説明

核形成密度が高い有機金属化合物

本発明は、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物に関する。本発明はまた、前記核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を生成するのに十分な反応条件下で、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を置換シクロペンタジエン化合物と反応させることを含む核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を製造する方法に関する。本発明は、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物前駆体を分解し、これにより被膜、コーティング又は粉末を製造することにより、被膜、コーティング又は粉末を製造する方法にさらに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を製造する方法、及びこれから被膜又はコーティングを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学蒸着法は、半導体の製造又は加工中に、ウェハ又はその他の表面などの基板上に材料の被膜を形成するために使用される。化学蒸着法では、化学蒸着化合物としても知られている化学蒸着前駆体が、熱的に、化学的に、光化学的に又はプラズマ励起により分解されて、所望の組成を有する薄膜を形成する。例えば、気相化学蒸着前駆体を、前駆体の分解温度を超える温度に加熱された基板と接触させることにより、基板上に金属又は金属酸化物の被膜を形成することができる。
【0003】
化学蒸着前駆体は、化学蒸着条件下で、揮発性、熱分解性及び均質な被膜が生成可能であることが好ましい。化学蒸着法による薄膜の製造では、室温で液体である前駆体は、むしろ固体よりしばしば好ましい。
【0004】
半導体工業では、種々の用途のためにルテニウム金属の薄膜を使用することを現在のところ考慮している。多くの有機金属錯体が、これらの薄膜形成用の潜在的な前駆体として評価されてきた。これらのものとしては、例えば、Ru(CO)12などのカルボニル錯体、Ru(η−C)(CO)、Ru(η−C)(η−C)などのジエン錯体、Ru(DPM)、Ru(OD)などのβ−ジケトネート、及びRuCp、Ru(EtCp)などのルテノセンがある。
【0005】
カルボニル錯体及びジエン錯体は共に、これらの処理を複雑にする低い熱安定性を示す傾向にある。β−ジケトネートは中位の温度で熱的に安定であるが、これらの低い蒸気圧が室温で固体状態であることと結びついて、被膜蒸着において高い成長速度を達成するのを困難にする。
【0006】
ルテノセンは、Ru薄膜蒸着物前駆体としてかなり注目されている。ルテノセンは固体であるが、2つのシクロペンタジエニルリガンドをエチル置換基で官能化すると、元のルテノセンの化学特性を共通する液体の前駆体を得られる。残念ながら、この前駆体による蒸着物は、一般に長いインキュベーション時間及び不十分な核形成密度を示す。
【0007】
米国特許第6605735 B2号には、ルテニウムに結合されたシクロペンタジエニル基及びペンタジエニル基を有する半サンドイッチ型有機金属ルテニウム化合物が開示されている。このシクロペンタジエニル基は、一置換又は非置換であり得る。このペンタジエニル基は、一、二又は三置換であるか非置換であり得る。いくつかの置換型が、特異的に除外されている。この特許には、この発明者らは大量の研究を実施し、ルテノセンの分解温度は、一方のシクロペンタジエニル環を直鎖ペンタジエニルで置き換えることにより低下させることができることを見出したと述べられている。この特許には、シクロペンタジエニル環中に1つの低級アルキル基を導入することにより、半サンドイッチ型有機金属ルテニウム化合物は室温で液体であり、有利な蒸発特性及び分解特性を示すことを見出したと述べられている。これらの化合物は、化学蒸着法によりルテニウム含有薄膜を製造するために使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化学蒸着法により薄膜を形成する方法の開発では、好ましくは室温で液体であり、比較的高い蒸気圧を有し、かつ均質な被膜を形成することができる化学蒸着前駆体に対する必要性がある。したがって、新規の化合物を開発し、被膜蒸着物のための化学蒸着前駆体としての可能性を探索する必要性がある。したがって、核形成密度が高く、高い歩留まりで製造可能な化学蒸着前駆体を提供することは、当技術分野において望ましいことになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一部は、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物に関する。本発明の一部は、また、前記核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を生成するのに十分な反応条件下で、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を置換シクロペンタジエン化合物と反応させることを含む、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物の製造方法に関する。本発明の一部はさらに、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物前駆体を分解し、これにより被膜、コーティング又は粉末を製造することによる、被膜、コーティング又は粉末を製造する方法に関する。高核形成密度は、この前駆体の熱分解により達成することができ、これにより多数部位で結晶成長が開始され、続いて生長することになる。この高核形成密度は、これが被膜をより滑らかにし、蒸着中のインキュベーション時間をより短くするので有利である。
【0010】
本発明は、以下の式で表される核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物
【化1】


[式中、R及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、R、R、R、R、R、及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、水素原子、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキルを表わす]に一部は関する。
【0011】
本発明はまた、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を製造する方法であって、前記核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を生成するのに十分な反応条件下で、次式により表わされるビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を
【化2】


次式により表わされる置換シクロペンタジエン化合物と
【化3】


[式中、R及びRは、同じか又は異なり、それぞれがハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、R、R、R、R、R、及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、水素原子、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキルを表わす]反応させることを含む方法に関する。
【0012】
この核形成密度を増加させる一方法は、前駆体の熱安定性を低下させることである。基板上の前駆体の熱分解が核形成部位を提供し、核形成部位の周囲に、更に、蒸着が進行する。核形成は結晶成長を開始する事象である。核形成密度が高いことは好ましく、これにより基板の単位面積当たりに成長する結晶数が増加する。これにより、薄い厚さで被膜の合一を生じることができる。核形成が増加すると、被膜を薄くすることができる。非合一被膜の特性は、合一被膜と著しく異なり、半導体用途には適していない。これらの半導体用途の最小被膜厚さを減少させると、デバイス性能及びコスト面の優位をもたらすことができる。
【0013】
シクロペンタジエニル環基上に2つの活性化置換基、例えば、1,3−置換型(例えば、1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)が存在すると、米国特許第6605735 B2号に開示されているシクロペンタジエニル環基上の単一置換基、例えば、1−エチルシクロペンタジエニルに対して、環系上の電子密度の増大をもたらすことが見出されている。金属中心における電子密度の増大により、典型的な蒸着条件下で熱安定性のより低い錯体が生じる。
【0014】
金属中心の開放度は、核形成過程にとって重要となり得るので、米国特許第6605735 B2号に開示されている、シクロペンタジエニル環基上の単一のエチル置換基が、金属中心への接近を制限するようにそれ自体が配向し、アゴスチック水素相互作用を介してそれに緩く結合している可能性さえあることを認識することは重要である。シクロペンタジエニル環基上の、本発明による特定の1,3−置換型の2つのメチル置換基は、シクロペンタジエニル基の残りの部分と常に同一の平面内にあり、金属/基板の相互作用が核形成密度の増大の原因であることを考慮すれば、核形成に対する立体的な妨害が少なくなるはずである。
【0015】
本発明はいくつかの利点を有する。例えば、本発明の方法は、様々な化学構造及び物理的性質を有する有機金属ルテニウム化合物前駆体を生成するのに有用である。核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物前駆体から作製された被膜は、短いインキュベーション時間で蒸着することができ、有機金属ルテニウム化合物前駆体から蒸着された被膜は、良好な平滑度を示す。
【0016】
特定の理論に拘わることは望まないが、この挙動に対して2つの説明が可能である。第1は、有機金属ルテニウム化合物前駆体は、ウェハ温度において熱的に不安定であり、この前駆体が熱分解する。第2は、シクロペンタジエニル環の開環によって、立体的に金属中心へ近づきやすくなり、金属/基板の相互作用の改善が可能となる。
【0017】
本発明の好ましい実施形態は、有機金属ルテニウム化合物前駆体は、室温で液体であり得るものである。ある状況では、半導体プロセスの統合の容易さの見込みから固体より液体が好ましいこともある。
【0018】
本発明はさらに、高核形成有機金属化合物を製造する方法であって、金属塩(M”X)化合物、シクロペンタジエニル化合物(Cp)及びリガンド(L”)を、中間体化合物を形成するのに十分な反応条件下で反応させること;並びにこの中間体化合物をペンタジエニド化合物(PD)と、この高核形成有機金属化合物を生成するのに十分な反応条件下で反応させること(ただし、M”はVIII族金属であり、L”は電子対供与体化合物であり、Cpは、二置換又は多置換シクロペンタジエニル化合物であり、PDはペンタジエニド類似塩である)を含む方法に関する。
【0019】
本発明はさらに、高核形成有機金属化合物を製造する方法であって、金属塩(M”X)化合物、ペンタジエニル化合物(PD’)及びリガンド(L”)を、中間体化合物を形成するのに十分な反応条件下で反応させること;並びにこの中間体化合物をシクロペンタジエニド化合物(Cp’)と、この高核形成有機金属化合物を生成するのに十分な反応条件下で反応させること(ただし、M”はVIII族金属、L”は電子対供与体化合物であり、PD’はペンタジエニル化合物であり、Cp’は、二置換又は多置換シクロペンタジエニド類似塩である)を含む方法に関する。
【0020】
本発明の一部は、被膜、コーティング又は粉末を製造する方法にも関する。この方法は、少なくとも1種の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物前駆体を分解するステップと、これにより被膜、コーティング又は粉末を製造するステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上記のように、本発明は、以下の式で示される核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物
【化4】


[式中、R及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、R、R、R、R、R、及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、水素原子、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキルを表わす]に一部は関する。
【0022】
好ましい核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物は、以下の式
【化5】


[式中、R、R、R、R、R、R、R、及びRは、上記に定義された通りである]で示される。より好ましい核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物は、上記最後の式、すなわち、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムにより示される。
【0023】
本発明の範囲内の他の核形成密度が高い有機金属化合物は、式LML’、好ましくはLRuL’[式中、Mは遷移金属であり、Lは、二、三、四、五置換シクロペンタジエニル、インデニル、環状及び非環状アリルから選択することができる置換シクロペンタジエニル基であり、L’は置換若しくは非置換ペンタジエニル基である]により表わすことができる。より好ましくは、Lは、1,3−置換シクロペンタジエニル及び1,3−置換シクロペンタジエニル類似基から選択され、L’は、置換若しくは非置換ペンタジエニル基及び置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基から選択される。1,3−置換シクロペンタジエニル類似部分の例としては、当技術分野で既知の、シクロオレフィン、例えば、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル環、複素環、置換ベンゼニルなどの芳香環、その他がある。置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基の例としては、当技術分野で既知の、直鎖オレフィン基、例えば、ヘキサジエニル、ヘプタジエニル、オクタジエニル、その他がある。これらの他の核形成密度が高い有機金属化合物の合成は、米国特許第6605735 B2号に記載されたものなどの従来の方法により、又は本明細書に記載の方法により実施することができる。
【0024】
本発明の範囲内のさらに他の核形成密度が高い有機金属化合物は、式(L)M’L’又はLM’(L’)[式中、M’はランタニドであり、Lは、同じか又は異なり、二、三、四、五置換のシクロペンタジエニル、インデニル、環状及び非環状アリルから選択することができる置換シクロペンタジエニル基であり、L’は、同じか又は異なり、置換若しくは非置換ペンタジエニル基である]により表わすことができる。より好ましくは、Lは、1,3−置換シクロペンタジエニル及び1,3−置換シクロペンタジエニル類似基から選択され、L’は、置換若しくは非置換ペンタジエニル基及び置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基から選択される。1,3−置換シクロペンタジエニル類似部分の例としては、当技術分野で既知の、シクロオレフィン、例えば、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル環、複素環、置換ベンゼニルなどの芳香環、その他がある。置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基の例としては、当技術分野で既知の、直鎖オレフィン基、例えば、ヘキサジエニル、ヘプタジエニル、オクタジエニル、その他がある。これらの他の核形成密度が高い有機金属化合物の合成は、米国特許第6605735 B2号に記載されたものなどの従来の方法により、又は本明細書に記載の方法により実施することができる。
【0025】
置換シクロペンタジエニル及び置換シクロペンタジエニル類似基(L)、及びまた置換ペンタジエニル及び置換ペンタジエニル類似基(L’)の許容される置換基としては、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基がある。これらの置換基の例示は上に記載されている。
【0026】
上記のように、本発明は、シクロペンタジエニル環基上に2つの活性化置換基を特定の1,3−置換型で有する、他の核形成密度が高い有機金属の化学蒸着前駆体を包含する。こうした他の有機金属化合物の実例としては、例えば、(MeCp)PtMe、(MeCp)Ir(COD=シクロオクタジエン)、(MeCp)Ir(C=シクロヘキサジエン)等がある。本発明の有機金属化合物に有用な他の金属としては、遷移金属及びランタニドがある。これらの他の核形成密度が高い有機金属化合物の合成は、米国特許第6605735 B2号に記載されたものなどの従来の方法により又は本明細書に記載の方法により実施することができる。
【0027】
米国特許第6605735 B2号では、(1−エチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)Ru上のエチル置換基は、金属中心への接近を制限する配座をとり得る。それにひきかえ、シクロペンタジエニル環上の1,3−置換型のメチル置換基は、金属中心への立体的制限を有意に減少させる結果になる。核形成の方法に金属/基板の直接的な相互作用が関与する場合は、本発明の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)Ruは、(1−エチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)Ruより改善された核形成密度を示すことができる。
【0028】
(1−エチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)RuのH NMRにより、それぞれ4.6及び4.52ppmで生じるシクロペンタジエニルプロトン共鳴が現れる。対照的に、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)RuのH NMRにより、4.34及び4.23ppmに生じるシクロペンタジエニルプロトン共鳴が現れる。これは、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)Ruのシクロペンタジエニルプロトンは、(1−エチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)Ruのシクロペンタジエニルプロトンより遮蔽されていることを意味する。環上の電子密度の増大は、活性化置換基のシクロペンタジエニル環上の二置換型によるものと考えられる。シクロペンタジエニル環上の電子密度の増大に基づいて、有機金属ルテニウム化合物の熱安定性が低下して、核形成密度が増大する。より高い核形成密度からより薄い被膜が生じる。
【0029】
一般に、多くのシクロペンタジエニル系有機金属化合物は、室温で固体状態となる傾向を有する。1,3−置換型によるシクロペンタジエニル環の官能化により、最終使用者には非常に好ましい該化学種の融点が低下することを見出した。
【0030】
ルテノセンが液体であるか固体であるかは非常に不確実であり、正確に予測する方法はない。ルテノセン、1−メチルルテノセン、及び1,1’−ジメチルルテノセンは、室温で固体である。1−エチルルテノセン,1−エチル−1’−メチルルテノセン及び1,1’−ジエチルルテノセンは、すべて室温で液体である。最も興味深いことには、同じ環上に2つのメチル置換基が配置された場合、液体又は固体を得ることができる。1,3−ジメチルルテノセンは室温で液体であるが、1,2−ジメチルルテノセンは固体である(Hofer,O.ら、J.Organomet.Chem、1968、13、443)。
【0031】
また上記に示すように、本発明は、核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を製造する方法であって、前記有機金属ルテニウム化合物を生成するのに十分な反応条件下で、次式により表わされるビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を
【化6】


次式により表わされる置換シクロペンタジエン化合物と
【化7】


[式中、R及びRは、同じか又は異なり、それぞれがハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、R、R、R、R、R、及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、水素原子、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキルを表わす]反応させることを含む方法に関する。
【0032】
本発明の方法に有用な好ましいビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物は、次式により表わすことができる。
【化8】

【0033】
下記のルテニウム出発材料と反応させることができる、例示的な置換ペンタジエン化合物には、次式により表わされるもの
【化9】


[式中、R、R、及びRは、上記に定義された通りである]が含まれる。
【0034】
本発明の方法に使用することができる、例示的なシクロペンタジエン及びシクロペンタジエニル化合物には、次式により表わされるもの
【化10】


[式中、R及びRは上記に定義された通りである]が含まれる。
【0035】
、R、R、R、R、R、R及びRに使用し得る例示的なハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が含まれる。好ましいハロゲン原子としては、塩素及びフッ素がある。
【0036】
、R、R、R、R、R、R及びRに使用し得る例示的なアシル基には、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、1−メチルプロピルカルボニル、イソバレリル、ペンチルカルボニル、1−メチルブチルカルボニル、2−メチルブチルカルボニル、3−メチルブチルカルボニル、1−エチルプロピルカルボニル、2−エチルプロピルカルボニル、等が含まれる。好ましいアシル基としては、ホルミル、アセチル及びプロピオニルがある。
【0037】
、R、R、R、R、R、R及びRに使用し得る例示的なアルコキシ基には、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、1−メチルブチルオキシ、2−メチルブチルオキシ、3−メチルブチルオキシ、1,2−ジメチルプロピルオキシ、ヘキシルオキシ、1−メチルペンチルオキシ、1−エチルプロピルオキシ、2−メチルペンチルオキシ、3−メチルペンチルオキシ、4−メチルペンチルオキシ、1,2−ジメチルブチルオキシ、1,3−ジメチルブチルオキシ、2,3−ジメチルブチルオキシ、1,1−ジメチルブチルオキシ、2,2−ジメチルブチルオキシ、3,3−ジメチルブチルオキシ、等が含まれる。好ましいアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ及びプロポキシがある。
【0038】
、R、R、R、R、R、R及びRに使用し得る例示的なアルコキシカルボニル基には、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、シクロプロポキシカルボニル、ブトキシキシカルボニル、イソブトキシキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、等が含まれる。好ましいアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル及びシクロプロポキシカルボニルがある。
【0039】
、R、R、R、R、R、R及びRに使用し得る例示的なアルキル基には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、1,1,2−トリメチルプロピル、1,2,2−トリメチルプロピル、1−エチル−1−メチルプロピル、1−エチル−2−メチルプロピル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル、等が含まれる。好ましいアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル及びシクロプロピルがある。
【0040】
本発明の方法は、様々な化学構造及び高い核形成密度を含めた物理的性質を有する有機金属ルテニウム化合物前駆体を生成するのに有用である。本発明の方法には、各種の反応材料を使用することができる。例えば、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物の調製では、以下の実施例1のような市販の塩化Ru(III)水和物の代わりに、他のルテニウム出発材料を使用し得る。例示的なルテニウム材料としては、これに限定されることなく、α−塩化ルテニウム(III)、β−塩化ルテニウム(III)、硝酸ルテニウム(III)、(PPhRuCl(x=3〜4)、等がある。代替のルテニウム出発材料は、実施例1のようなメタノール溶液の代わりに固体溶媒和、固体、又は溶液として添加し得る。
【0041】
また、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物の調製では、2,4−ジメチル−l,3−ペンタジエンの代わりに他のペンタジエニル出発材料を使用し得る。例示的なペンタジエニル出発材料としては、これに限定されることなく、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,3,4−トリメチル−1,3−ペンタジエン、等がある。
【0042】
ルテニウム出発材料の濃度は、広範な範囲にわたり変化することができ、ペンタジエニル出発材料と反応して、本発明の方法に使用されるビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を得るのに必要な最小量であることのみが必要である。一般に、反応混合物の量に応じて、約1ミリモル以下から約1000ミリモル以上の範囲のルテニウム出発材料濃度が、大部分の方法に対して十分である。
【0043】
ペンタジエニル出発材料の濃度は、広範な範囲にわたり変化することができ、ルテニウム出発材料と反応して、本発明の方法に使用されるビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を得るのに必要な最小量であることのみが必要である。一般に、反応混合物の量に応じて、約1ミリモル以下から約1000ミリモル以上の範囲のペンタジエニル出発材料濃度が、大部分の方法に対して十分である。
【0044】
実施例1のメタノールの代わりに他の溶媒を使用することができる。エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール及びn−ペンタノールなどのアルコールを含有する溶媒が好ましい。エーテル及び環状エーテル(例えば、THF)も適当な溶媒である。アルコールの選択は、室温で(25℃)液体として存在する限り、限定されものではない。
【0045】
対象とする生成物の抽出には、ヘキサンの代わりにアルカン溶媒を使用することができる。奇数炭素鎖のアルカン溶媒(例えばペンタン/ヘプタン/ノナン)及び環状アルカンは、ヘキサンより好ましい。なぜなら、これらは、偶数鎖のアルカン(ヘキサン/オクタン)より健康上の危険が少なくなる。
【0046】
実施例1のZnの代わりに他の還元剤を使用することができる。他の還元剤の実例としては、これに限定されることなく、Mg及びAlがある。
【0047】
ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を作製する方法は、広範な工程パラメータ及び条件にわたり操作することができる。温度、圧力及び接触時間などの反応条件は、大幅に変化することもでき、本明細書ではこうした条件の任意の適当な組合せを使用することができる。この反応温度は、任意の前記溶媒の還流温度、より好ましくは約−40〜約100℃の間、最も好ましくは約−20〜約80℃の間であり得る。この反応は通常周囲圧力下で実施され、この接触時間は、秒又は分から数時間以上の実態で変化することができる。この反応物は、任意の順序で反応混合物に添加する又は組み合わせることができる。出発材料中のZn:Ruのモル比は、約1.5〜約100に変化することができる。
【0048】
本発明の方法に使用されるシクロペンタジエン化合物は、当技術分野で既知の従来の方法により調製することができる。例えば、1,3−ジメチルシクロペンタジエンは、Aldrich及びその他の有機化学供給業者から入手可能な、5−メチル−5−ヘキセン−2−オン(HC=C(CH)CHCHCOCH)の閉環縮合により、1ステップの工程で80%の歩留まりで容易に合成することができる。
【0049】
ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物とシクロペンタジエン化合物との反応では、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物の濃度は、広範な範囲にわたり変化することができ、シクロペンタジエン化合物と反応して、本発明の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を得るのに必要な最小量であることのみが必要である。一般に、反応混合物の量に応じて、約1ミリモル以下から約1000ミリモル以上の範囲のビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物濃度が、大部分の方法に対して十分である。
【0050】
ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物とシクロペンタジエン化合物との反応では、シクロペンタジエン化合物の濃度は、広範な範囲にわたり変化することができ、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物と反応して、本発明の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を得るのに必要な最小量であることのみが必要である。一般に、反応混合物の量に応じて、約1ミリモル以下から約1000ミリモル以上の範囲のシクロペンタジエン化合物濃度が、大部分の方法に対して十分である。
【0051】
本発明の方法に使用される溶媒は、任意の、飽和及び不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、芳香族複素環、アルキルハロゲン化物、シリル化炭化水素、エーテル、ポリエーテル、チオエーテル、エステル、ラクトン、アミド、アミン、ポリアミン、ニトリル、シリコーン油、その他の非プロトン性溶媒、又は上記の1種又は複数の混合物;より好ましくはヘキサン、ペンタン、又はジメチルオキシエタン;最も好ましくはジエチルエーテル又はTHEであり得る。意図した反応を過度に不利に干渉しない任意の適当な溶媒を使用することができる。1種又は複数の異なる溶媒の混合物を必要に応じて使用することができる。使用される溶媒の量は、対象とする本発明では重大な意味は持たず、反応混合物中の反応成分を可溶化するのに十分な量であることのみが必要である。溶媒の量は、一般に、反応混合物出発材料の総重量に対して約5重量%〜約99重量%以上の範囲にあり得る。
【0052】
ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物とシクロペンタジエン化合物との反応では、温度、圧力及び接触時間などの反応条件は、大幅に変化することもでき、こうした条件の任意の適当な組合せを本明細書で使用することができる。この反応温度は、任意の前記の溶媒の還流温度、より好ましくは約−40〜約100℃の間、最も好ましくは約−20〜約80℃の間であり得る。この反応は周囲圧力下で通常実施され、この接触時間は、秒又は分から数時間以上の実態で変化することができる。この反応物は、任意の順序で反応混合物に添加する又は組み合わせることができる。出発材料中のZn:Ruのモル比は、約1.5〜約100に変化することができる。置換シクロペンタジエン対ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウムのモル比は、約0.8〜約1.0の範囲にあり得る。
【0053】
ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム中間体への置換シクロペンタジエンの添加中の、この溶液の温度は、−80℃と溶液の還流温度の間の範囲にあり得る。処理工程の間の溶液の温度、及び各処理工程に必要な時間は、広範に変化することができる。溶液を加熱する前の保温時間は0分〜約3日に変化し得る。溶液の加熱温度は、約−50℃(この場合、反応は冷却されており、加熱されていない)から溶液の還流温度(反応中の窒素環境の圧力は、溶液の還流温度を上昇させるために増加し得ることに留意されたい)に変化することができる。「加熱」を伴う各反応工程中の撹拌の長さは、0分〜約3日に変化し得る。
【0054】
この反応に置換シクロペンタジエニル化合物が使用される場合は、非脱プロトン化ジエン(例えば、シクロペンタジエン)、好ましくはシクロペンタジエニル化合物のリチウム、カリウム、タリウム、アンモニウム、カルシウム、又はマグネシウム塩により、シクロペンタジエニル(又は、置換された類似体)の放出が行われる。この添加は、固体として又は別法では、上記に列挙された任意の溶媒との溶液として、好ましくは1〜2M溶液のナトリウム塩であり得る。
【0055】
本発明の方法に使用される撹拌時間は、すべての工程に対して約0.1〜約200時間、より好ましくは、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウムの調製に対しては約2〜約100時間、シクロペンタジエニルの添加に対しては約0.1〜約48時間の範囲であり得る。より好ましくは、撹拌時間は、ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウムの調製に対しては約2〜16時間、シクロペンタジエニルの添加に対しては0.1〜1時間の範囲であり得る。
【0056】
上記の反応のすべては、窒素ガス又は希ガスの雰囲気中で実施することが好ましい。希ガスの例としては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン及びラドンがある。これらのガスの中でも、経済的に入手可能なために窒素及びアルゴンが好ましい。
【0057】
本発明の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物の調製に使用し得る他の代替方法は、米国特許第6605735 B2号及び2003年10月16日に出願した、米国特許出願第10/685777号に開示されており、これらの開示を参照により本明細書に援用する。
【0058】
本発明の方法は、2,4−ジメチルペンタジエニド又は他の官能化ペンタジエニド類似塩(PD)に対イオンの存在下で一般に見受けられるものなどの、2,4−ジメチルペンタジエニルアニオンが使用し得る。適当な対イオンの例としては、Na、Li、K、Mg、Ca、Tlカチオン又はTMSがある。2,4−ジメチルペンタジエニド又はペンタジエニド類似塩の具体例としては、これに限定されることなく、Li(PD)、K(PD)又はNa(PD)がある。
【0059】
一実施形態では、本発明の方法は、金属塩化合物、リガンド(L”)化合物及び第1の二置換又は多置換シクロペンタジエン化合物(Cp)、例えば、1,3−ジメチルシクロペンタジエン又はインデン(HCp)を組み合わせて、中間体化合物を形成すること、並びに、この中間体化合物を、例えば、ペンタジエニル、2,4−ジメチルペンタジエニル又は上記などの他の官能化ペンタジエニルアニオンを含めたペンタジエニド化合物と反応させることを含む。
【0060】
この金属塩は、例えば、金属ハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物)、金属硝酸塩及び他の適当な金属塩などの金属(III)塩とすることができる。M”は、8族(VIII)金属、例えば、Ru、Os又はFeであり得る。この金属塩は、一般にM”Xと略して書く。本明細書では、略号M”Xは、水和の水を含み、当技術分野で知られているように、より具体的には式M”X・μHO(μが0以外である)により表わすことができる金属塩化合物を除外しない。したがって具体例では、本明細書に使用される略号FeXは、フェロセン又はフェロセン類似化合物を形成するために使用することができる、無水並びに水和鉄塩を含む。
【0061】
リガンド(L”)は、一般に電子対供与体化合物である。例えば、トリフェニルホスフィン(PPh)などの中性電子対供与体を使用し得る。一般式PRのトリシクロヘキシルホスフィン及びその他のホスフィン、並びに亜リン酸トリエステル、P(OR)(式中、Rは、フェニル、シクロヘキシル、アルキル又は分枝アルキル、例えば、t−ブチル基も使用することができる。他の適当な電子対供与体としては、アミン、ホスフェート、カルボニル化合物、オレフィン、ポリオレフィン、キレート化ホスフィン、キレート化アミン及びその他がある。
【0062】
好ましくは、このCp化合物は、二置換シクロペンタジエニル化合物、例えば、1,3’−ジメチルシクロペンタジエン又はインデンであり、多置換であってもよい。このCp化合物はまた、二置換(シクロペンタジエニル、多置換シクロペンタジエニル又はインデニルアニオンを含めた塩として供給することもできる。アニオンと共に使用することができる適当なカチオンとしては、これに限定されることなく、TMS、Na、Li、K、Mg、Ca及びTlがある。塩の具体例としては、KCp、NaCp又はLiCpがある。
【0063】
M”X、L”及びCp成分のそれぞれは、純粋な形態で供給することができ、或いは適当な溶媒を任意選択で含むことができる。本発明の方法に使用可能な好ましい溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール及び他のアルコールなどのアルコールが含まれる。酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、飽和又は不飽和炭化水素、芳香族複素環、アルキルハロゲン化物、シリル化炭化水素、エーテル、ポリエーテルチオエーテル、エステル、ラクトン、アミド、アミン、ポリアミン、ニトリル、シリコーン油及びその他の非プロトン性溶媒もまた使用することができる。溶媒の組合せもまた使用することができる。
【0064】
M”X、L”及びCpの濃度は、一般に当技術分野で知られている通りに選択される。例えば、適当な溶媒中のM”Xのモル濃度は、約0.1M〜純粋の範囲にあり得る。適当な溶媒中のL”のモル濃度は、約0.1M〜純粋の範囲にあり得る。適当な溶媒中のCpのモル濃度は、約0.1〜純粋の範囲にあり得る。純粋なホスフィンが使用される場合は、この反応は非常に発熱性となるはずであると考えられる。単位体積当たりのかなりの量の反応熱を放散する方法及びシステムは、当技術分野で知られている。
【0065】
3種の成分は任意の順序で混合することができる。一実施形態では、金属成分及びHCp成分を、L’成分に同時に添加する。他の実施形態では、金属成分及びHCp成分を混合して混合物を形成し、次いで、この混合物をL”成分と、例えば混合物にL”成分を添加することにより混合する。他の実施形態では、すべての成分を同時に混合する。
【0066】
使用されるHCp対M”Xのモル比は、典型的には約50〜約1の範囲、好ましくは約12〜約2、最も好ましくは約7〜約5の範囲にある。L対M”Xのモル比は、典型的には約8〜約0、好ましくは約6〜約2、最も好ましくは約5〜約3.5の範囲にある。
【0067】
この反応温度は、使用される溶媒の沸点又は反応混合物の沸点の近辺が好ましい。他の適当な温度は、日常的な実験により決定することができる。この反応は、反応組成物の凝固点を超え、約沸点までの範囲にある温度で一般に実施することができる。例えば、この反応は、約−100〜約150℃の範囲の温度で実施することができる。
【0068】
この反応時間は、温度、及び種々の反応物の濃度により一般に決まり、例えば、約5分〜約96時間の範囲にあり得る。
【0069】
金属塩M”X、L”及びCp化合物、例えばHCpの反応により形成される中間体化合物は、式CpM”L”X(式中、f=1又は2)により表わすことができる。
【0070】
一実施形態では、CpM”L”Xは、例えば固体として、当技術分野で既知の方法により単離される。中間体化合物を単離するのに使用可能な技法の例としては、ろ過、遠心分離及び再結晶化がある。
【0071】
他の例では、反応溶液から中間体化合物の単離を実施しない。
【0072】
単離しようとしまいと、この中間体化合物はペンタジエニド化合物と、好ましくは溶媒の存在下で反応される。
【0073】
このペンタジエニル基は、アニオンとして対イオン、例えば、TMS、Na、Li、K、Mg、Ca、Tlとの組合せで好ましくは供給される。このペンタジエニル部分を提供するために使用可能なペンタジエニド、又はペンタジエニド類似塩の具体例としては、K(PD)、Li(PD)、Na(PD)、その他がある。このペンタジエニドは上記に定義された通りであり得る。
【0074】
本発明の一実施形態では、中間体CpM”L”Xは、ナトリウム又はリチウム2,4−ジメチルペンタジエニドと反応される。置換又は非置換の1,3−ジエンのアニオンもまた使用することができる。
【0075】
一実施形態では、中間体化合物は(MeCp)Ru(PPhClである。これがPDの塩と反応される。推奨されるPDの塩としては、Na(PD)、Li(PD)、(PD)Mg、TMS(PD)及び(PD)Tlがある。
【0076】
CpM”L”Xとペンタジエニド成分の間の反応を実施するための適当な溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、芳香族複素環、飽和又は不飽和炭化水素、アルキルハロゲン化物、シリル化炭化水素、エーテル、ポリエーテル、チオエーテル、エステル、ラクトン、アミド、アミン、ポリアミン、ニトリル、シリコーン、その他がある。
【0077】
溶媒中のペンタジエニド成分のモル濃度は、一般に約0.1〜約3.5Mの範囲、好ましくは約0.5〜約2.5Mの範囲、最も好ましくは約1.4〜約1.8Mの範囲とすることができる。
【0078】
ペンタジエニドのCpM”L”Xに対するモル比は、典型的には約50〜約1、好ましくは約6〜約1、最も好ましくは約1.6〜約1.2の範囲にある。
【0079】
ペンタジエニド化合物と中間体化合物(単離しようとしまいと)の間の反応は、例えば、上に一般に記載された温度で実施され、CpM”(PD)生成物を形成する。
【0080】
この反応生成物、CpM”(PD)は、例えば、溶媒抽出(例えばヘキサン)に続いて蒸留、昇華又はクロマトグラフィーによる、或いは直接、蒸留、昇華又はクロマトグラフィーによるなどの、当技術分野で既知の方法により単離及び又は精製することができる。再結晶化、超遠心分離及び他の技法も使用することができる。或いは、この生成物は、さらなる単離及び又は精製することなしに、反応混合物で使用することができる。
【0081】
本発明の方法はまた、オスミウム系化合物及び鉄系化合物を形成するために使用することができる。同様に、本発明の方法は、他のη配位の芳香族部分を含む有機金属化合物を形成するために使用することができる。
【0082】
本発明の方法でCp及びPD化合物を使用する順序は、厳密に重大な意味は持たない。例えば、本発明は、M”X、L”及びPD’成分を中間体化合物が形成されるように反応し、その後、この中間体化合物がCp’化合物と反応して、CpM”(PD’)生成物を形成する反応順序を包含する。
【0083】
本発明の方法により調製された有機金属化合物に対し、精製は、再結晶化により、より好ましくは反応残留物の抽出(例えばヘキサン)及びクロマトグラフィーにより、最も好ましくは昇華及び蒸留により実施することができる。
【0084】
当業者なら、本明細書に詳細に記載された方法に対して、頭書の特許請求の範囲により詳細に規定された本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、多数の変更がなされ得ることを認識するであろう。
【0085】
上記の合成方法により形成された有機金属ルテニウム化合物の特徴を示すために使用可能な技法の例としては、これに限定されることなく、分析的ガスクロマトグラフィー、核磁気共鳴法、熱重量分析法、誘導結合プラズマ質量分析法、蒸気圧及び粘度の測定がある。
【0086】
上記の有機金属ルテニウム化合物前駆体の相対蒸気圧、又は相対揮発度は、当技術分野で既知の熱重量分析技法により測定することができる。平衡蒸気圧もまた、例えば、密閉した容器からすべてのガスを排出し、その後、この化合物の蒸気を容器に導入し、その圧力を当技術分野で知られているように測定することにより測定することができる。
【0087】
上記のように、本発明は、被膜、コーティング又は粉末を製造する方法に一部は関する。この方法には、少なくとも1種の有機金属ルテニウム化合物前駆体を分解するステップと、これにより、さらに以下に説明するように被膜、コーティング又は粉末を製造するステップとが含まれる。適当な基板には、金属、金属ケイ化物、半導体、絶縁体及びバリヤ材料(例えば、破壊的バリヤ用途用)が含まれる。
【0088】
本明細書に記載の有機金属ルテニウム化合物前駆体は、in situで粉末及びコーティングを調製するのに良く適している。例えば、液体の有機金属ルテニウム化合物前駆体を、基板に塗布し、次いでこの前駆体を分解するのに十分な温度に加熱し、これにより基板上に金属又は金属酸化物コーティングを形成することができる。液体前駆体の基板への塗布は、塗装、スプレー、ディッピング又は当技術分野で既知の他の技法によることができる。加熱は、当技術分野で既知の、ヒートガンで基板を電気的に加熱することにより、又は他の手段によりオーブン中で実施することができる。層状コーティングは、有機金属ルテニウム化合物前駆体を塗布し、これを加熱し、分解し、これにより第1層を形成し、続いて同じ又は異なる前駆体による少なくとも1つの他のコーティングを行ない、加熱することにより得ることができる。
【0089】
上記のものなどの液体有機金属ルテニウム化合物前駆体を、噴霧化し、基板上にスプレーすることもできる。使用可能な、ノズル、ネブライザ、及びその他などの噴霧化及びスプレー化手段は、当技術分野で知られている。
【0090】
本発明の好ましい実施形態では、上記のものなどの有機金属ルテニウム化合物は、粉末、被膜又はコーティングを形成するために気相成長技法に使用される。この化合物は、単一源の前駆体として使用することができ、或いは1種又は複数の他の前駆体と、例えば、少なくとも1種の他の有機金属化合物又は金属錯体を加熱することにより発生する蒸気と一緒に使用することができる。上記のものなどの、2つ以上の有機金属ルテニウム化合物前駆体も、所与の方法に使用することができる。
【0091】
蒸着は、他の気相成分の存在下で実施することができる。本発明の一実施形態では、被膜の蒸着は、少なくとも1種の非反応性キャリアガスの存在下で実施することができる。非反応性ガスの例としては、不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、並びに工程条件下で有機金属ルテニウム化合物前駆体と反応しないその他のガスがある。他の実施形態では、被膜の蒸着は、少なくとも1種の反応性ガスの存在下で実施される。使用可能ないくつかの反応性ガスとしては、これに限定されることなく、ヒドラジン、酸素、水素、空気、酸素に富む空気、オゾン(O)、亜酸化窒素(NO)、水蒸気、有機蒸気、その他がある。当技術分野で知られているように、例えば、空気、酸素、酸素に富む空気、O、NO又は酸化性の有機化合物の蒸気などの酸化性ガスが存在すると、金属酸化物被膜の形成に有利である。
【0092】
本明細書に記載の蒸着方法を、単一金属を含む被膜、粉末又はコーティング、例えばRu被膜、或いは単一金属酸化物を含む被膜、粉末又はコーティングを形成するために実施することができる。混合された被膜、粉末又はコーティング、例えば混合金属酸化物被膜も蒸着することができる。混合金属酸化物被膜を、例えば、その少なくとも1種が上記の有機金属ルテニウム化合物から選択される、いくつかの有機金属前駆体を使用することにより形成することができる。
【0093】
所望の厚さ、例えば、約1nm〜1mmを超える範囲の被膜層を形成するために、気相被膜蒸着を実施することができる。本明細書に記載の前駆体は、薄膜、例えば約10〜約100nmの範囲の厚さを有する被膜を製造するのに特に有用である。ルテニウムの被膜は、例えば、特に、論理中のp−チャネル金属電極として、及びDRAM用途用コンデンサ電極として、金属電極を製造するために検討することができる。
【0094】
この方法はまた、層の少なくとも2つが、相又は組成が異なる層状被膜を調製するのに適している。層状被膜の例としては、金属/絶縁体/半導体、及び金属/絶縁体/金属がある。
【0095】
一実施形態では、本発明は、上記の有機金属ルテニウム化合物前駆体の蒸気を、熱的に、化学的に、光化学的に又はプラズマ励起により分解し、これにより基板上に被膜を形成するステップを含む方法を対象とする。例えば、室温で液体のこの化合物により生じた蒸気を、有機金属ルテニウム化合物を分解し、基板上に被膜を形成するのに十分な温度を有する基板と接触させる。
【0096】
この有機金属ルテニウム化合物前駆体は、化学蒸着法に、或いはより具体的には、当技術分野で既知の有機金属化学蒸着法に使用することができる。例えば、上記の有機金属ルテニウム化合物前駆体は、常圧並びに低圧化学蒸着法に使用することができる。この化合物は、反応チャンバー全体が加熱される方法、ホットウオール化学蒸着法、並びに基板のみが加熱される技法、コールドウオール又はウオームウオール型化学蒸着法に使用することができる。
【0097】
上記の有機金属ルテニウム化合物前駆体はまた、それぞれ、プラズマからのエネルギー又は電磁エネルギーが化学蒸着前駆体を活性化するために使用される、プラズマ又は光化学蒸着法に使用することができる。この化合物はまた、それぞれ、イオンビーム又は電子ビームが、化学蒸着前駆体を分解するエネルギーを供給するために基板に送り出される、イオンビーム、電子ビーム化学蒸着法に使用することができる。化学蒸着前駆体の光分解反応に作用させるために基板にレーザ光を当てる、レーザ化学蒸着法もまた使用することができる。
【0098】
本発明の方法は、例えば、ホットウオール又はコールドウオール反応器、プラズマ、ビーム又はレーザ利用の反応器などの、当技術分野で既知の種々の化学蒸着法反応器中で実施することができる。
【0099】
室温で液体である前駆体は化学蒸着の製造中に好ましく、本発明の有機金属ルテニウム化合物は、それらが化学蒸着前駆体として適する特性を有する。
【0100】
本発明の方法を使用してコートすることができる基板の例としては、金属基板、例えば、Al、Ni、Ti、Co、Pt、Ta;金属ケイ化物、例えば、TiSi、CoSi、NiSi;半導体材料、例えば、Si、SiGe、GaAs、InP、ダイアモンド、GaN、SiC;絶縁体、例えば、SiO、Si、HfO、Ta、A1、チタン酸バリウムストロンチウム(BST);バリヤ材料、例えば、TiN、TaN;或いは材料の組合せを含む基板などの固体基板がある。さらに、被膜又はコーティングを、ガラス、セラミックス、プラスチック、熱硬化性ポリマー材料上に、及び他のコーティング層又は被膜層上に形成することができる。好ましい実施形態では、電子部品の製造又は加工に使用される基板上に被膜蒸着物が置かれる。他の実施形態では、高温で酸化剤の存在下に安定な低固有抵抗蒸着物又は光透過膜を支持するために基板が使用される。
【0101】
本発明の方法は、滑らかで平らな表面を有する基板上に被膜を蒸着するために実施することができる。一実施形態では、この方法は、ウェハの製造又は加工に使用される基板上に被膜を蒸着するために実施される。例えば、この方法は、トレンチ、ホール又はビアなどの機能を含むパターン化された基板上に被膜を蒸着するために実施することができる。さらに、本発明の方法は、ウェハ製造又は加工における他の工程、例えば、マスキング、エッチング、その他と統合することもできる。
【0102】
化学蒸着被膜は、所望の厚さに蒸着することができる。例えば、形成される被膜は、1ミクロン未満の厚さ、好ましくは500ナノメートル未満、より好ましくは200ナノメートル未満の厚さとすることができる。50ナノメートル未満の厚さである被膜、例えば、約20と約30ナノメートルの間の厚さを有する被膜も製造することができる。
【0103】
上記の有機金属ルテニウム化合物前駆体はまた、原子層蒸着(ALD)、又は原子層核形成(ALN)技法により被膜を形成するために本発明の方法に使用することができ、この間に、基板が前駆体、酸化剤及び不活性ガスストリームの交替パルスに曝される。逐次層蒸着技法は、例えば、米国特許第6287965号及び米国特許第6342277号に記載されている。両特許の開示全体を、参照により本明細書に援用する。
【0104】
例えば、1つのALDサイクルにおいて、基板が、逐次に、a)不活性ガス;b)前駆体蒸気を搬送する不活性ガス;c)不活性ガス;d)酸化剤(単独で又は不活性ガスと共に)に暴露される。一般に、各工程は、その装置が可能な限り短く(例えばミリメートル)、及びその工程が必要なだけ長く(例えば、数秒又は数分)することができる。1サイクルの時間は、ミリ秒単位の短い時間にしてもよく、また、分単位の長い時間にすることができる。このサイクルは、数分から数時間の範囲にあり得る期間にわたって繰り返される。製造された被膜は、数ナノメートルの薄さ、又はより厚い、例えば1ミリメートル(mm)とすることができる。
【0105】
本発明の方法はまた、超臨界流体を使用して実施することができる。現在のところ当技術分野で知られている超臨界流体を使用する被膜蒸着方法の例としては、化学流体蒸着法、超臨界流体輸送化学蒸着法、超臨界流体化学蒸着法、及び超臨界流体浸漬蒸着法がある。
【0106】
例えば、化学流体蒸着法は、高純度被膜の製造に、及び複雑な表面の被覆に、及び高アスペクト比の形状の充填に十分に適している。化学流体蒸着法は、例えば、米国特許第5789027号に記載されている。被膜を形成するための超臨界流体の使用がまた、米国特許第6541278 B2号に記載されている。これらの2つの特許の開示全体を、参照により本明細書に援用する。
【0107】
本発明の一実施形態では、加熱されたパターン化基板を、臨界点近傍流体又は超臨界流体、例えば、臨界点近傍CO又は超臨界COなどの溶媒の存在下で、1種又は複数の有機金属ルテニウム化合物前駆体に曝す。COの場合は、溶媒流体は、約1000ポンド/平方インチゲージを超える圧力及び少なくとも約30℃の温度で供給される。
【0108】
この前駆体は分解されて、基板上に金属被膜を形成する。この反応はまた、前駆体から有機物質を生成する。この有機物質は、溶媒流体により可溶化され、基板から容易に除去される。金属酸化物被膜も、例えば酸化性のガスを使用することにより形成することができる。
【0109】
一例では、この蒸着工程は、1つ又は複数の基板を収納する反応チャンバー中で実施される。チャンバー全体を例えば炉により加熱することにより、この基板を所望の温度に加熱する。例えば、このチャンバーを真空にすることにより、有機金属ルテニウム化合物の蒸気を生成することができる。低温で沸騰する化合物では、このチャンバーを化合物の蒸発を生じさせるのに十分熱くすることができる。この蒸気が加熱された基板表面に接触したとき、それは分解し、金属又は金属酸化物の被膜を形成する。上記のように、有機金属ルテニウム化合物前駆体は、単独で又は、例えば、他の有機金属前駆体、不活性キャリアガス又は反応性ガスなどの、1種又は複数の成分との組合せで使用することができる。
【0110】
本発明の方法による被膜の製造に使用することができるシステムでは、原材料をガスブレンド用マニフォールドに送り出して、被膜の成長が行われる蒸着反応器に供給するプロセスガスを生成することができる。原材料には、これに限定されることなく、キャリアガス、反応性ガス、パージガス、前駆体、エッチング/クリーンガス、その他が含まれる。プロセスガス組成の正確な制御は、当技術分野で既知の、質量流量制御器、バルブ、圧力変換器、及びその他の手段を使用して実施される。排気マニフォールドは、蒸着反応器から出てくるガス並びにバイパスストリームを真空ポンプに搬送することができる。真空ポンプの下流の処理システムを、排気ガスからいずれの危険物質も除去するために使用することができる。この蒸着システムは、プロセスガス組成を測定する残存ガス分析器を含めたin situ分析システムを備えることができる。制御及びデータ収集システムは、種々の工程パラメータ(例えば、温度、圧力、流量、等)をモニターすることができる。
【0111】
上記の有機金属ルテニウム化合物前駆体を、単一金属を含む被膜、例えば、Ru被膜、又は単一金属酸化物を含む被膜を製造するために使用することができる。混合被膜、例えば混合金属酸化物被膜も蒸着させることができる。こうした被膜は、いくつかの有機金属前駆体であって、その少なくとも1種が上記の有機金属ルテニウム化合物から選択される前駆体を使用することにより製造される。金属被膜もまた、例えば、キャリアガス、蒸気又は他の酸素源を使用せずに形成することができる。
【0112】
本明細書に説明した方法により形成された被膜は、当技術分野で既知の技法、例えば、X線回折、オージェ分光法、X線光電子放出分光法、原子間力顕微鏡法、走査電子顕微鏡法、及び当技術分野で既知のその他の技法により特徴を示すことができる。被膜の固有抵抗及び熱安定性も、当技術分野で既知の方法により測定することができる。
【0113】
当業者には本発明の種々の修正形態及び変形形態が明らかになろう、また、こうした修正形態及び変形形態は、本出願の範囲及び特許請求の範囲の精神及び範囲内に含まれるものであることを理解されたい。
(実施例1)
(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの合成
【0114】
乾燥した1リットルの三つ口丸底フラスコに磁気撹拌子を入れ、3個の栓(septum)をした。窒素パージを、針を通して導入し、やはり針を介した排出口をオイルバブラーに導いた。熱電対導線を側面の口の栓を介して配置した。過剰の亜鉛(150グラム、「微細な粉末(dust)」は、より撹拌の助けになることを見出した)をフラスコに添加した。2,4−ジメチル−l,3−ペンタジエン(25グラム,0.26モル)をシリンジによりフラスコに添加した。三塩化ルテニウム水和物(6.0グラム、3水和物当量に対して0.023モル)をメタノール(250ミリリットル)溶液として、カニューレにより45分間にわたり約10ミリリットルの噴出として添加した。この添加が完了した後、混合物を25℃で30分間撹拌し、次いで冷却器を備え付けた後、この内容物を緩やかに還流させた。撹拌を2時間続けた。この混合物を25℃に冷却し、続いて新たに蒸留した1,3−ジメチルシクロペンタジエン(2.2グラム、0.023モル)を20分間にわたりシリンジにより添加した。撹拌を25℃でさらに20分間続け、続いて2時間緩やかに還流させた。
【0115】
冷却後、この反応をセライトを通してろ過して、暗褐色溶液を得た。この生成物をヘキサンで抽出した。ヘキサンを除去して、くすんだ黄色固体(3.8グラム、0.013モル、歩留まり57%)を得た。この生成物(GC−MSにより純度97%)を、クロマトグラフィー(アルミナ/ヘキサン)により>99.5%(GC−MS)に精製することができる。質量スペクトル、m/e(相対強度):287(100)、288(91)、290(99)。
【化11】


【化12】


(実施例2)
(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの合成
【0116】
2リットル三つ口丸底フラスコにTeflon7撹拌子、エタノール(1.0リットル)及びPPh(263グラム、1.0モル)を投入する。2リットルフラスコの三つ口に、250ミリリットル滴下漏斗、150ミリリットルジャケット浴付き滴下漏斗、及び冷却器を取り付ける。両方の滴下漏斗は、丸底フラスコの雰囲気からこれらの単離を可能にするTeflon7バルブを備え付けることに留意することが重要である。150ミリリットルジャケット浴付き滴下漏斗の頂部にゴムの隔壁を結合した。冷却器の頂部にT分岐アダプタを取り付け、不活性雰囲気に結合した。加熱マントルを2リットルの三つ口丸底フラスコの下に配置し、この溶液を撹拌し、還流まで加熱する。還流で、トリフェニルホスフィンのすべてがエタノールに溶解する。この系を、還流すると同時に窒素で3時間パージする。
【0117】
これが行われる間に、500ミリリットルエルレンマイヤーフラスコにRuCl.xHO(50グラム、0.20モル)、エタノール(150ミリリットル)及びTeflon7コート磁気撹拌子を投入する。このエタノール性溶液は、直ちに褐色/橙色を発現する。すべてのRuCl.xHOを溶解するために、溶液を徐々に加熱する必要がある。この溶液を250ミリリットル滴下漏斗中に注ぐ。
【0118】
この溶液に、1〜2ポンド/平方インチゲージ(psig)の窒素源に結合された針を隔壁を通して溶液中に挿入し、かつ過剰の圧力を取り除くための別の針を隔壁に貫通させることにより、窒素を30分間吹き込む。
【0119】
150ミリリットルジャケット浴付き滴下漏斗中に、メタノール/ドライアイス浴を加える。この滴下漏斗の内部を、他の滴下漏斗に吹き込んだのと同様のやり方で、30分間窒素でパージする。次いで、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン(116グラム、1.2モル、窒素雰囲気下で新しく蒸留された)を、冷却された滴下漏斗中にゴム隔壁を通してカニューレ処理する。
【0120】
3時間の2リットル丸底フラスコのパージが経過した後、このシステムの残りから両方の滴下漏斗を隔離するTeflon7バルブを開放し、2つの溶液の滴下添加を同時に開始する。20分にわたって、2つの溶液を共にPPhエタノール溶液に添加する。この時間全体の間、この溶液を還流する。この溶液は急速に強い橙褐色を発現する。
【0121】
添加が完了した後、この溶液をさらに2時間還流したままにする。この時間中に、2リットルフラスコの壁上の溶液のメニスカス上に蓄積する小さい橙赤色結晶を見ることができる。
【0122】
この溶液を、わずかに還流未満に冷却させておき、2リットルフラスコの内容物を粗いフリットによりろ過する(空気に開放して)。この橙赤色固体を収集する(195グラムの予想歩留まり)。このろ液を廃棄し、固体を60℃で一晩真空オーブンに収納する。
【0123】
この固体を真空オーブンから取り出し、化学天秤上で風袋を計る(ほぼ150グラムと予想される)。これに基づいて、粗製クロロ(2,4−ジメチルペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)の歩留まりが決定される。
【0124】
次に、窒素のグローブボックス中で、1リットルフラスコに、トルエン(500mL、無水)、粗製クロロ(2,4−ジメチルペンタジエニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(150グラム、0.20モル)及びTeflon7撹拌子を投入する。この溶液を撹拌し、ナトリウム1,3−ジメチルシクロペンタジエニド(41グラム、0.35モル)を1時間にわたって徐々に添加する。この添加に続いて、この溶液を80℃で4時間撹拌する。この段階で、フラスコをグローブボックスから取り出し、大部分のトルエンをロータリーエバポレータを使用して除去した。次いで、ヘキサン(500ミリリットル)をフラスコに添加し、この内容物を30分間撹拌する。次いで、この溶液をシリカのプラグを通して粗いフリットによりろ過する。褐色/赤色固体が黄色/橙色のろ液から分離される。次いで、このろ液を冷凍庫に収納すると、結晶性固体(PPh)が溶液から沈殿する。この液体を固体からデカンテーションし、溶液をロータリーエバポレータを使用して再び濃縮する。この溶液を一晩静置させると、結晶(PPh)が次の朝フラスコ中にはっきりと分かる。この液体を100ミリリットル丸底フラスコ中にデカンテーションする。
【0125】
この100ミリリットル丸底フラスコに、ビグロー型くぼみ付き短絡蒸留アダプタ及び100ミリリットルストレージフラスコ容器を取り付ける。この液体を真空下で蒸留して、1〜3%のトリフェニルホスフィンを含む透明な黄色液体、(2,4−ジメチルペンタジエニル)(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを得る。黄色液体の回転バンド蒸留により、47.6グラム(83%の歩留まり)の、トリフェニルホスフィン非含有で、>99.7+%純度(GCMS)の(2,4−ジメチルペンタジエニル)(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムがもたされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)式LML’[式中、Mは遷移金属であり、Lは置換シクロペンタジエニル基又は置換シクロペンタジエニル類似基であり、L’は置換若しくは非置換ペンタジエニル基又は置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基である]、或いは
(ii)式(L)M’L’又はLM’(L’)[式中、M’はランタニドであり、Lは、同じか又は異なり、置換シクロペンタジエニル基又は置換シクロペンタジエニル類似基であり、L’は、同じか又は異なり、置換若しくは非置換ペンタジエニル基又は置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基である]
により表わされる核形成密度が高い有機金属化合物。
【請求項2】
式LRuL’、(L)RuL’又はLRu(L’)により表わされる、請求項1に記載の核形成密度が高い有機金属化合物。
【請求項3】
置換シクロペンタジエニル類似基が、シクロヘキサジエニル、シクロヘプタジエニル、シクロオクタジエニル、複素環基及び芳香族基から選択され、置換若しくは非置換ペンタジエニル類似基が、直鎖オレフィン、ヘキサジエニル、ヘプタジエニル及びオクタジエニルから選択される、請求項1に記載の核形成密度が高い有機金属化合物。
【請求項4】
以下の式で表される
【化1】


[式中、R及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、R、R、R、R、R、及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、水素原子、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキルを表わす]、請求項1に記載の核形成密度が高い有機金属化合物。
【請求項5】
次式により表わされる、
【化2】


請求項4に記載の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物。
【請求項6】
請求項4に記載の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を製造する方法であって、前記核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を生成するのに十分な反応条件下で、次式により表わされるビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物を
【化3】


次式により表わされる置換シクロペンタジエン化合物と
【化4】


[式中、R及びRは、同じか又は異なり、それぞれがハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキル基を表わし、R、R、R、R、R、及びRは、同じか又は異なり、それぞれが、水素原子、ハロゲン原子、1〜約12個の炭素原子を有するアシル基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシ基、1〜約12個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル基又は1〜約12個の炭素原子を有するアルキルを表わす]反応させることを含む方法。
【請求項7】
ビス(置換ペンタジエニル)ルテニウム化合物が、次式
【化5】


により表わされ、置換シクロペンタジエン化合物が、次式
【化6】


により表わされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高核形成有機金属化合物を製造する方法であって、
(i)金属塩(M”X)化合物、シクロペンタジエニル化合物(Cp)及びリガンド(L”)を、中間体化合物を形成するのに十分な反応条件下で反応させること、並びに、
前記中間体化合物をペンタジエニド化合物(PD)と、前記高核形成有機金属化合物を生成するのに十分な反応条件下で反応させること
を含み、
ただし、M”はVIII族金属であり、L”は電子対供与体化合物であり、Cpは、二置換又は多置換シクロペンタジエニル化合物であり、PDはペンタジエニド類似塩である)であり、或いは
(ii)金属塩(M”X)化合物、ペンタジエニル化合物(PD’)及びリガンド(L”)を、中間体化合物を形成するのに十分な反応条件下で反応させること、並びに、
前記中間体化合物をシクロペンタジエニド化合物(Cp’)と、前記高核形成有機金属化合物を生成するのに十分な反応条件下で反応させること
を含み、
ただし、M”はVIII族金属、L”は電子対供与体化合物であり、PD’はペンタジエニル化合物であり、Cp’は、二置換又は多置換シクロペンタジエニド類似塩である、方法。
【請求項9】
請求項4に記載の核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物を分解し、これにより被膜、コーティング又は粉末を製造することにより、被膜、コーティング又は粉末を製造する方法。
【請求項10】
前記核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物前駆体の分解が、熱的、化学的、光化学的又はプラズマ励起によるものであり、
前記核形成密度が高い有機金属ルテニウム化合物前駆体が気化され、
前記蒸気が基板を収納する蒸着反応器中に送り出され、
前記基板が、金属、金属ケイ化物、半導体、絶縁体及びバリヤ材料からなる群から選択される材料からなる、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2007−526250(P2007−526250A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552136(P2006−552136)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/001877
【国際公開番号】WO2005/103318
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】