説明

材料加工方法および材料を加工するレーザ加工装置

本発明によるレーザ加工装置は、加工用パルスレーザ光(50)を出射するレーザ光源(10)と、材料の加工される領域の方向にレーザ光(50)を出力結合するレーザ光アライメントユニット(70)と、材料の加工される領域の周囲部分の方向に光増感剤を放出する放出装置(25)であって、アライメントユニット(70)に接続されている、出力装置(25)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料加工方法と、材料を加工するレーザ加工装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レーザは、レーザ照射時の特性、具体的にはその強度および良好な集光性により、材料加工の多くの分野で使用されている。レーザ加工方法においては、加工する被加工物によってレーザ光が吸収され、レーザ光の高いエネルギの結果として被加工物の材料が加熱されて溶ける、または蒸発する。このプロセスにより、一例として、金属板に穴をあけたり、半導体ウェハを個々の半導体チップに切り離すことができる。レーザ加工は、一般的には、専用のレーザ加工装置においてパルスレーザ照射によって行われる。レーザ光源としては、従来、COレーザや固体レーザ(例えば、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:GdVOレーザ)が使用されている。レーザ加工方法の重要な特徴は、スループット(例えば、単位時間内に金属板にあけることのできる穴の数)である。スループットは、レーザ光によって行われる除去手順またはアブレーション手順の効率に実質的に依存する。この場合、他の側面に加えてつねに望まれているのは、効率を高めることであり、すなわち、加工速度を大きくする、または入力エネルギを減少させることである。
【0003】
レーザ加工装置のさらなる品質基準は、さまざまな加工対象物への適用性であり、具体的には、さまざまな材料の加工に使用できるかどうかである。製造工程中には、複数の異なる材料を加工する必要が生じることがある。一例として、金属からなる導体トラックと、プラスチックからなる回路基板と、回路基板に貼り付けられる、シリコンからなる半導体チップとを加工する必要があり、例えば、プリント基板(PCB)コンタクトウェハ(contact wafer)の場合、スルーホールを設ける必要がある。従来のレーザ加工装置の欠点として、一般にはこれらの加工手順のうちの1つを実行できるのみである。その理由として、レーザ加工手順では、レーザ光のうちの十分に大きな割合が、加工する材料によって吸収される必要がある。しかしながら、従来のレーザ加工装置は、一般には固定された特定の波長で動作し、吸収能力が最大または高い波長は、加工する材料ごとに異なる。
【0004】
本出願において材料加工について説明するとき、あらゆる種類の材料、すなわち具体的には、あらゆる状態の材料、天然材料または合成材料、無機材料または有機材料を包含するものとする。これらの材料には、生物組織(例えば失活組織または生体組織)も含まれ、これには硬組織(歯の材料など)も含まれる。したがって、歯科の分野は、本出願の例示的な適用分野であり、歯の材料、具体的にはう蝕歯の材料をアブレーションあるいは除去するための機械的なドリルの代わりに、レーザ加工方法および対応するレーザ加工装置を使用することができる。しかしながら、他の種類の生物組織および組織のタイプ(例えば、さまざまな種類の硬組織、軟組織、間質液)にも、同様に適用することができる。したがって、別の潜在的な適用分野として、例えば眼科の分野が挙げられる。
【0005】
本出願のさらなる重要な側面は、本文書に記載する加工方法を実行するときのいわゆるバイオセーフティを最大限に確保する(具体的には、過度な紫外線を回避する)ことである。本出願に記載したタイプのレーザ加工の場合、加工用レーザ光の焦点にプラズマが形成されるように各レーザパルスが材料の薄い表面領域と相互作用する必要があることが知られている。このプラズマに起因して、再結合プロセスの結果として、またはプラズマの温度の結果としてのプランク放射の形で、紫外線が発生しうる。紫外線は健康に有害な影響を与え得ることは周知である。当然ながら、前述した歯科分野で使用する場合、このことは特にあてはまる。したがって、一般的な目標は、最大限のアブレーション効率を維持しながら、健康に有害な影響を最小にすることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、材料加工方法と、材料を加工するレーザ加工装置であって、材料の効率的な加工を確保し、さらには、レーザ加工装置の多用途性(すなわち特に、さまざまな材料に対する適用可能性)を高めることが可能である、方法および装置、を開示することである。本発明のさらなる目的は、材料加工方法と、材料を加工するレーザ加工装置であって、加工時に発生する紫外線を最小にすることができる方法および装置、を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は、独立請求項の特徴によって達成される。有利な発展形態および修正形態は、従属請求項の主題である。
【0008】
本発明の第1の考察として、生物組織をレーザ光によってアブレーションするとき、レーザ光を必ずしも組織自体に照射しなくてもよい。その代わりに、レーザ光を物質によって有利に吸収させることができ、この物質は、吸収の結果として本質的に自由電子または準自由電子の供給源としての役割を果たし、吸収したエネルギを、アブレーションする材料に伝える。このような物質としては、いわゆる光増感剤を最も効率的に使用することができる。光増感剤は、光量子の吸収後に光化学反応に入る感光性化合物を構成する。光増感剤の活性化は、適切な波長および十分な強度のレーザ光によって行うことができ、光増感剤は、光を吸収すると最初に比較的短い寿命の一重項状態に励起され、その後、より安定的な(長寿命の)三重項状態に遷移する。この励起状態は、例えば、除去する材料と直接反応することができる。
【0009】
したがって、本発明の第1の態様によると、材料加工方法であって、材料の加工される領域を囲む部分に光増感剤が供給され、加工用パルスレーザ光が出射され、材料の加工される領域が加工用パルスレーザ光によって照射される、方法、を開示する。
【0010】
この場合、加工用レーザ光は、100fs〜1nsの広い範囲における時間的な半値全幅を有するレーザパルスを放出することができ、この範囲は、漸増の中間値(incremental intermediate value)それぞれも含んでおり、増分値は100fsである。
【0011】
本発明のさらなる考察として、医療方法において、適切な場合に加工方法とともに実行される診断時に、加工またはアブレーションする領域を視覚化するマーカーを利用し、このマーカーは、光増感剤である、もしくは、適切な波長、持続時間、および強度を有するレーザダイオードまたは発光ダイオード(LED)を連続的またはパルス状に放射することによって励起され得る、またはその両方である。特に、アブレーション用と診断用とに同じ光増感剤を使用するようにすることができる。
【0012】
本発明のさらなる考察として、レーザ光によって加工またはアブレーションする材料の領域を、シースによって囲み、シースの内側の吸引流路システムと、シースに結合されているレーザ光アライメントユニットとを統合する。
【0013】
アブレーションもしくは診断またはその両方に使用される光増感剤およびレーザ光源の選択に関して、さまざまな可能性が存在する。本文書に提示する実施形態によると、光増感剤もしくはレーザパルスの波長またはその両方は、レーザ光の少なくとも一部分が光増感剤において単光子吸収によって吸収され、吸収が光増感剤の吸収極大の近傍であるように、選択する。したがって、この第1の実施形態は、線形光学に分類される。非線形光学に分類される第2の実施形態によると、光増感剤もしくはレーザパルスの波長またはその両方は、レーザ光の少なくとも一部分が光増感剤において2光子吸収によって吸収され、吸収が光増感剤の吸収極大の近傍であるように、選択する。同様に非線形光学に分類される第3の実施形態によると、光増感剤もしくはレーザパルスの波長またはその両方は、レーザ光の少なくとも一部分が光増感剤において多光子吸収によって吸収され、吸収される光子の数が3以上であり、吸収が光増感剤の吸収極大の近傍であるように、選択する。
【0014】
一実施形態によると、レーザパルスの繰り返し周波数は、1Hz〜10MHzの範囲内に設定されており、この範囲は漸増の中間値も含んでおり、増分値は1Hzである。この場合、レーザパルスを、それぞれが所定の数のレーザパルスを有するバーストの形で生成し、例えば、所定の数のバースト(例:1個のバースト)を、アブレーションする材料における加工する各領域に照射することもできる。レーザパルスは、バースト内で所定の様式で変化するパルスピーク強度を有することもできる。複数のレーザパルスのバーストの代わりに、個々のレーザパルスを使用することもできるが、レーザパルスの前にいわゆるASE(増幅自然放出)プレパルスが生じる。
【0015】
一実施形態によると、本方法は、歯の材料、特に、う蝕歯の材料のアブレーションまたは除去のために使用される。う蝕歯の材料はバクテリアの攻撃に起因する多孔構造を有することが知られており、この分野は本発明の有利な適用分野である。光増感剤は、この多孔構造の中に浸入することができ、したがって、除去するう蝕歯の材料の中にある程度埋め込まれ、(他の用途において要求されるように)除去する材料の表面に塗布する必要がない。
【0016】
短パルスレーザ(例えばピコ秒レーザまたはフェムト秒レーザ)によって材料を加工するとき、加工用レーザ光の焦点における薄い表面層内でマイクロプラズマが発生し、個々のパルスの後、ナノ秒〜マイクロ秒のオーダーの時間内に崩壊する。アブレーション動作時、材料は、レーザ光子と準自由電子の相互作用によってイオン化されるのではなく、熱機械的な作用で侵襲的に最小限に分解される。一般的な目標は、つねにしきい値範囲内で、すなわち、つねに臨界電子密度(レーザ波長1064nmにおいて1.03×1021電子/cm)以下でマイクロプラズマを発生させることである。これによって、特に、歯またはその他の組織の治療の場合のみならず、他の材料加工方法の場合にもアブレーション動作を行うことが可能になり、最大の医療的適合性および生物学的適合性が得られ、望ましくない副作用が回避される。特に、紫外線および多光子イオン化に伴う11,604.5K(太陽表面の温度の2倍)以上のプラズマ温度は、組織中に存在する水分子の非イオン化を達成する目的で、完全にまたは最大限に回避するべきである。さらに、歯の治療の場合における熱的影響および機械的影響を制限することに関連して、レーザパルスのパルス長は、約100fs〜100psの範囲内、特に、約10psのときに有利である。光増感剤による間接的なエネルギ入力と、ピコ秒レーザパルスの使用との新規の組合せによって、治療の生物学的適合性および医療的適合性が最大になる。特にストレス緩和に関して、ピコ秒レーザパルスでは、衝撃波などが伝わることなく、したがって痛みなしに治療を行うことができるように、光学的浸入深さ(optical penetration depth)が形成される。
【0017】
一実施形態によると、歯または組織の治療の場合、レーザパルスのエネルギ密度は、7.5J/cm未満の範囲に設定される。特に、レーザパルスのエネルギは、100μJ未満の範囲に設定することができ、組織の表面上もしくは光増感剤またはその両方における加工用レーザ光の焦点を、1μm〜100μmの範囲内の焦点径として設定することができ、特殊な光学系によって1μm〜5μmの範囲を達成することが可能である。これらの数値では、プラズマ密度がつねに臨界電子密度以下となる。光増感剤の本発明による使用によって、さらに、上記の値よりも大幅に低いレーザパルスのエネルギ密度(例えば1.0J/cm未満)を使用して生物組織をアブレーションすることができる。すなわち、レーザパルスのエネルギが適切であるとき、焦点に関連する従来の変数を使用することが可能であり、集光光学系に関して追加のコストが不要である。しかしながら、集光がより正確に行われるならば、より小さいレーザパルスエネルギを有するレーザ光源(例えば、下流の光増幅器を使用せずレーザ発振器のみからなるレーザ光源)を使用することができる(適切な場合)。これにより、特定の状況下では、本発明の方法を実行するためのレーザ加工装置の予測される総コストを低減することができる。具体的には、市販のレーザ発振器(例えば、固体レーザ発振器、特に、ピコ秒レーザ発振器)が、レーザ光源として十分である。最大限にコンパクトなレーザ光源を提供できるようにする目的で、例えば、特にピコ秒レーザとしてのレーザダイオードまたは複数のレーザダイオードの配置(アレイ)を使用することも考えられる。
【0018】
一般的には、本発明に従って光増感剤を使用することによって、材料のアブレーションにおいて、光増感剤を使用しない場合に必要であるレーザパルスのエネルギ密度よりも相当に低いエネルギ密度を使用することができる。
【0019】
さらなる実施形態によると、材料の特定の表面領域上において適切な方法でレーザ光を走査させる目的で、一般に、加工用レーザ光を使用してこの表面領域を加工する。このとき、加工用レーザ光が実質的に長方形(いわゆるトップハット)のビームプロファイルを有するならば、さらに有利である。その場合、走査動作において、加工用レーザ光の焦点によって覆われる各部分領域に正確に1個のレーザパルスが照射されるようにすることができる。この方策は、トップハットプロファイルではない場合にも提供することができ、これは例えば、走査動作時に、それぞれがレーザパルスによって覆われる互いに隣接する部分領域が空間的に互いに重なり、重なる表面積が部分領域の表面積の半分またはそれ以外の割合よりも小さいようにすることによる。たとえ「レーザ光断面」がガウスプロファイルであっても、このようにすることで、加工用レーザ光の焦点によって覆われる部分領域に本質的に1個のみのレーザパルスが照射されるようにすることが可能である。
【0020】
さらなる実施形態によると、加工時に焦点の空間位置が領域の表面上にあるように絶え間なく制御されるようにすることができる。後からさらに詳しく説明するように、この制御は、さまざまな実施形態におけるオートフォーカスユニットによって行うことができ、遮光保護(glare protection)の役割を果たす固定要素を使用することにより、光学手段によって行われる閉ループ制御を、レーザ光が漏れることなく実行することができる。
【0021】
組織の治療用に提供されるさらなる実施形態によると、例えばコヒーレントまたは非コヒーレントな電磁放射による励起後、特定のタイプの組織(特に、損傷した組織)に接触したときに特徴的に発色する、または検出可能な別の反応を示すマーカーを、組織に塗布することによって、光増感剤を塗布する前に、加工する領域が決定されるようにすることができる。この場合、診断用の光増感剤を構成する光増感剤によってマーカーを供給することができ、アブレーションに使用される光増感剤をアブレーション用の光増感剤と称することができる。しかしながら、このマーカーは、光増感剤の特性を持たない別の市販のマーカーによって形成することもできる。対照的に、一例としてアブレーション用の光増感剤は、マーカーの特性を持たない(すなわち、さまざまなタイプの組織に接触したときに発色しない)。
【0022】
さらなる実施形態によると、最初にマーカーとして使用され、次いでアブレーションに使用される光増感剤を使用することも可能である。この方式では、光増感剤のうち後からのアブレーションのためにレーザによって照射される領域のみが、診断時に色の変化を示す、または別のタイプの対応する反応を示すことにおいて、治療を単純化することができる。言い換えれば、診断に使用される光増感剤が、後からアブレーションに使用される光増感剤と同じである。この場合、診断時の光増感剤の吸収特性は、例えば後からのアブレーション時と同じである。
【0023】
さらなる実施形態によると、損傷した組織をマークするまたは示すことを目的とする、診断に使用されるマーカーまたは光増感剤は、追加の特性を有することができる。このようなマーカーまたは光増感剤は、例えば、酸(pH)インジケータとして、もしくは、細菌、ウイルス、腫瘍細胞のうちの少なくとも1種類のインジケータとして、またはその両方としての役割を果たすことができ、すなわち、特定の反応(例えば色の変化や蛍光発光)によって、接触している組織のpH値の高さ、あるいは、組織が細菌、ウイルス、腫瘍細胞の少なくとも1種類に感染している程度を示すことができる。さらに、光増感剤は、いわゆる3次元インジケータとしての役割を果たすことができるように設計することができ、すなわち、検出器上に画像化できるように光パルスを反射または逆反射することができ、光パルスが発せられてから特定の位置によって逆反射されるまでの経過時間を求めることによって、光増感剤によって覆われている表面の3次元トポグラフィを求めることができる。このような光増感剤は、損傷した組織がもはや存在せず、したがってさらなるアブレーション動作が必要ないことが同一の光増感剤によってすでに確認されている状況において、特に有利に使用することができる。以前のアブレーション動作によって形成された空洞(例えば歯の空洞)は、それ自体公知の方法においてその後に埋めるが、そのとき空洞の形状を求めなければならない。空洞の表面を覆う光増感剤を使用し、診断用レーザ光によって走査することで、受信される光パルスおよび経過時間によって空洞のトポグラフィを求めることができるならば、従来の(場合によっては)極めて高価な歯科方法に置き換えることができる。なお、このような方法は、本文書に特に説明した態様とは無関係に適用することのできる独立した発明とみなすことができ、これら独立した発明は、本出願に記載されているすべての態様および特徴と、当業者の判断において自由に組み合わせ得ることに留意されたい。
【0024】
さらなる実施形態によると、歯の治療における診断時に、マーカーまたは光増感剤を使用することなく、具体的には、組織において発生する信号の存在および(適切な場合に)その信号強度を求めることによって、加工する領域が決定されるようにすることができる。この場合、信号は、組織に照射される電磁放射の2次またはそれ以上の高調波とすることができる。電磁放射は、組織の表面におけるエネルギ密度が、組織を加工するのに要求されるエネルギ密度よりも小さい診断用レーザ光の電磁放射とすることができる。加工用レーザ光および診断用レーザ光は、同一のレーザ光源によって発生させることができる。特に、損傷していない歯の材料と、う蝕歯の材料とを区別する目的で、赤外領域においてLIBS(レーザ誘起プラズマ分光)法を用いて、診断用レーザ光によって組織を活性化することができ、この場合、2次高調波の後方散乱信号は健康な組織(例えば、再石灰化可能なコラーゲン繊維)を示し、このような信号が存在しなければ、う蝕歯の材料(すなわち不可逆的に損傷した(再石灰化不能な)コラーゲン繊維)を示す。組織の領域を診断用レーザ光によって走査し、後方散乱した2次高調波のデータを検出および格納することができ、領域のうち加工用レーザ光によって加工またはアブレーションを行う部分を、これらのデータを使用して決定することが可能である。
【0025】
別の実施形態によると、医療の場合、コンピュータ制御によって加工方法が実行されるようにすることができ、具体的には、加工中、測定される紫外線の関数としてレーザパラメータがオンライン制御されるようにすることができる。一例として、この場合には皮膚科に関連する紫外線指数をしきい値基準として使用することができ、すなわち、紫外線指数の所定のしきい値より高い場合、紫外線指数がそのしきい値を再び下回るまでレーザ出力を自動的に下げる。さらには、他の状況または著しい変化が起きた場合の予防措置として、レーザ光が短時間または永続的に遮断されるようにすることもできる。この措置が考えられるのは、一例として、治療時間が想定される最大時間を超えた場合や、一箇所に放射されたパルスが多すぎるものと判断される場合、レーザが不安定であると判断された場合、あるいは装置において他の不具合が起きた場合である。
【0026】
さらなる実施形態によると、(医療以外の)被加工物の場合、実際の加工を行う(すなわち、加工する領域に加工用レーザ光を照射する)前に、診断の処理が行われるようにすることができ、例えば、被加工物の領域の材料のタイプを調べる診断の後、加工用レーザ光をオンにする、またはオンにしない。この場合、一例として、被加工物の領域に導くことのできる診断用レーザ光を使用することもできる。診断用レーザ光は、加工用レーザ光と同一のレーザ光源から発せられるが、加工またはアブレーションには使用できない平均強度を有する。被加工物から戻った放射(例えば、反射した放射、蛍光放射、熱放射、高次高調波、その他)を検出して評価することができ、その評価から材料のタイプを判断することができる。
【0027】
本発明の第2の態様によると、材料加工方法であって、加工モードにおいてパルスレーザ光が出射され、材料の加工される領域が、加工用パルスレーザ光によって照射され、加工される領域の周囲から放出される電磁放射が検出され、検出された電磁放射に応じてパルスレーザ光が設定される、方法、を開示する。
【0028】
一実施形態によると、電磁放射は紫外線とすることができ、なぜなら、紫外線のスペクトル範囲は、生物学的な耐性に関して最も妥当であるためである。しかしながら、別のスペクトル範囲、例えば赤外波長域の電磁放射を検出することも可能であり、なぜなら、IR−AおよびIR−Bの赤外線量の特定のしきい値を超えると、健康への有害な影響が存在しうるためである。この影響は、一般には線量に必ず依存するため、電磁スペクトルのさらなる波長域についてもあてはまる。
【0029】
一実施形態によると、電磁放射は、少なくとも1個の適切な検出器によって検出することができる。したがって、紫外線の場合には、1個または複数の紫外線検出器を設ける必要がある。加工中、複数の紫外線検出器を使用して、検出される紫外線の強度、波長、および紫外線指数を求めることができる。
【0030】
さらなる実施形態によると、少なくとも1個の紫外線ダイオードによって供給される信号を評価する場合、検出された紫外線が、所定の基準に対して高すぎる、または特定のしきい値を超えることが判明した場合に、加工用レーザ光の少なくとも1個のパラメータを修正することによって、加工手順をオンラインで制御することができる。修正する加工用レーザ光のパラメータは、一例として、パルスピーク強度、パルス幅、繰り返し周波数、バースト内のパルス数、または他の適切なパラメータ、またはこれらのうちの複数のパラメータとすることができる。少なくとも1個の紫外線検出器の信号が、検出される紫外線が再び許容範囲内にあることを示すまで、少なくとも1個のパラメータを修正する。
【0031】
本発明の第3の態様によると、材料加工の方法であって、加工モードにおいてパルスレーザ光が出射され、材料の加工される領域が加工用パルスレーザ光によって照射され、以下の条件、すなわち、加工用レーザ光によって生成されるプラズマの温度が、1eVに対応する11604.5Kを超えないこと、および、加工用レーザ光の交流電磁界中の電子の平均振動エネルギが0.021eV未満であること、のうちの少なくとも一方が満たされるように、パルスレーザ光が設定される、方法、を開示する。
【0032】
第3の態様によるこのような方法は、第1の態様および第2の態様による上述した方法と組み合わせることができる。第2の態様による方法と組み合わせるときには、例えば、加工方法を開始する前に計算が行われるようにすることができ、この計算の目的は、加工用レーザ光の適切なパラメータとして、プラズマ温度および平均振動エネルギに関する上記の条件を達成できる、または達成するものと予測されるパラメータを、加工する材料の関連するパラメータを使用して確立することである。加工動作の実行中、第2の態様に従って電磁放射(例えば紫外線)を調べ、加工用レーザ光は、電磁放射の関数として絶え間なく再調整され、したがって、検出される電磁放射が所定の特定のしきい値を超えない。
【0033】
本発明のさらなる態様によると、第1の態様による方法に従って材料を加工するレーザ加工装置であって、加工用パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、材料の加工される領域の方向にレーザ光をデカップリングするレーザ光アライメントユニットと、材料の加工される領域を囲む部分の方向に光増感剤を出力する出力装置であって、特に、レーザ光アライメントユニットに接続されている、出力装置と、を備えている、レーザ加工装置、を開示する。
【0034】
本レーザ加工装置の一実施形態によると、レーザ光源は、さらなる増幅なしに出力パルスをアライメントユニットに供給することのできるレーザ発振器によって形成することができ、したがって、すでに上述したように、レーザ光源を高い費用効果で設計することができる。この場合、要求されるエネルギ密度に達することができるように、レーザ光をより正確に集光させる必要がある。しかしながら、レーザ発振器と、レーザパルスの光増幅器とからなるレーザ光源を使用することも可能であり、この場合、従来の集光で十分である。
【0035】
本レーザ加工装置の一実施形態によると、レーザパルスの波長および光増感剤は、加工用レーザ光の少なくとも一部分が光増感剤において単光子吸収によって吸収され、吸収が光増感剤の吸収極大の近傍であるように、選択する。
【0036】
本レーザ加工装置の一実施形態によると、レーザパルスの波長および光増感剤は、加工用レーザ光の少なくとも一部分が光増感剤においてN個の光子吸収(N≧2)によって吸収され、吸収が光増感剤の吸収極大の近傍であるように、選択する。
【0037】
一実施形態によると、レーザパルスは、100fs〜1nsの範囲における半値全幅を有し、この範囲は、漸増の中間値それぞれも含んでおり、増分値は100fsである。
【0038】
一実施形態によると、レーザパルスの波長は、100nm〜10.6μmの範囲内にあり、この範囲は、漸増の中間値それぞれも含んでおり、増分値は100nmである。したがって、この範囲は、例えば、波長が赤外波長域にあるEr:YSGGレーザの出力波長(λ=2.7μm)またはEr:YAGレーザの出力波長(λ=2.94μm)、またはCO2レーザ(出力波長は10.6μm)も含んでいる。適切な既存の光増感剤または今後開発される光増感剤と組み合わされるとき、上に指定した範囲内のすべての波長が考えられる。
【0039】
一実施形態によると、加工する組織の表面上もしくは光増感剤またはその両方におけるレーザパルスのエネルギ密度は、7.5J/cm未満の範囲にある。光増感剤の選択によっては、1.0J/cmまたはそれ以下のエネルギ密度で十分なことがある。
【0040】
一実施形態によると、レーザパルスのエネルギは、100μJ未満の範囲にあり、特に、組織の表面上の加工用レーザ光の焦点は、1μm〜100μmの範囲内の焦点径として設定される。特殊な光学系を使用することで、1μm〜5μmの範囲を達成することができる。
【0041】
一実施形態によると、レーザパルスの繰り返し周波数は、1Hz〜10MHzの範囲内に設定される。
【0042】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、歯の材料、特にう蝕歯の材料をアブレーションまたは除去するための歯科用レーザ加工装置として設計されている。
【0043】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、レーザ光アライメントユニットに結合されている固定手段であって、加工する材料の部分を基準にして、レーザ光アライメントユニットの遠位端部を空間的に固定する、固定手段、をさらに備えている。
【0044】
一実施形態によると、レーザハンドピースはアタッチメントを備えており、このアタッチメントは、固定手段としての役割を果たすのみならず、適切な場合、統合されている吸引流路システムと協働して、さまざまなプロセスガスを供給してさまざまな化学組成物もしくはさまざまな圧力条件またはその両方を生成することが可能であるように、加工する領域を囲む。組織または歯の治療の場合、例えば水銀(例えばアマルガム充填材として)をアブレーションして吸い出すことができる。
【0045】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、加工用パルスレーザ光の実質的に長方形のビームプロファイルを整形するビーム整形ユニット、をさらに備えている。
【0046】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、材料の領域を、加工用レーザ光または(適切な場合に)診断用レーザ光によって走査する走査ユニット、をさらに備えている。この場合、走査ユニットは、特に、加工用レーザ光の焦点によって覆われる部分領域に正確に1個のレーザパルスが照射されるように、設計することができる。例えば、1個のレーザパルスによって覆われる互いに隣接する部分領域それぞれが空間的に互いに重なり、重なる表面積が部分領域の半分よりも小さいように、走査ユニットを設計することができる。
【0047】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、材料の表面における焦点の空間位置を一定に保つオートフォーカスユニットをさらに備えている。
【0048】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、材料において、または材料を囲む部分において発生する信号の存在と(適切な場合に)この信号の強度とを検出する検出ユニット、をさらに備えている。検出ユニットは、例えば、材料に照射される電磁放射の2次またはそれ以上の高調波を検出するように設計されている光センサを有することができる。電磁放射は、加工用レーザ光のような同一のレーザ光源によって生成される診断用レーザ光の電磁放射とすることができ、または、インコヒーレントであり、特に連続的に発光する光源(例えば発光ダイオード(LED))の電磁放射とすることができる。
【0049】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、レーザ光源を加工モードまたは診断モードに設定するように設計されている制御ユニットを有することができ、加工モードでは、加工用パルスレーザ光が生成され、診断モードでは、材料の表面上のエネルギ密度が、材料を加工するのに要求されるエネルギ密度よりも小さい診断用レーザ光が生成される。診断用レーザ光は、原理的には、加工用レーザ光と同じレーザ光とすることができ、エネルギ密度が加工に要求されるエネルギ密度よりも小さいように、加工用レーザ光のエネルギが制御ユニットによって単に変更される。適切な場合、エネルギの代わりに、またはエネルギに加えて、エネルギ密度が低くなるようにフォーカシングを変更することも可能である。この場合、診断モードの目的は、どの材料を加工するかを決定することである。
【0050】
一実施形態によると、レーザ光アライメントユニットをハンドピースの形で形成することができ、この場合、光増感剤を出力する出力装置の少なくとも一部分をハンドピースの内側に配置することが可能であり、特に、ノズルを有する供給ラインの一端をハンドピース内に配置することができる。走査ユニットもしくはオートフォーカスユニットまたはその両方を、ハンドピースの内側に配置することもできる。
【0051】
一実施形態によると、レーザ加工装置は、マーカーを出力するさらなる出力装置をさらに備えており、特に、このさらなる出力装置の一部を、同様にハンドピースの内側に配置することが可能である。
【0052】
一実施形態によると、レーザパルスは、100fs〜1nsの範囲における半値全幅を有し、この範囲は、漸増の中間値それぞれも含んでおり、増分値は100fsである。
【0053】
本発明のさらなる態様によると、第2の態様による方法に従って材料を加工するレーザ加工装置であって、加工用パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、材料の加工される領域の方向にレーザ光をデカップリングするレーザ光アライメントユニットと、加工される領域の周囲部分から放出される紫外線を検出する紫外線検出器と、を備えている、レーザ加工装置、を開示する。
【0054】
さらなる実施形態は、本発明の第1の態様に関連して上述した特徴を、本発明のさらなる態様に適用することによって提供することができる。
【0055】
以下では、本発明について、さらなる実施形態の形で、図面を参照しながらさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】レーザ加工装置の実施形態の概略図である。
【図2】レーザ加工装置のさらなる実施形態の概略図である。
【図3】レーザ光アライメントユニットの実施形態の概略図である。
【図4】レーザ光アライメントユニットの実施形態の概略図である。
【図5】レーザ光アライメントユニットの実施形態の概略図である。
【図6】レーザ光アライメントユニットの実施形態の概略図である。
【図7】レーザ光アライメントユニットの実施形態の概略的な側面図(A)および部分横断面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は、第1の態様によるレーザ加工装置の一般的な実施形態の概略図であり、寸法比は正しい縮尺ではない。レーザ加工装置100は、加工用パルスレーザ光50を放出するレーザ光源1を有する。加工用レーザ光50は、加工する被加工物4に集光される。適切な場合、光偏向ユニット3(例えば、ミラー、複数のミラーからなるミラーシステム、走査装置、偏向プリズム)によって、加工用レーザ光を手前で偏向させることができる。被加工物4は、冒頭部に記載したように任意の望ましい材料からなることができる。この場合、被加工物4は、患者の歯、あるいは別の生物組織とすることもできる。
【0058】
この場合、レーザ光源1は、パルス幅が100fs〜1nsの範囲内でありパルスあたりエネルギが100μJ未満であるように、レーザパルスを生成するようにすることができる。レーザ光の集光は、被加工物4の表面における加工用レーザ光50の焦点が1μm〜100μmの範囲内の焦点径を有するように、設定することができる。
【0059】
さらに、レーザ光源1は、1Hz〜10MHzの範囲内の繰り返し周波数のレーザパルスを放出するようにすることができる。
【0060】
レーザ加工装置100は、被加工物4の加工される領域を囲む部分の方向に光増感剤を出力する出力装置5をさらに有する。出力装置5は、図示したように、光増感剤を蓄えている貯蔵室5Aと、貯蔵室5Aに接続されている供給ライン5Bとを含んでいることができる。光増感剤としては、例えばエリトロシンを使用することができ、エリトロシンは、Nd:YAGレーザ(1064nm)のレーザ光の2光子吸収によって、またはNd:YAGレーザ(532nm)の2倍周波数成分の単光子吸収によって、効率的に励起させることができる。さらなる光増感剤としては、一例として、メチレンブルー、Photofrin(登録商標)、有機金属デンドリマが挙げられる。さらには、専門家による関連する文献に記載されているあらゆる光増感剤、および今後に開発される光増感剤も、これに含まれ、この場合、光増感剤の吸収極大を、レーザの波長に、または少なくともレーザ波長付近に合わせる必要がつねにある。本文書の意味においては、生化学的な発色団を光増感剤とすることもできる。光増感剤という用語の定義として、技術的な意味では光増感剤ではないが、特定の物理条件下および化学条件下で光増感剤に特有の特性を示すことのできる物質も含まれるものとする。このような物質としては、原理的には、例えば任意の気体、気体混合物(空気)、エアロゾルが挙げられるが、これらの物質は、いずれも特定の物理条件および化学条件下でのみ光増感剤の特性を示すことに留意されたい。上記の定義によると、基板に塗布されたときに負の電荷を帯びている光増感剤、すなわち非励起状態においてすでに自由電荷キャリアとして機能する光増感剤、または自由電荷キャリアを含んでいる光増感剤を使用することも可能であり、これらの自由電荷キャリアは、後のアブレーション時に、吸収によって生成される自由電荷キャリアに追加される形で貢献することができる。上記の定義によると、小さなイオン(例えば空気イオン)のクラスタとして塗布される光増感剤を利用することも可能である。このような光増感剤も、初期状態(すなわち非励起状態)において、後からのアブレーション工程において支援的に作用し得る自由電荷キャリアをすでに有する。
【0061】
レーザ加工装置100は、被加工物4の加工される領域の方向にレーザ光50をアライメントするレーザ光アライメントユニット6をさらに有する。図示した例示的な実施形態においては、アライメントユニット6は、偏向ユニット3を含んでおり、さらに、出力装置5の供給ライン5Bに接続されており、したがって、アライメントユニット6の遠位端部において供給ライン5Bから光増感剤が放出され、被加工物4の望ましい領域に望ましい様式で塗布することができる。
【0062】
図2は、レーザ加工装置のさらなる実施形態の概略図であり、寸法比は正しい縮尺ではない。図2に示したレーザ加工装置200の実施形態は、加工用パルスレーザ光50を放出するレーザ光源10を備えている。図示した例示的な実施形態においては、レーザ光源10はNd:YAGレーザであり、過渡増幅器または再生増幅器に接続されており、波長1064nmのレーザパルスを放出する。この場合、別のレーザ光源(例えば、Nd:YVOレーザまたはNd:GdVOレーザ、あるいは別のNdドープレーザ結晶を含んでいるレーザ)を使用することも可能である。同様に、短パルスのYbドープレーザ(例えばYb:YAGレーザまたはYb:KYWレーザ)を使用することができる。レーザパルスのパルス幅は10psであり、レーザパルスの繰り返し周波数は1Hzから10MHzの範囲内にある。レーザパルスのエネルギは40μJである。繰り返し周波数が100kHzのとき、平均放射出力は4Wである。
【0063】
原理的には、レーザ光源として任意の他のレーザを利用することが可能である。一例として、原理的には、ダイオードレーザ、または(適切な場合に)特にコンパクトにハンドピースに収容できるダイオードレーザアレイによって、レーザ光源を設けることもできる。特に、レーザ光源の出力パルスは、さらなる光増幅を行わずに使用することができ、すなわち、出力パルスをハンドピースまたはアライメントユニットに送ることができる。
【0064】
図2に示した実施形態の場合、レーザ光源10によって放出された加工用レーザ光50は、そのままのプロファイルの状態で、光偏向ユニット60(加工用レーザ光50の波長に対してのみ偏向ユニットとして機能する)に当たり、したがって、加工用レーザ光50は約90°偏向する。
【0065】
加工用レーザ光50の光路上には、続いてビーム整形ユニット30が配置されており、このユニット30によって長方形またはトップハットのビームプロファイルが形成される。
【0066】
次いで、加工用レーザ光50は、ハンドピースとして設計されているレーザ光アライメントユニット70に入る。アライメントユニット70は、その入力側部分に、オートフォーカスユニット20の一部であるレンズ2を含んでいる。オートフォーカスユニット20は、レンズ2によって形成される焦点がつねに被加工物4の加工面の平面内に位置するようにする手段(それ自体公知である)を採用している。特に、オートフォーカスユニット20は光センサ装置と相互作用することができ、光センサ装置は、被加工物40の表面によって逆反射される光を評価して、表面が依然としてレーザ光の焦点に位置しているかを判定する。その時点で、被加工物40の表面が再びレーザ光の焦点に入るように適切な方策をとる目的で、オートフォーカスユニット20に制御信号が送信される。この方策として、例えば、レンズ2をレーザ光50の伝搬経路に沿って前後に動かすことができる。この動作は、レンズ2が取り付けられているキャリッジに結合されている高速ステップモータによって行うことができる。しかしながら、レンズ2を、その屈折力を変化させ得るように設計することもできる。
【0067】
図2の実施形態によると、レンズ2は、被加工物40の表面に焦点径40μmで焦点を結ぶように配置されている。歯の治療の場合、レーザパルスのパルスエネルギの上述した値を使用したとき、このような配置によって3.18J/cmのエネルギ密度が得られ、これは有利であり、結果として、パルスピーク強度は3.18×1011W/cmである。この強度は、光量子束密度1.18×1030光子/cm・sに相当する。交流電磁界の電界強度は1.55×10V/cmであり、交流電磁界中の電子の平均振動エネルギは0.021eVである。これは、一般的な化学結合エネルギよりも2桁小さく、すなわち、レーザ場は原子結合力と直接競合するほど強くはない。
【0068】
ビーム整形ユニット30は、レンズ2の下流の光路上に配置する、すなわち特にハンドピース70の中に配置することもできる。さらに、オートフォーカスユニット20とビーム整形ユニット30、特に、レンズ2とビーム整形ユニット30とを組み合わせて、共通の光学要素を形成することもできる。
【0069】
アライメントユニット70のさらなる領域には走査ユニット80が配置されており、この走査ユニット80によって、被加工物40の表面のうち加工する特定の領域上において、それ自体公知の方法で(例えば、対向する2枚の振動ミラーによって)加工用レーザ光50または診断用レーザ光を走査させることができる。次いで、加工用レーザ光50または診断用レーザ光は、さらなる偏向ユニット90(例えば偏向プリズムあるいは反射ミラー)によって被加工物40の方向に偏向される。
【0070】
したがって、この実施形態においては、走査ユニット80はハンドピース内に配置されている。しかしながら、別の実施形態として、走査ユニットが、ハンドピースの上流の光路上に配置されている、すなわち、特にハンドピースの上流の光学装置の連接型ミラーアーム(articulated mirror arm)の中、または連接型ミラーアームの入力位置に配置されている実施形態も考えられる。
【0071】
ハンドピースとして設計されているアライメントユニット70は、加工時、手操作またはロボットによって保持し、加工する被加工物40の上に導くことができる。このタイプの操作を容易にする、特に、アライメントユニット70の遠位端部の位置およびアライメントを、加工する被加工物40に対して一定に維持する目的で、アライメントユニット70の遠位端部に漏斗形状のアタッチメント150が取り付けられている。このアタッチメントは、固定要素の機能を有することができ、加工時に被加工物40に適切に固定することができ、これについては図3〜図7の実施形態を参照しながら後から詳しく説明する。このタイプの固定は、医療の場合に、したがって被加工物40が例えば患者の歯であるときに行うことが好ましい。この場合、治療する医者は、固定する前に、歯が口腔の他の部位から隔てられるように、あらかじめ歯の周囲にラバーダムまたはストレッチラバー(stretch rubber)をさらに配置することができる。
【0072】
被加工物40の(医療以外の)加工の場合にも、固定要素150を設けることができる。この固定要素は、例えば、望ましい雰囲気を形成するため、被加工物の加工される領域に光増感剤に加えて特定のプロセスガスを供給したり、アブレーションされた材料を吸い出す役割を果たすことができる。
【0073】
アタッチメントまたは固定要素150は、それ自身で、または組み合わせて、さらなる機能または特性を備えることもできる。アタッチメントまたは固定要素150は、有効な遮光部としての役割を果たすことができ、なぜなら、加工時、作業はつねにプラズマしきい値(plasma threshold)付近で行われ、このことは、強い光が発生することと合わせて、一般には動作時に操作者に悪影響を与えうるためである。さらに、アタッチメントまたは固定要素150は、プラズマ中に発生する紫外光を紫外線検出器に効率的に導くことができるように、その内壁が適切に設計されているならば、紫外線反射器としての役割を果たすことができる。さらには、アタッチメントまたは固定要素150は、自由電子、イオン、ラジカルのうちの少なくとも1種類の吸収体として機能するように具体化することができ、これは、この点においても最高レベルのバイオセーフティを確保するためである。さらには、アタッチメントまたは固定要素150は、任意の基部に固定するための最適な柔軟性が提供されるように、可撓性かつ適合可能な材料(例えばシリコーン)から製造することができる。さらには、アタッチメントまたは固定要素150は、二重壁として具体化することができ、アブレーションされた材料(レーザスモーク)を吸い出すため、または固定された状態において真空を発生させるため、中間空間に流路が配置されている。この二重壁は、平たく平面状の外壁と、流路を形成するための適切な孔を有する内壁の形をとることができる。
【0074】
レーザ加工装置200は、被加工物40の加工される領域の周囲部分の方向に光増感剤を出力する出力装置25をさらに有する。出力装置25は、貯蔵室25Aと供給ホース25Bとを含んでおり、供給ホース25Bは、貯蔵室25Aに接続されており、アライメントユニット70の中に通じており、アライメントユニット70の内側を固定要素150の中までガイドされている。
【0075】
被加工物40の表面の加工領域、または加工領域を囲む部分において発生する光信号または音響信号を検出し、診断目的に使用することができる。光信号は、すでに上述したように、例えば歯の治療の場合、特にう歯の診断の場合、加工する対象である歯の材料に作用する電磁放射の2次高調波(SHG、2次高調波発生)または3次以上の高調波に基づく。以下では、図2に示した例示的な実施形態について、SHG信号を検出する場合を想定して説明する。
【0076】
この種類の診断においては、レーザ光源10は、診断用レーザ光が放出される診断モードに設定され、診断用レーザ光では加工を行うことができないように、診断用レーザ光のエネルギまたはエネルギ密度は、アブレーションまたはプラズマ形成時のしきい値よりも低い。診断用レーザ光(加工用レーザ光と同様にパルス状である)は、歯の加工される表面領域に含まれる歯の材料が健康であるかう歯であるかを調べるために使用されることを目的としている。健康な歯の材料からは、う蝕歯の材料よりも強いSHG信号が供給される。歯の表面においてこのように発生する2倍周波数光の少なくとも一部分は、上述したように、加工用レーザ光の光路を逆方向に進行し、したがって偏向ユニット90によって偏向され、走査ユニット80と、レンズ2を有するオートフォーカスユニット20とを通過し、最終的にビームスプリッタ60に当たる。しかしながら、ビームスプリッタ60は、SHG信号の波長に対して透過性であり、したがって、2倍周波数光を光検出装置110に送ることができる。光検出装置110は、SHG光の強度を測定する単純な光検出器として設けることができる。より複雑なシステム(例えば、分光計、CCDカメラ、CMOSイメージセンサ)を、光検出装置110として使用することもできる。このような光検出装置は、すでに前述したように、例えばオートフォーカスユニット20と適切な方法で協働する目的を同時に果たすことができる。
【0077】
同様に、偏向ユニット90の設計として、歯の表面において発生する2倍周波数光を透過させ、偏向ユニット90の下流に位置するガラス繊維を利用して例えば光検出装置110まで送るようにすることができる。これにより、2倍周波数光をガイドするための光学経路のコストが減少し、なぜなら、光学系80,20,60,2を複数の波長用に設計する必要がなく、場合によってはコーティングも必要ないためである。2倍周波数光をより効率的に結合する目的で、2倍周波数光をガラス繊維上に集光する光学系を、偏向ユニット90とガラス繊維との間に挿入することができる。光学系は、微小光学系の形で設計することができる。
【0078】
光検出装置110によって求められたSHG光の値は、信号115に変換され、一体化された評価・制御ユニット120に送られる。評価・制御ユニット120は、この実施形態では、コンピュータシステムとすることも可能である。しかしながら、原理的には、他のあらゆる制御・調整システム、例えばPLC(プログラマブルロジックコントローラ)、マイクロコントローラ、アナログ制御ループも可能である。
【0079】
レーザ光源10は、自身の動作状態に関するデータを含んだ信号を評価・制御ユニット120に供給することができる。評価・制御ユニット120は、光検出装置110によって送信された信号115の関数として、レーザ光源10に供給される制御信号を出力し、この制御信号は、例えば、レーザ光源10をスタンバイモードから動作モードに切り替える。
【0080】
図2に示した実施形態は、特に、動作モードとして「オフ」(スタンバイモード)、「診断」、および「治療」(加工)の間で切り替えることのできるレーザ光源10を備えている。この実施形態においては、レーザ光源10は、「治療」モード時の加工用レーザ光と、変更された条件下で「診断」モード時の診断用レーザ光の両方を放出する。診断モードと治療モードの本質的な違いは、歯の表面に印加されるパルスピーク強度(単位:W/cm2)である。診断モードにおいては、エネルギ密度が高い信頼性でアブレーションしきい値より低くなければならないが、治療モードにおいてはアブレーションしきい値より高い。
【0081】
上述した診断モードにおいては、例えば、歯40の特定の表面領域を診断用レーザ光によって走査することが可能であり、後方散乱したSHG信号を受信して評価することができる。この走査に基づいて、表面領域のある程度のマップを作成することができ、加工またはアブレーションする表面部分が識別される。診断モードの実行後、評価・制御ユニット120が出力装置25に信号を供給し、その時点で、出力装置25は、供給流路25Bと、その端部に取り付けられている制御可能なノズルとによって、歯の表面のアブレーションする領域に光増感剤を塗布する。
【0082】
(医療以外の)被加工物を加工する場合にも、診断は、診断用レーザ光によって発生する後方散乱信号を受信、評価することによって、同様に行うことができる。この後方散乱信号は、SHG信号に加えて、反射信号、蛍光信号、熱的信号とすることもできる。しかしながら、この代替形態として、被加工物の表面を純粋に光学的に調べ、オプションとして画像認識法を利用して、被加工物の特定の表面領域を加工用レーザ光によって加工するか否かを決定することもできる。
【0083】
図3は、診断のためのさらなる例示的な実施形態を説明する目的で、ハンドピースの形でのアライメントユニット70を断面図として示している。この例示的な実施形態においては、加工しない材料と加工する材料の区別は、光信号(例えばSHG信号)を利用してではなく、加工する材料に接触したときに特徴的に発色するマーカーを利用して行う。このマーカーは、さらなる供給ライン72(同様にハンドピースの内側に延びている)によって被加工物に供給することができる。被加工物の表面のうち加工する領域を(好ましくは光学的に記録した後に画像を評価することによって)確定した後、光増感剤(供給ライン71を介して被加工物に供給される)をこれらの領域に塗布し、次いで、その領域を加工用レーザ光50によって加工またはアブレーションすることができる。したがって、この実施形態においては、診断用レーザ光が不要であるのみならず、レーザ光源を切り替える機能と、光信号(例えばSHG信号)の検出も同様に必要ない。制御およびアライメントすることのできるノズル71.1,72.1を、2本の供給ライン71,72に接続することが可能であり、これらのノズルを利用して被加工物の表面に向けてマーカーおよび光増感剤を放出することによって塗布することができる。歯の治療の場合、マーカーを使用して、例えば、健康な歯の材料(加工しない)とう蝕歯の材料(加工する)とを視覚的に区別することができる。
【0084】
レーザ光アライメントユニットの図3に示した実施形態は、独立した発明と考えることができる。このレーザ光アライメントユニットは、ハンドピース70と、加工用レーザ光50もしくは適切な場合に診断用レーザ光またはその両方を偏向させる偏向ユニット90と、加工される材料の周囲領域にハンドピース70を固定するアタッチメント250と、を有する。ハンドピース70は、自身の内部に延びている供給ライン71によって光増感剤を塗布することと、適切な場合、さらなる供給ライン72によって、加工または診断する被加工物の領域にマーカーを塗布することが可能であるように、設計されている。この独立した発明は、本出願に記載されている他の実施形態のいずれかと組み合わせる、もしくは、本出願に記載されている1つまたは複数の特徴を備えるように発展させる、またはその両方を行うことができる。このことは、上述したようにレーザ光アライメントユニットを含んでいるレーザ加工装置などの主ユニットについても同様である。
【0085】
図4は、さらなる例示的な実施形態を説明する目的で、ハンドピースの形でのアライメントユニット70を断面図として示している。この例示的な実施形態の場合、ハンドピース70の内側に少なくとも1個のレーザダイオードまたは発光ダイオード(LED)73が配置されている。図4に示したように、複数のLED73を配置することも可能である。アタッチメント250がまだ固定されていない状態においては、これらのLED73を使用して被加工物を照らすことができ、これにより特に、アタッチメント250を、被加工物40の治療する表面領域に対して最適に配置することができる。さらに、LED73は、被加工物40の治療する表面に塗布されるマーカーを励起する目的を達成することができ、したがって、治療する領域において被加工物が特徴的に発色する。このようにマーカーによって生成される画像を、加工用レーザ光50の結合に使用される光学系によって検出し、評価することができる。次のステップにおいて、この評価に基づいて、加工またはアブレーションする領域に光増感剤を塗布することができる。LED73は、図示したように、例えばハンドピース70の水平端部に配置することができ、空間的に例えば円形に配置することができ、したがって、できる限り均一かつ回転対称的に照らすことが可能である。LED73は、ハンドピース70の内側にガイドされておりLED73に電力を供給する給電線(図示していない)に接続されている。LED73は、単色とする、すなわち、準単色LED(例えば、赤色光を発するLED)とすることができる。しかしながら、白色光を使用することも可能であってこれは有利であり、なぜなら、第一に、それによって被加工物がより効果的に照らされ、第二に、場合によっては、さまざまな波長によって励起できる選択可能なマーカーが増えるためである。1個または複数の白色LEDと、1個の赤色発光レーザダイオードとを、例えばポインタ(pointers)として使用することができる。
【0086】
レーザ光アライメントユニットの図4に示した実施形態は、独立した発明と考えることができる。このレーザ光アライメントユニットは、ハンドピース70と、加工用レーザ光50もしくは(適切な場合に)診断用レーザ光またはその両方を偏向させる偏向ユニット90と、加工される材料の周囲領域にハンドピース70を固定するアタッチメント250と、照明、もしくは、マーカーまたは光増感剤の励起、またはその両方のための少なくとも1個のLED73と、を有する。この独立した発明は、本出願に記載されている他の実施形態のいずれかと組み合わせる、もしくは、本出願に記載されている1つまたは複数の特徴を備えるように発展させる、またはその両方を行うことができる。このことは、上述したようにレーザ光アライメントユニットを含んでいるレーザ加工装置などの主ユニットについても同様である。
【0087】
図5は、第2の態様によるレーザ加工装置のさらなる一般的な実施形態の概略図であり、寸法比は正しい縮尺ではない。レーザ加工装置300は、加工用パルスレーザ光50を放出するレーザ光源1を有する。加工用レーザ光50は、加工する被加工物4に集光される。適切な場合、光学偏向ユニット3(例えば、ミラー、複数のミラーからなるミラーシステム、走査装置、偏向プリズム)によって、加工用レーザ光50を手前で偏向させることができる。被加工物4は、冒頭部に記載したように任意の望ましい材料からなることができる。この場合、患者の歯、あるいは別の生物組織とすることもできる。レーザ加工装置300は、紫外線検出器8をさらに有し、加工用レーザ光50による加工時、加工される被加工物4によって発生する紫外線を紫外線検出器8によって検出することができる。紫外線検出器8は、評価・制御ユニット(図示していない)に結合することができ、評価・制御ユニットはレーザ光源1に結合されている。紫外線検出器8の信号を評価・制御ユニットにおいて評価し、レーザ光源1によって放出されるレーザ光を修正するか、およびどのように修正するかを決定する。
【0088】
特に、紫外線の複数の異なる特性を求めるときに、1個のみの紫外線検出器の使用ではそれを容易には行うことができない場合、1個の紫外線検出器8の代わりに複数の紫外線検出器を使用することもできる。したがって、例えば、第1の紫外線検出器を使用して紫外線量を求め、第2の紫外線検出器を使用してスペクトル範囲または波長を求め、第3の紫外線検出器を使用して皮膚科に関連する紫外線指数(dermatological UV index)を求めることが可能である。個々の紫外線検出器、またはすべての紫外線検出器を、高速または超高速の紫外線検出器、具体的にはピコ秒オーダーの応答時間を有する紫外線検出器として、具体化することができる。
【0089】
レーザ加工装置300は、被加工物4の加工される領域の方向にレーザ光50をアライメントするレーザ光アライメントユニット6をさらに有することができる。アライメントユニット6は、図示した例示的な実施形態においては偏向ユニット3を含んでおり、さらには、本出願に示したアライメントユニットの実施形態のように具体化することができる。具体的には、アライメントユニット6は、その内壁に紫外線反射コーティングを有することができる。このコーティングは、加工位置において発生した紫外線を紫外線検出器8の方向に効率的に導くために使用することができる。さらに、コーティングは、自由イオン、電子、ラジカルのうちの少なくとも1種類の吸収体としての役割を果たすことができるように、設計することができる。ミラー3は、加工用レーザ光50を反射するが測定する紫外線を透過させるようにコーティングすることもできる。その場合、検出器8をミラー3の後ろに配置することができる。
【0090】
図6は、さらなる例示的な実施形態を説明する目的で、ハンドピースの形でのアライメントユニット70を断面図として示している。この例示的な実施形態においては、ハンドピース70にアタッチメント350が設けられており、アタッチメント350の機能は、ハンドピース70を固定するのみならず、被加工物40の治療する表面領域を、アタッチメント350の下縁部に取り付けられているシール350.1によって密閉することである(単に概略的に示すことを目的としており技術的には必ずしも正確ではない)。このように密閉状態に固定する1つの目的は、被加工物40の治療する表面領域を囲む隣接範囲を、どのような場合にも周囲領域から最大限に(具体的には空気およびガスが漏れないように)密封することである。このタイプの密閉状態の固定によって、特に歯の治療の場合に、以下の例示的な実施形態で説明するように、さまざまな方法で加工を最適化することが可能になる。例えば、ハンドピース70の内側に吸引装置を設けることが可能であり、外側が密封状態に固定されているため、この吸引装置を使用することで、アブレーションされた材料を特に効率的かつ高い信頼性で吸い出すことができる。さらには、加工される表面領域の周囲に、制御された雰囲気を形成することができる。
【0091】
レーザ光アライメントユニットの図6に示した実施形態は、独立した発明と考えることができる。このレーザ光アライメントユニットは、ハンドピース70と、加工用レーザ光50もしくは(適切な場合に)診断用レーザ光またはその両方を偏向させる偏向ユニット90と、加工される被加工物の周囲領域にハンドピース70を固定するアタッチメント350と、を有し、アタッチメント350は、加工する表面領域を気密状態に囲むことができるように設計されている。この独立した発明は、本出願に記載されている他の実施形態のいずれかと組み合わせる、もしくは、本出願に記載されている1つまたは複数の特徴を備えるように発展させる、またはその両方を行うことができる。このことは、上述したようにレーザ光アライメントユニットを含んでいるレーザ加工装置などの主ユニットについても同様である。
【0092】
図6に示したレーザ光アライメントユニットの実施形態は、独立した発明と考えることができる。このレーザ光アライメントユニットは、ハンドピース70と、加工用レーザ光50もしくはオプションとして診断用レーザ光またはその両方を偏向させる偏向ユニット90と、加工される被加工物の周囲にハンドピース70を固定するアタッチメント350と、を有し、アタッチメント350は、加工され表面領域を密閉状態に囲むことができるように設計されている。この独立した発明は、本出願に記載されている他の実施形態のいずれかと組み合わせる、もしくは、本出願に記載されている1つまたは複数の特徴を備えるように発展させる、またはその両方を行うことができる。このことは、上述したようにレーザ光アライメントユニットを含んでいるレーザ加工装置などの主ユニットについても同様である。
【0093】
図7は、ハンドピースの形でのアライメントユニット70のさらなる例示的な実施形態を、説明を目的として、縦断面図(A)と、線B−Bにおける横断面図(B)として示している。この実施形態においては、ハンドピース70の上にアタッチメント250が配置されており、ハンドピース70およびアタッチメント250は、吸引流路80が保持されるように具体化されており、この吸引流路によって、被加工物の加工時にアブレーションされる材料を効果的に吸い出すことができる。アタッチメント250の領域には、アタッチメント250の外壁が二重壁として具体化されていることによって吸引流路80が形成されており、底部において内壁が開いており、アブレーション生成物は、これらの壁の間の中間空間(全周にわたり延在している)の中に吸引される。この中間空間は、上端部において1本のライン80に接続されており、このライン80は、ハンドピース70の内部で外側に通じており、吸引システムに接続されている。中間空間の下側の開口は、加工される領域の方向に広がっており、したがって、アブレーションされた材料を方向に依存せず効率的に吸い出すことができる。さらに、2枚の壁の間の中間空間に個々の細い吸引流路のみが形成されるように内壁に孔を設けることができ、これらの細い吸引流路は上部において結合され、外側に通じる個々の吸引流路80が形成される。
【0094】
特に、歯科治療に適用する場合、加工される領域の表面温度を測定する熱センサを適切な位置に(好ましくは下部領域に)設けることも可能である。このセンサは、特に、温度値が42.5℃を超えた場合に警告信号を発する必要があり、なぜなら、その状況は、コラーゲン繊維の損傷の開始と、いわゆる「一次痛」を示しうるためである。
【0095】
さらに、ハンドピース70およびアタッチメント250は、加工される被加工物40の方向にさらなる物質を送り込むことのできるさらなる供給ラインが延在するように、具体化されている。アタッチメント250は、その上端部に端板81を有し、この端板81は複数の開口を含んでいる。中央の丸い開口には、レーザ光50が通過するための透明な安全ガラス82が固定されている。安全ガラス82は、加工によって発生する紫外線が通過でき、上述したように紫外線検出器によって検出できるように、紫外線に対して透過性であることが好ましい。安全ガラス82は、一例として、化学気相成長(CVD)法によって生成される合成ダイヤモンドからなることができる。この場合、安全ガラスは、可視スペクトル領域全体および赤外領域に対しても透過性であるため、これらのいずれかのスペクトル領域の電磁放射を測定信号として使用することもできる。
【0096】
端板81には、供給ライン74,75,76のためのさらなる開口が存在する。これらの供給ライン74,75,76は、それぞれ、ノズル74.1,75.1,76.1に接続されており、これらのノズルを通じて、対応する物質を被加工物に供給することができる。一例として、内側に位置している第1の供給ライン74は、光増感剤もしくはマーカーまたはその両方を供給することができる。その外側に位置している供給ラインによって、色素を供給することができる。このような色素は、紫外線もしくは青色光またはその両方に対する放射保護剤として使用することができる。一例として、メラニンなどの色素は、紫外線または青色光の適切な吸収体としてすぐれている。最も外側の供給ラインは、冷却媒体(例えば空気、水)を供給するために使用することができる。ノズル74.1,75.1,76.1は、制御可能かつ位置合わせ可能であり、さらに物質を集中させ得るノズルであって、各物質を、空間内の目標位置に集中的に塗布できるノズルであることが好ましい。これらのノズルは、一例として、ヘッドが球状であるノズル(それ自体は公知である)によって形成することができる。物質を集中させ得ることによって、レーザ光、光増感剤、および基板との間の相互作用を、焦点のみにおいて(すなわち正確に表面上において)発生させることができ、したがって、レーザ光が光増感剤のみと反応する、あるいは空気のみと反応することがなく、最悪の場合における空気の絶縁破壊が発生しない。さらには、ノズルを使用して、上述した物質を可変の出力速度で被加工物に塗布することができ、これによって、光子エネルギ以外にエネルギを補足的に供給することもできる。具体的には、図7A,7Bに示したさまざまなノズルの形状および配置によって、固定要素の中に、制御された雰囲気を容易に形成することができる。
【0097】
上述したように、図示した実施形態および独立した発明の中で説明したすべての特徴は、それ以外の説明した実施形態および独立した発明においても適用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料加工方法であって、
加工モードにおいて加工用パルスレーザ光が出射され、
材料の加工される領域を囲む部分に光増感剤が供給され、
前記材料の加工される前記領域が前記加工用パルスレーザ光によって照射される、
材料加工方法。
【請求項2】
加工モードにおいてパルスレーザ光が出射され、
材料の加工される領域が前記加工用パルスレーザ光によって照射され、
加工される前記領域の周囲から放出される電磁放射が検出され、
前記加工用パルスレーザ光が、検出された前記電磁放射に応じて設定される、
請求項1に記載の材料加工方法。
【請求項3】
加工モードにおいてパルスレーザ光が出射され、
材料の加工される領域が前記加工用パルスレーザ光によって照射され、
前記パルスレーザ光が、次の条件、
前記加工用レーザ光によって生成されるプラズマの温度が、1eVに対応する11604.5Kを超えない、
前記加工用レーザ光の交流電磁界中の電子の平均振動エネルギが0.021eV未満である、
の少なくとも一方が満たされるように、設定される、
請求項1または2に記載の材料加工方法。
【請求項4】
前記加工用パルスレーザ光が、前記条件の少なくとも一方が満たされるように計算に基づいて最初に設定され、
加工動作の実行中、前記加工用レーザ光が、検出された前記電磁放射に応じて設定される、
請求項2または3に記載の材料加工方法。
【請求項5】
前記光増感剤および前記レーザ光の波長が、
前記加工用レーザ光の少なくとも一部分が前記光増感剤において単光子吸収によって吸収され、前記吸収が前記光増感剤の吸収極大の近傍である、
ように選択される、
請求項2〜4のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項6】
前記光増感剤および前記レーザ光の波長が、
前記加工用レーザ光の少なくとも一部分が前記光増感剤においてN個の光子吸収(N≧2)によって吸収され、前記吸収が前記光増感剤の吸収極大の近傍である、
ように選択される、
請求項2〜4のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項7】
前記レーザパルスの繰り返し周波数が、1Hz〜10MHzの範囲内に設定される、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項8】
生物組織、特に、歯の材料、特に、う蝕歯の材料のアブレーションまたは除去に使用される、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項9】
前記加工用レーザ光が実質的に長方形のビームプロファイルを有する、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項10】
加工される前記領域が前記加工用レーザ光によって走査される、
請求項1〜9のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項11】
前記加工用レーザ光の焦点によって覆われる部分領域に正確に1個のレーザパルスが照射される、
請求項10に記載の材料加工方法。
【請求項12】
1個のレーザパルスによって覆われる互いに隣接する部分領域それぞれが空間的に互いに重なり、重なる表面積が部分領域の表面積の半分よりも小さい、
請求項11に記載の材料加工方法。
【請求項13】
加工中に前記焦点の空間位置がつねに前記領域の前記表面上にあるように、制御が行われる、
請求項1〜12のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項14】
加工される前記領域が診断モードにおいて決定される、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項15】
特定のタイプの材料に接触したときに、特に外部励起に基づいて、特徴的に発色する、または検出可能な別の反応を示すマーカー、を前記材料に塗布することによって、加工される前記領域が決定される、
請求項14に記載の材料加工方法。
【請求項16】
前記マーカーが、光増感剤であり、特に請求項1に関連して、前記加工モードにおいて使用される光増感剤と同じである、
請求項15に記載の材料加工方法。
【請求項17】
前記材料または前記材料を囲む部分に位置しているマーカーにおいて発生する信号の存在と、適切な場合に前記信号の信号強度とを求めることによって、加工される前記領域が決定される、
請求項13〜16のいずれか1項に記載の材料加工方法。
【請求項18】
前記信号が、前記材料または前記マーカーに照射される電磁放射の蛍光放射または2次高調波もしくは3次以上の高調波である、
請求項17に記載の材料加工方法。
【請求項19】
前記電磁放射が診断用レーザ光の電磁放射であり、前記診断用レーザ光が、前記材料を加工するのに要求されるエネルギ密度よりも小さい、前記材料の表面、または前記光増感剤もしくはマーカーの表面におけるエネルギ密度、を有する、
請求項18に記載の材料加工方法。
【請求項20】
前記加工用レーザ光と前記診断用レーザ光とが、同一のレーザ光源によって生成される、
請求項19に記載の材料加工方法。
【請求項21】
前記電磁放射が、LEDなどインコヒーレントな光源の電磁放射である、
請求項18に記載の材料加工方法。
【請求項22】
材料を加工するレーザ加工装置であって、
加工用パルスレーザ光(50)を出射するレーザ光源(1,10)と、
加工される前記材料の領域の方向に前記レーザ光(50)をデカップリングするレーザ光アライメントユニット(6,70)と、
前記材料の加工される前記領域を囲む部分の方向に光増感剤を出力する出力装置(5,25)であって、特に、前記レーザ光アライメントユニット(6,70)に接続されている、前記出力装置(5,25)と、
を備えている、レーザ加工装置。
【請求項23】
加工用パルスレーザ光(50)を出射するレーザ光源(1,10)と、
材料の加工される領域の方向に前記レーザ光(50)をデカップリングするレーザ光アライメントユニット(6,70)と、
加工される前記領域を囲む部分によって放出される電磁放射を検出する検出器(8)と、
を備えている、
請求項22に記載の、材料を加工するレーザ加工装置。
【請求項24】
歯の材料、特にう蝕歯の材料をアブレーションまたは除去するための歯科用レーザ加工装置(200)である、
請求項22または23に記載のレーザ加工装置。
【請求項25】
前記レーザパルスが、100fs〜1nsの範囲内の時間的な半値全幅を有する、
請求項22〜24のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項26】
前記レーザパルスの繰り返し周波数が、1Hz〜10MHzの範囲内に設定され得る、
請求項22〜25のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項27】
前記レーザパルスの波長および前記光増感剤の材料が、
前記加工用レーザ光の少なくとも一部分が前記光増感剤において単光子吸収によって吸収され、前記吸収が前記光増感剤の吸収極大の近傍である、
ように選択される、
請求項22〜26のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項28】
前記レーザパルスの波長および前記光増感剤の材料が、
前記加工用レーザ光の少なくとも一部分が前記光増感剤においてN個の光子吸収(N≧2)によって吸収され、前記吸収が前記光増感剤の吸収極大の近傍である、
ように選択される、
請求項22〜26のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項29】
前記レーザ光アライメントユニット(6,70)に結合されている固定手段(150)であって、前記材料の加工される部分を基準にして、前記レーザ光アライメントユニット(6,70)の遠位端部を空間的に固定する、前記固定手段(150)、
をさらに備えている、請求項22〜28のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項30】
前記加工用パルスレーザ光(50)の実質的に長方形のビームプロファイルを整形するビーム整形ユニット(30)、
をさらに備えている、請求項22〜29のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項31】
前記材料の領域を、前記加工用レーザ光(50)によって走査する走査ユニット(80)、
をさらに備えている、請求項22〜30のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項32】
前記加工用レーザ光(50)の焦点によって覆われる部分領域に正確に1個のレーザパルスが照射されるように、前記走査ユニット(80)が設計されている、
請求項31に記載のレーザ加工装置。
【請求項33】
1個のレーザパルスによって覆われる互いに隣接する部分領域それぞれが空間的に互いに重なり、重なる表面積が部分領域の半分よりも小さいように、前記走査ユニット(80)が設計されている、
請求項31または32に記載のレーザ加工装置。
【請求項34】
前記材料の表面における前記焦点の空間位置を一定に保つオートフォーカスユニット(20)、
をさらに備えている、請求項22〜33のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項35】
前記材料において、または前記材料を囲む部分において発生する信号の存在と、適切な場合に前記信号の強度とを検出する検出ユニット(110)、
をさらに備えている、請求項22〜34のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項36】
前記検出ユニット(110)が光センサを有する、
請求項35に記載のレーザ加工装置。
【請求項37】
前記光センサが、前記材料または前記マーカーもしくは前記光増感剤に照射される電磁放射の蛍光放射または2次高調波もしくは3次以上の高調波、を検出するように設計されている、
請求項36に記載のレーザ加工装置。
【請求項38】
前記レーザ光アライメントユニット(70)がハンドピースとして設計されており、請求項20に関連して、前記ハンドピースの中に、前記光増感剤を出力する前記出力装置(25)の少なくとも一部が含まれている、
請求項22〜37のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項39】
前記走査ユニット(80)および/または前記オートフォーカスユニット(20)が前記ハンドピースの中に含まれている、
請求項38に記載のレーザ加工装置。
【請求項40】
前記レーザ光源(1,10)がレーザ発振器を含んでおり、前記レーザ発振器によって生成される前記レーザパルスを、さらなる光増幅なしに前記アライメントユニット(6,70)に供給することができる、
請求項22〜39のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項41】
前記材料の加工される前記領域の方向、または別の領域の方向に位置合わせされている、または位置合わせすることができる複数のノズル(71.1,72.1,74.1,75.1,76.1)、
をさらに備えている、請求項22〜40のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項42】
加工される前記領域上に光増感剤を塗布する光増感剤ノズル(74.1)と、
オプションとしての放射保護ノズル(75.1)であって、加工される前記領域の外側の領域上に、放射保護媒体、より具体的には色素を塗布する前記放射保護ノズル(75.1)と、
オプションとしての冷却媒体ノズル(76.1)であって、加工される前記領域上および/または加工される前記領域の外側の領域上に、冷却媒体を供給する前記冷却媒体ノズル(76.1)と、
を有する、
請求項41に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−515565(P2012−515565A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545627(P2011−545627)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【国際出願番号】PCT/DE2010/075005
【国際公開番号】WO2010/083825
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(510232599)ルメラ レーザー ゲーエムベーハー (2)
【出願人】(510232603)
【Fターム(参考)】