説明

横転警報装置、車両、および横転警報方法、並びにプログラム

【課題】簡単な処理により、運転開始に先立って、運転者が車両の横転し易さを直接的に把握すること。
【解決手段】車両のロール角度を所定のサンプリング周期毎に記憶するロール角度記憶部23と、エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載開始を判定し、荷台への貨物の積載開始を判定したときからの空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載完了を判定し、積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間にロール角度記憶部23に記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値から積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間にロール角度記憶部23に記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値を減算してロール角度を取得するロール角度検出部21と、ロール角度を横転の危険性を示す指標として表示画面24に表示する表示制御部22と、を有する横転警報装置20を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横転警報装置、車両、および横転警報方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナを積載する車両では、コンテナ内の積荷の偏りが運転に大きく影響する。たとえばコンテナ内の積荷がこのコンテナを積載した車両の進行方向に対して左右のいずれか一方に大きく偏っているような場合(以下では、単に「左右」といえば進行方向に対して「左右」であることとする。)、コンテナを積載した車両の重心位置も左右のいずれか一方に大きく偏ることになる。この場合、車両の運転者は、重心位置が偏っている側の反対側への旋回については左右方向の傾斜角度が大きくならないように注意深く配慮しながら運転を行う必要がある。
【0003】
一方、一般的に、コンテナは荷主が所有するものであり、通常、コンテナへの貨物の積載は、運送業者の監視下では行われない。さらに、コンテナは荷主によって封印が施される。このため運送業者が荷主の許可を得ずコンテナを開封することはできない。したがって、運送業者側では、目視によってコンテナ内の貨物の積載状況を確認することは困難である。
【0004】
このような問題を解決するために、たとえば特許文献1では、車両が牽引車と被牽引車とからなる連結車である場合、牽引車の左右に設けた車高センサによって、被牽引車を牽引車に連結する際の牽引車の姿勢変化(左右の傾き)が検出され、この姿勢変化の大きさに応じて被牽引車の重心位置の左右への偏りの大きさが判定される。そして、被牽引車の積荷に左右の偏りが生じている場合、これを判定して運転者に警告を行ったり、牽引車の減速を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−166745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえば特許文献1のように、車両の左右重心位置の偏りを推定または測定し、これを運転者に対して表示する装置では、運転者は、重心位置の推定結果を知ることはできるが、その重心位置の推定結果がどれくらい横転し易さに結び付くのかを知ることまではできない。たとえば、重心位置の偏りの状態が同じである2つの車両において、一方の貨物は、他方の貨物よりも重いとする。この場合、重心位置の偏りの状態が同じであっても貨物の重い車両の方が貨物の軽い車両よりも横転し易い。したがって、単に重心位置の偏り状態を把握するだけでは、横転し易さまでは把握できない。
【0007】
また、一般的に、重心位置を推定するための演算処理は複雑であり、多数のパラメータを必要とする。したがって、重心位置推定のための装置は処理負荷が高く、処理時間の短縮が困難である。また、多数のパラメータを必要とするので、これら多数のパラメータを取得するためのセンサ類の種類が多く、装置のコストを削減することが難しい。
【0008】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、簡単な処理により、運転開始に先立って、運転者が車両の横転し易さを直接的に把握することができる横転警報装置、車両、および横転警報方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの観点は、横転警報装置としての観点である。本発明の横転警報装置は、荷台とエアベローズとを有し、貨物が荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときにはエアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の安全運転を支援する横転警報装置において、車両のロール角度を所定のサンプリング周期毎に記憶するロール角度記憶手段と、エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定手段と、第一の判定手段が荷台への貨物の積載開始を判定したときからの空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定手段と、第二の判定手段が積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間にロール角度記憶手段に記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値から第一の判定手段が積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間にロール角度記憶手段に記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値を減算してロール角度を取得するロール角度取得手段と、ロール角度取得手段が取得したロール角度を横転の危険性を示す指標として表示する表示手段と、を有するものである。
【0010】
さらに、第一の判定手段が荷台への貨物の積載開始を判定したときから所定の時間以内に第二の判定手段が荷台への貨物の積載完了を判定しないときには、第一の判定手段の判定結果を無効とすることができる。
【0011】
本発明の他の観点は、車両である。本発明の車両は、本発明の横転警報装置を有するものである。
【0012】
本発明の他の観点は、横転警報方法である。本発明の横転警報方法は、荷台とエアベローズとを有し、貨物が荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときにはエアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の安全運転を支援する横転警報装置の横転警報方法において、車両のロール角度を所定のサンプリング周期毎に記憶するロール角度記憶ステップと、エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定ステップと、第一の判定ステップの処理により荷台への貨物の積載開始を判定したときからの空気圧の変化に応じ、荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定ステップと、第二の判定ステップの処理により積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記ロール角度記憶ステップの処理により記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値から第一の判定ステップの処理により積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記ロール角度記憶ステップの処理により記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値を減算してロール角度を取得するロール角度取得ステップと、ロール角度取得ステップの処理により取得したロール角度を横転の危険性を示す指標として表示する表示ステップと、を有するものである。
【0013】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、情報処理装置に、本発明の横転警報装置の機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単な処理により、運転開始に先立って、運転者が車両の横転し易さを直接的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の連結車の全体構成図である。
【図2】図1の牽引車に搭載される横転警報装置のブロック構成図である。
【図3】図1の牽引車および被牽引車の要部構成を示す図である。
【図4】トリガ1,2を示す図である。
【図5】図2のロール角度検出部のロール角度検出処理を示すフローチャートである。
【図6】比較例として図5の処理を運転者が手動で行う場合を説明するためのフローチャートである。
【図7】ロール角度と横転危険度との関係を説明するための図である。
【図8】図2の表示画面の表示例(その1)を示す図である。
【図9】図2の表示画面の表示例(その2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(概要)
本発明の横転警報装置は、運送業者側で、貨物の重心位置が目視確認できない場合に有効である。よって、以下の説明では、運送業者が荷主の許可無しに積荷の状態を目視確認できないコンテナなどを積載することを主な業務とする連結車1を例示して説明する。しかしながら本発明の横転警報装置は、連結車1以外の貨物車両においても適用することができ、本発明の適用範囲を連結車1に限定するものではない。
【0017】
(構成)
連結車1は、図1および図2に示すように、牽引車2、被牽引車3から構成される。牽引車2は、説明を分り易くするために、カプラ4、牽引車前輪5、牽引車後輪6、および牽引車シャーシ7を図示する。また、被牽引車3は、説明を分り易くするために、被牽引車輪8,9および被牽引車シャーシ10を図示する。請求項でいう「荷台」は、被牽引車シャーシ10に相当する。なお、以下の説明で、左右にそれぞれ配置されている部材については必要に応じて符号にRまたはLをさらに付し、左右を区別することとする。図1では、被牽引車シャーシ10にコンテナが積載されている状態を図示している。
【0018】
牽引車2は、不図示のエンジンを搭載し、カプラ4を介して被牽引車3に連結され、牽引車後輪6を駆動輪として走行する。また、牽引車2は、横転警報装置20を搭載する。さらに、横転警報装置20は、表示画面24を有し、この表示画面24は、運転席の計器パネルなどに配置される。また、図2に示すように、牽引車後輪6R,6L付近には車高センサ11R,11Lが配置される。さらに、図2に示すように、エアサスペンションを構成するエアベローズ12R,12Lを有し、エアベローズ12R,12Lは、フレーム構成部材15に取り付けられ、支持部14R,14Lを介して牽引車シャーシ7を支えている。また、エアベローズ12R,12Lには、圧力センサ13R,13Lが取り付けられている。
【0019】
被牽引車3は、荷物を搭載するスペースを有し、カプラ4を介して牽引車2に連結される。また、被牽引車3は、被牽引車輪8,9を有する。図1に示した被牽引車3は、2軸(2組の被牽引車輪8,9を有する。)であるが3軸のものもある。なお、被牽引車3は、牽引車2に連結されていないときには、不図示のランディングギヤによって水平を保ち自立することができる。
【0020】
横転警報装置20は、図3に示すように、車高センサ11R,11L、圧力センサ13R,13L、ロール角度検出部21(第一の判定手段、第二の判定手段、ロール角度取得手段)、表示制御部22(表示手段)、ロール角度記憶部23(ロール角度記憶手段)、および表示画面24(表示手段)により構成される。
【0021】
車高センサ11R,11Lは、牽引車後輪6R,6L付近に設置され、牽引車2のフレーム構成部材15と牽引車シャーシ7との間の距離(これを車高という)を検出する。
【0022】
圧力センサ13R,13Lは、牽引車2のエアベローズ12R,12Lの空気圧を検出する。なお、エアベローズ12R,12Lは、いわゆるエアサスペンションを構成し、不図示のエアサスペンション制御機能の制御に応じて不図示のエアタンクから空気が供給される。
【0023】
ロール角度検出部21は、所定のサンプリング周期毎に、車高センサ11Rの検出結果と車高センサ11Lの検出結果との差分として現れる牽引車2のロール角度を検出する。なお、ロール角度検出部21が検出するロール角度は、ロール角度記憶部23に書き込まれる。また、ロール角度検出部21は、圧力センサ13R,13Lの検出結果に基づいて、被牽引車3に貨物が積載されたか否かを判断し、被牽引車3に貨物が積載される直前のロール角度を原点とし、被牽引車3に貨物が積載された後のロール角度の変化量(以下では、これをロール角度の変化量と称する)を検出する。
【0024】
表示制御部22は、ロール角度検出部21が検出したロール角度の変化量を、横転危険度として表示画面24に表示させる。
【0025】
ロール角度記憶部23は、ロール角度検出部21が所定のサンプリング周期毎に検出するロール角度を記憶する。
【0026】
表示画面24は、表示制御部22の制御によって、後述するように、ロール角度の変化量を横転危険度の指標として、たとえば図形情報、画像情報、または文字情報として表示する。なお、表示画面24に加えてランプおよび/またはスピーカを設け、ランプの点滅または点灯、および/またはスピーカの鳴動または合成音声などによって、横転危険度の警報を行うようにしてもよい。
【0027】
次に、ロール角度検出部21がロール角度を検出する処理について、図4および図5を参照して説明する。図4の上段の図は、圧力センサ13R,13Lの検出結果(圧力センサ13Rの検出結果+圧力センサ13Lの検出結果)から得られたエアベローズ12R,12L内の空気圧を縦軸にとり、横軸に時間の経過をとったものである。一方、図4の下段の図は、車高センサ11R,11Lの検出結果に基づき計算されたロール角度を縦軸にとり、横軸に時間の経過をとったものである。
【0028】
図4の上段に示すエアベローズ12R,12L内の空気圧は、時刻t0から時刻t1の間では、ほぼ一定の低い値である。この状態は、被牽引車3が牽引車2に連結されているが被牽引車3は空積状態であり、エアベローズ12R,12Lは、牽引車2および空積状態の被牽引車3のみを支えているため空気圧は低い状態である。続いて、エアベローズ12R,12L内の空気圧は、時刻t1で急激に増加を始めている。この状態は、被牽引車3に貨物の積載が開始された瞬間の状態であり、貨物自体の重さに加え、車体が大きく揺れ動くことにより、エアベローズ12R,12L内の空気圧は大きく増加している。続いて、エアベローズ12R,12L内の空気圧は、時刻t1から時刻t2の間では、ほぼ一定のレートで上昇を続けている。この状態は、被牽引車3に貨物が積載されたことにより車高センサ11R,11Lが車高の沈み込みを検出したので、不図示のエアサスペンション制御機能が不図示のエアタンクからエアベローズ12R,12Lに空気を送り込んでおり、エアベローズ12R,12L内の空気圧が上昇を続けている状態である。続いて、時刻t2を過ぎるとエアベローズ12R,12L内の空気圧は所定の値で安定する。この状態は、被牽引車3への貨物の積載が完了し、車体の揺れも収まり、車高も所定の高さを回復し、エアベローズ12R,12L内の空気圧が安定した状態である。
【0029】
一方、図4の下段に示すロール角度は、時刻t0から時刻t1の間では、一定の小さい値である。この状態は、被牽引車3が牽引車2に連結されているが貨物が積載されていない状態であり、連結車1の重心位置に偏りがほとんど発生していない状態である。続いて、ロール角度は、時刻t1で急激に増加を始めている。この状態は、被牽引車3に貨物の積載が開始された瞬間の状態であり、車体が大きく揺れ動くことにより、牽引車2のロール角度も大きく増加している。その後も車体が揺れ動いている状態は、時刻t1から時刻t2まで継続している。続いて、時刻t2を過ぎるとロール角度は安定する。この状態は、被牽引車3への貨物の積み込みが完了し、車体の揺れも収まり、牽引車2のロール角度も安定した状態である。
【0030】
このように図4の上段に示す空気圧の変化と図4の下段に示すロール角度とは、密接に関係していることがわかる。そこで、時刻t1直後のタイミングを「トリガ1」とし、トリガ1から所定の時間以内(たとえば10秒以内)に空気圧が安定したらそのタイミングを「トリガ2」として設定する。これにより、「トリガ1」は、被牽引車3に貨物の積み込みが開始されたタイミングであり、「トリガ2」は、被牽引車3への貨物の積み込みが完了したタイミングであるとすることができる。なお、ここで所定の時間(たとえば10秒)は、車高センサ11R,11Lが車高の沈み込みを検出してから不図示のエアタンクからエアベローズ12R,12Lに空気が送り込まれ、車高が所定の高さを回復し、エアベローズ12R,12L内の空気圧が安定するまでに要する時間である。よって、この所定の時間は、車種によって様々に設定される。これによれば、運転者が手動で貨物の積み込み開始および貨物の積み込み完了を入力する必要は無くなる。
【0031】
次に、ロール角度検出部21がトリガ1およびトリガ2を利用して牽引車2のロール角度を検出する手順を図5のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
START:運転者のキー操作などにより、横転警報装置20が起動されると、横転警報装置20は、ステップS1の手続きに進む。
【0033】
ステップS1:ロール角度検出部21は、車高センサ11Rの検出結果と車高センサ11Lの検出結果との差分として現れる牽引車2のロール角度生値(raw_roll_ang)を取り込み、圧力センサ13R,13Lから空気圧生値(raw_air_press)を取り込み、手続きは、ステップS2に進む。
【0034】
ステップS2:ロール角度検出部21は、ステップS1で取り込んだロール角度生値(raw_roll_ang)および空気圧生値(raw_air_press)を、ローパスフィルタ処理して手続きはステップS3に進む。なお、このローパスフィルタ処理によりロール角度生値(raw_roll_ang)および空気圧生値(raw_air_press)のノイズ成分(微小変動など)が除去されて、フィルタ後ロール角度(fil_roll_ang)およびフィルタ後圧力値(fil_air_press)が生成される。
【0035】
ステップS3:ロール角度検出部21は、圧力センサ13R,13Lの検出結果に基づいて、たとえば3秒以内にαkg/cm2以上の圧力変化の有無を判定する。ステップS3において、3秒以内にαkg/cm2以上の圧力変化が有ると判定された場合、手続きはステップS4に進む。一方、ステップS3において、3秒以内にαkg/cm2以上の圧力変化が無いと判定された場合、手続きはステップS1に戻る。なお、ここで3秒は一例であり、短時間に急激な圧力変化が有るか否かを判定するために設定された観測時間である。したがって、たとえば1秒〜5秒程度の範囲内でどのような時間を設定してもよい。また、αは、被牽引車3に貨物の積載が開始されたことが確実に判定可能となる適切な値を設定する。たとえば被牽引車3に試験的に貨物を積載してみたときの圧力センサ13R,13Lの検出結果を考察してαの値を決定すればよい。
【0036】
ステップS4:ロール角度検出部21は、トリガ1を設定してステップS5の手続きに進む。
【0037】
ステップS5:ロール角度検出部21は、ステップS4で設定したトリガ1の時刻とその所定期間(期間T1)前の時刻との間にサンプリングされているロール角度(fil_roll_ang)を、ロール角度記憶部23から読み出し、その平均値(fil_roll_ang_trg1_ave)を計算する。この計算が終了すると手続きはステップS6に進む。
【0038】
ステップS6:ロール角度検出部21は、圧力センサ13R,13Lの検出結果に基づいて、トリガ1設定後のたとえば10秒以内に圧力変化がΔkg/cm2以内に収まったか否かを判定する。ステップS6において、トリガ1設定後のたとえば10秒以内に圧力変化がΔkg/cm2以内に収まったと判定された場合、手続きはステップS7に進む。一方、ステップS6において、トリガ1設定後のたとえば10秒以内に圧力変化がΔkg/cm2以内に収まっていないと判定された場合、手続きはステップS11に進む。なお、ここで10秒は、車高センサ11R,11Lが車高の沈み込みを検出してからエアベローズ12R,12Lに不図示のエアタンクから空気が送り込まれ、車高が所定の高さを回復し、エアベローズ12R,12L内の空気圧が安定するまでに要する時間である。よって、この所定の時間は、車種によって様々に設定される。また、この所定の時間は、必ずしも車高の高さが回復するのに要する時間以内とする必要は無く、さらに長い時間としてもよい。あるいは、この所定の時間は、特に定めなくてもよい。ただし、この所定の時間を定めておけば、この所定の時間を大幅に超過する事態が発生したときには、トリガ1が誤って設定されたものであると判定し、トリガ1を解除(ステップS11)することができる。また、この所定の時間を定める際には、この所定の時間を長くすることにより、図5のステップS6の処理に要する時間が長くなるので、必要最短の時間とすることが好ましい。また、Δkg/cm2は、エアベローズ12R,12L内の空気圧が安定したと判定するための値であり、ほぼ0kg/cm2に近い値が設定される。
【0039】
ステップS7:ロール角度検出部21は、トリガ2を設定してステップS8の手続きに進む。
【0040】
ステップS8:ロール角度検出部21は、ステップS7で設定したトリガ2の時刻とその所定期間(期間T2)前の時刻との間にサンプリングされているフィルタ後ロール角度(fil_roll_ang)を、ロール角度記憶部23から読み出し、その平均値(fil_roll_ang_trg2_ave)を計算する。この計算が終了すると手続きはステップS9に進む。
【0041】
ステップS9:ロール角度検出部21は、ステップS8で取得したロール角度平均値(fil_roll_ang_trg2_ave)からステップS5で取得したロール角度平均値(fil_roll_ang_trg1_ave)を減算することによりロール角度の変化量を計算して手続きはステップS10に進む。
【0042】
ステップS10:表示制御部22は、表示画面24に、ステップS9で計算したロール角度の変化量を横転危険度の指標として表示して処理を終了する(END)。
【0043】
ステップS11:ロール角度検出部21は、ステップS6で「No」と判定されたのでトリガ1の設定を解除してステップS1の手続きに戻る。なお、ステップS6で「No」と判定される原因は、トリガ1を設定するか否かを判定するステップS3における圧力の急激な変化が貨物の積載開始以外の要因(たとえば牽引車2の移動による揺れなど)であった場合などである。
【0044】
比較例として、図5のフローチャートの処理を運転者が手動で行った場合の例を図6に示す。図6の処理は、圧力センサ13R,13Lの検出結果を利用しないことを除けば、ステップS20,S21,S23,S25,S26がそれぞれステップS1,S2,S5,S8,S9に対応している。図6の処理は、圧力センサ13R,13Lの検出結果を利用しない代わりに、ステップS22およびステップS24において、運転者による操作を必要とする。
【0045】
次に、ロール角度が横転危険度の指標となる原理について図7を参照して説明する。はじめに、連結車1の横転事故のメカニズムについて考察する。旋回中に作用する横Gによって被牽引車3にロールが発生する。ロールによる重心の横方向への移動とサスペンション(ここではエアベローズ12R,12Lを用いたエアサスペンション)のロール剛性の反力成分によって内輪の接地荷重が減少し、外輪の接地荷重が増加していく。さらに被牽引車3に作用する横Gが増加すると、内輪の浮き上がりを生じ、この状態で横Gが維持されるとカプラ4を通じて牽引車2の後輪6も被牽引車3にまくり上げられ、車両として極めて不安定な状態に陥り横転へと至る。ここで牽引車2の内輪が浮き上がりはじめる状態を横転限界と定義する。
【0046】
図7に示すように、重心には鉛直方向の重力加速度と旋回による横Gの合成ベクトルが作用する。この合成ベクトルが鉛直方向となす角をεとし、旋回外輪の着力点と重心から下ろした垂線の足Pによって幾何学的に定まる角である危険角度をρとする。横転はεが危険角度ρを上回ることによって生じる。したがって図7の状態はε>ρであり、横転が生じる状態である。
【0047】
図7において、h0を路面からロールセンタ(牽引車2および被牽引車3のロールの中心)までの高さ、h1を、ロール角度Φが0°であるときのロールセンタを通る路面と平行な面と重心を通る路面と平行な面までの距離、Lを被牽引車輪9R,9Lのそれぞれの複輪の中間点の間の距離、eを被牽引車3の中心からの重心偏量、θを被牽引車輪9R,9Lのタイヤの変形によるロール角度、Φを被牽引車3のロール角度、Vを連結車1の車速、Rを連結車1の旋回半径、gを重力加速度とすれば、横転限界は、以下の(式1)、(式2)、(式3)で表すことができる。
ρ=tan-1[〔(L/2)−(h0*sinθ+h1*sinΦ+e*cosΦ)〕/〔h0*cosθ+h1*cosΦ-e*sinΦ〕]
…(式1)
ε= tan-1[V2/g*R] …(式2)
ε>ρ …(式3)
【0048】
なお、カプラ4は、ロール方向には自由度を持たないので、被牽引車3のロール角度Φは、そのまま牽引車2のロール角度に反映される。
【0049】
ここで、連結車1が横転する可能性が高い危険度が大きい状態と、連結車1が横転する可能性が低い危険度が小さい状態と、をそれぞれ想定し、危険角度ρとロール角度Φとの関係について考察する。
【0050】
まず、危険度が大きい状態として、重心偏量e=1m(メートル)、距離h1=1m、ロール角度Φ=10°、タイヤ変形によるロール角度θ=2°とし、予めわかっている固定値として、路面からロールセンタまでの高さh0=1m、複輪の中間点の間の距離L=2mとする。これらの数値を(式1)に代入して危険角度ρを計算するとρ≒5.7°になる。
【0051】
一方、危険度が小さい状態として、重心偏量e=0.5m、距離h1=0.5m、ロール角度Φ=5°、タイヤ変形によるロール角度θ=1°とし、路面からロールセンタまでの高さh0=1m、複輪の中間点の間の距離L=2mとする。これらの数値を(式1)に代入して危険角度ρを計算するとρ≒16.7°になる。
【0052】
以上の結果から危険角度ρとロール角度Φとは反比例の関係にあることがわかる。危険角度ρは、大きければ大きいほど、横転余裕角度が大きくなり、危険度は小さくなる。言い換えると、危険度の大きさとロール角度Φの大きさとは比例する関係にあることがわかる。これにより、ロール角度を危険度の指標として用いることが適切であることがわかる。
【0053】
次に、ロール角度を危険度の指標として用いることによる危険度の表示例を図8および図9を参照して説明する。図8の表示画面24は、逆三角形の図形(▼)によって、左(L)または右(R)のロール角度を示している。ただし、表示画面24には、角度の数値を表示せず、危険度を「大」、「小」として表示し、ロール角度を危険度の指標として用いている。また、図9の表示画面24Aは、逆三角形の図形(▼)によって、左(L)または右(R)のロール角度を、危険度の指標として示すと共に、具体的なロール角度(ここではL+4.0度)を表示させている。
【0054】
(効果について)
図8または図9のように、ロール角度を危険度の指標として用いることにより、運転者は、横転の危険度がどれくらいの程度であり、それが連結車1の左右のいずれの方向であるのかを直感的に認識できる。また、重心位置推定などの複雑な処理を行う必要が無く、処理時間の短縮が図れると共に、センサ類などを少なくし、コストを削減させることができる。さらに、ロール角度は、連結車1が走行を開始する以前の状態において検出可能であるので、運転者は、連結車1の運行を開始する以前に横転の危険度を把握することができる。これによれば、運転者は、連結車1の横転の危険度を小さくするための措置を、連結車1の運行を開始する以前にとることができ、連結車1の安全な運行を実現できる。
【0055】
また、ロール角度検出部21は、運転者の手動入力に頼ることなく、トリガ1を設定することにより、被牽引車3への貨物の積載開始のタイミングを認識し、トリガ2を設定することにより、被牽引車3への貨物の積載完了のタイミングを認識する。これにより、図5のフローチャートの処理を自動化することができる。
【0056】
これによれば、運転者が車高センサ11R,11Lを0点補正することを忘れてしまったり、あるいは、運転者が被牽引車3に貨物が積載され始めてから慌てて0点補正をし、車高センサ11R,11Lを正しく0点補正していない状態で、図6のステップS23以降の処理が実行されるといったことがなくなり、常に、正しい推定結果を得ることができる。また、運転者にとっても煩わしい作業を無くすことができるため運転者の利便性を向上させることができる。すなわち運転者は、牽引車2のキースイッチ(不図示)をON状態にするだけでよい。
【0057】
(プログラムを用いた実施の形態について)
また、横転警報装置20の各部(ロール角度検出部21、表示制御部22、ロール角度記憶部23など)は、所定のプログラムにより動作する汎用の情報処理装置によって構成されてもよい。例えば、汎用の情報処理装置は、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、入出力ポートなどを有する。汎用の情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、汎用の情報処理装置には、横転警報装置20の各部の機能が実現される。また、その他の機能についてもソフトウェアにより実現可能な機能については汎用の情報処理装置とプログラムとによって実現することができる。なお、上述したCPUの代わりにASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などを用いてもよい。
【0058】
なお、汎用の情報処理装置が実行する制御プログラムは、横転警報装置20の出荷前に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、横転警報装置20の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、制御プログラムの一部が、横転警報装置20の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。横転警報装置20の出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶される制御プログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0059】
また、制御プログラムは、汎用の情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0060】
このように、汎用の情報処理装置とプログラムによって横転警報装置20の機能を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
【0061】
(その他の実施の形態)
エンジン10は、内燃機関であると説明したが、外燃機関を含む熱機関であってもよい。
【0062】
なお、コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0063】
また、図5のステップS9で取得したロール角度が所定の閾値以上、または超えている場合、運転者に確実に危険度の大きさを報知する必要がある。したがって、このような場合、図8または図9で説明した危険度の表示に加え、危険度が大きいことを運転者に報知するための警報手段を有するようにしてもよい。この警報手段としては、たとえばランプの点滅、ブザーの鳴動、合成音声による報知など、様々な形態とすることができる。あるいは、図8または図9の表示例の中に、警報ランプや警報表示部を設けてもよい。
【0064】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…連結車、2…牽引車、3…被牽引車、10…被牽引車シャーシ(荷台)、20…横転警報装置、21…ロール角度検出部(第一の判定手段、第二の判定手段、ロール角度取得手段)、22…表示制御部(表示手段)、23…ロール角度記憶部(ロール角度記憶手段)、24…表示画面(表示手段)、12R,12L…エアベローズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷台とエアベローズとを有し、貨物が前記荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときには前記エアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の安全運転を支援する横転警報装置において、
前記車両のロール角度を所定のサンプリング周期毎に記憶するロール角度記憶手段と、
前記エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定手段と、
前記第一の判定手段が前記荷台への貨物の積載開始を判定したときからの前記空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定手段と、
前記第二の判定手段が積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記ロール角度記憶手段に記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値から前記第一の判定手段が積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記ロール角度記憶手段に記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値を減算してロール角度を取得するロール角度取得手段と、
前記ロール角度取得手段が取得したロール角度を横転の危険性を示す指標として表示する表示手段と、
を有する、
ことを特徴とする横転警報装置。
【請求項2】
請求項1記載の横転警報装置であって、
前記第一の判定手段が前記荷台への貨物の積載開始を判定したときから所定の時間以内に前記第二の判定手段が前記荷台への貨物の積載完了を判定しないときには、前記第一の判定手段の判定結果を無効とする、
ことを特徴とする横転警報装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の横転警報装置を有することを特徴とする車両。
【請求項4】
荷台とエアベローズとを有し、貨物が前記荷台に積載されることにより車高が所定の高さよりも沈むときには前記エアベローズ内の空気圧を制御して車高を所定の高さに保つように調整される車両の安全運転を支援する横転警報装置の横転警報方法において、
前記車両のロール角度を所定のサンプリング周期毎に記憶するロール角度記憶ステップと、
前記エアベローズ内の空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載開始を判定する第一の判定ステップと、
前記第一の判定ステップの処理により前記荷台への貨物の積載開始を判定したときからの前記空気圧の変化に応じ、前記荷台への貨物の積載完了を判定する第二の判定ステップと、
前記第二の判定ステップの処理により積載完了と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記ロール角度記憶ステップの処理により記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値から前記第一の判定ステップの処理により積載開始と判定した時刻とその所定期間前の時刻との間に前記ロール角度記憶ステップの処理により記憶されたロール角度のサンプリング値の平均値を減算してロール角度を取得するロール角度取得ステップと、
前記ロール角度取得ステップの処理により取得したロール角度を横転の危険性を示す指標として表示する表示ステップと、
を有する、
ことを特徴とする横転警報方法。
【請求項5】
情報処理装置に、請求項1または2記載の横転警報装置の機能を実現させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−136181(P2012−136181A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290765(P2010−290765)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】