説明

木質部材の接合構造

【課題】剪断強度の弱い木質部材同士でも、ダボとダボ孔との嵌合を介した良好な接合状態を維持し、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動を防止することができる木質部材の接合構造を提供する。
【解決手段】ダボ15と両框11,12の突合せ面Xにおけるダボ孔11a,12aの周囲との間に、両框11,12の突合せ面Xに沿う相対移動を規制する規制部を設ける。その場合の規制部を、ダボ15の略中央部に外嵌されたドーナツ状の鍔状部材16と、この鍔状部材16が嵌入するように両框11,12の突合せ面Xにおけるダボ孔11a,12aの周囲に設けられた凹部11b,12bとで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質部材の接合構造に関し、木質製品の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質部材同士を、ダボとダボ孔との嵌合を介して接合して、家具や建具のような木質製品を組み立てることがある。例えば特許文献1には、木質扉において、図6に示すように、縦框Aと横框Bの突合せ面Xに、対応する位置関係でダボ孔A1,B1を設け、ダボ孔A1,B1に跨ってダボCを嵌入して枠体とする構成が開示されている。
【0003】
また、ダボとダボ孔とによる接合箇所を補強するものとして、例えば特許文献2には、突合せ箇所にパッキンと接着剤とを介装する接合構造が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−88443号公報
【特許文献2】特開平5−26215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の接合構造の場合、突合せ面Xに沿う図例の力P,Pが作用すると、両框A,Bが突合せ面Xに沿って上下にずれようとする結果、ダボCを介してダボ孔A1,B1の周囲に符号Yで示すような面圧が生じ、さらに力P,Pが繰り返して作用すると、ダボ孔A1,B1の周囲に亀裂が生じることがある。特に両框A,BがMDF(中密度繊維板)やLVL(単板積層材)等の場合には、無垢材に比較して剪断強度が弱いので、亀裂が生じ易くなり、問題は顕在化する。そして、亀裂の伝播や増殖によって損傷が進行すると、ダボ孔A1,B1の周囲が欠損し、両框A,Bは突合せ面Xに沿って上下に相対移動するようになる。その場合には、開閉支点側の縦框Aに対して、重量負荷のある横框B側が下方に変位し、扉の変形や扉下端部と床面との接触等の不具合が生じることになる。
【0006】
この問題に対しては、特許文献2に記載の接合構造を参考に、両框A,Bの突合せ面Xにパッキンや接着剤を介在させて補強することが考えられるが、この構造にしても前記力P,Pには弱く、前述した不具合を解消することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、剪断強度の弱い木質部材同士でも、ダボとダボ孔との嵌合を介した良好な接合状態を維持し、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動を防止することができる木質部材の接合構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0009】
まず、請求項1に記載の発明は、木質部材同士の突合せ箇所をダボとダボ孔との嵌合を介して接合する木質部材の接合構造であって、前記ダボと前記両木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲との間に、前記両木質部材の突合せ面に沿う相対移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の木質部材の接合構造において、前記規制部は、前記ダボの略中央部に設けられた鍔状部と、該鍔状部が嵌入するように前記両木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凹部とで構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の木質部材の接合構造において、前記鍔状部は、前記ダボとは別体とされていることを特徴とする。
【0012】
そして、請求項4に記載の発明は、前記請求項1に記載の木質部材の接合構造において、前記規制部は、一方の前記木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凸部と、該凸部が嵌入するように他方の前記木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凹部とで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
まず、請求項1に記載の発明によれば、ダボと両木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲との間に設けられた規制部により、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動が規制される。したがって、ダボを介したダボ孔の周囲の損傷が回避されるため、剪断強度の弱い木質部材同士でも、ダボとダボ孔との嵌合を介した良好な接合状態を維持し、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動を防止することができる。
【0014】
次に、請求項2に記載の発明は、規制部の構成を具体化したものである。すなわち、規制部を、ダボの略中央部に設けられた鍔状部と、この鍔状部が嵌入するように両木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凹部とで構成したことにより、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動は、鍔状部と両凹部との嵌合によって確実に規制される。さらに、突合せ面には、ダボと鍔状部とが介在することから、ダボ単独の場合に比較して剪断面の面積が大きくなり、両木質部材が突合せ面に沿ってずれようとしたときのダボ孔の周囲の面圧が軽減されるようになる。その結果、ダボ孔の周囲の損傷が確実に防止される。
【0015】
さらにその場合、請求項3に記載の発明によれば、規制部を構成する鍔状部を、ダボとは別体としたので、規制部の加工が容易となる。
【0016】
一方、請求項4に記載の発明は、規制部の構成を前記請求項2に記載の発明とは異なる態様で具体化したものである。すなわち、規制部を、一方の木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凸部と、この凸部が嵌入するように他方の木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凹部とで構成したことにより、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動は、一方の木質部材の凸部と他方の木質部材の凹部との嵌合によって確実に規制される。さらに、突合せ面にはダボと凸部とが介在することから、ダボ単独の場合に比較して剪断面の面積が大きくなり、両木質部材が突合せ面に沿ってずれようとしたときのダボ孔の周囲の面圧が軽減されるようになる。その結果、ダボ孔の周囲の損傷が確実に防止される。
【0017】
そして、規制部を構成する凸部を、木質部材に一体化して設けたので、部材点数が少なくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る木質扉1は、左右一対の縦框11,11と上下一対の横框12,12とで形成された枠体に、一枚の鏡板13が四隅のモール材14…14を介して取り付けられた構成のものであり、右側縁部を支点に開閉自在とされている。なお、前記両框11,12には、MDF(中密度繊維板)やLVL(単板積層材)等の木質材料が使用される。
【0020】
図1において右上の四角で囲んだ箇所の構成を図2に示すように、各框11,12の突合せ面Xに、それぞれ上下一対のダボ孔11a,11a,12a,12aが設けられており、左右で対応するダボ孔11a,11a,12a,12aに跨って、それぞれ円柱状のダボ15,15が嵌入されている。その場合、各ダボ15は、その直径が左右のダボ孔11a,12aの直径に略等しく、且つ左右のダボ孔11a,12aへの嵌入長さが略均等になるように嵌入されている。
【0021】
また、各ダボ15の長手方向の略中央部には、このダボ15の直径に略等しい直径の貫通孔16aを有するドーナツ状の鍔状部材16が外嵌されている。そして、突合せ面Xにおけるダボ孔11a,11a,12a,12aの周囲に、前記鍔状部材16の外径に略等しい直径の凹部11b,11b,12b,12bが設けられており、鍔状部材16は、左右一対の対応する凹部11b,12bで形成される空間に丁度収容されている。その場合、鍔状部材16と凹部11b,12bとは、両框11,12の突合せ面Xに沿う相対移動を規制する規制部を構成する。
【0022】
なお、前記凹部11b,12bは、ドーナツ状の鍔状部材16が嵌入する形状であることから、例えばダボ孔11a,12aを電動ドリルで穿設する際に、適宜の座彫り治具を電動ドリルに装着することにより、併せて形成することができ、加工の手間を省くことができる。
【0023】
以上のように構成したことにより、ダボ15と両框11,12の突合せ面Xにおけるダボ孔11a,12aの周囲との間に設けられた規制部、つまり鍔状部材16と凹部11b,12bとにより、両框11,12の突合せ面Xに沿う相対移動が規制される。したがって、ダボ孔11a,12aの周囲の損傷が回避されるため、剪断強度の弱い框11,12同士でも、ダボ15とダボ孔11a,12aとの嵌合を介した良好な接合状態を維持し、両框11,12の突合せ面Xに沿う相対移動を防止することができる。
【0024】
具体的には、前述したように、規制部を、ダボ15の略中央部に設けられた鍔状部材16と、この鍔状部材16が嵌入するように両框11,12の突合せ面Xにおけるダボ孔11a,12aの周囲に設けられた凹部11b,12bとで構成したことにより、両框11,12の突合せ面Xに沿う相対移動は、鍔状部材16と両凹部11b,12bとの嵌合によって確実に規制される。さらに、突合せ面Xには、ダボ15と鍔状部材16とが介在することから、ダボ15単独の場合に比較して剪断面の面積が大きくなり、両両框11,12が突合せ面Xに沿ってずれようとしたときのダボ孔11a,12aの周囲の面圧が軽減されるようになる。その結果、ダボ孔11a,12aの周囲の損傷が確実に防止される。
【0025】
そして、規制部を構成する鍔状部材16を、ダボ15とは別体としたので、規制部の加工が容易となる。
【0026】
次に、第1の実施の形態に係る木質扉の変形例について説明する。
【0027】
図3に示すように、この場合の木質扉では、各框21,22の突合せ面Xに、それぞれ上下一対のダボ孔21a,21a,22a,22aが設けられており、左右で対応するダボ孔21a,21a,22a,22aに跨って、それぞれ円柱状のダボ25,25が嵌入されている。
【0028】
また、両ダボ25,25の長手方向の略中央部には、これらのダボ25,25の直径に略等しい直径の貫通孔26a,26aを有する一つの長方形状の鍔状部材26が外嵌されている。そして、突合せ面Xにおけるダボ孔21a,21a,22a,22aの周囲に、前記鍔状部材26の外形に合致する形状の凹部21b,22bが設けられている。
【0029】
すなわち、ダボ25とダボ孔21a,22aとの組が複数組(図例では2組)備えられている場合に、単一の鍔状部材26を採用することにより、図2に示した構成に比較して剪断面の面積がさらに増加する効果があり、また、部材点数が削減されるメリットもある。
【0030】
次に、第1の実施の形態に係る木質扉の別なる変形例について説明する。
【0031】
図4に示すように、この場合の木質扉では、縦框31の突合せ面Xに設けられた上下に延びる凹溝31cと横框32の突合せ面Xに設けられた上下に延びる凸条32cとが係合するサネ構造が採用されている。この場合にも前述した接合構造が適用可能であり、図例では、両框31,32の突合せ面Xにそれぞれ設けられた上下一対のダボ孔(上側のみ図示)31a,32aと、各一対のダボ孔31a,32aに跨って嵌入された円柱状のダボ35と、各ダボ35の略中央部に外嵌されたドーナツ状の鍔状部材36と、この鍔状部材36が嵌入するように突合せ面Xにおける各ダボ孔31a,32aの周囲に設けられた凹部31b,32bとで、接合構造が形成されている。
【0032】
すなわち、前述したサネ構造の採用により、両框31,32の前後方向の相対移動が一層確実に防止され、ダボ孔31a,32aの周囲の損傷が一層効果的に防止されるようになる。なお、縦框31側の凹部31bの深さは、前記凹溝31cの深さよりも深い方が、鍔状部材36と縦框31との嵌合周長が長くなることから、規制部として一層効果的となる。
【0033】
次に、第2の実施の形態について説明する。
【0034】
図5に示すように、この場合の木質扉では、各框41,42の突合せ面Xに、それぞれ上下一対のダボ孔41a,41a,42a,42aが設けられており、左右で対応するダボ孔41a,41a,42a,42aに跨って、それぞれ円柱状のダボ45,45が嵌入されている。
【0035】
また、横框42の突合せ面Xにおけるダボ孔42a,42aの周囲に、ドーナツ状の凸部42d,42dが設けられている。そして、縦框41の突合せ面Xにおけるダボ孔41a,41aの周囲に、前記凸部42d,42dの外径に略等しい直径の凹部41b,41bが設けられている。その場合、凸部42dと凹部41bとは、両框41,42の突合せ面Xに沿う相対移動を規制する規制部を構成する。
【0036】
すなわち、規制部を、一方の横框42の突合せ面Xにおけるダボ孔42aの周囲に設けられた凸部42dと、この凸部42dが嵌入するように他方の縦框41の突合せ面Xにおけるダボ孔41aの周囲に設けられた凹部41bとで構成したことにより、両框41,42の突合せ面Xに沿う相対移動は、横框42の凸部42dと縦框41の凹部41bとの嵌合によって確実に規制される。さらに、突合せ面Xにはダボ45と凸部42dとが介在することから、ダボ45単独の場合に比較して剪断面の面積が大きくなり、両框41,42が突合せ面Xに沿ってずれようとしたときのダボ孔41a,42aの周囲の面圧が軽減されるようになる。その結果、ダボ孔41a,42aの周囲の損傷が確実に防止される。
【0037】
そして、前記鍔状部材16と同様の役割を果たして規制部を構成する凸部42dを、横框42に一体化して設けたので、図2に示した構成と比較して部材点数が少なくて済む。
【0038】
なお、本発明は、具体的に詳述した前記実施の形態に限定されることはなく、本発明の趣旨に沿うものであればよい。
【0039】
例えば、前記第1及び第2の実施の形態では、突合せ面Xに一対のダボ15,15,25,25,35,35,45,45を配設したが、その数は用途に応じて適宜変更すればよい。
【0040】
また、前記第1の実施の形態では、鍔状部材16,26,36をダボ15,25,35とは別体に設けたが、ダボに一体化して設けてもよい。その場合には、部材点数の削減を図ることができる。
【0041】
また、前記第2の実施の形態では、縦框41に凹部41bを設けると共に横框42に凸部42dを設けたが、その逆の構成でもよい。
【0042】
また、前記第2の実施の形態では、各ダボ45につき、一つの凸部42dと一つの凹部41bと一つの凸部42dとを設けたが、上下一対のダボ45,45につき、一つの凸部と一つの凹部とを設けてもよい。その場合には、図5に示した構成に比較して剪断面の面積がさらに増加する効果がある。
【0043】
また、前記第1及び第2の実施の形態では、本発明を木質扉1における接合構造に適用したが、その他にキャビネット、たんす、机等の組み立てにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明したように、本発明によれば、剪断力に弱い木質部材同士でも、ダボとダボ孔との嵌合を介した良好な接合状態を維持し、両木質部材の突合せ面に沿う相対移動を防止することができる木質部材の接合構造が提供され、本発明は、木質製品の技術分野に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る木質扉の正面図である。
【図2】(a)は図1において四角で囲んだ箇所を拡大且つ一部破断して示す図であり、(b)は(a)のI−I線による矢視図である。
【図3】(a)は本発明の第1の実施の形態に係る木質扉の変形例を示す図2(a)に相当する図であり、(b)は(a)のII−II線による矢視図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る木質扉の別なる変形例を示す平面図である。
【図5】(a)は本発明の第2の実施の形態に係る木質扉を示す図2(a)に相当する図であり、(b)は(a)のIII−III線による矢視図である。
【図6】従来の木質扉における接合構造を説明するための要部断面図である。
【符号の説明】
【0046】
11,21,31,41 縦框(木質部材)
11a,21a,31a,41a ダボ孔
11b,21b,31b,41b 凹部(規制部)
12,22,32,42 横框(木質部材)
12a,22a,32a,42a ダボ孔
12b,22b,32b 凹部(規制部)
15,25,35,45 ダボ
16,26,36 鍔状部材(規制部、鍔状部)
42d 凸部(規制部)
X 突合せ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質部材同士の突合せ箇所をダボとダボ孔との嵌合を介して接合する木質部材の接合構造であって、
前記ダボと前記両木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲との間に、前記両木質部材の突合せ面に沿う相対移動を規制する規制部が設けられていることを特徴とする木質部材の接合構造。
【請求項2】
前記請求項1に記載の木質部材の接合構造において、
前記規制部は、前記ダボの略中央部に設けられた鍔状部と、該鍔状部が嵌入するように前記両木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凹部とで構成されていることを特徴とする木質部材の接合構造。
【請求項3】
前記請求項2に記載の木質部材の接合構造において、
前記鍔状部は、前記ダボとは別体とされていることを特徴とする木質部材の接合構造。
【請求項4】
前記請求項1に記載の木質部材の接合構造において、
前記規制部は、一方の前記木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凸部と、該凸部が嵌入するように他方の前記木質部材の突合せ面におけるダボ孔の周囲に設けられた凹部とで構成されていることを特徴とする木質部材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−304022(P2008−304022A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153588(P2007−153588)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】