説明

構造物用の滑り支承

【課題】大きな地震等に基づく大きな運動エネルギである振動エネルギを位置エネルギに変換して大きな振動エネルギを効果的に吸収でき、下部構造物から上部構造物の脱落を防止でき、損壊の虞のない上に、製造費の低減及び占有空間の低減を図り得る構造物用の滑り支承を提供すること。
【解決手段】橋梁用の滑り支承1は、橋脚2に対して橋桁3を水平方向においてH方向に移動自在に支持するべく、橋脚2と橋桁3との間に介在されており、上面で橋桁3の下面4に固着されていると共に上部側の水平滑り面6を下面に有している滑り板7と、橋桁3のV方向の荷重を受ける水平滑り面8を上面に有した滑り板9と、橋脚2に対する橋桁3のH方向の相対的変位に対する復元力を発生する復元力発生手段10とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎、橋脚等の下部構造物と建物、橋桁等の上部構造物との間に介在されて下部構造物に対して上部構造物を水平方向に移動自在に支持する構造物用の滑り支承に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り支承は、地震等による地盤の振動を建物、橋桁等の上部構造物に伝達しないで地震等による上部構造物の倒壊を防止するようになっている。また、橋梁に用いられる滑り支承は、上記に加えて、温度変化による橋桁の伸縮を滑りにより吸収するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−73145号公報
【特許文献2】特開平11−81237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、大きな地震等により下部構造物に対して上部構造物が大きく変位すると、単に平坦な面同士の滑りを用いた滑り支承では、下部構造物から上部構造物が脱落してしまう虞がある上に、仮に、斯かる脱落を防止するために脱落防止機構を設けても、大きな地震等に基づく大きな振動エネルギが脱落防止機構に直接加わることとなり、脱落防止機構が損壊する虞もあり、また、大きな振動エネルギに対する脱落防止機構は、その製造に費用も嵩む上に大きなスペースを必要とし必ずしも満足できるものではない。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、大きな地震等に基づく大きな運動エネルギである振動エネルギを位置エネルギに変換して大きな振動エネルギを効果的に吸収でき、而して、下部構造物から上部構造物の脱落を防止でき、しかも、損壊の虞のない上に、製造費の低減及び占有空間の低減を図り得る構造物用の滑り支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
下部構造物と上部構造物との間に介在される本発明の構造物用の滑り支承は、上部構造物側に配されると共に水平面に対して平行に伸びる上部側の水平滑り面と、この上部側の水平滑り面に接触して上部側の水平滑り面を介して上部構造物の荷重を受けるように下部構造物側に配されると共に水平面に対して平行に伸びる下部側の水平滑り面と、下部構造物に対する上部構造物の水平方向の相対的変位に対する復元力を発生する復元力発生手段とを具備しており、復元力発生手段は、水平方向に関して上部側の水平滑り面を間にして上部構造物に固定されると共に水平面に対して交差方向に伸びる一対の上部側の交差滑り面と、水平方向に関して下部側の水平滑り面を間にして下部構造物に固定されると共に水平面に対して交差方向に伸びて一対の上部側の交差滑り面の夫々に夫々摺動自在に接触する一対の下部側の交差滑り面と、一対の上部側の交差滑り面のうちの一方の交差滑り面と当該一方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を少なくとも水平方向に変位自在に弾性的に支持する一方の弾性手段と、一対の上部側の交差滑り面のうちの他方の交差滑り面と当該他方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を少なくとも水平方向に変位自在に弾性的に支持する他方の弾性手段とを具備している。
【0007】
本発明によれば、水平面に対して平行に伸びる上部側の水平滑り面が同じく水平面に対して平行に伸びる下部側の水平滑り面に、水平面に対して交差方向に伸びた上部側の交差滑り面が同じく水平面に対して交差方向に伸びた下部側の交差滑り面に夫々接触し、弾性手段が交差滑り面を水平方向に変位自在に弾性的に支持している結果、下部構造物に対する上部構造物の水平方向の相対的変位の生起前においては、上部側の水平滑り面を介して上部構造物の荷重を下部側の水平滑り面で受けて、上部側の交差滑り面が下部側の交差滑り面に接触した状態で上部構造物を下部構造物で支持でき、下部構造物に対する上部構造物の水平方向の一定以下の相対的変位においては、弾性手段により支持された交差滑り面の当該弾性手段の弾性変形を介する水平方向の変位に伴って上部側の水平滑り面に対して下部側の水平滑り面が水平方向に相対的に滑り、而して、斯かる下部構造物に対する上部構造物の水平方向の一定以下の相対的変位においても、上部側の水平滑り面を介して上部構造物の荷重を下部側の水平滑り面で受けて、上部側の交差滑り面が下部側の交差滑り面に接触した状態で上部構造物を下部構造物で支持でき、下部構造物に対する上部構造物の水平方向の一定以上の相対的変位においては、弾性手段により支持された交差滑り面の当該弾性手段の弾性変形の減少に起因する水平方向の変位の減少で上部側の交差滑り面に対して下部側の交差滑り面が相対的に滑り、而して、斯かる下部構造物に対する上部構造物の水平方向の一定以上の相対的変位においては、上部側の水平滑り面と下部側の水平滑り面との相互の接触が解除されて上部側の水平滑り面が下部側の水平滑り面から離れ、上部構造物が上昇される結果、下部構造物に対する上部構造物の水平方向の一定以上の相対的変位を生じさせる振動エネルギを上部構造物の上昇で吸収することができる。
【0008】
したがって、本発明によれば、上部側の交差滑り面と下部側の交差滑り面との接触を常時維持した状態で上部構造物を下部構造物で水平方向に移動自在に支持でき、上部構造物の上昇への移行を大きな衝撃を生じさせないで行うことができる上に、大きな地震等に基づく大きな運動エネルギである振動エネルギを上部構造物の下部構造物からの鉛直方向の上昇移動をもって位置エネルギに変換して大きな振動エネルギを効果的に吸収でき、斯かる大きな振動エネルギに基づく上部構造物と下部構造物との間の相対的な水平方向の大変位を防止でき、而して、下部構造物から上部構造物の脱落を防止でき、しかも、大きな地震等に基づく大きな振動エネルギを効果的に利用できて、損壊の虞をなくし得る上に、製造費の低減及び占有空間の低減を図り得る上に、変位面への対抗面の接触において摩擦力による減衰効果も期待できる。
【0009】
本発明では、一対の上部側の交差滑り面の夫々は、上部側の水平滑り面側の夫々から下方に傾斜して互いに逆方向に伸びており、一対の下部側の交差滑り面の夫々は、下部側の水平滑り面側の夫々から下方に傾斜して互いに逆方向に伸びていても、これに代えて、上部側の水平滑り面側の夫々から上方に傾斜して互いに逆方向に伸びており、一対の下部側の交差滑り面の夫々は、下部側の水平滑り面側の夫々から上方に傾斜して互いに逆方向に伸びていてもよい。
【0010】
本発明の好ましい例では、一方の弾性手段は、一対の上部側の交差滑り面のうちの一方の交差滑り面と当該一方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を、当該少なくとも一つの交差滑り面に摺動自在に接触する交差滑り面に弾性的に押し付けており、他方の弾性手段は、一対の上部側の交差滑り面のうちの他方の交差滑り面と当該他方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を、当該少なくとも一つの交差滑り面に摺動自在に接触する交差滑り面に弾性的に押し付けており、本好ましい例によれば、小さな振動領域において上部構造物を好ましく固定できる。
【0011】
本発明の構造物用の滑り支承は、好ましい例では、上部構造物が橋桁であって、下部構造物が橋脚である橋梁用であり、一対の上部側の交差滑り面及び一対の下部側の交差滑り面の夫々は、橋軸方向において上部側の水平滑り面及び下部側の水平滑り面を間にして上部構造物及び下部構造物の夫々に固定されるようになっている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大きな地震等において上部構造物の上昇への移行を大きな衝撃を生じさせないで行うことができる上に、斯かる大きな地震等に基づく大きな運動エネルギである振動エネルギを位置エネルギに変換して大きな振動エネルギを効果的に吸収でき、而して、下部構造物から上部構造物の脱落を防止でき、しかも、損壊の虞のない上に、製造費の低減及び占有空間の低減を図り得る構造物用の滑り支承を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい例の側面説明図である。
【図2】図1に示す例の橋脚側の平面説明図である。
【図3】図1に示す例の動作説明図である。
【図4】図1に示す例の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の構造物用の滑り支承は、橋脚等の下部構造物に対する橋桁等の上部構造物の例えば橋軸方向の相対的変位の生起前においては、上部側の水平滑り面を下部側の水平滑り面に、上部側の交差滑り面を下部側の交差滑り面に夫々接触させると共に、橋脚等の下部構造物に対する橋桁等の上部構造物の例えば橋軸方向の大きな相対的変位までは、弾性手段の弾性変形により上部側の交差滑り面の下部側の交差滑り面への接触を維持させつつ上部側の水平滑り面を下部側の水平滑り面に接触させる一方、下部構造物に対する上部構造物の例えば橋軸方向の大きな相対的変位においては、弾性手段の弾性変形の減少又は弾性変形限界による上部側の交差滑り面と下部側の交差滑り面との滑り接触移動(摺動)に基いて上部側の水平滑り面の下部側の水平滑り面への接触を解除させて上部構造物を下部構造物から鉛直方向に上昇移動させるようにしたものである。
【0015】
次に、本発明の実施の形態の例を図に基づいて更に詳細に説明する。尚、本発明は、これら例に何等限定されないのである。
【実施例】
【0016】
図1及び図2において、本例の構造物用としての橋梁用の滑り支承1は、下部構造物としての橋脚2に対して上部構造物としての橋桁3を水平方向において橋軸方向H(以下、H方向という)に移動自在に支持するべく、橋脚2と橋桁3との間に介在される。
【0017】
滑り支承1は、ボルト等を介して橋桁3の下面4に固着されている取付板5を介して上面で橋桁3の下面4に固着されていると共に上部側の水平滑り面6を下面に有している滑り板7と、水平滑り面6にH方向に滑り移動自在に接触すると共に水平滑り面6、滑り板7及び取付板5を介して橋桁3の鉛直方向V(以下、V方向という)の荷重を受ける下部側の円形の水平滑り面8を上面に有した円板状の滑り板9と、橋脚2に対する橋桁3のH方向の相対的変位に対する復元力を発生する復元力発生手段10とを具備している。
【0018】
橋脚2は、水平面に対して平行に平坦に伸びた水平上面11と、水平上面11のH方向の両端部から連続して水平面に対して交差方向であるA方向及びB方向に伸びる傾斜上面12及び13を有しており、傾斜上面12及び13は、水平上面11を中心としてH方向に関して対称に配置、形成されており、橋桁3の下面4は、水平面に対して平行に平坦に伸びている。本例では、A方向及びB方向は、水平面に対して角度α=5°〜45°の範囲の一つの角度である20°の角度αをもっているが、本発明では、斯かる範囲の角度に限定されない。
【0019】
橋桁3側に配された水平滑り面6は、水平面に対して平行に平坦に伸びており、水平水平滑り面6に接触して水平水平滑り面6を介して橋桁3の荷重を受けるように橋脚2側に配された水平滑り面8は、水平滑り面6と同様に水平面に対して平行に平坦に伸びており、滑り板9は、橋脚2の水平上面11にアンカーボルト15等を介して固着された支持基台16の凹所17にV方向に移動自在に配されており、凹所17において当該凹所17の底面を規定する支持基台16の凹所面18と滑り板9の下面19との間には当該凹所面18に取外し自在に単に接触して又は加硫接着されて天然ゴム又は合成ゴム等からなる円板状の弾性部材20が配されており、橋桁3は、弾性部材20を押圧した状態での滑り板9及び支持基台16を介して橋脚2にH方向に移動自在に支持されており、滑り板7の水平滑り面6と支持基台16の上面21との間には、凹所17への雨水、塵埃の浸入を阻止するための円環状の弾性体からなるシールリング22が滑り板9において上面21から凹所17の外部に突出する部分を囲繞して配されている。
【0020】
滑り板7及び9の夫々は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等の低摩擦特性を有する合成樹脂又は斯かる合成樹脂にガラス繊維及び有機繊維等の補強材を混入した補強材入合成樹脂からなっている。
【0021】
復元力発生手段10は、H方向に関して水平滑り面6を間にして橋桁3に固定されると共に水平面に対して交差方向であるA方向及びB方向に伸びる一対の上部側の交差滑り面31及び32を有した滑り板33及び34と、H方向に関して水平滑り面8を間にして橋脚2に固定されると共に水平面に対して交差方向であるA方向及びB方向に伸びて一対の上部側の交差滑り面31及び32の夫々に夫々A方向及びB方向に摺動自在に接触する一対の下部側の交差滑り面35及び36を有した滑り板37及び38と、交差滑り面31及び32のうちの一方の交差滑り面、本例では交差滑り面31と当該一方の交差滑り面31にA方向に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面35とのうちの少なくとも一つの交差滑り面、本例では交差滑り面35を少なくともH方向、本例ではH方向とV方向とを含むC方向、即ちA方向に直交するC方向に変位自在に弾性的に支持する一方の弾性手段39と、交差滑り面31及び32のうちの他方の交差滑り面、本例では交差滑り面32と当該他方の交差滑り面32にB方向に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面36とのうちの少なくとも一つの交差滑り面、本例では交差滑り面36を少なくとも水平方向H方向、本例ではH方向とV方向とを含むD方向、即ちB方向に直交するD方向に変位自在に弾性的に支持する他方の弾性手段40と、鍔部45及び46を有していると共に滑り板33を橋桁3に固定する支持基台47と、支持基台47と同様に鍔部48及び49を有していると共に滑り板34を橋桁3に固定する支持基台50と、滑り板37及び弾性手段39を支持していると共に橋脚2の傾斜上面13にアンカーボルト55により固着された支持基台56と、滑り板38及び弾性手段40を支持していると共に橋脚2の傾斜上面13にアンカーボルト61により固着された支持基台62とを具備している。
【0022】
滑り板33、34、37及び38の夫々は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等の低摩擦特性を有する合成樹脂又は斯かる合成樹脂にガラス繊維及び有機繊維等の補強材を混入した補強材入合成樹脂からなっていてもよく、また、摩擦力による減衰効果を期待するときは、高摩擦特性を有する例えば制動用材料等からなっていてもよい。
【0023】
上部側の水平滑り面6側から下方に傾斜して交差滑り面32と逆にA方向に伸びた交差滑り面31を有した滑り板33は、鍔部46にボルト等を介して取付けられた基板71に固着されており、上部側の水平滑り面6側から下方に傾斜して交差滑り面31と逆にB方向に伸びた交差滑り面32を有した滑り板34は、鍔部49にボルト等を介して取付けられた基板72に固着されている。
【0024】
下部側の水平滑り面8側から下方に傾斜して交差滑り面36と逆にA方向に伸びた交差滑り面35を有した円板状の滑り板37は、支持基台56の上面75に形成された凹所76に当該上面75から部分的に凹所76外部に突出してC方向に移動自在に装着されており、下部側の水平滑り面8側から下方に傾斜して交差滑り面35と逆に伸びた交差滑り面36を有した円板状の滑り板38は、支持基台62の上面77に形成された凹所78に当該上面77から部分的に凹所78外部に突出してD方向に移動自在に装着されており、滑り板33の交差滑り面31と支持基台56の上面75との間には、凹所76への雨水、塵埃の浸入を阻止するための円環状の弾性体からなるシールリング79が滑り板37の突出部を囲繞して配されており、同様に、滑り板34の交差滑り面32と支持基台62の上面77との間には、凹所78への雨水、塵埃の浸入を阻止するための円環状の弾性体からなるシールリング80が滑り板38の突出部を囲繞して配されている。
【0025】
弾性手段39は、凹所76において当該凹所76の底面を規定する支持基台56の凹所面85と滑り板37の下面86との間に当該凹所面85に取外し自在に単に接触して又は加硫接着されて配された天然ゴム又は合成ゴム等からなる円板状の弾性部材87を有しており、弾性手段40は、弾性手段39と同様に、凹所78において当該凹所78の底面を規定する支持基台62の凹所面88と滑り板38の下面89との間に当該凹所面88に取外し自在に単に接触して又は加硫接着されて配された天然ゴム又は合成ゴム等からなる円板状の弾性部材90を有している。
【0026】
弾性手段39は、一対の上部側の交差滑り面31及び32のうちの一方の交差滑り面31と当該一方の交差滑り面31にA方向に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面35とのうちの少なくとも一つの交差滑り面、本例では交差滑り面35を、当該交差滑り面35にA方向に摺動自在に接触する交差滑り面31に弾性的に押し付けている。
【0027】
弾性手段40は、一対の上部側の交差滑り面31及び32のうちの他方の交差滑り面32と当該他方の交差滑り面32にB方向に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面36とのうちの少なくとも一つの交差滑り面、本例では交差滑り面36を、当該交差滑り面36にB方向に摺動自在に接触する交差滑り面32に弾性的に押し付けている。
【0028】
復元力発生手段10において、交差滑り面31、滑り板33、交差滑り面35、滑り板37、弾性手段39、支持基台47及び支持基台56と、交差滑り面32、滑り板34、交差滑り面36、滑り板38、弾性手段40、支持基台50及び支持基台62とは、夫々水平上面11を中心としてH方向に関して互いに対称に配置、形成されている。
【0029】
一対の上部側の交差滑り面31及び32並びに一対の下部側の交差滑り面35及び36の夫々がH方向において上部側の水平滑り面6及び下部側の水平滑り面8を間にして橋桁3及び橋脚2の夫々に固定されている以上の滑り支承1は、水平面に対して平行に伸びる上部側の水平滑り面6が同じく水平面に対して平行に伸びる下部側の水平滑り面8に、A及びB方向に伸びた上部側の交差滑り面31及び32が同じくA及びB方向に伸びた下部側の交差滑り面35及び36に夫々接触し、弾性手段39及び40の弾性部材87及び90の夫々が交差滑り面35及び36の夫々をC及びD方向の夫々に変位自在に弾性的に支持している結果、橋脚2に対する橋桁3のH方向の相対的変位の生起前においては、水平滑り面6を介して橋桁3の荷重を水平滑り面8で受けて、交差滑り面31及び32の夫々が交差滑り面35及び36の夫々に接触した状態で橋桁3を橋脚2で支持でき、例えば図3に示すように、小さな地震又は温度変化による橋桁3の伸縮等に基づく橋脚2に対する橋桁3のH方向の一定以下の一方の相対的変位においては、弾性手段39の弾性部材87により支持された交差滑り面35の当該弾性手段39の弾性部材87の弾性変形を介するC方向の変位、換言すれば、弾性部材87のC方向の厚み減少、即ち弾性部材87の弾性圧縮に起因する滑り板37の凹所76へのより多くの進入による交差滑り面35のC方向の変位に伴って水平滑り面8に対して水平滑り面6がH方向の一方の方向に相対的に滑る一方、弾性部材90のD方向の厚みの増大、即ち弾性部材90の弾性伸張と共に交差滑り面32が交差滑り面36から離反して交差滑り面32と交差滑り面36との接触が解除され、弾性部材90が無負荷状態のD方向の厚みとなり、斯かる小さな地震又は温度変化による橋桁3の伸縮等に基づく橋脚2に対する橋桁3のH方向の一定以下の他方の相対的変位においても同様であって、而して、橋脚2に対する橋桁3のH方向の一定以下の相対的変位においても、上部側の水平滑り面6を介して橋桁3の荷重を下部側の水平滑り面8で受けて、上部側の交差滑り面31又は32が下部側の交差滑り面35又は36に接触した状態で橋桁3を橋脚2で支持でき、しかも、小さな地震又は温度変化による橋桁3の伸縮等に基づく橋脚2に対する橋桁3のH方向における振動又は変位を水平滑り面8に対する水平滑り面6のH方向の滑りにより許容して、小さな地震等に基づく橋脚2のH方向の振動の橋桁3への伝達を阻止して、小さな地震等において橋桁3にH方向の過大な荷重が生じないようにし、温度変化による橋桁3の伸縮等に基づく橋桁3のH方向の変位の橋脚2への伝達を阻止して、温度変化による橋桁3の伸縮等において橋脚2にH方向の過大な荷重が生じないようにし、そして、自動車の走行等によるV方向の橋桁3の撓み振動を弾性部材20、87及び90の弾性伸縮により許容する。
【0030】
大きな地震等において例えば図4に示すように橋脚2に対する橋桁3の一定以上のH方向における一方の方向の相対的振動変位においては、弾性手段39の弾性部材87により支持された交差滑り面35の当該弾性手段39の弾性部材87の弾性変形の減少又は弾性変形の限界に起因するC方向の変位の減少、換言すれば、弾性部材87のC方向の厚み減少の停止に起因する滑り板37の凹所76への進入停止による交差滑り面35のC方向の変位停止で上部側の交差滑り面31に対して下部側の交差滑り面35がA方向に相対的に滑り、而して、斯かる橋脚2に対する橋桁3のH方向の一定以上の一方の方向の相対的変位においては、上部側の水平滑り面6と下部側の水平滑り面8との相互の接触が解除されて上部側の水平滑り面6が下部側の水平滑り面8から離れ、橋桁3が上昇される結果、橋脚2に対する橋桁3のH方向の一定以上の相対的変位を生じさせる振動エネルギを橋桁3で吸収することができ、斯かる解除、上昇後、H方向における他方の方向の相対的振動変位で、傾斜面31と傾斜面35との間の滑りを介して橋桁3を下降させ、水平滑り面6の水平滑り面8からのV方向の離反を解除させて水平滑り面6の水平滑り面8への接触を回復させ、以下、橋脚2に対する橋桁3の一定以上のH方向における他方の方向の相対的振動変位においても同様であって、而して、これら水平滑り面6、傾斜面31及び32と水平滑り面8、傾斜面35及び36との相互接触において、橋脚2に対して橋桁3に一定以上のH方向の相対的変位を生じさせる大きな地震等に基づく大きな運動エネルギである振動エネルギを摩擦エネルギと橋桁3の位置エネルギとに転化して橋脚2に対する橋桁3の過度なH方向の相対的変位を生じさせないようになっている。
【0031】
したがって、滑り支承1によれば、上部側の交差滑り面31と下部側の交差滑り面35との接触又は上部側の交差滑り面32と下部側の交差滑り面36との接触を常時維持した状態で橋桁3を橋脚2でH方向に移動自在に支持でき、橋桁3のV方向の上昇への移行を大きな衝撃を生じさせないで行うことができる上に、大きな地震等に基づく大きな運動エネルギである振動エネルギを橋桁3の橋脚2からのV方向の上昇移動をもって位置エネルギに変換して大きな振動エネルギを効果的に吸収でき、斯かる大きな振動エネルギに基づく橋桁3と橋脚2との間の相対的なH方向の大変位を防止でき、而して、橋脚2から橋桁3の脱落を防止でき、しかも、大きな地震等に基づく大きな振動エネルギを効果的に利用できて、損壊の虞をなくし得る上に、製造費の低減及び占有空間の低減を図り得る上に、摩擦力による減衰効果も期待でき、また、角度αを適宜設定することにより、運動エネルギの位置エネルギへの変換特性及び橋脚2の塑性化を任意に制御できる。
【0032】
上記の滑り支承1では、橋軸方向であるH方向において復元力を発生させるようにしたが、本発明は、これに限定されないでのであって、例えば、下部構造物としての橋脚2に対して上部構造物としての橋桁3を水平方向においてH方向に対して直交する橋軸直角方向に移動自在に支持するように、橋脚2と橋桁3との間に本発明の滑り支承を介在させて、これにより、H方向に対して直交する橋軸直角方向に復元力を発生させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 滑り支承
2 橋脚
3 橋桁
4、19 下面
5 取付板
6、8 水平滑り面
7 滑り板
9 滑り板
10 復元力発生手段
11 水平上面
12、13 傾斜上面
15、55、61 アンカーボルト
16、47、50、56、62 支持基台
17、76、78 凹所
18、85、88 凹所面
20、87、90 弾性部材
21 上面
22 シールリング
31、32、35、36 交差滑り面
33、34、37、38 滑り板
39、40 弾性手段
45、46、48、49 鍔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造物と上部構造物との間に介在される構造物用の滑り支承であって、上部構造物側に配されると共に水平面に対して平行に伸びる上部側の水平滑り面と、この上部側の水平滑り面に接触して上部側の水平滑り面を介して上部構造物の荷重を受けるように下部構造物側に配されると共に水平面に対して平行に伸びる下部側の水平滑り面と、下部構造物に対する上部構造物の水平方向の相対的変位に対する復元力を発生する復元力発生手段とを具備しており、復元力発生手段は、水平方向に関して上部側の水平滑り面を間にして上部構造物に固定されると共に水平面に対して交差方向に伸びる一対の上部側の交差滑り面と、水平方向に関して下部側の水平滑り面を間にして下部構造物に固定されると共に水平面に対して交差方向に伸びて一対の上部側の交差滑り面の夫々に夫々摺動自在に接触する一対の下部側の交差滑り面と、一対の上部側の交差滑り面のうちの一方の交差滑り面と当該一方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を少なくとも水平方向に変位自在に弾性的に支持する一方の弾性手段と、一対の上部側の交差滑り面のうちの他方の交差滑り面と当該他方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を少なくとも水平方向に変位自在に弾性的に支持する他方の弾性手段とを具備している構造物用の滑り支承。
【請求項2】
一対の上部側の交差滑り面の夫々は、上部側の水平滑り面側の夫々から下方に傾斜して互いに逆方向に伸びており、一対の下部側の交差滑り面の夫々は、下部側の水平滑り面側の夫々から下方に傾斜して互いに逆方向に伸びている請求項1に記載の構造物用の滑り支承。
【請求項3】
一対の上部側の交差滑り面の夫々は、上部側の水平滑り面側の夫々から上方に傾斜して互いに逆方向に伸びており、一対の下部側の交差滑り面の夫々は、下部側の水平滑り面側の夫々から上方に傾斜して互いに逆方向に伸びている請求項1に記載の構造物用の滑り支承。
【請求項4】
一方の弾性手段は、一対の上部側の交差滑り面のうちの一方の交差滑り面と当該一方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を、当該少なくとも一つの交差滑り面に摺動自在に接触する交差滑り面に弾性的に押し付けており、他方の弾性手段は、一対の上部側の交差滑り面のうちの他方の交差滑り面と当該他方の交差滑り面に摺動自在に接触する下部側の交差滑り面とのうちの少なくとも一つの交差滑り面を、当該少なくとも一つの交差滑り面に摺動自在に接触する交差滑り面に弾性的に押し付けている請求項1から3のいずれか一項に記載の構造物用の滑り支承。
【請求項5】
上部構造物が橋桁であって、下部構造物が橋脚である橋梁用の滑り支承りであり、一対の上部側の交差滑り面及び一対の下部側の交差滑り面の夫々は、橋軸方向において上部側の水平滑り面及び下部側の水平滑り面を間にして上部構造物及び下部構造物の夫々に固定されるようになっている請求項1から4のいずれか一項に記載の構造物用の滑り支承。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−265927(P2010−265927A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115759(P2009−115759)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(505413255)阪神高速道路株式会社 (46)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】