説明

材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法

【課題】プラント運転中にも材料厚さの測定・モニタリングが可能であると同時に、効率的にかつ高精度に材料厚さを測定可能とする。
【解決手段】材料10表面に貼着された光ファイバセンサ3と、この光ファイバセンサ3中に光を供給するための光源2と、上記光ファイバセンサ3の近傍に配置され上記材料中に超音波を入射させる超音波発振装置4と、上記超音波の反射波を検出することによって波長が変化した光であって光ファイバセンサ3を透過した光と供給した際の光の波長とのシフト量を電気信号に変換するための光電変換装置5と、増幅器6と、その増幅された電気信号から材料厚さを算出するための演算装置7と、予め求められた波長のシフト量と入射された超音波の周波数との関係および各種材料内における超音波速度のデータが格納されたデータベース7aと、材料厚さの算出結果を出力する出力装置8と、上記全ての機器を制御する制御用計算機9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料中に入射した超音波信号の到達時間や共鳴現象を光ファイバセンサで検出し、材料厚さを測定する材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法に関し、特にプラント運転中においても機器構成材料の厚さの測定・モニタリングが可能であると同時に、効率的にかつ高精度に材料厚さを測定できる材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国内外の原子力発電所や火力発電所等において過去に発生した蒸気配管の不具合は、いずれも配管内部の蒸気によるエロージョン現象やコロージョン現象により配管肉厚が薄く減少して構造強度が不十分になっていたことが直接の原因である言われている。そのため、これらの配管の信頼性確保のあり方や検査方法についての重要性が再認識されている。
【0003】
従来から広く使用されている配管の肉厚検査方法としては、超音波法を基本とする方法が一般的である。この超音波法においては、超音波信号処理により配管の減肉部位や肉厚測定精度を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、狭隘な場所や偏心形状配管での超音波を使用した精度良い配管厚さ測定方法も提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。また、配管の表面を二次元的に走査して測定を行うことにより、効率の良い超音波配管測定装置(例えば、特許文献2参照)など、数多く提案されている。
【0004】
しかしながら、上記の各種測定方法は、基本的にはプラントを運転開始する前または停止した状態で非破壊検査の一環として実施することを前提とするものであり、稼働中の火力発電プラントなどのように、配管中に高温蒸気が流通している高温状態では対応できない難点がある。また、上記の測定方法においては、最も減肉が生じている部位を特定するために肉厚分布を求めているが、そのためには多点(通常数百点)を測定する必要があり、多大の測定時間を必要とする問題もある。
【0005】
一方、電磁超音波による共鳴現象を利用して配管肉厚を測定する試みも提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、この測定装置では台車により超音波の入射位置を変えるために装置構成が非常に大掛りなものになり装置製造コストが膨大化すると同時に、前述の超音波法と同様に高温状態では対応できず、測定に多大の時間が必要となる欠点があった。
【0006】
さらに、減肉速度評価式を取り入れたシステムにより減肉量を予測する試みもある(例えば、特許文献5参照)。この方法によれば効率良く配管減肉を予測することが可能となる反面、配管のエロージョン現象やコロージョン現象の進行機構は非常に複雑であり、プラントの微妙な運転条件の差異を考慮して予測することは困難であり、測定精度に問題がある。
【0007】
近年、通信分野を中心に光ファイバの適用が拡がり、その信頼性が向上するとともにコスト的にも低下する傾向にある。そのために、情報伝達媒体としての光ファイバの利点を利用した応用製品やサービスの開発も活発に行われている。その中でもFBG(Fiber Bragg Grating)型光ファイバ素子は、ひずみや温度などの検出を行うセンサとして注目されている(例えば、特許文献6,7参照)。また、電気ノイズも小さく非常に感度が高いことから、磁気、振動や音などの微小な環境変化を検出するセンサとしての応用も検討されている(例えば、特許文献8,9参照)。一方、光ファイバを用いて動的な振動(ひずみ速度)を測定する別の方法として、レーザドップラ現象を応用した方法が提案されている。とくに、光ファイバを湾曲させて対象物に取付けた状態で湾曲部に振動(ひずみ)を与えた場合、入力光とファイバを通過した出力光との間での波長変化がひずみ速度に対応し、広帯域の振動を高感度で測定できるという報告もある(例えば、特許文献10参照)。これらの光ファイバを用いた測定装置は600℃程度までの高温での測定を検討したものはあるが、ひずみ、変位、振動、温度などに限られており、配管などの材料肉厚測定に応用されたものは未だない。
【特許文献1】特開2004−163250号公報
【特許文献2】特開2002−48769号公報
【特許文献3】特開2003−270217号公報
【特許文献4】特開平9−281087号公報
【特許文献5】特開2001−12698号公報
【特許文献6】特開平10−141922号公報
【特許文献7】特開平11−51783号公報
【特許文献8】特開2003−130934号公報
【特許文献9】特開2004−12280号公報
【特許文献10】特願2003−508894号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように、超音波法または電磁超音波法により配管肉厚測定が種々試みられている。しかしながら、各配管肉厚測定装置・方法は基本的にはプラントを運転開始する前または停止した状態で非破壊検査の一環として実施することを前提に開発されたものであり、例えば火力発電プラント等において配管中に高温蒸気が流通している高温状態では対応できない問題があった。また、超音波探触子の走査のために駆動機構を設ける必要があり装置構成が大掛りなものになることが多く、測定装置の製造コストが上昇する難点があった。さらに、測定対象材料中で最も減肉が生じている部位を特定するためには肉厚分布を求める方式においては、多点(数百点)を測定する必要があり多大の測定時間が必要であるという問題点がある。
【0009】
また、減肉速度評価式から減肉量を予測するシステムも試行されているが、配管のエロージョン、コロージョン現象は非常に複雑であり、プラントの微妙な運転条件の差異による差を予測することは困難であり、測定精度が低い問題がある。
【0010】
さらに、光ファイバ素子を利用した材料検査システムも実用化されているが、光ファイバ素子の用途は、ひずみ、変位、振動、温度などの測定に限定されており、配管の肉厚測定に応用されたものはない。
【0011】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであり、材料中に超音波を入射し、その信号を光ファイバを用いたセンサで受けて配管などの材料厚さを測定したものである。そして、プラント運転中にも材料厚さの測定・モニタリングが可能であると同時に、効率的にかつ高精度に材料厚さを測定できる材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明は、次の手段を設けて構成されている。
【0013】
すなわち、本発明に係る材料厚さモニタリングシステムは、厚さの測定対象となる材料表面に貼着された光ファイバセンサと、この光ファイバセンサ中に光を供給するための光源と、上記光ファイバセンサの近傍に配置され上記材料中に超音波を入射させる超音波発振装置と、上記超音波の反射波を検出することによって波長が変化した光であって光ファイバセンサを透過した光と供給した際の光の波長とのシフト量を電気信号に変換するための光電変換装置と、この電気信号を増幅する増幅器と、その増幅された電気信号から材料厚さを算出するための演算装置と、予め求められた光ファイバセンサ内での波長のシフト量と入射された超音波の周波数との関係および各種材料内における超音波速度のデータが格納されたデータベースと、材料厚さの算出結果を出力する出力装置と、上記全ての機器を制御する制御用計算機とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記材料中に超音波を入射させる超音波発振装置として、落下する球体を衝突させたときに発生する超音波を入射させる落球超音波発振装置を用いて構成することも可能である。
【0015】
さらに、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記材料中に超音波を入射させる超音波発信装置として、入射させる超音波の周波数が可変である周波数可変型超音波発振装置を用いて構成することも可能である。
【0016】
また、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記周波数可変型超音波発振装置として、厚さ測定対象となる材料表面に、コイルを巻回した鉄心を立設し、そのコイルに所定の周波数の電圧を印加することにより電磁超音波を発生させる電磁超音波発振装置を用いて構成することも可能である。
【0017】
さらに、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記周波数可変型超音波発振装置として、圧電素子に電圧を印加して振動(機械エネルギー)に変換することにより所定周波数の超音波を発生させる圧電素子超音波発振装置を用いて構成することも可能である。
【0018】
また、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記周波数可変型超音波発振装置として、球体の材質や径を変化させることにより周波数が変化した超音波を発生させることが可能な落球超音波発振装置を用いて構成することも可能である。
【0019】
さらに、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記超音波発振装置が10kHzから100MHzの周波数領域の超音波を前記材料中に入射させることが好ましい。材料中に入射させる超音波の周波数領域を過度に高めずに上記範囲内に設定することにより、超音波の吸収が少なくなり、高精度の測定が可能になる。
【0020】
また、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記材料表面に貼着された光ファイバセンサが、渦巻き状に巻回した状態で材料表面に貼着されていることが好ましい。光ファイバセンサを渦巻き状に巻回した状態で材料表面に貼着することにより、湾曲部でのドップラー効果によって、反射する超音波に対応してひずみの変化速度が大きくなり、高精度の測定が可能になる。
【0021】
さらに、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記材料厚さを測定する対象材料において、超音波の発振源とその超音波を検出する光ファイバセンサとを上記材料の同一表面側に設けて構成することも可能である。
【0022】
また、上記材料厚さモニタリングシステムにおいて、前記材料厚さを測定する対象材料において、超音波の発振源を材料の表面側に配設する一方、その超音波を検出する光ファイバセンサを材料の裏面側に配設して構成することも可能である。
【0023】
本発明に係る材料厚さの測定方法は、厚さの測定対象となる材料中に超音波を入射させる一方、超音波の入射点近傍に配置した光ファイバセンサに所定波長の光波を入射させ、上記超音波の反射波によって波長が変化した光波を光ファイバセンサにより検出し、その波長変化から動的なひずみ変化に変換し、そのひずみ変化の速度から材料厚さを算出することを特徴とする。
【0024】
上記光ファイバセンサからの光信号の波長変化から動的なひずみ変化に変換する操作は、例えば光ファイバレーザドップラー速度計(FLDV:Fiber−opt Laser Doppler Velocimeter)により実行される。
【0025】
さらに、上記材料厚さの測定方法において、前記材料中にパルス状の超音波を入射させた際、材料の裏面からの反射波により定期的に超音波が大きくなる現象を利用し、その超音波ピークの時間間隔(周波数)から材料厚さを求めることが好ましい。
【0026】
また、上記材料厚さの測定方法において、前記材料中に入射させる超音波の周波数を連続的に変化させた際に、入射波と反射波とが共鳴する特定周波数から材料厚さを求めることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法によれば、原子力発電プラント、火力発電プラントなどが運転中であっても、高温の配管などの機器構成部材の厚さのモニタリングを長期間にわたって継続的に実施することが可能になると共に、効率的にかつ高精度に材料厚さを測定できる。特に、プラント稼働中であっても上記継続的なモニタリングが可能であるために、配管等の機器構成部材の健全性が確保できるとともに、安全で無駄が無く機器構成部材の補修や交換時期が容易に特定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<実施例の構成>
以下に、本発明に係る材料厚さモニタリングシステムの一実施例について、図1〜図5を参照して説明する。
【0029】
図1は、本実施例に係る材料厚さモニタリングシステムの構成を示すブロック図である。この材料厚さモニタリングシステムは、厚さを測定する対象となる材料1の表面に貼り付けられた光ファイバセンサ3と、この光ファイバセンサ3中に所定波長のレーザ光を供給するための光源2と、材料中へ超音波を入射させる超音波発振装置4と、光ファイバセンサ3を透過したレーザ光を電気信号に変換するための光電変換装置5と、この光電変換装置で得られた電気信号を増幅する増幅器6と、その増幅された電気信号から材料厚さを算出するための演算装置7と、材料厚さの算出結果を出力する出力装置8と、上記各機器2〜8を制御する制御器としての制御用計算機(コンピュータ)9とから構成されている。
【0030】
上記光ファイバセンサ3の一端には、片側に取り付けられた光源2から所定の波長のレーザ光が供給される一方、光ファイバセンサの他端側(出力側)は光電変換装置5に接続されている。この光電変換装置5では、光源2から出されるレーザ光の波長と、光ファイバセンサ3を通過した後のレーザ光の波長とを比較し、その波長の「ずれ」(光信号)や強度を電気信号に変換する。光電変換装置5からの電気信号は増幅器6で増幅される。その増幅された電気信号は、演算装置7でデジタル処理された後にデータベース7aを用いて材料厚さが算出される。得られた材料厚さの算出結果は、出力装置8で出力される。これらの全ての処理動作は制御用計算機9によって制御されている。
【0031】
図2は、上記実施例に係る材料厚さモニタリングシステムを、蒸気タービン発電プラントの高温配管の厚さ測定に適用した場合の高温配管厚さモニタリングシステムを示すブロック図である。この高温配管厚さモニタリングシステムは、厚さを測定する対象である配管10の外表面に貼り付けられた光ファイバセンサ3と、この光ファイバセンサ3中に所定波長のレーザ光を供給するための光源2と、配管10中へ超音波を入射させる超音波発振装置4と、光ファイバセンサ3を透過したレーザ光を電気信号に変換するための光電変換装置5と、光電変換装置5で得られた電気信号を増幅する増幅器6と、その増幅した電気信号から材料厚さを算出するための演算装置7と、予め求められたファイバセンサ内での波長のずれ(シフト量)と入射された超音波の周波数との関係、各種材料内における超音波速度のデータ、等が格納されたデータベース7aと、上記材料厚さの算出結果を出力表示する出力装置8と、上記各機器2〜8を制御する制御用計算機9とから構成されている。
【0032】
上記光ファイバセンサ3は、図4に示すように、レーザ光が透過する中心にコア部11を有し、このコア部11を含めて光路は断面の直径が100〜500μm程度の細い石英線12から構成されている。その石英線12の外表面には厚さが数μmから数十μmの金(Au)コーティング層13が一体に形成されている。
【0033】
その金コーティング層13を形成した光ファイバセンサ3は、図3および図5に示すように、円弧状(渦巻状)に捲回された後にNiCr系鋼コーティング層14内に埋設する状態で配管10の外表面に貼り付けられ、固定されている。
【0034】
また、前記光源2としては、通信分野でも一般的に用いられている波長が1550nm程度の赤外線を発生する光源が使用される。配管10中へ超音波を入射させる超音波発振装置4は、図2に示すように、鉄心15周囲にコイル16を巻回した後に上部に磁石17を備えた電磁超音波発生装置である。上記鉄心15は、渦巻き状に巻回された光ファイバセンサ3の中心部または周辺近傍に配置され、直接的にまたは接触媒体18を介して間接的に配管10に接続されている。また、コイル端子はファンクションジェネレータ19に接続されており、このファンクションジェネレータ19によってコイル16に印加する電圧の周波数を変化させ調整できるように構成されている。なお、上記光電変換装置5は、10MHzの周波数にも対応できる高速フォトディテクタである。
【0035】
次に、本実施例に係る材料厚さモニタリングシステムを使用した材料厚さの測定方法の実施例について、添付した図4〜図6を参照してより具体的に説明する。
【0036】
厚さ測定の対象となる材料(例えば炭素鋼配管)10の表面に渦巻き状に取り付けられた光ファイバセンサ3を通過した前後での波長変化の模式図を図6に示す。図6に示すように、材料10表面に渦巻き状に巻回されて取り付けられた光ファイバセンサ3では、材料10中に生じたひずみ速度(ε;x方向のひずみ速度、ε;y方向のひずみ速度)に対応し、湾曲部でのドップラー効果により下記(式1)に示すような波長のズレλが生じる。
[数1]
λ=neq・N・π・Ravεε)/λ ……(式1)
eq;ファイバ中の透過屈折率
N;巻き数
av;平均巻き径
λ;入射光の波長
【0037】
例えば、超音波発振装置4から配管10内に入射した超音波は、入射面とは逆の裏面(反射面)で反射し、再び入射面に到達する。入射面に達した超音波は再び入射面で反射し、その入射・反射が繰り返される。すなわち、配管10の入射面または反射面に渦巻状に光ファイバセンサ3を取り付けておけば、反射する超音波に対応して配管内にはひずみが生じてひずみ速度が大きくなる現象が定期的に繰り返される。この周波数(1/周期)fは、下記(式2)に示すように、配管厚さtと配管内での超音波の音速vとに対応する。したがって、配管内における超音波の音速を測定しておけば、ひずみ速度が大きくなる周波数を測定することにより配管の厚さを算出することができる。
【0038】
すなわち、予め入射した超音波の周波数と、その際に光ファイバセンサ3で測定されたレーザ光の波長のずれ(シフト量)との関係を求めておけば、逆に波長のずれ(シフト量)から配管中で共振周波数が求まる。そして、この共振周波数から(式2)に基づいて配管厚さを求めることができる。
[数2]
=v/m(2×t) ……(式2)
v;配管材料内での超音波音速
t;配管厚さ
m;入射と逆面での反射回数
【0039】
一方、別の測定方法として、超音波の共鳴現象を利用する方法がある。すなわち、配管内に生じた超音波のn次の共鳴周波数をfとすれば、以下の(式3)が成立する。
[数3]
=n×v/(2×t)
n;n次の共鳴周波数 ……(式3)
【0040】
図7は、代表例として、炭素鋼中の縦波(5.7×10m/s)および炭素鋼の横波(3.1×10m/s)の1次の共鳴周波数と炭素鋼厚さとの関係を示している。この図7に示す関係を利用すれば、共鳴周波数を測定することにより炭素鋼で製作された配管10の厚さtを測定できる。
【0041】
図8は、配管10の厚さ分布の測定方法を模式的に示した斜視図である。配管10には複数の光ファイバセンサ3が湾曲形状(渦巻き状)に巻回された状態で貼り付けられ固定されている。このように配置した複数の光ファイバセンサ3,3−−を用い、超音波入射位置を変えながら、その入射位置での材料の厚さを測定することにより配管10の厚さ分布が測定される。また、超音波の入射位置を固定して測定すれば、各部位の厚さの確率分布が出る。その中で確率が大きな値を用いることにより厚さ分布を求めることができる。具体的に図8に示す配管10の表面に例示した等厚さ分布線に示すように、配管10の厚さ分布が効率的に得られる。
【0042】
<実施例の作用>
上記本実施例に係る材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法の作用について、添付図9〜図11を参照して説明する。
【0043】
図9は、図2〜図5に示す材料厚さモニタリングシステムにおいて、配管10中へ超音波を入射させる超音波発振装置4の作用を示し、コイル16に印加する電圧の周波数fvと入射超音波の周波数fuとの関係を示すグラフである。上記システムの超音波発振装置4は、前記した図2に示すように、鉄心15にコイル16を巻回した後に鉄心上部に磁石17を備えた電磁超音波発生装置であり、上記コイル16はファンクションジェネレータ19に接続されている。図9は、ファンクションジェネレータ19の電圧周波数fを変化させた時の材料(配管10)中に入射される超音波の周波数fとの関係を示したものである。この両者の関係線図より、fとfとには1次比例的な対応関係があり、コイル16に印加する電圧の周波数fを変化させることにより共振周波数を得ることが可能である。すなわち、材料中に入射させる超音波の波長を連続的に変え、半波長の整数倍が板厚に等しいときに入射波と反射波とが共振して定常波を生ずることを利用して板厚の測定あるいは共振の強さから腐食の程度をプラント操業中であっても容易に把握することができる。
【0044】
図10は、材料(例えば炭素鋼配管)10中に超音波パルスを入射させた時に、光ファイバセンサ3で得られる信号の一例を示すグラフである。すなわち、材料中に入射された超音波パルスは配管底面(裏面)で反射し、その後に配管表面で反射と、裏面と表面での反射を繰返す。このとき配管表面に貼付けられた光ファイバセンサ3では表面に反射してきた超音波によってひずみ速度が大きくなるために、ある周期で大きくなる傾向を示す。すなわち、この周期が、超音波が配管表面から底面にさらには底面から表面に到達する時間に対応する。したがって、超音波の音速が判明すれば、この周期から配管厚さが算出できる。
【0045】
図11は、ファンクションジェネレータ19の電圧周波数fを変化させることにより配管10に入射される超音波の周波数fを変化させた場合のひずみ速度を示したグラフである。この図11から、定期的にひずみ速度が大きくなる現象を示しており、このひずみ速度の定期的な増大は配管において共鳴現象が起こっていることに起因するものであり、ピーク位置に対応する周波数が共鳴周波数と言える。そして、図7において詳述したように、この共鳴周波数と配管厚さとは一定の相関関係で対応するために、上記共鳴周波数を測定することにより配管厚さを容易に算出することができる。なお、超音波発振装置として、電磁石を用いたEMAT(Electro Magnetic Acoustic Transducer)を用いた例で説明したが、これに限らず圧電素子を用いても良い。要するに、発生する超音波の周波数を電気信号によって制御でき、かつ被測定物に容易に超音波を伝播できる限りにおいては、その形式にこだわらない。
【0046】
以上、本発明の材料厚さモニタリング装置の説明では、主に炭素鋼で製作された配管を例にとり説明してきたが、前述の(式2)における材料内での超音波の音速が判明すれば、材料には依存しない。また、厚さの測定においては、配管に限らず単なる板状の部材でも良い。
【0047】
<実施例の効果>
本実施例に係る材料厚さモニタリングシステムおよび材料厚さ測定方法によれば、以下に列記するような実用上の作用効果が発揮される。
(1)厚さ測定の対象となる配管10表面に貼り付けた各光ファイバセンサ3の表面には、耐熱性および耐食性に優れた金コーティング層が形成され、かつ配管10が炭素鋼であればNiCr系鋼材で配管10表面に溶射で貼り付けられているために、システム要部は優れた耐熱性を有しており600℃程度までの高温状態での配管厚さの測定が可能となる。
(2)この高温状態での配管厚さの測定操作を繰返すことにより、原子力発電プラント、火力発電プラントなどが運転中であっても、配管などの機器構成部材の厚さのモニタリングを長期間にわたって継続的に実施することが可能になる。
(3)プラント稼働中であっても上記継続的なモニタリングが可能であるために、配管等の機器構成部材の健全性が確保できるとともに、安全で無駄が無く機器構成部材の補修や交換時期が容易に特定できる。
(4)配管等の材料表面に貼付けた光ファイバセンサを透過する光のひずみ速度が定期的に大きくなるという現象を利用し、配管等の材料厚さを容易に算出することができる。 (5)配管等の材料表面に多数の光ファイバを貼付けたり、配管等の材料内への超音波入射位置を変えながら測定を繰り返すことにより、配管の厚さ分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る材料厚さモニタリングシステムの一実施例の構成を示すブロック図。
【図2】本発明に係る材料厚さモニタリングシステムを蒸気タービン発電プラントの高温配管の厚さ測定に適用した場合の高温配管厚さモニタリングシステムの構成例を示すブロック図。
【図3】高温配管厚さモニタリングシステムにおいて、光ファイバセンサの取り付け状態を示す平面図。
【図4】光ファイバセンサの断面構成を示す断面図であり、図3におけるIV−IV矢視断面図。
【図5】渦巻き状に巻回した光ファイバセンサを配管表面に固定する構造を示す断面図であり、図3におけるV−V矢視断面図。
【図6】渦巻き状に巻回した状態で材料表面に取り付けた光ファイバセンサを透過した光の波長変化を示すグラフ。
【図7】炭素鋼中を伝播する縦波および横波の1次の共鳴周波数と炭素鋼厚さとの関係を示すグラフ。
【図8】炭素鋼配管の厚さ分布の測定方法を模式的に示す斜視図。
【図9】材料厚さモニタリングシステムの超音波発振装置において、コイルに印加する電圧の周波数fvと材料中へ入射する超音波の周波数fuとの関係を示すグラフ。
【図10】材料中に超音波パルスを入射した場合における光ファイバセンサで得られた信号の一例を示すグラフ。
【図11】ファンクションジェネレータの電圧周波数fを変化させることにより配管に入射される超音波の周波数fを変化させた場合のひずみ速度を示すグラフ。
【符号の説明】
【0049】
1 厚さ測定対象材料
2 光源
3 光ファイバセンサ
4 超音波発振装置
5 光電変換装置
6 増幅器
7 演算装置
7a データベース
8 出力装置
9 制御用計算機
10 配管(厚さ測定対象材料)
11 コア部
12 石英線
13 金(Au)コーティング層
14 NiCr系鋼コーティング層
15 鉄心
16 コイル
17 磁石
18 接触媒体
19 ファンクションジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さの測定対象となる材料表面に貼着された光ファイバセンサと、この光ファイバセンサ中に光を供給するための光源と、上記光ファイバセンサの近傍に配置され上記材料中に超音波を入射させる超音波発振装置と、上記超音波の反射波を検出することによって波長が変化した光であって光ファイバセンサを透過した光と供給した際の光の波長とのシフト量を電気信号に変換するための光電変換装置と、この電気信号を増幅する増幅器と、その増幅された電気信号から材料厚さを算出するための演算装置と、予め求められた光ファイバセンサ内での波長のシフト量と入射された超音波の周波数との関係および各種材料内における超音波速度のデータが格納されたデータベースと、材料厚さの算出結果を出力する出力装置と、上記全ての機器を制御する制御用計算機とを備えることを特徴とする材料厚さモニタリングシステム。
【請求項2】
前記材料中に超音波を入射させる超音波発信装置として、入射させる超音波の周波数が可変である周波数可変型超音波発振装置を用いることを特徴とする請求項1記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項3】
前記周波数可変型超音波発振装置として、厚さ測定対象となる材料表面に、コイルを巻回した鉄心を立設し、そのコイルに所定の周波数の電圧を印加することにより電磁超音波を発生させる電磁超音波発振装置を用いることを特徴とする請求項2記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項4】
前記周波数可変型超音波発振装置として、圧電素子に電圧を印加して振動(機械エネルギー)に変換することにより所定周波数の超音波を発生させる圧電素子超音波発振装置を用いることを特徴とする請求項2記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項5】
前記超音波発振装置が10kHzから100MHzの周波数領域の超音波を前記材料中に入射させることを特徴とする請求項1記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項6】
前記材料表面に貼着された光ファイバセンサが、渦巻き状に巻回した状態で材料表面に貼着されていることを特徴とする請求項1記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項7】
前記材料厚さを測定する対象材料において、超音波の発振源とその超音波を検出する光ファイバセンサとを上記材料の同一表面側に設けたことを特徴とする請求項6記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項8】
前記材料厚さを測定する対象材料において、超音波の発振源を材料の表面側に配設する一方、その超音波を検出する光ファイバセンサを材料の裏面側に配設したことを特徴とする請求項6記載の材料厚さモニタリングシステム。
【請求項9】
厚さの測定対象となる材料中に超音波を入射させる一方、超音波の入射点近傍に配置した光ファイバセンサに所定波長の光波を入射させ、上記超音波の反射波によって波長が変化した光波を光ファイバセンサにより検出し、その波長変化から動的なひずみ変化に変換し、そのひずみ変化の速度から材料厚さを算出することを特徴とする材料厚さの測定方法。
【請求項10】
前記材料中にパルス状の超音波を入射させた際、材料の裏面からの反射波により定期的に超音波が大きくなる現象を利用し、その超音波ピークの時間間隔から材料厚さを求めることを特徴とする請求項9記載の材料厚さの測定方法。
【請求項11】
前記材料中に入射させる超音波の周波数を連続的に変化させた際に、入射波と反射波とが共鳴する特定周波数から材料厚さを求めることを特徴とする請求項9記載の材料厚さの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−261806(P2008−261806A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106329(P2007−106329)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】