説明

極薄鋼板用熱延鋼板およびその製造方法

【課題】極薄広幅であるにもかかわらず、板幅方向に均一な材質と板厚を有する高品質の極薄鋼板を製造する際に用いて好適な熱延鋼板とその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼の成分組成が、mass%で、好ましくは、C:0.1%以下、Si:0.03%以下、Mn:0.05〜0.60%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.02〜0.20%、N:0.015%以下、O:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、板厚が2mm以下、板幅が950mm以上、クラウンが±40μm以内であることを特徴とする、冷間圧延のままの鋼板の両側幅端部(ただし、板幅に対する割合が両側端合計で5%以内)を除く範囲で、板厚の変動量が±4%以内かつ硬さ(HR30T)の変動量が±3以内である板厚が0.2mm以下の極薄鋼板用熱延鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として、調質度T1〜T6、DR8〜DR10の全ての調質度が適用できて各種の2ピース缶(SDC:Shallow−Drawn Can,DRDC:Drawn & Redrawn Can,DTRC:Drawn & Thin Redrawn Can,DWIC:Drawing & Wall Ironing Can)や3ピース缶(Side Seam Soldered Can,Side Seam Welded Can,Thermoplastic Bonded Side Seam Can)の使途に用いて好適であって、極薄・広幅にもかかわらず均一な材質と板厚精度を有し、経済的にも優れた極薄鋼板を製造するための熱延鋼板ならびにその製造方法に関する。
本発明法において、極薄鋼板とは、表面処理用原板および表面処理鋼板の両方を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
缶用鋼板は、Sn〔Sn付着量が2.8g/m以上のぶりきおよびSn付着量が2.8g/m未満の薄錫目付鋼板LTS(Lightly Tin Coated Steel)を含む〕、Ni、Cr等の各種めっきを施した後、飲料缶、食缶等に使用される。 上記缶用鋼板の材質は調質度で規定され、調質度はロックウェルT硬さ(HR30T)の目標値をもって表わされ、一回圧延製品ではT1〜T6に、二回圧延製品では硬さ(HR30T)の目標値と圧延方向に測定した耐力の目標値で表され、DR8〜DR10に区分されている。
【0003】
ところで、最近における、飲料缶の大量消費に伴って、製缶作業の高速化が進み、高速製缶にも適した缶用鋼板が要望されるようになってきた。このため缶用鋼板には、硬度の精度はもちろん、鋼板の寸法精度、平坦度、鋼帯の横曲がり等について、自動車用鋼板などより厳しい管理が必要となってきた。
一方、3ピース缶や2ピース缶といった缶体も、その製缶技術の進歩により、最近では、板厚の薄いものを使用した軽量缶化による合理化が大きな傾向となってきた。
このように板厚を薄くすると、当然、缶強度の低下が避けられなくなる。そこでこの補強として、ネックイン加工、多段ネックイン加工、スムース大幅ネックイン加工等による缶形状の変更による缶強度の向上、さらには塗装、焼き付け後に深絞り加工、しごき加工、ストレッチ加工、張り出し加工、底のドーム加工などの付与による強化も図られている。
また、2ピース缶の製法においては、軽量缶化の他に、内容量の増大のために、缶高さをますます高く(すなわち絞り比の増大)する傾向になってきている。
これらの最近の情勢から、缶用鋼板としては高強度かつ極薄化を満たし、しかも製缶加工性、深絞り加工性にも優れるという、従来の考え方では相反する特性を兼備したものが要求されるようになってきている。そしてまた、これらの特性を両立させるうえで、板厚精度を向上させ、加工性の変動を抑制することが従来より一層重要になってきている。
【0004】
さらに、最近における、コイル塗装化やフィルムラミネートコイルの実用化により、例えば3ピース缶胴板用にはラミネート作業を効率よく行うために、鋼帯の長さ方向に連続してフィルムを貼った後、剪断、スリットで缶単位の胴板に切り出す方法が採用されだした。この方式では、缶胴の溶接部が圧延方向になる(缶高さ方向が鋼板の圧延方向になる)ように、フィルムを貼るが、鋼帯を巻き戻しながら、軟質のフィルムを設定位置に精度良くラミネートするために、鋼帯の横曲がり精度や平坦度への要求はさらに厳しくなってきた。というのは、例えば、フィルムが設定位置からわずかでもずれて溶接部に貼られると、溶接不良を招き大きな損失を招くことになるからである。
このように、缶用鋼板としては、鋼帯の横曲がりや平坦度も、従来より遙かに優れていることが要求されるようになってきている。
【0005】
また、缶用鋼板から缶に仕上がるまでに、幅方向端部の数ミリメートルを除き、ほとんど全幅を缶とする合理的な製缶法が確立された現状においては、缶用鋼板としても全幅にわたり、材質と板厚が均一であり、板幅や長さの許容差、直角度のずれ、鋼帯の横曲がり精度等の寸法精度に優れていることが必要となる。さらに、上述したように、印刷ずれを防ぐためには、平坦度に優れた鋼板が必要になる。この平坦度を悪くする原板の要因としては材質の不均質が大きく影響するので、この点でも、材質が均一な極薄鋼板が要求される。
【0006】
板厚の均一性、特に板幅方向における板厚の均一性が重要であることは前述したとおりである。これについてさらに説明すると、従来の缶用鋼板は、板厚の均一性が十分ではなかったため、これを缶の製造に用いるとき、2ピース缶においては、円型ブランクを打ち抜く際、素材の板厚が薄くなりやすい板幅方向端部の板厚実績に合せた、大きなブランク径に設計して、必要な缶高さを得るように配慮していた。したがって、板厚が厚くなりやすい板幅中央部は、不要に缶高さが高くなり、歩留りが悪くなるばかりか、缶体がプレス機から抜け出す際に、缶体上部がプレス機に引っかかり、抜け損じて、抜け切れないうちに次の缶体が投入され、複数個の缶体が、何回もプレスされるというジャミング現象を招き、生産性を大きく損なっていた。
また、3ピース缶では、フレキサー後に円筒径に巻いても、偏平になりやすく、真円度の高い胴円筒にならないとか、高強度・極薄広幅缶用鋼板を使っても板厚が部分的に薄い分、缶強度が不足するという問題があった。
【0007】
また、鋼帯の幅方向で硬さが均一であることも極めて重要である。もし、鋼帯の幅方向に硬質部と軟質部が混在していると、同一の圧延条件で圧延を行った場合でも、軟質部の伸びは多く、硬質部の伸びは小さくなり平坦度が悪くなる。このような、材質に起因する平坦度不良は、テンションレベラー等の機械的矯正により、外観的には矯正されたように見えたとしても、その後、缶単位にスリットカットして小さなブランクにすると、再び、部分的に反りとして現れ、高速製缶が難しくなるという新たな問題を生起する。
【0008】
ところで、従来の缶用鋼板は印刷機や塗装機の製造可能幅の上限が3フィート(約900mm)と狭かったために、古くから狭い幅で製造されてきた。しかし、製缶法の進歩に合わせて、ラインを新設するに際しては、缶用鋼板の製造から缶を仕上げるまでの総合的な合理化、高生産性を目的に製造幅が4フィート(約1220mm)以上にまで拡大されるようになってきた。このため、缶用素材としては、生産性にも優れている広幅鋼帯が要求されるようになった。
以上説明したように、板厚は軽量缶化の目的から極薄に、また生産性のうえから広幅となり、総合的には極薄かつ広幅の鋼板が缶用鋼板の分野にも新たに必要になった。
【0009】
しかし、従来の技術では、単に広幅鋼帯を作るのは設備的には可能であったが、前述のごとき要求に合理的に対応することが難しく、例えば、板厚が設定値より薄くなったり、材質が外れたり、寸法精度が劣ったりするという問題があった。そして、とくに鋼帯の幅方向端部や長さ方向端部ではこれらの品質が低下するため、鋼板の製造工程で切断、除去され、歩止が著しく低下するという問題があった。
従って、従来の技術では、鋼板の全幅における板厚および材質がともに均一な極薄広幅鋼帯を製造することは難しく、合理的に生産できる鋼帯寸法は、連続焼鈍の通板性の点から、板厚は0.20mm、板幅は950mm程度が限度であった(例えば、非特許文献1参照)。これ以上の広幅鋼帯を作ったとしても、実質的に均一な板厚および材質を、板幅の95%以上にわたって得ることは困難であった。
【0010】
さて、材質の均一性を阻害している大きな因子としては、鋼成分の偏析と熱間圧延や焼鈍時の温度の不均一が考えられる。このうち、鋼成分の偏析は連続鋳造化により、焼鈍は連続焼鈍技術の進歩によりほぼ解決されたと言える。従って、残っている操業要因上の課題は主に熱間圧延にあると考えられる。
上記熱間圧延において、従来の4段圧延機で構成される熱間圧延機を用いると、効果的な板クラウンの制御手段がないために、ワークロールの熱膨張及び磨耗にともなうロールプロフィールの経時的変化、また、圧延材の板厚、板幅変化にともなうロール撓み変形の変化により、ロールの組み替え直後から、次の組み替えまでの間に約100μmの板クラウンの変動が生じていた。
このクラウン量のコントロールには、4段ワークロールシフト、6段HCロールなどが使われてきたが、極薄広幅鋼板においては約40μm以上の板クラウンの変動が生じ、材質の均一性確保の上からも不十分であった。
いずれにしても、従来の技術では、板幅方向の端部及び長さ方向の端部は、缶用鋼板としての製品に仕上げるまでに、トリミング作業等で切捨て除去され、これによる歩留り低下が大きな問題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「ぶりきとティンフリー・スチール」改訂2版;東洋鋼鈑株式会社著、株式会社アグネ発行,(1970年)第4頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上述べたように、品質に優れた、極薄かつ広幅の缶用鋼板の出現が、軽量缶化による缶体生産コストの低減、コイルの広幅化による生産性向上といった面から強く望まれていた。
しかしながら、かかる鋼板を、従来の製造技術で生産すると、鋼板の板厚や材質(とくに硬さ)が、板幅方向で不均一なものとならざるを得ないという問題があった。このために、幅端部のトリミングによる歩留り低下はもちろんのこと、連続焼鈍工程における高速通板性の低下、横曲がりや平坦度の低下などを招いていた。また、このために、この鋼板を用いた缶体製造においても、缶体の形状不良や強度不良に起因する製品歩留りの低下を招いたり、フィルムラミネートコイルやコートコイルのなどによる新しい製缶法が効果的に適用できなかった。
そこで本発明の目的は、従来技術における上記問題点に鑑み、極薄かつ広幅であるにもかかわらず、均一な材質(とくに硬さ)と均一な板厚を有する缶用極薄鋼板、また軟質の調質度T1さらにはこれより硬質の調質度T2〜T6、調質度DR8〜DR10に調質可能で、新しい製缶法にも適した、極薄かつ広幅であるにもかかわらず、均一な材質(とくに硬さ)と均一な板厚を有する缶用極薄鋼板、また具体的には、板厚:0.20mm以下、板幅:950mm以上の極薄広幅で、しかも冷間圧延のままの鋼板の両側幅端部(ただし、板幅に対する割合が両側端合計で5%以内)を除く範囲で、板厚の変動量が±4%以内かつ硬さ(HR30T)の変動量が±3以内という高品質の極薄鋼板を製造する際に用いて好適な熱延鋼板とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)板厚が2mm以下、板幅が950mm以上、クラウンが±40μm以内であることを特徴とする、冷間圧延のままの鋼板の両側幅端部(ただし、板幅に対する割合が両側端合計で5%以内)を除く範囲で、板厚の変動量が±4%以内かつ硬さ(HR30T)の変動量が±3以内である板厚が0.2mm以下の極薄鋼板用熱延鋼板。
【0014】
(2)鋼の成分組成が、C:0.1mass%以下、Si:0.03mass%以下、Mn:0.05〜0.60mass%、P:0.02mass%以下、S:0.02mass%以下、Al:0.02〜0.20mass%、N:0.015mass%以下、O:0.01mass%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる、上記(1)に記載の極薄鋼板用熱延鋼板。
【0015】
(3)鋼の成分組成が、C:0.1mass%以下、Si:0.03mass%以下、Mn:0.05〜0.60mass%、P:0.02mass%以下、S:0.02mass%以下、Al:0.02〜0.20mass%、N:0.015mass%以下、O:0.01mass%以下を含み、かつCu:0.001〜0.5mass%、Ni:0.01〜0.5mass%、Cr:0.01〜0.5mass%、Mo:0.001〜0.5mass%、Ca:0.005mass%以下、Nb:0.10mass%以下、Ti:0.20mass%以下及びB:0.005mass%以下から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる、上記(1)に記載の極薄鋼板用熱延鋼板。
なお、上記(2)(3)におけるC含有量は、溶接後の加工性向上のためには0.004超〜0.05mass%とすることが好ましく、また深絞り性向上のためには0.004mass%以下の範囲とすることが好ましい。
【0016】
(4)上記(2)または(3)に記載の成分組成を有する(ただし、C:0.004mass%以下)鋼片を、粗圧延により板幅が950mm以上のシートバーとし、これを先行するシートバーと突き合わせ接合し、かかるシートバーの幅端部をエッジヒータにて昇温し、次いで少なくとも3スタンドではペアクロスロール圧延による仕上げ連続圧延を行うことにより、板厚が2mm以下、板幅が950mm以上、クラウンが±40μm以内である熱延鋼板を得ることを特徴とする、冷間圧延のままの鋼板の両側幅端部(ただし、板幅に対する割合が両側端合計で5%以内)を除く範囲で、板厚の変動量が±4%以内かつ硬さ(HR30T)の変動量が±3以内である板厚が0.2mm以下の極薄鋼板用熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シートバー接合による連続化、ペアクロスロールによるクラウンの平坦化およびエッジヒータによる熱延鋼帯端部の昇温を施すことにより、材質とくに硬さの均一性および板厚の均一性に優れた極薄広幅の缶用鋼板の製造に用いて好適な熱延鋼板を合理的に製造できる。
なお、本発明方法によれば、連続鋳造鋳片を製品幅複数分に相当する幅で鋳込み、熱延後または冷延後または表面処理後に、製品幅に分割することにより、効率よく製品を製造することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】冷延鋼帯の硬さ(HR30T)分布に及ぼす熱間仕上圧延法の影響を示す図である。
【図2】熱延鋼帯のクラウンに及ぼす熱間仕上圧延機のワークロールのクロス角度の影響を示す図である。
【図3】冷延鋼帯の板厚分布に及ぼす熱間圧延法と冷間圧延法の影響を示す図である。
【図4】冷延鋼帯のクラウンと平坦度に及ぼす、ペアクロス熱間仕上圧延およびクロスシフト冷間圧延の影響を示す図である。
【図5】連続焼鈍の高速通板性に及ぼす、冷延鋼帯の板厚および平坦度の影響を示す図である。
【図6】島状すずのSEM像を表す金属組織の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
先ず、本発明において対象とする鋼板サイズは、平均板厚が0.20mm以下、板幅が950mm以上とする。その理由は、既に述べたように、軽量缶化による缶体生産コストの低減および広巾化による生産性向上を狙いとするためである。また、鋼板の全幅にわたり、板厚の変動量を板幅方向平均板厚の±4%以内、硬さ(HR30T)の変動量を板幅方向平均硬さの±3以内とするのは、連続焼鈍等の工程における高速通板性の確保と、成形品の寸法精度と強度の確保のためには板幅方向のばらつきを上記範囲内に抑える必要があるためである。ここに、全幅にわたって所望の変動量以下にすることが望ましいが、実用上は全幅の95%の範囲まで、所望の変動量以下が確保されればさしつかえない。
なお、板幅方向におけるこのような高精度の板厚および硬さ特性を有する上記サイズの広幅かつ極薄の鋼板はこれまでに存在しなかった。
さて、発明者らは、上記極薄広幅の鋼板を製造するためには、何よりも、形状精度の良好な極薄の広幅熱延鋼帯を製造することが必須であることに想到した。さらに、従来の熱間圧延法における仕上圧延機では、粗圧延後のシートバーを1本単位で通板するため、仕上圧延機のロールへのシートバーの先端の噛み込みと尾端の噛み抜けが毎回繰り返され、シートバーの先行端部と後行端部は、仕上圧延機内、および仕上圧延機最終スタンドから巻取機までの間をロールで拘束されずに走行せざるを得ないので、十分な形状精度が得られないという事実に着目した。すなわち、従来の技術では、シートバーの先行端部と後行端部は、圧延方向中央部のように一定張力状態で圧延することができないため、次のような問題があった。
(1)鋼帯形状の乱れが生ずるので、熱延鋼帯の全幅を均一に仕上げることができない。
(2)熱延鋼帯の板厚が薄くなると走行が不安定になり、仕上圧延機最終スタンドを出た後で、蛇行して巻取機に到達しないトラブルが発生する。これを防止するためには、シートバーの先行端部と後行端部の圧延速度を中央部に比べ大幅に低下させざるを得ず、熱延鋼帯の圧延方向端部のみならず、幅方向における温度と厚みの制御を困難にし、均一な材質および板厚に仕上げることができない。
(3)長さ方向および幅方向における板厚および材質の変動が大きくなると、これに対応して冷間圧延後の変動も大きくなるので、切捨てによる大幅な歩留り低下を招くことになる。
以上のことから、従来の技術では、板厚の極薄化には限界があり、熱延鋼帯としては、経済性を無視しても、高々1.8mmまであった。
そこで、2.0mm以下といった超極薄の熱延鋼帯を高生産性で安定して製造できる技術開発が必要になった。
【0020】
また、従来、極薄広幅の鋼板を連続焼鈍法で製造するのは、極めて難しかった。というのは、連続焼鈍法において、鋼帯は、通板されながら加熱、均熱、冷却の温度変化を受け、しかも狭幅、広幅、薄物、厚物といった様々なサイズのものが、生産工程予定に従って、色々な組み合わせで通板されるため、炉内ロールの幅方向にそれぞれの通板鋼帯仕様に対応した温度差が生じ、それに起因した通板トラブルが発生する。例えば、炉内ロールの幅方向に温度差が生じると熱膨張差により変形が生じて、鋼帯が蛇行したり、蛇行が矯正しきれないと破断したりする。このため、極端に薄い極薄鋼板や極端に幅の広い広幅缶用鋼板を製造するには自ずと限界があった。
なお、極薄鋼帯を合理的に製造するための高速通板を行うと、ヒートバックリングが生じやすくなる。このヒートバックリングを防止しようとすると、蛇行が発生しやすくなったり、またその逆の場合もあって、安定通板が可能な領域は極めて狭く、このことも極薄で広幅の鋼板を合理的に製造することを困難にしていた。
【0021】
この問題を解決するために、発明者らは、まず、熱間圧延時に、シートバーを接合して連続圧延を施すこと、および鋼帯のクラウンを調整することにより安定高速通板が可能になることを突き止めた。
すなわち、缶用熱延鋼帯のクラウンは、従来、凸型に設定することが常識であった。これに対し、発明者らは、極薄で広幅の鋼板を高速通板するためにはヒートバックリングを防止することが重要であり、そのためには通板する冷延鋼帯の平坦度を改善する必要があること、その方法として、先ず、熱延鋼帯のクラウンを小さくして、連続焼鈍炉の通板時のコイルに座屈が発生しやすい幅方向中央部の平坦度を改善することの重要性に着目した。
検討の結果、中のび(Center Buckle ISIJ TR009−1980)が絶対に生じないように、冷間圧延後に耳のび(Edge Wave ISIJ TR009−1980)気味に、より正確には、中のびも、耳のびも発生せず良好な平坦度になるように仕上げることにより、ヒートバックリングや破断トラブルを解決した。
この具体的な解決法としては、熱間圧延仕上げ圧延にクロスロールを使い、さらに好ましくは冷間圧延でもクロスロールを使うことが重要であることを見出した。
【0022】
また、発明者らは、極薄広幅の缶用鋼板を合理的に製造するためには、上述したような、熱間圧延を連続化すること、熱間圧延あるいはさらに冷間圧延にクロスロールを使うこと、さらに熱間粗圧延で得られたシートバーの、圧延中に低温になった、幅端部をエッジヒータを用いて昇温することなどにより、平坦度の劣化のない、クラウンの小さい鋼帯に仕上げることが有効であることを見出した。
【0023】
次に、鋼の成分組成について、その限定理由を含めて説明する。
Cのフェライト相中における固溶量は、Nの約1/10〜1/100である。この点で、箱焼鈍法のように、徐冷却された鋼板の歪み時効は、主としてN原子の挙動によって支配される。しかし、連続焼鈍法では冷却速度が極めて大きいため、Cも十分に析出しきれず多くの固溶C量が残存し、歪み時効にも悪影響を及ぼす。
またCは、再結晶温度を支配し、再結晶粒径の成長を抑制する重要な元素である。箱焼鈍法による場合には、C量の増加により結晶粒径は小さくなって硬質化するが、連続焼鈍法による場合には、C量の増加とともに硬質化するという単純な傾向は見られない。
C量が約0.004mass%以下の極微量になると軟質化し、一方C量が増加すると約0.01mass%において最も硬度が高くなるピークが見られ、C量がさらに増加すると逆に硬度は低くなり、C量0.02〜0.07mass%の範囲で谷となり、さらにC量が多くなるとまた硬度が高くなる。C量が約0.004mass%以下で軟質になる理由は、焼鈍時にCの溶解温度での溶解量の絶対値が少ないことにより、Cによる歪時効硬化が小さくなるためと考えられる。
【0024】
本発明においては、特に真空脱ガス処理を施すことなく、必要な硬度に応じたCを含む低炭素鋼にて、鋼板を製造することができる。しかし、過度の硬質化や圧延性の劣化を避けて、連続焼鈍法により合理的に缶用に適した鋼板を製造するためには、Cは0.1mass%以下にする必要がある。
C量が約0.004mass%以下の極微量になると軟質になるが、そのためには製鋼工程で、真空脱ガス処理が必要になり、経済的にはやや不利となる。
そこで、0.004mass%を超えるある程度のC量を含んでいるものが軟質化するに際して有効であることを利用して、缶用鋼板の約85%以上を占める調質度T3以上を連続焼鈍法で経済的、合理的に製造するために、C量が約0.004超〜0.05mass%に調整することが好ましい。この範囲であれば、溶接によるHAZ硬化量も小さく抑えることができる。なお、0.02mass%以上の範囲であれば軟質で、かつ真空脱ガス処理も不要であるのでさらに好ましい。
【0025】
また、本発明者らは、ぶりきの硬度に及ぼす固溶C、Nおよび結晶粒径との関係を系統的に調べた結果、連続焼鈍法でも固溶C、Nを低減し、結晶粒径を大きくすると軟質にできることを知見した。この知見に基づけば、焼鈍後の固溶Cを少なくするためには、出発材である連続鋳造鋳片のCを低減することが有効である。
【0026】
一般に、ぶりきをプレス加工により製缶する際にr値を高くすることも重要である一方、Δrを小さくすることも重要である。発明者らは、ぶりき原板のΔrをさらに小さくする方法を検討した結果、結晶粒の核となる炭素を極く微量にし、結晶粒径を粗大化することが有効であることを知見した。
以上の知見をもとに、発明者らはさらに研究を重ねた結果、極低炭素鋼素材を連続焼鈍し、引き続き行う調質圧延の圧下率を変えることによって、それぞれT1〜DR10の鋼板にそれぞれ作り分けできることを知見した。
この観点から、加工性、とくに深絞り性を重視しつつ、連続焼鈍法により調質度T1以下の軟質ぶりき原板を製造するためには、Cを0.004mass%以下にするのが好ましい。
【0027】
一方、製缶技術の進歩は目ざましく、現在では、引張試験で測定される伸び率が0%の鋼板を用いて、飲料缶のような深い缶にプレスができるというレベルに達している。さらに、缶用鋼板を一層合理的に作るためには、連続焼鈍を施さなくても缶用として使えるものができれば、画期的である。
なぜなら、缶用鋼板の原板は連続焼鈍炉を通板する際の板厚が薄いので、ヒートバックルやクーリングバックルによる通板トラブルが発生しやすく、通板速度を小さく制限せざるを得ず、連続焼鈍法による高強度極薄鋼板の製造は特に不経済であったからである。
このような焼鈍省略を達成する手段として、冷延後の硬さを目標硬さ以下に収めるうえから、C量を極限まで減らすことが有用であり、具体的には0.002mass%以下とするのが好ましい。
【0028】
Siは、ぶりきの耐食性を劣化させるほか、材質を極端に硬質化する元素であるので、過剰に含有させることは避けるべきである。とくに、Si量が0.03mass%を超えると、硬質化して軟質のぶりき原板を製造することができなくなるので、0.03mass%以下に制限する必要がある。
よって、製鋼段階でSi量をできるだけ少なくすることが肝要であり、耐火物中のSiOが溶鋼中のAlによって還元されるのを抑制するために、従来使用されているシャモット質耐火物に代えて、ジルコン質耐火物を用いること等の配慮を必要とする。
【0029】
Mnは、Sによる熱延鋼帯の耳割れ発生を防止するために必要な元素である。S量が少なければ敢えてMnを添加する必要はないが、Sは鋼中に不可避的に含有されていることから、Mnの添加が必要である。Mn量が0.05mass%より少ないと耳割れの発生を防止することができず、一方、Mnが0.60mass%を超えると結晶粒径が細粒化し、固溶強化も加わって硬質化するので、その添加量は0.05〜0.60mass%の範囲にする必要がある。
【0030】
Pは、材質を硬質化させ、かつぶりきの耐食性を劣化させる元素であるので、過剰の含有は好ましくなく、0.02mass%以下に制限する必要がある。
【0031】
Sは、過剰に含有すると、熱間圧延において高温γ域で固溶していたSが温度低下にともない過飽和になり(Fe,Mn)Sとしてγ粒界に析出し、これが赤熱脆性による熱延鋼帯の耳割れを引き起こす。また、S系介在物となってプレス欠陥の原因ともなる。しがって、S量は0.02mass%以下にする必要がある。特にMn/S比が8より小さいと上記耳割れやプレス欠陥が発生しやすくなるので、Mn/Sは8以上にするのが好ましい。
【0032】
Alは、鋼の製造過程において脱酸剤の機能を有し、清浄度を高くするために必要な元素である。しかし、過剰の添加は経済的に好ましくないばかりか、再結晶粒径の成長を抑制するので、その含有量は0.20mass%以下の範囲にする必要がある。一方、Al量を極度に低下させるとぶりきの清浄度が悪くなる。またAlには、軟質ぶりきを得るうえで有用であり、固溶Nを固定しその残存量を減らす役割がある。よってAlは0.02〜0.20mass%の範囲内に限定する。
【0033】
Nは、鋼の製造過程において空気中Nが混入し、鋼中に固溶すると軟質な鋼板を得ることができない。したがって、軟質材を製造する場合には、製鋼過程で空気中からのNの混入を極力抑制して0.015mass%以下にする必要がある。なお、Nは、硬質材を容易に安価に製造するために、極めて有効な成分でもあり、そのためには目標硬さ(HR30T)に応じたN量になるように、Nガスを精錬時に溶鋼に吹き込むことにより達成できる。
【0034】
Oは、鋼中のAl、Mn、耐火物のSi、フラックスのCa、Na、F等とで形成された酸化物として、プレス加工時の割れ、あるいは耐食性の劣化の原因をもたらすので、できるだけ少なくする必要がある。よって、O量の上限は0.01mass%とする。Oの低減のためには、真空脱ガス処理による脱酸強化、タンディッシュの堰形状、ノズルの形状、鋳込速度の調整などの方法が有効である。これらの精錬過程において、適量のAl量を添加すると清浄度が改善される。
【0035】
Cu、Ni、CrおよびMoは、鋼の延性を劣化させることなく、強度を増加させることができるので、目標とする鋼板の強度(硬さ(HR30T))水準に応じて添加する。また、これらの元素は鋼板の耐蝕性を向上させる効果も有する。これらの効果が発揮されるためには、Cu、Moでは少なくとも0.001mass%、Ni、Crでは少なくとも0.01mass%の添加が必要である。しかし、0.5mass%を超えて添加しても、効果が飽和し、コストの上昇を招くので、添加量の上限をいずれの元素とも0.5mass%とする。なお、これらの元素の効果は単独で添加しても、複合添加しても、同様に発揮される。
【0036】
Ca、NbおよびTiは、いずれも鋼の清浄度の向上に有用な元素である。ただし、Caの過剰な添加は不経済となるばかりでなく、生成される非金属介在物は、融点が低下し、軟質になり、圧延工程で長く伸びて製缶加工の不良につながるので、その上限は0.005mass%とする。
なお、Alキルド鋼にCa処理を施した場合に生成する反応は、脱酸反応として、
Ca+O → CaO (1)
3Ca+Al → 3CaO+2Al (2)
が考えられるが、Alキルド鋼では一般に溶存酸素よりOtotal(酸化物)の方が極めて多いことから、(2)の脱酸反応が主体である。
また、Ca酸化物は溶鋼中でもその組成より融体状態となり、微細なCaの酸化物も凝集、合体、浮上、分離しやすく、残存する非金属介在物は5μm以下と小さくなる。このように粒径の小さい介在物は凝固の早い連続鋳造法では均一に分散する。従って、非金属介在物に起因する従来から発生していた欠陥は解消できる。
Caの使い方としては、CaをBaなどで希釈することによって、Caの強い脱酸能を工業的に発揮させて利用することが有効である。具体的なCaの添加法としては、真空脱ガス処理において、Alキルド溶鋼で十分に脱酸した後、取鍋の下部からの不活性ガスで溶鋼を攪拌しながら、Al−Ca−Baワイヤーにより、短時間で添加する方法が経済的に有効である。
【0037】
Nbは、上記清浄度向上作用のほかに、炭化物、窒化物を形成し、固溶C、固溶N量の残存量を少なくする機能を有する元素である。しかし、過多に添加すると、Nb系析出物による結晶粒界のピン止め効果により再結晶温度が上昇して、連続焼鈍炉の通板作業性が悪くなり、また細粒になるので、Nb添加量は0.1mass%以下の範囲とする。なお、添加量の下限はその効果を発揮するに必要な0.001mass%とすることが好ましい。
【0038】
Tiは、上記清浄度向上作用のほかに、炭化物、窒化物を形成し、固溶C、固溶N量の残存量を少なくする機能を有する元素である。一方、過多に添加すると、鋭利で硬質な析出物が発生し、耐食性を悪くするとともに、プレス加工時のすり疵発生の原因にもなる。従って、Ti添加量は0.2mass%以下とする。Ti添加量の下限は、効果を発揮するのに必要な0.001mass%にするのが好ましい。
【0039】
Bは、粒界脆化の改善に有効な元素である。すなわち、極低炭素鋼に炭化物形成元素を添加して、固溶Cを極端に減少させると、再結晶粒界の強度が弱くなり、缶が低温で保管される場合等に、脆化割れを生じる心配が考えられる。このような用途においても良好な品質を得るためには、Bを添加することが有効である。
Bの粒界脆化改善作用は次のように説明される。もし、固溶Cが粒界に存在するとPの偏析が小さくなり、粒界強度が大きくなって、脆化不良を抑制できる。しかし、固溶C量が少なくなると粒界にPが偏析して脆化する。その際、Bが存在すると、固溶Cの役目をする、あるいはB自体が粒界強度を大きくするので脆化不良を解決できる。
Bはまた、炭化物や窒化物を形成して、軟質化に有効な元素であるが、連続焼鈍時、再結晶粒界に偏析し再結晶を遅らせるので、その添加量は0.005mass%以下とする。なお、そのB添加量の下限は効果を発揮するのに必要な0.0001mass%とするのが好ましい。
【0040】
次に、本発明において、極薄広幅の鋼板を製造するためのさらに具体的な方法について説明する。
本発明において用いる連続鋳造鋳片は、転炉溶鋼を必要に応じて真空脱ガス処理し、連続鋳造して得る。
次に、目的とする0.20mm以下の極薄広幅の缶用鋼板を製造するためには、2.0mm以下でクラウン量の少ない極薄の熱延鋼帯を製造する必要がある。この厚みが2.0mmを超えると、冷間圧延で極薄化するための圧下率が大きくなり、冷間圧延性が悪くなるとともに、良好な形状を確保することが難しくなる。なお、熱延鋼帯の板厚の下限は、260mm厚程度の大断面厚のスラブから圧延する際に、シートバーの温度低下を防ぎながら、均一な材質の熱延鋼帯を製造できる限界から、ミルパワーを考慮して、0.5mmとする。
【0041】
上述した2.0mm以下の極薄熱延鋼帯を高生産性を維持して製造するためには、先ず、連続圧延化が好ましい。
図1に、板厚0.130mm、板幅1250mm、調質度DR9(目標硬さはHR30Tで76)の極薄広幅鋼板の板幅方向硬さに及ぼす熱延方法の影響を示す。図1に示すように、硬さ(HR30T)が、従来法では、熱延鋼帯の幅端部より5mm相当位置で目標値に対して12も低下しているが、連続圧延法を採用した発明法では端部でもほとんど低下することなく、均一な硬さを有する極薄広幅鋼板を製造できる。
この結果、熱延、冷延、あるいはさらに表面処理後の耳切り除去も必要がなくなる。また、熱延鋼帯の全長にわたり高速かつ一定速で圧延を継続できるので、生産性が飛躍的に向上する。さらに、熱延鋼帯全長わたり一定の張力が付与されるので、板厚、形状および材質が均一になり、歩留りも向上し、極薄熱延鋼帯を高生産性で製造できるようになる。なお、一定の張力下で圧延が行えるので、強制冷却が可能になり、結晶粒径の制御範囲も大きくなる。
【0042】
上記熱間仕上げ圧延後の巻取温度は、後述する連続焼鈍省略の場合を除き、基本的には、550℃以上、好ましくは600℃以上を確保するのが望ましい。巻取温度が550℃未満になれば、十分な再結晶が行われず、熱延板の結晶粒径が小さくなり、冷間圧延後に連続焼鈍を施しても、冷延板の結晶粒は熱延板の結晶粒径に対応して小さく、T1等の軟質缶用鋼板を得るのが難しくなるからである。
なお、連続圧延に際し、短時間でのシートバー接合が本発明で目指す効果を安定して得るのには好ましい。
次に、短時間突き合わせ接合法の例を述べる。先ず、シートバー接合のタイミングを合わせ、接合装置自体がシートバーのスピードに合わせて移動しながら、20秒以内という短時間でシートバー同士を接合する。その後、接合部分を電磁誘導法により加熱し圧着して、仕上圧延機にて途切れることなく連続的に圧延した後、巻き取り機直前の剪断機で鋼帯を分割して巻き取るという方式である。
【0043】
一方、冷間圧延後の板幅中央部のクラウンを小さくするためには、このクラウンが熱間圧延鋼帯のクラウンと相似になるので、基本的には熱延板の板クラウンを小さくすることが必須であり、さらに、冷間圧延においては板厚の厚い前段スタンドロールでも小さくすることが好ましいことを突き止めた。
【0044】
また、エッジドロップについては、圧延荷重によるロール偏平変形が板端部に転写されたものであり、その形は圧延荷重分布と対応している。従って、改善法としては基本的には荷重を小さくして偏平変形量を小さくすることになるが、その具体策として考えられる方式とその問題点を列挙すると、
(1)ワークロール径が大きくなるほど荷重は増大し、板幅端部近傍での板厚減少が顕著になり、エッジドロップ量が大きくなるので、ワークロール径を小さくする。ロール径を小さくすると板幅端部近傍でのワークロール撓みが急激に変化することも手伝ってエッジドロップ量が小さくなる。しかし、この方式は極薄鋼板を高速で圧延するのには好ましくない。
(2)入、出側の張力を大きくする。しかし、この方式は圧延中に鋼帯が破断しやすくなる。特に、極薄広幅缶用鋼板の製法には適してないことは明らかである。
(3)圧下率を小さくする。しかし、この方式では極薄鋼板の圧延に不利になるのは明らかである。
(4)出側板厚を大きくする。板厚が大きくなるほど幅方向メタルフローが生じやすくなり、荷重及び出側板厚の幅方向分布を均一にできるので改善できる。しかし、この方式では極薄熱延鋼帯を用いる本発明の主旨にそわないのは明らかである。
(5)変形抵抗の小さい素材を使う。変形抵抗の大小はそのままエッジドロップの大小になる。従って、C量を低炭素鋼より極端に減少した極低炭素鋼が有利であるが、これはコスト上ベストとはいえない。
【0045】
また、その他のエッジドロップの制御法と課題は、次のように列挙される。
(1)板幅端部でのロールプロフィールを変更したテーパー付ワークロールで圧延する方法があるが、この方式では効果を発揮できる対象幅が特定されるため、工程生産において異なる板幅鋼帯に対応することが難しい。
(2)熱間仕上圧延スタンド間エッジャーによる鋼帯張力下で幅圧下することにより、幅端部の板のプロフィールを変更する方法があるが、この方式では設備が複雑で、外観欠陥が発生した際の手入れが大変で、生産性も劣る。
(3)小径ロールを水平方向に曲げ、材料の幅方向のメタルフローを変える方法があるが、この方式では生産性が悪かった。
以上のように、あらかじめ板幅端部の板厚を厚く(エッジアップ)しておき、それを水平圧延するいろいろな方式も提案されているが、極薄広幅の缶用熱延鋼帯を合理的に生産するまでには到らなかった。
【0046】
従来から、クラウンの小さい熱延鋼帯を製造する方法として、通常圧延機のワークロール間にクロス角を与えると格段の板クラウン改善効果があることは知られていたが、スラスト力が過大であり実用化を妨げていた。
これは、ワークロールとバックアップロールを対でクロスさせるペアクロスミルの採用により、改善され実用化された。このミルでは、ワークロールとバックアップロール間のスラスト力は発生せずに、圧延材とワークロール間のみのスラスト力を受ける構造になっている。このため、ペアクロスミル(pair−crossed roll system)によれば、クラウン制御及びエッジドロップ制御が有効に実行可能となる。
ペアクロス方式は、ワークロール軸(WR軸)とバックアップロール軸(BUR軸)を互いに平行に保持したまま、上下のロール群をクロスさせる方式である。ペアクロス方式によるクラウン制御の原理は、上下WR軸をクロスさせた時に生ずる両ロール間の最小間隙が幅方向で放物線形状で変化し、WRに凸方向の放物線形状のロールクラウンを付与したのと等価になる。
すなわち、通常の方式では、強圧下を与えてもロールがしなって、板幅中央部が膨らむ(凸板クラウン)ので、クラウンを小さくすることが難しく、特に極薄広幅の缶用鋼板を圧延することは困難を窮めた。これに対し、ロールをクロスさせると熱延鋼帯の板クラウンを格段に小さくできることが分かった。
【0047】
図2に、仕上げ圧延でクロス角度を変化させたペアクロスロールを用いた場合におけるクロス角度と熱延鋼帯(鋼帯厚1.6mm、鋼帯幅1300mm)の板クラウン(鋼帯幅方向中央部の板厚−鋼帯幅方向端部より30mm位置の板厚)との関係を示す。
図2に示すように、クラウン制御及びエッジドロップ制御は、このロール軸のクロス角度を好ましくは0.2°以上、さらに好ましくは0.4°以上に調整することにより可能になる。また、クロス角を大きくするとエッジプロフィルはエッジドロップからエッジアップに大きく変化するので、エッジドロップも格段に改善できることも分かった。また、エッジドロップの領域は幅端部から20〜30mmであるのに対して、エッジアップの領域はエッジドロップ領域の数倍大きくなり、板クラウンの改善に寄与し、実質的に、板厚はデッドフラットあるいは、凹クラウンにまで可能になった。また、ストリップ形状はクロス角が過大になると耳のびから中のびへと変化するし、クロス角度を1.5°以下であれば品質には差し支えないが、これ以上に大きいと中のび形状による通板作業性が悪くなることも分かった。
以上の結果から、クロス角度を好ましくは0.2°以上、さらに好ましくは0.4°〜1.5°に制御することによって、熱延鋼帯のクラウン量を±40μm以内に収めることができる。このクラウン量が、+40μmを超えて大きな凸クラウンになると、冷間圧延後も凸クラウンになるとともに、板幅中央部が端部より大きく延びるいわゆる「中伸び」と称する形状不良になるとともに連続焼鈍の高速通板が難しくなる。一方、−40μmを超える大きな凹クラウンになると、冷間圧延後も凹クラウンになるとともに、上記現象とは逆に幅端部が大きく伸びるいわゆる「耳伸び」と称する形状不良になるとともに、やはり連続焼鈍の高速通板が難しくなる。なお、中伸び、耳伸びの形状不良は矯正が難しく、高速製缶用には使えず、不良になり、歩留低下になる。
【0048】
上述したように、熱間圧延機をペアクロスロールにしてクラウンを改善できるが、この方式を有効に活用するためには、少なくとも3スタンドに適用する必要があり、全スタンドに適用しても、なんら差し支えないことを確認した。
【0049】
さらに、熱延において、通常、必然的に生じる幅端部における温度低下による、形状や材質(組織)の不均質の解消には、エッジヒータによる幅端部の加熱(具体的には幅端部の温度を中央部より50〜110℃高めに設定して加熱)が有効である。そして、上述した圧延方法と組み合わせることにより、クラウンが±40μm以内の全幅の95%以上にわたって均質な厚みと材質の極薄の熱延鋼帯を得ることができる。ここに、板クラウンの制御方法としては、米国特許5531089が有利に適合しうる。
【0050】
上記エッジヒータの役割について説明する。熱間圧延の環境は、加熱炉を除き空気中に晒され、しかも高温であること、圧延時に生ずる表面スケールを高圧水スプレーで除去しながら圧延を行わざるを得ないこと、さらには260mm厚程度のスラブから、本発明のように、2mm厚以下まで高圧下量の加工を施すことなどの条件下にあるため、加工熱、復熱、水冷却、放冷などが混在している。
したがって、熱間圧延の処理時間が長くなると、全幅方向、全長方向における温度差が大きくなり、材質が不均一になる。一方、連続鋳造技術の進展により鋳片厚みが大きくなり、要求されるスラブ幅も大きくなった。また、缶用鋼板の高強度化、広幅極薄化に伴い、冷間圧延の負荷を軽減するために、ますます板厚の薄い熱延鋼帯が必要となり、熱間圧延の温度差が大きくなる傾向となってきた。
その結果、仕上げ圧延終了温度の低下が大きい端部は結晶粒径が中央部に比べ粗大化するとともに、深絞り加工に好ましくない集合組織が発達する。とくに、粗圧延機前での待ち時間が長い圧延方向後行部の側端部の温度低下が大きく、仕上圧延機でも同様に温度低下が大きくなる。
この解決策として、これまでは、圧延速度を加速することにより加工熱を大きくして熱補償する等の方策が試みられてきたが、極薄広幅の缶用鋼板の製造においては不充分であった。
これに対し、発明者らは、熱間圧延工程の中間に相当する仕上圧延機前で均熱できれば解決できることを確認し、実用化に到った。
なお、仕上げ圧延終了温度(FDT)は通常の範囲、すなわち860℃以上とし、巻取温度(CT)は十分な再結晶を行わせるために550℃以上が必要である。ただし、CTが余りに高いと鋼板表面スケール層が厚くなり、次工程の酸洗による脱スケール性が悪くなるので、その上限は750℃とするのが好ましい。
【0051】
次に、冷間圧延工程において、一般的に実用されている、単にフラットなワークロールを使用すると冷間圧延時に発生したエッジドロップにより、前述した熱延鋼帯でのクラウン改善効果が薄れるばかりか、逆に大きくなる可能性があった。このような現象に対して、一層良好な品質の極薄広幅の缶用鋼板を製造するためには、冷間圧延での板クラウン制御も有効であることが分かった。
発明者らによる、最適な冷間圧延法についての研究結果を図3に示す。すなわち、図3は、熱間圧延法と冷間圧延法との組み合わせを変えて圧延した極薄広幅鋼板(板厚0.130mm、板幅1250mm)の板幅方向の板厚を熱延鋼帯の幅方向に対応させて測定した結果である。
図3のように、熱間圧延の仕上圧延機ではペアクロスロールを、冷間圧延ではクロスシフト機を前段の少なくとも1スタンドに使うことにより、板厚を均一にすることができる。ここで、冷延におけるクロスシフト機のワークロールには、片台形ワークロールを用いるのが好ましい。なお、このような冷間圧延方法を複数スタンドに適用しても、なんら差し支えないことを見出した。
このようにすれば、熱延鋼帯でエッジドロップを小さくしたうえ、冷間圧延ではエッジドロップが生じないように、前段スタンドであらかじめ幅端部の板厚を厚くすることができ、その後水平圧延することができる。
【0052】
上記のごとき、熱延と冷延とを組み合わせた圧延においても、単なる片台形ワークロールでは、異なる板幅にも連続して対応ができない。この問題は、ワークロールをバレル方向にシフトすることにより解決ができた。
その結果を図4に示す。図4は、熱間圧延法(仕上げ圧延機の全スタンドに、0.6°のペアクロスロールまたは従来の0°を使用)と冷間圧延におけるクロス角度とが、冷延鋼帯のクラウン(鋼帯幅方向中央部の板厚−熱延鋼帯幅方向端部より10mm位置相当の板厚)、平坦度、通板性に及ぼす影響を調べた結果である。
図4に示すように、クロスロールで仕上げた熱延鋼帯から平坦度を確保した冷延鋼帯を製造するためには、冷間圧延機もクロスロールを用いることが極めて有効であることが分かった。
以上説明した各製造条件を採用することにより、板幅方向における板厚および材質の分布に優れた各種サイズの極薄広幅の缶用鋼板を合理的に製造することが可能になった。
【0053】
なお、板厚精度の高い熱延鋼帯を製造できても、冷間圧延後の平坦度が悪いと連続焼鈍での高速通板が難しくなるばかりか、缶用鋼板としての品質のうえから使えなくなる。従って、板クラウンの小さい熱延鋼帯を用い、板厚精度が高く平坦度にも優れた冷延鋼帯を得るためには、相似断面圧延が基本になるので、冷間圧延機のワークロールも板クラウンが小さく仕上がるものが好ましい。もし、相対的に圧下が大きいと、板幅端部が伸びるし、圧下が小さいと板幅中央部が伸びたものになる。すなわち、図4に示したように熱間圧延機でクロスロールを使うのであれば、冷間圧延機もクロスロールを使うのが好ましい。
【0054】
図5に、CAL通板速度と鋼帯破断トラブルに及ぼす平坦度の影響を、鋼帯の板厚と板幅との関係において調査した結果を示す。図5から明らかなように、板厚が薄くなるに従って、また板幅が大きくなるにしたがって、高速通板時に破断の発生頻度が大きくなる。しかし、平坦度を改善すれば、破断の危険性は回避できる。
【0055】
本発明においては、基本的には冷間圧延のあと焼鈍および調質圧延を行う。焼鈍を連続焼鈍で行う場合には、過時効処理を行うことができ、その条件は常法にしたがって行えばよく、具体的には400〜600℃、20〜3分とすればよい。なお、溶接により円筒状にしたのち、拡缶して変形するような用途では、極めて厳しい耐時効性が要求される。このような用途には、連続焼鈍後コイルを箱焼鈍してもよい。
ただし、C≦0.002%以下の鋼において、熱間仕上げ圧延後の再結晶が十分であれば、冷間圧延後の焼鈍および調質圧延を省略することが可能である。ここで、熱間仕上げ圧延後の再結晶は、650℃以上、好ましくは700℃以上で巻き取り自己焼鈍させることで実現できるが、巻き取り後、550〜600℃に熱延板を再加熱して焼鈍してもよい。再加熱焼鈍を行う場合、巻き取り温度に特に制限はないが、生産性から550℃以上とするのが好ましい。
なお、冷間圧延後の焼鈍および調質圧延を省略する場合には、伸びフランジ性等の加工性の低下を補償するために、冷間圧延後200〜400℃で10秒間以上加熱保持する熱処理(回復処理)を施すこともできる。ここに、上限を400℃とするのは、再結晶による強度不足を防止するためである。このような加熱処理は、めっき処理およびクロメート処理の前に行ってもよいし、またこれらの処理の後、製缶ラインにおける塗装焼付またはラミネート工程と同時に行うことも可能である。
【0056】
ここで、連続焼鈍で仕上げた低炭素および極低炭素の鋼板(後述する、表層にFe−Ni合金層を有するものも含む)から、T1〜T6、DR8〜DR10の調質度を得るには、例えば、圧下率を数%〜40%といった範囲で、適切に選定した調質圧延を行えばよい。
【0057】
以上説明した方法により、幅方向の板厚分布および硬さ分布に優れた、所望の調質度に調整した冷延鋼帯が製造できる。この冷延鋼帯の表面にSn、Cr、Ni等のめっきを施し、必要によりクロメート処理を行うことにより、耐錆性、耐食性に優れた極薄広幅の表面処理鋼板を製造することができる。すずめっきの場合、必要に応じ、めっき後、クロメート処理前に、リフロー処理を行ってもよい。なお、凸状のすずめっき鋼板を製造する場合には、めっき前に、Ni/(Fe+Ni)の重量比0.01〜0.3、厚さ10〜4000ÅのFe−Ni合金層を予め形成しておく必要がある。
【0058】
以下、これらの表面処理について説明する。
発明者らは、高速シーム溶接缶用LTSの溶接性について検討を行った結果、溶接直前の残存金属錫量が溶接性を顕著に向上させることも見出した。
すなわち、金属錫は柔らかく、低融点(232℃)金属であることから、溶接電極との接触部および鋼板同士の接触部において、溶接加圧力により容易に変形あるいはさらに溶融して接触面積を広げて、溶接電流の局部集中により生ずる「散り」を発生せず、強固な溶接ナゲットを形成しやすくなる。この結果、適正溶接電流範囲が大きくなる。
このような効果を得るには、溶接直前に残存している金属錫量としては0.05(g/m)以上が好ましいことを見出した。さらに調査を重ねた結果、凸部の面積百分率を10〜70%にすることが好ましいことが分かった。
なお、従来のぶりき原板に、高価なすずの量を少なくしてめっきを行うと、リフロー処理、塗装・印刷の焼き付けなど、溶接までの熱処理により金属すずが地鉄側からFe−Sn合金化して金属すずが激減してしまい、溶接性の低下のほか、金属すずの光沢を活かしたいわゆるメタリック調印刷に仕上げることができないという弊害を招いていた。
【0059】
このように、金属すず層を凸状(島状)に形成するためには、すずめっき用の鋼板として、表面に溶融すずの濡れに対する不活性化処理としてのNi拡散処理した鋼板を用いることが有効であることを知見した。すなわち、鋼板の少なくとも片面に、付着量0.02〜0.5g/mのNiめっきを行い、拡散処理焼鈍を施すことによって、Ni/(Fe+Ni)の重量比が0.01〜0.3、厚さが10〜4000ÅのFe−Ni合金層を形成するものである。
このNi拡散処理鋼板を用いた、凸状のすずめっき層の形成は、拡散処理後の母板表面に、平坦な電気すずめっきを施し、次いでリフロー処理を行い、すずを凝集、凝固させることにより達成できる。さらに、電気すずめっきを施した後、フラックス(ZnCl)、(NHCl等の水溶液)を表面に塗布した後、リフロー処理を行うことは、より効果的に凸状を形成できることが分かった。
【0060】
凸状のすずめっき層のすず分布のEPMA分析によるSEM像(1000倍)代表例を図6に示す。図6における白色部が凸部に相当し、黒色部が平坦なFe−Sn合金層の凹部に相当する。図6の(a)は細かい凸部よりなる場合の例であり、(b)は比較的大きい凸部よりなる場合の例である。このような凸部の大きさの制御は、リフロー処理工程の通電ロール間の電圧、通電時間、溶融後水冷するまでの冷却速度およびすずめっき量などによって可能である。
なお、電気すずめっきを施した後、フラックス(ZnCl)、(NHCl等の水溶液)を表面に塗布した後、リフロー処理を行うことにより、一層効果的に凸状の金属すず層を形成できる。
【0061】
上記Ni拡散処理を最も効果的に行なうためには、Niめっき設備を連続焼鈍ラインの前に設け、焼鈍ラインの出側に調質圧延設備を設けるのがよい。このように、Niめっき、焼鈍、調質圧延を1つのラインとしてつなぎ、一挙にめっき用の母板まで仕上げることによって、連続化による大幅なコストダウンが可能となる。また、連続化により、Niめっき→焼鈍→調質圧延の工程を、時間をおくことなく連続処理することができ、Fe酸化物等の形成を防止することができ、溶接性や耐食性の向上効果が一層大きくなる。
なお、本発明法における連続焼鈍法は、箱焼鈍法と比べ、不純物の表面濃化も少なく、耐錆性、耐食性の点で有利となる。また、この方法は熱延鋼帯の連続焼鈍ラインによる再加熱再結晶処理と兼用して適用することも可能である。
【0062】
表面処理として、通常のすずめっきを行った後、その上層にクロメート処理を行う場合には、すずめっき層は0.56〜11.2g/mの金属Sn量よりなり、クロメート層はCr換算で1〜30mg/mのクロム水和酸化物および1〜30mg/mの金属Crを含むものとする。
その理由は、すず量が0.56g/m未満では、リフロー処理あるいは塗装、印刷後の焼き付け等によりFe−Sn合金化が進み溶接直前での残存金属Sn量が少なくなりすぎるからである。一方、11.2g/mを超えると、溶接直前での残存金属Sn量が多くなりすぎて電気抵抗加熱シーム溶接で、発熱がSnの溶解に消費され、Fe溶解が十分に進まず接合強度が十分に得られず、溶接速度を落とさざるを得なくなり不経済となるからである。また、Snは高価で有限な資源でもあるからである。
また、クロメート層中のクロム水和酸化物がCr換算で1mg/mに満たないとシートコートの塗装密着力、印刷密着力が小さく、あるいはフィルム接着力が十分に大きくならなない。一方、30mg/mを超えると、通電性が悪くなり、溶接性が低下するからである。
さらに、金属Crが1mg/mに満たないと、塗膜、印刷膜、フィルム膜との密着性が低下するほか、耐食性、耐錆性も低下する。一方、30mg/mを超えると、金属Crの超硬質性に起因して、製缶加工時に金属Cr膜にクラックが入り、密着性をかえって悪くするからである。
【0063】
表面処理として、クロメート処理を行う場合には30〜150mg/mの金属Crを形成させた後、その上層にクロム水和酸化物層をCr換算で1〜30mg/mを形成して仕上げる。
その理由は、クロムめっき層中の金属Cr量が30mg/m未満では、Crの被覆性が不十分となり、食缶としての耐食性、耐錆性が不十分となる。一方、150mg/mを超えると、製缶加工性が劣化するからである。また、クロム水和酸化物がCr換算で1mg/mに満たないと、塗膜、印刷膜、フィルム接着力が十分に大きくならない。一方、30mg/mを超えると、製缶加工性が劣化するからである。
【0064】
表面処理として、前記Fe−Ni合金層の表面に、すずめっきを施し、リフロー処理(通常、230〜280℃に昇温後1秒以内に50〜80℃の水槽に投入)により、凸部面積率10〜70%で多数の凸部を表面に有するすずめっき層となした後、クロメート処理を行うこともできる。
この場合には、すずめっき層を0.56〜5.6g/mの金属Sn量とし、クロメート層をCr換算で1〜30mg/mのクロム水和酸化物および1〜30mg/mの金属Crを含むものとする。
その理由は、Sn量が0.56g/m未満では、リフロー処理あるいは塗装、印刷後の焼き付け等によりFe−Sn合金化が進み溶接直前での残存金属Sn量が少なくなりすぎるからである。一方、5.6g/mを超えると、金属Sn量が多すぎるために、リフロー処理を施しても、島状すずの形成ができず、平坦あるいは単なる凸凹形状になることと経済的有意性が失われるからである。また、クロメート層の組成限定理由は、上記通常のすずめっきを施す場合と同様である。
なお、リフロー処理で得られる凸状のすずめっきの凸部面積率10〜70%としたのは、10%未満では溶接時の接触面積を広げる効果が不十分であり、溶接性向上の効果が得られなく、70%超えでは凸状にする経済的有意性が失われるからである。
また、Fe−Ni合金層のNi/(Fe+Ni)の重量比を0.01〜0.3、厚さを10〜4000Åとするのは、Ni/(Fe+Ni)の重量比が0.01未満では、耐食性、耐錆性の改善効果が現れない。また、上限の0.3を超えると、リフロー処理後のFe−Sn−Ni合金層が疎になり、被覆率が小さくなって、耐食性、耐錆性を悪くするからである。また、厚さが10Å未満では、耐食性、耐錆性の改善効果が小さく、また4000Åを超えると、硬く脆いFe−Ni合金にクラックが入り、耐食性、耐錆性を悪くするからである。
【実施例】
【0065】
実施例1
表1に示す成分組成の鋼を270t底吹き転炉により溶製し、連続鋳造機で鋳込んで鋳片を得た。
これらの鋳片を粗圧延し、得られたシートバーを先行するシートバーと接合するとともに幅端部をエッジヒータで加熱し、引き続きクロス角度を変化させたペアクロスロールを、前3スタンドまたは全7スタンドに使った熱間仕上圧延機でそれぞれ連続圧延し、幅が950〜1300mmで極薄の熱延鋼帯とし、巻き取った。その後、酸洗して脱スケールを行い、次いで、No.1スタンドのワークロールを片台形ワークロールを用いたクロスシフト機とした6スタンドタンデム連続冷間圧延機にて圧延し、極薄冷延鋼帯を得た。
また、比較のために、従来の鋳片単位で仕上げ熱間圧延(単一圧延)を行うとともに、ペアクロス機を使わず、片台形ワークロールのクロスシフト機も使わない冷間圧延を行った。
以上の各製造条件を表2および表3に示す。
なお、一部の冷延鋼帯には、Niめっきを行い、他の冷延鋼帯と同様に連続焼鈍(Niめっき材はNi拡散処理に相当)を行った。拡散処理焼鈍条件は660〜690℃、10秒とした。続いて、調質圧延の圧下率を調整して種々の調質度の鋼板を製造した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
なお、使用したNiめっき浴および焼鈍条件は下記の通りである。
Niめっき浴
組成:
硫酸ニッケル 250g/l
塩化ニッケル 45g/l
ホウ酸 30g/l
浴温度 65℃
電流密度 5A/dm
焼鈍条件
雰囲気:NHXガス雰囲気(10%H+90%N
【0070】
このような処理を施した鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。
さらに、Ni拡散処理を施した供試材については、Niめっき量、表層におけるNi/(Ni+Fe)の比を下記の方法に従って測定した。
・Niめっき量:蛍光X線を用いて測定
・Ni/(Ni+Fe)比:GDSを用いて重量比で深さ方向に測定
これらの測定結果を、表4〜6に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
実施例2
表7に示す成分組成の鋼を実施例1と同様にして冷延鋼板を製造した。この鋼板の表面に、めっき、場合によってリフロー処理の後、クロメート処理を行い、表面処理鋼板を製造した。
以上の各製造条件を表8および表9に示す。なお、No.2の鋼においては、連続焼鈍に際し、500℃、30秒の過時効処理を施した。
【0075】
表面処理条件は、次のとおりである。
Ni拡散処理を施さない通常のすずめっきは、ハロゲンタイプの電気すずめっき工程にて、すずめっきあるいは薄すずめっきを行い、リフロー処理、クロメート処理を連続して行い、ぶりきに仕上げた。
ティンフリー鋼板(TFS)は、電気めっきラインで、先ずCrO:180g/l、HSO:0.8g/lのクロメート液で金属クロム量を30〜120mg/mのめっきを施した後、引き続きCrO:60g/l、HSO:0.2g/lのクロメート液でクロム水和酸化物(クロム換算量で1〜30mg/m)のめっきを行って仕上げた。 また、Ni拡散処理を施したものには、ハロゲンタイプの電気すずめっき工程にてすずめっき後、リフロー処理、クロメート処理を連続して行い、ぶりきに仕上げた。
【0076】
また、使用したSnめっき浴およびリフローおよびクロメート処理条件は下記のとおりである。
・Snめっき浴
組成:
塩化第1スズ 75g/l
弗化ナトリウム 25g/l
弗化水素カリウム 50g/l
塩化ナトリウム 45g/l
Sn2+ 36g/l
Sn4+ 1g/l
pH 2.7
浴温度 65℃
電流密度 48A/dm
・リフロー条件 通電加熱(280℃)
・クロメート液 無水クロム酸15g/l
硫酸0.13g/l
40℃、10A/dm陰極電解処理
【0077】
上述した方法により、Ni拡散処理を施しためっき前鋼板については、Niめっき量、表層におけるNi/(Ni+Fe)の比を下記の方法に従って測定した。
・Niめっき量:蛍光X線を用いて測定
・Ni/(Ni+Fe)比:GDSを用いて重量比で深さ方向に測定
【0078】
上記方法により製造した冷延鋼帯については、平坦度および連続焼鈍における通板性を調査した。
めっきおよびクロメート処理を施して、得られた表面処理鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。
また、製缶性を次の方法により調査した。3ピースについては、缶胴に相当する曲げ加工を施して耐フルーティングテストを行った。フルーティングテストの評価は缶胴の成形に相当するように曲げ加工を施し、胴体に発生した折れが商品として見るに耐えない程度のもの及び設計通りの真円度が得られず偏平になったもの(×印で表示)とそうでないもの(○印で表示)に区分して評価した。一方、2ピースについては、缶壁の傷つき性を評価し、肉眼観察で傷が確認されないもの(○印で表示)と傷が確認され耐食性が悪くなると予想されるもの(×印で表示)に区分して評価した。
【0079】
また、得られた表面処理鋼板について、防錆性、耐食性、Tピール試験による塗料密着性、および高速溶接性を下記の方法に従って試験した。
・糸状錆性
試料の表面に変性エポキシエステル塗料(東洋インキ(株)F−65DF−102(改1))を60mg/dm塗布後、160℃×10分の条件で焼付した後、対角線にXのスクラッチを入れた。これを、乾湿サイクル試験機を用い、温度25℃、相対湿度50%の乾燥状態と、温度50℃、相対湿度98%の湿潤状態とを30分ごとに繰返す条件下に試料を暴露した。2か月後に糸状錆の発生を観察し、錆の程度により下記5段階に分け評価した。
◎:糸状腐食なし
○:僅かな糸状腐食
△:中位の糸状腐食
×:やや激しい糸状腐食
*:激しい糸状腐食
【0080】
・耐食性
試料の表面に変性エポキシエステル塗料(東洋インキ(株)F−65DF−102(改1))を60mg/dm塗布後、160℃×10分の条件で焼付した。これを用いて90℃のトマトジュース70mlをホットパックした。
このホットパックを55℃で10日間経過した後、取り出して、腐食状態を観察し、下記の基準で耐食性を評価した。

【0081】
・高速溶接性
塗装した表面処理鋼板を、線径が約1.5mmφの銅ワイヤー型電気抵抗加熱シーム溶接機(商用機)でワイヤー速度65m/分、溶接圧力40kg、周波数600Hzで溶接した。
このとき、散り(スプラッシュ)の発生しない上限電流値とピール溶接強度(溶接部の一端に切り込みを入れ溶接部を缶胴から引き剥がすピールテストにより溶接部の全長が引きちぎれるものが強度が十分と判定)が得られる下限電流値の差を適正溶接電流範囲として評価し、5A以上あれば高速溶接の工程化が可能と判定した。さらに、フランジ拡缶成形で溶接部の近傍から割れない、いわゆるHAZ(heat affected zone)割れが発生しないことを確認して最終判定とした。
【0082】
・塗料密着性
2枚の試料の表面に、それぞれ変性エポキシエステル塗料(東洋インキ(株)F−65DF−102(改1))を60mg/dm塗布後、160℃×10分の条件で焼付した後、塗装面同士を厚さ40μmのナイロン12フィルムを挟んで加圧して接着し、引張試験片を作成した。
この試験片について、引張試験機を用いてTピール試験に供し接着強度を測定し、塗料密着性の指標とした。
なお、凸状すずめっき鋼板については、凸状すず分布をEPMAのすず分析のSEM像(1000倍)において凸状になっている部分と平坦部に分け、凸部の部分の面積率を画像処理法で測定した。
これらの測定結果を、表10〜12に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
【表8】

【0085】
【表9】

【0086】
【表10】

【0087】
【表11】

【0088】
【表12】

【0089】
実施例3
表13に示す成分組成の鋼を270t底吹き転炉により溶製し、連続鋳造機で鋳込んで鋳片を得た。
これらの鋳片を粗圧延し、得られたシートバーを先行するシートバーと接合するとともに幅端部をエッジヒータで加熱し、引き続きクロス角度を変化させたペアクロスロールを、前3スタンドまたは全7スタンドに使った熱間仕上圧延機でそれぞれ連続圧延し、幅が950〜1300mmで極薄の熱延鋼帯とし、巻き取った。その後、酸洗して脱スケールを行い、次いで、No.1スタンドのワークロールを片台形ワークロールを用いたクロスシフト機とした6スタンドタンデム連続冷間圧延機にて圧延し、極薄冷延鋼帯を得た。
また、比較のために、従来の鋳片単位で仕上げ熱間圧延(単一圧延)を行うとともに、ペアクロス機を使わず、片台形ワークロールのクロスシフト機も使わない冷間圧延を行った。
なお、一部の冷延鋼帯には、Niめっきを行い、他の冷延鋼帯と同様に連続焼鈍(Niめっき材はNi拡散処理に相当)を行った。拡散処理焼鈍の熱サイクルは700〜720℃、10秒とした。続いて、調質圧延の圧下率を調整して種々の調質度の鋼板を製造した。
以上の各製造条件を表13および表14に示す。なお、使用したNiめっき浴および焼鈍は実施例1と同様の条件とした。
このような処理を施した鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。また、r値(ランクフォード値)、およびその異方性Δrも測定した。
さらに、Ni拡散処理を施した供試材については、Niめっき量、表層におけるNi/(Ni+Fe)の比を実施例1と同様にして測定した。
これらの測定結果を、表15〜18に示す。
【0090】
【表13】

【0091】
【表14】

【0092】
【表15】

【0093】
【表16】

【0094】
【表17】

【0095】
【表18】

【0096】
実施例4
表19に示す成分の鋼を用いて、実施例3と同様にして冷延鋼板を製造した。この鋼板の表面に、めっき、場合によってリフロー処理の後、クロメート処理を行い、表面処理鋼板を製造した。
これらの各製造条件を表19および表20に示す。なお、Ni拡散処理におけるめっき浴および焼鈍の各条件、各種の表面処理条件は実施例2の条件と同様とした。
以上の方法で製造した表面処理鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。また、r値(ランクフォード値)、およびその異方性Δrも測定した。
また、Ni拡散処理材の表層におけるNi/(Ni+Fe)、冷延鋼帯の平坦度および連続焼鈍における通板性、表面処理鋼板における硬さ(HR30T)分布、板厚(mm)分布、製缶性、防錆性、耐食性、Tピール試験による塗料密着性および高速溶接性などの各試験条件はすべて実施例2の条件と同様とした。
これらの測定結果を、表21〜24に示す。
【0097】
【表19】

【0098】
【表20】

【0099】
【表21】

【0100】
【表22】

【0101】
【表23】

【0102】
【表24】

【0103】
実施例5
表25に示す成分組成の鋼を270t底吹き転炉により溶製し、連続鋳造機を用いて鋳片を得た。
これらの鋳片を粗圧延し、得られたシートバーを先行するシートバーと接合するとともに幅端部をエッジヒータで加熱し、引き続き、種々のクロス角度を有するペアクロスロールを全3スタンドまたは全スタンドに使った熱間仕上げ圧延機により、板幅が950〜1300mmの極薄鋼板に連続圧延し、巻き取った後、酸洗により脱スケールした。
次いで、種々の条件で冷間圧延、連続焼鈍および調質圧延を行った。ここに、No.1スタンドのワークロールを片台形ワークロールによるクロスシフト機になした6スタンドタンデム連続冷間圧延機にて極薄板厚に圧延した。
また、比較例として、鋳片単位での熱間仕上げ圧延(単一圧延)、シートバーの巻き戻し逆転処理、エッジヒータによる端部加熱、ペアクロス圧延機の採用などの熱間圧延条件、熱延鋼帯板厚、冷間圧延機の片台形クロス角度などの冷間圧延条件のいずれかが本発明範囲を外れる実験も行った。
なお、一部の冷延鋼帯には、Niめっきを行い、他の冷延鋼帯と同様に連続焼鈍(Niめっき材はNi拡散処理に相当)を行った。拡散処理焼鈍の熱サイクルは730〜760℃、10秒とした。続いて、調質圧延の圧下率を調整して種々の調質度の鋼板を製造した。
以上の各製造条件を表26および表27にまとめて示す。なお、使用したNiめっき浴および焼鈍は実施例1と同様の条件とした。
【0104】
【表25】

【0105】
【表26】

【0106】
【表27】

【0107】
このような処理を施した鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。また、r値(ランクフォード値)、およびその異方性Δrも測定した。
さらに、Ni拡散処理を施した供試材については、Niめっき量、表層におけるNi/(Ni+Fe)の比を実施例1と同様にして測定した。
これらの測定結果を、表28〜31に示す。
【0108】
【表28】

【0109】
【表29】

【0110】
【表30】

【0111】
【表31】

【0112】
実施例6
表32に示す成分の鋼を用いて、実施例5と同様にして冷延鋼板を製造した。この鋼板の表面に、めっき、場合によってリフロー処理の後、クロメート処理を行い、表面処理鋼板を製造した。
これらの各製造条件を表33および表34にまとめて示す。なお、使用したNiめっき浴および焼鈍の各条件、各種の表面処理条件は実施例1の条件と同様とした。
以上の方法で製造した表面処理鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。また、r値(ランクフォード値)、およびその異方性Δrも測定した。
また、Ni拡散処理材の表層におけるNi/(Ni+Fe)、冷延鋼帯の平坦度および連続焼鈍における通板性、表面処理鋼板における硬さ(HR30T)分布、板厚(mm)分布、製缶性、防錆性、耐食性、Tピール試験による塗料密着性および高速溶接性などの各試験条件は、すべて実施例2の条件と同様とした。
これらの測定結果を、表34〜表38に示す。
【0113】
【表32】

【0114】
【表33】

【0115】
【表34】

【0116】
【表35】

【0117】
【表36】

【0118】
【表37】

【0119】
【表38】

【0120】
実施例7
表39に示す成分組成の鋼を270t底吹き転炉により溶製し、連続鋳造機で鋳込んで鋳片を得た。
これらの鋳片を粗圧延し、得られたシートバーを先行するシートバーと接合するとともに幅端部をエッジヒータで加熱し、引き続き、クロス角度の異なるペアクロスロールを前3スタンドまたは全スタンドに使った熱間仕上圧延機により、板幅が950〜1300mmの極薄表面処理鋼板に連続圧延し、巻き取り熱延鋼帯の状態で自己焼鈍あるいは連続焼鈍ラインを通して再加熱焼鈍した。なお、自己焼鈍後、または再加熱焼鈍前に酸洗により脱スケールした。
次に種々の条件で冷間圧延、回復熱処理を行った。ここに、No.1スタンドのワークロールを片台形ワークロールによるクロスシフト機になした6スタンドタンデム連続冷間圧延機にて極薄板厚に圧延した。
また、比較例として、鋳片単位で熱間仕上げ圧延を行うとともに、ペアクロス機を使わないで圧延、また片台形ワークロールのクロスシフト機も使わない冷間圧延も行った。
続いて、回復熱処理を施したのち、調質圧延の圧下率を調整して種々の調質度の冷延鋼板とした。
以上の各製造条件を表40にまとめて示す。
このような処理を施した鋼板から供試材を採取し、幅方向の硬さ(HR30T)分布および板厚(mm)分布を測定した。
さらに、Ni拡散処理を施した供試材については、Niめっき量、表層におけるNi/(Ni+Fe)の比を実施例1と同様にして測定した。
これらの測定結果を、表41〜表43に示す。
【0121】
【表39】

【0122】
【表40】

【0123】
【表41】

【0124】
【表42】

【0125】
【表43】

【0126】
実施例8
表44に示す成分の鋼を用いて、実施例7と同様にして冷延鋼板を製造した。この鋼板の表面にめっきし、クロメート処理を行い、表面処理鋼板を製造した。
以上の各製造条件を表45にまとめて示す。
このような方法で製造した、冷延鋼帯および表面処理鋼板から供試材を採取し、調査試験を行った。ここに、冷延鋼帯の平坦度および連続焼鈍における通板性、表面処理鋼板における硬さ(HR30T)分布、板厚(mm)分布、製缶性、防錆性、耐食性、Tピール試験による塗料密着性および高速溶接性などの各試験条件は、すべて実施例2の条件と同様とした。
これらの測定結果を、表46〜表48に示す。
【0127】
【表44】

【0128】
【表45】

【0129】
【表46】

【0130】
【表47】

【0131】
【表48】

【0132】
上記実施例1〜8から、本発明によれば、板厚および硬さが板幅方向に均質な極薄広幅の缶用鋼板を製造できることが確認された。しかも、各種2ピース缶法、3ピース缶法において高速製缶に対応できて、軽量缶への加工に適切な材質を有しており、フィルムラミネートして用いるコイルのような新製缶法にも適した性能を有する缶用極薄鋼板が製造可能であることがわかった。
そしてこの鋼板は、鋼成分の適正化、熱間圧延の連続化および幅端部の加熱、熱間化上圧延機のペアクロスロール、冷間圧延機のクロスロールで圧延などの採用により、板幅方向に均質な極薄広幅の鋼板を無理なく製造できることが明らかである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が2mm以下、板幅が950mm以上、クラウンが±40μm以内であることを特徴とする、冷間圧延のままの鋼板の両側幅端部(ただし、板幅に対する割合が両側端合計で5%以内)を除く範囲で、板厚の変動量が±4%以内かつ硬さ(HR30T)の変動量が±3以内である板厚が0.2mm以下の極薄鋼板用熱延鋼板。
【請求項2】
鋼の成分組成が、C:0.1mass%以下、Si:0.03mass%以下、Mn:0.05〜0.60mass%、P:0.02mass%以下、S:0.02mass%以下、Al:0.02〜0.20mass%、N:0.015mass%以下、O:0.01mass%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる、請求項1に記載の極薄鋼板用熱延鋼板。
【請求項3】
鋼の成分組成が、C:0.1mass%以下、Si:0.03mass%以下、Mn:0.05〜0.60mass%、P:0.02mass%以下、S:0.02mass%以下、Al:0.02〜0.20mass%、N:0.015mass%以下、O:0.01mass%以下を含み、かつCu:0.001〜0.5mass%、Ni:0.01〜0.5mass%、Cr:0.01〜0.5mass%、Mo:0.001〜0.5mass%、Ca:0.005mass%以下、Nb:0.10mass%以下、Ti:0.20mass%以下及びB:0.005mass%以下から選ばれるいずれか1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる、請求項1に記載の極薄鋼板用熱延鋼板。
【請求項4】
請求項2または3に記載の成分組成を有する(ただし、C:0.004mass%以下)鋼片を、粗圧延により板幅が950mm以上のシートバーとし、これを先行するシートバーと突き合わせ接合し、かかるシートバーの幅端部をエッジヒータにて昇温し、次いで少なくとも3スタンドではペアクロスロール圧延による仕上げ連続圧延を行うことにより、板厚が2mm以下、板幅が950mm以上、クラウンが±40μm以内である熱延鋼板を得ることを特徴とする、冷間圧延のままの鋼板の両側幅端部(ただし、板幅に対する割合が両側端合計で5%以内)を除く範囲で、板厚の変動量が±4%以内かつ硬さ(HR30T)の変動量が±3以内である板厚が0.2mm以下の極薄鋼板用熱延鋼板の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−138492(P2010−138492A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9586(P2010−9586)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【分割の表示】特願2000−222418(P2000−222418)の分割
【原出願日】平成9年3月17日(1997.3.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】