注入層を真空蒸着法で形成して有機層13を作製し、続いて陰極14を形成する。
【0036】
陰極14の形成には、図2に示す成膜装置20を用いる。
【0037】
成膜装置20は、成膜チャンバ21と、成膜材料源22と、成膜材料源22を入れるハース23と、成膜チャンバ21に設置され、成膜材料源22を加熱するビーム源24と、表面に上述の有機層13(図2では不図示)まで形成された基板11をセットするホルダ26とで構成されている。
【0038】
成膜材料としては、例えば、ITO焼結体を用いる。また、ビーム源24は、内部でArプラズマを発生させてArイオンを引き出すことで、Arビーム27を生成する。Arビーム27を成膜材料源22へ照射することによって、成膜材料源22が加熱昇華し、ITOが基板11上へ飛散することで成膜が行われる。
【0039】
図2において、TZは、成膜材料源22の表面のビーム照射位置Tにおける垂線を示す。TBは、ビーム照射位置TからArビーム27の入射方向に延びる直線を示す。TB’は、TZについて、TBと線対称な直線を示す。Sは、成膜材料源22に対向するように設けた基板11の成膜予定領域の中心を示す。TB1’及びTB2’は、それぞれTB’及びTZを含む平面において、TB’の両側においてTB’とのなす劣角がそれぞれ20°となるように設定した直線を示す。これにより、図2では、直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板11を配置していることがわかる。成膜材料源22に対するビームの入射角は、直線TZとTBとのなす劣角であり、これをαと表す。本実施形態においては、αは30°である。
【0040】
また、直線TBと垂線TZとのなす劣角が20°以上となるように基板11を配置してもよく、直線TSと垂線TZとのなす劣角が30°以下となるように基板11を配置してもよい。
【0041】
さらに、上記基板11の成膜予定領域の中心Sにおける垂線をSZとしたとき、垂線SZと上記垂線TZとのなす劣角が20°以上且つ50°以下となるように基板11をさらに配置した状態で成膜材料源22へビーム照射を行ってもよい。
【0042】
続いて、このように作製した陰極14上に、封止膜15、カラーフィルタ層16及び封止基板17を積層して有機EL素子19を形成し、さらに有機EL素子19を駆動する制御部等を設けて、有機EL表示装置10を作製する。
【0043】
−作用効果−
本実施形態1のように、直線TB’方向周辺を避けて基板11を配置すれば、基板11への反跳粒子の飛来数は少なくなり、成膜中における有機EL素子19へのダメージを効果的に低減することができる。また、このとき、直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板11を配置した状態で成膜材料源22へビーム照射を行うことで、より良好に成膜中の有機EL素子19へのダメージを回避することができる。
【0044】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る有機EL表示装置10の製造方法について説明する。
【0045】
なお、実施形態2で製造する有機EL表示装置10の構成は、上述した実施形態1に係るものと同様であるため、その説明を省略する。
【0046】
実施形態2に係る有機EL表示装置10の製造方法として、まず、実施形態1と同様に基板11、陽極12、有機層13、及び、陰極14をこの順で形成する。
【0047】
次に、陰極14上に、イオンビームスパッタ法において、例えばSiOによる封止膜15(無機封止膜)を形成する。この封止膜15は、いわゆるパッシベーション膜となり、上述のように水分や酸素に極端に弱い有機EL素子19を、それらから防止する機能を有する。
【0048】
図3に、本実施形態2におけるイオンビームスパッタ装置30の構成を示す。イオンビームスパッタ装置30は、成膜チャンバ31と、成膜する無機膜の材料である成膜材料源32と、成膜材料源32をセットするホルダ33と、成膜チャンバ31に設置され、成膜材料源32をスパッタするビーム源34と、表面に上述の陰極14(図3では不図示)まで形成された基板11をセットするホルダ36とで構成されている。イオンビームスパッタ装置30は、ホルダ36が基板11を保持しながら図3の矢印方向へ移動するというインライン方式であり、特に大型の基板11に対して高スループットな成膜が可能となっている。また、成膜チャンバ31内には、成膜材料源32の表面のビーム照射位置Tから直線TB’方向へ所定間隔を空けて、成膜材料源32へのビーム照射による反跳粒子の飛散を抑制する抑制部材39が設けられている。
【0049】
抑制部材39は、例えば、ステンレス、アルミニウム合金を用いて平板状に形成されている。
【0050】
成膜材料としては、例えば、SiO焼結体を用いる。また、ビーム源34は、内部でNプラズマを発生させてNイオンを引き出すことで、Nビーム37を生成する。
【0051】
ビーム源34からNビーム37が照射されることによって、成膜材料源32の構成材料がスパッタされ、SiO化合物の状態で基板11上へ到達することで、成膜が行われる。このときの成膜条件は、圧力が1×10−4Paであり、基板11の加熱は行わない。
【0052】
図3において、TZは、成膜材料源32の表面のビーム照射位置Tにおける垂線を示す。TBは、ビーム照射位置TからNビーム37の入射方向に延びる直線を示す。TB’は、TZについて、TBと線対称な直線を示す。Sは、基板11の成膜予定領域の中心を示す。TB1’及びTB2’は、それぞれTB’及びTZを含む平面において、TB’の両側においてTB’とのなす劣角がそれぞれ20°となるように設定した直線を示す。これにより、図3では、直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板11を配置していることがわかる。成膜材料源32に対するビームの入射角は、直線TZとTBとのなす劣角であり、これをαと表す。本実施形態においては、αは45°である。
【0053】
また、直線TBと垂線TZとのなす劣角が20°以上となるように基板11を配置してもよく、直線TSと垂線TZとのなす劣角が30°以下となるように基板11を配置してもよい。
【0054】
さらに、上記基板11の成膜予定領域の中心Sにおける垂線をSZとしたとき、垂線SZと上記垂線TZとのなす劣角が20°以上且つ50°以下となるように基板11をさらに配置した状態で成膜材料源32へビーム照射を行ってもよい。
【0055】
続いて、このように作製した封止膜15上に、カラーフィルタ層16及び封止基板17を積層して有機EL素子19を形成し、さらに有機EL素子19を駆動する制御部等を設けて、有機EL表示装置10を作製する。
【0056】
−作用効果−
本実施形態2においても、実施形態1と同様に、成膜材料源32で反跳したNビーム粒子は直線TB’方向周辺へ飛散するが、基板11の位置が直線TB1’及びTB2’で挟まれる範囲内に配置されていない。したがって、反跳したNビーム粒子は、ほとんど基板11へ到達しない。
【0057】
また、成膜チャンバ31内に、成膜材料源32の表面のビーム照射位置Tから直線TB’方向へ所定間隔を空けて抑制部材39を設けているため、成膜材料源32へのビーム照射による反跳粒子の飛散が効果的に抑制される。さらに、抑制部材39によって、基板11が移動(例えば図3中において左方向へ移動)した場合において、反跳粒子が基板11へ到達することが良好に抑制される。このように、抑制部材39は、比較的大型の、例えばインライン成膜方式などの基板11が移動する方式等を採用する比較的大型の成膜装置に特に有効である。もちろん、基板11が固定されており、ビーム源34と成膜材料源32が移動するような方式であっても、抑制部材39は同様に有効である。
【0058】
また、本実施形態2では基板11と成膜材料源32とを結ぶ直線と、基板11の法線とに角度を持たせた配置としており、これによっても、成膜中のダメージを抑制している。すなわち、基板11側へ入射する材料粒子の運動方向を基板11の垂直方向から傾けてやることにより、基板11へ入射する材料粒子のベクトルを調整する。これにより、基板11へ与えるダメージ量を調整することができる。これは特にスパッタ方式のような比較的高エネルギーの材料粒子が基板11側へ入射する場合に有効である。
【0059】
以上、二つの実施形態を示したが、有機EL表示装置10の構造又は材料等については、本実施形態で述べた限りではなく、あらゆる形態が可能である。成膜装置20、イオンビームスパッタ装置30についても、本実施形態に限らず、例えば、ビーム源が異なっていたり、複数であってもよく、また、雰囲気としてガスを導入したものであってもかまわない。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の実施形態1及び2に係る製造方法を用いて有機EL素子を形成し、それぞれ素子特性等を検討した。
【0061】
(実施例1)
実施形態1に係る製造方法によって、有機EL素子を製造した。ここで、成膜条件として、圧力が1×10−2Paであり、基板は加熱しなかった。
【0062】
このようにして成膜された有機EL素子のITOの抵抗率は、5.0×10−4Ω/cmであり、透過率は85%であった。
【0063】
また、実施例1に係る有機EL素子の電流密度と輝度との特性を図4に示す。ここでは、比較例として、ITO透明電極を形成しない有機EL素子の電流密度と輝度との特性についても同時に示す。図4から、ITO透明電極を形成した場合としなかった場合で、特性がほとんど変化していないことが分かる。従って、本実施形態におけるITO成膜プロセスにおいては、有機EL素子を構成する膜が何らのダメージも与えられていないことが分かる。
【0064】
(実施例2)
次に、図5に示すように、有機EL素子基板を図中(a)、(b)、(c)の場所にそれぞれセットして実施例1と同様の成膜装置及び成膜方法を用い、同様の検討を行った。そのときの、それぞれの基板位置における電流密度と輝度との特性を図6に示す。図6によれば、基板の位置が(a)のときは、位置が(b)及び(c)のときに対して、有機EL素子の特性が劣化していることが分かる。これは、基板の位置が(a)のときは、ソースによって反跳したArビーム粒子が基板上へ到達し、それらが素子基板へダメージを与えているためだと考えられる。これに対し、基板の位置が(b)及び(c)のときは、反跳粒子の飛散方向とは離れており、そのため成膜中にダメージを受けていないことになる。
【0065】
また、ビームの入射角αを30°と設定しているため、反跳粒子によるダメージを抑える条件を満たしつつ、基板を垂線TZを中心とした位置に配置することができる。これにより、低ダメージで、かつ成膜速度の速い成膜処理が可能となっている。
【0066】
(実施例3)
次に、実施形態2に係る製造方法によって、有機EL素子を製造し、実施例1と同様に電流密度と輝度の特性を測定した。この場合も、成膜前と比較して、有機EL素子の特性がほとんど変化しておらず、何らのダメージも与えずに成膜を行うことができたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明は、有機EL表示装置の製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態1に係る有機EL表示装置の断面図である。
【図2】実施形態1に係る成膜装置の模式図である。
【図3】実施形態2に係るイオンビームスパッタ装置の模式図である。
【図4】実施例1に係る有機EL素子の電流密度と輝度との特性を示すグラフである。
【図5】実施形態2に係る成膜装置の模式図である。
【図6】実施例2に係る有機EL素子の電流密度と輝度との特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0069】
10 有機EL表示装置
11 基板
12 陽極
13 有機層
14 陰極
15 封止膜
19 有機EL素子
20 成膜装置
22,32 成膜材料源
24,34 ビーム源
30 イオンビームスパッタ装置
39 抑制部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料源へビーム照射を行い、成膜材料をはじき出し、又は、昇華させて基板上に成膜処理を行う有機EL表示装置の製造方法であって、
成膜材料源表面のビーム照射位置Tにおける垂線TZについて、該ビーム照射位置Tからビームの入射方向に延びる直線TBと線対称な直線をTB’とし、
上記成膜材料源に対向するように設けた基板の成膜予定領域の中心をSとしたとき、
上記直線TB’と直線TSとのなす劣角が20°以上となるように基板を配置した状態で上記成膜材料源へビーム照射を行う有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された有機EL表示装置の製造方法において、
上記直線TBと垂線TZとのなす劣角が20°以上となるようにビーム照射方向を規定した状態で上記成膜材料源へビーム照射を行う有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された有機EL表示装置の製造方法において、
上記直線TSと垂線TZとのなす劣角が30°以下となるように基板をさらに配置した状態で上記成膜材料源へビーム照射を行う有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された有機EL表示装置の製造方法において、
上記基板の成膜予定領域の中心Sにおける垂線をSZとしたとき、垂線SZと上記垂線TZとのなす劣角が20°以上且つ50°以下となるように基板をさらに配置した状態で上記成膜材料源へビーム照射を行う有機EL表示装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された有機EL表示装置の製造方法において、
上記成膜材料源表面のビーム照射位置Tから上記直線TB’方向へ所定間隔を空けて、該成膜材料源へのビーム照射による反跳粒子の飛散を抑制する抑制部材をさらに設けた状態で該成膜材料源へビーム照射を行う有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−110762(P2009−110762A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280285(P2007−280285)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】