説明

植物細胞壁分解酵素間の融合タンパク質及びその使用

本発明は、C末端の糖質結合分子(CBM)を含まない少なくとも二つの植物細胞壁分解酵素、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質の使用に関するものであり、当該酵素及びCBMは、植物又は野菜の副産物からの植物細胞壁内に存在する目的の化合物の調製の枠組みにおいて、又はパルプ及び紙の漂白の枠組みにおいて植物細胞壁分解のプロセスを行うための、菌類の天然タンパク質又はその変異型に対応する組換えタンパク質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学処理した多機能型の植物細胞壁分解酵素の構築及び過剰産生、並びに農業副産物の価値化のための改善された酵素ツールとしてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
農業廃棄物は、リグノセルロースの生物変換のための重要な再生可能な資源である。毎日、食品産業の生産により、除去すべき汚染廃棄物と見なされるこれらの多くの副産物が発生している。バイオテクノロジー分野において、これらの副産物の価値化について多くの研究が行われている。価値化可能な成分の中で、フェルラ酸(4−ヒドロキシ−3−メトキシ−桂皮酸)は、植物界で最も豊富なヒドロキシ桂皮酸であると見出された非常に魅力的なフェノール化合物である。例えば、フェルラ酸は抗酸化剤(23)として使用するか、又は、微生物変換により、食品産業、化粧品産業及び医薬産業における高価な香料として「天然の」バニリンに変換することができる(4、26)。農業副産物の中で、トウモロコシふすま及び小麦ふすまは、細胞壁中に大量の、すなわちそれぞれ3%及び1%(w/w)のフェルラ酸を含んでいるため、潜在的な基質である(43)。植物生理学においてフェルラ酸は、植物細胞壁の重要な物理的特性及び化学的特性を有する、鍵となる構成成分である。実際、フェルラ酸はリグニンと炭水化物との間又は炭水化物同士の間の架橋剤として作用することができ(16)、細胞壁の完全性に影響を与え、それにより微生物酵素による生分解性の程度を低減する(6)。
【0003】
微生物は、フェルラ酸を植物細胞壁の多糖に連結しているエステル結合を加水分解することができるフェルロイルエステラーゼ(EC3.1.1.73)等の酵素を進化させた。これらの酵素により、他のリグノセルロース分解性酵素が多糖骨格へ接近することが容易になる(概説として12を参照されたい)。これまでの研究により、フェルロイルエステラーゼはβ−(1,4)−エンドキシラナーゼ等の主鎖分解酵素と相乗的に作用して、植物細胞壁からのフェルラ酸の放出を増大させ、そして応用するために必要な十分な量を産生させることが示されている(2、15、50)。黒こうじ菌(Aspergillus niger)等の糸状菌は、植物細胞壁分解酵素を産生することがよく知られている。黒こうじ菌由来のフェルロイルエステラーゼをコードする二つの異なる遺伝子は既にクローンニングされており(10、11)、これらの対応する組換えタンパク質はメタノール資化性酵母(Pichia pastoris)及び黒こうじ菌で過剰産生されている(24、30、41)。幾つかの菌類性フェルロイルエステラーゼが精製され解析されたが(18、47)、いずれの遺伝子もさらにクローニングはされなかった。以前の研究により、ファミリー1の糖質結合モジュール(CBM)に非常に類似したC末端ドメインを有する第一の菌類性シンナモイルエステラーゼ(B型)の、ペニシリウム・フニクロスム(Penicillium funiculosum)からの単離が報告されている(27)。嫌気性微生物及び好気性微生物由来のグリコシル加水分解酵素の多くはモジュール構造を有している。触媒ドメインに加えて、一つ又は複数の非触媒性CBMが、N末端もしくはC末端のいずれか又はその両方に位置し得る。CBMは、類似のアミノ酸配列及び三次元構造によって複数のファミリーに分類されている(http://afmb.cnrs−mrs.fr/CAZY/index.html)。CBMは不溶性基質の分解に対して主な役割を果たす(45)。例えば、CBMは触媒コアドメインを基質の近傍に維持することに関与し、接触の長さと緊密性を増大させる。さらに場合によっては、CBMは、集合したセルロース鎖の水素結合を弱めることにより、セルロースミクロフィブリル構造を変化させることもできる(13、14、33)。
【非特許文献1】de Vries R. P., B. Michelsen, C. H. Poulsen., P. A. Kroon, R. H. H. van den Heuvel, C. B. Faulds, G. Williamson, J. P. T. W. van den Hombergh, and J. Visser. 1997. The faeA genes from Aspergillus niger and Aspergillus tubingensis encode ferulic acid esterases involved in degradation of complex cell wall polysaccharides. Appl. Environ. Microbiol. 63: 4638−4644.
【非特許文献2】Kroon, P. A., G. Williamson, N. M. Fish, D. B. Archer, and N. J. Belshaw. 2000. A modular esterase from Penicillium funiculosum which releases ferulic acid from plant cell walls and binds crystalline cellulose contains a carbohydrate binding module. Eur. J. Biochem. 267: 6740−6752.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、菌類、例えば黒こうじ菌の遊離植物細胞壁分解酵素と融合植物細胞壁分解酵素との間の相乗効果についての考察に関する。遺伝子工学処理された細菌性セルロソームに基づいた近年の研究において、二つの触媒成分の物理的近接により、扱い難い基質に対する相乗作用の増大が観察された(17)。これに基づき、本発明者は、菌類性フェルロイルエステラーゼと第二の酵素がグラフトされるクロストリジムドッケリンドメインとを細菌性のCBMを有する足場タンパク質上に結びつけたキメラタンパク質を設計した(31)。しかし、組換えタンパク質の産生収率は工業規模での試験的応用に十分な高さではなく、新たな戦略が構想された。本発明の研究において、本発明者は、高度にグリコシル化されたリンカーペプチドにより分離される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA(FAEA)及びキシラナーゼB(XYNB)の二つの菌類性酵素を融合し、フェルラ酸放出の効率が増大した二機能性酵素(FLX)を得た。さらに本発明者は、第二の構築物において、この二機能性酵素のC末端に黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB(CBHB)由来の菌類性CBMも付加した(FLXLC)。両ハイブリッド酵素は黒こうじ菌で良好に産生され、生化学的観点及び動態学的観点について十分に解析され、そして最終的に、天然基質であるトウモロコシふすま及び小麦ふすまからフェルラ酸を放出するために使用された。この研究の目的は、遊離酵素又は融合酵素を用いてフェルラ酸放出の効率を比較して、菌類性酵素の物理的近接によって生じる酵素の相乗効果を研究することであった。さらに、二機能性酵素のC末端でのCBM付加の効果をFLXLC構築物において研究した。
【0005】
本発明は、遊離植物細胞壁分解酵素の使用と比較した場合の、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素の単一のキメラタンパク質における、融合の相乗効果の実証に依るものである。
【0006】
したがって、本発明の主な目的は、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素間の新規な融合タンパク質を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、上記融合タンパク質を、基質である植物に、また有利には農業副産物に適用することによって、植物細胞壁に連結した目的の化合物を調製するための新規な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、植物もしくは野菜の副産物から植物細胞壁に存在する目的の化合物を調製する枠組みにおいて、又はパルプもしくは紙の漂白の枠組みにおいて、植物細胞壁分解のプロセスを実施するための、C末端の糖質結合モジュール(CBM)を含まない少なくとも二つの植物細胞壁分解酵素、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質の使用に関するものであり、前記酵素及びCBMは、菌類の天然タンパク質又はその変異型に対応する組換えタンパク質である。
【0009】
「植物細胞壁分解酵素」という表現は、細胞壁の成分、例えばセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの消化を行うことが可能な酵素を表す。上記融合タンパク質における植物細胞壁分解酵素は同一であるか、又は互いに異なる。
【0010】
「C末端の糖質結合モジュール」という表現は、その関連する酵素をセルロースに標的化する、セルロースへの親和性を有する分子を表す。
【0011】
本発明は、より詳細には、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、
−セロビオヒドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、及びエキソグルカナーゼ等のセルラーゼ、又はβ−グルコシダーゼ、
−キシラナーゼ等のヘミセルラーゼ、
−ラッカーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、多機能型ペルオキシダーゼ等の、リグニンを分解することが可能なリグニナーゼ、又は、セロビオースデヒドロゲナーゼ及びアリールアルコールオキシダーゼ等の補助的な酵素、
−フェルロイルエステラーゼ、シンナモイルエステラーゼ、及びクロロゲン酸加水分解酵素等の、フェルラ酸等の桂皮酸を放出すること及びヘミセルロース鎖間のジフェルラ酸架橋を加水分解することが可能なシンナモイルエステル加水分解酵素
から選択される加水分解酵素である、上記のような使用に関する。
【0012】
本発明は、より詳細には、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素がフェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼから選択される、上記のような使用に関する。
【0013】
本発明はより詳細には、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、
*子嚢菌、例えばアスペルギルス(Aspergillus)株、またより詳細には黒こうじ菌、
*担子菌、例えばピクノポラス(Pycnoporus)株又はハロシフィナ(Halociphina)株、またより詳細にはシュタケ(Pycnoporus cinnabarinus)、ピクノポラス・サンギネウス(Pycnoporus sanguioneus)、又はハロシフィナ・ビロサ(Halocyphina villosa)
から選択される菌類に由来する天然酵素又はその変異型に対応する、上記のような使用に関する。
【0014】
本発明は、より詳細には、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、黒こうじ菌等のアスペルギルス株由来の天然酵素又はその変異型に対応する、上記のような使用に関する。
【0015】
本発明は、より詳細には、植物細胞壁分解酵素の少なくとも一つが、
−配列番号1で表される核酸でコードされる、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA、又は
−配列番号3で表される核酸でコードされる、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼB
から選択されるフェルロイルエステラーゼである、上記のような使用に関する。
【0016】
本発明は、より詳細には、植物細胞壁分解酵素のうちの少なくとも一つが、配列番号5で表される核酸でコードされる配列番号6で表される、黒こうじ菌のキシラナーゼB等の上記のキシラナーゼである、上記のような使用に関する。
【0017】
本発明は、より詳細には、CBMであるタンパク質が、子嚢菌、例えばアスペルギルス株、またより詳細には黒こうじ菌から選択される菌類に由来する天然酵素又はその変異型に存在するCBMから選択される、上記のような使用に関する。
【0018】
本発明に従って使用され得るCBMはファミリー1のものである。
【0019】
本発明は、より詳細には、CBMが、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号7で表される核酸でコードされる、配列番号8で表されるCBMである、上記のような使用に関する。
【0020】
本発明は、自身に含まれるタンパク質の少なくとも二つの間にリンカーを含む融合タンパク質の上記のような使用にも関するものであり、当該リンカーは10〜100アミノ酸、有利には約50アミノ酸のポリペプチドである。
【0021】
本発明は、より詳細には、自身に含まれるタンパク質のそれぞれの間にリンカーが包まれる融合タンパク質の上記のような使用に関する。
【0022】
本発明は、より詳細には、リンカーが、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号9で表される核酸でコードされる配列番号10で表される配列等の、高度にグリコシル化されたポリペプチドである、上記のような使用に関する。
【0023】
本発明は、より詳細には、フェルロイルエステラーゼとキシラナーゼ、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質の、上記のような使用に関する。
【0024】
本発明は、より詳細には、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA又は配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質の、上記のような使用に関する。
【0025】
本発明は、より詳細には、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質の上記のような使用に関するものであり、当該融合タンパク質は、二つの前記タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号12で表される。
【0026】
本発明は、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質の、上記のような使用にも関する。
【0027】
本発明は、より詳細には、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質の、上記のような使用に関するものであり、当該融合タンパク質は、三つの前記タンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号14で表される。
【0028】
本発明は、より詳細には、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質の、上記のような使用に関するものであり、当該融合タンパク質は、二つの前記タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号16で表される。
【0029】
本発明は、より詳細には、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質の、上記のような使用に関する。
【0030】
本発明は、より詳細には、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質の、上記のような使用に関するものであり、当該融合タンパク質は、三つの前記タンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号18で表される。
【0031】
本発明は、以下の目的の化合物、
−バイオエタノール、
−抗酸化剤、例えば、フェルラ酸、又は桂皮酸及びヒドロキシチロソールであるカフェ酸、又は没食子酸、
−香料、例えば、フェルラ酸又はp−クマル酸の生体内変換によりそれぞれ得られる、バニリン又はp−ヒドロキシベンズアルデヒド
の調製の枠組みにおいて、又はパルプ及び紙の漂白の枠組みにおいて、植物細胞壁分解のプロセスを行うための、上記のような使用に関する。
【0032】
本発明は、前記融合タンパク質が、基質である植物もしくは野菜の副産物に直接加えられるか、又は前記融合タンパク質をコードする核酸で形質転換された上記の菌類等の菌類細胞、より詳細には黒こうじ菌及びシュタケによって前記融合タンパク質が分泌され、前記菌類が、基質である前記植物もしくは野菜の副産物と接触させられる、上記のような使用に関する。
【0033】
本発明は、植物又は野菜の副産物から植物細胞壁に存在する目的の化合物を調製するための、植物細胞壁を分解する方法であって、
−植物又は野菜の副産物又は産業廃棄物を上記の融合タンパク質又は上記の形質転換された菌類細胞によって酵素処理する工程、
−任意選択で、融合タンパク質の作用と組み合わせた蒸気爆発を用いて植物又は野菜の副産物を物理的に処理する工程、
−任意選択で、適切な微生物又は酵素により、上記酵素処理中に細胞壁から放出された化合物を生体内変換する工程、
−上記酵素処理中に細胞壁から放出された、又は上記生体内変換工程中に得られた目的の化合物を回収し、必要であれば精製する工程
を含むことを特徴とする方法にも関する。
【0034】
好ましくは、本発明による方法において融合タンパク質で処理される植物は、サトウダイコン、コムギ、トウモロコシ、イネ、又は製紙業に使用される全ての樹木から選択される。
【0035】
好ましくは、本発明による方法において融合タンパク質で処理される野菜の副産物又は産業廃棄物は、麦わら、トウモロコシふすま、小麦ふすま、米ぬか、リンゴの絞りかす、コーヒーかす、コーヒーの副産物、オリーブ工場の排水から選択される。
【0036】
本発明は、より詳細には、目的の化合物として抗酸化剤を調製するための上記のような方法であって、
−CBMを含まない細胞壁分解酵素、すなわちフェルロイルエステラーゼA、フェルロイルエステラーゼB、クロロゲン酸ヒドロラーゼ、キシラナーゼのうちの少なくとも二つを含む融合タンパク質による植物又は野菜の副産物の処理であって、融合タンパク質が好ましくは、フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、クロロゲン酸ヒドロラーゼ−キシラナーゼから選択される処理、
−前記植物又は野菜の副産物の細胞壁から放出された抗酸化剤の回収、また必要であればその精製
を含む方法に関する。
【0037】
本発明は、より詳細には、目的の抗酸化剤としてフェルラ酸等の桂皮酸を調製するための上記のような方法に関するものであり、使用される融合タンパク質は上記のように、フェルロイルエステラーゼとキシラナーゼ、及び任意選択でCBMを含み、より詳細には、配列番号12、配列番号14、配列番号16、及び配列番号18から選択される。
【0038】
有利には、フェルラ酸等の抗酸化剤の調製の枠組みにおいて、上記の融合タンパク質で処理される植物がサトウダイコン、コムギ、トウモロコシ、イネから選択されるか、又は上記の融合タンパク質で処理される野菜の副産物もしくは産業廃棄物が麦わら、トウモロコシふすま、小麦ふすま、米ぬか、リンゴの絞りかす、コーヒーかす、コーヒーの副産物、オリーブ工場の排水から選択される。
【0039】
本発明は、目的の化合物として香料を調製するための上記のような方法であって、
−上記の抗酸化剤の調製の枠組みで使用した融合タンパク質による、植物又は野菜の副産物の処理、
−黒こうじ菌等の子嚢菌又はシュタケ等の担子菌から選択される微生物により産生された無規定の酵素と接触させることによる、上記工程中に細胞壁から放出された化合物の生体内変換、
−上記生体内変換の工程で得られた香料の回収、また必要であればその精製
を含む方法にも関する。
【0040】
本発明は、より詳細には、目的の香料としてバニリンを調製するための上記のような方法に関するものであり、使用される融合タンパク質は、上記のフェルラ酸の調製に使用されるものから選択され、生体内変換の工程は、細胞壁から放出されるフェルラ酸を黒こうじ菌等の子嚢菌又はシュタケ等の担子菌により産生される無規定の酵素と接触させることによって行われる。
【0041】
有利には、バニリン等の香料の調製において使用される植物及び野菜の副産物又は産業廃棄物は、抗酸化剤の調製のための上記のものから選択される。
【0042】
本発明は、目的の化合物としてバイオエタノールを調製するための上記のような方法であって、
−CBMを含まない植物細胞壁分解酵素、すなわちセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、エステラーゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ、アリールアルコールオキシダーゼのうちの少なくとも二つを含む融合タンパク質による、植物又は野菜の副産物の処理であって、融合タンパク質が好ましくは、エンドグルカナーゼ−エキソグルカナーゼ、ラッカーゼ−キシラナーゼ、キシラナーゼ−セルラーゼ(エンドグルカナーゼ又はエキソグルカナーゼ)から選択される処理であり、有利には前記植物又は野菜の副産物の物理的処理と組み合わせられる処理、
−セルラーゼ、ヘミセルラーゼもしくはエステラーゼから選択される酵素、又は黒こうじ菌もしくはセルラーゼ生産性糸状菌(Trichoderma reesei)等の子嚢菌から選択される微生物と組み合わせた、上記の融合タンパク質の使用による、又は融合タンパク質を分泌する形質転換された菌類による、上記工程から得られる処理された植物又は野菜の副産物の、発酵性糖への生体内変換、
−酵母による、発酵性糖のバイオエタノールへの生体内変換
を含む方法にも関する。
【0043】
本発明は、より詳細には、融合タンパク質がエンドグルカナーゼ−エキソグルカナーゼ、ラッカーゼ−キシラナーゼ、キシラナーゼ−セルラーゼ(エンドグルカナーゼ又はエキソグルカナーゼ)から選択される、その後のバイオエタノールの製造のための発酵性糖を調製するための上記のような方法に関する。
【0044】
有利には、バイオエタノールの調製の枠組みにおいて使用される植物及び野菜の副産物又は産業廃棄物は、樹木、一年生植物、又は農業副産物から選択される。
【0045】
本発明は、パルプ及び紙を漂白する方法であって、
−CBMを含まない植物細胞壁分解酵素、すなわちフェルロイルエステラーゼA、フェルロイルエステラーゼB、キシラナーゼ、ラッカーゼ、アリールアルコールオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、多機能型ペルオキシダーゼ、又はセロビオースデヒドロゲナーゼのうちの少なくとも二つを含む融合タンパク質と組合せた、植物又は野菜の副産物の化学的及び物理的処理、
−任意選択で、CBMを含まない植物細胞壁分解酵素、すなわちフェルロイルエステラーゼA、フェルロイルエステラーゼB、キシラナーゼ、ラッカーゼ、アリールアルコールオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、多機能型ペルオキシダーゼ、又はセロビオースデヒドロゲナーゼのうちの少なくとも二つを含む融合タンパク質を分泌する形質転換された菌類による、上記工程で得られる処理された植物又は野菜の副産物のバイオパルプ化、
−CBMを含まない植物細胞壁分解酵素、すなわちフェルロイルエステラーゼA、フェルロイルエステラーゼB、キシラナーゼ、ラッカーゼ、アリールアルコールオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、多機能型ペルオキシダーゼ、又はセロビオースデヒドロゲナーゼのうちの少なくとも二つを含む融合タンパク質による、上記工程で得られる処理された植物又は野菜の副産物のバイオ漂白
を含む方法にも関する。
【0046】
本発明は、より詳細には、植物及び野菜の副産物の処理の第一の工程で使用される融合タンパク質が、フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、ラッカーゼ−キシラナーゼ、アリールアルコールオキシダーゼ−マンガンペルオキシダーゼから選択され、バイオパルプ化の工程で使用される形質転換された菌類により分泌される融合タンパク質が、シュタケ又は黒こうじ菌により過剰生成された、フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、ラッカーゼ−キシラナーゼ、アリールアルコールオキシダーゼ−マンガンペルオキシダーゼから選択され、バイオ漂白の工程で使用される融合タンパク質が、フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼA−キシラナーゼ、フェルロイルエステラーゼA−フェルロイルエステラーゼB−キシラナーゼ、ラッカーゼ−キシラナーゼ、アリールアルコールオキシダーゼ−マンガンペルオキシダーゼから選択される、パルプ及び紙の漂白のための上記のような方法に関する。
【0047】
本発明は、C末端の糖質結合分子(CBM)を含まない少なくとも二つの植物細胞壁分解酵素、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質に関するものであり、前記酵素及びCBMは、上記のような菌類の天然タンパク質又はその変異型に対応する組換えタンパク質である。
【0048】
本発明は、より詳細には、自身に含まれるタンパク質の少なくとも二つの間にリンカーを含む、上記のような融合タンパク質に関するものであり、前記リンカーは上記のようなものである。
【0049】
本発明は、より詳細には、フェルロイルエステラーゼとキシラナーゼ、及び任意選択でCBMの間の、上記のような融合タンパク質に関する。
【0050】
本発明は、より詳細には、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA又は配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の、上記のような融合タンパク質に関する。
【0051】
本発明は、より詳細には、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の上記のような融合タンパク質に関するものであり、当該融合タンパク質は、二つの前記タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号12で表される。
【0052】
本発明は、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼB、及び黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMの間の、上記のような融合タンパク質にも関する。
【0053】
本発明は、より詳細には、配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼB、及び配列番号8で表されるCBMの間の、上記のような融合タンパク質に関するものであり、当該融合タンパク質は、三つの前記タンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号14で表される。
【0054】
本発明は、より詳細には、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の上記のような融合タンパク質に関するものであり、当該融合タンパク質は、二つの前記タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号16で表される。
【0055】
本発明は、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼB、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼB、及び黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMの間の、上記のような融合タンパク質にも関する。
【0056】
本発明は、より詳細には、配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼB、配列番号4で表される黒こうじ菌のキシラナーゼB、及び配列番号6で表されるCBMの間の、上記のような融合タンパク質に関するものであり、当該融合タンパク質は、三つの前記タンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号18で表される。
【0057】
本発明は、上記のような融合タンパク質をコードする核酸にも関する。
【0058】
本発明は、より詳細には、配列番号12、配列番号14、配列番号16、及び配列番号18で表される融合タンパク質をそれぞれコードする、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17で表される核酸に関する。
【0059】
本発明は、配列番号1の配列が、配列番号24に対応するプレフェルロイルエステラーゼAをコードする配列番号23の配列に置き換えられている、配列番号11及び配列番号13に対応する配列番号19及び配列番号21で表される核酸にも関するものであり、当該配列番号19及び配列番号21の核酸は、配列番号20及び配列番号22の配列に対応する融合プレタンパク質をコードする。
【0060】
本発明は、配列番号3の配列が、配列番号30に対応するプレフェルロイルエステラーゼBをコードする配列番号29の配列に置き換えられている、配列番号15及び配列番号17に対応する、配列番号25及び配列番号27で表される核酸にも関するものであり、当該配列番号25及び配列番号27の核酸は、配列番号20及び配列番号22の配列に対応する融合のプレタンパク質をコードする。
【0061】
本発明は、上記のような核酸で形質転換したpAN52.3等のベクターにも関する。
【0062】
本発明は、上記のようなベクターを使用することによって上記のような核酸で形質転換した、子嚢菌又は担子菌、より詳細には黒こうじ菌又はシュタケ等の宿主細胞にも関する。
【0063】
本発明は、上記のような宿主細胞のin vitroでの培養、培養中に前記宿主細胞により産生された融合タンパク質の回収、及び必要であればその精製を含む、上記のような融合タンパク質を調製する方法にも関する。
【0064】
本発明は、キメラ酵素FLX(配列番号12)及びFLXLC(配列番号14)の調製及び特性についての以下の詳細な記載でさらに説明される。
【0065】
二つのキメラ酵素FLX及びFLXLCを設計し、黒こうじ菌で良好に過剰産生させた。FLX構築物は、黒こうじ菌のエンドキシラナーゼB(XYNB)に融合したフェルロイルエステラーゼA(FAEA)をコードする配列から成る。C末端の糖質結合モジュール(CBMファミリー1)をFLXにグラフトし、第二のハイブリッド酵素FLXLCを生成した。各パートナーの間に、構築物を安定化するための高度にグリコシル化されたリンカーを含めた。ハイブリッドタンパク質を均一に精製し、FLX及びFLXLCの分子量をそれぞれ72kDa及び97kDaと推定した。ハイブリッド酵素の完全性を、FAEA及びポリヒスチジンタグに対する抗体を使用して、単一形態を示す免疫検出で確認した。二機能性酵素の各触媒モジュールの物理化学的特性は、遊離酵素のそれに相当する。さらに、本発明者は、FLXLCが微結晶性セルロース(アビセル)に強い親和性を示し、結合パラメータが、解離定数はK=9.9×10−8Mに相当し、結合能はアビセル1g当たり0.98μmolに相当することを確認した。両方の二機能性酵素を、天然基質であるトウモロコシふすま及び小麦ふすまからフェルラ酸を放出するそれらの能力について研究した。遊離酵素FAEA及びXYNBと比較して、FLX及びFLXLCを使用した方が、両基質で高い相乗効果が得られた。さらに、基質としてトウモロコシふすまを使用したフェルラ酸の放出では、FLXと比較してFLXLCで相乗効果が増大し、これにより、CBMの正の役割が確認された。結論として、これらの結果は、黒こうじ菌由来の天然で遊離している複数の細胞壁加水分解酵素とCBMの、二機能性酵素への融合により、複雑な基質の分解に対する相乗効果が増大することを示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
材料及び方法
【0067】
株及び培養培地
大腸菌JM109(Promega)をベクターの構築及び増殖に使用し、黒こうじ菌株D15#26(pyrg−)(22)を組換えタンパク質の産生に使用した。pyrG遺伝子及び発現カセットFLX又はFLXLC(図1)をそれぞれ含むベクターによる同時形質転換の後、黒こうじ菌を、選択のために、70mMのNaNO、7mMのKCl、11mMのKHHPO、2mMのMgSO、グルコース1%(w/v)、及び微量元素[1000×ストック溶液:76mMのZnSO、25mMのMnCl、18mMのFeSO、7.1mMのCoCl、6.4mMのCuSO、6.2mMのNaMoO、174mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)]を含む(ウリジンを含まない)固体最少培地で成長させた。液体培地における組換えタンパク質の産生について形質転換体をスクリーニングするために、70mMのNaNO、7mMのKCl、200mMのNaHPO、2mMのMgSO、グルコース6%(w/v)及び微量元素を含む100mlの培養培地を、500mLのバッフルフラスコにおいて1×10胞子/mlで培養した。黒こうじ菌BRFM131(Banque de Ressources Fongiques de Marseille)をゲノムDNAの抽出に使用し、得られたDNAをリンカー−cbm配列のPCR増幅法のための鋳型として使用した。
【0068】
発現ベクターの構築と菌類の形質転換
黒こうじ菌由来のFAEA(配列番号19、Y09330)、XYNB(配列番号5、AY126481)、及びCBM(配列番号7、AF156269)をコードする配列の融合を、オーバーラップ伸長PCR法(25)によって行った。黒こうじ菌のFAEAコード領域を、フォワードプライマー

及びリバースプライマー5’−ACTGGAGTAAGTCGAGCCCCAAGTACAAGCTCCGCT−3’を使用して、cDNAから増幅した(41)。CBHBのリンカー領域をコードするゲノムDNA(配列番号9、AF156269)を、フォワードプライマー5’−AGCGGAGCTTGTACTTGGGGCTCGACTTACTCCAGT−3’及びリバースプライマー5’−GGTCGAGCTCGGGGTCGACGCCGCCGATGTCGAACT−3’を使用して、黒こうじ菌BRFM131から増幅した。最後に、xynB遺伝子を、フォワードプライマー5’−AGTTCGACATCGGCGGCGTCGACCCCGAGCTCGACC−3’及びリバースプライマー

によって、cDNAから増幅した(29)(Hisタグは全ての配列において点線で示されている)。得られたオーバーラップしている断片を混合し、融合配列を両方の外部プライマーを使用して一工程反応で合成した。構築物をpGEM−Tベクター(Promega)内にクローニングし、クローニングされたPCR産物を配列決定して確認した。融合断片を、線状化したNcoI−HindIII内にクローニングし、pAN52.3を脱リン酸化して、pFLXプラスミドを得た(図1、A)。フォワードプライマー

及びリバースプライマー5’−ACTGGAGTAAGTCGAGCCCTGAACAGTGATGGACGA−3’を用いる、組換えFAEA−リンカー−XYNB配列をコードする断片の増幅のための鋳型としてpFLXを使用して、FLXLCプラスミドを構築した。黒こうじ菌BRFM131由来のゲノムDNAを、利用可能なcbhB配列(AF156269)から設計した二つの特異的なプライマー、フォワードプライマー5’−TCGTCCATCACTGTTCAGGGCTCGACTTACTCCAGT−3’及びリバースプライマー

を用いるリンカー−CBM配列のPCR増幅のための鋳型として使用した。融合断片を、両方の外部プライマーを使用してオーバーラップ伸長PCR法で合成し、配列決定によって管理し、pAN52.3にクローニングして、pFLXLCベクターを得た(図1、B)。両発現ベクターにおいて、アスペルギルス・ニダランス(A.nidulans)のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gpdA)のプロモーター、gpdAのmRNAの5’非翻訳領域、及びアスペルギルス・ニダランスのtrpCターミネーターを、組換え配列の発現を誘発するために使用した。さらに、FAEAのシグナルペプチド(21アミノ酸)を、両組換えタンパク質の分泌を標的化するために使用した。
【0069】
菌類の同時形質転換の両者を、pFLX発現ベクター又はpFLXLC発現ベクターをそれぞれと、pyrG選択マーカーを含むpAB4−1(48)とを10:1の比で使用して、Punt及びvan den Hondel(39)によって記載されているようにして行った。さらに、黒こうじ菌D15#26を、対照実験のための発現ベクターを用いずにpyrG遺伝子で形質転換した。同時形質転換体を、選択最少培地プレート(ウリジンを含まない)におけるウリジン原栄養性について選択し、30℃で8日間インキュベートした。形質転換体をスクリーニングするために、各構築物についての40個の個々のクローンを培養し、毎日確認した。
【0070】
フェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼの活性のスクリーニング
培養物を、振盪培養器(130rpm)において30℃で14日間観察した。pHは1Mのクエン酸溶液で毎日5.5に調整した。各培養条件を二重で実施した。液体培養培地からアリコート(1ml)を毎日回収し、菌糸体を濾過により取り除いた。フェルラ酸メチル(MFA)を基質として使用してこれまでに記載されたようにエステラーゼ活性を評価し(40)、キシラナーゼの活性を、Baileyらの方法(1)に基づいた、1%(w/v)カバノキのキシランから放出されたキシロースの量の測定によって算出した。これらの酵素を、キシラン溶液[カバノキ由来の1%(w/v)キシラン、50mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)]と共に45℃で5分間インキュベートした。放出された還元糖を、標準としてキシロースを用いてDNS法によって求めた(35)。酵素及び基質のサンプルにおける任意のバックグラウンドを補正するためにブランクを用いて全てのアッセイを行った。
【0071】
活性はnkatal(nkat)で表され、1nkatは、規定の条件下で1秒当たり1nmolのフェルラ酸又は1nmolの還元糖の放出を触媒する酵素の量として定義される。それぞれの実験は二重で行い、測定は三重で行い、標準偏差は、エステラーゼ活性については平均の2%未満、キシラナーゼ活性については5%未満であった。
【0072】
組換えタンパク質の精製
各構築物の最良の単離物をスクリーニング手順と同じ条件で播種した。培養物を成長の8日後に採取し、濾過し(0.7μm)、ポリエーテルスルホン膜(30kDaのカットオフ分子量)(Millipore)を通して限外濾過により濃縮した。濃縮された画分を、30mMのTris−HCl(pH7.0)結合緩衝液に対して透析し、Hisタグを付けられたタンパク質の精製を、キレート化セファロース高速カラム(13×15cm)(Amersham Biosciences)で行った(38)。遊離タンパク質に関して、hisタグ配列を含む組換えキシラナーゼBも、前述したようにキレート化セファロース高速カラムで精製した(29)。最後に、組換えFAEAを前述したようにフェニルセファロースカラムを使用して一工程手順で精製した(41)。
【0073】
組換えタンパク質の解析
タンパク質の分析及びN末端アミノ酸配列の決定
標準としてウシ血清アルブミンを用いて、Lowryら(34)に従ってタンパク質濃度を求めた。タンパク質の産生及び精製を、クマシーブルー染色SDS−PAGE(11%ポリアクリルアミド)スラブゲルを使用して確認した。N末端配列を、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidine difluoride)膜(Millipore)上にエレクトロブロットしたFLX及びFLXLCのサンプル(100μg)からエドマン分解に従って決定した。分析は、Applied Biosystem 470Aで行った。
【0074】
ウェスタンブロット分析
全タンパク質及び精製タンパク質を、Laemmli(28)に従って11%SDS/ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、室温で45分間、BA85ニトロセルロース膜(Schleicher及びSchuell)にエレクトロブロットした。膜を4℃で一晩、ブロッキング溶液(50mMのTris、150mMのNaCl、及び2%(v/v)ミルク(pH7.5))中でインキュベートした。それから、膜をTBS−0.2%Tweenで洗浄し、抗FAEA血清を1/8000の希釈率で含むか、又は抗ポリヒスチジン−ペルオキシダーゼ血清(Sigma)を含む、ブロッキング溶液で処理した。抗FAEA抗体については、その後、膜を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Promega)と結合したヤギ抗ウサギ免疫グロビンGとインキュベートした。製造業者の手順に従って、化学発光ウェスタンブロッティングキット(Roche)によってシグナルを検出した。
【0075】
組換えタンパク質の温度及びpHの安定性
精製した組換えタンパク質の熱安定性を30〜70℃の範囲で試験した。アリコートを指定温度でプレインキュベートし、0℃で冷却した後、標準的な条件下で先に示したようにエステラーゼ及びキシラナーゼの活性を評価した。二機能性タンパク質の完全性を確認するために、インキュベーションの後にサンプルをSDS−PAGEで分析した。タンパク質の安定性に対するpHの効果を、精製した組換えタンパク質をリン酸−クエン酸緩衝液(pH2.5〜7.0)及びリン酸ナトリウム(pH7.0〜8.0)においてインキュベートして試験した。全てのインキュベートは90分間行い、それからアリコートを標準的な反応混合物に移し、残存している活性の量を求めた。プレインキュベーションの前に求めた活性を100%とした。
【0076】
エステラーゼ及びキシラナーゼの活性に対する温度及びpHの効果
用いる条件下での最適な温度を求めるために、精製した組換えタンパク質のアリコートを様々な温度(30〜70℃)でインキュベートし、エステラーゼ及びキシラナーゼの活性を評価した。標準的な条件を用いて、クエン酸−リン酸緩衝液(pH2.5〜7.0)及びリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0〜8.0)を使用して最適pHを求めた。
【0077】
セルロース結合能及び解離定数の決定
精製したFLX及びFLXLCのサンプルを、25mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7)中のセルロースを含む2mlのマイクロ遠心チューブに加え、最終容量を1mlとした。FLX(対照)及びFLXLCの、アビセルPH101セルロース(Fluka)への結合能を、様々な量の組換えタンパク質(30〜170μg)及び一定量のセルロース(2mg)を使用して求めた。両組換えタンパク質をセルロースと共に4℃で1時間、ゆっくりと撹拌しながらインキュベートした。遠心分離(4000×g、10分間)の後、上清液に残ったタンパク質(遊離酵素)の量を求めた。セルロースに結合した酵素の量を、加えた全量から遊離FLX又は遊離FLXLCの量を差し引くことによって算出した。「1/遊離酵素」に対する「1/結合した酵素」の両逆数プロットを描くことによってデータを分析した。解離定数は、1/B=(Kd/Bmax×1/F)+1/Bmax(式中、Bは結合した酵素の濃度であり、Fは遊離酵素の濃度である)として定義される(21、37)。
【0078】
適用試験
酵素的加水分解
小麦ふすま(WB)及びトウモロコシふすま(MB)を脱デンプン化した。これらの基質を130℃で10分間の熱処理に付した。酵素的加水分解を、0.01%アジ化ナトリウムを含むpH6.0の0.1Mの3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝液内で、40℃のサーモスタット制御振盪培養器において行った。WB又はMB(200mg)を、別個に、精製したFAEA(配列番号2)、XYNB(配列番号6)、FAEA+XYNB、FLX及びFLXLCと、最終容量5mlでインキュベートした。遊離酵素及び二機能性酵素の精製した酵素の濃度は、各アッセイで、乾燥ふすま200mg当たり11nkatalのエステラーゼ活性及び6496nkatalのキシラナーゼ活性であった。この比は、精製した二機能性酵素で見られたモル濃度対モル濃度の様相に対応する。各アッセイは二重で行い、標準偏差は、WB及びMBで値の平均の5%未満であった。
【0079】
アルカリ抽出可能なヒドロキシ桂皮酸の調製
アルカリ抽出可能なヒドロキシ桂皮酸含の総含有量を、20mgのWB又はMBを2NのNaOH中に加えることによって求め、暗所で35℃で30分間インキュベートした。pHを2NのHClで2に調整した。フェノール酸を3mlのエーテルで三回抽出した。有機相を試験管に移し、40℃で乾燥した。1mlのメタノール/HO(50:50)(v/v)を乾燥抽出物に加え、サンプルを、次の節に記載するようなHPLC系に注入した。アルカリ抽出可能なフェルラ酸の総含有量は、酵素的加水分解では100%であると考えられた。
【0080】
フェルラ酸の測定
酵素的加水分解物を100%メタノールで1/2に希釈し、12000×gで5分間遠心分離し、上清を0.2μmのナイロンフィルター(Gelman Sciences, Acrodisc 13, Ann Arbor, MI)を通して濾過した。濾液をHPLCで分析した(25μLを注入)。HPLC分析は、可変UV/VIS検出器、100個の位置のオートサンプラー−オートインジェクターを備えたHP1100モデル(Hewlett−Packard Rockville, MD)で、280nm及び30℃で行った。分離は、Merck RP−18逆相カラム(Chromolith 3.5μm、4.6×100mm、Merck)で行った。流速は1.4ml/分であった。使用した移動相は、20分間の総ラン時間で、1%酢酸及び10%アセトニトリル水溶液(A)対100%アセトニトリル(B)であり、勾配は以下のように変化した:溶媒Bは最初2分間は0%であり、その後10分間で50%まで上昇し、3分間で100%まで上昇し実行の終了まで継続した。データをHP3365 ChemStationで処理し、外部標準較正によって定量を行った。
【0081】
結果
【0082】
二機能性酵素の産生の設計及び研究
黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA(FAEA)及びキシラナーゼB(XYNB)のコード配列を、高度にグリコシル化されたリンカーをコードするセロビオヒドロラーゼB遺伝子(cbhB)由来の配列を両パートナーの間に付加することによって、遺伝子的に融合した(図1A)。第二の構築物FLXLCについては、対応する融合FLXを、リンカー−CBMをコードする黒こうじ菌のcbhB遺伝子の部分配列に融合した(図1B)。両方の翻訳融合は、分泌を標的化する内因性faeAシグナル配列と共に強く構成的なgpdAプロモーター及びtrpCターミネーターの制御下に置いた。黒こうじ菌D15#26のプロトプラストを、発現ベクターpFLX又はpFLXLCとpyrG遺伝子を含むプラスミドpAB4−1との混合物で同時形質転換した。形質転換体を、ウリジンを含まない最少培地プレートで成長するこれらの能力について選択した。各構築物について40個の形質転換体を、内因性faeA及びxynB遺伝子の発現を抑制するグルコース最少培地に播種した。pAB4−1で形質転換した対照宿主では、エステラーゼ又はキシラナーゼの活性は全く検出されなかった。両構築物で、2日間の成長の後、形質転換体の細胞外培地でエステラーゼ及びキシラナーゼの活性が検出された(図2)。フェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼの活性が、培養中に共時的に検出された。最良のFLXLC及びFLXの形質転換体ではそれぞれ10日目及び11日目まで活性が増大し、14日目までにおおよそ安定したレベルに達した。最大エステラーゼ活性は、FLXについては13.0nkat/ml、そしてFLXLC形質転換体については9.8nkat/mlに達した。キシラナーゼの活性に関しては、FLX形質転換体では2870nkat/ml、そしてFLXLC形質転換体では2038nkat/mlの最大値が得られた。二機能性酵素内のFAEAパートナーの比活性を考慮すると、産生収率はFLX形質転換体及びFLXLC形質転換体でそれぞれ1.4g/L及び1.5g/Lと推測された。
【0083】
二機能性酵素の生化学的及び動態学的解析
SDS−PAGE及びウエスタンブロット分析
両方の場合において、産生したタンパク質をSDS/ポリアクリルアミドゲルにおける電気泳動で確認した(図3のレーン1及びレーン3)。FLX形質転換体及びFLXLC形質転換体からの全細胞外タンパク質においてそれぞれ72kDa及び97kDa付近に顕著なバンドが見られた。FLX及びFLXLCの観測された分子量と理論上の分子量との間の差異は、それぞれ約12%(w/w)及び26%(w/w)のグリコシル化を示唆していた。組換え酵素をキレート化セファロース高速カラム上で精製し、画分の均一性をSDS−PAGEによって管理した(レーン2及びレーン4)。
【0084】
全タンパク質の上清及び精製した画分から得た両キメラ酵素を、FAEAに対する抗体を使用して免疫検出した(図4A)。一つのシングルバンドが、FLX及びFLXLCの形質転換体のそれぞれで、全タンパク質抽出物(レーン1、レーン3)及び精製したサンプル(レーン2、レーン4)から示された。キシラナーゼ又はCBMに対する抗体が利用可能ではなかったので、組換えタンパク質の完全性を管理するために、C末端のヒスチジン−タグに対する抗体も免疫検出に使用した(図4B)。一つのシングルバンドがFLX及びFLXLCで検出され、これによって、分解された形態を全く有さない無傷タンパク質として二機能性酵素が産生されたことが確認された(レーン5〜レーン8)。陰性対照(C)により、両方の抗体がエピトープ特異的であること、及び内因性FAEAがこれらの培養条件で産生されないことが確認された。
【0085】
N末端の配列決定
FLX及びFLXLCの最初の5つのアミノ酸を配列決定し(ASTQG)、天然FAEAとアラインした。アラインメントは、組換えタンパク質と天然FAEAとの間で100%の同一性を示した。これらの結果により、FLX及びFLXLCが正しく処理されたことが確認された。
【0086】
二機能性酵素−セルロースの親和性及び結合能の分析
FLXとは対照的に、FLXLCはC末端に黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB由来のCBMを含む。CBMの結合パラメータを求めるために、FLXLCのセルロースとの相互作用のアッセイを行った。FLXLCのセルロース結合親和性及びセルロール結合能を微結晶性セルロースであるアビセルPH101に対して求めた。測定値は、解離定数(Kd)が9.9×10−8Mであり、結合能が0.98μmol/gアビセルであった。予測通り、キメラ酵素FLX(CBMを含まない)に関しては相互作用が見られなかった。
【0087】
生化学的及び動態学的パラメータ
CBMを含むか又は含まない、両方の酵素パートナーの融合が、各酵素の特徴を変更させているか否かを管理するために、エステラーゼ及びキシラナーゼの活性に従って、FLX及びFLXLCの生化学的及び動態学的パラメータを、遊離した組換えFAEA及びXYNBと比較した(表1)。最適pH及びpH安定性に関しては、二機能性酵素と遊離FAEA又はXYNBの両者との間に有意な差は見られなかった。最適温度及び温度安定性については、唯一の差はキシラナーゼの活性で測定されたわずかな違いだけであった。さらに、FLX及びFLXLCの完全性を様々な温度でのインキュベーションの後にSDS−PAGEによって管理したところ、両方の二機能性酵素は45℃まで完全に安定であり、50℃で部分的に切断された。切断型の第一のアミノ酸を配列決定し、GSGSSと同定した。この配列をFLX及びFLXLCとアラインしたところ、リンカー内で見られる配列と100%の同一性が示された。これらの結果により、高度にグリコシル化されたリンカーが45℃まで安定であり、GSGSS配列の手前で50℃で切断が生じることが示された。二つのリンカー配列を含むキメラFLXLCタンパク質は、C末端のリンカーでのみ切断された(XYNBとCBMとの間)。プロテアーゼに対する潜在的な切断部位を、ペプチド切断ツールを使用して両ハイブリッドタンパク質のアミノ酸配列上で確認したところ(19)、GSGSS近辺に切断部位は見出されなかった。
【0088】
動態学的特性に関して、FLX及びFLXLCのミカエリス定数を、MFA及びカバノキキシランを基質として使用してラインウィーバー・バークプロットから測定した。FLX及びFLXLCで見られた値は、遊離した組換えFAEA及びXYNBで見られた値と一致していた(表1)。二機能性酵素の比活性をフェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼの活性に基づいて求め、遊離FAEA及びXYNBと比較した(表1)。二機能性酵素で見られた値は、遊離FAEA及びXYNBで見られた値に近かった。
【0089】
つまり、これらの結果により、融合酵素モジュール(FAEA及びXYNB)の生化学的及び動態学的パラメータが主に二機能性複合体FLX及びFLXLCに保存されていることが確認された。
【0090】
小麦ふすま及びトウモロコシふすまからのフェルラ酸の酵素放出
二機能性タンパク質内の二つの酵素の物理的近接によって生じる相乗効果及びCBM付加の影響を研究するために、FA放出の効率について、FLX及びFLXLCを遊離酵素FAEA及びXYNBと比較した。全ての酵素を均一に精製し、細胞壁に含まれるFAの量が天然で高いWB及びMBとインキュベートした。遊離FAEAを使用した場合、4時間後及び16時間後にそれぞれ、WB由来の全アルカリ抽出性FAの41%及び51%が放出された(図5、A)。これらの割合は、遊離XYNBの追加によって51%(4時間)及び54%(16時間)にわずかに増大した。FLX又はFLXLCの効果に関して、本発明者は、わずか4時間のインキュベーションの後にFAの全放出を観察した。基質としてMBを用いると(図5B)、遊離FAEAは4時間後及び16時間後にそれぞれ4.2%及び4.8%のFAを放出したが、XYNBの追加ではこの割合は増大しなかった。しかし、FLX及びFLXLCは、4時間の加水分解の後にそれぞれ6.2%及び7.2%を放出することができた。酵素処理を一晩16時間行った場合、放出はFLX及びFLXLCで6.3%及び7.9%に増大した。相乗因子を求め遊離酵素(FAEA+XYNB)と融合酵素(FLX及びFLXLC)との間で比較した。表2で算出されるように、算出比は1よりも大きく、これにより、両基質について、相乗効果は、対応する遊離酵素よりも二機能性酵素で良好であることが示された。MBのFA放出に関して、相乗効果は4時間後及び16時間後でそれぞれ、FLX(1.53及び1.30)よりもFLXLC(1.80及び1.62)で高かった。結論として、これらの結果により、両基質に関して、二機能性酵素FLX及びFLXLCが、対応する遊離酵素(FAEA+XYNB)と比べて、FA放出に効果的であることが示された。さらに、これらの結果により、基質としてMBを使用したFA放出にFLXLCがより適していることが示されると考えられ、これによりCBMによって生じる正の効果が示唆される。
【0091】
結論
植物細胞壁の生分解には、その組成及び構造における不均一性のために、広範な酵素が必要とされる。異なる主鎖加水分解酵素と補助的な加水分解酵素との間の幾つかの組み合わせにより、細胞壁の効果的な分解を導く重要な相乗効果が示された(9、12)。本研究では、黒こうじ菌の二つの植物細胞壁分解酵素及び糖質結合モジュールを融合し、天然基質の分解に対する相乗効果を研究した。このようなハイブリッドタンパク質の構築は、広範な潜在的な用途を広げるタンパク質工学の本来の側面である。ここで、概念は、二つの機能的単位を採用して、改善された二機能性タンパク質を作り出すことにある(3、36)。このような複数のモジュールの組織化は一般的に自然に見出され、二つ以上の酵素活性又はタンパク質機能を有する酵素の産生をもたらす。バイオテクノロジー分野では幾つかの二機能性タンパク質が既に研究されており、これには、例えばα−アミラーゼとグルコアミラーゼとのハイブリッドが含まれる(44)。この研究の結果により、生デンプンの消化に対して、遊離酵素と比較して酵素効率の増大が示された。別の実験では、内部CBMを有するキメラキシラナーゼ/エンドグルカナーゼ(XynCenA)が構築されたが、この結果は、ハイブリッド酵素が、遊離酵素と比べて、均一なキシラン又はセルロース基質に対する加水分解に有意な影響を与えなかったことを示し、一方で、天然基質に対しての適用試験は行われなかった(46)。
【0092】
二つの細胞壁ヒドロラーゼの物理的近接によって生じる効果を評価するために、FAEAをXYNBと融合した(構築物FLX)。黒こうじ菌のCBHB由来の菌類性CBMを第二の構築物(FLXLC)においてC末端で融合し、二機能性酵素をセルロースに標的化した。両構築物に関して、高度にグリコシル化したリンカーペプチドを、三つの主な理由から、各モジュール(FAEA、XYNB、又はCBM)間で融合した。第一に、リンカーは、モジュールの、独立して折り畳む能力、及び互いに対する立体配座の自由度を保つ能力を維持することが知られている(36)。本願の場合、フェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼの両方がこの立体配座を採用することができ、遺伝子工学処理された二機能性タンパク質は、遊離酵素に対応する生物学的及び動態学的特性で活性であった。第二に、リンカーの高度なグリコシル化が、リンカーをプロテアーゼの活性から保護すること、最終的には融合されたモジュール間の切断の頻繁に起こる問題を回避することによって、タンパク質配列の安定性を改善する(8、36)。SDS−PAGE及びウェスタンブロット分析で示されるように両方の二機能性酵素が安定であったため、この効果は確認された。しかし、ハイブリッド酵素の安定性は熱処理によっていくらか制限を受けることが示された。実際に、FLX及びFLXLCの完全性に対する熱処理の影響は、これらが45℃まで安定であり、そして50℃でリンカー配列において切断されることを示した。最後に、黒こうじ菌のグルコアミラーゼ由来の高度にグリコシル化されたリンカーで実証されたように、高度にグリコシル化されたリンカーは、産生収率を増大させる分泌に正の役割を果たし得る(32)。実際に、FLXおよびFLXLCでの一つ又は二つのリンカーの存在に起因するグリコシル化部位は、小胞体での組換えタンパク質の滞留を延長させることができ、これにより正確な折り畳みのための追加の時間が与えられ、産生の増大がもたらされる(42)。この後者の仮説は、両方の二機能性酵素の産生収率が、対応する遊離した組換え酵素について得られた産生収率よりも高かった理由を説明し得る(29、41)。
【0093】
両酵素モジュールの近接により生じる相乗効果であって、且つ折り畳みの間のタンパク質の立体配座の変化の結果としての酵素特性の変化に起因する利益ではない相乗効果を研究するために、各モジュールの生化学的及び動態学的特徴を注意深く管理した。二機能性タンパク質FLX及びFLXLCの両方の主な生化学的及び動態学的特性、すなわち、温度安定性及びpH安定性、最適な温度及びpH、Km並びに比活性は、遊離酵素と同じ範囲内にある。今までに解析されていなかったため、黒こうじ菌のCBHB由来のCBMに関して、結合アッセイをセルロースに対して行った(20)。アビセルセルロースは、100〜250のグルコピラノース単位の非常に高い重合度と、高等植物のIβ型の特徴で本質的に構成される結晶相の50〜60%の結晶形態とを有する(49)。結果は、FLXLCがアビセルに対する親和性を有していることを示し、これによって、CBMの構造が乱されていないこと、及びCBMがハイブリッド酵素でもその機能を保持していることが確認された。
【0094】
最終的に、二機能性タンパク質FLX及びFLXLCの両方を試験して、酵素の相乗効果に対する二つの相補的な菌類酵素の物理的近接の効果、及びCMB付加の影響を研究した。適用試験は、それぞれ約1%及び3%(w/w)である植物細胞壁におけるFA量の多さで知られている二つの天然のモデル基質(WB及びMB)からのFA放出に基づいている(43)。両基質は農業で生じ、農業食品分野、化粧品分野及び医薬分野において価値化することができる(4、26)。遊離酵素は、WB及びMBからそれぞれFA含量の54%及び4.8%を放出することができた。対照的に、二機能性酵素は、WBからは全FAを、そしてMBからはCBMの存否に応じて6.3%又は7.9%まで、効率的に放出した。今までのところ、WBからのFA放出で見られたこれまでの結果はトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)のキシラナーゼ及び黒こうじ菌由来のFAEAで得られ、ここでは、全フェルラ酸の最大95%(w/w)が放出された(15)。MBに関して、フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)由来の市販製剤Novozym342を使用することで大量のFAが放出された(最大13.6%)(5)。しかし、本発明者は、この市販製剤が様々な種類の酵素活性を含んでいることを考慮する必要があった。本発明のアッセイにおいて、WBからの全FAが二機能性酵素処理によって放出された一方で、MBでは8%未満が得られたにすぎない。トウモロコシふすまのフェルラ酸含有量は小麦ふすまで見られたものよりも高いが、トウモロコシふすまのキシランの方がキシロース残基、アラビノース残基、及びガラストース残基によって多く置換されている(7、15)。従って、この差異は、酵素の近接を著しく制限する、トウモロコシにおけるヘテロキシラン骨格上の置換の数、側鎖における高度に枝分かれしたキシロースの存在、及びFA基の近傍でのアラビノースとキシロースとの間の連結の存在によって説明することができる。最後に、FLXLCによるMBの加水分解を考慮すると、CBMはFA放出に対する正の効果を示し、それはおそらく、(i)基質の近くでの酵素の濃度を増大させるセルロース標的化、及び/又は(ii)基質をより接近可能にするセルロース構造の不安定化によるものである。FLX又はFLXLCを使用することによる適用試験の結論として、遊離酵素FAEA及びXYNBと比較して、両基質に対するより良好な相乗効果がFA放出に関して得られた。全ての主な生化学的及び動態学的特性がハイブリッドタンパク質における各パートナーで変化しなかったので、全般的に高められた相乗効果が二機能性酵素内の各酵素パートナーの物理的近接に起因することが示唆された。FLXLCの場合、相乗効果はC末端CBMの付加によって正の影響を受けた。 さらに、活性部位の空間的位置が融合モジュール間で変化していないことも示され得る。
【0095】
全般的な結論として、補助的な酵素(FAEA)及び主鎖切断酵素(XYNB)等の相補的な細胞壁ヒドロラーゼを結びつける、植物細胞壁分解のための新規な酵素ツールの構築が、酵素パートナーの相乗効果を増大させる興味深い戦略であることが示された。バイオテクノロジー上の応用では、このようなハイブリッドタンパク質の利用は、高価でかつ汚染性である化学処理の代替となるか、又はパルプ及び紙、農産業及びバイオ燃料生産の分野における野菜の副産物の価値化のために既存の酵素処理を改善するものである。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本研究で使用した発現カセットを示す図である。FLXインサートを設計するために(A)、FAEA、CBHB由来のリンカー領域、及びXYNBをコードする黒こうじ菌の配列を共に融合した。第二の構築物において(B)、FLXの鋳型を、リンカー配列及びCBMをコードするcbhb配列と融合し、FLXLC挿入を生じさせた。発現カセットは、gpdAプロモーター及びtrpCターミネーターの制御下にある。両構築物は3’末端で6つのヒスチジンコード配列を含んでいた。(1)リンカーコード配列:GSTYSSGSSSGSGSSSSSSSTTTKATSTTLKTTSTTSSGSSSTSAA。
【図2】黒こうじ菌における細胞外のフェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼの経時的な活性を示す図である。フェルロイルエステラーゼ(A)及びキシラナーゼ(B)の活性は、最良のFLX(◆)形質転換体及びFLXLC(■)形質転換体で測定した。活性は、エステラーゼ及びキシラナーゼの活性にそれぞれ基質としてMFA及びカバノキキシランを使用して求めた。
【図3】FLX形質転換体及びFLXLC形質転換体により産生された細胞外タンパク質のSDS−PAGEを示す図である。FLX由来の全タンパク質及び精製したタンパク質(それぞれ、レーン1及びレーン2)及びFLXLC由来の全タンパク質及び精製したタンパク質(それぞれ、レーン3及びレーン4)をSDS−PAGE(11%ポリアクリルアミド)にロードした。ゲルをクマシーブルーで染色した。SD:分子量標準。
【図4】FLX形質転換体及びFLXLC形質転換体により産生された全タンパク質及び精製したタンパク質のウェスタンブロット分析を示す図である。FAEA(A)又はHis−タグ(B)に対する抗体を、FLX形質転換体及びFLXLC形質転換体由来の全細胞外タンパク質及び精製したタンパク質の免疫検出に使用した。レーン1、レーン5:FLX形質転換体由来の全細胞外タンパク質。レーン2、レーン6:精製したFLX。レーン3、レーン7:FLXLC形質転換体由来の全細胞外タンパク質。レーン4、レーン8:精製したFLXLC。C:pAB4−1で形質転換した対照株D15#26。検出は化学発光で行った。
【図5】遊離酵素又は二機能性酵素の作用によるフェルラ酸放出効率の比較を示す図である。小麦ふすま(A)及びとうもろこしふすま(B)を、遊離酵素又は二機能性酵素によるFAの加水分解に使用した。FA放出は、4時間後(白色の棒)及び16時間後(黒色の棒)のHPLCによって求めた。活性は、基質中に存在するFAの総量に対する割合で示した。標準偏差は、WB及びMBについて値の平均の5%未満であった。
【0099】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
C末端の糖質結合分子(CBM)を含まない少なくとも二つの植物細胞壁分解酵素、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質の使用方法であって、前記酵素及び前記CBMが、植物もしくは野菜の副産物からの植物細胞壁内に存在する目的の化合物の調製の枠組みにおいて、又はパルプ及び紙の漂白の枠組みにおいて、植物細胞壁分解のプロセスを行うための、菌類の天然タンパク質又はその変異型に対応する組換えタンパク質である使用方法。
【請求項2】
CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、セルロース、ヘミセルロースを加水分解することができ且つリグニンを分解することができる酵素から選択される、請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、
−エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼ、及びセロビオヒドロラーゼ等のセルラーゼ、又はβ−グルコシダーゼ、
−キシラナーゼ等のヘミセルラーゼ、
−ラッカーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼ、多機能型ペルオキシダーゼ等の、リグニンを分解することが可能なリグニナーゼ、又は、セロビオースデヒドロゲナーゼ及びアリールアルコールオキシダーゼ等の補助的な酵素、
−フェルロイルエステラーゼ、シンナモイルエステラーゼ、及びクロロゲン酸加水分解酵素等の、桂皮酸フェルラ酸を放出すること及びヘミセルロース鎖間のジフェルラ酸架橋を加水分解することが可能なシンナモイルエステル加水分解酵素
から選択される加水分解酵素である、請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項4】
CBMを含まない植物細胞壁分解酵素がフェルロイルエステラーゼ及びキシラナーゼから選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項5】
CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、
*子嚢菌、例えば
−アスペルギルス株、またより詳細には黒こうじ菌(Aspergillus niger)、
−トリコデルマ株、またより詳細にはセルラーゼ生産性糸状菌(Trichoderma reesei)、
*担子菌、例えばピクノポラス(Pycnoporus)株又はハロシフィナ(Halocyphina)株、またより詳細にはシュタケ(Pycnoporus cinnabarinus)、ピクノポラス・サンギネウス(Pycnoporus sanguineus)、又はハロシフィナ・ビロサ(Halocyphina villosa)
から選択される菌類に由来する天然酵素又はその変異型に対応する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項6】
CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が、黒こうじ菌等のアスペルギルス株由来の天然酵素又はその変異型に対応する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項7】
植物細胞壁分解酵素の少なくとも一つが、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA、又は
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼB
から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項8】
植物細胞壁分解酵素の少なくとも一つが、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼB等のキシラナーゼである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項9】
CBMであるタンパク質が、子嚢菌、例えばアスペルギルス株、またより詳細には黒こうじ菌から選択される菌類に由来する天然酵素又はその変異型に存在するCBMから選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項10】
CBMが、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在し且つ配列番号8で表されるCBMである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項11】
自身に含まれるタンパク質の少なくとも二つの間にリンカーを含む融合タンパク質の使用方法であって、当該リンカーが10〜100アミノ酸、有利には約50アミノ酸のポリペプチドである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項12】
自身に含まれる各タンパク質の間にリンカーが含まれる融合タンパク質の、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項13】
リンカーが、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号10で表される配列等の、高度にグリコシル化されたポリペプチドである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項14】
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA又は配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質であって、二つの当該タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号12で表される融合タンパク質、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質であって、当該三つのタンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号14で表される融合タンパク質、
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質であって、二つの当該タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号16で表される融合タンパク質、
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質、
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質であって、当該三つのタンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号18で表される融合タンパク質
等の、フェルロイルエステラーゼとキシラナーゼ、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質の、請求項1〜13のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項15】
以下の目的の化合物、
−バイオエタノール、
−抗酸化剤、例えば、フェルラ酸、又は桂皮酸及びヒドロキシチロソールであるカフェ酸、又は没食子酸、
−香料、例えば、フェルラ酸又はp−クマル酸の生体内変換によりそれぞれ得られる、バニリン又はp−ヒドロキシベンズアルデヒド
の調製の枠組みにおいて、又はパルプ及び紙の漂白の枠組みにおいて、植物細胞壁分解のプロセスを行うための、請求項1〜14のいずれか一項に記載の使用方法。
【請求項16】
植物又は野菜の副産物からの植物細胞壁内に存在する目的の化合物の調製の枠組みにおける、植物細胞壁を分解する方法であって、
−植物又は野菜の副産物又は産業廃棄物を上記のような融合タンパク質によって、又は上記のような形質転換された菌類細胞によって酵素処理する工程、
−任意選択で、融合タンパク質の作用と組み合わせた蒸気爆発によって植物又は野菜の副産物を物理的に処理する工程、
−任意選択で、適切な微生物又は酵素によって、上記酵素処理中に細胞壁から放出された化合物を生体内変換する工程、
−上記酵素処理中に細胞壁から放出された、又は上記生体内変換工程中に得られた目的の化合物を回収し、必要であれば精製する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
フェルラ酸、もしくは桂皮酸及びヒドロキシチロソールであるカフェ酸、もしくは没食子酸等の抗酸化剤、フェルラ酸もしくはp−クマル酸の生体内変換によりそれぞれ得られるバニリン又はp−ヒドロキシベンズアルデヒド等の香料、バイオエタノールの調製のため、又はパルプ及び紙の漂白のための、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
C末端の糖質結合分子(CBM)を含まない少なくとも二つの植物細胞壁分解酵素、及び任意選択でCBMの間の融合タンパク質であって、前記酵素及びCBMが菌類の天然タンパク質又はその変異型に対応する組換えタンパク質である融合タンパク質。
【請求項19】
−CBMを含まない植物細胞壁分解酵素が請求項2〜8のいずれか一項に記載のものであり、
−CBMが請求項9又は10に記載のものである、
請求項18に記載の融合タンパク質。
【請求項20】
自身に含まれるタンパク質の少なくとも二つの間にリンカーを含み、当該リンカーが請求項11〜13のいずれか一項に記載のものである、請求項18又は19に記載の融合タンパク質。
【請求項21】
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼA又は配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質であって、二つの当該タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号12で表される融合タンパク質、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質、
−配列番号2で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼAと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質であって、当該三つのタンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号14で表される融合タンパク質、
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBとの間の融合タンパク質であって、二つの当該タンパク質の間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号16で表される融合タンパク質、
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、黒こうじ菌のセロビオヒドロラーゼB中に存在する配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質、
−配列番号4で表される黒こうじ菌のフェルロイルエステラーゼBと、配列番号6で表される黒こうじ菌のキシラナーゼBと、配列番号8で表されるCBMとの間の融合タンパク質であって、当該三つのタンパク質のそれぞれの間に高度にグリコシル化されたリンカーとして配列番号10で表される配列を含み、配列番号18で表される融合タンパク質
等の、フェルロイルエステラーゼとキシラナーゼ、及び任意選択でCBMの間の、請求項18〜20のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項22】
請求項18〜21のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸で形質転換されたベクター。
【請求項24】
請求項23に記載のベクターを使用して請求項22に記載の核酸で形質転換された宿主細胞。
【請求項25】
請求項24に記載の宿主細胞のin vitroでの培養、培養中に前記宿主細胞により産生された融合タンパク質の回収、及び必要であればその精製を含む、請求項18〜21のいずれか一項に記載の融合タンパク質を調製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−504143(P2009−504143A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525426(P2008−525426)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007370
【国際公開番号】WO2007/019949
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【出願人】(508042962)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROLE
【Fターム(参考)】