説明

樹脂への超音波振動付与装置、この超音波振動付与装置を用いて製造した樹脂組成物

【課題】樹脂ブレンドの混練性,相溶性を向上させ、樹脂に添加した添加剤やフィラーの分散性を向上させる。
【解決手段】溶融した樹脂に、超音波振動を付与する超音波振動付与装置において、超音波振動を前記樹脂に付与する振動子又はこの振動子の振動を前記樹脂に印加する振動伝達部材を有し、前記溶融した樹脂の流れる流路の一部に、前記振動子又は前記振動伝達部材の下面の全部又は一部が臨む印加部20を形成し、かつ、前記振動子又は振動伝達部材の下面201の幅(b)を、前記流路11の幅(d)より広くした。また、前記流路11の幅(d)を、印加部20における流路の幅201(a)の60%〜15%とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融・流動状態の樹脂に超音波振動を付与する超音波振動付与装置に関し、特に、押出成形や射出成形等に使用される樹脂の各種物性及び成形性を向上させ、高品質の成形品を得ることのできる樹脂への超音波振動付与装置、この超音波振動付与装置を用いて製造した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック等の樹脂を溶融,混練して所望形状の成形品を成形するための混練装置や押出成形装置、射出成形装置では、樹脂の機能性の向上、複数種類の樹脂を混合したときの樹脂の混練性又は相溶性の向上、添加剤やフィラーを配合したときの分散性の向上、あるいは樹脂変性の容易化は、高品質の成形品を成形する上できわめて重要である。そこで、これらの目的を達成するために従来から種々の提案がなされている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、成形性の向上や機能性の向上のために相溶化剤等の添加剤を樹脂に加える技術である。
特許文献2に記載の技術は、諸物性の向上や成形性の向上のために、樹脂内におけるフィラーの分散性を向上させる技術である。
特許文献3に記載の技術は、反応押出によって樹脂を変性させる場合において、樹脂と変性剤に相当量の過酸化剤を添加して溶融・混練する技術である。
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、相溶化のために相溶化剤を添加するものであり、相溶化剤がドメインを作りやすく効率的ではなないという問題がある。また、諸物性の向上効果に限界があるという問題もある。また、各種の樹脂に対して最適な相溶化剤が存在するとは限らず、樹脂が異なる度に最適な相溶化剤を探し出すのに多大な労力を要するという問題がある。
【0005】
上記特許文献2に記載の技術では、微細フィラーの分散のために強混練、複数回混練を行っているが、このような方法ではフィラーの分散性向上にも限界があるという問題がある。また、複数回混練は非効率的である。さらに一定以上の混練は力学特性や色調などの樹脂性質を劣化させるという問題がある。
【0006】
上記特許文献3に記載の技術では、相当量の過酸化物を樹脂に添加しているが、このような方法では変性量や分子量等の制御が困難であるばかりでなく、過酸化物に起因する臭気や着色等の新たな問題が生じる。
また、上記特許文献1,2,3に記載の技術は、機能性の向上、混練性又は相溶性の向上、フィラー等の分散性の向上、樹脂変性の容易化等の問題を個々に解決しようとするものであり、これらの課題を一挙に解決することのできる技術的手法が切望されている。
【0007】
そこで、超音波振動を用いてこれらの課題を解決しようとする試みが、例えば特許文献4で提案されている。しかし、この特許文献4に記載の技術においても、フィラーの分散性の向上については触れられておらず、効果が限定的であるという問題がある。
【0008】
また、本出願人においても、特許文献5〜7において、超音波振動を用いて機能性の向上、混練性又は相溶性の向上、フィラー等の分散性の向上、樹脂変性の容易化等を図った成形装置を提供し、所定の効果をあげている。
しかし、本出願人の提供した技術においても、さらなる効果の向上が期待されている。
【0009】
【特許文献1】特開平5−247282号
【特許文献2】特開平10−101870号
【特許文献3】特開昭63−117008号
【特許文献4】米国特許US6528554号
【特許文献5】特開平3−47723号
【特許文献6】特開平8−47960号
【特許文献7】特開2001−88194号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、超音波振動の印加部の形状を工夫することによって印加部の周辺への音圧の漏洩を少なくし、成形性などの機能性や二種以上の樹脂を混合したときの樹脂ブレンドの混練性,相溶性を向上させ、また、微細なフィラー同士が凝集してできた塊を破壊することで微細フィラー個々の大きさとし、本来発現できる組成物の機能に近づけ、さらには、分散が困難とされていた微細なフィラーの樹脂内での分散性を向上させることのできる超音波振動付与装置の提供を目的とする。
また、この超音波振動付与装置を用いて製造した組成物、特に、剛性、耐衝撃性等の機械特性、外観、グラスファイバー等との密着性に優れ、高品質の成形品を得ることのできる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の超音波振動付与装置は、溶融した樹脂に、超音波振動を付与する超音波振動付与装置において、超音波振動を前記樹脂に付与する振動子又はこの振動子の振動を前記樹脂に印加する振動伝達部材を有し、前記溶融した樹脂の流れる流路の一部に、前記振動子又は前記振動伝達部材の下面の全部又は一部が臨む印加部を形成し、かつ、前記印加部における流路の幅(a)を、前記流路の幅(d)より広くした構成としてある。
また、前記流路の幅(d)は、前記印加部における流路の幅(a)の60%〜15%であることが好ましく、さらに、前記印加部における流路幅(a)と、前記前記振動子又は振動伝達部材の下面の幅(b)との関係が0.5≦b/a≦1.5であることが好ましい。
【0012】
ここで、「振動子」とは、超音波振動の発生元であり、「振動伝達部材」とは、例えば、振動子の先端に装着されて、前記振動子の振動を樹脂に伝達するための部材をいう。なお、振動子や、振動子と振動伝達部材から構成されたものを、以下、「振動体」と総称することがある。
【0013】
本発明においては、印加部における流路の幅(a)を、流路の幅(d)より広くした構成とすることで、次のような作用を生じる。そして、この作用は、流路の幅(d)を、印加部における流路の幅(a)の60%〜15%とすること、さらには、前記印加部における流路幅(a)と、前記前記振動子又は振動伝達部材の下面の幅(b)との関係を0.5≦b/a≦1.5とすることによって、より顕著となる。
すなわち、本発明のように、流路の幅(d)を印加部における流路の幅(a)より小さく、具体的には、流路の幅(d)を印加部における流路の幅(a)の60%〜15%とすると、印加部からの流路方向への振動の漏れを抑制し、反射波を有効利用することができる。また、前記印加部における流路幅(a)と、前記振動子又は振動伝達部材の下面の幅(b)との関係を0.5≦b/a≦1.5とすると、前記振動子又は振動伝達部材から溶融樹脂への超音波振動の印加を効率よく行うことができる。
その結果、成形品について、従来技術からは予測できないレベルの、剛性、耐衝撃性向上や、分散性向上が達成される。これは、印加部からの流路方向への振動の漏洩を抑制することで、集中的に樹脂に振動を付与して、キャビテーションや超音波による圧力振動を効果的に樹脂の内部で発生させることができるためと推定される。
【0014】
また、本発明は、前記樹脂の流動方向に対し直交する方向から前記樹脂に振動を印加するように形成することが好ましい。
さらに、本発明は、前記流路を、押出成形装置又は射出成形装置のシリンダ、押出機又は混練機のシリンダ、チャンバー、前記シリンダの出口より下流側に設けたダイス又は金型のいずれかに形成することが好ましい。
【0015】
本発明の樹脂組成物は、上記超音波振動付与装置のいずれかを用いて製造される。このようにして製造された樹脂組成物は、フィラー単体の平均粒子系が1〜1000nmであり、フィラー凝集体の残存率(超音波混練後フィラーの凝集体数/混練前フィラーの凝集体数)が、非常に少なくなる。
【0016】
ここで、超音波振動を付与する樹脂としては、単一種類の樹脂及び/又はエラストマー、二種以上の樹脂及び/又はエラストマーの混合物、樹脂及び/又はエラストマーとフィラーの混合物のいずれかであるとよく、熱硬化性材料、熱可塑性材料のいずれでもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超音波振動を溶融した樹脂に付与する印加部と、溶融した樹脂の流れる流路の関係を定めることによって、微細な添加剤やフィラーの樹脂内での分散性を向上させることができる。これにより、物性の向上したポリマーブレンド、アロイを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の超音波付与装置の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかり、超音波発振器のホーンを装着した押出機のダイスの断面図である。なお、以下の説明における「樹脂」には、特に指定しない限り、狭義の樹脂は勿論、熱可塑性エラストマーを含む樹脂を意味するものとする。
【0019】
図示しない押出機のシリンダ2で加熱・溶融された樹脂は、ダイス1内の流路11を通ってノズル13に供給され、このノズル13の先端から押し出される。ダイス1の途中部位には、振動体3が装着される。振動体3は、図示しない超音波供給源に連結された振動子31と、この振動子31の先端に取り付けられた振動伝達部材としてのホーン32とから構成されている。ダイス1の途中部位には、流路11に達するまでホーン挿入孔12が形成されている。ホーン32は、このホーン挿入孔12に挿入され、その下面が振動の印加部20を形成している。
【0020】
ホーン32の途中部位には、ホーン挿入孔12(図1参照)の開口周縁まで延びる環状のフランジ33が張り出し形成されている。そして、前記開口周縁でフランジ33がホーン押え15とパッキン16とによってダイス1に固定されている。
なお、ホーンの形態としては、円柱状に限らずリング状、円錐状、円錐台状、コニカル型、エキスポネンシャル型等種々のものを選択することができる。
【0021】
[印加部]
ホーン32の下面の全部又は一部が臨む部分には印加部20が形成されている。この印加部20は、ホーン32の下面201とホーン32の下面に対応する樹脂の流れる流路202によって形成されている。
また、流路11の幅dは、印加部20における流路202の幅aより小さくなるようにしてあり、具体的には、流路11の幅dは、印加部における流路202の幅aの60%〜15%であることが好ましい。
さらに、ホーン32の印加部20を形成する下面201の直径(幅)bと、印加部20における流路202幅aとの関係は、0.5≦b/a≦1.5の条件を満たすことが好ましい。
【0022】
このように、流路11の幅dを印加部20における流路202の幅aよりも小さくするのは、このようにしないと、印加時に、樹脂に作用する超音波振動が流路11を介して漏れやすくなるためである。超音波振動が漏れて減衰すると、反射波の伝達が悪くなり、二次、三次の反射波等を有効に利用できなくなる。
【0023】
また、ホーン32の印加部20を形成する下面201の直径(幅)bと、印加部20における流路202の幅aとの関係が0.5≦b/a≦1.5の条件を満たす壁の部分が多くなればなるほど、反射波(二次、三次の反射波等も含む)も多くなり上記効果を高めることができる。
一方、ホーン32の印加部20を形成する下面201の直径(幅)bと、印加部20における流路202幅aとの関係b/aが0.5より小さいと、超音波振動が減衰して反射波が弱くなり、b/aが1.5を超えると、ホーンから印加された振動のほとんどが樹脂の部分以外へ逃げてしまうため、エネルギー効率が悪くなる。
【0024】
さらに、流路11の幅dが印加部における流路202の幅aの60%より大きいと、ホーン32から印加された超音波振動が流路11から漏れて、印加部20における流路202の壁部からの反射波が少なくなってしまう。また、流路11の幅dが印加部における流路202の幅aの15%より小さいと、流路11における樹脂の流れが悪くなってしまう。
【0025】
図2は、印加部の第一実施形態を示す。
同図に示すように、本実施形態では、印加部20を形成するホーンの下面201が真円となっている。また、印加部20を形成する流路202もホーン下面201とほぼ同じ形状、すなわち、平面から見てほぼ同じ直径の円形になっている。
具体的には、ホーン32の下面201の直径(幅)bと、印加部20における流路202の直径(幅)aがほぼ同じ(b/a≒1)となっている(図2(B)では、aとbの関係を判りやすくするため、aとbの方向を少しずらしてある)。また、流路11の幅dが、印加部20における流路202の幅aのほぼ1/3(33%)となっている。
【0026】
第二実施形態
図3は、印加部の第二実施形態を示す。
同図に示すように、溶融した樹脂に振動を印加する印加部20を形成する部分は、ホーン32の下面201の直径(幅)bと、印加部20における流路202の直径(幅)bが、b/a≒1.5となっている。したがって、この実施例では、ホーン32の下面の一部が印加部20を形成することになる。
また、流路11の幅dが、印加部20における流路202の幅aのほぼ1/2(50%)となっている。
【0027】
なお、印加部20の形状は、第一及び第二の実施形態に示した、平面から見て真円のものに限られるものではない。すなわち、印加部20におけるホーン32の下面201と印加部20における流路202の全周において、ホーン32の下面201の直径(幅)aと印加部20における流路202の直径(幅)bが、0.5≦b/a≦1.5の条件を満たす形状であればどのような形状であってもよく、例えば、流路11の樹脂の流れ方向に長径部を有する楕円形状とすることもできる。
【0028】
一方、図4のように、印加部20を形成する部分の、ホーン32の下面201の幅(直径)bと、流路202の幅a、及び流路11の幅dが、ほぼ同じとなっている。すなわち、ホーン32の下面201の直径(幅)aと、印加部20における流路202の直径(幅)bが、b/a≒1.0となっており、流路11の幅dが、印加部20における流路202の幅aのほぼ100%となっている。
このような構成だと、ホーン32の下面から印加される超音波振動の効果は期待できるものの、超音波を印加したときに樹脂に作用する振動が流路11を介して漏れやすくなるため、流路の壁部からの反射波の効果を期待することができない。
【0029】
さらに、図5に示すように、ホーン32の下面201の直径(幅)aと、印加部20における流路202の直径(幅)bが、b/a≒2.0となっており、流路11の幅dが、印加部20における流路202の幅aのほぼ100%となっている。
このような構成だと、ホーン32の下面から超音波が効率よく印加されず、しかも、超音波を印加したときに樹脂に作用する振動も流路11を介して漏れやすくなる。
【0030】
[超音波振動]
上記したように、ホーン32から樹脂に付与される超音波振動は、溶融樹脂の流れる方向に対してほぼ垂直に直交する。振動子31は、図示しない超音波発振器によって振動させられる。前記超音波発振器は、温度変化に伴う共振周波数の変化、あるいは条件の変化に伴う音響的な負荷変動に対応するため、振幅制御回路付自動周波数追尾型の発振器であるのが好ましい。
【0031】
また、必要な超音波出力が一個の振動子31では要求される値に達しない場合には、振動子31を複数個使用することも可能である。その際には、同じ振動特性をもつ振動子31を必要な本数だけ用意し、ホーン32の外周面に取り付ければよい。
【0032】
超音波振動の周波数及び振幅は、流路11を流れる溶融状態の樹脂の内部で、有効にキャビテーションや超音波による圧力振動を発生させることができるものを選択するのがよい。具体的な周波数及び振幅は、樹脂の種類によって異なり、実験や経験値から選択する必要があるが、一般的なポリマー又はコポリマーでは、周波数は10〜100kHz、好ましくは15KHz〜25KHzの範囲内のもの、振幅は1μm〜50μmの範囲内のものを選択するとよい。
【0033】
[ホーン]
ホーン32は、印加部20において流路11の一部を構成し、流路11内を流れる樹脂と接触して振動を印加する。このホーン32は、溶融状態の樹脂とはその付着性が高いことが好ましい。付着性が低いと、樹脂の物性等の向上を高めることができない。これは、ホーン32の振動に樹脂が追随せず、キャビテーションや超音波による圧力振動が有効に生じないためと考えられる。
【0034】
そのため、ホーン32の材質としては、超音波振動に対して必要な耐久性があり、振動の伝達損失が小さいかぎり、溶融状態の樹脂と付着性のよいものを選択する。樹脂が、無水カルボン酸又はその無水物で変性された樹脂を含む材料の場合は、付着性のよいホーン材質として、例えば、ジュラルミン、チタン、ステンレス、炭素鋼や合金鋼のような鋼鉄材、軟鉄等を挙げることができる。
【0035】
また、樹脂付着性の良い材料を、ホーン32の端面にメッキしてもよいし、付着性のよい金属を溶融させて高速でホーン32に衝突させて溶射し、ホーン32を構成する金属の表面を改質するようにしてもよい。メッキや溶射する金属としては、樹脂との付着性が高いものを選択すればよい。なお、溶射加工後やメッキ後に行う表面の磨きを加減して凹凸を残し、樹脂の付着性を高めるようにしてもよい。
【0036】
また、樹脂に対するホーン32の付着性を向上させるために、ホーン32の端面にサンドブラスト等やエッチングにより微小凹凸を形成したり、機械加工やレーザ加工等で溝を形成したりしてもよい。また、付着性を向上させるための付着性向上剤を塗布してもよい。このような付着性向上剤は、樹脂の種類や性質によっても異なるが、一般的なポリマー又はコポリマーの場合には、例えば無水マレイン酸やマレイン酸組成物を挙げることができる。
【0037】
[振動伝達抑制手段]
ホーン32の振動は、流路11を流れる樹脂以外の他の部材、例えば、ダイス1やシリンダ2に伝達されないようにするのが好ましい。樹脂以外の前記他の部材に超音波振動が伝達されると、超音波振動のエネルギーがそれだけ無駄に消費されることになるだけでなく、流路11を形成する他の部材が、振動子31と異なる周波数で振動し、超音波の効果を損なうおそれがある。また、ダイス1やシリンダ2を損傷させる原因ともなる。
【0038】
この実施形態では、振動伝達抑制のために、ホーン32とダイス1との間に振動を吸収するパッキン16を介在させている。また、後述するが、ホーン32とダイス1のホーン挿入孔12の内周面との間には、一定寸法のギャップGが設けられている。このギャップGも振動伝達抑制手段として機能する。
【0039】
振動伝達抑制手段であるパッキン16は、ホーン押え15とフランジ33との間に介在して設けられる。パッキン16の弾性(縦弾性係数又は横断性係数)Eはホーン32の弾性をEhとしたときに、E<0.3Ehとなるもの、好ましくは、E<0.1Ehとなるものを選択するとよい。この弾性条件を満足し、かつ、耐熱性を有するのであれば、パッキン16の材質としてはゴム、樹脂、紙製の部材に樹脂を含浸させたもの又は金属等を使用することができる。
【0040】
ホーン挿入孔12の内周とホーン32の下部外周面におけるギャップGの寸法は、0.05mmより大きく0.5mmより小さい範囲内で適宜に選択するとよい。ギャップGの寸法が0.05mm以下であると、ギャップGが小さすぎてダイス1にホーン32の振動が伝わりやすくなり、ダイス1を振動させることになる。なお、ギャップGが0.5mmより大きくなっても、ギャップGから樹脂が漏れ出す心配がない場合や、ギャップG以外の部位で、樹脂の漏れを防ぐ手段を講じている場合は、ギャップGは0.5mmを超えてもよい。
【0041】
[樹脂組成物]
上記構成の超音波振動付与装置によって超音波振動を付与することによって、微細な添加剤やフィラーの分散性を向上させた樹脂組成物を生成することができる。例えば、フィラー単体の平均粒子系が1〜1000nmであり、フィラー凝集体の残存率(超音波混練後フィラーの凝集体数/混練前フィラーの凝集体数)の減少した樹脂組成物を生成することができる。
【0042】
このような樹脂組成物を組成する樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、(例えば、ポリスチレン、ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等)、B/AS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン樹脂、エチレン−エチルアクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブテン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、飽和ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、生分解性ポリエステル樹脂(例えば、ポリ乳酸のようなヒドロキシカルボン酸縮合物、ポリブチレンサクシネートのようなジオールとジカルボン酸の縮合物等)ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー等の1種または2種以上の混合物が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂中では、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、特にポリスチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0043】
また、前記樹脂としては、加工温度付近で測定するメルトフローインデックスが0.05〜1000g/10分、好ましくは0.1〜1000g/10分、さらに好ましくは1〜1000g/10分の程度の範囲にあるのがよい。
【0044】
樹脂に添加して分散させるフィラーとしては、例えば、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ等の球状フィラー、タルク、マイカ、クレイ等の板状フィラー、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ガラス繊維等の繊維状又は棒状フィラー等を挙げることができる。
また、低融点合金のように押出し混練時には溶融状態であり常温では固体となる物質も含まれる。粒子径も特に限定されないが、1μm以下のもの、特に0.1μm以下の粒子径にも適用が可能である。フィラーの配合量は特に限定されないが、0.1wt%程度のごく低い配合率から数十wt%の高い配合率のものまで適用が可能である。
【0045】
[実施例及び比較例]
[条件]
(1) 押出機:日本製鋼所製TEX30H二軸押出機を使用し、シリンダ温度280℃、ダイス温度280℃ 吐出量7kg/hr スクリュー回転数200RPMとした。
(2) 超音波:上記二軸押出機の出口部に、樹脂組成物に対して垂直方向に振動を印加するホーンを備えたダイスを装着した。
周波数:19.5kHz
振幅:7μm
ホーン素材:ジュラルミン Eh=7×10^10Pa
(3) 組成材料:
ポリカーボネート(PC=出光興産(株)製FN1900A)
TiO(石原産業株式会社製 平均粒子径220nm)
【0046】
(1) 実施例1
実施例1では、上記条件の下、図2に示す印加部を有する構造のダイスを用いて溶融・混練を行った。すなわち、印加部20におけるホーン32の下面201の直径bと流路202の幅aがb/a≒1.0で、印加部20における流路202の幅aに対し流路11の幅dが33%のダイスを用いて溶融・混練を行った。
実施例1によれば、凝集体の含有数が少なく、光線の反射率が向上した。その結果を表1に示す。
【0047】
(2) 実施例2
実施例2では、上記条件の下、図3に示す印加部を有する構造のダイスを用いて溶融・混練を行った。すなわち、印加部20におけるホーン32の下面201の直径bと流路202の幅aがb/a≒1.5で、印加部20における流路202の幅aに対し流路11の幅dが50%のダイスを用いて溶融・混練を行った。
実施例2によれば、凝集体の含有数が少なく、光線の反射率が向上した。その結果を表1に示す。
【0048】
(3) 比較例1
比較例1では、上記条件の下、図4に示す印加部を有する構造のダイスを用いて溶融・混練を行った。すなわち、印加部20におけるホーン32の下面201の直径bと流路202の幅aがb/a≒1.0で、印加部20における流路202の幅aに対し流路11の幅dが100%(印加部20における流路202が流路11に対し膨らんだ部分を有さない同一幅)のダイスを用いて溶融・混練を行った。
【0049】
(4) 比較例2
比較例2では、上記条件の下、図5に示す印加部を有する構造のダイスを用いて溶融・混練を行った。すなわち、印加部20におけるホーン32の下面201の直径bと流路202の幅aがb/a≒2.0で、印加部20における流路202の幅aに対し流路11の幅dが100%のダイスを用いて溶融・混練を行った。
比較例1及び2では、凝集体の含有数が多く光線の反射率の向上が見られなかった。比較例1及び比較例2の結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
ここで、
光線の反射率の向上の度合い(ΔY)とは、超音波を印加したときの反射率Yと超音波を印加しなかったときの反射率Yとの差をいう。したがって、ΔYが、大きいほど、反射率の向上が著しいことになる。
また、反射率の測定は、混練した樹脂材料を射出成形し、その射出成形品を用いて分光光度計により測定した。
また、凝集体とは、フィラー単体の平均粒子径が1〜1000nmである、いわゆる、サブミクロン粒子や、ナノサイズ粒子が、ファンデルワールス力や物理的な力によって集合して塊状となり、フィラー単体よりも大きいサイズとなった集合体をいう。この凝集体の測定は、サンプルを、走査型電子顕微鏡で観察して写真撮影し、3μm以上の凝集体の数を定量化した。
【0051】
上記表1の結果から判るように、実施例1及び実施例2によって製造した組成物は、凝集体の数が少なく、光の反射率も高かった。
比較例1のものは音圧が流路方向に漏洩し、また、比較例2のものは振動が流路内の樹脂に十分印加されないために、凝集体の数が多く、光の反射率が低くかった。
【0052】
図6に示すように、反射率Yは、TiO量を増加しても、僅かしか向上しない。すなわち、TiO量を15%から20%に増加しても反射率の向上度合いΔYは0.3%程度でしかない。したがって、実施例1及び2における反射率の向上度合いΔYが0.3及び0.2であることは、かなり大きな効果といえる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、フィラー充填高分子複合材料の製造、ポリマーブレンドあるいはポリマーアロイに効果を発揮する。特に、サブミクロン、ナノオーダ分散が困難なフィラーを含有する樹脂組成物、例えば、光反射特性に優れたPC/TiO液晶モジュール反射板材料、難燃性と透明性のいずれにも優れたPC/ナノシリカ材料、PC/TiO,ZnO,Fe,Lb/a,ITO,ATO等の光学波長制御材料、導電性及び帯電性に優れたカーボンナノチューブ含有樹脂材料の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態にかかり、押出機のダイスに超音波発振器のホーンを装着したダイスの断面図である。
【図2】本発明の第1実施例にかかるホーンと流路の関係を示す要部概略図で、(A)は斜視図、(B)は平面図、(C)は(B)におけるI−I断面図である。
【図3】本発明の第2実施例にかかるホーンと流路の関係を示す要部概略図で、(A)は斜視図、(B)は平面図、(C)は(B)におけるI−I断面図である。
【図4】本発明の第1比較例にかかるホーンと流路の関係を示す要部概略図で、(A)は斜視図、(B)は平面図、(C)は(B)におけるI−I断面図である。
【図5】本発明の第2比較例にかかるホーンと流路の関係を示す要部概略図で、(A)は斜視図、(B)は平面図、(C)は(B)におけるI−I断面図である。
【図6】TiOの含有量と反射率Yの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した樹脂に、超音波振動を付与する超音波振動付与装置において、
超音波振動を前記樹脂に付与する振動子又はこの振動子の振動を前記樹脂に印加する振動伝達部材を有し、
前記溶融した樹脂の流れる流路の途中に、前記振動子又は前記振動伝達部材の下面の全部又は一部が臨む印加部を形成し、
かつ、前記印加部における流路の幅(a)を、前記流路の幅(d)より広くしたこと
を特徴とする樹脂への超音波振動付与装置。
【請求項2】
前記流路の幅(d)が、前記印加部における流路の幅(a)の60%〜15%であることを特徴とした請求項1記載の樹脂への超音波振動付与装置。
【請求項3】
前記印加部における流路の幅(a)と、前記前記振動子又は振動伝達部材の下面の幅(b)との関係が
0.5≦b/a≦1.5であること
を特徴とした請求項1又は2記載の樹脂への超音波振動付与装置。
【請求項4】
前記印加部を、前記樹脂の流動方向に対し直交する方向から前記樹脂に振動を印加するよう形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂への超音波振動付与装置。
【請求項5】
前記流路が、押出成形装置又は射出成形装置のシリンダ、押出機又は混練機のシリンダ、チャンバー、前記シリンダの出口より下流側に設けたダイス又は金型のいずれかに形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂への超音波振動付与装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超音波振動付与装置を用いて製造されたことを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−143105(P2008−143105A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334915(P2006−334915)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】