説明

校正用標準部材及びその作製方法、並びにそれを用いた電子ビーム装置

【課題】電子ビーム装置における倍率校正を精度良く行うために校正位置の特定が容易な校正用標準部材及びそれを用いた電子ビーム装置を提供する。
【解決手段】装置校正用標準部材の超格子パターン近傍に、校正位置を特定するためのマークもしくは標識を形成することで、校正位置の特定が可能な高精度測長校正が実現できる。異なる材料4、5が交互に積層された積層構造の超格子パターンの断面を有する基板1に、電子ビーム装置から放出される一次電子ビーム11を照射して検出される二次荷電粒子の信号をもとに前記電子ビーム装置の倍率校正を行う校正用標準部材において、前記基板は、前記積層に並行した基板面上にあって前記超格子パターン断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された線状パターン3を有し、該線状パターン3の断面は前記超格子断面と略同一の平面内にあるよう構成して、前記線状パターンにより前記超格子パターンの位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム装置の寸法校正技術に係り、特に、半導体集積回路などの製造プロセスに用いられる高精度な電子ビーム測長装置等の電子ビーム装置における校正用標準部材及びそれを用いた電子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子は微細化が益々進んでおり,より高精度な寸法管理が必要となる。そこで、半導体製造の現場では走査電子顕微鏡を基にした電子ビーム測長装置を用いた寸法管理が行われている。この寸法管理の計測精度は、走査電子顕微鏡の倍率校正精度で決定される。
【0003】
しかし,半導体素子の微細化に対応してより高倍率での計測を行うと、走査電子顕微鏡の視野が狭い領域になるために、倍率校正を行う標準部材のパターンも半導体パターンと同程度かそれ以上の微細性が要求される。これに対しピッチ寸法100nm以下の微細性を有した校正部材として、「三隅他、2006年度精密工学会春季大会学術講演会論文集、pp.1091」に示されるような超格子試料が提案されている。
【0004】
【非特許文献1】三隅他、2006年度精密工学会春季大会学術講演会論文集、pp.1091
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のような従来技術の超格子試料を電子ビーム装置の倍率校正に用いるには、以下の課題を有する。
【0006】
試料に電子ビームを照射すると、ビーム照射領域の試料表面にコンタミネーション付着が生じパターンが変形する。特に100nm以下の微細性を有した超格子試料では、10万倍以上の高倍率で観察および計測するために、面積あたりのビーム照射量が増大してコンタミネーション付着も多くなる。このため、校正のために一定のビーム照射した領域を何度も用いていると累積照射量に応じて上記パターン変形が大きくなり、基準寸法が変動するために校正精度が劣化する。これに対し校正領域を特定するためには、校正用パターンに位置を特定できるための考慮が必要であるが、上述のような超格子の一次元格子パターンでは直線パターンが断面全域に連続して形成されているために、位置特定の考慮がなされていない。このために、電子ビーム装置の校正において、校正位置をビーム未照射部に特定した高精度校正ができないという課題を有していた。
【0007】
本発明の目的は、電子ビーム装置における倍率校正を精度良く校正するために校正位置の特定が容易な校正用標準部材を提供し、それを用いた電子ビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、校正用標準部材の超格子パターン(多層膜構造パターン)近傍に、校正位置を特定するためのマーク(もしくは標識)を形成することにより、上記課題を解決する。
【0009】
すなわち、異なる材料が交互に積層された多層膜構造の超格子パターンの断面を有する基板にあって、上記積層に並行した基板面上に、上記超格子パターン断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された線状パターンを備え、該線状パターンの断面が上記超格子断面と略同一の平面内にあるよう構成して、上記線状パターンにより上記超格子パターンの位置を特定することを基本構成とする。
【0010】
かかる構成とすることにより、本発明では、一次元方向に直線的に連続した超格子パターン位置を容易に特定できるので、校正すべき電子ビーム装置のステージおよびビーム偏向精度によらず確実な位置決めが可能となる。また、使用回数を管理して所望の超格子パターン領域を用いた校正が可能となった。さらに、校正すべき電子ビーム測長装置の位置決め精度によらず上記校正が可能となる。
【0011】
また、電子ビーム装置用の標準部材としては、形成されるマークは、電子ビーム照射による二次荷電粒子(2次電子、反射電子など)像上で十分なコントラストが得られるものである必要がある。
【0012】
そのため、本発明の校正位置特定用マークパターンでは、材料にアルミニウム(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)などの金属材料、特に重金属を用いることにより、帯電が無くかつ超格子基板に対してコントラストの高い二次電子信号が得られるのでマーク検出精度が高くなる。
【0013】
また、本発明の校正位置特定用マークは、例えば、パターン単位の位置座標に相当するような個数、形状を変えたマーク等が考えられる。
【0014】
また、超格子パターン近傍にマークを形成する場合、超格子断面形成後の基板にイオンビーム等のエッチングによりマークを食刻する方法が考えられるが、この工程で校正用の超格子パターンにエッチングした残存物等が付着するためにパターン変形の危険性がある。このために、本発明の校正用標準部材の作製方法によれば、校正位置特定用マークパターンの形成は、断面形成前の工程で作り込んで置くことが望まれる。
【0015】
また、本発明の校正用標準部材の作製方法によれば、積層の表面に基板の断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された線状パターンによりマークを作るので、どの断面を作ってもその断面に上記線状パターンが交差していれば、超格子試料の積層断面に所望のマークパターンが容易に形成できる。また、各マークはその本数を変えたり大きさや断面形状を変えたりして隣接間で異なったマークパターンを形成できる。さらに、これらのマークを用いてイオンビームを用いた試料切り出し工程により上記断面の切り出し位置を高精度に調整することが可能である。
【0016】
さらに、上記積層の表面に断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された線状パターンが光学的な計測手段でそのピッチ寸法が求められていれば、超格子の積層間隔とは垂直方向の寸法校正が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、校正に用いる超格子パターン位置の選定が容易かつ高精度な校正用標準部材を実現し、さらに、それを用いた電子ビーム装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。
【0019】
(実施例1)
本実施例では、電子ビーム装置として、電子ビーム測長装置(CD−SEM、あるいは測長SEM)に用いられる校正用標準部材の構成例と、当該標準部材を実際に電子ビーム測長装置で使用する場合の実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施例の校正用標準部材の外観図であり、図2は、図1に示す校正用標準部材の電子ビーム走査面側からみた上面図を示す。
【0021】
図1、2に示される校正用標準部材は、矩形状のシリコンウエハからなる基板1上に、校正用超格子多層膜形成領域2、校正位置特定用マーク3が形成された構造を有する。校正位置特定用マーク3は、校正用超格子多層膜形成領域2の基板表面に形成されている。なお、図中の矢印は、校正時の一次電子ビームの走査方向を示す。
【0022】
校正用超格子多層膜形成領域2では、各々厚さ12.5nmのモリブデン(Mo)層4とシリコン(Si)層5とが、交互にピッチ間隔25nmで40回繰り返して積層され、その表面にはシリコンカーバイト(SiC)層6が15nm積層されている。この積層のうちSi層5は、材料選択エッチングにより深さ50nmまでエッチングされている。本試料のMo層4とSi層5のピッチ間隔はX線回折法で求めた25.01nmが絶対ピッチ寸法として得られている。
【0023】
積層表面には、校正位置特定用マーク3としてタングステンマークが奥行き方向に長さ1mmで幅50nm、高さ50nmの矩形断面としてピッチ間隔200nmで10000回繰り返し配置されている。この校正位置特定用マーク3の矩形断面ピッチ間隔は極紫外光による回折法で求めた200.09nmが絶対ピッチ寸法として得られている。
【0024】
次に、本実施例の校正用標準部材を用いて電子ビーム測長装置(CD−SEM)の校正を行う方法について説明する。
【0025】
図3には、本実施例の校正用標準部材が使用されるCD−SEMの全体構成を、また、図4は、試料台上での校正用標準部材の載置位置と、被測長試料の載置位置および一次電子ビームの照射位置との関係について示す模式図である。
【0026】
図3に示す電子ビーム測長装置は、電子顕微鏡鏡筒100、SEM制御部101、情報処理装置102等により構成される。電子顕微鏡鏡筒100は、一次電子ビーム11を放出する電子銃10、一次電子ビーム11を被測長試料上で走査するための走査偏向器12、被測長試料上における電子ビームのフォーカスを調整するためのレンズ18、19、一次電子ビーム11の照射により発生する2次電子または反射電子15を検出するための二次電子検出器16等を備える。
【0027】
SEM制御部101は、1次電子線の走査偏向を制御するビーム偏向制御部、二次電子検出器からの出力信号を処理する二次電子信号処理部、被測長試料14または校正用標準部材17が載置されるステージ13の移動を制御するステージ制御部などにより構成される。
【0028】
情報処理装置102は、SEM制御部101から入力される各情報ないし制御信号から得られる信号波形表示部とその波形から寸法を計算する寸法演算部、装置の校正係数と校正に用いた標準部材の位置や欠陥および使用回数を記憶する校正値・校正位置記憶部、これらの校正係数から実寸法を計算する寸法校正演算部、得られた実寸法を表示する寸法表示部および二次電子または反射電子像を解析・表示する画像演算・表示部からなる。
【0029】
なお、電子ビーム測長装置の構成要素としては、図3では図示されていない他の必須構成要素も含む。
【0030】
また、本例では、図4に示す通り、アルミニウム製のホルダー7に搭載した校正用標準部材17と被測長試料14とは同じステージ13上に載置されている。
【0031】
図5には、測長データ校正時のCD−SEMの動作フローについて示した。図5のフローは、標準部材を用いた測長データの校正係数決定フロー(1)(ステップ50、51、52、53)と、測長データの取得・校正フロー(2)(ステップ54、55)とに大別される。
【0032】
まず、ステージ駆動により、校正用標準部材17を1次電子ビームの照射位置に移動し、図2に示す校正用超格子多層膜形成領域2および校正位置特定用マーク3が含まれる程度の倍率で、所定領域が、図1の矢印で示すように一次電子ビーム11により走査される。得られた画素情報は、画像演算・表示部により解析され、一次電子ビームの光軸上に存在する校正用超格子多層膜形成領域2に対応する位置座標標識が同定される。ステージ制御の際には、標準部材の座標系とステージ制御の座標系との間で適当な原点合わせが実行され、校正用標準部材17の座標系での座標情報が、ステージ制御の座標系における座標情報に変換される。座標変換のための原点合わせは、適当な頻度、例えば、校正用標準部材17を載置したステージ13を真空容器内に搬入・搬出する毎に実行される。
【0033】
また、校正値・校正位置記憶部には、各位置座標に対応する校正用超格子多層膜形成領域2の使用頻度情報と使用回数の閾値が格納される。更に、同じ校正値・校正位置記憶部には、各位置座標標識に対応する校正用超格子多層膜形成領域2が欠陥を含むか含まないかの情報が格納される。
【0034】
同定された校正用超格子多層膜形成領域2は、校正値・校正位置記憶部の校正履歴・欠陥位置情報と照らし合わされ、欠陥が存在しないか、規定の使用回数を超えていないか等の項目がチェックされる。チェック項目、例えば、使用回数の閾値や使用しない超格子多層膜形成領域などの情報は情報処理装置102にて設定される。同定された超格子多層膜形成領域がチェック項目を満たしていれば、現在の超格子多層膜形成領域を使用して校正係数の取得フローが実行される。満たしていない場合には、別の適当な超格子多層膜形成領域が選択される。
【0035】
例えば、最初のステージ移動で一次電子ビームの光軸上に移動した校正位置特定用マーク3および校正用超格子多層膜形成領域2の位置座標認識がされ、画像演算・表示部および校正値・校正位置記憶部によるチェックの結果、この位置座標に対応する校正用超格子多層膜形成領域は、欠陥は無いが過去に10回ほどビーム照射によるピッチ測定を行っていることがわかった。そこで、画像演算・表示部および校正値・校正位置記憶部に格納された情報を参照して、チェック項目を満たす校正用超格子多層膜形成領域で最も近い校正用超格子多層膜形成領域の位置座標を算出する。更に、画像演算・表示部は、当該算出された校正用超格子多層膜形成領域にビーム照射位置を移動するためのステージ移動量またはビーム偏向量を計算し、SEM制御部101に伝達する。SEM制御部101は、伝達された情報に基づき、ステージ駆動装置あるいは走査偏向器12を制御し、使用すべき校正用超格子多層膜形成領域を一次電子ビームの走査範囲内に移動する(ステップ50)。
【0036】
使用する校正用超格子多層膜形成領域の移動が終了すると、倍率を高倍(図1、図2に示す校正用超格子多層膜形成領域2が視野全域に広がる程度の倍率)に切替え、校正用超格子多層膜形成領域を実際にビーム走査する。ビーム走査に際しては、電子顕微鏡鏡筒100のフォーカス調整を行う。フォーカス調整は、電子顕微鏡鏡筒100に備えられた電子光学系レンズ18、19の調節により行う。本実施例では、校正用超格子多層膜形成領域への不要なビーム照射をなるべく低減するために、校正位置特定用マーク3を用いてフォーカス合わせを行っている。ただし、校正用超格子多層膜形成領域に一次電子ビームを照射してフォーカス合わせを行うことももちろん可能である。
【0037】
フォーカス調整終了後は、所定の領域をビーム走査し、得られた二次電子信号波形を信号処理して、寸法演算部により校正用超格子多層膜形成領域のピッチ寸法を求める(ステップ51)。
【0038】
校正値・校正位置記憶部には、X線回折法で求めた絶対ピッチ寸法25.01nmが格納されており、寸法校正演算部は、寸法演算部で計算されたピッチ寸法と校正記憶部に格納されている絶対ピッチ寸法とを比較して校正係数を算出する(ステップ52)。
【0039】
求めた校正係数は、校正値・校正位置記憶部に記憶される。また、校正に用いた校正用超格子多層膜形成領域の位置座標と、当該超格子多層膜形成領域の使用回数を校正値・校正位置記憶部に記憶する。また、校正係数が正常に取得されたことを表示部に表示する(ステップ53)。
【0040】
なお、ビーム走査した領域内で異物や欠陥が見つかった場合には、当該超格子多層膜形成領域に対応する座標を校正値・校正位置記憶部に記憶し、フローの最初に戻って、適当な超格子多層膜形成領域の選択動作を実行する。
【0041】
次に、図5の(2)のフローについて説明する。上記(1)のフローが正常終了すると、ステージ13を移動して、一次電子ビーム11の照射位置にウェーハ14上の所望のパターン上が移動するようにする。発生する2次電子15は、二次電子検出器16により検出され、二次電子信号として情報処理装置102に入力される。画像演算・表示部では、入力された二次電子信号から測長パターンのエッジ点の位置情報を抽出して寸法演算部に伝送する。寸法演算部は、得られたエッジ点の位置情報からパターン寸法を計算して寸法校正演算部に伝送する(ステップ54)。
【0042】
寸法校正演算部は、上記フロー(1)で得られた校正係数を用いて測長値を補正する。更に、補正後の測長値を表示部114に出力して表示させる(ステップ55)。
【0043】
本実施例の校正部材を用いて測長値の補正を行った結果、パターン寸法50nmに対して0.2nm以下の測長精度が実現できた。
【0044】
なお、以上の図5の説明において、上記フロー(1)、(2)は、装置ユーザの要求に応じて、装置がフローを自動実行するものとして説明したが、フローに含まれる各ステップを、装置ユーザがマニュアル操作で実行することも可能である。その場合であっても、超格子多層膜形成領域毎に校正位置特定用マーク3が付与されているので、従来技術に比べて超格子多層膜形成領域2の位置座標の特定は容易であり、ステージ位置制御の精度によらず正確な校正が実現される。
【0045】
また、以上の説明では、超格子多層膜形成領域へのコンタミネーション確率低減のため、一次電子ビームのフォーカス調整を校正位置特定用マーク上で行ったが、逆に、同じ校正位置特定用マークに該当する超格子多層膜形成領域を常に使用するようにレシピを設定しても良い。同じ位置の超格子多層膜形成領域を使用して、実測されるピッチ寸法の変化をモニタすることにより、コンタミネーションの経時変化が監視できる。その場合は、図4に示される校正値・校正位置記憶部内のメモリに、パターン寸法の実測値と特定超格子多層膜形成領域の使用回数を対にして格納する機能ブロックが設けられる。
【0046】
更に、複数の電子ビーム測長装置に対して、同じ校正位置特定用マークの超格子多層膜形成領域を使用して校正を行うことで、同じ基準により装置間の校正を行うことができるようになり、複数装置間の測長性能の差(すなわち機差)を従来よりも正確に把握できるようになる。
【0047】
しかしながら、電子ビーム測長装置では、SEM視野内で、常に同じ向きのラインパターンのみを測長する訳ではなく、ラインの長手方向がX方向の試料もY方向の試料も両方測長する可能性がある。上記例では超格子多層膜形成領域2の層間ピッチ寸法を用いて装置校正を行ったが、同様の手法で校正位置特定用マーク3のパターン間ピッチ寸法を用いて装置校正が可能である。すなわち、所定の複数の校正位置特定用マーク3の領域をビーム走査し、得られた二次電子信号波形を信号処理して、寸法演算部により校正位置特定用マーク3のパターン間ピッチ寸法を求める。校正値・校正位置記憶部には、極紫外光による回折法で求めた200.09nmが絶対ピッチ寸法として格納されており、寸法校正演算部は、寸法演算部で計算されたピッチ寸法と校正値・校正位置記憶部に格納されている絶対ピッチ寸法とを比較して校正係数を算出する。求めた校正係数は、校正値・校正位置記憶部に記憶される。また、校正に用いた校正位置特定用マーク領域の位置座標標識と、当該校正位置特定用マーク領域の使用回数を校正値・校正位置記憶部に記憶する。また、校正係数が正常に取得されたことを画像演算・表示部や寸法表示部に表示する。
【0048】
なお、ビーム走査した領域内で異物や欠陥が見つかった場合には、当該当該校正位置特定用マーク3領域に対応する位置座標を校正値・校正位置記憶部に記憶し、フローの最初に戻って、適当な校正位置特定用マーク3領域の選択動作を実行する。
【0049】
この結果、超格子多層膜形成領域の層間ピッチ寸法に対して垂直方向の測長校正も0.5nm以下の測長精度で達成できた。
【0050】
以上、本実施例の校正用標準部材と電子ビーム測長装置を使用することにより、超格子多層膜形成領域の選定および確認が容易、かつコンタミネーションによる寸法変動や格子の欠陥の影響を受けることなく常に安定した校正が可能な測長システム、測長方法及び校正用標準部材が実現される。なお、本実施例では校正用標準部材を電子ビーム測長装置に適用した例について説明したが、汎用SEMや検査SEMなど、走査電子顕微鏡応用装置一般にも適用できることは言うまでもない。
【0051】
(実施例2)
本実施例では、図1に示した本発明の校正位置特定用マーク付き標準部材の作製方法について、図6、7、8により説明する。図6の(a)は、校正位置特定用マークパターン付き校正用超格子積層ウェーハの上面全図、(b)は、そのA−A’断面図を示す。図7は、本発明の校正用標準部材の作製プロセス工程における断面図であり、図8は、校正用標準部材の作製プロセスフローを示す。
【0052】
まず、図6および図7に示す4インチSiウェーハの基板1表面に、校正用超格子多層膜形成領域2が、図1に示すように各々厚さ12.5nmのMo層4とSi層5が、交互にピッチ間隔25nmで40回繰り返して積層され、その表面にはSiC層6が15nm積層されて、超格子積層基板27として形成される(図8、ステップ60)。
【0053】
この積層基板27の積層ピッチ間隔を、X線回折装置により求める(図8、ステップ61)。
【0054】
さらに、この超格子積層基板27の表面に、厚さ50nmのタングステン薄膜22をスパッタ法で形成する(図8、ステップ62)。
【0055】
このタングステン薄膜にレジスト膜を回転塗布機で塗布した後に、電子ビーム露光および現像により、長さ1mmで幅50nm、高さ100nmの直線状レジストパターン23を、ピッチ間隔200nmで10000回繰り返し形成する。同時に、同じ電子ビーム露光および現像により上記直線状レジストパターン群の周囲に長さ0.6mmで幅0.2mm、高さ100nmのアライメント用十字マークレジストパターンを形成した(図8、ステップ63)。
【0056】
これらのレジストパターンをマスクとしてドライエッチングにより厚さ50nmのタングステン薄膜をエッチングした後、上記レジストをアッシングにより除去して、長さ1mmで幅50nm、高さ50nmの直線状タングステンパターン24がピッチ間隔200nmで10000回繰り返されたパターン群と、長さ0.6mmで幅0.2mm、高さ50nmのアライメント用十字マークタングステンパターン20を形成した(図8、ステップ64)。
【0057】
その後、光回折装置にて直線状タングステンパターン24のピッチ間隔を求めた(図8、ステップ65)。
【0058】
次に、上記4インチ積層ウェーハ27の上記アライメント用十字マークタングステンパターン20を基準として直線状タングステンパターン24に対して垂直方向に劈開し、さらに直線状タングステンパターン24に対して平行方向に劈開し、図7に黒線で示す領域21を切り出す(図8、ステップ66)。
【0059】
この際に切り出し位置の確認には光学顕微鏡を用いたが、直線状タングステンパターン24およびアライメント用十字マークタングステンパターン20はともに金属製であるので、図1の表面SiC層6に対して高コントラストの光学顕微鏡像が得られ容易に位置決めが可能であった。切り出し位置の精度は約1mmであった。
【0060】
上記劈開した校正位置特定用マーク付き標準部材試料をTMAH(トリメチルアンモニウムハイドライド)等のアルカリ水溶液でSi層を深さ50nmまでエッチングして、図1の様な断面構造の本発明の校正位置特定用マーク付き標準部材17が得られる(図8、ステップ67)。本部材をアルミニウム製のホルダー7に搭載(あるいは接着)して標準部材が完成し(図8、ステップ68)、電子ビーム装置のステージ13上に搭載して校正を行う。
【0061】
上記の試料切り出しで劈開法よりも切り出し場所の特定と直線性の良い切り出し法として、収束イオンビームにより切り出しが有効である。
【0062】
この場合には、図9に示すように、切り出し領域を収束イオンビーム26で走査してその二次イオン像により直線状タングステンパターン24およびアライメント用十字マークタングステンパターン20を確認する。この場合、上記パターンはいずれも導電性でかつ重金属で形成されているので、表面のSiC層6に対して高コントラストの二次イオン像が得られ容易に切り出し位置決めが可能であった。
【0063】
このアライメント用十字マークタングステンパターン20の二次イオン像を基準に、収束イオンビーム26を、図9の点線部25に示すように直線状タングステンパターン24に対して垂直方向および平行方向に偏向走査して点線部25の切り出し領域を切り取る。切り出した後の処理は、上記プロセスと同様である。本方法による切り出し位置精度は10μm以下であった。
【0064】
上記の例ではマーク材料としてタングステンを例にしたが、このほかにアルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)などの金属材料を用いても同様の効果が得られる。
【0065】
(実施例3)
本実施例では、実施例1で説明した校正用標準部材の、別の校正位置特定用マークの例について説明する。
【0066】
実施例1の校正用標準部材の校正用超格子多層膜形成領域2では、図1、図2のように、各々厚さ12.5nmのMo層とSi層が、交互にピッチ間隔25nmで40回繰り返して積層されている。この積層のうちSi層は、材料選択エッチングにより深さ50nmまでエッチングされている。本試料のMo層とSi層のピッチ間隔は、X線回折法で求めた25.01nmが絶対ピッチ寸法として得られている。積層表面には、校正位置特定用マーク3が奥行き方向に長さ1mmで幅50nm、高さ50nmの矩形断面としてピッチ間隔200nmで10000回繰り返し配置されている。
【0067】
この校正用標準部材を電子ビーム測長装置で校正に用いる場合には、校正位置を特定する倍率により上記校正位置特定用マーク7がその視野に複数含まれる場合が生じる。例えば、校正位置を特定する倍率での視野が400nm角以内の場合には、視野内に校正位置特定用マークが1つしか見えないので校正位置特定用マークが同じ形で繰り返し配置されていても実施例1に示す校正が可能である。これに対し校正位置を特定する倍率での視野が400nm角以上の場合には、視野内に校正位置特定用マークが2つ以上見えるので校正位置特定用マークが同じ形で繰り返し配置されていると、どちらのマークが所望の位置座標のものであるか判別が困難となる。この場合には、判別の基準がステージの位置精度に依存しまう。すなわち、ステージ位置精度200nm程度より悪い精度の装置では上記マークの判別ができない。
【0068】
かかる問題を解決するためには、マーク間の間隔を校正位置特定倍率での視野範囲以上に設計する方法がある。反面、マーク間の間隔を広くするとマーク箇所の総数が少なくなり校正使用箇所が減少するという課題や、最初に目標位置に移動した際にマークが見つからず再移動を繰り返し位置特定に時間がかかるなどの課題がある。このように、図1の同じ形で繰り返し配置されている校正位置特定用マークでは校正位置を特定する倍率や装置のステージ精度によりマーク設計に制限が生じる。
【0069】
これらの課題を解決するために、図10に示すような断面形状のマークを作製した。図10に示すように積層表面には、校正位置特定用マークとして奥行き方向に長さ1mmで高さ50nmの矩形断面でピッチ間隔200nm、幅25nmの矩形断面28が1本から3本まで順に本数が増え、さらに、幅幅25nmの矩形断面28と幅35nmの矩形断面29との組み合わせで、6種類以上の本数や横幅の異なる種類のマークが、1000回繰り返し配置されている。
【0070】
この結果、マーク配列では1.2μm以内には同じ形状のマークは見られないので校正位置を特定する倍率や装置のステージ精度による制限は大きく緩和される。
【0071】
同様に、図11に示すように、積層表面の断面形状を変えることによっても同様の効果が得られる。その形状の詳細について説明する。積層表面には、校正位置特定用マーク30、31が、奥行き方向に長さ1mmで高さ25nmの矩形断面として、ピッチ間隔200nmで幅0nmから50nmの矩形断面が2層重ねて作製されている。下層30の横幅が50nmで、上層31の横幅が25nmで、上層の位置が下層に対して右端、中央、左端で断面形状として3種類、上層の横幅が0nm、50nmと合わせて5種類以上の断面形状の異なる種類のマーク30、31が形成できる。さらに、横幅の種類を増やせばマーク形状の種類は容易に増やすことが可能である。
【0072】
以上のように、本発明によれば、校正位置を示す特定マークを超格子近傍に配置させることにより、校正に用いる超格子位置の確認が容易になる。また、校正位置を示す特定マークが光学的回折法によってその絶対ピッチ寸法が与えられることにより、超格子ピッチ方向に対して垂直な方向の寸法校正も同時に達成可能となる。また、校正位置を示す特定マークを金属製とすることで、電子ビーム装置でのマーク検出および試料切り出しの際の切り出し位置特定のマーク検出が容易に行える。
【0073】
このように校正位置を示す特定マークを超格子に隣接して配置できるので高精度な校正が可能となり、次世代半導体加工に対応した高精度測長が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の一実施例の校正用標準部材の外観を示す図。
【図2】図1に示した校正用標準部材の走査面側からみた上面図。
【図3】本発明の校正用標準部材を用いた電子ビーム測長装置を説明する図。
【図4】図3に示した電子ビーム測長装置における試料台付近の模式図。
【図5】本発明による校正方法のフローを示す図。
【図6】本発明の校正位置特定用マーク付き超格子積層ウェーハの上面図(a)と、そのA−A’断面図(b)。
【図7】本発明の校正用標準部材の作製プロセス工程における断面図。
【図8】本発明の校正用標準部材の作製プロセスフローを示す図。
【図9】本発明の校正位置特定用マーク付き超格子積層ウェーハを切り出すプロセスの一例を示す概略図。
【図10】本発明の校正用標準部材の別の構成例を説明する断面図。
【図11】本発明の校正用標準部材のさらに別の構成例を説明する断面図。
【符号の説明】
【0075】
1…基板、2…超格子多層膜形成領域、3、24、28、29、30、31…校正位置特定用マーク、4…Mo層、5…Si層、6…SiC層、7…ホルダー、10…電子銃、11…電子ビーム、12…偏向器、13…試料台ステージ、14…測定ウェーハ、15…2次電子、16…二次電子検出器、17…校正用標準部材、18、19…レンズ、20…アライメント用十字マーク、21、25…切り出し領域、22…タングステン薄膜、23…レジストパターン、26…収束イオンビーム、27…超格子積層ウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる材料が交互に積層された積層構造の超格子パターンの断面を有する基板に、電子ビーム装置から放出される一次電子ビームを照射して検出される二次荷電粒子の信号をもとに前記電子ビーム装置の倍率校正を行う校正用標準部材において、
前記基板は、前記積層に並行した基板面上にあって前記超格子パターン断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された線状パターンを有し、該線状パターンの断面は前記超格子断面と略同一の平面内にあるよう構成して、
前記線状パターンにより前記超格子パターンの位置を特定することを特徴とする校正用標準部材。
【請求項2】
請求項1に記載の校正用標準部材において、前記線状パターンのそれぞれは、少なくとも1本以上の線状パターン群であり、かつ、隣接する前記一定の間隔で配列された線状パターン群間においてその本数が異なる線状パターンであることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項3】
請求項1に記載の校正用標準部材において、前記線状パターンのそれぞれは、少なくとも1本以上の線状パターン群であり、かつ、前記線状パターンが、隣接する線状パターン間においてその断面形状が異なる線状パターンであることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の校正用標準部材において、前記基板が、半導体材料を含み、かつ、前記線状パターンが、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)のうちいずれか一つの金属材料からなることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項5】
請求項1に記載の校正用標準部材において、前記異なる材料の積層構造の積層間ピッチ寸法が、50nm以下であることを特徴とする校正用標準部材。
【請求項6】
シリコン膜とモリブデン膜とが交互に積層された積層構造の超格子パターンの断面を有する基板に、電子ビーム測長装置から放出される一次電子ビームを照射して検出される二次荷電粒子の信号をもとに前記電子ビーム測長装置の倍率校正を行う校正用標準部材において、
前記基板は、前記積層に並行した基板面上にあって前記超格子パターン断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された直線状タングステンパターンを有し、該直線状タングステンパターンの断面は前記超格子断面と略同一の平面内にあるよう構成して、
前記直線状タングステンパターンにより前記超格子パターンの位置を特定することを特徴とする校正用標準部材。
【請求項7】
異なる材料が交互に積層された積層構造の超格子パターンの断面を有する基板を形成する工程と、
前記積層構造の表面に前記超格子パターンの断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列した線状パターンを、リソグラフィ及びエッチング法を用いて形成する工程と、
前記線状パターンの断面が前記超格子パターンの積層断面と略同一の平面内にあるよう形成する工程とを含むことを特徴とする校正用標準部材の作製方法。
【請求項8】
請求項7に記載の校正用標準部材の作製方法において、前記線状パターンの断面を形成する工程が、積層構造の前記基板の璧開による切り出し方法、またはイオンビームを用いた切り出し方法を用いることを特徴とする校正用標準部材の作製方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の校正用標準部材の作製方法において、前記積層構造の基板が、半導体材料を含み、かつ、前記線状パターンが、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)のうちいずれか一つの金属材料からなることを特徴とする校正用標準部材の作製方法。
【請求項10】
請求項8に記載の校正用標準部材の作製方法において、前記線状パターンの形成の際に、前記線状パターンの周囲にアライメント用パターンを、リソグラフィ及びエッチング法により形成する工程を含み、前記アライメント用パターンを基準に前記線状パターンの断面の切り出しを行うようにしたことを特徴とする校正用標準部材の作製方法。
【請求項11】
電子銃より放出された一次電子ビームを、試料ステージ上に搭載された試料に対して照射し走査する照射光学系と、前記一次電子ビーム照射により発生する2次電子もしくは反射電子を検出する検出器と、前記検出器から得られる電子信号を処理することにより前記試料を測長する信号処理手段と、前記2次電子もしくは反射電子強度の情報から、前記照射光学系の倍率校正を行うために用いられる校正用標準部材とを有し、
前記校正用標準部材は、異なる材料が交互に積層された積層構造の超格子パターンの断面を有する基板と、前記積層に並行した基板面上にあって前記超格子パターン断面に対して交差する方向に一定の間隔で配列された線状パターンとを有し、該線状パターンの断面を前記超格子断面と略同一の平面内にあるよう構成して、前記線状パターンにより前記超格子パターンの位置を特定することを特徴とする電子ビーム装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電子ビーム装置において、前記校正用標準部材における前記超格子パターンの積層間のピッチ寸法および一定の間隔で配列された前記線状パターンのピッチ寸法が、X線を含む光学的回折法により求められていることを特徴とする電子ビーム装置。
【請求項13】
請求項11に記載の電子ビーム装置において、前記校正用標準部材は、前記試料ステージに搭載されていることを特徴とする電子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−261689(P2008−261689A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−103780(P2007−103780)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】