構造物の製造方法及び構造物
【課題】セラミックス基複合材料によって形成される構造物の強度を均一化させて構造物の品質を向上させる。
【解決手段】長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする同心円形状とされたマンドレル100周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2を形成する織物形成工程と、該織物形成工程において形成された上記織物2を上記構造物の形状に変形させた状態で、上記織物にセラミックを含浸させてマトリックスを形成するマトリックス形成工程とを有する。
【解決手段】長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする同心円形状とされたマンドレル100周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2を形成する織物形成工程と、該織物形成工程において形成された上記織物2を上記構造物の形状に変形させた状態で、上記織物にセラミックを含浸させてマトリックスを形成するマトリックス形成工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、構造物の形成材料として、金属にかえて耐熱性の優れたセラミックス基複合材料が用いられる場合がある。
このようなセラミックス基複合材料は、セラミックからなる繊維によって形成された織物に、セラミックからなるマトリックスが付着形成された材料であり、金属よりも優れた耐熱性を有している。
【0003】
このようなセラミックス基複合材料によって内部に中空領域を備えるタービン翼や燃焼室等の構造物を製造する場合には、例えば、上記中空領域の形状に成型されたマンドレル周りにセラミックからなる繊維を巻きつけて構造物の形状とされた織物を形成し、当該織物にマトリックスを付着形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7093359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、構造物の中空領域の形状に成型されたマンドレル周りに繊維を巻き付ける方法としては、いわゆるブレイディング法やフィラメントワインディング法が知られている。
ブレイディング法は、マンドレルの延在方向に延びる中央糸とマンドレルに対して螺旋状に巻き付けられる複数の組糸とを編み込んでいく方法であり、複数の繊維が同時にマンドレルに対して巻き付けられる方法である。
一方、フィラメントワインディング法は、一本の繊維をマンドレル周りに巻き付ける方法である。
【0006】
しかしながら、実際の構造物は複雑な形状を有していることが一般的である。このため、構造物の中空領域の形状に成型されたマンドレルは複雑な形状であることが多い。
このような複雑な形状のマンドレルに対して繊維を巻き付けた場合には、マンドレルの形状に沿って繊維の一部が移動し、織物において繊維の偏りが発生する。
セラミックス基複合材料によって形成された構造物の強度は、繊維の密度や繊維の方向に依存する。このため、繊維の偏りが存在する場合には、構造物の強度が不均一となり、場所によって強度が変化する可能性がある。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、セラミックス基複合材料によって形成される構造物の強度を均一化させて構造物の品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物の製造方法であって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする同心円形状とされたマンドレル周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物を形成する織物形成工程と、該織物形成工程において形成された上記織物を上記構造物の形状に変形させた状態で、上記織物にセラミックを含浸させてマトリックスを形成するマトリックス形成工程とを有するという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記マンドレルの長さ方向における各領域での周長が上記構造物の上記中空領域の長さ方向における各領域での周長と一致されているという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記マンドレルが、上記繊維が巻き付けられた状態で取り外しまたは消失可能とされているという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記マトリックス形成工程において、上記構造物の中空領域の形状に成型された内型と上記構造物の外形形状に成型された外型とによって挟み込むことによって上記織物を上記構造物の形状に変形させるという構成を採用する。
【0013】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記内型が、上記構造物の上記中空領域において取り外しまたは消失可能とされているという構成を採用する。
【0014】
第6の発明は、上記第1〜第5いずれかの発明において、上記織物が、ブレイディング法によって上記マンドレル周りに巻き付けられるという構成を採用する。
【0015】
第7の発明は、上記第1〜第6いずれかの発明において、前記織物よりも小型の小織物を前記織物内部に配置させて前記マトリックス形成工程を行うという構成を採用する。
【0016】
第8の発明は、開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物であって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物が上記構造物の形状に変形された変形織物にセラミックが含浸されて形成されているという構成を採用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする同心円形状とされた織物を構造物の形状に変形し、この変形した織物にセラミックが含浸されて構造物が形成される。
長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物は、単一断面において同一曲率となるため、中心軸周りにおいて均一に繊維を配置することが可能となる。つまり、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物は、中心軸を中心とする周方向において繊維の偏りが抑制されている。そして、このような織物を構造物の形状に変形させた場合であっても、織物における繊維の密度は、中心軸周りにおいて均一となる。
このため、本発明のように、上記織物を構造物の形状に変形し、この変形した織物にセラミックが含浸されることによって、周方向に繊維が均一に配置された構造物となる。
したがって、本発明によれば、セラミックス基複合材料によって形成される構造物の強度を均一化させて構造物の品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における静翼の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレルの斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレル周りに織物が形成せれた様子を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられる織物を変形された様子を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられる織物を内型と外型とで挟み込んだ様子を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態における静翼の概略構成を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレルの斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレル周りに織物が形成された様子を示す斜視図である。
【図9】本発明の変形例を示す図であり、中空領域が2つに区画された静翼を製造する工程を示す図である。
【図10】本発明の変形例を示す図であり、中空領域が3つに区画された静翼を製造する工程を示す図である。
【図11】本発明の変形例を示す図であり、中空領域が上下方向に2つに区画された静翼を製造する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る構造物の製造方法及び構造物の一実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、構造物がタービンの静翼である場合について説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のタービンの静翼1の概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、静翼1は、両側の開口部を介して外部に接続される中空領域1aを備えている。なお、実際に静翼1がタービンに組み込まれた際には静翼1の両側に配置されるバンド部によって開口部が閉ざされ、中空領域1aに冷却ガスが供給されることによって静翼1の冷却が図られる。
【0021】
また、本実施形態の静翼1は、セラミックス基複合材料によって形成されている。
セラミックス基複合材料は、セラミック(例えば炭化珪素)からなる繊維によって形成された織物に、セラミック(例えば炭化珪素)からなるマトリックスが付着形成された材料であり、金属によりも優れた耐熱性を発揮する。
【0022】
そして、本実施形態の静翼1は、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物が静翼1の形状に変形された変形織物にセラミックが含浸されて形成されている。なお、ここで言う長さ方向とは、中心軸L2が延在する方向である。
このような本実施形態の静翼1によれば、中空領域1aを介して両側の開口部に抜ける軸L周りにおける繊維の密度が均一化されて強度が均一化されるため、品質が向上されたものとなる。
【0023】
続いて、このような静翼1の製造方法について説明する。
まず最初に、図2に示すように、中心軸L2の延在方向である長さ方向における断面形状が、中心軸L2を中心とする同心円形状とされたマンドレル100を用意する。このようなマンドレル100は、長さ方向におけるいずれの領域において中心軸L2と直交する面で切断した場合には、その断面形状が真円となる。
そして、本実施形態においてマンドレル100は、長さ方向の全ての領域において、同一半径の円形状とされ、マンドレル100の長さ方向における各領域での周長が中空領域1aの長さ方向における各領域での周長と一致されている。
【0024】
次に、図3に示すように、マンドレル100周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2を形成する(織物形成工程)。
なお、本実施形態においては、繊維をブレイディング法によってマンドレル100周りに巻き付ける。ブレイディング法により、マンドレル100の延在方向に延びる中央糸とマンドレル100に対して螺旋状に巻き付けられる複数の組糸とが編み込まれ、複数の繊維が同時にマンドレル100に対して巻き付けられる。
【0025】
次に、マンドレル100を織物2から抜き出す。なお、本実施形態においてマンドレル100は、長さ方向の全ての領域において同一半径の円形状とされているため、織物2を抑えて中心軸L方向に移動させることによって容易に織物2から抜き出すことができる。
【0026】
なお、セラミックス基複合材料では、周知のように繊維の表面に界面層を形成する。そして、当該界面層として炭素界面層を形成する場合には、マンドレル100を抜き出した織物2をメタンガスが供給される真空炉内において熱処理して熱分解することによって界面層を形成する。
ただし、界面層として窒化ホウ素界面層を形成する場合には、マンドレル100周りに繊維を巻き付ける前に界面層の形成を行う。具体的には、BCl3+NH3ガスが供給される炉内に繊維を通して熱分解することによって界面層の形成を行う。
【0027】
次に、図4に示すように、マンドレル100を抜き出した織物2の内部に、静翼1の中空領域1aの形状に成型された内型200を挿入し、さらに織物2を内型200に押さえつけることによって織物2を静翼1の形状に変形させる。
次に、図5に示すように、織物2を上記内型200と静翼1の外形形状に成型された外型300とによって挟み込むことによって織物2を静翼1の形状に変化させた状態を保つ。なお、外型300には、後の含浸処理において原料が容易に織物2に到達可能とするために、織物2に到達する複数の貫通孔を備えている。
【0028】
そして、このように織物2が静翼1の形状に変化された状態で、織物2にセラミックを含浸させてマトリックスを形成する(マトリックス形成工程)。
織物2にセラミックを含浸させる方法としては、例えば気相含浸法、液相含浸法及び固相含浸法が知られている。そして、本実施形態においては、これらの方法を単独であるいは組み合わせた含浸処理を行い、さらにこれらの含浸処理を繰り返し行うことによって緻密なマトリックスの形成を行う。
【0029】
なお、含浸工程においては織物2と内型200との隙間及び織物2と外型300との隙間にもセラミックが含浸されるため、織物2に対するセラミックの含浸が進むと、内型200及び外型300から織物2を取り外すことが困難となる。一方で、織物2は、含浸工程の初期段階(少量のセラミックが織物2に含浸された段階)でその形状が固定される。
このため、含浸工程の初期段階にて内型200及び外型300から織物2を取り外し、その後は織物2のみを対象として含浸工程を行うことが好ましい。
【0030】
以上のような工程によって、図1に示す静翼1が製造される。
このような本実施形態の静翼1の製造方法によれば、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする同心円形状とされた織物2を静翼1の形状に変形し、この変形した織物2(変形織物)にセラミックが含浸されて静翼1が形成される。
長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2は、単一断面において同一曲率となるため、マンドレル100周りに繊維を巻き付ける際に中心軸L2周りにおいて均一に繊維を配置することが可能となる。つまり、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2は、中心軸L2を中心とする周方向において繊維の偏りが抑制されている。そして、このような織物2を静翼1の形状に変形させた場合であっても、織物2における繊維の密度は、中心軸L2周りにおいて均一となる。
このため、本実施形態の静翼1の製造方法のように、上記織物2を静翼1の形状に変形し、この変形した織物2にセラミックが含浸されることによって、周方向に繊維が均一に配置された静翼1となる。
したがって、本実施形態の静翼1によれば、セラミックス基複合材料によって形成される静翼1の強度を均一化させて静翼1の品質を向上させることが可能となる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0032】
図6は、本実施形態の静翼3の概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、本実施形態の静翼3は、軸L1方向において、中央部Aの断面形状が手前側(ハブ側)の断面形状よりも大きく、奥側B(チップ側)の断面形状が手前側(ハブ側)の断面形状よりも小さい形状を有している。
本実施形成の静翼3もセラミックス基複合材料によって形成されており、内部に中空領域3aを有している。
【0033】
そして、本実施形態の静翼3も、上記第1実施形態の静翼1と同様に、軸L周りにおける繊維の密度が均一化されて強度が均一化されており、品質が向上されたものとなっている。
【0034】
このような構成を有する本実施形態の静翼3を製造する場合には、図7に示すように、中心軸L2方向において中央部A1の断面形状が手前側の断面形状よりも大きい真円で、奥側B1の断面形状が手前側の断面形状よりも小さい真円とされたマンドレル600を用意する。
なお、マンドレル600の中央部A1における周長は、静翼3の中央部Aにおける中空領域3aの周長と一致されている。また、マンドレル600の奥側B1における周長は、静翼3の奥側Bにおける中空領域3aの周長と一致されている。
【0035】
次に、図8に示すように、マンドレル600周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、織物4を形成する。この織物4は、中心軸L2方向において断面形状が変化するものの、上記第1実施形態の織物2と同様に、中心軸L2方向の全ての領域において断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされる。
【0036】
次に、マンドレル600を織物4から抜き出す。なお、マンドレル600の中央部A1は、手前側及び奥側よりも大きいため、そのままマンドレル600を織物4から抜き出すことはできない。
そこで、例えば、マンドレル600を芯部とその周囲に配置される周辺部とによって構成し、芯部を抜き出すことによって分解できる構成とすることが好ましい。これによって、容易にマンドレル600を抜き出すことが可能となる。すなわち、マンドレル600は、織物4が巻き付けられた状態で分解可能に構成されていることが好ましい。
なお、この他に、マンドレル600を薬剤等によって溶解させて除去するようにすることもできる。また、マンドレル600を焼失させることによって除去するようにすることもできる。
このようにいずれかの方法を用いてマンドレル600は、織物4が巻き付けられた状態で取り外しまたは消失可能とされる。
【0037】
次に、マンドレル600を抜き出した織物4の内部に、静翼3の中空領域3aの形状に成型された内型を挿入し、さらに織物4を内型に押さえつけることによって織物4を静翼3の形状に変形させる。
ここで、静翼3の中空領域3aは、静翼3の長さ方向において断面形状の大きさが変化するため、内型も同様に長さ方向において断面形状の大きさが変化する。このため、そのまま織物4の内部に内型を挿入することができない。このため、内型は、分解可能に構成されており、分解された状態で織物4の内部に入れると共に織物4の内部において組立て可能とされている。
なお、内型を焼失可能あるいは薬剤等によって溶解可能に構成し、内型を焼失あるいは溶解することによって中空領域3aから除去することもできる。
このようにいずれかの方法を用いて内型は、静翼3の中空領域3aにおいて消失可能とされる。
【0038】
次に、織物4を上記内型と静翼3の外形形状に成型された外型とによって挟み込むことによって織物4を静翼3の形状に変化させた状態を保ちながら、上記第1実施形態と同様に織物4にセラミックを含浸させてマトリックスを形成する。
【0039】
以上のような本実施形態の静翼3の製造方法においても、上記第1実施形態と同様に、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする同心円形状とされた織物4を静翼3の形状に変形し、この変形した織物4(変形織物)にセラミックが含浸されて静翼3が形成される。
長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2は、単一断面において同一曲率となるため、マンドレル600周りに繊維を巻き付ける際に中心軸L2周りにおいて均一に繊維を配置することが可能となる。つまり、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物4は、中心軸L2を中心とする周方向において繊維の偏りが抑制されている。そして、このような織物4を静翼1の形状に変形させた場合であっても、織物4における繊維の密度は、中心軸L2周りにおいて均一となる。
このため、本実施形態の静翼3の製造方法のように、上記織物4を静翼3の形状に変形し、この変形した織物4にセラミックが含浸されることによって、周方向に繊維が均一に配置された静翼3となる。
したがって、本実施形態の静翼3によれば、セラミックス基複合材料によって形成される静翼3の強度を均一化させて静翼3の品質を向上させることが可能となる。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、本発明の構造物がタービンの静翼である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明における構造物は、中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物であれば良い。例えば、本発明構造物としては、タービンの静翼の他、タービンの動翼や燃焼器等を挙げることができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、ブレイディング法によってマンドレル周りに繊維を巻き付ける構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばフィラメントワインディング法によってマンドレル周りに繊維を巻き付けても良い。このフィラメントワインディング法は、一本の繊維をマンドレル周りに巻き付ける方法である。このようなフィラメントワインディング法を用いてマンドレル回りに繊維を巻き付ける場合であっても、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされたマンドレル周りに繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物を形成することができる。軸周りに繊維が均一な密度で配置された静翼を製造することができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、単一の織物を変形させて静翼を製造する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図9に示すように、上記第1実施形態において示した織物2よりも、小さな織物2a(小織物)を、織物2と同様の方法で形成し、この織物2aを織物2の内部に配置して変形することによって、中空領域1aが2つに区画された静翼を製造することもできる。
また、図10に示すように、上記第1実施形態において示した織物2よりも、小さな織物2b,2c(小織物)を、織物2と同様の方法で形成し、この織物2b,2cを織物2の内部に配置して変形することによって、中空領域1aが3つに区画された静翼を製造することもできる。
また、図11に示すように、上記第1実施形態において示した織物2よりも、小さな織物2d,2e(小織物)を、織物2と同様の方法で形成し、この織物2d,2eを織物2の内部に上下方向に配置して変形することによって、中空領域1aが上下に2つに区画された静翼を製造することもできる。
【符号の説明】
【0044】
1,3……静翼(構造物)、1a,3a……中空領域、2,2a〜2e,4……織物、100,600……マンドレル、200……内型、300……外型
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年は、構造物の形成材料として、金属にかえて耐熱性の優れたセラミックス基複合材料が用いられる場合がある。
このようなセラミックス基複合材料は、セラミックからなる繊維によって形成された織物に、セラミックからなるマトリックスが付着形成された材料であり、金属よりも優れた耐熱性を有している。
【0003】
このようなセラミックス基複合材料によって内部に中空領域を備えるタービン翼や燃焼室等の構造物を製造する場合には、例えば、上記中空領域の形状に成型されたマンドレル周りにセラミックからなる繊維を巻きつけて構造物の形状とされた織物を形成し、当該織物にマトリックスを付着形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7093359号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、構造物の中空領域の形状に成型されたマンドレル周りに繊維を巻き付ける方法としては、いわゆるブレイディング法やフィラメントワインディング法が知られている。
ブレイディング法は、マンドレルの延在方向に延びる中央糸とマンドレルに対して螺旋状に巻き付けられる複数の組糸とを編み込んでいく方法であり、複数の繊維が同時にマンドレルに対して巻き付けられる方法である。
一方、フィラメントワインディング法は、一本の繊維をマンドレル周りに巻き付ける方法である。
【0006】
しかしながら、実際の構造物は複雑な形状を有していることが一般的である。このため、構造物の中空領域の形状に成型されたマンドレルは複雑な形状であることが多い。
このような複雑な形状のマンドレルに対して繊維を巻き付けた場合には、マンドレルの形状に沿って繊維の一部が移動し、織物において繊維の偏りが発生する。
セラミックス基複合材料によって形成された構造物の強度は、繊維の密度や繊維の方向に依存する。このため、繊維の偏りが存在する場合には、構造物の強度が不均一となり、場所によって強度が変化する可能性がある。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、セラミックス基複合材料によって形成される構造物の強度を均一化させて構造物の品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物の製造方法であって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする同心円形状とされたマンドレル周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物を形成する織物形成工程と、該織物形成工程において形成された上記織物を上記構造物の形状に変形させた状態で、上記織物にセラミックを含浸させてマトリックスを形成するマトリックス形成工程とを有するという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記マンドレルの長さ方向における各領域での周長が上記構造物の上記中空領域の長さ方向における各領域での周長と一致されているという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記マンドレルが、上記繊維が巻き付けられた状態で取り外しまたは消失可能とされているという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記マトリックス形成工程において、上記構造物の中空領域の形状に成型された内型と上記構造物の外形形状に成型された外型とによって挟み込むことによって上記織物を上記構造物の形状に変形させるという構成を採用する。
【0013】
第5の発明は、上記第4の発明において、上記内型が、上記構造物の上記中空領域において取り外しまたは消失可能とされているという構成を採用する。
【0014】
第6の発明は、上記第1〜第5いずれかの発明において、上記織物が、ブレイディング法によって上記マンドレル周りに巻き付けられるという構成を採用する。
【0015】
第7の発明は、上記第1〜第6いずれかの発明において、前記織物よりも小型の小織物を前記織物内部に配置させて前記マトリックス形成工程を行うという構成を採用する。
【0016】
第8の発明は、開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物であって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物が上記構造物の形状に変形された変形織物にセラミックが含浸されて形成されているという構成を採用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする同心円形状とされた織物を構造物の形状に変形し、この変形した織物にセラミックが含浸されて構造物が形成される。
長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物は、単一断面において同一曲率となるため、中心軸周りにおいて均一に繊維を配置することが可能となる。つまり、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物は、中心軸を中心とする周方向において繊維の偏りが抑制されている。そして、このような織物を構造物の形状に変形させた場合であっても、織物における繊維の密度は、中心軸周りにおいて均一となる。
このため、本発明のように、上記織物を構造物の形状に変形し、この変形した織物にセラミックが含浸されることによって、周方向に繊維が均一に配置された構造物となる。
したがって、本発明によれば、セラミックス基複合材料によって形成される構造物の強度を均一化させて構造物の品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態における静翼の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレルの斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレル周りに織物が形成せれた様子を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられる織物を変形された様子を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態における静翼を形成する際に用いられる織物を内型と外型とで挟み込んだ様子を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態における静翼の概略構成を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレルの斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態における静翼を形成する際に用いられるマンドレル周りに織物が形成された様子を示す斜視図である。
【図9】本発明の変形例を示す図であり、中空領域が2つに区画された静翼を製造する工程を示す図である。
【図10】本発明の変形例を示す図であり、中空領域が3つに区画された静翼を製造する工程を示す図である。
【図11】本発明の変形例を示す図であり、中空領域が上下方向に2つに区画された静翼を製造する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る構造物の製造方法及び構造物の一実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、構造物がタービンの静翼である場合について説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態のタービンの静翼1の概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、静翼1は、両側の開口部を介して外部に接続される中空領域1aを備えている。なお、実際に静翼1がタービンに組み込まれた際には静翼1の両側に配置されるバンド部によって開口部が閉ざされ、中空領域1aに冷却ガスが供給されることによって静翼1の冷却が図られる。
【0021】
また、本実施形態の静翼1は、セラミックス基複合材料によって形成されている。
セラミックス基複合材料は、セラミック(例えば炭化珪素)からなる繊維によって形成された織物に、セラミック(例えば炭化珪素)からなるマトリックスが付着形成された材料であり、金属によりも優れた耐熱性を発揮する。
【0022】
そして、本実施形態の静翼1は、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物が静翼1の形状に変形された変形織物にセラミックが含浸されて形成されている。なお、ここで言う長さ方向とは、中心軸L2が延在する方向である。
このような本実施形態の静翼1によれば、中空領域1aを介して両側の開口部に抜ける軸L周りにおける繊維の密度が均一化されて強度が均一化されるため、品質が向上されたものとなる。
【0023】
続いて、このような静翼1の製造方法について説明する。
まず最初に、図2に示すように、中心軸L2の延在方向である長さ方向における断面形状が、中心軸L2を中心とする同心円形状とされたマンドレル100を用意する。このようなマンドレル100は、長さ方向におけるいずれの領域において中心軸L2と直交する面で切断した場合には、その断面形状が真円となる。
そして、本実施形態においてマンドレル100は、長さ方向の全ての領域において、同一半径の円形状とされ、マンドレル100の長さ方向における各領域での周長が中空領域1aの長さ方向における各領域での周長と一致されている。
【0024】
次に、図3に示すように、マンドレル100周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2を形成する(織物形成工程)。
なお、本実施形態においては、繊維をブレイディング法によってマンドレル100周りに巻き付ける。ブレイディング法により、マンドレル100の延在方向に延びる中央糸とマンドレル100に対して螺旋状に巻き付けられる複数の組糸とが編み込まれ、複数の繊維が同時にマンドレル100に対して巻き付けられる。
【0025】
次に、マンドレル100を織物2から抜き出す。なお、本実施形態においてマンドレル100は、長さ方向の全ての領域において同一半径の円形状とされているため、織物2を抑えて中心軸L方向に移動させることによって容易に織物2から抜き出すことができる。
【0026】
なお、セラミックス基複合材料では、周知のように繊維の表面に界面層を形成する。そして、当該界面層として炭素界面層を形成する場合には、マンドレル100を抜き出した織物2をメタンガスが供給される真空炉内において熱処理して熱分解することによって界面層を形成する。
ただし、界面層として窒化ホウ素界面層を形成する場合には、マンドレル100周りに繊維を巻き付ける前に界面層の形成を行う。具体的には、BCl3+NH3ガスが供給される炉内に繊維を通して熱分解することによって界面層の形成を行う。
【0027】
次に、図4に示すように、マンドレル100を抜き出した織物2の内部に、静翼1の中空領域1aの形状に成型された内型200を挿入し、さらに織物2を内型200に押さえつけることによって織物2を静翼1の形状に変形させる。
次に、図5に示すように、織物2を上記内型200と静翼1の外形形状に成型された外型300とによって挟み込むことによって織物2を静翼1の形状に変化させた状態を保つ。なお、外型300には、後の含浸処理において原料が容易に織物2に到達可能とするために、織物2に到達する複数の貫通孔を備えている。
【0028】
そして、このように織物2が静翼1の形状に変化された状態で、織物2にセラミックを含浸させてマトリックスを形成する(マトリックス形成工程)。
織物2にセラミックを含浸させる方法としては、例えば気相含浸法、液相含浸法及び固相含浸法が知られている。そして、本実施形態においては、これらの方法を単独であるいは組み合わせた含浸処理を行い、さらにこれらの含浸処理を繰り返し行うことによって緻密なマトリックスの形成を行う。
【0029】
なお、含浸工程においては織物2と内型200との隙間及び織物2と外型300との隙間にもセラミックが含浸されるため、織物2に対するセラミックの含浸が進むと、内型200及び外型300から織物2を取り外すことが困難となる。一方で、織物2は、含浸工程の初期段階(少量のセラミックが織物2に含浸された段階)でその形状が固定される。
このため、含浸工程の初期段階にて内型200及び外型300から織物2を取り外し、その後は織物2のみを対象として含浸工程を行うことが好ましい。
【0030】
以上のような工程によって、図1に示す静翼1が製造される。
このような本実施形態の静翼1の製造方法によれば、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする同心円形状とされた織物2を静翼1の形状に変形し、この変形した織物2(変形織物)にセラミックが含浸されて静翼1が形成される。
長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2は、単一断面において同一曲率となるため、マンドレル100周りに繊維を巻き付ける際に中心軸L2周りにおいて均一に繊維を配置することが可能となる。つまり、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2は、中心軸L2を中心とする周方向において繊維の偏りが抑制されている。そして、このような織物2を静翼1の形状に変形させた場合であっても、織物2における繊維の密度は、中心軸L2周りにおいて均一となる。
このため、本実施形態の静翼1の製造方法のように、上記織物2を静翼1の形状に変形し、この変形した織物2にセラミックが含浸されることによって、周方向に繊維が均一に配置された静翼1となる。
したがって、本実施形態の静翼1によれば、セラミックス基複合材料によって形成される静翼1の強度を均一化させて静翼1の品質を向上させることが可能となる。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本第2実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0032】
図6は、本実施形態の静翼3の概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、本実施形態の静翼3は、軸L1方向において、中央部Aの断面形状が手前側(ハブ側)の断面形状よりも大きく、奥側B(チップ側)の断面形状が手前側(ハブ側)の断面形状よりも小さい形状を有している。
本実施形成の静翼3もセラミックス基複合材料によって形成されており、内部に中空領域3aを有している。
【0033】
そして、本実施形態の静翼3も、上記第1実施形態の静翼1と同様に、軸L周りにおける繊維の密度が均一化されて強度が均一化されており、品質が向上されたものとなっている。
【0034】
このような構成を有する本実施形態の静翼3を製造する場合には、図7に示すように、中心軸L2方向において中央部A1の断面形状が手前側の断面形状よりも大きい真円で、奥側B1の断面形状が手前側の断面形状よりも小さい真円とされたマンドレル600を用意する。
なお、マンドレル600の中央部A1における周長は、静翼3の中央部Aにおける中空領域3aの周長と一致されている。また、マンドレル600の奥側B1における周長は、静翼3の奥側Bにおける中空領域3aの周長と一致されている。
【0035】
次に、図8に示すように、マンドレル600周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、織物4を形成する。この織物4は、中心軸L2方向において断面形状が変化するものの、上記第1実施形態の織物2と同様に、中心軸L2方向の全ての領域において断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされる。
【0036】
次に、マンドレル600を織物4から抜き出す。なお、マンドレル600の中央部A1は、手前側及び奥側よりも大きいため、そのままマンドレル600を織物4から抜き出すことはできない。
そこで、例えば、マンドレル600を芯部とその周囲に配置される周辺部とによって構成し、芯部を抜き出すことによって分解できる構成とすることが好ましい。これによって、容易にマンドレル600を抜き出すことが可能となる。すなわち、マンドレル600は、織物4が巻き付けられた状態で分解可能に構成されていることが好ましい。
なお、この他に、マンドレル600を薬剤等によって溶解させて除去するようにすることもできる。また、マンドレル600を焼失させることによって除去するようにすることもできる。
このようにいずれかの方法を用いてマンドレル600は、織物4が巻き付けられた状態で取り外しまたは消失可能とされる。
【0037】
次に、マンドレル600を抜き出した織物4の内部に、静翼3の中空領域3aの形状に成型された内型を挿入し、さらに織物4を内型に押さえつけることによって織物4を静翼3の形状に変形させる。
ここで、静翼3の中空領域3aは、静翼3の長さ方向において断面形状の大きさが変化するため、内型も同様に長さ方向において断面形状の大きさが変化する。このため、そのまま織物4の内部に内型を挿入することができない。このため、内型は、分解可能に構成されており、分解された状態で織物4の内部に入れると共に織物4の内部において組立て可能とされている。
なお、内型を焼失可能あるいは薬剤等によって溶解可能に構成し、内型を焼失あるいは溶解することによって中空領域3aから除去することもできる。
このようにいずれかの方法を用いて内型は、静翼3の中空領域3aにおいて消失可能とされる。
【0038】
次に、織物4を上記内型と静翼3の外形形状に成型された外型とによって挟み込むことによって織物4を静翼3の形状に変化させた状態を保ちながら、上記第1実施形態と同様に織物4にセラミックを含浸させてマトリックスを形成する。
【0039】
以上のような本実施形態の静翼3の製造方法においても、上記第1実施形態と同様に、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする同心円形状とされた織物4を静翼3の形状に変形し、この変形した織物4(変形織物)にセラミックが含浸されて静翼3が形成される。
長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物2は、単一断面において同一曲率となるため、マンドレル600周りに繊維を巻き付ける際に中心軸L2周りにおいて均一に繊維を配置することが可能となる。つまり、長さ方向における断面形状が中心軸L2を中心とする中空の同心円形状とされた織物4は、中心軸L2を中心とする周方向において繊維の偏りが抑制されている。そして、このような織物4を静翼1の形状に変形させた場合であっても、織物4における繊維の密度は、中心軸L2周りにおいて均一となる。
このため、本実施形態の静翼3の製造方法のように、上記織物4を静翼3の形状に変形し、この変形した織物4にセラミックが含浸されることによって、周方向に繊維が均一に配置された静翼3となる。
したがって、本実施形態の静翼3によれば、セラミックス基複合材料によって形成される静翼3の強度を均一化させて静翼3の品質を向上させることが可能となる。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、本発明の構造物がタービンの静翼である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明における構造物は、中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物であれば良い。例えば、本発明構造物としては、タービンの静翼の他、タービンの動翼や燃焼器等を挙げることができる。
【0042】
また、上記実施形態においては、ブレイディング法によってマンドレル周りに繊維を巻き付ける構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばフィラメントワインディング法によってマンドレル周りに繊維を巻き付けても良い。このフィラメントワインディング法は、一本の繊維をマンドレル周りに巻き付ける方法である。このようなフィラメントワインディング法を用いてマンドレル回りに繊維を巻き付ける場合であっても、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされたマンドレル周りに繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物を形成することができる。軸周りに繊維が均一な密度で配置された静翼を製造することができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、単一の織物を変形させて静翼を製造する構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図9に示すように、上記第1実施形態において示した織物2よりも、小さな織物2a(小織物)を、織物2と同様の方法で形成し、この織物2aを織物2の内部に配置して変形することによって、中空領域1aが2つに区画された静翼を製造することもできる。
また、図10に示すように、上記第1実施形態において示した織物2よりも、小さな織物2b,2c(小織物)を、織物2と同様の方法で形成し、この織物2b,2cを織物2の内部に配置して変形することによって、中空領域1aが3つに区画された静翼を製造することもできる。
また、図11に示すように、上記第1実施形態において示した織物2よりも、小さな織物2d,2e(小織物)を、織物2と同様の方法で形成し、この織物2d,2eを織物2の内部に上下方向に配置して変形することによって、中空領域1aが上下に2つに区画された静翼を製造することもできる。
【符号の説明】
【0044】
1,3……静翼(構造物)、1a,3a……中空領域、2,2a〜2e,4……織物、100,600……マンドレル、200……内型、300……外型
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物の製造方法であって、
長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする同心円形状とされたマンドレル周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物を形成する織物形成工程と、
該織物形成工程において形成された前記織物を前記構造物の形状に変形させた状態で、前記織物にセラミックを含浸させてマトリックスを形成するマトリックス形成工程と
を有することを特徴とする構造物の製造方法
【請求項2】
前記マンドレルの長さ方向における各領域での周長が前記構造物の前記中空領域の長さ方向における各領域での周長と一致されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の製造方法。
【請求項3】
前記マンドレルは、前記繊維が巻き付けられた状態で取り外しまたは消失可能とされていることを特徴とする請求項1または2記載の構造物の製造方法。
【請求項4】
前記マトリックス形成工程において、前記構造物の中空領域の形状に成型された内型と前記構造物の外形形状に成型された外型とによって挟み込むことによって前記織物を前記構造物の形状に変形させることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の構造物の製造方法。
【請求項5】
前記内型は、前記構造物の前記中空領域において取り外しまたは消失可能とされていることを特徴とする請求項4記載の構造物の製造方法。
【請求項6】
前記織物は、ブレイディング法によって前記マンドレル周りに巻き付けられることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の構造物の製造方法。
【請求項7】
前記織物よりも小型の小織物を前記織物内部に配置させて前記マトリックス形成工程を行うことを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の構造物の製造方法。
【請求項8】
開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物であって、
長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物が前記構造物の形状に変形された変形織物にセラミックが含浸されて形成されていることを特徴とする構造物。
【請求項1】
開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物の製造方法であって、
長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする同心円形状とされたマンドレル周りにセラミックからなる繊維を巻き付けることによって、長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物を形成する織物形成工程と、
該織物形成工程において形成された前記織物を前記構造物の形状に変形させた状態で、前記織物にセラミックを含浸させてマトリックスを形成するマトリックス形成工程と
を有することを特徴とする構造物の製造方法
【請求項2】
前記マンドレルの長さ方向における各領域での周長が前記構造物の前記中空領域の長さ方向における各領域での周長と一致されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の製造方法。
【請求項3】
前記マンドレルは、前記繊維が巻き付けられた状態で取り外しまたは消失可能とされていることを特徴とする請求項1または2記載の構造物の製造方法。
【請求項4】
前記マトリックス形成工程において、前記構造物の中空領域の形状に成型された内型と前記構造物の外形形状に成型された外型とによって挟み込むことによって前記織物を前記構造物の形状に変形させることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の構造物の製造方法。
【請求項5】
前記内型は、前記構造物の前記中空領域において取り外しまたは消失可能とされていることを特徴とする請求項4記載の構造物の製造方法。
【請求項6】
前記織物は、ブレイディング法によって前記マンドレル周りに巻き付けられることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の構造物の製造方法。
【請求項7】
前記織物よりも小型の小織物を前記織物内部に配置させて前記マトリックス形成工程を行うことを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の構造物の製造方法。
【請求項8】
開口部を介して外部に接続される中空領域を備えると共にセラミックス基複合材料によって形成される構造物であって、
長さ方向における断面形状が中心軸を中心とする中空の同心円形状とされた織物が前記構造物の形状に変形された変形織物にセラミックが含浸されて形成されていることを特徴とする構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−215459(P2010−215459A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65051(P2009−65051)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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