説明

構造体、測定装置及び測定方法

【課題】細胞の観察時に得られる画像の画質の劣化を防止する測定装置と、該装置に用いる構造体と培養容器の提供。
【解決手段】培養液又は培養液中の細胞を区画する区画領域を備えるとともに、少なくとも区画領域が非晶質のフッ素樹脂から形成された構造体と培養容器10、およびそれらを備えた測定装置。区画領域は細胞と当接される大きさからなる凹部22を備えており、該凹部は底面側から開口部側に向けて面積が大きくなるように形成され、またその内周面及び底面に、前記細胞を保持するための表面処理が施されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液や培養液中の細胞を区画して保持する構造体、これら構造体に保持される培養液や細胞の観察や測定を行う測定装置及びや測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェルプレートや培養容器を用いて、神経細胞や卵細胞などの細胞を培養することが一般的に行われている。このウェルプレートや培養容器の中には、複数のウェルが設けられ、それぞれのウェルに単一の細胞を収納して培養を行うものも提供されている。このようなウェルプレートや培養容器においては、上述したウェルは円筒形状や円錐形状から形成されているのが一般的である。最近では、マニピュレータやキャピラリーにより培養される細胞を操作しながら該細胞を観察する際の観察視野を確保するために、開口部側が底面側よりも拡径となる、所謂テーパ状のウェルが形成されたウェルプレートや培養容器が提供されている。
【特許文献1】特開2006−109715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したテーパ状のウェルを備えたウェルプレートや培養容器の場合、ウェルに収納される細胞を補捉する際に、細胞の移動を防止できるという利点がある。しかしながら、このようなテーパ状のウェルや円筒形状のウェルを備えたウェルプレートや培養容器内の細胞を観察する場合、培養液の屈折率と、ウェルプレートや培養容器における屈折率との違いから、ウェルプレートや培養容器を透過する観察光は屈折してしまい、観察される細胞の画像の画質を劣化させるなど、細胞観察時に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0004】
本発明は、細胞の観察時に得られる画像の画質の劣化を防止することができるようにした構造体、測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の構造体は、培養液中の細胞を収容する培養容器の細胞付着底面を区画する区画領域を形成するともに、少なくとも前記区画領域が非晶質のフッ素樹脂から形成されたことを特徴とする。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、前記区画領域は、前記細胞の一単位の大きさ、或いは前記細胞のコロニー単位の大きさからなる凹部を備えていることを特徴とする。
【0007】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記凹部は、該凹部の内壁面及び底面に、前記細胞を保持するための表面処理が施されていることを特徴とする。
【0008】
第4の発明は、第1の発明において、前記区画領域は前記培養液を区画する複数の凹部から構成されるとともに、前記複数の凹部は、それぞれ隣り合う通路により連結されていることを特徴とする。
【0009】
第5の発明は、第2から第4の発明のいずれかにおいて、前記区画領域は、該区画領域から突出する突出部を備えるとともに、前記凹部は該突出部に設けられていることを特徴とする。
【0010】
第6の発明の培養容器は、第1から第5の発明のいずれかの構造体が培養容器の底面に接着されて成ることを特徴とする。
【0011】
第7の測定装置は、第1から第5の発明のいずれかに記載の構造体、又は第6の発明に記載された培養容器と、前記構造体又は培養容器に向けて照明光を照射する照明手段と、前記照明光が照射された前記構造体又は前記培養容器に保持される細胞の画像を取得する画像取得手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
第8の測定方法は、第1から第6の発明のいずれかに記載の構造体に向けて照明光を照射する照明工程と、前記照明光が照射された前記構造体に保持される細胞の画像を取得する画像取得工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少なくとも区画領域が非晶質フッ素樹脂から形成されるので、細胞に観察光が到達する前に区画領域を通過する場合には、観察光が屈折せずに細胞に到達する。また、仮に細胞に到達しない観察光が区画領域に到達した場合でも、その観察光は、そのまま区画領域にて反射せずに透過することから、細胞観察時に得られる画像の画質の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明を実施した培養容器の斜視図である。培養容器10は、上面が開口された円筒形状の容器からなる。培養容器10は、例えば透明なガラスやプラスチックなどの材質から形成される。この培養容器10は、例えば卵細胞などの細胞35を培養するために用いられる。なお、培養容器10の形状は円筒形状に限定される必要はなく、例えば略方形状の容器であってもよい。
【0015】
この培養容器10の底部10aには、図中ハッチングで示す領域15に、培養液30中の細胞35を区画する領域が設けられる。以下、この領域を区画領域15と称して説明する。ここで、細胞35を区画するとは、細胞35を位置決めし、位置決めされた状態を保持することである。
【0016】
区画領域15は、例えばサイトップ(登録商標)と呼ばれる非晶質のフッ素樹脂により形成される。非晶質のフッ素樹脂は、可視光線の透過率が95%を超える特性や、また、水の屈折率(1.33)と非常に近似した屈折率(1.34)であるという特性を有している。また、この他に、非晶質のフッ素樹脂は、サブミクロン単位の薄膜コーティングが可能であるという特性を有している。以下、培養容器10の底部10aにコーティングされた非晶質のフッ化樹脂の層をフッ化樹脂層20と称して説明する。
【0017】
図2に示すように、区画領域15は、フッ化樹脂層20の上面20aに円柱形状の突出部21が複数設けられている。これら突出部21は、例えばマトリクス状に配列される。なお、これら突出部21の配列状態はマトリクス状に限定される必要はなく、ライン状、或いはハニカム状など適宜の配列状態としてよい。これら複数の突出部21の上面には凹部22が設けられている。この区画領域15に設けられる凹部22は、細胞35の一単位の大きさ、或いは細胞35のコロニー単位の大きさから形成される。凹部22は、該凹部22の深さ方向と直交する断面が例えば円形状からなる。また、凹部22は、底面22a側から開口部側に向けて、該凹部22の深さ方向と直交する断面の面積が大きくなるように形成される。これら突出部21や凹部22は、フッ化樹脂層20に対して、例えばプラズマエッチング或いはホットエンボス加工などを施すことで形成される。また、この他に、射出成形を行うことで、突出部21及び凹部22を備えたフッ化樹脂膜を生成し、このフッ化樹脂膜を培養容器10の底部10aに固着させることも可能である。なお、図示を省略したキャピラリー等により、単一の細胞35が凹部22に載置され、位置決め保持される。ここで、凹部22に載置されると記載したのは、細胞35の大きさよりも凹部22が大きい場合には細胞35は凹部22に収納されることになるが、細胞35の大きさよりも凹部22が小さい場合には細胞35は凹部22によって支持されるためである。なお、細胞35が凹部22に載置されたときには、その大きさに限らず、凹部22の底面22a及び内周面22bに当接される。
【0018】
なお、上述した凹部22の形状は、培養する細胞35の種類によって異なるが、細胞35を区画できる形状であれば、上述した形状に限定する必要はない。ここで示す凹部22の形状とは、例えば凹部22の深さ(開口側から底面22aまでの長さ)、凹部22の深さ方向と直交する断面の面積、及び凹部22の内周面22bの傾斜角度などが挙げられる。図3(a)に示すように、例えば凹部22に細胞35を収納する必要がある場合には、凹部22の深さを細胞35の大きさ(直径)よりも深くする必要がある。一方、図3(b)に示すように、凹部22に細胞35を収納しなくてもよい場合には、凹部22の深さを細胞35の大きさ(直径)よりも浅くする。この場合には、凹部22の底面22aと内周面22bとで細胞35を支持することで、細胞35を保持(位置決め)することができる。また、凹部22の形状としては、図3に示す形状の他に、例えばすり鉢状の凹部(言い換えれば凹部内の空間が円錐形状からなる凹部)36であってもよい(図4参照)。この凹部36も本実施形態と同様に、細胞35の一単位の大きさ、或いは細胞35のコロニー単位の大きさから形成される。このような凹部36であっても、斜面36aに細胞35が付着されることから、本実施形態と同様に、細胞35を容易に位置決めする、又は保持することができる。
【0019】
この凹部22の底面22a及び内周面22bには、細胞35の保持状態が変化しないように、つまり、細胞35と凹部22との接着性を向上させるための表面処理が施されている。例えばフッ化樹脂は疎水性であることから、プラズマ照射等による表面処理を施すことで、凹部22の底面22a及び内周面22bを親水化する。表面処理としては、プラズマ照射の他に、例えば電荷を有する高分子被膜をフッ化樹脂層20の表面に形成することが挙げられる。この電荷を有する高分子被膜を形成する場合には、観察時の光学性能に影響を与えない程度の厚みとなるように高分子皮膜を形成すればよい。なお、マニピュレータ又はキャピラリーによる細胞操作により、細胞35の保持状態を変化させる場合には、フッ化樹脂層20の表面20a、つまり凹部22の底面22a及び内周面22bに表面処理を施す必要はない。
【0020】
図5は、本発明の培養容器10に培養される細胞を観察する場合の顕微鏡の構成を示す。顕微鏡40は、光源41と、照明光学系42と、共焦点光学系43と、撮像装置44と、ステージ45と、ステージ駆動部46と、シフト機構47と、コントローラ48と、操作部49と、表示部50とを備えている。なお、図5においては、顕微鏡とコンピュータなどの外部装置との接続の有無については記載していないが、外部装置と接続可能な顕微鏡であってもよい。
【0021】
光源41は例えばレーザ光を照射するレーザ光源が挙げられる。照明光学系42は、例えばコンデンサレンズからなる。光源41及び照明光学系42は、共焦点光学系43の側方に位置し、後述するビームスプリッタ57から側方に延びる光軸L1上に配置される。
【0022】
共焦点光学系43は、被検物となる培養容器10から上方に延びる光軸L2上に、培養容器10側から、対物レンズ系55、ピンホールディスク56、ビームスプリッタ57、リレーレンズ系58の順で配置される。
【0023】
対物レンズ系55は、ピンホールディスク56の共焦点ピンホールを通過した光を、ステージ45に載置された培養容器10に共焦点ピンホールの像(点像)として集光照射する。培養容器10に集光照射された共焦点ピンホールの像は、培養容器10の底部10a、又は位置決めされた細胞35の表面で反射されることから、対物レンズ系55は、反射された光を集光し、ピンホールディスク56の下面に培養容器10の底部10a、又は位置決めされた細胞35の表面の像を生成する。
【0024】
ピンホールディスク56は、光を透過する共焦点ピンホール(図示省略)が多数螺旋状に配列された薄い円板からなる。ピンホールディスク56は、ビームスプリッタ57で反射された光を遮るように、共焦点光学系43の光軸L2に対して直交して配置される。ピンホールディスク56はモータ60により所定の回転速度で回転され、共焦点ピンホールを通過した光のみが、対物レンズ系55に向けて照射される。
【0025】
ビームスプリッタ57は、照明光学系42からの照明光のうち、特定の偏光成分の光を透過させ、残りの偏光成分の光を反射する。このビームスプリッタ57にて反射された偏光成分の光がピンホールディスク56の上面に照射される。また、ビームスプリッタ57は、ピンホールディスク56の共焦点ピンホールを通過した反射光を透過させ、リレーレンズ系58に照射する。なお、ビームスプリッタ57を配置しているが、ビームスプリッタ57の代わりにハーフミラーを配置することも可能である。リレーレンズ系58は、ビームスプリッタ57を透過した反射光を集光し、撮像装置44の撮像面に共焦点ピンホールの像を結像させる。
【0026】
撮像装置44はリレーレンズ系58の像面位置に設けられる。撮像装置44は、例えばCCDやCMOSなどの二次元の撮像素子から構成される。ステージ45は、培養容器10を所定位置に保持した状態で、共焦点光学系43の焦点近傍位置に配置される。
【0027】
ステージ駆動部46は、ステージ45を光軸L2方向に移動させるとともに、ステージ45を光軸L2方向と直交する面上で移動させる。シフト機構47は対物レンズ系55を光軸L2方向に移動させる。コントローラ48は、顕微鏡40の各部を制御する。操作部49は、顕微鏡40における観察条件の入力操作等の際に操作される。表示部50は、例えばLCDからなり、撮像装置44によって撮像される画像や、観察条件の設定などを行う際の画像を表示する。
【0028】
上述したように、この顕微鏡40は、光源41からの照明光のうち、ビームスプリッタ57にて所定の偏光成分の光のみを反射させた後、ピンホールディスク56上に結像させる。このピンホールディスク56は、モータ60により所定の速度で高速回転させることにより、ピンホールディスク56に形成された共焦点ピンホールを通過した光のみがスポット光として培養容器10をスキャンすることとなる。
【0029】
そして、共焦点ピンホールを通過した培養容器10の反射像(共焦点像)を撮像装置44で撮影することで、培養容器10の各部の高さ情報を含んだ共焦点画像を得ることができる。すなわち、共焦点光学系43は、培養容器10が対物レンズ系55の焦点面の高さ位置にあるときに、反射光がピンホールディスク56のピンホール形成面に結像し、反射光のほぼ全量が通過光となって共焦点ピンホールを通過するが、培養容器10が対物レンズ系の焦点面の高さ位置からわずかでも外れると、反射光はピンホール形成面に結像せず、一部しか共焦点ピンホールを通過することができない。このため、培養容器10及び共焦点光学系43の少なくともいずれか一方を光軸L2方向に変位させて培養容器10の表面に対する焦点面の高さを相対変位させ、培養容器10からの反射光をピンホールディスク56を介して撮像装置44により撮影し、検出される通過光の光強度が最大となる高さ位置を求めることにより、培養容器10の高さ位置を検出することができる。
【0030】
このような顕微鏡40において、培養容器10に位置決めされた細胞を観察するときには、培養容器10の突出部21の突出量と、対物レンズ系55の光学倍率やFナンバーによっては、対物レンズ系55の観察視野内に突出部21が入り込む場合がある(図6参照)。このような場合には、対物レンズ系55からの照明光が培養液30、突出部21の順で伝播した後、細胞35に到達する。上述したように、突出部21は非晶質のフッ化樹脂から形成されていることから、培養液30の屈折率と突出部21の屈折率とは、略同一の屈折率となることから、照明光は突出部21に入射する際には屈折せずに直進することになる。
【0031】
これによれば、培養容器10の表面(或いは細胞の表面)に照射される光の集光状態を維持することができる。また、仮に細胞35に到達しない観察光の場合には、培養容器10の突出部21のみを通過することになるが、突出部21と培養液30との境界面においては反射せずにそのまま直進する。この観察光はフッ素樹脂層20と培養容器10の底部10aとの境界にて反射する場合も考えられるが、この反射光は対物レンズ系55の観察視野から外れるので、観察時に影響することはない。これにより、細胞の表面の高さ位置を測定する他に、細胞の状態変化を正確に測定することが可能となる。
【0032】
なお、顕微鏡40の一例として、共焦点光学系を有する顕微鏡を取り上げているが、これに限定される必要はなく、例えば蛍光観察や位相差観察を行う顕微鏡を用いた場合であっても、本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。なお、蛍光観察や位相差観察については、周知であることから、ここではその詳細を省略する。
【0033】
本実施形態では、区画領域15のみを非晶質のフッ化樹脂から形成した培養容器10の例を取り上げているが、これに限定される必要はなく、例えば培養容器を非晶質のフッ化樹脂から形成することも可能である。また、区画領域15に設けられる凹部22の底面22aは必ずしもフッ化樹脂層20に設ける必要はなく、例えば培養容器10の底部10aを底面としてもよい。
【0034】
本実施形態では、フッ化樹脂層20に、その表面20aから突出する円柱形状の突起部21を複数設け、そのそれぞれに凹部22を設けた実施形態としているが、これに限定されるものではなく、図7に示すように、例えばフッ化樹脂層20の表面20aに複数の凹部22を設けた構成であってもよい。この場合も、フッ化樹脂層20に対してプラズマエッチング等を施して凹部22を形成する。この場合も、区画される細胞を保持する保持力を高める場合には、凹部22の表面にプラズマ照射等による表面処理を施し、凹部22の底面22aや内周面22bを親水化したり、凹部22の底面22aや内周面22bに、例えば電荷を有する高分子被膜を形成することが挙げられる。
【0035】
本実施形態では、構造体として培養容器10を例に取り上げているが、これに限定される必要はなく、例えばマイクロプレート、ウェルプレートやスライドガラス等であってもよい。例えばスライドガラスなどの構造体に本発明を適用することも可能である。図8に示すように、スライドガラス70の上面70aの図8中斜線に示す領域71に非晶質のフッ化樹脂をコーティングすることで、区画領域を生成する。コーディングすることでフッ化樹脂層がスライドガラス70の上面70aに形成されるので、このフッ化樹脂層に対して、本実施形態と同様の突出部や凹部を形成すればよい。このような構成のスライドガラス70の使用用途としては、フッ化樹脂層に形成される凹部に細胞を載置した状態で細胞を観察する、又はフッ化樹脂層に形成された凹部に細胞を載置した状態で培養液が貯留された培養容器に沈めて細胞を培養するなどが挙げられる。例えばスライドガラス70を培養容器に沈める場合には、培養液を交換するときには、培養容器からスライドガラス70を引き上げて、新たな培養液に交換する、或いは培養液が貯留された新たな培養容器にスライドガラス70を沈めればよい。この場合も、スライドガラス70を自体を非晶質のフッ化樹脂から形成することも可能である。
【0036】
本実施形態では、フッ化樹脂層20に設けられる凹部22により培養液中の細胞35を区画(位置決め)しているが、この他に、例えば細胞35が培養された培養液をフッ化樹脂層20に設けられる凹部22に注入することで、培養液を区画することも可能である。この場合、フッ化樹脂層に設けられる凹部は、一般に提供される培養容器に設けられるウェルの機能を有している。以下、培養容器を取り上げて説明するが、スライドガラスやマイクロプレートであってもよい。図9に示すように、培養容器75の底面75aに設けられるフッ化樹脂層76に円柱形状の凹部77を設ける。この場合も、ホットエンボス加工を施すことで円柱形状の凹部77を形成した非晶質のフッ化樹脂膜、プラズマエッチングにより円柱形状の凹部77を形成した非晶質のフッ化樹脂膜、又は射出成形を行うことで形成される円柱形状の凹部77を有する非晶質のフッ化樹脂膜のいずれかを培養容器75の底面75aに固着することでフッ化樹脂層76を形成する。このような培養容器の場合には、細胞を培養する培養液はそれぞれの凹部77に注入されることから、それぞれの凹部77に試薬の注入等により、単一細胞毎に異なる培養環境を作り出すことができる。
【0037】
なお、この場合の凹部77の形状を円柱形状としているが、これに限定される必要はなく、凹部の深さ方向に直交する断面の形状が、例えば楕円形状や、三角形、四角形などの多角形状からなる凹部であってもよい。
【0038】
さらに、培養容器75に培養液を区画するための凹部77が設けられている場合には、隣り合う凹部77を繋ぐ通路78を設けることも可能である(図10参照)。例えば神経細胞などを培養した場合、所定時間培養すると、細胞に樹状突起や軸索が形成される。これら細胞に形成される樹状突起や軸索は、ランダムな方向に延び始める。隣り合う凹部77を繋ぐ通路78は、凹部77に保持される細胞の樹状突起と、隣り合う凹部77に保持される細胞の軸索とを接合させるために用いられる。これら樹状突起や軸索が接合されることにより、細胞回路を形成することが可能となる。例えば培養容器75に設けられた凹部77のそれぞれに異なる細胞(例えば神経細胞及び心筋拍動細胞)を隣り合う凹部のそれぞれに保持することで、神経細胞と心筋心筋拍動細胞とからなる細胞回路を生成することが可能となる。また、このように生成される細胞回路を上述した顕微鏡で観察したときには、凹部が形成されるフッ化樹脂層において観察光を屈折することがないので、細胞回路の各部を高精度で観察する、或いは細胞回路の形成状態を高精度で検出することができる。なお、上述した通路78の形状は、適宜設定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】培養容器の外観を示す斜視図である。
【図2】区画領域の構成を示す斜視図である。
【図3】区画領域の構成を示す断面図である。
【図4】区画領域に設けられる凹部の形状を示す断面図である。
【図5】共焦点光学系を有する顕微鏡の構成を示す図である。
【図6】顕微鏡の観察時における照明光の光路を示す断面図である。
【図7】区画領域の変形例を示す断面図である。
【図8】スライドガラスに区画領域を設けた場合の斜視図である。
【図9】培養液を区画する時に用いられる培養容器の区画領域の構成を示す斜視図である。
【図10】図9に示す培養容器の区画領域の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
10,75…培養容器、15,71…区画領域、20,76…フッ化樹脂層、21…突出部、22,77…凹部、30…培養液、35…細胞、40…顕微鏡、41…光源、43…共焦点光学系、44…撮像装置、78…通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液中の細胞を収容する培養容器の細胞付着底面を区画する区画領域を形成するともに、少なくとも前記区画領域が非晶質のフッ素樹脂から形成されたことを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体において、
前記区画領域は、前記細胞の一単位の大きさ、或いは前記細胞のコロニー単位の大きさからなる凹部を備えていることを特徴とする構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の構造体において、
前記凹部は、該凹部の内壁面及び底面に、前記細胞を保持するための表面処理が施されていることを特徴とする構造体。
【請求項4】
請求項1に記載の構造体において、
前記区画領域は前記培養液を区画する複数の凹部から構成されるとともに、前記複数の凹部は、それぞれ隣り合う通路により連結されていることを特徴とする構造体。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の構造体において、
前記区画領域は、該区画領域から突出する突出部を備えるとともに、前記凹部は該突出部に設けられていることを特徴とする構造体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体が培養容器の底面に接着されて成ることを特徴とする培養容器。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体又は請求項6に記載の培養容器と、
前記構造体又は前記培養容器に向けて照明光を照射する照明手段と、
前記照明光が照射された前記構造体又は前記培養容器に保持される細胞の画像を取得する画像取得手段と、
を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造体に向けて照明光を照射する照明工程と、
前記照明光が照射された前記構造体に保持される細胞の画像を取得する画像取得工程と、
を備えたことを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−63430(P2010−63430A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234887(P2008−234887)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】